(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】渦電流式減速装置の回転体
(51)【国際特許分類】
H02K 49/02 20060101AFI20221122BHJP
F16D 61/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02K49/02 B
F16D61/00
(21)【出願番号】P 2018199517
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018026569
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 薫平
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-113240(JP,A)
【文献】特開平04-252097(JP,A)
【文献】特開2000-083350(JP,A)
【文献】特開平05-346127(JP,A)
【文献】実開平03-038430(JP,U)
【文献】特開2002-303343(JP,A)
【文献】特開昭60-166793(JP,A)
【文献】特開2003-264975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/02
F16D 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられる渦電流式減速装置の回転体であって、
円筒形状の外周面と、
前記回転体の回転方向側に配置された表面を含み、前記外周面に設けられ、前記外周面から前記回転体の半径方向の外側に突出したフィンと、
前記外周面及
び前記表面に配置されたディンプルと、を備える、回転体。
【請求項2】
請求項1に記載の回転体であって、
前記フィンは、前記回転軸方向に対して傾斜する、回転体。
【請求項3】
請求項2に記載の回転体であって、
前記ディンプルは、前記回転軸方向の中央よりも前記フィンの前記回転体の回転方向に先行する端がある側の前記外周面及
び前記表面に
のみ配置される、回転体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転体であって、
前記外周面は、前記回転体の回転軸方向に2つの端を含み、
前記フィンは、前記2つの端の一方の端から他方の端まで延びる、回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック、バス等の車両に補助ブレーキとして搭載される減速装置に含まれる回転体に関する。さらに詳しくは、本発明は、制動力を発生させるために永久磁石(以下、単に「磁石」ともいう)を用いた渦電流式減速装置(以下、単に「減速装置」ともいう)に含まれる回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、渦電流式減速装置は円筒形状の制動部材を含む。制動部材は、車両の回転軸に取り付けられる回転体である。通常、回転体の内周面に対向する複数の磁石が回転軸回りに配列される。回転体の内周面と磁石との隙間に、複数のポールピースが回転軸回りに配列される。スイッチング機構によって、ポールピースに対する磁石の位置が切り替わり、制動と非制動とが切り替わる。
【0003】
制動時、磁石からの磁束がポールピースを通じて回転体に達する。つまり、磁石と回転体との間に磁気回路が形成される。これにより、回転軸と一体で回転する回転体の内周面に渦電流が発生する。その結果、回転体に制動トルクが作用し、回転軸の回転速度が減少する。一方、非制動時は、磁石からの磁束が回転体に達しない。つまり、磁石と回転体との間に磁気回路が形成されない。そのため、回転体の内周面に渦電流が発生せず、制動トルクが発生しない。
【0004】
制動時には、渦電流の発生に伴って回転体が発熱する。回転体が発熱すると、回転体からの輻射熱によって磁石が加熱される。回転体が磁石を包囲しているからである。磁石が過度に加熱されると、磁石が保有する磁力が減少し、減速装置の性能が低下する。そのため、減速装置は回転体を冷却する機構を含むのが望ましい。
【0005】
回転体を冷却する技術はたとえば、特開平11-113240号公報(特許文献1)に開示されている。
【0006】
