(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電動アシスト運搬車
(51)【国際特許分類】
B62B 3/00 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
B62B3/00 G
(21)【出願番号】P 2019013799
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田子 達寛
(72)【発明者】
【氏名】西河 智雅
(72)【発明者】
【氏名】原田 健太
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-215043(JP,A)
【文献】特開2007-176195(JP,A)
【文献】特開2018-122687(JP,A)
【文献】特開平05-193368(JP,A)
【文献】特開2001-107987(JP,A)
【文献】特開2016-043795(JP,A)
【文献】特開平11-262111(JP,A)
【文献】特開2007-015671(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042957(WO,A1)
【文献】特開2009-012510(JP,A)
【文献】特開2013-124008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を搭載可能な台車と、
前記台車に設けられる駆動輪と、
前記駆動輪を駆動するモータと、
前記台車を押すためのハンドル部と、
前記モータに電力を供給するバッテリと、
前記モータの回転制御をする制御部を有する電動アシスト運搬車において、
前記モータの駆動力を伝達し且つ前記駆動輪からの回転力は前記モータに伝達しないトルク伝達機構を前記駆動輪と前記モータの間に設
け、
前記ハンドル部は水平に設けられる前記台車の右側後部から上方に延在する右側パイプと、前記台車の左側後部から上方に延在する左側パイプと、前記右側パイプと前記左側パイプの上端間を接続するように連結する水平パイプを有し、
前記右側パイプと前記左側パイプは途中で分断され、それを連結する筒状の連結部材にて接続し、
前記連結部材の外周面に2つのひずみゲージと、内周面に2つのひずみゲージを設け、前記制御部は4つの前記ひずみゲージをブリッジ接続した出力を用いて前記モータを駆動することを特徴とする電動アシスト運搬車。
【請求項2】
前記駆動輪は右駆動輪と左駆動輪を有し、
前記右駆動輪を駆動する右モータと、前記左駆動輪を駆動する左モータを有し、
前記トルク伝達機構は、前記右駆動輪と前記右モータの間、及び、前記左駆動輪と前記左モータの間にそれぞれ設けられ、
前
記制御部は、4つの前記ひずみゲージからの出力を用いて前記右駆動輪と前記左駆動輪を駆動することを特徴とする請求項
1に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項3】
前記制御部は前記右モータと前記左モータを独立して制御することを特徴とする請求項
2に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項4】
荷物を搭載可能な台車と、
前記台車に設けられる駆動輪と、
前記駆動輪を駆動するモータと、
前記台車を押すためのハンドル部と、
前記モータに電力を供給するバッテリと、
前記モータの回転制御をする制御部を有する電動アシスト運搬車において、
前記モータの駆動力を伝達し且つ前記駆動輪からの回転力は前記モータに伝達しないトルク伝達機構を前記駆動輪と前記モータの間に設け、
前記ハンドル部は前記台車の左右中央から上方に延在する主パイプと、該主パイプの端部に接続される把持部を有する略T字状の形状であり、前記主パイプの途中にセンサ部を設け、
前記センサ部は側面視でS字状であって、中央に中空部が形成され、中空部の外周側に
2つのひずみゲージと、内周側に2つのひずみゲージ
を有し、
前記制御部は4つの前記ひずみゲージをブリッジ接続した出力を用いて前記モータを駆動することを特徴とする電動アシスト運搬車。
【請求項5】
前記駆動輪は右駆動輪と左駆動輪を有し、
前記右駆動輪を駆動する右モータと、前記左駆動輪を駆動する左モータを有し、
前記トルク伝達機構は、前記右駆動輪と前記右モータの間、及び、前記左駆動輪と前記左モータの間にそれぞれ設けられ、
前記制御部は、4つの前記ひずみゲージからの出力を用いて前記右駆動輪と前記左駆動輪を駆動することを特徴とする請求項4に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項6】
前記制御部は前記右モータと前記左モータを独立して制御することを特徴とする請求項5に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項7】
それぞれの前記トルク伝達機構は
、複数のワンウェイクラッチで構成されることを特徴とする請求項
2、3、5、6のいずれか一項に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項8】
それぞれの前記トルク伝達機構は
、ソレノイドとクラッチで構成されることを特徴とする請求項
2、3、5、6のいずれか一項に記載の電動アシスト運搬車。
【請求項9】
前記バッテリは、電動工具用電池パックであることを特徴とする請求項1から
8のいずれか一項に記載の電動アシスト運搬車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハンドル部を押すか引くことによって人力によって移動させる運搬車を電気モータによってアシストする電動アシスト運搬車に関し、特に、ハンドル部に荷重センサを設けて、荷重センサからの出力を検知してモータによって運搬車の駆動輪を駆動すると共に、バッテリが無くなった場合にモータが発電機にならないようにした電動アシスト運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫等の作業現場において、作業者が人力にて移動させる小型の運搬車が広く用いられる。一例として台車と呼ばれる4輪の運搬車がある。運搬車は、下側に車輪が固定される荷台を有し、荷台の一部から延在するようにハンドル部が設けられる。4つの車輪のうち、前方側又は後方側の2つを左右に旋回可能な旋回輪とし、他方側の2つを左右に旋回不能な固定輪とする。このように台車は、大きさがコンパクトであって、小回りがきくため大変使いやすい。しかしながら、荷台に重量物を乗せて運搬しようとすると、作業車がかなりの力で押したり引いたりすることが必要になる。特に、静止状態から動き出す時に多大なる力が必要となる。
【0003】
重量物を乗せた際の作業車の労力を低減させるために、特許文献1のように電動アシスト式の台車が提案されている。特許文献1では、ハンドルバーに作用する力を検出する圧力検出器を設けて、検出圧力値が設定圧力値を越えた場合に車輪を駆動するモータを駆動するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では作業者の押す力または引っ張る力が少なくて済むという利点がある。しかしながら、特許文献1のアシスト運搬車では、電池がなくなった際に手押しでモータを回すことになるために作業者に加わる負荷が増えることになる。また、電池の残量が十分ある場合でも、モータの最高回転数より早くなる速度で手押しされた場合には、モータが負荷になってしまい、作業者に余計な負荷を加えることになる。さらに、手押しの力でモータが回された場合には、モータが発電機として作用するため、十分な対策をしないと制御素子の耐格電圧より高い電圧が生じて制御素子が破損する虞がある。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、モータの非駆動時の作業者への負荷増加を防止できるようにした電動アシスト運搬車を提供することにある。
本発明の他の目的は、モータによる駆動力は正逆回転ともに車輪側に出力として伝わるが、車輪側からの入力は正逆回転ともにモータ側に伝わらないように構成した電動アシスト運搬車を提供することにある。
本発明の他の目的は、電池がなくなった際又は電池を取り外した際にも、通常の台車として使用可能な電動アシスト運搬車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、荷物を搭載可能な台車と、台車に設けられる駆動輪と、駆動輪を駆動するモータと、台車を押すためのハンドル部と、モータに電力を供給するバッテリと、モータの回転制御をする制御部を有する電動アシスト運搬車において、モータの駆動力を伝達し且つ駆動輪からの回転力はモータに伝達しないトルク伝達機構を駆動輪とモータの間に設け、ハンドル部の途中にひずみゲージ等のセンサ部を介在させ、センサ部からの出力を用いて駆動輪を駆動する。駆動輪は右駆動輪と左駆動輪を有し、右駆動輪を駆動する右モータと、左駆動輪を駆動する左モータを独立して設け、センサ部からの出力を用いて右駆動輪と左駆動輪を独立に又は連動して駆動するようにした。
