(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20221122BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221122BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02P25/22
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2018150359
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 智宏
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤 公志
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/068685(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012417(WO,A1)
【文献】特開2014-091456(JP,A)
【文献】特開2016-181962(JP,A)
【文献】特開2014-177142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の巻線群を有するモータにより発生させるべき目標トルクに応じて系統ごとに演算した指令値に基づき前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第2の状態との間を遷移可能であって、
前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が零または零の近傍値を基準として設定されるしきい値以下であるとき、前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移
し、
前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が前記しきい値を超えるとき、前記第2の状態から前記第1の状態への遷移待ち状態として前記第2の状態を維持する車両制御装置。
【請求項2】
複数系統の巻線群を有するモータにより発生させるべき目標トルクに応じて系統ごとに演算した指令値に基づき前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第2の状態との間を遷移可能であって、
前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が零または零の近傍値を基準として設定されるしきい値以下であるとき、前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移
し、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の個別制御部を有し、
前記系統数と同数の個別制御部は、各々が演算する前記指令値を含む状態信号を互いに授受し、
失陥した前記一部系統の個別制御部は、前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統の個別制御部により生成される前記状態信号が取得できないときであれ、前記モータにトルクを発生させるべき状況であれば、正常復帰した前記一部系統の巻線群によりトルクを発生させる車両制御装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の車両制御装置において、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の個別制御部を有し、
前記系統数と同数の個別制御部は、各々が演算する前記指令値を含む状態信号を互いに授受する車両制御装置。
【請求項4】
請求項
2または請求項3に記載の車両制御装置において、
前記系統数と同数の個別制御部は、それぞれ自己の属する系統における前記巻線群を過熱から保護する過熱保護機能を有し、
失陥した前記一部系統の個別制御部は、前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統の個別制御部による過熱保護機能の実行を通じて前記正常系統の巻線群により各々発生させるトルクが本来よりも制限されているとき、正常復帰した前記一部系統の巻線群の各々に前記正常系統の巻線群が各々発生する制限されたトルクと同程度のトルクを発生させる車両制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項
4のうちいずれか一項に記載の車両制御装置において、
前記モータは、車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するものであって、
前記制御部は、操舵トルクに基づき前記モータにより発生させるべき前記トルクに応じて前記指令値を演算する車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に付与されるアシストトルクの発生源であるモータを制御する制御装置が知られている。たとえば特許文献1の制御装置は、2系統の巻線を有するモータに対する給電を制御する。制御装置は、2系統の巻線にそれぞれ対応する2組の駆動回路およびECU(電子制御ユニット)を有している。各ECUは、操舵トルクに応じて各駆動回路を制御することにより、各系統の巻線に対する給電を独立して制御する(2系統駆動)。モータ全体としては、一方系統の巻線により発生するトルクと他方系統の巻線により発生するトルクとをトータルしたアシストトルクを発生する。また、たとえ一方系統の巻線などに異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線への給電を通じてモータを回転させることができる(1系統駆動)。操舵機構に付与されるアシストトルクは要求されるトルクの半分程度になるものの、操舵補助動作を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1系統駆動が行われている場合、異常が発生していた系統が正常に復帰することが考えられる。この場合、適切なアシストトルクを発生させる観点から、再び1系統駆動から2系統駆動へ切り替えることが好ましい。しかしこの場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、1系統駆動から2系統駆動へ切り替えることによって、モータ全体として発生するアシストトルクは、正常復帰した系統の巻線により発生するトルクの分だけ増加する。このため、モータ全体として発生するアシストトルクの急変が懸念される。このアシストトルクの急変は、運転者の操舵状況によるものの、正常復帰した系統の巻線へ供給される電流の値が大きいときほど生じやすい。
【0005】
