(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】コンクリート加飾用工程紙
(51)【国際特許分類】
B28B 11/08 20060101AFI20221122BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221122BHJP
E04G 9/10 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B28B11/08
B32B27/18 Z
E04G9/10 101A
(21)【出願番号】P 2018189306
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 公大
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-089930(JP,A)
【文献】特開平08-309717(JP,A)
【文献】特開平11-028710(JP,A)
【文献】特開平11-320522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B
B28C
B32B
E04G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、
前記基材シートの一方の面上に部分的に形成された、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含む硬化遅延剤層と、を備え、
前記基材シートの前記一方の面の濡れ性が
54mN/m以上であることを特徴とするコンクリート加飾用工程紙。
【請求項2】
基材シートと、
前記基材シートの一方の面上に部分的に形成された、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含む硬化遅延剤層と、を備え、
前記基材シートの前記一方の面の濡れ性が34mN/m以上であり、
前記基材シートの前記一方の面に算術平均粗さが1μm以上30μm以下の凹凸パターンを有することを特徴とす
るコンクリート加飾用工程紙。
【請求項3】
前記硬化遅延剤層は、前記基材シートの前記一方の面上に第1硬化遅延剤層及び第2硬化遅延剤層がこの順に積層されてなり、
前記第2硬化遅延剤層は、前記第1硬化遅延剤層よりも硬化遅延深度が深く且つ面積が小さいことを特徴とする請求項1
又は2に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【請求項4】
前記第1硬化遅延剤層と前記第2硬化遅延剤層とが、相似形であることを特徴とする請求項
3に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【請求項5】
前記硬化遅延剤層は、オキシカルボン酸、珪藻土、酸化チタン、並びにアクリル系樹脂又はロジン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1から
4の何れか1項に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【請求項6】
前記硬化遅延剤層は、オキシカルボン酸、珪藻土、酸化チタン、並びにアクリル系樹脂又はロジン系樹脂を含み、
前記第1硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率が、前記第2硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率よりも少ないことを特徴とする請求項
4に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【請求項7】
前記基材シートは、ポリオレフィン系樹脂のフィルムシート、ポリエステル系樹脂のフィルムシート、又はポリオレフィン系樹脂を両面にラミネートしたクラフト紙であることを特徴とする請求項1から
6の何れか1項に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【請求項8】
前記ポリオレフィン系樹脂のフィルムシートの厚さ、及び前記ポリエステル系樹脂のフィルムシートの厚さは、100μm以上250μm以下であることを特徴とする請求項
7に記載のコンクリート加飾用工程紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート加飾用工程紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材としてのフィルムシート上に、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含む硬化遅延剤層が部分的に形成されて、フィルムシート上に硬化遅延剤層による柄模様を有するコンクリート加飾用工程紙が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のコンクリート加飾用工程紙では、コンクリートの型枠の内面に貼り付けることで、打設されたコンクリートの表面を硬化遅延剤層で部分的に未硬化とし、コンクリート表面に柄模様を転写し、コンクリート表面に意匠を付与するようになっている。
