IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両制御装置 図1
  • 特許-車両制御装置 図2
  • 特許-車両制御装置 図3
  • 特許-車両制御装置 図4
  • 特許-車両制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20221122BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20221122BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20221122BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221122BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20221122BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
F02D29/02 311B
F02D29/02 321C
B60W10/00 120
B60W10/06
B60W10/188
B60T7/12 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018136027
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020012434
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】筒井 嵩博
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克人
(72)【発明者】
【氏名】鶴間 智彦
(72)【発明者】
【氏名】篠原 稔
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084018(JP,A)
【文献】特開2015-105595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0090691(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0010065(US,A1)
【文献】取扱書 LAND CRUISER,日本,トヨタ自動車株式会社,2017年07月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
B60W 10/00 , 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止し、前記エンジンを自動で停止させた後に所定の再始動条件の成立により前記エンジンを自動で再始動するように制御するアイドルストップ制御部と、
降坂路を走行中に運転者のブレーキ操作によらずに目標速度を超えないように車速を制御するヒルディセント制御部と、
前記ヒルディセント制御部の作動状態と非作動状態を設定するヒルディセント制御設定部とを備え、
前記アイドルストップ制御部は、前記ヒルディセント制御設定部によって前記ヒルディセント制御部の状態が作動状態に設定されている場合、前記エンジンの自動停止を禁止し、
前記ヒルディセント制御部は、前記作動状態において、前記目標速度を超えないように車速を制御されていないスタンバイモードと、前記スタンバイモードかつ所定条件が成立した際に、前記目標速度を超えないように車速を制御するアクティブモードとを有し、
前記アイドルストップ制御部は、前記ヒルディセント制御部が前記スタンバイモードとなっている場合であって、前記エンジンの自動停止の禁止を解除する解除条件が成立している場合には、前記アイドルストップ制御部による前記エンジンの自動停止の禁止を解除することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記解除条件は、オフロード走行中ではないと判断する条件であり、前記解除条件は複数の異なる条件を有し、前記ヒルディセント制御設定部によって前記ヒルディセント制御部が前記非作動状態から前記作動状態に切り替えられた後の前記アクティブモードの経験の有無に応じて、前記複数の異なる条件の何れを用いるかを切り替えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記解除条件は、前記複数の異なる条件として、前記ヒルディセント制御設定部によって前記ヒルディセント制御部が前記非作動状態から前記作動状態に切り替えられた後に、前記アクティブモードを経験していない場合に用いる第1の解除条件と、前記アクティブモードを経験した場合に用いる第2の解除条件とを備えていることを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両制御装置において、