特許文献1の回転体は、円筒形状の外周面に複数の冷却フィンが設けられる。回転体が回転すると、空気がフィンに当たる。また、フィンが設けられた分、回転体の表面積は大きくなる。これらにより、フィンは回転体に生じた熱を効率よく外部に放出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フィンが設けられた回転体の冷却性能は向上する。この冷却性能は、フィンの大きさに依存する。フィンが大きいほど回転体の冷却性能は高まる。フィンと空気とが接触する面積が増えるからである。しかしながら、減速装置は車両に搭載されるため、減速装置を配置するスペースには限りがある。また、フィンが大きくなれば、減速装置の質量も重くなる。さらに、フィンは外部に表出しているため、回転体(回転軸)の円滑な回転を妨げる抵抗となる。空気による回転抵抗は風損とも称される。風損が増大すれば、燃費の低下につながる。したがって、減速装置には、フィンによる風損を抑制することも要求される。
【0009】
加えて、フィンが設けられた回転体が高速で回転すれば、流体騒音が生じる。減速装置が搭載される車両では、近年さらなる静音化が求められている。そのため、減速装置には、回転体が回転することによる流体騒音を低減することも要求される。
【0010】
本発明の目的は、大型化を抑制しつつ、冷却性能を高める渦電流式減速装置の回転体を提供することである。本発明の別の目的は、流体騒音を低減できる渦電流式減速装置の回転体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態による渦電流式減速装置の回転体は、回転軸に取り付けられる。回転体は、外周面と、フィンと、ディンプルとを含む。外周面は円筒形状である。フィンは、回転体の回転方向側に配置された表面を含み、外周面に設けられ、外周面から回転体の半径方向の外側に突出する。ディンプルは、外周面及び/又は表面に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による渦電流式減速装置の回転体によれば、大型化を抑制しつつ、冷却性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、渦電流式減速装置を示す断面図である。
【
図3】
図3は、非制動時の磁気回路を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明例2の解析モデルを示す図である。
【
図8】
図8は、本発明例3の解析モデルを示す図である。
【
図9】
図9は、本発明例4の解析モデルを示す図である。
【
図11】
図11は、放熱量比と風損比との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、放熱量比と重量比との関係を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例2での騒音測定位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)本実施形態による渦電流式減速装置の回転体は、回転軸に取り付けられる。回転体は、外周面と、フィンと、ディンプルとを含む。外周面は円筒形状である。フィンは、回転体の回転方向側に配置された表面を含み、外周面に設けられ、外周面から回転体の半径方向の外側に突出する。ディンプルは、外周面及び/又は表面に配置される。
【0015】
渦電流式減速装置の回転体には、永久磁石による渦電流が発生する。これにより回転体に制動トルクが働くと同時に、回転体は発熱する。発熱した回転体の熱を放熱するために、回転体の外周面にはフィンが設けられる。フィンにより回転体の外周面の表面積は増え、また、回転体が回転することでフィンも回転し、フィンは積極的に空気と接する。そのため、フィンが空冷され、回転体の放熱量が高まる。フィンによる回転体の放熱量を高めるためにはフィンを大きくすればよいが、フィンが大きくなれば回転体が大型化し、重量も増加する。そこで、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体の外周面及び/又はフィンの表面には、ディンプルが設けられる。フィンにより流される空気がディンプルに入り込むことで、空気がディンプルの球体面に接触する。これにより、ディンプル、すなわち回転体の外周面が積極的に空冷され、フィンを大きくしなくても回転体の放熱量を高めることができる。
【0016】
