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特許7180046速度の曖昧さの解消を含むMIMOレーダにおける速度検出のための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】速度の曖昧さの解消を含むMIMOレーダにおける速度検出のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20221122BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20221122BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20221122BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01S7/02 218
G01S13/34
G01S13/58 210
G01S7/03 220
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019520940
(86)(22)【出願日】2017-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 US2017041366
(87)【国際公開番号】W WO2018071077
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】201641023530
(32)【優先日】2016-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(31)【優先権主張番号】15/371,754
(32)【優先日】2016-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507107291
【氏名又は名称】テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230129078
【弁護士】
【氏名又は名称】佐藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】サンディープ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】カーティック サブライ
(72)【発明者】
【氏名】ダン ワン
(72)【発明者】
【氏名】アディール アフマド
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0131752(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0001791(US,A1)
【文献】米国特許第06147638(US,A)
【文献】特表2017-522576(JP,A)
【文献】国際公開第2015/197226(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路であって、
レーダシステムの受信機に結合されるように適合され、複数のチャープを受信するように構成されるポートと、
前記ポートに結合されるプロセッサであって、
前記ポートによって受信された複数のチャープにわたる信号の仮想アレイベクトルSにおける速度誘導位相シフト(φ)を推定し、
補正された仮想アレイベクトルSを生成するためにφを用いて前記仮想アレイベクトルSの各要素の位相を補正し、
補正された仮想アレイスペクトルを生成するために前記補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換を実施し、
検出されたシグネチャに対応する物体が前記レーダシステムによって直接的に測定され得る最大の曖昧でない速度(vmax)より速い絶対速度を有することを示す前記シグネチャを検出するために前記補正された仮想アレイスペクトルを解析する、
ように構成される、前記プロセッサと、
を含む、回路。
【請求項2】
請求項1に記載の回路であって、
前記プロセッサが、
前記検出されたシグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて前記補正された仮想アレイベクトルScを補正し、
結果として得られるマトリックスから前記シグネチャが取り除かれたか否かを判定するために前記結果として得られたマトリックスに対して第2のフーリエ変換を実施する、
ように更に構成される、回路。
【請求項3】
請求項1に記載の回路であって、
前記プロセッサが、式vest=φλ/4πTを用いて前記物体の速度を計算するように更に構成され、Tがチャープ期間であり、λが前記チャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)であり、vtrueが正しい速度であり、vmaxが式vmax=λ/4Tによって判定される、回路。
【請求項4】
請求項1に記載の回路であって、
前記プロセッサが、Sを解析することによって前記シグネチャが複数の物体によって生じたか否かを判定するように更に構成される、集積回路。
【請求項5】
方法であって、
レーダシステムの受信機によって複数のチャープを受信することと、
前記受信機によって受信された複数のチャープにわたる信号の仮想アレイベクトルSにおける速度誘導位相シフト(φ)を推定することと、
補正された仮想アレイベクトルSを生成するためにφを用いて前記仮想アレイベクトルSの各要素の位相を補正することと、
補正された仮想アレイスペクトルを生成するために前記補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換を実施することと、
検出されたシグネチャに対応する物体が前記レーダシステムによって直接的に測定され得る最大の曖昧でない速度(v max より速い絶対速度を有することを示す前記シグネチャを検出するために前記補正された仮想アレイスペクトルを解析することと、
を含む、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記検出されたシグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて前記補正された仮想アレイベクトルSを補正することと、
結果として得られるマトリックスから前記シグネチャが取り除かれたか否かを判定するために前記結果として得られたマトリックスに対して第2のフーリエ変換を実施することと、
