(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】アスファルト舗装材梱包体及びアスファルト舗装補修方法
(51)【国際特許分類】
E01C 7/20 20060101AFI20221122BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
E01C7/20
E01C23/00 A
(21)【出願番号】P 2018176342
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】平戸 利明
(72)【発明者】
【氏名】吉武 美智男
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173433(JP,A)
【文献】特開2018-017072(JP,A)
【文献】特開2016-050280(JP,A)
【文献】特開平07-329983(JP,A)
【文献】実開平04-032680(JP,U)
【文献】特開2017-190661(JP,A)
【文献】特開2011-069154(JP,A)
【文献】特許第3733126(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/20
E01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性を有するポリビニルアルコール樹脂製の包装部材と、
前記包装部材に内包され、骨材、アスファルト
、アルカリ性添加材、及び
重合脂肪酸を含有する水硬性アスファルト混合物とを備え
、
前記包装部材の膜厚の平均厚さが、40μm以上600μm以下であり、
前記アルカリ性添加材の含有量が、前記水硬性アスファルト混合物全量基準で、0.3質量%以上6質量%以下であり、
前記重合脂肪酸の含有量が、前記水硬性アスファルト混合物全量基準で、1.0質量%以上である、アスファルト舗装材梱包体。
【請求項2】
前記重合脂肪酸
の含有量が、前記
水硬性アスファルト
混合物全量基準で、1.0質量%以上95質量%以下
である、請求項1に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項3】
前記アルカリ性添加材は、水溶液中でアルカリ性を示す無機物及び有機物からなる群から選択される少なくとも1種である
、請求項
1又は2に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項4】
前記水硬性アスファルト混合物中における前記アルカリ性添加材の含有比率
が、0.5質量%以上10質量%以下である
、請求項
1~3のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項5】
前記包装部材は、20℃の水100gに対して1g以上溶解する
、請求項1~
4のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項6】
前記包装部材は、水と接触することで完全に溶解する
、請求項1~
5のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項7】
前記包装部材は
、10gを2℃の水100gに溶かした時、24時間以内に完全溶解する
、請求項1~
6のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項8】
前記包装部材の外周にフィラーがまぶされている
、請求項1~
7のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項9】
前記包装部材に対する前記水硬性アスファルト混合物の充填率
が、40質量%以上97質量%以下である
、請求項1~10のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
【請求項10】
アスファルト舗装材梱包体を、アスファルト舗装に存在する補修対象箇所に設置する工程と、
前記アスファルト舗装材梱包体に水を付与する工程と、
前記アスファルト舗装材梱包体が水と反応して包装部材が溶解消失する工程と、
前記包装部材に内包される水硬性アスファルト混合物が水と反応して硬化する工程とを含む
、アスファルト舗装補修方法
であって、
前記アスファルト舗装材梱包体が、水溶性を有するポリビニルアルコール樹脂製の包装部材と、前記包装部材に内包され、骨材、アスファルト、アルカリ性添加材、及び重合脂肪酸を含有する水硬性アスファルト混合物とを備え、
前記包装部材の膜厚の平均厚さが、40μm以上600μm以下であり、
前記アルカリ性添加材の含有量が、前記水硬性アスファルト混合物全量基準で、0.3質量%以上6質量%以下であり、
前記重合脂肪酸の含有量が、前記水硬性アスファルト混合物全量基準で、1.0質量%以上である、アスファルト舗装補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装の補修に用いるアスファルト舗装材梱包体及びアスファルト舗装補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行する道路は、利便性及び安全性を高めるために舗装が施されている。特に、アスファルト舗装で用いられるアスファルト混合物は、全国で材料が入手しやすく、施工が簡易であり、かつ他の材料と比較して安価であるため、一般的な舗装として広く利用されている。