また、本実施形態の渦電流式減速装置によれば、ディンプルを設けることでフィンにより流される空気が回転体の外周面及び/又はフィンの表面から剥離しにくくなり、流体騒音が低減される。また、上述したようにディンプルを設けることで放熱量を高くするためにフィンを大きくする必要はない。そのため、本実施形態の渦電流式減速装置によれば放熱量を高くしても風損が増加することを抑制できる。
【0017】
(2)上記(1)の回転体において、フィンは、回転軸方向に対して傾斜するのが好ましい。
【0018】
このような構成により、回転軸方向のフィンの2つの端のうちの一方は、回転体の回転方向において他方の端より先行する。したがって、回転体が回転すれば、フィンの先行する端から他方の端に向かって一方向に空気が流れやすく、回転体の外周面を安定して空冷することができる。
【0019】
(3)上記(2)の回転体において、ディンプルは、回転軸方向の中央よりもフィンの回転体の回転方向に先行する端がある側の外周面及び/又は表面に配置されるのが好ましい。
【0020】
後述する実施例1に示すように、フィンの先行する端がある側(空気の流入側)の回転体の外周面等にディンプルが設けられれば、放熱量を維持しつつ、回転体の回転抵抗(風損)を低減することができる。
【0021】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの回転体において、外周面は、回転体の回転軸方向に2つの端を含み、フィンは、2つの端の一方の端から他方の端まで延びるのが好ましい。
【0022】
このような構成により、回転軸方向においてフィンが回転体の外周面の全域に設けられるため、回転体を均一に冷却することができる。
【0023】
[渦電流式減速装置]
渦電流式減速装置について説明する。
【0024】
図1は、渦電流式減速装置を示す断面図である。
図1は、回転軸10に沿った断面である。減速装置1は、第1永久磁石2と、第2永久磁石3と、磁石保持部材4と、回転体5とを含む。
【0025】
回転体5は、車両の回転軸10(例:プロペラシャフト、ドライブシャフト等)にアーム11及びホイール12を介して固定される。これにより、回転体5は回転軸10と一体で回転する。回転体5は、渦電流による制動トルクが付与される制動部材に相当する。回転体5の詳細は、後述する。
【0026】
磁石保持部材4は、円筒形状であり、回転体と同心状に配設される。磁石保持部材4は、ハウジングによって、回転軸回りに回転可能に支持される。ハウジングは、図示しない車両の非回転部(例:トランスミッションカバー)に固定される。
【0027】
図2は、磁石保持部材の斜視図である。
図2を参照して、磁石保持部材4の外周面には、第1永久磁石2及び第2永久磁石3が固定される。第1永久磁石2は、第2永久磁石3に対し回転軸の周方向に隣接して配置される。第1永久磁石2及び第2永久磁石3は、回転体5の内周面15と隙間を空けて対向する(
図1参照)。第1永久磁石2及び第2永久磁石3の磁極(N極、S極)の配置は、回転軸を中心とする径方向である。第1永久磁石2の磁極の配置は、第2永久磁石3の磁極の配置と異なる。渦電流式減速装置が複数の第1永久磁石2及び複数の第2永久磁石3を含む場合、第1永久磁石及び第2永久磁石は回転軸回りに交互に配置される。
【0028】
図3は、非制動時の磁気回路を示す図である。
図3を参照して、回転体5の内周面15と第1永久磁石2及び第2永久磁石3との隙間には、強磁性体のポールピース13が配置される。渦電流式減速装置1が複数の第1永久磁石2及び複数の第2永久磁石3を含む場合、複数のポールピース13が、回転軸回りに配列される。この場合、ポールピース13の回転軸回りの配置角度は、第1永久磁石2と第2永久磁石3との回転軸回りの配置角度と一致する。ポールピース13は、両側部をハウジングによって保持される。
【0029】
非制動時、ポールピース13が隣接する第1永久磁石2と第2永久磁石3を均等にまたぐ。この状態では、制動トルクは発生しない。隣接する第1永久磁石2及び第2永久磁石3のうちの一方の磁石のN極から出た磁束は、ポールピース13を通じた後、他方の磁石のS極に達する。他方の磁石のN極から出た磁束は、磁石保持部材4を通じて一方の磁石のS極に達する。つまり、第1永久磁石2及び第2永久磁石3と回転体5との間に磁気回路は形成されない。したがって、回転軸と一体で回転する回転体5に制動トルクは発生しない。
