(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電極箔、巻回形コンデンサ、電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/055 20060101AFI20221122BHJP
H01G 9/052 20060101ALI20221122BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20221122BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20221122BHJP
H01G 9/145 20060101ALN20221122BHJP
H01G 9/15 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
H01G9/055
H01G9/052 509
H01G9/00 290D
H01G9/048 B
H01G9/145
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2019509982
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012788
(87)【国際公開番号】W WO2018181485
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2017072127
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】成田 良幸
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳視
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭二
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-062595(JP,A)
【文献】特開2014-135481(JP,A)
【文献】特開2013-153024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/055
H01G 9/052
H01G 9/00
H01G 9/048
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部に不連続で延在し、前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備
え、
前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔。
【請求項2】
前記分断部は、
少なくとも複数の前記トンネル状のピットを繋ぎ又は跨いで形成されること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔。
【請求項3】
前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電極箔。
【請求項4】
前記多数のトンネル状のピットのうちの一部のピットは、前記芯部を貫通していること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電極箔。
【請求項5】
電極箔を巻回して成るコンデンサ素子を備え、
前記電極箔は、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部に不連続で延在し、前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備え、
前記コンデンサ素子は、前記分断部が存在する前記電極箔が巻回されて成ること、
を特徴とする巻回形コンデンサ。
【請求項6】
前記コンデンサ素子は、巻回中心に巻芯部を有し、
前記電極箔は、前記巻芯部に巻回され、
前記分断部は、少なくとも、前記巻芯部への巻き始めを含む所定半径内の巻回中心側に形成されていること、
を特徴とする請求項5記載の巻回形コンデンサ。
【請求項7】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔の製造方法であって、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を、前記箔に不連続で延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有
し、
前記電極箔は、前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔の製造方法。
【請求項8】
