(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/02 20060101AFI20221122BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G03G15/02 103
G03G21/00 510
(21)【出願番号】P 2019014497
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一徳
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-197609(JP,A)
【文献】特開2018-004973(JP,A)
【文献】特開2017-040707(JP,A)
【文献】特開2016-009010(JP,A)
【文献】特開2013-156537(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に感光層が形成された像担持体と、
前記像担持体の表面に接触して前記像担持体を帯電させる帯電部材と、
前記帯電部材に交流電圧を印加する高圧発生回路と、
前記帯電部材に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記高圧発生回路を制御する制御部と、
を備えた画像形成装置において、
前記帯電部材に接触する接触電極を有し、
前記制御部は、
非画像形成時に周波数を変化させて前記帯電部材に前記交流電圧を印加したときに前記帯電部材に流れる電流値を測定し、測定された前記電流値の振幅と位相差から取得されるインピーダンススペクトルに含まれるWarburgインピーダンスに基づいて前記帯電部材の寿命を予測することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記インピーダンススペクトルを以下の式(1)で表される前記WarburgインピーダンスZ(ω)を含む等価回路モデルで表現し、所定のフィッティング方法によりフィッティングさせて前記Z(ω)に含まれる定数A、時定数τを決定し、決定された前記定数A、前記時定数τを用いて前記帯電部材が寿命に到達したか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
Z(ω)=(A/√jωτ)tanh(√jωτ) ・・・(1)
ただし、
ω;周波数、
j;虚数単位、
A;定数、
τ;時定数、
である。
【請求項3】
前記制御部は、前記定数A、前記時定数τを、それぞれ予め設定された基準定数A0、基準時定数τ0と比較し、A<A0、且つτ<τ0であるとき前記帯電部材が寿命に到達したと判定することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記定数A、前記時定数τ、および基準周波数ω0を前記式(1)に代入して基準インピーダンスZ(ω0)を算出し、算出された前記Z(ω0)を予め設定された閾値Z0(ω0)と比較し、Z(ω0)≧Z0(ω0)であるとき前記帯電部材が寿命に到達したと判定することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記フィッティング方法は、非線形最小二乗法であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記帯電部材は、画像形成時に前記像担持体に対し従動回転しながら前記像担持体を帯電させ、前記帯電部材の寿命を予測する際は前記帯電部材を停止させた状態で前記交流電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記接触電極は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能であり、前記帯電部材の寿命を予測する際は前記接触電極を前記接地状態として前記交流電圧を印加し、画像形成時は前記接触電極を前記非接地状態とすることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記帯電部材は、架橋ゴムにイオン導電剤を配合した導電層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御部は、印字動作が所定時間継続して行われなかった場合、前記画像形成装置を構成する各部材または装置への電力供給を制限する省電力モードへ移行するとともに、
