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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20221122BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20221122BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20221122BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01F17/00 B
H01F17/06 F
H01F41/04 C
H01F41/02 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019050195
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020155480
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】竹内 拓也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 延也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直明
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103357(JP,A)
【文献】特開2013-251541(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/06
H01F 41/04
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の磁性素体と、
前記第1の磁性素体と前記第2の磁性素体の間に位置する絶縁膜と、
前記第2の磁性素体に埋め込まれ、スパイラル状に巻回されたコイルパターンと、を備え、
前記絶縁膜は、コイル軸方向から見て前記コイルパターンの内径領域と重なる部分の厚みが局所的に薄いことを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記絶縁膜は、前記第1の磁性素体と接する第1の表面と、前記第2の磁性素体と接する第2の表面を有し、
前記第1の表面には、前記コイル軸方向から見て前記コイルパターンの前記内径領域と重なる部分に凹部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1の磁性素体と前記第2の磁性素体は、前記コイルパターンの外側領域において接していることを特徴とする請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
第1の領域よりも前記第1の領域に囲まれた第2の領域の厚みが薄い絶縁膜を形成する第1の工程と、
前記絶縁膜の前記第2の領域が内径領域と重なるよう、前記絶縁膜の第1の領域上にスパイラル状に巻回されたコイルパターンを形成する第2の工程と、
前記絶縁膜を埋め込む第1の磁性素体と、前記コイルパターンを埋め込む第2の磁性素体を形成する第3の工程と、を備えることを特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、突起部を有する支持体に前記絶縁膜をラミネートする工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル部品及びその製造方法に関し、特に、平面スパイラル状のコイルパターンが磁性素体で覆われた構造を有するコイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイラル状のコイルパターンを有するチップ型のコイル部品は、インダクタンスを高めるため、磁性素体で覆われることがある。例えば、特許文献1及び2には、スパイラル状のコイルパターンが磁性素体で覆われた構造を有するコイル部品が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載されたコイル部品は、積層された複数のコイルパターン間に磁気ギャップ層を設けた構造を有している。一方、特許文献2に記載されたコイル部品は、コイルパターンの内径領域と重なる位置において絶縁膜が除去され、これにより、コイルパターンの内径領域と重なる位置において上下の磁性素体が接触する構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/007705号パンフレット
【文献】特開2017-11185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたコイル部品は、磁気ギャップ層の厚みを厚くすると、インダクタンスが低下するという問題があった。一方、特許文献2に記載されたコイル部品は、磁気ギャップが存在しないことから磁気飽和しやすいという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、スパイラル状のコイルパターンが磁性素体で覆われた構造を有するコイル部品において、インダクタンスと磁気飽和特性のバランスを確保することを目的とする。また、本発明は、このようなコイル部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるコイル部品は、第1及び第2の磁性素体と、第1の磁性素体と第2の磁性素体の間に位置する絶縁膜と、第2の磁性素体に埋め込まれ、スパイラル状に巻回されたコイルパターンとを備え、絶縁膜は、コイル軸方向から見てコイルパターンの内径領域と重なる部分の厚みが局所的に薄いことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、コイルパターンの内径領域と重なる部分において絶縁膜の厚みが局所的に薄いことから、厚さの比較的厚い絶縁膜を使用する場合であっても、インダクタンスと磁気飽和特性のバランスを確保することが可能となる。