を更に含む、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、
式vest=φλ/4πTを用いて前記物体の速度を判定することであって、Tがチャープ期間であり、λが前記チャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)であり、vtrueが正しい速度であり、vmaxが式vmax=λ/4Tによって判定される、前記判定することを更に含む、方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、
を解析することによって前記シグネチャが複数の物体によって生じたか否かを判定することを更に含む、方法。
【請求項9】
レーダシステムであって、
複数のチャープを受信するように構成される受信機と、
前記受信機に結合されるプロセッサであって、
前記受信された複数のチャープにわたる信号の仮想アレイベクトルSにおける速度誘導位相シフト(φ)を推定し、
補正された仮想アレイベクトルSを生成するためにφを用いて前記仮想アレイベクトルSの各要素の位相を補正し、
補正された仮想アレイスペクトルを生成するために前記補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換を実施し、
検出されたシグネチャに対応する物体が前記レーダシステムによって直接的に測定され得る最大の曖昧でない速度(v max より速い絶対速度を有することを示す前記シグネチャを検出するために前記補正された仮想アレイスペクトルを解析する、
ように構成される、前記プロセッサと、
を含む、レーダシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のレーダシステムであって、
前記プロセッサが、
前記検出されたシグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて前記補正された仮想アレイベクトルSを補正し、
結果として得られるマトリックスから前記シグネチャが取り除かれたか否かを判定するために前記得られたマトリックスに対して第2のフーリエ変換を実施する、
ように更に構成される、レーダシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のレーダシステムであって、
前記プロセッサが、前記物体の速度を判定するように更に構成される、レーダシステム。
【請求項12】
請求項9に記載のレーダシステムであって、
前記プロセッサが、式vest=φλ/4πTを用いて前記物体の速度を判定するように更に構成され、Tがチャープ期間であり、λが前記チャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)であり、vtrueが正しい速度であり、vmaxが式vmax=λ/4Tによって判定される、レーダシステム。
【請求項13】
請求項9に記載のレーダシステムであって、
前記プロセッサが、Sを解析することによって前記シグネチャが複数の物体によって生じたか否かを判定するように更に構成される、レーダシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、オブジェクト検出及び速度判定に関し、より詳細には、周波数変調連続波(FMCW)レーダシステムにおける速度検出に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダの基本的な送信信号は周波数ランプ(これは「チャープ」としても一般に知られている)である。チャープは、経時的に周波数が線形に変化する信号である。例えば、ミリ波FMCWレーダは、77GHzで始まり81GHzまで線形に上昇する4GHz帯域幅を有するチャープを送信し得る。送信(TX)アンテナによって送信される信号は1つ又は複数のオブジェクトで反射し、反射された信号は、1つ又は複数の受信(RX)アンテナで受信される。
【0003】
FMCWレーダは、一連のこのような等間隔チャープを、フレームと呼ばれるユニットで送信する。RXアンテナで受信される対応する信号は、ダウンコンバートされ、デジタル化され、次いで、レーダ前方の複数のオブジェクトのレンジ、速度、及び到着角度を得るために処理される。
【0004】
多入力多出力(MIMO)レーダは、FMCWレーダの角度推定能力を改善するための技法である。MIMOレーダを用いて、複数のTXアンテナが、同じセットのRXアンテナに送信する。複数のTXアンテナから発する信号は直交する必要がある(すなわち、互いに干渉すべきでない)。直交性を保証する一般的な方法の中には、時分割多重(TDM-MIMO)、周波数分割多重(FDM-MIMO)、及び符号位相多重がある。TDM-MIMOにおいては、異なるTXアンテナからの信号は、異なるタイムスロットを占める。FDM-MIMOにおいては、複数のTXアンテナからの信号が周波数で分離される。符号位相多重においては、複数のTXアンテナが、異なる疑似ランダムノイズ符号(PN符号)を用いて同時に信号を送信し、それによってこれらの信号が受信機において分離され得る。FDM-MIMOは、送信及び受信チェーンの双方に付加的なハードウェアの複雑さを課す。符号位相多重は、(逆拡散ノイズによる)性能の劣化、及び/又は、(チャープ内符号PNシーケンスを復号するための)計算要件のかなりの増大を生じさせる。
【0005】
その結果、TDM-MIMOは直交性を提供するための他の方法に対して有利である。しかし、TDM-MIMOの動作モードは、レーダによって測定され得る最大の曖昧でない速度を低減させる。従来のTDM-MIMOレーダを用いると、最大の曖昧でない速度(vmax)より速い速度で移動するオブジェクトは、その速度が不正確に推定される。
【発明の概要】
【0006】
説明する例において、或る方法が、レーダによって検出されるオブジェクトの絶対速度が最大値より速いか否かを判定する。この方法は、少なくとも2つの送信機によって送信され、オブジェクトで反射されるチャープの少なくとも1つのフレームを複数の受信機で受け取ることを含む。仮想アレイベクトルSにおける速度誘導位相シフト(φ)が推定される。送信機によって送信されるチャープのシーケンス(フレーム)に対応する、各受信機によって受信される信号に基づいてSが計算される。仮想アレイベクトルSの各要素の位相がφを用いて補正されて、補正された仮想アレイベクトルSが生成される。補正された仮想アレイベクトルSに対する第1フーリエ変換により、補正された仮想アレイスペクトルが生成される。オブジェクトが最大速度より速い絶対速度を有することを示すシグネチャを検出するため、補正された仮想アレイスペクトルが解析される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】FMCWレーダの概略図である。
