(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、双ロール式連続鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20221122BHJP
B21B 1/46 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B21B1/46 B
(21)【出願番号】P 2019001981
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】白石 利幸
(72)【発明者】
【氏名】新國 大介
(72)【発明者】
【氏名】長屋 雅人
(72)【発明者】
【氏名】左田野 豊
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-052108(JP,A)
【文献】特開平08-215747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
B21B 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、前記薄肉鋳片をピンチロールユニットによって上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置において、前記薄肉鋳片の蛇行の発生を抑制する薄肉鋳片の蛇行抑制方法であって、
少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された変形ロールによって前記薄肉鋳片を上下方向に挟持することにより、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部が形成されるように、前記薄肉鋳片を変形させ、
前記変形ロールによって変形された前記薄肉鋳片は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと前記薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが0.1%以上5%以下の範囲内とされ、
前記変形ロールの下流側に配置された矯正ロールにより、前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことを特徴とする薄肉鋳片の蛇行抑制方法。
【請求項2】
前記変形ロールによって変形された前記薄肉鋳片は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向中央部が上方へ突出した形状とされていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の蛇行抑制方法。
【請求項3】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、前記薄肉鋳片をピンチロールユニットによって上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置であって、
前記ピンチロールユニットは、前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片の形状を変形させる変形ロールと、変形させた前記薄肉鋳片を平坦形状に戻す矯正ロールと、を備えており、
少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された前記変形ロールは、上側ロールと下側ロールとを有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの一方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向内方へ凹んだ凹部を有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの他方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向外方に突出した凸部を有し、
前記変形ロールの凹部及び凸部は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面における前記薄肉鋳片の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと前記薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが0.1%以上5%以下の範囲内に前記薄肉鋳片を変形させる形状とされていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項4】
前記変形ロールは、軸線方向中央部が径方向内方へ凹んだ凹部を有する上側ロールと、軸線方向中央部が径方向外方へ突出した凸部を有する下側ロールと、で構成されていることを特徴とする
請求項3に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【請求項5】
前記変形ロールにおいて、前記上側ロールと前記下側ロールとのロールギャップが、鋳片幅方向で一定とされていることを特徴とする
請求項3又は請求項4に記載の双ロール式連続鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給して薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、製造される薄肉鋳片の蛇行の発生を抑制する薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、この薄肉鋳片の蛇行抑制方法が適用される双ロール式連続鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する装置として、内部に水冷構造を有するとともに互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置においては、例えば特許文献1に示すように、冷却ロールの上方に配置されたタンディッシュから浸漬ノズルを介して溶融金属プール部に溶融金属が連続的に供給され、回転する冷却ロールの周面上で溶融金属が凝固成長して凝固シェルが形成され、各冷却ロールの周面に形成された凝固シェルがロールキス点で圧着され、薄肉鋳片が製出される。
そして、冷却ロール間から下方に製出された薄肉鋳片は、薄肉鋳片を上下方向に挟持するピンチロールを介して水平方向に搬送され、必要に応じてインラインミルによって圧延され、巻き取り装置によってコイル状に巻き取られる。
