IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立工機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気機器 図1
  • 特許-電気機器 図2
  • 特許-電気機器 図3
  • 特許-電気機器 図4
  • 特許-電気機器 図5
  • 特許-電気機器 図6
  • 特許-電気機器 図7
  • 特許-電気機器 図8
  • 特許-電気機器 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電気機器
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20221122BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20221122BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221122BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20221122BHJP
【FI】
H02J7/00 S
B25F5/00 C
B25F5/00 H
H01M10/48 P
H01M50/20
H02J7/00 K
H02J7/00 301B
H02J7/00 302C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018086285
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019193498
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原野 友敬
(72)【発明者】
【氏名】渡部 伸二
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-161603(JP,A)
【文献】特開2014-017954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0256502(US,A1)
【文献】特開2016-218525(JP,A)
【文献】独国実用新案第202017101159(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B25F 5/00
H01M 50/20
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池パックと、
前記電池パックに装着される電気機器本体と、
を有する電気機器であって、
前記電池パックは、
複数の電池セルが直列接続された第一及び第二セルユニットと、
前記第一セルユニットの正極に接続された第一正極端子と、
前記第一セルユニットの負極に接続された第一負極端子と、
前記第一負極端子に対して離れた位置において前記第一正極端子と電気的に非導通状態で第一のスロットに並んで配置され、前記第二セルユニットの正極に接続された第二正極端子と、
前記第一正極端子及び前記第二正極端子に対して離れた位置において前記第一負極端子と電気的に非導通状態で第二のスロッに並んで配置され、前記第二セルユニットの負極に接続された第二負極端子と、
を有し、
前記電気機器本体は、
前記第一正極端子に接続される正極入力端子と、
前記第二負極端子に接続される負極入力端子と、
前記第一負極端子と前記第二正極端子とを互いに接続可能に構成された短絡回路と、
前記短絡回路によって互いに接続された前記第一及び第二セルユニットから電力供給を受けて駆動するよう構成された負荷装置と、
を有し、
前記短絡回路は、前記第一負極端子と前記第二正極端子とを互いに接続する導通状態と、前記第一負極端子と前記第二正極端子とを互いに切断する切断状態とを有し、前記第一正極端子と前記第二正極端子との間に短絡が発生した場合、又は、前記第一負極端子と前記第二負極端子との間に短絡が発生した場合に前記短絡回路が前記切断状態になるよう構成されたことを特徴とする電気機器。
【請求項2】
前記短絡回路は、前記第二正極端子に接続される第一短絡用端子と、前記第一負極端子に接続される第二短絡用端子と、を有することを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項3】
前記第一短絡用端子と前記第二短絡用端子との間に設けられ、前記短絡が発生した場合に前記短絡回路を切断状態にする切断部を有することを特徴とする請求項2に記載の電気機器。
【請求項4】
前記切断部はメインスイッチを有し
前記電池パックが前記電気機器本体に装着された際に、前記第一正極端子と前記第二正極端子の間又は前記第一負極端子と前記第二負極端子の間が短絡している場合は前記メインスイッチを開いて前記第一セルユニットと前記第二セルユニットを直列接続せず、短絡していない場合は前記メインスイッチを閉じて前記第一セルユニットと前記第二セルユニットを直列接続するように構成したことを特徴とする請求項に記載の電気機器。
【請求項5】
前記第一正極端子、前記第二正極端子、前記第一負極端子、前記第二負極端子の端子電圧を検出するマイコンを有し、
前記メインスイッチは前記マイコンによってオンオフが制御されることを特徴とする請求項4に記載の電気機器。
【請求項6】
前記短絡回路と並列接続される抵抗付きのバイパス接続回路を設け、
前記電池パックが前記電気機器本体に装着された際には、前記メインスイッチをオフにした状態で前記バイパス接続回路によって端子間の短絡の有無を検出することを特徴とする請求項5に記載の電気機器。
【請求項7】
前記バイパス接続回路に、前記抵抗と直列接続となる第二スイッチを設け、
前記第二スイッチは前記マイコンによってオンオフが制御可能であり、
前記マイコンは前記メインスイッチをオンにした際に前記第二スイッチをオフにすることを特徴とする請求項6に記載の電気機器。
【請求項8】
前記メインスイッチとして半導体スイッチング素子を用い、
前記マイコンが停止している際には、前記半導体スイッチング素子が切断状態を維持することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項9】
前記マイコンによってオンオフ制御可能な第三スイッチと、
前記第三スイッチを介して前記第一正極端子と前記第一負極端子の間の分圧電圧を取り出す回路と、を有し、
前記マイコンは取り出された分圧電圧を用いて前記半導体スイッチング素子のオンオフを行うことを特徴とする請求項8に記載の電気機器。
【請求項10】
前記第三スイッチはフォトカプラであって、前記フォトカプラと直列に接続される2つの抵抗の分圧電圧が前記半導体スイッチング素子に接続されることを特徴とする請求項9に記載の電気機器。
【請求項11】
