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特許7180282焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び焼結膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び焼結膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20221122BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221122BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20221122BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20221122BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20221122BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20221122BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20221122BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20221122BHJP
   C01F 17/00 20200101ALI20221122BHJP
   C01F 7/021 20220101ALI20221122BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L33/06
C08K3/22
C09D7/65
C09D1/00
C01G25/02
C01G23/00 C
C01G23/047
C01G9/02 A
C01F17/00
C01F7/021
C01G19/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018202195
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066719
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 教弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽平
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-078672(JP,A)
【文献】特開2001-040037(JP,A)
【文献】特開2009-227731(JP,A)
【文献】特開2012-107176(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09D 7/65
C09D 1/00
C01G 25/02
C01G 23/00
C01G 23/047
C01G 9/02
C01F 17/00
C01F 7/02
C01G 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物ナノ粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有し、
前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に下記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物であり、
前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒径が10nm以上200nm以下である、
焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体。
【化1】
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基、L-COO-基、R-CH -R 21 で表される1価の基を表し、前記R 21 が水素原子又は炭素数が1以上17以下のアルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1以上8以下の炭化水素基、Lは、エーテル基(-O-基)、チオエーテル基(-S-基)、-COO-基、及びこれらの基から選ばれる少なくとも1種と、炭素数が1以上10以下の2価の炭化水素基との組み合わせを表し、mは1以上3以下の整数を表す。)
【請求項2】
前記R21が分岐アルキル基である、請求項に記載の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体。
【請求項3】
前記金属酸化物ナノ粒子が、少なくともその表面に、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含む、請求項1又は2に記載の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、焼結膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び焼結膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ナノ粒子を溶剤中で分散させた金属酸化物ナノ粒子分散体は、種々の産業分野に利用されており、例えば、コンデンサ、電池、半導体基板、各種センサー及び液晶表示素子等の電子部品が備える各種機能層の他、研磨材や耐火材等にも用いられる等、幅広く利用されている。近年、電子部品用途においては、部品の小型化、高容量化及び高効率化等の製品特性の向上が望まれており、これら要求を満たすために、原料である金属酸化物ナノ粒子の微粒子化及び分散安定性の向上が求められている。積層セラミックスコンデンサの誘電体層やセラミックス固体電池の固体電解質等の焼成用途の金属酸化物ナノ粒子分散体においては、更に、焼成工程での有機成分の易分解性も求められている。
【0003】
従来、金属酸化物ナノ粒子の分散体を得るためには、例えば、無機粒子用分散剤として市販されているリン酸エステル系の分散剤が用いられている。
また、特許文献1及び2には、金属酸化物ナノ粒子の表面を、シランカップリング剤等の表面処理剤で修飾する手法が開示されている。
更に、本出願人は、特許文献3に、窒素部位を有する構成単位と、ポリマー鎖を有する構成単位とを有し、窒素部位の少なくとも一部が特定の化合物と塩を形成したグラフト共重合体を分散剤として用い、特定の金属粒子を有機溶剤中に分散させた金属粒子分散体を開示している。
特許文献4には、特定の構造を有するポリエーテルとトリカルボン酸無水物からなるポリエーテルエステル化合物を分散剤として用い、無機粉体を非水系溶媒中に分散させた非水系分散体組成物が開示されている。
【0004】
一方、末端に加水分解性シリル基を有するポリマーが、コーティング材として材料表面の改質に使用されている(特許文献5~7)。しかしながら、末端に加水分解性シリル基を有するポリマーは、基材の親水化処理等の表面改質を目的として使用されており、焼成用の金属酸化物ナノ粒子分散体の分散剤として用いる旨は記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-254889号公報
【文献】特開2016-128374号公報
【文献】特開2014-88550号公報
【文献】特開2016-147261号公報
【文献】特開平7-3171号公報
【文献】特開2002-293824号公報
【文献】特開2011-236403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焼成用の金属酸化物ナノ粒子分散体においては、上述のように、金属酸化物ナノ粒子の微粒子化及び分散安定性の向上に加え、焼成工程での有機成分の易分解性が求められる。
しかしながら、リン酸エステル系の分散剤を用いて金属酸化物ナノ粒子を溶媒中に分散させた場合、後述の比較例4、5に示されるように、分散安定性が不十分であり、金属ナノ粒子が沈降しやすいという問題がある。また、リン酸エステル系の分散剤や、特許文献4の分散剤は、焼成用途に用いた場合に、分散剤に由来する有機成分を焼成工程で十分に除去できないという問題もある。
特許文献1及び2に記載されているような、シランカップリング剤等の低分子化合物を用いる手法では、数nmオーダーの粒子に対しては分散安定性が良好なものの、数十nmオーダーの粒子に対しては、分散安定性が不十分で、金属酸化物ナノ粒子が沈降しやすい。後述の比較例2、3に示されるように、シランカップリング剤を用いて数十nmオーダーの金属酸化物ナノ粒子を溶媒中に分散させようとすると、分散直後に溶剤相と沈降した金属酸化物ナノ粒子相とに相分離してしまう。
特許文献3の分散剤は、焼結後の有機成分の残留量が低減されたものであるが、窒素部位が吸着基になるため、焼結後に少量残存する窒素成分を除去することが困難である。
また、焼成用の金属酸化物ナノ粒子分散体においては、金属酸化物ナノ粒子の分散性及び分散安定性の更なる向上が求められている。
