(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】水素製造用触媒成型物及び水素製造用触媒成型物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/10 20060101AFI20221122BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221122BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20221122BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20221122BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B01J23/10 M
B01J37/08
B01J37/00 C
B01J37/02 101Z
C01B3/38
(21)【出願番号】P 2018186649
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平 健治
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/134326(WO,A1)
【文献】特開2018-135262(JP,A)
【文献】特表2011-529394(JP,A)
【文献】特開2006-061772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/02-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと、
酸化セリウムと、
を含有し、
前記酸化マグネシウムの平均粒子径が、40nm以下であり、
前記酸化セリウムの平均粒子径が
、30nm以下であり、
マグネシウム及びセリウムの酸化物換算の質量比(MgO/CeO
2)が、60/40~90/10である、水素製造用触媒成型物。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムの平均粒子径が、5nm以上40nm以下であり、
前記酸化セリウムの平均粒子径が、20nm以上30nm以下である、請求項1に記載の水素製造用触媒成型物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、
酸化セリウムの粉末と、酸化マグネシウムの粉末と、を混合し、得られた混合物を成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、
クエン酸法を用いて製造した、酸化マグネシウム及び酸化セリウムを含む触媒粉末を、成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【請求項5】
請求項
1に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、
含浸法を用いて製造した、酸化マグネシウム及び酸化セリウムを含む触媒粉末を、成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、
酸化セリウムと酸化マグネシウムの粉末を混合し、得られた混合物を成型して成型物とし、得られた成型物を焼成することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、
クエン酸法又は含浸法で作成した、酸化セリウムと酸化マグネシウムとの混合物を、成型して成型物とし、得られた成型物を焼成することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造用触媒成型物及び水素製造用触媒成型物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化とそれに伴う異常気象の発生は、人類にとって喫緊の課題である。温暖化のさらなる進行を抑えるためには、人類の経済活動に伴う二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に抑制する必要があり、二酸化炭素の排出量の大幅な抑制を達成するために、様々な技術の開発が進められている。水素の利用技術は、そうした技術の一つであり、CO2排出量の削減に大きく寄与することが期待されている。
【0003】
水素の利用によってCO2排出量を削減するためには、水素製造に伴うCO2排出量の増大よりも、製造された水素の利用によるCO2排出量の削減量の方が多い必要がある。水素製造に伴うCO2排出量を少なく抑えるためには、バイオマスや未利用資源などを製造原料として利用することが、効果的である。バイオマス由来のメタン含有ガスであるバイオガスや、発展途上国の製鉄所での有効利用が不完全とされているコークス炉ガスは、そうした原料の例である。これらのガスは、触媒毒である硫化水素ガスを高濃度(例えば2000ppm)に含有するため、工業的に利用される改質触媒を適用して、水蒸気改質やドライ改質反応による水素製造に高い触媒活性で供することはできない。
【0004】
しかしながら、本発明者は、近年、酸化セリウムをベースとした触媒を利用することで、そうした高濃度の硫化水素を含むガスを用いた場合であっても、安定して水素を製造することができることを見出しており(以下の特許文献1を参照。)、長時間の反応後にも、触媒の構造変化や炭素析出などが起こらないことを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化セリウムをベースとする触媒は、上述の通り、高濃度の硫化水素存在下であっても、炭化水素の水蒸気改質反応やドライ改質反応に対する高い触媒活性を示すことが、実験室での試験によって確認されている。しかしながら、工業的なプロセスにおいて触媒を利用するためには、触媒を成型して利用する必要がある。特に、水蒸気改質反応やドライ改質反応のような吸熱反応では、外比表面積を確保した形状で触媒を成型することが好ましい。複雑な形状に成型する場合ほど、触媒成型物の強度は低下する傾向があるため、酸化セリウムをベースとする触媒を、より高強度の成型物に成型する技術が必要となる。
