IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7180387スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法
<>
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図1
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図2
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図3
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図4
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図5
  • 特許-スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】スカム堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019001980
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020110814
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-066452(JP,A)
【文献】特開2014-050855(JP,A)
【文献】特開平11-170005(JP,A)
【文献】特開2000-271706(JP,A)
【文献】特開平08-057594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設されるスカム堰であって、
前記溶融金属プール部において前記溶融金属内に浸漬される溶融金属浸漬部を加熱する通電加熱部を備えており、
前記通電加熱部は、前記溶融金属が溶鋼であって、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、以下の(1)式を満足するように加熱可能な構成とされていることを特徴とするスカム堰。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
TL:液相線温度、TS:固相線温度、ΔTm:溶融金属プール部における過熱度
【請求項2】
前記通電加熱部は、導電性耐火物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスカム堰。
【請求項3】
少なくとも前記溶融金属浸漬部の表面に、絶縁耐火物層が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスカム堰。
【請求項4】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスカム堰が、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設されていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項5】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスカム堰を、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設し、
少なくとも鋳造開始前に、前記通電加熱部によって前記溶融金属浸漬部を加熱する構成とされており、
前記溶融金属が溶鋼とされており、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、以下の(1)式を満足するように、前記通電加熱部によって加熱することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
TL:液相線温度、TS:固相線温度、ΔTm:溶融金属プール部における過熱度
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記溶融金属プール部に配設されるスカム堰、このスカム堰を用いた双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば特許文献1、2に示すように、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置において、鋳造を開始する際には、例えば特許文献1、2に示すように、冷却ロール間にダミーシートを挿入しておき、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、ダミーシートに連結するように薄肉鋳片を形成した後、冷却ロールを回転させて、冷却ロール間からダミーシート及びこのダミーシートに連結された薄肉鋳片を引き出す構成とされている。
【0004】
ここで、上述の溶融金属プール部においては、酸化物等が溶融金属プール部の湯面上に浮上して、スカムと称する皮膜状の異物が形成され、このスカムが冷却ロールの周面(詳細には、冷却ロールの周面と凝固シェルとの間。以降、単に冷却ロールの周面と記載する場合がある。)に断続的に巻き込まれるおそれがあった。巻き込まれたスカムは、薄肉鋳片の凝固冷却不均一を生じるので、薄肉鋳片の表面割れ、表面疵、鋳片品質の低下等の原因となる。