前記分断部の形成の後、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項7記載の電極箔の製造方法。
【請求項9】
前記拡面部の形成の後、前記分断部の形成の前に、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項7記載の電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記分断部の形成の後、前記箔を再化成処理するステップと、
を更に有すること、
を特徴とする請求項9記載の電極箔の製造方法。
【請求項11】
電極箔を形成する箔形成ステップと、
前記電極箔を巻回することでコンデンサ素子を形成する素子形成ステップと、
前記コンデンサ素子に電解質を形成する電解質形成ステップと、
前記コンデンサ素子をエージングするエージングステップと、
を有し、
前記箔形成ステップは、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を、前記箔に不連続で延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有
し、
前記素子形成ステップ
では、
前記分断部を有する前記電極箔を巻回して前記コンデンサ素子を形成し、
前記電解質形成ステップにより前記電解質を形成した後に前記エージングステップを行い、又は前記エージングステップの後に前記電解質形成ステップによって前記エージングされたコンデンサ素子に前記電解質を形成すること、
を特徴とする巻回形コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻回形コンデンサに用いられる電極箔に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、陽極の誘電体皮膜を対向電極と密着させるべく、電解質で空隙を埋めて成り、電解質が液体である非固体電解コンデンサ、電解質が固体である固体電解コンデンサ、電解質として、液体と固体を備えたハイブリッド形電解コンデンサ、電極双方に誘電体皮膜を形成した両極性電解コンデンサが含まれる。この電解コンデンサは、コンデンサ素子を電解質に含浸させて成り、コンデンサ素子は、アルミニウムなどの弁金属箔に誘電体皮膜を形成した陽極箔と、同種または他の金属の箔によりなる陰極箔とを対向させ、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて構成されている。
【0003】
電解コンデンサの静電容量は誘電体皮膜の表面積に比例する。通常、電解コンデンサの電極箔にはエッチング等の拡面化処理が施され、この拡面化処理が施された拡面部には化成処理が施されて、大表面積の誘電体皮膜を有する。近年は、電解コンデンサの静電容量の更なる増大を図るべく、電極箔の表面から一層深部に至るまで拡面化を進展させている。
【0004】
換言すれば、電解コンデンサにおいては、電極箔の芯部が、より一層薄くなる傾向を示している。誘電体皮膜を有する拡面部は、芯部と比べて、柔軟性及び延伸性が低い。そのため、誘電体皮膜の大表面積化が図られた電極箔は、柔軟性及び延伸性に富む残芯部の薄厚化により、柔軟性及び延伸性が低下している。
【0005】
ここで、このような電極箔を用いた電解コンデンサとして、小型化と大容量化を両立すべく、巻回形コンデンサの形態が採られる場合がある。巻回形コンデンサのコンデンサ素子は、セパレータを挟んで陽極箔及び陰極箔を重ね合わせ、筒型に巻回して成る。近年の誘電体皮膜の表面積増大措置は、この巻回形コンデンサの巻回性に大きな問題を生じさせている。
【0006】
すなわち、拡面化処理した拡面部に化成処理して誘電体皮膜を形成することで、電極箔は柔軟性及び延伸性が低下してしまう。そうすると、電極箔には弓なりに滑らかに湾曲することができず、多数の微細なクラックを発生させてしまう。この微細なクラックの発生により、クラックの内表面には未酸化の金属部分が露出してしまう。
【0007】
ここで、巻回形コンデンサは、電解コンデンサの場合にはコンデンサ素子を電解液に含浸した後、固体電解コンデンサの場合には電解質が形成される前に、エージング処理が施される。未酸化の金属部分が露出した状態でエージング処理をすると、エージングの所要時間が長期化してしまう。
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するため、誘電体皮膜の大表面積化を進展させつつ、巻回時にクラックを発生させ難い電極箔、当該電極箔を巻回した巻回形コンデンサ、電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る電極箔は、帯状の箔により成り、前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、前記拡面部に不連続で延在し、前記拡面部を分断する複数の分断部と、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、を備えること、を特徴とする。