前記第1の解除条件は、前記第2の解除条件よりも前記エンジンの自動停止の禁止が解除され難い条件に設定されていることを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制御装置として、下り坂を走行中に運転者のブレーキ操作によらずに目標速度を超えないように車速を制御する、所謂ヒルディセントコントロール(HDC)と呼ばれる走行制御を実行するものが知られている(例えば特許文献1)。
所定の停止条件の成立によりエンジンを自動で停止し、又は、所定の再始動条件の成立によりエンジンを自動で再始動するアイドルストップ制御を可能とした車両が知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-218100号公報
【文献】特開2015-183644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒルディセント制御とアイドルストップ制御を1つの車両に搭載しようとした場合、ヒルディセント制御中にアイドルストップ制御が作動してエンジンが停止してしまうと、降坂路でのヒルディセント制御による降坂性能が十分に発揮できないことが想定されることから両者の両立が求められている。
本発明は、アイドルストップ制御とヒルディセント制御の両立を図った新たな車両制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る車両制御装置は、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止し、エンジンを自動で停止させた後に所定の再始動条件の成立によりエンジンを自動で再始動するように制御するアイドルストップ制御部と、降坂路を走行中に運転者のブレーキ操作によらずに目標速度を超えないように車速を制御するヒルディセント制御部と、ヒルディセント制御部の作動状態と非作動状態を設定するヒルディセント制御設定部とを備え、アイドルストップ制御部は、ヒルディセント制御設定部によってヒルディセント制御部の状態が作動状態に設定されている場合、エンジンの自動停止を禁止し、ヒルディセント制御部は、作動状態において、目標速度を超えないように車速を制御されていないスタンバイモードと、スタンバイモードかつ所定条件が成立した際に、目標速度を超えないように車速を制御するアクティブモードとを有し、アイドルストップ制御部は、ヒルディセント制御部がスタンバイモードとなっている場合であって、エンジンの自動停止の禁止を解除する解除条件が成立している場合には、アイドルストップ制御部によるエンジンの自動停止の禁止を解除することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アイドルストップ制御部は、ヒルディセント制御設定部によってヒルディセント制御部の状態が作動状態に設定されている場合、エンジンの自動停止を禁止するので、ヒルディセント制御中にアイドルストップ制御の介入によるエンジンの自動停止を防止でき、ヒルディセント制御とアイドルストップ制御の両立を図った車両制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る車両制御装置を備えた車両の概略構成図。
図2】本発明に係る車両制御装置の一形態を説明するブロック図。
図3】ヒルディセント制御前から制御完了後までの車両状態を模式的に示す図。
図4】車両制御装置によって実行される制御の一形態を示すフローチャート。
図5】第1の解除条件に基づき作成された第1マップと、第2の解除条件に基づき作成された第2マップの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。実施形態中、同一部材や同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、重複説明は省略する。図面は、一部構成の理解を助けるために部分的に省略する場合もある。
図1は本実施形態に係る車両制御装置100を備えた車両1の概略構成を示す図である。車両1は、内燃機関であるエンジン2、変速機4、エンジン2と変速機4との間に配置されたクラッチ(ボトムクラッチ)3、変速機4から出力された回転駆動力によって回転駆動される4つの車輪5と、4つの車輪5の回転にそれぞれ個別に摩擦を与えることで制動する4つの制動装置7を備えている。4つの車輪5のうち、符号5(A)は前輪を、符号5(B)は後輪を示す。本実施形態において、車両1は、前輪5(A)と後輪5(B)とが、フロントデフ6Aとリアデフ6Bとを多板クラッチであるビスカスカップリング8を介してプロペラシャフト9で連結した4輪駆動車を例示している。
【0009】