【0007】
しかしながら、酸化セリウム触媒の粉体をそのまま成型しても、高い強度が得られないことが確認されている。そのため、適切なバインダーを混合して、より強度を高めた成型物を得る必要がある。
【0008】
本発明者は、酸化セリウム触媒をより高強度に成型することを目的として、一般的なバインダーである酸化アルミニウムや、酸化ケイ素を用いて成型を行ったところ、触媒の高い強度は確保できるものの、炭化水素の改質活性が著しく損なわれることを確認した。具体的には、酸化セリウム単位量あたりの触媒活性が低下した。これは、必要となる酸化セリウムの量が増大することを意味しており、コストを大幅に増大させる原因となるため、好ましくない。そのため、触媒活性を損なわず、高い触媒活性を維持したままで、成型物のより高い強度を確保することが可能なバインダーが熱望されていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、酸化セリウム単位量あたりの触媒活性が高く維持され、かつ、より高強度を有する酸化セリウムベースの水素製造用触媒成型物と、かかる水素製造用触媒成型物の製造方法と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化セリウムと他の酸化物とを組み合わせることに着眼して、なされたものであり、酸化セリウムと酸化マグネシウムとを組み合わせることで、酸化セリウム単位量あたりの触媒活性を高い状態に維持しつつ、より高強度を有する酸化セリウムベースの触媒成型物を得ることが可能となることに想到し、なされたものである。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
[1]酸化マグネシウムと、酸化セリウムと、を含有し、前記酸化マグネシウムの平均粒子径が、40nm以下であり、前記酸化セリウムの平均粒子径が、30nm以下であり、マグネシウム及びセリウムの酸化物換算の質量比(MgO/CeO2)が、60/40~90/10である、水素製造用触媒成型物。
[2]前記酸化マグネシウムの平均粒子径が、5nm以上40nm以下であり、前記酸化セリウムの平均粒子径が、20nm以上30nm以下である、[1]に記載の水素製造用触媒成型物。
[3][1]に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、酸化セリウムの粉末と、酸化マグネシウムの粉末と、を混合し、得られた混合物を成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
[4][1]又は[2]に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、クエン酸法を用いて製造した、酸化マグネシウム及び酸化セリウムを含む触媒粉末を、成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
[5][1]に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、含浸法を用いて製造した、酸化マグネシウム及び酸化セリウムを含む触媒粉末を、成型することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
[6][1]又は[2]に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、酸化セリウムと酸化マグネシウムの粉末を混合し、得られた混合物を成型して成型物とし、得られた成型物を焼成することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
[7][1]又は[2]に記載の水素製造用触媒成型物の製造方法であって、クエン酸法又は含浸法で作成した、酸化セリウムと酸化マグネシウムとの混合物を、成型して成型物とし、得られた成型物を焼成することで製造する、水素製造用触媒成型物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、酸化セリウム単位量あたりの触媒活性が高く維持された、より高強度の酸化セリウムベースの触媒を、工業的に利用することが可能となる。また、工業的に利用する際に求められるより高い強度を持つ酸化セリウムベースの触媒成型体を製造することが、可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
以下で詳述する本発明の実施形態は、硫化水素存在下においても水蒸気改質活性及びドライ改質活性に優れる酸化セリウムベースの触媒を、より高い強度を持つ水素製造用触媒成型物とすることを目的としてなされたものである。
【0015】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る触媒成型物は、より高い強度を有しており、触媒反応に対し適用することができる。また、以下で詳述する製造方法によって、より高い強度を持つ触媒成型物を得ることができる。本実施形態に係る触媒成型物の特徴は、酸化セリウムと酸化マグネシウムとで構成されることである。また、本実施形態に係る触媒成型物の製造方法の特徴は、酸化セリウムと酸化マグネシウムとで構成される触媒粉体を製造し、得られた触媒粉体を成型して触媒成型物とする工程を持つことにある。
【0016】
以下で詳述する本発明の実施形態では、触媒粉体に含まれる酸化セリウムと酸化マグネシウムの存在状態、酸化セリウムと酸化マグネシウムの存在比、及び、成型前の粉体の粒径、が非常に重要となる。また、酸化セリウムと酸化マグネシウムを含む触媒粉体の製造方法によって、適した酸化セリウムと酸化マグネシウムの存在比率の範囲が変化する。そこで、以下では、粉体をいずれの製造方法で作成した場合であっても共通する事柄について説明を行ったうえで、触媒粉体の製造法ごとに、詳細に説明を行うこととする。
