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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】光測距装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20221122BHJP
   G01S 17/894 20200101ALI20221122BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S17/894
G01C3/06 120Q
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019005734
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020112528
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林内 政人
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-319121(JP,A)
【文献】特開2015-155855(JP,A)
【文献】特開2014-81254(JP,A)
【文献】特開2010-175488(JP,A)
【文献】特開2018-107747(JP,A)
【文献】国際公開第2009/126991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-7/51
17/00-17/95
G01C 3/00-3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光測距装置(10)あって、
光源(21)を駆動して、空間中に光を照射する照射部(20)と、
前記空間中の物体からの反射光を検出する受光素子(311)を備える受光部(30)と、
前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力する強度信号出力部(41)と、
前記強度信号出力部から逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記照射部による光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定する測定部(40)と、
前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知する故障検知部(60)と、
を備え
前記故障検知部は、前記強度信号出力部から出力された前記強度信号の最大値を複数回取得し、複数回取得した前記最大値が、予め定められた第1基準値以上にならない場合に、出力レベルが最小レベルに固着した受光素子が存在すると判断し、
前記故障検知部は、前記強度信号の最大値と、前記第1基準値との差分に基づき、故障した前記受光素子の数を推定する、
光測距装置。
【請求項2】
光測距装置(10)あって、
光源(21)を駆動して、空間中に光を照射する照射部(20)と、
前記空間中の物体からの反射光を検出する受光素子(311)を備える受光部(30)と、
前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力する強度信号出力部(41)と、
前記強度信号出力部から逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記照射部による光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定する測定部(40)と、
前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知する故障検知部(60)と、
を備え、
前記故障検知部は、前記強度信号出力部から出力された前記強度信号の最小値を複数回取得し、複数回取得した前記最小値が、予め定められた第2基準値以下にならない場合に、出力レベルが最大レベルに固着した受光素子が存在すると判断する、
光測距装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光測距装置であって、
前記故障検知部は、前記強度信号の最小値と、前記第2基準値との差分に基づき、故障した前記受光素子の数を推定する、光測距装置。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の光測距装置であって、
前記強度信号出力部は、前記故障検知部によって推定された故障した前記受光素子の数に応じて、前記強度信号を補正する、光測距装置。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光測距装置であって、
