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  • 特許-ゴム組成物及びホース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20221122BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20221122BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L23/16
C08K3/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019035610
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139051
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】河合 雅拓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 壮二郎
(72)【発明者】
【氏名】岸 亮太
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-003395(JP,A)
【文献】特開2009-007398(JP,A)
【文献】米国特許第04153589(US,A)
【文献】米国特許第06686410(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0107312(US,A1)
【文献】特開2003-119320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
F16L11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム100質量部と、カーボンブラック60~80質量部と、瀝青炭粉砕物40~100質量部とを含有し、
体積固有抵抗が5.0×10Ω・cm以上であり、比重が1.130以下であり、10%引張応力M10が0.30MPa以上であり、ホース成形用であるゴム組成物。
【請求項2】
エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム100質量部と、カーボンブラック60~80質量部と、瀝青炭粉砕物40~100質量部とを含有し、
体積固有抵抗が5.0×10 Ω・cm以上であり、比重が1.130以下であり、10%引張応力M 10 が0.30MPa以上であるゴム組成物からなるホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれからなるホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられるゴムホース(例えばラジエータホース等の水系ホース)には、高体積固有抵抗と軽量性と剛性とが求められる。高体積固有抵抗であることにより、ホースと接触する金属部品の電食が少なくなり、ホース自身の電気化学的劣化も少なくなる。軽量性は、近年強く要請される自動車の軽量化に寄与するためである。剛性は、ホースとして必要な剛性である。
【0003】
体積固有抵抗を高くするためには、ゴムに補強材として一般的に添加されているカーボンブラックを減量する必要がある。カーボンブラックは、グラファイト型構造の炭素六角形の網目の層が複数重なり、これが鎖状に連なった構造(ストラクチャー)をしており、導電性が高いからである。しかし、カーボンブラックを減量すると、背反として剛性が低下する。減量以外にも、カーボンブラック自体を検討し、粒子径が大きくストラクチャーも大きいカーボンブラックを用いて電気抵抗を高くすることが提案されているが(特許文献1)、そのようなカーボンブラックは高コストである。
【0004】
そこで、カーボンブラックを減量したうえで、剛性を向上させるために、非導電性のフィラーの添加が行われる(カーボンブラック体積分率の低減と、フィラー体積分率の増加)。添加する非導電性のフィラーとして、次のものが知られている。
・タルク、炭酸カルシウム等の白色フィラー(特許文献2,3)。しかし、白色フィラーは、カーボンブラックよりも高比重であるから、軽量化どころか、重量増加を招く。
・フライアッシュ等の中空フィラー(特許文献4)。中空フィラーは、カーボンブラックよりも低比重であるから、剛性の向上に加えて、軽量化も期待できる。しかし、中空フィラーのうち通常グレード品は混練・加工時に中空が破壊されて十分に軽量にならず、耐圧グレード品は中空が破壊されにくいが高コストである。
【0005】
その他、軽量化のために、エチレンオクテンなどの樹脂を添加するものもあるが(特許文献5)、加工時に樹脂の溶融温度に到達することにより、寸法安定性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-317956号公報
【文献】特開平6-210798号公報
【文献】特開平10-180941号公報
【文献】特闘2005-239776号公報
【文献】特開2012-72291号公報
