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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】行動制御方法、及び行動制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221122BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20221122BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/095
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019025721
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020135215
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】徳持 大輔
【審査官】稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-122308(JP,A)
【文献】特開2012-89084(JP,A)
【文献】特開2017-206039(JP,A)
【文献】特開2016-1432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 10/30
30/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行環境を認識する環境認識部(20)を搭載する車両(As)において用いられ、前記車両の行動を制御する行動制御方法であって、
少なくとも一つのプロセッサ(11)にて実行される処理に、
右左折又は車線変更を含むよう設定された前記車両の走行ルート(PR)に対し前記環境認識部の死角となる死角領域(BS)を特定し(S112)、
当該死角領域から前記走行ルートへの移動物体(HO)の飛び出し可能性を判断し(S113)、
前記死角領域からの前記飛び出し可能性がある場合に、前記飛び出し可能性を低い状態に遷移させる可能性低減行動を前記車両に実施させ、
前記可能性低減行動の開始後に前記走行ルートに従う前記車両の走行行動を実施させ(S122,S129)、というステップを含み、
前記飛び出し可能性を判断するステップでは、前記走行ルートに従う前記走行行動を実施させると、前記死角領域に存在すると仮定した前記移動物体に減速を強いる場合に、前記飛び出し可能性が高いと判断し、
前記可能性低減行動を実施させるステップでは、
前記可能性低減行動として、前記走行ルートに従う前記走行行動の開始を前記車両の周囲に通知する通知行動を実施させ、
前記通知行動として、無線通信を用いて前記走行行動の開始を前記周囲に通知する通信通知行動(S124,S126)と、前記無線通信とは異なる手段により前記走行行動の開始を前記周囲に通知する非通信通知行動(S128)とを実施させ、
前記飛び出し可能性が高いと判断されている場合には、前記非通信通知行動の実施を回避する、行動制御方法。
【請求項2】
前記飛び出し可能性を判断するステップでは、前記死角領域の面積が広いほど前記飛び出し可能性を高く設定する請求項1に記載の行動制御方法。
【請求項3】
前記可能性低減行動として、前記死角領域の面積が狭くなる位置(Pa)へ向けて前記車両を移動させる移動行動を実施させる(S125)請求項2に記載の行動制御方法。
【請求項4】
前記飛び出し可能性を判断するステップでは、前記移動物体に対し想定する想定移動速度が高いほど前記飛び出し可能性を高く設定する請求項1~3のいずれか一項に記載の行動制御方法。
【請求項5】
前記飛び出し可能性の高さに応じて、前記可能性低減行動の内容を変更する請求項1~4のいずれか一項に記載の行動制御方法。
【請求項6】
前記飛び出し可能性を判断するステップでは、前記死角領域に存在すると仮定した前記移動物体に減速を強いることなく、前記走行ルートに従う前記走行行動を実施可能な場合に、前記飛び出し可能性が低いと判断し、
前記走行行動を実行させるステップは、前記飛び出し可能性が低いという判断に基づき開始される請求項1~のいずれか一項に記載の行動制御方法。
【請求項7】
走行環境を認識する環境認識部(20)を搭載する車両(As)において用いられ、前記車両の行動を制御する行動制御装置であって、
右左折又は車線変更を含むよう設定された前記車両の走行ルート(PR)に対し前記環境認識部の死角となる死角領域(BS)を特定し、当該死角領域から前記走行ルートへの移動物体の飛び出し可能性を判断する死角判断部(51)と、
前記死角領域からの前記飛び出し可能性がある場合に、前記走行ルートに従う前記車両の走行行動の実施に先立ち、前記飛び出し可能性を低い状態に遷移させる可能性低減行動を前記車両に開始させる行動判断部(52)と、を備え
前記死角判断部は、前記走行ルートに従う前記走行行動を実施させると、前記死角領域に存在すると仮定した前記移動物体に減速を強いる場合に、前記飛び出し可能性が高いと判断し、
前記行動判断部は、
前記可能性低減行動として、前記走行ルートに従う前記走行行動の開始を前記車両の周囲に通知する通知行動を実施させ、
前記通知行動として、無線通信を用いて前記走行行動の開始を前記周囲に通知する通信通知行動(S124,S126)と、前記無線通信とは異なる手段により前記走行行動の開始を前記周囲に通知する非通信通知行動(S128)とを実施させ、
前記飛び出し可能性が高いと判断されている場合には、前記非通信通知行動の実施を回避す行動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、車両の行動を制御する行動制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、周辺環境認識手段での認識に基づいて車両からの死角を検出する死角検出手段と、死角検出手段での検出結果に基づいて死角に対する安全運転支援制御を稼動させる制御稼動手段を備える運転支援装置が開示されている。この運転支援装置は、死角となる領域が存在する場合に、安全運転支援制御として、死角からの移動物体の飛び出しに対応可能な速度まで自車両を減速させる制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-194979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、交差点にて右左折を行う場合、又は複数車線を含む道路にて車線変更を行う場合では、自車両の走行ルートは、他の車線と交差するようになる。そのため、走行ルートに対して死角となる領域が存在し易くなり、且つ、死角領域から走行ルートへの移動物体の飛び出し可能性も高くなる傾向にある。故に、特許文献1のように、自車両を単に減速させる制御だけでは、飛び出し可能性が高いまま維持されるため、死角領域の存在する状況下、右左折や車線変更等の走行行動を自車両に継続させることが困難となり得た。