前記制御部は、前記画像形成装置への電源投入時、前記省電力モードからの復帰時、または直前の寿命予測からの印字枚数が所定枚数に到達する毎に前記帯電部材の寿命を予測する寿命予測モードを実行することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像担持体に接触する帯電部材を備えた複写機、プリンター、ファクシミリ、それらの複合機等の画像形成装置に関し、特に、帯電部材の寿命を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスを用いた画像形成装置において、像担持体である感光体ドラムの表面を均一に帯電させる手段として、コロナ放電器を備えたスコロトロン帯電装置やコロトロン帯電装置等のコロナ帯電方式と、帯電ローラーに代表される導電性の帯電部材を備えた接触帯電方式とがある。近年、スコロトロン方式やコロトロン方式の帯電装置に代えて、感光体ドラムに対し接触配置又は近接配置されて感光体ドラムを帯電する帯電部材(帯電ローラー等)を備えたオゾン発生量の少ない接触帯電式の帯電装置が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される帯電ローラーは、金属製のシャフト(芯金)の外周面上に、帯電ローラー表面の電気抵抗の調整等を目的として、半導電性の弾性体からなる導電層が設けられている。帯電ローラーの導電層は、自身がイオン導電性を有する半導電性ゴムポリマーにイオン導電剤を含有せしめてなるゴム組成物から形成されている。帯電ローラーの導電層は、イオン導電剤を含有していることで半導電性および低硬度等の特性を維持することができる。
【0004】
近年、画像形成装置の高耐久化が進められ、帯電ローラーが使用される期間も長くなっている。そのため、帯電ローラーへの通電による導電層の電気抵抗が上昇して帯電性を低下させ、形成される画像に画像ムラや画像欠陥等の種々の不具合が発生し易くなるという問題があった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2には、帯電ローラーに流れる電流値を読み取り、電流値から帯電ローラーの抵抗上昇の程度を推測して帯電ローラーの寿命判定を行うことにより、帯電装置の予知保全を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-154634号公報
【文献】特開平9-179385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の方法は、電流値を測定したタイミングでの帯電ローラーの抵抗を検知することは可能であるが、仮に寿命に達していないと判定しても今後いつ寿命に達するかの予測をすることは困難であった。また、帯電ローラーの寿命を推定するにあたり、特にイオン導電性を有する帯電ローラーにおいては、通電によるイオン導電剤の消費に加え、ゴム中のイオンの偏り状態に伴う分極抵抗分も含まれるため、印刷枚数だけでなく実際の使用状況によって抵抗が変動する。即ち、特許文献2のように単に電圧と電流の比から求めた抵抗を測定する手法ではその瞬間の電流の流れやすさの情報しか得られず、帯電ローラーの寿命を精度よく推定するためには通電を続けた場合の電流の流れやすさの持続性についての情報を得る必要があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、帯電部材の寿命を正確に判定可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、像担持体と、帯電部材と、高圧発生回路と、電流検出部と、接触電極と、制御部と、を備えた画像形成装置である。像担持体は、表面に感光層が形成される。帯電部材は、像担持体の表面に接触して像担持体を帯電させる。高圧発生回路は、帯電部材に交流電圧を印加する。電流検出部は、帯電部材に流れる電流を検出する。接触電極は、帯電部材に接触する。制御部は、高圧発生回路を制御する。制御部は、非画像形成時に周波数を変化させて帯電部材に交流電圧を印加したときに帯電部材に流れる電流値を測定し、測定された電流値の振幅と位相差から取得されるインピーダンススペクトルに含まれるWarburgインピーダンスに基づいて帯電部材の寿命を予測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の構成によれば、帯電部材の劣化状況を精度よく把握して帯電部材の適切な交換時期を通知することができ、像担持体の帯電不良に起因する縦筋画像やカブリ画像の発生を効果的に抑制することができる。また、画像形成装置の予知保全を確実に行うことができ、サービスマンによる監視負担やメンテナンスコストも極力軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置100の内部構成を示す側面断面図