【文献】特開平5-43755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、従来において、ホースの高体積固有抵抗と軽量性と剛性とを低コストで満たす手段はなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ゴム組成物及びそれからなるホースの高体積固有抵抗と軽量性と剛性とを低コストで満たすことにある。
【0009】
なお、特許文献6のように、タイヤにおいては、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム等)にカーボンブラックと瀝青炭粉砕物とを配合することが知られている。しかし、瀝青炭粉砕物を配合する目的は、ゴムのヒステリシスロスを低減して、タイヤの転がり抵抗を低減するというものであり、体積固有抵抗を高くするという目的は無い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明のゴム組成物は、エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム100質量部と、カーボンブラック60~80質量部と、瀝青炭粉砕物40~100質量部とを含有し、
体積固有抵抗が5.0×10Ω・cm以上であり、比重が1.130以下であり、10%引張応力M10が0.30MPa以上であり、ホース成形用であるゴム組成物である。
[2]本発明のホースは、エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム100質量部と、カーボンブラック60~80質量部と、瀝青炭粉砕物40~100質量部とを含有し、
体積固有抵抗が5.0×10 Ω・cm以上であり、比重が1.130以下であり、10%引張応力M 10 が0.30MPa以上であるゴム組成物からなるホースである。
【0011】
[作用]
瀝青炭粉砕物は、石炭の一種で高品位炭と呼ばれる瀝青炭(JIS M1002の石炭分類でB1、B2、C)を粉砕したものである。瀝青炭は、炭素をはっきりした結晶状態を示さない無定形炭素(厳密にはグラファイトの微細結晶を含む)として含み、他に硫黄、コールタール、ピッチ等の成分を含むものであるから、それを粉砕してなる瀝青炭粉砕物は導電性がきわめて低い(ほぼ絶縁性)。
また、瀝青炭粉砕物は、白色フィラーよりも顕著に低比重であり、カーボンブラックよりも低比重である。
よって、カーボンブラックを60~80質量部と減量し、瀝青炭粉砕物を40~100質量部添加すると、同一質量部の白色フィラーを添加した場合と比較して、効率的にフィラー体積分率を増加させ、相対的にカーボンブラック体積分率を低減させて、高体積固有抵抗とすることができるとともに、軽量化することができる。
【0012】
また、瀝青炭粉砕物は、炭素を含んでいるから、エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムとのなじみが良好であるので、同ゴムを補強できる。また、瀝青炭粉砕物は、オイル分を含んでいるため同ゴム中への分散性が良好であり、強度の低下の原因となる凝集塊を生じにくい。しかも、瀝青炭粉砕物は、板状フィラーであって相互作用が大きいため、ゴムを効率的に補強でき、カーボンブラックの減量による剛性低下を補って、十分な剛性を保つことができる。
【0013】
カーボンブラックが60質量部よりも少ないと、剛性が低下し、カーボンブラックが80質量部よりも多いと、体積固有抵抗が低下する。
瀝青炭粉砕物が40質量部よりも少ないと、体積固有抵抗及び/又は剛性が低下し、瀝青炭粉砕物が100質量部よりも多いと、破断強度が低下する。
【0014】
以上に基づき、体積固有抵抗が5.0×10Ω・cm以上であり、比重が1.130以下であり、10%引張応力M10が0.30MPa以上であるゴム組成物とすることにより、高体積固有抵抗と軽量性と剛性とを満たすことができる。また、瀝青炭粉砕物は安価に入手可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ゴム組成物及びそれからなるホースの高体積固有抵抗と軽量性と剛性とを低コストで満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は試料番号1、11~13、21、22の比重と体積固有抵抗との関係を示すグラフ図である。
図2図2は試料番号1、11~13、21、22の比重とM10との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.エチレン・αオレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム
αオレフィンとしては、特に限定されないが、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等を例示でき、このなかでプロピレン又は1-ブテンが好ましく、特にプロピレンが好ましい。
非共役ジエンとしては、特に限定されないが、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン等を例示できる。
【0018】
2.カーボンブラック