本発明の目的は、複数系統の巻線群を有するモータが発生するトルクの急変を抑えることができる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る車両制御装置は、複数系統の巻線群を有するモータにより発生させるべき目標トルクに応じて系統ごとに演算した指令値に基づき前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する制御部を有している。また、前記制御部は、前記複数系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第2の状態との間を遷移可能である。また、前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が零または零の近傍値を基準として設定されるしきい値以下であるとき、前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移する。
【0007】
前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移するとき、前記正常系統の巻線群が前記目標トルクを発生させている状態で、さらに正常復帰した一部系統の巻線群がトルクを発生させる状況が想定される。この場合、正常復帰した一部系統の巻線群が発生するトルクの大きさによるものの、モータ全体として発生するトルクが過大になったり、急変したりすることが懸念される。
【0008】
この点、上記の構成によれば、前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が零または零の近傍値を基準として設定されるしきい値以下であるとき、前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移する。前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が前記しきい値以下である状況においては、正常復帰した一部系統の巻線群に発生することが要求されるトルクもわずかなものであると考えられる。このため、前記正常系統の巻線群が前記目標トルクを発生させている状態で、さらに正常復帰した一部系統の巻線群がトルクを発生させる状況であれ、モータ全体として発生するトルクが過大になったり、急変したりすることが抑えられる。
【0009】
上記の車両制御装置において、前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が前記しきい値を超えるとき、前記第2の状態から前記第1の状態への遷移待ち状態として前記第2の状態を維持することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、前記正常系統に対する前記指令値の合計または実電流量の合計が前記しきい値以下になったとき、前記制御部は、ただちに前記第2の状態から前記第1の状態へ遷移することができる。
【0011】
上記の車両制御装置において、前記制御部は、前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の個別制御部を有していてもよい。この場合、前記系統数と同数の個別制御部は、各々が演算する前記指令値を含む状態信号を互いに授受することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、複数系統の巻線群における一部の巻線群あるいは複数の個別制御部の一部が失陥した場合であれ、残りの巻線群あるいは残りの個別制御部を使用してモータを動作させることができる。また、系統数と同数の個別制御部は、状態信号の授受を通じて各系統の指令値を互いに把握することができる。
【0013】
上記の車両制御装置において、失陥した前記一部系統の個別制御部は、前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統の個別制御部により生成される前記状態信号が取得できないときであれ、前記モータにトルクを発生させるべき状況であれば、正常復帰した前記一部系統の巻線群によりトルクを発生させることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、失陥した前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統の個別制御部により生成される状態信号が取得できないとき、前記一部系統の個別制御部は、前記正常系統の個別制御部により演算される指令値、ひいては正常系統の巻線群がトルクを発生しているかどうかを把握することができない。このような場合であれ、前記モータにトルクを発生させるべき状況であれば、正常復帰した一部系統の巻線群によりトルクを発生させることが好ましい。このようにすれば、モータにトルクを発生させるべき状況であるにもかかわらず、モータのトルクが発生されない状況を回避することが可能となる。
【0015】
上記の車両制御装置において、前記系統数と同数の個別制御部は、それぞれ自己の属する系統における前記巻線群を過熱から保護する過熱保護機能を有していてもよい。この場合、失陥した前記一部系統の個別制御部は、前記一部系統が正常復帰した場合、前記正常系統の個別制御部による過熱保護機能の実行を通じて前記正常系統の巻線群により各々発生させるトルクが本来よりも制限されているとき、正常復帰した前記一部系統の巻線群の各々に前記正常系統の巻線群が各々発生する制限されたトルクと同程度のトルクを発生させることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、前記正常系統の巻線群に各々発生させるトルクが本来よりも制限されている状態で、正常復帰した前記一部系統の巻線群が各々本来よりも制限されたトルクを発生させる。このため、モータが発生するトルクが課題になったり、急変したりすることが抑制される。
【0017】
上記の車両制御装置において、前記モータは、車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するものであってもよい。この場合、前記制御部は、操舵トルクに基づき前記モータにより発生させるべき前記トルクに応じて前記指令値を演算することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、前記第2の状態から前記第1の状態へ切り替わる際、操舵機構に付与されるトルク、ひいては操舵トルクが過大になったり急変したりすることが抑えられる。このため、運転者は良好な操舵感触を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両制御装置によれば、複数系統の巻線群を有するモータが発生するトルクの急変を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】車両制御装置(ECU)の一実施の形態が搭載される電動パワーステアリング装置の概略を示す構成図。
【
図3】一実施の形態のECUにおける第1のマイクロコンピュータおよび第2のマイクロコンピュータの制御ブロック図。
【
図4】比較例におけるECUの状態遷移を示す遷移図。
【
図5】比較例におけるECUの状態遷移とアシスト量との理想的な関係を示すグラフ。
