(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれからなる成形品ならびにレーザー溶着性を向上させる方法。
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20221122BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20221122BHJP
C08L 25/10 20060101ALI20221122BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221122BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221122BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08L25/10
C08K7/14
C08K3/22
B29C65/16
(21)【出願番号】P 2018128181
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大田 健史
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭雄
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113596(JP,A)
【文献】特開2007-169358(JP,A)
【文献】特開2017-052974(JP,A)
【文献】特開2011-105555(JP,A)
【文献】特開平05-301741(JP,A)
【文献】特開2013-053316(JP,A)
【文献】特開2009-040808(JP,A)
【文献】特開2015-105359(JP,A)
【文献】特開2008-222831(JP,A)
【文献】特開2017-141406(JP,A)
【文献】国際公開第2005/035657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08L 69/00
C08L 25/10
C08K 7/14
C08K 3/22
B29C 65/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ガラス繊維15~91重量部、(C)ポリカーボネート樹脂、および(D)スチレン-ブタジエン樹脂を含有してなる繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、その(B)ガラス繊維に含有する酸化鉄量が0.14重量%以上0.24重量%以下であり、
該(D)スチレン-ブタジエン樹脂がスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物であり、該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の試料厚み2mmで測定した波長940nmのレーザー光線透過率が17%以上であるレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品において、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、酸化鉄を0.14重量%以上0.24重量%以下含有するガラス繊維を15~91重量部、(C)ポリカーボネート樹脂、および(D)スチレン-ブタジエン樹脂を添加する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品のレーザー溶着性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー溶着性が優れたレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれからなる成形品ならびにレーザー溶着性を向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その優れた射出成形性、機械特性、耐熱性、電気特性、耐薬品性などを利用して、機械部品、電気・通信部品、自動車部品などの分野で射出成形品として広範囲に利用されている。しかし、射出成形品の成形効率はよいが、その流動特性や金型構造の点から形状に制限があり、あまり複雑なものは成形が困難である。
【0003】
このため、従来から製品形状の複雑化に伴う各パーツの接合においては、接着剤による接合、ボルトなどによる機械的接合などが行われてきた。しかしながら、接着剤ではその接着強度が、また、ボルトなどによる機械的接合では、費用、締結の手間、重量増が問題となっている。一方、レーザー溶着、熱板溶着などの外部加熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの摩擦熱溶着に関しては短時間で接合が可能であり、また、接着剤や金属部品を使用しないので、それにかかるコストや重量増、環境汚染等の問題が発生しないことから、これらの方法による組立が増えてきている。
【0004】
レーザー溶着は、透過性のある透過樹脂材と非透過樹脂材を重ね合わせ、透過樹脂材側からレーザー光線を照射することにより、透過樹脂材と非透過樹脂材との合わせ面を加熱溶融させて両者を接合する方法である。レーザー光は、透過樹脂材を透過して非透過樹脂材で吸収され、合わせ面で吸収されたレーザー光は蓄積され、その結果、非透過樹脂材は加熱溶融されるとともに、合わせ面から熱伝達により透過樹脂材も溶融し両者を接合する技術である。
【0005】
構造材料として使う場合には高い剛性を必要とするためガラス繊維等のフィラーを添加する。しがしながら、ガラス繊維等のフィラーを添加した場合には、レーザー光の透過率が低下して、溶着強度が低下するという問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するため、特許文献1及び2には、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に非晶性樹脂を配合する方法やポリブチレンテレフタレート樹脂にグリシジル基を有する熱硬化性樹脂を配合する方法が提案されているが、十分な溶着強度が得られなかった。また、レーザー光が透過樹脂材を透過しすぎた場合は、溶着面にバリ、発泡、焼けなどの溶着不具合が発生する問題があった。
【0007】