そこで、上述の双ロール式連続鋳造装置を用いて薄肉鋳片を鋳造する際に、湯面上のスカムが冷却ロールの周面に巻き込まれることを抑制する技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献3には、溶融金属プール部内の注湯ノズルと冷却ロールの間隙に、板形状のスカム堰を配設し、スカムの巻き込みを抑制する手段が開示されている。
注湯ノズルとメニスカス(溶鋼湯面と冷却ロール接触開始部位、凝固開始点)との間に、冷却ロールの軸方向に対して平行に、スカム堰を浸漬することにより、湯面に浮上したスカムを堰止めることが可能となる。なお、溶融金属は浸漬したスカム堰の下部を通って、メニスカスに達するので、湯面のスカム巻込みが大幅に防止され、健全な鋳片が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-224847号公報
【文献】特開平07-232243号公報
【文献】特開平04-158959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、鋳造が開始され、溶融金属が注湯ノズルから溶融金属プール部に吐出されると、溶融金属の湯面レベルが次第に上昇し、注湯ノズルやスカム堰が溶融金属に浸漬する。一般に、鋳造開始時には、注湯ノズルは予熱されているが、スカム堰は予熱されない。スカム堰は、冷却ロールとの距離が近く、設置位置の精度が必要であるので、冷却ロールを囲むフレームに確実に固定することが必要であるが、鋳造開始直前まで別の場所で予熱して、直前にフレームに迅速に固定することが困難である。このため、スカム堰は、予熱せずにあらかじめ所定位置に固定されている。
【0008】
よって、鋳造開始直後に吐出された溶鋼は、溶融金属プール部において湯面が次第に上昇して、予熱されていないスカム堰に触れる。すると、スカム堰周辺の溶融金属の温度が低下し、スカム堰の表面に地金が付着することがある。
この地金が、鋳造中に巻き込まれて、ホットバンドを引き起こすと、鋳片破断、操業停止に至る。このため、スカム堰による溶鋼温度低下、地金生成を防止することが、鋳造スタート安定化に重要である。
【0009】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、少なくとも鋳造開始時において、スカム堰の表面における地金の発生を抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能なスカム堰、このスカム堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るスカム堰は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設されるスカム堰であって、前記溶融金属プール部において前記溶融金属内に浸漬される溶融金属浸漬部を加熱する通電加熱部を備えており、前記通電加熱部は、前記溶融金属が溶鋼であって、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、以下の(1)式を満足するように加熱可能な構成とされていることを特徴としている。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
TL:液相線温度、TS:固相線温度、ΔTm:溶融金属プール部における過熱度
【0011】
この構成のスカム堰によれば、前記溶融金属プール部において前記溶融金属内に浸漬される溶融金属浸漬部を加熱する通電加熱部を備えているので、通電加熱部によって、溶融金属に浸漬される前記溶融金属浸漬部を予熱することができ、スカム堰の表面に地金が厚く(本発明では1mm以上とする)形成されることを抑制できる。仮に地金がスカム堰表面に付着しても予熱しない場合に比べて薄いので、注湯ノズルからの溶融金属の吐出流によって、地金を容易に除去することができる。本来、スカム堰は、注湯ノズルからの吐出流がスカムを冷却ロールまで直接移送しないように堰き止めるために、注湯ノズルの吐出口に対向して配設するが、本発明では付着地金除去のためにも、注湯ノズルの吐出口に対向する位置に配設することが必要である。
よって、鋳造中に厚い地金が凝固シェルに巻き込まれることを抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能となる。
前記溶融金属が溶鋼とされ、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、上述の式を満足するように、前記通電加熱部によって加熱可能とされているので、スカム堰の表面に形成される地金の固相率が高くなることを抑制でき、前記注湯ノズルからの溶鋼の吐出流によって、容易に地金を除去することが可能となる。よって、地金の巻き込みをさらに的確に抑制することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明のスカム堰においては、前記通電加熱部は、導電性耐火物で構成されていることが好ましい。
この場合、前記通電加熱部が導電性耐火物で構成されているので、通電加熱部をスカム堰の一部として構成することができる。
これにより、通電加熱部によって、前記堰本体の溶融金属浸漬部を的確に加熱することができ、スカム堰の表面に地金が厚く形成されることをさらに抑制できる。
【0013】
また、本発明のスカム堰においては、少なくとも前記溶融金属浸漬部の表面に、絶縁耐火物層が形成されていてもよい。