各制動装置7は、各車輪5と一体で回転するブレーキディスクに油圧により摩擦部材となるブレーキパッドを圧接させることで各車輪にそれぞれ制動力を個別に与えて車両1の速度を減速する周知の油圧ディスクブレーキ装置である。
各制動装置7は、X型に配置されたブレーキ配管11を介して油圧制御ユニット10にそれぞれ接続されている。油圧制御ユニット10はマスタシリンダ12がブレーキ配管11Aを介して接続され、ブレーキペダル13の操作(踏み込み量)に応じてマスタシリンダ12に発生した液圧(油圧)がブレーキ配管11Aを経て油圧制御ユニット10に入力される。この液圧は油圧制御ユニット10を中継してブレーキ配管11を経て各制動装置7に供給され、これにより各制動装置7がブレーキペダル13に対するブレーキ操作に応じた制動力を発生して車両1に作用させる。油圧制御ユニット10は、ブレーキペダル13を踏まなくても、内蔵したポンプにより任意に油圧を発生可能であり、発生した液圧の供給によっても各制動装置7は制動力を発生する。ポンプによる油圧発生は、主に後述するヒルディセント制御時に用いられる。
【0010】
車両1は、スロットルバルブ14の開度を調整してエンジン回転数を調整するアクセルペダル15と、エンジン2と変速機4との回転を連断(オン/オフ)するクラッチ3を操作するクラッチペダル16と、変速機4を手動操作により変速する変速操作部17を備えている。すなわち、本実施形態に係る車両1は、変速機4としてマニュアルトランスミッションを備えた四輪駆動車である。
車両制御装置100は、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成される制御部としてECU30を備えている。ECU30は、所定の停止条件の成立によりエンジン2を自動で停止し、又は、所定の再始動条件の成立によりエンジン2を自動で再始動するように制御するアイドルストップ制御部31と、降坂路40を走行中に運転者のブレーキ操作によらずに目標速度を超えないように車速を制御するヒルディセント制御部32とを備えている。本実施形態において、アイドルストップ制御部31とヒルディセント制御部32は、ECU30に含まれているが、ECU30と別な構成であってもよい。
ECU30は、アクセルペダル15の操作に応じて図示しない燃料噴射装置からの燃料噴射量を制御して一般走行時の運転領域を制御する機能を備えている。また、本実施形態において、アイドルストップ制御部31とヒルディセント制御部32とは、ECU30によって実現される。
【0011】
車両1には、アイドルストップ制御部31の作動/非作動を任意に切り替えるアイドルストップスイッチ33と、ヒルディセント制御部32の作動状態と非作動状態を設定するヒルディセント制御設定部としてのヒルディセントスイッチ34(HDCSW)とを備えている。
アイドルストップスイッチ33はオン/オフスイッチで構成されている。アイドルストップスイッチ33が乗員によってオン操作されてオン状態となると、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御が有効となり、アイドルストップスイッチ33がオフ操作されてオフ状態となるとアイドルストップ制御が無効とされる。
本実施形態において、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御は、車両1が特定の状態となった場合、原則、アイドルストップ制御がアイドルストップスイッチ33によって有効とされていても解除されて、アイドルストップ制御部31によるエンジン2への自動停止が禁止され、エンジン2が自動停止しないように制御される。
【0012】
ヒルディセントスイッチ34は、オン/オフスイッチで構成されている。ヒルディセントスイッチ34は、降坂速度制御であるヒルディセント制御開始や停止をするためのスイッチある。ヒルディセントスイッチ34が乗員によってオン操作されてヒルディセント制御部32が作動状態に設定されると、スタンバイ状態(スタンバイモード)となって、ヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御が有効とされて制御可能状態となり、ヒルディセントスイッチ34がオフ操作されてヒルディセント制御部32が非作動状態に設定されるとヒルディセント制御が無効とされる。
ヒルディセント制御時の降坂速度である目標速度(Vtgt)は、一定速度値としてヒルディセント制御部32として機能するECU30内に予め設定してもよいが、目標速度設定部として降坂速度設定スイッチ35を設けて任意に目標速度(Vtgt)を設定できるようにしてもよい。この目標速度(Vtgt)としては、例えば1km/h~20km/hの範囲とする。
【0013】