【0005】
本開示は、死角領域が存在する場合でも、右左折又は車線変更を含む走行ルートに従う走行行動を車両に継続させることが可能な行動制御方法及び行動制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、走行環境を認識する環境認識部(20)を搭載する車両(As)において用いられ、車両の行動を制御する行動制御方法であって、少なくとも一つのプロセッサ(11)にて実行される処理に、右左折又は車線変更を含むよう設定された車両の走行ルート(PR)に対し環境認識部の死角となる死角領域(BS)を特定し(S112)、当該死角領域から走行ルートへの移動物体(HO)の飛び出し可能性を判断し(S113)、死角領域からの飛び出し可能性がある場合に、飛び出し可能性を低い状態に遷移させる可能性低減行動を車両に実施させ、可能性低減行動の開始後に走行ルートに従う車両の走行行動を実施させ(S122,S129)、というステップを含み、飛び出し可能性を判断するステップでは、走行ルートに従う走行行動を実施させると、死角領域に存在すると仮定した移動物体に減速を強いる場合に、飛び出し可能性が高いと判断し、可能性低減行動を実施させるステップでは、可能性低減行動として、走行ルートに従う走行行動の開始を車両の周囲に通知する通知行動を実施させ、通知行動として、無線通信を用いて走行行動の開始を周囲に通知する通信通知行動(S124,S126)と、無線通信とは異なる手段により走行行動の開始を周囲に通知する非通信通知行動(S128)とを実施させ、飛び出し可能性が高いと判断されている場合には、非通信通知行動の実施を回避する、行動制御方法とされる。
【0007】
また開示された一つの態様は、走行環境を認識する環境認識部(20)を搭載する車両(As)において用いられ、車両の行動を制御する行動制御装置であって、右左折又は車線変更を含むよう設定された車両の走行ルート(PR)に対し環境認識部の死角となる死角領域(BS)を特定し、当該死角領域から走行ルートへの移動物体の飛び出し可能性を判断する死角判断部(51)と、死角領域からの飛び出し可能性がある場合に、走行ルートに従う車両の走行行動の実施に先立ち、飛び出し可能性を低い状態に遷移させる可能性低減行動を車両に開始させる行動判断部(52)と、を備え、死角判断部は、走行ルートに従う走行行動を実施させると、死角領域に存在すると仮定した移動物体に減速を強いる場合に、飛び出し可能性が高いと判断し、行動判断部は、可能性低減行動として、走行ルートに従う走行行動の開始を車両の周囲に通知する通知行動を実施させ、通知行動として、無線通信を用いて走行行動の開始を周囲に通知する通信通知行動(S124,S126)と、無線通信とは異なる手段により走行行動の開始を周囲に通知する非通信通知行動(S128)とを実施させ、飛び出し可能性が高いと判断されている場合には、非通信通知行動の実施を回避す行動制御装置とされる。
【0008】
これらの態様では、走行ルートに対して環境認識部の死角領域が存在し、この死角領域からの移動物体の飛び出し可能性がある場合に、可能性低減行動が、走行行動に先立って実施される。こうした可能性低減行動の実施によれば、死角領域から走行ルートへの移動物体の飛び出し可能性が低くなった状態で、車両は、走行行動を開始し得る。以上の結果、右左折又は車線変更を含む走行ルートに対し死角領域が存在する場合でも、走行ルートに従う走行行動を車両に継続させることが可能となる。
【0009】
尚、上記括弧内の参照番号は、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態による自動運転ECUを含む車両のシステムの全体像を示すブロック図である。
図2】自動運転ECUにて実施される行動制御処理のメイン処理を示すフローチャートである。
図3】行動制御処理のサブ処理である死角判断処理であり、右左折を行う場合に実施される死角判断処理の詳細を示すフローチャートである。
図4】行動制御処理のサブ処理である行動判断処理であり、右左折を行う場合に実施される行動判断処理の詳細を示すフローチャートである。
図5】交差点を右折する走行シーンにおいて、行動制御処理に基づく自車両の挙動を図6図9と共に示す図である。
図6】可能性低減行動による死角低減位置への移動が死角領域を低減させることを示す図である。
図7】非通信通知行動の実施後、自車両が走行行動を開始する様子を示す図である。
図8】死角領域の低減が困難な場合に、自車両が信号機の切り替わりを待機する状態を示す図である。
図9】信号機の切り替わりに伴う待機車両の移動により、死角領域が低減されることを示す図である。
図10】信号機の無いT字路を右折する走行シーンにて、行動制御処理に基づく自車両の挙動を図11と共に示す図である。
図11】T字路を右折する走行シーンにて、可能性低減行動による死角低減位置への移動が死角領域を低減させることを示す図である。
図12】車線変更を行う場合に実施される死角判断処理の詳細を示すフローチャートである。
図13】車線変更を行う場合に実施される行動判断処理の詳細を示すフローチャートである。
図14】左車線から中央車線への車線変更を行う走行シーンにおいて、行動制御処理に基づく自車両の挙動を図15と共に示す図である。
図15】車線変更を行う走行シーンにて、可能性低減行動による死角低減位置への移動が死角領域を低減させることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す本開示の一実施形態による自動運転ECU(Electronic Control Unit)100は、車両Asにおいて用いられ、車両Asの自律走行を実現する演算処理装置である。自動運転ECU100は、車外情報認識装置20及び車両制御装置40と共に車両Asに搭載されており、これらの装置20,40と連携することにより、運転者に代わって車両Asの行動を制御する。自動運転ECU100は、上述の車外情報認識装置20及び車両制御装置40に加えて、車外通知装置30等と直接的又は間接的に電気接続されている。自動運転ECU100、車外情報認識装置20、車両制御装置40及び車外通知装置30は、相互に通信可能である。
【0012】
車外情報認識装置20は、車両Asの周囲の走行環境を認識する演算処理装置である。車外情報認識装置20は、プロセッサ、RAM、記憶部、入出力インターフェース、及びこれらを接続するバス等を備えたマイクロコンピュータを主体として含む構成である。車外情報認識装置20は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信器21、物体検出部22及び高精度地図データベース(以下、「地図DB」)23等の車載構成と直接的又は間接的に電気接続されている。