この場合、前記溶融金属浸漬部の表面に絶縁耐火物層が形成されているので、鋳造中に通電加熱を実施しても溶融金属側に電流が漏れることがなく、鋳造中も前記溶融金属浸漬部を加熱することが可能となる。
【0014】
本発明の双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、上述のスカム堰が、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設されていることを特徴としている。
【0015】
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、上述のスカム堰が、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設されているので、鋳造開始時等に、スカム堰の表面に地金が生成することを抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能となる。また、スカムが凝固シェルに巻き込まれることを抑制でき、高品質な薄肉鋳片を製造することが可能となる。
【0016】
本発明の薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、注湯ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスカム堰を、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設し、少なくとも鋳造開始前に、前記通電加熱部によって前記溶融金属浸漬部を加熱する構成とされており、前記溶融金属が溶鋼とされており、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、以下の(1)式を満足するように、前記通電加熱部によって加熱することを特徴としている。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
TL:液相線温度、TS:固相線温度、ΔTm:溶融金属プール部における過熱度
【0017】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、上述のスカム堰を、前記注湯ノズルの吐出口に対向するように、前記溶融金属プール部内に配設しているので、スカムが凝固シェルに巻き込まれることを抑制でき、高品質な薄肉鋳片を製造することが可能となる。
また、少なくとも鋳造開始前に、前記通電加熱部によって前記堰本体の前記溶融金属浸漬部を加熱するので、鋳造開始時等に、スカム堰の表面に地金が生成することを抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能となる。
前記溶融金属が溶鋼とされ、前記溶融金属浸漬部の表面温度Tsfが、上述の式を満足するように、前記通電加熱部によって加熱しているので、スカム堰の表面に形成される地金の固相率が高くなることを抑制でき、前記注湯ノズルからの溶鋼の吐出流によって、容易に地金を除去することが可能となる。よって、地金の巻き込みをさらに的確に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
上述のように、本発明によれば、少なくとも鋳造開始時において、スカム堰の表面における地金の発生を抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能なスカム堰、このスカム堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ロール式連続鋳造装置の一部拡大説明図である。
図3図1に示す双ロール式連続鋳造装置の溶鋼プール部の断面説明図である。
図4図2に示す溶鋼プール部の上面説明図である。
図5】本発明の実施形態であるスカム堰の説明図である。(a)が正面図、(b)が側面図である。
図6】本発明の実施形態であるスカム堰の各種構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。なお、鋼種としては、例えば0.001~0.01%C極低炭鋼、0.01~0.10%C低炭鋼、0.10~0.4%C中炭鋼、0.4~1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0~3.5%Si方向性電磁鋼、0.1~6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0024】
本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ロール式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12,12及び13,13と、一対の冷却ロール11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ロール11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する注湯ノズル19と、を備えている。
【0025】
ここで、図3に示すように、溶鋼プール部16には、溶鋼3が貯留されており、溶鋼面には、アルミナ皮膜等からなるスカムXが形成されている。
このスカムXが冷却ロール11に巻き込むことを抑制するために、溶鋼プール部16には、スカム堰20が配設される。詳述すると、図2から図4に示すように、スカム堰20は、矩形平板状をなしており、注湯ノズル19と冷却ロール11、11との間に配置され、その一部が溶鋼3内に浸漬されている。