上述のアイドルストップ制御が解除される車両1の特定の状態とは、ヒルディセント制御部32による制御可能条件が成立していることを条件として、その制御可能条件が満たされている場合である。本実施形態ではヒルディセントスイッチ34がオン操作されてヒルディセント制御がスタンバイ状態の場合と、ヒルディセント条件(所定条件)が成立し、スタンバイ状態からアクティブ状態(アクティブモード)となっている場合としている。なお、本実施形態においては、ヒルディセント制御がスタンバイ状態の場合でも例外的にアイドルストップ制御を実行可能としている。
車両1には、アクセルペダル15の操作量(θacc)を検出するアクセル操作検出手段としてのアクセルセンサ21、ブレーキペダル13の操作量(θbrk)を検出するブレーキ操作検出手段としてのブレーキセンサ22、車両1の前後方向の加速度(G)を検出する加速度センサ23、車速(V)を検出する車速センサ24、マスタシリンダ12のブレーキ液圧(MPa)を検出するブレーキ液圧センサ25、エンジン2の回転数(Ne)を検出するエンジン回転数検出センサ26、変速機4のニュートラル位置(N)を検出するニュートラルポジションスイッチ27、クラッチ3のオン/オフを検出するボトムクラッチスイッチ28を備えている。
【0014】
図2に示すように、ECU30の入力側には、アクセルセンサ21、ブレーキセンサ22、加速度センサ23、車速センサ24、ブレーキ液圧センサ25、エンジン回転数検出センサ26、ニュートラルポジションスイッチ27、ボトムクラッチスイッチ28、アイドルストップスイッチ33、ヒルディセントスイッチ34、降坂速度設定スイッチ35が信号線を介して接続されている。ECU30の入力側には、気温(℃)を検出する温度センサ37、降雨状況を検出する降雨センサ38、少なくとも1つの車輪5の空気圧(kPa)を検出する空気圧センサ39が信号線を介して接続されている。
ECU30の出力側には、制御対象となる油圧制御ユニット10と、エンジン2の回転数や運転領域を制御するためのエンジン運転デバイス36が信号線を介して接続されている。エンジン運転デバイス36には、例えばエンジン2がガソリンエンジンの場合、点火プラグなどの電装系と燃料噴射弁などが含まれ、エンジン2がディーゼルエンジンの場合には、グロープラグと燃料噴射弁などが含まれる。
【0015】
次に、車両制御装置100による制御内容について説明する。アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御とヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御の基本的な制御内容について最初に説明する。
ヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御は、ヒルディセント条件が成立している場合に実行される。
ヒルディセント条件は、ヒルディセントスイッチ34によってヒルディセント制御がスタンバイ状態とされた状態で、アクセルペダル15及びブレーキペダル13が非操作である条件1、降坂路40(図3参照)が例えば10°以上所定下り勾配以上である条件2、車速Vが例えば1~20km/hの所定範囲内である条件3の、3つの条件が全て成立した状態である。なお、ヒルディセント制御可能条件には、スタンバイ状態も含まれている。
従って、ヒルディセント制御部32はヒルディセントスイッチ34がオン操作されると、アクセルセンサ21及びブレーキセンサ22の検出情報(θacc、θbrk)に基づき条件1が成立したか否かを判定し、加速度センサ23の検出情報(G)から算出した路面勾配に基づき条件2が成立したか否かを判定し、車速センサ24の検出情報(V)に基づき、条件3が成立したか否かを判定する。そして、全ての条件が成立すると、その時点の車速Vを初期設定の目標車速Vtgtとしてヒルディセント制御を開始する。
【0016】
このようなヒルディセント制御の開始状況の一例を述べると、例えば図3に示すように降坂路40の直前でヒルディセントスイッチ34がオン操作され、アクセルペダル15及びブレーキペダル13の操作を中止したまま、勾配10°以上の降坂路40に車速8km/hで進入した場合には、進入時点の車速8km/hが目標車速Vtgtに設定されて直ちにヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御が開始される。
このときの車両1は、条件2の路面勾配により制動力を受けない限り増速する走行状態にある。そして、ヒルディセント制御の実行中であるアクティブ状態にはECU30により目標車速Vtgtに基づき油圧制御ユニット10のポンプが駆動制御され、各制動装置7による制動力が車両1に適宜作用することにより車両1が目標車速Vtgtに保たれる。そして、降坂路走行が終了して平坦路41に車両1が到達すると、ヒルディセント条件が成立しなくなるので、ヒルディセント制御がアクティブ状態からスタンバイ状態となる。