【0013】
GNSS受信器21は、複数の人工衛星(測位衛星)から送信された測位信号を受信する。GNSS受信器21は、GPS、GLONASS、Galileo、IRNSS、QZSS、Beidou等の衛星測位システムのうちで、少なくとも一つの衛星測位システムの各測位衛星から、測位信号を受信可能である。GNSS受信器21は、受信した測位信号を、車両Asの現在位置を示す自車位置情報として車外情報認識装置20に提供する。
【0014】
物体検出部22は、車両Asの周辺環境を監視する自律センサである。物体検出部22は、自車周囲の検出範囲から、移動物体及び静止物体を検出可能である。移動物体は、例えば歩行者、サイクリスト、人間以外の動物、及び他車両等である。静止物体は、路上の落下物、ガードレール、縁石、走行区画線等の路面表示、及び道路脇の構造物等である。物体検出部22は、車両Asの周囲の物体を検出した検出情報を、車外情報認識装置20に提供する。
【0015】
物体検出部22は、物体検出のための具体的な検出構成として、前方カメラ、ライダ、ミリ波レーダを有している。前方カメラは、車両Asの前方範囲を撮影した撮像データ、及び撮像データの解析結果の少なくとも一方を、検出情報として出力する。ライダは、レーザ光を前方範囲へ向けて照射し、移動物体及び静止物体等で反射された反射光を受信する処理により、前方範囲の検出情報を生成する。ミリ波レーダは、ミリ波又は準ミリ波を前方範囲へ向けて照射し、移動物体及び静止物体等で反射された反射波を受信する処理により、前方範囲の検出情報を生成する。尚、ソナー等の検出構成が、物体検出部22に含まれていてもよい。また前方カメラは、単眼カメラであってもよく、或いは二眼又は三眼以上の複眼カメラであってもよい。
【0016】
図DB23は、不揮発性メモリを主体に構成されており、自動運転のために整備された高精度な地図データ(以下、「高精度地図データ」)を記憶している。高精度地図データには、交差点を含む道路の3次元形状情報、レーン数情報、各レーンに許容された進行方向を示す情報、及び横断歩道及び自転車レーン等の敷設情報等が含まれている。地図DB23は、車外情報認識装置20からの要求に基づき、車両Asの周囲の高精度地図データを車外情報認識装置20に提供する。
【0017】
車外情報認識装置20は、自車位置情報、検出情報及び高精度地図データ等に基づき、車両Asの現在の走行環境を仮想空間中に再現する。具体的に、車外情報認識装置20は高精度地図データの示す道路形状を仮想の三次元空間にマッピングし、自車位置情報の示す位置に自車モデルを配置すると共に、検出情報の示す相対位置に他車両、歩行者及び建築物等の物体モデルを配置する。さらに車外情報認識装置20は、車両Asに搭載されたHMI(Human Machine Interface)へ入力されるユーザ操作に基づき、車両Asを自律走行させる予定の走行ルートPR(図5参照)を、認識した走行環境に関連付けて設定する。車外情報認識装置20は、走行環境の認識結果と、車両Asの走行ルートPRとを、自動運転ECU100へ向けて逐次出力する。
【0018】
車両制御装置40は、車両Asの走行行動を自動運転ECU100との連携により制御する演算処理装置である。車両制御装置40は、プロセッサ、RAM、記憶部、入出力インターフェース、及びこれらを接続するバス等を備えたマイクロコンピュータを主体として含む構成である。車両制御装置40は、車両Asに搭載された車載センサ群及び車載アクチュエータ群と直接的又は間接的に電気接続されている。車載センサ群には、例えば車速センサ、舵角センサ、アクセルポジションセンサ及びブレーキ圧センサが含まれる。車載アクチュエータ群には、例えばスロットルアクチュエータ、インジェクタ、ブレーキアクチュエータ、並びに駆動用及び回生用のモータジェネレータが含まれている。車両制御装置40は、自動運転ECU100から取得する行動要求指令に基づき、車載アクチュエータ群を統合的に作動させる処理により、車両Asの加減速制御及び操舵制御等を実行する。
【0019】
車外通知装置30は、車両Asの通知行動を自動運転ECU100との連携により制御する演算処理装置である。車外通知装置30は、自動運転ECU100から取得する行動要求指令に基づき、車両Asに予定されている将来の走行行動を、車両周囲の通知対象に通知する。通知対象は、走行ルートPR(図5及び図14参照)に向かって移動する他車両及び歩行者に限定されてもよく、又は車両周囲に存在する不特定の他車両及び歩行者等であってもよい。車外通知装置30には、例えば車外通信器及びヘッドライトHL(図7参照)が含まれる。
【0020】
車外通信器は、車両Asに搭載される通信モジュールである。車外通信器は、路車間通信、車車間通信及び歩車間通信等の無線通信機能を有している。車外通信器は、車両Asに予定されている右左折及び車線変更等の将来行動を、他車両に搭載された車載器、及び歩行者の所持する携帯端末等へ向けて送信する。車外通信器は、対向車線及び横断歩道等を横切る場合等に、無線通信を用いて、車両Asの走行行動の開始を、周囲のドライバ及び歩行者等に事前通知できる。
【0021】
ヘッドライトHL(図7参照)は、車両Asに予定されている右左折及び車線変更等の将来行動を、無線通信とは異なる手段によって周囲に通知する非通信通知行動のための通知構成として用いられる。ヘッドライトHLは、車両Asの走行行動を注意喚起するために、いわゆるパッシングの作動を実施する。非通信通知行動として行われるパッシングは、ウィンカ(方向指示器)の点灯又は点滅に合わせて、ロービームとハイビームとの切り替えを連続的に複数回実施する作動、又はハイビームを複数回点灯させる作動である。
【0022】
自動運転ECU100は、車外情報認識装置20から取得する情報に基づき、車両Asの行動を決定し、車外通知装置30及び車両制御装置40へ向けて出力する行動要求指令を生成する。自動運転ECU100は、処理部11、RAM12、記憶部13、入出力インターフェース14、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として含む構成である。処理部11は、RAM12と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部11は、RAM12へのアクセスにより、後述する各機能部の機能を実現するための種々の処理を実行する。処理部11は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部11は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)及び他の専用機能を備えたIPコア等をさらに含む構成であってよい。記憶部13は、不揮発性の記憶媒体を含む構成である。記憶部13には、処理部11によって実行される種々のプログラム(行動制御プログラム等)が格納されている。