【0004】
ここで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、薄肉鋳片の搬送時に蛇行が生じ、薄肉鋳片を安定して搬送することができず、鋳造を中止することがあった。また、巻き取り装置で薄肉鋳片を形状良く巻き取ることができず、薄肉鋳片の再巻き取りを実施することがあった。
このため、例えば以下の特許文献2-6に示すように、搬送される薄肉鋳片の蛇行を制御する様々な手段が提案されている。
【0005】
特許文献2には、ピンチロールのレベリング制御を行うことによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献3には、ピンチロールの幅方向の両側における反力を制御することで、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献4には、ピンチロールのアライメント制御を行うことによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献5には、巻き取り時における張力を制御することによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献6には、インラインミルによる圧延を制御することによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-045950号公報
【文献】特表2008-532776号公報
【文献】特開平11-156504号公報
【文献】特開平08-215814号公報
【文献】特開平04-197561号公報
【文献】特開2003-088941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、冷却ロールの下方側に製出された薄肉鋳片がピンチロールで上下方向に挟持されるまでの領域(以下、カテナリー領域と称す)においては、薄肉鋳片に加わる張力は自重のみであり、かつ、温度が高く変形しやすいため、このカテナリー領域において薄肉鋳片の捩れが生じやすい。そして、カテナリー領域において薄肉鋳片に捩れが生じた場合には、ピンチロールで挟持した薄肉鋳片が幅方向に移動し、薄肉鋳片に蛇行が発生することになる。
ここで、上述のように特許文献2-6に開示された手段においては、カテナリー領域における薄肉鋳片の捩れに起因した薄肉鋳片の移動を抑制することができず、薄肉鋳片の蛇行を効率良く抑制することは困難であった。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、双ロール式連続鋳造装置において、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因した薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することが可能な薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、この薄肉鋳片の蛇行抑制方法が適用され、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することが可能な双ロール式連続鋳造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片の蛇行抑制方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、前記薄肉鋳片をピンチロールユニットによって上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置において、前記薄肉鋳片の蛇行の発生を抑制する薄肉鋳片の蛇行抑制方法であって、少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された変形ロールによって前記薄肉鋳片を上下方向に挟持することにより、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部が形成されるように、前記薄肉鋳片を変形させ、前記変形ロールによって変形された前記薄肉鋳片は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと前記薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが0.1%以上5%以下の範囲内とされ、前記変形ロールの下流側に配置された矯正ロールにより、前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことを特徴としている。
【0010】
この構成の薄肉鋳片の蛇行抑制方法によれば、少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された変形ロールによって前記薄肉鋳片を上下方向に挟持することにより、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部が形成されるように、前記薄肉鋳片を変形させているので、カテナリー領域において薄肉鋳片に捩れが生じた場合であっても、変形ロールによって上下に挟持された薄肉鋳片は、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部によって幅方向への移動が抑制されることになる。これにより、薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することができる。
そして、前記変形ロールの下流側に配置された矯正ロールにより、前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことから、平坦形状の薄肉鋳片をコイラーで巻き取ることができる。
よって、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することができる。
また、前記変形ロールによって変形された前記薄肉鋳片は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと前記薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが0.1%以上とされているので、傾斜部によって薄肉鋳片の幅方向への移動が的確に抑制され、薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することができる。一方、上述の最大変位量Aと薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが5%以下とされているので、必要以上に薄肉鋳片を変形させることが無く、矯正ロールによって効率的に平坦形状へ矯正することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明に係る薄肉鋳片の蛇行抑制方法においては、前記変形ロールによって変形された前記薄肉鋳片は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片の幅方向中央部が上方へ突出した形状とされていることが好ましい。
