(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】磁気部品、電子装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20221122BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20221122BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20221122BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01F27/32 140
H01F30/10 J
H01F37/00 J
H01F37/00 N
H01F41/12 C
(21)【出願番号】P 2018122613
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小林 知善
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229672(JP,A)
【文献】特開昭57-093515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 41/12
H01F 30/10
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電されることにより磁束を発生する導体から成るコイルと、
前記磁束の磁路を形成する磁性体から成るコアと、
前記コイルを被覆するようにインサート成形により形成され、前記コイルと前記コアとを絶縁する絶縁体から成る被覆部材と、を備えた磁気部品において、
前記被覆部材は、
前記インサート成形時に金型内で前記コイルを位置決めするように前記コイルの一部を保持または被覆する第1被覆部と、
前記コイルの残部を被覆する第2被覆部と、を備え、
前記第1被覆部と前記第2被覆部との境界は、前記コイルから屈曲または湾曲した状態で前記コアへ向かっていて、前記コアとの間隔が最も狭い前記被覆部材の第1表面とは異なる第2表面に到達している、ことを特徴とする磁気部品。
【請求項2】
通電されることにより磁束を発生する導体から成るコイルと、
前記磁束の磁路を形成する磁性体から成るコアと、
前記コイルを被覆するようにインサート成形により形成され、前記コイルと前記コアとを絶縁する絶縁体から成る被覆部材と、を備えた磁気部品において、
前記被覆部材は、
前記インサート成形時に金型内で前記コイルを位置決めするように前記コイルの一部を保持または被覆する第1被覆部と、
前記コイルの残部を被覆する第2被覆部と、を備え、
前記第1被覆部と前記第2被覆部との境界は、前記コイルから屈曲または湾曲した状態で前記コアへ向かっており、
前記第1被覆部は、インサート成形前に形成されて、インサート成形時に前記コイルの一部に装着される1次成形絶縁体から構成され、
前記第2被覆部は、インサート成形時に前記コイルの残部と前記1次成形絶縁体の周囲に充填された2次成形絶縁体から構成され、
前記1次成形絶縁体は、前記金型内で前記コイルが位置ずれしないように前記コイルの一部と係合する第1係合部と、当該1次成形絶縁体が位置ずれしないように前記金型と係合する第2係合部と、前記第1係合部と前記第2係合部との間に設けられた段差部と、を有していることを特徴とする磁気部品。
【請求項3】
通電されることにより磁束を発生する導体から成るコイルと、
前記磁束の磁路を形成する磁性体から成るコアと、
前記コイルを被覆するようにインサート成形により形成され、前記コイルと前記コアとを絶縁する絶縁体から成る被覆部材と、を備えた磁気部品において、
前記被覆部材は、
前記インサート成形時に金型内で前記コイルを位置決めするように前記コイルの一部を保持または被覆する第1被覆部と、
前記コイルの残部を被覆する第2被覆部と、を備え、
前記第1被覆部と前記第2被覆部との境界は、前記コイルから屈曲または湾曲した状態で前記コアへ向かっており、
前記第1被覆部は、前記インサート成形時に前記コイルの一部が可動保持部品で保持された状態で、前記金型内に充填された1次充填絶縁体から構成され、
前記第2被覆部は、前記インサート成形時に前記可動保持部品が前記金型外へ移動して生じる前記金型内の空間に充填された2次充填絶縁体から構成されている、ことを特徴とする磁気部品。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の磁気部品と、
前記磁気部品の前記コイルが電気的に接続された基板と、
