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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ロケットモータ
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/36 20060101AFI20221122BHJP
   F02K 9/22 20060101ALI20221122BHJP
   B64G 1/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F02K9/36
F02K9/22
B64G1/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018161267
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020033945
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ななめ木 一寿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗史
(72)【発明者】
【氏名】詫間 浩和
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02957309(US,A)
【文献】特開昭52-061615(JP,A)
【文献】特開昭49-109710(JP,A)
【文献】西独国特許出願公告第1285256(DE,B)
【文献】米国特許第3713395(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第3304681(DE,A1)
【文献】特開昭61-011383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/00
F02K 9/22
F02K 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットモータであって、
ロケットを推進させるための推進薬と、
前記推進薬を内包しかつ一端部にノズルを備えるモータケースと、
前記推進薬に対向する内周面と前記モータケースに対向する外周面を具備する1層のインシュレータを有し、
前記インシュレータの前記内周面と前記外周面は、いずれも円筒状であって全周において径方向外方に湾曲する曲率を有し、
前記インシュレータの前記内周面は、前記推進薬の外周面全体に直接接着されるインシュレータ接着領域を有し、
前記インシュレータの前記外周面は、前記モータケースの内周面と直接接着されるケース接着領域と、前記モータケースの内周面に接着されないケース未接着領域を有し、
前記推進薬は、前記ノズルに対向する燃焼端面を有し、かつ長手方向に延出し、
前記ケース未接着領域は、前記推進薬の前記長手方向の略全長に亘って形成されるロケットモータ。

【請求項2】
請求項1に記載のロケットモータであって、
前記ケース接着領域は、前記ケース未接着領域と周方向に隣接しかつ前記推進薬の前記長手方向に延出する長手延出接着領域を有するロケットモータ。
【請求項3】
請求項2に記載のロケットモータであって、
前記ケース接着領域は、前記モータケースの内周面の周方向全周に亘って形成される環状接着領域を有するロケットモータ。
【請求項4】
請求項3に記載のロケットモータであって、
前記環状接着領域は、前記推進薬の前記燃焼端面よりも前記ノズルに近い位置に形成されるロケットモータ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のロケットモータであって、
前記環状接着領域は、前記推進薬の前記長手方向において、前記推進薬の全長の2分の1以下の幅を有するロケットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の燃焼によってロケットの推進力を得るロケットモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットモータは、固体燃料を燃焼させて推進力が発生するタイプのものと、液体燃料を燃焼させて推進力が発生するタイプのものがある。固体燃料を搭載するロケットモータは、液体燃料を搭載するロケットモータに比べ液体漏れを防ぐ構造等が不要であるため構造が簡易である。しかも固体燃料(推進薬)は、液体燃料に比べてケースに充填した状態において長期間保存できる。
【0003】