【0008】
本発明の他の特徴によれば、ハンドル部は水平に設けられる台車の右側後部から上方に延在する右側パイプと、台車の左側後部から上方に延在する左側パイプと、右側パイプと左側パイプの上端間を接続するように連結する水平パイプを有し、センサ部は、右側パイプの下端と上端の間と、左側パイプの下端と上端の間にそれぞれ設けられる。また、右側パイプと左側パイプは途中で分断され、それを連結する筒状の連結部材にて接続し、連結部材の外周面に2つと内周面に2つのひずみゲージを設け、制御部は4つのひずみゲージをブリッジ接続した出力を用いて右モータ及び左モータを駆動する。制御部は、2つのセンサ部の出力を用いて、右モータと左モータを独立して制御すると良い。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、ハンドル部は台車の左右中央から上方に延在する主パイプと、該主パイプの端部に接続される把持部を有する略T字状の形状であり、センサ部は主パイプの途中に設けられる。また、センサ部は側面視でS字状であって、中央に中空部が形成され、中空部の外周側に2つと、内周側に2つのひずみゲージを設け、制御部は4つのひずみゲージをブリッジ接続した出力を用いてモータを駆動する。
【0010】
本発明のさらに他の特徴によれば、トルク伝達機構は複数のワンウェイクラッチで構成される。またトルク伝達機構は、ソレノイドとクラッチで構成することも可能である。またバッテリとしては、電動工具で広く使用されている電動工具用電池パックを用いると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワンウェイクラッチを複数使用し、台車は押しても引いてもアシスト力を印加できるうえに、バッテリの放電後やバッテリ取り外し時にもモータが走行の障害にならないので、使いやすい電動アシスト運搬車を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車1の左側面図である。
【
図2】本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車1の背面図である。
【
図3】
図1の荷重センサ部30の部分拡大図であり、(A)は上面図であり、(B)はA方向からの矢視図である。
【
図4】
図1の電動アシスト運搬車1の制御ブロック図である。
【
図6】
図3のひずみゲージの出力波形とモータによる駆動力の関係を示す図である。
【
図7】本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車1のアシスト動作の制御手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図1の電動アシスト運搬車1のトルク伝達機構部60の縦断面図である。
【
図9】
図8のトルク伝達機構部60におけるモータの正回転時の動力伝達経路を示す縦断面図である。
【
図10】
図8のトルク伝達機構部60におけるモータの逆回転時の動力伝達経路を示す縦断面図である。
【
図11】
図8のトルク伝達機構部60における前進時の左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達経路を示す縦断面図である。
【
図12】
図8のトルク伝達機構部60における後退時の左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達経路を示す縦断面図である。
【
図13】第一実施例の第一変形例に係る電動アシスト運搬車1Aのトルク伝達機構部120の縦断面図である(トルク伝達時)。
【
図14】
図14のトルク伝達機構部120の縦断面図である(トルク非伝達時)。
【
図15】第一実施例の第二変形例に係る電動アシスト運搬車1Bのトルク伝達機構部120である。
【
図16】本発明の第二実施例に係る電動アシスト運搬車201の右側面図である。
【
図18】
図16のB部の荷重センサ部230を示す図であり、(A)は荷重センサ部230の断面図であり、(B)は(A)のC-C部の断面図である。
【
図19】本発明の第二実施例に係る電動アシスト運搬車201の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0014】
図1は本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車1の右側面図である。電動アシスト運搬車1は、“ワゴン台車”、“キャリーカート”として市販されているもので、上部が開放された容器状の荷台部を、作業者がハンドル部4を前方側に引くことによって前方側に移動させる。また、作業者はハンドル部4を後方側に押すことによって荷台部を後方側に移動させることができる。荷台部には2つの固定車輪(駆動輪11、16(11は
図2参照))と2つの自在車輪10を有する。本実施例の電動アシスト運搬車1は、ワンハンドル式の“ワゴン台車”として広く知られている運搬車に、電動工具で広く用いられている電動工具用の電池パック25と、後述するモータ15と、ハンドル部4に設けられる荷重センサ部30と、モータの回転制御を行う制御部を設け、作業者からハンドル部4に加わる力(引っ張り力または、押圧力を制御部が検出して、モータを駆動することによって作業者の負担を低減させるものである。
【0015】
電動アシスト運搬車1の荷台部2は、積載物を搭載するための上側に開口を有する空間を有し、格子状の支柱21b、21d、連結棒22a~22d等によるフレーム部の内側に布製の壁面28を設けたものである。壁面28は前側壁28a、後側壁28b、右側壁28c(図では見えない)、左側壁28d、及び、底面28eの5面を有する。上面視で荷台部2の四隅には鉛直方向に延びる支柱21a~21d(図では21a、21cは見えない)が配置され、これらの間をX字状に配置される連結棒22a~22d等によって連結させる。連結棒22a~22dの右側には壁面28が設けられ、左側壁28dが形成される。同様にして、荷台部2の右側も支柱21aと21c(図では見えない)の間をX字状に配置される連結支柱によって連結され、壁面28の右側壁28c(図では見えない)が位置づけられる。前側壁28a、後側壁28b、右側壁28c、及び、左側壁28dの下側部分は、底面28eによって閉鎖される。尚、底面28eには、積載物で潰されないように底板(図では見えない)を沿わせるようにすると良い。支柱21a~21dの下側には固定車輪11、16(11は
図2参照)と、2つの自在車輪10(図では片方しか見えない)が固定される。後方側の車輪は左右方向に回転しない固定車輪(11、16)であって、前方側の車輪は鉛直軸を中心に回動可能とすることによって左右方向に向くようにした自在車輪10である。
【0016】
一対の自在車輪10は、荷台部2の横方向に間隔を隔てて配置される。自在車輪10はブラケット部材8にて保持され、ブラケット部材8には回動可能な回動軸(図では見えない)に軸支される。ブラケット部材8の回動軸が支柱21aと21bの下側にネジ止めされる。荷台部2の後方側に取り付けられた固定車輪11、16(11は
図2参照)は、荷台部2の横方向に間隔を隔てて配置される。駆動輪たる後方側の固定車輪16は、ブラケット部材17に軸支され、ブラケット部材17は支柱21dの下側にネジ止めされる。
【0017】
荷台部2の前側壁の下辺には、支柱21aと21bを連結する梁部(図では見えない)が設けられ、梁部には作業者が引く際に把持するためのハンドル部4が接続される。ハンドル部4は、梁部に対して自在に相対角度を変更できるように自在継手(図では見えない)を用いて接続される。ハンドル部4は金属製の中空パイプを2本接続してT字状にしたものであって、T字の先端部分となる左右方向水平棒(水平パイプ)43を作業者が把持する。本実施例のハンドル部4では、T字の長手部分となる主パイプ(支柱部)の途中を切断して上側支柱部41と下側支柱部42に分離し、それらを荷重センサ部30で接続したものである。
【0018】
ハンドル部4が作業者によって前方側に引かれると、荷台部2が前進し、後方側に押されると荷台部2が後退する。この際、荷重センサ部30に引っ張り応力又は圧縮応力が加わるので、その際の荷重センサ部30に加わる局所的な荷重をひずみゲージの出力変化で検出して、検出結果に応じて後述するマイコンがモータを回転させるように制御する。
【0019】