【0026】
図5に、本実施形態であるスカム堰20の一例を示す。図5に示すスカム堰20は、堰本体21と、溶鋼3に浸漬される溶鋼浸漬部20aを加熱する通電加熱部22を備えている。
なお、溶鋼浸漬部20aとは、溶鋼プール部16中の溶鋼3に浸漬される領域であり、予め想定されたスカム堰20の浸漬深さDから規定すれば良い。
堰本体21は、強度と耐熱性を有し、熱変形の少ない材料で構成されている。具体的には、アルミナ、ジルコニア等の酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、黒鉛、および、これらの複合材料を用いることができる。例えば、アルミナグラファイト(AG)が入手しやすいため広く使用される。
【0027】
通電加熱部22は、導電性の材料で構成されており、この通電加熱部22に通電することによって生じるジュール熱により、上述の溶鋼浸漬部20aを加熱する構成とされている。
なお、本実施形態であるスカム堰20においては、通電加熱部22は、例えば、アルミナグラファイト(例えば、C含有量が10~30mass%)、ジルコニアグラファイト(例えば、C含有量が10~40mass%)、ZrB-C(例えば、C含有量が0~95mass%)等の導電性耐火物で構成されていることが好ましい。
【0028】
ここで、本実施形態であるスカム堰20の構造は、図5に限られるものではない。スカム堰20の各種構造について、図6を用いて説明する。なお、図6において、ハッチングされていない部分が堰本体21であり、ハッチング部が通電加熱部22である。
まず、図6においては、通電加熱部22の配設箇所によって、スカム堰20を、以下のA型、B型、C型、D型の4つの形態に分類している。
A型:溶鋼浸漬部20aに通電加熱部22を配設した構造
B型:溶鋼浸漬部20aの上方に通電加熱部22を配設した構造
C型:スカム堰20の全面に通電加熱部22を配設した構造
D型:スカム堰20の幅方向両端部に通電加熱部22を配設した構造
【0029】
また、図6においては、通電加熱部22の配置方法によって、スカム堰20を、以下のI型、II型、III型、IV型の4つの形態に分類している。
I型:スカム堰20の一方の面側に通電加熱部22を配置
II型:スカム堰20の厚さ方向全体に通電加熱部22を配置
III型:幅方向両端側から通電加熱部22(又は堰本体21)を挟み込み
IV型:堰本体21の一方の面に通電加熱部22を載置
【0030】
ここで、溶鋼浸漬部20aに通電加熱部22を配設した構造とされたA型においては、溶鋼3中に浸漬された際に通電すると、通電した電気が溶鋼3側へと漏洩することなる。このため、鋳造開始前まで通電加熱部22に通電して加熱することが好ましい。
なお、溶鋼浸漬部20aの表面に絶縁耐火物層を形成した場合には、鋳造中に通電して加熱することが可能となる。
【0031】
また、溶鋼浸漬部20aの上方に通電加熱部22を配設した構造とされたB型においては、通電加熱部22は溶鋼3中に浸漬されないことから、鋳造開始前から鋳造中においても通電加熱部22に通電して加熱することが可能となる。なお、溶鋼浸漬部20aを直接加熱することなく熱伝導によって加熱するために、通電加熱部22での発熱量を多くする必要がある。
【0032】
スカム堰20の全面に通電加熱部22を配設した構造とされたC型においては、スカム堰20全体を効率良く加熱することが可能となる。
このC型においても、溶鋼浸漬部20aにも通電加熱部22が配設されることになるため、鋳造開始前まで通電加熱部22に通電して加熱することが好ましい。
また、溶鋼浸漬部20aの表面に絶縁耐火物層を形成した場合には、鋳造中に通電して加熱することが可能となる。
【0033】
スカム堰20の幅方向両端部に通電加熱部22を配設した構造とされたD型においては、溶鋼流動が淀みやすいサイド堰15近傍において、スカム堰20を効率的に加熱することができ、地金の発生を抑制することが可能となる。
このD型においても、溶鋼浸漬部20aにも通電加熱部22が配設されることになるため、鋳造開始前まで通電加熱部22に通電して加熱することが好ましい。
また、溶鋼浸漬部20aの表面に絶縁耐火物層を形成した場合には、鋳造中に通電して加熱することが可能となる。
【0034】
スカム堰20の一方の面側に通電加熱部22を配置したI型においては、通電加熱部22が配設された側の面が効率的に加熱されることになる。ここで、注湯ノズル19に対向する側の面は、注湯ノズル19からの溶鋼流動によって加熱されることから、I型の場合には、通電加熱部22を配置した一方の面が冷却ロール11側を向くように、スカム堰20を設置することが好ましい。ここで、堰本体21と通電加熱部22とは、接着剤等を用いて接合されることになる。
なお、図5に示すスカム堰20は、A型I型に該当する。
【0035】
スカム堰20の厚さ方向全体に通電加熱部22を配置したII型においては、スカム堰20の両面を効率的に加熱することが可能となる。
ここで、堰本体21と通電加熱部22とは、接着剤等を用いて接合されることになる。
なお、C型II型においては、スカム堰20全体が通電加熱部22で構成されることになる。
【0036】
幅方向両端側から通電加熱部22(又は堰本体21)を挟み込む構造とされたIII型においては、通電加熱部22を所定の位置に固定することが可能となる。
なお、D型III型においては、通電加熱部22によって堰本体21が挟み込まれて固定されることになる。
【0037】