特許文献1に固体燃料を搭載するロケットモータの一例が開示されている。図9に示すようにこのロケットモータ11は、有底円筒状のモータケース12と、モータケース12に収容された固体推進薬(固体燃料)16を有する。モータケース12は、ケース蓋13aを有し、ケース蓋13aに円柱状のノズル13bが設けられる。固体推進薬16は、ノズル13bに対向する第1端面16aと、第1端面16aの反対側の第2端面16bを有する。固体推進薬16は、モータケース12内において第1端面16aだけが燃焼する。これにより一定割合で燃焼ガスが発生し、ロケットモータ11が一定の推進力を一定時間発生させる。
【0004】
かかるロケットモータ11は端面燃焼型のロケットモータとも呼称される。図9に示すように端面燃焼型のロケットモータ11は、モータケース12の焼損を防ぐため、あるいは固体推進薬16の温度上昇を抑えるために断熱構造を有する。従来のロケットモータ11の断熱構造は、二層構造であって、固体推進薬16の外周面を覆うレストリクタ15と、モータケース12の内周面を覆うケース断熱材14を有する。レストリクタ15とケース断熱材14は、断熱性および所望の強度を得るため、所定の厚さを有する。しかし二層構造は、モータケース12に収容する推進薬の量が少なくなる、あるいは部品点数が多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-46145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
断熱構造を一層構造にする、すなわちレストリクタとケース断熱材を一体にする構造も考えられる。しかし推進薬とモータケースの熱収縮率の違いがある。そのため低温時に推進薬の収縮にモータケースの収縮が追い付かず、一層構造に力が加わる。これによりインシュレータからの推進薬の剥がれや、推進薬内部へのクラックが生じる場合がある。
【0007】
この剥がれた部分やクラックに燃焼時の火炎が到達すると、火炎が剥がれた部分やクラックに延焼し、予定している燃焼面積よりも実際の燃焼面積が増加してしまう。燃焼面積の増加は、モータケース内の圧力の増大を招く。かくしてモータケースが破損あるいはネジ結合部の破断といったいわゆるバーストと呼ばれる不具合が生じることもある。そこで推進薬の量が多く、かつ部品点数が少なく、しかもバーストが生じることが抑制されたモータケースが従来から必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの特徴によると、ロケットモータは、ロケットを推進させるための推進薬と、推進薬を内包するモータケースと、インシュレータを有する。モータケースは、一端部にノズルを備える。インシュレータは、推進薬に対向する内周面とモータケースに対向する外周面を具備する。インシュレータの内周面は、推進薬の外周全体に接着されるインシュレータ接着領域を有する。インシュレータの外周面は、モータケースの内周面と接着されるケース接着領域と、モータケース内周面に接着されないケース未接着領域を有する。推進薬は、ノズルに対向する端面を有し、かつ長手方向に延出する。ケース未接着領域は、推進薬の長手方向の略全長に渡って形成される。
【0009】
したがってケース未接着領域は、インシュレータが推進薬とともにモータケースに対して移動することを許容する。そのためモータケースの熱膨張率と推進薬の熱膨張率の差によって生じるモータケースと推進薬の熱変形の差は、ケース未接着領域によって吸収される。その結果、熱変形の差により生じる外力が推進薬に伝わることが軽減される。外力の軽減によって推進薬がインシュレータから剥がれることが抑制される。あるいは熱収縮によって推進薬の内部にクラックが生じることも抑制できる。推進薬のインシュレータからの剥がれ部分あるいは推進薬のクラックを抑制することで、いわゆるバーストを抑制することができる。しかもインシュレータを一層構造にしている。そのためインシュレータを薄くすることでインシュレータの内周径が大きくなり、推進薬の量を多くすることができる。インシュレータは、従来の二層構造に比べて部品点数も少なくなる。
【0010】
またケース未接着領域は、推進薬の長手方向の略全長に亘って推進薬がモータケースに対して移動することを許容する。その結果、推進薬とモータケースの熱変形の差が、推進薬の長手方向全長に渡って吸収される。かくして推進薬のインシュレータからの剥がれや、推進薬内部へのクラックの発生をより効果的に抑制できる。
【0011】
