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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】感光性樹脂凸版印刷用自動現像装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/30 20060101AFI20221122BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G03F7/30 501
G03F7/00 502
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018068391
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179148
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕登
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】河野 通篤
(72)【発明者】
【氏名】本井 慶一
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-204190(JP,A)
【文献】米国特許第04733422(US,A)
【文献】特開2011-066386(JP,A)
【文献】実開昭54-169501(JP,U)
【文献】特開昭52-109657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/30
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ現像工程後に、セッター板に張り付けた凸版印刷版を搬送して水切りロールで圧着して水切りロール処理工程を有する搬送方式自動現像装置であって、
前記水切りロール処理工程に用いる水切りロールが飽和吸水状態の、連続気孔を有するポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであり、且つスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮して連続的に水切りする
ことを特徴とする凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールがロール外周面の薄膜を除去したロールであり、且つスポンジロールの乾燥時の重量に対する飽和吸水率が600~1500倍であることを特徴とする請求項1に記載の凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールがホルマール化したポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであることを特徴とする請求項1に記載の凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂凸版に用いる自動現像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物を印刷用版材として使用することは一般的に行われ、樹脂凸版の分野において主流となっている。感光性樹脂凸版は、紫外線の光硬化により感光性樹脂層に画像を形成した後、現像により未光硬化部を除去し、画像を形成して印刷版(レリーフ)として使用するものである。感光性樹脂層に光硬化部を形成する方法として、ネガティブまたはポジティブの原画フィルムを感光性樹脂層に密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する方法(アナログ方式)や、コンピューター上で処理された情報をレーザーにより感光性樹脂層上に画像マスクを形成する、いわゆるCTP(computer to plate)方式により画像マスク形成後、紫外線を照射する方法が挙げられる。一方、感光性樹脂凸版の現像方法としては、現像液を一定圧力によりスプレー状に噴射して未露光部を除去する方法や、現像液中に感光性樹脂版を浸漬させ、または現像液を感光性樹脂版面にシャワー状に噴射しながらブラシ等で未露光部を現像する方法が行われている。又、現像液としては、安全性の面より、水又は水系現像液が好ましく用いられる。
【0003】
感光性樹脂凸版に用いる印刷版の製造は、現像、リンス、水切り及び乾燥を行い、さらにその後に光硬化が不十分な部分を光硬化させる後露光で構成されるのが一般的である。感光性樹脂凸版を印刷版の製造装置は二つの方法に分類される。一つの方法は、セッター板と呼ばれる搬送板に感光性樹脂版を固定し、現像装置内にセッター板を挿入すると搬送ローラなどで、現像工程、リンス工程、水切り工程さらにはその後の乾燥工程、後露光工程など各工程ユニットに感光性樹脂版を順次搬送していく搬送タイプ(自動現像タイプ)のものである。もう一つの方法は搬送方法を使わずに一体型の現像・乾燥機で感光性樹脂版を現像工程、リンス、及び水切りを行った後に、乾燥工程で乾燥させるバッチ式のタイプである。