しかし、特許文献1に記載のコンクリート加飾用工程紙では、コンクリートとフィルムシートの間に気泡を生じ、コンクリート表面に気泡や色ムラが発生する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、コンクリート表面の仕上がりを向上可能なコンクリート加飾用工程紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、(a)基材シートと、(b)基材シートの一方の面上に部分的に形成された、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含む硬化遅延剤層と、を備え、(c)基材シートの一方の面の濡れ性が34mN/m以上であるコンクリート加飾用工程紙であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基材シートに対するコンクリートの親和性を向上できる。それゆえ、基材シートとコンクリートとの間の気泡を離脱させ易く、また、セメントペーストを均一とすることができる。そのため、コンクリート表面への気泡や色むらの発生を抑制でき、コンクリート表面の仕上がりを向上可能なコンクリート加飾用工程紙を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙を表す断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙を表す断面図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙を表す断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙を表す平面図である。
【
図5】本発明の第3実施例に係るコンクリート加飾用工程紙を用いたプレキャストコンクリートの例を示す断面図であり、(a)は第1硬化遅延剤層が無い場合を表す断面図であり、(b)は第1硬化遅延剤層が有る場合を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙について図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた形態も、本発明の範囲に含まれる。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11と、基材シート11の一方の面11a上に部分的に形成されて、基材シート11上に柄模様を形成する硬化遅延剤層13とを備えている。そして、本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリートの型枠の内面に貼り付けることで、打設されたコンクリートの表面を硬化遅延剤層13で部分的に未硬化として、コンクリート表面に柄模様を転写し、コンクリート表面に意匠を付与可能となっている。
【0010】
(基材シート)
基材シート11は、基材となるシートである。基材シート11は、フィルムシート、両面ラミクラフト紙を用いて形成される。フィルムシートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムシートを採用できる。熱可塑性樹脂は、Tダイ成形法によってシート状とされる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、従来のコンクリート加飾用工程紙でフィルムシート(基材)に使用されている熱可塑性樹脂と同様のものを使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等或いはこれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用することができる。
【0011】
なお、フィルムシートに使用可能な熱可塑性樹脂として、多数の熱可塑性樹脂を挙げたが、近年の環境問題に対する社会的な関心の高まりに鑑みれば、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩素(ハロゲン)を含有する熱可塑性樹脂を使用することは望ましくなく、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂を使用することが望ましい。特に、各種物性や加工性、汎用性、経済性等の面からは、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂(非晶質又は二軸延伸)の少なくとも一方を使用することが最も望ましい。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂としては、既に列挙した多くの種類から選択すればよく、特に、ポリプロピレン系樹脂、すなわち、プロピレンを主成分とする単独又は共重合体が好適である。例えば、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂等を単独又は適宜配合したり、それらに更にアタクチックポリプロピレンを適宜配合した樹脂等を使用することができる。また、プロピレン以外のオレフィン系単量体を含む共重合体であってもよく、例えば、ポリプロピレン結晶部を有し、且つプロピレン以外の炭素数2~20のα-オレフィン、好ましくはエチレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1又はオクテン-1のコモノマーの1種又は2種以上を15モル%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体等を例示することができる。また、ポリプロピレン系樹脂の柔軟化に用いられる低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、或いはその水素添加物等の改質剤を添加してもよい。フィルムシートの厚さは、100μm~250μm程度が好ましい。
【0013】
また、両面ラミクラフト紙としては、
図3に示すように、ポリオレフィン層112を両面にラミネートした紙基材111を採用できる。紙基材111としては、特に制限はなく、従来のコンクリート加飾用工程紙で両面ラミクラフト紙(基材)に使用されている紙基材と同様のものを使用できる。例えば、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、クラフト紙、樹脂含浸紙等の紙素材や、各種合成紙等を使用することができる。クラフト紙を用いた場合、紙基材111の厚さは、60μm~260μm程度が好ましい。また、ポリオレフィン層112としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を使用することができる。ポリオレフィン層112の厚さは、10μm~40μm程度が好ましい。両面ラミクラフト紙の厚さは、100μm~300μm程度が好ましい。
