(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法および造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20221122BHJP
B22F 10/18 20210101ALI20221122BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20221122BHJP
B22F 10/47 20210101ALI20221122BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20221122BHJP
B22F 12/50 20210101ALI20221122BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20221122BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221122BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20221122BHJP
B29C 64/232 20170101ALI20221122BHJP
B29C 64/236 20170101ALI20221122BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221122BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221122BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221122BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221122BHJP
【FI】
B29C64/40
B22F10/18
B22F10/38
B22F10/47
B22F10/85
B22F12/50
B28B1/30
B29C64/118
B29C64/209
B29C64/232
B29C64/236
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2018028531
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和英
(72)【発明者】
【氏名】湯脇 康平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 功一
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0304074(US,A1)
【文献】特表2017-523934(JP,A)
【文献】特開2018-095946(JP,A)
【文献】特開2015-083392(JP,A)
【文献】特開2017-121719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0118655(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0331195(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0308805(US,A1)
【文献】特開2017-35811(JP,A)
【文献】特開2017-105177(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038984(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0242208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形物の製造方法であって、
造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成する第1工程と、
前記造形テーブルから離間した状態で複数の前記構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する第2工程と、
を備え、
前記第1工程は、ノズルからの前記造形テーブルに対する前記第1の造形材料を断続的に吐出して、複数の点状の前記構造物を形成する工程を含み、
前記第1工程は、前記ノズルから前記造形テーブルに前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記第1の造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記造形テーブルに対して上方に離間させることによって、上方に向かって細くなる形状を有する前記構造物を形成する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
三次元造形物の製造方法であって、
造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成する第1工程と、
前記造形テーブルから離間した状態で複数の前記構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する第2工程と、
を備え、
前記第1工程は、ノズルからの前記造形テーブルに対する前記第1の造形材料を断続的に吐出して、複数の点状の前記構造物を形成する工程を含み、
前記第1工程は、前記ノズルから前記造形テーブルの上面に前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記第1の造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記上面に沿った方向に移動させることによって、前記上面に沿った前記構造物の上端面を形成する工程を含む、製造方法。
【請求項3】
三次元造形物の製造方法であって、
造形テーブル上に、
ノズルの吐出口から第1の造形材料を
吐出して、互いに離間した複数の構造物を形成する第1工程と、
複数の前記構造物を積み重ねて、内部に空隙を
有する多層構造体を形成する多層構造体形成工程
と、
前記造形テーブルから離間した状態
で前記
多層構造
体に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する第2工程と、
を備え、
前記多層構造体形成工程では、下層において隣り合っている複数の
前記構造物の上に跨がるように、上層の
前記構造物が形成されることによって前記多層構造体が形成され、
前記第1工程では、前記吐出口よりも上流の流路に配置され、前記吐出口からの前記第1の造形材料の流出を制御する開閉機構、及び、前記開閉機構と前記吐出口との間の前記流路に配置された吸引機構を制御して、前記構造物を形成し、
前記第1工程において、前記開閉機構によって前記吐出口からの前記第1の造形材料の流出を停止した後に、前記吸引機構によって前記流路内の前記第1の造形材料を吸引する、製造方法。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記第1の造形材料と前記第2の造形材料とは、造形材料生成部に供給された材料の少なくとも一部を溶融させることによって生成され、