前記磁気部品と前記基板とを保持する筐体と、を備えたことを特徴とする電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルとコアとを備えた磁気部品と、当該磁気部品を備えた電子装置に関し、特にコイルとコアの絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばDC-DCコンバータのような電子装置には、チョークコイルやトランスなどの磁気部品が備わっている。一般に、そのような磁気部品は、コイルとコアとを有している。コイルは、導体から成り、通電されることにより磁束を発生する。コアは、磁性体にから成り、コイルの大部分を覆うように設けられ、コイルが発生した磁束の磁路を形成する。
【0003】
図11~
図15は、従来の磁気部品を示した図である。詳しくは、
図11は、従来の磁気部品30の平面図、
図12は、
図11のB-B断面図、
図13は、
図11からコアを除いた状態を示した図、
図14は、磁気部品30の要部の断面図である。
図15は、従来の他の磁気部品の要部の断面図である。
【0004】
磁気部品30は、たとえばチョークコイルから構成されている。磁気部品30のコアは、
図12に示すように、断面がE形のフェライトコア35a、35bを上下に組み合わせて構成されている。詳しくは、各コア35a、35bには、3つの凸部35e、35f、35g、35h、35i、35jが設けられていて、そのうち上コア35aの両端にある凸部35e、35gの先端と、下コア35bの両端にある凸部35h、35jの先端とを密着させることで、コア35a、35bは組み立てられている。各コア35a、35bの中央にある凸部35f、35iの周囲には、コイル34が1回巻回されている。コイル34は、金属板を板金加工することにより形成されている(
図13参照)。
【0005】
磁気部品30の性能を確保するため、コイル34を合成樹脂などの絶縁体から成る被覆部材36により被覆することで、コイル34とコア35a、35bとは絶縁されている。
【0006】
被覆部材36は、コイル34を被覆するようにインサート成形により形成されている。そのインサート成形時に、
図13に示すコイル34の両端部34a、34bと中央部34cは保持部品により保持されて、コイル34のそれら以外の部分が金型に接触しないように位置決めされる。
図14(a)は、コイル34の真直部34dが金型40内の中央に配置された状態の断面を示している。
【0007】
上記コイル34の位置決め状態で、被覆部材36を構成する溶融状態の合成樹脂が金型40内に充填される。この際、
図13に矢印で示すように、合成樹脂がコイル34の端部34a、34bと中央部34cの側方から真直部34dの周囲に所定の圧力で流れ込む。その合成樹脂の流入圧力により、たとえば
図14(b)に示すように、コイル34の真直部34dが変形して(撓んで)移動し、金型40に接触するおそれがある。この状態で合成樹脂が硬化すると、
図14(c)に示すように、コイル34の真直部34dが被覆部材36から露出して、該真直部34dとコア35a、35bの凸部35e、35hとの絶縁距離δが短くなり、コイル34とコア35a、35bとの間で絶縁不良が生じて、磁気部品30の性能が損われてしまう。
【0008】
上記の対策として、
図15(a)に示すように、既に合成樹脂で形成された1次成形絶縁体(剛体)36cでコイル34の真直部34dの上下端部を保持して、真直部34dを位置決めした状態で、
図15(b)に示すように、溶融状態の合成樹脂(2次成形絶縁体)36dを金型40内に充填する被覆部材36のインサート成形方法がある。このような方法は、たとえば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、
図15のように被覆部材36をインサート成形すると、後から充填された2次成形絶縁体36dの硬化後に、
図15(c)に太線で示すように、1次成形絶縁体36cと2次成形絶縁体36dとの境界S’が、コイル34からコア35a、35bまで最短で到達するX方向に一直線に形成される。そして、インサート成形時の状況により、境界S’がピンホールのような脆弱な状態になった場合、境界S’の箇所で絶縁抵抗が低下する。しかも、境界S’の長さすなわち沿面距離Daが短いので、コイル34からコア35a、35bまでの絶縁距離(境界S’の長さDa+被覆部材36と凸部35e、35fとの離間距離Db)も短くなり、コイル34とコア35a、35bとの間で絶縁不良が生じ易くなる。
【0011】
本発明は、コイルとコアとの絶縁性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の磁気部品は、通電されることにより磁束を発生する導体から成るコイルと、その磁束の磁路を形成する磁性体から成るコアと、コイルを被覆するようにインサート成形により形成され、コイルとコアとを絶縁する絶縁体から成る被覆部材とを備える。そして、被覆部材は、インサート成形時に金型内でコイルを位置決めするようにコイルの一部を保持または被覆する第1被覆部と、コイルの残部を被覆する第2被覆部とから構成され、第1被覆部と第2被覆部との境界は、コイルから屈曲または湾曲した状態でコアへ向かっている。
【0013】