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、分散性、分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制され、焼成処理による有機成分の分解性が向上した焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び、前記焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を用いた焼結膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有し、
前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に下記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物であることを特徴とする。
【0009】
【化1】
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基、Lは直接結合又は2価の連結基、Rは炭化水素基を表す。)
【0010】
【化2】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基、Lは2価の連結基を表し、mは1以上3以下の整数を表す。)
【0011】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体においては、前記一般式(I)で表される構成単位において、前記一般式(I)中のLが-COO-基、Rが-CH-R21で表される1価の基を表し、前記R21が水素原子又はアルキル基であることが、焼成処理による有機成分の分解性の点から好ましい。
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体においては、前記R21が分岐アルキル基であることが、焼成処理による有機成分の分解性の点からより好ましい。
【0012】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体においては、前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒径が10nm以上200nm以下であることが、分散性、分散安定性の点、及び金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点から好ましい。
【0013】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体においては、前記金属酸化物ナノ粒子が、少なくともその表面に、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含むことが、分散性、分散安定性の点、及び金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点から好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、焼結膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分散性、分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制され、焼成処理による有機成分の分解性が向上した焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び、前記焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を用いた焼結膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体、及び焼結膜の製造方法について説明する。
なお、本発明において光には、可視及び非可視領域の波長の電磁波、さらには放射線が含まれ、放射線には、例えばマイクロ波、電子線が含まれる。具体的には、波長5μm以下の電磁波、及び電子線のことをいう。また本発明において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表す。
【0017】
[焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体]
本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有し、
前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に下記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物であることを特徴とする。
【0018】
【化3】
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基、Lは直接結合又は2価の連結基、Rは炭化水素基を表す。)
【0019】
【化4】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基、Lは2価の連結基を表し、mは1以上3以下の整数を表す。)
【0020】
従来、金属酸化物ナノ粒子の分散体は、金属酸化物ナノ粒子の比重が、分散体中の各成分と比較して大きいことから、保存時に粒子が沈降しやすいという問題がある。高分子分散剤は、高分子鎖の立体反発により粒子の沈降を抑制することができるが、従来の高分子分散剤は、焼成工程が必要な場合に、ポリマー成分が熱分解し難いという問題がある。一方、積層セラミックスコンデンサの誘電体層のように、薄膜塗工と焼成工程が必要な用途に用いられる金属酸化物ナノ粒子の分散体は、優れた分散性及び分散安定性と、焼成処理による有機成分の易分解性の両立が求められる。
本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子に、前記特定の分散剤を組み合わせて用いることにより、分散性、分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制され、更に、焼成処理による有機成分の分解性が向上したものである。
前記特定の組み合わせにより、前記のような特定の効果を発揮する作用としては、未解明の部分もあるが、以下のように推定される。
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、前記分散剤が、前記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物であり、前記特定のポリマー鎖が有機溶剤との溶解性に優れ、前記特定の加水分解性シリル基が、金属酸化物ナノ粒子の表面の水酸基と脱水縮合して、化学的に結合することができる。そのため、前記特定の高分子化合物を分散剤として、有機溶剤中に金属酸化物ナノ粒子を分散させると、前記特定の高分子化合物は、一方の末端が金属酸化物ナノ粒子の表面と結合し、ポリマー鎖が外側になって互いに立体反発するため、前記特定の高分子化合物が金属酸化物ナノ粒子を取り囲んで溶剤中で安定して存在し、金属酸化物ナノ粒子が分散されると考えられる。ここで、金属酸化物ナノ粒子と分散剤との吸着が、物理吸着ではなく、化学吸着であることにより、金属酸化物ナノ粒子の分散安定性が更に向上する。その結果、本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子同士の凝集が生じにくく、分散性及び分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子が沈降することをも抑制することができると推測される。
また、本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物の塗膜を焼成して焼結膜を製造する場合は、金属酸化物ナノ粒子と前記特定の分散剤との間に形成された化学結合が、加熱により加水分解されやすいため、焼成処理により前記特定の分散剤が金属酸化物ナノ粒子表面から脱離しやすい。更に、前記特定の分散剤は、ポリマー鎖が前記特定の構成単位を有するものであり、加熱により解重合しやすいため、焼成処理により分解されやすい。そのため、本発明の製造方法により得られる焼結膜は、有機成分の残留量が低減されたものとなる。焼結膜に含まれる有機成分の残留量が少ないと、導電性など、所望の機能を発現しやすい。
更に、本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、上述のように金属酸化物ナノ粒子の分散性及び分散安定性に優れているため、従来と比較して、金属酸化物ナノ粒子に対する分散剤の含有割合を低く抑えることも可能となる。そのため、本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、分散剤の含有割合を低減することにより低粘度化することができ、また、焼結膜中の有機成分の残留量をより低減することが可能である。