【0014】
また、基材シート11の一方の面11a、つまり、硬化遅延剤層13が形成される面側の濡れ性は34mN/m以上が好ましい。特に、硬化遅延剤層13と基材シート11との密着性の点からは、濡れ性が40mN/m以上であることが好ましい。すなわち、濡れ性が34mN/m以上44mN/m未満であることが好ましい。また、コンクリート表面の色ムラの点からは、濡れ性が44mN/m以上であることが好ましい。さらに、コンクリートとコンクリート加飾用工程紙10の剥離性の点からは、濡れ性が48mN/m以上であることが好ましい。また、コンクリート表面の気泡の有無の点からは、濡れ性が54mN/m以上であることが好ましい。濡れ性を34mN/m以上とする濡れ性の調整方法としては、放電量20W・min/m2以上でコロナ放電処理を施す方法を採用することができる。
【0015】
(硬化遅延剤層)
硬化遅延剤層13は、基材シート11の一方の面11a上に部分的に形成され、コンクリート表面を部分的に未硬化として、コンクリート表面に意匠を付与するための層である。硬化遅延剤層13は、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含んで形成される。具体的には、オキシカルボン酸を主成分としたコンクリート硬化遅延剤をアクリル系樹脂又はロジン系樹脂とともに適当な希釈溶媒中に溶解又は分散してなる塗工液を用いて形成される。塗工液は、例えば、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷等の各種印刷法によって塗布される。また、オキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等、或いはこれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用できる。また、アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、或いはこれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用できる。また、硬化遅延剤層13は、珪藻土や酸化チタンを添加剤として含んでいる。
【0016】
珪藻土の粒径は、10μm以上100μm以下が好ましい。また、硬化遅延剤層13が含む各成分の比率は、硬化遅延剤層13の全質量に対して、オキシカルボン酸が10質量%以上20質量%以下、アクリル系樹脂が25質量%以上60質量%以下、珪藻土が10質量%以上15質量%以下、酸化チタンが5質量%以上10質量%以下が好ましい。
柄模様としては、任意の絵柄を用いることができ、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号等、或いはこれらの2種類以上の組み合わせ等を用いることできる。また、硬化遅延剤層13の厚さは、5μm以上80μm以下が好ましい。
【0017】
以上説明したように、本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11と、基材シート11の一方の面11a上に部分的に形成された、コンクリート硬化遅延剤が混合された樹脂組成物を含む硬化遅延剤層13とを備えるようにした。そして、基材シート11の一方の面11aの濡れ性を34mN/m以上とした。それゆえ、基材シート11に対するコンクリートの親和性を向上できる。そのため、基材シート11とコンクリートとの間の気泡を離脱させ易く、またセメントペーストを均一とすることができる。そのため、コンクリート表面への気泡や色むらの発生を抑制でき、コンクリート表面の仕上がりを向上可能なコンクリート加飾用工程紙10を提供することができる。
また本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11が、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂の少なくとも一方を含むようにした。それゆえ、環境問題の面に加え、各種物性や加工性、汎用性、経済性の面からも望ましい。
【0018】
さらに、本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、フィルムシート(基材シート11)の厚さを100μm以上250μm以下とした。それゆえ、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、基材シート11が破れることを防止できる。また基材シート11の柔軟性を確保でき、基材シート11の剥がしやすさを確保できる。
また本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、硬化遅延剤層13が、オキシカルボン酸、珪藻土、酸化チタン並びにアクリル系樹脂又はロジン系樹脂を含むようにした。それゆえ、有機系化合物のコンクリート硬化遅延剤を用いるようにしたため、無機系化合物のコンクリート硬化遅延材に比べ遅延効果を大きくすることができる。
【0019】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10について説明する。
第2実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11の一方の面11aに、コロナ処理に加え、凹凸パターン15を設けた点が、第1実施形態と異なる。
凹凸パターン15の算術平均粗さは、1μm以上30μm以下が好ましい。1μm未満の場合には、基材シート11とコンクリートとの密着性が高く、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、コンクリート表面が剥がれ、コンクリート表面に色ムラが発生する。一方、30μmより大きい場合には、基材シート11の凹凸パターン15にコンクリートが入り込み、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、コンクリート表面が剥がれ、コンクリート表面に色ムラが発生する。また剥がれずにコンクリート表面に残った基材シート11の部分による凹凸が大きく、コンクリート表面の平滑さが低下する。