【0030】
図4は、制動時の磁気回路を示す図である。
図4を参照して、制動時、非制動時の状態から磁石保持部材4が第1永久磁石2と第2永久磁石3との配置角度の半分ほど回転する。この場合、ポールピース13は第1永久磁石2又は第2永久磁石3と完全に重なる。
【0031】
隣接する第1永久磁石2及び第2永久磁石3のうちの一方の磁石のN極から出た磁束は、ポールピース13を貫き、回転体5に達する。回転体5に達した磁束は、他方の磁石のS極にポールピース13を通じて達する。他方の磁石のN極から出た磁束は、磁石保持部材4を通じて一方の磁石のS極に達する。つまり、円周方向に隣接する第1永久磁石2、第2永久磁石3、磁石保持部材4、ポールピース13、及び回転体5との間に、磁気回路が形成される。これにより、回転体5の内周面に渦電流が発生する。その結果、回転軸10と一体で回転する回転体5に回転方向と逆向きの制動トルクが発生する。更に、回転体5が発熱する。
【0032】
なお、磁石保持部材4からは、図示しないレバーが回転軸と平行に突出する。そのレバーに、図示しないリンク機構を介して、エアシリンダのピストンロッドが接続される。エアシリンダは流体圧シリンダに相当する。エアシリンダはハウジングに固定される。
【0033】
図示しない制御装置からの指令により、エアシリンダは圧縮空気を動力として作動する。エアシリンダの作動によって、ピストンロッドが進退する。ピストンロッドの進退によって、磁石保持部材4が回転し、ポールピース13に対する第1永久磁石2及び第2永久磁石3の位置が切り替わる。これにより、制動と非制動とが切り替わる。
【0034】
[回転体]
続いて、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体について説明する。
【0035】
図5は、回転体の斜視図である。
図5を参照して、回転体5は、外周面6と、フィン7と、ディンプル8とを含む。回転体の外周面6は、円筒形状である。
【0036】
回転体5の外周面6には、フィン7が設けられる。フィン7は外周面6に一体で設けられてもよいし、別体であってもよい。フィン7は、外周面6から回転体5の半径方向の外側に突出する。フィン7は回転体5の回転軸方向Cに対して所定の角度(例:30°~60°の範囲)で傾斜しているのが好ましい。フィン7の役割は、回転体5に生じた熱を放熱することである。
【0037】
フィン7は、表面9及び裏面14を含む。表面9は、回転体5の回転方向側に配置される。裏面14は、回転体5の回転方向と反対側に配置される。したがって、回転体5が回転すると(
図5中の矢印参照)、表面9は裏面14と比べて積極的に空気と接触する。表面9及び裏面14はフィンの傾斜方向に沿う。
図5では、フィンが回転軸方向に対し傾斜している場合を説明するが、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体は回転軸方向に平行であるフィンを排除するものではない。
【0038】
フィン7は、複数設けられてもよい。上述したように、フィンは回転体の熱を放熱する役割を担うため、フィンが複数設けられれば、回転体の熱をより多く放熱できる。複数のフィン7は回転体5の周方向に等間隔に平行に配置されるのが好ましい。
【0039】
ディンプル8は、回転体の外周面6に配置される。ディンプル8は球体面を含む。ディンプル8の球体面は、外周面6から球体状に窪んでいる。ディンプル8の球体面は、球体の表面(球面)の一部と同じ形状である。このディンプルの役割を説明する。
【0040】
図6は、
図5中のVI-VI線での断面図である。
図6を参照して、回転体が回転すると、フィン7に沿って空気が流れる。そうすると、回転体の外周面6上にも空気が流れる。回転体の外周面6にディンプルが無ければ、空気は外周面に沿って、直線的に流れる。一方、回転体の外周面にディンプル8が設けられれば、外周面6に沿って流れる空気がディンプル8上に達すると、空気はディンプル8に入り込む。ディンプルは球体状に凹んでいるため、ディンプルに入り込んだ空気はディンプルの球体面に衝突する。すなわち、ディンプルの球体面が積極的に空冷される。これにより、ディンプルが設けられない回転体と比べて、ディンプルが設けられた回転体の方がより冷却されやすくなる。このように、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体では、ディンプルにより回転体の冷却性能が向上する。回転体の冷却性能を向上させるために、フィンのサイズを大きくする必要がない。そのため、渦電流式減速装置の大型化が抑制される。