前記造形材料生成部は、
溝が形成された溝形成面を有し、回転するフラットスクリューと、
前記溝形成面に対向するスクリュー対向面を有し、前記ノズルに連通する連通孔が形成されたスクリュー対面部と、を有し、
前記フラットスクリューの回転軸に沿った方向における前記フラットスクリューの長さは、前記回転軸に垂直な方向における前記フラットスクリューの長さよりも短い、製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記第1の造形材料は、前記第2の造形材料と同じ材料から生成される、製造方法。
【請求項6】
三次元造形物を造形する造形装置であって、
造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成し、前記造形テーブルから離間した状態で前記複数の構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する造形部を備え、
前記造形部は、ノズルからの前記造形テーブルに対する前記第1の造形材料を断続的に吐出して、複数の点状の前記構造物を形成し、
前記造形部は、前記ノズルから前記造形テーブルに前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記第1の造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記造形テーブルに対して上方に離間させることによって、上方に向かって細くなる形状を有する前記構造物を形成する、造形装置。
【請求項7】
三次元造形物を造形する造形装置であって、
造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成し、前記造形テーブルから離間した状態で前記複数の構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する造形部を備え、
前記造形部は、ノズルからの前記造形テーブルに対する前記第1の造形材料を断続的に吐出して、複数の点状の前記構造物を形成し、
前記造形部は、前記ノズルから前記造形テーブルの上面に前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記第1の造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記上面に沿った方向に移動させることによって、前記上面に沿った前記構造物の上端面を形成する、造形装置。
【請求項8】
三次元造形物を造形する造形装置であって、
造形テーブル上に、
ノズルの吐出口から第1の造形材料を
吐出して、互いに離間した複数の構造物を形成し、
複数の前記構造物を積み重ねて、内部に空隙を有する多層構造体を形成し、前記造形テーブルから離間した状態で前
記多層構造
体に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する造形部を備え、
前記造形部は、下層において隣り合っている複数の
前記構造物の上に跨がるように、上層の
前記構造物を形成することによって前記多層構造体を形成し、
前記造形部は、前記吐出口よりも上流の流路に配置され前記吐出口からの前記第1の造形材料の流出を制御する開閉機構、及び、前記開閉機構と前記吐出口との間の前記流路に配置された吸引機構を制御して、前記構造物を形成し、
前記造形部は、前記開閉機構によって前記吐出口からの前記第1の造形材料の流出を停止した後に、前記吸引機構によって前記流路内の前記第1の造形材料を吸引する、造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の熱可塑性を有する材料を可塑化して溶融させた材料を造形テーブル上の所望の位置に配置して硬化させることによって、三次元造形物を造形する立体物造形装置が知られている。こうした造形装置においては、造形途中の三次元造形物が造形テーブルに対して固定されるようにする一方で、造形完了後の三次元造形物を造形テーブルから分離しやすくするために、ラフトとも呼ばれる土台を、予め、造形テーブルに形成する場合がある。例えば、下記の特許文献1には、造形テーブルに、樹脂材料を、一筆書きで網目状に塗布することによって、三次元造形物の土台を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1の土台は、三次元造形物の底面を覆うように網目状に一体的に連結された構成を有している。そのため、土台自体の強度が高くなるとともに、造形テーブルや三次元造形物に対する土台の接触面積が大きくなり、造形テーブルからの三次元造形物の分離や、三次元造形物からの土台の除去が困難になってしまう場合がある。また、特許文献1の土台は、ジグザグに折れ曲がる複雑なノズルの走査によって形成されており、効率的ではない。このように、三次元造形物を造形する際の土台については、依然として改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態は、三次元造形物の製造方法として提供される。この形態の製造方法は、前記造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成する第1工程と;前記造形テーブルから離間した状態で、複数の前記構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する第2工程と;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】フラットスクリューの構成を示す概略斜視図。
【
図5】造形装置における造形中の様子を模式的に示す概略図。
【
図6】第1実施形態における基盤層の一部を拡大して示す概略斜視図。
【
図7A】第1実施形態における構造物の形成工程を示す第1の概略図。
【
図7B】第1実施形態における構造物の形成工程を示す第2の概略図。
【
図8】第2実施形態における基盤層の一部を拡大して示す概略斜視図。
【
図9】第2実施形態における構造物の形成工程を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形物の製造方法の実行に適した三次元造形装置100の構成を示す概略図である。
図1には、互いに直交するX,Y,Z方向を示す矢印が示されている。第1実施形態では、X方向およびY方向は、水平面に平行な方向であり、Z方向は、重力方向(鉛直方向)とは反対の方向である。X,Y,Z方向を示す矢印は、他の参照図においても、図示の方向が
図1と対応するように適宜、図示してある。
【0008】
三次元造形装置100は、造形材料を積層するように配置することによって三次元造形物を造形する。以下では、「三次元造形装置」を単に「造形装置」とも呼び、三次元造形物を単に「造形物」とも呼ぶ。造形装置100は、制御部101と、造形部110と、造形テーブル210と、移動機構230と、を備える。
【0009】