本開示の他の1つの特徴によると、ケース接着領域は、ケース未接着領域と周方向に隣接しかつ推進薬の長手方向に延出する長手延出接着領域を有するものとすることができる。したがってインシュレータは、ケース接着領域によって推進薬を保持する。例えば、ケース接着領域は、推進薬がインシュレータに対して周方向に回転することを抑制できる。
【0012】
本開示の他の1つの特徴によると、ケース接着領域は、モータケースの内周面の周方向全周に亘って形成される環状接着領域を有する。したがって環状接着領域は、燃焼ガスがモータケースとインシュレータの間に入り込むことを抑制できる。そのため高温の燃焼ガスによってモータケースの内周面が溶融することを抑制できる。
【0013】
本開示の他の1つの特徴によると、環状接着領域は、推進薬の燃焼端面よりもノズルに近い位置に形成されるものとすることができる。したがって環状接着領域は、推進薬の燃焼端面よりもノズルに近い場所において燃焼ガスがモータケースとインシュレータの間に入り込むことを抑制する。これによりモータケースの内周面が溶融することをより確実に抑制できる。
【0014】
本開示の他の1つの特徴によると、環状接着領域は、推進薬の長手方向において、推進薬の全長の2分の1以下の幅を有することができる。すなわち環状接着領域は、比較的長手方向における幅が短い。逆にケース未接着領域の長手方向の長さが長い。したがってケース未接着領域は、確実にインシュレータが推進薬とともにモータケースに対して移動することを許容できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかるロケットモータの斜視図である。
図2】製造工程途中におけるロケットモータの分解斜視図である。
図3図1のIII-III線断面矢視図である。
図4図3のIV-IV線断面矢視図である。
図5図3のV-V線断面矢視図である。
図6図5における推進薬が収縮した状態を示す断面図である。
図7】燃焼状態のロケットモータの断面図である。
図8】他の実施形態にかかるロケットモータの断面図である。
図9】従来のロケットモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1~3に示すようにロケットモータ1は、モータケース1aと、モータケース1aに収容されるインシュレータ4と、インシュレータ4内に配される(内包される)推進薬5を有する。モータケース1aは、ケース本体2と、ケース本体2の開口部を塞ぐケース蓋3を有する。
【0017】
図3に示すようにケース本体2は、有底円筒状であり、円筒状の側周壁2aと、その底面を塞ぐ円板状のケース底壁2bを有する。ケース本体2は、推進薬燃焼時の高い圧力に耐えうる強度を有する材料、例えば金属から形成される。
【0018】
図1~3に示すようにケース蓋3は、鏡板3aとノズル3bを有する。鏡板3aは、円板状で、ケース本体2よりも肉厚である。鏡板3aの裏面(図3の下面に相当)は、燃焼ガスによって溶融しないように耐熱処理がなされている。鏡板3aの中央部にノズル3bが設けられる。ノズル3bは、鏡板3aの外周面から円筒状に突出する。すなわちノズル3bはモータケース1aの一端部に備えられる。
【0019】
図3に示すようにケース蓋3は、貫通孔3cと噴出口3dを連続して有する。貫通孔3cは、鏡板3aの裏面から表面(図3の上面に相当)に向かって延出し、径が徐々に小さくなる。噴出口3dは、貫通孔3cからノズル3bの先端まで延出し、径が徐々に広くなる。貫通孔3cと噴出口3dは、燃焼ガスがモータケース1a内からノズル3bを通って噴出することを許容する。貫通孔3cと噴出口3dの形状によって燃焼ガスが超高速で噴出される。
【0020】
図1~3に示すようにインシュレータ4は、略円筒状の側壁4aと、側壁4aの底を塞ぐ底壁4bを有する。インシュレータ4は、ある程度の柔軟性を持ちつつ断熱性を持つ材料から構成される。インシュレータ4に用いる材料の構成は、特に制限されないが、バインダーとしての機能を果たすエラストマーに加えて、機械的な物性を向上させるとともに耐熱性を付与するためにフィラーおよび難燃剤とを有することが一般的である。エラストマーは、加硫可能なエラストマーであることが好ましい。例えば、ポリイソプレン構造をもつ天然ゴム(NR)や、天然ゴムと同じポリイソプレン構造を有し、化学合成されたイソプレンゴム(IR)や、不飽和結合を有し、硫黄架橋を可能としたエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)や、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)や、液状ブタジエンゴム(1,2-ブタジエンゴム、1,4-ブタジエンゴム)(BR)や、液状イソプレンゴム(1,4-イソプレンゴム)(IR)や、液状スチレン・ブタジエンゴム(SBR)や、液状ポリブテン(IM)や、液状ウレタンゴム(EU)などが例示される。これらのエラストマーは、1種類のゴムを単独で使用することも、各ゴムの持つ利点をそれぞれ利用するためにこれらのゴムをブレンドして使用することもできる。加硫可能なエラストマーとしてはエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)が好ましい。