【
図2】帯電装置4の制御経路を含む画像形成部P周辺の部分拡大図
【
図3】帯電ローラー41を径方向に切断した側面断面図
【
図4】本実施形態の画像形成装置100における帯電ローラー41の寿命予測モードの制御例を示すフローチャート
【
図5】交流電圧の周波数を変化させて帯電ローラー41に流れる交流電流の振幅と位相差を測定することにより得られるインピーダンススペクトルを示すグラフ
【
図6】帯電ローラー41の電荷移動のインピーダンスとWarburgインピーダンスの両方を含む等価回路モデルの一例を示す図
【
図7】実施例において、
図6の等価回路モデルを用いた通電時間50hr時点のインピーダンススペクトルのフィッティング結果を示すグラフ
【
図8】
図6の等価回路モデルからWarburgインピーダンスZwを除外した等価回路を用いた通電時間50hr時点のインピーダンススペクトルのフィッティング結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置100の内部構造を示す側面断面図である。画像形成装置(ここではモノクロプリンター)100内には、帯電、露光、現像および転写の各工程によりモノクロ画像を形成する画像形成部Pが配設されている。画像形成部Pには、感光体ドラム5の回転方向(
図1の反時計回り方向)に沿って、帯電装置4、露光装置(レーザー走査ユニット等)7、現像装置8、転写ローラー14、クリーニング装置19、および除電装置6が配設されている。
【0013】
感光体ドラム5は、例えば、アルミニウム製のドラム素管の表面に、感光層として正帯電性光導電体であるアモルファスシリコン層が蒸着されて形成される。感光体ドラム5は、ドラム駆動部(図示せず)によって、支軸を中心に定速回転駆動される。
【0014】
画像形成動作を行う場合、
図1の反時計回り方向に回転する感光体ドラム5が帯電装置4により一様に帯電され、原稿画像データに基づく露光装置7からのレーザービームにより感光体ドラム5上に静電潜像が形成され、現像装置8により静電潜像に現像剤(以下、トナーという)が付着されてトナー像が形成される。
【0015】
現像装置8へのトナーの供給はトナーコンテナ9から行われる。なお、画像データはパーソナルコンピューター(図示せず)等から送信される。また、感光体ドラム5の表面に除電光を照射して残留電荷を除去する除電装置6が、感光体ドラム5の回転方向に対しクリーニング装置19の下流側に設けられている。
【0016】
上記のようにトナー像が形成された感光体ドラム5に向けて、用紙(記録媒体)が給紙カセット10又は手差し給紙装置11から用紙搬送路12およびレジストローラー対13を経由して搬送され、転写ローラー14により感光体ドラム5の表面に形成されたトナー像が用紙に転写される。トナー像が転写された用紙は感光体ドラム5から分離され、定着装置15に搬送されてトナー像が定着される。定着装置15を通過した用紙は、用紙搬送路16により装置上部に搬送され、用紙の片面のみに画像を形成する場合(片面印字時)は、排出ローラー対17により排出トレイ18に排出される。
【0017】
一方、用紙の両面に画像を形成する場合(両面印字時)は、用紙の後端が用紙搬送路16の分岐部20を通過した後に搬送方向を逆転させる。これにより、用紙は分岐部20から分岐する反転搬送路21に振り分けられ、画像面を反転させた状態でレジストローラー対13に再搬送される。そして、感光体ドラム5上に形成された次のトナー像が、転写ローラー14によって用紙の画像が形成されていない面に転写される。トナー像が転写された用紙は、定着装置15に搬送されてトナー像が定着された後、排出ローラー対17により排出トレイ18に排出される。
【0018】
図2は、帯電装置4の制御経路を含む画像形成部P周辺の部分拡大図である。帯電装置4は、感光体ドラム5に接触するように配置され感光体ドラム5を帯電処理する帯電ローラー41を備える。
【0019】
図3は、帯電ローラー41を径方向に切断した側面断面図である。帯電ローラー41は、芯金41aに導電層41bおよびコート層41cを被覆することにより形成されており、感光体ドラム5に当接するように配置されている。導電層41bは、架橋ゴム中にイオン導電剤を配合することによりイオン導電性を有するものである。架橋ゴムとしてはエピクロルヒドリンゴム等が用いられる。イオン導電剤としては、4級アンモニウム塩やホウ酸塩等が用いられる。
【0020】
図2に示すように、感光体ドラム5が反時計回り方向に回転すると、感光体ドラム5の表面に接触する帯電ローラー41が時計回り方向に従動回転する。このとき、帯電ローラー41に所定の電圧を印加することにより、感光体ドラム5の表面が一様に帯電される。