図2は本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車1の背面図である。T字状のハンドル部4は、左右方向水平棒43と、左右方向水平棒43から下方に延びる支柱部(上側支柱部41と下側支柱部42)を含んで構成される。左右方向水平棒43は作業者が電動アシスト運搬車1を引いたりする際に手でつかむ部分となる。ハンドル部4の左右方向水平棒43、上側支柱部41、下側支柱部42(
図1参照)は、長手方向垂直断面が円形、長円形、又は四角形のパイプであって、本実施例では左右方向水平棒43の断面形状を円形として、支柱部(上側支柱部41、下側支柱部42)の断面形状を長円形としている。
【0020】
荷台部2の後方側では支柱21cと21dの間が連結棒24c、24dにより接続され、その内側に壁面28が固定され後側壁28bが形成される。連結棒24c、24dのクロスする部分には電池パック取付部45が設けられ、電動工具用の電池パックが取り付け可能に構成される。電池パック取付部45には、左右方向に間隔を隔てて上下方向に延びるレール部が形成され、レール部の間には、電池パック25(
図1参照)の接続端子と接触するターミナル部が設けられる。このように電池パック25を後側壁28bの後面側に設けることによって、荷台部2に積載した荷物が電池パック25に当たる虞を少なくできる。また、ハンドル部4の操作によって、ハンドル部4と電池パック25との衝突を防止できる。さらに、モータと電池パック25との距離が短くなるので、配線の長さを短くできる。また、段差を乗り越えるときに前方側を持ち上げることが多いが、電池パックが後方にあると前方側を持ち上げやすくなる。
【0021】
荷台部2の後方の下側には2つの固定車輪(右駆動輪11、左駆動輪16)が固定され、固定車輪はそれぞれモータ15A、15Bによって駆動される。モータ15A、15Bは直流モータであり、バッテリ(電池パック25)の電力を用いて回転力を右駆動輪11及び左駆動輪16に伝達することで、作業者による荷台部2の移動に必要な力を軽減させる。モータ15A、15Bの回転は、後述する制御部50(
図4参照)によって制御される。
【0022】
モータ15Aと右駆動輪11は、トルク伝達機構部60Aによって接続される。同様に、モータ15Bと左駆動輪16は、トルク伝達機構部60Bによって接続される。駆動輪11はナット13によってハブ11aに固定され、駆動輪16はナット18によってハブ16aに固定される。トルク伝達機構部60(60A、60B)は、モータ15(15A、15B)からの駆動力を駆動輪11、16側に伝達するが、駆動輪11、16からモータ15に伝わるトルクは、正逆回転ともに伝達しない。また、モータ15A、15Bはそれぞれ独立して駆動可能であるが、本実施例では制御を簡略化するために、同じ回転速度でモータ15A、15Bを連動制御するようにした。トルク伝達機構部60A、60Bはブラケット部材12、17にネジ止め固定され、トルク伝達機構部60A、60Bにそれぞれモータ15A、15Bが固定されるが、それらの固定方法は任意である。尚、モータ15A、15Bとトルク伝達機構部60A、60Bの固定構造は任意であり、モータ15A、15Bを荷台部2にブラケット等にて固定するようにしても良いし、左右のモータ15A、15Bのハウジングを連結部材で固定しても良い。
【0023】
図3は
図1の荷重センサ部30の部分拡大図であり、(A)は上面図であり、(B)はA方向からの矢視図である。荷重センサ部30は最大面積を有する面の法線方向から見てS字状に加工したアルミニウム合金のブロック(一体部材)であって、(B)のようにA方向から見ると均一の厚みを有する厚板状とされる。基台部31のS字状の上側辺部33aにハンドル部4の上側支柱部41がネジ止めされ、下側辺部33bにハンドル部4の下側支柱部42がネジ止めされる。上側支柱部41には2つのネジ穴35a、35bが形成され、上側支柱部41には2つのネジ穴41a、41bが形成され、これらがネジ止めされる。同様に、下側支柱部42には2つのネジ穴36a、36bが形成され、下側支柱部42には2つのネジ穴42a、42bが形成され、これらがネジ止めされる。ハンドル部4の上側支柱部41と下側支柱部42は分離された別部材であって、いわば従来のハンドル部を途中で切断したような状態にある。尚、上側支柱部41と基台部31の固定方法、及び、基台部31と下側支柱部42との固定方法は任意で有り、2本のネジを用いるのではなくて別の固定方法を用いるようにしても良い。
【0024】
連結部32a、32bは、上側支柱部41及び下側支柱部42の長手軸方向と並行は細長い部分である。連結部32a、32bでは長手軸方向が通る部分に基台部31のブロックが位置しない構成となる。従って、上側辺部33aと下側辺部33bが長手軸方向に引っ張られたり、又は押しつけらたりすると基台部31が全体的に歪みやすくなる。荷重センサ部30の基台部31の中央部分(中空部)31aは、下側支柱部42の長手方向に長い幅を有し、中央に貫通する穴部34を形成した。穴部34は、いわば2つの円形のくり抜き穴34a、34bを連結させたような形状であって、連結部分に平行面34cが形成される。基台部31の中央部分31aの外側の面であって、くり抜き穴34a、34bによる穴部34との距離が最も短い薄肉部にひずみゲージSG1~SG4が固定される。
【0025】
基台部31の連結部32a側の外面にひずみゲージSG1、SG2が設けられ、連結部32b側の外面にひずみゲージSG3、SG4が設けられる。ひずみゲージSG1、SG2はそれぞれ長手方向中心線から同距離の位置に配置される。また、ひずみゲージSG3、SG4もそれぞれ長手方向中心線から同距離の位置に配置される。ひずみゲージSG1~SG4は、それぞれ2本のリード線(図示せず)が接続される。ひずみゲージSG1~SG4は、基台部31の軸方向の延びと縮み状態を検出するものであって、支柱部41、42の長手方向に見た同位置に、ひずみゲージSG1とSG3が並べて配置され、同様に長手方向に見た同位置に、ひずみゲージSG2とSG4が並べて配置される。基台部31はS字状の形状に形成されるため、適度な変形をすることによってひずみゲージSG1~SG4によって作業者の力の付加方向とその強さを精度良く検出することができる。尚、ここでは荷重センサ部30の形状を、ひとつの側面から見たときに略S字状としたが、金属製の中央部分(中空部)31aに穴部34を形成すると共に、中央部分(中空部)31aから上側支柱部41と下側支柱部42に延びる弓状のアームや、何らかの連結用ブラケットを設けたような形状として構成することも可能である。
【0026】
図4は
図1の電動アシスト運搬車1の制御ブロック図である。電動アシスト運搬車1は、右駆動輪11と左駆動輪16にモータ15A、15Bが設けられ、モータ15A、15Bは電池パック25からの電力によって回転される。モータ15A、15Bの回転制御のために、モータ駆動回路54が設けられる。モータ駆動回路54は、右側のモータ15Aの回転方向及び回転数を決定する右モータ駆動回路55と、左側のモータ15Bの回転方向及び回転数を決定する左モータ駆動回路56を含んで構成される。モータ15A、15Bはブラシ付きのDCモータであり、右モータ駆動回路55と左モータ駆動回路56によってPWM(Pulse Width Modulation)制御による回転制御が行われる。PWM制御は、周期を一定として入力電圧の大きさに対応して、パルス幅のデュ-ティ比(パルス幅のハイとローの比率)を変えて、モータを制御する公知の回路である。右モータ駆動回路55と左モータ駆動回路56のデュ-ティ・サイクルは、制御部50に含まれるマイコン51によって決定され、マイコン51からモータ駆動回路54に出力される制御信号によって指示される。
【0027】
電池パック25の出力から制御部50の動作電源を生成するためのDC/DCコンバータ52が設けられる。DC/DCコンバータ52は電池パック25の電圧を降圧させて、一定の低電圧(5V又は3.3V)を生成するための電源回路であり、制御部50に供給される。本実施例では、DC/DCコンバータ52の出力は、ひずみゲージSG1~SG4の入力側にも出力される。ひずみゲージSG1~SG4は、外力を受けて伸縮すると、ある範囲で抵抗値が増減するようにされた抵抗体を含んで構成され、抵抗体を測定対象物に電気絶縁物を介して接着しておくことによって、測定対象物の伸縮に比例して抵抗値が変化する。このようにひずみゲージは抵抗変化によって歪み量を測定するセンサで有り、ここでは
図5に示すように4つのひずみゲージSG1~SG4がブリッジ状に接続される。つまり、ブリッジ回路の各辺がすべてひずみゲージSG1~SG4で構成される回路である。このようにブリッジ状に4つのひずみゲージを配置することによって、出力を大きくすることが可能となり、温度補償特性が良くなり、測定対象以外の歪み成分の影響を少なくすることができる。ひずみゲージSG1とSG4の接続点、及び、ひずみゲージSG2とSG3の接続点にDC/DCコンバータ52から入力電圧E
