IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】可塑化装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20221122BHJP
   B29C 64/241 20170101ALI20221122BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221122BHJP
   B29C 45/46 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/241
B33Y30/00
B29C45/46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018181458
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020049790
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 翔
(72)【発明者】
【氏名】横田 啓
(72)【発明者】
【氏名】姉川 賢太
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】捧 雄一
(72)【発明者】
【氏名】犬束 充
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079652(JP,A)
【文献】特開2006-035582(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 64/00-64/40
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝の側面は、凸部または凹部を含む凹凸面を有し、
前記凹凸面は、前記ローターの回転軸に沿って形成された前記凹部および前記凸部が、前記回転方向に交互に繰り返される構造を有する、
可塑化装置。
【請求項2】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝の側面は、凸部または凹部を含む凹凸面を有し、
前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、
前記凹凸面の前記凹部または前記凸部の単位面積あたりの個数は、前記溝形成面の中心から前記外周端に近づくにつれて増加する、可塑化装置。
【請求項3】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝の側面は、凸部または凹部を含む凹凸面を有し、
前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、
前記凹凸面の前記凹部または前記凸部の単位面積あたりの個数は、前記溝形成面の外周端から中心に近づくにつれて増加する、可塑化装置。
【請求項4】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝の側面における表面粗さRaが20μm以上である、可塑化装置。
【請求項5】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、
前記溝形成面には、幅がwの前記溝が、前記溝形成面の径方向にn条並んでおり、
前記溝形成面の半径をrとするとき、0.43<n×w/r<1.00が満たされる、可塑化装置。
【請求項6】
駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、
前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、
前記溝の深さは、前記溝形成面の外周端から中心に近づくにつれて小さくなり、
前記溝の前記溝形成面の外周端での深さをDaとし、前記溝形成面の中心での前記溝の深さをDbとするとき、Da/Db>6.82が満たされる、可塑化装置。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の可塑化装置であって、さらに、
前記溝の底面に、凸部または凹部を含む凹凸面を有する、可塑化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可塑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形や射出成形において用いられる材料を、熱を加えて可塑化する可塑化装置が知られている。例えば、特許文献1には、ローターの溝に供給された材料を、ヒーターによる加熱とローターの回転とにより可塑化させる可塑化装置が開示されている。特許文献1の可塑化装置では、材料は、ローターの外周側面において開口している溝の端部から溝内に供給され、ローターの回転によって、溝に沿ってローターの中央部へと誘導される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-241016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなローターを用いて材料を可塑化する可塑化装置では、溝内で材料が円滑に誘導されず、材料が安定して可塑化されない場合があった。本開示の技術は、可塑化装置において、ローターの溝内で材料が円滑に送られるように誘導し、材料の可塑化を安定しておこなえるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の技術の一形態は、駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる可塑化装置であって、前記溝の側面は、凸部または凹部を含む凹凸面を有する、可塑化装置として提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態における可塑化装置を備える三次元造形装置の構成を示す概略図。
図2】三次元造形物が造形されていく様子を模式的に示す概略図。
図3】第1実施形態のフラットスクリューの構成を示す概略斜視図。
図4】スクリュー対面部のスクリュー対向面を示す概略平面図。
図5】第1実施形態のスクロール溝の側面に設けられた凹凸構造を示す概略斜視図。
図6】第2実施形態のスクロール溝の側面に設けられた凹凸構造を示す概略斜視図。
図7】第3実施形態のスクロール溝の側面に設けられた凹凸構造を示す概略斜視図。
図8】第4実施形態の凹凸構造が設けられたスクロール溝の側面の概略展開図。
図9】第5実施形態の凹凸構造が設けられたスクロール溝の側面の概略展開図。
図10】第6実施形態の凹凸構造が設けられたスクロール溝の側面の概略展開図。
図11】第7実施形態の凹凸構造が設けられたスクロール溝の側面の概略展開図。
図12】第8実施形態の凹凸構造が設けられたスクロール溝の側面の概略展開図。
図13】第9実施形態のフラットスクリューの構成を示す概略平面図。
図14A】第10実施形態のフラットスクリューの構成を示す概略平面図。
図14B】第10実施形態の実験結果を示す説明図。
図14C】吐出率を計測するための吐出装置の構成を示す概略図。
図15A】第11実施形態のフラットスクリューの構成を示す概略平面図。
図15B】第11実施形態の実験結果を示す説明図。
図16】第12実施形態における射出成形装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.第1実施形態:
1-1.三次元造形装置の構成:
図1は、第1実施形態における可塑化装置10Aを備える三次元造形装置100の構成を示す概略図である。図1には、互いに直交するX,Y,Z方向を示す3つの矢印が示されている。矢印Xが示すX方向および矢印Yが示すY方向は、水平面に平行であり、矢印Zが示すZ方向は、鉛直方向、つまり重力方向とは反対の方向である。矢印X,Y,Zは、他の参照図においても、図示の方向が図1と対応するように適宜、図示してある。
【0008】
三次元造形装置100は、可塑化装置10Aを備え、可塑化装置10Aが可塑化させた造形材料を堆積させることによって三次元造形物を造形する。「可塑化」とは、熱可塑性を有する物質に熱が加わり溶融することを意味する。以下では、「三次元造形装置」を単に「造形装置」とも呼び、三次元造形物を単に「造形物」とも呼ぶ。
【0009】
可塑化装置10Aは、可塑化される前の材料である材料MRを供給する供給部20と、材料MRを可塑化させて造形材料を生成する生成部30と、を備える。供給部20は、材料MRを貯蔵する材料供給源21と、材料供給源21の材料MRを生成部30に導出する接続管路22と、を備える。
【0010】
材料供給源21は、例えば、材料MRを収容するホッパーによって構成される。材料供給源21は、下方に排出口を有している。当該排出口は、接続管路22を介して、生成部30に接続されている。第1実施形態では、材料MRは、寸法の最大値が2~5mm程度の球形若しくは円柱形状のペレットの形態で材料供給源21に投入される。材料MRの具体例については後述する。他の実施形態では、材料MRはペレット状の形態で生成部30に供給されなくてもよく、例えば、粒状や粉状、ペースト状、液体状の状態で生成部30に供給されてもよい。