【0011】
前記分断部は、少なくとも複数の前記トンネル状のピットを繋ぎ又は跨いで形成されるようにしてもよい。
【0012】
前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下であるようにしてもよい。
【0013】
前記多数のトンネル状のピットのうちの一部のピットは、前記芯部を貫通しているようにしてもよい。
【0014】
この電極箔を巻回して備える巻回形コンデンサも本発明の一態様である。
【0015】
この巻回形コンデンサは、前記電極箔を巻回して成るコンデンサ素子を備え、前記コンデンサ素子は、巻回中心に巻芯部を有し、前記電極箔は、前記巻芯部に巻回され、前記分断部は、少なくとも、前記巻芯部への巻き始めを含む所定半径内の巻回中心側に形成されているようにしてもよい。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る電極箔の製造方法は、帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、前記拡面部を分断する複数の分断部を、前記箔に不連続で延在させるステップと、前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、を有すること、を特徴とする。
【0017】
前記分断部の形成の後、前記箔を前記化成処理するようにしてもよい。
【0018】
前記拡面部の形成の後、前記分断部の形成の前に、前記箔を前記化成処理するようにしてもよい。
【0019】
前記拡面部の形成の後、前記分断部の形成の前に、前記箔を前記化成処理するものであり、前記分断部の形成の後、前記箔を再化成処理するステップと、を更に有するようにしてもよい。
【0020】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る巻回形コンデンサの製造方法は、前記電極箔を巻回することでコンデンサ素子を形成する素子形成ステップと、前記コンデンサ素子に電解質を形成する電解質形成ステップと、前記コンデンサ素子をエージングするエージングステップと、を有し、前記電解質形成ステップにより前記電解質を形成した後に前記エージングステップを行い、又は前記エージングステップの後に前記電解質形成ステップによって前記エージングされたコンデンサ素子に前記電解質を形成すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分断部が巻回時の曲げ応力を分散させるため、巻回時に未酸化の金属部分を露出させるようなクラックが生じにくくなり、エージング処理に必要な電気量が少なくなり、エージング処理の所要時間が短縮化する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る電極箔の構造を示し、(a)は長手方向に沿った切断図であり、(b)は上面図である。
【
図2】本実施形態に係る巻回形コンデンサが備えるコンデンサ素子を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態の分断部を備えた電極箔の長手方向に沿った断面図である。
【
図5】実施例1に係る、本実施形態の分断部を備えた電極箔の長手方向に沿った断面写真である。
【
図6】実施例1に係る、本実施形態の分断部を備えた電極箔の表面を示す写真であり、写真長辺方向が電極箔の幅方向であり、写真短辺方向が電極箔の長手方向である。
【
図7】比較例1に係る電極箔の表面を示す写真であり、写真長辺方向が電極箔の幅方向であり、写真短辺方向が電極箔の長手方向である。
【
図8】実施例1及び比較例1のエリクセン試験の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1、実施例2及び比較例1の巻回形コンデンサのエージング処理における電気量の積算値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る電極箔及び巻回形コンデンサの実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0024】
(電極箔)
図1に示す電極箔1は、巻回形コンデンサの陽極箔、誘電体皮膜5が形成された陰極箔又は両方に用いられる。巻回形コンデンサの代表例としては電解コンデンサであり、電解コンデンサとしては、電解質が液体であり、陽極箔に誘電体皮膜を形成した非固体電解コンデンサ、電解質が固体であり、陽極箔に誘電体皮膜を形成した固体電解コンデンサ、電解質として、液体と固体を備えたハイブリッド形電解コンデンサ、及び陽極箔と陰極箔の双方に誘電体皮膜を形成した両極性電解コンデンサが挙げられる。