【0023】
自動運転ECU100は、記憶部13に記憶されたプログラムを処理部11によって実行することにより、死角判断部51及び行動判断部52を含む複数の機能部を有する。自動運転ECU100は、自動走行機能がオン状態とされたことに基づき、死角判断部51及び行動判断部52により、行動制御処理(図2参照)を開始する。自動運転ECU100は、例えば自律走行機能がオフ状態とされるまで、行動制御処理を継続的に実施する。
【0024】
死角判断部51は、行動制御処理に含まれる死角判断処理(図2 S10,図3参照)を実行する機能部である。死角判断部51は、車外情報認識装置20から取得した走行環境の認識結果、及び車両Asの走行ルートPRを用いて、死角判断処理を実施する。死角判断部51は、死角領域BS(図5参照)を特定する機能と、死角領域BSから走行ルートPRへの移動物体HO(図5参照)の飛び出し可能性を判断する機能とを有している。
【0025】
死角領域BSは、物体検出部22によって物体の検出が可能な認識範囲SA(図5参照)のうちで、他車両及び建築物等によって遮蔽された範囲である。この範囲では、車外情報認識装置20による物体認識が不可能となる。そのため死角領域BSは、走行環境の認識結果に情報の欠損が生じている空間範囲となる。
【0026】
死角判断部51は、走行ルートPRの内容に基づき、車両Asにて実施される走行行動に対応した死角判断処理を実施する。一例として、交差点及び分岐ポイント等にて車両Asを右折又は左折させる走行ルートPRが設定されている場合、死角判断部51は、右左折シーンのための死角判断処理(図3参照)を実施する。この死角判断処理において、死角判断部51は、高精度地図データに基づき、走行ルートPRを遮る車線又は横断歩道が存在するか否かを判定する(図3 S111参照)。走行ルートPRを遮るような車線及び横断歩道のいずれも無い場合、死角判断部51は、死角領域BSが存在しないと判断する。
【0027】
一方、対向車線を横切るように右左折を行う走行ルートPRが設定されている場合、死角判断部51は、走行ルートPRに対して車外情報認識装置20の死角となる死角領域BS(図5参照)を特定する(図3 S112参照)。具体的に、死角判断部51は、高精度地図データに基づき、現在の走行ルートPRに対し死角領域BSの存在が問題となる空間範囲を重点監視範囲MA(図5参照)として、例えば対向車線及び横断歩道等に設定する。死角判断部51は、重点監視範囲MAのうちで、走行環境の認識結果に情報の欠損が生じている空間範囲を、死角領域BSとして特定する。
【0028】
死角判断部51は、死角領域BSを特定した場合、死角領域BSに移動物体HO(例えば、対向直進車両)が存在すると仮定する。加えて死角判断部51は、移動物体HOが走行ルートPRへ向けて想定移動速度で接近しているとさらに仮定する。想定移動速度は、例えば対向車線の制限速度、又は制限速度よりも所定速度(例えば、10~20km/h)高い値に設定される。死角判断部51は、仮定した移動物体HOが死角領域BSから走行ルートPRに飛び出してくる飛び出し可能性を判断する(図3 S113参照)。
【0029】
死角判断部51は、想定した移動物体HOの飛び出し可能性を多段階(例えば、三段階)に判断する。死角判断部51は、死角領域BSからの移動物体HOの飛び出しが実質的に生じ得ない場合、飛び出し可能性について「無」の判断結果を設定する。例えば、死角領域BSが走行ルートPRから非常に遠い場合、死角領域BSが移動物体HOを隠せない程度に狭い場合、又は死角領域BSからの飛び出しを不可能にする停車車両が存在する場合等に、死角判断部51は、飛び出し可能性が「無」であると判断する。
【0030】
一方、飛び出し可能性が「無」であると判断できない場合、死角判断部51は、飛び出し可能性が有ると推定したうえで、飛び出し可能性のレベルを「低」及び「高」のいずれかに設定する。死角判断部51は、飛び出し可能性のレベルを判断するにあたり、重点監視範囲MAのうちに死角領域BSがどれくらいの割合で存在するかにより、死角領域BSからの移動物体HOの飛び出し可能性のレベルを判断する。死角判断部51は、重点監視範囲MAにおける死角領域BSの面積が広いほど、飛び出し可能性を高く設定する。さらに、死角判断部51は、移動物体HOに対し想定する想定移動速度が高いほど、飛び出し可能性を高く設定する。
【0031】
ここで、飛び出し可能性の判断結果が「低」である場合、死角領域BSが存在していても、走行ルートPRに従う車両Asの走行行動が許可される。一方で、飛び出し可能性の判断結果が「高」である場合、走行ルートPRに従う車両Asの走行行動は、禁止される。そのため、飛び出し可能の判断における「低」と「高」との閾値は、死角領域BSに存在すると仮定した移動物体HOに対し減速を強いることなく、車両Asが走行ルートPRに従う走行行動を実施可能か否かという考え方に基づき、設定される。即ち、死角判断部51は、死角領域BSに仮定した移動物体HOを減速させることなく、走行ルートPRに従う走行行動を完遂可能な場合に、飛び出し可能性について「低」であると判断する。一方で、走行ルートPRに従う走行行動を実施させてしまうと、死角領域BSに存在すると仮定した移動物体HOに減速を強いる場合、死角判断部51は、飛び出し可能性について「高」であると判断する。
【0032】
尚、「減速を強いる」とは、例えば対向車線を横切る車両Asを見た対向直進車両のドライバが、車両Asをリスクと認識し、ブレーキ操作を行う蓋然性が高いことを意味する。例えば、死角領域BSの境界と走行ルートPRとが十分に離れていれば、仮定した移動物体HOが対向直進車両として実際に存在していても、対向直進車両のドライバは、ブレーキ操作を行うことなく、前方を横切る車両Asをやり過ごすことができる。よってこの場合は、「減速を強いる」ことにはならない。
【0033】
行動判断部52は、行動制御処理に含まれる行動判断処理(図2 S20,図4参照)を実行し、車両Asの振る舞いを決定する機能部である。行動判断部52は、車外通知装置30及び車両制御装置40へ向けた行動要求指令の出力により、これらの装置30,40を制御する。行動判断部52は、死角判断部51によって死角領域BSが特定されている場合に、車両Asの走行行動を制限することで、死角領域BS近傍を低リスク且つ円滑に通行させる。行動判断部52は、走行ルートPRに従って車両Asの走行行動を実施させる機能と、死角領域BSが特定されている場合に、この死角領域BSからの飛び出し可能性を低い状態に遷移させる機能とを有している。
【0034】