【
図6】比較例におけるECUの状態遷移とアシスト量との実際的な関係を示すグラフ。
【
図7】一実施の形態におけるECUの状態遷移を示す遷移図。
【
図8】一実施の形態におけるECUの状態遷移とアシスト量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車両制御装置を、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)の制御装置に具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、EPS10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU40を備えている。
【0022】
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確には、ラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cとラック軸23との噛合を通じてラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θwが変更される。
【0023】
操舵補助機構30は、操舵補助力(アシストトルク)の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータ31のトルクが操舵補助力として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0024】
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求、走行状態および操舵状態を示す情報(状態量)として取得し、これら取得される各種の情報に応じてモータ31を制御する。各種のセンサとしては、たとえば車速センサ41、トルクセンサ42a,42b、および回転角センサ43a,43bが挙げられる。車速センサ41は車速(車両の走行速度)Vを検出する。トルクセンサ42a,42bは、コラムシャフト22aに設けられている。トルクセンサ42a,42bはステアリングシャフト22に付与される操舵トルクτ1,τ2を検出する。回転角センサ43a,43bは、モータ31に設けられている。回転角センサ43a,43bは、モータ31の回転角θm1,θm2を検出する。
【0025】
ECU40は、回転角センサ43a,43bを通じて検出されるモータ31の回転角θm1,θm2を使用してモータ31をベクトル制御する。また、ECU40は操舵トルクτ1,τ2、および車速Vに基づき目標アシストトルクを演算し、当該演算される目標アシストトルクを操舵補助機構30に発生させるための駆動電力をモータ31に供給するアシスト制御を実行する。
【0026】
つぎに、モータ31の構成を説明する。
図2に示すように、モータ31は、ロータ51、図示しないステータに巻回された第1の巻線群52および第2の巻線群53を有している。第1の巻線群52は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを有している。第2の巻線群53も、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを有している。また、モータ31は、回転角センサ43a,43bに加えて、温度センサ44a,44bを有している。温度センサ44aは第1の巻線群52の温度を、温度センサ44bは第2の巻線群53の温度を検出する。
【0027】
つぎに、ECU40について詳細に説明する。
図2に示すように、ECU40は、第1の巻線群52および第2の巻線群53に対する給電を系統ごとに制御する。ECU40は、第1の巻線群52に対する給電を制御する第1の制御部60、および第2の巻線群53に対する給電を制御する第2の制御部70を有している。
【0028】
第1の制御部60は、第1の駆動回路61、第1の発振器62、第1のマイクロコンピュータ63、および第1の制限制御部64を有している。
第1の駆動回路61には、車両に搭載されるバッテリなどの直流電源81から電力が供給される。第1の駆動回路61と直流電源81(正確には、そのプラス端子)との間は、第1の給電線82により接続されている。第1の給電線82には、イグニッションスイッチなどの車両の電源スイッチ83が設けられている。この電源スイッチ83は、車両の走行用駆動源(エンジンなど)を作動させる際に操作される。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第1の給電線82を介して第1の駆動回路61に供給される。第1の給電線82には電圧センサ65が設けられている。電圧センサ65は直流電源81の電圧Vb1を検出する。ちなみに、第1のマイクロコンピュータ63、および回転角センサ43aには図示しない給電線を介して直流電源81の電力が供給される。
【0029】
第1の駆動回路61は、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。第1の駆動回路61は、第1のマイクロコンピュータ63により生成される指令信号Sc1に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、直流電源81から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。第1の駆動回路61により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路84を介して第1の巻線群52に供給される。給電経路84には電流センサ66が設けられている。電流センサ66は第1の駆動回路61から第1の巻線群52へ供給される電流Im1を検出する。
【0030】
第1の発振器(クロック発生回路)62は、第1のマイクロコンピュータ63を動作させるための同期信号であるクロックを生成する。
第1のマイクロコンピュータ63は、第1の発振器62により生成されるクロックに従って各種の処理を実行する。第1のマイクロコンピュータ63は、トルクセンサ42aを通じて検出される操舵トルクτ1、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクの値に応じて第1の電流指令値を演算する。第1の電流指令値は、第1の巻線群52に対して供給すべき電流の目標値である。そして第1のマイクロコンピュータ63は、第1の巻線群52へ供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第1の駆動回路61に対する指令信号Sc1(PWM信号)を生成する。指令信号Sc1は、第1の駆動回路61の各スイッチング素子のデューティ比を規定する。デューティ比とは、パルス周期に占めるスイッチング素子のオン時間の割合をいう。第1のマイクロコンピュータ63は、回転角センサ43aを通じて検出されるモータ31(ロータ51)の回転角θm1を使用して第1の巻線群52に対する給電を制御する。第1の駆動回路61を通じて指令信号Sc1に応じた電流が第1の巻線群52に供給されることにより、第1の巻線群52は第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0031】