【0011】
生成部30は、材料供給源21から供給された材料MRを可塑化させることによって、溶融して流動性を発現したペースト状の造形材料を生成し、吐出部60へと導く。生成部30は、ケース31と、駆動モーター38と、フラットスクリュー40Aと、対面部50と、を有する。
【0012】
ケース31は、Z方向とは反対の方向に開口する凹部空間を有しており、フラットスクリュー40Aを収容する。以下では、ケース31は、フラットスクリュー40Aの外周側面41と上面47とを覆う。駆動モーター38は、ケース31の上方に配置されている。駆動モーター38は、ケース31の天面部に設けられた貫通孔を通じてフラットスクリュー40Aの上面47側に連結されている。駆動モーター38は、制御部101の制御下において駆動して、フラットスクリュー40Aをケース31内で回転させる。
【0013】
フラットスクリュー40Aは、ローターの一種であり、回転により材料MRを溝内で混練しながら可塑化して送り出す。「混練」とは、材料を混ぜながら練り合わせることを意味する。フラットスクリュー40Aは、高さ、つまり、その中心軸に沿った方向である軸線方向における寸法が、直径よりも小さい略円柱状を有する。第1実施形態では、フラットスクリュー40Aは、その軸線方向がZ方向に平行になるように配置される。フラットスクリュー40Aの中心軸は、その回転軸RXと一致する。図1には、フラットスクリュー40Aの回転軸RXを一点鎖線で図示してある。
【0014】
フラットスクリュー40Aの下面48には、溝42が形成されている。以下では、フラットスクリュー40Aの下面48を「溝形成面48」とも呼ぶ。後に参照する図3において図示されているように、溝42は、溝形成面48において、フラットスクリュー40Aの回転方向に沿った曲線を描くように形成されている。第1実施形態では、溝42は、外周端部である外周側面41から回転軸RXが通る中央部46に向かって渦巻き状に形成されたスクロール溝として構成されている。以下、溝42を「スクロール溝42」とも呼ぶ。スクロール溝42は、中央部46の周りを螺旋状に延びるように構成されているとしてもよい。
【0015】
フラットスクリュー40Aの溝形成面48は、対面部50の上面、つまり、Z方向側の面、である対向面52に面している。以下では、対面部50を「スクリュー対面部50」とも呼び、対向面52を「スクリュー対向面52」とも呼ぶ。フラットスクリュー40Aのスクロール溝42および中央部46とスクリュー対面部50のスクリュー対向面52との間には空間が形成される。材料MRは、供給部20の接続管路22から、フラットスクリュー40Aの外周側面41において開口しているスクロール溝42の開口端部44を通じて、フラットスクリュー40Aとスクリュー対面部50との間のスクロール溝42内の空間へと導入される。以下では、スクロール溝42の開口端部44を「材料導入部44」とも呼ぶ。フラットスクリュー40Aおよびそのスクロール溝42の具体的な構成については後述する。
【0016】
スクリュー対面部50は、「バレル」とも呼ばれる。スクリュー対面部50には、スクリュー対向面52の下方に、回転しているフラットスクリュー40Aのスクロール溝42内に供給された材料MRを加熱するヒーター58が埋め込まれている。スクリュー対向面52の中心には、フラットスクリュー40Aの中央部46と吐出部60とを接続する連通孔56が設けられている。スクロール溝42内に供給された材料MRは、ヒーター58の熱を受けて溶融されながら、スクロール溝42内において混練され、スクロール溝42に沿って流動し、造形材料としてフラットスクリュー40Aの中央部46へと導かれる。中央部46に流入した可塑化された造形材料は、スクリュー対向面52の中心の連通孔56を通じて吐出部60へと流出する。
【0017】
このように、生成部30における材料MRの可塑化は、ヒーター58による加熱と、フラットスクリュー40Aの回転と、によって実現される。なお、造形材料では、材料MRに含まれる全ての種類の物質が可塑化して溶融していなくてもよい。造形材料は、造形材料を構成する物質のうちの少なくとも一部の種類の物質が溶融することによって、全体として流動性を有する状態に転化されていればよい。
【0018】
造形装置100は、可塑化装置10Aに加えて、さらに、造形装置100を制御する制御部101と、可塑化装置10Aで生成された造形材料を吐出する吐出部60と、造形物の基台となる造形用のテーブル110と、造形材料の吐出位置を制御する移動機構130と、を備える。
【0019】
制御部101は、可塑化装置10Aと吐出部60と移動機構130とを制御して、造形物を造形する造形処理を実行する。第1実施形態では、制御部101は、少なくとも1つのプロセッサーと、主記憶装置と、を備えるコンピューターによって構成される。制御部101は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、種々の機能を発揮する。なお、制御部101の機能の少なくとも一部は、ハードウェア回路により実現されてもよい。
【0020】
吐出部60は、制御部101の制御下において、可塑化装置10Aから供給された造形材料をテーブル110上の目標位置に吐出する。吐出部60は、造形材料を吐出するノズル61と、造形材料をノズル61に導く流路65と、を備える。
【0021】
ノズル61は、流路65を通じて、可塑化装置10Aのスクリュー対面部50の連通孔56に接続されている。流路65には造形材料の流量を制御するための弁機構や負圧発生機構等が設けられていてもよい。生成部30において生成された造形材料は、ノズル61の先端に設けられた吐出口62からテーブル110に向かって吐出される。
【0022】
テーブル110は、ノズル61の吐出口62に対向する位置に配置されている。第1実施形態では、ノズル61の吐出口62に対向するテーブル110の面111は、水平に、つまり、X方向およびY方向に平行に、配置される。造形装置100は、造形データに従って予め決められたテーブル110の面111上の目標位置に造形材料を堆積させる処理を繰り返すことによって造形物を造形する。
【0023】
移動機構130は、テーブル110とノズル61との相対的な位置関係を変化させる。第1実施形態では、ノズル61の位置が固定されており、移動機構130は、テーブル110を移動させる。移動機構130は、3つのモーターMの駆動力によって、テーブル110をX,Y,Z方向に平行な3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。移動機構130は、制御部101の制御下において、ノズル61とテーブル110との相対的な位置関係を変更する。
【0024】
他の実施形態では、移動機構130によってテーブル110を移動させる構成の代わりに、テーブル110の位置が固定された状態で、移動機構130がテーブル110に対してノズル61を移動させる構成が採用されてもよい。こうした構成であっても、テーブル110に対するノズル61の相対的な位置を変化させることができる。また、他の実施形態では、移動機構130が、テーブル110とノズル61とをそれぞれ移動させ、両者の相対的な位置を変化させる構成が採用されてもよい。
【0025】
1-2.三次元造形装置における造形処理:
図2は、造形装置100において造形物が造形されていく様子を模式的に示す概略図である。制御部101は、テーブル110の面111に沿った方向に、テーブル110に対するノズル61の位置を変えながら、ノズル61から造形材料MMを吐出させて造形材料MMを堆積させる走査を繰り返して材料層MLを形成する。制御部101は、材料層MLをZ方向に積み重ねることによって造形物を造形していく。
【0026】
材料層MLを形成する際には、ノズル61の先端の吐出口62と、造形材料MMが堆積される予定部位MLtとの間には、ノズル61の孔径Dnより大きいギャップGが形成される。これにより、ノズル61の吐出口62から吐出される造形材料MMが、予定部位MLtに押しつけられない状態で堆積され、ノズル61から吐出された造形材料MMの横断面形状が潰れてしまうことが抑制されるため、造形物の面粗さを低減できる。また、ノズル61の周囲にヒーターが設けられている構成では、ギャップGを形成することにより、当該ヒーターによる造形材料MMの過熱を防止でき、そうした過熱による堆積後の造形材料MMの変色や劣化を抑制できる。
【0027】
1-3.フラットスクリューおよびスクリュー対面部:
図3は、第1実施形態におけるフラットスクリュー40Aの溝形成面48側の構成を示す概略斜視図である。図3には、生成部30でのフラットスクリュー40Aの回転軸RXの位置が一点鎖線で図示されている。回転軸RXはフラットスクリュー40Aの中心を通る。
【0028】