【0017】
(触媒の製造方法に依らず共通する事項)
酸化セリウムをベースとする触媒は、高濃度(例えば2000ppm)の硫化水素が存在する条件においても高い触媒活性を示すが、酸化セリウムをそのまま加圧成型しても、高い強度を得ることができない。そこで、バインダーとして他の酸化物を利用することが求められる。
【0018】
触媒成型物を作成する際に利用されるバインダーとして代表的なものには、例えば、酸化アルミニウム、又は、二酸化ケイ素を主体とするものが挙げられる。しかしながら、酸化セリウムをこれらの酸化物と混合した場合には、メタン改質反応の活性が著しく低下するという問題が生じる。従って、一般的にバインダーとして利用されている酸化物は、酸化セリウムには適用することができず、他の酸化物を探索する必要が生じた。本発明者は、多数の酸化物を候補として、酸化セリウムとの混合物を作成し、それぞれで触媒活性を評価した。その結果、酸化マグネシウムと混合した際には、他の酸化物でみられたような触媒活性低下がみられなかった。そこで、本発明者は、酸化セリウムと酸化マグネシウムとを混合した粉体を成型して触媒成型物を作成し、得られた触媒成型物の圧壊強度を評価したところ、酸化マグネシウムをバインダーとして用いることで、大幅に圧壊強度を向上することができることを見出した。
【0019】
酸化マグネシウムは、市販品を比較的安価に入手可能であり、また、水酸化マグネシウムなどの入手容易な試薬から、大気中で焼成するなどの簡便な処理によって製造することが可能である。更に、酸化マグネシウムは、平均粒子径が小さく、比表面積を大きくすることも容易である。従って、他のバインダーが酸化セリウム以外の物質で示す場合と同様のような高い強度が、得られたものと考えられる。また、化学プロセスによって、酸化セリウムと酸化マグネシウムとの複合酸化物を製造し、得られた複合酸化物を成型した場合においても、より高い強度が得られ、かつ、高い触媒活性も得られることが確かめられた。従って、酸化セリウムと酸化マグネシウムとが互いに化学的に結合しているか否かに関わらず、両者が混合された粉体は、成型後に高い強度を発現することが、本発明者によって明らかとなった。
【0020】
粉体を成型用の冶具に入れて成型を行う際には、粉体の二次粒子径が十分に小さく、かつ、粗大な粒子が残留していないことを確認してから、成型に用いることが好ましい。酸化セリウムと酸化マグネシウムについても、粉体として入手可能であるので、そもそも破砕工程を加えなくても多くの場合は差し支えない。仮に粉砕処理を行う場合であっても、酸化セリウムと酸化マグネシウムのいずれについても、単独ではそれほど高い強度の粒子を得ることはできないため、通常の破砕装置を用いることで十分に粉砕可能である。酸化セリウムと酸化マグネシウムとが化学的に結合した粒子についても、上記と同様である。
【0021】
適用可能な破砕装置としては、例えば、ボーズミルやビーズミルに代表される湿式分散機や、流動層式ジェットミルが挙げられる。実験室で粉砕する際には、メノウ乳鉢で粉砕すればよい。酸化セリウムと酸化マグネシウムのいずれも、メノウよりもモース硬度が低いため、メノウ由来の不純物が混合する可能性は、ほとんどない。
【0022】
上述の通り、酸化マグネシウムを酸化セリウムに混合することによって、触媒活性を低下させることなく、成型後の触媒強度をより一層高めることができる。ここで、酸化セリウムの触媒活性が低下しない理由は、酸化セリウムと酸化マグネシウムとが互いに反応して別な酸化物を生成したり、一方のイオンが他の酸化物にドープされたりしないためである。従って、酸化セリウムに対して、酸化マグネシウムで他の酸化物を被覆したものを混合した場合であっても、同様の効果が発揮される。例えば、酸化アルミニウムなどに酸化マグネシウム前駆体を添加して焼成することで、酸化アルミニウムの表面を酸化マグネシウムで被覆することによっても、酸化セリウムの触媒活性を低下させることなく、触媒の強度を高めることが可能となる。
【0023】
酸化セリウムに対し、ランタノイド系列の元素を添加した場合においても、触媒活性は低下しないことが確認されている。従って、酸化セリウム粉や酸化マグネシウム粉のいずれかに対してランタノイド系列の元素の化合物を予め添加することや、混合後の粉体にランタノイド系列の元素の化合物を添加することは、触媒に対して悪影響を与えない。また、不純物としてランタノイド系列の化合物を含有する酸化セリウム粉や、酸化マグネシウムを用いても良い。市販品の酸化セリウムは、少量の酸化ランタンや酸化サマリウムなどを不純物として含むが、これら不純物についても触媒活性に影響を与えず、成型物の強度にも影響を与えない。
【0024】
触媒の成型法は多岐にわたるが、粉体の流動性を確保しつつ加圧して成型体とする点では共通している。従って、いずれかの成型法で成型し、強度が高まることが確認されれば、他の成型法でも高い強度が確保できると推定される。例えば、最も簡便な設備で成型可能である一軸方向の圧縮成型法で得られたペレットの強度が高ければ、静水圧プレス法や押出成型法、射出成型法などで製造した触媒の強度も高いと推定することが可能となる。触媒成型物の形状についても、同様である。触媒成型物の形状は、多孔式であったりクローバー状であったり、様々な形状のものが存在するが、ペレット状に成型した際に高い強度が得られたのであれば、他の形状に成型した際にも相対的に高い強度が得られると推定可能である。
【0025】
得られた触媒成型物は、水蒸気改質反応やドライ改質反応による水素製造反応に利用することができる。その際の反応ガスとしては、バイオガスやコークス炉ガス、天然ガス、バイオマスガス化ガスに含まれるタール分を利用することができる。シャフト炉を用いた還元鉄製造プロセスにおいても、還元ガスとして中東地域などのように硫化水素含有量が多い天然ガスを用いる場合には、一般的な水蒸気改質触媒が利用できないために、天然ガスをそのままシャフト炉に流入している場合がある。そうした場合に、本実施形態に係る触媒成型物を適用すると、プロセス全体の効率が飛躍的に高まると期待される。