前記故障検知部は、周囲の明るさに応じて、故障判定の信頼度を変化させる、光測距装置。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光測距装置であって、
前記故障検知部は、周囲の明るさに応じて、前記基準値を変化させる、光測距装置。
【請求項7】
請求項に記載の光測距装置であって、
前記受光部を遮光可能に構成された遮光機構(35)を有し、
前記故障検知部は、前記遮光機構を用いて前記受光部を遮光した状態で、前記出力レベルが最大レベルに固着した受光素子が存在するか否かを判断する、光測距装置。
【請求項8】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の光測距装置であって、
前記故障検知部は、前記受光素子の故障を検知した場合に、エラー情報を出力する、光測距装置。
【請求項9】
光測距装置の制御方法であって、
光源を駆動して、空間中に光を照射し、
前記空間中の物体からの反射光を受光素子によって検出し、
前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力し、
逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定し、
前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知し、
前記故障の検知では、出力された前記強度信号の最大値を複数回取得し、複数回取得した前記最大値が、予め定められた第1基準値以上にならない場合に、出力レベルが最小レベルに固着した受光素子が存在すると判断し、
前記故障の検知では、前記強度信号の最大値と、前記第1基準値との差分に基づき、故障した前記受光素子の数を推定する
制御方法。
【請求項10】
光測距装置の制御方法であって、
光源を駆動して、空間中に光を照射し、
前記空間中の物体からの反射光を受光素子によって検出し、
前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力し、
逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定し、
前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知し、
前記故障の検知では、出力された前記強度信号の最小値を複数回取得し、複数回取得した前記最小値が、予め定められた第2基準値以下にならない場合に、出力レベルが最大レベルに固着した受光素子が存在すると判断する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光測距装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光測距装置に関し、例えば、特許文献1には、受光素子としてSPAD(シングルフォトンアバランシェフォトダイオード)を採用する装置が開示されている。この装置では、SPADアレイによって検出された反射光の強度に基づきヒストグラムを生成し、そのヒストグラムのピーク位置から光の飛行時間(ToF:Time of Flight)を求め、その飛行時間に基づいて測定対象物までの距離を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-91760号公報
【文献】特開2016-176750号公報
【文献】特許第5644294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経年劣化等で受光素子に故障が生じた場合、検出する反射光の信号強度が正確でなくなる。例えば、受光素子に故障が生じてその出力が最小レベル(例えば、ゼロ)に固着した場合には、十分な強度の反射光を受光しているにも関わらず、検出された反射光の信号強度が低くなる可能性がある。また、受光素子に故障が生じてその出力が最大レベル(例えば、1)に固着した場合には、弱い強度の反射光を受光しているにも関わらず、検出された反射光の信号強度が高くなる可能性がある。そのため、受光素子の故障を簡易な手法で検知可能な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、光測距装置(10)が提供される。