(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】転写装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20221122BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G03G15/16 103
G03G21/00 370
(21)【出願番号】P 2018176968
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【氏名又は名称】山田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】輻形 和幸
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に画像を保持する像保持体との間に記録材を、変更可能な圧力で挟み込み、当該像保持体上の画像を当該記録材に転写させる転写部と、
前記記録材を、前記像保持体と前記転写部とに挟まれた転写領域の通過中に搬送し、前記圧力が第1の圧力である場合には第1の搬送能力で搬送し、前記圧力が当該第1の圧力
から当該第1の圧力よりも高い第2の圧力
へと増加する場合には、
当該第1の圧力から当該第2の圧力へと増加する間に、当該第1の搬送能力
から当該第1の搬送能力よりも低い第2の搬送能力
へと搬送能力を経時的に低下させる搬送部と、
を備えたことを特徴とする転写装置。
【請求項2】
前記搬送部は、構成要素として、少なくとも表面が循環移動して前記記録材を搬送する前記転写部を含むことを特徴とする請求項1に記載の転写装置。
【請求項3】
前記搬送部は、構成要素として、前記転写領域外から当該転写領域へと前記記録材を送り込む送り込み器を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の転写装置。
【請求項4】
前記搬送部は、前記圧力が前記第2の圧力へと達する前に、搬送能力を前記第2の搬送能力に低下させるものであることを特徴とする請求項
1から3のうちのいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項5】
前記転写部は、前記転写領域に前記記録材の先端が到達する際には前記第1の圧力で当該記録材を挟み込み、当該先端が当該転写領域を抜けるに従って、当該記録材を挟み込む圧力を前記第2の圧力へと変更するものであることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項6】
前記搬送部は、前記記録材の先端が前記転写領域に到達する際には、当該記録材が前記転写領域を先端から後端まで通過する間で最も高い前記第1の搬送能力で当該記録材を搬送するものであることを特徴とする請求項
5に記載の転写装置。
【請求項7】
前記転写領域へと向かう前記記録材の先端を検知する検知部を備え、
前記搬送部は、前記検知部による前記先端の検知より前は前記第1の搬送能力よりも低い搬送能力で待機し、前記検知部による当該先端の検知に応じて、当該先端が当該転写領域に到達する迄に搬送能力を前記第1の搬送能力に上げることを特徴とする請求項
5または
6に記載の転写装置。
【請求項8】
表面に画像を保持する像保持体と、
前記像保持体上に画像を形成する画像形成部と、
前記像保持体との間に記録材を、変更可能な圧力で挟み込み、当該像保持体上の画像を当該記録材に転写させる転写部と、
前記記録材を、前記像保持体と前記転写部とに挟まれた転写領域の通過中に搬送し、前記圧力が第1の圧力である場合には第1の搬送能力で搬送し、前記圧力が当該第1の圧力
から当該第1の圧力よりも高い第2の圧力
へと増加する場合には、
当該第1の圧力から当該第2の圧力へと増加する間に、当該第1の搬送能力
から当該第1の搬送能力よりも低い第2の搬送能力
へと搬送能力を経時的に低下させる搬送部と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転写ニップで用紙(記録材)を挟み込んで画像を用紙上に転写する転写装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、記録シートが2次転写ローラで挟持される前の所定位置に到着したとき、記録シートの厚みが所定閾値を超えたとき、カム環がニップ部を離隔させる転写装置が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、用紙が2次転写ニップに進入する前に、像担持面と2次転写ローラとを離間させ、進入した後用紙を介して接触させる転写装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-058896号公報