また、本発明の電子装置は、上記磁気部品と、上記磁気部品のコイルが電気的に接続された基板と、磁気部品と基板とを保持する筐体とを備える。
【0014】
上記によると、被覆部材の第1被覆部と第2被覆部との境界が屈曲または湾曲している分、当該境界の長さが従来に比べて長くなっている。このため、被覆部材のインサート成形時の状況により、第1被覆部と第2被覆部との境界がピンホールのような脆弱な状態になっていても、当該境界の長さを含む沿面距離が長くなり、コイルからコアまでの絶縁距離も長くなるので、コイルとコアとの間の絶縁性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明では、被覆部材の第1被覆部と第2被覆部の一部とは、コイルからコアまで最短で到達する方向に並んでいて、当該方向に対して第1被覆部と第2被覆部との境界が屈曲または湾曲していてもよい。
【0016】
また、本発明において、第1被覆部と第2被覆部との境界は、コイルから屈曲または湾曲した状態で、コアとの間隔が最も狭い被覆部材の第1表面とは異なる第2表面に到達していてもよい。
【0017】
また、本発明において、第1被覆部と第2被覆部との境界に段差が設けられていてもよい。
【0018】
また、本発明において、被覆部材の第1被覆部は、インサート成形前に形成されて、インサート成形時にコイルの一部に装着される1次成形絶縁体から構成され、第2被覆部は、インサート成形時にコイルの残部と1次成形絶縁体の周囲に充填された2次成形絶縁体から構成されていてもよい。
【0019】
また、本発明において、1次成形絶縁体は、金型内でコイルが位置ずれしないようにコイルの一部と係合する第1係合部と、当該1次成形絶縁体が位置ずれしないように金型と係合する第2係合部と、第1係合部と第2係合部との間に設けられた段差部と、を有していてもよい。
【0020】
または、本発明において、被覆部材の第1被覆部は、インサート成形時にコイルの一部が可動保持部品で保持された状態で、金型内に充填された1次充填絶縁体から構成され、第2被覆部は、インサート成形時に可動保持部品が金型外へ移動して生じる金型内の空間に充填された2次充填絶縁体から構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コイルとコアとの絶縁性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による電子装置の要部の平面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態による磁気部品の断面図である。
【
図3】
図2の磁気部品のコアを省略した状態の平面図である。
【
図4】
図2のコイルと1次成形絶縁体の斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図7A】本発明の第3実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図7B】本発明の第3実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図8A】本発明の第4実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図8B】本発明の第4実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図10】本発明の第6実施形態による磁気部品の要部の断面図である。
【
図15】従来の他の磁気部品の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0024】
図1は、実施形態の電子装置100の要部の平面図である。電子装置100は、たとえば車載用のDC-DCコンバータから構成されている。電子装置100には、筐体1、フレーム6、基板2、および種々の電子部品が備わっている。その電子部品には、磁気部品3が含まれている。
【0025】
筐体1は、金属製または合成樹脂製の放熱体から成り、フレーム6を保持している。フレーム6は、合成樹脂製の絶縁体から成り、基板2を保持している。基板2は、プリント基板から成る。基板2には、電気回路2aが実装されている。磁気部品3は、本例ではチョークコイルから成り、フレーム6の端部に設けられている。
【0026】
図2~
図5は、第1実施形態の磁気部品3を示した図である。詳しくは、
図2は、磁気部品3の断面図(
図1のA-A断面図)である。
図3は、磁気部品3のコア5a、5bを省略した状態の平面図である。
図4は、
図2のコイル4と1次成形絶縁体6cの斜視図である。
図5は、磁気部品3の要部の断面図である。
【0027】
図2に示すように、磁気部品3には、導体から成るコイル4、磁性体から成るコア5a、5b、および絶縁体から成るフレーム6が備わっている。
【0028】
コイル4は、金属板を板金加工することにより、
