(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20221122BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221122BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B60T8/00 C
G08G1/16 C
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2018025811
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】陳 希
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
(72)【発明者】
【氏名】中上 隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】手塚 梨絵
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112243(JP,A)
【文献】特開2004-076724(JP,A)
【文献】特開2003-246225(JP,A)
【文献】特開2008-006922(JP,A)
【文献】特開2005-250755(JP,A)
【文献】特開2015-081075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
G08G 1/16
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバーによるブレーキペダルの操作時に、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する制動力以上の制動力をブレーキに付与するブレーキアシスト制御を行うブレーキアシスト制御部と、
自車両と先行車両との車間距離を検出する車間距離センサと、
前記自車両と前記先行車両との相対速度を検出する相対速度センサと、
前記自車両の車速を検出する車速センサとを備え、
前記ブレーキアシスト制御部は、前記相対速度及び前記車間距離から算出される衝突予想時間が
予め定められた第1衝突予想時間以下
であって、前記車速及び前記車間距離から算出される車頭時間が基準車頭時間以下の場合、前記ブレーキアシスト制御の作動条件を満たすと判定する一方、
前記衝突予想時間が
前記第1衝突予想時間より大きい場合であっても、
前記車頭時間が
前記基準車頭時間以下で
あって、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間よりも大きい予め定められた第2衝突予想時間以下の場合、前記作動条件を満たすと判定し、
前記作動条件
を満たす領域は、複数の危険レベルを有し、
前記ブレーキアシスト制御部は、
前記領域の内、前記衝突予想時間
が前記第1衝突予想時間以上でありかつ前記車頭時間が前記基準車頭時間未満の領域の危険レベルを
、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間未満かつ前記車頭時間が前記基準車頭時間未満である領域よりも低くなるよう決定し、前記危険レベルが高くなるにつれて前記制動力を大きく算出する車両の制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキアシスト制御部は、前記ブレーキペダルの踏み込み速度が基準踏み込み速度より大きいという条件を更に満たす場合、前記作動条件を満たすと判定するものであり、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記基準踏み込み速度を減少させる請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキアシスト制御部は、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する目標減速度が基準目標減速度以上であるという条件を更に満たす場合、前記作動条件を満たすと判定するものであり、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記基準目標減速度を減少させる請求項1又は2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキアシスト制御部は、前記作動条件を満たすと判定した場合、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する制動力に付加するアシスト制動力を増大させる請求項1~3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバーによるブレーキペダルの操作をアシストする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ドライバーがブレーキペダルを踏み込んだ際に、ドライバーが踏み込んだブレーキペダルの踏み込み量に対応する制動力以上の制動力をブレーキに作用させて車両を制動させるブレーキアシスト制御が知られている。