この場合、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片を上方へ凸となるように変形させることにより、薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部を確実に形成することができ、薄肉鋳片の蛇行を効率的に抑制することができる。また、矯正ロールよって、比較的容易に、前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことが可能となる。
【0013】
本発明に係る双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、前記薄肉鋳片をピンチロールユニットによって上下方向に挟持して搬送する双ロール式連続鋳造装置であって、前記ピンチロールユニットは、前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片の形状を変形させる変形ロールと、変形させた前記薄肉鋳片を平坦形状に戻す矯正ロールと、を備えており、少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された前記変形ロールは、上側ロールと下側ロールとを有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの一方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向内方へ凹んだ凹部を有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの他方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向外方に突出した凸部を有し、前記変形ロールの凹部及び凸部は、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面における前記薄肉鋳片の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと前記薄肉鋳片の幅Bとの比A/Bが0.1%以上5%以下の範囲内に前記薄肉鋳片を変形させる形状とされていることを特徴としている。
【0014】
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、前記冷却ロール間から引き出された前記薄肉鋳片の形状を変形させる変形ロールを備えており、少なくとも前記ピンチロールユニットの最上流側に配置された前記変形ロールは、上側ロールと下側ロールとを有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの一方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向内方へ凹んだ凹部を有し、前記上側ロール及び前記下側ロールの他方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向外方に突出した凸部を有しているので、この変形ロールによって薄肉鋳片を上下方向に挟持することで、前記薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部が形成されることになり、カテナリー領域において薄肉鋳片に捩れが生じた場合であっても、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部によって薄肉鋳片の幅方向への移動が抑制されることになる。これにより、薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することができる。
そして、変形させた前記薄肉鋳片を平坦形状に戻す矯正ロールを備えているので、変形された前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことができ、平坦形状の薄肉鋳片をコイラーで巻き取ることができる。
よって、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することができる。
【0015】
ここで、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置においては、前記変形ロールは、軸線方向中央部が径方向内方へ凹んだ凹部を有する上側ロールと、軸線方向中央部が径方向外方へ突出した凸部を有する下側ロールと、で構成されていてもよい。
この場合、軸線方向中央部が径方向内方へ凹んだ凹部を有する上側ロールと、軸線方向中央部が径方向外方へ突出した凸部を有する下側ロールと、で構成された変形ロールによって、薄肉鋳片を上下方向に挟持することにより、前記薄肉鋳片の進行方向に直交する断面において、前記薄肉鋳片を上方へ凸となるように変形させることが可能となる。これにより、前記薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部を確実に形成することができ、薄肉鋳片の蛇行を効率的に抑制することができる。また、矯正ロールよって、比較的容易に、前記薄肉鋳片を平坦形状に戻すことが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る双ロール式連続鋳造装置においては、前記変形ロールにおいて、前記上側ロールと前記下側ロールとのロールギャップが、鋳片幅方向で一定とされていることが好ましい。
この場合、薄肉鋳片の幅方向全体を変形ロールの前記上側ロールと前記下側ロールで挟持することができ、薄肉鋳片を的確に変形させて傾斜部を形成することができるとともに、薄肉鋳片を安定して搬送することができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、双ロール式連続鋳造装置において、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因した薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することが可能な薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、この薄肉鋳片の蛇行抑制方法が適用され、薄肉鋳片の鋳造を安定して実施することが可能な双ロール式連続鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の概略説明図である。