図3に示すように上方から見てU形に形成されている。フレーム6は、コイル4を被覆するようにインサート成形により形成されている。
【0029】
フレーム6には、矩形状の貫通孔6a、6bが並設されている。そのうち、一方の貫通孔6aは、コイル4の内側、すなわちコイル4の2つの真直部4dの間に形成されている。他方の貫通孔6bは、コイル4の一方の真直部4dに対して貫通孔6aと反対側(
図1で基板2側)に形成されている。コイル4を被覆するフレーム6の被覆部分のうち、最も肉厚が薄い部分はコイル4の真直部4dの周囲である。
【0030】
コイル4の両端には、コイル4に電流を流すための端子部4a、4bが設けられている。各端子部4a、4bは、
図2に示すように、フレーム6から上方に突出している。
図1に示すように、各端子部4a、4bには、電気配線9a、9bの一端が電気的に接続されている。各電気配線9a、9bの他端は、基板2に形成された電気回路2aに電気的に接続されている。すなわち、コイル4は、電気配線9a、9bを介して電気回路2aに電気的に接続されている。
【0031】
図2に示すように、コア5a、5bは、断面がE形のフェライトコアから成る。
図2で上側にある上コア5aには、基部5cと3つの凸部5e、5f、5gが設けられている。下側にある下コア5bには、基部5dと3つの凸部5h、5i、5jが設けられている。上コア5aの両端にある凸部5e、5gの先端と下コア5bの両端にある凸部5h、5jの先端とを密着させることで、コア5a、5bは組み立てられている。筐体1は、下コア5bを下方から支持している。コア5a、5bは、図示しない固定金具により上側から筐体1に押し付けられることで、筐体1に固定されている。
【0032】
図2でコア5a、5bの右側の凸部5g、5jは、フレーム6の貫通孔6bに挿通されている。コア5a、5bの中央の凸部5f、5iは、フレーム6の貫通孔6a(
図1も参照)に挿通されている。コア5a、5bの左側の凸部5e、5hは、フレーム6の側方近傍に配置されている。
【0033】
コア5a、5bとフレーム6とは離間している。コア5a、5bとフレーム6との離間間隔のうち、最も狭いのは、コア5a、5bの凸部5e~5jとフレーム6との間隔である。
【0034】
コイル4は、コア5a、5bの中央の凸部5f、5iと両端の凸部5e、5g、5h、5jとの間に1回巻回されている。コイル4は、通電されることにより磁束を発生する。コア5a、5bは、コイル4が発生した磁束の磁路を形成する。
【0035】
フレーム6は、コイル4の端子部4a、4b以外を被覆し、コイル4とコア5a、5bとを絶縁している。フレーム6は、本発明の「被覆部材」の一例である。
【0036】
磁気部品3の性能を確保するには、フレーム6によりコイル4を確実に被覆して、コイル4とコア5a、5bとの絶縁性を高める必要がある。
【0037】
そのため、フレーム6のインサート成形時に、図示しない保持部品により、
図3に示すコイル4の端子部4a、4bと中央部4cを保持して、コイル4のそれら以外の部分が金型に接触しないように位置決めする。コイル4の中央部4cは、金型内に対して出没可能な可動保持部品により保持する。
【0038】
フレーム6を形成する溶融状態の合成樹脂は、図示しないゲートから金型内に充填される。そして、溶融状態の合成樹脂は、
図3に矢印で示すように、コイル4の端子部4a、4bの側方と中央部4cの側方から各真直部4dの周囲に所定の圧力で流れ込む。この際、合成樹脂の流入圧力により、真直部4dが撓むように変形して移動し、金型に接触するおそれがある。
【0039】
そこで、
図4に示すように、既に合成樹脂で凹形に形成された1次成形絶縁体(剛体)6cを、コイル4の真直部4dの上下端部に装着してから、
図5(a)に示すようにコイル4と1次成形絶縁体6cとを金型10内に装填する。これにより、金型10内において、コイル4の真直部4dの一部である上下端部を1次成形絶縁体6cにより保持して、真直部4dを金型10内の中央に位置決めすることができる。
【0040】
そして、溶融状態の合成樹脂が金型10内へ流入したときに、
図5(b)に示すように、1次成形絶縁体6cによるコイル4の真直部4dの位置決め状態が維持されるので、真直部4dが変形して金型10に接触することを防止することができる。
【0041】
図5(a)に示すように、コイル4の真直部4dの板厚方向(
図5で左右方向)Xに対して、1次成形絶縁体6cと金型10との間、および1次成形絶縁体6cで覆われていない真直部4dの残部(中間部)と金型10との間には、隙間Tが設けられている。このため、
図5(b)に示すように、溶融状態の合成樹脂6dが、金型10内の隙間T、すなわちコイル4の真直部4dの中間部と1次成形絶縁体6cの周囲に充填される。合成樹脂6dは、2次成形絶縁体であり、1次成形絶縁体6cと同一の合成樹脂であってもよいし、異なる合成樹脂であってもよい。
【0042】
