(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/04 20060101AFI20221122BHJP
B60Q 1/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B60Q1/04 E
B60Q1/12 100
(21)【出願番号】P 2018104462
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000136
【氏名又は名称】市光工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 智博
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/04
B60Q 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の半導体光源と、
前記半導体光源に入力電流を供給する電源回路と、
前記半導体光源の光量制御量に基づき、前記電源回路により供給される前記入力電流を前記半導体光源ごとに制御する制御部と、
を備え、
前記光量制御量は、
車両が曲路から直線路へ走行する場合に、前記半導体光源のうち、最外側が該最外側に隣接する内側よりも、出射光束の増加比率が同一値及び小さな値の何れか一方
となるように、曲路走行時と直線路走行時との途中経路の移動時用のものが設定されている
車両用灯具。
【請求項2】
前記光量制御量は、曲路用のものから直線路用のものに直接変化させると、前記半導体光源のうち、最外側の出射光束の増加比率が該最外側に隣接する内側よりも大となる場合に、前記途中経路の移動時用のものが設定されている
請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
直列に接続された複数の半導体光源と、
前記半導体光源に入力電流を供給する電源回路と、
前記半導体光源の光量制御量に基づき、前記電源回路により供給される前記入力電流を前記半導体光源ごとに制御する制御部と、
を備え、
前記光量制御量は、
前記半導体光源のうち、最外側が該最外側に隣接する内側よりも、出射光束の増加比率が同一値及び小さな値の何れか一方に設定され、
前記半導体光源ごとに並列に接続され、内部インピーダンスが可変な半導体スイッチング素子をさらに備え、
前記制御部は、
前記光量制御量に基づき、前記半導体スイッチング素子の前記内部インピーダンスを調整する、
車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照射範囲のうち、自車両の周辺の車両及び歩行者のように眩惑を与えるべきでない対象物の存在領域のみ遮蔽する配光可変型前照灯が既に実用化されている。このような配光可変型前照灯は、配光パターンを縦横各方向に分割し、眩惑を与えるべきでない対象物の存在領域を常に算出して遮蔽する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のような従来技術は、配光可変型前照灯の照射範囲の照度分布をスイブル移動の前後で変化させることにより運転者の前方視認性を確保するだけであり、走行時の配光パターンの違和感を低減することができない状況である。
【0005】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、走行時の配光パターンの違和感を低減することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面である車両用灯具は、直列に接続された複数の半導体光源と、前記半導体光源に入力電流を供給する電源回路と、前記半導体光源の光量制御量に基づき、前記電源回路により供給される前記入力電流を前記半導体光源ごとに制御する制御部と、を備え、前記光量制御量は、車両が曲路から直線路へ走行する場合に、前記半導体光源のうち、最外側が該最外側に隣接する内側よりも、出射光束の増加比率が同一値及び小さな値の何れか一方となるように、曲路走行時と直線路走行時との途中経路の移動時用のものが設定されている。
【0007】
また、本開示の一側面である車両用灯具においては、直列に接続された複数の半導体光源と、前記半導体光源に入力電流を供給する電源回路と、前記半導体光源の光量制御量に基づき、前記電源回路により供給される前記入力電流を前記半導体光源ごとに制御する制御部と、を備え、前記光量制御量は、前記半導体光源のうち、最外側が該最外側に隣接する内側よりも、出射光束の増加比率が同一値及び小さな値の何れか一方に設定され、前記半導体光源ごとに並列に接続され、内部インピーダンスが可変な半導体スイッチング素子をさらに備え、前記制御部は、前記光量制御量に基づき、前記半導体スイッチング素子の前記内部インピーダンスを調整する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面によれば、走行時の配光パターンの違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示を適用した実施形態に係る車両用灯具の回路構成例を示す図である。
【
図2】本開示を適用した実施形態に係る半導体光源3ごとの出射光束の増加比率の一例を示す図である。
【
図3】本開示を適用した実施形態に係る曲路から直線路を走行時における半導体光源3ごとの出射光束の一例を示す図である。
【
図4】従来における半導体光源3ごとの出射光束の増加比率の一例を示す図である。
【