【文献】特開2011-186168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、搬送能力が一定である場合に較べ、画像の伸縮を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る転写装置は、
表面に画像を保持する像保持体との間に記録材を、変更可能な圧力で挟み込み、当該像保持体上の画像を当該記録材に転写させる転写部材と、
【0008】
上記記録材を、上記像保持体と上記転写部材とに挟まれた転写領域の通過中に搬送し、上記圧力が第1の圧力である場合には第1の搬送能力で搬送し、上記圧力が当該第1の圧力から当該第1の圧力よりも高い第2の圧力へと増加する場合には当該第1の圧力から当該第2の圧力へと増加する間に、当該第1の搬送能力から当該第1の搬送能力よりも低い第2の搬送能力へと搬送能力を経時的に低下させる搬送部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る転写装置は、請求項の転写装置において、
上記搬送部は、構成要素として、少なくとも表面が循環移動して上記記録材を搬送する上記転写部材を含むことを特徴とする。
請求項3に係る転写装置は、請求項1または2の転写装置において、
上記搬送部は、構成要素として、上記転写領域外から当該転写領域へと上記記録材を送り込む送り込み器を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る転写装置は、請求項1から3の記載の転写装置において、
上記搬送部は、上記圧力が上記第2の圧力へと達する前に、搬送能力を上記第2の搬送能力に低下させるものであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る転写装置は、請求項1から4の転写装置において、
上記転写部材は、上記転写領域に上記記録材の先端が到達する際には上記第1の圧力で当該記録材を挟み込み、当該先端が当該転写領域を抜けるに従って、当該記録材を挟み込む圧力を上記第2の圧力へと変更するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る転写装置は、請求項5の転写装置において、
上記搬送部は、上記記録材の先端が上記転写領域に到達する際には、当該記録材が上記転写領域を先端から後端まで通過する間で最も高い上記第1の搬送能力で当該記録材を搬送するものであることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る転写装置は、請求項5または6の転写装置において、
上記転写領域へと向かう上記記録材の先端を検知する検知部を備え、
上記搬送部は、上記検知部による上記先端の検知より前は上記第1の搬送能力よりも低い搬送能力で待機し、上記検知部による当該先端の検知に応じて、当該先端が当該転写領域に到達する迄に搬送能力を上記第1の搬送能力に上げることを特徴とする。
請求項8に係る画像形成装置は、
表面に画像を保持する像保持体と、
上記像保持体上に画像を形成する画像形成部と、
上記像保持体との間に記録材を、変更可能な圧力で挟み込み、当該像保持体上の画像を当該記録材に転写させる転写部材と、
【0014】
上記記録材を、上記像保持体と上記転写部材とに挟まれた転写領域の通過中に搬送し、上記圧力が第1の圧力である場合には第1の搬送能力で搬送し、上記圧力が当該第1の圧力から当該第1の圧力よりも高い第2の圧力へと増加する場合には当該第1の圧力から当該第2の圧力へと増加する間に、当該第1の搬送能力から当該第1の搬送能力よりも低い第2の搬送能力へと搬送能力を経時的に低下させる搬送部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る転写装置および請求項8に係る画像形成装置によれば、搬送能力が一定である場合に較べ、画像の伸縮を抑制することができる。