【0008】
図2】チャープ信号のグラフである。
【0009】
図3】インターリーブされたチャープ信号のグラフである。
【0010】
図4】別のレーダの概略図である。
【0011】
図5】2つの送信機を有するレーダシステムの概略図である。
【0012】
図6】速度と到来角の組み合わせ効果を示すグラフである。
【0013】
図7】理想的及び誤った補正マトリックスのフーリエ変換を示すグラフである。
【0014】
図8】例示の実施形態の方法態様のフローチャートである。
【0015】
図9】例示の実施形態の別の方法態様のフローチャートである。
【0016】
図10】別のアーキテクチャを有するTDM-MIMOレーダシステムを示す。
【0017】
図11図10のアーキテクチャについての理想的及び誤った補正マトリックスのフーリエ変換を示すグラフである。
【0018】
図12】レンジドップラービンにおける2つのオブジェクトについての理想的及び誤った補正マトリックスのフーリエ変換を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面において、対応する数字及び記号は、指示されない限り、概して、対応する部分を指す。図面は一定の縮尺で描かれているとは限らない。
【0020】
「結合される」という用語は、介在する要素を用いてなされる接続を含み得、付加的な要素及び様々な接続が「結合される」任意の要素間に存在し得る。
【0021】
図1はFMCWレーダ100の概略図である。図1において、レーダ100は、図2に関して下記で説明するようにフレーム108を送信する単一の送信機102を備えて配される。フレーム108はオブジェクト106で反射し、反射信号110-1~110-4が、それぞれ、4つの受信機104-1~104-4によって受信される。チャープのフレームを単一のRXアンテナに送信する単一のTXアンテナを用いると、レーダに対するオブジェクトの相対的な運動が、後続のチャープにわたって受信信号における位相変化(φ)を誘導する。各アンテナは、集積回路に部分的又は全体的に組み込まれ得る回路要素によって駆動される。例えば、集積回路は、信号を生成し得、1つ又は複数のパワートランジスタ又はパワーモジュールを用いてこれらの信号をアンテナに印加し得る。駆動回路要素は、モジュール内に組み込まれる個別の構成要素又は幾つかの構成要素とし得る。或る構成において、1つの集積回路が複数のアンテナを駆動し得る。他の構成において、別の回路が各アンテナ及び共通のプロセッサを駆動して信号を解析する。
【0022】
図2は、RXアンテナで受信されるチャープ信号のグラフ200である。受信されるチャープ212-0は、基準チャープであり、フレーム208における第1のチャープである。受信されるチャープ212-1は、その送信タイミングからドップラー効果によってφシフトされている。受信されるチャープ212-2は、その送信タイミングから2φシフトされている。そのため、チャープにわたって受信された信号の位相には線形漸進([0、φ、2φ...(N-1)φ])が存在する。この位相漸進は、チャープにわたるレンジFFT(下記でさらに説明する)の対応するピークに見られ、レンジFFTは、各チャープに対する受信IF信号に対応するデジタル化されたサンプルに対して実施されるものである。図2に、このシーケンスを図示する。簡単のため、この説明においては、初期位相値をゼロと称する。受信信号の位相における線形漸進により、フーリエ変換を用いて後続のチャープにわたってφを推定し得る。この推定は、後続のチャープにわたる受信信号に対する高速フーリエ変換(FFT)デバイス及び技法を用いて実現され得る。位相変化φは、オブジェクトの速度に正比例し、式(1)によって与えられる。
φ=4πTv/λ (1)
ここで、Tはチャープ周期性(すなわち、1つのチャープの開始から次のチャープの開始までの時間)であり、λはチャープの開始周波数に対応する波長である。
【0023】
そのため、φが(FFTを用いることなどによって)推定された後、式(2)を用いてオブジェクトの速度がvestとして推定され得る。
est=φλ/4πT (2)
【0024】
パラメータφは、-πラジアン及びπラジアン間にある場合、曖昧にしか推定され得ない位相量である。φに対する制限は、曖昧に推定され得る最大速度(vmax)の値を直接的に制限する。φ=πを式(2)に代入することにより式(3)が得られ、式(3)により下記のvmax値が得られる。
max=λ/4T (3)
【0025】
そのため、レーダによって測定され得る最大の曖昧でない速度(±vmax)はチャープ期間Tに直接的に依存する。Tが小さいほど大きいvmaxが得られる。周期性Tは、同じTXアンテナからの連続するチャープの開始(又は任意の対応する点)間の時間を指す。そのため、すべての他の態様が等しいと、2つのTXアンテナを備えたTDM-MIMOレーダ構成のvmaxは、単一TXレーダ構成のvmaxの半分になる。図3は、フレーム308におけるこの点を図示する。グラフ300は、1つの送信機(TX)によって送信され、第2の送信機からのチャープ314-0~314-(N-1)によって時間インターリーブされる、チャープ312-0~312-(N-1)を含む。Tは1つの送信機からのチャープの期間である。図3はこの期間を図示し、ここで、Tは、チャープ312-0の終わりからチャープ312-1の終わりまで測定される。Tcがチャープ212-0の終わりからチャープ212-1の終わりまでである図2に図示する単一送信機TDM-MIMOに対して、図3の期間Tは2倍長い。概して、M個の送信機を備えたTDM-MIMOシステムの期間は、単一送信機システムの期間のM倍である。しかし、式(3)において上述したように、vmaxはTに反比例する。そのため、使用する送信アンテナの数が多いほど、最大速度vmaxは遅くなる。
【0026】
図1において、オブジェクト106は送信機102及び受信機104-1~104-4の真正面にある。この例は、オブジェクトがTDM-MIMOアレイに直交する位置にあるため、受信されたチャープがすべての受信機に本質的に同時に到達する特殊なケースである。検出される大抵のオブジェクトは、TDM-MIMOシステムに対して或る角度に向いている。
【0027】