溝形成面48には、図1でも説明したように、フラットスクリュー40Aの外周端から中央部46に至るスクロール溝42が形成されている。溝形成面48には、スクロール溝42を幅方向に挟む側壁部を構成する凸条部43が設けられている。中央部46は、溝形成面48の中心に位置し、凸条部43に囲まれた凹部として構成されている。中央部46は、スクロール溝42の端部として解釈することもできる。
【0029】
第1実施形態のフラットスクリュー40Aは、2条のスクロール溝42と、2条の凸条部43と、を有する。なお、他の実施形態では、スクロール溝42や凸条部43の数は、2条には限定されない。スクロール溝42は、1条のみ設けられていてもよいし、3条以上の任意の数が設けられていてもよい。また、スクロール溝42の数に合わせて任意の数の凸条部43が設けられてもよい。
【0030】
第1実施形態のフラットスクリュー40Aは、外周端に2つの材料導入部44を有している。他の実施形態では、材料導入部44は2つに限定されない。材料導入部44は1つのみ設けられていてもよいし、3つ以上の任意の個数設けられていてもよい。
【0031】
第1実施形態では、スクロール溝42の深さは、材料導入部44から中央部46に近づくにつれて小さくなる。スクロール溝42の幅は、材料導入部44の付近の入口部分において中央部46に近づくほど小さくなり、その後、中央部46までほぼ一定に保たれている。そのため、スクロール溝42の流路断面積は、材料導入部44から中央部46に向かうにつれて小さくなっている。これにより、材料MRを可塑化する際に、中央部46内の圧力がより高められる。また、材料MRを可塑化する際に、材料MRの空隙に存在する空気が、スクロール溝42内に生じる圧力によって材料導入部44側へと押し出されるため、造形材料の脱気が促進される。
【0032】
凸条部43の側壁面は、スクロール溝42の側面42sを構成している。スクロール溝42の側面42sには凹凸構造70Aが形成されている。第1実施形態では、凹凸構造70Aは、複数の凹部71を含む凹凸面として構成されている。凹部71は、スクロール溝42の開口端部44から中央部46に向かって連続した曲面を構成する基準面である側面42sに対して局所的に窪んでいる部位である。第1実施形態では、スクロール溝42における両側の側面42sのそれぞれに凹凸構造70Aが形成されている。可塑化装置10Aでは、スクロール溝42の側面42sに凹凸構造70Aが形成されていることによって、スクロール溝42による材料の誘導が円滑化されている。凹凸構造70Aの詳細は後述する。
【0033】
図4は、スクリュー対面部50のスクリュー対向面52を示す概略平面図である。スクリュー対向面52の中心には、造形材料をノズル61に供給するための上述した連通孔56が開口している。また、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。複数の案内溝54は、フラットスクリュー40Aの中央部46に面する領域に設けられており、スクロール溝42に誘導されて中央部46に流入した造形材料を、連通孔56へと導く機能を有する。
【0034】
図1および図3を参照する。フラットスクリュー40Aが回転すると、材料導入部44から供給された材料MRが、スクロール溝42に誘導されて、図1に示すヒーター58によって加熱されながら中央部46に向かって移動する。材料MRは、中央部46に近づくほど、溶融し、流動性が高まっていき、造形材料へと転化する。中央部46に集められた造形材料は、中央部46で生じる内圧により、連通孔56を通じてノズル61の流路65へと導かれ、吐出口62から吐出される。
【0035】
可塑化装置10Aは、Z方向において小型なサイズを有するフラットスクリュー40Aの採用によって、材料MRを可塑化してノズル61まで導くための経路が占める範囲がZ方向において小さくなっており、小型化されている。また、造形装置100では、可塑化装置10Aのフラットスクリュー40Aによって造形材料をノズル61へと圧送する構成が簡易に実現されている。この構成によれば、ノズル61からの造形材料の吐出量の制御がフラットスクリュー40Aの回転数の制御によって可能であり、ノズル61からの造形材料の吐出量の制御が容易化されている。
【0036】
1-4.スクロール溝の側面の凹凸面:
図3および図5を参照して、スクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Aについて説明する。図5は、フラットスクリュー40Aのスクロール溝42の一部の構成を模式的に断面視した概略斜視図である。
【0037】
第1実施形態では、各凹部71は、上述した基準面に含まれる周縁の平坦面に対して窪み、スクロール溝42に向かって開口する半球状の窪み部として形成されている。第1実施形態では、各凹部71の開口の寸法は、当該凹部71が形成されている部位での凸条部43の高さ、つまり、スクロール溝42の深さの5%~20%程度で形成される。各凹部71の開口半径は、1mm以下としてもよい。この場合には、各凹部71の開口面積は、πmm以下である。各凹部71のサイズは均一でなくてもよい。第1実施形態では、図3に示すように、複数の凹部71が、フラットスクリュー40Aの外周端から中央部46にわたって配列されている。また、図3および図5に示すように、スクロール溝42の側面42sには、複数の凹部71がZ方向に沿って配列されている。
【0038】
凹凸構造70Aが形成されていることによって、スクロール溝42の側面42sと、スクロール溝42内に供給された材料MRとの間の抵抗が増大する。そのため、フラットスクリュー40Aの回転力をスクロール溝42内の材料MRに伝達させやすくなり、スクロール溝42内において、材料MRが、フラットスクリュー40Aの回転に、より一層、追従するようになる。よって、スクロール溝42の途中で材料MRが溶融して、その流動性が高まり、ほとんど液状になったとしても、材料MRをフラットスクリュー40Aの中央部46へと円滑に導くことができる。また、凹凸構造70Aにより、スクロール溝42内で材料MRが撹拌されるため、生成される造形材料の混練度が高められる。「材料の混練度が高められる」とは、材料がより均一な状態になるように混練されることを意味する。造形材料の混練度が高まれば、造形物の造形精度や強度を高めることができる。
【0039】
上述したように、第1実施形態では、材料MRは、ペレットの状態で投入される。材料MRがペレット状である場合、スクロール溝42内において材料MRがペレット状の形状が保持されている区間に設けられている凹部71の寸法は、そのペレット状の材料MRの一部が嵌まる程度の寸法であることが望ましい。凹部71の開口半径は、ペレット状の材料MRのあらゆる方向における幅より小さいことが望ましい。凹部71の空間体積は、ペレット状の材料MRの体積より小さいことが望ましい。このようにすれば、ペレット状の材料MRは、図5に示されているように、一部分が凹部71に嵌まり込みやすくなる。そのため、材料MRを、フラットスクリュー40Aの回転に、より一層追従させやすくなり、スクロール溝42の側面42付近においてペレット状の材料MRが滞留することが抑制される。また、フラットスクリュー40Aの材料導入部44の周縁に、そうした寸法の凹部71が設けられていることによって、ペレット状の材料MRが当該凹部71に引っ掛かってスクロール溝42内へと引き込まれやすくなる。そのため、スクロール溝42への材料MRの流入が円滑化される。
【0040】
1-5.可塑化装置に投入される材料例:
可塑化装置10Aに投入される材料例について説明する。第1実施形態では、可塑化装置10Aには、造形装置100が造形する造形物の主材料が材料MRとして投入される。ここで、「主材料」とは、造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。第1実施形態の造形装置100では、造形物は、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として造形される。可塑化装置10Aにおいて生成される造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0041】
造形物の主材料として用いられる熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記の熱可塑性樹脂材料を採用することができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPU)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチック。
【0042】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。なお、熱可塑性を有する材料の溶融によって生成された造形材料は、ノズル61から吐出された後、温度の低下によって硬化する。熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から射出されることが望ましい。例えば、ABS樹脂は、ガラス転移点が約120℃であり、ノズル61からの吐出時には約200℃であることが望ましい。このように高温の状態で造形材料を吐出するために、ノズル61の周囲にはヒーターが設けられてもよい。