【0003】
アスファルト混合物は、一般的にアスファルトと砕石、砂、フィラー等から構成される。アスファルト混合物は、砕石、砂、フィラーを用い、所定の骨材粒度に調整し、加熱した後、ミキサー等でアスファルトと混合することにより製造される。ここで製造されたアスファルト混合物は、基層あるいは表層として施工される。施工は、アスファルトフィニッシャにより敷きならされ、ローラにて締め固められて、アスファルト舗装となる。
【0004】
アスファルト舗装は、絶えず交通荷重及び環境負荷にさらされており、供用されることで破損することがある。アスファルト舗装の破損の主なものには、ひび割れ、轍掘れ、平たん性の低下が挙げられ、その他の破損として、段差、ポットホール及び剥離等がある。ポットホールとは、アスファルト舗装の表面からアスファルト混合物が飛散して生じる穴のことをいう。ポットホールは、主に雨水及び積雪等による浸水が原因で発生し、放置するとアスファルトが欠損し穴を広げることもあり、アスファルト舗装をさらに損傷させてしまうことがある。
さらにポットホールは、視界の悪い雨天時に発生することが多くあり、このような場合は直ちに補修を行わないと車両事故を招く危険がある。損傷原因又は損傷程度により、その補修方法は異なり、著しく損傷している箇所では、舗装表面を切削し、新たに加熱アスファルト舗装を舗設する。一方、損傷程度が小さく、緊急補修を要している場合は、雨天時にも関わらず、ポットホール補修用混合物を補修対象箇所に敷きならし、転圧することで対応する。
【0005】
一般的なポットホール補修用混合物として、常温で取り扱うことができる常温アスファルト舗装材がある。常温アスファルト舗装材は、さまざまなポットホールの形状に対して補修が可能であり、アスファルト混合物であるため、既設混合物との接着性が高い。通常、常温アスファルト舗装材は、1袋20kg程度の大きなサイズで保管されている。そのため、補修対象箇所を補修する際には、シャベル等で袋から常温アスファルト舗装材を取り出し、コテ及びシャベル等で転圧することによって締め固める必要がある。上述のとおり、ポットホールは視界の悪い雨天時に発生することが多いため、補修時間が長いと作業者が事故に合う危険が高くなる。そこで、袋詰した常温アスファルト舗装材の技術が開発された(例えば、特許文献1参照)。これは、常温アスファルト舗装材が袋で拘束されているため、常温アスファルト舗装材が飛散することなく、ポットホールに充填することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の常温アスファルト舗装材を袋詰した補修材を用いた場合、補修後にアスファルト舗装内に常温アスファルト舗装材を詰めていた袋(不純物)が残存してしまい、既設のアスファルト舗装と常温アスファルト舗装材との接着性が低下するため、別途袋を回収する工程が必要となる問題がある。
また、特許文献1の常温アスファルト舗装材を袋詰した補修材を用いた場合、常温アスファルト舗装材が強度を発現するまでに時間を要する問題がある。
そこで、本発明は、水溶性の高い梱包体に袋詰した水硬性アスファルト混合物を補修対象箇所に設置した後に、水が付与されることで、包装部材が溶解消失し、水硬性アスファルト混合物が強度発現することにより、補修後にアスファルト舗装内に包装部材等の不純物が残存せずに、強度及び耐久性が高いアスファルト補修が可能なアスファルト舗装材梱包体及びアスファルト舗装補修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定材質の包装部材と水硬性アスファルト混合物とを用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のことを要旨とする。
[1]水溶性を有するポリビニルアルコール樹脂製の包装部材と、前記包装部材に内包され、骨材、アスファルト及び潤滑性固化材を含有する水硬性アスファルト混合物とを備えるアスファルト舗装材梱包体。
[2]前記潤滑性固化材は、重合脂肪酸及び前記重合脂肪酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を前記アスファルトに対して0.5質量%以上95質量%以下の割合で含有する[1]のアスファルト舗装材梱包体。
[3]前記水硬性アスファルト混合物は、アルカリ性添加材を含有する[1]又は[2]のアスファルト舗装材梱包体。
[4]前記アルカリ性添加材は、水溶液中でアルカリ性を示す無機物及び有機物からなる群から選択される少なくとも1種である[3]のアスファルト舗装材梱包体。
[5]前記水硬性アスファルト混合物中における前記アルカリ性添加材の含有比率は、0.5質量%以上10質量%以下である[3]又は[4]のアスファルト舗装材梱包体。
[6]前記包装部材は、20℃の水100gに対して1g以上溶解する[1]~[5]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体。
[7]前記包装部材は、水と接触することで完全に溶解する[1]~[6]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体。
[8]前記包装部材は10gを2℃の水100gに溶かした時、24時間以内に完全溶解する[1]~[7]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体。
[9]前記包装部材の膜厚の平均厚さは、30μm以上1200μm以下である[1]~[8]のいずれか1項に記載のアスファルト舗装材梱包体。