【
図2】
図1に示す双ロール式連続鋳造装置の冷却ロール周辺の拡大説明図である。
【
図3】
図1に示す双ロール式連続鋳造装置の斜視説明図である。
【
図4】本発明の実施形態である双ロール式連続鋳造装置における変形ロールの概略説明図である。
【
図5】
図4に示す変形ロールによって変形した薄肉鋳片の断面説明図である。
【
図6】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置も変形ロールによって変形した薄肉鋳片の断面説明図である。
【
図7】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の変形ロールによって変形した薄肉鋳片の断面説明図である。
【
図8】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の変形ロールによって変形した薄肉鋳片の断面説明図である。
【
図9】本発明の他の実施形態である双ロール式連続鋳造装置の変形ロールによって変形した薄肉鋳片の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態において製造される薄肉鋳片1は各種組成の鋼からなり、例えば、0.001~0.01%C極低炭鋼、0.02~0.05%C低炭鋼、0.06~0.4%C中炭鋼、0.5~1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0~3.5%Si方向性電磁鋼、0.1~6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が500mm以上2000mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0020】
本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10は、
図1に示すように、一対の冷却ロール11,11と、一対の冷却ロール11,11の下方側に製出された薄肉鋳片1の進行方向を略水平方向に向けて湾曲させるカテナリー領域18と、薄肉鋳片1を水平方向に搬送する搬送部20と、を備えている。
搬送部20は、薄肉鋳片1を上下方向に挟持するピンチロールユニット21と、ルーパー28と、薄肉鋳片1を巻き取るコイラー29と、を備えている。
【0021】
そして、
図2に示すように、一対の冷却ロール11,11の幅方向端部にサイド堰(図示しない)が配設され、一対の冷却ロール11,11とサイド堰とによって溶鋼プール部13が画成されている。
また、一対の冷却ロール11,11の上方には、溶鋼プール部13に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ14と、このタンディッシュ14から溶鋼プール部13へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル15と、が配置されている。
【0022】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0023】
ここで、上述の双ロール式連続鋳造装置10においては、例えば、冷却ロール11,11とサイド堰との間のシール性が悪くなると、冷却ロール11とサイド堰の間に溶鋼が差し込んで、薄肉鋳片1の幅方向一端側に焼き付きによる局所的、一時的な拘束が生じることがある。このように幅方向一端側に拘束された薄肉鋳片1が冷却ロール11,11から離れるタイミングが幅方向の一端側と他端側とで異なってしまい、冷却ロール11,11から製出される薄肉鋳片1に捩れが生じることがある。
冷却ロール11,11から製出された薄肉鋳片1に捩れが生じた場合には、ピンチロールユニット21によって挟持された薄肉鋳片1が幅方向に移動し、薄肉鋳片1に蛇行が生じることになる。
【0024】
そこで、本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10においては、ピンチロールユニット21で挟持された薄肉鋳片1が幅方向に移動することを抑制するために、
図3に示すように、ピンチロールユニット21は、冷却ロール11,11間から引き出された薄肉鋳片1の形状を変形させる変形ロール22と、変形させた薄肉鋳片1を平坦形状に戻す矯正ロール23と、を備えている。
【0025】
この変形ロール22は、少なくともピンチロールユニット21の最上流側(すなわち、カテナリー領域18側)に配置されており、この変形ロール22によって薄肉鋳片1を上下方向に挟持することにより、薄肉鋳片1の進行方向に直交する断面において、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bが形成されるように、薄肉鋳片1を変形させる構成されている。なお、冷却ロール11,11間から引き出された薄肉鋳片1は例えば1200℃以上の高温であることから、変形ロール22で挟持することで容易に変形させることができる。
【0026】
ここで、カテナリー領域18と変形ロール22の間で薄肉鋳片1が変形ロール22でなく、軸線方向で直径が一定のピンチロールによって挟持されていれば、そのピンチロールにおいて薄肉鋳片1が蛇行することとなる。これに対して、本実施形態のように、変形ロール22がピンチロールユニット21の最上流側に配置されておれば、変形ロール22によって薄肉鋳片1を上下方向に挟持することにより、薄肉鋳片1の進行方向に直交する断面において、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bが形成されているので、カテナリー領域18において薄肉鋳片1に捩れが生じた場合であっても、変形ロール22によって上下に挟持された薄肉鋳片1は、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bによって幅方向への移動が抑制されることになり、薄肉鋳片1の蛇行が抑制される。換言すれば、変形ロール22がピンチロールユニット21の最上流側に配置されている理由は、変形ロール22は、カテナリー領域18での捩じれ等に伴う薄肉鋳片1の蛇行を抑制するものであり、カテナリー領域18での薄肉鋳片1の捩じれ等に伴う薄肉鋳片1の蛇行の影響を、他のピンチロールを介することなく直接受ける必要があるからである。