【0043】
造形物の主材料としては、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に可塑化して溶融する成分が混合されて、材料MRとして生成部30に供給されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくは、これらの金属を1つ以上含む合金。
<前記合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス鋼、コバルトクロムモリブデン鋼、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金。
【0044】
造形物の主材料としては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を用いることも可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、テーブル110に配置された造形材料は焼結によって硬化されてもよい。
【0045】
材料供給源21に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、生成部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0046】
材料供給源21に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、テトラアルキルアンモニウムアセテート類、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤、ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤、テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等)、ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等。
【0047】
その他に、材料供給源21に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0048】
1-6.第1実施形態のまとめ:
以上のように、第1実施形態の可塑化装置10Aによれば、スクロール溝42の側面42sに設けられた凹凸構造70Aによって、スクロール溝42内での材料MRの誘導が円滑化されるため、材料MRの可塑化を安定しておこなうことができる。そのため、生成部30での吐出部60への造形材料の供給が安定化し、吐出部60からの造形材料の吐出が安定化され、造形装置100による造形物の造形精度が高められる。その他に、第1実施形態の可塑化装置10Aおよびそれを備える造形装置100によれば、第1実施形態中で説明した種々の作用効果を奏することができる。
【0049】
2.スクロール溝内に凹凸構造を設ける種々の実施形態:
以下では、第1実施形態の可塑化装置10Aのスクロール溝42における凹凸構造70Aの構成を改変した構成例を、第2実施形態~第8実施形態として説明し、スクロール溝42の底面に凹凸構造を追加する構成例を第9実施形態として説明する。以下の各実施形態における可塑化装置10B~10Iの構成は、特段の説明を設けていない構成については、第1実施形態の可塑化装置10Aの構成と同じであり、第1実施形態で説明した造形装置100に搭載される。以下の各実施形態では、第1実施形態と共通する構成部には、第1実施形態と共通する符号を付して説明する。以下の各実施形態の構成においても、第1実施形態と共通する構成を有していることによって、第1実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0050】
2-1.第2実施形態:
図6は、第2実施形態の可塑化装置10Bが備えるフラットスクリュー40Bのスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Bを構成する凹部72を示す概略斜視図である。凹部72は、四角錘状の窪み部として構成されている点が、第1実施形態の凹部71と異なっている。第2実施形態では、凹部72の開口は四角形状を有している。より具体的には、凹部72の開口は正方形状を有している。凹部72の開口における一辺の寸法は例えば、1mm以下としてよい。この場合には、凹部72の開口面積は、1mm以下である。第2実施形態の凹凸構造70Bであっても、第1実施形態の凹凸構造70Aと同様に、スクロール溝42による材料MRの誘導を円滑化することができる。
【0051】
2-2.第3実施形態:
図7は、第3実施形態の可塑化装置10Cが備えるフラットスクリュー40Cのスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Cを構成する凸部73を示す概略斜視図である。第3実施形態では、フラットスクリュー40Cにおけるスクロール溝42の側面42sに、複数の凸部73を含む凹凸面として構成された凹凸構造70Cが設けられている。第3実施形態の凹凸構造70Cの構成は、第1実施形態で説明した凹部71が凸部73に置き換えられている点以外は、第1実施形態で説明したのとほぼ同じである。凹凸構造70Cを構成する各凸部73は、スクロール溝42の開口端部44から中央部46に向かって連続した曲面を構成する基準面である側面42sに対して局所的に突起している部位である。第1実施形態では、凸部73は、周縁の平坦面である側面42sから突起した半球状の突起部として構成されている。こうした凸部73であっても、スクロール溝42の側面42sと、スクロール溝42内に供給された材料MRとの間の抵抗を増大させることができる。よって、材料MRをフラットスクリュー40Cの中央部46へと円滑に導くことができ、スクロール溝42内における材料MRの滞留が抑制される。また、凸部73によって、スクロール溝42内の材料MRが撹拌されるため、生成される造形材料の混練度が高められる。さらに、フラットスクリュー40Cの材料導入部44の周縁に凸部73が設けられていることによって、材料MRが当該凸部73に引っ掛かってスクロール溝41内へと引き込まれやすくなる。そのため、スクロール溝42への材料MRの流入が円滑化される。その他に、スクロール溝42の側面42sの凸部73によって、材料MRのペレットや粒状の原材料が凝集したかたまりが粉砕されるため、より一層、安定した材料MRの可塑化が実現される。
【0052】
2-3.第4実施形態:
図8は、第4実施形態の可塑化装置10Dが備えるフラットスクリュー40Dのスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Dを構成する凸部74を示す概略斜視図である。凸部74は、周縁の平坦面から突起する四角錘状の突起部として構成されている点が、第3実施形態の凸部73と異なっている。第4実施形態の凸部74の基端部は、四角形状の外周形状を有している。より具体的には、第4実施形態の凸部74の基端部は、正方形状の外周形状を有している。凸部74の基端部の外周における一辺の寸法は、例えば、1mm以下としてよい。第4実施形態の凹凸構造70Dであっても、第3実施形態の凹凸構造70Cと同様に、スクロール溝42による材料MRの誘導を円滑化することができる。また、凸部74の尖った先端部によって、材料MRのペレットや粒状の原材料が凝集したかたまりをより細かく粉砕することができる。
【0053】
2-4.第5実施形態:
図9は、第5実施形態の可塑化装置10Eが備えるフラットスクリュー40Eのスクロール溝42が有する側面42sのうちの任意のひとつを展開して示す概略図である。図9には、矢印Zとともに、スクロール溝42の材料導入部44側から中央部46側に向かう方向を示す矢印RDが図示されている。以下では、この矢印RDによって示されている方向を、スクロール溝42における「流路方向RD」とも呼び、流路方向RDにおける材料導入部44側を「上流側」と呼び、中央部46側を「下流側」と呼ぶ。
【0054】
第5実施形態においてスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Eの構成は、複数の凹部71の分布が、第1実施形態と異なっている点以外は、第1実施形態で説明した凹凸構造70Aの構成とほぼ同じである。第5実施形態の凹凸構造70Eでは、複数の凹部71は、中央部46から材料導入部44に近づくにつれて、つまり、流路方向RDにおいて下流側から上流側にいくにしたがって密に分布するように構成されている。第5実施形態の凹凸構造70Eでは、中央部46側から材料導入部44側に近づくにつれて、単位面積あたりに含まれる凹部71の個数が増大する。第5実施形態の凹凸構造70Eでは、中央部46側から材料導入部44側に近づくにつれて、隣り合う凹部71同士の間隔が小さくなっていると言い換えてもよい。
【0055】