[10]前記包装部材の外周にフィラーがまぶされている[1]~[9]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体。
[11]前記包装部材に対する前記水硬性アスファルト混合物の充填率は、40質量%以上97質量%以下である[1]~[10]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体。
[12][1]~[11]のいずれかのアスファルト舗装材梱包体を、アスファルト舗装に存在する補修対象箇所に設置する工程と、前記アスファルト舗装材梱包体に水を付与する工程と、前記アスファルト舗装材梱包体が水と反応して包装部材が溶解消失する工程と、前記包装部材に内包される水硬性アスファルト混合物が水と反応して硬化する工程とを含むアスファルト舗装補修方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水溶性の高い梱包体に袋詰した水硬性アスファルト混合物を補修対象箇所に設置した後に、水が付与されることで、包装部材が溶解消失し、水硬性アスファルト混合物が強度発現することにより、補修後にアスファルト舗装内に包装部材等の不純物が残存せずに、強度及び耐久性が高いアスファルト補修が可能なアスファルト舗装材梱包体及びアスファルト舗装補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装材梱包体を示す断面模式図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA方向から見たアスファルト舗装材梱包体を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装材梱包体の作製方法を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装補修方法を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(アスファルト舗装材梱包体)
本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装材梱包体1は、
図1に示すように、水溶性を有するポリビニルアルコール樹脂製の包装部材10と、包装部材10に内包され、骨材、アスファルト及び潤滑性固化材を含有する水硬性アスファルト混合物20とを備える。
アスファルト舗装材梱包体1は、
図2に示すように、袋状の包装部材10の開口部11から水硬性アスファルト混合物20を投入し、開口部11を封止することで作製される。
【0012】
<包装部材>
包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂は、温度20℃、相対湿度65%RH環境下で、引張強度が20~40MPaであることが好ましく、23~35MPaであることがより好ましく、26~30MPaであることがさらに好ましい。また、包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂は、温度20℃、相対湿度65%RH環境下で、引張伸度が90~240%であることが好ましく、120~225%であることがより好ましく、150~190%であることがさらに好ましい。包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂は、上記範囲であることによって、水硬性アスファルト混合物20を梱包しても破れることがなく、密封することができる。
【0013】
包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂は、20℃の水100gに対して1g以上溶解することが好ましく、3g以上溶解することがより好ましく、5g以上溶解することがさらに好ましい。包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂が上記下限値を満たすことによって、ポットホール等の補修に利用した後に、包装部材10は、散水及び雨等による水分によって完全に溶解消失する。補修に利用した後に包装部材10が溶解消失することで、アスファルト舗装内に不純物が残存することがなく、アスファルト舗装の耐久性を維持した補修を行うことができる。
【0014】
包装部材10として用いられる水溶性のポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂10gを2℃の水100gに撹拌しながら投入した際、24時間以内に完全に溶解することが好ましく、12時間以内に完全に溶解することがより好ましく、1時間以内に完全に溶解することがさらに好ましい。包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂が上記上限値を満たすことによって、冬の高速道路などの低温環境下でも、包装部材10は早急かつ完全に溶解消失する。補修に利用した後に包装部材10が溶解消失することで、アスファルト舗装内に不純物が残存することがなく、アスファルト舗装の耐久性を維持した補修を行うことができる。
【0015】