第1の制限制御部64は、電圧センサ65を通じて検出される直流電源81の電圧Vb1、およびモータ31(第1の巻線群52)の発熱状態に応じて、第1の巻線群52へ供給する電流量を制限するための制限値Ilim1を演算する。制限値Ilim1は、直流電源81の電圧Vb1の低下を抑制する観点、あるいはモータ31を過熱から保護する観点に基づき、第1の巻線群52へ供給する電流量の上限値として設定される。第1の制限制御部64は、電圧センサ65を通じて検出される直流電源81の電圧Vb1が電圧しきい値以下であるとき、その時々の電圧Vb1の値に応じて制限値Ilim1を演算する。電圧しきい値は、EPS10のアシスト保証電圧範囲の下限値を基準として設定される。また、第1の制限制御部64は、温度センサ44aを通じて検出される第1の巻線群52(あるいはその周辺)の温度Tm1が温度しきい値以下であるとき、制限値Ilim1を演算する。制限値Ilim2が演算されるとき、第1のマイクロコンピュータ63は、第1の巻線群52へ供給する電流量(第1の巻線群52により発生させるトルク)を制限値Ilim1に応じて制限する。
【0032】
第2の制御部70は、基本的には第1の制御部60と同様の構成を有している。すなわち、第2の制御部70は、第2の駆動回路71、第2の発振器72、第2のマイクロコンピュータ73、および第2の制限制御部74を有している。
【0033】
第2の駆動回路71にも直流電源81から電力が供給される。第1の給電線82において、電源スイッチ83と第1の制御部60との間には接続点Pbが設けられている。この接続点Pbと第2の駆動回路71との間は、第2の給電線85により接続されている。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第2の給電線85を介して第2の駆動回路71に供給される。第2の給電線85には電圧センサ75が設けられている。電圧センサ65は直流電源81の電圧Vb2を検出する。
【0034】
第2の駆動回路71により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路86を介して第2の巻線群53に供給される。給電経路86には電流センサ76が設けられている。電流センサ76は第2の駆動回路71から第2の巻線群53へ供給される電流Im2を検出する。
【0035】
第2のマイクロコンピュータ73は、トルクセンサ42bを通じて検出される操舵トルクτ2、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクの値に応じて第2の電流指令値を演算する。そして第2のマイクロコンピュータ73は、第2の巻線群53へ供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第2の駆動回路71に対する指令信号Sc2を生成する。第2の駆動回路71を通じて指令信号Sc2に応じた電流が第2の巻線群53に供給されることにより、第2の巻線群53は第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0036】
第2の制限制御部74は、電圧センサ75を通じて検出される直流電源81の電圧、およびモータ31(第2の巻線群53)の発熱状態に応じて、第2の巻線群53へ供給する電流量を制限するための制限値Ilim2を演算する。制限値Ilim2が演算されるとき、第2のマイクロコンピュータ73は、第2の巻線群53へ供給する電流量(第2の巻線群53により発生させるトルク)を制限値Ilim2に応じて制限する。
【0037】
ここで、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73は、通信線を介して相互にデジタル信号の授受を行う。第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間で行われる通信の規格としては、たとえば同期式のシリアル通信の規格の一種であるSPI(Serial Peripheral Interface)が採用される。また、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73は、それぞれ自己および自己の属する系統の異常を検出する機能を有している。
【0038】
第1のマイクロコンピュータ63は、デジタル信号として自己の属する第1の系統の状態を示す第1の状態信号Sd1を生成し、この生成される第1の状態信号Sd1を第2のマイクロコンピュータ73へ供給する。第1の状態信号Sd1には、第1の系統の異常発生状態、アシスト状態およびアシスト量が含まれる。異常発生状態には、たとえば第1のマイクロコンピュータ63、第1の駆動回路61、および回転角センサ43aの異常の有無が含まれる。アシスト状態には、第1のマイクロコンピュータ63がアシスト制御を実行することができる状態、および電源電圧の低下などに起因してよってアシスト制御を実行することができない状態の2つの状態がある。さらに、アシスト制御を実行することができる状態には、アシスト制御の実行中、およびアシスト制御の実行開始待ち(アシスト開始待ち)の2つの状態がある。アシスト量は、第1の巻線群52が発生するアシストトルクの程度であって、第1の巻線群52に対して供給される電流の目標値である第1の電流指令値に対応する。
【0039】
第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63と同様に、デジタル信号として自己の属する第2の系統の状態を示す第2の状態信号Sd2を生成し、この生成される第2の状態信号Sd2を第1のマイクロコンピュータ63へ供給する。
【0040】
つぎに、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73の構成を詳細に説明する。
図3に示すように、第1のマイクロコンピュータ63は、第1のアシスト制御部91、および第1の電流制御部92を有している。
【0041】
第1のアシスト制御部91は、トルクセンサ42aを通じて検出される操舵トルクτ1、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクに基づき第1の電流指令値I1
*を演算する。第1の電流指令値I1
*は、操舵トルクτ1および車速Vに応じた適切な大きさの目標アシストトルクを発生させるために、第1の巻線群52に対して供給すべき電流の目標値である。第1のアシスト制御部91は、操舵トルクτ1の絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほどより大きな値(絶対値)の第1の電流指令値I1
*を演算する。第1の電流指令値I1
*(絶対値)は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0042】
