(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】インレイおよびデュアルインターフェースICカード
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20221122BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20221122BHJP
【FI】
G06K19/077 212
G06K19/077 264
G06K19/077 244
B42D25/305 100
(21)【出願番号】P 2018228076
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂田 直幸
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-124902(JP,A)
【文献】特開2013-8189(JP,A)
【文献】特開2002-342729(JP,A)
【文献】特開2007-188252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
B42D 25/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュアルインターフェースICカードに使用するインレイであって、
インレイの内部に備えられた被覆付導線からなるコイル状のアンテナと、
そのアンテナの両端に接続された導電プレートからなるアンテナ側接続部と、を備えており、
アンテナの最も内側の側面と、アンテナに隣接した導電プレートの側面と、の距離が0.5mm以下であることを特徴とするインレイ。
【請求項2】
前記導電プレートが銅箔からなることを特徴とする請求項1に記載のインレイ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインレイを使用したことを特徴とするデュアルインターフェースICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公共施設や金融機関などで使用されるデュアルインターフェースICカードに使用するインレイに関する。
【背景技術】
【0002】
デュアルインターフェースICカードは、非接触ICカードと接触型ICカードの両方の機能を備えたICカードである。そのため、非接触ICカードと同様に、アンテナを備えている。そのアンテナとしては、安価であるため被覆付導線をコイル状に形成したコイル状アンテナを使用するのが一般的である。
【0003】
被覆付導線によるコイル状アンテナ(以後、単にアンテナとも記す。)をICカードに設置する場合、
図3に例示した様に、アンテナ1-3を形成する被覆付導線の両端部を、繰り返し折り返すことによって矩形をしたプレート状のアンテナ側接続部2´を形成する方式が用いられて来た。そして、アンテナ1-3の一番内側(アンテナ側接続部2´側)のアンテナの側面と、それに面するアンテナ側接続部2´の側面と、の距離は0.5mm以内に設定されるのが通常である。
【0004】
図4は、
図3と同様にアンテナ1-4を形成する被覆付導線の両端部を、繰り返し折り返すことによって矩形をしたプレート状のアンテナ側接続部2´を形成する方式であるが、
図3に例示したアンテナ1-3のハーフサイズのアンテナ1-4の例を示したものである。
図3の場合と同様に、アンテナ1-4の一番内側(アンテナ側接続部2´側)のアンテナの側面と、それに面するアンテナ側接続部2´の側面と、の距離は0.5mm以内に設定されるのが通常である。
【0005】
この様な、被覆付導線の両端部を繰り返し折り返すことによって矩形をしたプレート状のアンテナ側接続部2´においては、ICモジュールとの接続信頼性が十分とは言えないという問題があった。その問題を解決する手段として、アンテナ側接続部2´を銅箔などからなる導電プレートに置き換える事が検討されている。
【0006】
しかしながら、被覆付導線をプレート状に形成したタイプのアンテナ側接続部2´から、
図5および
図6に例示した様な導電プレートタイプのアンテナ側接続部2に変更した場合、アンテナ側接続部2の側面と、アンテナ1-5、1-6のアンテナ側接続部2に最も近い位置にあるアンテナ1-5、1-6の側面と、の距離を2.0mm以上とする必要があった。
【0007】
そのためには、例えば
図5においては、アンテナ1-5のアンテナ側接続部2に最も近接している部分の被覆付導線の配置間隔を狭める必要があった。また、
図6においては、アンテナ1-6のアンテナ側接続部2(