【0041】
また、ディンプルが設けられた回転体の外周面の表面積は、ディンプルが設けられない回転体の外周面の表面積よりも大きい。すなわち、ディンプルが設けられた回転体の外周面の方が、ディンプルが設けられない回転体の外周面よりも空気と接する面積が大きい。そのため、回転体が回転していなくても、ディンプルが設けられた回転体の方が、ディンプルが設けられない回転体よりも放熱性能が高い。
【0042】
さらには、ディンプルが設けられた分だけ、回転体の体積が小さくなる。したがって、ディンプルを設けることにより、回転体を軽量化することができる。
【0043】
加えて、回転体が回転すれば回転体の外周面を空気が流れるが、空気が回転体の外周面から剥離すれば、流体騒音が発生する。この点、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体では、回転体の外周面にディンプルが設けられるため、空気が回転体の外周面から剥離することを抑制できる。そのため、ディンプルが設けられない回転体と比べて、流体騒音を抑制できる。また、従来では放熱量を高くするために回転体のフィンを大きくする必要があった。しかしながら、上述したように本実施形態の渦電流式減速装置ではディンプルが設けられるため、フィンを大きくしなくても放熱量が高い。したがって、従来、放熱量を確保するために風損を犠牲にしていたが、本実施形態の渦電流式減速装置では放熱量を確保することによる風損の増加を抑制できる。
【0044】
続いて、本実施形態の渦電流式減速装置の回転体の好適な態様について説明する。
【0045】
図5を参照して、上述の説明ではディンプルが回転体の外周面に設けられる場合を説明した。しかしながら、ディンプルの配置はこの場合に限定されない。ディンプルは、フィンの表面9に設けられてもよい。フィンの表面9は回転体の回転方向側に配置されるため、回転体が回転するとフィンの表面9は積極的に空気と接する。したがって、フィンの表面にディンプルが設けられれば、上述と同様に、フィンが冷却されやすくなる。ディンプルは、回転体の外周面6にのみ設けられてもよいし、フィンの表面9にのみ設けられてもよいし、回転体の外周面6及びフィンの表面9の双方に設けられてもよい。さらに、ディンプルはフィンの裏面14に設けられてもよい。
【0046】
後述する実施例1に示すように、ディンプル8は、回転軸10方向の中央よりもフィンの回転体の回転方向に先行する端がある側の外周面及び/又は表面に配置されるのが好ましい。上述したように、フィンが回転軸方向に対して傾斜する場合、フィンの回転軸方向の2つの端のうち、一方の端が回転体の回転方向において他方の端に先行する。この場合、回転体が回転すると、空気は先行する端(流入側)から流入し、もう一方の端に向かって流れる。ここで、ディンプル8は、空気の流れの乱流化を促進することで、回転体の外周面及び/又は表面から空気の流れが剥離することを抑制する。回転体の空気の流入側の外周面及び/又は表面にディンプルを配置すれば、空気が回転体に流入した早い段階で流れの乱流化を促進でき、風損も抑制できる。
【0047】
ただし、後述する実施例1に示すように、回転体の空気の流入側にディンプルを設けても、流出側にディンプルを設けた場合に比べて冷却性能はほとんど変わらない。
【0048】
ディンプルは、角を有さない形状であるのが好ましい。ディンプルが設けられる回転体の外周面には、渦電流が発生する。そのため、ディンプルが角を有する場合、外周面に発生する渦電流に影響を及ぼす可能性があるため、ディンプルは角を有さない滑らかな形状であるのが好ましい。したがって、上述の説明のように、ディンプルは真球形状でなくとも球体形状であればよい。
【0049】
ディンプルの大きさは特に限定されない。しかしながら、ディンプルが大きすぎればディンプルに入り込んだ空気による風損が大きくなる。したがって、ディンプルの大きさは回転体の冷却性能及び回転体の風損の双方を考慮して、適宜設定されるのが好ましい。外周面に設けられるディンプルの数についても同様である。
【0050】
ディンプルは機械加工によって成形されてもよいし、鋳造等で成形されてもよい。また、フィンを別体で成形する場合、フィンにディンプルを成形した後、フィンを回転体の外周面に取り付けてもよい。
