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  • 特許-車体前部構造 図1
  • 特許-車体前部構造 図2
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  • 特許-車体前部構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20221122BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B62D21/15 C
B62D25/08 E
B62D25/08 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018210368
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020075629
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】八代 裕直
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 達哉
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148743(JP,A)
【文献】特開2013-060087(JP,A)
【文献】特開2017-077746(JP,A)
【文献】特開2011-037289(JP,A)
【文献】特開2014-162361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0090126(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018211969(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に位置するパワーユニット搭載ルームの側方で前後方向に延びるフロントサイドメンバを含む車体前部構造において、
前記パワーユニット搭載ルームの後方で車体側面を構成するサイドボディと、
前記サイドボディから車両前方に向かって延び前記フロントサイドメンバの車幅方向外側に離間して配置されているカウルサイドメンバとを更に含み、
前記カウルサイドメンバは、
前記サイドボディから車両前方に向かって前記フロントサイドメンバと平行に延びる後方部と、
前記後方部の前端で屈曲して車両前方に向かうにしたがって下方に延びる前方部とを有し、
前記前方部の上面は平坦であり、前端は前記フロントサイドメンバよりも上方に位置し、車両前方に向かうにしたがって先細りになっていて、
前記カウルサイドメンバの前方部の前端は垂直面となっていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
当該車体前部構造は、前記カウルサイドメンバの前方部の前端と前記フロントサイドメンバとを車幅方向にわたって接続する接続ブラケットを更に含み、
前記接続ブラケットは、車両前方に正対し前記垂直面よりも面積が大きい垂直面を有することを特徴とする請求項に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記カウルサイドメンバの後方部と前方部との境界の側面に周囲よりも脆弱な脆弱形状が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車体前後方向へ延びるフロントサイドフレームと、フロントピラーから車体前方へ向けて延びるサイドメンバとを備える車体前部構造が開示されている。特許文献1では、サイドメンバの前端部を連結部材によってフロントサイドフレームの前端部に連結している。
【0003】
また特許文献1では、サイドメンバに第1屈曲部および第2屈曲部を設け、第1屈曲部と第2屈曲部との間に脆弱部を設けている。特許文献1によれば、このような構成により、衝突時にサイドメンバを略Z字状に折れ曲がるように変形させることができ、衝撃荷重をサイドメンバで吸収できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-77746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、衝突時の荷重が入力されたとき、サイドメンバが真っ先に脆弱部において変形することを考えると、特許文献1では、第1および第2屈曲部と脆弱部との位置関係について詳細な検討がなされているとはいいがたい。すなわち、特許文献1では、サイドメンバの第1屈曲部や第2屈曲部で想定した変形が生じず、衝突荷重の吸収が不十分となるおそれがある。またサイドメンバが想定した変形を生じることによって、サイドメンバの部位ごとに衝突荷重の吸収量をコントロールすることが望まれるところ、特許文献1では、サイドメンバそのものの形状についても改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、カウルサイドメンバをより確実に想定通りに変形させつつ、部位ごとの衝突荷重の吸収量をコントロールすることが可能な車体前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体前部構造の代表的な構成は、車両の前部に位置するパワーユニット搭載ルームの側方で前後方向に延びるフロントサイドメンバを含む車体前部構造において、パワーユニット搭載ルームの後方で車体側面を構成するサイドボディと、サイドボディから車両前方に向かって延びフロントサイドメンバの車幅方向外側に離間して配置されているカウルサイドメンバとを更に含み、カウルサイドメンバは、サイドボディから車両前方に向かってフロントサイドメンバと平行に延びる後方部と、後方部の前端で屈曲して車両前方に向かうにしたがって下方に延びる前方部とを有し、前方部の上面は平坦であり、前端はフロントサイドメンバよりも上方に位置し、車両前方に向かうにしたがって先細りになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カウルサイドメンバをより確実に想定通りに変形させつつ、部位ごとの衝突荷重の吸収量をコントロールすることが可能な車体前部構造を提供することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施例にかかる車体前部構造の全体斜視図である。