この光測距装置は、光源(21)を駆動して、空間中に光を照射する照射部(20)と、前記空間中の物体からの反射光を検出する受光素子(311)を備える受光部(30)と、前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力する強度信号出力部(41)と、前記強度信号出力部から逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記照射部による光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定する測定部(40)と、前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知する故障検知部(60)と、を備え、前記故障検知部は、前記強度信号出力部から出力された前記強度信号の最大値を複数回取得し、複数回取得した前記最大値が、予め定められた第1基準値以上にならない場合に、出力レベルが最小レベルに固着した受光素子が存在すると判断し、前記故障検知部は、前記強度信号の最大値と、前記第1基準値との差分に基づき、故障した前記受光素子の数を推定する
本開示の他の形態によれば、光測距装置(10)が提供される。この光測距装置は、光源(21)を駆動して、空間中に光を照射する照射部(20)と、前記空間中の物体からの反射光を検出する受光素子(311)を備える受光部(30)と、前記受光素子によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力する強度信号出力部(41)と、前記強度信号出力部から逐次出力される前記強度信号からピーク信号を検出し、前記照射部による光の照射から前記ピーク信号が検出されるまでの時間に応じて前記物体までの距離を測定する測定部(40)と、前記強度信号と基準値とを比較することによって、前記受光素子の故障を検知する故障検知部(60)と、を備え、前記故障検知部は、前記強度信号出力部から出力された前記強度信号の最小値を複数回取得し、複数回取得した前記最小値が、予め定められた第2基準値以下にならない場合に、出力レベルが最大レベルに固着した受光素子が存在すると判断する。
【0007】
これらの形態の光測距装置によれば、反射光の強度信号と基準値とを比較することによって、簡易な手法により受光素子の故障を検知することができる。
【0008】
本開示は、光測距装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、光測距装置の制御方法、光測距装置を搭載する車両等の形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】光測距装置の概略構成を示す図。
図2】光測距装置の構成を示す図。
図3】受光面の構成を示す図。
図4】ヒストグラムの一例を示す図。
図5】故障検知部が備える第1機能を説明する図。
図6】故障検知部が備える第2機能を説明する図。
図7】光測距装置の制御方法を示すフローチャート。
図8】暗い環境におけるヒストグラムの信号レベルを示す図。
図9】明るい環境におけるヒストグラムの信号レベルを示す図。
図10】遮光機構を示す図。
図11】遮光機構によって遮光された状態を示す図。
図12】隣接画素の強度信号を用いて故障を判断する手法を示す第1の図。
図13】隣接画素の強度信号を用いて故障を判断する手法を示す第2の図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1に示すように、本開示における第1実施形態としての光測距装置10は、筐体15と、照射部20と、受光部30と、測定部40と、を備える。照射部20は、空間中の所定の測定範囲MRに対して照射光ILを射出する。本実施形態では、照射部20は、照射光ILを走査方向SDに走査する。照射光ILは、走査方向SDに直交する方向が長手方向となる矩形状に形成される。受光部30は、照射光ILの照射に応じた測定範囲MRを含む範囲から反射光を受光する。測定部40は、受光部30が受光した反射光の強度に応じて、測定範囲MR内に存在する物体までの距離を測定する。光測距装置10は、例えば、車両に搭載され、障害物の検出や障害物までの距離を測定するために使用される。照射光ILによって測定範囲MRが全て走査される時間単位のことを、以下では、フレームという。
【0011】
図2には、光測距装置10のより具体的な構成を示している。図2に示すように、光測距装置10は、図1に示した照射部20と受光部30と測定部40とに加えて、制御部50を備えている。制御部50は、CPUおよびメモリを備えるコンピュータとして構成されており、照射部20、受光部30、測定部40を制御する。本実施形態の制御部50は、故障検知部60を備える。
【0012】