【0004】
このような自動現像装置では、リンス後に印刷版表面に付着している水をスポンジローラで吸い取る方法(特許文献1)やエアーによって水を吹き飛ばす方法(特許文献2)が行われてきた。一方、感光性樹脂印刷原版に求められる画像はより微細化し、例えば独立点では直径数十μmが求められている。その要求に対応するために、水切りにおいても画像再現性を低下しない水切り方法が要望されていた。
【0005】
スポンジロールとしては、特許文献1にスポンジロールが開示されており、市販の発泡ポリウレタンや発泡ポリエチレンなどのスポンジロールが検討されてきた。一方、特許文献1には水切りとしては柔らかい材質のスポンジロールが好ましいとしか記載されておらず、スポンジロールとしてどのような材質でどのような特性を持つスポンジロールを用いれば良いかが不明であった。
【0006】
感光性樹脂凸版の分野では、微細な画像が増加することで、新たな問題が発生していた。現像時に画像として光硬化が不十分であった微細なハイライト網点の表層部分が水切り時に水切りスポンジロールへ付着し、その付着物がさらに印刷版表面に転写して不要な画像を形成していた。そのような状況から、スポンジロールへの要求はさらに難しくなり、微細な画像間の水をも除去する優れた水切り性を保持しつつ、光硬化が不十分なハイライト網点部が水切りロールで剥離したとしてもスポンジロールへの付着や付着したものが印刷版への転写がないことが要求されている。又、さらに水切り性能を安定化するために連続使用中にスポンジロールの硬さが変化しないことも必要であった。
一方、エアーによって水を吹き飛ばす方法(特許文献2)では、非接触方式のために感光性樹脂硬化物が印刷版表面に転写することはないが、装置が大掛かりになるためにコンパクトな設計ができないことが問題であった。
【0007】
上記のような感光性樹脂凸版用水切りスポンジロールに対して、微細な画像間の水を除去する優れた水切り性を維持しつつ、水切りスポンジロールによって光硬化樹脂部分が水切りロールを介して印刷版への転写しないことを満足する高性能な水切りスポンジロールは未だ見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭61-27741号公報
【文献】特開2001-142198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
凸版印刷版の微細な画像間の水を除去する優れた水切り性、さらには光硬化が不十分なハイライト網点画像部分が水切りロールを介して印刷版へ転写しないという従来技術では達成できなかった高度な水切り処理を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、水切りロール処理工程に用いるロールが飽和吸水状態のポリビニルアルコール樹脂製スポンジロール(以下、「PVAスポンジロール」とも略す)であり、且つスポンジロール断面の樹脂層厚みが圧縮前の厚みを100として60~30%に圧縮されて連続的に水切りすることが上記の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の通りである。
【0011】
即ち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)ブラシ現像工程後に、セッター板に張り付けた凸版印刷版を搬送して水切りロールで圧着して水切りロール処理工程を有する搬送方式自動現像装置であって、前記水切りロール処理工程に用いる水切りロールが飽和吸水状態の、連続気孔を有するポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであり、且つスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮して連続的に水切りすることを特徴とする凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
(2)前記ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールがロール外周面の薄膜を除去したロールであり、且つスポンジロールの乾燥時の重量に対する飽和吸水率が600~1500倍であることを特徴とするに記載の凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
(3)前記ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールがホルマール化したポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであることを特徴とする(1)に記載の凸版印刷原版用搬送方式自動現像装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微細な画像間の水を除去する優れた水切り性、光硬化が不十分なハイライト網点画像部分が印刷版への転写しないこと、さらには水切りスポンジロールの硬さに変化が少ないという従来技術では達成できなかった高度な水切り処理を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の感光性樹脂版の自動現像装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明のポリビニルアルコール樹脂性スポンジロール取り付けの例と圧縮率を計算するための断面を示す図である。