また、請求項1に係る転写装置および請求項8に係る画像形成装置によれば、圧力変化と搬送能力変化とがバランスする。
請求項2に係る転写装置によれば、転写領域を通過する記録材の速度を直接に制御することができる。
請求項3に係る転写装置によれば、転写部材と送り込み器とで役割を分担することができる。
請求項4に係る転写装置によれば、過大な搬送能力を削減することができる。
請求項5に係る転写装置によれば、圧力が一定である場合に較べ、転写領域に記録材の先端が突入する際の衝撃を緩和することができる。
請求項6に係る転写装置によれば、先端突入時以外で搬送能力が最大である場合に較べ、画像の伸縮を抑制する効果が顕著である。
請求項7に係る転写装置によれば、過大な搬送能力を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に相当する画像形成装置の概略構成図である。
【
図2】用紙の先端突入時におけるニップ荷重(ニップ圧)の制御を示す図である。
【
図3】ニップ圧と画像伸縮との関係を示す図である。
【
図4】ニップ圧変化に伴う画像伸縮を抑制する対策を示す概念図である。
【
図5】用紙搬送力の変化方法の別例を示す図である。
【
図6】用紙搬送力の変化方法の更に別の例を示す図である。
【
図7】用紙搬送力の具体的な第1の増加方法を示すである。
【
図8】用紙搬送力の具体的な第2の増加方法を示す図である。
【
図9】用紙搬送力の具体的な第3の増加方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、以下図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に相当する画像形成装置の概略構成図である。
この画像形成装置1は、いわゆる直接転写方式のモノクロプリンタである。
【0018】
この画像形成装置1は、感光体ドラム10を備えている。この感光体ドラム10は、ドラム支持フレーム10Aに回転可能に支持されていて、感光体モータ16によって駆動されて矢印Aの向きに回転する。この感光体ドラム10の周りには、帯電器11、露光器12、および現像器13が備えられている。そして、帯電器11による帯電と、露光器12による露光と、現像器13による現像との各プロセスを経て感光体ドラム10の表面にトナー像が形成され、そのトナー像が感光体ドラム10上に保持される。
【0019】
ここで、露光器12は、画像形成装置1の外部から送られてくる画像データに従って感光体ドラム10を露光し、画像データが表す画像がトナー像として感光体ドラム10上に形成される。このような露光の精度確保のため、感光体ドラム10は感光体モータ16によって安定した回転速度で駆動されている。このような安定した回転速度の実現のため、感光体モータ16としてはDCモータが用いられている。この感光体ドラム10が、本発明にいう像保持体の一例に相当する。
【0020】
一方、用紙搬送器50によって記録材の一種である用紙P(いわゆるカット紙)が矢印Xの向きに搬送され、感光体ドラム10と後述する転写装置20とに挟まれた転写領域Tを通過する。用紙搬送器50はレジロールなどとも称され、用紙Pを転写領域Tの通過中も継続的に搬送する。そして、用紙Pが転写領域Tを通過する間に感光体ドラム10上のトナー像が用紙P上に転写される。本実施形態の画像形成装置1は複数種類の用紙Pに対応可能な装置であり、画像形成装置1に供給される用紙Pのサイズや厚さを示す情報が予め不図示の入力操作手段によって入力されているものとする。
【0021】
転写領域Tへと搬送される用紙Pの端部は、用紙端検知センサ42によって検知される。用紙端検知センサ42は、例えば光センサや接触センサであって、用紙の前端および後端それぞれの通過を検知する。この用紙端検知センサ42は、本発明にいう検知部の一例に相当する。
転写領域Tにおいてトナー像が転写された後の残りの、感光体ドラム10上の残存トナーは、クリーナ14により、感光体ドラム10上から除去される。
【0022】