【0025】
電極箔1は、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ及び酸化ニオブ等の弁金属を材料とする。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましく、陰極箔に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
図1に示すように、この電極箔1は、長尺であり、厚み方向中心の芯部2を残して両面に拡面部3が形成され、拡面部3の一方又は両方に複数の分断部4が形成され、拡面部3と分断部4の表面に誘電体皮膜5が形成されて成る。
【0026】
拡面部3は多孔質構造を有する。多孔質構造は、トンネル状のピットにより成る。この拡面部3は、典型的には塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流を印加する直流エッチングにより形成される。
【0027】
この電極箔1には、高圧用電極箔が含まれる。また、弁金属の拡面部3を除く残部が芯部2に相当する。換言すると、例えば未エッチング層が芯部2に相当する。但し、芯部2は、トンネル状のピットの全てが未到達の層と解す必要はなく、トンネル状のピットの多くが未到達の層であればよい。換言すると、一部のトンネル状のピットが芯部2を貫通していてもよい。拡面部3及び芯部2の厚みは特に限定されないが、拡面部3の厚みが両面合わせて40~200μm、芯部2の厚みが8~60μmの範囲が好ましい。
【0028】
分断部4は、電極箔1の表面から芯部2に向かう深さ方向に、拡面部3を分断する。分断部4は、芯部2を完全に分断までに至らなければ良く、芯部2に至らない深さ、最深部がちょうど芯部2に到達する深さ、及び最深部が芯部2に食い込む深さの何れであってもよい。また、全ての分断部4の深さが統一されている必要はない。
【0029】
詳細には、分断部4は、電極箔1を部分的に横断して不連続に延びる。この分断部4は、拡面部3を構成する複数のトンネル状のピットを繋ぎ、又は複数のトンネル状ピットを跨ぐ。各分断部4の位置、長さ及び延び方向は区々であり、電極箔1の帯長手方向であっても幅方向であっても、それらが混在してランダム配向状に延びていてもよい。また直線状又は曲線状の分断部4が混在していても良く、分断部4は、途中分岐し、又は単線であってもよい。一本の分断部4が有する両端部の離間距離は平均40μm以上150μm以下であり、短いものでは10μm程度、長いものでは600μm程度が混在する。この範囲の長さを有する分断部4により、電極箔1の柔軟性及び延伸性が向上する。
【0030】
このような分断部4は、拡面部3をひび割れさせ、拡面部3を裂き、電極箔1の厚み方向に沿って拡面部3に切り込みを入れ、拡面部3を切り欠き、又は電極箔1の厚み方向に沿って拡面部3を掘り込むことにより形成される。従って、分断部4の実態の例は、割れ目、裂け目、切り込み、切り欠き又は掘り込みである。但し、拡面部3を分断していれば、分断部4の態様は特に限られない。
【0031】
分断部4の溝幅は、電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、0を含む50μm以下である。分断部4の溝幅とは、電極箔1の表層付近で計測された、電極箔1の長手方向に沿った長さである。分断部4を割れ、裂き、又は切り込みにより形成した場合、分断部4の溝幅は実質的に0となる。実質的に0とは、電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、分断部4の界面が少なくとも部分的に接している状態をいう。分断部4の溝幅が50μm以下であれば、電極箔1の柔軟性及び延伸性を損なうことなく、誘電体皮膜5の表面積減少に伴う、巻回形コンデンサの静電容量の大きな低下を抑止できる。
【0032】
ここで、分断部4の形成方法として、例えば、丸棒へ電極箔1を押し付ける等の物理的手段によることが考えられる。丸棒を利用する形成方法では、電極箔1の芯部2が長手方向に伸び、その結果芯部2の厚みが薄くなる。しかしながら、分断部4の溝幅を50μm以下とすることで、芯部2の厚みが薄くなり難く、電極箔1の柔軟性及び延伸性は向上する。この点においても、分断部4の溝幅を50μm以下とすることが好ましい。
【0033】
分断部4は、電極箔1の長手方向に沿って均一な平均ピッチや単位範囲内の数で形成されてもよい。また、電極箔1が巻回された際の、当該分断部4が形成される箇所における曲率を加味して、平均ピッチや単位範囲内の数を変更することもできる。曲率が小さくなればなるほど、すなわち巻回されたときに外周側になればなるほど、曲げ応力は小さくなり、巻回時のクラック抑制に繋がるからである。