また、アクティブ状態時にアクセルペダル15が踏み込まれて車速Vが1~20km/hの所定範囲内を超えた場合もヒルディセント制御がアクティブ状態からスタンバイ状態となる。
ヒルディセント制御部32は、ヒルディセントスイッチ34がオンされた後にヒルディセント制御がスタンバイ状態からアクティブ状態となった回数をカウントして蓄積するカウンタ機能を備えており、このカウントは、ヒルディセントスイッチ34がオフされるとリセットされる。
また、回数をカウントして蓄積するカウンタ機能ではなく、ヒルディセントスイッチ34がオンされてヒルディセント制御がスタンバイ状態となった後に一度でもアクティブ状態となったかを判定する判定機能であってもよく、この判定機能を用いた場合であっても、判定は、ヒルディセントスイッチ34がオフされるとリセットされる。
【0017】
アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御は、減速時からエンジン2を自動で停止させるコーストアイドルストップと、車両1が停止してからエンジン2を自動で停止させる停車アイドルストップの二種類がある。これら二つのアイドルストップは、それぞれ所定の停止条件が成立することで実行される。コーストアイドルストップは、エンジン始動時、例えば7km/h以下の所定の車速以下で、かつ、マスタシリンダ12から出力されるブレーキ液圧(MPa)が例えば0.4MPaの第1所定値以上を所定の停止条件としている。停車アイドルストップは、エンジン始動時、車速が0km/hで、かつ、マスタシリンダ12から出力されるブレーキ液圧(MPa)が例えば0.7MPaの第2所定値以上を所定の停止条件としている。コーストアイドルストップの停止条件であるブレーキ液圧(MPa)の値である第1所定値が、停車アイドルストップの停止条件であるブレーキ液圧(MPa)の値である第2所定値よりも低く設定しているのは、減速時は運転者のブレーキペダル操作が急激ではなく、比較的緩やかな踏み込み操作によって徐々に減速することが多く、また、減速状態から停車時に至る間において停車時がブレーキペダル13の踏み込み量が最大でブレーキ液圧(MPa)が高くなるためである。
【0018】
コーストアイドルストップ又は停車アイドルストップの何れの場合でも、所定の停止条件が満たされると、ECU30は、アイドルストップ制御部31を介してエンジン運転デバイス36を制御してエンジン2を一時的に自動で停止させる。
一方、アイドルストップ制御中におけるエンジン2の自動再始動条件は、ブレーキ液圧(Mpa)が例えば0MPaの所定値未満の状態、もしくはアクセルペダル15の踏み込みが検出された場合に成立する。この条件はコーストアイドルストップ及び停車アイドルストップの双方において同一の条件である。ECU30は、自動再始動条件が成立すると、アイドルストップ制御部31を介してエンジン運転デバイス36を制御してエンジン2を再始動する。
【0019】
このようにヒルディセント制御機能とアイドルストップ制御機能の双方を1つの車両1に搭載した場合、ヒルディセント制御機能とアイドルストップ制御機能を個別に搭載していた場合の条件と同一条件でヒルディセント制御とアイドルストップ制御を実行してしまうと、例えば次のような不具合が想定される。
ヒルディセント制御中にアイドルストップ制御が作動してエンジン2が自動で停止してしまうと、降坂路40の途中で車両1が停止することが想定され、ヒルディセント制御による降坂性能が十分に発揮できない。降坂路40には、舗装路とオフロードとがあり、ヒルディセント制御はオフロードの降坂路40で作動させることが有効である。燃費のことを考えると、アイドルストップ制御はできるだけ多く実行し、エンジン2を自動停止するのが望ましい。また、ヒルディセント制御がスタンバイ状態であっても、降坂路走行がなされない場合や誤操作よるスタンバイ状態なども想定される。
【0020】
このため、本実施形態に係る車両制御装置100では、原則、ヒルディセント制御がスタンバイ状態または、アクティブ状態となっている時にはアイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御を禁止してエンジン2の自動停止を禁止するが、ヒルディセント制御がスタンバイ状態の場合であって、アイドルストップ制御部31によるエンジン2の自動停止の禁止を解除する解除条件が成立する場合には、アイドルストップ制御の禁止を解除して、エンジン2の自動停止の禁止を解除するようにした。
この解除条件は、ヒルディセント制御が可能な条件の成立後、ヒルディセント制御部32の制御動作の有無、すなわち、ヒルディセントスイッチ34がオンされた後に一度でもアクティブ状態を経験したか否かに応じて異なる解除条件を有している。つまり、解除条件は、ヒルディセント制御がスタンバイ状態で、ヒルディセントスイッチ34がオンされた後に一度もアクティブ状態を経験していない場合に用いる第1の解除条件と、ヒルディセント制御がスタンバイ状態で、ヒルディセントスイッチ34がオンされた後に一度でもアクティブ状態を経験した場合に用いる第2の解除条件とを備えている。