その後、2次成形絶縁体6dが硬化することで、コイル4の真直部4dの上下端部が1次成形絶縁体6cにより被覆され、真直部4dの中間部が2次成形絶縁体6dにより被覆される。つまり、フレーム6は、1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dにより構成されている。1次成形絶縁体6cは、本発明の「第1被覆部」の一例であり、2次成形絶縁体6dは、本発明の「第2被覆部」の一例である。
【0043】
1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dの境界Sは、たとえば
図5(c)に太線で示すように、コイル4とコア5a、5bとが最も接近するフレーム6の肉薄部分、すなわちコイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jの間に介在する部分に存在している。
図5(c)は、磁気部品3のコア5a、5bの凸部5e、5hと凸部5f、5iの間の断面を示しているが、コア5a、5bの凸部5g、5jと凸部5f、5iの間の断面も同様の構造である(図示省略)。(後述する
図6(c)、
図7B(e)、
図8B(e)、
図9、および
図10も同様である。)
【0044】
図5(c)に太線で示すように、境界Sはコイル4から屈曲した状態でコア5a、5bへ向かっている。また、コイル4からコア5a、5bまで最短で到達する左右方向Xに、1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dの一部とが並んでいるため、境界Sは左右方向Xに対して屈曲している。
【0045】
詳しくは、
図5(c)で上側にある1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dの境界Sは、コイル4から左右方向Xのうちいずれか一方へ所定長延びた後、左右方向Xに対して垂直な上下方向Yのうち上方向へ屈曲して上方へ延び、上コア5aとの間隔が最も狭いフレーム6の左表面6Lや右表面6rとは異なる上表面6uに到達している。また、下側にある1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dとの境界Sは、コイル4から左右方向Xのうちいずれか一方へ所定長延びた後、左右方向Xに対して垂直な上下方向Yのうち下方向へ屈曲して下方へ延び、フレーム6の左右表面6L、6rとは異なる下表面6vに到達している。
【0046】
フレーム6のインサート成形時の状況により、1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dとの境界Sが、ピンホールのような脆弱な状態になった場合、境界Sの箇所で絶縁抵抗が低下する。然るに、
図5(c)に示すように境界Sが屈曲している分、境界Sの長さD
1+D
2が、
図15(c)に示した従来の境界S’の長さDaより長くなっている。このため、境界Sの長さD
1+D
2を含む沿面距離D
1+D
2+D
3や、コイル4の真直部4dからコア5a、5bの凸部5e~5jまでの絶縁距離D
1+D
2+D
3+D
4も長くなり、コイル4とコア5a、5bとの絶縁不良を生じ難くすることができる。よって、上記第1実施形態によると、磁気部品3のコイル4とコア5a、5bとの絶縁性を向上させることが可能となる。
【0047】
また、上記第1実施形態では、フレーム6の1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dの一部とを、コイル4からコア5a、5bまで最短で到達する左右方向Xに並べている。このため、1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dとの境界Sを、コイル4から左右方向Xへ延ばした後、左右方向Xに対して垂直な上下方向Yへ屈曲させることで、境界Sの長さを容易に長くすることができる。そして、コイル4とコア5a、5bとの間の沿面距離D1+D2+D3および絶縁距離D1+D2+D3+D4を十分に確保して、コイル4とコア5a、5bとの絶縁性をより向上させることが可能となる。
【0048】
さらに、上記第1実施形態では、1次成形絶縁体6cと2次成形絶縁体6dとの境界Sが、コイル4から延びて屈曲した後、コア5a、5bとの間隔が最も狭いフレーム6の左右表面6L、6rとは異なる上下表面6u、6vに到達している。このため、コイル4とコア5a、5bとの間の沿面距離D1+D2+D3および絶縁距離D1+D2+D3+D4を最大限長くして、コイル4とコア5a、5bとの絶縁性を一層向上させることが可能となる。
【0049】
図6は、第2実施形態の磁気部品3の要部の断面図である。第2実施形態では、フレーム6のインサート成形時に、
図5(a)に示した1次成形絶縁体6cに代えて、
図6(a)に示す1次成形絶縁体6eをコイル4の真直部4dの上下端部に装着する。
【0050】