照射部20は、光源21を駆動して、空間中に光を照射する。光源21は、半導体レーザダイオードにより構成されており、パルスレーザ光を照射光として照射する。光源21から射出された照射光は、図示していない光学系によって図1に示した縦長の照射光ILに形成される。照射部20は、走査部22を備えている。走査部22は、回転軸221を中心にミラー222を回動させることよって、照射光ILの一次元走査を測定範囲MRに亘って行う。ミラー222は、例えば、MEMSミラーによって構成される。ミラー222の回動は、制御部50によって制御される。なお、本実施形態では、照射部20の光源21として半導体レーザを用いているが、固体レーザ等他の光源を用いてもよい。
【0013】
照射部20によって照射された照射光は、測定範囲MR内の物体OBによって反射される。物体OBによって反射された反射光は、受光部30によって受光される。
【0014】
図2および図3に示すように、受光部30は、物体からの反射光が照射される受光面32に複数の画素31を二次元配列状に備えている。図3に示すように、各画素31は、物体OBからの反射光を検出する受光素子311を複数有する。本実施形態では、各画素31は、受光素子311としてSPAD(シングルフォトンアバランシェダイオード)を備える。本実施形態において、各画素31は、横9個×縦5個の計45個の受光素子311を有する。受光部30の受光面32は、例えば、画素31が、縦方向に64個、横方向に256個、配置されることにより構成される。受光素子311としてのSPADは、光(フォトン)を入力すると、一定の確率で、光の入射を示すパルス状の信号を出力する。つまり、各SPADは、出力レベルとして、0(ローレベル)または1(ハイレベル)の信号を出力する。本実施形態では、各画素31は、45個のSPADを備えているため、各画素31は、受光した光の強度に応じて、0~45個のパルス信号を出力する。
【0015】
受光部30には、強度信号出力部41が接続されている。強度信号出力部41は、受光素子311によって検出された反射光の強度を表す強度信号を出力する回路である。強度信号出力部41は、各画素31に含まれる複数の受光素子311から略同時に出力されるパルス信号の数を画素毎に加算する。そして、その加算値を各画素31において受光された反射光の強度を表す強度信号として出力する。本実施形態では、上記のとおり、各画素は45個の受光素子311を備えているため、強度信号出力部41からは、画素31毎に、0~45の値を有する強度信号が出力される。
【0016】
測定部40は、強度信号出力部41から逐次出力される強度信号からピーク信号を検出し、照射部20による光の照射からピーク信号が検出されるまでの時間に応じて物体までの距離を測定する機能を備える。測定部40は、この機能を実現するため、ヒストグラム生成部42と、信号処理部43と、距離演算部44とを備えている。これらは、例えば、1または2以上の集積回路として構成される。なお、これらは、CPUがプログラムを実行することによってソフトウェア的に実現される機能部であってもよい。
【0017】
ヒストグラム生成部42は、強度信号出力部41から出力された強度信号に基づき、画素31毎にヒストグラムを生成する回路である。図4には、ヒストグラムの例を示している。ヒストグラムの階級(横軸)は、照射部20から照射光ILが照射されてから反射光が画素31によって受光されるまでの光の飛行時間を示している。以下、この時間のことを、TOF(TOF:Time Of Flight)という。一方、ヒストグラムの度数(縦軸)は、強度信号出力部41から出力された強度信号の値であり、物体から反射された光の強度を表している。ヒストグラム生成部42は、強度信号出力部41から出力された強度信号をTOF毎に記録することによってヒストグラムを生成する。測定範囲MRに物体が存在する場合、その物体から光が反射され、その物体までの距離に応じたTOFの階級に強度信号が記録される。
【0018】
信号処理部43は、ヒストグラムの中で最も大きな度数となった階級の部分をピーク信号として検出する回路である。ピーク信号における度数のことを、以下では、ピーク値という。ヒストグラム中のピーク信号は、そのピーク信号に対応するTOFに応じた位置(距離)に物体が存在することを表している。ピーク信号以外の信号は、外乱光の影響や、故障した受光素子311からの出力による信号である。なお、信号処理部43は、予め定めた閾値以上となる度数の階級の部分をピーク信号として検出してもよい。
【0019】
距離演算部44は、信号処理部43によって検出されたピーク信号に対応するTOFから距離値Dを求める回路である。ピーク信号に対応するTOFを「Δt」、光速を「c」、距離値を「D」とすると、距離演算部44は、以下の式(1)により、距離値Dを算出する。距離演算部44は、すべてのヒストグラム、すなわち、すべての画素31について距離値Dを算出する。
D=(c×Δt)/2 ・・・(1)
【0020】