図4は別のレーダ400の概略図である。図1における要素と同様に番号が振られている図4における要素は同様の機能を実施する。例えば、要素402、404-1~404-4、及び406は、図1の要素102、104-1~104-4、及び106と同様の機能を実施する。図4において、オブジェクト406は、送信機(TX)402及び受信機(RX)404-1~404-4に対して角度θをなす。送信機402から送信される信号はオブジェクト406で反射し、受信機404-1~404-4がこの信号を受信する。受信機404-1~404-4は、等間隔dantで離間するアンテナを有する。連続する各RXアンテナにおいて到達する信号は、前のアンテナに対して遅れる。これは、信号が通過しなければならない付加的な距離dのためである。この状況は、図4において受信機404-3と404-4の間の直角三角形によって図示されている。この付加的な遅延は、隣り合うRXアンテナにおいて到達する信号間の位相差φになる。そのため、連続するRXアンテナにおいて到達する信号の位相において線形漸進[0、φ、2φ、3φ]が存在する。この線形漸進により、例えばFFTを用いて、φが推定され得る。アンテナ間の位相差φは、オブジェクトの到来角(θ)に関係する。φが推定されると、式(4)を用いて到来角θが推定され得る。
θ=sin-1(φλ/2πdant) (4)
ここで、dantは隣り合うRXアンテナ間の距離である。
【0028】
図5は、2つの送信機502-1及び502-2を有するTDM-MIMOシステム500の概略図である。図4における要素と同様に番号が振られている図5における要素は、同様の機能を実施する。例えば、要素502、504-1~504-4、及び506は、図4の要素402、404-1~404-4、及び406と同様の機能を実施する。コントローラ及びプロセッサ508は、送信機502-1及び502-2並びに受信機504-1~504-4を制御し、受信機504-1~504-4で受信される信号を処理する。コントローラ及びプロセッサ508は、1つ又は複数の集積回路に部分的又は全体的に組み込まれ得る。例えば、集積回路が、信号を生成し得、1つ又は複数のパワートランジスタ又はパワーモジュールを用いてこれらの信号をアンテナに印加し得る。駆動回路要素は、モジュール内に組み込まれる個別の構成要素又は幾つかの構成要素とし得る。或る構成において、1つの集積回路が複数のアンテナを駆動し得る。他の構成において、別個の回路が、信号を解析するため各アンテナ及び共通のプロセッサが信号を駆動する。いくつかの構成において、コントローラ部分及びプロセッサ部分は、同じ集積回路に形成されるか、又は別個の集積回路とし得る。集積回路のプロセッサ部分は、CPU、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、ミックスドシグナルプロセッサ(MSP)、ARMコアなどの縮小命令セットコンピュータ(RISC)コア、マイクロコントローラ、又は別の適切なプロセッサを含み得る。
【0029】
システム500のようなTDM-MIMOシステムが、複数の送信機を用いてφの線形位相漸進の実行長さを長くし、そのため角度推定の質が改善される。図5は、複数の送信機の使用及び角度推定の効果を図示する。送信機502-2からの信号は、送信機502-1に対して付加的な距離Dを進まなければならない。送信機502-1から送信されるチャープに対して、送信機502-2からのチャープが進まなければならないこの付加的な距離は、各受信機アンテナにおける信号に対する付加的な位相差となる。図5では、送信機502-1と502-2の間隔は、隣り合う受信機アンテナの間隔の4倍になるように選択される。しかし、本明細書で説明する原理は、送信機の任意の間隔に当てはまる。これに対応して、この付加的な位相差は4φになる。そのため、各受信機アンテナに対し、送信機502-1及び502-2からの、受信機によって観察される信号は、位相差4φを有する。この構成では、システム500は下記のように動作する。
a)まず、送信機502-2が送信し、受信機504-1~504-4において観察される位相は、それぞれ、「0 φ 2φ 3φ」である。
b)続いて、送信機502-2が送信し、受信機504-1~504-4において観察される位相は「4φ 5φ 6φ 7φ」である。
【0030】
送信機502-1及び502-2からの連続的送信から得られる受信信号は、共に連結され得、位相がP=[0 φ 2φ 3φ 4φ 5φ 6φ 7φ]の線形漸進を有する一層長い信号シーケンスがつくられ得る。これにより、φのより良好な推定が提供される。そのため、TDM-MIMOにおいて、複数のTXアンテナにわたって時分割多重送信によりRXアンテナアレイにおいて受信される信号は適切に配列されて、送信アンテナの数×受信アンテナの数に等しい長さの信号シーケンスがつくられ得る。この信号シーケンスは、本明細書において「仮想アレイ信号」と称する。本明細書において、仮想アレイ信号自体はSと表わされ、このシーケンスに対応する位相はPで表わされる。
【0031】
仮想アレイ信号を生成するための1つのプロセスは、まず、下記で説明するように、各送信機/受信機ペアに対する2次元FFT(2D-FFT)処理を含む。送信されるチャープを対応する受信チャープと混合することによって中間周波数(IF)信号が得られる。IF信号に対応するデジタル化されたサンプルに対してレンジFFTが実施される。レンジFFTはレンジ内のオブジェクトを分解し、一連のビンをつくる。各ビンはレンジ値に対応する。或るビンにおける或る信号が、そのレンジにおけるオブジェクトを示す。この処理は、全フレームにわたって、各送信機/受信機ペアに対して各チャープについてなされる。次いで、各送信機/受信機ペアについて、チャープにわたる各レンジ-ビンに対してドップラーFFTが実施される。この2D-FFT(すなわち、レンジFFT、及びそれに続くドップラーFFT)処理により、2次元FFTグリッドが生成され、1つのこのような2D-FFTグリッドが、各送信機/受信機ペアに対して生成される。次いで、各受信機/送信機ペアに対して、すべての生成された2次元FFTグリッドにわたって特定のレンジ-ドップラービンに対応する信号サンプルを取り出すことによって、仮想アレイ信号Sが生成される。(例えば、Songらの「車両FMCWレーダのためのニュートン補間を用いるドップラー推定の増強」、情報及び通信技術コンバージェンスの国際学会(ICTC)2014、615~616頁、(2014年)を参照されく、この文献全体は参照により本明細書に組み込まれている。)
【文献】Song, et al., “Enhancing Doppler estimation via newton interpolation for automotive FMCW radars”, International Conference on Information and Communication Technology Convergence (ICTC) 2014, pp. 615-616 (2014)