なお、本発明において低粘度の具体的な目安としては、焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の粘度が10mPa・s以下のことをいい、更に、3mPa・s以下であることが好ましい。このような低粘度の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、インクジェット用の組成物としても好適に用いることができる。
また、本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子の分散性及び分散安定性に優れているため、金属酸化物ナノ粒子を高濃度で含有することができる。金属酸化物ナノ粒子を高濃度で含有する分散体を用いることにより、金属酸化物ナノ粒子濃度が高い塗膜を形成することができるため、塗膜の薄膜化が可能である。金属酸化物ナノ粒子を高濃度で含有する本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、例えば、誘電体セラミックスシート(グリーンシート)形成用として好適に用いることができる。
【0021】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、少なくとも金属酸化物ナノ粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有するものであり、本発明の効果が損なわれない限り、必要に応じて他の成分を含有してもよいものである。
以下、本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の各成分について順に詳細に説明する。
【0022】
<金属酸化物ナノ粒子>
本発明に用いられる金属酸化物ナノ粒子は、少なくともその表面に金属酸化物を含み、分散体中での平均粒径が数nm乃至数百nmサイズの粒子であればよく、粒子全体が均一に金属酸化物を含むものであってもよいし、金属粒子の表面が酸化されて粒子表面が金属酸化物となったものであってもよい。
前記金属酸化物としては、焼成用途に用いられるものであれば特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化セリウム(CeO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(ZrTi)O)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(ZrTi)O)、酸化鉄(Fe)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化銅(CuO)並びに、セラミックス固体電池に利用可能なLa0.51Li0.34TiO2.94(ペロブスカイト型)及びLiLaZr12(ガーネット型)等が挙げられる。中でも、後述する分散剤との組み合わせにより分散性及び分散安定性を向上しやすく、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制されやすい点から、前記金属酸化物としては、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化セリウム及びチタン酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。また、セラミックスコンデンサ用途でセラミックス誘電体として好適に用いられる金属酸化物として、チタン酸バリウム及びチタン酸ジルコン酸バリウムから選ばれる少なくとも1種も好ましい。
【0023】
前記金属酸化物ナノ粒子は、前記金属酸化物ナノ粒子の表面全体のうち、前記金属酸化物が占める面積が、95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがより更に好ましい。
また、前記金属酸化物ナノ粒子全体が均一に金属酸化物を含む場合は、前記金属酸化物ナノ粒子に含まれる前記金属酸化物の含有割合は、95質量%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがより更に好ましい。
【0024】
前記金属酸化物ナノ粒子の分散体中での平均粒径は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定はされないが、後述する分散剤との組み合わせにより分散性及び分散安定性を向上する効果が高い点から、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがより更に好ましく、一方、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがより更に好ましい。
なお、分散体中における前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置により測定することができる分散粒径である。
【0025】
また、有機溶剤中に分散させる前の前記金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒径は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定はされないが、後述する分散剤との組み合わせによる分散性及び分散安定性を向上する効果が高い点から、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがより更に好ましく、一方、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがより更に好ましい。
なお、有機溶剤中に分散させる前の前記金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒径は、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で求めることができる。具体的には、個々の一次粒子の短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒径とする。次に100個以上の粒子についてそれぞれ粒子の体積(質量)を、求めた粒径の直方体と近似して求め、体積平均粒径として求めそれを平均粒径とする。なお、電子顕微鏡は透過型(TEM)、走査型(SEM)又は走査透過型(STEM)のいずれを用いても同じ結果を得ることができる。
【0026】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体において、金属酸化物ナノ粒子の含有量は、用途に応じて適宜選択されれば良いが、例えば、分散体の全量に対して、1質量%以上とすることができ、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。一方、分散性、分散安定性の点、及び金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点から、金属酸化物ナノ粒子の含有量は、分散体の全量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがより更に好ましい。本発明においては、後述する分散剤を用いることにより、従来に比べて金属酸化物ナノ粒子の含有量を高めた場合であっても、金属酸化物ナノ粒子の分散性や分散安定性に優れ、沈降物を生じにくいものとすることができる。
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体においては、後述する分散剤を用いることにより、金属酸化物ナノ粒子の分散性及び分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制されるため、金属酸化物ナノ粒子を高濃度で含有させることができ、例えば、分散体の全量に対して、金属酸化物ナノ粒子の含有量を5質量%以上とすることができ、更に、10質量%以上とすることができ、更に、20質量%以上とすることができる。
なお、前記金属酸化物ナノ粒子は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
<分散剤>
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体において用いられる分散剤は、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に下記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物である。
【0028】
【化5】
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基、Lは直接結合又は2価の連結基、Rは炭化水素基を表す。)
【0029】
【化6】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基、Lは2価の連結基を表し、mは1以上3以下の整数を表す。)
【0030】
前記高分子化合物が有する前記ポリマー鎖は、前記一般式(I)で表される構成単位を有することにより、溶剤親和性が良好であり、焼結処理による分解性に優れる。前記ポリマー鎖は、前記一般式(I)で表される構成単位を有するものであれば特に限定はされず、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。