また、特許文献3には特定量の酸化鉄を含有するガラス繊維について記載されているが、レーザー溶着に関する技術については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-19135号公報
【文献】特開2011-52223号公報
【文献】特開2000-247684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、レーザー溶着特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び、溶着面にバリ、発泡、焼けなどの不具合のないレーザー溶着した複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、鋭意研究、検討を重ねた結果、特定量の酸化鉄量を含むガラス繊維を使用することによって、レーザー溶着特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び、溶着面にバリ、発泡、焼けなどの溶着不具合のないレーザー溶着した複合成形体を得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ガラス繊維15~91重量部、(C)ポリカーボネート樹脂、および(D)スチレン-ブタジエン樹脂を含有してなる繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、その(B)ガラス繊維に含有する酸化鉄量が0.14重量%以上0.24重量%以下であり、該(D)スチレン-ブタジエン樹脂がスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物であり、該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の試料厚み2mmで測定した波長940nmのレーザー光線透過率が17%以上であるレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)(1)に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる成形品。
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品において、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、酸化鉄を0.14重量%以上0.24重量%以下含有するガラス繊維を15~91重量部、(C)ポリカーボネート樹脂、および(D)スチレン-ブタジエン樹脂添加する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品のレーザー溶着性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザー溶着特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び、溶着面にバリ、発泡、焼けなどの溶着不具合のないレーザー溶着した複合成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】L1が80mm正方形で、厚みD1が2mmのレーザー光線透過性評価試験片である。
【
図2】(a)はレーザー溶着用試験片の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。
【
図3】レーザー溶着方法の概略を示す概略斜視図である。
【
図4】(a)はレーザー溶着強度測定試験片の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0015】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂>
本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、1,4-ブタンジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。1,4-ブタンジオールのエステル形成性誘導体としては、例えば、1,4-ブタンジオールエステルなどのジオールのアルキルエステルなどが挙げられる。
【0016】
特性を損なわない範囲であれば、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよいし、1,4-ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジオールまたはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよい。共重合成分として用いられるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸やこれらのアルキルエステルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。また、共重合成分として用いられるジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400~6000のポリエチレングリコールやポリ1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの長鎖グリコールやこれらの脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これら共重合成分は、(A)ポリブチレンテレフタレートを形成する原料の20重量%以下が好ましい。
【0017】
このような共重合体の好ましい例としては、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0018】
<ガラス繊維>
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(B)ガラス繊維を含有する。本発明で用いる(B)ガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は5以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましく、20以上であることがさらに好ましい。また、(B)ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0019】