制御部101は、造形装置100全体の動作を制御して、造形物を造形する造形処理を実行する。第1実施形態では、制御部101は、1つ、または、複数のプロセッサーと、主記憶装置と、を備えるコンピューターによって構成される。制御部101は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、種々の機能を発揮する。なお、制御部101は、そうしたコンピューターによって構成される代わりに、各機能を実現するための複数の回路を組み合わせた構成により実現されてもよい。
【0010】
造形部110は、材料の少なくとも一部を溶融させてペースト状にした造形材料を造形テーブル210上に配置する。造形部110は、材料供給部20と、造形材料生成部30と、吐出部60と、を備える。
【0011】
材料供給部20は、造形材料生成部30に材料を供給する。材料供給部20は、例えば、材料を収容するホッパーによって構成される。材料供給部20は、下方に排出口を有し、当該排出口は、連通路22を介して、造形材料生成部30に接続されている。材料は、ペレットや粉末等の固体材料の状態で材料供給部20に投入される。材料供給部20に投入される材料については後述する。
【0012】
造形材料生成部30は、材料供給部20から供給された材料の少なくとも一部を溶融させた流動性を有するペースト状の造形材料を生成し、吐出部60へと導く。造形材料生成部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、スクリュー対面部50と、を有する。
【0013】
フラットスクリュー40は、その中心軸に沿った方向である軸線方向における高さが直径よりも小さい略円柱状を有する。フラットスクリュー40は、その軸線方向がZ方向に平行になるように配置され、円周方向に沿って回転する。第1実施形態では、フラットスクリュー40の中心軸は、その回転軸RXと一致する。
図1には、フラットスクリュー40の回転軸RXを一点鎖線で図示してある。
【0014】
フラットスクリュー40は、スクリューケース31内に収納されている。フラットスクリュー40は上面47側が駆動モーター32に連結されており、駆動モーター32が発生させる回転駆動力によって、スクリューケース31内において回転する。駆動モーター32は、制御部101の制御下において駆動する。
【0015】
フラットスクリュー40は、回転軸RXと交差する面である下面48に、溝部42が形成されている。上述した材料供給部20の連通路22は、フラットスクリュー40の側面から、当該溝部42に接続されている。
【0016】
フラットスクリュー40の下面48は、スクリュー対面部50の上面52に面しており、フラットスクリュー40の下面48の溝部42と、スクリュー対面部50の上面52との間には空間が形成される。造形部110では、フラットスクリュー40とスクリュー対面部50との間のこの空間に、材料供給部20から材料が供給される。フラットスクリュー40およびその溝部42の具体的な構成については後述する。
【0017】
スクリュー対面部50には、材料を加熱するためのヒーター58が埋め込まれている。回転しているフラットスクリュー40の溝部42内に供給された材料は、フラットスクリュー40の回転によって、少なくとも一部が溶融されつつ、溝部42に沿って流動し、フラットスクリュー40の中央部46へと導かれる。中央部46に流入したペースト状の材料は、スクリュー対面部50の中心に設けられた連通孔56を介して、造形材料として吐出部60に供給される。
【0018】
吐出部60は、ノズル61と、流路65と、吐出制御機構70と、を有する。ノズル61は、流路65を通じて、スクリュー対面部50の連通孔56に接続されている。流路65は、フラットスクリュー40とノズル61との間の造形材料の流路である。ノズル61は、造形材料生成部30において生成された造形材料を、先端の吐出口62から造形テーブル210に向かって吐出する。第1実施形態では、ノズル61の吐出口62は、略円形の開口形状を有しており、孔径Dnを有する。
【0019】
吐出制御機構70は、ノズル61からの造形材料の流出を制御する。第1実施形態では、吐出制御機構70は、流路65を開閉する開閉機構71と、ノズル61内の造形材料を吸引する吸引機構75と、を含む。
【0020】
開閉機構71は、流路65を開閉して、流路65からノズル61への造形材料の流入を制御する。第1実施形態では、開閉機構71は、バタフライバルブによって構成されている。開閉機構71は、駆動軸72と、弁体73と、バルブ駆動部74と、を備える。
【0021】
駆動軸72は、一方向に延びる軸状部材である。駆動軸72は、流路65の出口において、造形材料の流れ方向に交差するように取り付けられている。第1実施形態では、駆動軸72は流路65に対して垂直に取り付けられている。
図1では、駆動軸72は、紙面に対して垂直である。駆動軸72は、その中心軸を中心に回転可能に取り付けられている。
【0022】
弁体73は、流路65内において回転する板状部材である。第1実施形態では、弁体73は、駆動軸72の流路65内に配置されている部位を板状に加工することによって形成されている。弁体73を、その板面に垂直な方向に見たときの形状は、弁体73が配置されている部位における流路65の開口形状とほぼ一致する。
【0023】
バルブ駆動部74は、制御部101の制御下において、駆動軸72を回転させる回転駆動力を発生する。バルブ駆動部74は、例えば、ステッピングモータによって構成される。駆動軸72の回転によって弁体73が流路65内において回転する。
【0024】
弁体73の板面が、
図1に示されているように、流路65における造形材料の流れ方向に沿っている状態が、流路65が開かれている状態である。この状態では、流路65からノズル61への造形材料の流入が許容される。弁体73の板面が、流路65における造形材料の流れ方向に対して垂直にされた状態が、流路65が閉じられた状態である。この状態では、流路65からノズル61への造形材料の流入が遮断される。
【0025】
吸引機構75は、分岐流路76と、吸引ポンプ77と、を有する。分岐流路76は、開閉機構71の弁体73より下流側において、ノズル61内の造形材料の流路に接続されている。吸引ポンプ77は、分岐流路76に設けられている。吸引ポンプ77は、制御部101の制御下において駆動し、ノズル61内の造形材料を分岐流路76へと吸引する。制御部101は、開閉機構71によって流路65を閉じて、ノズル61からの造形材料の吐出を停止している間に、ノズル61から造形材料が流出しないように、吸引機構75によってノズル61内の造形材料を吸引して、ノズル61内に負圧を発生させる。なお、吐出部60には、吸引機構75によって吸引された造形材料を開閉機構71より上流側の流路65へと戻す循環経路が設けられていてもよい。
【0026】
造形テーブル210は、ノズル61の吐出口62に対向する位置に配置されている。造形テーブル210は、X,Y方向に平行に配置される上面211を有している。後述するように、造形装置100では、造形テーブル210の上面211において造形材料を硬化させることによって造形物が造形される。
【0027】