【0021】
第1の解除条件は、第2の解除条件よりもアイドルストップ制御の禁止が解除され難い条件に設定されている。つまり、ヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御がスタンバイ状態かつヒルディセントスイッチ34がオンされてからまだ一度もアクティブ状態を経験していない場合には、これからヒルディセント制御が実行されアクティブ状態となる、あるいは運転者にヒルディセント制御を使った走行の意志があるものと見做し、アイドルストップ制御を禁止してエンジン2の自動停止の禁止が容易に解除され難いようにしている。
第2の解除条件が設定される状況においては、ヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御がスタンバイ状態かつヒルディセントスイッチ34がオンされから一度でもアクティブ状態を経験している場合、つまり、運転者がアクセルペダル15を操作し、運転者の意思でアクティブ状態を解除、または、降坂路走行が終了して平坦路41に車両1が到達してアクティブ状態が解除され、スタンバイ状態に戻ったことが想定されるので、第2の解除条件は、第1の解除条件よりもエンジン2の自動停止の禁止を解除し易くしている。
ECU30には、図5に示す第1の解除条件に基づき作成されたマップデータである第1マップ51と、第2の解除条件に基づき作成されたマップデータである第2マップ52が予め記憶されている。第1マップ51と第2マップ52とは、車両1がオフロード走行中であるか否かを判定する判定マップである。ECU30は、第1マップ51と第2マップ52のいずれにおいても、オフロード走行中であると判定された場合は、アイドルストップ制御によるエンジン2の自動停止の禁止を解除しない。図5は、第1マップ51及び第2マップ52の一例を示す。第1マップ51と第2マップ52は、オフロード走行条件として、砂利道走行、泥濘路走行、雪・凍結路走行、未舗装路の降坂路走行、砂地走行が設定されている。第1マップ51と第2マップ52とには、これら走行状態の判定要素項目として勾配角、車輪速振動、車両上下振動、タイヤ空気圧、路面μ、降雨状況、気温が設定されていて、各判定要素項目の判定値がオフロード走行状態毎に設定されている。勾配角、車輪速振動、車両上下振動、路面μは、所定時間内の加速度センサ23と車速センサ24からの出力で検出することができる。タイヤ空気は、空気圧センサ39で検出し、気温は温度センサ37で検出し、降雨状況は降雨センサ38によって検出する。
【0022】
エンジン2の自動停止の禁止に関して、第1の解除条件が第2の解除条件よりもエンジン2の自動停止の禁止が解除され難い条件に設定されているとは、例えば、第1マップ51と第2マップ52において、車両上下振動の判定値が、第2マップ52よりも第1マップ51の方が低く設定されていることである。このため、第1マップ51を用いて車両上下振動を判定した場合、第2マップ52を用いて判定する場合よりも、低い振動で砂利道走行状態であると判定されるため、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止が継続されて、エンジン2の自動停止の禁止が解除され難く設定されている。
また、砂地走行判定の判定要素項目として、タイヤ空気圧と路面μ、温度などを用いる場合、当該判定要素項目の判定値を第1マップ51と第2マップ52で違えている。つまり、第1マップ51では、タイヤ空気圧情報のみで砂地走行であるか否かを判定するようにしているが、第2マップ52では、タイヤ空気圧情報と路面μと温度の3つを判定値としているので、第1マップ51を用いる方が第2マップ52を用いる場合よりも少ない条件で砂地走行と判定されるため、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止が継続されて、エンジン2の自動停止の禁止が解除され難く設定されている。
【0023】
以下、図4に示すフローチャートに沿って車両制御装置100による制御ルーチンを説明する。この制御ルーチンは、ヒルディセントスイッチ34(HDCSW)がオン操作されてからオフ操作されるまで繰り返し実行される。なお、フローチャートにおいてHDCとは、ヒルディセント制御の略字であり、ASGはアイドルストップ制御の略字である。
ECU30は、ステップST1において、ヒルディセント制御がスタンバイ状態か否かを判定し、スタンバイ状態であるとステップST2に進み、アイドルストップ制御(ASG)を禁止する。
【0024】