図3】画像再現性を評価するテストチャートの一例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、少なくとも、ブラシ現像工程と水切りロール処理工程を有する自動現像装置であって、前記水切りロール処理工程に用いるロールが飽和吸水状態のポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであり、且つスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮して連続的に水切りすることを特徴とする凸版印刷原版用自動現像装置ある。
【0015】
本発明の自動現像装置で処理する樹脂凸版印刷版は、処理前に画像を形成するために、露光処理した印刷版である。露光処理した印刷版とは一般的にはネガティブ原画フィルムを感光性樹脂層に密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する方法や、CTP方式により画像マスクを形成した後、活性光線を照射する方法が挙げられる。活性光線の照射には、通常300~400nmの波長の光を照射できる高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、LEDランプ等が用いられる。ネガティブ原画フィルムや画像マスクを介して活性光線を照射することによって光硬化を行わせ、画像を形成する。
【0016】
次に本発明に使用できる好ましい自動現像装置の実施の形態について図1で説明する。
【0017】
感光性樹脂版はセッター板Bに貼り付けられて、自動現像機のブラシ現像工程、水切りロール処理工程、乾燥工程及び後露光工程を処理される。セッター板Bは感光性樹脂印刷版の搬送板であり、平面性と耐久性の面からステンレス、アルミ等の金属もしくはポリカーボネート樹脂等の硬質樹脂製であることが好ましい。セッター板Bの表面に粘着性のあるシートを貼り付けておき、そのシートに感光性樹脂版を貼り付けるようになっている。その他にセッター板Bに感光性樹脂版を貼り付ける方法として両面テープで貼り付ける方法がある。粘着シートとしてはシリコーンゴムシート、ニトリルゴムシート、ポリウレタン樹脂シートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
感光性樹脂版を貼り付けたセッター板Bを装置内に挿入すると搬送ローラで各工程に搬送される。搬送ローラは中央の金属製の芯金があり表面にゴムが巻かれている。ゴムの材質としてはニトリルゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどを使用することができる。発泡ゴムである場合、連続気泡構造だと現像液が接触するローラにおいてはローラ内部へ現像液が浸透することでローラが硬化し搬送不良を招く恐れがあるため独立気泡構造であることが好ましい。
【0019】
感光性樹脂版を貼り付けたセッター板Bは搬送ローラAで搬送され、感光性樹脂版はブラシ現像工程で現像処理される。現像工程は現像液タンクEから現像液が現像ブラシCに供給されながら感光性樹脂版の未光硬化部分を現像する。また、現像ブラシCには駆動装置が具備されており、回転運動を行うようになっていることが好ましい。なお、現像ブラシの運動は線運動、振動運動などであってもよい。現像ブラシは少なくとも基板と毛束からなる。基板の材質としては一般的に塩化ビニル板やポリカーボネート板、フェノール樹脂板などの樹脂版が用いられるが、それに限定されるものではない。ブラシの毛材質は一般的にナイロン6.10、ナイロン6.6、アクリル、ポリブチレンテレフタレートなどが用いられるがそれらに限定されるものではない。現像液としては、水を主成分とする液が好ましく用いられる。具体的には、水道水を用いることができるが、界面活性剤を含有した水道水を用いてもよい。現像液中に界面活性剤を含有することによって、現像速度を向上させる効果や、感光性樹脂成分が感光性樹脂版やブラシに付着することを防止する効果が得られる場合がある。界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステルナトリウム塩などのアニオン性界面活性剤、第4級アンモニウム塩型等のカチオン性界面活性剤やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系界面活性剤が使用される。その含有量は現像液中0.01重量%~10重量%が好ましく、0.1重量%~3重量%がより好ましい。現像時における現像液の液温は10~60℃が好ましく、20℃~40℃がより好ましい。
【0020】