【0021】
フィラーとしては、芳香族ポリアミド系パルプ状繊維、芳香族ポリアミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンブラック、アスベスト、粒状シリカなどが使用される。これらは単独で使用することも、2種以上をブレンドして使用することもできる。
【0022】
難燃剤としては、三酸化アンチモン、硫化亜鉛、リン化合物、塩素化合物、臭素化合物、金属水酸化物、水和金属塩が挙げられ、三酸化アンチモン、硫化亜鉛、塩素化合物、臭素化合物、リン化合物が好ましく、三酸化アンチモンが特に好ましい。これらは単独で使用することも、2種以上をブレンドして使用することもできる。
【0023】
インシュレータの構成材料には、種々の機能を果たすためにその他の添加物を任意で添加することが可能である。例えば、ゴム製品の硬度を調整し混錬性、加工性を改善するための軟化剤や可塑剤、ゴムの劣化を防止するための老化防止剤、ゴムの混錬、圧延時等の加工性を改善し、適切な粘着性を得るための加工助剤や粘着付与剤、鎖状ゴム分子を三次元構造に形成させるための加硫用又は架橋用配合剤などがある。これらの添加物は、使用されるエラストマーやフィラーとゴムの製造方法に適した添加物の組み合わせを適宜選択して使用することができる。
【0024】
軟化剤及び可塑剤としては、鉱物油系軟化剤及び植物油系軟化剤が使用できる。鉱物油系軟化剤は、例えば、パラフィン系軟化剤、芳香族系軟化剤、ナフテン系軟化剤などが挙げられ、植物油系軟化剤は、例えば、ステアリン酸などの脂肪酸又はその塩、菜種油、パーム油、やし油などの脂肪油、パインオイル、ロジン、ファクチス(サブ)などが挙げられる。
【0025】
老化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系老化防止剤及び硫黄化合物やホスファイト類が二次老化防止剤として使用することができる。
【0026】
加工助剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸の金属塩、ステアリルアミン、高融点ワックス、低分子量ポリエチレングリコールなどが利用できる。
【0027】
粘着付与剤としては、クマロン樹脂、フェノール、テルペン系樹脂、石油系炭化水素樹脂、ロジン誘導体などが使用できる。
【0028】
加硫可能なエラストマーとその他の添加物の合計含有量は、特に制限されないが、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは38~83質量%であり、さらに好ましくは46~76質量%である。なお本明細書における〇〇~××との記載は、特に明記しない限り〇〇以上××以下を示すものとする。
【0029】
インシュレータに含まれるその他の添加物の含有量は、特に制限されないが、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは2~12質量%であり、さらに好ましくは4~5質量%である。
【0030】
インシュレータに含まれるフィラーと難燃剤の合計の含有量は、特に制限されないが、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、さらに好ましくは20~50質量%である。フィラーと難燃剤の合計の含有量が70質量%以下であれば、インシュレータ4の柔軟性を十分に確保することができる。フィラーと難燃剤の合計の含有量が10質量%以上であれば、インシュレータ4は十分な剛性を有し、推進薬燃焼時の高い圧力に耐えることができる。
【0031】
図3,5に示すようにインシュレータ4の底壁4bは、推進薬5の底面5bに対向する内底面4cと、ケース本体2の底壁2bに対向する外底面4dを有する。インシュレータ4の側壁4aは、推進薬5の外横面5aに対向する内側面4eと、ケース本体2の側周壁2aの内周面に対向する外側面4fを有する。
【0032】