ECU30は、ステップST3において、ヒルディセント条件が成立してヒルディセント制御がHDCアクティブ状態となっているかを判定する。HDCアクティブ状態となっている場合はステップST2に戻り、アイドルストップ制御(ASG)の禁止を継続し、HDCアクティブ状態が解除されてHDCスタンバイ状態に戻るまで、HDCアクティブ状態となっているかの判定を繰り返される。HDCアクティブ状態となっていない場合、つまりHDCスタンバイ状態であると判定された場合、ECU30は、ステップST4において、ヒルディセント制御動作の有無を履歴から判定する。すなわち、ヒルディセント制御が実行され、HDCアクティブ状態となったことがあるか否かを判定する。判定の結果、ヒルディセント制御の実行履歴(経験)がない場合、ECU30は、ヒルディセントスイッチ34(HDCSW)がオン操作されてから一度もHDCアクティブ状態になっていないものとみなしてステップST5に進み、ヒルディセント制御の実行履歴がある場合には、ヒルディセントスイッチ34(HDCSW)がオン操作されてから一度はヒルディセント制御が実行されたものとしてステップST9に進む。
【0025】
ECU30は、ステップST5において、各センサなどの出力値と第1マップ51に基づいて車両1の走行状況を選択してステップST6に進む。ECU30は、ステップST6においてオフロード走行中か否かを判定する。ここでは、ステップST5において、第1マップ51に設定された何れかの走行状態が選択されている場合には、オフロード走行中であると判定してステップST7に進み、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止状態を継続、すなわち、エンジン2の自動停止の禁止状態を継続のまま、つまり、ASG禁止継続のまま、次の制御サイクルを迎える。
ECU30は、ステップST6においてオフロード走行中でないと判定した場合、アイドルストップ制御を作動させてもよい車両状況と判定し、ステップST8に進んで、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止状態を解除して、エンジン2の自動停止の禁止を解除し、すなわちASG禁止解除して次の制御サイクルを迎える。
【0026】
ECU30は、ステップST9において、各センサなどの出力値と第2マップ52に基づいて車両1の走行状況を選択してステップST10に進む。ECU30は、ステップST10においてオフロード走行中か否かを判定する。ここでは、ステップST9において、第2マップ52に設定された何れかの走行状態が選択されている場合には、オフロード走行中であると判定してステップST11に進み、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止状態の継続であるASG禁止継続のまま、すなわちエンジン2の自動停止の禁止を継続したまま、次の制御サイクルを迎える。
ECU30は、ステップST10においてオフロード走行中でないと判定した場合、アイドルストップ制御を作動させてもよい車両状況と判定し、ステップST12に進んで、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止状態を解除、すなわち、エンジン2の自動停止の禁止を解除して、つまりASG禁止解除して次の制御サイクルを迎える。
本実施形態においては、オフロード走行中であるか否かを、アイドルストップ制御の禁止を継続するか解除するか、すなわち、エンジン2の自動停止の禁止を継続するか解除するかの条件として設定している。また、第1マップ51の設定は、第2マップ52の設定よりもエンジン2の自動停止の禁止を解除し難く、言い換えると継続し易く設定している。すなわち、第1マップ51の設定は、第2マップ52の設定よりも厳しい条件でASG禁止解除が可能に設定されている。
ステップST8、ステップST12においては、ASG禁止状態が解除されるので、アイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御によるエンジン2の自動停止が可能とされる。このため、停止条件を満たすことで、コーストアイドルストップ又は停車アイドルストップの何れかを実行するようにしてもよい。
【0027】
このように本実施形態では、ヒルディセント制御がオフ状態からスタンバイ状態となった場合、あるいはスタンバイ状態からヒルディセント条件が成立してアクティブ状態となった場合においては、アイドルストップ制御部31アイドルストップ制御によるエンジン2の自動停止を原則禁止するので、ヒルディセント制御中にアイドルストップ制御によるエンジン2の停止を防止でき、ヒルディセント制御とアイドルストップ制御の両立を図った車両制御装置100を提供することができる。つまり、降坂路40の途中でエンジン2が停止することがないので、ヒルディセント制御による降坂性能を十分に発揮することができる。
【0028】