第5実施形態の凹凸構造70Eを有するフラットスクリュー40Eであれば、材料導入部44に近い領域ほど凹部71が密集しているため、スクロール溝42へと材料MRをより一層、引き込みやすくなり、スクロール溝42への材料MRの流入がより一層円滑化される。また、中央部46に近い領域ほど凹部71の数が減少し、スクロール溝42内の空間容積が減少するため、中央部46に近づくほどスクロール溝42内の圧力を高めることができ、連通孔56からの造形材料の吐出を良好におこなえる。
【0056】
なお、他の実施形態では、凹部71は、第2実施形態で説明した凹部72に置き換えられてもよい。また、凹部71は、第3実施形態や第4実施形態で説明した凸部73,74に置き換えられてもよい。凹部71が凸部73,74に置き換えられた場合でも、材料導入部44からスクロール溝42内への材料MRの流入を円滑化することができる。また、凹部71が凸部73,74に置き換えられた場合には、中央部46に近い領域ほど凸部73,74の数が減少し、スクロール溝42における流路抵抗が減少するため、中央部46に近づくほどスクロール溝42内の圧力を高めることができる。
【0057】
2-5.第6実施形態:
図10は、第6実施形態の可塑化装置10Fが備えるフラットスクリュー40Fのスクロール溝42が有する側面42sのうちの任意のひとつを展開して示す概略図である。図10には、図9と同様に、矢印Zとともに矢印RDが図示されている。第6実施形態においてスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Fの構成は、複数の凹部71の分布が、第1実施形態と異なっている点以外は、第1実施形態で説明した凹凸構造70Aの構成とほぼ同じである。
【0058】
第6実施形態の凹凸構造70Fでは、複数の凹部71は、材料導入部44から中央部46に近づくにつれて、つまり、流路方向RDにおいて上流側から下流側にいくにしたがって、密に分布するように構成されている。第6実施形態の凹凸構造70Fでは、材料導入部44側から中央部46側に近づくにつれて、単位面積あたりに含まれる凹部71の個数が増大する。第6実施形態の凹凸構造70Fでは、材料導入部44側から中央部46側に近づくにつれて、隣り合う凹部71同士の間隔が小さくなっていると言い換えてもよい。
【0059】
第6実施形態の凹凸構造70Fを有するフラットスクリュー40Fであれば、凹部71が中央部46に近い領域ほど密集しているため、可塑化の進行により、スクロール溝42の下流側で流動性が高まっている材料MRを、中央部46へと円滑に導くことができる。なお、他の実施形態では、凹部71は、第2実施形態で説明した凹部72や、第3実施形態や第4実施形態で説明した凸部73,74に置き換えられてもよい。こうした場合でも、第6実施形態で説明したのと同様な作用効果を奏することができる。
【0060】
2-6.第7実施形態:
図11は、第7実施形態の可塑化装置10Gが備えるフラットスクリュー40Gのスクロール溝42が有する側面42sのうちの任意のひとつを展開して示す概略図である。図11には、図10と同様に、矢印Zとともに矢印RDが図示されている。第7実施形態においてはスクロール溝42の側面42sに設けられている凹凸構造70Gは、Z方向に沿った線状の凹部77aと凸部77bとが、流路方向RDに交互に繰り返されている凹凸面によって構成されている。
【0061】
第7実施形態では、各凹部77aの流路方向RDにおける幅は均一であり、各凸部77bの流路方向RDにおける幅は均一である。各凹部77aおよび各凸部77bの流路方向RDにおける幅は、例えば、1mm以下としてもよい。第7実施形態では、凹凸構造70Gは、流路方向RDにおいて側面42sの全体にわたって形成されている。凹凸構造70Gは、例えば、側面42sに対するマシニング加工や放電加工によって形成することができる。このような凹凸構造70Gであっても、スクロール溝42による材料MRの誘導を円滑化される。
【0062】
他の実施形態では、凹凸構造70Gは、材料導入部44から中央部46に近づくにつれて密になるように、材料導入部44から中央部46に近づくにつれて凹部77aまたは凸部77bが配列されているピッチが狭くなるように構成されていてもよい。あるいは、凹凸構造70Gは、中央部46から材料導入部44に近づくにつれて密になるように、中央部46から材料導入部44に近づくにつれて凹部77aまたは凸部77bが配列されているピッチが狭くなるように構成されていてもよい。また、他の実施形態では、凹凸構造70Gは、側面42sの一部の領域にのみ設けられていてもよい。
【0063】
2-7.第8実施形態:
図12は、第8実施形態の可塑化装置10Hが備えるフラットスクリュー40Hのスクロール溝42が有する側面42sのうちの任意のひとつを展開して示す概略図である。図12には、図11と同様に、矢印Zとともに矢印RDが図示されている。
【0064】
上記の各実施形態では、スクロール溝42の側面42sが有する凹凸構造70A~70Gは、複数の凹状または凸状の構造物を造形することによって形成されている。これに対して、第8実施形態では、スクロール溝42の側面42sが有する凹凸構造は、表面加工処理によって側面42sの表面性状を調整することによって形成された微細な表面構造78によって構成される。図12では、表面構造78は、ハッチングにより模式的に表されている。
【0065】
第8実施形態では、スクロール溝42の側面42sは、表面粗さRaが20μm、かつ、高さ粗さRzが60μmの表面構造78によって構成されている。表面構造78は、例えば、アーク放電を利用した一般的なアーク放電によって形成することができる。また、表面構造78は、ブラスト処理によって形成することもできる。可塑化途中の材料MRに含まれる固体状の部分が、表面構造78を有する側面42sに引っかかりやすくなるため、スクロール溝42によって、材料MRを円滑に誘導することが可能になり、スクロール溝42に材料MRが滞留することが抑制される。
【0066】
なお、本明細書において、表面粗さRaとは、JIS規格(JIS B 0601:2013)に準拠した算術平均粗さを表し、高さ粗さRzとは、同JIS規格に準拠した最大高さ粗さを表す。表面構造78の粗度は、表面粗さRaおよび高さ粗さRzには限定されず、二乗平均平方根粗さRq、粗さ曲線の最大谷深さRv、粗さ曲線の最大山高さRpなどのJIS規格(JIS B 0601:2013)に準拠した種々のパラメーターによって規定することができる。また、他の実施形態では、表面構造78の表面粗さRaは20μmに限定されず、高さ粗さRzは60μmに限定されない。表面粗さRaは20μm以上に調整されてもよいし、高さ粗さRzは60μm以上に調整されてもよい。あるいは、表面粗さRaが20μm以上に調整され、高さ粗さRzが60μm未満に調整されてもよい。表面粗さRaが20μm以上であれば、可塑化して流動性が高くなっている材料MRをフラットスクリュー40Hの回転により追従させやすくすることができる。他の実施形態では、表面構造78の表面粗さは、中央部46から材料導入部44に近づくにつれて凹凸が密になるように調整されていてもよいし、逆に、材料導入部44から中央部46に近づくにつれて凹凸が密になるように調整されていてもよい。また、表面構造78は、側面42sの一部の領域にのみ設けられてもよい。
【0067】
2-8.第9実施形態:
図13は、第9実施形態における可塑化装置10Iが備えるフラットスクリュー40Iの下面48側を示す概略平面図である。第9実施形態の可塑化装置10Iの構成は、フラットスクリュー40Iのスクロール溝42の底面45に凹凸構造70Aが追加されている点以外は、第1実施形態のフラットスクリュー40Aとほぼ同じである。底面45の凹凸構造70Aは、材料導入部44から中央部46まで連続している基準面である底面42より窪んでいる凹部71を含む凹凸面によって構成されている。第9実施形態の可塑化装置10Iによれば、スクロール溝42内の側面42sに加えて、底面45にも凹凸構造70Aが設けられているため、スクロール溝42による材料MRの誘導が、さらに円滑化される。なお、他の実施形態では、スクロール溝42の底面45に、第1実施形態と同様な凹凸構造70Aの代わりに、他の凹凸構造が設けられてもよい。スクロール溝42の底面45には、例えば、第1実施形態以外の上記の各実施形態において説明した凹凸構造70B~70Iが設けられてもよい。また、スクロール溝42の底面45は、第8実施形態で説明したような表面構造78を有していてもよい。また、他の実施形態では、スクロール溝42の側面42sには、第1実施形態の凹凸構造70Aの代わりに、第1実施形態以外の上記の各実施形態において説明した凹凸構造70B~70Iが設けられてもよい。あるいは、スクロール溝42の側面42sは、第8実施形態で説明した表面構造78を有していてもよい。
【0068】
3.スクロール溝の寸法の変更を利用する種々の実施形態:
以下では、上記の各実施形態で説明したようなスクロール溝42の側面42sに形成された凹凸構造ではなく、スクロール溝42の寸法の変更によって、スクロール溝42における材料MRの誘導および可塑化を円滑化する実施形態を説明する。以下の第10実施形態および第11実施形態における可塑化装置10J,10Kの構成は、スクロール溝42の側面42sに凹凸構造70Aが設けられていない点以外は、第1実施形態の可塑化装置10Aの構成と同じである。第10実施形態および第11実施形態の可塑化装置10J,10Kは、第1実施形態で説明した造形装置100に搭載される。以下の各実施形態では、第1実施形態と共通する構成部には、第1実施形態と共通する符号を付して説明する。以下の各実施形態の構成においても、第1実施形態と共通する構成を有していることによって、第1実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0069】
3-1.第10実施形態:
図14Aは、第10実施形態の可塑化装置10Jが備えるフラットスクリュー40Jの溝形成面48を示す概略平面図である。フラットスクリュー40Jは、第1実施形態で説明したのと同様に、2条のスクロール溝42を備えている。また、スクロール溝42の幅は、材料導入部44の付近の入口部分では、中央部46に近づくほど小さくなり、その入口部分より中央部46側では、中央部46に至まで、ほぼ一定に保たれている。
【0070】
ここで、フラットスクリュー40Jは、幅wのスクロール溝がn条、その径方向に並んでいる部位を有している。なお、ここでのスクロール溝42の条数nは、同じスクロール溝42であっても周回して並列に並んでいる場合にも加算される。フラットスクリュー40Jでは、幅wのスクロール溝42がn条並んでいる部位において、下記の不等式(1)の関係が満たされている。
0.43<n×w/r<1.00 ・・・(1)
【0071】
可塑化装置10Jでは、スクロール溝42がn条並んでいる部位において、スクロール溝の幅wが、上記の不等式(1)を満たす値に調整されていれば、以下の実験結果に示されるように、スクロール溝42内での材料MRの誘導および可塑化が円滑化される。
【0072】
図14Bは、スクロール溝の幅wが異なるフラットスクリューのサンプルS1~S3を用いた吐出装置150において造形材料の吐出率を計測した実験結果を示す説明図である。図14Cは、実験に用いられた吐出装置150の構成を示す概略図である。実験で計測した造形材料の吐出率を、吐出装置150の構成を説明した後に説明する。
【0073】
吐出装置150は、供給部20と、生成部30と、吐出部60と、吐出量調整部151と、を備える。供給部20は、第1実施形態で説明したのとほぼ同じ構成を有する。生成部30は、実験対象であるフラットスクリューのサンプルFSが搭載されている点以外は、第1実施形態で説明したのとほぼ同じ構成を有する。サンプルFSは、図14Aに図示されたようなスクロール溝の構成を有する。吐出部60は、吐出量調整部151が接続されている点以外は、第1実施形態で説明したのとほぼ同じ構成を有する。
【0074】
吐出量調整部151は、吐出部60の吐出口62から吐出される造形材料の量を調整するための機構である。吐出量調整部151は、吐出部60の流路65に接続されているシリンダー152と、シリンダー152内を往復移動するプランジャー153と、プランジャー153を駆動するプランジャー駆動部154と、を備える。
【0075】
吐出装置150では、所定の回転数でフラットスクリューのサンプルFSを回転させ、供給部20からの材料MRの供給を開始した後の所定のタイミングで、目標吐出量に応じた移動距離だけ、プランジャー153を所定の速度で流路65から離れる方向に瞬発的に移動させる。このプランジャー153の移動によって、流路65に負圧が発生し、シリンダー153内に造形材料が流入する。その後、プランジャー153を流路65に向かって押し戻すことによって、シリンダー153内に引き込まれた造形材料がノズル61の吐出口62から吐出される。
【0076】
「造形材料の吐出率」は、予め設定された目標吐出量に対して、ノズル61から実際に吐出された造形材料の吐出量の百分率である。フラットスクリューのスクロール溝での材料MRの誘導および可塑化が円滑におこなわれていないと、プランジャー153の移動によってシリンダー152に引き込まれる造形材料の量が低下する。そのため、プランジャー153によってシリンダー152から押し出され、吐出口62から吐出される造形材料の量が低減する。逆に、フラットスクリューのスクロール溝での材料の誘導および可塑化が円滑におこなわれるほど、プランジャー153の移動によってシリンダー152に引き込まれる造形材料の量が増加し、吐出口62から吐出される造形材料の量が増加する。つまり、フラットスクリューのスクロール溝での材料の誘導および可塑化が円滑におこなわれているほど、造形材料の吐出率が高くなる。
【0077】
ここで、実験では、サンプルFSとして、以下のサンプルS1~S3を用いた。各サンプルS1~S3のフラットスクリューの半径は、40.0mmである。また、各サンプルS1~S3では、幅が等しい2条のスクロール溝がフラットスクリューの径方向に並んでいる部位において、各スクロール溝の幅wが、8.6mm、9.6mm、7.6mmに調整されている。サンプルS1のスクロール溝の幅wに対して、サンプルS2のスクロール溝の幅wは1mm大きく、サンプルS3のスクロール溝の幅wは1mm小さい。
【0078】
この実験では、硬い材料の例としてペレット状のPPを用いた場合と、弾性率が高い材料の例としてペレット状のTPUを用いた場合と、についてそれぞれ、20回ずつ造形材料の吐出率を計測した。図14Bには、その計測結果の平均値を、「平均吐出率(%)」として示してある。平均吐出率は、その値が高いほど、スクロール溝において材料が円滑に送られ、材料の可塑化が円滑におこなわれたことを示す。
【0079】
図14Bに示されているように、n×w/rの値が0.48であり、上記の不等式(1)を満たしているサンプルS2では、材料としてPPを用いた場合には、平均吐出率が83%を越え、材料としてTPUを用いた場合には、平均吐出率が70%を越えた。これに対して、n×w/rの値が0.43であるサンプルS1では、材料としてPPを用いた場合には平均吐出率が80%を越えたものの、材料としてTPUを用いた場合には平均吐出率がサンプルS3よりも低い56%であった。また、n×w/rの値が0.38であるサンプルS3は、PPとTPUのいずれを用いた場合でも平均吐出率が70%よりも低い値となった。
【0080】
このように、n×w/rの値が0.43よりも大きいサンプルS2では、硬いペレット状の材料を用いた場合でも、弾性率が高いペレット状の材料を用いた場合でも、高い材料吐出率が計測された。また、n×w/rの値が0.43よりも大きいサンプルS2では、弾性率が高いペレット状の材料について、n×w/rの値が0.43のサンプルS1よりも、平均吐出率が20%以上向上しており、一段と高い効果が得られることが示された。この結果から、幅wのスクロール溝がフラットスクリューの径方向にn条並んでいる部位において、n×w/rの値が0.43より大きくなるように、フラットスクリューの半径に対してスクロール溝の幅をできるだけ大きくとれば、スクロール溝内での材料の誘導および可塑化を円滑化できることがわかる。
【0081】
以上のように、第10実施形態の可塑化装置10Jでは、フラットスクリュー40Jは、上記の不等式(1)を満たすように、スクロール溝42の幅wが調整された部位を有している。そのため、図14Bの実験結果に示されるように、スクロール溝42での材料MRの誘導および可塑化が円滑化される。また、第10実施形態の可塑化装置10Jを備える造形装置100によれば、可塑化装置10Jからの造形材料の供給が安定しておこなわれるため、造形処理の精度が高められる。その他に、第10実施形態の可塑化装置10Jおよびそれを備える造形装置100によれば、上記の各実施形態と共通の構成によって、上記の各実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を得ることができる。
【0082】
3-2.第11実施形態:
図15Aは、第11実施形態の可塑化装置10Kが備えるフラットスクリュー40Kの溝形成面48を示す概略平面図である。ここで、スクロール溝42の流路長をRとする。流路長Rは、スクロール溝42の幅方向の中心を通るスクロール溝42の中心軸の材料導入部44から溝形成面48の中心までの長さに相当する。図15Aには、便宜上、材料導入部44から流路長Rの25%の位置までの領域PA1と、材料導入部44から流路長Rの45%の位置までの領域PA2と、を破線で区切ることによって図示してある。なお、2つの領域PA1,PA2はいずれも、スクロール溝42において中央部46よりも材料導入部44に近い領域である。
【0083】
ここで、スクロール溝42の開口端部44におけるスクロール溝42の深さをDaとし、溝形成面48の中心でのスクロール溝42の深さをDbとする。深さDbは、フラットスクリュー40Kの中心での中央部46の深さに相当する。第11実施形態のフラットスクリュー40Kでは、スクロール溝42の深さについて、下記の不等式(2)の関係が満たされる。
Da/Db>6.82 ・・・(2)
【0084】