【0031】
前記一般式(I)において、Lは直接結合又は2価の連結基である。Lが直接結合とは、Rが連結基を介することなく炭素原子に直接結合していることを意味する。Lにおける2価の連結基としては、エチレン性不飽和二重結合とRで表される炭化水素基とを連結可能であれば、特に制限はないが、例えば、-COO-基、-CONH-基、-NHCOO-基、エーテル基(-O-基)、チオエーテル基(-S-基)、及びこれらの基から選ばれる少なくとも1種と、アルキレン基及びアリーレン基から選ばれる少なくとも1種との組み合わせ等が挙げられる。Lは、中でも、分散性及び分散安定性の点から、直接結合、或いは、-CONH-基、-COO-基、-R-CONH-又は-R-COO-で表される2価の連結基(ここで、Rはアルキレン基を表す)であることが好ましく、-COO-基又は-R-COO-で表される2価の連結基であることがより好ましく、-COO-基であることがより更に好ましい。
【0032】
前記一般式(I)において、Rは炭化水素基を表す。Rにおける炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基及びアラルキル基等を挙げることができる。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級アルキル基置換アダマンチル基等を挙げることができる。前記アルキル基の炭素数は、1以上18以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、3以上8以下であることがより更に好ましい。
前記アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基等を挙げることができる。前記アルケニル基の炭素数は、2以上18以下であることが好ましく、3以上10以下であることがより好ましい。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。前記アリール基の炭素数は、6以上24以下であることが好ましく、6以上12以下であることがより好ましい。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられる。前記アラルキル基の炭素数は、7以上20以下であることが好ましく、7以上14以下であることがより好ましい。
における炭化水素基としては、中でも、溶剤親和性に優れ、焼成処理による分解性に優れる点から、アルキル基が好ましく、直鎖又は分岐アルキル基がより好ましく、炭素数1以上18以下の直鎖又は分岐アルキル基がより更に好ましい。
【0033】
前記一般式(I)で表される構成単位は、溶剤親和性に優れる点、及び焼成処理による分解性に優れ、焼成処理後の有機成分の残留量を低減できる点から、中でも、前記一般式(I)中のLが-COO-基、Rが-CH-R21で表される1価の基を表し、前記R21が水素原子又はアルキル基であることが好ましい。この場合、焼成工程において隣り合う構成単位間での反応を抑制することができるため、隣り合う構成単位間での縮合により発生するメタクリル酸無水物等の残留有機成分を低減することができる。
当該アルキル基は、特に限定はされないが、直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましい。また、当該アルキル基の炭素数は、1以上17以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、3以上8以下であることがより更に好ましい。
前記R21は、焼成処理後の有機成分の残留量を低減しながら、更に、前記分散剤の分解温度が低減され、本発明の分散体の塗膜を焼成する際の焼成温度を低減することができる点から、分岐アルキル基であることが好ましい。また、当該分岐アルキル基の炭素数は、3以上10以下であることが好ましい。
【0034】
前記一般式(I)で表される構成単位を誘導する単量体としては、特に限定はされないが、前記一般式(I)中のLが-COO-基、Rが-CH-R21で表される1価の基を表すものとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中で、前記R21が分岐アルキル基であるものは、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート及びイソデシル(メタ)アクリレートである。
【0035】
前記高分子化合物において、前記ポリマー鎖は、前記一般式(I)で表される構成単位を有するものであれば良く、本発明の効果を損なわない範囲において、前記一般式(I)で表される構成単位とは異なるその他の構成単位を更に有するものであっても良い。前記ポリマー鎖が、前記一般式(I)で表される構成単位とは異なるその他の構成単位を更に有する場合は、前記ポリマー鎖に含まれる全構成単位100質量%中、前記一般式(I)で表される構成単位の割合は、前記ポリマー鎖の溶剤親和性の点から、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがより更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
なお、本発明において、前記ポリマー鎖中の各構成単位の含有割合は、前記ポリマー鎖を合成する際の仕込み量から算出することができる。
【0036】
前記高分子化合物において、前記ポリマー鎖が有していてもよい、前記一般式(I)で表される構成単位とは異なるその他の構成単位としては、例えば、下記一般式(III)で表される構成単位を挙げることができる。
【0037】
【化7】
(一般式(III)中、Rは水素原子又はメチル基、Lは直接結合又は2価の連結基、Rは、水素原子、又は、水酸基、アミノ基、酸性基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基若しくは当該官能基を有する炭化水素基を表す。)
【0038】
前記一般式(III)において、Lは直接結合又は2価の連結基である。Lにおける2価の連結基としては、エチレン性不飽和二重結合とRで表される1価の基とを連結可能であれば、特に制限はないが、例えば、-COO-基、-CONH-基、-NHCOO-基、エーテル基(-O-基)、チオエーテル基(-S-基)、及びこれらから選ばれる少なくとも1種と、官能基を有していてもよいアルキレン基及びアリーレン基から選ばれる少なくとも1種との組み合わせ等が挙げられる。Lにおける2価の連結基が有していてもよい官能基としては、例えば、後述するRにおける官能基と同様のものを挙げることができる。
【0039】
前記一般式(III)において、Rは、水素原子、又は、水酸基、アミノ基、酸性基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基若しくは当該官能基を有する炭化水素基を表す。当該炭化水素基としては、例えば、前記一般式(I)中のRにおける炭化水素基と同様のものが挙げられる。前記アミノ基は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム基のいずれでもよい。前記酸性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。
【0040】
前記一般式(III)で表される構成単位を誘導する単量体としては、特に限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル酸;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体;N,N-ジメチルアミノ(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する単量体;2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等の酸性基を有する単量体;エポキシシクロヘキセニル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する単量体等が挙げられる。
【0041】
前記高分子化合物は、前記ポリマー鎖の主鎖の片末端に前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する
前記一般式(II)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。R及びRにおける炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基と、金属酸化物ナノ粒子の表面の水酸基とが脱水縮合しやすい点から、炭素数が1以上8以下であることが好ましく、1以上6以下であることがより好ましい。
及びRにおける炭化水素基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
中でも、前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基と、金属酸化物ナノ粒子の表面の水酸基とが脱水縮合しやすい点から、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0042】