前記マイコンは、前記第一正極端子と前記第二正極端子の間、又は、前記第一負極端子と前記第二負極端子の間で短絡が生じていることを検出したら、アラームを発すると共に前記メインスイッチのオフ状態を保つことを特徴とする請求項5から10のいずれか一項に記載の電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池パックを用いてモータ、照明等の負荷を稼働させる電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動工具等の電気機器が、リチウムイオン電池等の二次電池を用いた電池パックにて駆動されるようになり、電気機器のコードレス化が進んでいる。電池パックは電気機器本体に着脱可能に構成され、放電によって電圧が低下したら電池パックを電気機器本体から取り外して、外部充電装置を用いて充電される。通常、電池パックの出力電圧は固定であるが、特許文献1では電池を収容するハウジング内に複数のバッテリユニットを設け、それらを直列接続として出力するか、並列接続として出力するかを接続手段により選択可能とすることにより、異なる電圧の機器に対応可能とした電気機器用の電源装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-17954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザにとって、複数の電気機器を使用する際に、それぞれ別種類の電池パックを準備するのは煩雑であり、電圧を切り替えることで異なる電圧の電気機器にも対応する使い勝手の良い電池パックの実現が望まれている。また、電圧の切り替えに際して特別な操作が不要であって、操作ミス発生の虞がない使い勝手の良い電気機器の実現が望まれている。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は高電圧と低電圧の出力電圧を切り替え可能とした電池パックを装着した際に、複数有する正極端子群、複数有する負極端子群における短絡や接触不良等の異常の事前検知できるようにした電気機器を提供することにある。
本発明の他の目的は、高電圧と低電圧の出力電圧を切り替え可能とした電池パックを装着した際に、複数有する正極端子群、負極端子群における短絡発生の有無を判定した後で2組のセルユニットの直列接続を確立するようにした電気機器を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、高電圧と低電圧の出力電圧を切り替え可能とした電池パックを接続した際に、正極端子群と負極端子群のいずれかに短絡が発生している場合は、電池パックから電気機器への電力経路を遮断したままとする電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、複数の電池セルが直列接続された第一セルユニットと第二セルユニットを有し、第一セルユニットからの第一正極端子及び第一負極端子と、第二セルユニットからの第二正極端子及び第二負極端子が独立して設けられた電池パックと、第一正極端子に接続される正極入力端子と、第二負極端子に接続される負極入力端子と、第一負極端子と第二正極端子を短絡させる短絡回路を有する電気機器本体を有する電気機器本体からなり、電池パックが脱着可能とされた電気機器において、短絡回路にメインスイッチを介在させ、電池パックが電気機器本体に装着された際に、第一正極端子と第二正極端子の間又は第一負極端子と第二負極端子の間が短絡している場合はメインスイッチを開いて第一セルユニットと第二セルユニットを直列接続を阻止し、一方、短絡していない場合はメインスイッチを閉じて第一セルユニットと第二セルユニットを直列接続するように構成した。このように、電池パックの複数のセルユニットを直接接続する前に各端子間の短絡の有無をチェックするようにしたので、短絡発生による電気機器の破損を予防できる。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、短絡回路と並列接続とされる抵抗付きのバイパス接続回路を設け、電池パックが電気機器本体に装着された際には、メインスイッチをオフにした状態でバイパス接続回路によって端子間の短絡の有無を検出する。バイパス接続回路は高い値の抵抗器が直列に介在され、電流の測定用だけに用いられるため、メインスイッチを接続する前に安全に各端子の短絡の有無をチェックできる。電気機器本体側には、第一正極端子、第二正極端子、第一負極端子、第二負極端子の端子電圧を検出するマイコンを設けて、これら検出結果に応じてマイコンがメインスイッチのオン又はオフを制御する。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、メインスイッチとして半導体スイッチング素子を用い、マイコンが停止している際には、半導体スイッチング素子が切断状態を維持する。また、バイパス接続回路に、抵抗と直列接続となる第二スイッチを設け、第二スイッチはマイコンによってオンオフが制御可能であり、マイコンはメインスイッチをオンにした際に第二スイッチをオフにする。このようにバイパス接続回路はメインスイッチがオンの際には接続が解除されるので、抵抗器によって無駄な電流が消費される虞を防止できる。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、マイコンは、第一正極端子と第二正極端子の間、又は、第一負極端子と第二負極端子の間で短絡していることを検出したら、アラームを発すると共にメインスイッチのオフ状態を保つようにした。また、マイコンによってオンオフ制御可能な第三スイッチを介して第一正極端子と第一負極端子の間の分圧電圧を取り出す回路を設け、取り出された分圧電圧を用いて半導体スイッチング素子のオンオフを行うことによって、低電圧にて駆動するマイコンからでも大電力の接続又は遮断を行うメインスイッチ素子を安定的に制御できる。第三スイッチは例えばフォトカプラであって、フォトカプラと直列に接続される2つの抵抗の分圧電圧が半導体スイッチング素子に接続される。
【0010】
本発明のさらに他の特徴によれば、複数の電池セルが直列接続された第一セルユニットと第二セルユニットを有する電池パックと、第一セルユニットの一つの端子と第二セルユニットの一つの端子を短絡させる短絡回路を有する電気機器本体を有し、電池パックが電気機器本体に装着された際に第一セルユニットと第二セルユニットの直列接続回路が確立されるようにした電気機器において、短絡回路に遅延接続手段を設け、電気機器本体に電池パックからの出力を監視するマイコンを設け、接続用の端子群に接続異常が生じていない場合に短絡回路を接続させ、接続異常が生じている場合には短絡回路を接続しない状態を維持するようにした。マイコンは、第一正極端子と第二正極端子の間、第一負極端子と第二負極端子の間の電位差を測定することによって接続異常を検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数設けられた接続端子間の短絡に起因する故障の発生を効果的に阻止することができる。また、接続端子間の短絡が発生した際は、電池パックからの電源供給経路を接続しないようにした電気機器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る電池パック100の電動工具本体1、201への装着状況を説明するための図である。