カーボンブラックとしては、特に限定されず、一般的に知られているもの(市販品等)を適宜適用することができ、SRF、GPF、FEF、MAF、HAF、ISAF、SAF、FT、MT等を例示できる。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、特に限定されず、例えば12~148m/gのものを用いることができ、、好ましくは27~49m/gのものを用いることができる。る。窒素吸着比表面積はJIS K6217-7にて求められるものである。
【0019】
3.瀝青炭粉砕物
瀝青炭粉砕物の配合量は、45~100質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましい。
瀝青炭粉砕物の平均粒径は、特に限定されず、例えば0.01~100μmのものを用いることができ、好ましくは0.05~20μmのものを用いることができる。平均粒径はレーザー回折法(日機装社の装置名「マイクロトラックSPA150」)にて求められるものである。
瀝青炭粉砕物の比重は、1.6以下であり、好ましくは1.4以下のものを用いることができる。比重は、瀝青炭粉砕物をゲーリュサック型ピクノメーターに量りこみ、少量のベンゼンで浸漬してから、0.2~0.7kPaの真空下で気泡が出なくなるまで減圧脱気し、ピクノメーターにベンゼンを満たして30℃の恒温槽中に30分保持した後、秤量し求められるものである。
【実施例
【0020】
組成物全体の配合を表1に示し、表1中の変量成分の配合を表2に示すとおりの、試料番号1~22のゴム組成物を調製した。配合量は、質量部で表し、ゴムポリマー100質量部に対する配合量である。
使用したゴムポリマーは、EPDM(エチレン-プロピレン-非共役ジエンゴム)である。
使用した瀝青炭粉砕物は、比重1.3~1.4、平均粒子径5.1μm、比表面積9m/g、板状粒子、絶縁性のものである。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
試料番号1~22の各ゴム組成物は、混練機により混練した後、シート状に成形し、160℃で15分加熱して架橋した。架橋後の各ゴム組成物について、次の常態物性(常温)と体積固有抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
・JIS K6253に準拠しタイプAデュロメータを用いて硬さ試験を行い、硬さHを測定した。
・JIS K6251に準じた引張試験(試験片はダンベル状5号形、引張速度は500mm/分)を行い、引張強さT、伸びE、10%引張応力M10、100%引張応力M100を測定した。
・比重を測定した。
・JIS K6271-1に準拠し、二重リング電極法により印加電圧1V、荷重4kgで体積固有抵抗値を測定した。試料はエタノールで表面を拭き、24時間標準状態で保管したものを使用した。
【0024】
試料番号3~5、7~8、11~13は、カーボンブラックを60~80質量部とし、フィラーとして瀝青炭粉砕物を50~100質量部配合した水準であり、いずれも「体積固有抵抗5.0×10Ω・cm以上、比重1.130以下、M10が0.30MPa以上」という特性を満たしており、実施例1~9として位置付けられる。すなわち、
試料番号3のように、カーボンブラック60質量部であっても、瀝青炭粉砕物を50質量部配合したことにより、M10が0.3MPa以上となっている。
試料番号11のように、カーボンブラック80質量部であっても、瀝青炭粉砕物を50質量部配合したことにより、体積固有抵抗が5.0×10Ω・cm以上となっている。
試料番号13のように、カーボンブラック80質量部、瀝青炭粉砕物100質量部という高充填配合であっても、比重は1.130以下となっている。
【0025】
これに対して、試料番号1は、カーボンブラックを80質量部とし、フィラーを配合していない水準であり、体積固有抵抗が低く、剛性も不足する。
試料番号2、6、10は、カーボンブラックを60~80質量部とし、フィラーとして瀝青炭粉砕物を35質量部配合した水準であるが、瀝青炭粉砕物が少なすぎることにより、試料番号2、6はM10が低く、試料番号10は体積固有抵抗が高い。
試料番号14~16は、カーボンブラックを90質量部とし、瀝青炭粉砕物を50~100質量部配合した水準であるが、カーボンブラックが多すぎることにより、体積固有抵抗が高く、試料番号7は比重も大きい。
試料番号17~22は、カーボンブラックを60~80質量部とし、フィラーとしてハードクレー又は炭酸カルシウムを配合した水準であるが、比重が大きい。
よって、試料番号1、2、6、10、14~22は、比較例として位置付けられる。
【0026】
試料番号1、11~13、21,22(いずれもカーボンブラック80質量部)について、図1に比重と体積固有抵抗との関係を示し、図2に比重とM10との関係を示す。ハードクレーを配合したものと比べて、瀝青炭粉砕物を配合したものは、低比重でありながら、高い体積固有抵抗と高いM10とが得られることがよく分かる。
【0027】
実施例の各ゴム組成物を用いて、ラジエータホースを成形することができた。ラジエータホース以外のホースや、ホース以外のゴム製品を成形することもできる。
【0028】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
図1
図2