このように、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bを形成することにより、冷却ロール11,11から製出された薄肉鋳片1に捩れが生じた場合であっても、変形ロール22によって挟持された薄肉鋳片1が幅方向に移動することが抑制される。
【0027】
ここで、変形ロール22は、上側ロール22aと下側ロール22bとを有しており、上側ロール22a及び下側ロール22bの一方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向内方へ凹んだ凹部を有し、上側ロール22a及び下側ロール22bの他方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向外方に突出した凸部を有した形状とされている。
本実施形態の変形ロール22は、
図4に示すように、上側ロール22aが、軸線方向中央部が径方向内方へ凹んだ凹部を有し、下側ロール22bが、軸線方向中央部が径方向外方へ突出した凸部を有している。
よって、この変形ロール22によって挟持された薄肉鋳片1は、
図5に示すように、幅方向中央部が上方に向けて凸となるように湾曲した形状となる。本実施形態では、
図5に示すように、薄肉鋳片1の幅方向で曲率半径が一定の形状(円弧形状)とされている。これにより、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bが形成されることになる。
【0028】
ここで、本実施形態においては、変形ロール22の上側ロール22aと下側ロール22bとのロールギャップが、鋳片幅方向で一定とされている。
すなわち、軸線に沿った断面において、上側ロール22aに形成された凹部の曲率半径と、下側ロール22bに形成された凸部の曲率半径とが同一とされている。
【0029】
また、本実施形態においては、
図4及び
図5に示すように、変形ロール22によって変形された薄肉鋳片1は、薄肉鋳片1の進行方向に直交する断面において、薄肉鋳片1の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと、薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bが0.1%以上5%以下の範囲内とされている。
上述の最大変位量Aと薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bを0.1%以上とすることにより、傾斜部1a,1bによって、薄肉鋳片1の幅方向への移動を的確に抑制することが可能となる。一方、上述の最大変位量Aと薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bを5%以下とすることにより、必要以上に薄肉鋳片1が変形せず、後述する矯正ロール23によって比較的容易に平坦形状に戻すことが可能となる。
なお、上述の最大変位量Aと薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bの下限は、0.3%以上とすることがさらに好ましく、0.5%以上とすることがより好ましい。一方、上述の最大変位量Aと薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bの上限は、4%以下とすることがさらに好ましく、3%以下とすることがより好ましい。
【0030】
矯正ロール23は、
図1及び
図3に示すように、上側ロール23a及び下側ロール23bを有しており、これら上側ロール23a及び下側ロール23bは、いずれも軸線に平行な円筒面を有するように構成されている。
上述のように変形ロール22によって変形した薄肉鋳片1を、この矯正ロール23で上下に挟持することで、変形ロール22によって変形した薄肉鋳片1が平坦形状に戻ることになる。なお、この矯正ロール23の位置においても、薄肉鋳片1は例えば1200℃以上の高温であることから、矯正ロール23で挟持することによって容易に平坦形状に矯正することができる。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10及び薄肉鋳片の蛇行抑制方法によれば、ピンチロールユニット21の最上流側に配置された変形ロール22が、上側ロール22aと下側ロール22bとを有し、上側ロール22a及び下側ロール22bの一方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向内方へ凹んだ凹部を有し、上側ロール22a及び下側ロール22bの他方は、軸線方向の少なくとも一部に径方向外方に突出した凸部を有しているので、この変形ロール22によって薄肉鋳片1を上下方向に挟持することで、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bが形成されることになる。
【0032】
これにより、カテナリー領域18において薄肉鋳片1に捩れが生じた場合であっても、変形ロール22によって上下に挟持された薄肉鋳片1は、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bによって幅方向への移動が抑制され、薄肉鋳片1の蛇行を効果的に抑制することができる。
そして、変形ロール22の下流側に配置された矯正ロール23により、変形した薄肉鋳片1を平坦形状に戻すことから、平坦形状の薄肉鋳片1をコイラー29で巻き取ることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、変形ロール22は、軸線方向中央部が径方向内方へ凹んだ凹部を有する上側ロール22aと、軸線方向中央部が径方向外方へ突出した凸部を有する下側ロール22bと、で構成されており、この変形ロール22によって薄肉鋳片1を上下方向に挟持することにより、薄肉鋳片1の進行方向に直交する断面において、薄肉鋳片1の幅方向中央部が上方へ突出するように変形させる構成とされているので、薄肉鋳片1の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bを確実に形成することができ、薄肉鋳片1の蛇行を効率的に抑制することができる。また、矯正ロール23よって、比較的容易に、薄肉鋳片1を平坦形状に戻すことが可能となる。
なお、カテナリー領域18においては、薄肉鋳片1は、自重によって幅方向中央部が下方に落ち込んで下凸形状となることがあるため、本実施形態のように、薄肉鋳片1の幅方向中央部が上方へ突出する上凸形状とすることで、薄肉鋳片1を的確に変形させることができ、傾斜部1a,1bによって薄肉鋳片1の蛇行を効率的に抑制することができる。