図2】本発明の実施例に係る電池パック100の斜視図である。
図3】(A)は正極端子(162と172)、負極端子(167と177)の形状を示す部分斜視図と高電圧出力時の接続回路を示す図であり、(B)は高電圧電気機器のターミナル部50と、電池パック100側の端子との接続状況を示すための部分斜視図である。
図4】(A)は正極端子(162と172)、負極端子(167と177)の形状を示す部分斜視図と低電圧出力時の接続回路を示す図であり、(B)は低電圧電気機器のターミナル部220と、電池パック100側の端子との接続状況を示すための部分斜視図である。
図5】電池パック100の基本的な内部回路を示すブロック図である。
図6】電圧自動切替式の電池パック100を接続する高電圧用の電気機器の回路図である。
図7】本実施例に係る高電圧用電気機器(電動工具本体1)の回路図である。
図8図7のメインスイッチ63、第二スイッチ68、第三スイッチ65の詳細回路図である。
図9】本実施例に係る高電圧用電気機器(電動工具本体1)における電池パック100の装着時のマイコン60の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。本明細書においては、電気機器の一例として電池パックにて動作する電動工具を用いて説明するものとする。
【0014】
図1は本実施例に係る電池パックの電動工具への装着状況を説明するための図である。電気機器の一形態である電動工具には様々な種類のものがあり、現在広く用いられている定格18Vの電池パックを用いる電動工具に加えて、より高出力が得られる定格36Vの電池パック100を用いる電動工具が市販されている。また、出願者によって定格18Vの電動工具本体201又は定格36Vの電動工具本体1のいずれにも装着可能な電池パック100が市販されている。
【0015】
図1で示す電動工具本体1、201はいずれもインパクト工具と呼ばれるものである。電動工具本体1、201は、図示しないビットやソケットレンチ等の先端工具を出力軸10、210に装着し、先端工具に回転力や軸方向の打撃力を加えることにより締め付け作業を行う工具である。ここでは出力軸10に断面形状が六角形状の六角穴(図示せず)が形成され、ワンタッチ式の装着機構8、208が設けられる。電動工具本体1、201は、外形を形成する外枠たるハウジング2、202を備える。ハウジング2、202は、略筒状の胴体部2a、202aと、胴体部2a、202aの軸方向中央付近から直交方向(下方)に延在するハンドル部2b、202bが形成される。ハンドル部2b、202bの一部であって作業者が把持した際に人差し指があたる付近には、トリガ状の動作スイッチ4、204が設けられる。動作スイッチ4、204の近傍には、出力軸10、210の回転方向を切り換える為の正逆切替レバー5、205が設けられる。ハンドル部2b、202bの下方には電池パック100を装着するための電池パック装着部2c、202cが形成される。
【0016】
電動工具本体201は定格電圧18Vの電池パックを用いる従来の電気機器である。18V専用の従来の電池パック(図示せず)の内部には、定格3.6Vのリチウムイオン電池のセル5本を直列接続してなるセルユニットが1組だけ収容されるか、又はこのようなセルユニットが2組収容されて互いに並列接続される。電動工具本体1は定格電圧36Vの電池パックを用いる本実施例の電気機器本体である。36V対応の電池パック100の内部には、定格3.6Vのリチウムイオン電池のセル5本を直列接続してなるセルユニットが2組収容され、これら2つのセルユニットを直列接続した状態とすることで36Vの定格出力が得られる。尚、本明細書では、電圧18Vを、36Vに比べて低い電圧であるという意味で「低電圧」と呼ぶ。そして36Vを「高電圧」と呼ぶ。
【0017】
従来の18V用の電池パック(図示せず)は、電動工具本体201に装着することができる。これに対して本実施例の電池パック100は、電池パック100側の端子構成と、電動工具本体1の機器側のターミナル部50の端子構成を工夫することにより、電動工具本体201にも電動工具本体1にも装着できるようにした。電池パック100を矢印a1のように18V用の電動工具本体201に装着すると電池パック100の出力が自動的に18Vとなり、矢印a2のように36V用の電動工具本体1に装着すると電池パック100の出力が自動的に36Vとなるように構成した。
【0018】
電動工具本体1は、定格電圧36Vの電気機器本体であり、矢印a2に示すように36Vの出力も可能な電池パック100を電池パック装着部2cに装着する。電池パック100の内部には、3.6Vのリチウムイオン電池のセルが5本直列接続されたセルユニットが2組収容され、2組のセルユニットの接続方法の変更により、18V出力と36V出力の双方を切り換えることができる。このように、低電圧と高電圧の出力を可能とした電池パック100は、ここでは「電圧可変電池パック」と呼ぶ。電池パック100を矢印a1、a2のように異なる電圧の電動工具本体1、201に装着するためには、電池パック装着部2c、202cのレール部や端子部の形状をほぼ同じ形状にすることと、電池パック100の出力電圧を切り替え可能にすることが重要である。この際、電池パック100の出力電圧が、装着される電気機器本体や電動工具本体の定格電圧と確実に対応できるようにし、電圧設定ミスが生じないようにすることが重要である。
【0019】
図2は本発明の実施例に係る電池パック100の斜視図である。電池パック100は電池パック装着部2c、202c(図1参照)に対して取り付け及び取り外しが可能であって、電動工具本体1又は201側のターミナル形状に応じて、低電圧(ここでは18V)と高電圧(ここでは36V)の出力が自動で切り替わるようにしたものである。また、従来の定格18V用の電池パックと取り付け上の互換性を持たせるために、電池パック100の装着部分の形状は従来の電池パックと同じとしている。電池パック100の筐体は、上下方向に分割可能な下ケース101と上ケース110により形成される。上ケース110は、電池パック装着部2cに取り付けるために2本のレール138a、138bが形成された装着機構が形成される。レール138a、138bは、電池パック100の装着方向と平行な方向に延びるように、且つ、上ケース110の左右側面に突出するように形成される。レール138a、138bは、電動工具本体1の電池パック装着部2cに形成されたレール溝(図示せず)と対応した形状に形成され、レール138a、138bが電気機器本体側のレール溝と嵌合した状態で、ラッチ141の爪となる係止部142にて係止することにより電池パック100が電動工具本体1、201に固定される。電池パック100を電動工具本体1、201から取り外すときは、左右両側にあるラッチ141を押すことにより、係止部142が内側に移動して係止状態が解除されるので、その状態で電池パック100を装着方向と反対側に移動させる。