図2図1の車体前部構造の拡大図である。
図3図2のフロントサイドメンバより後方の部材を前方から観察した状態を示す図である。
図4図1の車体前部構造を側方から観察した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車体前部構造は、車両の前部に位置するパワーユニット搭載ルームの側方で前後方向に延びるフロントサイドメンバを含む車体前部構造において、パワーユニット搭載ルームの後方で車体側面を構成するサイドボディと、サイドボディから車両前方に向かって延びフロントサイドメンバの車幅方向外側に離間して配置されているカウルサイドメンバとを更に含み、カウルサイドメンバは、サイドボディから車両前方に向かってフロントサイドメンバと平行に延びる後方部と、後方部の前端で屈曲して車両前方に向かうにしたがって下方に延びる前方部とを有し、前方部の上面は平坦であり、前端はフロントサイドメンバよりも上方に位置し、車両前方に向かうにしたがって先細りになっていることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、屈曲箇所が前方部および後方部の境界を成していて、その近傍には、この屈曲箇所のように変形が予定されている脆弱な部分が形成されていないことにより、前方部および後方部の境界でカウルサイドメンバをより確実に屈曲すなわち変形させることができる。したがって、カウルサイドメンバをより確実に想定通りに変形させ、所望の衝突荷重の吸収性能を確保することが可能となる。またカウルサイドメンバのうち、前方部を車両前方に向かうにしたがって先細りになるようにすることにより、前方部の前後方向において衝突荷重の吸収量をコントロールすることができる。
【0012】
そして、前方部の上面が平坦であることにより、カウルサイドメンバが前方部および後方部の境界で屈曲すると、前方部の上面が進行方向に垂直な平面となる。これにより、その垂直な面において衝突荷重を吸収することが可能となる。更に、上記構成では、カウルサイドメンバとフロントサイドメンバが車幅方向で離間している。すなわちカウルサイドメンバとフロントサイドメンバは、直接接合されていない。これにより、カウルサイドメンバの前方部をより確実に下方に向かって変形させ、上述した効果を得ることが可能となる。
【0013】
上記カウルサイドメンバの前方部の前端は垂直面となっている。このように前方部の前端は垂直面となっていることにより、被衝突体を広い面積で受けることができる。したがって、被衝突体における局所的な変形を抑制し、傷害値を大幅に低減することが可能となる。また前方部の前端が面であることにより、衝突荷重がより多く入力される。これにより、前方部および後方部の間の屈曲を促進し、上述した効果をより確実に得ることが可能となる。
【0014】
当該車体前部構造は、カウルサイドメンバの前方部の前端とフロントサイドメンバとを車幅方向にわたって接続する接続ブラケットを更に含み、接続ブラケットは、車両前方に正対し垂直面よりも面積が大きい垂直面を有する。接続ブラケットが、カウルサイドメンバの前方部の前端の垂直面よりも面積が大きい垂直面を備えることにより、接続ブラケットにおいてより広い面積で被衝突体を受けることができる。したがって、被衝突体の局所的な変形をより効果的に抑制することが可能となる。
【0015】
またカウルサイドメンバとフロントサイドメンバとを接続ブラケットによって接続することにより、カウルサイドメンバに取り付けられる周辺の部材の剛性の向上を図ることができる。その結果、周辺の部材において剛性を向上することができる。
【0016】
上記カウルサイドメンバの後方部と前方部との境界の側面に周囲よりも脆弱な脆弱形状が形成されている。これにより、前方部および後方部の境界すなわち屈曲箇所そのものを脆弱箇所とすることができる。したがって、屈曲箇所における変形を促進し、上述した効果をより確実に得ることが可能となる。
【実施例
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施例にかかる車体前部構造100の全体斜視図である。図2は、図1の車体側部構造100の拡大図である。なお、本実施例では、車体(全体は不図示)の右側の側部を例示して説明するが、本発明は左側の側部に対しても適用可能である。また以下の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員を基準とした前後左右上下方向を、Fr、Rr、L、R、Up、Downと示す。
【0019】
図1および図2に示すように、本実施例の車体前部構造100では、車両の前部に位置するパワーユニット搭載ルーム100aの側方に、前後方向に延びるフロントサイドメンバ110が配置されている。
【0020】
図3は、図2のフロントサイドメンバ110より後方の部材を前方から観察した状態を示す図である。図3に示すように、フロントサイドメンバ110の車幅方向外側には、サスペンション(不図示)が固定されるストラットタワー102が配置されている。ストラットタワー102の前側であってフロントサイドメンバ110の車幅方向外側には、フェンダエプロン104が配置されている。
【0021】