堰本体21の一方の面に通電加熱部22を載置する構造とされたIV型においては、堰本体21を加工する必要が無いので、通電加熱部22を比較的容易に配置することが可能となる。ただし、スカム堰20の表面に凹凸が形成されたり、スカム堰20自体の厚さが厚くなったりすることから、取り扱いに注意が必要である。
【0038】
以上のように、通電加熱部22の配設位置及び方法については、昇温効率、製造性、製造コスト、通電加熱部22への通電のしやすさ、等を考慮して、適宜選択することが好ましい。
【0039】
通電加熱部22に通電するために、通電加熱部22の2ヶ所、一般には幅方向の両側に、電源ケーブルを接続した通電用電極を配設する。電極は、電気抵抗が小さく、耐熱性、耐熱衝撃性に優れた材料、例えば黒鉛やZrB-C(C:0~95mass%)を用いることができる。
通電加熱部22(導電性耐火物)への電極の配設方法は特に規定しないが、(a)通電加熱部22に電極を押付けて圧着したり、(b)電極(黒鉛電極等加工できる材質のもの)をねじ加工し、通電加熱部22にねじ穴をあけて、両者をねじ止めしたり、(c)電気抵抗の低い耐熱性接着剤で接着したりする方法がある。電源ケーブルを通じて、双ロール式連続鋳造装置10の機側に設置した電源盤から給電する。
【0040】
次に、本実施形態であるスカム堰20を備えた双ロール式連続鋳造装置10による薄肉鋳片1の製造方法について説明する。
【0041】
双ロール式連続鋳造装置10においては、図1から図4に示すように、上述のスカム堰20が、注湯ノズル19の吐出口に対向するように、溶鋼プール部16内に配設される。すなわち、注湯ノズル19の吐出口の幅長さに対応する位置に、スカム堰20が配設されることになる。吐出口の幅長さは、吐出口が片側単一であれば、その吐出口の幅長さであり、片側当たり複数の吐出口から構成されていれば、片側当たりの全ての吐出口が含まれる領域全体の幅長さである。吐出口に対向する位置にスカム堰20を配設するとは、上記の意味である。
また、スカム堰20の浸漬深さDは3mm以上とすることが好ましい。さらに、図4に示すように、スカム堰20は、冷却ロール11の回転軸と平行に延在するように、配置することが好ましい。
これにより、スカムXが、直接、冷却ロール11/凝固シェル5間に巻き込まれることを抑制できる。
【0042】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0043】
本実施形態においては、少なくとも鋳造開始前に、スカム堰20において、通電加熱部22によって溶鋼浸漬部20aを加熱する。
そして、本実施形態では、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfが、以下の(1)式を満足するように、通電加熱部22によって加熱することが好ましい。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
TL:液相線温度、TS:固相線温度、ΔTm:溶鋼プール部における過熱度
【0044】
以下に、上述の(1)式について説明する。
スカム堰20の表面に溶鋼3が接触し、冷却されて凝固が進行し、地金が生成する場合を考える。スカム堰20の表面に接触した溶鋼3は、液相線温度TLで凝固が開始し、固相線温度TSで凝固が完了する。液相線温度TLから固相線温度TSまでの温度域は固液共存域であり、温度低下につれて、固相率が増加する。
【0045】
凝固中の固液共存範囲の組織形態は、固相率が0.3以上で、隣接する固相(一般にデンドライト組織)が連結し始める。固相率が0.3以上0.7以下の範囲では、固相間の液相は流動でき、固相同士の結合は弱い。そのため、この状態の地金は、溶鋼3の流動などでスカム堰20の表面から容易に剥離できる。一方、固相率が0.7を超えて凝固が進行すると、固相間の結合が進み、固相間に液相が閉じ込められて孤立して分布する形態となる。このような形態では、固相間の結合が堅固なので、地金がスカム堰20の表面から剥離することが困難である。
【0046】
したがって、スカム堰20の表面から地金を容易に剥離するためには、固相間の結合が比較的弱い固相率0.7以下の状態とすること、すなわち、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfを、固相率0.7となる温度以下にしないことが有効である。
よって、鋳造開始時に,スカム堰20に接触して冷却された溶鋼3が,固相率0.7以下の状態になるように通電加熱部22で加熱して、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfを確保する。
【0047】
まず、溶鋼3が凝固するために必要な熱量(エンタルピー)について説明する。溶鋼3が凝固するためには、
(a)溶鋼過熱度ΔTmだけ冷却し、液相線温度TLに下げるだけの熱量と、
(b)凝固潜熱60kcal/kgと、
(c)TL-TSの温度差(凝固温度範囲)に相当する熱量と、
の合計熱量を抜熱することが必要である。
【0048】
熱量はエンタルピーであり、(a)と(c)の単位重量当たりのエンタルピーは、溶鋼比熱0.197kcal/kg/Kに温度変化を乗じた値である。すなわち、(a)のエンタルピー:H(a)=0.197×ΔTm、(c)のエンタルピー:H(c)=0.197×(TL-TS)となる。また、純鉄の凝固潜熱L(エンタルピー)は60kcal/kgであり、溶鋼3の比熱を用いて換算すると,凝固潜熱は304℃の溶鋼3の温度変化に相当する。そこで、H(a)とH(c)と同じ形式で表示して、H(b)=0.197×304で近似する。