ポリビニルアルコール樹脂は、一般に、酢酸ビニルの重合体であるポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られるものである。ポリビニルアルコールの原料となるポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの単独重合体であってもよいし、酢酸ビニルを主体とし、これに共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。本発明に用いるポリビニルアルコール樹脂は、変性されていることが好ましく、中でも、アニオン性基で変性されているポリビニルアルコールがより好ましい。ポリビニルアルコールの変性は、官能基を有する単量体を酢酸ビニルに共重合させた後、けん化する方法や、ポリ酢酸ビニルをけん化した後、グラフト反応によって水酸基以外の官能基を付与する方法等により、行うことができる。
【0016】
上記共重合に用いられる単量体としては、例えば、オレフィン類、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。共重合体として具体的には、ビニルエステルとそれと共重合しうる単量体、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等との共重合体のけん化物が挙げられる。
【0017】
包装部材10として用いられるポリビニルアルコール樹脂は、水への溶解性を良好にする観点から、けん化度が80mol質量%以上であることが好ましく、83mol質量%以上であることがより好ましく、85mol質量%以上であることがさらに好ましい。一方、当該けん化度は、99mol質量%以下であることが好ましく、95mol質量%以下であることがより好ましく、90mol質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
ポリビニルアルコール樹脂は、重合度が100~10,000程度のものを用いることができる。ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、3,000を超えると水に対して溶解させることが難しくなるという観点から、3,000以下であることが好ましく、2,500以下であることがより好ましく、2,000以下であることがさらに好ましい。
【0019】
包装部材10は、骨材及びアスファルトから成る水硬性アスファルト混合物20を密封するため、破損しない程度の耐久性を有することが好ましい。包装部材10の膜厚を厚くすればするほど、耐久性は向上する。
以上のことから、包装部材10の膜厚の平均厚さは、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。ここで、「平均厚さ」とは、包装部材10の異なる10箇所の厚さを測定し、測定した10箇所の平均値をいう。包装部材10の厚さが上記規定の下限値以上であることによって、水硬性アスファルト混合物20を内包し得る耐久性が得られる。
しかし、包装部材10の膜厚を厚くしすぎてしまうと、水に溶けるまでに時間を要してしまい、溶けきれずに包装部材10がアスファルト舗装内に残存してしまうことがある。そこで、包装部材10の膜厚の平均厚さの上限値は、1,200μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。包装部材10の厚さが上記規定の上限値以下であることによって、水と接触することで溶解し、アスファルト舗装内に残存物が残らない。
【0020】
アスファルト舗装材梱包体1は、雨が入り込まない程度の倉庫等で保管されることが想定される。したがって、一年を通して気温及び湿度に関係なく、安定的に保管可能であることが好ましい。特に包装部材10は水溶性を有しているが、高湿度環境下でも溶解することなく、耐久性を有し、内容物を密封することができるものであることが好ましい。ここで、「高湿度環境下」とは、相対湿度が70%RH以上90%RH以下であることをさす。
【0021】
アスファルト舗装材梱包体1は、保管時又は運搬中に空気中の水分及び雨水との接触によって、包装部材10が破けないことが求められる。このため、包装部材10の外周に石灰岩及び火山岩等を粉砕した石粉、並びに消石灰、セメント、回収ダスト、フライアッシュ等のフィラーがまぶされていることが好ましく、これにより保管時に空気中の水分の影響により、アスファルト舗装材梱包体1同士が接着するのを防ぐことができる。さらには、包装部材10の外周にフィラーがまぶされていることによって、運搬中に予期せず水と接触した際に、包装部材10の水への溶解を遅らせることで、破れにくくすることができる。なお、本明細書において「フィラー」とは、「舗装施工便覧」(公益社団法人、日本道路協会発行、平成18年度版)において定義されている「75μmふるいを通過する鉱物質粉末」のことをいう。
包装部材10の外周にまぶすフィラーの量は、アスファルト舗装材梱包体1の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
包装部材10に対する水硬性アスファルト混合物20の充填率は、40%以上97%以下であることが好ましく、50%以上95%以下であることがより好ましく、60%以上90%以下であることがさらに好ましい。包装部材10に対する水硬性アスファルト混合物20の充填率が上記範囲であることによって、包装部材10中に水硬性アスファルト混合物20が塊を形成すること無く、分散するため、アスファルト舗装材梱包体1は適度な柔軟性を有し、様々なポットホールの形状に追従するので、既設路面との密着性を得ることができる。