【0034】
さらに、本実施形態においては、変形ロール22によって変形された薄肉鋳片1は、薄肉鋳片1の進行方向に直交する断面において、薄肉鋳片1の幅方向に直交する方向の最大変位量Aと、薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bが0.1%以上とされているので、カテナリー領域18において薄肉鋳片1に捩れが生じた場合であっても、上述の傾斜部1a,1bによって、薄肉鋳片1の幅方向への移動を的確に抑制することが可能となる。
一方、上述の最大変位量Aと薄肉鋳片1の幅Bとの比A/Bが5%以下とされているので、必要以上に薄肉鋳片1が変形されておらず、矯正ロール23によって比較的容易に平坦形状に戻すことが可能となる。
【0035】
また、本実施形態においては、変形ロール22において、上側ロール22aと下側ロール22bとのロールギャップが鋳片幅方向で一定とされているので、薄肉鋳片1の幅方向全体を上側ロール22aと下側ロール22bで挟持することが可能となり、薄肉鋳片1を的確に変形させて傾斜部1a,1bを形成することができるとともに、安定して搬送することが可能となる。
【0036】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、双ロール式連続鋳造装置について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0037】
本実施形態では、
図5に示すように、変形ロールによって薄肉鋳片の幅方向中心部が上方向に凸となり、幅方向で曲率半径が一定の形状(円弧形状)に変形されるものとして説明したが、これに限定されることはなく、薄肉鋳片の幅方向に、水平方向に対して互いに逆方向に傾斜する少なくとも一対の傾斜部1a,1bが形成される形状であればよく、2次関数形状や双曲線形状であってもよい。
【0038】
また、
図6に示すように、傾斜部1a,1bが直線状に形成されるように、薄肉鋳片を変形させてもよい。
さらに、
図7に示すように、薄肉鋳片の幅方向中心部が下方向に凸となるように、薄肉鋳片を変形させて、傾斜部1a,1bを形成してもよい。
また、
図8及び
図9に示すように、幅方向において複数の凹部及び凸部が形成されるように、薄肉鋳片を変形させて、傾斜部1a,1bを形成してもよい。
【0039】
さらに、本実施形態においては、ピンチロールユニットが、一つの変形ロールと一つの矯正ロールとを備えたものとして説明したが、これに限定されることはない。変形ロールは、少なくともピンチロールユニットの最上流側に配設されていればよく、複数の変形ロールが薄肉鋳片の進行方向に並列されていてもよい。同様に、矯正ロールは、変形ロールの下流側に配置されていればよく、複数の矯正ロールが薄肉鋳片の進行方向に並列されていてもよい。すなわち、ピンチロールユニットの最上流側に変形ロールが配設され、ピンチロールユニットの最下流側に矯正ロールが配設されておればよく、該変形ロールと該矯正ロールの間に、一つ以上の変形ロールもしくは一つ以上の矯正ロールが配設されていても、本発明の効果が損なわれることはない。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0041】
本実施形態で説明した双ロール式連続鋳造装置を用いて、Cを0.005質量%,Siを0.15質量%,Mnを0.65質量%,Pを0.01質量%,Sを0.007質量%,Alを0.03質量%含み、残部がFe及び不純物とされた成分組成の薄肉鋳片を、以下の条件により、鋳造した。
冷却ロールの直径:1200mm
薄肉鋳片の幅:1000mm
薄肉鋳片の厚さ:3.5mm
鋳造速度:平均50m/min
鋳造量:60トン
【0042】
ここで、ピンチロールユニットは、最上流側に配置された第1ピンチロールと、この第1ピンチロールの下流側に配置された第2ピンチロールと、を有するものとした。
そして、本発明例においては、第1ピンチロールを、
図4に示したごとく、軸線方向の断面形状を円弧凹形状と円弧凸形状の組み合わせとし、その変形量を表1に示した値に形成した変形ロールとし、第2ピンチロールを、軸線方向で直径が一定の平坦な矯正ロールとして配置した。
比較例においては、第1ピンチロール及び第2ピンチロールを、軸線方向で直径が一定の平坦ロールを使用した。
なお、第1ピンチロールの荷重は0.3tonfとし、第2ピンチロールの荷重は2.0tonfとした。また、第1ピンチロール及び第2ピンチロールの平均直径を300mmとした。
【0043】
本発明例及び比較例において、それぞれ100回の鋳造を行った。そして、蛇行により鋳造を停止した回数、コイラーでの巻き取り不良によって再コイルを実施した回数、最大蛇行量を、それぞれ評価した。なお、コイラーにおいて、搬送路中央からの幅方向両側への振れ幅が50mmを超えたものは再コイルを実施した。また、最大蛇行量は、搬送路中央から幅方向両側への振れ幅の、どちらか大きい方で評価した。評価結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
第1ピンチロール及び第2ピンチロールを軸線方向で直径が一定の平坦ロールとした比較例においては、薄肉鋳片の蛇行による中断回数が3回、再コイル回数が10回となった。なお、蛇行量が100mmを超えると搬送路の側面と衝突し、鋳造を中断したため、最大蛇行量は100mmとなった。比較例においては、カテナリー領域に起因した薄肉鋳片の蛇行を抑制できなかったためと推測される。
【0046】
これに対して、第1ピンチロールを変形ロールとし、第2ピンチロールを軸線方向で直径が一定の平坦ロールとした本発明例1,2においては、薄肉鋳片の蛇行による中断回数が0回、再コイル回数が0回となった。変形ロールによって、カテナリー領域に起因した薄肉鋳片の蛇行を抑制できたためと推測される。
また、変形ロールを上凸とした本発明例1においては、変形ロールを下凸とした本発明例2よりも、最大蛇行量をさらに抑制できることが確認された。
【0047】
以上のことから、本発明例によれば、冷却ロール間から製出される薄肉鋳片の捩れに起因した薄肉鋳片の蛇行を効果的に抑制することが可能な薄肉鋳片の蛇行抑制方法、及び、双ロール式連続鋳造装置を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 薄肉鋳片
10 双ロール式連続鋳造装置
11 冷却ロール
13 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
21 ピンチロールユニット
22 変形ロール
23 矯正ロール