【0003】
ブレーキアシスト制御は、自車両の前方に障害物等があり、ドライバーが障害物に気付くのが遅れてブレーキ操作した際に、制動力を大きくすることで前方障害物への衝突を防止するシステムである。なお、ブレーキアシスト制御はドライバーがブレーキ操作をしなければ作動しないので、ドライバーのブレーキ操作が遅延した場合、ブレーキアシスト制御よりも更に強力な、ブレーキペダルの踏み込み量に拘わらず作動される緊急自動ブレーキ(AEB:Autonomous Emergency Braking)制御が実施される。
【0004】
従来のブレーキアシスト制御として、例えば、特許文献1がある。特許文献1には、自車両及び前方障害物間の距離を前方障害物に対する自車両の相対速度で割ることで衝突予想時間(TTC:Time To Collision)を算出し、衝突予想時間がブレーキアシスト基準時間を下回ったとき、ブレーキアシスト制御を開始する車両用制動支援装置が開示されている。具体的には、特許文献1の車両用制動支援装置では、相対速度が高くなるほどブレーキアシスト基準時間が増大するようにブレーキアシスト基準時間を設定し、これによって、相対速度が高くなるほど、より早いタイミングでブレーキアシスト制御を開始させている。
【0005】
また、衝突予想時間に類似する概念として、先行車両及び自車両間の車間距離を自車両の車速で割ることで得られる車頭時間(THW:Time-Head Way)がある。この車頭時間を用いて自動ブレーキ制御を行う先行技術文献として特許文献2がある。特許文献2には、自車両と先行車両の適正車間距離を確保するために必要な目標減速度を演算する車両の衝突予防装置において、適正車間距離を、先行車両及び自車両間の最接近距離の予想値と車頭時間とに基づいて設定するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-296886号公報
【文献】特開2002-163797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、相対速度が低い場合であっても、例えば、高速且つ車間距離が短いシーンでは、先行車両が急減速した場合、自車両が先行車両と衝突する危険性が高くなるので、このシーンにおいてはブレーキアシスト制御を早期に作動させることが望ましい。
【0008】
しかし、特許文献1では、衝突予想時間しか考慮されておらず、しかも、ブレーキアシスト基準値は相対速度が低下するほど低く設定されている。そのため、特許文献1の技術を、このシーンに適用した場合、衝突予想時間は相対速度が低いほど増大するので、衝突予想時間がブレーキアシスト基準値をなかなか下回らず、ブレーキアシスト制御の作動が遅延するという課題が発生する。
【0009】
また、特許文献2では、車頭時間が考慮されているものの、車頭時間は適正車間距離を設定するために用いられており、ブレーキアシスト制御を作動させるために用いられていない。更に、特許文献2は、ブレーキアシスト制御ではなく、ブレーキペダルの踏み込み量とは無関係に作動する自動ブレーキ制御に関する技術であるため、本願とは前提が相違する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は、衝突予想時間のみならず、車頭時間を考慮すれば、相対速度が低い場合であっても、例えば、高速且つ車間距離が短いというような、先行車両との衝突危険性の高いシーンにおいて、ブレーキアシスト制御の作動の遅延を防止させることができるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、先行車両との相対速度が低い場合であっても、先行車両との衝突危険性が高いシーンにおいて、ブレーキアシスト制御の作動が遅延することを防止する車両の制御装置を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の一態様に係る車両の制御装置は、ドライバーによるブレーキペダルの操作時に、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する制動力以上の制動力をブレーキに付与するブレーキアシスト制御を行うブレーキアシスト制御部と、自車両と先行車両との車間距離を検出する車間距離センサと、前記自車両と前記先行車両との相対速度を検出する相対速度センサと、前記自車両の車速を検出する車速センサとを備え、前記ブレーキアシスト制御部は、前記相対速度及び前記車間距離から算出される衝突予想時間が予め定められた第1衝突予想時間以下であって、前記車速及び前記車間距離から算出される車頭時間が基準車頭時間以下の場合、前