【0020】
上ケース110の下段面111と上段面115は階段状に形成され、それらの接続部分から後方側に延びる複数のスロット121~128が形成される。スロット121~128は電池パック装着方向に所定の長さを有するように切り欠かれた部分であって、この切り欠かれた部分の内部には、電動工具本体1、201又は外部の充電装置(図示せず)の機器側端子と嵌合可能な複数の接続端子(図4にて後述)が配設される。スロット121~128は、電池パック100の右側のレール138aに近い側のスロット121が充電用正極端子(C+端子)の挿入口となり、スロット122が放電用正極端子(+端子)の挿入口となる。また、左側のレール138bに近い側のスロット127が負極端子(-端子)の挿入口となる。正極端子と負極端子の間には、電池パック100と電動工具本体1、201や外部の充電装置(図示せず)への信号伝達用の複数の信号端子が配置され、ここでは信号端子用の4つのスロット123~126が電力端子群の間に設けられる。スロット123は予備の端子挿入口であり、本実施例では端子は設けられない。スロット124は電池パック100の識別情報となる信号を電動工具本体又は充電装置に出力するためのT端子用の挿入口である。スロット125は外部の充電装置(図示せず)からの制御信号が入力されるためのV端子用の挿入口である。スロット126はセルに接触して設けられた図示しないサーミスタ(感温素子)による電池の温度情報を出力するためのLS端子用の挿入口である。負極端子(-端子)の挿入口となるスロット127の左側には、さらに電池パック100内に含まれる電池保護回路(図示せず)による異常停止信号を出力するLD端子用のスロット128が設けられる。
【0021】
上段面115の後方側には、隆起するように形成された隆起部132が形成される。隆起部132の中央付近に窪み状のストッパ部131が形成される。ストッパ部131は、電池パック100を、電池パック装着部2c、202cに装着した際に突き当て面となる。電池パック100が電動工具本体1、201の所定の位置に装着されると電動工具本体1、201に配設された複数の端子(機器側端子)と電池パック100に配設された複数の接続端子が接触して導通状態となる。
【0022】
図3(A)は本実施例の正極端子(162と172)、負極端子(167と177)の形状を示す部分斜視図と高電圧出力時の接続回路を示す図であり、(B)は高電圧用電気機器のターミナル部50と、電池パック100側の端子との接続状況を示すための部分斜視図である。図3(A)に示すように、電池パック100のスロット122には、上側正極端子162と下側正極端子172が並んで配置される。上側正極端子162と下側正極端子172は金属板のプレス加工によって形成され、脚部を回路基板150に半田付け等により強固に固定したものである。上側正極端子162と下側正極端子172は距離を隔てて配置され、電気的に非導通状態にある。同様にしてスロット127には、上側負極端子167と下側負極端子177が並んで配置される。上側正極端子162と上側負極端子167、下側正極端子172と下側負極端子177は同じ金属部品である。
【0023】
電池パック100の内部には、5本のリチウムイオン電池セルが直列に接続された上側セルユニット(第一セルユニット)146と下側セルユニット(第二セルユニット)147が収容され、上側セルユニット146の正極が第一正極端子に相当する上側正極端子162に接続され、上側セルユニット146の負極が第一負極端子に相当する下側負極端子177に接続される。同様にして、下側セルユニット147の正極が第二正極端子に相当する下側正極端子172に接続され、下側セルユニット147の負極が第二負極端子に相当する上側負極端子167に接続される。このような電池パック100の形態において、電動工具本体1側の正極用入力端子を上側正極端子162に接続し、負極用入力端子を上側負極端子167に接続するとともに、点線59で示すように下側正極端子172と下側負極端子177を電気的に接続すれば、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続の出力、即ち定格36Vが電池パック100から電動工具本体1の負荷装置70に出力されることになる。
【0024】
図3(B)は定格36Vの電動工具本体1のターミナル部50と、電池パック100側の接続端子(162、167、172,177)との接続関係を示す図である。ターミナル部50は、電動工具本体1の電池パック装着部2cに設けられる。ターミナル部50には、電池パック100のスロット121~128(図2参照)に対応する機器側端子(52、59a、54~56、57、59b、58)が設けられ、合成樹脂製の基台51に鋳込まれるようにして固定される。基台51の上側の接続端子部と、下側の板状の端子部であって同じ参照符号の部分は電気的に導通されている金属板により構成される。ここではスロット123(図2参照)に対応する位置には機器側端子は設けられない。電力用の入力端子として、受電用の正極入力端子52と、負極入力端子57が小さいサイズで、短絡用端子59a、59bの上側に設けられる。正極入力端子52と短絡用端子59aは導通していない。また、負極入力端子57と短絡用端子59bは導通していない。
【0025】
電池パック100の装着時において、正極入力端子52は上側正極端子162だけに嵌合し、負極入力端子57は上側負極端子167だけに嵌合する。また、電動工具本体1のターミナル部50には、下側正極端子172と下側負極端子177を短絡させる小さい端子59a、59bが設けられる。小さい端子59a、59bは、後述する短絡回路59を用いて電気的に接続(短絡)するためのものである。
【0026】
正極入力端子52は、上側負極端子162と嵌合する部分であって平板状に形成された端子部と、電動工具本体1側の回路基板側との結線を行うものであって基台51の上方に突出する端子部により構成される。正極入力端子52は合成樹脂製の基台51に鋳込まれる。負極入力端子57も正極入力端子52と同様であって、端子部57の高さが、他の端子部(54~56、58)に比べて半分よりやや小さい程度の大きさとされる。他の端子部(54~56、58)は信号伝達用の端子である。ターミナル部50の合成樹脂製の基台51の前側と後側には、ハウジングによって挟持されるための凹部51aと51bが設けられる。
【0027】