R1が供給され、ひずみゲージSG1とSG2の接続点、及び、ひずみゲージSG4とSG3の接続点から出力電圧E
R2が取り出される。出力電圧E
R2は、増幅回路53を介して制御部50のマイコン51に出力される。
【0028】
尚、荷重センサ部30の回路は、
図5で示すような4つのひずみゲージSG1~SG4を用いたブリッジ状の接続回路図とするのではなくて、他の公知の接続方法、例えば、1つのひずみゲージSGと3つの固定抵抗器をブリッジ状に接続するような回路としても良い。また、その他の公知の歪み検出センサをハンドル部4に配置して、その出力をマイコン51で検出するようにしても良い。
【0029】
ここで
図6を用いて、ひずみゲージSG1~SG4の出力波形を用いたモータ15Aの回転制御方法を説明する。
図6は出力電圧E
R2(
図5参照)とモータ15Aによる駆動力の関係を示す図である。ひずみゲージSG1~SG4の出力37、38は、歪みがゼロの場合は入力電圧E
R1に対して出力電圧E
R2が0(V)となる。作業者によりハンドル部4が押したり又は引いたりした場合は、ひずみゲージSG1~SG4の出力バランスが崩れて出力電圧E
R2が増加又は減少する。
図6(A)の37は作業者によってハンドル部4を引っ張った際の出力電圧E
R2の出力波形であり、作業者による引っ張り力(単位Pa)と比例する。ひずみゲージの出力37は、矢印37aに示すように引っ張り直後に上昇し、矢印37bの時点で荷台部2が動き出すのに必要な引っ張り力P
1に到達したら電動アシスト運搬車1が動きだす。その後、ひずみゲージの出力37は矢印37cのようにピークに達すると、荷台部2は十分動き出しているので、必要な引っ張り力は移動開始時に比べて小さくて済むため、ひずみゲージの出力37が低下し矢印37eで示す位置にて落ち着く。尚、荷台部2が動き出すのに必要な引っ張り力P
1や、矢印37eの大きさは荷台部2に載せた荷物の重量や床との摩擦係数との関係により変動するので一定ではない。ここで、制御部50は、引っ張り出力の約50%程度の駆動力をモータ15A、15Bに発生させるように駆動させる。この時のモータ15A、15Bによってアシストされるアシスト力57を
図6中に合わせて図示しているが、ここでは荷台部2を動かすのに本来必要とされる引っ張り力の約半分程度の力を、モータ15A、15Bによって発生させることにした。この結果、作業者はモータ15A、15Bを引いた差分だけの力を付与すれば良いことになり、従来必要とされていた半分程度の力で荷台部2を動かすことが可能となった。
【0030】
図6(B)はハンドル部2を押す状態で荷台部2を後退させるときの出力電圧E
R2の出力38を示すものである。出力38は、はじめは引っ張りも、押し出しもしていないので0(V)であり、押し出しを開始した際に押し出しに必要な出力(引張を+とする)が、マイナス方向に検出される。矢印38aのように-方向に増加し、矢印38bの時点で押し出し力が静止摩擦力(押し出し力-P
1)に勝つと荷台部2が動きだし、矢印38cのようにピークに到達した後に出力電圧E
R2の出力波形38の絶対値が下がっていく。その後、矢印38eに示すレベルで落ち着き一定の押し出し出力になる。モータ15A、15Bによるアシスト出力は、出力電圧E
R2の値に応じてマイコンが演算を行って決定する押し出し方向においても、出力電圧E
R2の出力の約半分に相当する量の駆動力がモータ15A、15Bによって得られるようにした。このように、モータ15A、15Bによる駆動力の大きさをひずみゲージSG1~SG4の出力変化によって決定するので、刻々と変わる作業者の力加減に合わせて最適な量のアシスト力を付加することができるので、作業者は違和感の少なくて軽い操作で移動が可能な電動アシスト運搬車1を実現できた。また、モータ15A、15Bの駆動力は出力電圧E
R2の値に応じて付与されるため、駆動輪11、16側からの負荷、例えば何らかの要因によって駆動輪11、16が回転させられた場合は、正逆回転力ともにそのトルクはモータ15A、15Bに伝達されない。尚、本実施例では引っ張り方向、押し出し方向ともに50%のアシスト力としたが、引っ張り方向と押し出し方向のアシスト力の比率を変えるようにしても良い。
【0031】
図7は電動アシスト運搬車1のアシスト動作の制御手順を示すフローチャートである。
図7に示す一連の手順は、制御部50の図示しない記憶装置にあらかじめ格納されたプログラムをマイコン51が実行することによってソフトウェア的に実行可能である。
図7に示す一連の制御は、電動アシスト運搬車1の図示しないメインの電源スイッチをオンにすることによりマイコン51が起動して開始される。最初にマイコン51は、図示しない電源スイッチがオフになったかを判定する(ステップ101)。電源スイッチがオフになったら、マイコン51は自らをシャットダウンさせて処理を終了する(ステップ109)。ステップ101で電源オン状態が維持されていたら、マイコン51はひずみゲージSG1~SG4の出力を取り込むタイミングに到達したか、即ち、前回の取り込み時からサンプリングタイムが経過されたか否かを判定する(ステップ102)。サンプリングタイムが経過されていない場合はステップ101に戻って待機する。サンプリングタイムは、例えば数ミリ秒から十数ミリ秒程度とすれば、十分な応答性を有する電動アシスト運搬車1が実現できる。
【0032】
ステップ102においてサンプリングタイムが経過したら、マイコン51はひずみゲージSG1~SG4の出力を取得して、ハンドル部4に押し出し力か引っ張り力のいずれかが付与されているか、また、その大きさはどの程度かを判定する(ステップ103)。次にマイコン51は、ハンドル部4に加えられる引っ張り力又は押し出し力のいずれかが、モータ15にてアシストを要する最低レベルたる不感閾値Pminを越えているか否かを判定する(ステップ104)。不感閾値Pminを設けるのは、作業者がハンドル部4に触れた程度のわずかな力を付与した場合や、ハンドル部4を握ったまま静止しているような場合に、モータが予測せずに起動することを防止するためである。ここで、不感閾値Pminを越えている場合にマイコン51は、所定の関数を用いてモータ15に印加する電圧(PWM制御のデュ-ティ比)を決定する(ステップ105)。そして、マイコン51はモータ15に決定されたデューティ比の電圧を印加して、ステップ101に戻る(ステップ106)。一方、ステップ104において不感閾値Pminを越えていない場合は、マイコン51はPWM制御のデュ-ティ比を0%とすることによって、モータ15に印加する電圧をゼロにし(ステップ107)、ステップ101に戻る。
【0033】
以上の様にモータ15を制御することによって、電動アシスト運搬車1の移動時に電池パック25による電力によってモータ15を駆動することが可能となる。また、作業者のハンドル部4を介した操作以外の外力が電動アシスト運搬車1に加わった場合、例えば坂道を重力によって下がる場合や、荷台部2が直接押された場合等には、荷重センサ部30の出力信号には変化が起きないので、モータ15が駆動されてしまう事態の発生を回避できる。尚、電動アシスト運搬車1の場合は、電池パック25の電力がなくなった場合も考慮する必要がある。電力喪失の原因は、電池パック25が放電して使用可能な最低電圧以下になった場合や、電池パック25自体が電池パック取付部45から取り外された場合である。そのため、本実施例の電動アシスト運搬車1では、モータ15Aと右駆動輪11の間、及び、モータ15Bと左駆動輪16の間をトルク伝達機構部60A、60Bによって接続するようにした。
【0034】
図8は
図1の電動アシスト運搬車1のトルク伝達機構部60Aの縦断面図である。トルク伝達機構部60Aと60Bは共通部品をあるため、その構成は同一である。トルク伝達機構部60Aは、モータ15Aの回転軸19に接続される入力軸62から、左駆動輪16を駆動する駆動軸91に回転力を伝達する。入力軸62と駆動軸91は同軸上に並べて配置されるが、それらは分離された位置にある。左駆動輪16は床面95と接する車輪である。入力軸62から駆動軸91への駆動力の伝達をするために、2つの中間軸、即ち第一中間軸72と第二中間軸82が配置される。第一中間軸72はモータ15の一方側の回転力(前進側の回転力)を伝達するために設けられ、第二中間軸82はモータ15の他方側の回転力(後退側の回転力)を伝達するため設けられる。入力軸62はモータ15の出力を伝達する回転軸19に固定される。ここで回転軸19は、モータ15の図示しない出力軸に接続された図示しない減速機構の出力軸であって、モータ15の回転数を所定の比率で減速された状態で回転する。
【0035】