【0021】
帯電ローラー41は、直流電圧と交流電圧が重畳された振動電圧を生成する高圧発生回路43に接続されている。高圧発生回路43は、交流定電圧電源43aと、直流定電圧電源43bとを備える。交流定電圧電源43aは、昇圧トランス(図示せず)を用いてパルス状に変調した低圧直流電圧から発生させた正弦波の交流電圧を出力する。直流定電圧電源43bは、昇圧トランスを用いてパルス状に変調した低圧直流電圧から発生させた正弦波の交流電圧を整流した直流電圧を出力する。
【0022】
高圧発生回路43は、画像形成時には交流定電圧電源43aおよび直流定電圧電源43bから直流電圧に交流電圧を重畳させた帯電電圧を出力する。また、後述する寿命予測モードの実行時には交流定電圧電源43aから交流電圧のみを出力するか、或いは直流定電圧電源43bおよび直流定電圧電源43bから直流電圧に交流電圧を重畳させた電圧を出力する。電流検出部44は、帯電ローラー41と高圧発生回路43の間に流れる交流電流の振幅および位相差を検出する。
【0023】
接触電極50は、帯電ローラー41の外周面に接触するように配置され、帯電ローラー41に従動して回転する。帯電ローラー41には感光体ドラム5が接触しているが、感光体ドラム5の外周面には感光層(アモルファスシリコン層)が積層されているため、帯電ローラー41から感光体ドラム5へ電流が流れにくくなっている。そこで、本実施形態のように接触電極50を配置することで、寿命予測モードの実行時に帯電ローラー41の導電層41bから接触電極50に流れる電流を電流検出部44によりダイレクトで検出することができる。
【0024】
接触電極50は、SUS(ステンレス)やアルミニウム製の金属ローラーでもよいし、ゴムやスポンジのような弾性体のローラーでもよい。弾性体の場合はカーボンブラック等の導電材を配合して導電性を付与することで電極としての機能を発現させる。また、弾性体のローラーを用いる場合は帯電ローラー41のクリーニング部材としての機能を持たせることも可能である。
【0025】
接触電極50は、接地(アース)状態と非接地状態とに切り替え可能である。後述する寿命予測モードにおいては接触電極50がグランドに接地(アース)されている。画像形成時においては帯電ローラー41によって感光体ドラム5を効率よく帯電させるために、接触電極50とグランドとの接続が遮断された非接地状態とすることが好ましい。
【0026】
次に、画像形成装置100の制御システムについて
図2を参照して説明する。画像形成装置100には、CPU等で構成される主制御部80が設けられている。主制御部80は、ROMやRAM等からなる記憶部70に接続される。主制御部80は、記憶部70に格納された制御プログラムや制御用データに基づいて画像形成装置100の各部(帯電装置4、除電装置6、露光装置7、現像装置8、転写ローラー14、クリーニング装置19、定着装置15、高圧発生回路43、電流検出部44、電圧制御部45等)を制御する。
【0027】
電圧制御部45は、帯電ローラー41に振動電圧を印加する高圧発生回路43を制御する。なお、電圧制御部45は、記憶部70に記憶される制御プログラムで構成されていてもよい。
【0028】
主制御部80には液晶表示部90、送受信部91が接続されている。液晶表示部90は、ユーザーが画像形成装置100の各種設定を行うためのタッチパネルとして機能するとともに、画像形成装置100の状態、画像形成状況や印字枚数等を表示する。送受信部91は、電話回線やインターネット回線を用いて外部との通信を行う。
【0029】
前述したように、帯電装置4を長期間使用すると、帯電ローラー41への通電による導電層41bの電気抵抗が上昇して帯電性を低下させ、形成される画像に画像ムラや画像欠陥等の種々の不具合が発生し易くなる。そこで、本発明の画像形成装置100では、帯電ローラー41の寿命を予測する寿命予測モードを実行可能としている。
【0030】
図4は、本発明の画像形成装置100における帯電ローラー41の寿命予測モードの制御例を示すフローチャートである。必要に応じて
図1~
図3、および後述する
図5、
図6を参照しながら、
図4のステップに沿って寿命予測モードの実行手順について詳細に説明する。
【0031】
先ず、主制御部80から電圧制御部45に制御信号を送信することにより、接触電極50をグランドに接地させた状態で、交流定電圧電源43aから帯電ローラー41に正弦波形の交流電圧を印加する(ステップS1)。そして、交流電圧の周波数を変化させて帯電ローラー41に流れる交流電流の振幅と位相差を電流検出部44により測定し(ステップS2)、記憶部70に測定値を保存する。交流電流の測定は所定の周期毎に実行してもよいし、測定データ量の削減のために時間が経過するほど測定間隔を大きくするようにしてもよい。また、低周波領域の測定の際は、導電層41bの周方向の同一箇所における交流電流の振幅と位相差を測定できるように帯電ローラー41の回転を停止させた状態で測定することが好ましい。次に、主制御部80は測定された交流電流の振幅と位相差を用いてインピーダンススペクトルを取得する(ステップS3)。