本発明で用いる(B)ガラス繊維の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100重量部に対し、15~91重量部である。配合量が15重量部未満であると溶着面にバリ、発泡、焼けなどの溶着不具合が発生すること、また材料強度が低いことから好ましくない。配合量が91重量部を越えると溶着不良が発生するため、レーザー溶着用途には好ましくない。
【0020】
本発明で用いる(B)ガラス繊維に中に含有する酸化鉄量は、0.24重量%以下である必要がある。より好ましくは0.14重量%~0.20重量%である。酸化鉄量が0.14重量%未満であるとバリ、発泡、焼けなどの溶着不具合が発生する傾向にある。また、酸化鉄量が0.24%を超えると十分な溶着強度が得られないことから好ましくない。なお、本発明における酸化鉄量はFe2O3換算量であり、JIS R3420:2013 に準拠した蛍光X線分析法により求めた値である。
【0021】
<ポリカーボネート樹脂>
さらに、本発明で用いる樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂を配合することができる。
【0022】
ポリカーボネート樹脂とは、2価フェノールとホスゲンまたは炭酸エステル化合物などのカーボネート前駆体とを反応させることにより得られる重合体であって、例えば、塩化メチレンなどの溶媒中において、2価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応により、あるいは2価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応などによって製造される。2価フェノールとしては、様々なものがあるが、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。ビスフェノールA以外の2価フェノールとしては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ハイドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等が挙げられる。これらの2価フェノールはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、炭酸エステル化合物としては、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。本発明で用いるポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、平均分子量が10000~60000、特に15000~40000の範囲にあるものが好ましい。平均分子量が10000~60000であると、機械的特性や成形性が一層向上する。
【0023】
<スチレン系エラストマ>
さらに、本発明で用いる樹脂組成物は、スチレン系エラストマを配合することができ、400~1100nmの波長領域において、ポリブチレンテレフタレートの同波長領域における光線透過率よりも高い光線透過率を有するスチレン系エラストマを用いることが好ましい。かかるスチレン系エラストマとしては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体が好ましく挙げられ、さらに好ましくはスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物が挙げられる。このスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物としては、たとえばダイセル化学工業(株)製の“エポフレンドA501”を好適に用いることができる。
【0024】
<その他添加剤>
さらに、本発明の樹脂組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分、例えばエポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ノボラック型、グリシジルエステル型等)、リン系安定剤(リン酸エステル系等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、リレン、ぺリレン、ナフタトシアニン、キナクリドン、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、アゾ系、モノアゾ系、金属錯塩等)、染料(アジン系、アゾ系、ぺリレン、アンスラキノン等)、結晶核剤(タルク、ポリエーテルエーテルケトン等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、着色防止剤(次亜リン酸塩等)、他の重合体などを含有することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、本発明で規定する要件を満たす限り特に限定されるものではないが、生産性の点で、一軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法が好ましく、流動性および機械特性に優れた樹脂組成物を得られるという点で、二軸押出機で均一に溶融混練する方法がより好ましい。なかでも、スクリュー長さをL(mm)、スクリュー直径をD(mm)とすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。二軸押出機のL/Dの上限は150であり、好ましくはL/Dが30を越え、100以下のものが使用できる。
【0026】
また、本発明において二軸押出機で用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられるが、本発明の組成物を得るためにはスクリューによる均一的な混練が必要である。そのため、スクリュー全長に対するニーディングディスクの合計長さ(ニーディングゾーン)の割合は、5~50%の範囲が好ましく、10~40%の範囲であればさらに好ましい。
【0027】
本発明において溶融混練する場合に、各成分を投入する方法は、例えば、投入口を2カ所有する押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および必要に応じてその他成分を供給する方法や、主投入口から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂およびその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(B)ガラス繊維を供給し溶融混合する方法などが挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。