行動判断部52は、車外情報認識装置20から取得する走行環境の認識結果及び走行ルートPRを用いて、車両Asを自律走行させるための行動要求指令を、車両制御装置40に出力する。行動判断部52は、死角判断部51にて死角領域BSが特定されていない場合、車両制御装置40と連携し、走行ルートPRに従った走行行動を車両Asに実行せる。
【0035】
一方、死角判断部51にて死角領域BSが特定されている場合、行動判断部52は、死角領域BSに起因するリスクエリアを通過する前に、徐行又は一旦停止を行う。そして、行動判断部52は、特定された死角領域BSからの飛び出し可能性に基づき、車両Asの行動を変化させる(図4 S121参照)。行動判断部52は、死角判断部51による飛び出し可能性の判断結果が「無」である場合、死角領域BSが特定されていな場合と同様に、走行ルートPRに従った走行行動を車両Asに実施させる(図4 S122参照)。
【0036】
加えて行動判断部52は、死角判断部51にて飛び出し可能性があると判断されている場合、走行ルートPRに従う走行行動を車両Asに実施させるのに先立ち、可能性低減行動を開始する。可能性低減行動は、死角領域BSからの移動物体HOの飛び出し可能性を、現在よりも低い状態に遷移させて、仮に死角領域BSに移動物体HOが実際に存在していても、相互に低リスクである状態を実現するための車両行動である。こうした可能性低減行動として、行動判断部52は、死角領域BSの面積が狭くなる死角低減位置Pa(図6参照)へ向けて車両Asを徐々に移動させる移動行動と、車外通知装置30を用いて走行行動の開始を周囲に通知する通知行動とを実施する。加えて行動判断部52は、通知行動として、通信通知行動(図4 S124,S126参照)と非通信通知行動(図4 S128)とを実施可能である。
【0037】
行動判断部52は、飛び出し可能性の高さに応じた内容の可能性低減行動を実施させる。具体的に、飛び出し可能性が「高」である場合、行動判断部52は、死角低減位置Paへ向けた移動行動の実施を試みる。死角低減位置Paへの移動行動では、車両Asは、走行ルートPRに従って前進する。行動判断部52は、死角低減位置Paへ向けての移動が可能であるか否かを判定する(図4 S123参照)。そして、移動可能であると判定した場合、行動判断部52は、通知行動を実施させたうえで(図4 S124参照)、死角低減位置Paへ向けた車両Asの移動を開始させる(図4 S125参照)。このときの通知行動は、車外通信器による無線通信を用いて、走行行動の開始を周囲に通知する通信通知行動とされる。即ち、非通信通知行動の実施は、回避される。また移動行動における車両Asの走行速度は、例えば徐行速度相当(5km/h程度)に制限される。一方で、車両Asを移動させる余地が残されていない場合、行動判断部52は、車外通信器を用いた通信通知行動を車外通知装置30に実施させつつ(図4 S126参照)、車両Asを停車させる(図4 S127参照)。
【0038】
行動判断部52は、飛び出し可能性が「低」である場合、又は死角低減位置Paへ向けた移動行動によって飛び出し可能性が「低」となった場合、通知行動を実施させたうえで(図4 S128参照)、走行行動を実施させる(図4 S129参照)。このときの通知行動は、ヘッドライトHL(図7参照)を用いたパッシングによる非通信通知行動とされる。加えて、飛び出し可能性が「低」である場合の走行行動は、通常の走行行動よりも、走行速度の上限値が低く設定された制限走行行動とされる。
【0039】
次に、ここまで説明した行動制御処理に基づき、車両Asが交差点を右折する走行シーンでの状態遷移の二つの具体例を、図5図11基づき、図1を参照しつつ、以下説明する。尚、図5図9は、信号機のある交差点(十字路)を右折する走行シーンである。一方、図10及び図11は、信号機のない交差点(T字路)を右折する走行シーンである。以下の説明では、自動運転ECU100を搭載する車両Asを、他車両との区別のために、「自車両As」と記載する。
【0040】
<信号機のある交差点での右折>
図5に示すように、交差点を右折する場合、自車両Asは、右折車線から交差点内に進入する。図5に示す走行シーンでは、信号機は、青色を点灯させている。こうした走行シーンでは、自車両Asの前方に、自車両Asとは反対の方向への右折を待機する待機車両Awが存在し得る。待機車両Awは、自車両Asの物体検出部22の認識範囲SAに死角を生じさせる。
【0041】
以上の走行シーンにて、死角判断部51は、高精度地図データに基づき、自車両Asの走行ルートPRと交差する対向車線の領域(図5のドット範囲参照)を重点監視範囲MAとして設定する。加えて死角判断部51は、走行環境の認識結果に基づき、重点監視範囲MAの一部を含むように、待機車両Awに起因する死角領域BSを特定する。さらに死角判断部51は、走行ルートPRへ向けて対向車線を走行する対向直進車両Aoを、仮想の移動物体HOとして死角領域BS内に仮定し、当該対向直進車両Aoの想定移動速度を設定する。そうしたうえで、死角判断部51は、対向直進車両Aoの飛び出し可能性を判断する。図5に示す状況では、飛び出し可能性は、「高」であると判断されている。
【0042】
行動判断部52は、死角判断部51による飛び出し可能性の判断結果に基づき、可能性低減行動を実施する。具体的に、行動判断部52は、車外通信器を用いた通信通知行動を実施させつつ、図6に示す死角低減位置Paへ向けて、待機車両Awを避けつつ、自車両Asを徐々に前進移動させる。一例として、死角低減位置Paは、対向車線の領域に自車両Asが進入しないような境界位置に設定される。
【0043】
以上の死角低減位置Paへの移動行動によれば、重点監視範囲MAにおける待機車両Aw起因の死角領域BSの面積は、大きく低減される。その結果、自車両As近傍での対向直進車両Ao(図5参照)の不存在が確認されるため、死角判断部51にて判断される飛び出し可能性は、「高」から「低」へと遷移する。
【0044】
行動判断部52は、飛び出し可能性の「低」状態への遷移に基づき、図7に示すように、ヘッドライトHLによる非通信通知行動、即ちパッシングを実施する。さらに行動判断部52は、パッシングの実施後、走行ルートPRに従う走行行動を自車両Asに開始させる。以上により、自車両Asは、交差点から離脱し、右折先の走行車線へと移動する。
【0045】
一方、図8に示すように、自車両As及び待機車両Awの位置関係から、自車両Asを死角低減位置Paに移動させたとしても、死角領域BSを十分に低減させられない場合が想定される。この場合、死角領域BS内に想定される対向直進車両Aoの飛び出し可能性は、死角低減位置Paへの移動後も「高」のまま維持される。故に、行動判断部52は、自車両Asを死角低減位置Paに停車させて、待機車両Awの移動又は信号機の切り替わりの待機状態とする。
【0046】