【0009】
本発明において、絶縁膜は、第1の磁性素体と接する第1の表面と、第2の磁性素体と接する第2の表面を有し、第1の表面には、コイル軸方向から見てコイルパターンの内径領域と重なる部分に凹部が設けられていても構わない。これによれば、絶縁膜と第1の磁性素体の接触面積が増大することから、絶縁膜と第1の磁性素体の界面における剥離が生じにくくなる。
【0010】
本発明において、第1の磁性素体と第2の磁性素体は、コイルパターンの外側領域において接していても構わない。これによれば、コイルパターンの外側領域における磁気抵抗を小さくすることができる。
【0011】
本発明によるコイル部品の製造方法は、第1の領域よりも第1の領域に囲まれた第2の領域の厚みが薄い絶縁膜を形成する第1の工程と、絶縁膜の第2の領域が内径領域と重なるよう、絶縁膜の第1の領域上にスパイラル状に巻回されたコイルパターンを形成する第2の工程と、絶縁膜を埋め込む第1の磁性素体とコイルパターンを埋め込む第2の磁性素体を形成する第3の工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、コイルパターンの内径領域と重なる部分において絶縁膜の厚みが局所的に薄い構造を得ることが可能となる。
【0013】
本発明において、第1の工程は、突起部を有する支持体に絶縁膜をラミネートする工程を含むものであっても構わない。これによれば、支持体の突起部の形状を絶縁膜に転写することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、スパイラル状のコイルパターンが磁性素体で覆われた構造を有するコイル部品において、インダクタンスと磁気飽和特性のバランスを確保することが可能となる。また、本発明によれば、このようなコイル部品の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1の実施形態によるコイル部品1の外観を示す略斜視図である。
図2図2は、コイル部品1を回路基板80に実装した状態を示す側面図であり、積層方向から見た図である。
図3図3は、コイル部品1の断面図であり、外部端子E1,E2が現れる断面を示している。
図4図4は、コイル部品1の断面図であり、外部端子E1,E2が現れない断面を示している。
図5図5(a)~(c)は、絶縁膜51の形状のいくつかのバリエーションを示す略断面図である。
図6図6は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図7図7は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図8図8は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図9図9は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図10図10は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図11図11は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図12図12は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図13図13は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図14図14は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図15図15は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図16図16は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図17図17は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図18図18は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図19図19は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図20図20は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図21図21は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図22図22は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図23図23は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図24図24は、導体層10のパターン形状を示す平面図である。