なお、ここでの充填率とは、包装部材10の容積に対する包装部材10に内包する水硬性アスファルト混合物20の体積をいう。
【0023】
包装部材10の大きさは、特に制限はないが、アスファルト舗装材梱包体1の取り扱いを良好とするために、適量の水硬性アスファルト混合物20を内包することが可能な大きさであることが好ましい。包装部材10の大きさは、例えば、内包するアスファルト舗装材梱包体1の重量が0.1kg以上5.0kg以下となる大きさであることが好ましく、0.2kg以上2.5kg以下となる大きさであることがより好ましく、0.3kg以上1.0kg以下となる大きさであることがさらに好ましい。
包装部材10の形状は、特に制限はなく、直方体、立方体及び楕円体等の種々の形状を採用することができる。
【0024】
<水硬性アスファルト混合物>
水硬性アスファルト混合物20は、骨材、アスファルト及び潤滑性固化材を含有し、性状として水硬性を有するものであることを特徴とする。
骨材は、一般的な舗装用アスファルト混合物に用いられるものを使用することができる。骨材としては、粗骨材(砕石)と細骨材(砂)とを混合した骨材、又は細骨材のみからなる骨材を用いることができる。骨材は、さらにフィラーを混合したものでもよい。
アスファルトとしては、舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトを主成分とするもの、或いは、該ストレートアスファルトに、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体(SIS)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などの熱可塑性エラストマーを添加して改質した、改質アスファルトであってもよい。また、既設のアスファルト舗装に含まれる舗装用バインダ及び骨材から再生された再生アスファルトであってもよい。
【0025】
潤滑性固化材は、重合脂肪酸及び重合脂肪酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基酸脂肪酸のエステル化物を重合して得られる重合物である。重合物脂肪酸は、二量体(ダイマー酸)を主成分とするものが好ましいが、三量体(トリマー酸)以上のものを採用することもできる。
潤滑性固化材は、重合脂肪酸及び重合脂肪酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種をアスファルトに対して0.5質量%以上95質量%以下の割合で含有することが好ましく、1.0質量%以上90質量%以下の割合で含有することがより好ましく、1.5質量%以上85質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。潤滑性固化材は、重合脂肪酸及び重合脂肪酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を上記範囲で含有することで、水硬性アスファルト混合物20の固化特性を向上させることができる。
【0026】
水硬性アスファルト混合物20は、作業性及びアスファルト舗装としての安定性を確保する観点から、アルカリ性添加材を含有することが好ましい。
【0027】
アルカリ性添加材は、水溶液中でアルカリ性を示す無機物及び有機物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。水溶液中でアルカリ性を示す無機物としてのアルカリ性添加材は、特に限定されず、例えば、セメント及び消石灰等が挙げられる。水溶液中でアルカリ性を示す有機物としてのアルカリ性添加材は、特に限定されず、例えば、アルカリ石鹸等が挙げられる。
【0028】
水硬性アスファルト混合物20中におけるアルカリ性添加材の含有比率は、0.3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましい。水硬性アスファルト混合物20中における潤滑性固化材の含有比率が上記範囲であることで、作業性及びアスファルト舗装としての安定性を確保することができる。
【0029】
水硬性アスファルト混合物20としては、細粒度アスファルト混合物、密粒度アスファルト混合物、粗密度アスファルト混合物及びポーラスアスファルト混合物等の配合仕様の混合物を採用することが好ましい。細粒度アスファルト混合物は、骨材の2.36mmふるい通過量が50%以上65%以下である配合仕様の混合物である。密粒度アスファルト混合物は、骨材の2.36mmふるい通過量が35%以上50%以下である配合仕様の混合物である。粗密度アスファルト混合物は、骨材の2.36mmふるい通過量が25%以上35%以下である配合仕様の混合物である。ポーラスアスファルト混合物は、骨材の2.36mmふるい通過量が20%以下である配合仕様の混合物である。
水硬性アスファルト混合物20として用いる各種混合物における最大粒径は、様々なポットホールの形状に追従し、既設路面との密着性を得ることができるという観点から、20mm以下であることが好ましく、13mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
水硬性アスファルト混合物20には、通常のアスファルト混合物に含められるような樹脂、ゴム成分及び添加剤等が含まれていてもよい。
【0031】
(アスファルト舗装補修方法)