造形テーブル210は、移動機構230によって、造形部110のノズル61に対して移動する。移動機構230は、3つのモーターMの駆動力によって、造形テーブル210をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。移動機構230は、制御部101の制御下において、ノズル61と造形テーブル210との相対的な位置関係を変更する。なお、造形装置100では、移動機構230によって造形テーブル210を移動させる構成の代わりに、造形テーブル210の位置が固定された状態で、移動機構230が造形テーブル210に対するノズル61の位置を移動させる構成が採用されてもよい。こうした構成であっても、ノズル61と造形テーブル210との相対的な位置関係が変更可能である。
【0028】
図2は、フラットスクリュー40の下面48側の構成を示す概略斜視図である。
図2には、造形材料生成部30において回転するときのフラットスクリュー40の回転軸RXの位置が一点鎖線で図示されている。
図1を参照して説明したように、スクリュー対面部50に対向するフラットスクリュー40の下面48には、溝部42が設けられている。以下、下面48を、「溝形成面48」とも呼ぶ。
【0029】
フラットスクリュー40の溝形成面48の中央部46は、溝部42の一端が接続されている凹部として構成されている。中央部46は、
図1に図示されているスクリュー対面部50の連通孔56に対向する。第1実施形態では、中央部46は、回転軸RXと交差する。
【0030】
フラットスクリュー40の溝部42は、いわゆるスクロール溝を構成する。溝部42は、中央部46から、フラットスクリュー40の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。溝部42は、螺旋状に延びるように構成されているとしてもよい。溝形成面48には、溝部42の側壁部を構成し、各溝部42に沿って延びている凸条部43が設けられている。
【0031】
溝部42は、フラットスクリュー40の側面に形成された材料流入口44まで連続している。この材料流入口44は、材料供給部20の連通路22を介して供給された材料を受け入れる部分である。
【0032】
フラットスクリュー40が回転すると、材料流入口44から供給された材料の少なくとも一部が、溝部42内において加熱されながら溶融し、流動性が高まっていく。そして、その材料は、溝部42を通じて中央部46へと流動し、中央部46に集まり、そこで生じる内圧により、ノズル61へと導かれ、吐出口62から吐出される。
【0033】
図2には、3つの溝部42と、3つの凸条部43を有するフラットスクリュー40の例が図示されている。フラットスクリュー40に設けられる溝部42や凸条部43の数は、3つには限定されない。フラットスクリュー40には、1つの溝部42のみが設けられていてもよいし、2以上の複数の溝部42が設けられていてもよい。また、溝部42の数に合わせて任意の数の凸条部43が設けられてもよい。
【0034】
図2には、材料流入口44が3箇所に形成されているフラットスクリュー40の例が図示されている。フラットスクリュー40に設けられる材料流入口44の数は、3箇所に限定されない。フラットスクリュー40には、材料流入口44が1箇所にのみ設けられていてもよいし、2箇所以上の複数の箇所に設けられていてもよい。
【0035】
図3は、スクリュー対面部50の上面52側を示す概略平面図である。スクリュー対面部50の上面52は、上述したように、フラットスクリュー40の溝形成面48に対向する。以下、この上面52を、「スクリュー対向面52」とも呼ぶ。スクリュー対向面52の中心には、造形材料をノズル61に供給するための上述した連通孔56が形成されている。
【0036】
スクリュー対向面52には、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。複数の案内溝54は、造形材料を連通孔56に導く機能を有する。
図1を参照して説明したように、スクリュー対面部50には、材料を加熱するためのヒーター58が埋め込まれている。造形材料生成部30における材料の溶融は、ヒーター58による加熱と、フラットスクリュー40の回転と、によって実現される。
【0037】
図1を参照する。造形部110では、Z方向に小型なサイズを有するフラットスクリュー40を利用していることによって、材料の少なくとも一部を溶融してノズル61まで導くための経路がZ方向において占める範囲が小さくなっている。このように、造形装置100では、フラットスクリュー40を利用していることによって、造形材料の生成機構が小型化されている。
【0038】
また、造形装置100では、フラットスクリュー40を利用していることによって、流動性を有する状態にされた造形材料を流路65へと圧送する構成が簡易に実現されている。そして、流路65の下流に設けられた簡易な構成の吐出制御機構70による造形材料の吐出制御が可能になっている。そのため、ノズル61からの造形材料の吐出制御の精度が高められている。
【0039】
造形装置100において用いられる材料について説明する。造形装置100では、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として造形物を造形することができる。ここで、「主材料」とは、造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0040】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、造形材料生成部30において、当該材料が可塑化することによって造形材料が生成される。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。
【0041】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチック
【0042】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、造形材料生成部30において、フラットスクリュー40の回転とヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。また、そのように生成された造形材料は、造形テーブル210に配置された後、温度の低下によって硬化する。
【0043】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から射出されることが望ましい。例えば、ABS樹脂は、ガラス転移点が約120℃であり、ノズル61からの射出時には約200℃であることが望ましい。このように高温の状態で造形材料を射出するために、ノズル61の周囲にはヒーターが設けられてもよい。
【0044】
造形装置100では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、造形材料生成部30に投入されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金
<前記合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金
【0045】
造形装置100においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、造形テーブル210に配置された造形材料は焼結によって硬化されてもよい。