【0020】
また、凹凸パターン15の算術平均粗さは、1μm以上20μm以下がより好ましい。これによれば、コンクリートからの基材シート11の剥離性が向上され、コンクリート表面の色むらが抑制される。特に、1μm以上10μm以下が最も好適である。これによれば、コンクリート表面の平滑性が向上される。また、凹凸パターン15は、基材シート11の一方の面11aのうちの、少なくとも硬化遅延剤層13が設けられていない部分に形成されていればよい。例えば、一方の面11a全体に形成されていてもよいし、一方の面11aのうちの硬化遅延剤層13が設けられていない部分にのみ形成されていてもよい。
また、凹凸パターン15の形成方法としては、例えば、エンボスロールを用いて、Tダイ成形法による形成直後の基材シート11にエンボス加工を施す方法を採用できる。
【0021】
以上説明したように、本発明の第2実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11の一方の面11aに算術平均粗さが1μm以上30μm以下の凹凸パターン15を設けるようにした。それゆえ、基材シート11とコンクリートとの密着性を低下できる。そのため、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、コンクリート表面が剥がれることを抑制でき、コンクリート表面の色ムラを抑制することができる。
【0022】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10について説明する。
第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、
図3に示すように、硬化遅延剤層13を、基材シート11の一方の面11a上に第1硬化遅延剤層131及び第2硬化遅延剤層132等の複数層がこの順に積層されてなる層とした点が第1実施形態と異なる。
第1硬化遅延剤層131は、基材シート11の一方の面11a上に部分的に形成されている。第2硬化遅延剤層132は、第1硬化遅延剤層131の基材シート11と反対側の面に部分的に形成され、第1硬化遅延剤層131よりも硬化遅延深度が深くなっている。
【0023】
第1硬化遅延剤層131と第2硬化遅延剤層132とは、アクリル系樹脂、オキシカルボン酸、珪藻土の各素材を少なくとも含んでいる。アクリル系樹脂は、コンクリートに対する硬化遅延効果を有するとともに、硬化遅延剤であるオキシカルボン酸等を保持するために用いる。アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類やこれらを含む共重合体等からなる樹脂を採用できるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0024】
オキシカルボン酸は、コンクリートに対する硬化遅延効果を有している。オキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、ヒドロアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリコール酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシカルボン酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシカルボン酸等を採用できるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。珪藻土は、オキシカルボン酸等を保持し、コンクリートに対して放出する機能を有している。珪藻土の粒径としては、10μm~100μm程度が望ましい。
【0025】
第1硬化遅延剤層131に占めるオキシカルボン酸の質量比率は、第2硬化遅延剤層132に占めるオキシカルボン酸の質量比率よりも、少ない添加量となっている。これにより、オキシカルボン酸の添加量が多い第2硬化遅延剤層132の部分では、コンクリートに対する深さ方向への硬化遅延効果、すなわち、硬化遅延深度を高くすることができる。しかし、コンクリート表面に形成される凹部の形成部と非形成部の境界領域において、硬化遅延剤の横方向への拡散に起因するコンクリートの変色が発生する可能性がある。
これに対し、オキシカルボン酸の添加量が少ない第1硬化遅延剤層131では、硬化遅延深度は低いが、凹部の形成部と非形成部の境界領域におけるコンクリートの変色を少なくすることができる。したがって、第1硬化遅延剤層131を第2硬化遅延剤層132よりも大きい面積で設けることにより、第2硬化遅延剤層132の影響で変色する部分を第1硬化遅延剤層131によって未硬化状態とし、洗い出しによって、除去が可能となる。
【0026】
第1硬化遅延剤層131としては、アクリル系樹脂25~60質量%に対して、オキシカルボン酸10~20質量%、珪藻土10~25質量%程度の配合のものが好適である。また、第1硬化遅延剤層131の厚さとしては、3μ~30μm程度が望ましい。
また、第2硬化遅延剤層132としては、アクリル系樹脂25~60質量%に対して、オキシカルボン酸15~25質量%、珪藻土10~25質量%程度の配合のものが好適である。第2硬化遅延剤層132の厚さとしては、3μ~30μm程度が望ましい。
【0027】
また、第1硬化遅延剤層131及び第2硬化遅延剤層132は、直線状、曲線状、格子状等の任意の絵柄模様として形成することが可能である。第1硬化遅延剤層131と第2硬化遅延剤層132とは、
図4に示すように、相似形の関係にあることが望ましい。第1硬化遅延剤層131の輪郭部と第2硬化遅延剤層132の輪郭部との間には、一定の幅nを有することが望ましい。幅nとしては、1.5mm以上であることが望ましい。