図4は、図1の車体前部構造100を側方から観察した状態を示す図である。図4に示すように、パワーユニット搭載ルーム100aの後方には、車体側面を構成するサイドボディ106が配置されている。サイドボディ106の前方には、車両前方に向かって延びるカウルサイドメンバ120が配置されている。図3に示すように、カウルサイドメンバ120は、フロントサイドメンバ110の車幅方向外側に離間して配置されている。
【0022】
図4に示すように、カウルサイドメンバ120は、後方部122および前方部124を有する。後方部122は、サイドボディ106から車両前方に向かってフロントサイドメンバ110と平行に延びる部位である。前方部124は、後方部122の前端で屈曲して車両前方に向かうにしたがって下方に延びる部位である。前方部124および後方部122の境界を屈曲部126と称する。
【0023】
本実施例の車体前部構造100では、図2に示すように、カウルサイドメンバ120は、前方部124の上面124aは平坦である。図4に示すように、前方部124の前端124bはフロントサイドメンバ110よりも上方に位置する。そして、前方部124が、車両前方に向かうにしたがって先細りになっていることにより、前方部124の断面は車両前方に向かうにしたがって小さくなる。
【0024】
上述したように、本実施例の車体前部構造100では、屈曲部126が前方部124および後方部122の境界を成していて、その近傍には、屈曲部126のように変形が予定されている脆弱な部分が形成されていない。これにより、カウルサイドメンバ120を屈曲部126においてより確実に変形させることができる。したがって、所望の衝突荷重の吸収性能を確保することが可能となる。またカウルサイドメンバ120のうち、前方部124の先細りになり、その断面が車両前方に向かうにしたがって小さくなることにより、前方部124の前後方向において衝突荷重の吸収量をコントロールすることができる。
【0025】
更に、上述したように前方部124の上面124aが平坦であることにより、カウルサイドメンバ120が屈曲部126で屈曲すると、図4に示すように、前方部124の上面124aが進行方向に垂直な平面S(二点鎖線にて図示)となる。これにより、その垂直な面において衝突荷重を吸収することが可能となる。
【0026】
また図3に示したように、上記構成では、カウルサイドメンバ120とフロントサイドメンバ110が車幅方向で離間していて、カウルサイドメンバ120とフロントサイドメンバ110は直接接合されていない。これにより、カウルサイドメンバ120の前方部124をより確実に下方に向かって変形させ、上述した効果を得ることが可能となる。
【0027】
更に本実施例の車体前部構造100では、図4に示すように、カウルサイドメンバ120の前方部124の前端124bは垂直面となっている。これにより、被衝突体をより広い面積で受けることができる。したがって、被衝突体における局所的な変形を抑制し、傷害値を大幅に低減することが可能となる。また前方部124の前端124bが垂直面となっていることにより、カウルサイドメンバ120にはより多くの衝突荷重が入力される。これにより、屈曲部126の変形を促進し、上述した効果をより確実に得ることが可能となる。
【0028】
図4に示すように、本実施例の車体前部構造100は、上述した各部材に加え、接続ブラケット130を更に備える。接続ブラケット130は、カウルサイドメンバ120の前方部124の前端124bとフロントサイドメンバ110とを車幅方向にわたって接続する。
【0029】
図3に示すように、接続ブラケット130は、車両前方に正対する垂直面130aを有する。本実施例では、接続ブラケット130の垂直面130aの面積を、前方部124の前端124bの垂直面(破線にて図示)よりも大きくしている。これにより、接続ブラケット130においてより広い面積で被衝突体を受けることができる。したがって、被衝突体の局所的な変形をより効果的に抑制することが可能となる。
【0030】
またカウルサイドメンバ120とフロントサイドメンバ110とを接続ブラケット130によって接続することにより、これにより、カウルサイドメンバ120に取り付けられるフェンダエプロン104の剛性を高めることができる。その結果、フェンダエプロンに取り付けられる部材、例えばエンジンマウント等(不図示)の剛性を高めることができ、NVH(ノイズ・振動・ハーシュネス)性能の向上を図ることが可能となる。
【0031】
更に本実施例では、図4に示すように、カウルサイドメンバ120の屈曲部126の側面に脆弱形状126aを形成している。これにより、屈曲部126は周囲よりも脆弱となる。すなわち屈曲部126そのものが脆弱箇所となる。したがって、屈曲部126における変形を促進し、上述した効果をより確実に得ることが可能となる。
【0032】
なお、本実施例では、脆弱形状126aを、屈曲部126の側面に形成された上下方向に延びる開口(長穴)とすることを想定しているが、これに限定するものではない。したがって、屈曲部126を周囲よりも脆弱とすることができれば、他の手法を用いることも可能である。また脆弱形状126aを長穴とする場合には、進行方向よりも上下方向に傾斜した方向に延びる長穴とすることが好ましい。これにより、屈曲部における変形を促進することが可能となる。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車体前部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
100…車体前部構造、100a…パワーユニット搭載ルーム、102…ストラットタワー、104…フェンダエプロン、106…サイドボディ、110…フロントサイドメンバ、120…カウルサイドメンバ、122…後方部、124…前方部、124b…前端、126…屈曲部、126a…脆弱形状、130…接続ブラケット、130a…垂直面
図1
図2
図3
図4