本実施形態では、ヒルディセント制御がスタンバイ状態の場合でも、アイドルストップ制御部31によるエンジン2の自動停止の禁止を解除する解除条件が成立している場合には、アイドルストップ制御の禁止を解除して、エンジン2の自動停止の禁止を解除するので、誤操作によりヒルディセント制御が可能となるスタンバイ状態が設定された場合、あるいはヒルディセント制御実行後のスタンバイ状態の場合には、アイドルストップ制御によるエンジン2の自動停止が実行可能となるので、ヒルディセント制御による降坂性能を十分に発揮しつつも、燃費の向上を図ることができる。
【0029】
本実施形態において、エンジン2の自動停止の禁止を解除する解除条件は、ヒルディセント制御部32の制御動作の有無に応じて複数の異なる解除条件を有している。具体的には、ヒルディセント制御部32がスタンバイ状態かつヒルディセントスイッチ34がオンされてからまだ一度もアクティブ状態となっていない場合に用いる第1の解除条件に基づき設定された第1マップ51と、ヒルディセント制御部32がスタンバイ状態かつヒルディセントスイッチ34がオンされてから一度でもアクティブ状態となっている場合に用いる第2の解除条件に基づき設定された第2マップ52を備えている。そして、第1の解除条件は、第2の解除条件よりもエンジン2の自動停止の禁止が解除され難い条件に設定されている。
このため、ヒルディセント制御部32の制御動作の回数であるヒルディセント制御の実行回数としてのアクティブ状態になった回数がゼロの場合は、ヒルディセント制御部32によるヒルディセント制御がこれから実行されるものとして、エンジン2の自動停止の禁止は維持されるので、降坂路40の途中でエンジン2が停止することがなく、ヒルディセント制御による降坂性能を十分に発揮することができる。また、ヒルディセント制御部32の制御動作であるヒルディセント制御のアクティブ状態の回数が同一の制御サイクルにおいて1回でもある場合には、制御動作の回数がゼロの場合よりもエンジン2の自動停止の禁止を解除して、エンジン2の自動停止を実行し易くしているので、より燃費の向上を図ることができる。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、本実施形態では、駆動方式を4輪駆動とし、変速機4をマニュアル操作する車両1を例示したが、駆動方式や変速機4の形態は、このような形態に限定するものではなく、図1に示した、前輪5(A)のみを駆動する前輪駆動方式または後輪5(B)のみを駆動する後輪駆動方式などの2輪駆動車であってもよく、変速機4もオートマチックトランスミッションを用いた車両1であってもよい。
【0031】
また、本実施形態において、ヒルディセント制御実行後にアイドルストップ制御部31によるアイドルストップ制御の禁止を解除することでエンジン2の自動停止の禁止を解除してアイドルストップ制御となるエンジン2の自動再始動を可能とする解除条件として、車両1の走行状況、すなわちオフロード走行であるか否かを例に説明したが、第1マップ51や第2マップ52で設定された走行状況ごとに解除条件を設定してもよい。この場合には、オフロード走行中であっても特定の走行状況の場合にはアイドルストップ制御の禁止を解除することでエンジン2の自動停止の禁止を解除してアイドルストップ制御を可能とすることができるので、より燃費の向上を図ることができるので好ましい。
また、本実施形態では、第2の解除条件を第2マップに基づいて設定したが、第2の解除条件をヒルディセントスイッチ34(HDCSW)がオン操作されてから一度でもアクティブ状態を経験し、スタンバイ状態に戻ったことを第2の解除条件としても良い。この場合においても、運転者がアクセルペダル15を操作し、運転者の意思でアクティブ状態を解除、または、降坂路走行が終了して平坦路41に車両1が到達してアクティブ状態が解除され、スタンバイ状態に戻ったことを想定し、アイドルストップ制御の禁止を解除してアイドルストップ制御を可能とすることができるので、より燃費の向上を図ることができる。
また、本実施形態では、ヒルディセント制御設定部として、ヒルディセントスイッチ34(HDCSW)を例示し、このヒルディセントスイッチ34(HDCSW)の操作に基づいてスタンバイ状態の設定を行ったが、このような形態に限定するものではない。ヒルディセント制御設定部としては、乗員の意思を認識できる手段であればよく、例えば乗員の音声等をマイクで検出し、マイクで検出した音声情報からスタンバイ状態の設定がされてもよい。
【0032】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1・・・車両、2・・・エンジン、30・・・制御部、31・・・アイドルストップ制御部、32・・・ヒルディセント制御部、34・・・ヒルディセント制御設定部40・・・降坂路、51・・・第1の解除条件、52・・・第2の解除条件、100・・・車両制御装置、Vtgt・・・目標速度、V・・・車速
図1
図2
図3
図4
図5