【0028】
図5は、第1硬化遅延剤層131が設けられていないコンクリート加飾用工程紙を用いて、プレキャストコンクリート30に対し、凹部31を形成した例を示している。
図5に示すように、コンクリート加飾用工程紙に第1硬化遅延剤層131が設けられていない場合には、変色部32が視認され、プレキャストコンクリート30の意匠性が損なわれる。
一方、
図6に示すように本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、第1硬化遅延剤層131があるため、変色部32が取除かれ、変色部32が目立たなくなることから、高い意匠性を有するプレキャストコンクリート30を得ることができる。
【0029】
以上説明したように、本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10は、硬化遅延剤層13は、基材シート11の一方の面11a上に第1硬化遅延剤層131及び第2硬化遅延剤層132がこの順に積層されて形成されている。そして、第2硬化遅延剤層132は、第1硬化遅延剤層131よりも硬化遅延深度が深く且つ面積が小さくなっている。それゆえ、コンクリート表面に深い凹部31を形成する場合に、凹部31の形成部と非形成部の境界領域における変色等を低減できる。また「はみ出し」等の不具合を防止できる。それゆえ、高い意匠性を有するプレキャストコンクリート30を作製できる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の第1実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
まず、ポリオレフィン系樹脂を両面にラミネートしたクラフト紙を、基材シート11として作製した。ラミネート方法としては、クラフト紙の両面に溶融したポリオレフィン系樹脂をTダイと呼ばれるスリット状のダイからフィルム状に押出してラミネートする方法を用いた。基材シート11の厚さは、250μmとした。続いて、作製した基材シート11の一方の面11aに、放電量60W・min/m2でコロナ放電処理を施して、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を54mN/mとした。続いて、コロナ放電処理を施した基材シート11の一方の面11a上に、シルクスクリーン印刷法で硬化遅延剤層13用の塗工液を塗布して、硬化遅延剤層13を部分的に形成した。塗工液としては、塗工液の全質量に対して、オキシカルボン酸(乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸等)を10~55質量%、ロジン系樹脂を35~80質量%、酸化チタンを5~10質量%含むものを用いた。これにより、コンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、放電量50W・min/m2以上60W・min/m2未満でコロナ放電処理を行って、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を48mN/m以上54mN/m未満とした。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
(実施例3)
実施例3では、放電量40W・min/m2以上50W・min/m2未満でコロナ放電処理を行って、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を44mN/m以上48mN/m未満とした。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0033】
(実施例4)
実施例4では、放電量30W・min/m2以上40W・min/m2未満でコロナ放電処理を行って、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を40mN/m以上44mN/m未満とした。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
(実施例5)
実施例5では、放電量20W・min/m2以上30W・min/m2未満でコロナ放電処理を行って、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を34mN/m以上40mN/m未満とした。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0034】
(比較例1)
比較例1では、コロナ放電処理を行わなかった。この場合、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性は、30mN/m以上34mN/m未満であった。それ以外は、実施例1と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0035】
(性能評価)
実施例1~5、比較例1のコンクリート加飾用工程紙10を用いて、コンクリート表面に意匠を付与する工程を行い、この意匠を付与する工程において、以下の性能評価を行った。コンクリート表面に意匠を付与する工程では、まず、コンクリート加飾用工程紙10をコンクリート型枠(幅20cm×奥行き10cm×高さ5cm)の底面に接着テープで貼り付けた。続いて、コンクリート材料(粗骨剤25~40%、細骨剤25~40%、ポルトランドセメント10~30%)1kgに対して、水0.05~0.20kgを投入し、薬さじ等を用いて2~3分間撹拌した。続いて、撹拌したコンクリートをコンクリート型枠に0.5~1.3kg程度流し込み、常温で24時間養生した。これにより、流し込んだコンクリートを硬化させるとともに、コンクリートの底面を部分的に未硬化とした。