図6において右側のアンテナ側接続部)に、アンテナ1-6と平行に被覆付導線を引き出してアンテナ側接続部2と接続するための被覆付導線を配置する位置を、アンテナ1-6の最も外側の被覆付導線から2.0mm以上離れた位置にする必要があった。
【0008】
その理由は、被覆付導線をICカードのインレイの表面から内部に埋め込む作業を行う際に使用する被覆付導線の埋め込み装置の埋め込みヘッドと、導電プレートとが干渉し、導電プレートが傷つく不具合が発生するためである。
【0009】
しかしながら、この事によって、コイルの形態が変わってしまうため、ICカードの通
信特性が変化してしまう問題がある。通信特性が変化してしまうと、アンテナの設計をやり直さねばならなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の事情に鑑み、本発明は、コイル状アンテナを備えたデュアルインターフェースICカードのアンテナの両端部に備えられた被覆付導線を繰り返し折り返す事により形成したアンテナ側接続部を、アンテナの設計変更をする事無く、導電プレートからなるアンテナ側接続部に置き換えたデュアルインターフェースICカードおよびそれに使用するインレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する手段として、本発明の請求項1に記載の発明は、デュアルインターフェースICカードに使用するインレイであって、
インレイの内部に備えられた被覆付導線からなるコイル状のアンテナと、
そのアンテナの両端に接続された導電プレートからなるアンテナ側接続部と、を備えており、
アンテナの最も内側の側面と、アンテナに隣接した導電プレートの側面と、の離間距離が0.5mm以下であることを特徴とするインレイである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記導電プレートが銅箔からなることを特徴とする請求項1に記載のインレイである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインレイを使用したことを特徴とするデュアルインターフェースICカードである。
【発明の効果】
【0015】
デュアルインターフェースICカードに使用する本発明のインレイによれば、コイル状のアンテナの両端に接続された導電プレートからなるアンテナ側接続部と、アンテナの最も内側の側面と、の離間距離を従来と同じ0.5mm以下とすることができる。そのため、アンテナ側接続部を従来の被覆付導線を繰り返し折り返す事により形成したプレート状のアンテナ側接続部から導電プレートからなるアンテナ側接続部に変更しても、アンテナの形態に何ら変更が無いため、通信特性が変わる事が無い。
【0016】
本発明のデュアルインターフェースICカードによれば、アンテナ側接続部が導電プレートからなるため、高い接続信頼性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のデュアルインターフェースICカードにおける導電プレートからなるアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が0.5mm以内であることを例示する上面図。
【
図2】本発明のデュアルインターフェースICカードにおける導電プレートからなるアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が0.5mm以内であることを例示する上面図。
【
図3】従来のデュアルインターフェースICカードにおけるアンテナの両端部を繰り返し折り返す事によりプレート状にしたアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が0.5mm以内であることを例示する上面図。
【
図4】従来のデュアルインターフェースICカードにおけるアンテナの両端部を繰り返し折り返す事によりプレート状にしたアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が0.5mm以内であることを例示する上面図。
【
図5】
図3における従来のデュアルインターフェースICカードにおける導電プレートからなるアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が2.0mm以上であることを例示する上面図。
【
図6】
図4における従来のデュアルインターフェースICカードにおける導電プレートからなるアンテナ側接続部と、アンテナの最もアンテナ側接続部に近い部分との距離が2.0mm以上であることを例示する上面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<インレイ>