【0032】
図6は、速度と到来角の組み合わせ効果を示すグラフ600である。図5における要素と同様に番号が振られている図6における要素は、同様の機能を実施する。例えば、チャープ612-0~612-(N-1)及び614-0~614-(N-1)は、図3のチャープ312-0~312-(N-1)及び314-0~314-(N-1)と同様の機能を実施する。図5を参照した上述の説明は、静止オブジェクトを暗に仮定している。レーダに対して相対的に動くオブジェクトの場合、受信機において観察される位相オフセットは、相対速度及び到来角の双方による寄与を有する。図6に関して、T’は、同じ送信アンテナからの連続するチャープの開始間の時間を指す。また、φは、同じ送信アンテナから発する連続するチャープ間の、受信機における速度誘導位相差を指す。そのため、送信機602-1及び602-2(図5)からの隣り合う送信間の対応する速度誘導位相差は0.5φである。送信機602-1が送信するとき、4つの受信機604-1~604-4で受信された信号の位相は、セット620-1に示すように、それぞれ、[0 φ 2φ 3φ]である。送信機602-2から発する信号の場合、4つの受信機604-1~604-4における信号は、[4φ 5φ 6φ 7φ]の到来角誘導位相オフセットを有する。送信機602-2からの送信は送信機602-1からの送信から0.5T遅れるので、これにより、セット620-2に示すように、0.5φの付加的な位相が誘導される。そのため、到来角及び相対速度の両方の効果を組み込む仮想アレイ信号Sの位相Pは、式(5)によって与えられる。
P=[0 φaaa 0.5φd+4φa 0.5φd+5φa 0.5 φd+6φa 0.5φd+7φa] (5)
【0033】
式(5)に示すように、仮想アレイ信号Sの位相Pは、(φによる)到来角及び(φによる)相対速度の双方に依存する。そのため、速度及び到来角の推定が結合される。速度及び到来角は下記の技法を用いて判定され得る。
a. ステップ1
相対速度誘導位相(φ)の推定
特定の送信TXアンテナによって送信される連続チャープによる各RXアンテナにおける位相差(φ)を判定する。この処理は「ドップラーFFT処理」と呼ばれることがある。これは、特定のTXアンテナから送信されるチャープによるRXアンテナで受信される信号をFFT処理することによってなされる。通常、「フレーム内のチャープにわたるドップラーFFT」を実施する前に、各チャープに対応するADCサンプルに対してまずレンジFFTが行われる。φの推定は、式(2)を用いてオブジェクトの速度vを推定するために用いられる。実際には、すべてのTX-RXアンテナペアにわたって同様の処理が繰り返され、結果が平均されて、φのより良好な推定が得られる(例えば、複数のTX-RXアンテナペアにわたるドップラーFFTが非コヒーレントに平均され得、この非コヒーレントに平均されたFFTがφを推定するために用いられる)。
b. ステップ2
ドップラー補正
ステップ1におけるφdの推定は、Sの最後の4つの要素にe-j(φd/2)を乗算することによって、仮想アレイ信号Sのφへの依存性を取り除くために用いられる。この演算により、補正された仮想アレイ信号Sがつくられる。この信号の位相Pは式(6)によって与えられる。
P=[0 φ 2φ 3φ 4φ 5φ 6φ 7φ] (6)
c. ステップ3
角度推定
式(6)から、補正された仮想アレイ信号Sの位相Pは、φの線形漸進を有する。そのため、Pに対するFFTによりφが推定される。このφの推定は、式(4)において用いられて到来角θが求められる。
【0034】
上述した技法は、オブジェクトの相対速度(v)がvmax内である(すなわち、|v|<vmax)と仮定している。この拘束から少しでも外れると、φの推定に誤りが生じ、その結果、推定された速度(v)並びにS(及びその位相P)に誤差が生じる。また、上述したように、実現可能なvmaxは送信機の数に反比例する(例えば、2つの送信機の場合、1/2になる)。これは、Tが、送信機の数に比例して長くなるからである。
【0035】
或る態様において、(上述したような)vmaxの制限は、TDM-MIMOレーダにおいて改善される。下記のプロセスが用いられる。|v|がvmaxを超える場合、φの推定における誤差も、角度推定(上述のステップ3)の前になされたドップラー補正(上述のステップ2)に影響を及ぼす。補正された仮想アレイ信号Scの位相Pにおいてこのように生じた誤差は、その角度FFTスペクトルにおける独自のシグネチャになる。こういったシグネチャは、検出され、下記でさらに説明するように|v|がvmaxを超えたという条件を補正するために用いられる。
【0036】
|v|>vmaxの場合、|φ|はπを超え、その結果、上述した方法のステップ2におけるφの推定に誤りが生じる。例えば、φがπを超える(すなわち、φ=π+Δである)場合、ステップ1で推定されたφの値(φd_est)は-π+Δとなる。同様に、φの値が-πより小さい(すなわち、φ=-π-Δである)場合、φd_est=π-Δとなる。そのため、推定誤差φ-φd_estは±2πとなる。この推定誤差は位相Pの誤差になり、誤った位相が式(7)によって与えられる。
P=[0,φaaa π+4φa π+5φa π+6φa π+7φa] (7)
【0037】
式(7)において、誤差項は、最後の4つのエントリ各々にπを加算したものである。そのため、このレーダアーキテクチャの場合の誤差のベクトル(「位相誤差ベクトル」)は、φerror=[0 0 0 0 π π π π]となる。
【0038】
図7は、理想的なS(すなわち、vがvmax未満の場合)、及び式(7)において上述した位相誤差を有するSのFFTを示すグラフ700である。理想的な補正された仮想アレイ信号S(すなわち、式(6)によって表される位相Pを有するもの)は、(φの推定、及びしたがってθに対応する)角度FFTにおける単一ピークを有する曲線702となる。一方、誤ったS(すなわち、式(7)によって表される位相Pを有するもの)は、その角度FFTにおける2つのピークを有する曲線704となる。また、FFTスペクトルにおけるこれら2つのピークは、3π/8ラジアン分離されており、等しいパワーを有する。そのため、1)2つのピークの特性、及び、2)これらのピークが3π/8分離されている場合の特性を示すいかなる角度FFTも、|v|がvmaxを超える状況を示す可能性が高い。したがって、vmax超え条件が、下記のチェック項目を用いて判定され得る。
1)チェック項目1: SのFFTが、等しいパワーを有し、互いに3π/8ラジアン分離された2つのピークを有するか?