前記一般式(II)において、Lは2価の連結基である。Lにおける2価の連結基としては、前記ポリマー鎖の主鎖の片末端の炭素原子と、前記一般式(II)中のケイ素原子とを連結可能であれば、特に制限はないが、焼成処理後の有機成分の残留量を低減する点から、エーテル基(-O-基)、チオエーテル基(-S-基)、-COO-基、及びこれらの基から選ばれる少なくとも1種と、2価の炭化水素基との組み合わせが好ましく、更に、当該2価の炭化水素基の炭素数は、1以上10以下であることが好ましい。連鎖移動法により前記高分子化合物を容易に合成できる点からは、Lは、更に、-O-RL1-S-で表される2価の基であって、RL1が2価の炭化水素基であることが好ましい。RL1における2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基、及びこれらの組み合わせが好ましく、直鎖又は分岐アルキレン基がより好ましい。焼成処理後の有機成分の残留量を低減する点から、RL1における2価の炭化水素基は、更に、炭素数が1以上10以下であることが好ましく、1以上6以下であることがより好ましい。
【0043】
前記一般式(II)において、mは1以上3以下の整数であり、分散性、分散安定性の点、及び金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点から、2又は3であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0044】
前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基は、例えば、前記高分子化合物を連鎖移動法により製造する場合は、連鎖移動剤により前記ポリマー鎖の主鎖の片末端に導入することができる。
前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を誘導する連鎖移動剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
前記高分子化合物の重量平均分子量Mwは、金属酸化物ナノ粒子の分散性、分散安定性の点、金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点、及び焼成処理後の有機成分の残留量を低減する点から、1000以上10000以下であることが好ましく、更に、分散性を向上する点から、1500以上8000以下であることがより好ましく、2000以上4000以下であることがより更に好ましい。
【0046】
また、前記高分子化合物の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比である分子量分散度(Mw/Mn)は、金属酸化物ナノ粒子の分散性、分散安定性の点から、1.0以上3.0以下であることが好ましく、1.1以上2.5以下であることがより好ましく、1.2以上2.0以下であることがより更に好ましい。
【0047】
なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定される値である。測定は、東ソー社製のHLC-8120GPCを用い、溶出溶媒を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN-メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、20650、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories社製 Easi PS-2シリーズ)及びMw1090000(東ソー社製)とし、測定カラムをTSK-GEL ALPHA-M×2本(東ソー社製)として行われる。
【0048】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体において、前記分散剤の含有量は、金属酸化物ナノ粒子の分散性、分散安定性の点、及び金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制する点から、前記金属酸化物ナノ粒子100質量部に対して、通常、1質量部以上100質量部以下の範囲であり、5質量部以上70質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。
なお、前記分散剤は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
(分散剤の製造方法)
本発明に用いられる前記分散剤の製造方法は特に限定はされず、例えば、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等のリビング重合法、又は連鎖移動法等により製造することができる。中でも、連鎖移動法は、簡便な合成法であり、工業化の観点から好ましく、また、末端の反応制御及び分子量の制御が容易な点から好ましい。
【0050】
連鎖移動法により前記分散剤を製造する方法としては、例えば、前記ポリマー鎖の各構成単位を誘導する単量体、すなわち、下記一般式(I’)で表される単量体、及び本発明の効果を損なわない範囲で含まれる、下記一般式(I’)で表される単量体とは異なるその他の単量体を、下記一般式(II’)で表される連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる方法が挙げられる。
【0051】
【化8】
(一般式(I’)中のR、L及びRは、前記一般式(I)と同様である。)
【0052】
【化9】
(一般式(II’)中のR、R、及びmは前記一般式(II)と同様であり、RL1は2価の炭化水素基を表す。)
【0053】
前記一般式(II’)中のRL1における2価の炭化水素基は、前記一般式(II)で説明したRL1における2価の炭化水素基と同様である。
【0054】
前記一般式(I’)で表される単量体としては、例えば、前述した前記一般式(I)で表される構成単位を誘導する単量体と同様のものを挙げることができ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(II’)で表される連鎖移動剤としては、例えば、前述した前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を誘導する連鎖移動剤と同様のものを挙げることができ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(I’)で表される単量体とは異なるその他の単量体としては、例えば、下記一般式(III’)で表される単量体を挙げることができる。
【0055】
【化10】
(一般式(III’)中のR、L及びRは、前記一般式(III)と同様である。)
【0056】
前記一般式(III’)で表される単量体としては、例えば、前述した前記一般式(III)で表される構成単位を誘導する単量体と同様のものを挙げることができ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0057】
前記分散剤を製造する際の前記一般式(II’)で表される連鎖移動剤の添加量は、特に限定はされないが、単量体の合計100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下とすることが、末端の反応及び分子量を制御しやすい点から好ましい。
【0058】
前記ポリマー鎖の各構成単位を誘導する単量体を、下記一般式(II’)で表される連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる際は、重合開始剤を用いることが好ましい。前記重合開始剤としては、公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされないが、例えば、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
前記重合開始剤の添加量は、前記ポリマー鎖の主鎖の片末端にのみ、前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を導入することが容易な点から、前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を誘導する連鎖移動剤100質量部に対し、50質量以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがより更に好ましい。一方、反応性の観点から、前記重合開始剤の添加量は、前記単量体の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがより更に好ましい。
【0060】
前記ラジカル重合させる方法としては、公知の重合法を用いることができ、特に限定はされないが、例えば、溶液重合法を用いることができる。溶液重合法により得られる分散剤溶液は、そのまま本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の調製に用いることができる。