【0046】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、造形材料生成部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0047】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等
【0048】
その他に、材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0049】
図4、
図5を参照して造形装置100が実行する造形処理を説明する。
図4は、造形装置100が実行する造形処理のフローを示す説明図である。
図5は、造形装置100における造形処理の様子を模式的に示す概略図である。
【0050】
第1工程では、制御部101は、造形テーブル210上に、造形物OBの土台となる基盤層10を形成する。基盤層10は、造形部110によって造形テーブル210の上面211に第1の造形材料を配置し、硬化させることによって形成された互いに離間した複数の構造物11によって構成される。
図5では、基盤層10を構成している複数の構造物11の個々の図示は、便宜上、省略されている。基盤層10は、造形テーブル210の上面211における造形物OBが造形される領域に形成される。基盤層10は、少なくとも、造形処理において造形される造形物OBの底面をカバーできる程度の面積で形成されることが望ましい。「造形物OBの底面」とは、造形物OBにおいて造形テーブル210に支持される面を意味する。基盤層10を構成する構造物11の詳細な構造および形成方法については後述する。
【0051】
第2工程では、基盤層10を構成する複数の構造物11の上に支持されるように、第2の造形材料を配置して造形物OBを造形する。より詳細には、第2工程では、造形物OBを、複数の構造物11の上に支持され、造形テーブル210の上面211から離間した状態で造形する。第1実施形態第1実施形態では、制御部101は、造形部110によって基盤層10の上に、材料層MLを、Z方向に積み重ねていくことによって造形物OBを造形する。材料層MLは、造形テーブル210上に配置された第2の造形材料が硬化することにより形成される層である。第1実施形態では、造形部110のノズル61から、基盤層10の上に造形材料が吐出され、硬化することにより材料層MLが形成される。なお、基盤層10を構成する第1の造形材料と、造形物OBを構成する第2の造形材料とは、同じ材料から生成されてもよい。これによって、基盤層10を形成するための材料を、造形物OBの材料とは別に準備する手間を省くことができ効率的である。
【0052】
第1工程および第2工程では、フラットスクリュー40を利用した造形部110によって、造形テーブル210上に造形材料が配置されている。つまり、上記の2つの工程は、フラットスクリュー40を回転させることによって、溝部42に供給された材料を、溝部42において溶融させつつノズル61へと導き、ノズル61から造形テーブル210に向かって造形材料を吐出させる工程を含んでいると解釈できる。
【0053】
上述したように、造形装置100では、フラットスクリュー40の利用によって、造形材料の生成機構が小型化され、造形材料の吐出制御の精度を高められている。そうしたフラットスクリュー40を利用した造形装置100であれば、第1工程および第2工程において、基盤層10の形成および造形物OBの造形を容易かつ効率的におこなうことが可能である。
【0054】
ところで、材料層MLを形成する際には、ノズル61の先端の吐出口62と、造形中の三次元造形物OBの上面OBtとの間に、下記のギャップGが保持されていることが望ましい。ここで、「三次元造形物OBの上面OBt」とは、ノズル61の吐出により造形材料が配置される下層における上面を意味しており、ノズル61の直下の位置の近傍においてノズル61から吐出された造形材料が堆積される予定部位を意味する。
【0055】
ギャップGの大きさは、ノズル61の吐出口62における孔径Dn(
図1に図示)以上とすることが望ましく、孔径Dnの1.1倍以上とすることがより好ましい。こうすれば、ノズル61の吐出口62から吐出される造形材料が、製造中の造形物OBの上面OBtに押しつけられない自由な状態で造形物OBの上面OBtに堆積される。この結果、ノズル61から吐出された造形材料の横断面形状が潰れてしまうことを抑制でき、造形物OBの面粗さを低減することが可能である。また、ノズル61の周囲にヒーターが設けられた構成においては、ギャップGを形成することにより、当該ヒーターによる材料の過熱を防止でき、造形物OBに堆積された材料の過熱による変色や劣化が抑制される。一方、ギャップGの大きさは、孔径Dnの1.5倍以下とすることが好ましく、1.3倍以下とすることが特に好ましい。これによって、造形材料が配置される予定部位に対する精度の低下や、製造中の造形物OBの上面OBtに対する造形材料の密着性の低下が抑制される。
【0056】
造形処理が完了した後、造形物OBは、基盤層10の全部または一部が底面に付着した状態で、造形テーブル210から分離される。その後、造形物OBに付着している基盤層10は、サンドペーパーなどによる研磨加工や、コテや切削工具を用いた切削加工などによって除去される。
【0057】
図6は、第1実施形態における基盤層10の一部を拡大して示す概略斜視図である。基盤層10は、上述したように、造形テーブル210上において互いに離間して配列された複数の微小な構造物11によって構成されている。構造物11は、上に積層される造形物OBの最下層の材料層MLを支持できるように、造形物OBの材料層MLを構成する材料が構造物11の間に入り込まないような間隔で配列されていることが望ましい。構造物11は、例えば、水平方向における幅の最大値が5~100μm程度のサイズで構成されてよい。また、構造物11は、例えば、0.1~数mm程度の間隔をあけて配列されてよい。構造物11は、自身の水平方向における幅の最大値よりも狭い間隔をあけて配列されてもよい。
【0058】
基盤層10によって、造形テーブル210の上面211は、微小な凹凸構造が形成された状態となる。そのため、造形処理において、造形物OBの造形のために吐出された直後の造形材料が、予定された配置位置から、造形テーブル210の上面211に沿った方向に流動してしまうことが抑制される。また、造形材料が配置された位置から移動することが抑制されるため、当該造形材料が硬化するときのX方向やY方向への材料層MLの収縮が抑制され、材料層MLが撓んでしまうような変形が抑制される。よって、造形物OBの造形精度が高められる。
【0059】
基盤層10が互いに離間して配列されている構造物11によって構成されていると、各構造物11が連結されているような構成に較べて、基盤層10の強度は低くなる。そのため、大きな外力を加えなくとも、造形テーブル210から造形物OBを容易に分離することが可能になる。また、造形テーブル210から分離させた後の造形物OBから、造形物OBに付着している基盤層10を簡易に除去にすることが可能である。
【0060】
基盤層10であれば、基盤層10と造形テーブル210との接触面積や、基盤層10と造形物OBの底面との接触面積を、構造物11のサイズを小さくすることによって低減することができる。基盤層10と造形テーブル210との接触面積が小さければ、造形物OBを基盤層10とともに造形テーブル210から分離することが容易化される。また、基盤層10と造形物OBの底面との接触面積が小さければ、造形テーブル210から分離した後の造形物OBからの基盤層10の除去が容易化される。