【0026】
成型物を作成するために、酸化マグネシウムと酸化セリウムとを混合する際、粒子径が小さい粒同士の方が、より均一に混合しやすい。従って、各酸化物の平均粒子径を評価することは重要である。特に、酸化セリウムは、酸化マグネシウムと比較して強度が高く、混合や成型処理の最中にも粒子径が変化しにくいため、混合前の粒子径が重要となる。以下で、XRDを用いた平均粒子径評価手法について説明を行い、それによって決定される平均粒子径を用いて、好ましい平均粒子径の範囲を決定する。
【0027】
酸化物粒子の平均粒子径を決定する手法として様々な方法が知られているが、ここではX線回折法のピーク形状を利用した方法を用いる。以下でその簡単な原理を説明し、具体的な方法の説明を行う。X線回折測定では、X線が酸化物を構成する原子によって散乱される現象を利用している。一方向から照射されたX線が散乱される際、散乱される方向によっては、X線の位相が揃い、強度が強まる。その結果、結晶構造とその面間隔に依存した位置にピークが出現する。この時、酸化物の粒子が大きいほど、多くの点で散乱されたX線が互いに強め合うこととなるので、回折スペクトルのピークの幅が狭くなる。一方で、粒子が小さいとピークの幅が広くなる。従って、ピークの形状を解析することで、平均粒子径を推算することができる。この場合に、以下のシェラーの式(以下に示す式101)を用いると、簡便である。
【0028】
D(nm)=λ(nm)×K/((半値全幅(°)/180×π)×cos(2θ(°)/360×π)) ・・・(式101)
【0029】
ここで、上記式101において、Dは、平均粒子径であり、λは、X線の波長であり、Kは、定数であり、2θは、ピークの位置である。ここで、X線としてCuのKα線を利用する場合には、Kα2の寄与を演算により除去することや、Kα1とKα2由来のピークが分離しにくい低角側のピークを用いたりするとよい。定数Kは、0.89とする。ピークの半値全幅の決定に際しては、ローレンツ関数と1次関数の和で表される式でピークのフィッティングを行い、その半値全幅の値を計算する。
【0030】
ここで、ローレンツカーブを用いた理由は、試料の不均一性である。X線回折のピークは、本来ならばラウエ関数を用いて処理されるべきであるが、実際には、酸化物粒子のサイズにはばらつきがあり、様々な形状のピークが重なりあったものとなる。本発明者の検討によると、本発明に係る触媒については、ローレンツ関数を用いることで、より正確にフィッティングができることが確かめられている。本発明の場合には、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの反応によって別の酸化物が生成することもないため、酸化物の欠陥などによってX線回折の半値全幅が増大することもない。従って、平均粒子径をX線回折結果から推定することは、妥当である。シェラーの式(式101)を用いた平均粒子径の決定時には、任意の位置のピークが利用可能であるが、酸化セリウムについては、2θ=28°付近のピークを利用し、酸化マグネシウムについては、2θ=43°付近のピークを利用すると、ピーク強度が強いために簡便である。
【0031】
上記の手続きで得られた平均粒子径に関し、酸化マグネシウムの平均粒子径は、40nm以下が好ましく、5nm以上40nm以下がより好ましい。また、酸化セリウムの平均粒子径は、30nm以下が好ましく、20nm未満がより好ましい。特に酸化セリウムの平均粒子径によって、より高い触媒活性とより高い強度とが両立される酸化マグネシウムと酸化セリウムの質量比範囲が変化する。
【0032】
具体的には、酸化セリウムの平均粒子径が20nm以上30nm以下である場合には、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの含有比率が、質量比で6:4~9:1である(換言すれば、マグネシウムとセリウムの酸化物換算の質量比(MgO/CeO2)が、6:4~9:1である)と、本発明の効果が発揮される。また、特に、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの含有比率を、質量比で7:3~9:1の間とすると、より一層好ましい。
【0033】
また、酸化セリウムの平均粒子径が20nm未満である場合には、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの含有比率が、質量比で9/91~90/10であると、本発明の効果が発揮される。また、特に、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの含有比率を、質量比で9/91~82/18の間とすると、より一層好ましい。
【0034】
なお、マグネシウムとセリウムの酸化物換算の質量比は、触媒成型物の製造時における酸化マグネシウムと酸化セリウムの質量に関する含有比となるが、かかる酸化物換算の質量比を、触媒成型物を用いて事後的に測定するためには、X線蛍光分析法を用いて、触媒成型物の化学組成を決定すればよい。その際、触媒成型物をそのまま測定すると組成の不均一性の影響を大きくうけてしまうため、触媒成型物を一度すりつぶしたうえで、樹脂埋め込みなどして測定を行うことが好ましい。これにより、マグネシウムとセリウムの酸化物換算の質量比(MgO/CeO2)が前述の範囲に含まれているかを判断することが可能となる。
【0035】
このように、酸化セリウムの平均粒子径によって、好ましい酸化マグネシウムと酸化セリウムの含有比率が変化し、酸化セリウムの平均粒子径が小さいほうが、成型物中により多くの酸化セリウムを含有されることが許容される。その理由は、主として酸化セリウム粒子と周囲の粒子との物理的な接触によるものと考えられる。酸化セリウムは、酸化マグネシウムよりも強度が高いため、圧縮成型した場合でも変形しづらい。従って、粒子径の大きい酸化セリウム粒子が存在すると、周囲との接触面積が少ない粒子が成型後にも残存することとなり、成型物としての強度が低下すると考えられる。