前記ラジカル重合させる方法として溶液重合法を用いる場合は、例えば、前記一般式(I’)で表される単量体、及び本発明の効果を損なわない範囲で含まれる前記その他の単量体、前記一般式(II’)で表される連鎖移動剤、及び前記重合開始剤を、溶剤に添加し、撹拌して反応させる方法により、前記高分子化合物を得ることができる。当該方法は、単量体に対する開始ラジカルの発生量と連鎖移動剤量が一定になるため、分子量を安定化しやすい点から好ましい。なお、当該方法において、単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤は、各々別に溶剤に添加してもよいし、これらを予め混合した混合物を溶剤に添加してもよい。
【0061】
前記溶剤としては、前記単量体及び前記連鎖移動剤を溶解可能なものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えば、後述する有機溶剤と同様のものを挙げることができる。
また、前記溶剤の添加量は、特に限定はされないが、反応性の点及び取扱い性の点から、溶液中の固形分濃度が5質量%以上80質量%以下となるように調整することが好ましい。
なお、本発明において固形分とは、溶剤以外の全ての成分を意味し、液状のモノマー等も含まれる。
【0062】
前記ラジカル重合させる際の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。不活性ガスとしては、特に限定はされないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0063】
また、前記ラジカル重合させる際の反応温度及び反応時間は、前記単量体及び前記連鎖移動剤の種類及び含有割合等に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、反応温度は、例えば、60℃以上120℃以下の範囲内とすることが好ましく、反応時間は、例えば、30分以上12時間以内とすることが好ましい。
また、前記反応温度に調整した溶剤中に、単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤を滴下して重合反応させる方法が好ましい。
【0064】
<有機溶剤>
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体が含有する有機溶剤は、分散体中の各成分とは反応せず、これらを溶解もしくは分散可能な有機溶剤であればよく、特に限定されない。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系;メトキシアルコール、エトキシアルコール、メトキシエトキシエタノール、エトキシエトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3-メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系;メトキシエチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、メトキシブチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性アミド系;γ-ブチロラクトンなどのラクトン系;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの不飽和炭化水素系;n-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタンなどの飽和炭化水素系などの有機溶剤が挙げられる。
【0065】
これらの中では、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系;プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、エトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3-メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系等を好適に用いることができる。
中でも、本発明に用いられる溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン又はこれらを混合したものが、分散剤の溶解性や塗布適性の点から好ましい。
【0066】
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体に含まれる有機溶剤の含有量は、分散体の各成分を均一に溶解又は分散することができるものであればよく、特に限定されない。本発明においては、該金属酸化物ナノ粒子分散体の固形分濃度が、5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、7質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより更に好ましい。金属酸化物ナノ粒子分散体の固形分濃度が前記範囲内であることにより、塗布に適した粘度とすることができる。
【0067】
<その他の成分>
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、錯化剤、保護コロイド、還元剤、濡れ性向上のための界面活性剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0068】
<焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の製造方法>
本発明において、焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の製造方法は、金属酸化物ナノ粒子が良好に分散できる方法であればよく、従来公知の方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、前記分散剤を前記有機溶媒に溶解又は分散させた分散剤溶液を調製した後、当該分散剤溶液に、金属酸化物ナノ粒子と、必要に応じてその他の成分を混合し、公知の攪拌機、又は分散機等を用いて分散させることによって、本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を調製することができる。
【0069】
<焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体の用途>
本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、分散性及び分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が抑制され、焼成処理による有機成分の分解性が向上したものであることから、焼成による導電膜及び誘電体膜等の形成用途に好適に用いることができる。そのような導電膜及び誘電体膜としては、例えば、コンデンサ、固体電池、配線基板、導電膜、電極、光電変換半導体膜、各種センサー、液晶表示素子等の電子部品が備える導電膜及び誘電体膜を挙げることができる。本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、中でも、例えば、積層セラミックスコンデンサの誘電体、セラミックス固体電池等の酸化物系固体電解質膜の形成用途として好適に用いることができ、薄膜塗工が可能であることから、中でも、誘電体セラミックスシート(グリーンシート)の形成用途として好適に用いることができる。
【0070】
[焼結膜の製造方法]
本発明に係る焼結膜の製造方法は、前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有することを特徴とする。
【0071】
本発明の製造方法により製造される焼結膜は、前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を用いることにより、金属酸化物ナノ粒子の凝集や偏りが低減され、有機成分の残留量が低減された高品質な焼結膜である。
なお、本発明において、前記塗膜は、支持体となる基材上に形成されるものであり、連続層だけでなく、島状に離散した不連続層であっても良い。基材上に形成された塗膜を焼成処理する際には、当該塗膜を基材から剥離して又は剥離せずに、焼成処理を行うことができる。例えば、誘電体セラミックスシート(グリーンシート)の製造においては、基材として離型フィルムを用い、離型フィルムから剥離して得られるシート状の塗膜を積層して積層体を得て、当該積層体を焼結させる方法が好ましい。
塗膜を基材から剥離せずに焼成処理を行う場合、基材上に形成された焼結膜は、基材から剥離して又は剥離せずに、所望の用途に用いることができる。
【0072】
本発明に係る焼結膜の製造方法に用いられる前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物は、少なくとも前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含み、本発明の効果を損なわない範囲において、更に、焼成用バインダー樹脂、及びその他の成分を含有していても良い。