【0029】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができ、特にレーザー溶着が可能であることから、レーザー溶着をする自動車用部品、電気・電子部品として好適である。
【0030】
本発明の樹脂組成物からなる成形品は、試料厚み2mmで測定した波長940nmのレーザー光線透過率が17%以上である。樹脂組成物からなる成形品の透過率が17%以上であることで、出力35W、レーザー走査速度30mm/secの条件でレーザー溶着した際に十分な溶着強度を得ることができる。さらに好ましくは、樹脂組成物からなる成形品の透過率が25%以下であることで、溶着面にバリ、発泡、焼けなどの不具合のない成形体を得ることが可能となる。なお、本発明において、レーザー光線透過率は、紫外近赤外分光高度計を用い、検出器には積分球を用いて測定した値である。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、下記の具体的な用途に使用することができる。具体例としては、エアフローメーター、エアポンプ、サーモスタットハウジング、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなど各種自動車用コネクター、電気用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジング、および内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品、パラボラアンテナなどに代表される電気・電子部品を挙げることができる。
【0032】
更に、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク(CD)、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RW、DVD-RAM、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、などに代表される家庭・事務電気製品部品を挙げることができる。
【0033】
また、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、コイルボビンなどの電気・電子部品、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具、階段、ドアー、床などの建築部材、釣り糸、漁網、海藻養殖網、釣り餌袋などの水産関連部材、植生ネット、植生マット、防草袋、防草ネット、養生シート、法面保護シート、飛灰押さえシート、ドレーンシート、保水シート、汚泥・ヘドロ脱水袋、コンクリート型枠などの土木関連部材、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、キーステム、カム、ラチェット、ローラー、給水部品、玩具部品、ファン、テグス、パイプ、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの機械部品、マルチフィルム、トンネル用フィルム、防鳥シート、植生保護用不織布、育苗用ポット、植生杭、種紐テープ、発芽シート、ハウス内張シート、農ビの止め具、緩効性肥料、防根シート、園芸ネット、防虫ネット、幼齢木ネット、プリントラミネート、肥料袋、試料袋、土嚢、獣害防止ネット、誘因紐、防風網などの農業部材、紙おむつ、生理用品包材、綿棒、おしぼり、便座ふきなどの衛生用品、医療用不織布(縫合部補強材、癒着防止膜、人工器官補修材)、創傷被服材、キズテープ包帯、貼符材基布、手術用縫合糸、骨折補強材、医療用フィルムなどの医療用品、カレンダー、文具、衣料、食品等の包装用フィルム、トレイ、ブリスター、ナイフ、フォーク、スプーン、チューブ、プラスチック缶、パウチ、コンテナー、タンク、カゴなどの容器・食器類、ホットフィル容器類、電子レンジ調理用容器類化粧品容器、ラップ、発泡緩衝剤、紙ラミ、シャンプーボトル、飲料用ボトル、カップ、キャンディ包装、シュリンクラベル、蓋材料、窓付き封筒、果物かご、手切れテープ、イージーピール包装、卵パック、HDD用包装、コンポスト袋、記録メディア包装、ショッピングバック、電気・電子部品等のラッピングフィルムなどの容器・包装、天然繊維複合、ポロシャツ、Tシャツ、インナー、ユニホーム、セーター、靴下、ネクタイなどの各種衣料、カーテン、イス貼り地、カーペット、テーブルクロス、布団地、壁紙、ふろしきなどのインテリア用品、キャリアーテープ、プリントラミ、感熱孔版印刷用フィルム、離型フィルム、多孔性フィルム、コンテナバッグ、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、ICカード、紙、皮革、不織布等のホットメルトバインダー、磁性体、硫化亜鉛、電極材料等粉体のバインダー、光学素子、導電性エンボステープ、ICトレイ、ゴルフティー、ゴミ袋、レジ袋、各種ネット、歯ブラシ、文房具、水切りネット、ボディタオル、ハンドタオル、お茶パック、排水溝フィルター、クリアファイル、コート剤、接着剤、カバン、イス、テーブル、クーラーボックス、クマデ、ホースリール、プランター、ホースノズル、食卓、机の表面、家具パネル、台所キャビネット、ペンキャップ、ガスライターなどとして有用である。本発明の樹脂組成物は、高いレーザー透過性、レーザー溶着性だけでなく、良好な機械特性と高流動性、低反り性を併せ持つことから、上記の中でも特にレーザー溶着を行う各種自動車用部品、電気・電子部品に特に有用である。
【0034】
本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、レーザー溶着における、レーザー光を透過する透過樹脂材として有用である。また、本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、カーボンブラックなどのレーザーを吸収する成分を添加することにより、レーザー溶着における、レーザーを吸収する吸収樹脂材としても用いることができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、種々の変更をすることもできる。なお、実施例13は参考例とする。
【0036】