記ブレーキアシスト制御の作動条件を満たすと判定する一方、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間より大きい場合であっても、前記車頭時間が前記基準車頭時間以下であって、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間よりも大きい予め定められた第2衝突予想時間以下の場合、前記作動条件を満たすと判定し、前記作動条件を満たす領域は、複数の危険レベルを有し、前記ブレーキアシスト制御部は、前記領域の内、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間以上でありかつ前記車頭時間が前記基準車頭時間未満の領域の危険レベルを、前記衝突予想時間が前記第1衝突予想時間未満かつ前記車頭時間が前記基準車頭時間未満である領域よりも低くなるよう決定し、前記危険レベルが高くなるにつれて前記制動力を大きく算出する。
【0013】
従来では、例えば、高速且つ車間距離が短いというように、先行車両との衝突危険性が高いシーンであっても、先行車両に対する相対速度が低ければ、衝突予想時間が基準衝突予想時間より高く算出され、ブレーキアシスト制御の作動条件が満たされないと判定されるおそれがあった。
【0014】
これに対して、本態様では、衝突予想時間が基準衝突予想時間より大きい場合であっても、車速及び車間距離から算出される車頭時間が基準車頭時間以下であれば、ブレーキアシスト制御の作動条件を満たすと判定される。そのため、本態様は、相対速度が低い場合であっても、先行車両との衝突危険性が高いシーンにおいては、車頭時間が基準車頭時間以下に算出されるので、ブレーキアシスト制御の作動が遅延することを防止できる。
【0015】
上記態様において、前記ブレーキアシスト制御部は、前記ブレーキペダルの踏み込み速度が基準踏み込み速度より大きいという条件を更に満たす場合、前記作動条件を満たすと判定するものであり、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記基準踏み込み速度を減少させることが好ましい。
【0016】
本態様によれば、車頭時間が短くなるにつれて基準踏み込み速度が減少されるため、車頭時間が短くなるにつれてより低い踏み込み速度でブレーキアシスト制御を作動させることが可能となる。そのため、車頭時間が短くなって衝突危険性が高くなるほど、より早期にブレーキアシスト制御を作動させることができる。
【0017】
本態様によれば、前記ブレーキアシスト制御部は、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する目標減速度が基準目標減速度以上であるという条件を更に満たす場合、前記作動条件を満たすと判定するものであり、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記基準目標減速度を減少させることが好ましい。
【0018】
本態様によれば、車頭時間が短くなるにつれて基準目標減速度が減少されるため、車頭時間が短くなるにつれてより低い目標減速度でブレーキアシスト制御を作動させることが可能となる。そのため、車頭時間が短くなって衝突危険性が高くなるほど、より早期にブレーキアシスト制御を作動させることができる。
【0019】
上記態様において、前記ブレーキアシスト制御部は、前記作動条件を満たすと判定した場合、前記車頭時間が短くなるにつれて、前記ブレーキペダルの踏み込み量に対応する制動力に付加するアシスト制動力を増大させることが好ましい。
【0020】
本態様によれば、車頭時間が短くなって衝突危険性が高くなるほど、アシスト制動力が増大されるので、衝突危険性が高くなるにつれてブレーキアシスト制御の度合いを強めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、相対速度が低い場合であっても、先行車両との衝突危険性が高いシーンにおいてブレーキアシスト制御の作動が遅延することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】ブレーキアシスト制御部がブレーキアシスト制御の作動条件を満たすか否かを判定するために用いる作動条件テーブルの一例を示す図である。
【
図3】作動条件テーブルにおいて、TTC及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
【
図4】作動条件テーブルにおいて、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の範囲内での、踏み込み速度及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
【