2)チェック項目2: チェック項目1が肯定である場合、Sの最後の4つのサンプルを無効にし、角度FFTを再計算する。サンプルを無効にすることはその位相からπを減算することと等価なので、これにより、誤った位相(式(7))を理想的な位相(式(6))に戻す。
3)チェック項目3: チェック項目2から得られるFFTが、中間に位置し、誤った角度FFTの2つのピークから等距離にある単一ピークを有することを確認する。
4)チェック項目4: チェック項目1~3がOKの場合、2つのピークが(2D-FFTグリッドにおける)同じレンジドップラービンにおける2つのオブジェクトの存在によるものでないことを保証するための付加的なチェックを行う。
5)チェック項目5: チェック項目1~4がOKの場合、vmaxを超える速度偏位にフラグを立てる。真の速度は、式(8)を用いて計算される。
vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)、又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合) (8)
【0039】
図8は、或る態様方法800のフローチャートである。方法800はステップ802で始まる。ステップ804において、ドップラー位相シフトφの推定が、上述したようなドップラーFFT処理を用いて判定される。ステップ805において、例えば、Sの最後の4つの要素にe-j(φd/2)を乗算することによって、仮想アレイ信号Sの依存性を取り除く。ステップ806において、上述したように角度FFT処理を用いてφを判定する。ステップ808において、SのFFTが、3π/8ラジアン分離された2つのピークを有するか否かを判定する(実際には、2つのFFTピーク間の分離は3π/8から減算され得、この差の絶対値がSNRに基づく閾値と比較される)。ステップ808が否定の場合、φから直接的に速度を求め、vest調整は必要とされない。ScのFFTが、3π/8ラジアン分離された2つのピークを有する場合、ステップ810において、φerrorが影響を及ぼすSのサンプルが無効にされ、角度FFTが再計算される。ステップ812において、再計算された角度FFTが、誤った角度FFTのピークの中間に単一ピークを有することを確認する。他のアーキテクチャ(すなわち、2つの送信機及び4つの受信機でない)場合、|v|>vmaxであることにより他の誤りシグネチャが生じる。そのため、これら他のアーキテクチャの場合、ステップ808及び812において他のアーキテクチャの他の誤りシグネチャ特性が検出される。適当な誤りシグネチャが見つからない場合、このデータから正確な速度を求めることができず、このプロセスはステップ818で終了する。適当なシグネチャが見つかる場合、2つのピークが1つのオブジェクトによって生じたか否かの判定が、図9に関して下記で説明する方法を用いてステップ814においてなされなければならない。このビンが1つだけオブジェクトを有する場合、ステップ816に示す式(式(8))により真の速度vtrueが判定される。この方法はステップ818で終了する。2つ以上のオブジェクトが検出される場合、このプロセスはステップ818で結果が得られずに終了する。
【0040】
上記チェック項目4(ステップ814)は、2つのピーク(曲線704)が(誤った位相を有する)単一オブジェクトに対応し、同じレンジドップラービンにおける2つのオブジェクトの存在によるものでないことを確認するために用いられ得る単一オブジェクト確認方法を用いる。これは、固有値に基づく方法を用いて、下記の事実に依存して判定され得る。単一オブジェクトの場合、補正された仮想アレイ信号Sに対応する2×2相関マトリックスの固有値は単一の支配的な固有値を有する。補正された仮想アレイ信号Sは8要素ベクトルであり、式(9)に示すように、要素1~4が、TX1からの4つのアンテナにおける受信信号に対応し、要素5~8が、TX2からの受信信号に対応する。
【0041】
下記の方法により、1つのオブジェクト又は2つのオブジェクトが同じレンジドップラービンに存在するか否かが判定される。
1. Sからの隣接の要素で構成され、同じTXアンテナに対応する2×1ベクトルr=[sk,k+1]のセットQを判定する。そのため、r=[s]はセットQの一部であり、r=[s]はQに含まれない。これは、sがTX1から受信される信号であり、sがTX2から受信される信号であるためである。
2. 2×2相関マトリックスR=Σ を計算する。ここで、rはrの転置である。
3. Rの2つの固有値を計算する。これら2つの固有値の計算は、2次方程式を解くことのみを必要とする従来の数学的プロセスであり、そのため、計算上簡単な閉形式の解が存在する。
4. 2つの固有値の比(大きい固有値に対する小さい固有値の比)を計算する。この比を信号雑音比(SNR)閾値と比較する。この比が閾値未満である場合、信号は「1つのオブジェクト」を含み、この比が閾値より大きい場合、信号は「2つ以上のオブジェクト」を含む。SNR閾値は、実験的に求められるか、又は、レーダシステムの特性から数学的に導出され得る。
【0042】
図9は、或る態様方法900のフローチャートである。方法900は、2つ以上のオブジェクトがレンジドップラービンにあるかを判定する。ステップ902において、上述したように送信機にまたがらない2×1ベクトルのセットを求める。次いで、ステップ904において、このベクトルのセットから2×2相関マトリックスを求める。ステップ906において、相関マトリックスの固有値を計算し、ステップ908において、これらの固有値の比を計算する。ステップ910において、固有値の比と雑音閾値の比較に基づいて、2つ以上のオブジェクトが存在する(912)か、又は1つのオブジェクトが存在する(914)かを判定する。
【0043】
上述した例示の技法は、図5の2つの送信機(2TX)×4つの受信機(4RX)アーキテクチャを対象としている。しかしながら、本願の態様はより広範な適用性を有する。例示の実施形態の態様において、補正された仮想アレイ信号における位相誤差の利用は、多くのアーキテクチャにおいて用いられ得る。2TX×4RXの場合、補正された仮想アレイ信号Sの位相Pにおける誤差(φerror)は、位相Pの最後の4つの要素の付加的な位相πを含む。図7は、FFTスペクトルにおける対応する誤りシグネチャを図示する。他のアーキテクチャが、補正された仮想アレイ信号Sの位相Pに異なる誤差φerrorを有し得、それに対応して異なるシグネチャをFFTスペクトルに有し得る。
【0044】