入力軸62の外周側にはワンウェイクラッチ66、68を介して特定方向のみに空転する円筒形のスリーブ65、67が設けられる。スリーブ65、67は金属製の部材であり、それぞれの外周側は1つの軸受63、69によってハウジング61にて保持される。軸受63、69は共にボールベアリングで構成できる。スリーブ65の外側には第一平歯車64が設けられ、スリーブ67の外側には第二平歯車70が固定される。ワンウェイクラッチ66、68は、入力軸62の一方向の回転力をスリーブ65、67も伝達し、逆方向の回転力を伝達しないクラッチ機構であり、空転時にはベアリングとしての機能を有する。ワンウェイクラッチ66、68は、市販のカムクラッチを用いることができる。ここで、第一のワンウェイクラッチ66と、第二のワンウェイクラッチ68の回転力伝達方向が逆方向になるように配置する。この結果、モータ15の回転方向が正回転(左駆動輪16を前進させる回転方向)の場合にはスリーブ65には動力が伝達されるが、スリーブ67には動力が伝達されない。また、モータ15の回転方向が逆回転(左駆動輪16を後退させる回転方向)の場合には、スリーブ67には動力が伝達されるが、スリーブ65には動力が伝達されない。このように2つのワンウェイクラッチ66、68を用いることによって、モータ15の正転時には第一平歯車64のみが回転して、逆回転時には第二平歯車70のみが回転する回転機構を実現できる。
【0036】
第一中間軸72は、第一平歯車64の回転力を駆動軸91に伝達するために設けられる。第一中間軸72の後方側の端部には、円筒部分を有する第三スリーブ76がワンウェイクラッチ77を介して接続される。第三スリーブ76は、モータ15に近い側が円筒状とされ、モータ15から遠い側が第四平歯車78を固定するための軸部とされ、2つの軸受74、79によってハウジング61にて保持される。ここでワンウェイクラッチ77は、第一中間軸72が特定方向(モータ15の正回転方向)に回転するときに第一中間軸72から第三スリーブ76に動力を伝達する。他方、第一中間軸72と第三スリーブ76の特定方向とは反対向きの相対回転の際には空転する。第四平歯車78は駆動軸91のモータ側端部に固定された第七平歯車92と噛合する。このようにワンウェイクラッチ77を設けたことによって、モータ15の正回転方向の駆動力のみを第一中間軸72から駆動軸91に伝達することができる。また、駆動軸91の前進方向の回転数が、なんらかの外力によって第一中間軸72の回転数よりも高くなった場合には、ワンウェイクラッチ77が空転することになるので、左駆動輪16から入力される前進方向のトルクが、入力軸62に伝達されることを阻止できる。
【0037】
第二中間軸82は、第二平歯車70の回転力を駆動軸91に伝達するために設けられ、軸受83によってハウジング61に軸支される。第二中間軸82の後方側の端部には、円筒部分を有するスリーブ86がワンウェイクラッチ87を介して接続される。スリーブ86はモータ15に近い側が円筒状とされ、モータ15から遠い側が第六平歯車88を固定するための軸部とされ、2つの軸受84、89によってハウジング61にて保持される。ここでワンウェイクラッチ87は、第二中間軸82が特定方向(モータ15の逆回転方向)に回転するときに第二中間軸82からスリーブ86に動力を伝達する。他方、第二中間軸82とスリーブ86の特定方向とは反対向きの相対回転の際には空転する。第六平歯車88は駆動軸91のモータ側端部に固定された第七平歯車92と噛合する。このようにワンウェイクラッチ87を設けたことによって、モータ15の逆回転方向の駆動力のみを第二中間軸82から駆動軸91に伝達することができる。また、駆動軸91の後進方向の回転数が、なんらかの外力によって第二中間軸82の回転数よりも高くなった場合には、ワンウェイクラッチ87が空転することになるので、左駆動輪16から入力される後進方向のトルクが、入力軸62に伝達されることを阻止できる。
【0038】
駆動軸91は左駆動輪16を固定するものであって、大型の軸受93によってハウジング61に軸支される。軸受93はボールベアリングとすることができるが、ニードルベアリング等、市販されているその他の軸受を用いても良い。駆動軸91の反モータ15側は、左駆動輪16のハブ16aを取りつけるための細径の取付軸部91aが形成され、取付軸部91aの反モータ15側の端部には、図示しないナット18(
図2参照)を螺合させるための雄ねじ部91bが形成される。
図8に示す左駆動輪16の上側には、左駆動輪16の上側を覆うように形成されるブラケット部材17が取りつけられる。ブラケット部材17は、荷台部2の下面に固定される。
【0039】
以上、本実施例では、市販されているワンウェイクラッチ66,68、77、87の4個を用いる事によって、モータ15Bの駆動力は駆動輪側に伝達するが、タイヤ側を回転させた場合は正逆回転ともそのトルクはモータ15B側に伝達しないようにしたトルク伝達機構部60Bを実現できた。次に
図9~
図12を用いて、各回転状況におけるトルク伝達機構部60Bの動力伝達又は動力遮断の詳細を説明する。
【0040】
図9は8のトルク伝達機構部60におけるモータの正回転時の動力伝達経路を示す縦断面図である。モータ15Bからの駆動力は回転軸19を正回転方向(左駆動輪16を前進させる回転方向)に回転させる。内部構造を図示していないが、モータ15B自体の出力軸は一対の平歯車を有する図示しない減速機構によって減速され、減速機構の出力が回転軸19となるので、回転軸19とモータ15Bの中心線の軸線がずれている。回転軸19にはトルク伝達機構部60の入力側の軸となる入力軸62が接続される。入力軸62は、回転軸19に取りつけられるため、回転軸19と同期して回転する。まず、モータ15Bが前進方向に回転すると、回転軸19及び入力軸62が正回転方向に回転する。この際、入力軸62の外周側において第一スリーブ65に固定されている第一平歯車64は、ワンウェイクラッチ66の動力伝達方向となるので回転するが、第二スリーブ67に固定される第二平歯車70は、ワンウェイクラッチ68の動力遮断方向となるので回転しない。つまり、入力軸62は第二スリーブ67の内周側で空転することになる。ワンウェイクラッチ68は、動力遮断方向の相対回転時には軸受として良好に入力軸62を支持する。以上の様な動力伝達経路にて、黒矢印で示すように回転軸19の正回転によって第一平歯車64が回転し、第一平歯車64と噛合する第三平歯車75を逆回転させるので、この結果、第三平歯車75が固定された第一中間軸72が逆回転する。
【0041】
第一中間軸72が逆回転すると、ワンウェイクラッチ77の動力伝達方向となるので第一中間軸72の外周側の第三スリーブ76が回転する。第四平歯車78は第三スリーブ76に固定されているので、第四平歯車78と噛合する第七平歯車92を正回転方向に回転させ、左駆動輪16が正回転方向に回転する。以上のような動力伝達経路によって、モータ15Bの正回転時に左駆動輪16が同方向に駆動されることになる。尚、モータ15Bの正回転時には、第二平歯車70及び第二中間軸82は停止したままである。
【0042】
図10は8のトルク伝達機構部60におけるモータの逆回転時の動力伝達経路を示す縦断面図である。モータ15Bからの駆動力は回転軸19を逆回転方向(左駆動輪16を後進させる回転方向)に回転させる。まず、モータ15Bが後進方向に逆回転すると、回転軸19及び入力軸62が逆回転方向に回転する。この際、入力軸62の外周側において第一スリーブ65に固定されている第一平歯車64は、ワンウェイクラッチ66の動力遮断方向となるので空転するが、第二スリーブ67に固定される第二平歯車70は、ワンウェイクラッチ68の動力伝達方向となるので逆回転方向に回転する。つまり、入力軸62は第一スリーブ65の内周側で空転し、ワンウェイクラッチ66が動力遮断方向の相対回転時には軸受として良好に入力軸62を軸支する。一方、第二スリーブ67は入力軸62と同速で回転するので、黒矢印で示すように回転軸19の逆回転によって第二平歯車70が逆回転し、第二平歯車70と噛合する第五平歯車85を正回転させる。この結果、第五平歯車85が固定された第二中間軸82が正回転する。尚、第一平歯車64及び第一中間軸72は停止したままである。
【0043】
第二中間軸82が正回転すると、ワンウェイクラッチ87の動力伝達方向となるので第二中間軸82の外周側の第四スリーブ86が回転する。第六平歯車88は第四スリーブ86に固定されているので、第六平歯車88と噛合する第七平歯車92を逆回転方向に回転させ、左駆動輪16が逆回転方向に回転する。以上のような動力伝達経路によって、モータ15Bの逆回転時に左駆動輪16が後退方向に駆動されることになる。
【0044】
図11は
図8のトルク伝達機構部60における前進時の左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達経路を示す縦断面図である。左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達には、電池パック25の放電により電池切れとなって、モータ15Bが停止した状態がその一例である。モータ15Bと左駆動輪16がクラッチ機構無しで接続される場合には、電池切れの際に作業者が電動アシスト運搬車1を前進方向に移動させると、モータ15Bのロータが回転して、モータ15Bが発電機として機能してしまうため、大きな走行抵抗となって作業者にかかる負荷が増えてしまう。そこで、