第1のアシスト制御部91は、第1の制限制御部64によって制限値Ilim1が演算される場合、この演算される制限値Ilim1に応じて第1の巻線群52により発生させるトルクを制限する。具体的には、第1のアシスト制御部91は、目標アシストトルクに応じて演算される本来の第1の電流指令値I1
*を制限値Ilim1に制限する。また、第1のアシスト制御部91は、制限値Ilim1が百分率などで示される使用割合である場合、目標アシストトルクに応じた本来の第1の電流指令値I1
*に制限値Ilim1を反映させることにより、最終的な第1の電流指令値I1
*を演算する。
【0043】
第1の電流制御部92は、第1の巻線群52へ供給される実際の電流Im1の値を第1の電流指令値I1
*に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第1の駆動回路61に対する指令信号Sc1(PWM信号)を生成する。第1の電流制御部92は、回転角センサ43aを通じて検出されるモータ31(ロータ51)の回転角θm1を使用して第1の巻線群52に対する給電を制御する。第1の駆動回路61を通じて指令信号Sc1に応じた電流が第1の巻線群52に供給されることにより、第1の巻線群52は第1の電流指令値I1
*に応じたトルクを発生する。
【0044】
第2のマイクロコンピュータ73は、基本的には第1のマイクロコンピュータ63と同様の構成を有している。すなわち、第2のマイクロコンピュータ73は、第2のアシスト制御部101、および第2の電流制御部102を有している。
【0045】
第2のアシスト制御部101は、トルクセンサ42bを通じて検出される操舵トルクτ2、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクに基づき第2の電流指令値I2
*を演算する。第2の電流指令値I2
*は、操舵トルクτ2および車速Vに応じた適切な大きさの目標アシストトルクを発生させるために、第2の巻線群53に対して供給すべき電流の目標値である。第2のアシスト制御部101は、操舵トルクτ2の絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほどより大きな値(絶対値)の第2の電流指令値I2
*を演算する。第2の電流指令値I2
*(絶対値)は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0046】
第2のアシスト制御部101は、第2の制限制御部74によって制限値Ilim2が演算される場合、この演算される制限値Ilim2に応じて第2の巻線群53により発生させるトルクを制限する。具体的には、第2のアシスト制御部101は、目標アシストトルクに応じて演算される本来の第2の電流指令値I2
*を制限値Ilim2に制限する。また、第2のアシスト制御部101は、制限値Ilim2が百分率などで示される使用割合である場合、目標アシストトルクに応じた本来の第2の電流指令値I2
*に制限値Ilim2を反映させることにより、最終的な第2の電流指令値I2
*を演算する。
【0047】
第2の電流制御部102は、第2の巻線群53へ供給される実際の電流Im2の値を第2の電流指令値I2
*に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第2の駆動回路71に対する指令信号Sc2(PWM信号)を生成する。第2の電流制御部102は、回転角センサ43bを通じて検出されるモータ31(ロータ51)の回転角θm2を使用して第2の巻線群53に対する給電を制御する。第2の駆動回路71を通じて指令信号Sc2に応じた電流が第2の巻線群53に供給されることにより、第2の巻線群53は第2の電流指令値I2
*に応じたトルクを発生する。
【0048】
このように、モータ31として2系統の巻線群を有する構成を採用したうえで各系統の巻線群に対する給電を独立して制御することにより、一方系統の巻線などに異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線への給電を通じてモータを回転させることができる(1系統駆動)。ここで、1系統駆動が行われている場合、異常が発生していた系統が正常状態に復帰することが考えられる。この場合、より適切なアシストトルクを発生させる観点から、ECU40によるモータ31の駆動方法を再び1系統駆動から2系統駆動へ切り替えることが好ましい。
【0049】
ここではまず、比較例としてECU40の状態遷移の一例を説明する。ここではステアリングホイール21の操舵中において、第2の系統に異常が発生した後、当該第2の系統が正常復帰する状況を想定する。
【0050】
図4に示すように、ECU40の状態は、第1の状態S
1、第2の状態S
2、第3の状態S
3、および第4の状態S
4の順に遷移する。
第1の状態S
1は、第1の系統および第2の系統がいずれも正常な状態であって、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73の双方がアシスト制御を実行している状態である。第1のマイクロコンピュータ63は、操舵状態に応じて第1の巻線群52に対して給電する。第2のマイクロコンピュータ73は、操舵状態に応じて第2の巻線群53に対して給電する。すなわち、ECU40としては、第1の巻線群52および第2の巻線群53への給電を通じてモータ31を駆動する2系統駆動を実行する。
【0051】
第2の状態S2は、第2の系統に異常が発生したときの状態である。第1のマイクロコンピュータ63は、操舵状態に応じて第1の巻線群52に対して給電するアシスト制御を実行している。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の異常発生に起因してアシスト制御の実行を停止している。すなわち、ECU40としては、第1の巻線群52への給電のみを通じてモータ31を駆動する1系統駆動を実行する。ちなみに、第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の異常として、たとえば第2の巻線群53、第2の駆動回路71、および回転角センサ43bの異常、ならびに第2の駆動回路71に対する電源電圧の異常を検出する。
【0052】
第3の状態S3は、第2の系統が正常に復帰したときの状態である。第1のマイクロコンピュータ63はアシスト制御を実行している。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統が正常に復帰したことが検出されるとき、再びアシスト制御の実行を開始するために第2の状態信号Sd2を生成する。この時点において、第2のマイクロコンピュータ73はアシスト制御の実行開始待ちの状態であって、ECU40としては第1の巻線群52への給電のみを通じてモータ31を駆動する1系統駆動を継続している。
【0053】
第4の状態S4は、第2の系統が正常に復帰した後、再び第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73の双方がアシスト制御を実行している状態である。すなわち、ECU40としては、第1の巻線群52のみへの給電を通じてモータ31を駆動する1系統駆動から、第1の巻線群52および第2の巻線群53への給電を通じてモータ31を駆動する2系統駆動へ切り替わった状態である。