このようにして得られた印刷画像を形成した感光性樹脂版は、リンス部に搬送され、7のリンス拡散ノズルから版面とスポンジロールの両者にリンス水を吹き付ける。吹き付けたリンス水は、現像部で版面に付着した不要なマスク層や樹脂分を洗い流して除去すると同時にスポンジロールに付着したハイライト網点樹脂も除去する。リンス水には水道水を用いることができる。その後、リンス水を供給された水切りスポンジローラーGの出口付近で感光性樹脂版の版面に付着した水分を吸水する。
【0021】
水切りスポンジローラーGは水飽和状態で水切りするものであり、水切りスポンジローラーへ常時リンス水を供給するものである。供給方法としては、版面用リンス拡散ノズルと共用しても良いし、独立した供給方法でも良いリンス供給量は一分間当たりの水量が2~8リッターであることが好ましく、水切りスポンジローラーを水飽和状態とすることができる。
【0022】
本発明の水切りスポンジロールGは、水切りロール回転軸の周囲に樹脂層を設けたスポンジロールであり、樹脂層には気孔を有する高吸水性のスポンジ状樹脂を用いる。ロール回転軸は樹脂性でも良いが、耐久性から金属製を用いることが好ましい。
【0023】
水切りスポンジロールとしては、ポリビニルアルコール樹脂製のスポンジロールGを用いる。ポリビニルアルコール樹脂製のスポンジロールとしては、化学発泡剤を用いた発泡体を硬化させる処理する方法や水溶液中でホリマリンと反応させたアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いる方法があるが、アセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いることが好ましい。アセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いた水切りスポンジロールは、微細な連続気孔を有するため、高吸水性と高保水性を満足し、さらに飽和吸水状態で弾性を有するために感光性樹脂硬化物が付着してもリンス水で簡単に取れるという優れた特性を有する。本発明の飽和吸水状態とは、水浸漬状態で吸水による重量増加が見らない状態を言い、本発明ではリンス水を連続的に供給することで達成できる。
【0024】
本発明に用いるポリビニルアルコール樹脂を用いた水切りスポンジロールGは、柔軟性及び弾性の面から飽和吸水倍率が600~1500倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは、800~1300倍である。
【0025】
本発明に用いるポリビニルアルコール樹脂を用いたスポンジロールGは、高吸水率を得るために気孔率が75~95%、好ましくは85~95%である。気孔率を特定の範囲とすることで、高吸水率を満足することができる。又、スポンジロール中の気孔の平均直径は30~150μmが好ましく、さらに好ましくは50~120μmである。ポンジロール中の気孔の直径を特定サイズとすることで高吸水率と高弾性を満足することができる。又、スポンジロール中の気泡は連続気孔であることが好ましく、連続気孔とすることで高吸水率を満足することができる。又、さらに連続気孔は立体網目構造であることが好ましく、毛細管現象による吸水性を発現させるためにロール外周面の薄膜を除去することが好ましい。
【0026】
本発明の水切り工程は、水切りスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮して連続的に水切りすることが好ましい。水切りスポンジロール中の樹脂層厚みの圧縮率が上記範囲を超えると画像の独立点が変形し、圧縮率が上記範囲未満では水切りが不十分となり、好ましくない。又、飽和吸水倍率が600~1500倍の水切りスポンジロールを用いて、水切りスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で水切りすることで、微細な画像間の水を除去することを可能である。さらに、飽和吸水倍率が600~1500倍のスポンジロールを用いることで、30~60%の圧縮率の範囲の押し圧によって感光性樹脂版の微細な画像を変形することもなく、良好な画像再現性を達成できる。
【0027】
本発明の水切りは、高吸水状態のPVAスポンジロールを飽和吸水状態で使用するにもかかわらず、スポンジロールに特定の圧縮率の押し圧を加えることで優れた水切りを可能とした。すなわち、スポンジロールが飽和吸水状態でありながら、押し圧を加えながら水切りすることで、スポンジロール樹脂層は加圧によってリンス水を吐き出した直後に圧力を開放されることで発生した吸引力で水切りが可能となるものと考えられる。さらに、PVAスポンジロールが飽和吸水状態で弾性を有するために、剥離したハイライト網点部分の感光性樹脂硬化物がPVAスポンジロールに付着しても簡単にリンス水で流して取り除くことが可能となった。
【0028】
本発明において、スポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮する方法としては、セッター板と水切りロール間の距離を狭くすることで圧縮率を高くできる。具体的には、金属回転軸を上下させることで圧縮率を上下させることができる。本発明の一例では、図2の通りに金属回転軸を上下させるために、スペーサーの長さを変化させることで金属回転軸の位置を上下できるようにした。