本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装補修方法は、上述したアスファルト舗装材梱包体1を、アスファルト舗装に存在する補修対象箇所に設置する工程と、アスファルト舗装材梱包体1に水を付与する工程と、アスファルト舗装材梱包体1が水と反応して包装部材10が溶解消失する工程と、包装部材10に内包される水硬性アスファルト混合物20が水と反応して硬化する工程とを含む。
以下に、アスファルト舗装補修方法を、
図3を参照しながら説明する。
【0032】
図3(a)に示すように、アスファルト混合物31が施工された道路は、舗装表面にポットホール等の補修対象箇所40が生じることがある。
舗装表面に補修対象箇所40が生じた場合、まず、
図3(b)に示すように、アスファルト舗装材梱包体1を、アスファルト混合物31に存在する補修対象箇所40に設置する。アスファルト舗装材梱包体1は、小分けされているため、補修対象箇所40のさまざまな形状に対応できる。
そして、
図3(c)に示すように、補修対象箇所40に設置されたアスファルト舗装材梱包体1の包装部材10は、散水及び雨水等による水が付与されることにより溶解消失する。また、修対象箇所40に設置されたアスファルト舗装材梱包体1の水硬性アスファルト混合物20は、散水及び雨水等による水と反応することにより硬化が促進される。なお、包装部材10が溶解した水溶液はアルカリ性を示すため、水硬性アスファルト混合物20は、アルカリ性添加材を混合していなくても散水及び雨水等による水と反応することにより硬化が促進される。
【0033】
本発明の実施の形態に係るアスファルト舗装材梱包体及びアスファルト舗装補修方法によれば、従来の常温アスファルト舗装材のように袋から開けて敷き均し、転圧する必要がない。アスファルト舗装材梱包体を補修対象箇所に設置するだけで、特別な器具などを用いずに、補修することができる。そのため、緊急性を有する補修対象箇所の補修に利用可能である。
さらに、アスファルト舗装材梱包体の包装部材が散水及び雨等による水分によって完全に溶解消失するので、アスファルト舗装内に不純物が残存することがない。そのため、アスファルト舗装の耐久性を維持した補修を行うことができ、補修後にアスファルト舗装内に残存した不純物を取り除く手間が省ける。また、アスファルト舗装材梱包体の水硬性アスファルト混合物が散水及び雨等による水分によって強度発現することができ、強度及び耐久性を高くすることができる。
さらに、アスファルト舗装材梱包体の包装部材は、施工時に散水することで、包装部材が早期に溶解消失し、水硬性アスファルト混合物が早期に強度を発現することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の説明をする。なお、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0035】
[評価方法1]
各実施例及び比較例において、以下の方法により各評価を行なった。
【0036】
<湿度安定性評価>
包装部材を25cm×20cmの袋状にし、水硬性アスファルト混合物を2kg充填してアスファルト舗装材梱包体を作製した。温度60℃、相対湿度90%RHの条件下にさらし、24時間養生した後、10回揉むごとに包装部材の破損状況を観察した。評価結果を表1に示す。
○:100回以上揉んでも破損が見られない
△:10~100回の間に破損が見られた
×:10回未満で破損が見られた
【0037】
<溶解速度評価>
包装部材を縦5cm×横5cmに切り出したサンプルを、2℃の水100ml入ったビーカーに投入し、マグネットスターラーにて撹拌を行った後のサンプルの状態を以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
○:1時間以内の撹拌で完全に溶解した場合
△:溶解するが1~24時間の撹拌を要した場合
×:24時間以上撹拌しても溶解しなかった場合
【0038】
<水と接触した後の状態の評価>
水溶性評価を行ったサンプルに対して、水と接触した後の状態を目視にて確認した。評価結果を表1に示す。
【0039】
[実施例1]
ポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)で膜厚30μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
ポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)で膜厚40μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例3]
ポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)で膜厚600μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0042】
[実施例4]
ポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)で膜厚900μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例5]
ポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)で膜厚1200μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
オブラート「国光オブラート」(国光オブラート株式会社製)で膜厚40μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