1次成形絶縁体6eは、金型10内でコイル4の真直部4dが位置ずれしないようにコイル4の上下端部と係合する第1係合部6fと、1次成形絶縁体6eが位置ずれしないように金型10と係合する第2係合部6gと、これらの係合部6f、6gの間に設けられた段差部6hとを有している。また、1次成形絶縁体6eは、後述する2次成形絶縁体6dと同一の合成樹脂であってもよいし、異なる合成樹脂であってもよい。
【0051】
フレーム6のインサート成形時に、溶融状態の2次成形絶縁体6dの流入圧力により、金型10内で1次成形絶縁体6eが左右方向Xに位置ずれした場合、コイル4の真直部4dも左右方向Xに位置ずれする。この位置ずれ状態で、2次成形絶縁体6dが硬化して、フレーム6とコア5a、5bとが組み合わされると、コイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jのいずれかとの間の沿面距離および絶縁距離が短くなるおそれがある。
【0052】
然るに、上記第2実施形態によると、
図6(b)に示すように、1次成形絶縁体6eの第2係合部6gが金型10と上下方向Yからだけでなく左右方向Xからも係合することで、溶融状態の2次成形絶縁体6dの流入圧力により1次成形絶縁体6eが左右方向Xに位置ずれするのを阻止することができる。このため、1次成形絶縁体6eの第1係合部6fに係合したコイル4の真直部4dも左右方向Xに位置ずれせず、真直部4dを金型10内の中心に確実に保持することができる。そして、その状態で2次成形絶縁体6dが硬化して、フレーム6とコア5a、5bとが組み合わされると、
図6(c)に示すように、コイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jとの間の沿面距離D
1+D
5+D
3および絶縁距離D
1+D
5+D
3+D
4を長く確保することができる。
【0053】
また、1次成形絶縁体6eに段差部6hが設けられたことで、
図6(c)に太線で示すように、1次成形絶縁体6eと2次成形絶縁体6dとの境界Sに段差Stが形成されるので、境界Sの長さ(沿面距離)D
1+D
5+D
3を長くして、コイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jとの間の絶縁距離D
1+D
5+D
3+D
4も容易に長くすることができる。よって、磁気部品3のコイル4とコア5a、5bとの絶縁性を向上させることが可能となる。
【0054】
図7Aおよび
図7Bは、第3実施形態の磁気部品3の要部の断面図である。第3実施形態では、フレーム6のインサート成形時に金型10内でコイル4の真直部4dを位置決めするために、
図7A(a)に示すように、真直部4dの上下端部を可動保持部品11で保持する。可動保持部品11は、金型10に備わる可動部品であって、図示しない駆動機構により、金型10内に対して出没可能になっている。また、可動保持部品11の金型10内に突出する部分の形状は、第1実施形態で用いた1次成形絶縁体6c(
図5(a)参照)の形状と同一である。
【0055】
図7A(a)の状態から、フレーム6を形成する溶融状態の合成樹脂6d
1を金型10内に充填する。このとき充填された合成樹脂6d
1は1次充填絶縁体であって、
図7A(b)に示すようにコイル4の真直部4dと可動保持部品11の周囲に行き渡る。次に、1次充填絶縁体6d
1が完全に硬化する前に、可動保持部品11を金型10外へ移動させて、コイル4の真直部4dの保持を解放する。これにより、
図7A(c)に示すように金型10内に可動保持部品11の抜け跡である空間Qが生じる。また、コイル4の真直部4dの中央部が1次充填絶縁体6d
1により保持されて、真直部4dが位置決めされた状態となる。
【0056】
そしてさらに、
図7B(d)に示すように、溶融状態の合成樹脂6d
2を金型10内に充填する。このとき充填された合成樹脂6d
2は2次充填絶縁体であって、
図7A(c)に示した空間Qに行き渡る。またこのとき、コイル4の真直部4dの中央部が1次充填絶縁体6d
1により保持されているので、2次充填絶縁体6d
2の流入圧力により真直部4dが左右方向Xに位置ずれするのを阻止することができる。
【0057】
その後、1次充填絶縁体6d1と2次充填絶縁体6d2が硬化することで、フレーム6が、1次充填絶縁体6d1と2次充填絶縁体6d2により構成される。そして、コイル4の真直部4dの中間部が1次充填絶縁体6d1により被覆され、真直部4dの上下端部が2次充填絶縁体6d2により被覆される。1次充填絶縁体6d1と2次充填絶縁体6d2の境界Sは、第1実施形態と同様に、コイル4から屈曲した状態でコア5a、5bへ向かっている。1次充填絶縁体6d1は、本発明の「第1被覆部」の一例であり、2次充填絶縁体6d2は、本発明の「第2被覆部」の一例である。
【0058】
上記第3実施形態のように、可動保持部品11を用いて、フレーム6をインサート成形しても、