固相率=0(液相線温度TL)から固相率0.7まで増加する際のエンタルピー変化は、H(b)とH(c)の合計の7割である。実用上、スカム堰20の溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfの管理には、温度表示が簡便であるので、エンタルピーを比熱で割って、温度変化に換算する。
【0049】
次に、過熱度ΔTmの溶鋼3が、溶鋼温度より低温のスカム堰20表面に接触し、抜熱される場合の熱エネルギーバランスを計算する。前提として、スカム堰20の耐火物(厚みは一般に5~15mm、10mm前後のものが多い。)と、スカム堰20に接する同厚み(幅方向が同一なので体積は同一)の溶鋼3との間の熱エネルギーバランスを想定する。一般に、スカム堰20に付着する地金厚みが最大で片面側5mm以下、両側合計で10mm以下であるため、上述の想定は妥当である。
【0050】
ここで、溶鋼3と比べると、スカム堰20の耐火物の熱伝導率λは低く、約1/2以下である。スカム堰の厚み方向の温度分布の浸透深さδは√λに比例するので、スカム堰20の耐火物内の温度分布の浸透深さは、溶鋼の1/√2≒0.71である。したがって、熱エネルギーバランスの計算ではスカム堰20の表層から耐火物厚みの0.71倍を考慮すればよい。
【0051】
以下の計算では、スカム堰内部の温度分布は一定と仮定する。実際には、スカム堰20の耐火物の熱伝導のため表層ほど温度が高めとなるので、この仮定の方が、現実よりも溶鋼3が強く冷却される厳しい条件となっている。
スカム堰20に使用される耐火物の比熱(kcal/kg/K)は、アルミナグラファイト(AG):約0.3、BN:0.31、ZrO:0.14などであるので、0.3kcal/kg/Kを代表値と見なす。
【0052】
スカム堰20の溶鋼浸漬部20aが溶鋼3から熱エネルギーを受け取って、ΔT(R)だけ温度上昇すると、スカム堰20の耐火物が受け取るエンタルピーは、(2)式で表される。
(2)式:H(R)=0.3×ΔT(R)×0.71
最後の0.71は,温度分布の浸透深さを考慮したものである。
【0053】
H(R)を受け取った後の溶鋼浸漬部20aの温度が、鋳造鋼種の固相率0.7である温度T(0.7)以上に昇温すれば、スカム堰20の表面に付着した地金の温度がT(0.7)以下にはならない。
したがって、スカム堰20の溶鋼浸漬部20aの表面温度TsfをT(0.7)-ΔT(R)以上に予熱すれば、付着地金を容易に剥離することができる。
(3)式:Tsf≧T(0.7)-ΔT(R)
【0054】
次に、ΔT(R)を求める。溶鋼3から耐火物に熱エネルギーが移動し、TL+ΔTmから、固相率が0.7となる温度T(0.7)まで温度低下する。T(0.7)は、以下の(4)式で表される。
(4)式:T(0.7)=TL-0.7×(TL-TS)
【0055】
この場合のエンタルピー変化は、(5)式で表される。
(5)式:0.197×ΔTm+0.7×{H(b)+H(c)}
=0.197×[ΔTm+0.7×{304+(TL-TS)}]
【0056】
(2)式と(5)式は等しいので,ΔT(R)は(6)式で表される。
(6)式:ΔT(R)=(0.197/0.3/0.71)×[ΔTm+0.7×{304+(TL-TS)}]
【0057】
(4)式と(6)式を(3)式に代入することにより、上述の(1)式が得られる。
(1)式:Tsf≧TL-0.7×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.7×(304+TL-TS))
【0058】
以上のように、(1)式は、スカム堰20の表面に地金が生成する際に排出する凝固潜熱を考慮して、付着地金の固相率を0.7以下に抑えるための条件を規定した式である。付着地金の固相率を0.7以下にできるので、注湯ノズル19の吐出流により、容易にスカム堰20の表面から地金を剥離することができる。
なお、スカム堰20は、スカムXが、直接、凝固シェル5に巻き込まれることを防ぐために、注湯ノズル19の吐出口に対向する位置に配置されていることから、注湯ノズル19からの吐出流を有効に活用することができる。すなわち、吐出流がスカム堰20にあたることで、吐出流が持つ熱エネルギーによって付着地金の温度が上昇し融解し易くなり、スカム堰20表面から剥離し易くなる。さらに、吐出流の運動エネルギーによって機械的にスカム堰20表面から剥離し易くなる。この2つの効果も考慮して本発明は構成されている。
【0059】
なお、スカム堰20の表面に付着する地金の固相率を0.5以下とする場合には、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfが、以下の(11)式を満足するように、通電加熱部22によって加熱することが好ましい。
(11)式:Tsf≧TL-0.5×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.5×(304+TL-TS))
【0060】
また、スカム堰20の表面に付着する地金の固相率を0.3以下とする場合には、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfが、以下の(21)式を満足するように、通電加熱部22によって加熱することが好ましい。
(21)式:Tsf≧TL-0.3×(TL-TS)-0.92×(ΔTm+0.3×(304+TL-TS))
【0061】
溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfを管理するために、溶鋼浸漬部20aに熱電対を取り付けて測温してもよい。また、溶鋼3に直接浸漬はしないが溶鋼浸漬部20aに近い部位に熱電対を取り付けて、表面温度を管理しても良い。この場合は、熱電対取り付け位置と、溶鋼浸漬部20aとの温度差を事前に測温しておけば溶鋼浸漬部20aの表面温度を把握できる。あるいは、放射温度計を用いて非接触で測温しても良く、測温手段は問わない。また、スカム堰20の幅方向で温度分布があれば、地金が付着しやすい最低温度部の表面温度が(1)式を満足するように加熱すれば良い。
【0062】
以上のような構成の本実施形態に係るスカム堰20においては、通電加熱部22によって溶鋼浸漬部20aを予熱することができ、スカム堰20の表面に地金が厚く形成されることを抑制できる。また、地金が強固に付着しないため、注湯ノズル19からの溶鋼3の吐出流によって、地金を容易に除去することができる。
よって、鋳造中に厚い地金が凝固シェル5に巻き込まれることを抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能となる。
【0063】
また、本実施形態では、通電加熱部22が導電性耐火物で構成されているので、耐火物で構成された堰本体21と一体に成形することができる。また、堰本体21の少なくとも一部を導電性耐火物で構成することで通電加熱部22を構成することができる。さらに、スカム堰20全体を導電性耐火物で構成して通電加熱部22とすることもできる。
よって、通電加熱部22によって、溶鋼浸漬部20aを的確に加熱することができ、スカム堰20の表面に地金が厚く形成されることをさらに抑制できる。
【0064】
また、本実施形態のスカム堰20において、少なくとも溶鋼浸漬部20aの表面に、絶縁耐火物層が形成された場合には、鋳造中に通電加熱を実施しても溶鋼3側に電流が漏れることがなくなるため、鋳造中も通電加熱部に通電して溶鋼浸漬部20aを加熱することが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、上述のスカム堰20が、注湯ノズル19の吐出口に対向するように、溶鋼プール部16内に配設されているので、鋳造開始時等に、スカム堰20の表面に地金が生成することを抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能となる。また、スカムXが凝固シェル5に巻き込まれることを抑制でき、高品質な薄肉鋳片1を製造することが可能となる。
【0066】
また、本実施形態において、溶鋼浸漬部20aの表面温度Tsfが、上述の(1)式を満足するように、通電加熱部22によって加熱した場合には、スカム堰20の表面に生成する地金の固相率を0.7以下とすることができる。このように、スカム堰20の表面に生成する地金の固相率を低くすることで、注湯ノズル19からの溶鋼流によって地金を容易に剥離することができ、地金が厚く成長することが抑制可能となる。よって、地金の巻き込みをさらに的確に抑制することが可能となる。
【0067】
以上、本発明の実施形態であるスカム堰、双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【実施例
【0068】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0069】
C;0.08質量%、Si;0.6質量%、Mn;2.2質量%、P;0.01質量%、S;0.005質量%、Al;0.03質量%を含有する炭素鋼からなる薄肉鋳片を、上述の実施形態に示す双ロール式連続鋳造装置を用いて製造した。平居の式より計算すると、液相線温度TL=1513℃、固相線温度TS=1472℃である。
以下に、薄肉鋳片の製造方法の共通の条件を示す。
【0070】
冷却ロールの直径:1200mm
鋳造幅:800mm
鋳造厚み:平均2.0mm
鋳造速度:平均50m/min
鋳造雰囲気:Ar+N
鋳造量:10トン
湯面レベル弧角:40deg
溶鋼と冷却ロールドラムの接触弧長:419mm
注湯ノズル外寸幅:400mm
注湯ノズル吐出口:幅350mm、高さ15mmの片側単一のスリット形状。浸漬時は、吐出口上端が深さ10mm。
溶鋼プール部の狙い溶鋼温度:1543℃(上記溶鋼の液相線温度TL=1513℃なので、狙い過熱度は30℃)
【0071】
そして、スカム堰として、表1に示す材質のものを用いた。なお、本実施形態においては、試験No.21とNo.22以外は、スカム堰全体を導電性耐火物(AG:アルミナグラファイト。C量:20mass%)で構成して通電加熱部とした。通電用電極は、先端をねじ加工した黒鉛電極をAG製スカム堰の溶鋼浸漬部の幅方向両側にねじ止めして配設した。試験No.22は、非導電性のBNで構成したものとした。
【0072】
なお、スカム堰の厚みは10mmとした。スカム堰の幅、スカム堰が配置された幅方向位置、浸漬深さ(湯面レベル40deg時)は、表1に示すものとした。スカム堰が配置された幅方向位置は、スカム堰が存在する範囲を薄肉鋳片の一方の端からの距離で表示した(表1)。したがって、スカム堰の幅方向の中央位置は、試験No.25、26を除き、薄肉鋳片の幅方向中央位置、すなわち400mmである。注湯ノズル吐出口は幅350mmであり、ノズルは幅中央に配置している。ノズル吐出口の幅方向位置を、スカム堰と同様に薄肉鋳片の一方の端からの距離で表すと、225~575mmの位置にある。したがって、少なくとも、この範囲全体に亘ってスカム堰があれば、吐出口全体にスカム堰が対向することになる。試験No.1は、吐出口と同じ幅のスカム堰が吐出口の全体に亘って対向した例である。そして、試験No.2~11は吐出口の幅350mmより広いスカム堰が、吐出口の全体に亘って対向した例である。溶鋼浸漬部の表面温度は、鋳造開始直前の通電加熱時に放射温度計で測温して表1に記載した。