ポリエチレン「クレラップ」(株式会社クレハ製)で膜厚40μmの包装部材を作製した。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
膜厚50μmの紙製の袋(市販の紙袋)を包装部材とした。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例4]
膜厚50μmの不織布の袋を包装部材とした。当該包装部材について、上述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
[評価方法2]
各実施例及び比較例において、以下の方法により各評価を行なった。
【0050】
<安定度評価>
《供試体の作製》
作製したアスファルト舗装材梱包体を、温度20℃に設定した恒温槽にて5時間貯蔵した。
次いで、アスファルト舗装材梱包体を混合容器に移し、アスファルト舗装材梱包体が完全に浸るまで20℃の水に入れた後に混合した。混合することで、包装部材が水分と反応し、包装部材が溶解した。
次いで、溶解した包装部材と水硬性アスファルト混合物が混合したものを、内径101.6mm×高さ88.9mmのモールドに充填した。モールドに充填したものに対して、ヘラ又はコテで周囲に沿って15回、中央部を10回突いて、余剰水を排除した。
次いで、モールドに充填したものに対して、ランマにより50回/片面で両面を突き固めた。
混合容器に水を入れ始めてから約10分後にモールドから脱型し、供試体を得た。得られた供試体の高さを測定した。測定結果を表2に示す。
《試験方法》
作製した供試体を、温度20℃に設定した恒温槽にて30分貯蔵した。
ついで、万能試験機より載荷速度50mm/minにてマーシャル安定度を得た。なお、マーシャル試験の載荷方法については、舗装調査試験法便覧「B0001 マーシャル安定度試験方法」に準拠して行った。測定結果を表2に示す。なお、マーシャル安定度は、高い値であることが好ましく、2.0kN以上であることがより好ましい。
【0051】
<低温作業性の評価>
作製したアスファルト舗装材梱包体を、温度5℃に設定した恒温槽にて24時間貯蔵した後、取り出してほぐれやすさを評価した。
○:容易にほぐれた
△:スコップでほぐせばほぐれる
×:固結してほぐれない
【0052】
<硬化速度評価>
《供試体の作製》
安定度試験と同様に、アスファルト舗装材梱包体を、温度20℃、相対湿度90%RHの条件下に設定した恒温槽にて5時間貯蔵した。
次いで、アスファルト舗装材梱包体を混合容器に移し、アスファルト舗装材梱包体が完全に浸るまで20℃の水に入れた後に混合した。混合することで、包装部材が水分と反応し、包装部材が溶解した。
次いで、溶解した包装部材と水硬性アスファルト混合物が混合したものを、内径101.6mmで高さ88.9mmのモールドに充填した。モールドに充填したものに対して、ヘラ又はコテで周囲に沿って15回、中央部を10回突いて、余剰水を排除した。
次いで、モールドに充填したものに対して、ランマにより50回/片面で両面を突き固めた。
混合容器に水を入れ始めてから約10分後にモールドから脱型し、供試体を得た。
《試験方法》
作製した供試体を、速やかに温度20℃に設定したロサンゼルス試験機のドラムに入れた。
混合容器に水を入れ始めてから30分後にドラムを150回転(毎分30~33回転)させた。ドラムは、舗装調査試験法便覧「B010 カンタブロ試験方法」に準拠したものを用いた。
供試体を取り出し質量を測定し、以下の式により供試体作製後30分後の硬化程度を評価した。なお、常温カンタブロ損失率は、低い値であることが好ましく、20%未満であることがより好ましい。
常温カンタブロ損失率(%)=(A-B)/A×100
A:試験前の質量、B:試験後の質量
【0053】
[実施例6~13]
表2に示す配合量(質量%)に従って材料を配合し、実施例6~13の水硬性アスファルト混合物を得た。
膜厚40μmのポリビニルアルコール樹脂「ハイセロン C型-200(商品名)」(日本合成化学工業株式会社製)(実施例2)で、25cm×20cmの袋状の包装部材を作製した。当該包装部材に実施例6~13の水硬性アスファルト混合物を2kg投入し、開口部を封止することでアスファルト舗装材梱包体を得た。
【0054】
[比較例5~7]
表2に示す配合量(質量%)に従って材料を配合し、比較例5~7の水硬性アスファルト混合物を得た。
膜厚40μmのオブラート「国光オブラート」(国光オブラート株式会社製)(比較例1)で、25cm×20cmの袋状の包装部材を作製した。当該包装部材に比較例5~7の水硬性アスファルト混合物を2kg投入し、開口部を封止することでアスファルト舗装材梱包体を得た。
【0055】
実施例6~13及び比較例5~7において使用した各種材料の詳細は以下の通りである。
《骨材》
・砕石:6号「粒径5~13mm」、7号「粒径2.5~5mm」
・砂:粗目砂「粒径5mm以下」、細目砂「粒径2mm以下」
・フィラー:石粉
《アスファルト》
・ストレートアスファルト:針入度60~80
《重合脂肪酸》
・重合脂肪酸:ダイマー酸、商品名「ハリダイマー250」(ハリマ化成株式会社製)
《アルカリ性添加材》
・消石灰
・セメント:普通ポルトランドセメント
【0056】
【符号の説明】
【0057】
1:アスファルト舗装材梱包体
10:包装部材
11:開口部
20:水硬性アスファルト混合物
30:アスファルト混合物あるいは路盤
31:アスファルト混合物
40:補修対象箇所