【実施例1】
【0051】
実施例1では、本実施形態の回転体による冷却性能を確認するため、熱流体解析を実施した。計算は定常計算であった。熱流体解析には、汎用のソフトウェア(商品名:ANSYS Fluent 18.1)を用いた。解析では、本発明例としてディンプルの配置が異なる5つの回転体のモデルを用い、比較例として、ディンプルを設けない回転体のモデル、フィンの高さが異なる2つの回転体のモデルを用いた。
【0052】
[試験条件]
本発明例1では、
図5に示すように、回転体の外周面及びフィンの表面の全域に複数のディンプルを設けた解析モデルを用いた。
【0053】
図7は、本発明例2の解析モデルを示す図である。
図7を参照して、本発明例2では、回転体の空気の流出側の外周面6及びフィンの表面9にのみ複数のディンプル8を設けた解析モデルを用いた。
【0054】
図8は、本発明例3の解析モデルを示す図である。
図8を参照して、本発明例3では、回転体の空気の流入側の外周面6及びフィンの表面9にのみ複数のディンプル8を設けた解析モデルを用いた。
【0055】
図9は、本発明例4の解析モデルを示す図である。
図9を参照して、本発明例4では、回転体の空気の流入側の外周面6及びフィンの表面9に複数のディンプル8を設けた解析モデルを用いた。本発明例4の解析モデルでは、複数のディンプル8は、回転体の回転軸方向に3列に配列された。
【0056】
図10は、本発明例5の解析モデルを示す図である。
図10を参照して、本発明例5では、回転体の空気の流入側の外周面6及びフィンの表面9に複数のディンプル8を設けた解析モデルを用いた。本発明例5の解析モデルでは、複数のディンプル8は、回転体の回転軸方向に2列に配列された。
【0057】
本発明例1~5において、1つのディンプル8の形状は同じであり、複数のディンプル同士の間隔は同じとした。1つのディンプルの球体面は球体の表面(球面)の一部の形状と同じであった。具体的には、球体面は直径5mmの球体の表面(球面)の一部と同じであり、ディンプルの深さは0.5mmであった。すなわち、ディンプルは、直径5mmの球体の表面(球面)の任意の点から、球体の径方向に0.5mmの位置で径方向に垂直な面で球体を2つに切断した際の当該任意の点を含む方の球体の一部と同じ形状であった。続いて、ディンプルの配置方法を
図5を例に説明する。
【0058】
図5を参照して、まず外周面6に設けられたディンプルについて説明する。2つのフィン7の間の回転体の外周面6を短手方向(
図5では回転方向)に2分割し、長手方向(
図5ではフィン7の傾斜方向)に11分割した。外周面6の分割された領域の中心にディンプルを配置した。次にフィン7の表面9に設けられたディンプルについて説明する。フィンの表面9を短手方向(
図5では回転体の半径方向)に2分割し、長手方向(
図5ではフィン7の傾斜方向)に11分割した。フィンの表面9の分割された領域の中心にディンプルを配置した。
【0059】
比較例1では、本発明例1のディンプルが設けられない場合の解析モデルを用いた。比較例2では、比較例1のモデルよりもフィン高さが0.5mm高いモデルを用いた。比較例3では、比較例1のモデルよりもフィン高さが1.0mm高いモデルを用いた。
【0060】
本発明例1~5及び比較例での共通試験条件について説明する。回転体の回転数は3000rpmであった。回転体の周囲の温度(雰囲気温度)は、20℃であった。回転体の温度は、一様に70℃であった。回転体及びフィンの材質は、密度2719kg/m3、定圧比熱871J/(kg・K)及び熱伝達率202.4W/(m2・K)を有するアルミニウムであった。本発明例1~5及び比較例1の回転体の諸寸法を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1中、「外径」は回転体の外周面の直径を意味し、「幅」は回転体の回転軸方向の長さを意味し、「フィン枚数」は設けられたフィンの数を意味し、「フィン角度」はフィンの回転軸に対する傾斜角度を意味し、「フィン高さ」はフィンの回転体の半径方向の長さを意味し、「フィン幅」はフィンの表面と裏面との距離(厚さ)を意味する。なお、本発明例1~5において、40枚のフィンは回転体の周方向に等間隔に配置された。
【0063】
[試験結果]