図25図25は、絶縁膜52のパターン形状を示す平面図である。
図26図26は、導体層20のパターン形状を示す平面図である。
図27図27は、絶縁膜53のパターン形状を示す平面図である。
図28図28は、導体層30のパターン形状を示す平面図である。
図29図29は、絶縁膜54のパターン形状を示す平面図である。
図30図30は、導体層40のパターン形状を示す平面図である。
図31図31は、絶縁膜55のパターン形状を示す平面図である。
図32図32は、絶縁膜51のパターン形状を示す平面図である。
図33図33は、本発明の第2の実施形態によるコイル部品1Aの断面図である。
図34図34は、本発明の第3の実施形態によるコイル部品1Bの断面図である。
図35図35は、本発明の第4の実施形態によるコイル部品1Cの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態によるコイル部品1の外観を示す略斜視図である。
【0018】
本発明の第1の実施形態によるコイル部品1は電源回路用のインダクタとして用いることが好適な表面実装型のチップ部品であり、図1に示すように、第1及び第2の磁性素体M1,M2と、第1及び第2の磁性素体M1,M2に埋め込まれたコイル部Cとを備える。コイル部Cの構成については後述するが、本実施形態においてはスパイラル状のコイルパターンを有する導体層が4層積層され、これによって1つのコイル導体が形成される。そして、コイル導体の一端が第1の外部端子E1に接続され、コイル導体の他端が第2の外部端子E2に接続される。
【0019】
磁性素体M1,M2は、鉄(Fe)やパーマロイ系材料などからなる金属磁性粉を含有する樹脂からなる複合部材であり、コイルに電流を流すことによって生じる磁束の磁路を構成する。樹脂としては、液状又は粉体のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。磁性素体M1を構成する材料と磁性素体M2を構成する材料は、互いに同じであっても構わないし、互いに異なっていても構わない。
【0020】
本実施形態によるコイル部品1は、一般的な積層コイル部品とは異なり、積層方向であるz方向が回路基板と平行となるよう立てて実装される。具体的には、xz面を構成する磁性素体M1,M2の表面2が実装面として用いられる。そして、表面2には、第1の外部端子E1及び第2の外部端子E2が設けられる。第1の外部端子E1は、コイル部Cに形成されるコイル導体の一端が接続される端子であり、第2の外部端子E2は、コイル部Cに形成されるコイル導体の他端が接続される端子である。
【0021】
図1に示すように、第1の外部端子E1は、表面2からyz面を構成する表面3に亘って連続的に形成され、第2の外部端子E2は、表面2からyz面を構成する表面4に亘って連続的に形成される。外部端子E1,E2は、コイル部Cに含まれる電極パターンの露出面に形成されたニッケル(Ni)とスズ(Sn)の積層膜によって構成される。
【0022】
図2は、本実施形態によるコイル部品1を回路基板80に実装した状態を示す側面図であり、積層方向から見た図である。
【0023】
図2に示すように、本実施形態によるコイル部品1は、回路基板80に立てて実装される。具体的には、磁性素体M1,M2の表面2が回路基板80の実装面と対向するよう、つまり、コイル部品1の積層方向であるz方向が回路基板80の実装面と平行となるよう、実装される。
【0024】
回路基板80にはランドパターン81,82が設けられており、これらランドパターン81,82にコイル部品1の外部端子E1,E2がそれぞれ接続される。ランドパターン81,82と外部端子E1,E2との電気的・機械的接続は、ハンダ83によって行われる。外部端子E1,E2のうち、コイル部品1の表面3,4に形成された部分には、ハンダ83のフィレットが形成される。外部端子E1,E2はニッケル(Ni)とスズ(Sn)の積層膜からなり、これによりハンダの濡れ性が高められている。
【0025】
図3及び図4は本実施形態によるコイル部品1の断面図であり、図3は外部端子E1,E2が現れる断面を示し、図4は外部端子E1,E2が現れない断面を示している。
【0026】
図3及び図4に示すように、コイル部品1に含まれるコイル部Cは、2つの磁性素体M1,M2に埋め込まれており、絶縁膜51~55と導体層10,20,30,40が交互に積層された構成を有している。導体層10,20,30,40はそれぞれスパイラル状のコイルパターンCP1~CP4を有しており、コイルパターンCP1~CP4の上面又は下面が絶縁膜51~55で覆われている。コイルパターンCP1~CP4の側面は、それぞれ層内絶縁パターン61~64で覆われている。ここで、コイルパターンCP1~CP4の上面及び下面とは、コイル軸に対して垂直な面を指し、コイルパターンCP1~CP4の側面とは、コイル軸に対して水平な面を指す。
【0027】
コイルパターンCP1~CP4は、絶縁膜52~54に形成されたスルーホールを介して互いに接続されることにより、コイル導体を構成している。導体層10,20,30,40の材料としては、銅(Cu)を用いることが好ましい。コイルパターンCP1~CP4の内径領域及び外側領域にも、磁性素体M2が埋め込まれている。絶縁膜51~55のうち、少なくとも絶縁膜52~54については非磁性材料が用いられる。最下層に位置する絶縁膜51及び最上層に位置する絶縁膜55については、磁性材料を用いても構わない。