図3(B)において、電池パック100を装着する際には、電池パック100を電動工具本体1に対して差し込み方向に沿って相対移動させると、正極入力端子52と短絡用端子59bが同一のスロット122(図3参照)を通って内部まで挿入され、上側正極端子162と下側正極端子172にそれぞれ嵌合される。このとき、正極入力端子52が上側正極端子162の嵌合部間を押し広げるようにして上側正極端子162の腕部162aと162bの間に圧入され、短絡用端子59bが下側正極端子172の腕部172aと172bの間を押し広げるようにして圧入される。同様にして、負極入力端子57と短絡用端子59bが同一のスロット127(図2参照)を通って内部まで挿入され、それぞれ上側負極端子167と下側負極端子177に嵌合される。この際、負極入力端子57が嵌合部間を押し広げるようにして上側負極端子167の腕部167aと167bの間に圧入される。さらに、短絡用端子59bが下側負極端子177の腕部177aと177bの間を押し広げるようにして圧入される。このように図3(B)の接続形態の実現によって、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続の出力、即ち定格36Vが電池パック100から出力されることになる。
【0028】
図4(A)及び(B)は、従来の18V用の電動工具本体201(図1参照)に本実施例の電池パック100を装着した際の接続状態を示す図である。電池パック100が電動工具本体201に取り付けられるときは、正極入力端子222の端子部は、上側正極端子162と下側正極端子172の開口端部の双方を押し広げるように嵌合圧入されて、正極入力端子222の端子部の上側一部の領域が上側正極端子162と接触し、下側一部の領域が下側正極端子172と接触する。このように正極入力端子222の端子部を上側正極端子162の腕部162a、162bと下側正極端子172の腕部172a、172bに同時に嵌合させることによって、2つの正極端子(162と172)が短絡状態となる。同様にして負極入力端子227の端子部は、上側負極端子167と下側負極端子177の開口端部の双方を押し広げるように嵌合圧入されて、負極入力端子227の端子部の上側一部の領域が上側負極端子167と接触し、下側一部の領域が下側負極端子177と接触する。このように負極入力端子227の端子部を上側負極端子167の腕部167a、167bと下側負極端子177の腕部177a、177bに同時に嵌合させることによって、2つの負極端子(167と177)が短絡状態となり、電動工具本体201には上側セルユニット146と下側セルユニット147の並列接続の出力、即ち定格18Vが出力される。
【0029】
以上のように本実施例の電池パック100は、18V用の電動工具本体201か36V用の電動工具本体1のいずれかに装着することにより、電池パック100の出力が自動的に切り替わる。この電圧切り替えは電池パック100側にて行うのではなくて、電動工具本体1、201側のターミナル部の形状によって自動的に行われるので、電圧設定ミスが生ずる虞が全くない。また、電池パック100側には、機械的なスイッチのような専用の電圧切替機構を設ける必要が無いので、構造が単純で故障の虞が低く、長寿命の電池パックを実現できる。
【0030】
電池パック100を外部充電装置(図示せず)を用いて充電する場合は、従来の18V用電池パックと同じ充電装置にて充電が可能である。電池パック100のスロット121には、上側正極端子162と下側正極端子172と同等の形状の充電用の正極端子が設けられるので、放電用の正極端子(162、172)の代わりに、充電用の正極端子(図示せず)を外部充電装置(図示せず)の正極端子に接続するようにすれば良い。このように電池パック100は、上側セルユニット146と下側セルユニット147を並列接続させた状態として18V用の充電装置を用いて充電を行うので、本実施例の電池パック100を充電するにあたって、新しい充電装置を準備しなくて済むという利点がある。
【0031】
図5は本実施例の電池パック100の内部回路を示すブロック図である。ここでは上側セルユニット146及び下側セルユニット147に対する、マイコン195と保護IC180、190の接続状況を説明するための基本的な構成部分だけを図示しており、その他の関連する回路、特に、本体機器側の信号端子とのやりとりを行うための回路等の図示を省略している。電池パック100は、図4にて示したように上側正極端子(上+)162と、下側正極端子(下+)172と、上側負極端子(上-)167と、下側負極端子(下+)177を有して構成される。電池パック100にはこれら以外に、その他の信号端子群(T端子、V端子、LS端子、LD端子)が設けられるが、ここではそれらの図示を省略している。上側正極端子162と下側負極端子177には、上側セルユニット146の出力が接続される。即ち、上側セルユニット146の正極(+出力)が上側正極端子162に接続され、上側セルユニット146の負極(-出力)が下側負極端子177に接続される。同様にして、下側セルユニット147の正極(+出力)が下側正極端子172に接続され、下側セルユニット147の負極(-出力)が上側負極端子167に接続される。
【0032】
上側セルユニット146と下側セルユニット147にはそれぞれ、電池セルの電圧を監視するための保護IC180、190が接続され、これら保護IC180、190にはマイコン195が接続される。保護IC180は、上側セルユニット146の各電池セルの両端電圧を入力することにより、過充電保護機能、過放電保護機能の他、セルバランス機能、カスケード接続機能、断線検出機能を実行するもので、“リチウムイオン電池用保護IC”として市販されている集積回路である。また、保護IC180は、上側セルユニット146の電池セルの電圧が所定値未満に低下して過放電状態になった場合は、過放電を示す信号(ハイ信号)183をマイコン195に出力し、上側セルユニット146の電池セルの電圧が充電時に所定値以上に到達して過充電状態でなった場合は、過充電を示す信号(ハイ信号)184をマイコン195に出力する。
【0033】
下側セルユニット147には保護IC190が接続される。ここでは、下側セルユニット147の回路中、即ち下側正極端子172と上側負極端子167の間の回路中には、マイコン195がさらに設けられる。つまり、上側セルユニット146と並列に設けられる保護回路が保護IC180だけで構成されるのに対して、下側セルユニット147と並列に設けられる保護回路は、保護IC190とマイコン(Micro Controller Unit)195を含む。マイコン195には、保護IC180からの出力(過放電信号183、過充電信号184)と、保護IC190からの出力(過放電信号191、過充電信号192)が入力される。マイコン195には、例えばアナログ・フロント・エンド(AFE)と呼ばれる電圧検出回路を含み、電流検出回路193の出力電圧から下側セルユニット147に流れる電流値を測定する。マイコン195の駆動用の電源は、下側セルユニット147に接続される電源回路185によって生成され、電源電源(VDD1)がマイコン195に供給される。下側セルユニット147のグランド側には電流値を測定するためのシャント抵抗194が設けられる。