測定部40によって測定された各画素31の距離値Dは、フレーム単位で、光測距装置10から車両のECU等に出力される。車両のECUは、光測距装置10から取得した画素31毎の距離値を用いることで、測定範囲MR内における障害物の検出や障害物までの距離の測定を行うことができる。
【0021】
故障検知部60は、画素31毎に、強度信号出力部41から出力された強度信号の値と、基準値とを比較することによって、各画素31中の受光素子311の故障を検知する。本実施形態において、故障検知部60は、制御部50に含まれるCPUが、メモリに記憶された所定のプログラムを実行することによって実現される。なお、故障検知部60は、回路によって実現されてもよい。
【0022】
本実施形態の故障検知部60は、各画素31について、強度信号出力部41から出力された強度信号の最大値(すなわち、ピーク値)を複数のフレームに亘って複数回取得し、複数回取得したそれらの最大値が、予め定められた第1基準値(図4参照)以上にならない場合に、出力レベルが最小レベルに固着した受光素子311が存在すると判断する機能を備える。以下、この機能を、第1機能という。強度信号の最大値を取得する回数は、任意であり、例えば、日中から夜間に至るまでの時間(12~24時間)に亘って取得される回数である。第1基準値は、例えば、画素31の出力誤差や出力ばらつきを考慮して予め設定した強度信号の理論的な最大値である。
【0023】
また、本実施形態の故障検知部60は、各画素31について、強度信号出力部41から出力された強度信号の最小値を複数のフレームに亘って複数回取得し、複数回取得したそれらの最小値が、予め定められた第2基準値以下にならない場合に、出力レベルが最大レベルに固着した受光素子311が存在すると判断する機能を備える。以下、この機能を第2機能という。強度信号の最小値を取得する回数は、任意であり、例えば、日中から夜間に至るまでの時間(12~24時間)に亘って取得される回数である。第2基準値は、例えば、画素31の出力誤差や出力ばらつきを考慮して予め設定した強度信号の理論的な最小値である。
【0024】
本実施形態の故障検知部60は、上述した第1機能及び第2機能の両方を備えているが、故障検知部60は、これらのうち、いずれか一方のみを備えていてもよい。
【0025】
図5を用いて、上述した第1機能について説明する。故障検知部60は、強度信号出力部41から強度信号の最大値x(ピーク値x)を複数回受信し、受信した複数の強度信号のうち、一つ以上の強度信号が第1基準値以上になる場合、故障検知部60は、画素31は正常であると判断できる。これに対して、受信した複数の強度信号の全てが第1基準値以上にならない場合、故障検知部60は、画素31に、出力が0に固着された受光素子311が含まれており、故障が発生していると判断する。
【0026】
本実施形態の故障検知部60は、強度信号の最大値と第1基準値との差分に基づいて故障した受光素子311の数を推定する機能を有している。各画素31について強度信号出力部41から出力される強度信号の値は、各画素31に含まれる受光素子311の中で、出力が略同時に1になった受光素子311の数である。そのため、故障検知部60は、例えば、第1基準値が45の場合、複数回受信した強度信号の最大値のうちの最も大きな値が、40であれば、5つの受光素子311の出力が0に固着しており故障していると推定できる。
【0027】
本実施形態の強度信号出力部41は、故障検知部60によって推定された故障した受光素子311の数に応じて、強度信号を補正する機能を有する。具体的には、画素31に含まれる受光素子の数をN、そのうち故障した受光素子311の数をMとし、以下の式(2)によってゲインGを求め、そのゲインGを強度信号出力部41が出力する強度信号の値に掛けることによって、強度信号を補正する。ヒストグラム生成部42は、このように補正された強度信号を用いてヒストグラムの生成を行う。なお、強度信号出力部41は、故障検知部60によって推定された受光素子311の故障数が変動する度に、ゲインGの再算出を行う。ゲインGの算出は、強度信号出力部41ではなく、故障検知部60が行ってもよい。
【0028】
G=N/(N-M) ・・・(2)
【0029】
続いて、図6を用いて、上述した第2機能について説明する。故障検知部60は、強度信号出力部41から強度信号の最小値yを複数回受信し、受信した複数の強度信号のうち、一つでも第2基準値(図4参照)以下になる場合、故障検知部60は、画素31は正常であると判断できる。これに対して、受信した複数の受信強度が全て第2基準値以下にならない場合、故障検知部60は、画素31に、出力が1に固着された受光素子311が含まれており、故障が発生していると判断する。
【0030】