転写領域Tでトナー像の転写を受けた用紙Pはさらに矢印Yの向きに搬送され、定着装置30に送り込まれる。この定着装置30は、矢印Dの向きに回転する加熱ローラ31と、矢印Eの向きに回転する加圧ローラ32とを備えている。それらの加熱ローラ31と加圧ローラ32は、互いに接触して定着領域Sを形成している。矢印Y方向に走行してきた用紙Pはその定着領域Sに突入し、その定着領域Sを通過する間に加熱および加圧を受けて用紙P上のトナー像がその用紙P上に定着される。この定着の結果、用紙P上に定着トナー像からなる画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、不図示の用紙送出器によってこの画像形成装置1の外部へと送り出される。
【0023】
転写装置20は、本発明にいう転写部の一例に相当し、転写ローラ21と、圧接ローラ22と、剥離ローラ23と、それらのローラに架け回された無端状の転写ベルト24を備えている。転写ローラ21、圧接ローラ22、および剥離ローラ23は、転写器支持フレーム20Aに回転可能に支持されている。
【0024】
転写ローラ21は、転写モータ213によって駆動されて矢印Bの向きに回転し、転写ベルト24を駆動する。転写モータ213もDCモータであり、転写ローラ21は安定した回転速度で駆動される。転写ベルト24は、伸縮性の小さい樹脂ベルトであり、転写ローラ21による駆動力を受けて矢印Cの向きに循環移動する。転写ローラ21と転写ベルト24によって転写装置20は、転写領域Tを通過中の用紙Pを搬送する役目を果たし、転写装置20におけるこのような搬送機能と上述した用紙搬送器50とを併せたものは、本発明にいう搬送部の一例に相当する。
【0025】
転写ローラ21は、感光体ドラム10の回転中心軸よりも用紙走行方向上流側に位置していて、転写ベルト24の内側から転写ベルト24を感光体ドラム10に押し当てている。そして、この転写ローラ21により、感光体ドラム10と転写ベルト24とが互いに接触した転写領域Tの上流側の縁が定められている。
【0026】
また、圧接ローラ22は、感光体ドラム10の回転中心軸よりも用紙走行方向下流側に位置していて、転写ベルト24の内側から転写ベルト24を感光体ドラム10側に押し上げている。そして、この圧接ローラ22により、転写領域Tの下流側の縁が定められている。
【0027】
また、剥離ローラ23は、転写ローラ21と比べ径の小さなローラであり、この剥離ローラ23で転写ベルト24の走行方向を急激に曲げることで、その転写ベルト24の上に載った状態にある用紙Pの先端を転写ベルト24から剥離させる。転写ベルト24から剥離した用紙Pは、ガイド部材41に案内されて矢印Y方向に進み、上述の通り、定着装置30へと送られる。
【0028】
また、この転写装置20はクリーナ25を備えている。転写ベルト24に付着したトナーやその他の汚れは、このクリーナ25により、転写ベルト24上から除去される。
【0029】
転写ローラ21は、回転軸211を有し、その回転軸211は軸支持フレーム212に回転可能に支持されている。この軸支持フレーム212は、転写装置20の全体を支持する転写器支持フレーム20Aに、上下動可能に支持されている。
【0030】
転写ローラ21の回転軸211には電源216が接続されていて、その電源216から転写バイアスが転写ローラ21に印加される。用紙Pが転写領域Tを通過する間に、その転写バイアスの作用により、感光体ドラム10上のトナー像が用紙P上に転写される。
【0031】
軸支持フレーム212とドラム支持フレーム10Aとの間には、軸支持フレーム212をドラム支持フレーム10Aから離れる方向へと付勢する押しバネ214が備えられている。また、転写装置20には、転写器支持フレーム20Aによって回転軸が回転可能に支持された偏芯カム215も備えられている。
【0032】
この偏芯カム215は、軸支持フレーム212を押しバネ214の付勢力に逆らって押し止めており、この偏芯カム215の回転によって軸支持フレーム212の位置が変更される。
図1には、軸支持フレーム212が偏芯カム215によって押されたことで転写ローラ21が転写ベルト24を感光体ドラム10に押し付けた押付状態が示されている。
図1に示す状態から偏芯カム215が回転軸回りに半回転すると、軸支持フレーム212が押しバネ214の付勢力で
図1の下方向へと押され、転写ローラ21と転写ベルト24が感光体ドラム10から離間した離間状態となる。
【0033】
つまり、偏芯カム215の回転によって転写ローラ21と転写ベルト24が感光体ドラム10に対する相対的な距離を変化させることになる。このような相対的な距離の変化により、転写領域Tで用紙Pが感光体ドラム10と転写ベルト24とに挟み込まれる(ニップされる)荷重であるニップ荷重(ニップ圧)が変化する。