【0029】
本発明に用いるポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールの直径は40~80mmが好ましく、さらに好ましくは50~70mmが好ましい。スポンジロールの直径が上記範囲以下では圧縮効果が小さく、又、上記範囲を超えるとロールが大きくなるために現像装置内への設置が難しくなるので好ましくない。又、ロール断面中の樹脂層の厚みは、30~50mmの範囲であることが好ましく、範囲未満では厚みが少ないために吸水効果と圧縮効果が小さく、範囲を超えると圧縮による押し圧が大きくなるために画像再現性が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0030】
次に、アセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いたPVAスポンジの製造方法ついて説明する。セタール化ポリビニルアルコール樹脂はアルデヒドとしてホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)を用いてアセタール化した樹脂である。本発明に用いる特定の気孔率と気孔径のアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いたPVAスポンジロールを製造する方法としては、例えば重合度500な完全鹸化あるいは部分鹸化のポリビニールアルコールの水溶液に、硬化剤であるホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)、反応触媒、気孔剤としてのでんぷん等の水溶性高分子を加えて溶解均一化し、所定の型枠に流し込み、50~80℃程度の温度で15~20時間程度反応させることによって得ることができる。この方法で得られるものは微細連続気孔構造を有しており、その気孔率や気孔径は、用いるポリビニールアルコールの鹸化率、含有率、溶液濃度、気孔剤である水溶性高分子の種類や含有率によって変化させることができるため、本発明の好適な水切りPVAスポンジを得るにはこれらのことを考慮して製造すれば良い。
【0031】
アセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いたPVAスポンジロールの製造方法は、内側に剥型剤を塗布した成形型内にスポンジ材料を流し込み、中心に水切りロール軸の差込み孔を形成した連続気孔を有するスポンジロールを形成する。成形型から取り出されたスポンジロ-ルの軸差込み孔に金属製の水切りロール用回転軸を貫通固定し、そのスポンジロ-ルの外周面を切削して所定の直径を有する真円状水切りPVAスポンジロールを製造することができる。
【0032】
ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールは、吸水飽和状態を保って水切りを行う。そのために、ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールに対してリンス水を連続的に供給する。供給する方法としては、水切りスポンジロールの幅方向の全面をカバーするように並べて配置した拡散ノズルより水切りスポンジロールへ向けて噴射する方法や水切りスポンジロールに対して平行に並べたパイプの穴あけ部分より放水する方法やなどが考えられるが、拡散ノズルでシャワー状のリンス水を噴射する方式が安定した水供給の面より好ましい。水切りロールへのリンス水供給量としては、一分間当たりのリンス水量が2~8リッターで供給することが好ましい。
【0033】
セッター板B上に貼り付けられた感光性樹脂版は乾燥工程へと搬送される。乾燥工程はで熱風ノズル噴出し口より吹き出された熱風によって、水切りスポンジロールGで吸水しきれなかった水分を乾燥して水分を完全に除去することが好ましい。乾燥温度は20℃~80℃が好ましい。その後、後露光部に搬送され水銀ランプJにより感光性樹脂版に紫外線を照射することにより印刷版を得ることができる。
【0034】
本発明装置に適用される感光性樹脂版としては、水を主成分とする現像液で現像できるものであれば良く、特に限定されない。例えば水系、アルカリ水溶液系あるいはアルコール系洗出し液に溶解あるいは膨潤するポリアミドを必須成分とするポリアミド系感光性樹脂、ポリビニルアルコールを必須成分とするポリビニルアルコール系感光性樹脂、低分子不飽和基含有ポリエステルを必須成分とするポリエステル系感光性樹脂、及びポリウレタンを必須成分とするポリウレタン系感光性樹脂等が挙げられる。
【0035】
本発明の現像装置に適した感光性樹脂版中の感光性樹脂層の厚みとしては、300~1100μmの場合に水切り効果が大きく、特に500~900μmの範囲で効果が大きい。
【実施例
【0036】
<スポンジロール圧縮率>
スポンジロール圧縮率は以下の方法で測定した。
スポンジロール厚みの圧縮率は、圧縮前を0%として(圧縮による樹脂層厚みの変形量÷圧縮前の樹脂層厚み)×100で計算することができる。本発明の実施例では、圧縮された状態を示す図2の断面図で以下の計算式1で求めた。