本実施形態の故障検知部60は、強度信号の最小値と第2基準値との差分に基づいて故障した受光素子311の数を推定する機能を有している。各画素31について強度信号出力部41から出力される強度信号の値は、各画素31に含まれる受光素子311の中で、出力が略同時に1になった受光素子311の数である。そのため、故障検知部60は、例えば、第2基準値が0の場合、複数回受信した強度信号の最小値のうちの最も小さな値が、5であれば、5つの受光素子311の出力が1に固着しており故障していると推定できる。出力が1に固着した受光素子311が検出された場合においても、強度信号出力部41は、故障した受光素子311の数に応じて、ゲインGを算出し、強度信号を補正する。この場合のゲインGは、例えば、以下の式(3)によって表される。
【0031】
G=(N-M)/N ・・・(3)
【0032】
故障検知部60は、受光素子311の故障を検知した場合、外部機器に対して、受光素子311の故障を検知したことを表すエラー情報を出力する。エラー情報には、例えば、故障した受光素子311を有する画素31の座標、故障した受光素子311の数、故障した受光素子311のうちの、0固着の受光素子311の数と1固着の受光素子311の数の内訳、等の情報が含まれる。
【0033】
図7には、本実施形態の光測距装置10の制御方法を、フローチャートを用いて簡易的に示している。本実施形態の光測距装置10では、ステップS10において、照射部20により、光源21が駆動され、空間中に光が照射される。ステップS20では、受光素子311を備える受光部30において、空間中の物体からの反射光が検出される。ステップS30では、受光素子311によって検出された反射光の強度を表す強度信号が強度信号出力部41から出力される。このとき、強度信号出力部41は、故障検知部60によって受光素子311の故障が検知されている場合には、受光素子311の故障数に応じてゲインGを求め、そのゲインGによって強度信号を補正する。ステップS40では、逐次出力される強度信号からヒストグラム生成部42によって生成されるヒストグラムを用いて信号処理部43によってピーク信号が検出され、ステップS10における光の照射から当該ステップS40においてピーク信号が検出されるまでの時間に応じて距離演算部44によって物体までの距離が算出される。ステップS50では、ステップS40において算出された距離値が外部機器に出力される。ステップS60では、強度信号出力部41から出力された強度信号の最大値および最小値に基づき、故障検知部60によって、各画素31に含まれる受光素子311の故障が検知される。検知された故障の情報は、エラーとして外部機器に出力される。図7に示した一連の処理は、1フレーム単位で光測距装置10において繰り返し実行される。なお、図7に示した処理の流れは、簡易的に示した流れであり、処理の順番は適宜変更されてもよい。例えば、ステップS60においける故障検知は、ステップS40あるいはステップS50における処理と並行して行われてもよい。
【0034】
以上で説明した本実施形態の光測距装置10によれば、複数回取得した反射光の強度信号の最大値と第1基準値、あるいは、複数回取得した強度信号の最小値と第2基準値とを比較することによって、受光素子311の故障を検知できるので、簡易な手法で受光素子311の故障を検知することができる。また、本実施形態では、受光素子311の故障数を推定し、その推定結果に応じて、強度信号を補正するので、ヒストグラムからピーク信号を精度よく検知することができる。この結果、距離の測定精度を向上させることができる。更に、本実施形態では、故障を検出した場合に、エラー情報を出力するため、外部機器はそのエラー情報に基づき、適切な対処を行うことができる。例えば、外部機器は、エラー情報に基づき、光測距装置10から出力された距離値を用いるか否か、車両を停止させるか否か、自動運転機能を解除するか否かなどを判断することができる。
【0035】
B.第2実施形態:
第2実施形態において、故障検知部60は、周囲の明るさに応じて、故障判定の信頼度を変動させる。故障検知部60は、例えば、現在時刻に基づき、昼夜を判別することによって周囲の明るさを判断可能である。また、故障検知部60は、光測距装置10あるいは車両に備えられた日射センサから、日射量の強さを表す信号を受信することによっても周囲の明るさを判断可能である。なお、周囲の明るさのことを、外乱光量ということもできる。故障検知部60が車両に取り付けられている場合には、周囲の明るさは、車両の走行時間帯や車両の走行場所によっても変化する。そのため、周囲の明るさのことを、車両の走行状況と捉えることもできる。
【0036】