図15Bは、スクロール溝の深さが異なるフラットスクリューのサンプルS1,S4,S5を用いた吐出装置150において造形材料の吐出率を計測した実験結果を示す説明図である。この実験に用いられた吐出装置150の構成は、第10実施形態で説明した図14Cに示す吐出装置150の構成とほぼ同じである。この実験では、第10実施形態で説明した実験と同様に、材料として、ペレット状のPPとTPUとを用いて、それぞれについて20回ずつ造形材料の吐出率を計測し、その平均値を算出した。
【0085】
この実験において、サンプルFSとして吐出装置150に搭載されたサンプルS1,S4,S5は、スクロール溝の深さがそれぞれに調整されている点以外は構成が共通している。サンプルS1は、第10実施形態で説明した実験において用いたものと同じである。
【0086】
サンプルS1では、開口端部での深さDaが15.0mmであり、図15Aに示す領域PA1に相当する領域内において、その深さが維持されている。サンプルS1では、図15Aに示す領域PA2に相当する領域では、スクロール溝の深さは15.0mmより小さくなる。サンプルS1では、スクロール溝の中央部側の端部での深さDbは、2.2mmである。
【0087】
サンプルS4では、開口端部での深さDaが16.0mmであり、図15Aに示す領域PA1に相当する領域において、その深さが維持されている。サンプルS4では、図15Aに示す領域PA2に相当する領域では、スクロール溝の深さは16.0mmより小さくなる。
【0088】
サンプルS5では、開口端部での深さDaは、サンプルS4と同じく、16.0mmである。ただし、サンプルS5では、図15Aに示す領域PA2に相当する領域までその深さが維持されており、領域PA2より中央部側において、スクロール溝の深さが16.0mmより小さくなる。
【0089】
このように、サンプルS4,S5は、サンプルS1よりもスクロール溝の開口端部での深さがサンプルS1より深くなっている。また、サンプルS5では、スクロール溝の深さがサンプルS1より深くなっている領域の範囲が、サンプルS4より拡大されている。なお、サンプルS1,S4,S5ではいずれも、材料導入部44から中央部46までの間のスクロール溝42の中間位置での深さは4.1mmであった。
【0090】
図15Bに示されているように、サンプルS4,S5ではいずれもDa/Dbの値が7.27となり、上記の不等式(2)が満たされている。サンプルS4,S5ではいずれも、TPUを用いた場合に、平均吐出率がサンプルS1よりも著しく向上した。特に、領域PA2までスクロール溝の深さが深くなっている範囲が拡大されているサンプルS5では、PPとTPUのいずれを用いた場合でも、平均吐出率が75%を越えており、サンプルS1よりも著しく良好な結果が得られた。
【0091】
こうした実験結果から、スクロール溝42の開口端部44での深さが、上記の不等式(2)が満たされるように、大きく調整されていれば、スクロール溝42内での材料MRの誘導および可塑化が円滑化されることがわかる。特に、スクロール溝42の開口端部44での深さDaが、領域PA1において維持されていることが望ましく、領域PA2まで維持されていることがより望ましいことがわかる。
【0092】
第11実施形態の可塑化装置10Kによれば、上記の不等式(2)が満たされるスクロール溝42の深さを有しているため、スクロール溝42での材料MRの誘導および可塑化が円滑化される。また、第11実施形態の可塑化装置10Kを備える造形装置100によれば、可塑化装置10Kからの造形材料の供給が安定しておこなわれるため、造形処理の精度が高められる。その他に、第11実施形態の可塑化装置10Kおよびそれを備える造形装置100によれば、上記の各実施形態と共通の構成によって、上記の各実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を得ることができる。
【0093】
4.射出成形装置の実施形態である第12実施形態:
図16は、第12実施形態における射出成形機200の構成を一部の部材を断面視して示す概略構成図である。第12実施形態の射出成形機200は、第1実施形態で説明した可塑化装置10Aと、射出制御機構210と、ノズル220と、金型部230と、型締装置240と、を備える。
【0094】
可塑化装置10Aは、第1実施形態で説明したように、フラットスクリュー40Aと、スクリュー対面部50と、を有する。フラットスクリュー40Aおよびスクリュー対面部50の具体的な構成は、第1実施形態のフラットスクリュー40Aおよびスクリュー対面部50の構成と同じである。可塑化装置10Aは、フラットスクリュー40Aのスクロール溝42に供給された粒状の材料の少なくとも一部を可塑化し、流動性を有するペースト状の造形材料を生成して連通孔56から射出制御機構210へと導く。
【0095】
射出制御機構210は、射出シリンダー211と、プランジャー212と、プランジャー駆動部213とを備える。射出制御機構210は、射出シリンダー211内の可塑化された材料を後述するキャビティCvに射出する機能を有する。射出制御機構210は、ノズル220からの材料の射出量を制御する。射出シリンダー211は、スクリュー対面部50の連通孔56に接続された略円筒状の部材であり、内部にプランジャー212を備える。プランジャー212は、射出シリンダー211の内部を摺動し、射出シリンダー211内の材料を、可塑化装置10Aに接続されたノズル220側に圧送する。プランジャー212は、モーターによって構成されるプランジャー駆動部213により駆動される。
【0096】
金型部230は、可動金型231と固定金型232とを備える。可動金型231と固定金型232とは、互いに対面して備えられ、その間に成形品の形状に相当する空間であるキャビティCvを備える。キャビティCvには、可塑化された材料が射出制御機構210によって圧送されてノズル220を介して射出される。
【0097】
型締装置240は、金型駆動部241を備え、可動金型231と固定金型232との開閉を行う機能を有する。型締装置240は、金型駆動部241を駆動して可動金型231を移動させて金型部230を開閉させる。
【0098】
第12実施形態の射出成形機200は、第1実施形態と同じ構成の可塑化装置10Aを備える。したがって、スクロール溝42の側面42sに設けられた凹凸構造70Aによって、回転するフラットスクリュー40Aの回転力が、スクロール溝42内の材料に対して伝達されやすくなり、スクロール溝42による材料の誘導が円滑化される。したがって、可塑化装置10Aから射出制御機構210の射出シリンダー211への材料の供給を安定しておこなうことができ、射出成形機200おける成形不良の発生が抑制される。なお、他の実施形態では、射出成形機200は、第1実施形態の可塑化装置10Aの代わりに、第1実施形態以外の上記の各実施形態で説明した可塑化装置10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I,10J,10Kが搭載されてもよい。
【0099】
5.他の実施形態:
上記の各実施形態で説明した種々の構成は、例えば、以下のように改変することが可能である。以下に説明する他の実施形態はいずれも、上記の各実施形態と同様に、本会時の技術を実施するための形態の一例として位置づけられる。
【0100】
(1)他の実施形態1:
上記の各実施形態の可塑化装置10A~10Kは、フラットスクリュー40A~40Kの代わりに、スクロール溝42を備え、Z方向の長さが直径よりも長いスクリューを、ローターとして備えていてもよい。各実施形態の可塑化装置10A~10Kの溝42はスクロール溝42として構成されていなくてもよい。溝42は、ローターの回転方向に沿っていればよい。溝42は、溝形成面48において、溝形成面48の中心の周りを囲むように一回りしていなくてもよい。また、溝42は、材料導入部としての開口端部44を有していなくてもよい。この場合には溝42の材料導入部は、上面47から溝42に連通する貫通孔として構成されていてもよい。
【0101】
(2)他の実施形態2:
溝42の側面42sに設けられる凹凸構造を構成する複数の凹部または複数の凸部は、上記の第1実施形態や第2実施形態で凹部71,72や、第3実施形態や第4実施形態で説明した凸部73,74の形状に限定されることはない。例えば、凹部は、三角錘形状や円柱状の内部空間を有する窪み部として構成されてもよい。凹部の開口形状は、例えば、楕円形状や、菱形形状、長方形形状、三角形状、楔形形状、その他の多角形状でもよい。また、側面42sに設けられる凹凸構造を構成する複数の凸部は、円錐形状や、円柱形状、半楕円球状、三角錘形状、直方体形状、板状などの形状を有していてもよい。凹部の開口寸法や、凸部の基端部における幅の最大値は1mm以上としてもよく、例えば、2~5mm程度であってもよい。凹部や凸部のサイズは任意に設定することが可能である。凹部の開口寸法や、凸部の基端部における幅の最大値は、その形成位置における凸条部43の高さの5%以上、100%未満となるように設定されてよい。側面42sにおいて凹部や凸部が形成される範囲や、個数、各凹部または各凸部の配列間隔、配列方向についても特に限定はされない。また、凹凸構造は、溝42の片側の側面42sにのみ形成されていてもよい。