〔計算式1〕式中の符号は以下を表す。
R1:PVAスポンジロールの直径
R2:PVAスポンジロール金属回転軸の直径
L1:スペーサーの長さ
L2:ロール軸ガイドの上(スペーサー止め具)からセッター板までの距離
【0037】
<印刷版再現性評価用テストチャート>
本発明のスポンジロールを用いた自動現像機で感光性樹脂凸版の画像再現性、水切り状態を評価するために図3のテストチャートを用いた。実施例ではA2サイズの印刷原版に対して、図3のテストチャート(ネガフィルム)を用いて10枚のテストチャートを同時に並べで紫外線露光によりイメージを作成し、自動現像機で処理してレリーフを得た。テストチャートは図3の通りの構成で、30μm、40μm、50μm、60μm、100μm幅の5本の細線を長さ50mm、間隔10mmで連続して並べた。なお、細線を並べる方向は、図3の通りに、自動現機の進行方向及び直角方向の二種類を準備した。独立点は、直径の100μm、200μm、300μmの独立点を各2個並べた。又、ハイライト網点は、図3の通りに、150LPI 1%、2%、3%の網点を20mm×20mmのサイズで並べた。
【0038】
<網点樹脂のレリーフ付着有無評価>
A2サイズの印刷原版(東洋紡製EF95GC A2サイズ)を準備し、10枚のテストチャート(ネガフィルム)を用いて紫外線露光でイメージングした後に自動現像機で処理した。得られたレリーフを20倍拡大ルーペで観察して、付着したハイライト網点樹脂がレリーフ表面上に確認された個数を確認した。判定はA2サイズの印刷原版を20枚連続処理し、以下の基準で判定した。
◎:1枚目から20枚目まで連続して作成したレリーフの全てに樹脂付着は確認されなかった。
○:1枚目から10枚目では樹脂付着が確認されなかったが、11枚目から20枚目の間で樹脂付着が1~3個確認された。
△:1枚目から10枚目で樹脂付着が1~3個を確認された。
×:1枚目から20枚目の間で4個以上確認した場合
【0039】
<細線間の水切り性評価>
テストチャートを紫外線露光でイメージングした感光性樹脂凸版(A2サイズ)を自動現像装置で現像中に、ポリビニルアルコールスポンジローラーから出たところで細線の間に水切り残りがあるか目視で観察した。判定はA2サイズの印刷原版を20枚連続処理し、以下の基準で判定した。
○:自動現像機の流れ方向に対して、平行な向きと垂直な向きのいずれの細線に対しても水切り残りが確認されなかった。
△:自動現像機の流れ方向に対して、平行な向きの細線では確認されなかったが、垂直な向きの細線で水切り残りが確認されなかった。
×:自動現像機の流れ方向に対して、平行な向きと垂直な向きのいずれの細線に対しても水切り残りが確認された。
【0040】
<100μm独立点保持性評価>
A2サイズの印刷原版(東洋紡製EF95GC A2サイズ)を準備し、10枚のテストチャート(ネガフィルム)を用いて紫外線露光でイメージングした後に自動現像機で処理し、得られた感光性樹脂凸版レリーフを20倍拡大ルーペで観察して、100μm独立点が倒れているものの個数を数えた。判定はA2サイズの印刷原版を20枚連続処理し、以下の基準で判定した。
○:倒れている独立点が確認されなかった。
△:倒れている独立点が1~2個確認された。
×:倒れている独立点が3個以上確認された。
【0041】
<飽和吸水率>
測定用サンプルとして、幅30mm、長さが50mm、厚み10mmのPVAスポンジをD真空乾燥機で一時間乾燥したPVAスポンジを準備し、絶乾状態の質量(A)を測定した。次に20℃の蒸留水に絶乾状態のPVAスポンジを24時間浸漬した後に取り出し、表面水を取り除いて飽和吸水後の重量(B)を測定した。飽和吸水率は以下の式で計算した。
飽和吸水率(質量%)=〔飽和吸水後の重量(B)〕÷〔絶乾状態の質量(A)〕×100
【0042】
製造例1
PVAロールDを以下の方法で製造した。
重合度1200の完全ケン化PVA0.9kgを温水に溶解し、全量を6.0リットルとした。次に、澱粉を0.3kgの水に分散したのち、上記PVA水溶液に加え全量を7.0リットルに調整した。上記PVAと澱粉との混合液を昇温して均一に混合した後、37%ホルムアルデヒド水溶液0.66リットルと50%硫酸1.82リットルとを加え、更に水を加えて全量を9.0リットルに調整して均質混合液となし、これを反応原液とした。この反応原液を内側に剥型剤を塗布した成形型内にスポンジ材料を流し込み、中心に水切りロール軸の差込み孔を形成した連続気孔を有するスポンジロールを形成する。成形型から取り出されたスポンジロ-ルの軸差込み孔に金属製の水切りロール用回転軸を貫通固定し、そのスポンジロ-ルの外周面を切削して所定の直径を有する真円状水切りスポンジロールを得た。その後に十分に水洗して硫酸,澱粉等を除去して、PVAスポンジロールを得た。得られたPVAスポンジロールの気孔率は80%であり、吸水率は400%であった。
【0043】
製造例2
PVAロールEを以下の方法で製造した。