【0034】
例えば、巻軸への電極箔1の巻き始め部分にのみ、分断部4を形成しておくようにしてもよい。電極箔1の巻き始め部分は曲率が大きく、クラックが発生しやすい。また、分断部4が位置する箇所における巻回半径に比例させて、平均ピッチを大きく取ったり、当該半径に反比例させて、単位範囲内の数を減少させるようにしてもよい。分断部4の数が減れば減るほど、巻回形コンデンサの静電容量への影響が低減する。
【0035】
この分断部4は、両面の拡面部3に各々形成されることが望ましいが、巻回時の電極箔1の延びの観点から、少なくとも、電極箔1の巻回時に箔外側になって張力を受ける拡面部3に形成されるとよい。
【0036】
誘電体皮膜5は、拡面部3を化成処理して成り、典型的にはアジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加して形成される酸化皮膜を用いる。
【0037】
ここで、誘電体皮膜5は、分断部4の溝内表面にも形成しておくことが好ましい。分断部4の溝内表面にも誘電体皮膜5を形成しておくと、誘電体皮膜5を修復するためのエージング処理に必要な電気量(C)が少なくて済むという知見が得られたためである。
【0038】
以下、推測ではあるが、分断部4を形成しておくと、各分断部4が曲げ応力を分担するため、曲げ応力の集中が起こりにくく、巻回時の微細なクラック発生が抑制される。巻回時のクラック発生が抑制されると、クラックの内表面から未酸化の金属部分(アルミニウム)が露出し難い。即ち、分断部4を形成した後に化成処理をすれば、分断部4の内表面にも誘電体皮膜5を形成され、換言すれば分断部4の内表面からも未酸化の金属部分は露出せず、エージング処理に必要な電気量が少なくなる。
【0039】
また、化成処理前に分断部4を形成しておくと、電極箔1の円滑な製造工程が実現する。そのため、好ましくは、拡面部3の形成の後、化成処理前に分断部4を形成しておく。この場合、分断部4の形成前に薄い酸化物を形成しておくことで、分断部4の形成は容易になる。
【0040】
尚、化成処理後に分断部4を形成しても、分断部4による巻回時の応力分散効果は得られる。また、分断部4の形成前に化成処理し、分断部4の形成後に再化成処理をすることで、分断部4の表面に誘電体皮膜5を形成することもできる。
【0041】
(巻回形コンデンサ)
図2は、この電極箔1を用いた巻回形コンデンサのコンデンサ素子6を示す模式図であり、アルミニウム電解コンデンサによる例示である。コンデンサ素子6において、陽極箔である電極箔1と陰極箔7とは、紙や合成繊維等のセパレータ8を介在させて重ね合わせられる。セパレータ8は、その一端が電極箔1及び陰極箔7の一端よりも飛び出すように重ね合わせておく。そして、飛び出したセパレータ8を先に巻き始めて巻芯部9を作成し、続けて其の巻芯部9を巻軸にして、電極箔1と陰極箔7とセパレータ8の層を巻回していく。
【0042】
陽極箔である電極箔1と陰極箔7とセパレータ8の重ね合わせの処理、及び当該電極箔1と陰極箔7とセパレータ8の巻回の処理は、典型的には複数のローラが設けられた移送装置により行われる。
図3に示すように、例えば、この移送装置は、4本の各個移送路Tr1,Tr2及びTr3と、4本の移送路が集合した1本の集合移送路Tr4を備えている。
【0043】
各個移送路Tr1,Tr2及びTr3と集合移送路Tr4は、複数のローラRで形成されている。4本の各個移送路Tr1,Tr2及びTr3は、それぞれ陽極箔である電極箔1、陰極箔7及びセパレータ8を走行させている。集合移送路Tr4の先頭のローラRには各個移送路Tr1,Tr2及びTr3を走行した電極箔1、陰極箔7及びセパレータ8の全てが掛けられ、集合移送路Tr4の先頭で電極箔1、陰極箔7及びセパレータ8が重ね合わせられる。
【0044】
各個移送路Tr1,Tr2及びTr3及び集合移送路Tr4は、移送装置の小型化の観点から、複数箇所の屈曲点Cが存在する。屈曲点CのローラRでは、電極箔1、陰極箔7及びセパレータ8が、屈曲点CのローラRに沿って走行方向を変えるように曲げられている。更に、移送装置は、集合移送路Tr4の終端に巻回ローラRwを備えている。巻回ローラRwは、重ね合わせられた電極箔1、陰極箔7及びセパレータ8を軸回転により巻き込んで、これらを巻回する。
【0045】
このようにして作成されたコンデンサ素子6は、電解コンデンサを作成する場合、電解液に含浸され、有底筒状の外装ケースに収納され、陽極端子及び陰極端子を引き出して封口体で封止され、エージング処理されることで、巻回形コンデンサの態様を採る。また、このようにして作成されたコンデンサ素子6は、固体電解コンデンサを作成する場合、エージング処理された後、電解質が形成され、有底筒状の外装ケースに収納され、陽極端子及び陰極端子を引き出して封口体で封止されることで、巻回形コンデンサの態様を採る。