【0032】
図5は、交流電圧の周波数を変化させて帯電ローラー41に流れる交流電流の振幅と位相差を測定することにより得られるインピーダンススペクトルを示すグラフである。上述の交流電流の測定を実施すれば、
図5のようなインピーダンススペクトル(ナイキスト線図)を取得することができる。ナイキスト線図は、制御理論における周波数の応答の実数部(Re)を横軸に、虚数部(-lm)を縦軸にとる極座標系において、角周波数ωを0から∞まで変化させたときの軌跡である。本発明では、取得されたインピーダンススペクトルを用いて帯電ローラー41の劣化状態を判定し、判定結果を画像形成装置100の予知保全にフィードバックすることを特徴としている。
【0033】
インピーダンススペクトルを取得する狙いは、幅広い周波数の正弦波信号を与えることで、時定数τの異なる電極素過程を分離するところにある。ここで電極素過程とは、電極/電解質界面での酸化還元反応における電荷移動過程と、電解質中でのイオンの濃度勾配に応じた拡散による物質移動過程を指す。一般に、物質移動速度は電荷移動速度と比較して遅いので、高周波領域で電荷移動に由来するインピーダンスが現れ、低周波領域で拡散による物質移動のインピーダンスが現れることが知られている。特に、拡散による物質移動のインピーダンスはWarburgインピーダンスと呼ばれ、このWarburgインピーダンスは帯電ローラー41の導電層41b内部のイオンの拡散されやすさを表していると言える。帯電ローラー41において実測されるWarburgインピーダンスは以下の式(1)に当てはめるとよい一致を示す。
Z(ω)=(A/√jωτ)tanh(√jωτ) ・・・(1)
【0034】
Z(ω)は、周波数ω[Hz]におけるインピーダンスであり、jは虚数単位、A、τは定数である。このWarburgインピーダンスが大きいほど拡散による物質移動の抵抗が大きい状態にあることを意味する。即ち、現在の状態から印字動作を継続していくと早期に電気抵抗が上昇し、帯電ローラー41の寿命(耐用期間の終期)が近いことを予測できる。
【0035】
次に、Warburgインピーダンスのパラメーターの取得方法について述べる。帯電ローラー41の正弦波信号に対する応答性を等価回路モデルで定義し、得られたインピーダンススペクトルに対して所定のフィッティング手法を用いて等価回路を構成するパラメーターを推定する。帯電ローラー41の電荷移動のインピーダンスとWarburgインピーダンスの両方を含めた形で等価回路モデルを構成することで、それぞれのインピーダンス成分を分離することが可能となる。等価回路の構成の一例を
図6に示す。
【0036】
図6に示す等価回路モデルでは、電荷移動のインピーダンスとして、導電層41bに対応するインピーダンス(C1、R1を含む回路部分)とコート層41cに対応するインピーダンス(C2、R2を含む回路部分)とに分けている。つまり、
図5に示した帯電ローラー41全体のインピーダンススペクトルデータから電荷移動のインピーダンス(導電層41bに対応するインピーダンスとコート層41cに対応するインピーダンス)を差し引くことでWarburgインピーダンスZwを取得することができる。
【0037】
交流電流の測定時に印加する交流電圧の周波数領域は1Hz~100kHzの範囲が電荷移動過程と物質移動過程それぞれのインピーダンス成分の抽出に好ましい範囲である。また交流電圧のVppは1~100Vの範囲が好ましい。また交流電圧に直流電圧を重畳して印加してもよい。直流電圧が低すぎるとS/N比が低下してしまい、直流電圧が高すぎると帯電ローラー41の劣化を促進させてしまう。そのため、直流電圧は1~100Vの範囲が好ましい。
【0038】
図4に戻って、主制御部80は上述したパラメーターの取得方法を用いて定数A、時定数τを算出する(ステップS4)。具体的には、取得したWarburgインピーダンスのデータを、式(1)を用いてフィッティング(曲線あてはめ)して定数A、時定数τを算出する。フィッティング方法としては、例えばLM(Levenberg Marquardt)法などの非線形最小二乗法を用いてパラメーターを推定(同定)する方法が挙げられる。非線形最小二乗法は、実際の計測波形と推定されたパラメーターによる疑似応答波形とを各サンプリングデータにおいて比較し、その誤差eの2乗の総和を最小化するようにパラメーターを調整する方法である。