図5】従来における曲路から直線路を走行時における半導体光源3ごとの出射光束の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を適用した車両用灯具の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本開示を適用した実施形態に係る車両用灯具の回路構成例を示す図である。車両用灯具は、例えば前照灯(ヘッドランプ)であって、ヘッドランプユニットが車両の前部の左右両端部に搭載されている。車両用灯具は、電源回路1、半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_n、光学部材5、制御部7、操舵角センサー8、記憶部9、抵抗R(1)~抵抗R(n)及び半導体スイッチング素子Q(1)~半導体スイッチング素子Q(n)を備えている。電源回路1は、DC-DCコンバータであり、例えば、スイッチングレギュレーターから構成される。電源回路1は、不図示のバッテリから供給される高電圧を低電圧に変換し、半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nに供給する。半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nのそれぞれは、直列に接続され、電源回路1から供給される入力電流が流れる。不図示のシャント抵抗等のような電流検出器により半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nに供給される入力電流が検出され、制御部7に電流検出器の検出結果が入力されることにより、制御部7は、PWM駆動のオンオフデューティー比により電源回路1から半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nに供給される入力電流を目標値に制御する。
【0012】
半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nのそれぞれには、半導体スイッチング素子Q(1)~半導体スイッチング素子Q(n)のそれぞれが並列に設けられている。なお、半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nのそれぞれを特に限定しない場合、半導体光源3と称し、半導体スイッチング素子Q(1)~半導体スイッチング素子Q(n)のそれぞれを特に限定しない場合、半導体スイッチング素子Qと称する。ただし、半導体光源3及び半導体スイッチング素子Qについて言及するときには、半導体光源3と半導体スイッチング素子Qとが並列に接続されているものを指すものとする。半導体スイッチング素子Qは、例えば、NチャネルのMOSFETから構成されている。半導体光源3は、例えば、LED(Light Emitting Diode)から構成されている。半導体スイッチング素子Qは、ドレイン側が半導体光源3のアノード側に接続され、ソース側が半導体光源3のカソード側に接続され、ゲート側が制御部7に接続されている。
【0013】
なお、半導体スイッチング素子Q(1)のゲート-ソース間には抵抗R(1)が並列に接続されている。抵抗R(1)は、半導体スイッチング素子Q(1)がオフ状態のとき、半導体スイッチング素子Q(1)のゲート-ソース間の内部インピーダンスをリセットするものである。半導体スイッチング素子Q(2)~半導体スイッチング素子Q(n)についても同様な接続構成であり、抵抗R(2)~抵抗R(n)がそれぞれ同様に接続されている。ところで、以降の説明において、抵抗R(1)~抵抗R(n)のそれぞれを特に限定しない場合、抵抗Rと称する。ただし、半導体光源3、半導体スイッチング素子Q及び抵抗Rについて言及するときには、半導体光源3、半導体スイッチング素子Q及び抵抗Rのそれぞれは、半導体光源3に並列に接続されている半導体スイッチング素子Qのゲート-ソース間に並列に接続されている抵抗Rを指すものとする。また、半導体光源3から出射される出射光は、光学部材5を介して車両の前方に照射されることにより配光パターンが形成される。具体的には、光学部材5は、反射鏡又はレンズ等から構成され、半導体光源3から出射される出射光の方向を変えることにより、ハイビーム又はロービームのような配光パターンを形成する。配光パターンは、半導体光源3のそれぞれの出射光束の集合により構成されるものである。
【0014】
制御部7は、半導体スイッチング素子Qのゲート電圧を制御することにより、ドレイン-ソース間の内部インピーダンスを変化させ、半導体光源3に流れる入力電流を変化させることで、半導体光源3の出射光束を調整する。制御部7は、操舵角センサー8から出力される操舵角データに基づき、半導体光源(1)3_1~半導体光源(n)3_nのそれぞれの出射光束を個別に調整する際、記憶部9に記憶されている半導体光源3ごとの出射光束の増加比率を参照する。
図2は、本開示を適用した実施形態に係る半導体光源3ごとの出射光束の増加比率の一例を示す図である。半導体光源3は、全てが常に設計値の最大能力で発光されるわけではない。主に運転者が注視したい方向に合致する配光パターンを形成する半導体光源3は明るく、その方向から遠ざかるに従い、明るさを落とす。これにより、車両用灯具として法規要件を満たす出射光を出射させつつ、電源回路1及び半導体光源3の消費電力及び発熱を抑制する。
図2の一例は、運転者が車両を曲路から直線路に車両の進行方向を変えるときの半導体光源(1)3_1~半導体光源(8)3_8のそれぞれの出射光束の増加比率である。
図2に示すように、半導体光源(1)3_1及び半導体光源(2)3_2のそれぞれの出射光束の増加比率は同一に設定されている。よって、運転者にとっては、出射光束の絶対値の高い半導体光源(2)3_2の方が半導体光源(1)3_1よりも明るく見える。つまり、半導体光源3の出射光束の増加比率は、車両の中心に向かって内側に隣接する半導体光源3の出射光束の増加比率以下に設定されている。