本発明のインレイを
図1および
図2を用いて説明する。
本発明のインレイは、デュアルインターフェースICカードに使用するインレイ10-1、10-2である。
【0019】
インレイ10-1、10-2の内部に備えられた被覆付導線からなるコイル状のアンテナ1-1,1-2と、そのアンテナ1-1、1-2の両端に接続された導電プレートからなるアンテナ側接続部2と、を備えている。
【0020】
アンテナ1-1、1-2の最も内側の側面と、アンテナ1-1、1-2に隣接した導電プレートの側面と、の距離が0.5mm以下であることが特徴である。
【0021】
(被覆付導線)
本発明のインレイ10-1、10-2のアンテナ1-1、1-2で使用する被覆付導線は、銅線をエナメル塗料で被覆したマグネット・ワイヤを好適に使用することができるが、これに限定する必要は無い。銅やアルミニウムなどの金属からなる導線の表面を電気絶縁性の皮膜(以後、絶縁皮膜とも記す。)で被覆したものであれば良い。絶縁皮膜の材料としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂を使用することができる。これらの材料によって耐熱温度が異なるが、要求される仕様に合せて選択すれば良い。
【0022】
(アンテナ)
本発明のインレイ10-1、10-2のアンテナ1-1、1-2は、被覆付導線をコイル状に巻回した形態のアンテナである。
【0023】
(アンテナ側接続部)
本発明のインレイ10-1、10-2におけるアンテナ側接続部2は、一対の銅箔などからなる導電プレートを使用している。アンテナ側接続部2には、アンテナ1-1、1-2の両端部が、それぞれ電気的に接続されている。そのアンテナ側接続部2には、接触型ICモジュールと非接触型ICモジュールの機能を兼ね備えたICモジュールが接続される。また、接触型ICモジュールと非接触型ICモジュールが独立した形態の場合には、非接触型ICモジュール或いは非接触型ICチップがアンテナ1-1、1-2と接続される場合もある。
【0024】
(導電プレート)
本発明のインレイ10-1、10-2における導電プレート(アンテナ側接続部2)は、デュアルインターフェースICカードのICモジュールと電気的に接続するための接続端子である。銅箔をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成した接続端子であっても良いし、アルミニウムや銀からなる金属箔、或いは銅、アルミニウム、銀の中から選択した2種以上の金属箔からなる積層体であっても良い。また、金属粉と樹脂からなる導電性インキを印刷により形成したものであっても良い。
【0025】
<インレイの製造方法>
(第1の態様)
次に、本発明のインレイの製造方法について説明する。
本発明のインレイの製造方法は、被覆付導線を用いたコイル状のアンテナを樹脂基材に敷設したデュアルインターフェースICカードに使用するインレイの製造方法である。
【0026】
本発明のインレイの製造方法は、樹脂基材上に、ICモジュールとの接続端子である金属パターンからなるアンテナ側接続部を形成する工程と、樹脂基材に被覆付導線をコイル状に埋め込むアンテナ敷設工程と、アンテナの両端部をそれぞれアンテナ側接続部に電気的に接続する工程と、を備えている。
【0027】
更に、アンテナ敷設工程は、被覆付導線を樹脂基材に埋め込むことでコイル状のアンテナを形成する被覆付導線の埋め込み装置を使用して実施する工程である。
その埋め込み装置において、被覆付導線を樹脂基材に埋め込む埋め込みヘッドのインレイの平面と平行な方向における大きさが、アンテナの内側と、そのアンテナと直交する方向におけるアンテナ側接続部と、の距離の2倍より小さいことが特徴である。
【0028】
また、埋め込みヘッドの大きさが0.8mm以下であっても良い。
【0029】
例えば、
図1において、図示していない埋め込みヘッドの直径を0.8mmとした場合、アンテナ1-1の一番内側の被覆付導線を埋め込む際に、埋め込みヘッドの中心から片側に半径0.4mmの範囲に埋め込みヘッドが存在することになる。
【0030】