続いて、コンクリートをコンクリート型枠から取り外した。続いて、取り外したコンクリートからコンクリート加飾用工程紙10を引き剥がした。続いて、コンクリートを水に浸しながらブラシで2分間洗い流すことで、コンクリートの底面(表面)の未硬化部分を除去した。続いて、未硬化部分を除去したコンクリートを常温で1時間以上乾燥させた。
【0036】
(遅延剤と基材シート11との密着性評価)
遅延剤と基材シート11との密着性評価では、コンクリート加飾用工程紙10の硬化遅延剤層13にセロハンテープ(積水化学製 No252)を貼り付けて、100g/cm2の荷重を30秒間かけた後、セロハンテープを剥がして硬化遅延剤層13のトラレ状態を評価した。そして、トラレがある場合を合格「◎」とし、トラレが発生したが軽微である場合を合格「○」とし、トラレが発生した場合を不合格「×」とした。
(コンクリート表面の気泡の有無評価)
コンクリート表面の気泡の有無評価では、室内白色電灯下で、コンクリート表面を上部から観察し、気泡の有無を評価した。そして、気泡がない場合を合格「◎」とし、気泡があるが軽微である場合を合格「○」とし、気泡がある場合を不合格「×」とした。
【0037】
(コンクリート表面の色ムラの有無評価)
コンクリート表面の色ムラの有無評価では、室内白色電灯下で、コンクリート表面を上部から観察し、色ムラの有無を評価した。そして、色ムラがない場合を合格「◎」とし、色ムラがあるが軽微である場合を合格「○」とし、色ムラがある場合を不合格「×」とした。
(コンクリートと工程紙との剥離性評価)
コンクリートと工程紙との剥離性評価では、コンクリート加飾用工程紙10をコンクリートから引き剥がす際に、引っ掛かりの有無を評価した。そして、引っ掛かりがない場合を合格「◎」とし、引っ掛かりがあるが軽微である場合を合格「○」とし、コンクリート加飾用工程紙10が敗れるほどの引っ掛かりがある場合を不合格「×」とした。
【0038】
(評価結果)
これらの評価結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1に示すように、実施例1~5のコンクリート加飾用工程紙10は、遅延剤と基材シート11との密着性評価、コンクリート表面の気泡の有無評価、コンクリート表面の色ムラ評価及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の評価結果が合格「◎」、「○」となった。具体的には、実施例5のコンクリート加飾用工程紙10は、遅延剤と基材シート11との密着性評価、コンクリート表面の気泡の有無評価、コンクリート表面の色ムラ評価、及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の全ての評価結果が合格「○」となった。また、実施例4のコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリート表面の気泡の有無評価、コンクリート表面の色ムラ評価及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の評価結果が合格「○」となり、遅延剤と基材シート11との密着性評価の評価結果が合格「◎」となった。
【0041】
実施例3のコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリート表面の気泡の有無評価及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の評価結果が合格「○」となり、遅延剤と基材シート11との密着性評価及びコンクリート表面の色ムラ評価の評価結果が合格「◎」となった。また、実施例2のコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリート表面の気泡の有無評価の評価結果が合格「○」となり、遅延剤と基材シート11との密着性評価及びコンクリート表面の色ムラ評価及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の評価結果が合格「◎」となった。さらに、実施例1のコンクリート加飾用工程紙10は、遅延剤と基材シート11との密着性評価、コンクリート表面の気泡の有無評価、コンクリート表面の色ムラ評価、及びコンクリートと工程紙との剥離性評価の全ての評価結果が合格「◎」となった。
【0042】
したがって、実施例1~5のコンクリート加飾用工程紙10は、比較例1のコンクリート加飾用工程紙10よりも、遅延剤と基材シート11との密着性評価、コンクリート表面の気泡の有無評価、コンクリート表面の色ムラ評価、及びコンクリートと工程紙との剥離性評価が良好であることが確認された。
【0043】
以下に、本発明の第2実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例6)
まず、Tダイ成形法によって基材シート11を形成した。基材シート11の材料としては、ポリエステル系樹脂を用いた。また基材シート11の厚さは200μmとした。続いて、エンボスロールを用いて、形成直後の基材シート11にエンボス加工を施して、基材シート11の一方の面11a全体に凹凸パターン15を形成した。エンボスロールの外周面の算術平均粗さは2μmとした。これにより、基材シート11の一方の面11aの凹凸パターン15の算術平均粗さを、2μmとした。続いて、基材シート11の一方の面11aに、放電量20W・min/m2でコロナ放電処理を施して、濡れ性を34mN/mとした。
続いて、基材シート11の一方の面11a上に、シルクスクリーン印刷法で硬化遅延剤層13用の塗工液を塗布して硬化遅延剤層13を部分的に形成した。塗工液としては、塗工液の全質量に対して、クエン酸を30質量%、アクリル酸メチルを40質量%、珪藻土を20質量%、酸化チタンを10質量%含むものを用いた。硬化遅延剤層13の厚さは、45μmとした。これにより、コンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0045】
(実施例7)