【0015】
図3は、本開示を適用した実施形態に係る曲路から直線路を走行時における半導体光源3ごとの出射光束の一例を示す図である。
図3(A)は、車両が直線路走行時の半導体光源(1)3_1~半導体光源(8)3_8のそれぞれの出射光束を示す。
図3(B)は、車両が曲路から直線路の途中経路の移動中における半導体光源(1)3_1~半導体光源(8)3_8のそれぞれの出射光束を示す。
図3(C)は、車両が右折で曲路走行時の半導体光源(1)3_1~半導体光源(8)3_8のそれぞれの出射光束を示す。つまり、車両が曲路から直線路を走行するときの半導体光源(1)3_1~半導体光源(8)3_8のそれぞれの出射光束は、
図3(C)、
図3(B)及び
図3(A)の順に変化する。なお、半導体光源(1)3_1と対向する位置は車両左側に対応し、半導体光源(4)3_4及び半導体光源(5)3_5と対向する位置は車両正面に対応し、半導体光源(8)3_8と対向する位置は車両右側に対応することを想定する。なお、
図3(B)においては、半導体光源(1)3_1は、半導体光源(2)3_2~半導体光源(8)3_8よりも先に増光を開始させる。また、半導体光源3のそれぞれは、水平方向に沿って、互いに隣接して配置されている。
【0016】
次に従来例と比較しながら車両用灯具の作用効果について説明する。
図4は、従来における半導体光源3ごとの出射光束の増加比率の一例を示す図である。
図5は、従来における曲路から直線路を走行時における半導体光源3ごとの出射光束の一例を示す図である。
図4及び
図5の一例では、車両の進行方向が曲路から直線路に切り替わる際、出射光束の絶対値は、常に半導体光源(2)3_2の方が半導体光源(1)3_1よりも高いが、出射光束の増加比率は、半導体光源(1)3_1の方が半導体光源(2)3_2よりも大きい。よって、半導体光源(1)3_1の方が先に明るくなるように運転者は認識する。
【0017】
ここで、右左折時等のように急な曲路から直線路に切り替わる際の挙動について具体的に検討する。曲路においては車両の進行方向側の車両外側に近い配光パターンであるにつれ明るく、電力抑制のため、車両の中央から車両の進行方向と反対側の配光パターンであるにつれ暗く、又は完全に消灯する。このような状態から車両は急に直線路へ戻るため、車両正面方向を最も明るく照射するように各半導体光源3の光量の変化が一斉に生じる。この際、車両の曲がる方向と反対側の配光パターンは全て増光となるが、本来は車両中央に近い方の配光パターンがより早く明るくなり、最外側の配光パターンは最後に明るくなるのが自然である。
【0018】
しかし、人間の視特性は光量の絶対値よりも光量の増加比率に強く影響される傾向がある。例えば、最外側の配光パターンがほぼ0の光量から増光する場合、最外側の配光パターンは、最外側の配光パターンの内側の配光パターンの光量の絶対値よりも低いにもかかわらず光量の増加比率が大きいため、最外側の配光パターンの光量が先に増光しているように運転者は誤認識する。よって、運転者にとっては、光の変化をスムーズに認識できない現象が生じる。
【0019】
そこで、本実施形態においては、このような現象を抑制するために、半導体光源3の出射光束の増加比率を考慮する。具体的には、最外側の半導体光源3の出射光束の増加比率は、車両の中心に向かって内側に隣接する半導体光源3の出射光束の増加比率以下に設定されている。つまり、半導体光源3の光量制御量は、半導体光源3のうち、最外側が該最外側に隣接する内側よりも、出射光束の増加比率が同一値及び小さい値の何れか一方に設定されている。制御部7は、半導体光源3の光量制御量に基づき、電源回路1により供給される入力電流を半導体光源3ごとに制御する。これにより、車両の走行時、人間の視特性を考慮して各半導体光源3の光量を増加させることができるため、走行時の配光パターンの違和感を低減することができる。
【0020】
また、半導体光源3の出射光束の増加比率は、電源回路1の制御ロジックに依存しないため、既存の電源回路1にも設計変更無しで本実施形態の制御を実装することができる。具体的には、半導体光源3の光量制御量に基づき、半導体スイッチング素子Qの内部インピーダンスを調整することにより、電源回路1の制御を変更することなく、人間の視特性に追従した光量制御を実現できる。よって、低コストで配光パターンのスムーズな明るさ調整をすることができる。
【0021】
以上、本開示を適用した車両用灯具を実施形態に基づいて説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0022】
例えば、半導体光源3がLEDから構成される一例について説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、レーザーダイオードであってもよい。また、例えば、光ファイバを多数束ねることにより構成される複数の発光面からなるものであってもよい。
【0023】
また、例えば、半導体光源3に並列に接続される半導体スイッチング素子Qにより半導体光源3の出射光を調整する一例について説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、可変抵抗器のようにインピーダンスを調整できるものであればよい。
【符号の説明】
【0024】
1 電源回路、3,3_1~3_n 半導体光源、5 光学部材
7 制御部、8 操舵角センサー、9 記憶部
R,R(1)~R(n) 抵抗、Q,Q(1)~Q(n) 半導体スイッチング素子