図7B(e)に太線で示すように、1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2の境界Sの長さD
1+D
2が長くなって、コイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jとの間の沿面距離D
1+D
2+D
3や絶縁距離D
1+D
2+D
3+D
4も長くなるので、磁気部品3のコイル4とコア5a、5bとの絶縁性を向上させることが可能となる。
【0059】
図8Aおよび
図8Bは、第4実施形態の磁気部品3の要部の断面図である。第4実施形態では、フレーム6のインサート成形時に金型10内で、
図8A(a)に示すように、コイル4の真直部4dの上下端部を可動保持部品12で保持する。可動保持部品12の金型10内に突出する部分の形状は、第2実施形態で用いた1次成形絶縁体6e(
図6(a)参照)の形状と同一である。
【0060】
可動保持部品12は、金型10内でコイル4の真直部4dが位置ずれしないようにコイル4の上下端部と係合する第1係合部12fと、可動保持部品12が位置ずれしないように金型10と係合する第2係合部12gと、これらの係合部12f、12gの間に設けられた段差部12hとを有している。
【0061】
図8A(a)の状態から、フレーム6を形成する溶融状態の1次充填絶縁体6d
1を金型10内に充填する(
図8A(b)の状態)。次に、1次充填絶縁体6d
1が完全に硬化する前に、可動保持部品12を金型10外へ移動させて、
図8A(c)に示すようにコイル4の真直部4dの保持を解放する。これにより、金型10内に空間Qが生じる。そしてさらに、溶融状態の2次充填絶縁体6d
2を金型10内に充填して空間Qに行き渡らせる。この後、1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2を硬化させて、コイル4の真直部4dを1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2により被覆する(
図8B(d)の状態)。
【0062】
上記第4実施形態によると、インサート成形時に可動保持部品12の第1係合部12fがコイル4の真直部4dの上下端部に係合し、第2係合部12gが金型10と係合することで、1次充填絶縁体6d
1の充填時に、その流入圧力によりコイル4の真直部4dや可動保持部品12が左右方向Xに位置ずれするのを阻止することができる。また、2次充填絶縁体6d
2の充填時に、コイル4の真直部4dの中間部が1次充填絶縁体6d
1により保持されているので、2次充填絶縁体6d
2の流入圧力により真直部4dが左右方向Xに位置ずれするのを阻止することができる。そして、1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2が硬化して、フレーム6とコア5a、5bとが組み合わされると、
図8B(e)に太線で示すように、1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2の境界Sの長さ(沿面距離)D
1+D
5+D
3が長くなって、コイル4の真直部4dとコア5a、5bの凸部5e~5jとの間の絶縁距離D
1+D
5+D
3+D
4も長くすることができる。
【0063】
また、可動保持部品12に段差部12hが設けられたことで、1次充填絶縁体6d1と2次充填絶縁体6d2との境界Sに段差Stが形成されるので、境界Sの長さ(沿面距離)D1+D5+D3、および絶縁距離D1+D5+D3+D4を容易に長くすることができる。よって、磁気部品3のコイル4とコア5a、5bとの絶縁性を向上させることが可能となる。
【0064】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、以上の実施形態では、フレーム6の境界Sが、コイル4から屈曲した状態でコア5a、5bに向かう例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば
図9に示す第5実施形態のように、フレーム6の1次成形絶縁体6c’の角部を所定の曲率半径をもった曲面に加工することにより、1次成形絶縁体6c’と2次成形絶縁体6dとの境界Sが、コイル4から湾曲した状態でコア5a、5bに向かうようにしてもよい。
【0065】
また、フレーム6の1次成形絶縁体6c、6e、6c’に代えて、可動保持部品11、12でコイル4の真直部4dを位置決めする場合は、
図10に示す第6実施形態のように、可動保持部品11、12の角部を所定の曲率半径をもった曲面に加工してもよい。この場合も、フレーム6の1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2との境界Sが、コイル4から湾曲した状態でコア5a、5bに向かうようになる。
【0066】