【0036】
(触媒成型物の製造方法)
本実施形態に係る触媒成型物の製造方法は、特に限定されるものではなく、セリウムの酸化物とマグネシウムの酸化物同士の物理混合で製造する方法や、含浸法やクエン酸法などの化学反応により触媒を製造する方法などを好適に用いることができる。ただし、それぞれの製法によって得られる触媒成型物の特徴が少し異なることから、以下に説明する。
【0037】
<酸化物同士の物理混合により触媒成型物を製造する場合>
酸化セリウムと酸化マグネシウムとを粉状で混合し、その後に成型する方法は、非常に簡便である。いずれの粉体も市販品が入手可能であり、市販品の酸化物粉体を混合するだけでよい。酸化セリウムと比較すると、酸化マグネシウムの方がより平均粒子径が小さく、またモース硬度が小さいために、圧縮成型をした際には、酸化マグネシウムを用いた場合に充填率が高くなり、高い強度が得られると考えられる。従って、混合物に占める酸化マグネシウムの比率(質量比)が高いほど、高い強度が得られると予想される。
【0038】
ただし、酸化マグネシウムの比率が高すぎると、触媒活性を示す酸化セリウムの比率が小さくなってしまい、触媒活性が低下してしまう。また、実施例にて示すように、酸化マグネシウムの比率が高まるほど成型物の充填率が高まるにも関わらず、酸化セリウムを一部混合した場合に、より強度が高まることが確認された。その理由として、成型用冶具からの取り出しの容易さと、酸化マグネシウム自体の強度が低いことがあると推定される。酸化マグネシウムの比率が高まると充填率が高まる一方で、成型物と成型用器具との固着強度が高くなりすぎてしまい、取り出しが難しくなるという現象もみられた。これにより、成型物を成型用冶具から取り出す際に小さなクラックが入り、強度低下を引き起こしたと考えられる。これは、作業効率の観点からも避けるべき現象である。また、酸化マグネシウムは、モース硬度が4と小さく、他の酸化物と比較して低強度である。より高い強度を持つ酸化物を適度に含むことで、全体としての強度が向上したと考えられる。
【0039】
以上より、酸化マグネシウムと酸化セリウムとの質量比は、先述の範囲内で適切なものを選択するとよい。例えば、物理混合により触媒成型物を製造する場合、酸化セリウムと酸化マグネシウムとの含有比率は、質量比で6:4~9:1とすることが好ましく、7:3~9:1とすることがより好ましい。具体的には、X線回折測定の結果から酸化セリウムの平均粒子径を計算し、得られた平均粒子径に対応する先述の範囲内となるように、質量比を設定するとよい。
【0040】
<化学反応により触媒成型物を製造する場合>
酸化マグネシウムと酸化セリウムとが共存する酸化物を、物理混合ではなく化学的なプロセスで製造する場合には、酸化マグネシウムと酸化セリウムとが化学的に結合した状態で存在しているため、物理混合した場合とは異なった振る舞いをする。具体的には、酸化セリウムの平均粒子径が小さくなる。更には、酸化マグネシウムと酸化セリウムとが、物理混合の場合と比較してはるかに均一に分散した状態となっているため、酸化マグネシウムがより効果的にバインダーとして機能するようになる。以下では、具体的な製法と、かかる製法によって得られた酸化物の成型に関する詳細を説明する。
【0041】
酸化マグネシウムと酸化セリウムとが共存する酸化物を作成する方法として、例えば、含浸法、共沈法、クエン酸法などが挙げられる。以下では、それぞれの方法で作成した触媒成型物について、成型時に注意すべき点などを記載する。
【0042】
[含浸法を用いる場合]
含浸法では、酸化マグネシウムの担体に対して、酸化セリウムの前駆体となる試薬を溶解した溶液を滴下し、熱分解処理を施すことで、酸化セリウムの微細な粒子が酸化マグネシウムに担持された触媒を得る。ここで、酸化セリウムの前駆体は、使用する溶媒に溶解する試薬であり、かつ、熱分解で酸化セリウムを生成するものであれば、何を選んでもよい。このような酸化セリウムの前駆体は、特に限定されるものではないが、例えば、(硝酸セリウム、塩化セリウム、炭酸セリウム、硫酸セリウム等を挙げることができる。
【0043】
酸化セリウムの密度は、酸化マグネシウムの2倍超と大きいため、酸化セリウムの質量比がかなり大きい場合であっても、酸化マグネシウムによって酸化セリウム同士の凝集が抑制でき、酸化セリウムの平均粒子径が小さくなる。かかる現象の検証結果は、以下の実施例に示す通りである。ただし、酸化セリウムを質量比で50%以上担持した場合には、酸化セリウムの一部が酸化マグネシウム表面に付着せず、粗大な酸化セリウム粒子が生成しはじめてしまい、酸化セリウムの比率を高めるにつれて、酸化セリウムの平均粒子径が大きくなってしまう。結果として、触媒単位量あたりでの活性が低くなる可能性がある。従って、酸化セリウムの存在比率を更に高めたい場合(換言すれば、酸化セリウムの存在比率を、質量比で50%以上としたい場合)には、以下に示す逆共沈法やクエン酸法などを用いた方がよい。
【0044】
[共沈法を用いる場合]
共沈法は、酸化マグネシウム及び酸化セリウムそれぞれの前駆体試薬を、溶液(多くの場合には水溶液)とし、かかる溶液へ別の試薬を滴下することでpHを変化させて、沈殿を生成させる手法である。この手法でも、各粉末を物理混合する場合と比較すれば、両者がより均一に混合された触媒を作成することができる。しかしながら、共沈法で得られた触媒は、酸化セリウムが酸化マグネシウムとは独立した粒子として存在している場合が多く、酸化セリウムの平均粒子径が大きくなりやすいため、高い触媒活性が得られない。その理由は、酸化セリウムと酸化マグネシウムの電位-pH図からも分かる通り、両者で沈殿が生成するpHが大きく異なるため、沈殿が生成し始めるタイミングがずれるためである。逆共沈法では、こうした問題は改善されるが、廃液量が増大してしまうため、製造コストがより高コストとなる。