【0046】
図4は、コンデンサ素子6に巻回させた電極箔1の状態を示す模式図である。本実施形態の電極箔1では、複数の分断部4が曲げ応力を分担して引き受け、各分断部4に曲げ応力が分散する。そのため、新たに拡面部3に微細なクラックが生じにくく、芯部2の破壊に至るような応力が電極箔1にかかることが抑止され、芯部2の破壊は免れ、電極箔1は折れ曲がることなく、滑らかに湾曲して巻回される。即ち、巻回時において、未酸化の金属部分を露出させるようなクラックの発生を抑制できる。
【0047】
また、移送装置によるローラ移送時でも屈曲点CのローラRが電極箔1を曲げることになるが、この電極箔1の複数の分断部4が曲げ応力を分担して引き受けており、電極箔1の折れ曲がりが抑制される。
【0048】
(実施例1)
この実施形態を示す電極箔1を次のように作成した。まず、基材として厚みが130μm、幅が10mm、長さが55mm、純度98重量%以上のアルミニウム箔を用いた。そして、このアルミニウム箔の両面に、中高圧用としてトンネル状のピットにより成る拡面部3を形成した。具体的には、ピットを形成する第1の工程とピットを拡大する第2の工程を用い、第1の工程は塩素イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にアルミニウム箔にエッチング処理を行った。第1の工程におけるエッチング処理は電流密度400mA/cm2として、約1分行なった。第2の工程において、第1の工程を経たアルミニウム箔に形成されたピットを拡大するべく、硝酸イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にエッチング処理を行なった。第2の工程におけるエッチング処理の電流密度300mA/cm2として、約2分行なった。
【0049】
エッチング処理後、両面がエッチング処理されたアルミニウム箔に分断部4を形成した。分断部4は、アルミニウム箔の帯長手方向と直交して発生させた。具体的には、物理的な処理方法として、φ4mmの丸棒に対し、当該丸棒とアルミニウム箔の接触する領域の広さを示すラップ角を180度として、アルミニウム箔を押し付けて分断部4を形成した。この物理的な処理方法によって、複数のトンネル状のピットを繋ぎ又は跨ぎ、拡面部3を分断する複数の分断部4が形成される。
【0050】
更に、分断部4の形成後、化成処理を行い、拡面部3と分断部4の表面に誘電体皮膜5を形成した。具体的には、液温85℃、4重量%のホウ酸の化成溶液中で650Vの電圧を印加した。
【0051】
図5は、実施例1に係る電極箔1の長手方向に沿った断面写真である。また、
図6の(a)は、実施例1に係る電極箔1の表面を示す200倍のSEM観察の写真であり、写真長辺方向が電極箔の幅方向であり、写真短辺方向が電極箔の長手方向である。
図6の(b)は、
図6の(a)の写真中に表れている分断部を強調のためになぞるデジタル処理を行ったものである。
図5並びに
図6の(a)及び(b)に示すように、実施例1の電極箔1において、観察面積が10mm×10mmの範囲内に、24個の分断部4が見られた。200倍のSEM観察の写真より、10個の分断部4を任意に選択すると、選択された分断部4が有する両端部間の平均離間距離は120μm程度であった。両端部間の離間距離は、分断部4の短いものでは40μm程度、長いものでは250μm程度であった。なお、この実施例1の電極箔1は、誘電体皮膜5を有する拡面部3が芯部2の両面に各々厚さ55μmで存在し、厚さ10μmの芯部2であった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同一の基材を用い、実施例1と同一のエッチング処理及び化成処理を行った。但し、分断部4の形成処理を省いており、分断部4は未形成である。
図7は、比較例1に係る電極箔1の表面を示す200倍のSEM観察の写真であり、写真長辺方向が電極箔の幅方向であり、写真短辺方向が電極箔の長手方向である。
【0053】
図7に示すように、実施例1と同じく、比較例1の電極箔は、芯部2の両面に各々拡面部3を備え、各拡面部3は、誘電体皮膜5を備え、誘電体皮膜5を備えた拡面部3の厚さは各々厚さ55μmとなり、芯部2の厚さは10μmとなっていた。しかしながら、200倍のSEM観察をしても、電極箔の表面に隣合うトンネル状のピットを結ぶ線は観察されなかった。即ち、分断部4は形成されていなかった。
【0054】
なお、分断部4の状態をより見やすくするために、電極箔1の表面処理を行っても良い。例えばP-Cr処理が挙げられる。具体的には、電極箔1を無水クロム酸(21g/L)、リン酸(53g/L)の水溶液に、85℃の液温で1時間程度浸漬処理することで、電極箔1の表面の微細な酸化物が除去され、分断部4の観察がしやすくなる。もっとも、比較例1においては、電極箔にP-Cr処理を用いても電極箔の表面には隣り合うトンネル状のピットを結ぶ線は観察されなかった。