【0039】
主制御部80は、算出された定数A、時定数τに基づいて帯電ローラー41の寿命を予測する。寿命予測の例として、ここでは、定数Aおよび時定数τをそれぞれ基準定数A0、基準時定数τ0と比較する(ステップS5)。主制御部80は、A<A0、τ<τ0であるか否かを判定し(ステップS6)、A<A0、τ<τ0である場合は(ステップS6でYes)帯電ローラー41が寿命に到達したと判定して帯電ローラー41の交換を通知する(ステップS7)。
【0040】
或いは、算出されたA、τを式(1)に代入し、さらに周波数ωに基準周波数ω0を代入して求められる基準インピーダンスZ(ω0)の値を計算し、閾値Z0(ω0)と比較してZ(ω0)≧Z0(ω0)である場合に寿命に到達したと判定することもできる。基準定数A0、基準時定数τ0、閾値Z0(ω0)は、帯電ローラー41の設計時に耐久試験、シミュレーション等に基づいて、帯電ローラー41が寿命に到達したと推定される値に決定される。基準定数A0、基準時定数τ0、閾値Z0(ω0)は製品出荷時に予め設定した固定値でもよいし、ユーザーの使用状況(例えば、温湿度、累積印字枚数)に応じて補正される変動値でもよい。
【0041】
或いは、例えば帯電ローラー41の導電層41b内のイオンの残量および分布状態から電圧印加に対する電流値の応答性を計算するシミュレーターを製品に実装しておき、主制御部80において、測定パラメーターを代入することで今後どのような使い方をしていけばどの程度のタイミングで電流が流れにくくなっていくか(電気抵抗が上昇するか)の計算を実行し、計算結果から帯電ローラー41の寿命を予測することも可能である。つまり、測定されたWarburgインピーダンスのパラメーターA、τが帯電ローラー41の寿命判定の要素に含まれていることが重要である。
【0042】
図4に示した寿命予測モードは、画像形成装置100の電源投入時、または画像形成装置100が所定時間印字動作を行わなかった場合に画像形成装置100を構成する各部材、装置への電力供給を制限する省電力モード(スリープモード)からの復帰時、或いは直前の寿命予測モードの実行後、所定の印字枚数に到達したタイミング等で、非画像形成時に実行される。また、インピーダンスを測定する際は低周波領域の測定を考慮して帯電ローラー41の回転を停止させて測定することが望ましい。
【0043】
このように定数A、時定数τを用いて寿命を予測することにより、帯電ローラー41の導電層41bの劣化状況を精度よく把握して帯電ローラー41の適切な交換時期を通知することができ、感光体ドラム5の帯電不良に起因する縦筋画像やカブリ画像の発生を効果的に抑制することができる。また、画像形成装置100の予知保全を確実に行うことができ、サービスマンによる監視負担やメンテナンスコストも極力軽減することができる。サービスマンへの通知方法としては、例えば送受信部91からメンテナンスを行うサービスマンの通信端末に帯電ローラー41の交換を促す通知をCBM(Condition Based Maintenance)アラートとして送信する。
【0044】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では送受信部91を用いて帯電ローラー41の寿命が近いことをサービスマンに直接通知するようにしたが、例えば液晶表示部90に帯電ローラー41の交換を促す通知を表示することにより、帯電ローラー41の寿命が近いことをユーザーに通知するようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では画像形成装置100として
図1に示したようなモノクロプリンターを例に挙げて説明したが、モノクロプリンターに限らず、モノクロおよびカラー複写機、デジタル複合機、カラープリンター、ファクシミリ等の他の画像形成装置であってもよい。以下、実施例により本発明の効果について更に詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
寿命予測モードによる帯電ローラー41の寿命予測精度についての検証試験を行った。試験方法としては、帯電ローラー41に接触電極50を接触させて線速250mm/secで従動回転させながら120μAの定電流電源に接続して通電し、帯電ローラー41の通電エージングを行った。なお、
図2に示した構成では直流定電圧電源43bを備えた高圧発生回路43を用いているが、直流定電圧電源43bを用いた定電圧制御においても感光体ドラム5に一定の電荷を供給するため帯電ローラー41には定電流が流れると解することができる。そのため、定電流電源による通電エージングは、画像形成装置100での通電による帯電ローラー41の劣化を再現するものといえる。