【0054】
つぎに比較例として、ECU40の状態遷移とアシスト量との理想的な関係を説明する。
図5に示すように、ECU40の状態が2系統駆動を実行する第1の状態S
1である場合、必要とされるアシスト量は、第1の巻線群52により発生するトルクと第2の巻線群53により発生するトルクとで半分ずつ賄われる。すなわち、第1の電流指令値I
1
*および第2の電流指令値I
2
*は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0055】
ECU40の状態が2系統駆動を実行する第1の状態S1から1系統駆動を実行する第2の状態S2へ遷移した場合、必要とされるアシスト量は第1の巻線群52により発生するトルクですべて賄われる。すなわち、第1の電流指令値I1
*は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量に対応する値(2系統駆動が実行される通常時の2倍の値)に設定される。第2の電流指令値I2
*は、「0(零)」に設定される、あるいは第2の電流指令値I2
*が第2の電流制御部102へ供給されることが停止される。
【0056】
ECU40の状態が、第2の状態S2から第3の状態S3(正常復帰検出)を経て第4の状態S4へ遷移した場合、理想的には、ECU40の状態が第1の状態S1である場合と同様に、必要とされるアシスト量は第1の巻線群52により発生するトルクと第2の巻線群53により発生するトルクとで半分ずつ賄われる。
【0057】
ところが、実際には、ECU40の状態が第3の状態S3を経て第4の状態S4へ遷移する際、つぎのようなことが懸念される。すなわち、第2の系統が実際に正常に復帰してから、第1のマイクロコンピュータ63が第2の状態信号Sd2を通じて第2の系統が正常に復帰したことを認識するまで、わずかながらにもタイムラグが発生する。このため、第2の系統が正常に復帰したタイミングに対して、第1のマイクロコンピュータ63におけるアシスト量(第1の電流指令値I1
*)の調節が完了するタイミングが遅れる。したがって、一時的であれ、モータ31全体として発生するアシスト量(アシストトルク)が過大となるおそれがある。また、第2の系統が正常に復帰したときの操舵状態に応じて第2の巻線群53が発生するトルクの大きさによっては、アシスト量が急激に変化(ここでは、増加)することも懸念される。具体的には、つぎの通りである。
【0058】
図6に示すように、ECU40の状態が第3の状態S
3から第4の状態S
4へ遷移する際、モータ31に要求されるアシストトルクのすべてを第1の巻線群52が発生させている状態で、さらに第2の巻線群53がトルクを発生する。このため、モータ31全体として発生するトルクは、本来モータ31に要求されるアシストトルクを第2の巻線群53が発生するトルクの分だけ超える。このとき、運転者の操舵状況によるものの、モータ31全体として発生するアシストトルクが過大となったり、アシストトルクが急変したりすることが懸念される。ちなみに、第2の巻線群53は、通常通り、モータ31に要求されるアシストトルクの半分のトルクを発生する。
【0059】
この後、第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2を通じて第2の系統の正常復帰を認識したとき、第1の電流指令値I1
*をモータ31に要求されるアシストトルクの半分のトルクに応じた通常の値に調節する。これにより、モータ31に要求されるアシストトルクを第1の巻線群52が発生するトルクと第2の巻線群53が発生するトルクとのトータルとして発生する通常の状態に復帰する。
【0060】
<実施の形態の作用/ECUの動作>
このように、1系統駆動から2系統駆動へ復帰する際、第1の巻線群52により発生させるトルクの調節が間に合わないことに起因して、モータ31全体として発生するアシストトルクが過大になったり急変したりすることが懸念される。そこで、本実施の形態では、1系統駆動から2系統駆動へ復帰させる際のアシストトルクが過大になったり急変したりすることを抑えるために、ECU40の状態をつぎのように遷移させる。なお、ここでもステアリングホイール21の操舵中において、第2の系統に異常が発生した後、当該第2の系統が正常復帰する状況を想定する。
【0061】
図7に示すように、ECU40は、2系統駆動を実行している第1の状態S
1において、第2の系統に異常が発生した場合、第1の状態S
1から第2の状態S
2へ遷移して、第1の巻線群52による1系統駆動を実行する。ECU40は、第1の巻線群52による1系統駆動を実行している第2の状態S
2から第2の系統の正常復帰が検出された状態である第3の状態S
3へ遷移した後、第1のマイクロコンピュータ63の動作状態に応じて、つぎの4つの状態S
4-1,S
4-2,S
4-3,S
4-4のいずれかに遷移する。
【0062】
状態S4-1は、第1のマイクロコンピュータ63は操舵状態に応じて第1の巻線群52に対して給電するアシスト制御を実行している一方、第2のマイクロコンピュータ73はアシスト開始待ち状態に維持されている状態である。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の正常復帰が検出された場合、第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御の実行中であって、かつ第1の電流指令値I1
*が電流しきい値Ithを超えているとき、アシスト開始待ち状態を維持する。アシスト開始待ち状態とは、アシスト制御(巻線群に対する給電)を実行可能であるものの、巻線群に対して給電すべきタイミングを待っている状態をいう。
【0063】
電流しきい値Ithは、たとえばステアリングホイール21が操舵中立位置あるいはその近傍位置に操舵された際にモータ31に要求されるアシストトルクに応じた電流指令値(零または零の近傍値)を基準として設定される。電流しきい値Ithの下限値(状態遷移条件の下限値)である零は、正常系統が駆動停止した状態であって、かつ正常系統のマイクロコンピュータが失陥系統の復帰を確認した直後(両系統とも駆動していない状態)における総電流指令値(モータ31に要求されるトータルとしてのトルクに対する電流指令値)に対応する。電流しきい値Ithの上限値(状態遷移条件の上限値)である零の近傍値は、正常系統がアシスト開始待ち状態(アシスト制御の実行をスタンバイしている状態)、または実質的に駆動停止した状態であって、かつ正常系統のマイクロコンピュータが失陥系統の復帰を確認した直後における総電流指令値に対応する。
【0064】
このように、第2の系統は正常復帰したものの、第1の巻線群52に対して電流しきい値Ithを超える電流が供給されているため、第2のマイクロコンピュータ73はあえて第2の巻線群53に対する給電を行わない。このため、モータ31に要求されるアシストトルクのすべてを第1の巻線群52が発生させている状態で、さらに第2の巻線群53がトルクを発生することがない。このため、モータ31全体として発生するアシスト量(アシストトルク)が課題となったり、急変したりすることがない。