図11及び
図12に示すようにモータ15Bの停止時には左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達を遮断して、モータ15Bの存在が走行抵抗の増加にならないようにした。
【0045】
電池切れ状態において作業者によって電動アシスト運搬車1が引かれると、左駆動輪16が前進方向に回転(正回転)する。すると左駆動輪16のハブ16aが固定される駆動軸91が正回転するので、駆動軸91に固定される第七平歯車92が正回転する。第七平歯車92が正回転すると、それに噛合する第四平歯車78と第六平歯車88がともに逆回転する。第四平歯車78が逆回転すると第四平歯車78が固定される第三スリーブ76が逆回転するが、ワンウェイクラッチ77によって動力伝達が遮断されるので、第一中間軸72は停止したままとなる。つまり、第三スリーブ76は第一中間軸72に対して空転する。一方、第六平歯車88が正回転すると、第六平歯車88が固定される第四スリーブ86が逆回転するが、この方向はワンウェイクラッチ87によって動力が伝達されるので、第二中間軸82は逆回転方向に回転する。第二中間軸82が回転すると、それに固定されている第五平歯車85も回転するので、第五平歯車85と噛合する第二平歯車70が正回転する。すると、第二平歯車70が固定される第二スリーブ67が正回転するが、ワンウェイクラッチ68によって動力伝達が遮断されるので、入力軸62は停止したままとなる。つまり、第二スリーブ67は入力軸62に対して空転する状態になる。このようにして、第二中間軸82は回転するものの、入力軸62は回転しないので、左駆動輪16の前進方向の回転力がモータ15Bに伝達されることがない。従って、作業者は電池切れの状態であっても電動アシスト運搬車1を従来の運搬車と同様の力にて前進移動させることができる。
【0046】
図12は
図8のトルク伝達機構部60における後退時の左駆動輪16からモータ15Bへの動力伝達経路を示す縦断面図である。電池切れ状態において作業者によって電動アシスト運搬車1のハンドル部4が後方に押されると、左駆動輪16が後退方向に回転(逆回転)する。するとハブ16aが固定される駆動軸91が逆回転されるので、駆動軸91に固定される第七平歯車92が逆回転する。第七平歯車92が逆回転すると、それに噛合する第四平歯車78と第六平歯車88がともに正回転する。第四平歯車78が正回転すると第四平歯車78が固定される第三スリーブ76が正回転するが、この方向はワンウェイクラッチ77によって動力が伝達されるので、第一中間軸72は正回転する。第一中間軸72が回転すると、それに固定されている第三平歯車75も回転するので、第三平歯車75と噛合する第一平歯車64が逆回転する。すると、第一平歯車64が固定される第一スリーブ65も逆回転するが、この方向はワンウェイクラッチ66によって動力伝達が遮断されるので、入力軸62は停止したままとなる。つまり、第一スリーブ65は入力軸62に対して空転する状態になる。
【0047】
一方、駆動軸91が逆回転によって第六平歯車88が正回転すると、第六平歯車88が固定される第四スリーブ86が正回転するが、この方向はワンウェイクラッチ87によって動力伝達が遮断される方向になるので、第二中間軸82は停止したままとなる。つまり、第四スリーブ86は第二中間軸82に対して空転する。以上のようにして、第一中間軸72は回転するものの、入力軸62は回転しないので、左駆動輪16の後退方向の回転力がモータ15Bに伝達されることがない。従って、作業者は電池切れの状態であっても電動アシスト運搬車1を従来の運搬車と同様の力にて後退移動させることができる。
【0048】
以上、本実施例によればモータ15Bと左駆動輪16の間にトルク伝達機構部60Bを設けたので、モータ15Bからの正回転又は逆回転の駆動力だけを左駆動輪16に伝えることができる。さらに、左駆動輪16からモータ15Bを回そうとする力は、前進方向及び後退方向のいずれ側も遮断されるので、電池切れの状態や電池パック25を取り外した状態であっても必要とされる引っ張り力又は押し出し力が増えることがない。尚、
図8~
図12では左駆動輪16と左側のモータ15Bの間のトルク伝達機構部60Bを説明したが、右側のモータ15Aと右駆動輪11の間にもトルク伝達機構部60Bと共通部品となるトルク伝達機構部60Aを介在させるようにする。尚、トルク伝達機構部60(60A、60B)は
図8~
図12のように4つのワンウェイクラッチ66、68、77、87を用いて構成する代わりに、ソレノイドの作用によって接続又は遮断の制御が電気的に可能としたトルク伝達機構部120としても良い。その構成例を
図13を用いて説明する。
【0049】
図13は第一変形例に係る電動アシスト運搬車1Aのトルク伝達機構部120の縦断面図である(ソレノイド130の動作オン時)。ここで使用されるモータ15Bは第一の実施例と同じブラシ付きの直流モータである。モータ15Bの出力は図示しない減速機構によって減速され、回転軸19に伝達される。回転軸19には第一平歯車123を保持するための第一回転軸122が接続される。第一回転軸122は2つの軸受124、125によってハウジング121にて固定される。ハウジング121は、合成樹脂製のケースであって、前後方向にネジ止めによって固定される2分割構造で構成され、トルク伝達機構部120に含まれる各部を収容及び保持する。第一平歯車123は第二平歯車135と噛合する。第二平歯車135は軸方向(左右方向)の長さが第一平歯車123の幅の約2倍とされるものであって、左右方向に移動可能な中間軸134に固定される。ソレノイド130はマイコン51によって制御されるもので、電源が供給されるとプランジャ131が矢印のように駆動輪側(ここでは左側)に移動する。中間軸134のプランジャ131側の一端は軸受保持部材132によって保持される軸受137により軸支され、他端は動力伝達部材141の端部に接続される。そのため、軸受保持部材132の車輪側端部には凹部が形成され、凹部に軸受保持部材132の円柱軸が相対回転不能なように固定される。
【0050】
軸受保持部材132と中間軸134と動力伝達部材141の連結体は軸方向(左右方向)に移動可能であって、中間軸134とハウジング121の壁面との間に介在されるスプリング136を設けることによってソレノイド130の電力遮断時(後述する
図14の状態)に動力伝達部材141をソレノイド130に近づく側に移動させる。左駆動輪16のハブ16aは駆動軸91にナット締めにより固定される。駆動軸91は軸受143によってハウジング121に固定され、駆動軸142が回転可能なように軸支する。駆動軸142のソレノイド側端部は、クラッチ爪142aが形成される。一方、動力伝達部材141の車輪側端部にはクラッチ爪係合溝141aが形成され、クラッチ爪142aと係合することによって動力伝達部材141と駆動軸142は相対回転せずに連動して回転する。
【0051】
図14は
図1の電動アシスト運搬車1Aの第一変形例に係るトルク伝達機構部120の縦断面図である(ソレノイド130の動作オフ時)。
図14ではマイコン51の制御によってソレノイド130への電力供給が遮断されて、プランジャ131が元の位置(電力オフの位置)に復帰した状態を示す。プランジャ131が元の位置に戻ると、プランジャ131に係合する軸受保持部材132がプランジャに近づく側に移動するため、圧縮式のスプリング136の付勢力によって中間軸134及び第二平歯車135が矢印の方向に移動する(
図14は
図13の状態から移動後の状態)。第二平歯車135の外歯の軸方向長さは第一平歯車123の外歯よりも十分長いので、第一平歯車123と第二平歯車135との噛合状態は維持されたままである。中間軸134の矢印方向への移動によって動力伝達部材141も矢印方向に移動するので、クラッチ爪142aとクラッチ爪係合溝141aが軸方向に離れるために、クラッチ機構140が遮断される状態となる。この結果、駆動軸142はフリー状態になってモータ15B側から左駆動輪16側に動力が伝わらないと共に、左駆動輪16側からの回転トルクがモータ16Bに伝わらないことになる。
【0052】
以上のようにモータ15Bから駆動軸142に至る動力伝達経路中に、クラッチ機構140を設けて、クラッチ機構140の接続又は遮断を、ソレノイド130への電力供給のオン又はオフによってマイコン51が制御するので、モータ15による動力アシスト時にはソレノイド130に電力を供給してクラッチ機構140を接続するようにすれば、
図3~