即ち、埋め込みヘッドの直径を0.8mmとした場合、被覆付導線から見て、アンテナ1-1の内側と外側の両側に半径0.4mmの範囲に埋め込みヘッドが存在する。そのため、アンテナ1-2の一番内側の被覆付導線と、アンテナ側接続部2のアンテナ1-2側の側面と、の距離が0.4mm以下の場合、アンテナ側接続部2と埋め込みヘッドが干渉することになる。そのため、両者を離間する距離は0.4mmより大きい事が必要となる。本発明においては、従来の被覆付導電を用いたアンテナ側接続部と同一のアンテナ形態とするため、アンテナ1-2の一番内側の被覆付導線と、アンテナ側接続部2のアンテナ1-2側の側面との離間距離を0.5mm以下としている。埋め込みヘッドの直径を0.8mmより小さくすることにより、アンテナ1-2の一番内側の被覆付導線と、アンテナ側接続部2のアンテナ1-2側の側面との離間距離を、埋め込みヘッドとアンテナ側接続部2とが干渉しない範囲で0.5mmより狭める事が可能であるが、被覆付導線の直径により制限されることになる。
【0031】
これは、アンテナ側接続部2が、従来の被覆付導線を交互に折り曲げることによって作製した場合とアンテナの形態を同等にすることで、アンテナ1-2の形態に変化が生じ、通信特性が変化することを防ぐためである。埋め込みヘッドを走査する際の機械的な精度を含め、埋め込みヘッドの直径を0.8mm以下にすることで、アンテナ1-2の一番内側の被覆付導線と、アンテナ側接続部2のアンテナ1-2側の側面との離間距離を0.5mm以下とすることは可能である。
【0032】
(樹脂フィルム)
本発明のインレイ10-1、10-2に使用する樹脂基材としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムや塩化ビニルフィルムなどを好適に使用することができる
が、これに限定する必要は無い。従来からICカードに使用されてきた樹脂からなるフィルムやシートであれば良い。
【0033】
(金属箔)
本発明のインレイ10-1、10-2に使用するアンテナ側接続部2として使用する導電プレートとしては、銅箔を好適に使用することができるが、これに限定する必要はない。銅、アルミニウム、銀から選択された1種の金属箔または、それら2種以上を積層した複合材料であっても構わない。
【0034】
(埋め込み装置)
被覆付導線をインレイ10-1、10-2の基材にコイル状に埋め込むための埋め込み装置の形態は特に限定されない。埋め込み装置は、埋め込みヘッドを備えている。この埋め込みヘッドを介してインレイ10-1、10-2の基材に被覆付導線を押し付け、且つ被覆付銅線を送り出しながら、所望の方向に走査することにより、所望の形態(巻数とコイルの形状)を備えたコイル状アンテナをインレイの基材に埋め込む装置である。
【0035】
そのため、埋め込み装置は、埋め込みヘッドを、インレイ10-1、10-2の基材の表面に沿って、且つアンテナ1-1、1-2を形成する経路に沿って、インレイ10-1、10-2の基材に押圧しながら、走査することができる手段を備えている。
【0036】
埋め込みヘッドにより、インレイ10-1、10-2の基材に被覆付導線を押し付けながらインレイの基材に埋め込む手段としては、埋め込みヘッドに超音波を伝達して埋め込む手段と、埋め込みヘッドを加熱する事によって埋め込む手段と、がある。何れの手段であっても良いが、後者は、インレイ10-1、10-2が加熱によって変形しない様に、インレイ10-1、10-2の基材を構成する樹脂の温度特性に合せて、温度制御を厳密に実施することが求められる。
【0037】
(第2の態様)
本発明のインレイの製造方法における第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態は、埋め込みヘッドとアンテナ側接続部2が干渉を起こす問題を、埋め込みヘッドを、アンテナ側接続部2と干渉を起こす部位において、アンテナ側接続部2より高く引き揚げて走査し、その部位のアンテナ1-1、1-2をジャンパー線とする手段である。
その様な埋め込みヘッドの動作が可能な埋め込み装置を使用することによって実施可能となる。
【0038】
<デュアルインターフェースICカードの製造方法>
上記で説明したインレイの表裏面に、従来と同様にして1~2層の樹脂シートを積層する。その後、インレイのアンテナ側接続部の位置に、デュアルインターフェースICカード用のICモジュールを設置し、アンテナ側接続部に電気的に接続するため、ザグリ加工などの切削加工により、ICモジュールの外形形状に合わせた凹部を形成する。その後、ICモジュールをその凹部に挿入し、接続し、固定することにより、デュアルインターフェースICカードを製造することができる。
【符号の説明】
【0039】
1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6・・・アンテナ
2・・・アンテナ側接続部(導電プレート)
2´・・・アンテナ側接続部(被覆付導線)
10-1、10-2・・・インレイ