また、金型10内に充填した1次充填絶縁体6d1の硬化状態や、可動保持部品11、12の金型10外への移動のタイミングや、2次充填絶縁体6d2の金型10内への充填のタイミングなどを調整して、1次充填絶縁体6d1と2次充填絶縁体6d2との境界Sが、コイル4から湾曲した状態でコア5a、5bに向かうようにしてもよい。
【0067】
また、
図5や
図7Bや
図9に示した実施形態では、フレーム6の境界Sがコイル4から1回屈曲または湾曲して、フレーム6の上表面6uまたは下表面6vに到達している例を示し、
図6や
図8Bや
図10に示した実施形態では、フレーム6の境界Sがコイル4から2回屈曲または湾曲して、フレーム6の左表面6Lまたは右表面6rに到達している例を示した。然るに、本発明はこれらのみに限定するものではなく、コイル4からコア5a、5bに向かうフレーム6の境界Sの屈曲または湾曲の回数は3回以上であってもよい。つまり、フレーム6の1次成形絶縁体6c、6e、6c’と2次成形絶縁体6dとの境界Sや、1次充填絶縁体6d
1と2次充填絶縁体6d
2との境界Sは、コイル4から適宜回数屈曲または湾曲した状態でフレーム6の表面6u、6v、6L、6rのいずれかに到達するようにしてもよい。また、それにより境界Sに1つまたは複数の段差Stを設けてもよい。さらに、段差Stを有する境界Sがフレーム6の表面6u、6v、6L、6rのいずれに到達していてもよい。
【0068】
また、以上の実施形態では、金型10内でコイル4の真直部4dを位置決めするために、真直部4dの上下端部を1次成形絶縁体6c、6e、6c’や可動保持部品11、12で保持した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、コイル4の真直部4dの上端部と下端部のいずれか一方を、1次成形絶縁体6c、6e、6c’または可動保持部品11、12で保持してもよい。また、真直部4dの上端部と下端部のうち、一方を1次成形絶縁体6c、6e、6c’で保持し、他方を可動保持部品11、12で保持してもよい。また、真直部4dの中間部を1次成形絶縁体6c、6e、6c’や可動保持部品11、12で保持してもよい。つまり、金型10内への合成樹脂の流入圧力によりコイル4の真直部4dが変形しないように、真直部4dのいずれか1箇所または複数箇所を、1次成形絶縁体6c、6e、6c’や可動保持部品11、12で保持すればよい。
【0069】
また、以上の実施形態では、フレーム6の一部でコイル4を被覆して、コイル4とコア5a、5bとを絶縁した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、フレーム6とは別体の被覆部材でコイル4を被覆して、コイル4とコア5a、5bとを絶縁してもよい。この場合、被覆部材は、電子装置100の筐体1またはフレーム6に固定するとよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、断面がE形の2つのフェライトコア5a、5bを上下に組み合わせてコアを構成した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、断面がE形のコアと、断面がI形のコアとを組み合わせてコアを構成してもよい。また、その他の形状のコアを1つだけ用いてもよいし、3つ以上組み合わせてコアを構成してもよい。さらに、フェライト以外の磁性材料で形成されたコアを用いてもよい。
【0071】
また、以上の実施形態では、
図2などに示したように、真直部4dの断面が長方形状のコイル4を用いた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、その他の断面形状を有するコイルを用いてもよい。
【0072】
また、以上の実施形態では、チョークコイルから成る磁気部品3に対して本発明を適用した例を示したが、トランスなどの他の磁気部品に対しても本発明は適用することが可能である。
【0073】
さらに、以上の実施形態では、車載用のDC-DCコンバータから成る電子装置100と、該電子装置100に備わる磁気部品3に対して本発明を適用した例を挙げたが、その他の車載用の電子装置や、車載用以外の電子装置や、それらに備わる磁気部品に対しても、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 筐体
2 基板
3 磁気部品
4 コイル
5a 上コア
5b 下コア
6 フレーム(被覆部材)
6c、6c’、6e 1次成形絶縁体(第1被覆部)
6f 第1係合部
6g 第2係合部
6h 段差部
6d 2次成形絶縁体(第2被覆部)
6d1 1次充填絶縁体(第1被覆部)
6d2 2次充填絶縁体(第2被覆部)
6L 左表面(第1表面)
6r 右表面(第1表面)
6u 上表面(第2表面)
6v 下表面(第2表面)
10 金型
11、12 可動保持部品
100 電子装置
Q 空間
S 境界
St 段差
X 左右方向(コイルからコアまで最短で到達する方向)