【0034】
なお、感光体ドラム10に対する転写ローラ21および転写ベルト24の相対距離は、感光体ドラム10の移動によっても実現され得るが、周辺構造の複雑さの相違から、転写ローラ21および転写ベルト24を感光体ドラム10に対して移動させる方が現実的である。
【0035】
転写装置20には、演算素子としてのCPUや記憶素子としてのRAMやROMを備えた情報処理装置の一種である制御部29が備えられており、この制御部29によって偏芯カム215の回転や転写モータ213の駆動や電源216の転写バイアスなどが制御されている。
【0036】
用紙Pの先端が転写領域Tに突入する際には、突入の衝撃によって感光体ドラム10に対し回転方向の振動を生じさせる虞があるので、本実施形態では、このような衝撃を緩和する対策としてニップ荷重(ニップ圧)が以下説明するように制御されている。
図2は、用紙Pの先端突入時におけるニップ荷重(ニップ圧)の制御を示す図である。
【0037】
図2の上段には、用紙Pの先端突入時におけるニップ荷重(ニップ圧)のグラフが示されており、
図2の下段には、用紙Pが転写領域Tを通過する速度のグラフが示されている。各グラフの横軸は、用紙P先端の位置を示している。
【0038】
ニップ荷重(ニップ圧)は、用紙Pの先端が転写領域Tへの突入箇所S1に達する迄は、通常時(ノミナル)のニップ圧である通常ニップ圧Pnよりも低い低ニップ圧Pd(例えばニップ圧ゼロ)で待機されている。これにより、用紙Pの先端が転写領域Tに突入する際の衝撃が緩和される。そして、用紙Pの先端が転写領域Tに突入した後は、ニップ荷重(ニップ圧)は、通常ニップ圧Pnに向かって増加される。そして、ニップ変化の終了位置S2まで用紙Pの先端が進むとニップ荷重(ニップ圧)は通常ニップ圧Pnに達する。
【0039】
このようなニップ圧の制御によって用紙P先端の突入による衝撃は緩和されるが、用紙Pは、転写装置20の転写ローラ21および転写ベルト24によって搬送されているため、
図2の下段に示すように、ニップ圧の変化に伴って用紙Pの通過速度が変化する虞がある。
【0040】
即ち、ニップ圧が通常ニップ圧Pnよりも低い低ニップ圧Pdとなっている時点では、転写装置20の転写ベルト24と用紙Pとの摩擦が通常時(ノミナル)より小さいため転写装置20による用紙Pの搬送力も低下している。このため、何らかの対策が無いと、用紙Pが転写領域Tを通過する速度は、ニップ圧が低ニップ圧Pdの時点では、通常時(ノミナル)の通過速度Vnよりも低い速度となる。そして、ニップ圧が通常ニップ圧Pnへと向かって増加するにつれて、用紙Pが転写領域Tを通過する速度も通常時(ノミナル)の通過速度Vnに向かって増加する。
このような速度の変化は、転写領域Tで転写される画像の、搬送方向における伸縮を生じる。
図3は、ニップ圧と画像伸縮との関係を示す図である。
図3の横軸はニップ圧を示し、縦軸は画像の伸縮量を示している。
【0041】
図には、ニップ圧の一例として、圧力ゼロのニップ圧Pd0と、例えば薄紙に対応した低めのニップ圧Pd1と、通常ニップ圧Pnと、例えば厚紙に対応した高めのニップ圧Phが示されている。そして、画像の伸縮量の測定値が丸印で示されており、圧力ゼロのニップ圧Pd0や低めのニップ圧Pd1では、伸縮量ゼロのラインから測定値が離れていることが分かる。また、ニップ圧が通常ニップ圧Pnへと近づくにつれて測定値が伸縮量ゼロのラインに近づき、ニップ圧が高めのニップ圧Phに達しても測定値は伸縮量ゼロのライン付近に位置することが分かる。
なお、このような画像伸縮は、用紙Pがどの位置にいても、ニップ圧の変化に伴って生じる虞がある。
本実施形態では、ニップ圧変化に伴うこのような画像伸縮を抑制する対策が施されている。
図4は、ニップ圧変化に伴う画像伸縮を抑制する対策を示す概念図である。
【0042】
本実施形態の画像形成装置1では、用紙搬送器50における用紙Pの搬送能力と転写装置20における用紙Pの搬送能力とを総合した用紙搬送力が、ニップ圧の変化に合わせて変更される。
【0043】
図4の上段には、
図2にも示したニップ圧のグラフが示されており、
図4の下段には、用紙搬送力のグラフが示されている。各グラフの横軸は、用紙P先端の位置を示している。
【0044】