【0065】
状態S4-2は、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73の双方がアシスト制御を実行する状態である。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の正常復帰が検出された場合、第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御の実行中であって、かつ第1の電流指令値I1
*が電流しきい値Ith以下であるとき、操舵状態に応じて第2の巻線群53に対して給電するアシスト制御を実行する。
【0066】
ここで、
図8に示されるように、第2の系統が正常復帰したとき(状態S
2→状態S
3)、第1のマイクロコンピュータ63はアシスト制御を実行中であるものの、モータ31に要求されるアシスト量(アシストトルク)はわずかなものである。これは、1系統駆動を行っている第1のマイクロコンピュータ63により生成される第1の電流指令値I
1
*が電流しきい値I
th以下であることからも明らかである。当然、第2の巻線群53が発生するトルクもわずかなものとなる。しかも、このとき第2の巻線群53が発生するトルクは、モータ31全体として要求されるわずかなアシストトルクのさらに半分のトルクである。このため、第1の巻線群52がわずかなトルクを発生している状態で第2の巻線群53がわずかなトルクを発生させたとしても、モータ31全体として発生するアシスト量の変化としては、わずかなものである。したがって、モータ31全体として発生するアシスト量が過大になったり、急激に変化したりすることが抑制される。
【0067】
図7に示すように、状態S
4-3は、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73の双方がアシスト開始待ちに維持される状態である。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の正常復帰が検出された場合、第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御が実行されていないとき、アシスト開始待ち状態を維持する。第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御が実行されていない状況としては、たとえば車両が直進状態であって、ステアリングホイール21が操舵中立位置に保持されている状況が想定される。ステアリングホイール21が操舵中立位置を基準として左方または右方へ向けて操作されたとき、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73は、それぞれ操舵状態に応じたアシスト制御を実行する。
【0068】
状態S4-4は、少なくとも第2のマイクロコンピュータ73によってアシスト制御が実行される状態である。第2のマイクロコンピュータ73は、第2の系統の正常復帰が検出された場合、第1のマイクロコンピュータ63からの応答がなく、かつ操舵補助動作が必要とされるとき、アシスト制御を実行する。第1のマイクロコンピュータ63からの応答がないときとは、第1のマイクロコンピュータ63により生成される第1の状態信号Sd1が取得できない場合をいう。操舵補助動作が必要とされるときとは、ステアリングホイール21が操舵中立位置を基準として左右に操舵されるとき、すなわち「0(零)」を超える操舵トルクτ1,τ2が検出されるときをいう。
【0069】
なお、2系統駆動を実行している状態において、第1のマイクロコンピュータ63により第1の系統に異常が発生したことが検出された場合についても、前述した第2の系統に異常が発生した場合と同様である。ただしこの場合、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73のアシスト制御に関する動作は、前述した第2の系統に異常が発生した場合と逆になる。
【0070】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ECU40は、一方系統の失陥時、第1の巻線群52および第2の巻線群53により目標アシストトルクを発生させる第1の状態(
図8中の状態S
1)から、残る正常系統の巻線群(第1の巻線群52または第2の巻線群53)により目標アシストトルクを発生させる第2の状態(
図8中の状態S
2)へ遷移する。ECU40は、第2の状態での動作中に失陥系統が正常復帰した場合(
図8中の状態S
3)、正常系統に対する電流指令値が零または零の近傍値を基準として設定される電流しきい値I
th以下であるとき、1系統の巻線群でモータ31を駆動する第2の状態から2系統の巻線群でモータ31を駆動する第1の状態(
図8中の状態S
4-2)へ遷移する。ここで、正常系統に対する電流指令値が電流しきい値I
th以下である状況においては、正常復帰した系統の巻線群に要求される発生トルクもわずかなものであると考えられる。このため、正常系統の巻線群が目標アシストトルクを発生させている状態で、さらに正常復帰した系統の巻線群がトルクを発生させる状況であれ、モータ31全体として発生するトルクが過大になったり、急変(ここでは急激な増加)したりすることが抑えられる。また、操舵機構20に対して意図しないアシストトルクが付与されることも抑制される。したがって、運転者は良好な操舵感触を得ることができる。ひいては、車両としてのスムーズな挙動、あるいは走行中の快適性を得ることができる。
【0071】
(2)ECU40は、一方系統に異常が発生した場合であれ、正常である他方系統の巻線群への給電を通じてモータ31を駆動する。ここで、ECU40は、モータ31に要求されるアシストトルクを正常系統の巻線群によって発生させる。すなわち、ECU40は正常系統の巻線群に対して供給する電流の目標値を、2系統駆動を実行する通常時の2倍の値に設定する。このため、一方系統に異常が発生した場合であれ、モータ31は2系統駆動が実行されるときと同程度のアシストトルクを発生する。したがって、適切な操舵補助を継続して行うことができる。
【0072】
(3)ECU40は、一方系統の失陥時、残る正常系統の巻線群により目標アシストトルクを発生させる第2の状態(
図8中の状態S
2)での動作中に失陥系統が正常復帰した場合(
図8中の状態S
3)、正常系統に対する電流指令値が電流しきい値I
thを超えているとき、第2の状態から第1の状態への遷移待ち状態として第2の状態を維持する。この構成によれば、正常系統に対する電流指令値が電流しきい値I
th以下になったとき、ECU40は、ただちに第2の状態から第1の状態へ遷移することができる。
【0073】