【0034】
マイコン195は、電流値やセル温度の監視を行うと共に、上側セルユニット146と下側セルユニット147の状態を監視して双方の動作状況を統合して制御する。また、電動工具本体1の緊急的な停止が必要となった場合には、図示しないLD端子を介して放電禁止信号を電気機器本体側に送出する。保護IC190は下側セルユニット147内の電池セルの電圧を監視し、電圧が所定の下限値まで低下した状態(過放電状態)を検出した場合に過放電信号191をマイコン195に送出する。また、図示しない外部の充電装置に電池パック100が装着されて、充電が行われている際に、保護IC190は電池セルの電圧が所定の上限値を越えたことを検出した場合に、過充電状態を示す過充電信号192をマイコン195に送出する。マイコン195は図示しないLS端子を介して図示しない充電装置に充電停止信号を送出する。
【0035】
電源回路185は、下側セルユニット147の電力によってマイコン195の動作用の電源を生成するものである。本実施例の電池パック100は、18Vと36Vの電圧切替式なので、上側セルユニット146側の保護回路にマイコンを搭載すると、2つのセルユニットの直列接続時と並列接続時において、マイコン195のグランド電位が変わってしまう。一方、下段側に電源回路185を設けるのであれば電源回路185のグランド電位は変化しない。そこで、本実施例ではマイコン195を上側セルユニット146の回路中では無くて、下側セルユニット147の回路中に設けた。このマイコン195の配置により、出力電圧を定格18Vと36Vの切替式としてもマイコン195を安定して稼働できる。マイコン195は、自身にかかる電源電圧(VDD1)の保持と、解除を切り替えることができ、通常動作状態(ノーマルモード)と動作停止状態(いわゆるスリープモード)を有する。
【0036】
マイコン195には、上側正極端子162に接続される上側電圧検出回路182の出力が入力される。この出力は、電池パック100が電動工具本体1、201や外部充電装置(図示せず)に装着されていない場合は、上側セルユニット146の電位を示す。一方、低電圧(18V)用の電動工具本体1に装着された場合、上側正極端子162と下側正極端子172が接続されるため、上側セルユニット146と下側セルユニット147の各々の正極が同電位となり、各々の負極が同電位となる。このことからマイコン195は、上側正極端子162の電位と、下側正極端子172の電位を比較することによって、電池パック100が非装着の状態であるか、低電圧機器本体に装着されているか、高電圧機器に装着されているかを判別できる。尚、下側正極端子172の電位検出のためには、下側セルユニット147内の電池セルのうち最上位の電池セル147aの正極電位をマイコン195が取得できるように構成すると良い。図5では図示していないが、電池パック100からの電力供給を止めなければならない状況、例えば、放電時の過大電流、放電時のセル電圧の低下(過放電)、セル温度の異常上昇(過温度)等が生じた際には、マイコン195を介して電動工具本体側にLD信号を伝達することで、電動工具本体1、201の動作を素早く停止できる。
【0037】
図6は電池パック100が装着される電動工具本体(高電圧用電気機器)1の回路図であり、短絡回路(短絡経路)59にスイッチを用いない基本的な回路構成である。右側が電池パック100であり、具体的な回路構成は図5で示したものとなるが、ここでは説明を容易にするため必要な構成だけを抜き出して図示している。定格36Vの電動工具本体1に、電池パック100から36Vの電圧を取り出すのは、電動工具本体1側のターミナル部50Aに、太線で示す短絡回路59を設ける。短絡回路59は金属板でできた短絡子で構成でき、図3で示したように正極入力端子52や負極入力端子57等の他の機器側端子と共に、合成樹脂製の基台51にU字状に折り曲げた金属板を鋳込むことで構成できる。U字状に折り曲げた金属板の一方側の端部が短絡用端子59aとなり、他方側の端部が短絡用端子59bとなる。このような形状のターミナル部50Aに電池パック100を装着するだけで、正極入力端子52と負極入力端子57に定格36Vの直流電力が供給される。電動工具本体1には、モータ3の回転制御を行うためのマイコン60が含まれる。マイコン60の駆動用の電圧(5V又は3.3V)は、短絡用端子59aと負極入力端子57の両端電圧を入力とする電源装置61により供給される。このように電動工具本体1に短絡回路59を有するターミナル部50Aを設けることによって、2つの正極端子(162、172)と2つの負極端子(167、177)を有する本実施例の電池パック100を装着するだけで、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続回路を確立することができる。
【0038】
図7は本実施例に係る高電圧用電気機器(電動工具本体1)の回路図である。基本的な回路構成は図6と同じであるが、短絡回路59の途中に、マイコン60からオンオフ接続を制御可能なメインスイッチ63を介在させるためターミナル部50の配線を変更した。メインスイッチ63は、マイコン60からのオン信号が出力されていない場合は、切断状態(オフ状態)にある。メインスイッチ63を設けたのは、電池パック100を電動工具本体1の電池パック装着部2cに装着したら直ちに短絡用端子59aと59bを短絡させるのではなくて、各端子部分が正常に接続されて、異常な短絡状態が発生していないかをマイコン60が確認し、接続が正常であることの確認後にメインスイッチ63を接続する(オン状態にする)ためである。つまり、メインスイッチ63は電池パック100を装着したらすぐにオンになるのではなくて、遅延してオンになるように構成される。この遅延してオンになるまでの時間内に、マイコン60は正極端子群(52、59a、162、172)と、負極端子群(57、59b、167、177)において短絡や接触不良が生じていないかを検出する。マイコン60は、各端子部分の接続異常を検出したら、メインスイッチ63をオン状態に移行させずに、切断状態(オフ状態)を維持する。従って、接続端子部分に異常が発生した際には、電池パック100から電動工具本体1の負荷装置70には稼働のための電力が供給されないことになる。従って、端子間の短絡によって機器を破損してしまう虞をほとんど解消できる。
【0039】
マイコン60は電源装置61から供給される駆動用の低電圧直流の電源装置61によって動作する。電源装置61は、短絡用端子59aと負極入力端子57からの電力を入力とする。従って、メインスイッチ63のオン状態又はオフ状態にかかわらずにターミナル部50と電池パック100が装着されて、短絡用端子59aと下側正極端子172、及び、負極入力端子57と上側負極端子167が正常に接続されれば電源装置61に電力が供給されるので、マイコン60は正常に動作する。