図5】作動条件テーブルにおいて、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の範囲内での、目標減速度及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態におけるユースケースを示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の変形例に係るTTC及びTHWの条件を規定するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置1の構成を示すブロック図である。車両の制御装置1は、四輪自動車に搭載され、四輪自動車のブレーキアシスト制御を司る装置である。車両の制御装置1は、車間距離センサ2、相対速度センサ3、車速センサ4、ブレーキペダルセンサ5、ECU(Electronic Control Unit)6、ブレーキアクチュエータ7、及びスロットル弁8を備える。
【0024】
車間距離センサ2は、例えば、レーザレーダで構成され、自車両の前方の所定の角度範囲を走査するようにレーザビームを照射し、反射したレーザビームを受光することによって、先行車両との車間距離及び方位を検出する。なお、車間距離センサ2は、レーザレーダに代えて、ミリ波レーダで構成されてもよいし、ステレオカメラで構成されてもよいし、ソナーで構成されてもよい。ここで、先行車両とは、自車両に対して進行方向の直ぐ前方を走行する車両が該当する。
【0025】
相対速度センサ3は、例えば、ミリ波を使用するドップラーセンサで構成され、先行車両の自車両に対する相対速度を検出する。
【0026】
車速センサ4は、例えば、車輪速センサで構成され、自車両の車速を検出する。ここで、車輪速センサは、例えば、ブレーキドラムなどの回転部分に設けられた歯車状のロータと、ロータに対して一定の隙間を設けて配置され、コイル及び磁極等で構成されたセンシング部とを備え、ロータの回転によりコイルに発生する交流電圧に基づいて、車輪の回転速度を検出する。
【0027】
ブレーキペダルセンサ5は、例えば、抵抗体の上を接点が摺動するポテンショ式の角度センサで構成され、ブレーキペダルの踏みこみ量を検出して電気信号に変換してECU6に出力する。本実施の形態では、ブレーキペダルセンサ5は、ブレーキペダルの最大踏みこみ量を100としたときの実際の踏み込み量の割合によってブレーキペダルの踏みこみ量を表す。
【0028】
ECU6は、CPU等のプロセッサと、ROM及びRAM等のメモリとを備えるコンピュータで構成され、車両の制御装置1の全体制御を司る。本実施の形態では、ECU6は、ブレーキアシスト制御部61の機能を備えている。ブレーキアシスト制御部61は、ECU6のプロセッサが所定の制御プログラムを実行することで実現される。
【0029】
ブレーキアシスト制御部61は、ブレーキペダルの踏みこみ量に対応する制動力以上の制動力をブレーキに付与するブレーキアシスト制御を行う。本実施の形態では、ブレーキアシスト制御部61は、相対速度センサ3で検出された相対速度で、車間距離センサ2で検出された車間距離を割ることで、衝突予想時間(以下、「TTC」と記述する。)を算出する。また、ブレーキアシスト制御部61は、車速センサ4で検出された自車両の車速で、車間距離センサ2により検出された先行車両の車間距離を割ることで、車頭時間(以下、「THW」と記述する。)を算出する。
【0030】
そして、ブレーキアシスト制御部61は、TTCが基準衝突予想時間(以下、「基準TTC」と記述する。)以下である場合、ブレーキアシスト制御の作動条件を満たすと判定する。一方、ブレーキアシスト制御部61は、TTCが基準TTCより大きい場合であっても、THWが基準車頭時間(以下、「基準THW」と記述する。)以下である場合、作動条件を満たすと判定する。
【0031】
図3を参照する。従来では、TTCしか考慮されていなかったため、TTC及びTHWが点P1に位置する場合、相対速度が低く、TTCが基準TTC「0.4」より大いため、ブレーキアシスト制御は作動されなかった。したがって、ブレーキアシスト制御を作動させるためには、更に車間距離が短くなって、TTCが基準TTC「0.4」以下になるのを待つ必要があった。
【0032】
しかし、点P1は相対速度が低いといえども、THWが小さいので、先行車両との衝突危険性が高い。そこで、本実施の形態では、TTCが基準TTC「0.4」より大きくても、THWが基準THW「1.0」より小さければ、ブレーキアシスト制御を作動させる。その結果、点P1に示すような先行車両との衝突危険性が高いシーンにおいて、ブレーキアシスト制御が作動されないことを防止できる。
【0033】
図1に戻り、ブレーキアクチュエータ7は、ECU6から出力されるブレーキコマンドにしたがって、ブレーキコマンドが示す制動力をブレーキ(図略)に発生させる。ここで、ブレーキアクチュエータ7は、例えば、ブレーキコマンドが示す制動力に対応する油圧でブレーキを作動させればよい。ブレーキは、例えば、車輪を制動させるためのディスク式又はドラム式のブレーキである。スロットル弁8は、ECU6のコマンドにしたがって、エンジン(図略)への吸気量を調節する。