図2,3,5に示すようにインシュレータ4の側壁4aの外側面4fは、ケース未接着領域6aとケース接着領域6bを有する。ケース未接着領域6aは、ケース接着領域6bと同一円周上にあるが、接着されていない部分(図2における二点鎖線の内側部分、図5における太線部分)を言う。ケース未接着領域6aは、ロケットモータ1または推進薬5の長手方向(基軸方向)に向かって延出する。ケース未接着領域6aの長手方向の長さは、推進薬5の長手方向の略全長に亘っている。ケース未接着領域6aのインシュレータの外周円に占める割合は40°程度である(図5の角度A参照)。
【0033】
図3に示すようにケース接着領域6bは、長手延出接着領域6cと環状接着領域6dを有する。長手延出接着領域6cは、インシュレータ4をケース本体2に収容した場合、ケース本体2と接し、接着される。長手延出接着領域6cは、インシュレータ4の周方向においてケース未接着領域6aに隣接する。
【0034】
図2,3に示すように環状接着領域6dは、長手延出接着領域6cと同一円周上に存在する。環状接着領域6dの先端と長手延出接着領域6cの先端は、インシュレータ4の軸中心からの径方向の距離がほぼ同じ場所に位置する。環状接着領域6dは、インシュレータ4の長手方向先端縁に沿って延出し、環状である。これにより環状接着領域6dは、ケース蓋3の近傍においてケース本体2の側周壁2aに沿って環状に延出する。
【0035】
図3に示す推進薬5は、ロケットを推進させるためのものであり、図2に示す推進薬原料5dから形成される。ケース本体2内にインシュレータ4が設置され、インシュレータ4内に推進薬原料5dが投入される。図2に示すように推進薬原料5dがインシュレータ4内に充填され、重合などを通じて硬化されることで固体の推進薬5が形成される。推進薬5は、コンポジット推進薬またはダブルベース推進薬である。
【0036】
図3に示す推進薬5がコンポジット推進薬の場合、推進薬原料5dは例えばポリブタジエン及び/または過塩素酸アンモニウムを含む。推進薬5がコンポジットモディファイドダブルベース推進薬の場合、推進薬原料5dはニトロセルロース及び/またはウレタンを含む。また推進薬原料5dは、グリシジルアジドポリマー(GAP)等を含むエネルギー性ポリウレタン材料とすることもできる。推進薬5としては、ベース推進薬よりも収縮してもクラックが生じ難いコンポジット推進薬である方が好ましい。
【0037】
図1~3に示すように推進薬5は、インシュレータ4内で固体化されることでインシュレータ4の内部形状に対応する形状となる。すなわち推進薬5は、長手方向に延出した円柱状である。推進薬5の外横面5aがインシュレータ4の側壁4aのインシュレータ接着領域4g(内側壁4e)と接着する。推進薬5の底面5bがインシュレータ4の底壁4bの内底面4cと接着する。すなわち推進薬5の外周面全体がインシュレータ4の内周面に接着している。かくしてインシュレータ4は、推進薬5に対向する内周面とモータケース1aに対向する外周面を具備する。図6に示すように、推進薬5は、温度の低下により収縮する場合があるが、インシュレータ4は推進薬5の収縮に追随して変形する。具体的には推進薬5が収縮した場合、インシュレータ4も推進薬の収縮に追随して変形する。この際、ケース未接着領域6aとケース本体2の間には、隙間6eが生じる。
【0038】
上述するようにロケットモータ1は、図3~5に示すようにインシュレータ4がモータケース1aに接着しないケース未接着領域6aを有する。ケース未接着領域6aは、インシュレータ4が推進薬5とともにモータケース1aに対して移動することを許容する。そのためモータケース1aの熱膨張率と推進薬5の熱膨張率の差によって生じるモータケース1aと推進薬5の熱変形の差は、ケース未接着領域6aによって吸収される。
【0039】
その結果、熱変形の差により生じる外力が推進薬5に伝わることが軽減される。外力の軽減によって推進薬5がインシュレータ4から剥がれることが抑制される。あるいは熱収縮によってインシュレータ4内部にクラックが生じることも抑制できる。推進薬5のインシュレータ4からの剥がれ部分あるいは推進薬5のクラックを抑制することで、いわゆるバーストを抑制することができる。
【0040】
しかも図3に示すようにモータケース1aと推進薬5の間に設けられる断熱構造は、インシュレータ4からなる一層構造である。一方、図9に示す従来のロケットモータ11の断熱構造は、ケース断熱材14とレストリクタ15からなる二層構造である。そのためインシュレータ4を薄くすることで断熱構造(インシュレータ4)の内周径が大きくなり、推進薬5の量を多くすることができる。そしてロケットモータ1の断熱構造の部品点数も少なくなる。
【0041】