【0061】
基盤層10であれば、各構造物11が連結されていないため、造形物OBの造形を開始する前に、全ての構造物11が一度に造形テーブル210から脱落してしまうことが抑制される。よって、基盤層10を最初から作り直さなければならないような不具合が生じることが抑制される。
【0062】
第1実施形態では、各構造物11は、ほぼ同じ高さを有している。これによって、基盤層10の上に形成される造形物OBが造形中に傾いてしまうことが抑制され、造形物OBの造形精度の低下が抑制される。各構造物11は、分布密度が一様な配列パターンで緊密に配列されていることが望ましい。これによって、造形物OBを、より安定した姿勢で支持することができる。
【0063】
第1実施形態では、各構造物11は、ほぼ同じ形状を有している。そのため、単一のノズル61からの造形材料の吐出動作の繰り返しによって、各構造物11を形成することができる。そのため、基盤層10を効率的かつ簡易に形成することができる。構造物11を形成するための造形材料の吐出動作については後述する。
【0064】
第1実施形態では、各構造物11は、上方に向かって細くなる形状を有している。より詳しくは、各構造物11は、造形テーブル210の上面211に沿った切断面における断面積が上方に向かって次第に減少する形状を有している。この構成によって、造形物OBに近い位置ほど各構造物11の強度が小さくなっている。また、各構造物11の造形物OBの底面に対する接触面積がより低減されている。そのため、造形処理の後の造形物OBからの基盤層10の除去が、さらに容易化されている。
【0065】
特に、第1実施形態では、各構造物11は、上端が尖っている形状を有している。そのため、造形物OBと基盤層10との連結部の強度が、より一層、低くなっており、造形物OBと基盤層10との接触面積も、より一層、小さくなっている。従って、造形処理の後の造形物OBからの基盤層10の除去が、さらに容易である。
【0066】
図7Aおよび
図7Bを参照して、基盤層10を構成する構造物11の形成方法を説明する。第1実施形態では、ノズル61からの造形テーブル210に対する造形材料の吐出を断続的に繰り返して、造形テーブル210に構造物11を点在させる工程によって形成される。「構造物11を点在させる」とは、複数の点状の構造物11を互いに離間した状態で配列することを意味する。ここでの「点状」には、略円形状の形状のみならず、長尺状ではない形状が含まれる。制御部101は、予め決められた各構造物11の形成位置において、吐出部60に、以下の造形材料の吐出動作を繰り返させる。
【0067】
図7Aを参照する。まず、制御部101は、構造物11の形成位置において、造形材料の先端が造形テーブル210の上面211に接するまで、ノズル61から造形材料を吐出させる。そして、その後、開閉機構71を駆動させて、流路65を弁体73によって閉塞し、ノズル61からの造形材料の吐出を停止させる。
【0068】
図7Bを参照する。次に、制御部101は、ノズル61からの造形材料の吐出を停止させた状態で、ノズル61が造形テーブル210の上面211に対して上方に離間するように、造形テーブル210に対するノズル61の位置を変更する。より具体的には、制御部101は、移動機構230によって、造形テーブル210を下方に移動させて、ノズル61と造形テーブル210との間のZ方向における距離を増大させる。このとき、制御部101は、ノズル61内の造形材料が吐出口62から流出することが抑制されるように、吸引機構75によって、ノズル61内に負圧を発生させることが望ましい。この工程によって、造形テーブル210に付着した造形材料が、ノズル61の方に引っ張られつつ、ノズル61内の造形材料から分断されるため、上端に向かって先細りとなる形状の構造物11が形成される。
【0069】
制御部101は、移動機構230を制御して、造形テーブル210上の次の構造物11の形成位置に、ノズル61を位置させ、上記の吐出動作を再び実行する。以上の動作を繰り返すことによって、基盤層10を構成する各構造物11が形成される。この方法により、基盤層10が、点在する構造物11によって構成されるため、基盤層10の強度を、より低くすることができ、造形物OBの底面や造形テーブル210に対する基盤層10の接触面積を、より小さくすることができる。また、各構造物11を、ノズル61の吐出口62における孔径Dnに応じた微小なサイズで形成できるため、よりきめの細かい基盤層10を形成することができる。
【0070】
なお、制御部101は、基盤層10を形成する際に、基盤層10を構成する構造物11同士の間隔を、基盤層10の上に造形される造形物OBのサイズや重量に応じて変化させてもよい。より具体的には、制御部101は、造形物OBのサイズや重量が大きいほど、構造物11同士の間隔が狭くなるように制御してもよい。これによって、サイズや重量が大きい造形物OBを、基盤層10によってより安定して支持することができ、造形物OBの造形精度を高めることができる。
【0071】
以上のように、第1実施形態の造形物OBの製造方法およびそれを実行する造形装置100によれば、造形テーブル210の上面211に微細な凹凸構造を形成する基盤層10を土台として造形物OBを造形するため、造形中における造形物OBの変形を抑制できる。よって、造形物OBの造形精度が高められる。また、強度が低く、造形物OBの底面や造形テーブル210に対する接触面積が小さい基盤層10を形成できるため、造形テーブル210からの造形物OBの分離や、造形物OBからの基盤層10の除去を容易化することができる。その他に、第1実施形態の造形物OBの製造方法およびそれを実行する造形装置100によれば、第1実施形態中で説明した種々の作用効果を奏することができる。
【0072】
2.第2実施形態:
図8、
図9を参照して、第2実施形態における造形物の製造方法を説明する。第2実施形態における造形物の製造方法は、基盤層10aを構成する構造物11aの形状と、その形成方法が異なっている点以外は、第1実施形態で説明したのとほぼ同じである。なお、第2実施形態の製造方法は、第1実施形態で説明した造形装置100において実行される。
【0073】
図8は、第2実施形態における基盤層10aの一部を拡大して示す概略斜視図である。第2実施形態の基盤層10aでは、各構造物11aが、造形テーブル210の上面211に沿った上端面12を有するように構成されている。第2実施形態の各構造物11aは、そのサイズや配列間隔は、第1実施形態で説明した構造物11のサイズや配列間隔と同様であってよい。
【0074】
図9は、第2実施形態の構造物11aの形成工程を示す概略図である。制御部101は、まず、第1実施形態において
図7Aを参照して説明したのと同様に、構造物11aの形成位置において、造形材料の先端が造形テーブル210の上面211に接するまで、ノズル61から造形材料を吐出させた後、その吐出を停止させる。そして、