こうして自車両Asを待機させた状態下、例えば信号機が青信号から黄信号へと遷移すると、図9に示すように、待機車両Awは、認識範囲SAから離脱する方向への走行を開始する。以上により、重点監視範囲MAにおける待機車両Aw起因の死角領域BSの面積は、大きく低減される。故に、死角判断部51にて判断される飛び出し可能性は、「高」から「低」へと遷移する。その結果、行動判断部52は、ヘッドライトHLによるパッシングを非通信通知行動として実施させたうえで、走行ルートPRに従う走行行動を開始させて、自車両Asを交差点から離脱させる。
【0047】
<信号機のないT字路での右折>
図10に示すように、右折によって脇道から幹線道路に出る場合、自車両Asは、幹線道路手前に設けられた停止線の位置にて一旦停止する。図10に示す走行シーンでは、脇道からの出口左側に、駐車車両Apが存在している。駐車車両Apは、自車両Asの物体検出部22の認識範囲SAに死角を生じさせる。
【0048】
この場合、死角判断部51は、自車両Asから見て右方向に進む車線の領域(図10のドット範囲参照)を重点監視範囲MAとして設定すると共に、駐車車両Apによって生じている重点監視範囲MA内の死角領域BSを特定する。さらに死角判断部51は、走行ルートPRへ近接するように、自車両Asの右方向へ向けて直進走行する他車両Acを、仮想の移動物体HOとして死角領域BS内に想定する。そうしたうえで、死角判断部51は、想定した他車両Acの飛び出し可能性を判断する。図10に示す状況では、飛び出し可能性は、「高」であると判断されている。
【0049】
行動判断部52は、可能性低減行動として、車外通信器を用いた通信通知行動を実施させつつ、図11に示す死角低減位置Paへ向けて自車両Asを徐々に前進移動させる。この場合の死角低減位置Paは、駐車車両Apよりも前方(右方向車線側)にはみ出さないような位置に設定される。死角低減位置Paへの移動行動により、駐車車両Apによって生じる死角領域BSの面積は、大きく低減される。その結果、リスクとなる他車両Ac(図10参照)の不存在が確認されるため、死角判断部51にて判断される飛び出し可能性は、「高」から「低」へと遷移する。
【0050】
以上による飛び出し可能性の遷移に基づき、行動判断部52は、ヘッドライトHLによるパッシングの実施後、走行ルートPRに従う走行行動を自車両Asに開始させる。以上により、自車両Asは、幹線道路への合流を果たし、走行車線に沿った直進走行状態に移行する。
【0051】
次に、自車両Asを車線変更させる走行ルートPRが設定されている場合の行動制御処理の詳細を、図12及び図13に基づき、図1を参照しつつ、以下説明する。
【0052】
死角判断部51は、車線変更シーンのための死角判断処(図2 S10,図12参照)において、走行ルートPR及び高精度地図データに基づき、競合車線が存在するか否かを判定する(図12 S211参照)。死角判断部51は、走行ルートPRにおいて自車両Asの車線変更先として設定されている車線を「移動先車線」とし、当該移動先車線への車線変更が可能であり、且つ、自車両Asが現在走行している自車走行車線とは別の車線を「競合車線」とする。例えば、移動先車線を挟んで、自車走行車線の反対側に位置する車線が、競合車線となる。死角判断部51は、競合車線が無い場合、死角領域BSが存在しないと判断する。
【0053】
一方、死角判断部51は、競合車線があると判定した場合、競合車線の領域を重点監視範囲MAとしたうえで、競合車線に生じている死角領域BS(図14参照)を特定する(図12 S212参照)。さらに死角判断部51は、特定した死角領域BSに移動物体HO(図14参照)が存在すると仮定し、移動物体HOが移動先車線に飛び出してくる可能性を判断する(図12 S213参照)。車線変更シーンでの飛び出し可能性の「無」、「低」及び「高」の判断基準は、右左折シーンでの判断基準と実質的に同じである。
【0054】
行動判断部52は、車線変更シーンのための行動判断処理(図2 S20,図13参照)において、車両制御装置40と連携し、走行ルートPRに従った車線変更を自車両Asに実行せる。死角判断部51は、死角判断部51によって死角領域BSが特定されていない場合に、自車両Asに通常の車線変更を実施させる。一方、死角領域BSが特定されている場合、行動判断部52は、死角判断部51での飛び出し可能性の判断結果に基づき、自車両Asの行動を変化させる(図13 S221参照)。死角判断部51による飛び出し可能性の判断結果が「無」である場合、行動判断部52は、死角領域BSが特定されていな場合と同様に、走行ルートPRに従った通常の車線変更を、自車両Asに実施させる(図13 S222参照)。
【0055】
対して、死角判断部51にて飛び出し可能性があると判断されている場合、行動判断部52は、走行ルートPRに従う車線変更を自車両Asに実施させるのに先立ち、可能性低減行動を実施させる。具体的に、行動判断部52は、飛び出し可能性が「高」である場合、自車両Asを加速又は減速させる制御により、競合車線に死角を生じさせている他車両Ab(図15参照)に対する相対的な移動行動を実施させ、当該他車両Abから自車両Asを遠ざける。
【0056】
この場合、行動判断部52は、自車両Asの加減速制御が実施可能であるか否かを判定する(図13 S223参照)。行動判断部52は、加速制御又は減速制御が可能である場合、通信通知行動を車外通信器に実施させたうえで(図13 S224参照)、死角領域BSを減らすための加減速制御を実施させる(図13 S225参照)。一方で、前走車両及び後続車両の存在によって加速制御及び減速制御のいずれも不可能である場合、行動判断部52は、通信通知行動を車外通信器に実施させる(図13 S226参照)。そうしたうえで、行動判断部52は、自車両Asの走行状態を維持させ(図13 S227参照)、他車両Abが遠ざかるのを待機する。
【0057】
一方、行動判断部52は、飛び出し可能性が「低」である場合、又は移動行動(加減速制御)によって飛び出し可能性が「低」に遷移した場合、非通信通知行動を実施させたうえで(図13 S228参照)、車線変更を実施させる(図13 S229参照)。この場合の車線変更は、通常の車線変更よりも横方向の移動速度の上限値を低く設定した車線変更となる。故に、車線変更の開始から完了までに必要となる道路距離は、通常の車線変更を実施する場合よりも長くなる。
【0058】
以上の行動制御処理に基づき、自車両Asが車線変更を行う走行シーンでの状態遷移の具体例を、図14及び図15に基づき、図1を参照しつつ、以下説明する。
【0059】
図14に示す走行シーンにて、自車両Asは、三車線を含む道路の最も左側の車線(以下、「第一車線Ln1」)を走行している。自車両Asには、第一車線Ln1から中央の車線(以下、「第二車線Ln2」)への車線変更を行う走行ルートPRが設定されている。以上の走行シーンでは、第一車線Ln1が自車走行車線となり、第二車線Ln2が移動先車線となる。さらに、最も右側の車線(以下、「第三車線Ln3」)が競合車線となる。そして、第二車線Ln2に存在している他車両Abが、自車両Asの物体検出部22の認識範囲SAに死角を生じさせている。