本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体については、前述した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【0073】
前記焼成用バインダー樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル(共)重合体が挙げられる。中でも、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの分岐アルキル基を有するモノマーを重合成分に含んで重合した(メタ)アクリル(共)重合体が好ましく、分散性の観点から、前記分岐アルキル基を有するモノマーと(メタ)アクリル酸などの酸価を有するモノマーとを重合成分に含んで重合した(メタ)アクリル共重合体が更に好ましい。
【0074】
前記その他の成分としては、例えば、本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体が含有していていもよいその他の成分と同様のものが挙げられ、用途に応じて適宜選択して用いられる。
【0075】
本発明に係る焼結膜の製造方法に用いられる基材としては、特に限定されず、例えば、樹脂基材やガラス基材が挙げられる。焼結膜の支持体となる基材としては、ガラス基材が好適に用いられるが、前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、従来よりも低温で焼結が可能であるため、従来焼結膜に対しては適用が困難であった樹脂基材であっても好適に用いることができる。当該樹脂基材としては、中でも、耐熱性に優れた基材であること好ましく、具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。また、誘電体セラミックスシート(グリーンシート)の製造等、塗膜を基材から剥離した後に焼成処理を行う場合においては、前記基材として、離型フィルムを好ましく用いることができる。離型フィルムとしては、公知のものを用いることができ、例えば、離型処理が施された樹脂フィルムを用いることができ、市販品を使用しても良い。離型フィルムの市販品としては、例えば、離型PETフィルム(例えば、東洋紡(株)製、品番E7006等)を挙げることができる。
前記基材の形状は、用途に応じて適宜選択すればよく、平板上であっても、曲面を有するものであってもよい。平板上の基材を用いる場合、当該基材の厚みは、用途に応じて適宜設定すればよく、例えば25μm以上100mm以下程度のものとすることができる。
【0076】
前記本発明に係る焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を含む組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成する際の塗布方法としては、従来公知の方法を適宜選択すればよい。例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、ダイコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷等の方法が挙げられる。中でも、微細なパターニングを行うことができる点から、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、及びインクジェット印刷が好ましい。特に、本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、分散性に優れているため、インクジェットの吐出ノズルにつまりが生じたり、吐出曲がりが生じたりし難いため、インクジェット印刷に適している。
【0077】
得られた塗膜は、従来公知の方法で乾燥してもよい。乾燥後の膜厚は、用途に応じて適宜調整すればよいものであるが、通常、0.01μm以上100μm以下の範囲であり、好ましくは、0.1μm以上50μm以下である。
【0078】
得られた塗膜を焼成処理する工程において、焼成方法としては、従来公知の焼成方法を用いればよく、特に限定はされない。例えば、金属酸化物ナノ粒子同士が焼成する温度に昇温する方法や、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマによる方法等が挙げられる。
焼成温度は、塗膜が含有する金属酸化物ナノ粒子、分散剤及びその他の成分の種類に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、通常、300℃以上600℃以下の範囲であり、好ましくは、350℃以上500℃以下の範囲である。
また、前記分散剤が有する前記一般式(I)で表される構成単位において、前記一般式(I)中のLが-COO-基、Rが-CH-R21で表される1価の基を表し、前記R21が水素原子又はアルキル基である場合は、前記分散剤が分解性に優れることから、不活性雰囲気下でも残留有機分を残ざず焼成することができる。
【0079】
本発明の製造方法により得られる焼結膜の用途は特に限定はされず、例えば、前述した本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体と同様の用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
なお、以下において、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて、N-メチルピロリドン、0.01mol/L臭化リチウム添加/ポリスチレン標準の条件で確認した。
【0081】
(合成例1:分散剤SiP01溶液の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)80質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃に昇温した後、モノマーとしてイソブチルメタクリレート(iBMA)56.67質量部、開始剤としてα,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.57質量部、及び連鎖移動剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製、製品名KBM-803)2.27質量部を含む混合物を1.5時間かけて連続的に滴下した。
その後、合成温度を3時間保持し、115℃に昇温してさらに15分加熱することで、固形分40質量%の分散剤SiP01溶液を得た。得られた分散剤SiP01は、重量平均分子量Mwが7335、数平均分子量Mnが5166、分子量分散度(Mw/Mn)が1.42であった。
【0082】
(合成例2~8:分散剤SiP02溶液~分散剤SiP08溶液の合成)
合成例1において、連鎖移動剤の種類及び配合量と、モノマーの種類を、表1のように変更した以外は、合成例1と同様にして、分散剤SiP02溶液~分散剤SiP08溶液を得た。得られた各分散剤の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及び分子量分散度(Mw/Mn)を表1に示す。
【0083】
また、合成例1~8で得られた各分散剤の構造をH-NMRにより確認した結果、各々下記化学式(1)~(8)で表される高分子化合物であることを確認することができた。なお、下記化学式(1)~(8)において、n1~n8は各々繰り返し単位数を表す。
【0084】
【化11】
【0085】
【表1】
【0086】
なお、表1中の略称は以下の通りである。
KBM803:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製、製品名KBM-803)
iBMA:イソブチルメタクリレート
nBMA:n-ブチルメタクリレート
tBMA:tert-ブチルメタクリレート
2-EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート
iPMA:イソプロピルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
【0087】
(実施例1)
ガラス製規格瓶(No.4、容量37mL)に、ジルコニア(ZrO)粒子(第一稀元素化学工業製、製品名UEP-100、平均一次粒径30nm)を1.5質量部、合成例1で得られた分散剤SiP01溶液(固形分濃度40質量%)を1.1質量部(分散剤SiP01は0.45質量部)、溶媒として酢酸エチル12.4質量部を配合し、2mmのジルコニアビーズを15質量部投入し、ペイントシェーカー(浅田鉄工製)にて1時間プレ分散を行った。さらに0.1mmのジルコニアビーズに入れ替えて6時間本分散することで、焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体(粒子濃度10質量%)を作製した。
【0088】
(実施例2~13、比較例1~11)
実施例2~7及び比較例1~5は、実施例1において、分散剤SiP01溶液に代えて、合成例2~8で得た分散剤SiP02溶液~分散剤SiP08溶液又は表2に示す分散剤を各々用いて、分散剤の配合量が0.45質量部となるように分散剤の添加量を調整し、得られる分散体の粒子濃度が10質量%となるように、酢酸エチルの添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体(粒子濃度10質量%)及び比較例1~5の比較分散体(粒子濃度10質量%)を作製した。