【0028】
導体層10は、磁性素体M1の上面に絶縁膜51を介して形成された1層目の導体層である。導体層10には、スパイラル状に1ターン巻回されたコイルパターンCP1と、2つの電極パターン11,12が設けられている。コイルパターンCP1の側面は、層内絶縁パターン61によって覆われている。図3に示すように、所定の断面においては、コイルパターンCP1と電極パターン11が接続されている。これに対し、電極パターン12はコイルパターンCP1とは独立して設けられている。電極パターン11は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E1が形成されている。また、電極パターン12は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E2が形成されている。
【0029】
導体層20は、導体層10の上面に絶縁膜52を介して形成された2層目の導体層である。導体層20には、スパイラル状に1ターン巻回されたコイルパターンCP2と、2つの電極パターン21,22が設けられている。コイルパターンCP2の側面は、層内絶縁パターン62によって覆われている。電極パターン21,22は、いずれもコイルパターンCP2とは独立して設けられている。電極パターン21は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E1が形成されている。また、電極パターン22は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E2が形成されている。
【0030】
導体層30は、導体層20の上面に絶縁膜53を介して形成された3層目の導体層である。導体層30には、スパイラル状に1ターン巻回されたコイルパターンCP3と、2つの電極パターン31,32が設けられている。コイルパターンCP3の側面は、層内絶縁パターン63によって覆われている。電極パターン31,32は、いずれもコイルパターンCP3とは独立して設けられている。電極パターン31は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E1が形成されている。また、電極パターン32は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E2が形成されている。
【0031】
導体層40は、導体層30の上面に絶縁膜54を介して形成された4層目の導体層である。導体層40には、スパイラル状に1ターン巻回されたコイルパターンCP4と、2つの電極パターン41,42が設けられている。コイルパターンCP4の側面は、層内絶縁パターン64によって覆われている。図3に示すように、所定の断面においては、コイルパターンCP4と電極パターン42が接続されている。これに対し、電極パターン41はコイルパターンCP4とは独立して設けられている。電極パターン41は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E1が形成されている。また、電極パターン42は、コイル部Cから露出しており、その表面には外部端子E2が形成されている。
【0032】
そして、コイルパターンCP1~CP4は、絶縁膜52~54を貫通して設けられた図示しないビア導体を介して接続される。これにより、コイルパターンCP1~CP4によって4ターンのコイル導体が形成され、その一端が外部端子E1に接続され、他端が外部端子E2に接続された構成となる。
【0033】
本実施形態によるコイル部品1は、絶縁膜51が磁性素体M1に埋め込まれた構造を有する。その他の内部要素、つまり、導体層10,20,30,40、絶縁膜52~55、並びに、層内絶縁パターン61~64については、磁性素体M2に埋め込まれている。さらに、絶縁膜51は、平面視でコイルパターンCP1~CP4と重なる第1の領域51と、第1の領域51に囲まれ、平面視でコイルパターンCP1~CP4の内径領域と重なる第2の領域51を有しており、第1の領域51よりも第2の領域51の方が厚さが薄くなっている。また、磁性素体M1の上面のうち、絶縁膜51と接しない部分は、磁性素体M2と接している。つまり、平面視で、コイルパターンCP1~CP4の外側領域においては、磁性素体M1と磁性素体M2が接しており、これにより、コイルパターンCP1~CP4の外側領域における磁気抵抗が低減されている。
【0034】
このように、本実施形態においては、平面視でコイルパターンCP1~CP4の内径領域と重なる部分において絶縁膜51の厚みが局所的に薄いことから、磁気ギャップの厚みを絶縁膜51の本来の厚みよりも薄くすることができる。これにより、絶縁膜51の本来の厚みが厚い場合や、絶縁膜51を全体的に薄く形成することが困難な場合であっても、第2の領域51の厚さを調節することによりインダクタンスと磁気飽和特性のバランスを確保することが可能となる。
【0035】
絶縁膜51の第2の領域51の断面形状については特に限定されず、図5(a)に示すように第1の領域51と第2の領域51の境界がほぼ垂直であっても構わないし、図5(b)に示すように第1の領域51と第2の領域51の境界がテーパー状であっても構わない。また、図5(c)に示すように第2の領域51が複数設けられていても構わない。