(4)第2の系統が正常に復帰した場合、たとえば第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間における通信障害に起因して、第2のマイクロコンピュータ73が第1のマイクロコンピュータ63からの第1の状態信号Sd1を取り込めないことも考えられる。この場合、第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63の動作状態を把握することができないものの、操舵補助動作が必要とされる状況であれば第2の巻線群53への給電を通じてトルクを発生させる。このように、第1の系統によるアシスト制御が実行されているかどうかは不明であるものの、とりあえず正常に復帰した第2の系統によるアシスト制御を実行することにより、操舵補助動作が必要とされる状況であるにもかかわらず、アシストトルクが操舵機構20に付与されない状況を回避することができる。
【0074】
(5)ECU40は、第1の巻線群52および第2の巻線群53に対する給電を系統ごとに独立して制御する第1の制御部60および第2の制御部70を有している。このため、第1の巻線群52および第2の巻線群53のいずれか一方、あるいは第1の制御部60および第2の制御部70のいずれか一方が失陥した場合であれ、残る正常な巻線群あるいは残る正常な制御部を使用してモータ31を動作させることができる。したがって、モータ31の動作に対する信頼性を高めることができる。
【0075】
(6)また、第1の制御部60および第2の制御部70は、各々が生成する第1の状態信号Sd1および第2の状態信号Sd2を互いに授受する。第1の状態信号Sd1には第1のマイクロコンピュータ63により演算される第1の電流指令値I1
*が含まれている。第2の状態信号Sd2には第2のマイクロコンピュータ73により演算される第2の電流指令値I2
*が含まれている。このため、第1の制御部60および第2の制御部70は、第1の状態信号Sd1および第2の状態信号Sd2の授受を通じて、各系統の電流指令値を互いに把握することができる。
【0076】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、ECU40は、第2の状態での動作中に失陥系統が正常復帰した場合(
図8中の状態S
3)、正常系統に対する電流指令値が電流しきい値I
th以下であるとき、第2の状態から第1の状態(
図8中の状態S
4-2)へ遷移するようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、ECU40は、第2の状態での動作中に失陥系統が正常復帰した場合、正常系統の巻線群にして実際に供給される電流量(実電流量)が電流しきい値I
th以下であるとき、第2の状態から第1の状態(
図8中の状態S
4-2)へ遷移する。
【0077】
・本実施の形態では、ECU40は、互いに独立した第1の制御部60および第2の制御部70を有していたが、製品仕様などによっては、たとえば第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73とを単一のマイクロコンピュータとして構築してもよい。
【0078】
・ECU40は、たとえば第2の系統に異常が発生した場合、この第2の系統を通じたモータ31への給電を停止する一方、残る正常な第1の系統を通じてモータ31への給電を継続する。このモータ31の1系統駆動を高負荷の状態で続けている場合、過熱保護制御の実行を通じて正常な第1の系統の巻線群により発生させるトルク(第1の系統の巻線群へ供給する電流量)が本来よりも制限されることがある。これを踏まえ、ECU40は、正常な第1の系統において過熱保護制御が実行されている場合に第2の系統が正常に復帰したとき、第1の系統の巻線群が発生する制限されたトルクと同程度のトルクを第2の系統の巻線群に発生させるようにしてもよい。2つの系統の巻線群がそれぞれ同程度のトルクを発生することにより、モータ31全体として発生するトルクの変動あるいはトルクリップルなどを抑えることができる。また、第1の系統の巻線群に発生させるトルク(電流量)が制限されている状態で、正常復帰した第2の系統の巻線群がトルク(しかも本来よりも制限されたトルク)を発生させる。このため、モータ31が発生するアシストトルクが過大になったり、急変したりすることを抑えることができる。
【0079】
・本実施の形態では、2系統の巻線群(52,53)に対する給電を独立して制御するようにしたが、モータ31が3系統以上の巻線群を有するものである場合、これら3系統以上の巻線群に対する給電を独立して制御するようにしてもよい。この場合であれ、ECU40は、複数系統の巻線群により目標アシストトルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により目標アシストトルクを発生させる第2の状態との間を遷移する。ECU40は、第2の状態での動作中において、失陥していた一部系統が正常復帰した場合、正常系統の各々に対する電流指令値の合計または実電流量の合計が電流しきい値Ith以下であるとき、失陥した一部系統を除く正常系統の巻線群でモータ31を駆動する第2の状態から全系統の巻線群でモータ31を駆動する第1の状態へ遷移する。これに対し、ECU40は、第2の状態での動作中において、失陥していた一部系統が正常復帰した場合、正常系統に対する電流指令値の合計または実電流量の合計が電流しきい値Ithを超えるとき、第2の状態から第1の状態への遷移待ち状態として第2の状態を維持する。ちなみに、モータ31が3系統以上の巻線群を有する場合においても、ECU40は系統数と同数の個別の制御部を有していてもよい。
【0080】
・本実施の形態では、EPS10として、モータ31のトルクをステアリングシャフト22(コラムシャフト22a)に伝達するタイプを例に挙げたが、モータ31のトルクをラック軸23に伝達するタイプであってもよい。
【0081】
・本実施の形態では、車両制御装置をEPS10のモータ31を制御するECU40に具体化したが、ステアリングホイール21と転舵輪26,26との間の動力伝達を分離したバイワイヤ方式の操舵装置の制御装置として具体化してもよい。このバイワイヤ方式の操舵装置には、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。これら反力モータおよび転舵モータとして、本実施の形態と同様に、複数系統の巻線群を有するものを採用する。バイワイヤ方式の操舵装置の制御装置は、反力モータおよび転舵モータにおける複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0082】
・本実施の形態では、車両制御装置をEPS10のモータ31を制御するECU40に具体化したが、EPS10などの操舵装置以外の他の車載機器に使用されるモータの制御装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…EPS、20…操舵機構、31…モータ、40…ECU(制御部、車両制御装置)、52…第1の巻線群、53…第2の巻線群、60…第1の制御部(個別制御部)、70…第2の制御部(個別制御部)、I1
*…第1の電流指令値、I2
*…第2の電流指令値、Ith…電流しきい値、Sd1…第1の状態信号、Sd2…第2の状態信号、τ1,τ2…操舵トルク。