【0060】
死角判断部51は、第三車線Ln3の領域(図14のドット範囲参照)を重点監視範囲MAとして設定し、重点監視範囲MAの一部を含むように、他車両Abに起因する死角領域BSを特定する。さらに死角判断部51は、第二車線Ln2へ向けて車線変更を試みる競合車両Alcを、仮想の移動物体HOとして死角領域BS内に想定する。そうしたうえで、死角判断部51は、想定した競合車両Alcの飛び出し可能性を判断する。図14に示す状況では、飛び出し可能性は、「高」であると判断されている。
【0061】
行動判断部52は、可能性低減行動として、車外通信器を用いた通信通知行動を実施させつつ、図15に示す死角低減位置Paへ向けて相対移動するように、自車両Asの走行速度を制御し、自車両Asを他車両Abから離間させる。死角低減位置Paは、例えば他車両Abから後方に所定距離だけ離れた位置に設定される。
【0062】
こうした移動行動の結果、認識範囲SAにおける死角領域BSの減少により、競合車両Alc(図14参照)の不存在が確認される。故に、死角判断部51にて判断される飛び出し可能性が「高」から「低」へと遷移し、行動判断部52は、パッシング等の非通信通知行動を実施したうえで、通常よりも横方向の移動速度を抑えた車線変更を開始させる。以上により、自車両Asは、第二車線Ln2への車線変更を果たし、第二車線Ln2に沿った直進走行状態に移行する。
【0063】
ここまで説明した本実施形態では、走行ルートPRに対して車外情報認識装置20の死角領域BSが存在し、この死角領域BSからの移動物体HOの飛び出し可能性がある場合、可能性低減行動が、走行行動に先立って実施される。こうした可能性低減行動の実施によれば、死角領域BSから走行ルートPRへの移動物体HOの飛び出し可能性が低くなった状態で、自車両Asは、走行行動を開始し得る。その結果、右左折又は車線変更を含む走行ルートPRに対し死角領域BSが存在する場合でも、走行ルートPRに従う走行行動を自車両Asに継続させることが可能となる。
【0064】
加えて本実施形態では、死角領域BSの面積が広いほど飛び出し可能性が高いと判断される。このように、死角領域BSの面積が広いほど、移動物体HOの存在する確率が高くなり、ひいては移動物体HOが走行ルートPRへ向けて飛び出して来る確率も、高くなり得る。故に、死角領域BSの面積を用いて飛び出し可能性を見積もれば、自動運転ECU100は、走行行動を慎重に行うべき飛び出し可能性の高い状況を、取得可能な情報に基づき、精度良く特定できる。
【0065】
また本実施形態では、死角領域BSの面積が狭くなる死角低減位置Paへ向けて自車両Asを移動させる移動行動が、可能性低減行動として実施される。以上によれば、自車両Asは、死角領域BSを十分に減らして、高リスクな移動物体HOが死角領域BSに存在しないことを確認したうえで、右左折及び車線変更等の走行行動を実施できる。
【0066】
さらに本実施形態の行動判断部52は、移動行動による死角領域BSの低減効果が十分に得られなかった場合、信号機の切り替わりを待機する。以上によれば、不要なリスクを取ることなく、自律走行による交差点の通過が可能になる。加えて、信号機が黄色又は赤色に切り替わるタイミングで、行動判断部52は、ドライバが運転するのと同様に、右折行動を再開させることができる。
【0067】
さらに本実施形態では、死角領域BSの移動物体HOに対し想定移動速度を想定し、この想定移動速度が高いほど飛び出し可能性が高いと判断される。このように、死角領域BSからの飛び出し速度が高くなるほど、移動物体HOの自車両Asに対するリスクは高くなる。故に、移動物体HOの想定移動速度を用いて飛び出し可能性を見積もれば、自動運転ECU100は、走行行動を慎重に行うべき飛び出し可能性の高い状況を、取得可能な情報から精度良く特定できる。
【0068】
加えて本実施形態では、飛び出し可能性の高さに応じて、可能性低減行動の内容が変更される。以上によれば、飛び出し可能性の高い状況では、可能性低減行動の入念な実施により、死角領域BSのリスクを十分に低減させた状態で、自車両Asの走行行動が開始され得る。一方で、飛び出し可能性の比較的低い状況では、可能性低減行動を簡素化して、自車両Asの走行行動を円滑に継続させることが可能となる。
【0069】
また本実施形態では、可能性低減行動として実施される通知行動により、走行ルートPRに従う走行行動の開始が自車両Asの周囲に通知される。こうした通知行動によれば、自車両Asにて実施される走行行動が、死角領域BS内の移動物体HO、例えば歩行者及びドライバに予め認識され得る。以上によれば、死角領域BSが存在していても、自車両Asの走行行動中に死角領域BSから移動物体HOが飛び出してくるリスクは、いっそう低減され得る。
【0070】
さらに本実施形態では、無線通信を用いた通信通知行動と、無線通信とは異なる手段を用いた非通信通知行動とが、通知行動として実施可能とされている。通信通知行動は、非通信通知行動ほど煩わしく感じられ難い一方で、非通信通知行動よりも認識される確実性が低くなる。故に、通信通知行動及び非通信通知行動を使い分けることにより、飛び出し可能性の高さに応じた内容の可能性低減行動が適切に実施され易くなる。
【0071】
加えて本実施形態では、走行ルートPRに従う走行行動の実施の結果、死角領域BSに存在すると仮定した移動物体HOに減速を強いる場合、死角判断部51は、飛び出し可能性を「高」と判断する。この場合、行動判断部52は、自車両Asに走行行動を制限する。対して、死角領域BS仮定した移動物体HOに減速を強いることなく、走行ルートPRに従う走行行動を実施可能な場合に、死角判断部51は、飛び出し可能性が「低」であると判断する。この場合、行動判断部52は、走行行動の開始を許可する。こうした飛び出し可能性の判断基準であれば、死角領域BSの存在する状況下での自車両Asの走行行動は、周囲にとってのリスクとなり難いだけでなく、迷惑な行為として認識されることもなくなり得る。そして自車両Asは、周囲にとって移動物体HOにとっての障害と感じられることなく、走行行動を完遂可能となる。
【0072】
また本実施形態では、飛び出し可能性が「高」と判断されている場合、例えばパッシング等の非通信通知行動は、中止される。以上によれば、煩わしい可能性低減行動の実施により、走行行動を強引な継続を試みているような印象を周囲に与えて、自車両Asが周囲に迷惑と感じられ易くなることも、回避され得る。
【0073】
尚、上記実施形態では、処理部11が「プロセッサ」に相当し、車外情報認識装置20が「環境認識部」に相当し、自動運転ECU100が「行動制御装置」に相当する。
【0074】
(他の実施形態)