用紙搬送力は、用紙Pの先端が用紙端検知センサ42の位置S0に達して検知されるまでは通常時の用紙搬送力である通常搬送力Fnで待機されている。そして、用紙Pの先端が用紙端検知センサ42で検知されると、用紙搬送力は、通常搬送力Fnよりも高い高搬送力Fhへと増加される。用紙搬送力の具体的な増加方法については後述するが、増加の程度としては、低ニップ圧Pdによる用紙Pの通過速度低下を補って通常と同程度の通過速度が得られる程度に用紙搬送力が増加される。
【0045】
高搬送力Fhへの用紙搬送力の増加は、用紙Pの先端が転写領域Tへの突入箇所S1に達するまでに完了しており、用紙P先端が突入箇所S1に到達すると、ニップ圧の増加に対応して用紙搬送力は通常搬送力Fnへと向かって低下する。そして、用紙P先端がニップ変化の終了位置S2まで到達した時点では、用紙搬送力は通常搬送力Fnに達している。このように用紙搬送力が増減されることにより、ニップ圧変化に伴う用紙Pの通過速度変化が抑制され、画像の伸縮も抑制されることになる。
【0046】
なお、ニップ圧の変化例としてここでは用紙Pの先端が転写領域Tに突入する際の変化が示されているが、ニップ圧は他の目的で変化されることも考えられる。そのような他の目的によりニップ圧が変化する場合にも、
図4に示すような、ニップ圧変化に応じた用紙搬送力の変化によって画像の伸縮が抑制される。
【0047】
また、ここでは、用紙搬送力の変更が、用紙端検知センサ42による先端の検知タイミングに基づいた変更タイミングで実行されるので、簡易な構成でタイミング調整が図られている。但し、用紙搬送力の変更は、例えば、用紙搬送器50(レジロール)によって用紙Pが転写領域Tへと送り込まれるタイミングなどに基づいて実行されてもよい。
また、ここでは、用紙搬送力が経時的かつ連続的に変化する例が示されているが、用紙搬送力の変化方法は上記に限らない。
図5は、用紙搬送力の変化方法の別例を示す図である。
図5にも、上段にはニップ圧のグラフが示され、下段には用紙搬送力のグラフが示されており、各グラフの横軸は、用紙P先端の位置を示している。
【0048】
図5に示す例では、用紙搬送力が経時的かつ段階的に変化する。即ち、用紙Pの先端が用紙端検知センサ42の位置S0に達すると、用紙搬送力は、通常搬送力Fnよりも高い高搬送力Fhへと増加され、用紙P先端が突入箇所S1に到達すると、用紙搬送力は、用紙P先端の進行に伴って段階的に通常搬送力Fnへと低下する。用紙搬送力のこのような段階的な変化でも、上述したような画像の伸縮は抑制される。
図6は、用紙搬送力の変化方法の更に別の例を示す図である。
【0049】
用紙搬送力の高搬送力Fhから通常搬送力Fnへの低下は、ニップ変化の終了位置S2よりも前で完了してもよい。
図6に示す例では、ニップ変化の終了位置S2よりも前の位置S3に用紙Pの先端が到達した時点で用紙搬送力は通常搬送力Fnに低下している。この時点ではニップ圧が通常ニップ圧Pnに到達していないが、
図3のグラフに示された画像伸縮量の測定値から分かるように、通常ニップ圧Pnよりもやや低いニップ圧で画像伸縮量がほぼゼロになる。このため、このような、通常ニップ圧Pnよりもやや低いニップ圧に到達していると考えられる位置S3に用紙Pの先端が到達した時点では、通常搬送力Fnでの用紙搬送であっても画像の伸縮は生じないと考えられる。従って、位置S3以降は、過剰な用紙搬送力を避けて通常搬送力Fnによる用紙搬送を行うことが望ましい。
次に、用紙搬送力の具体的な増加方法について説明する。
【0050】
以下の説明では、
図4に示す変化方法に対応した例について用紙搬送力の増加方法を説明するが、この増加方法は、
図5および
図6に示す変化方法にも対応可能である。
図7は、用紙搬送力の具体的な第1の増加方法を示す図である。
【0051】
上述したように、用紙搬送力には用紙搬送器50(レジロール)と転写装置20が寄与している。レジロールによる用紙搬送力は、レジロールの回転速度に依存している。即ち、レジロールの回転速度が速い程、用紙を転写領域Tへと押し込む力が大きく、用紙搬送力が高い。
【0052】
また、転写装置20による用紙搬送力は転写ベルト24および転写ローラ21の回転速度やニップ圧に依存しており、ニップ圧とは独立に用紙搬送力を増減可能な要素は、転写モータ213によって駆動される転写ローラ21の回転速度である。即ち、転写領域Tにおいて用紙Pは、転写バイアスの作用で感光体ドラム10に張り付くように進むが、転写ローラ21の回転速度が速い程、転写ベルト24の移動速度も速く、感光体ドラム10に張り付いた用紙Pを押し進める力も大きいので用紙搬送力は高い。