【0055】
(エリクセン試験)
これら実施例1の電極箔1、及び比較例1の電極箔に対してエリクセン試験を行った。エリクセン試験では、内径33mmを有するダイスとしわ押えで、実施例1の電極箔1及び比較例1の電極箔を10kNで挟み込み、たがね状を有するポンチで押し込んだ。たがね状のポンチは、幅30mmで、先端部が断面視φ4mmの球面である。電極箔1の帯長手方向に直交させるようにして、ポンチのたがね部位を押し込んだ。ポンチの押し込み速度は0.5mm/minとした。
【0056】
このエリクセン試験の結果を
図8に示す。
図8は、横軸をポンチストロークとし、縦軸をポンチ荷重としたグラフである。ポンチストロークは、ポンチを押し込んだ距離であり、ポンチ荷重は各ポンチストロークを達成するために要した荷重である。
図8に示すように、比較例1の電極箔は、ポンチストロークが1.1mmに達する前に断裂したのに対し、実施例1の電極箔1は、断裂までにポンチストロークが1.1mmを超えた。即ち、実施例1の電極箔1は、分断部4が設けられることで延伸性が向上している。
【0057】
また、
図8に示すように、比較例1の電極箔は、例えばポンチストロークを0.7mmにするために1.8Nの荷重を要したが、実施例1の電極箔1は、1.6Nの荷重でポンチストロークを0.7mmを達成した。即ち、実施例1の電極箔1は、分断部4が設けられることで柔軟性が約11%向上している。即ち、延伸性及び柔軟性が向上した実施例1は、比較例1と比べて巻回時にクラックを発生させ難く、未酸化の金属部分を露出させ難いことが確認された。
【0058】
(エージング評価)
実施例1の電極箔1と比較例1の電極箔を陽極箔として用いて巻回し、コンデンサ素子6を作成した。実施例1の電極箔1と比較例1の電極箔は、共に、幅が50mm、長さが3300mmの寸法に変更している。また、実施例1と同一の基材を用い、実施例1と同一のエッチング処理、分断部4の形成処理、及び化成処理を行った実施例2の電極箔1を用意した。但し、コンデンサ素子6を作成する前の実施例2の電極箔1は、エッチング処理、化成処理、分断部4の形成処理の順で処理を行っているもので、分断部4の表面には、誘電体皮膜5が未形成となっている。陰極箔7にはアルミニウム箔を用いた。陰極箔7には、拡面部3を形成し、誘電体皮膜5は形成しなかった。セパレータ8にはセルロース繊維を用いた。
【0059】
実施例1の電極箔1を用いたコンデンサ素子6、実施例2の電極箔1を用いたコンデンサ素子6、及び比較例1の電極箔を用いたコンデンサ素子には電解液を含浸し、有底筒状の外装ケースに収納し、陽極端子及び陰極端子を引き出して封口体で封止した。電解液は、1-7-オクタンジカルボン酸のエチレングリコール溶液にホウ酸マンニットを添加したものを用いた。これにより、実施例1の電極箔1を用いた巻回形コンデンサ、実施例2の電極箔1を用いた巻回コンデンサ、及び比較例1の電極箔を用いた巻回形コンデンサが作製された。
【0060】
作製された両巻回形コンデンサをエージング処理し、エージング処理に要した電気量を測定した。このエージング処理は、実施例2の電極箔1に対する化成処理も兼ねており、実施例2の電極箔1には、このエージング処理で誘電体皮膜5が形成される。エージング処理では、100℃の温度条件にて定格電圧を印加してエージング処理を行った。このエージング処理の間、陽極端子と陰極端子との間に流れた経時的な電流変化を測定した。尚、3つの巻回形コンデンサに対してエージング処理開始時点で流した電流値は同値である。
図9は、エージング処理開始時点からの電気量の積算値を示すグラフである。
【0061】
図9に示すように、実施例1の電極箔1を用いた巻回形コンデンサでは、36分付近で電流値が横ばいとなった。これに対し、比較例1の電極箔を用いた巻回形コンデンサでは、48分付近で電流値が横ばいとなった。また、実施例2の電極箔1を用いた巻回形コンデンサでは、131分付近で電流値が横ばいとなった。即ち、実施例1の電極箔1を用いた巻回形コンデンサは、電極箔1に分断部4が形成されていることにより、比較例1の電極箔を用いた巻回形コンデンサと比べて飛躍的にエージング処理に要する時間が短縮され、電気量が削減されたことを示している。また、実施例1の電極箔1を用いた巻回形コンデンサは、巻回形コンデンサに組み込まれる前に拡面部3と分断部4の表面に誘電体皮膜5が形成されていることにより、実施例2の電極箔を用いた巻回形コンデンサと比べて飛躍的にエージング処理に要する時間が短縮され、電気量が削減されたことを示している。
【符号の説明】
【0062】
1 電極箔
2 芯部
3 拡面部
4 分断部
5 誘電体皮膜
6 コンデンサ素子
7 陰極箔
8 セパレータ
9 巻芯部