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0075】
上記実施形態では、重点監視範囲MA及び死角領域BSを車道上に設定したうえで、移動物体HOとして他車両を仮定する場合の具体例を説明した。しかし、死角判断部51は、横断歩道を含む歩道上及び自転車専用道路上に、死角領域BSを設定できる。死角判断部51は、死角領域BSを設定した領域に応じて、移動物体HOの種別及び想定移動速度を設定する。例えば死角判断部51は、移動物体HOの種別を歩行者又はサイクリストに仮定した場合、それぞれの種別に対応する所定の想定移動速度を設定し、これら移動物体HOについての飛び出し可能性を判断する。
【0076】
上記実施形態の変形例1では、移動行動及び通知行動のうちで、移動行動のみが可能性低減行動として実施される。変形例1では、死角低減位置Paへの移動行動を必要に応じて実施したうえで、飛び出し可能性の「低」の判断に基づき、走行行動を開始する。一方、上記実施形態の変形例2では、移動行動及び通知行動のうちで、通知行動のみが可能性低減行動として実施される。変形例2では、走行行動の開始を周囲へ通知したうえで、通常よりも低速で走行動向を開始する。
【0077】
変形例2では、非通信系通知行動として、音及び光が併用される。具体的に、非通信通知行動として、警告音及び「右折します」等のメッセージ音声が、車外スピーカによって再生される。さらに変形例2では、パトランプのような回転灯(警告灯)を作動させる行動が、非通信通知行動として実施される。
【0078】
上記実施形態の変形例3では、通信通知行動及び非通信通知行動の使い分けの方法が上記実施形態とは異なっている。変形例3では、通信通知行動及び非通信通知行動が常に併用される。尚、通信通知行動及び非通信通知行動のうちで、通信通知行動のみが実施されてもよく、又は非通信通知行動のみが実施されてもよい。
【0079】
上記実施形態の変形例4の死角判断部51は、飛び出し可能性を「有」及び「無」のいずれかに設定する。変形例4の行動判断部52は、飛び出し可能性の「有」判断に基づき、可能性低減行動を実施する。また上記実施形態の変形例5の死角判断部51は、飛び出し可能性を、例えばレベル1~5といった数値で設定する。変形例5の行動判断部52は、死角判断部51にて判断されたレベルに対応する可能性低減行動を実施する。飛び出し可能性レベルの数値が高いほど、可能性低減に効果的のある行動が実行される。
【0080】
上記実施形態の変形例6では、死角領域BSの広さ、想定移動速度以外の情報が、飛び出し可能性のレベルの判断に用いられる。例えば、走行ルートPRが設定された場所における蓄積情報、例えば交通量及び事故の履歴情報等が、飛び出し可能性の判断に用いられる。加えて、死角領域BSの広さ及び想定移動速度等を入力情報とする判定器が、飛び出し可能性の高さの判断に用いられてよい。判定器は、例えば機械学習等により予め生成され、自動運転ECU100に記憶されている。
【0081】
上記実施形態の変形例7では、死角判断部51による飛び出し可能性判断での「高」及び「低」を切り分ける閾値が、上記実施形態とは異なっている。具体的に、変形例7の死角判断部51は、死角領域BSに移動物体HOが実際に存在していても、自車両Asに過度に接近しないような場合には、移動物体HOに減速を強いる場合でも、飛び出し可能性が「低」であると判断する。以上の判断基準の設定によれば、交通の円滑化が図られ得る。
【0082】
上記実施形態の変形例8では、飛び出し可能性の判断結果が「低」である場合の走行動向の内容が、上記実施形態と異なっている。変形例8では、飛び出し可能性の判断結果が「低」である場合でも、行動判断部52は、死角領域BSが無い場合と同様に通常の走行行動を実施する。さらに、上記実施形態の変形例9の行動判断部52は、飛び出し可能性の判断結果が「低」である場合、右左折時にて、対向車線を横切る速度の上限を通常よりも高く設定可能としている。
【0083】
上記実施形態の変形例10の車外情報認識装置20は、スマートフォン等のユーザ端末と、有線又は無線にて通信可能である。ユーザ端末にて実行されるアプリケーションには、ドライバ等のユーザ操作により、目的地までの経路が設定される。ユーザ端末は、目的地までの経路情報及び関連する高精度地図データ等を、車外情報認識装置20を通じて自動運転ECU100に提供可能である。以上の変形例10のように、自動運転ECU100は、スマートフォン又はクラウドサーバ等から、自律走行に必要な情報を取得してもよい。
【0084】
自動運転ECU100は、車外情報認識装置20、車外通知装置30及び車両制御装置40のいずれか一つ又は複数の機能を含む構成であってよい。さらに、死角判断部51及び行動判断部52は、車外情報認識装置20、車外通知装置30及び車両制御装置40のいずれかに実装された機能部であってもよく、それぞれ別のECUに設けられた機能部であってもよい。
【0085】
上記実施形態にて、自動運転ECUによって提供されていた各機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。また、車外情報認識装置20による認識範囲SAは、物体検出部22として車載されるセンサ群の性能により、適宜変更されてよい。
【0086】
また、上記の行動制御方法を実現するプログラム等を記憶する記憶媒体の形態も、適宜変更されてよい。例えば記憶媒体は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、センタ装置の制御回路に電気的に接続される構成であってよい。さらに、記憶媒体は、センタ装置へのプログラムのコピー基となる光学ディスク及びのハードディスクドライブ等であってもよい。
【0087】
自動運転ECUを搭載する車両は、一般的な自家用の乗用車に限定されず、レンタカー用の車両、有人タクシー用の車両、ライドシェア用の車両、貨物車両及びバス等であってもよい。さらに、モビリティサービスに用いられる無人運転専用の車両に、自動運転ECUが搭載されてもよい。さらに、自動運転ECUを搭載する車両は、右ハンドル車両であってもよく、又は左ハンドル車両であってもよい。こうしたハンドル位置、換言すれば、左側通行であるのか右側通行であるのかという交通規則に従い、車両の走行行動は、最適化されてよい。
【0088】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0089】
As 車両,自車両、HO 移動物体、BS 死角領域、PR 走行ルート、Pa 死角低減位置、11 処理部(プロセッサ)、20 車外情報認識装置(環境認識部)、51 死角判断部、52 行動判断部、100 自動運転ECU(行動制御装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15