【0073】
以上のような条件で薄肉鋳片の鋳造を実施し、スカム堰の地金付着状況、ホットバンドの発生個数、スカム巻き込み面積率、表面割れの個数について、以下のようにして評価した。
【0074】
(スカム堰の地金付着状況)
鋳造終了後のスカム堰の表面を目視観察し、地金の付着状況を確認した。地金が確認されなかった場合を「A」、溶鋼浸漬部の湯面相当位置近傍のみ、あるいは浸漬部の面積率20%未満に地金の付着が確認された場合を「B」、溶鋼浸漬部の面積率20%以上に地金の付着が確認され、かつ地金の最大厚みが1mm未満の場合を「C」、溶鋼浸漬部の面積率20%以上に地金の付着が確認され、かつ地金の最大厚みが1mm以上場合を「D」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0075】
(ホットバンドの発生個数)
鋳造開始から1分間に発生したホットバンドの発生個数を、記録ビデオから測定した。評価結果を表1に示す。
【0076】
(スカム巻き込み面積率)
定常部の薄肉鋳片の長さ1mの全幅の表面を目視観察して、スカム巻き込み部をマーキングし、画像処理によって面積率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0077】
(表面割れの個数)
定常部の薄肉鋳片の長さ1mの全幅の表面を目視観察及び8倍ルーペ観察し、長さ2mm以上の割れの1m当たりの個数を評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
試験No.21においては、スカム堰を使用しなかったため、スカムを多量に巻き込み、鋳片割れが多かった。なお、試験No.21で生じたホットバンドは、サイド堰表面に生成した地金が巻き込まれて発生したものであって、スカム堰と無関係である。
試験No.22においては、非導電性耐火物であるBN製のスカム堰を用いたものであり、通電加熱部を有さないものである。このため、通電加熱によって予熱することができず、溶鋼浸漬部に多量の地金が付着し、この地金が剥離して巻き込まれることによってホットバンドが多発した。なお、スカム堰としての条件(幅、位置、浸漬深さ)は十分であったため、冷却ロール周面へのスカム巻込みを十分に抑制できた結果、スカム巻込み面積率は10%以下で、薄肉鋳片の表面割れもなかった。
【0080】
試験No.23においては、通電加熱を実施しなかったため、溶鋼浸漬部に多量の地金が付着し、この地金が剥離して巻き込まれることによってホットバンドが多発した。スカム堰としての条件(幅、位置、浸漬深さ)は十分であったため、冷却ロール周面へのスカム巻込みを十分に抑制できた結果、スカム巻込み面積率は10%以下で、薄肉鋳片の表面割れもなかった。
【0081】
試験No.24においては、通電加熱によって溶鋼浸漬部を加熱したため、地金の付着は抑えられた。しかし、スカム堰の幅がノズル吐出口より狭かったため、スカム堰幅を超えた部位から、冷却ロール側にスカムが直接移送されて巻き込まれた。
試験No.25においては、通電加熱によって溶鋼浸漬部を加熱したため、地金の付着は抑えられた。しかし、スカム堰幅は550mmでノズル吐出口幅を上回っていたが、幅方向位置が適切でなくノズル吐出口の幅全体に対向していなかった。そのため、対向していない部分からスカムが冷却ロールに直接巻き込まれた。
試験No.26は、通電加熱によって溶鋼浸漬部を加熱したため、地金の付着は抑えられた。しかし、スカム堰を幅中央に配置せず、幅100mmのスカム堰を2個、両側のエッジ部近傍の三重点近傍(薄肉鋳片の一方の端からの距離で示した幅方向位置では20~120mmと、680~780mmとの2ヶ所)に配置したため、冷却ロール幅の中央部からスカムを多量に巻き込み、割れが発生した。
【0082】
これに対して、試験No.1~11においては、通電加熱によって溶鋼浸漬部を加熱したため、溶鋼浸漬部を加熱しなかった試験No.23と比較して、スカム堰浸漬部に付着する地金が少なくなった結果、地金剥離および巻き込まれによるホットバンドは少なくなった。そして、スカム堰として十分な条件(幅、位置、浸漬深さ)を満たしていたため、スカム巻込みは少なく、鋳片割れも少なく抑えられた。
【0083】
特に、溶鋼浸漬部の表面温度Tsfが、上述の(1)式を満足するように予熱を実施した試験No.1~10においては、地金の付着が抑制され、ホットバンドの発生をさらに抑制することができた。
さらに、溶鋼浸漬部の表面温度Tsfが、上述の(21)式を満足するように予熱を実施した試験No.9においては、さらに地金の付着が抑制され、ホットバンドの発生が皆無となった。
【0084】
以上の結果から、本発明によれば、少なくとも鋳造開始時において、スカム堰の表面における地金の発生を抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼
5 凝固シェル
11 冷却ロール
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
20 スカム堰
20a 溶鋼浸漬部(溶融金属浸漬部)
21 堰本体
22 通電加熱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6