【0040】
マイコン60は、例えばアナログ・フロント・エンド(AFE)と呼ばれる電圧検出回路を含み、マイコン60の入力ポートには正極入力端子52からの電圧(V3)、短絡用端子(59a)からの電圧(V2)、短絡用端子(59b)からの電圧(V1)、負極入力端子57からの電力(V0)が入力されることにより、マイコン60は電圧V0~V4の電位を測定できる。マイコン60の出力ポート(A/D出力端子)は、第二スイッチ68と第三スイッチ65に接続される。また、マイコン60は各種の制御用の信号や、センサ類からの入力信号、LED等の照明装置71への出力制御信号、電池パック100への制御信号等の様々な信号の入出力が行われる。第二スイッチ68はマイコン60の制御によってオフ状態とオン状態を切り替えることができるスイッチであり、抵抗R1を介して短絡用端子59aと短絡用端子59bを接続する。抵抗R1は十分大きな抵抗値とし、仮に正極端子側(52と59a)又は負極端子側(57と59b)で短絡が発生したとしても、第二スイッチ68には微小な電流しか流れないように制限する。第二スイッチ68はマイコン60からのオン信号があるときは接続状態(オン状態)にあり、マイコン60からのオン信号が消失すると遮断状態(オフ状態)になる。ここでは第二スイッチ68と抵抗R1が、マイコン60の電圧測定時に用いられるバイパス接続回路を構成する。
【0041】
第三スイッチ65は、メインスイッチ63をオンにするために設けられるスイッチ回路である。本来、マイコン60が直接メインスイッチ63のオン又はオフを制御できるならば、第三スイッチ65を介在させる必要は無い。しかしながら、マイコン60側の動作電圧は5V又は3.3Vと低いため、マイコン60からのハイ信号だけでメインスイッチ63として用いる大電力用の半導体スイッチング素子M1(図8で後述)を安定的に稼働させることは難しい。そこで、マイコン60が第三スイッチ65のオンオフを制御するようにして、正極入力端子52と短絡用端子59bの間の抵抗R2、R3(図8で後述)の分圧電圧を取り出して、分圧電圧をメインスイッチ63に供給されるようにした。このような構成にしたので、電動工具本体1の負荷装置70が動作している最中にメインスイッチ63を安定的にオン状態に保つことができる。
【0042】
図8図7のメインスイッチ63、第二スイッチ68、第三スイッチ65の詳細回路図である。メインスイッチ63はFET(電界効果トランジスタ)を用いた半導体スイッチング素子M1により構成される。第二スイッチ68は、FET(電界効果トランジスタ)を用いた半導体スイッチング素子M2により構成される。尚、第二スイッチ68は半導体スイッチング素子M2だけでなく、リレー又はフォトカプラにより構成しても良い。フォトカプラを用いる場合には後述の第三スイッチ65と同様に構成すればよい。第三スイッチ65は、フォトカプラ66と、分圧用の抵抗R2、R3と、フォトカプラ66に含まれる発光ダイオード66aの電流調整用の抵抗R4を含んで構成される。発光ダイオード66aへの電力回路の一方(負極側)は短絡用端子59aに接続され、他方側がマイコン60の出力ポート(A/D出力端子)に接続される。従って、マイコン60がハイインピーダンス状態からロー状態になることで発光ダイオード66aが発光し、その光で出力側のフォトトランジスタ66bを導通させる。フォトトランジスタ66bのコレクタ側は正極入力端子52側に接続され、負極側が2つの抵抗R2とR3を介して短絡用端子59bに接続される。抵抗R2と抵抗R3の中間点は半導体スイッチング素子M1のゲートに接続される。正極入力端子52と短絡用端子59bの間は定格で18Vと十分な電位差があるので、抵抗R2と抵抗R3の分圧電圧によって半導体スイッチング素子M1を安定的にオン状態に保つことが可能となる。
【0043】
図9は本実施例に係る高電圧用電気機器(電動工具本体1)における電池パック100の装着時の接続制御手順を示すフローチャートである。図9に示す一連の制御は、ステップ98を除いてマイコン60にあらかじめ格納されたプログラムによってソフトウェア的に実行可能である。まず、電池パック100が電動工具本体1に装着されたら電源装置61からマイコン60に動作用の直流電力が供給されるため、マイコン60が起動するので、図9に示す一連の処理が実行される。また、電動工具本体1に電池パック100が装着されている状況であっても、シャットダウンしていたマイコン60が起動信号によって起動されたら図9に示す一連の制御が開始される。
【0044】
図9に示すフローチャートの制御を実行する直前は、図7に示したメインスイッチ63、第二スイッチ68、第三スイッチ65がそれぞれオフの状態にある。最初にマイコン60は、第二スイッチ68だけをオンにすることにより、短絡用端子59a、59b間を抵抗R1付きのバイパス接続回路を用いて接続する。この接続は、マイコン60からの出力(オン信号)を第二スイッチ68に入力することにより行う。第二スイッチ68を第三スイッチ65と同じフォトカプラを用いた場合には、マイコン60がダイオードのカソードに接続されたポートをハイインピーダンス状態からロー状態にする。第二スイッチ68がオンになるとV1-V2間が導通状態(オン状態)になる。第二スイッチ68のオンによって、正極入力端子52と負極入力端子57には、電池パック100の上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続の電圧(36V)が印加されることになる。この高抵抗(R1)付きの直列接続経路が確立した際に、マイコン60は端子電圧V0を基準として、V1、V2、V3の電圧をそれぞれ測定する。
【0045】
次にマイコン60は測定した各電圧値から、測定電圧V1とV0が同じであるか否かを判定する(ステップ92)。高電圧電気機器では、負極入力端子57をグランド電位とすると、短絡用端子59bの電圧(V1)は+18V(定格)となる筈である。測定電圧V1とV0が異なる場合が正常であり、正常の場合はステップ93に進む。測定電圧V1とV0が同じ場合は、短絡用端子59bと下側負極端子177との接続経路(本来なら+18V)と、負極入力端子57と上側負極端子167との接続経路(本来ならグランド電位)との接続経路間に短絡が生じていることを意味するので、ステップ96に進んで短絡発生時の処理を行う。
【0046】
ステップ93においてマイコン60は、測定電圧V2とV3が同じであるか否かを判定する。高電圧電気機器では、正極入力端子52は+36V(定格)となり、短絡用端子59aは+18V(定格)となる筈である。従って、測定電圧V2とV3が異なる場合が正常であり、正常の場合はステップ94に進む。測定電圧V2とV3が同じ場合は、短絡用端子59aと下側正極端子172との接続経路(本来なら+18V)と、正極入力端子52と上側正極端子162との接続経路(本来なら+36V)との接続経路間に短絡が生じていることを意味するので、ステップ96に進んで短絡発生時の処理を行う。