【0034】
図2は、ブレーキアシスト制御部61がブレーキアシスト制御の作動条件を満たすか否かを判定するために用いる作動条件テーブルT1の一例を示す図である。作動条件テーブルT1は、「踏み込み速度」、「目標減速度」、「TTC」、及び「THW」と、危険レベルとの対応関係を記憶する。
【0035】
危険レベルは、自車両の先行車両に対する衝突危険性の度合い示す指標である。
図3は、作動条件テーブルT1に示す、TTC及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
【0036】
本実施の形態では、危険レベルは、レベルL1からレベルL3までの3段階で構成されている。なお、レベルL3は危険レベルが最も高く、レベルL2はレベルL3の次に危険レベルが高く、レベルL1はレベルL2の次に危険レベルが高い。
【0037】
図3のグラフでは、TTC(m/sec)を示す縦軸と、THW(m/sec)を示す横軸とで規定される2次元座標空間に対して、レベルL1~L3がマッピングされている。
【0038】
先行車両に対する車間距離が短くなるにつれて、自車両の先行車両に対する衝突危険性は高まると共に、先行車両に対する相対速度が高くなるにつれて、自車両の先行車両に対する衝突危険性は高まる。TTCは車間距離/相対速度で表されるので、値が小さくなるにつれて衝突危険性の度合いが高いことを表している。
【0039】
また、先行車両との車間距離が短くなるにつれて、自車両の先行車両に対する衝突危険性は高まると共に、自車両の車速が高くなるにつれて、自車両の先行車両に対する衝突危険性は高まる。THWは車間距離/自車両の車速で表されるので、値が小さくなるにつれて衝突危険性の度合いが高いことを表している。したがって、
図3のグラフでは、TTCが小さくなるにつれて、又はTHWが小さくなるにつれて、すなわち、左下に向かうにつれて危険レベルが高く設定されている。
【0040】
具体的には、
図3では、縦軸及び横軸に面してL字状にレベルL3の領域が設定され、レベルL3の領域の右側に面してL字状にレベルL2の領域が設定され、レベルL2の領域の右側に面して矩形状にレベルL1の領域が設定されている。
【0041】
レベルL1~L3の領域を数値で示すと下記のようになる。すなわち、
図2を参照し、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の場合、THWが0.8より大きく且つ1.0以下であれば、危険レベルはレベルL1となる。
【0042】
また、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の場合、THWが0.4より大きく且つ0.8以下であれば、危険レベルはレベルL2となる。また、TTCが0.4より大きく且つ1.2以下の場合、THWが0.4より大きく且つ1.0以下であれば、危険レベルはレベルL2となる。
【0043】
更に、TTCが0.4より大きく且つ1.8以下の場合、THWが0より大きく且つ0.4以下であれば、危険レベルはレベルL3となる。また、TTCが0より大きく且つ0.4以下の場合、THWが0より大きく且つ1.0以下であれば、危険レベルはレベルL3となる。
【0044】
なお、危険レベルを区画する、TTCの値(「0.4」、「1.2」、及び「1.8」)と、THWの値(「0.4」、「0.8」、及び「1.0」)とは、それぞれ一例であり、他の値が採用されてもよい。また、ここでは、危険レベルは3段階に区画されているが、これは一例であり、4段階以上に区画されてもよいし、2段階以下で区画されてもよい。
図3において、TTCの「0.4」は基準TTCの一例に相当し、THWの「1.0」は基準THWの一例に相当する。
【0045】
図2に参照を戻す。「踏み込み速度」フィールドには、危険レベルに対応する踏み込み速度(%/sec)の条件が記憶されている。「踏み込み速度」とは、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み速度を指す。ブレーキアシスト制御部61は、ブレーキペダルセンサ5で検出された踏み込み量を時間で微分することで踏み込み速度を算出する。
【0046】
図2の例では、踏み込み速度は、レベルL1の条件が80%/secより大であり、レベルL2の条件が40%/secより大であり、レベルL3の条件が、0%/secより大である。
【0047】
「目標減速度」フィールドには、危険レベルに対応する目標減速度(G)の条件が記憶されている。目標減速度は、減速度の目標値であり、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み量に応じて決定される。ブレーキアシスト制御部61は、例えば、ブレーキペダルの踏み込み量と、目標減速度との対応関係が予め定められた目標減速度決定マップ(図略)を備えており、この目標減速度決定マップを参照し、現在の踏み込み量に対応する目標減速度を決定する。なお、目標減速度決定マップでは、踏みこみ量が増大するにつれて目標減速度が増大するように両者の対応関係が記憶されている。