夜間あるいはトンネル内のように、周囲の明るさが暗い環境では、図8に示すように、ヒストグラムの全体の信号レベルは低下する。そのため、周囲の明るさが暗い環境では、強度信号の最大値が、第1基準値以上になる可能性が低い。従って、故障検知部60は、受光素子311が故障したか否か、より具体的には、出力レベルが最小レベルに固着したか否かを判定することが困難になる。一方、昼間のように周囲の明るさが明るい環境では、図9に示すように、ヒストグラムの全体の信号レベルは高まる。そのため、周囲の明るさが明るい環境では、強度信号の最大値が、第1基準値以上になる可能性が高い。従って、故障検知部60は、受光素子311が故障したか否か、より具体的には、出力レベルが最小レベルに固着したか否かを判定することが容易となる。
【0037】
そこで、本実施形態では、故障検知部60は、受光素子311を故障と判定した場合に、その判定結果の信頼度を周囲の明るさに応じて変化させる。具体的には、故障検知部60は、判定結果の信頼度をパーセンテージによって表し、そのパーセンテージをエラー情報によって出力する。例えば、故障検知部60は、周囲の明るさが暗い場合に故障と判定した場合に、故障の可能性を、例えば、50%としてエラーの出力を行う。また、故障検知部60は、周囲の明るさが明るい場合に、故障と判定した場合に、故障の可能性を、例えば、100%としてエラーの出力を行う。こうすることによって、エラー情報を取得した外部機器は、受光素子311の故障の可能性に応じた対処を行うことができる。なお、故障の可能性の値は、周囲の明るさに応じて変化させてもよい。具体的には、周囲の明るさが明るいほど、パーセンテージの値を大きくする。こうすることによって、周囲の明るさに応じて、最適な信頼度を出力することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、周囲の明るさに応じて、故障判定の信頼度を変化させているが、故障検知部60は、周囲の明るさに応じて、第1基準値を変化させてもよい。例えば、故障検知部60は、周囲の明るさが暗い場合には、第1基準値を低くし、周囲の明るさが明るい場合には、第1基準値を高くする。このように、周囲の明るさに応じて第1基準値を変化させれば、周囲の明るさに応じて最適な第1基準値を動的に設定することができるので、故障判定を精度よく行うことができる。
【0039】
C.第3実施形態:
図10に示すように、第3実施形態では、光測距装置10は、受光部30を遮光可能に構成された遮光機構35を筐体15内に備えている。遮光機構35は、回転型ミラー36と無反射材37とを含む。回転型ミラー36は、制御部50(図2参照)によって駆動が制御される。制御部50は、通常時には、図10に示すように、筐体15に設けられた窓16を通じて入射した反射光を回転型ミラー36によって受光部30に導く。これに対して、制御部50は、故障検知部60が、出力レベルが1に固着した受光素子311を検出する場合には、図11に示すように、回転型ミラー36を回動させ、反射光を無反射材37に導き、反射光が受光部30に到達しないようにする。反射光が受光部30に到達しない状態では、周囲の明るさの影響を最小限に抑制することができるので、出力レベルが1に固着した受光素子311が存在する場合には、強度信号出力部41(図2参照)から出力される強度信号は、第2基準値よりも大きくなる可能性が高まる。そのため、出力レベルが1に固着した受光素子を精度よく検出することができる。なお、図10および図11には、光測距装置10の一部の構成のみを簡略的に示している。
【0040】
D.第4実施形態:
第4実施形態において、故障検知部60は、複数の画素31の中の対象画素に隣接する画素31における強度信号を基準値として用いて、対象画素における強度信号と比較することによって、対象画素に含まれる受光素子311の故障を検知する。
【0041】
具体的には、図12に示すように、故障検知部60は、対象画素Eにおける強度信号の最大値が、隣接画素B,H(または、画素D,F)の強度信号の最大値よりも、有意に小さい場合、対象画素Eの中に出力レベルが0に固着した受光素子が存在すると判定する。また、故障検知部60は、図13に示すように、対象画素Eにおける強度信号の最小値が、隣接画素B,H(または、画素D,F)の強度信号の最小値よりも有意に大きい場合、対象画素Eの中に出力レベルが1に固着した受光素子が存在すると判定する。
【0042】
正常な画素31であれば、隣接した画素31同士が出力する強度信号は、近い値になる可能性が高い。そのため、本実施形態のように、隣接画素の強度信号を基準値として用いることによっても、対象画素中の受光素子311の故障判定を行うことが可能である。
【0043】