実施例7では、エンボスロールとして算術平均粗さが13μmのものを用いて、基材シート11の凹凸パターン15の算術平均粗さを13μmとした。それ以外は、実施例6と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
(実施例8)
実施例8では、エンボスロールとして算術平均粗さが25μmのものを用いて、基材シート11の凹凸パターン15の算術平均粗さを25μmとした。それ以外は、実施例6と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0046】
(比較例2)
比較例2では、エンボスロールとして算術平均粗さが35μmのものを用いて、基材シート11の凹凸パターン15の算術平均粗さを35μmとした。それ以外は、実施例6と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0047】
(性能評価)
実施例6~8、比較例2のコンクリート加飾用工程紙10を用いて、コンクリート表面に意匠を付与する工程を行い、この意匠を付与する工程において、以下の性能評価を行った。コンクリート表面に意匠を付与する工程では、まずコンクリート加飾用工程紙10をコンクリート型枠(幅20cm×奥行き10cm×高さ5cm)の底面に接着テープで貼り付けた。続いて、コンクリート材料(粗骨剤25~40%、細骨剤25~40%、ポルトランドセメント10~30%)1kgに対して水0.05~0.20kgを投入し、薬さじ等を用いて2~3分間撹拌した。続いて、撹拌したコンクリートをコンクリート型枠に0.5~1.3kg程度流し込み、常温で24時間養生した。これにより、流し込んだコンクリートを硬化させるとともに、コンクリートの底面を部分的に未硬化とした。
続いて、コンクリートをコンクリート型枠から取り外した。続いて、取り外したコンクリートからコンクリート加飾用工程紙10を引き剥がした。続いて、コンクリートを水に浸しながらブラシで2分間洗い流すことで、コンクリートの底面(表面)の未硬化部分を除去した。続いて、未硬化部分を除去したコンクリートを常温で1時間以上乾燥させた。
【0048】
(コンクリートと工程紙との剥離性評価)
コンクリートと工程紙との剥離性評価では、コンクリート加飾用工程紙10をコンクリートから引き剥がす際に、引っ掛かりの有無を評価した。そして、引っ掛かりがない場合を合格「◎」とし、引っ掛かりがあるが軽微である場合を合格「○」とし、コンクリート加飾用工程紙10が敗れるほどの引っ掛かりがある場合を不合格「×」とした。
(コンクリート表面の色ムラの有無評価)
コンクリート表面の色ムラの有無評価では、室内白色電灯下で、コンクリート表面を上部から観察し、色ムラの有無を評価した。そして、色ムラがない場合を合格「◎」とし、色ムラがあるが軽微である場合を合格「○」とし、色ムラがある場合を不合格「×」とした。
【0049】
(コンクリート表面の平滑性評価)
コンクリート表面の平滑性評価では、JISB0601に規定されている算術平均粗さを測定した。算術平均粗さの測定には、表面粗さ計(ミツトヨ製SJ-401)を用いた。表面粗さ計の設定は、カットオフ値を10μm以上100μm以下とし、測定長を500μmとした。そして、10μm未満である場合を合格「◎」とし、10μm以上30μm以下である場合を合格「○」とし、30μmより大きい場合を不合格「×」とした。
【0050】
(評価結果)
これらの評価結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示すように、実施例6~8のコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリートと工程紙との剥離性評価、コンクリート表面の色ムラ評価、及びコンクリート表面の平滑さ評価の評価結果が合格「◎」、「○」となった。一方、比較例2のコンクリート加飾用工程紙10は、コンクリートと工程紙との剥離性評価、コンクリート表面の色ムラ評価及びコンクリート表面の平滑さ評価の評価結果の何れか2つ以上が不合格「×」となった。
【0053】
具体的には、比較例2のコンクリート加飾用工程紙10は、凹凸パターン15の算術平均粗さが大きいため、基材シート11の凹凸パターン15にコンクリートが入り込み、コンクリートとコンクリート加飾用工程紙10との剥離性評価が不合格「×」となった。また、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、コンクリートの一部が剥がれ、剥がれた箇所の艶が低下し、コンクリート表面の色ムラ評価が「×」となった。さらに、残った部分も凹凸が大きく、コンクリート表面の平滑さ評価の評価結果が「×」となった。
【0054】
これに対し、実施例6~8のコンクリート加飾用工程紙10は、基材シート11の凹凸パターン15の算術平均粗さを1μm以上30μm以下として、基材シート11とコンクリートとの密着性を低下させ、コンクリートと工程紙との剥離性評価が合格「◎」、「○」となった。また、コンクリートから基材シート11を剥がすときに、コンクリート表面が剥がれることを抑制でき、コンクリート表面の色ムラ評価が合格「◎」、「○」となった。さらに、剥がれずにコンクリート表面に残った部分も凹凸が小さいため、コンクリート表面の平滑さ評価が合格「◎」、「○」となった。
したがって、実施例6~8のコンクリート加飾用工程紙10は、比較例2のコンクリート加飾用工程紙10よりも、コンクリートと工程紙との剥離性評価、コンクリート表面の色ムラ評価、及びコンクリート表面の平滑さ評価が良好であることが確認された。
【0055】
以下に、本発明の第3実施形態に係るコンクリート加飾用工程紙10の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例9)
まず、ポリエチレンを両面にラミネートしたクラフト紙を、基材シート11として作製した。クラフト紙の厚さは、180μmとした。ラミネート方法としては、クラフト紙の両面に溶融したポリエチレンをTダイと呼ばれるスリット状のダイからフィルム状に押出してラミネートする方法を用いた。ポリエチレンの厚さは、35μmとした。続いて、作製した基材シート11の一方の面11aに対し、放電量20W・min/m2でコロナ放電処理を施して、基材シート11の一方の面11a全体の濡れ性を34mN/mとした。