【0048】
図2の例では、目標減速度は、レベルL1の条件が0.3より大であり、レベルL2の条件が0.25より大であり、レベルL3の条件が、0.2より大である。
【0049】
「TTC」フィールドには、危険レベルに対応するTTCの条件が記憶され、「THW」フィールドには、危険レベルに対応するTHWの条件が記憶されている。なお、「TTC」フィールド及び「THW」フィールドに記憶された条件の詳細は、
図3で説明したので、説明を省く。
【0050】
ブレーキアシスト制御部61は、踏み込み速度、目標速度、TTC、及びTHWを所定のサンプリング周期で算出する。そして、ブレーキアシスト制御部61は、作動条件テーブルT1を参照し、現在の踏み込み速度、目標速度、TTC、及びTHWが、いずれのレベルに該当するかを判定する。
【0051】
例えば、ブレーキアシスト制御部61は、TTC及びTHWがレベルL1の領域に属している場合、踏み込み速度が80%/secより大きく、且つ、目標減速度が0.3より大きければ、レベルL1の作動条件を満たすと判定する。また、ブレーキアシスト制御部61は、TTC及びTHWがレベルL2の領域に属している場合、踏み込み速度が40%/secより大きく、且つ、目標減速度が0.25より大きければ、レベルL2の作動条件を満たすと判定する。また、ブレーキアシスト制御部61は、TTC及びTHWがレベルL3の領域に属している場合、踏み込み速度が0%/secより大きく、且つ、目標減速度が0.2より大きければ、レベルL3の作動条件を満たすと判定する。
【0052】
ここで、「踏み込み速度」フィールドに記憶された、「80」、「40」、「0」は、それぞれ、基準踏み込み速度の一例である。作動条件テーブルT1では、レベルL1、レベルL2、レベルL3というように、先行車両との衝突危険性の度合いが高まるにつれて、より小さい踏み込み速度でブレーキアシスト制御が作動されるように、踏み込み速度の条件が規定されている。
【0053】
また、「目標減速度」フィールドに記憶された、「0.3」、「0.25」、及び「0.2」は、それぞれ、基準目標減速度の一例である。作動条件テーブルT1では、レベルL1、レベルL2、レベルL3というように、先行車両との衝突危険性の度合いが高まるにつれて、より小さい目標減速度でブレーキアシスト制御が作動されるように、目標減速度の条件が規定されている。
【0054】
以上により、ブレーキアシスト制御部61は、先行車両との衝突危険性の度合いが高まるにつれて、より早いタイミングでブレーキアシスト制御を作動させることができる。
【0055】
図4は、作動条件テーブルT1において、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の範囲内での、踏み込み速度及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
図4のグラフでは、踏み込み速度(%/sec)を示す縦軸と、THW(sec)を示す横軸とで規定される2次元座標空間に対して、レベルL1~L3がマッピングされている。
【0056】
図4のグラフに示すように、THWが0.4以下の範囲では、基準踏み込み速度が「0」に設定されており、ドライバーが少しでもブレーキペダルを踏み込むと、レベルL3のブレーキアシスト制御が作動される。また、THWが0.4より大きく且つ0.8以下の範囲では、基準踏み込み速度が「40」に設定されており、ドライバーが40%/secより大きな踏み込み速度でブレーキペダルを踏み込むと、レベルL2のブレーキアシスト制御が作動される。また、THWが0.8より大きく且つ1.0以下の範囲では、基準踏み込み速度が「80」に設定されており、ドライバーが80%/secより大きな踏み込み速度でブレーキペダルを踏み込むと、レベルL1のブレーキアシスト制御が作動される。
【0057】
このように、ブレーキアシスト制御部61は、THWが短くなるにつれて、基準踏み込み速度を減少させることで、先行車両との衝突危険性が高くなるにつれて、より早いタイミングでブレーキアシスト制御を作動させている。
【0058】
なお、
図4において、基準目標減速度(「0」、「40」、及び「80」)は一例であり、他の値が採用されてもよい。
【0059】
図5は、作動条件テーブルT1において、TTCが1.2より大きく且つ1.8以下の範囲内での、目標減速度及びTHWと、危険レベルとの関係を示すグラフである。
図5のグラフでは、目標減速度(G)を示す縦軸と、THW(sec)を示す横軸とで規定される2次元座標空間に対して、レベルL1~L3がマッピングされている。
【0060】