図7で示した制御方法と同じアシスト制御を行うことができる。また、モータ15による動力アシスト時をしない時は、ソレノイド130への電力を遮断してクラッチ機構140を遮断状態とすれば、被駆動時のモータ15が走行抵抗となることを避けることができる。特に、ソレノイド130への電力供給ができない場合、例えばバッテリの放電時には、スプリング136によってクラッチ機構140の遮断された状態が自動的に維持されるので、アシスト機構を持たない運搬車と同等の使用が可能である。
【0053】
図13及び
図14では左駆動輪16と左側のモータ15B周辺の機構を説明したが、右駆動輪11と右側のモータ15A周辺においても、同じトルク伝達機構部120とソレノイド130を用いるように構成すれば良い。この際、モータ15Aとモータ15Bを連動して駆動するか、又は非連動として駆動輪11、16毎の回転状況に応じて細かく制御するかは任意である。
【0054】
図15は第二変形例に係る電動アシスト運搬車1Bのトルク伝達機構部120である。第二変形例ではトルク伝達機構部120の代わりに市販されているトルクダイオード160を用いたものである。トルクダイオード160は、初期状態では出力軸たる駆動軸191の回転を正逆方向に回転フリーとするもので、入力軸(回転軸19)が駆動されない場合、センタリングばねによりローラは外輪カム面の中央に位置するような構造とする。ローラと内輪はすきまがあるためロックせずに回転軸19はフリーに回転できる状態となる。一方、モータ15Aの駆動によって入力軸(回転軸19)を回すと、スイッチングばね抵抗によりローラは内・外輪とロックし、モータ15の回転力は出力軸(駆動軸191)に伝わる。このようにトルクダイオード160を用いることによっても電動アシスト運搬車1の動力伝達機構を容易に実現できる。
【実施例2】
【0055】
次に本発明の第二の実施例を説明する。
図16は本発明の第二の実施例に係る電動アシスト運搬車201の左側面図である。第二の実施例の電動アシスト運搬車201は、“台車”として広く市販されているハンドル部240を有する押すタイプの運搬車に、電池パック25と、後述するモータと、ハンドル部240に設けられる荷重センサ部230と、モータの回転制御を行う制御部を設けたものである。電動アシスト運搬車201の荷台部202は、上面視で長方形の平板状であって、底面側の四隅近くに4つの車輪が設けられる。後方側の車輪(211、216)は左右方向に回転しない固定車輪であって、前方側の車輪(210)は回転軸220を中心に揺動可能とすることによって左右方向に向くようにした自在車輪である。荷台部202の後方辺部付近の上方には左右方向に連結される取付基台203が設けられ、取付基台203には作業者が押す際に把持するためのハンドル部204が設けられる。ハンドル部204は金属製の中空パイプを後面視で逆Uの字状に曲げたものであって、左右の端部はブラケット部材205に組み付けられた枢軸部206により回転可能に保持される。枢軸部206は、ブラケット部材205により軸支される。ハンドル部204は、運搬用に用いない場合に約90度前方に曲げた状態に畳むことが可能である。
【0056】
荷台部202の下面の前端側に取り付けられた一対の自在車輪210は、荷台部202の横方向に間隔を隔てて配置される。自在車輪210はブラケット部材208に軸支される回転軸209に固定され、ブラケット部材208には揺動可能な回動軸207に軸支され、回動軸207は荷台部202の下面にネジ止めされる。荷台部202の下面の後方側に取り付けられた固定車輪211、216は、荷台部202の横方向に間隔を隔てて配置される。駆動輪たる後方側の固定された右駆動輪211は、ブラケット部材212に軸支される回転軸13に固定され、ブラケット部材212は荷台部202の下面にネジ止めされる。
【0057】
ハンドル部204の基本形状は、従来から広く用いられる台車のハンドル形状とほぼ同じである。ハンドル部204は、取付基台203から上方に鉛直方向に延在して、上下方向中央付近の変曲点から後方側にわずかに屈曲され、上側約半分がやや斜め後方に延在するような形状とされる。ハンドル部204の上端は左右方向に水平に延在する把持部243(詳細は
図17参照)が形成される。本実施例のハンドル部204は、途中で切断して上側支柱部241と下側支柱部242に分離し、それらをひずみゲージ式の荷重センサ部230で接続したものである。荷重センサ部230はアルミニウムの筒状部材であって、上側端部付近に上側支柱部241がネジ止めされ、下側端部付近に下側支柱部242がネジ止めされる。上側支柱部241には電池パック25が取りつけられる。電池パック25は着脱可能であって、電動工具(例えば、ドライバーやドリル、グラインダーなど)において広く用いられるリチウムイオンセルを用いた電池パックを流用したものである。
【0058】
ハンドル部204が作業者によって前方側に押されると、荷台部202が前進し、後方側に引かれると荷台部202が後退する。この際、荷重センサ部230に曲げ力が加わるので、その際の荷重センサ部230に加わる圧縮荷重と引っ張り荷重をひずみゲージで検出して、検出結果に応じて後述する制御部がモータを回転させて右駆動輪211と左駆動輪16(後述する
図2参照)を駆動する。
【0059】
図17は本発明の実施例に係る電動アシスト運搬車201の背面図である。逆U字状のハンドル部204は、取付基台203の左右両側において、ブラケット部材205に対して枢軸部206を用いて軸支される。ブラケット部材205とハンドル部204は、
図17のような展開状態と、ハンドル部204を約90度前方に傾けて荷台部202に近接する位置に回転させた収納状態の2箇所にて安定して保持されるようにロック機構(図示せず)を設けると良い。ブラケット部材205から上方に、下側支柱部242が延びて荷重センサ部230を介して上側支柱部241が接続される。上側支柱部241の上側端部は、水平に延びる管路となる把持部243によって接続される。把持部243は作業者が電動アシスト運搬車201を押したり引いたりする際に手でつかむ部分となる。
【0060】
ハンドル部204の上側であって、右側の上側支柱部241と左側の上側支柱部241を接続するように連結板244が設けられる。連結板244の後方側には電池パック取付部245が設けられる。電池パック取付部245は、左右方向に間隔を隔てて上下方向に延びるレール部246a、246bが形成され、レール部246a、246bの間には、電池パック25(
図1参照)の接続端子と接触するターミナル部247が設けられる。このように電池パック25をハンドル部204のU字状の内側部分であって、上方の後側に設けることによって、荷台部202に積載した荷物が電池パック25に当たる虞を少なくすることができる。また、地面から十分離れた位置にあるので、濡れた路面を走行する際に水をかぶってしまう虞もない。
【0061】
荷台部202の後方の下側には2つの固定車輪(右駆動輪211、左駆動輪216)が固定され、固定車輪はそれぞれモータ15A、15Bによって駆動される。モータ15Aと右駆動輪211は、トルク伝達機構部260Aによって接続される。同様に、モータ15Bと左駆動輪216は、トルク伝達機構部260Bによって接続される。トルク伝達機構部260(260A、260B)はモータ15(15A、15B)の駆動力は駆動輪211、216側に伝達するが、駆動輪211、216側からモータ15側に伝わるトルクは、正逆回転ともにモータ15には伝達されない。モータ15A、15Bはそれぞれ独立して駆動可能であるが、本実施例では制御を簡略化するために、同じくトルクにてモータ15A、15Bを連動して駆動するようにした。トルク伝達機構部260A、260Bはブラケット部材212、217に固定され、トルク伝達機構部260A、260Bにそれぞれモータ15A、15Bが固定される。それらの固定方法は任意であるが、ネジ止めにて固定できる。尚、モータ15A、15Bは荷台部202に非接触状態であるが、モータ15A、15Bとトルク伝達機構部260A、260Bの固定構造は任意であり、荷台部202にブラケット等にて固定するようにしても良いし、左右のモータ15A、15Bのハウジングを連結部材で連結するようにしても良い。
【0062】
モータ15A、15Bは第一の実施例で用いたものと同じ直流モータであり、電池パック25の電力を用いて回転力を右駆動輪211及び左駆動輪216に伝達することで、右駆動輪211及び左駆動輪216の回転をアシストする。モータ15A、15Bの回転は、後述する制御部50(
図19参照)によって制御される。
【0063】
図18は荷重センサ部230を示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は(A)のC-C部の断面図である。本実施例のハンドル部204は、外周面をメッキ加工した鉄製のパイプにより形成され、ハンドル部204の上側支柱部241と下側支柱部242は別部材であって、いわば従来のハンドル部が切断されたような状態にある。荷重センサ部230は、右側パイプの下端と上端の間と、左側パイプの下端と上端の間にそれぞれ設けられる。荷重センサ部230はアルミニウム合金の一体成形品の基体部231を有する。基体部231はハンドル部204の長手方向にそって延びる筒状であって、内周面232bの断面形状が円形である。基体部231の外面232aには4つの平面を有し、その軸方向に垂直な断面形状は正方形である。基体部231の上側には基体部231を横断するようにして貫通する2本の上側ネジ穴233a、233b(