【0045】
[クエン酸法を用いる場合]
クエン酸法は、水溶液中でクエン酸と金属との錯体を形成させることで、複数の金属種が均一に混ざり合ったゲルを作成し、得られたゲルを熱分解することで酸化物を得る手法である。コストが高い作成方法であるが、酸化物の混合比率によらず、均一な酸化物が得られることが確かめられている。従って、酸化セリウムの含有量が多い場合でも、酸化セリウムの平均粒子径を小さくすることができ、高い活性が得られる。また、成型した場合にも高い強度が得られる。具体的には、含浸法では、酸化セリウムの質量比を50質量%以上に高めた際には粗大な酸化セリウム粒子が生成し、触媒活性を低下させる原因となった。しかしながら、クエン酸法を用いた場合には、そうした質量範囲においても酸化セリウムの平均粒子径の増大を抑制できることから、より好ましい製法と言える。本実施形態に係る触媒成型物をクエン酸法により製造する場合に、錯体形成のために用いる化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、セリウム及びマグネシウムの硝酸塩、セリウム及びマグネシウムの塩化物等を用いることが好ましい。
【0046】
以上より、化学反応により触媒成型物を製造する場合には、クエン酸法又は含浸法を用いることが好ましく、酸化セリウムの質量比をより自由に選択できるという観点から、クエン酸法を用いることがより好ましい。
【0047】
<仮焼成後に成型し、更に焼成処理することで成型体を製造する場合>
成型物の高い強度を確保するために、比較的低温で焼成した試料を成型し、その後に十分に高い温度で本焼成を行うことは、一般的によく行われる。酸化マグネシウムと酸化セリウムとを物理混合した粉体も、化学プロセスで製造された酸化マグネシウム及び酸化セリウムの混合物も、仮焼成したうえで成型し本焼成を行うと、より高い強度が得られる。以下で、仮焼成、成型、本焼成の手順で触媒成型物を得る際に注意すべき点を記載する。
【0048】
仮焼成、成型、本焼成の手順で触媒成型物を製造した場合に、焼成を成型前に一度だけ行う場合よりも高い強度が得られる理由は、成型物の内部に残留した応力が、本焼成時に粒子同士が反応して結合する過程を促進するためである。従って、仮焼成の温度と本焼成の温度との差を十分に大きくし、本焼成の際に酸化セリウムや酸化マグネシウムの各粒子同士が反応する余地を残しておくことが重要である。一方で、仮焼成によって各酸化物を作成する際に、硝酸塩や炭酸塩、水酸化物などの前駆体が未分解のまま残留してしまっていると、本焼成の際に未分解の前駆体が分解して多量のガスが発生することとなり、強度低下につながる。従って、前駆体の分解温度と本焼成時の温度とを鑑みて、仮焼成の温度を決定することが重要である。例えば、仮焼成の温度としては、500℃~700℃であることが好ましい。また、本焼成については、仮焼成温度よりも十分高いことが好ましいが、一方で焼成温度を高くしすぎると比表面積が低下し、活性低下の原因となる。従って、本焼成の温度としては、例えば、800℃~900℃であることが好ましい。
【0049】
以上、本実施形態に係る触媒成型物の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0050】
以下では、試験例を示しながら本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記に示す試験例により何ら限定されるものではない。
【0051】
(物理混合による触媒成型物の作成)
<酸化マグネシウム1:600℃で焼成した酸化マグネシウム>
試薬の熱分解によって、酸化マグネシウムを調製した。水酸化マグネシウム(和光純薬、純度>99.9%、粒度0.07μm)をるつぼに10g秤取り、大気中で600℃にて5時間保持して熱分解し、酸化マグネシウムを得た。冷却後、得られた酸化マグネシウムを、酸化マグネシウム1とした。XRDの半値幅から推定された平均粒子径は、13nmであった。
【0052】
<酸化マグネシウム2:800℃で焼成した酸化マグネシウム>
大気中での熱分解温度を800℃としたことを除いては、酸化マグネシウム1と同様にして、酸化マグネシウムを得た。冷却後、得られた酸化マグネシウムを、酸化マグネシウム2とした。XRDの半値幅から推定された平均粒子径は、22nmであった。
【0053】
<酸化セリウム1:600℃で焼成した酸化セリウム>
試薬の熱分解によって、酸化セリウムを調製した。水酸化セリウム(和光純薬、純度80.0~87.0%(酸化セリウムとして))をるつぼに10g秤取り、大気中で600℃にて5時間保持して熱分解し、酸化セリウムを得た。冷却後、得られた酸化セリウムを、酸化セリウム1とした。XRDの半値幅から推定された平均粒子径は、9nmであった。
【0054】
<酸化セリウム2:800℃で焼成した酸化セリウム>
市販品の酸化セリウムを加熱処理することで、酸化セリウムを調製した。酸化セリウム(日本触媒学会参照触媒、JRC―CEO-2、純度99.999%以上)をるつぼに10g秤取り、大気中で800℃にて5時間保持して熱分解し、酸化セリウムを得た。冷却後、得られた酸化セリウムを、酸化セリウム2とした。XRDの半値幅から推定された平均粒子径は、28nmであった。
【0055】
[実施例1~4、比較例1~7:触媒成型物]
酸化マグネシウム2と酸化セリウム2とを、以下に示す質量比にてめのう乳鉢で混合し、均一にしたうえで粉末成型金型(ラボネクト製、ラボダイス)に入れて、φ10mm、厚み3mmのペレット状に成型した。酸化マグネシウム2、酸化セリウム2の混合比率は、質量比で、0/100(酸化セリウム2のみ)、10/90、20/80、30/70、40/60、50/50、60/40、70/30、80/20、90/10、100/0(酸化マグネシウム2のみ)とし、10MPaの圧力を印加した状態で3分間保持して、触媒成型物として比較例1~6、実施例1~4、比較例7を得た。得られたφ10mm×厚み3mmのコイン状のペレットを、側面部の曲面の一部が、圧壊強度試験機のステージ面に接するように立てて置き、圧壊強度試験を実施して、ペレットが破損した際に印加されていた力を記録した。得られた試験結果を、以下の表2に示した。