図9に示すように、ノズル61からの造形材料の吐出を停止させた状態で、ノズル61と造形テーブル210の上面211との間の距離を維持させたまま、ノズル61を、造形テーブル210に対して上面211に沿った方向に移動させる。より具体的には、移動機構230によって、造形テーブル210を水平方向に変位させて、造形テーブル210に対するノズル61の位置を水平方向に変位させる。なお、このノズル61の走査は、ノズル61から吐出された造形材料が造形テーブル210上である程度硬化したタイミングで実行されることが望ましい。
【0075】
このノズル61の走査によって、造形テーブル210に付着した造形材料と、ノズル61内の造形材料と、が分断される。また、造形テーブル210に付着した造形材料の上端部が、ノズル61の先端によって削られて、造形テーブル210の上面211に沿った平坦な上端面12が形成される。制御部101は、移動機構230を制御して、造形テーブル210上の次の構造物11の形成位置に、ノズル61を移動させ、上記の吐出動作を再び実行する。以上の動作を繰り返すことによって、基盤層10aを構成する各構造物11aが形成される。なお、第2実施形態では、ノズル61における吐出口62の開口形状が略円形であるため、構造物11aは円柱状に形成される。上記の構造物11aの形成工程では、造形材料の吐出の際に、構造物11aの高さを調整するために、ノズル61をZ方向に変位させてもよい。
【0076】
第2実施形態の基盤層10aであれば、各構造物11aの上端面12によって、造形物OBを構成する材料層MLの安定した支持が可能になる。よって、造形中の造形物OBを、より安定した姿勢で支持することができ、造形物OBの造形精度が高められる。その他に、第2実施形態の造形物の製造方法およびそれを実行する造形装置100によれば、第2実施形態中で説明した種々の作用効果に加え、第1実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0077】
3.第3実施形態:
図10Aおよび
図10Bを参照して、第3実施形態における造形物の製造方法を説明する。第3実施形態における造形物の製造方法は、第1実施形態や第2実施形態で説明した基盤層10,10aを構成する複数の構造物11,11aを積み重ねて、内部に空隙を有する多層構造体15,15aを形成する工程を備えている点以外は、第1実施形態や第2実施形態で説明した製造方法と同じである。なお、第3実施形態の製造方法は、第1実施形態で説明した造形装置100において実行される。
【0078】
図10Aは、第1実施形態で説明した基盤層10を複数、積み重ねることによって形成された第1の多層構造体15の構成を示す概略図である。
図10Bは、第2実施形態で説明した基盤層10aを複数、積み重ねることによって形成された第2の多層構造体15aの構成を示す概略図である。基盤層10,10aを積層する工程では、下層の基盤層10,10aにおいて隣り合っている複数の構造物11,11aの上に跨がるように、上層の基盤層10,10aを構成する構造物11,11aが形成される。そのため、第3実施形態では、隣り合う構造物11,11a同士の間の間隔は、上に積み重ねられる構造物11,11aの底面の幅より小さくされる。
【0079】
多層構造体15,15aは、上面および下面に微細な凹凸構造を有するとともに、内部に空隙を含むポーラスな構成を有する。多層構造体15,15aによれば、その上面および下面の凹凸構造により、造形物OBや造形テーブル210との接触部位が小さくなる。また、内部に存在する空隙により、その強度が低くなる。よって、造形物OBの造形テーブル210からの分離や、造形物OBからの土台の除去が容易化される。その他に、第3実施形態の造形物の製造方法およびそれを実行する造形装置100によれば、第3実施形態中で説明した種々の作用効果に加え、第1実施形態や第2実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0080】
4.他の実施形態:
上記の各実施形態で説明した種々の構成は、例えば、以下のように改変することが可能である。以下に説明する他の実施形態はいずれも、上記の各実施形態と同様に、発明を実施するための形態の一例として位置づけられる。
【0081】
4-1.他の実施形態1:
基盤層を構成する構造物の構成は、上記の各実施形態において説明した基盤層10,10aを構成する構造物11,11aの構成に限定されることはない。構造物のサイズや配列間隔、形状は、上に造形される造形物OBの形状や重さに応じて、変更されてもよい。基盤層は、例えば、造形テーブル210の上面211に沿って延びる線状の長尺形状を有する構造物を含む構成を有していてもよい。基盤層は、例えば、造形テーブル210の上面211に不均一なパターンで配列された構造物によって構成されてもよい。基盤層は、造形物OBとは異なる種類の熱可塑性を有する材料によって構成されてもよい。ノズル61の開口形状を円形以外の形状にすることにより、上記の各実施形態で説明した構造物11,11aの形状とは異なる形状を有する点状の構造物が形成されてもよい。
【0082】
4-2.他の実施形態2:
造形部110は、フラットスクリュー40を利用している構成の代わりに、例えば、Z方向の長さが直径よりも長いスクリューを回転させてノズル61から造形材料を押し出す構成を有していてもよい。あるいは、造形部110は、造形材料を造形テーブル210に向かって吐出する構成の代わりに、フィラメント状の熱可塑性を有する樹脂材料を熱で溶かしながらノズル61から押し出して、造形テーブル210に付着させる構成を有していてもよい。
【0083】
4-3.他の実施形態3:
造形装置100の開閉機構71は、流路65内において造形材料が流れる方向に交差するように移動するシャッターによって構成されてもよい。また、開閉機構71は、ピストンが流路65内に突出して流路65を閉塞するプランジャーによって構成されてもよい。開閉機構71は、バタフライバルブや、シャッターを用いたシャッター機構、プランジャーのうちの2つ以上を組み合わせて構成されてもよい。造形装置100において、吸引機構75は省略されてもよい。
【0084】
4-4.他の実施形態4:
材料供給部20には、粉体やペレット状の材料の代わりに、フィラメント状の材料が投入されてもよい。材料供給部20に投入される材料は、上記実施形態において説明したものに限らず、他の樹脂材料や金属材料、セラミック材料が用いられてもよい。造形装置100では、例えば、金属粉末射出成形(MIM)に用いられるような材料によって造形物が造形されてもよい。
【0085】
4-5.他の実施形態5:
複数の構造物11,11aを形成する第1の造形材料は、造形物OBを形成する第2の造形材料と異なる材料から生成されてもよい。例えば、第1の造形材料は、例えば、水溶性のサポート材を構成する材料から生成されてもよい。
【0086】
4-6.他の実施形態6:
上記実施形態において、材料供給部20は、複数のホッパーを備える構成を有していてもよい。この場合には、各ホッパーからフラットスクリュー40へと異なる材料が供給され、フラットスクリュー40の溝部42内において混合されて、造形材料が生成されてもよい。例えば、上記実施形態で説明した主材料となる粉末材料と、それに添加される溶媒やバインダーなどが別々のホッパーから並行してフラットスクリュー40に供給されてもよい。
【0087】
4-7.他の実施形態7:
上記実施形態において、ソフトウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ハードウェアによって実現されてもよい。また、ハードウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ソフトウェアによって実現されてもよい。ハードウェアとしては、例えば、集積回路、ディスクリート回路、または、それらの回路を組み合わせた回路モジュールなど、各種回路を用いることができる。
【0088】
5.他の形態:
本発明は、上述の各実施形態や実施例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態(aspect)によって実現することができる。例えば、本発明は以下の形態として実現可能である。以下に記載する各形態中の技術的特徴に対応する上記の各実施形態中の技術的特徴は、本発明の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本発明の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中において必須であると説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0089】
(1)第1の形態は、三次元造形物の製造方法として提供される。この形態の製造方法は、造形テーブル上に第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成する第1工程と;前記造形テーブルから離間した状態で複数の構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する工程と;を備える。
この形態の製造方法によれば、土台として機能する複数の構造物によって形成される凹凸構造によって三次元造形物を造形するための造形材料の流動や収縮変形に伴う移動を抑制することができるため、三次元造形物の造形精度を高めることができる。また、互いに離間している複数の構造物によって土台が構成されているため、土台の強度を低くすることができる。よって、造形テーブルからの三次元造形物の分離や、三次元造形物からの土台の除去を容易化することができる。
【0090】
(2)上記形態の製造方法において、前記第1工程は、ノズルからの前記造形テーブルに対する前記第1の造形材料を断続的に吐出して、複数の点状の前記構造物を形成する工程を含んでよい。
この形態の製造方法によれば、長尺状の構造物が配列されたような構成ではなく、点在する構造物によって土台が構成されるため、土台自体の強度を、より低くすることができる。また、ノズルからの造形材料の断続的な吐出によって、土台を構成する構造物を簡易に形成することができ、効率的である。
【0091】
(3)上記形態の製造方法において、前記第1工程は、前記ノズルから前記造形テーブルの上面に前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記造形テーブルに対して上方に離間させることによって、上方に向かって細くなる形状を有する前記構造物を形成する工程を含んでよい。
この形態の製造方法によれば、三次元造形物に近い位置ほど各構造物の強度を小さくすることができる。よって、三次元造形物からの土台の除去が容易化される。
【0092】
(4)上記形態の製造方法において、前記第1工程は、前記ノズルから前記造形テーブルの上面に前記第1の造形材料を吐出させた後、前記ノズルからの前記第1の造形材料の吐出を停止させた状態で、前記ノズルを前記上面に沿った方向に移動させることによって、前記上面に沿った上端面を有する前記構造物を形成する工程を含んでよい。
この形態の製造方法によれば、土台を構成する各構造物が上端面を有することによって、造形中の三次元造形物の配置姿勢が安定する。そのため、三次元造形物の造形精度が高められる。
【0093】
(5)上記形態の製造方法は、第1の造形材料と前記第2の造形材料とは、回転しているフラットスクリューに供給された材料の少なくとも一部を溶融させることによって生成されてよい。
この形態の製造方法によれば、フラットスクリューの利用によって、造形材料を生成する機構を小型化できる。また、フラットスクリューの利用によって、ノズルからの第1の造形材料および第2の造形材料の吐出制御の精度が高められ、土台の形成および三次元造形物の造形を、容易かつ効率的におこなえる。
【0094】
(6)上記形態の製造方法は、複数の前記構造物を積み重ねて、内部に空隙を有し、前記第2の造形材料を支持する多層構造体を形成する工程を備えてよい。
この形態の製造方法によれば、内部に空隙を有することにより強度が低くなっている多層構造体によって三次元造形物の土台を構成することができる。
【0095】
(7)上記形態の製造方法において、前記第1の造形材料は、前記第2の造形材料と同じ材料から生成されてよい。
この形態の製造方法によれば、土台を構成する複数の構造物を形成した後に、材料を変えることなく同じ材料で三次元造形物を造形することができるため効率的である。
【0096】
(8)第2の形態は、三次元造形物を造形する造形装置として提供される。この形態の造形装置は、造形テーブル上に、第1の造形材料を配置して、互いに離間した複数の構造物を形成し、前記造形テーブルから離間した状態で前記複数の構造物に支持されるように、前記三次元造形物を造形するための第2の造形材料を配置する造形部を備える。
この形態の造形装置によれば、複数の構造物によって構成される土台によって支持された状態で三次元造形物が造形されるため、三次元造形物の造形精度が高められる。また、複数の構造物によって強度が低い土台を構成できるため、造形テーブルからの三次元造形物の分離や、三次元造形物からの土台の除去が容易化される。
【0097】
本発明は、三次元造形物の製造方法や造形装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、造形テーブルに配置される三次元造形物の土台の形成方法、土台やその構造などの形態で実現することができる。また、前述の装置の制御方法や、前述の方法を実現するためのコンピュータープログラム、そのコンピュータープログラムを記録した一時的でない記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0098】
10…基盤層、10a…基盤層、11…構造物、11a…構造物、12…上端面、15…第1の多層構造体、15a…第2の多層構造体、20…材料供給部、22…連通路、30…造形材料生成部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、42…溝部、43…凸条部、44…材料流入口、46…中央部、48…下面/溝形成面、50…スクリュー対面部、52…上面/スクリュー対向面、54…案内溝、56…連通孔、58…ヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…吐出口、65…流路、70…吐出制御機構、71…開閉機構、72…駆動軸、73…弁体、74…バルブ駆動部、75…吸引機構、76…分岐流路、77…吸引ポンプ、100…造形装置、101…制御部、110…造形部、210…造形テーブル、211…上面、230…移動機構、Dn…孔径、G…ギャップ、M…モーター、ML…材料層、OB…三次元造形物、OBt…上面、RX…回転軸