図11は、放熱量比と風損比との関係を示す図である。縦軸は放熱量比を示し、横軸は風損比を示す。ここで、放熱量比は比較例1の放熱量に対する本発明例1~5及び比較例2~3の放熱量を意味する。放熱量は、計算において解が定常状態に至ったときに、回転体周囲の熱伝達率と回転体の表面積との積により算出した。なお、熱伝達率は、回転体の表面の熱流束密度を回転体の温度とその雰囲気温度との差(実施例1では50℃)で除して算出した。また、風損比は比較例1の風損に対する本発明例1~5及び比較例2~3の風損を意味する。風損は、計算において解が定常状態に至ったときに、回転体に負荷される回転体の回転軸周りのモーメントとした。
図11中、黒丸印は本発明例1の結果を示し、黒三角印は本発明例2の結果を示し、黒四角印は本発明例3の結果を示し、黒ひし形印は本発明例4の結果を示し、黒星印は本発明例5の結果を示し、白丸印は比較例1の結果を示し、白三角印は比較例2の結果を示し、白四角印は比較例3の結果を示す。
【0064】
図11を参照して、本発明例1~5ではいずれも、比較例1(白丸印)と比べて放熱量が高かった。本発明例1(黒丸印)は、比較例3(白四角印)と比べて放熱量が高く、かつ風損が低かった。また、本発明例2、3(黒三角印、黒四角印)は、比較例2(白三角印)と比べて放熱量が高く、かつ風損が低かった。すなわち、フィンを大きくする対策と比較して、ディンプルを設ける対策は、風損の増加を抑制しつつ、放熱量を向上できることが分かった。また、放熱量は同等であるものの、本発明例2(黒三角印)よりも本発明例3(黒四角印)の方が風損が少なかった。すなわち、回転体の空気の流入側にディンプルを設ければ、冷却性能を維持しつつ、風損を低減できることが分かった。
【0065】
図12は、放熱量比と重量比との関係を示す図である。縦軸は放熱量比を示し、横軸は重量比を示す。ここで、重量比は比較例1の回転体の重量に対する本発明例1~5及び比較例2~3の回転体の重量を意味する。
図12中の印は、
図11と同様である。
【0066】
図12を参照して、本発明例1~5ではいずれもディンプルが設けられた分回転体の体積が減少したため、比較例1の回転体よりも重量が軽かった。一方、比較例2及び3では放熱量は高くなるものの、フィンが大きくなったため重量が増加した。要するに、本実施形態の回転体によれば、フィンを大きくしなくても、フィンを大きくした場合と同等又はそれ以上に放熱量を高くすることができることが分かった。
【実施例2】
【0067】
実施例2では、本実施形態の回転体による騒音低減効果を確認するため、実機による騒音試験を実施した。騒音試験では、実施例1の本発明例1(
図5参照)及び比較例1の二種類の回転体をそれぞれ3体ずつ、三次元プリンタで製作した。回転体の材料はアクリル樹脂であった。
【0068】
[試験条件]
実施例2の本発明例1及び比較例1での共通試験条件について説明する。騒音試験では、本発明例1の3体の回転体それぞれについて回転数を3000rpm、3500rpm、4000rpmとして試験を実施した。比較例1の3体の回転体についても同様とした。各騒音測定で得られたデータから、A特性補正を施した音圧レベルのオーバーオール値(周波数範囲:6.25Hz~20kHz)を算出し、同一形状及び同一試験条件でのオーバーオール値を算術平均した。また、騒音の測定には、無指向性マイクロホンを用いた。
【0069】
図13は、実施例2での騒音測定位置を示す模式図である。
図13を参照して、騒音試験では回転体5を回転試験機20に取り付けて回転させた。無指向性マイクロホン21は、回転軸10に対して直線距離で500mm離れた位置に配置した。
【0070】
[試験結果]
図14は、実施例2の騒音試験結果を示す図である。縦軸はA特性音圧レベル(dB(A))を示し、横軸は回転体の回転数(rpm)を示す。
図14中、黒丸印は本発明例1の結果を示し、白丸印は比較例1の結果を示す。
【0071】
各回転数の騒音試験において、本発明例1では、比較例1と比べてA特性音圧レベルが低かった。すなわち、本実施形態の回転体によればディンプルを設けない回転体よりも騒音を低減することができた。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、永久磁石を用いた渦電流式減速装置に有用である。
【符号の説明】
【0074】
1:渦電流式減速装置
2:第1永久磁石
3:第2永久磁石
4:磁石保持部材
5:回転体
6:外周面
7:フィン
8:ディンプル
9:表面
10:回転軸
11:アーム
12:ホイール
13:ポールピース
14:裏面
15:内周面