実施例及び比較例では、以下の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ガラス繊維、(C)ポリカーボネート樹脂、(D)スチレン-ブタジエンを用いた。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製“トレコン”1100S)。
(B)ガラス繊維
B-1:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.13重量%)。
B-2:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.14重量%)。
B-3:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.16重量%)。
B-4:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.19重量%)。
B-5:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.20重量%)。
B-6:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.22重量%)。
B-7:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.24重量%)。
B-8:チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3.0mm、ガラス組成がSiO2が55重量%、B2O3が6重量%、Al2O3が14重量%、CaO及びMgOの合計が24重量%のEガラス、酸化鉄量0.25重量%)。
(C)ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製“タフロン”A1900)
(D)スチレン-ブタジエン樹脂(ダイセル化学(株)製“エポフレンド”AT501)。
また、安定剤として、少量のホスフェート系化合物(旭電化製“アデカスタブ”AX-71)を全ての実施例及び比較例に添加した。
【0037】
また、実施例および比較例に用いた評価方法を以下にまとめて示す。
【0038】
(6)レーザー光線透過性
図1に示したL1が80mm正方形で、厚みD1が2mmのレーザー光線透過性評価試験片を成形した。成形条件はシリンダ温度260℃、金型温度80℃である。
図1に示した成形片のスプルー1およびランナー2の部分をゲート3で切断し、残った部位4をレーザー光線透過性評価試験片とした。試験機は(株)島津製作所製の紫外近赤外分光高度計(UV-3150)を用い、また検出器には積分球を用いた。透過率は透過光量と入射光量の比を百分率で表す。実施例、比較例を示した表中には、近赤外線940nm波長領域の光線透過率を記載した。
【0039】
(7)レーザー溶着性
レーザー溶着性評価試験片は、
図1のレーザー光線透過性評価試験片4と同形状の成形品を幅W1が24mm、長さL2が70mmになるように切り出し、レーザー光線透過側試料5とした。
【0040】
図2(a)は上記加工後の試験片の平面図であり、(b)はその側面図である。
【0041】
レーザー溶着機は、ライスター社のMODULAS Cを用いた。本該溶着機は半導体レーザー使用の機器であり、レーザー光の波長は940nmの近赤外線である。最大出力が35W、焦点距離が38mm、焦点径が0.6mmである。
【0042】
図3はレーザー溶着の方法を示す概略図である。レーザー溶着方法は
図3に示すように、レーザー光線を透過させる材料を用いたレーザー光線透過側試料5を上部に、下部にはレーザー光線を吸収させる材料を用いたレーザー光線吸収側試料6を置き、重ね合わせ、上部よりレーザー光線を照射する。レーザー照射はレーザー溶着軌道9に沿って行い、レーザー溶着条件は、出力35W、レーザー走査速度30mm/sec、焦点距離は38mm、焦点径は0.6mm固定で実施した。
【0043】
図4(a)は上記方法でレーザー溶着したレーザー溶着強度測定用試験片10の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。レーザー溶着強度測定用試験片10は
図3に示したレーザー溶着試験片であるレーザー光線透過側試料5とレーザー光線吸収側試料6とが、重ね合わせ長さL3を30mmとし、溶着距離Y1は20mmとして、重ね合わせて溶着部11で溶着したものである。溶着強度測定には一般的な引張試験器(インストロン5581)を用い、該試験片の両端を固定し、溶着部位には引張剪断応力が発生するように引張試験を行った。強度測定時の引張速度は1mm/min、スパンは40mmである。溶着強度は溶着部位が破断したときの応力とした。尚、レーザー光線透過試料5へは本発明のレーザー溶着用樹脂組成物を用い、レーザー光線吸収側試料6へは、ポリブチレンテレフタレート樹脂70重量%に対し、ガラス繊維を30重量%、更にはポリブチレンテレフタレート樹脂およびガラス繊維の合計100重量部に対し、カーボンブラックを0.4重量部添加した材料を用いた。
【0044】
(8)引張強度
シリンダ温度260℃、金型温度80℃で試験片を成形し、ISO527-1,2:2012年に準拠し、引張強度を測定した。
【0045】
評価結果を表1~2に示す。表1に実施例、表2に比較例を表す。
【0046】
【0047】
【0048】
表1~2の結果より以下のことが明らかとなった。
【0049】
実施例1~13と比較例1との比較において、ガラス繊維に含まれる酸化鉄量が0.24重量%以下である場合は、レーザー溶着特性に優れた成形品を得ることができた。さらに、実施例1~12のようにガラス繊維に含まれる酸化鉄量が0.14重量%以上であると、溶着面に発泡のない溶着品を得られることがわかった。
【0050】
実施例1~13と比較例2との比較において、樹脂100重量部に対しガラス繊維が15重量部以上添加されていると溶着面に発泡のない溶着品を得られることがわかった。
【0051】
実施例1~13と比較例3との比較において、樹脂100重量部に対しガラス繊維が91重量部以下添加されていると十分な溶着強度を得られることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1.スプルー
2.ランナー
3.ゲート
4.レーザー光線透過性評価試験片
5.レーザー光線透過側試料
6.レーザー光線吸収側試料
7.レーザー光線照射部
8.レーザー光線
9.レーザー光の軌道
10.レーザー溶着強度測定用試験片
11.レーザー溶着部