製造例1の製造方法で、吸水率1500%を狙った3.5倍量の気孔剤としてでんぷんを添加して製造したが、安定した形態が保てないためにロールとして使用できなかった。
【0044】
<準備したスポンジロール>
PVAロールA: 気孔率90%、吸水率1100%の富士ケミカル社製シグナスロール
PVAロールB: 気孔率89%、吸水率1000%の富士ケミカル社製ベルイーターD 品番D
PVAロールC: 気孔率91%、吸水率1300%の富士ケミカル社製ベルイーターD 品番F
PVAロールD: 製造例1で製造した気孔率80%、吸水率400%のPVAスポンジロール
PVAロールE: 製造例1の製造方法で、吸水率1700%を得るために3倍量の気孔剤で水溶性高分子を添加して製造したが、安定した形態が保てないためにロールとして使用できなかった。
ポリウレタンロール: 気孔率83%、吸水率400%の井和工業製ソフラス
【0045】
実施例1
PVAロールA(富士ケミカル製シグナスローラー)を全長60mm、スポンジロールの直径70mmφ、スポンジロール芯(金属製回転軸)直径20mmφで準備し、東洋紡製自動現像機(TAP610)に装着した。装着方法はロール軸ガイドの間にスポンジローラー芯を入れ、軸の上からスペーサーを入れて圧縮率が35%になる位置で動かないようにスペーサー止め具で固定し、スポンジロールを圧縮した。リンス水の供給は、シャワー状のリンス水を噴射できる拡散ノズルを準備し、スポンジロールの幅方向に均等に広がるように拡散ノズルを配置し、一分間当たりのリンス水量が一分当たり8リッターの供給でスポンジロールの飽和吸水状態を維持した。感光性樹脂凸版は東洋紡製QF95JCを使った。20Wケミカルランプにて4分間露光によりテストパターンがイメージされた感光性樹脂凸版をセッター板Bに貼り付け自動現像機にセットした。自動現像機の搬送速度は300mm/分で運転し、性能を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例2~3は実施例1のPVAロールAを用いて、樹脂層厚みの圧縮率を変更して評価した。又、実施例4では実施例1のPVAロールAを吸水率1000%のPVAロールBへ変更し、実施例5では吸水率1300%のPVAロールCへ変更して評価した。
【0048】
比較例1は水切りスポンジローラーの材質をポリウレタンに変更して評価した。比較例2~3はPVAロールAの圧縮率を変更して評価した。比較例4はPVAロールAへのリンス水量を飽和吸水量に達しない水量を供給して評価した。比較例5は実施例1のPVAスポンジロールを吸水率400%のPVAロールDへ変更して評価した。
【0049】
表1の結果より、実施例1~3は水切りスポンジロールの圧縮率を30~60%で圧縮して連続的に水切りした凸版印刷原版用自動現像装置は、網点樹脂のレリーフ付着、細線間の水切り性評価及び100μm独立点保持性のいずれも優れていることが分かる。一方、ポリウレタン製スポンジロールでは性能が劣っていることが分かる。さらにスポンジロール圧縮率30%未満の比較例2では、水切り性が劣り。スポンジロール圧縮率60%を超える比較例3では、100μm独立点が押し圧で倒れるために画像再現性が低下した。スポンジロールへの水供給量が少ない比較例4では網点樹脂のレリーフ付着が発生した。
以下、本願出願当初に特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
1] 少なくとも、ブラシ現像工程と水切りロール処理工程を有する自動現像装置であって、前記水切りロール処理工程に用いる水切りロールが飽和吸水状態のポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールであり、且つスポンジロール中の樹脂層厚みを30~60%の圧縮率で圧縮して連続的に水切りすることを特徴とする凸版印刷原版用自動現像装置。
[2] 前記ポリビニルアルコール製スポンジロールの乾燥時の重量に対する飽和吸水率が600~1500倍であることを特徴とする[1]に記載の凸版印刷原版用自動現像装置。
[3] 前記ポリビニルアルコール樹脂製スポンジロールがホルマール化したポリビニルアルコール製スポンジロールであることを特徴とする[1]に記載の凸版印刷原版用自動現像装置。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の自動現像装置は、網点樹脂のレリーフ付着がなく、細線間の水切り性や独立点保持性にも優れることから産業界に大いに寄与できる。
【符号の説明】
【0051】
1:スペーサー止め具
2:搬送ゴムロール
3:セッター板
4:リンス液ノズル
5:スペーサー
6:水切りスポンジロール(PVAスポンジロール)
A:搬送ゴムロール
B:セッター板
C:現像ブラシ
D:搬送ガイド
E:現像液タンク
F:リンス液ノズル
G:水切りスポンジロール(6の水切りスポンジロールと同じ)
H:リンス液受け
I:熱風ノズル噴出し口
J:水銀灯ランプ
K:熱風ノズル吸い込み口
L:現像液移送ライン
R1:PVAスポンジロールの直径
R2:PVAスポンジロール金属回転軸の直径
L1:スペーサーの長さ
L2:ロール軸ガイドの上からセッター板までの距離
図1
図2
図3