図5のグラフに示すように、THWが0.4以下の範囲では、基準目標減速度が「0.2」に設定されており、目標減速度が0.2よりも大きくなると、レベルL3のブレーキアシスト制御が作動される。また、THWが0.4より大きく且つ0.8以下の範囲では、基準目標減速度が「0.25」に設定されており、目標減速度が0.25より大きくなると、レベルL2のブレーキアシスト制御が作動される。また、THWが0.8より大きく且つ1.0以下の範囲では、基準目標減速度が「0.3」に設定されており、目標減速度が0.3よりも大きくなると、レベルL1のブレーキアシスト制御が作動される。
【0061】
このように、ブレーキアシスト制御部61は、THWが短くなるにつれて、基準目標減速度を減少させることで、先行車両との衝突危険性が高くなるにつれて、より早いタイミングでブレーキアシスト制御を作動させている。
【0062】
なお、
図5において、基準目標減速度(「0.3」、「0.25」、及び「0.2」)は一例であり、他の値が採用されてもよい。
【0063】
図6は、本発明の実施の形態におけるユースケースを示す図である。
図6において、上段は比較例を示し、下段は本実施の形態に係る車両の制御装置1(本件)を示している。比較例及び本件とも、先行車両601は時速20kphで走行しており、自車両602は時速25kphで走行している。また、比較例及び本件とも、基準TTCは0.4secに設定され、基準THWは0.4secに設定されている。また、
図6のユースケースでは、説明の便宜上、ブレーキアシスト制御の作動条件から踏み込み速度及び目標減速度を除外している。比較例では、THWを考慮せず、TTCのみを考慮に入れてブレーキアシスト制御を作動させている。
【0064】
比較例では、自車両602の相対速度は時速5kph=秒速約1.38mpsであり、1.38mps×0.40sec=約0.55mの計算結果から、先行車両601と自車両602との車間距離が0.55m以下にならなければ、TCCが基準TCC「0.4」を下回らず、ブレーキアシスト制御が作動されない。
【0065】
これに対して、本件では、自車両602は時速25kph=秒速約6.94mpsであり、6.94mps×0.4sec=約2.7mの計算結果から、先行車両601と自車両602との車間距離が約2.7m以下になると、THWが基準THW「0.4」を下回り、ブレーキアシスト制御が作動される。すなわち、本件では、TTCが基準TTCを下回らなかったとしても、THWが基準THWを下回ると、ブレーキアシスト制御が作動される。
【0066】
このことから、本件は、相対速度が低い場合であっても、衝突危険性の高いシーンにおいては、より早くブレーキアシスト制御を作動させることができることが分かる。
【0067】
図7は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置1の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定のサンプリング周期で繰り返し実行される。まず、S1では、車間距離センサ2、相対速度センサ3、車速センサ4、及びブレーキペダルセンサ5が、それぞれ、車間距離、相対速度、車速、及び踏みこみ量を検出する。
【0068】
S2では、ブレーキアシスト制御部61は、車間距離/相対速度よりTTCを算出し、車間距離/車速よりTHWを算出し、踏みこみ量を微分して踏み込み速度を算出し、踏み込み量に対応する目標減速度を算出する。
【0069】
S3では、ブレーキアシスト制御部61は、作動条件テーブルT1を参照し、S2で算出した、TTC、THW、踏み込み速度、及び踏みこみ量から危険レベルを判定する。
【0070】
S4では、ブレーキアシスト制御部61は、S3での判定結果が、S2で算出したTTC、THW、踏み込み速度、及び踏みこみ量がレベルL1~L3のいずれかに該当することを示せば、ブレーキアシスト制御を作動させると判定し(S4でYES)、処理をS5に進める。
【0071】
一方、ブレーキアシスト制御部61は、S3の判定結果が、S2で算出したTTC、THW、踏み込み速度、及び踏みこみ量がレベルL1~L3のいずれにも該当しないことを示せば、ブレーキアシスト制御を作動させないと判定し(S4でNO)、処理をS1に戻す。
【0072】
S5では、ブレーキアシスト制御部61は、S3の判定結果が示す危険レベルに応じた最終目標減速度を設定する。ここで、最終目標減速度は、レベルL1、レベルL2、及びレベルL3のそれぞれに対して予め定められた値が採用されており、レベルL1、レベルL2、及びレベルL3に向かうにつれて、すなわち、危険レベルが増大するにつれて増大する値が採用されている。なお、最終目標減速度は、各危険レベルにおいて、可能な限り滑らかな制動を実現するために、先行車両との衝突が回避可能な減速度であって、可能な限り小さな減速度が採用される。
【0073】