図16参照)が形成され、図示しないネジが上側支柱部241に形成されたネジ穴241a、241bと上側ネジ穴233a、233bを貫通するよう配置され、図示しないネジの端部を図示しないナットで固定することによって、上側支柱部241と基体部231がネジ止めされる。基体部231の下側においても同様に、2本の下側ネジ穴234a、234b(
図16参照)が形成され、図示しないネジが下側支柱部242に形成されたネジ穴242a、242bと下側ネジ穴234a、234bを貫通してナットで固定されることによって、下側支柱部242と基体部231がネジ止めされる。尚、上側支柱部241と基体部231の固定方法、及び、基体部231と下側支柱部242との固定方法は任意で有り、2本のネジを用いるのではなくて別の固定方法を用いるようにしても良い。
【0064】
基体部231の後方側の外面の上側部分にひずみゲージRG1が設けられ、下側部分にひずみゲージRG3が設けられる。また、基体部231の後方側の内周面の上側部分にひずみゲージRG2が設けられ、下側部分にひずみゲージRG4が設けられる。ひずみゲージRG1~RG4は、それぞれ2本のリード線(図示せず)が接続されるが、ひずみゲージRG1、RG3からのリード線(図示せず)は、外面232aの上下方向中央付近に形成される貫通穴236を介して基体部231の内側に配線される。基体部231の内側に到達したリード線は、ひずみゲージRG2、RG4のリード線にブリッジ状に結線されて、電池パック25側と、制御部50(
図19にて後述)に配線される。
【0065】
ひずみゲージRG1~RG4は、基体部231の後側壁面の延びと縮み状態を検出するものであるので、上下方向に距離Lだけ隔てるようにひずみゲージRG1とRG3が並べて配置され、ひずみゲージRG2とRG4が並べて配置される。また、
図18(B)のような水平断面で見たときに、ひずみゲージRG1とRG2が周方向の同じ位置になるように内周面と外周面において径方向に並べて配置され、同様に、ひずみゲージRG3とRG4も周方向の同じ位置になるように内周面と外周面において径方向に並べて配置される。本実施例においては、ハンドル部204のパイプを、荷重センサ部230を設ける位置で上下に分断し、分断された上側支柱部241と下側支柱部242を歪みやすい金属材による荷重センサ部230で接続するように構成したので、作業者からハンドル部204に加わる力の加減を精度良く検出することが可能となった。
【0066】
図19は本発明の第二実施例に係る電動アシスト運搬車201の制御ブロック図である。ハンドル部204に設けられる2組のひずみゲージRG1~RG4、LG1~LG4は
図5で示した回路と同様のブリッジ回路を使用しており、右側のひずみゲージRG1~RG4に対し1つの電圧E
R1を入力し、1つの電圧E
R2が出力される。同様に、左側のひずみゲージLG1~LG4に対し1つの電圧E
L1を入力し、1つの電圧E
L2が出力される。ひずみゲージRG1~RG4、LG1~LG4からの出力は、ハンドル部204に加わる力がゼロの時は0であり、押す動作を開始した際に押す際の電圧E
R2、電圧E
L2がプラス方向に検出される。検出された信号は増幅回路53にて増幅された上で制御部50のマイコン51に入力される。また、引く動作を開始した際には、電圧E
R2、電圧E
L2がマイナス方向に検出される。マイコンは、電圧E
R2、電圧E
L2の極性とその大きさを検出し、検出結果から所定の演算をすることによって右モータ15Aと左モータ15Bの駆動量を演算によって算出し、算出された結果からPWM制御のディーティ比を決定して右モータ駆動回路55と左モータ駆動回路56にPWM制御信号を出力する。
【0067】
モータ15A、15Bによる駆動力と作業者の押す力が、電動アシスト運搬車201の静止摩擦力に勝つと、電動アシスト運搬車201の前方への走行が始まる。同様に、モータ15A、15Bによる駆動力と作業者の引く力が、電動アシスト運搬車201の静止摩擦力に勝つと、電動アシスト運搬車201の後方への走行が始まる。走行が開始されると、必要な押す力又は引く力が小さくて済むようになり、あるところで落ち着き一定の引張出力になる。尚、静止摩擦係数と動摩擦係数は、床面との摩擦係数や搭載する荷物の重さ等により変動する。第二の実施例では、モータのアシスト時の出力は、荷重センサ部の出力値に応じて変化するので、必要なアシスト力が最適に決定される
【0068】
第二の実施例においても、作業者の押す力又は引く力に応じて最適なアシスト量にてモータ15A、15Bが駆動されるので、重い荷物の運搬時であっても少ない力で操作をすることができ、使いやすい電動アシスト運搬車201が実現できた。
【0069】
以上、本発明を複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、運搬車の車輪数は、駆動輪と従動輪がそれぞれ2個ずつではなくて、いずれか一方を1つとしても良い。また、従動輪を4つとして駆動輪を1つとしても良い。さらに、運搬車の荷台形式は任意であり、運搬される被運搬物に合わせて適宜変更しても良い。
また、
【符号の説明】
【0070】
1、1A、1B 電動アシスト運搬車 2 荷台部 4 ハンドル部
5 ブラケット部材 8 ブラケット部材 10 自在車輪
11 右駆動輪(固定車輪) 11a ハブ 12 ブラケット部材
13 ナット 15 モータ 15A 右モータ 15B 左モータ
16 左駆動輪(固定車輪) 16a ハブ 17 ブラケット部材
18 ナット 19 回転軸 21a~21d 支柱
22a~22d 連結棒 24c、24d 連結棒 25 電池パック
28 壁面 28a 前側壁 28b 後側壁 28c 右側壁
28d 左側壁 28e 底面 30 荷重センサ部 31 基台部
31a 中央部分(中空部) 32a、32b 連結部 33a 上側辺部
33b 下側辺部 34 穴部 34a、34b くり抜き穴
34c 平行面 35a、35b 上側ネジ穴 36a、36b 下側ネジ穴
37、38 (ひずみゲージの)出力 41 上側支柱部
41a、41b ネジ穴 42 下側支柱部 42a、42b ネジ穴
43 左右方向水平棒(把持部) 44 連結板 45 電池パック取付部
46a、46b レール部 47 ターミナル部 50 制御部
51 マイコン 52 DC/DCコンバータ 53 増幅回路
54 モータ駆動回路 55 右モータ駆動回路 56 左モータ駆動回路
57、58 アシスト力 60、60A、60B トルク伝達機構部
61 ハウジング 62 入力軸 63 軸受 64 第一平歯車
65 第一スリーブ 66 ワンウェイクラッチ 67 第二スリーブ
68 ワンウェイクラッチ 69 軸受 70 第二平歯車
72 第一中間軸 73、74 軸受 75 第三平歯車
76 第三スリーブ 77 ワンウェイクラッチ 78 第四平歯車
79 軸受 82 第二中間軸 83、84 軸受 85 第五平歯車
86 第四スリーブ 87 ワンウェイクラッチ 88 第六平歯車
89 軸受 91 駆動軸 91a 取付軸部 91b 雄ねじ部
92 第七平歯車 93 軸受 95 床面 120 トルク伝達機構部
121 ハウジング 122 第一回転軸 123 第一平歯車
124、125 軸受 130 ソレノイド 131 プランジャ
132 軸受保持部材 134 中間軸 135 第二平歯車
136 スプリング 137、138 軸受 140 クラッチ機構
141 動力伝達部材 141a クラッチ爪係合溝 142 駆動軸
142a クラッチ爪 143 軸受 160 トルクダイオード
191 駆動軸 201 電動アシスト運搬車 202 荷台部
203 取付基台 204 ハンドル部 205 ブラケット部材
206 枢軸部 207 回動軸 208 ブラケット部材
209 回転軸 210 自在車輪 211 右駆動輪
212 ブラケット部材 216 左駆動輪 220 回転軸
230 荷重センサ部 231 基体部 232a 外面
232b 内周面 233a、233b 上側ネジ穴
234a、234b 下側ネジ穴 236 貫通穴 240 ハンドル部
241 上側支柱部 241a ネジ穴 242 下側支柱部
242a ネジ穴 243 把持部 244 連結板
245 電池パック取付部 246a、246b レール部
247 ターミナル部 260、260A、260B トルク伝達機構部
LG1~LG4 ひずみゲージ RG1~RG4 ひずみゲージ
SG1~SG4 ひずみゲージ