【0056】
酸化マグネシウム2と酸化セリウム2の混合比率が、20/80~100/0の際に、混合比率が0/100(酸化セリウム2のみ)の場合よりも高い強度が得られることが分かる。ただし、酸化マグネシウム2と酸化セリウム2の混合比率が、100/0(酸化マグネシウム2のみ)の場合には、触媒として機能する酸化セリウムが全く含まれず、得られた触媒成型物が触媒として機能しない。酸化マグネシウム2と酸化セリウム2の混合比率が20/80~90/10の際に圧壊強度が50N以上となり、高い強度が得られることが確認された。以降で示す反応試験の通り、前述の混合比率範囲とした場合には、高い強度と触媒活性とを備えた触媒成型物となる。
【0057】
[実施例5、6:触媒成型物]
酸化マグネシウム1と酸化セリウム1とをめのう乳鉢で混合し、均一にしたうえで粉末成型金型(ラボネクト製、ラボダイス)に入れて、φ10mm×厚み3mmのペレット状に成型した。酸化マグネシウム2と酸化セリウム2の混合比率は、質量比で、70/30とし、10MPa又は20MPaの圧力を印加した状態で3分間保持して触媒成型物とし、実施例5、6を得た。得られたφ10mm×厚み3mmのコイン状のペレットを、実施例1~4と同様にして、圧壊強度試験にかけて強度を評価した。得られた試験結果を、以下の表2にあわせて示した。
【0058】
なお、成型時の圧力を30MPaとした場合には、成型用金型と触媒成型物が強く結合し、取り出しが困難となった。成型時圧力が10MPaと20MPaでは、20MPaの方がより高い強度が得られることが分かった。
【0059】
[実施例7、8:触媒成型物(成型後に本焼成)]
実施例5、6と同様にして触媒成型物を得た後に、触媒成型物を更に800℃で5時間焼成し、触媒成型物として実施例7、8を得た。得られたφ10mm×厚み3mmのコイン状のペレットを、実施例1~4と同様にして、圧壊強度試験にかけて強度を評価した。得られた試験結果を、以下の表2にあわせて示した。いずれも、成型後の焼成処理のない実施例5、6よりも高い強度が得られていることが分かった。
【0060】
[比較例8:触媒F:酸化アルミニウム-酸化セリウム触媒(物理混合)]
酸化セリウム(触媒学会参照触媒:CEO-2)と、酸化アルミニウム(触媒学会参照触媒:ALO-8)とを、800℃で5時間焼成した。乾燥後、酸化セリウム1.7312gと、酸化アルミニウム1.0296gとを秤取り、めのう乳鉢で均一になるまで攪拌を行った。このとき、酸化アルミニウムと酸化セリウムとのモル比は、金属イオンの比で50/50であり、質量比は37.3/62.7である。実施例1~4と同様にして、得られた混合物を圧縮成型し、強度試験を実施した。得られた試験結果を、以下の表3に併せて示した。実施例1~4と同程度の強度が達成されているものの、触媒活性が低下することは、後述の表3に示すとおりである。
【0061】
[比較例9:酸化ケイ素-酸化セリウム触媒(物理混合)]
二酸化ケイ素(シグマアルドリッチ、純度99%、粒度0.5~10μm)を大気中で800℃にて焼成処理し、得られた二酸化ケイ素粉末を酸化セリウム2とめのう乳鉢で均一に混合した。得られた紛体を実施例1~4と同様に成型し、圧壊強度試験にて強度を評価した。得られた試験結果を表3に併せて示した。実施例1~4と同程度の強度が達成されているものの、触媒活性が低下することは、後述の表3に示すとおりである。
【0062】
(化学プロセスで得られた触媒紛体を用いた触媒成型物の作成)
[実施例10:酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒(クエン酸法)]
クエン酸法にて、触媒を調製した。硝酸セリウム(III)・6水和物(関東化学、純度>99.5%)を4.0876g、硝酸マグネシウム・6水和物(関東化学、純度>99.0%)を2.4153g、クエン酸・1水和物(和光純薬、純度>99.5%)を7.2356g量り取り、ガラス製のビーカーに入れて純水を入れ、マグネチックスターラーで15分間攪拌した。溶液中の金属イオンとクエン酸のモル比は、1/2である。溶液が透明となり、溶け残りがないことを確認したうえで、アンモニア水(和光純薬、濃度28質量%)を滴下し、pH7.0とした。更に1時間攪拌し、得られた溶液をロータリーエバポレーターにかけ、溶液の容積を減らしたうえで、アルミナるつぼへと移した。ホットプレートの上で100℃に加熱し、更に2時間かけて水分を蒸発させ、乾固させた。得られた固形物を、メノウ乳鉢上で潰し、粉状としたうえで、アルミナるつぼに戻した。試料を、アルミナるつぼごと電気炉に入れ、空気雰囲気下で焼成処理を行った。室温から30分かけて110℃まで昇温させ5時間乾燥させ、3時間かけて800℃まで昇温し、800℃にて5時間焼成処理を行った。これにより、酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒を1.9462g得た。得られた触媒をそれぞれ実施例1~8と同様の手順で成型し、圧壊強度試験装置で強度評価を行った。得られた結果を以下の表2にあわせて示した。触媒13中の、酸化マグネシウムと酸化セリウムとのモル比は、50/50(質量比で、19/81)である。
【0063】
[比較例10、実施例9~12:酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒(クエン酸法)]