S6では、ブレーキアシスト制御部61は、S5で決定した最終目標減速度からS2で算出した目標減速度を減じることで、目標減速度の最終目標減速度に対する偏差を算出し、偏差を0にするためのアシスト制動力を算出する。ここで、レベルL1、レベルL2、及びレベルL3に向かうにつれて、最終目標減速度は増大するので、この偏差も大きく算出される傾向にある。そのため、レベルL1、レベルL2、及びレベルL3に向かうにつれて、すなわち、衝突危険性が高くなるにつれて、アシスト制動力は大きく算出される傾向を持つ。
【0074】
S7では、ブレーキアシスト制御部61は、S2で算出した目標減速度に対応する制動力にS6で算出したアシスト制動力を加算して最終制動力を算出し、最終制動力でブレーキを作動させるブレーキコマンドをブレーキアクチュエータ7に出力する。これにより、ブレーキは最終制動力で車両が制動される。S7が終了すると処理はS1に戻る。
【0075】
このように、本実施の形態によれば、TTCが基準TTCより大きい場合であっても、THWが基準THW以下であれば、ブレーキアシスト制御の作動条件を満たすと判定される。そのため、本態様は、相対速度が低い場合であっても、先行車両との衝突危険性が高いシーンにおいては、THWが基準THW以下に算出されるので、ブレーキアシスト制御の作動が遅延することを防止できる。
【0076】
また、THWが短くなって衝突危険性が高まるにつれて、基準踏み込み速度が減少されるため、衝突危険性が高くなるにつれてより早期にブレーキアシスト制御を作動させることが可能となる。
【0077】
また、THWが短くなって衝突危険性が高まるにつれて、基準目標減速度が減少されるため、衝突危険性が高まるにつれてより早期にブレーキアシスト制御を作動させることが可能となる。
【0078】
また、THWが短くなって衝突危険性が高くなるにつれて、アシスト制動力が増大されるので、衝突危険性が高くなるにつれてブレーキアシスト制御の度合いを強めることができる。
【0079】
本実施の形態は以下の変形例を採用できる。
【0080】
(1)上記実施の形態では、
図3に示すグラフのようにTTC及びTHWの条件が規定されているが、本発明はこれに限定されず、
図8に示すグラフのようにTTC及びTHWの条件は規定されてもよい。
図8は、本発明の変形例に係るTTC及びTHWの条件を規定するグラフである。
図8において、縦軸及び横軸は
図3と同じである。
図8では、TTCが基準TTC「0.4」以下且つTHWが基準THW「1.0」以下の領域では
特定のブレーキアシスト制御が実行される。一方、
図8において、TTCが基準TTC「0.4」よりも大きい場合、THWが減少するにつれて危険レベルは低く設定されている。具体的には、TTCが基準TTC「0.4」よりも大きく且つ「1.8」以下の場合、THWが0より大きく且つ0.4以下であれば、危険レベルはレベルL3が設定され、THWが0.4より大きく且つ0.8以下であれば、危険レベルはレベルL2が設定され、THWが0.8より大きく且つ1.0以下であれば、危険レベルはレベルL3に設定されている。
【0081】
したがって、この変形例では、TTC及びTHWがレベルL3の条件を満たす場合、作動条件テーブルT1において踏み込み速度及び目標減速度がレベルL3の条件を満たせばブレーキアシスト制御が作動される。このことは、レベルL2、L1も同じである。
【0082】
図8に示す特定のブレーキアシスト制御としては、例えば、予め定められた最終目標減速度と踏みこみ量に対応する目標減速度との偏差が0となるようにアシスト制動力を決定し、目標減速度に対応する制動力にアシスト制動力を加算することで最終制動力を算出し、ブレーキを制御する手法を採用すればよい。或いは、特定のブレーキアシスト制御としては、レベルL3、レベルL2、又はレベルL1と同等のブレーキアシスト制御が採用されてもよい。
【0083】
(2)
図2に示す作動条件テーブルT1では、踏み込み速度及び目標速度の両方がブレーキアシスト制御の条件として採用されているが、本発明はこれに限定されず、踏み込み速度及び目標減速度のいずれか一方がブレーキアシスト制御の条件として採用されてもよい。
【0084】
(3)
図2に示す作動条件テーブルT1において、踏み込み速度及び目標減速度は省かれてもよい。この場合、ブレーキアシスト制御部61は、
図3に示すグラフを参照して、TTC及びTHWに対応する危険レベルを決定し、踏みこみ量が0より大きければ、ブレーキアシスト制御を作動させてもよい。
【0085】
(4)上記実施の形態に係る車両の制御装置1は、動力源がエンジンである車両に適用されたが、本発明はこれに限定されず、動力源が電動機である電動車両、又は、動力源がエンジン及び電動機の組み合わせからなるハイブリッド車両に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 車両の制御装置
2 車間距離センサ
3 相対速度センサ
4 車速センサ
5 ブレーキペダルセンサ
6 ECU
7 ブレーキアクチュエータ
8 スロットル弁
61 ブレーキアシスト制御部
T1 作動条件テーブル