図3に示すようにケース未接着領域6aは、推進薬5の長手方向の略全長に亘って形成される。したがってケース未接着領域6aは、推進薬5の長手方向の略全長に亘って推進薬5がモータケース1aに対して移動することを許容する。その結果、推進薬5とモータケース1aの熱変形の差が、推進薬5の長手方向全長に亘って吸収される。かくして推進薬5のインシュレータ4からの剥がれや、推進薬5内部へのクラックの発生をより効果的に抑制できる。
【0042】
図3,5に示すようにケース接着領域6bは、ケース未接着領域6aと周方向に隣接しかつ推進薬5の長手方向に延出する長手延出接着領域6cを有する。したがってインシュレータ4は、ケース接着領域6bによって推進薬5を保持する。例えば、ケース接着領域6bは、推進薬5がインシュレータ4に対して周方向に回転することを抑制できる。
【0043】
図3,4に示すようにケース接着領域6bは、さらに環状接着領域6dを有する。したがって図7に示すように環状接着領域6dは、燃焼ガスがモータケース1aとインシュレータ4の間に入り込むことを抑制できる。そのため高温の燃焼ガスGによってモータケース1aの内周面が溶融することを抑制できる。
【0044】
図3に示すように燃焼端面5cは、インシュレータ4の環状接着領域6dよりもケース蓋3のノズル3bから遠い位置に形成される。すなわち環状接着領域6dは、燃焼端面5cよりもノズル3bに近い位置に形成される。したがって環状接着領域6dは、推進薬5の燃焼端面5cよりもノズル3bに近い場所において燃焼ガスがモータケース1aとインシュレータ4の間に入り込むことを抑制する。これによりモータケース1aの内周面が溶融することをより確実に抑制できる。
【0045】
モータケース1aは、図1~3に示す円筒状である必要はなく、例えば多角形筒状としても良い。ケース蓋3の形状もモータケース1aの形状に合わせて種々の形状に変更することができる。
【0046】
ロケットモータ1は、図3に示すインシュレータ4に代えて図8に示すインシュレータ7を有していても良い。インシュレータ7の外形は、概ねインシュレータ4の外形と同様であるが、ケース未接着領域6aに代えてケース未接着領域8aを有する。ケース未接着領域8aの長さは、推進薬5の長手方向において推進薬の全長の2分の1以下の長さとする。すなわち環状接着領域8dは、比較的長手方向における幅が短い。逆にケース未接着領域8aの長手方向の長さは、長手延出接着領域6cに比べて長い。したがってケース未接着領域8aは、確実にインシュレータ7が推進薬5とともにモータケース1aに対して移動することを許容できる。
【0047】
上述のロケットモータ1におけるケース接着領域6bは環状接着領域6dを有するものであったが、環状接着領域6dが存在せず、長手延出接着領域6cのみが存在するものであっても構わない。
【0048】
ケース未接着領域6aは、推進薬5の長手方向の略全長に亘って形成される形成されるものとしたが、この場合の略全長とは、推進薬5の長手方向の全長とほぼ同じ長さであっても、より長くても、より短くても構わない。
【0049】
また、上述のロケットモータ1において、図5に示すようにケース未接着領域6aの数は3本であるが、1~6本程度とすることもできる。ケース未接着領域6aのインシュレータの外周円に占める割合は40°程度(図5の角度A)であるとしたが、30~90°程度とすることができる。そして、ケース未接着領域がインシュレータの外周円に占める範囲は合計で90°~180°程度とすることができる。かかる範囲であれば、モータケースに対するインシュレータの接着力を落とさず、十分に推進薬のインシュレータからの剥がれや推進薬のクラックを抑制することができる。
【0050】
ケース未接着領域6aはモータケース1aと接着しない部分であるが、例えばケースとインシュレータの接着時に接着剤を塗布しないことや、離型剤を付与することでも形成できる。
【0051】
ロケットモータ1において、ケース接着領域6bはモータケースの内周面の周方向全周に亘って形成される環状接着領域6dを有するとしたが、例えば環状接着領域はインシュレータ上端円のほぼ全周95%以上に形成され、すこし隙間の開いたC字状とすることもできる。
【0052】
ロケットモータ1において、環状接着領域6dは、推進薬5の燃焼端面5cよりもノズル3bに近い位置に形成されるとしたが、燃焼端面5cと環状接着領域6dは同じ位置であっても構わない。
【符号の説明】
【0053】
1 ロケットモータ
1a モータケース
4 インシュレータ
4g インシュレータ接着領域
5 推進薬
5c 燃焼端面
6a,8a ケース未接着領域
6b ケース接着領域
6c 長手延出接着領域
6d,8b 環状接着領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9