例えば、図10は、4つのTXアンテナ(1002-1~1002-4)及び8つのRXアンテナ(1004-1~1004-8)を含む、別のアーキテクチャを有するTDM-MIMOシステム1000を示す。システム1000は、とりわけ、オブジェクト1006の角度及び速度を検出する。実際には、このようなアーキテクチャは、通常、複数のレーダチップをつなげてTX/RXアンテナの利用可能性を広げることによって実現される。
【0045】
4つのTX及び8つのRXアンテナを用いると、補正された仮想アレイ信号が8×4=32個のサンプルで構成される。図10のアーキテクチャのための補正された仮想アレイ信号の理想的な位相は、式(10)に示すように、長さ32の線形位相漸進である。
=[0 φ 2φ 3φ...32φ] (10)
【0046】
正の方向(すなわち、v>vmax)の偏位が、式(11)によって与えられる下記の誤ったPとなる。
【0047】
同様に、負の方向(すなわち、v<-vmax)の偏位が、式(12)によって与えられる下記の誤ったPとなる。
【0048】
のFFTスペクトルにおける対応するシグネチャは、図11のグラフ1100に示されている。曲線1102は理想的な(偏位なし)スペクトルである。曲線1104はv>vmaxの場合のスペクトルである。曲線1106はv<-vmaxの場合のスペクトルである。
【0049】
そのため、或る態様方法が、より全般的には下記のように説明される。
1. チャープにわたる相対速度誘導位相(φ)を推定する。
2. φを用いて仮想アレイ信号Sの位相を補正して、補正された仮想アレイ信号Sを生成する。
3. |v|>|vmax|の場合、Sの位相Pは、Sのスペクトルにおける特定のシグネチャを誘導する誤差(φerror)を有する。
4. Sに対してFFTを実施し、|v|>|vmax|であることを示すシグネチャを検出するため、スペクトルを解析する。
a. 付加的なチェック項目が、S要素にe-jφerrorを有する要素を乗算すること、及び、得られた信号に対してFFTを実施して補正φを求めることを含み得る。
b. Sに対して付加的な計算を実施して、複数のオブジェクトがこのシグネチャを生じさせ得ているか否かを判定する。
【0050】
上述した技法は計算上簡便である。しかし、これらの技法は、レンジドップラービンが1つの支配的なオブジェクトのみを有する場合に速度エイリアシングのため検出及び補正し得るだけである。例示の実施形態の付加的な態様において、より多くの計算を含む代替解決策が、この制約の一部を緩和する。N個のオブジェクトが同じレンジドップラービンにある場合、補正された仮想アレイ信号Sは、理想的には、N個の複合トーンで構成され、Sの周波数スペクトルは、理想的には、N個のピークを示す。しかし、vmaxを超える相対速度のオブジェクトの存在により、φの推定に誤りが生じ、その結果、Sの位相Pに誤差(φerror)が生じる。これは、概して、Sの周波数スペクトルにおける付加的なピークとして現れる。例えば、図5のレーダアーキテクチャの場合、φerror=[0 0 0 0 π π π]であり、これはSの位相におけるπの位相不連続に相当する。図12のグラフ1200は、これをN=2の場合について図示する。理想的なスペクトルは、曲線1202に示すように、2つのピークで構成される。|v|>vmaxであることによって生じる誤ったスペクトルは付加的なピークを含む。これは、合計3つのピークを含む曲線1204においてN=2の場合について示される。或る態様において、N=2の場合の誤差状態は下記によって決定される。
1. 補正された仮想アレイ信号(S)に対してスペクトル解析を実施する。
2. Sにe-jφerrorを乗算することによって第2の補正された仮想アレイ信号(S’)を構築する。ここで、φerrorは位相誤差ベクトルを指す。また、S’に対してスペクトル解析を実施する。
3. ステップ1及び2における2つのスペクトル解析の結果を比較する。このスペクトル解析及び比較のために2つの手法が可能である。
【0051】
方法1(FFTに基づくスペクトル解析): S及びS’に対してFFTを実施し、各スペクトルにおけるピーク(k及びk’など)の数を推定する。k>k’の場合、誤差状態(すなわち、|v|>vmaxの1つ又は複数のオブジェクトの存在)を示す。実際には、このような技法は、FFTの長さ制限、SNRの考慮などにより問題となり得る。より堅固な技法が、下記で説明する方法2である。
【0052】
方法2(固有値に基づく解析): 固有値に基づく技法を用いることによって、S及びS’に対応するオブジェクト(m及びm’など)の数を推定する。m>m’の場合、誤差状態(すなわち、|v|>vmaxの1つ又は複数のオブジェクトの存在)を示す。多くの場合において、推定されるオブジェクト(m及びm’)の数の比較は、下記で説明するように、S及びS’を用いて計算される相関マトリックスの固有値の適切な比較で置き換えられ得る。
【0053】
方法2に基づく例示の方法は下記のとおりである。
ステップ1: (a)同じTXアンテナに対応するSのすべての連続する3連構造を用いて3×3相関マトリックスRを計算すること、及び、(b)Rの固有値を推定し、次いで、これらの固有値の相対値を用いてオブジェクトの数を推定することによって、レンジドップラービンに存在するオブジェクトの数を把握する。オブジェクトの数が1であると判定される場合、図1~7に関して上述した方法を用いる。オブジェクトの数が2であると判定される場合、下記のステップに従う。オブジェクトの数が2より多いと判定される場合、この方法は結果を求めずに終了する。
ステップ2: r=[sk+1k+2]とする。R=Σk=1:6 によって表されるSの3×3相関マトリックスを計算し、Rの固有値を計算する。λはこれらの固有値の最小値に等しい。Sを計算しながら、従来の「前方-後方」平滑技法などの平滑技法を用い得る。
ステップ3: 上記ステップ2のプロセスを用いてS’の相関マトリックスR’を判定する。λ’はR’の固有値の最小値に等しい。
ステップ4: 比λ’/λを計算し、これを特定のレーダアーキテクチャについて実験的又は数学的に求められる2つの閾値T1及びT2と比較する。
・ λ’/λ>T1の場合、誤差状態は存在しない(すなわち、いずれのオブジェクトの速度もvmaxより遅い)。
・ T1>λ’/λ>T2の場合、オブジェクトの一方の速度がvmaxより速い。
・ λ’/λ<T1の場合、いずれのオブジェクトの速度もvmaxより速い。
【0054】