【0053】
図7の上段には、転写ローラ21の回転速度を示すグラフが示され、下段には、レジロールの回転速度を示すグラフが示されている。各グラフの横軸は、用紙Pの先端の位置を示している。
【0054】
図7に示す例では、用紙Pの先端が転写領域Tへの突入箇所S1に達した時に、転写ローラ21の回転速度は通常時の速度VTnよりも高い高速度VThに増しており、レジロールの回転速度も通常時の速度VRnよりも高い高速度VRhに増している。即ち、
図7に示す例では、用紙搬送器50(レジロール)と転写装置20との協働によって用紙搬送力が増加される。
【0055】
転写装置20による用紙搬送力の増加は、転写領域Tにおける用紙Pに対して直接に作用する搬送力の増加であるので用紙Pの速度が直接に調整される点で好ましい。
【0056】
一方、転写装置20が用紙搬送と画像転写との双方を担っているのに対して、用紙搬送器50(レジロール)は用紙搬送のみを担っているので、用紙搬送器50による用紙搬送力の増加は、作用が画像転写と切り離されている点で好ましい。
図8は、用紙搬送力の具体的な第2の増加方法を示す図である。
【0057】
図8にも、上段には、転写ローラ21の回転速度を示すグラフが示され、下段には、レジロールの回転速度を示すグラフが示されている。各グラフの横軸は、用紙Pの先端の位置を示している。
【0058】
図8に示す例では、用紙Pの先端が転写領域Tへの突入箇所S1に達した時に、転写ローラ21の回転速度は通常時の速度VTnよりも高い高速度VThに増しているのに対し、レジロールの回転速度は、用紙P先端が突入箇所S1からニップ変化の終了位置S2へと移動する間も含め、通常時の速度VRnに維持されている。即ち、
図8に示す例では、転写装置20の単独の増速によって用紙搬送力が増加される。
図9は、用紙搬送力の具体的な第3の増加方法を示す図である。
【0059】
図9にも、上段には、転写ローラ21の回転速度を示すグラフが示され、下段には、レジロールの回転速度を示すグラフが示されている。各グラフの横軸は、用紙Pの先端の位置を示している。
【0060】
図9に示す例では、用紙Pの先端が転写領域Tへの突入箇所S1に達した時に、レジロールの回転速度は通常時の速度VRnよりも高い高速度VRhに増しているのに対し、転写ローラ21の回転速度は、用紙P先端が突入箇所S1からニップ変化の終了位置S2へと移動する間も含め、通常時の速度VTnに維持されている。即ち、
図9に示す例では、用紙搬送器50(レジロール)の単独の増速によって用紙搬送力が増加される。
【0061】
図8,
図9に示すように用紙搬送力の増加は、転写装置20および用紙搬送器50(レジロール)の単独でも実現される。また、用紙P先端が転写領域Tに突入する際以外のニップ圧変化であれば、例えば定着装置30における速度調整による用紙搬送力の調整で画像伸縮が抑制されてもよい。
【0062】
また、上記説明では、直接転写方式のモノクロプリンタが例示されているが、本発明に画像形成装置は、間接転写方式のプリンタであってもよいし、カラープリンタであってもよい。間接転写方式のプリンタである場合には、中間転写ベルトが本発明にいう像保持体の一例に相当する。
【0063】
また、上記説明では、電子写真方式のプリンタが例示されているが、本発明に画像形成装置は、電子写真方式以外の方式でトナー画像を形成するものであってもよいし、コピー機であってもよく、ファクシミリであってもよく、複合機であってもよい。
【0064】
また、本発明は、「発明が解決しようとする課題」欄に記載された課題を解決する目的で発明されたものであるが、本発明の構成は、この課題を解決しない形での他の目的への転用が妨げられるものではなく、そのように本発明の構成が転用された形態も本発明の一実施形態である。
【符号の説明】
【0065】
1……画像形成装置(プリンタ)、10……感光体、11……帯電器、12……露光器、
13……現像器、16……感光体モータ、20……転写装置、21……転写ローラ、
24……転写ベルト、212……軸支持フレーム、213……転写モータ、
214……押しバネ、215……偏芯カム、216……電源、29……制御部、
30……定着装置、42……用紙端検知センサ、50……用紙搬送器(レジロール)