本実施形態において、比較に用いる隣接画素は、対象画像に対して左右あるいは上下に隣接する2つの画素に限らず、上下左右に隣接する4つの画素であってもよい。また、対象画像を取り囲む8個の画素であってもよい。また、有意に小さい、あるいは、有意に大きいという判断基準は、例えば、複数の隣接画素の強度信号の最大値または最小値の平均値を基準値として求め、その基準値を所定の割合(例えば20%)以上下回る信号強度である場合に、有意に小さいと判断することができ、また、その基準値を所定の割合(例えば20%)以上上回る信号強度である場合に、有意に大きいと判断することができる。また、比較を行う対象画素の強度信号と、隣接画素の強度信号とは、それぞれ、各フレームにおいて取得された1つの値であってもよいし、複数フレームに亘って取得された複数の強度信号の平均値や最大値、最小値などの代表値であってもよい。なお、本実施形態においても、故障検知部60は、対象画素における強度信号と、基準値として用いた隣接画素の強度信号の差分の値を、故障した受光素子311の数として推定することが可能である。
【0044】
E.他の実施形態:
(E-1)上述した各実施形態において、光測距装置10は、故障した受光素子311の数を推定する機能、故障した受光素子311の数に応じて強度信号を補正する機能、エラー情報を出力する機能、を全て備えていてもよいし、少なくとも一部または全部を備えていなくてもよい。
【0045】
(E-2)上述した各実施形態において、ヒストグラム生成部42は、強度信号出力部41から出力される強度信号を複数回積算することによってヒストグラムを生成してもよい。こうすることにより、ヒストグラムのSN比を向上させることができる。具体的には、照射部20は、空間中の同一位置に対して複数回、光を照射し、受光部30は、同一の画素31に対して、複数回反射光を受光する。そして、強度信号出力部41は同一の画素31について複数回強度信号を出力することにより、ヒストグラム生成部42は、強度信号を複数回積算してヒストグラムを生成する。
【0046】
なお、このように強度信号を複数回積算してヒストグラムを生成する場合、故障検知部60は、積算した強度信号(最大値または最小値)と、基準値(第1基準値または第2基準値)との差分の値を、積算回数に応じた1以上の所定の係数で除することにより、故障した受光素子311の数を推定することができる。
【0047】
(E-3)上記実施形態では、受光部30に備えられた各画素31は、受光素子311としてSPADを備えている。これに対して、各画素31は、受光素子311としてピンフォトダイオードやアバランシェフォトダイオードなど、SPAD以外の他の受光素子を備えていてもよい。この場合、その受光素子が、受光した反射光の強度に応じた無段階あるいは多段階のレベルの信号を出力可能であれば、ヒストグラムを生成することなく、その信号のレベルを用いて距離を測定することも可能である。
【0048】
(E-4)上記実施形態では、光測距装置10は、投光における光軸と受光における光軸とが異なる異軸型の光学系を採用している。これに対して、光測距装置10は、投光における光軸と受光における光軸とが一致する同軸型の光学系を採用してもよい。また、上記実施形態では、画素は、鉛直方向および水平方向に平面的に配列されているが、画素GTは、所定の方向に1列に並んでいるものであってもよい。また、上記実施形態では、光測距装置10は、走査方式として、短冊状の光を一方向に走査する1Dスキャン方式を採用しているが、点状の光を2次元方向に走査する2Dスキャン方式を採用してもよい。また、光測距装置10は、光を走査せず、広範囲に光を照射するフラッシュ方式の装置であってもよい。
【0049】
(E-5)上記実施形態では、故障検知部60によって受光素子311の故障が検知された場合に、上記式(2)あるいは式(3)によってゲインを求め、強度信号の値に掛けて補正を行っている。しかし、強度信号の補正方法はこれに限られない。例えば、受光素子311の故障数に応じた値を、単純に強度信号に加算あるいは強度信号から減算してもよい。具体的には、強度信号出力部41は、出力が1に固着された受光素子311が検知された場合には、その受光素子311の数を強度信号から減算する。また、強度信号出力部41は、出力が0に固着された受光素子311が検知された場合には、その受光素子311の数を強度信号に加算する。こうすることによっても、受光素子311の故障数に応じて強度信号を補正することが可能である。
【0050】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 光測距装置、15 筐体、16 窓、20 照射部、21 光源、22 走査部、30 受光部、31 画素、32 受光面、35 遮光機構、36 回転型ミラー、37 無反射材、40 測定部、41 強度信号出力部、42 ヒストグラム生成部、43 信号処理部、44 距離演算部、50 制御部、60 故障検知部、221 回転軸、222 ミラー、311 受光素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13