【0102】
(3)他の実施形態3:
上記の第10実施形態および第11実施形態のフラットスクリュー40J,40Kにおいて、スクロール溝42の側面42sや底面45に、上記の各実施形態で説明したような凹凸構造70A~70Iや表面構造78が設けられてもよい。
【0103】
(4)他の実施形態4:
上記の各実施形態において、供給部20は、複数のホッパーを備える構成を有していてもよい。この場合には、各ホッパーからスクロール溝42へと異なる材料が供給され、スクロール溝42内において混合されて、造形材料が生成されてもよい。例えば、上記実施形態で説明した主材料となる粉末材料と、それに添加される溶媒やバインダーなどが別々のホッパーから並行してスクロール溝42に供給されてもよい。
【0104】
(5)その他:
上記実施形態において、ソフトウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ハードウェアによって実現されてもよい。また、ハードウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ソフトウェアによって実現されてもよい。ハードウェアとしては、例えば、集積回路、ディスクリート回路、または、それらの回路を組み合わせた回路モジュールなど、各種回路を用いることができる。
【0105】
6.他の形態:
本開示の技術は、上述の各実施形態や実施例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態によって実現することができる。例えば、本開示の技術は以下の形態として実現可能である。以下に記載する各形態中の技術的特徴に対応する上記の各実施形態中の技術的特徴は、本開示の技術の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の技術の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中において必須であると説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0106】
(1)第1の形態は、可塑化装置として提供される。この形態の可塑化装置は、駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる。前記溝の側面は、凸部または凹部を含む凹凸面を有する。
この形態の可塑化装置によれば、ローターの溝の側面が有する凹凸面によって、溝内の材料にローターの回転力を伝達しやすくなるため、溝による材料の誘導を円滑化することができ、材料の可塑化を安定しておこなうことができる。
【0107】
(2)上記形態において、前記凹凸面は、前記ローターの回転軸に沿って形成された前記凹部および前記凸部が、前記回転方向に交互に繰り返される構造を有してよい。
この形態の可塑化装置によれば、溝の側面の凹凸構造に材料が係りやすくなる。
【0108】
(3)上記形態において、前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、前記凹凸面の前記凹部または前記凸部の単位面積あたりの個数は、前記溝形成面の中心から前記外周端に近づくにつれて増加してよい。
この形態の可塑化装置によれば、溝の入口側ほど個数が多くなる凹部または凸部によって、スクロール溝への材料の流入を促進させることができる。
【0109】
(4)上記形態において、前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、前記凹凸面の前記凹部または前記凸部の単位面積あたりの個数は、前記溝形成面の外周端から中心に近づくにつれて増加してよい。
この形態の可塑化装置によれば、中心に近づくほど凹部または凸部の個数が増えるため、可塑化が進んで流動性が高まった材料を、より円滑に連通孔の方へと送るすることができる。
【0110】
(5)第2の形態は、可塑化装置として提供される。この形態の可塑化装置は、駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる。前記溝の側面における表面粗さRaが20μm以上である。
この形態の可塑化装置によれば、ローターの溝の側面の表面構造によって、溝内の材料にローターの回転力を伝達しやすくなるため、溝による材料の誘導を円滑化することができ、材料の可塑化を安定しておこなうことができる。
【0111】
(6)上記形態の可塑化装置は、さらに、前記溝の底面に、凸部または凹部を含む凹凸面を有してよい。
この形態の可塑化装置によれば、溝の底面に凹凸面が追加されることによって、溝内の材料に、ローターの回転力をより一層伝えやすくなる。
【0112】
(7)第3の形態は、可塑化装置として提供される。この形態の可塑化装置は、駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる。前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、前記溝形成面には、幅がwの前記溝が、前記溝形成面の径方向にn条並んでおり、前記溝形成面の半径をrとするとき、0.43<n×w/r<1.00が満たされる。
この形態の可塑化装置によれば、ローターの溝の幅wの調整により、溝による材料の誘導を簡易に円滑化することができ、材料の可塑化を安定しておこなうことができる。
【0113】
(8)第4の形態は、可塑化装置として提供される。この形態の可塑化装置は、駆動モーターと、前記駆動モーターの回転によって回転し、回転方向に沿った溝が形成された溝形成面を有するローターと、前記溝形成面に対向し、連通孔およびヒーターを有するバレルと、を備え、前記ローターの回転と前記ヒーターの加熱により前記溝と前記バレルとの間に供給された材料を可塑化して前記連通孔から流出させる。前記溝は、前記溝形成面の外周端から中心に向かって渦巻き状に形成されており、前記溝の深さは、前記溝形成面の外周端から中心に近づくにつれて小さくなり、前記溝の前記溝形成面の外周端での深さをDaとし、前記溝形成面の中心での前記溝の深さをDbとするとき、Da/Db>6.82が満たされる。
この形態の可塑化装置によれば、ローターの溝の深さの調整により、溝による材料の誘導を簡易に円滑化することができ、材料の可塑化を安定しておこなうことができる。
【0114】
本開示の技術は、可塑化装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、可塑化装置において用いられるローターや、当該ローターにおける流路構造、可塑化装置を備える三次元造形装置、可塑化装置を備える射出成形装置などの形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0115】
10A…可塑化装置、10B…可塑化装置、10C…可塑化装置、10D…可塑化装置、10E…可塑化装置、10F…可塑化装置、10G…可塑化装置、10H…可塑化装置、10I…可塑化装置、10J…可塑化装置、10K…可塑化装置、20…供給部、21…材料供給源、22…接続管路、30…生成部、31…ケース、38…駆動モーター、40A…フラットスクリュー、40B…フラットスクリュー、40C…フラットスクリュー、40D…フラットスクリュー、40E…フラットスクリュー、40F…フラットスクリュー、40G…フラットスクリュー、40H…フラットスクリュー、40I…フラットスクリュー、40J…フラットスクリュー、40K…フラットスクリュー、41…外周側面、42…溝、42s…側面、43…凸条部、44…材料導入部、45…底面、46…中央部、47…上面、48…溝形成面、50…スクリュー対面部、52…スクリュー対向面、54…案内溝、56…連通孔、58…ヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…吐出口、65…流路、70A…凹凸構造、70B…凹凸構造、70C…凹凸構造、70D…凹凸構造、70E…凹凸構造、70F…凹凸構造、70G…凹凸構造、71…凹部、72…凹部、73…凸部、74…凸部、77a…凹部、77b…凸部、78…表面構造、100…三次元造形装置、101…制御部、110…テーブル、111…面、130…移動機構、150…吐出装置、151…吐出量調整部、152…シリンダー、153…プランジャー、154…プランジャー駆動部、200…射出成形機、210…射出制御機構、211…射出シリンダー、212…プランジャー、213…プランジャー駆動部、220…ノズル、230…金型部、231…可動金型、232…固定金型、240…型締装置、241…金型駆動部、Cv…キャビティ、FS…フラットスクリューのサンプル、M…モーター、ML…材料層、MLt…予定部位、MM…造形材料、MR…材料、PA1…領域、PA2…領域、RX…回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16