例示の態様において、集積回路が少なくとも2つのポート及びプロセッサを含み、少なくとも2つのポートは、少なくとも2つの送信機によって送信され、オブジェクトで反射される複数のチャープを受信するように結合される。プロセッサは、送信機の1つからポートの1つに送信されるチャープにわたる速度誘導位相シフト(φ)を推定し、各送信機によって送信されるチャープのシーケンス(フレーム)に対応する各ポートによって受信される信号の仮想アレイベクトルSを選択し、φを用いて仮想アレイベクトルSの各要素の位相を補正して補正された仮想アレイベクトルSを生成し、補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換を実施して補正された仮想アレイスペクトルを生成し、補正された仮想アレイスペクトルを解析して、オブジェクトが最大速度より速い絶対速度を有することを示すシグネチャを検出するように構成される。
【0055】
別の例示の態様において、プロセッサはさらに、シグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて補正された仮想アレイベクトルSを補正し、結果として得られるマトリックスに対して第2のフーリエ変換を実施して、得られたマトリックスからシグネチャが取り除かれたか否かを判定するように構成される。
【0056】
別の例示の態様において、プロセッサはさらに、オブジェクトの正しい速度を求める。
【0057】
さらに別の例示の態様において、正しい速度は、式vest=φλ/4πTを用いて求められる。ここで、Tはチャープ期間であり、λはチャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)である。ここで、vtrueは正しい速度であり、vmaxは式vmax=λ/4Tによって求められる。
【0058】
別の例示の態様において、集積回路が4つのポートを含む。
【0059】
別の例示の態様において、集積回路はさらに、少なくとも2つの送信機の少なくとも1つを駆動するための回路要素を含む。
【0060】
別の例において、プロセッサはさらに、シグネチャが複数のオブジェクトによって生じたか否かをSを解析することによって判定する。
【0061】
さらに別の例示の態様において、或る方法が、レーダによって検出されるオブジェクトの速度が最大速度より速いか否かを、少なくとも2つの送信機によって送信され、オブジェクトで反射されるチャープの少なくとも1つのフレームを複数の受信機で受信することによって判定する。送信機の1つから受信機の1つに送信されるチャープにわたる速度誘導位相シフト(φ)が推定される。各送信機によって送信される1つのチャープに対応する、各受信機によって受信される信号の仮想アレイベクトルSが選択される。仮想アレイベクトルSの各要素の位相がφを用いて補正されて、補正された仮想アレイベクトルSが生成される。補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換が実施されて、補正された仮想アレイスペクトルが生成され、オブジェクトが最大速度より速い絶対速度を有することを示すシグネチャを検出するために補正された仮想アレイスペクトルが解析される。
【0062】
さらに別の態様において、シグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて補正された仮想アレイベクトルSが補正され、結果として得られるマトリックスに対して第2のフーリエ変換が実施されて、得られたマトリックスからシグネチャが取り除かれたか否かが判定される。
【0063】
別の態様において、オブジェクトの正しい速度が求められる。
【0064】
別の態様において、正しい速度は、式vest=φλ/4πTを用いて求められる。ここで、Tはチャープ期間であり、λはチャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)である。ここで、vtrueは正しい速度であり、vmaxは、式vmax=λ/4Tによって求められる。
【0065】
さらに別の例は4つの受信機を有する。
【0066】
別の態様において、Sを解析することによってシグネチャが複数のオブジェクトによって生じたか否かが判定される。
【0067】
別の態様において、レーダシステムが、複数のチャープを送信するように構成される少なくとも2つの送信機を含む。このシステムはさらに、オブジェクトで反射されるチャープを受信する少なくとも2つの受信機と、プロセッサとを含む。プロセッサは、送信機の1つから受信機の1つに送信されるチャープにわたる速度誘導位相シフト(φ)を推定し、各送信機によって送信されるチャープのシーケンス(フレーム)に対応する各受信機によって受信される信号の仮想アレイベクトルSを選択し、φを用いて仮想アレイベクトルSの各要素の位相を補正して補正された仮想アレイベクトルSを生成し、補正された仮想アレイベクトルSに対して第1のフーリエ変換を実施して補正された仮想アレイスペクトルを生成し、オブジェクトが最大速度より速い絶対速度を有することを示すシグネチャを検出するために補正された仮想アレイスペクトルを解析するように構成される。
【0068】
さらに別の態様において、プロセッサはさらに、シグネチャに対応する位相誤差ベクトルを用いて補正された仮想アレイベクトルSを補正し、結果として得られるマトリックスに対して第2のフーリエ変換を実施して、得られたマトリックスからシグネチャが取り除かれたか否かを判定するように構成される。
【0069】
さらに別の態様において、プロセッサはさらに、オブジェクトの正しい速度を求める。
【0070】
さらなる態様において、正しい速度は、式vest=φλ/4πTを用いて求められる。ここで、Tはチャープ期間であり、λはチャープの波長であり、vtrue=vest+2vmax(vest<0の場合)又はvtrue=vest-2vmax(vest>0の場合)である。ここで、vtrueは正しい速度であり、vmaxは、式vmax=λ/4Tによって求められる。
【0071】
別の態様において、レーダシステムは4つの受信機を含む。
【0072】
別の態様において、レーダシステムは4つの送信機を含む。
【0073】
さらに別の態様において、プロセッサはさらに、シグネチャが複数のオブジェクトによって生じたか否かを、Sを解析することによって判定するように構成される。
【0074】
特許請求の範囲内で、説明した実施形態における改変が可能であり、他の実施形態が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12