続いて、コロナ放電処理を施した基材シート11の一方の面11a上に、グラビア印刷法で、下記第1硬化遅延剤層インキをパターン状に印刷し、80~120℃の乾燥炉で10~20秒程度乾燥させて、厚さ20~30μmの第1硬化遅延剤層131を形成した。続いて、グラビア印刷法で、下記第2硬化遅延剤層インキを第1硬化遅延剤層131の形状と相似形のパターン状に印刷し、同様に乾燥させて、厚さ20~30μmの第2硬化遅延剤層132を形成した。これにより、コンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0057】
<第1硬化遅延剤層インキ>
アクリル樹脂 … 80質量部
オキシカルボン酸 … 10質量部
珪藻土 … 10質量部
<第2硬化遅延剤層インキ>
アクリル樹脂 … 65質量部
オキシカルボン酸 … 20質量部
珪藻土 … 15質量部
【0058】
(比較例3)
比較例3では、第1硬化遅延剤層131に、第2硬化遅延剤層インキを用い、第2硬化遅延剤層132に、第1硬化遅延剤層インキを用いた。それ以外は、実施例9と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
(比較例4)
比較例4では、第1硬化遅延剤層131の印刷形状と、第2硬化遅延剤層132の印刷形状を同一とした。それ以外は、実施例9と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0059】
(比較例5)
比較例5では、第1硬化遅延剤層131を省略した。それ以外は、実施例9と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
(比較例6)
比較例6では、第2硬化遅延剤層132を省略した。それ以外は、実施例9と同じ材料・手順でコンクリート加飾用工程紙10を作製した。
【0060】
(性能評価)
(境界領域の変色幅)
境界領域の変色幅評価では、まず、実施例9、比較例3~6の各コンクリート加飾用工程紙10を型枠(W10cm×D10cm×H5cm)の底面に接着テープで貼り付けた。続いて、コンクリート(シリカ60~90質量%、ポルトランドセメント15~40質量%)8質量部に対し、水を1質量部投入し、薬匙を用いて2~3分間攪拌した。そして、攪拌したコンクリートを、加飾用工程紙10を貼り付けた型枠に0.2kg~0.4kg程度流し込み、24時間養生した後脱枠した。続いて、脱枠したコンクリートを水に浸しながら、ブラシを用いて5分ほど洗い流すことにより、未硬化部を除去した。洗い出し後の凹部31深さの目標値は、2mm~5mm程度とした。そして、コンクリート表面の凹部31の形成部と非形成部の境界領域における変色部32を金属製定規により測定し、変色部32が1mm未満の場合を合格「○」、1mm以上の場合を不合格「×」とした。
【0061】
(評価結果)
これらの評価結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に示すように、比較例3のコンクリート加飾用工程紙10では、実施例9のコンクリート加飾用工程紙10に対し、第1硬化遅延剤層131と第2硬化遅延剤層132とが入れ替わっており、硬化遅延深度の深い第2硬化遅延剤層インキを用いた層のほうが、より大きい面積で形成される。それゆえ、第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色部32を取除くことができないことから、境界領域の変色幅の評価が不合格「×」となった。また、比較例3により、第2硬化遅延剤層インキの上に第1硬化遅延剤層インキによる層が設けられた場合であっても、硬化遅延深度に影響しないことがわかった。
【0064】
また、比較例4のコンクリート加飾用工程紙10では、第1硬化遅延剤層131と第2硬化遅延剤層132とが同じ形状で設けられている。それゆえ、
図4に示した幅nが「0」となった。そのため、第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色部32を除去することができないことから、境界領域の変色幅の評価が不合格「×」となった。
【0065】
さらに、比較例5のコンクリート加飾用工程紙10では、第1硬化遅延剤層131が省略されており、第2硬化遅延剤層132のみでパターニングが実施されている。それゆえ、比較例4と同様に第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色部32を取除くことができないことから、境界領域の変色幅の評価が不合格「×」となった。
また、比較例6のコンクリート加飾用工程紙10では、第2硬化遅延剤層132が省略されており、第1硬化遅延剤層131のみでパターニングが実施されている。それゆえ、硬化遅延深度が0.5mm~1.0mmと浅くなってしまい、十分な凹部深さが得られなかった。しかし、第1硬化遅延剤層インキを用いてパターニングすることにより、コンクリートの変色は低減されていた。それゆえ、境界領域の変色幅の評価は、不合格であったが、比較例5のコンクリート加飾用工程紙10よりも評価が良く、「△」となった。
【0066】
したがって、実施例9のコンクリート加飾用工程紙10は、比較例3~7のコンクリート加飾用工程紙10よりも比較的深い硬化遅延深度を有し、コンクリートの変色部32を低減でき、意匠性の高いプレキャストコンクリート30を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
10…コンクリート加飾用工程紙、11…基材シート、11a:面、13…硬化遅延剤層、15…凹凸パターン、30…プレキャストコンクリート、31…凹部、32…変色部、111…紙基材、112…ポリオレフィン層、131…第1硬化遅延剤層、132…第2硬化遅延剤層