実施例10と同様にして、クエン酸法にて触媒を調製した。ただし、硝酸セリウム(III)・6水和物(関東化学、純度>99.5%)と、硝酸マグネシウム・6水和物(関東化学、純度>99.0%)のモル比を変えて実施し、酸化マグネシウムと酸化セリウムとのモル比を、10/90、30/70/70/30、90/10(質量比ではそれぞれ、2.5/97.5、9.1/90.9、35.3/64.7、67.8/32.2)とし、酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒を、それぞれ約2.0g得た。得られた触媒をそれぞれ実施例1~4と同様の手順で成型し、圧壊強度試験装置で強度評価を行った。それ以外の操作は、実施例10と同様である。得られた結果を以下の表2にあわせて示した。
【0064】
[実施例13:酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒(クエン酸法)]
実施例12と同様にして、クエン酸法にて触媒を調製した。ただし、焼成条件を変更し、最高到達温度を950℃とした。その他の条件は同様であり、得られた触媒の酸化マグネシウムと酸化セリウムとのモル比は、90/10(質量比では67.8/32.2)である。酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒を、約2.0g得た。得られた触媒を実施例1~4と同様の手順で成型し、圧壊強度試験装置で強度評価を行った。それ以外の操作は、実施例10と同様である。得られた結果を以下の表2にあわせて示した。
【0065】
[実施例14、15:酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒(クエン酸法)]
実施例12と同様にして、クエン酸法にて触媒を調製した。ただし、焼成条件を変更し、最高到達温度を650℃とした。その他の条件は同様であり、得られた触媒の酸化マグネシウムと酸化セリウムとのモル比は、90/10(質量比では67.8/32.2)である。酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒を、約2.0g得た。得られた触媒を実施例1~4と同様の手順で成型し、得られた触媒成型物(実施例14)を圧壊強度試験装置で強度評価を行った。同様の手順で成型した成型体をさらに大気中800℃で5時間焼成し、得られた成型物(実施例15)を、上記と同様の手順で強度評価した。それ以外の操作は、実施例10と同様である。得られた結果を以下の表2にあわせて示した。
【0066】
[実施例18:酸化セリウム-酸化マグネシウム触媒(含浸法)]
含浸法によって触媒を調製した。硝酸セリウム(III)・6水和物(関東化学、純度>99.5%)を0.4696g秤取り、アセトン9mlに溶解させ、前駆体溶液を得た。酸化マグネシウム2を0.8254g秤取り、前記前駆体溶液に全量投入し、室温で20分間攪拌して、蒸発乾固させた。得られた固形物をスパチュラで粉砕し、触媒Eと同様に電気炉にて800℃で焼成処理を行った。焼成後、0.9788gの酸化マグネシウム-酸化セリウム触媒を得た。得られた触媒中の、酸化マグネシウムと酸化セリウムのモル比は95/5であり、質量比は81.7/18.3であった。
【0067】
[比較例11、12、実施例16、17:酸化セリウム-酸化マグネシウム触媒(含浸法)]
実施例18と同様にして、含浸法によって触媒を調製した。ただし、硝酸セリウム(III)・6水和物(関東化学、純度>99.5%)と酸化マグネシウム2の質量比を変更した。焼成後得られた触媒を比較例11、12、実施例16、17とした。それぞれの、酸化マグネシウムと酸化セリウムのモル比は50/50、70/30、80/20、90/10であり、質量比は19/81、35.3/64.7、48.4/51.6、67.8/32.2であった。
【0068】
<メタン水蒸気改質反応試験>
触媒成型物として実施例1~4、7~13、15~18と比較例1~12をそれぞれ選択し、ステンレスふるいの上で破砕整粒して0.5~1.0mmの粒子とした。それぞれ、0.10g秤取り、石英ガラス製の反応管に充填した。窒素ガス50cm3/分を流通させながら、800℃まで30分で昇温した。その後、以下の表1に示す反応ガスを流通させて反応を開始した。ただし、硫化水素濃度は、反応開始後1時間までは0ppmとし、反応開始1時間後から2時間までは500ppmとし、反応開始2時間後から3時間までは1000ppmとし、反応開始3時間後から4時間までは2000ppmとし、各硫化水素濃度における反応の後半30分のメタン転化率を用いて、活性を評価した。反応ガスの分析にはガスクロマトグラフ(島津製作所、GC-2014)を用い、15分おきに分析を行った。
【0069】
また、メタン転化率の計算には、以下の式(102)を用い、反応後ガスの各成分濃度で計算を行った。硫化水素濃度2000ppmの時点での結果のみを、表2、3に他の結果とあわせて示した。また、酸化セリウム単位質量あたりのメタン転化率を計算し、比較例1に対する相対値で示した。以下、全ての試料で、炭素数2、炭素数3以上の有機物の生成量は非常に少なく、また、反応後試料の熱重量分析を行ったが、いずれの試料でも析出炭素の酸化燃焼による重量減少は観測されず、炭素析出量は非常に少ないと考えられ、式(102)を用いてメタン転化率を評価することは、妥当と考えられる。
【0070】
【0071】
(CO濃度+CO2濃度)/(CO濃度+CO2濃度+CH4濃度)・・・式(102)
【0072】
反応試験結果をみると、実施例1~18の試料はいずれも、圧壊強度が50Nを超えており、かつ、単位酸化セリウム当りの触媒活性が酸化セリウム単体のとき以上となっている。一方で、比較例1~12は、圧壊強度が50Nを下回るか、もしくは、単位酸化セリウム当りの触媒活性が、酸化セリウム単体の時よりも小さくなった。以上より、酸化セリウムの平均粒子径と、酸化マグネシウムと酸化セリウムの混合比率が、所定の範囲内となる実施例においては、成型体の強度と、触媒活性とが両立されているといえる。
【0073】
【0074】
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。