【0047】
ステップ96では、マイコン60は第二スイッチ68を直ちにオフにして抵抗R1付きのバイパス接続回路を遮断する。第二スイッチ68のオフ状態では、短絡用端子59a、59bの間は接続されていないことになるので、正極入力端子52側に、負極入力端子57側にたとえ短絡現象が生じていたとしても、図4で示す低電圧電気機器用の接続と同じ状態となるので、電池パック100や電動工具本体1にダメージを与えることを回避できる。また、正極側の各端子(52、59a、162、172)と負極側の各端子(57、59b、167、177)は物理的に離れた位置に配置されているので、異物や端子部品の変形等によって正極側の端子と負極側の端子が短絡することはほぼ無い。尚、マイコン60の動作用の電源は、図7にて示したように下側セルユニット147の両端電圧(172、167)から得るので、短絡用端子59aと下側正極端子172、及び、短絡用端子59bと下側負極端子177が接続されている限りマイコン60は動作する。
【0048】
次にマイコン60は、電池パック100の接続状態に異常が発生していることを作業者に対してアラームを発する(ステップ97)。アラームを発する方法は様々な方法があるが、光又は音によると好ましい。例えば、電池の残量表示用のLEDや、打撃強さ設定用のLED等の照明装置71の全灯を早い間隔で点滅させるようにすれば良い。アラーム出力を受けた作業者は、電池パック100を電動工具本体1から取り外すことによりマイコン60の電源が停止するので、図9の制御が強制終了される。
【0049】
ステップ92、93において、V0≠V1、及び、V2≠V3であったら、マイコン60は第三スイッチ65にロー信号を出力する(ハイインピーダンス状態からロー状態にする)ことによりフォトカプラ66の発光ダイオード66aを導通させる。フォトカプラ66の出力側のフォトトランジスタ66bを導通状態にすることにより、分圧抵抗R2、R3に対して短絡用端子59bと正極入力端子52の電位差を利用して、抵抗R2とR3の分圧電圧を取り出す。抵抗R2とR3の分圧電圧はメインスイッチ63の半導体スイッチング素子M1のゲート信号を取り出すために設けられるもので、この分圧電圧によって半導体スイッチング素子M1がオンになるため、短絡用端子59aと59bの間が短絡され、36V接続用の電力経路が確立される。この結果、負荷装置70に定格36Vの直流が供給されることになる(ステップ95)。ステップ95による電力供給経路は従来のインパクト工具201の接続経路と同じであり、この電力供給経路は、マイコン60がシャットダウンするまで、又は、電池パック100が取り外されるまで続く。
【0050】
図9のフローチャートでの制御では、正極端子群や負極端子群での短絡発生だけに注目した制御とした。しかしながら、短絡の発生の検出だけではなく、正常状態とは異なるような特異な電位を検出した場合、例えばV1は本来18V付近でなければならないのに、9V程度しか無いような場合等、電圧値の異常や接触不良などの検知をマイコン60が併せて行うようにしても良い。そのような異常を検知した場合も、マイコン60はアラームを出力するようにすれば良い。
【0051】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では18Vと36Vの切替式の電池パック100にて説明したが、切り替えられる電圧の組み合わせは18V/36Vだけに限られずに、直列接続と並列接続の組み合わせにより切り替えられるその他の電圧組であっても良い。また、上述の実施例では短絡用端子59a、59b間を接続するバイパス接続回路を構成する第二スイッチ68は、メインスイッチ63がオン状態となったらオフにするように制御されるが、メインスイッチ63と共に第二スイッチ68をオン状態に保つように構成しても支障が無い。従って、マイコン60の起動又はシャットダウンに連動するように第二スイッチ68を制御し、マイコン60が起動したら第二スイッチ68がオン、マイコン60が停止(シャットダウン又はスリープ)したら第二スイッチ68がオフになるような構成としても良い。さらに、別の構成として、メインスイッチを有する短絡回路中に、メインスイッチの代わりに別の遅延接続手段を設けるようにして、電池パック100が電動工具本体1に装着されたら所定の時間、例えば1秒程度の遅延時間を有してから短絡回路を接続するように構成し、この遅延時間中にマイコンが各端子の電圧を測定して短絡等の異常を検出し、異常状態が発生したらメインスイッチのオン移行を阻止するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 電動工具本体 2 ハウジング 2a 胴体部 2b ハンドル部
2c 電池パック装着部 3 モータ 4 動作スイッチ
5 正逆切替レバー 8 装着機構 10 出力軸 11 電動工具本体
20 ターミナル部 22 正極入力端子 22a 端子部
27 負極入力端子 27a 端子部 50、50A ターミナル
51 基台 51a、51b 凹部 52 正極入力端子
52 端子部 52c 配線部 54c 配線部 57 負極入力端子
57 端子部 59 短絡回路 59a、59b 短絡用端子
60 マイコン 61 電源装置 63 メインスイッチ
65 第三スイッチ 66 フォトカプラ 66a 発光ダイオード
66b フォトトランジスタ 68 第二スイッチ 70 負荷装置
71 照明装置 100 電池パック 101 下ケース
110 上ケース 111 下段面 115 上段面
121~128 スロット 131 ストッパ部 132 隆起部
138a、138b レール 141 ラッチ 142 係止部
146 上側セルユニット(第一セルユニット)
147 下側セルユニット(第二セルユニット)
147a 電池セル 150 回路基板
162 上側正極端子(第一正極端子) 162a、162b 腕部
167 上側負極端子(第二負極端子) 167a、167b 腕部
172 下側正極端子(第二正極端子) 172a、172b 腕部
177 下側負極端子(第一負極端子) 177a、177b 腕部
180 保護IC 182 上側電圧検出回路 183 過放電信号
184 過充電信号 185 電源回路 190 保護IC
191 過放電信号 192 過充電信号 193 電流検出回路
194 シャント抵抗 195 マイコン 201 インパクト工具
202 ハウジング 202a 胴体部 202b ハンドル部
202c 電池パック装着部 204 動作スイッチ
205 正逆切替レバー 208 装着機構 210 出力軸
220 ターミナル部 222 正極入力端子 227 負極入力端子
M1、M2 半導体スイッチング素子 R1~R4 抵抗

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9