【0047】
そして、通電開始後50、100、150、200[hr]経過時に、帯電ローラー41の回転を停止させて交流電流の周波数を変化させたときの振幅および位相差を測定し、Warburgインピーダンスの絶対値を取得して帯電ローラー41の寿命を予測した。
【0048】
具体的には、交流電圧の周波数ωを10^n(n=1,1.2,1.4,・・・5)の20段階とし、各周波数において5周期分のデータを取得して実効電流値と位相差を測定した。そして、
図6に示したフィッティング等価回路モデルを用い、LM法を用いて取得された電流値データを式(1)によりフィッティングした。初期値はR1=10
5[Ω]、C1=10
-10[F]、R2=10
6[Ω]、C2=10
-9[F]、A=10
6[Ω]、τ=0.001として繰り返し演算回数が100に到達した時点で計算を終了し、パラメーター推定値を決定した。
【0049】
寿命予測方法は、推定したA、τおよび基準周波数ω0=2500[Hz]を式(1)に代入して基準インピーダンスZ(ω0)を算出し、さらにZ(ω0)の絶対値|Z(ω0)|=√(Re2+Im2)を計算した。基準値Z0(ω0)(=105)に対して|Z(ω0)|<Z0(ω0)であれば寿命に到達しておらず(○)、|Z(ω0)|≧Z0(ω0)であれば寿命に到達した(×)と判定した。
【0050】
一方、比較例として、帯電ローラー41を線速100mm/secで回転させた状態で直流電圧500Vを印加し、5sec経過時点の電流値を取得し、取得した電流値に基づいて帯電ローラー41の寿命を予測した。寿命予測方法は、電流値が1.0mAよりも小さくなったとき寿命に到達したと判定した。
【0051】
感光体ドラム5はアモルファスシリコン感光層を有するアモルファスシリコン(a-Si)ドラムを用い、帯電ローラー41は、エピクロルヒドリンゴムを主成分とするゴムにイオン導電剤として4級アンモニウム塩を含有させた導電層41bを用いた。接触電極50はSUS製の金属ローラーを用いた。結果を表1に示す。
【0052】
また、
図6の等価回路モデルを用いた通電時間50hr時点のインピーダンススペクトルのフィッティング結果を
図7に、
図6の等価回路モデルからWarburgインピーダンスZwを除外した等価回路を用いた通電時間50hr時点のインピーダンススペクトルのフィッティング結果を
図8に示す。
【0053】
【0054】
表1から明らかなように、Warburgインピーダンスに基づいて帯電ローラー41の寿命予測を行う本発明では、通電時間150hrとなった時点でZ≧Z0となり、寿命に到達したと判定される。一方、電流Iに基づいて帯電ローラー41の寿命予測を行う比較例では、通電時間150hr時点までの電流は1.0mA付近を維持しているが、150hrから200hrに至る過程で急激に電流が減少してしまう傾向が確認された。
【0055】
すなわち、比較例の測定手法では通電時間150hrの時点では帯電ローラー41の電気抵抗が正常な範囲であるという情報しか得られず、今後どのタイミングで電気抵抗が上昇し、電流が減少し始めるかの予測は難しい。本発明の測定手法では、イオンの濃度勾配状態を示唆する情報を得ることができ、Warburgインピーダンスの基準値を下回った段階から電気抵抗が上昇し始めることを予想することができる。実際に通電時間が150hrを越えると
図7のように電気抵抗が上昇し、電流が流れにくくなることが確認された。
【0056】
また、
図7および
図8の比較から、Warburgインピーダンスを考慮することで、インピーダンススペクトルの実測値(■で表示)と計算結果(実線で表示)とがよく一致していることがわかる。これにより、本発明の手法で帯電ローラー41の電気特性をより正確に表現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、像担持体に接触する帯電部材を用いて像担持体を帯電させる接触帯電式の帯電装置を備えた画像形成装置に利用可能である。本発明の利用により、帯電部材の寿命を精度よく予測可能な画像形成装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
4 帯電装置
5 感光体ドラム(像担持体)
6 除電装置
7 露光装置
8 現像装置
14 転写ローラー
41 帯電ローラー(帯電部材)
41a 芯金
41b 導電層
43 高圧発生回路
43a 交流定電圧電源
43b 直流定電圧電源
44 電流検出部
45 電圧制御部
70 記憶部
80 主制御部(制御部)
90 液晶表示部(通知装置)
91 送受信部(通知装置)
100 画像形成装置