実施例8~13は、実施例1において、ジルコニア粒子に代えて、表2に示す金属酸化物ナノ粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8~13の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体(粒子濃度10質量%)を得た。
比較例6~11は、比較例1において、ジルコニア粒子に代えて、表2に示す金属酸化物ナノ粒子を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例6~11の比較分散体(粒子濃度10質量%)を得た。
【0089】
(評価)
<熱分解性評価>
各実施例及び各比較例で用いた分散剤の熱重量変化をTG-DTA(島津製作所製「DTG-60A」)にて測定した。測定温度30~600℃の条件で、約10mgの分散剤を大気下及び窒素雰囲気下で10℃/分で昇温し、加熱前の分散剤の重量を100%としたときに、分散剤の重量が95%減少したとき(残留している分散剤の重量が5%になったとき)の温度を、分散剤の分解温度とした。比較例4、5で用いた分散剤は、600℃まで昇温しても、残留している分散剤の重量が5%超過であったため、前記分解温度を測定することができなかった。
また、下記評価基準に従って、焼成後の分散剤の残留量を評価した。結果を表2に示す。
(焼成後残留量評価基準)
A:600℃まで昇温したときの分散剤の重量が、加熱前の分散剤の重量の0.1%以下であった。
B:600℃まで昇温したときの分散剤の重量が、加熱前の分散剤の重量の0.1%超過5%以下であった。
C:600℃まで昇温したときの分散剤の重量が、加熱前の分散剤の重量の5%超過10%以下であった。
D:600℃まで昇温したときの分散剤の重量が、加熱前の分散剤の重量の10%超過であった。
【0090】
<分散性評価>
各実施例で得られた焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体及び各比較例で得られた比較分散体において、金属酸化物ナノ粒子の分散粒径と粘度を測定した。分散粒径としては、マイクロトラックベル社製「ナノトラックUPA-EX150」を用いて平均粒径を測定した。粘度としては、Anton Paar社製「レオメータMCR301」を用いて、せん断速度が60rpmのときのせん断粘度を測定した。結果を表2に示す。なお、分散直後に溶剤相と沈降した金属酸化物ナノ粒子相とに相分離し、金属酸化物ナノ粒子を分散することができなかった比較例については、「相分離」と表記する。
【0091】
<沈降物評価>
各実施例で得られた焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体及び各比較例で得られた比較分散体を、室温(25℃)で1週間静置し、静置後の分散体中の沈降物を目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。なお、沈降物が少ないほど分散安定性に優れている。
(沈降物評価基準)
A:沈降物なし
B:沈降物あり
C:相分離
【0092】
【表2】
【0093】
なお、表2に示す各実施例及び各比較例で用いた金属酸化物ナノ粒子は以下の通りである。
ZrO:第一稀元素化学工業製、製品名UEP-100、平均一次粒径 30nm
Al:アルドリッチ社製、平均一次粒径 <50nm
TiO:テイカ製、銘柄MT-05、平均一次粒径 10nm
ITO:CIKナノテック製、平均一次粒径 30nm
CeO:アルドリッチ社製、平均一次粒径 <50nm
ZnO:アルドリッチ社製、平均一次粒径 <50nm
BaTiO:堺化学工業製、製品名BT-01、平均一次粒径 100nm
また、表2に示す比較例2~5で用いた分散剤は以下の通りである。
ビニルトリメトキシシラン:東京化成工業製
KBM503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製、製品名KBM-503
BYK111:ビックケミー社製、製品名DISPERBYK-111、リン酸エステル系分散剤
プライサーフA208F:第一工業製薬製、リン酸エステル系分散剤
【0094】
表2の結果から、分散剤として、前記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に前記一般式(II)で表される加水分解性シリル基を有する高分子化合物を用いた実施例1~13の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体は、金属酸化物ナノ粒子の分散性及び分散安定性に優れ、金属酸化物ナノ粒子の沈降が無く、分散剤の分解温度が低く、加熱後に分散剤が残留しない又はほとんど残留しないものであり、焼成処理による有機成分の分解性が向上した焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体であることが明らかとなった。実施例1~13の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体では、ポリマー鎖末端の加水分解性シリル基が金属酸化物ナノ粒子表面と化学的に吸着し、ポリマー鎖同士が立体反発し合うことで、分散性及び分散安定性に優れていたと考えられる。中でも、実施例1~3、5、7~13は、分散剤が焼成処理後に完全分解するものであり、焼成処理による有機成分の分解性に優れており、また、分散剤の分解温度が低く、低温での焼結が可能なものであった。中でも、実施例1、2、5、8~13は、分散剤の分解温度が更に低く、より低温での焼結が可能なものであった。また、実施例1と実施例2との対比から、前記特定の分散剤として、重量平均分子量Mwが2000以上4000以下のものを用いると、金属酸化物ナノ粒子の分散粒径及び分散体の粘度より低下し、分散性がより向上することが明らかとなった。
比較例1、6~11は、分散剤として、前記一般式(I)で表される構成単位を有するポリマー鎖の主鎖の片末端に、加水分解性シリル基に代えて、ドデシル基を有する高分子化合物を用いたため、金属酸化物ナノ粒子を分散することができず、金属酸化物ナノ粒子が沈降して相分離した。
比較例2、3は、分散剤として、低分子量のシランカップリング剤を用いたため、金属酸化物ナノ粒子を分散することができず、金属酸化物ナノ粒子が沈降して相分離した。比較例2、3では、分散剤の分子量が小さすぎるため、立体反発による金属酸化物ナノ粒子の沈降を抑制することができなかったか、シランカップリング剤同士の縮合反応によって凝集してしまったと考えられる。
比較例4、5は、分散剤として、リン酸エステル系分散剤を用いたため、経時で金属酸化物ナノ粒子の沈降物が生じた。リン酸エステル系分散剤は、リン酸基の吸着力が十分ではなく、また、低分子量であるためと考えられる。また、リン酸エステル系分散剤は、焼成処理をしてもリン酸基が分解されずに残留することから、焼成後に残留する有機成分の量が多くなる傾向があり、焼成用途には適しないことが明らかとなった。
【0095】
(実施例14~18)
実施例14~18では、積層セラミックスコンデンサ用途でセラミックス誘電体として好ましく用いられる、チタン酸バリウムの金属酸化物又はチタン酸ジルコン酸バリウムのナノ粒子を用い、粒子濃度を上げた焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を作製し、分散性を評価した。
実施例14~18は、実施例1において、ジルコニア粒子に代えて、表3に示すように、チタン酸バリウム粒子A(堺化学工業製、製品名BT-01、平均一次粒径100nm)、チタン酸バリウム粒子B(堺化学工業製、製品名KZM-50、平均一次粒径50nm)又はチタン酸ジルコン酸バリウム粒子(堺化学工業製、製品名BZT-01、平均一次粒径50nm)を用い、分散剤SiP01溶液1.1質量部に代えて、表3に示す分散剤の分散剤溶液を、分散剤の質量(D)と金属酸化物ナノ粒子の質量(P)の比(D/P)が表3に示す比率になる量で添加し、表3に示す粒子濃度となるように、酢酸エチルの添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例14~18の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体を得た。
【0096】
実施例14~18で得た焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体について、前記分散性評価及び前記沈降物評価と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
表3の結果から、前記特定の分散剤を用いる本発明の焼成用金属酸化物ナノ粒子分散体では、平均一次粒径が50nm又は100nmの金属酸価物ナノ粒子のいずれも60nm程度まで分散可能であり、金属酸化物ナノ粒子の濃度を50質量%まで増加させても、優れた分散性及び分散安定性を示すことが明らかとなった。