【0036】
本実施形態においては、絶縁膜51の表面のうち、磁性素体M2と接する上面51Uはほぼ平坦であるが、磁性素体M1と接する下面51Bが凹部を有しており、これによって、第2の領域51の厚みが薄くされている。その結果、磁性素体M1がこの凹部に埋め込まれた状態となる。これにより、磁性素体M1と絶縁膜51との接触面積が増大することから、磁性素体M1と絶縁膜51の熱膨張係数に差がある場合であっても、両者の界面における剥離が生じにくくなる。特に、図5(c)に示すように第2の領域51を複数設ければ、磁性素体M1と絶縁膜51との接触面積をより増大させることが可能となる。一方、磁性素体M2と絶縁膜52~55及び層内絶縁パターン61~64については、接触面積が広く、且つ、複雑に入り組んでいることから、両者の界面における剥離はそもそも生じにくい。これにより、本実施形態によるコイル部品1は、高い信頼性を確保することも可能となる。
【0037】
次に、本実施形態によるコイル部品1の製造方法について説明する。
【0038】
図6図23は、本実施形態によるコイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。図6図23に示す工程図は、1個のコイル部品1に対応する断面を示しているが、実際には、集合基板を用いて多数のコイル部品1を同時に作製することによって多数個取りすることができる。
【0039】
まず、基材71の表面に銅(Cu)などの金属箔72が設けられた支持体70を用意し(図6)、金属箔72に突起部72aを形成する(図7)。突起部72aの形成方法としては、突起部72aを形成すべき領域の金属箔72を選択的にメッキ成長させる方法を用いても構わないし、突起部72aを形成すべき領域をマスクした状態で金属箔72の露出面をエッチングする方法を用いても構わない。
【0040】
次に、突起部72aが設けられた金属箔72の表面に、絶縁膜51及びシード層13を形成する(図8)。絶縁膜51及びシード層13の形成は、ラミネート法によって行うことができる。これにより、突起部72aの形状が絶縁膜51に転写され、絶縁膜51には厚い第1の領域51と薄い第2の領域51が形成される。
【0041】
次に、シード層13をパターニングすることによって絶縁膜51の一部を露出させた後(図9)、絶縁膜51の露出部分に層内絶縁パターン61を形成する(図10)。層内絶縁パターン61は感光性永久レジストからなるコイルパターンCP1のネガパターンであり、したがって、層内絶縁パターン61によって区画された領域はスパイラル状である。
【0042】
次に、電解メッキによってシード層13を成長させることにより、導体層10を形成する(図11)。これにより、層内絶縁パターン61によって区画された領域にスパイラル状のコイルパターンCP1が形成される。この時、コイルパターンCP1の内径領域及び外側領域には、犠牲パターンVP1が形成される。導体層10の平面形状は図24に示すとおりであり、スパイラル状に巻回されたコイルパターンCP1と、コイルパターンCP1の外側領域に位置する2つの電極パターン11,12と、コイルパターンCP1の内径領域及び外側領域に位置する犠牲パターンVP1からなる。図24に示すように、コイルパターンCP1の一端は、電極パターン11に接続されている。
【0043】
次に、導体層10の表面に絶縁膜52及びシード層23を形成する(図12)。絶縁膜52及びシード層23の形成は、ラミネート法によって行うことができる。次に、シード層23及び絶縁膜52をスパイラル状にパターニングした後、シード層23をさらにパターニングすることによって絶縁膜52の一部を露出させる(図13)。絶縁膜52のパターン形状は、図25に示すとおりであり、コイルパターンCP1の内径領域に対応する位置に開口部52aが設けられ、コイルパターンCP1の外側領域に対応する位置に開口部52bが設けられる。また、絶縁膜52には、コイルパターンCP1の他端と重なる位置に開口部52cが形成され、電極パターン11,12と重なる位置に開口部52dが形成される。
【0044】
次に、絶縁膜52の露出部分に層内絶縁パターン62を形成する(図14)。層内絶縁パターン62は感光性永久レジストからなるコイルパターンCP2のネガパターンであり、したがって、層内絶縁パターン62によって区画された領域はスパイラル状である。
【0045】
次に、電解メッキによってシード層23及び犠牲パターンVP1を成長させることにより、導体層20を形成する(図15)。これにより、層内絶縁パターン62によって区画された領域にスパイラル状のコイルパターンCP2が形成され、コイルパターンCP2の内径領域及び外側領域には、犠牲パターンVP2が形成される。導体層20の平面形状は図26に示すとおりであり、スパイラル状に巻回されたコイルパターンCP2と、コイルパターンCP2の外側領域に位置する2つの電極パターン21,22と、コイルパターンCP2の内径領域及び外側領域に位置する犠牲パターンVP2からなる。
【0046】
上述した方法を繰り返すことにより、シード層33及び絶縁膜53のパターニング、層内絶縁パターン63の形成、導体層30の形成を行う(図16)。これにより、層内絶縁パターン63によって区画された領域にスパイラル状のコイルパターンCP3が形成され、コイルパターンCP3の内径領域及び外側領域には、犠牲パターンVP3が形成される。絶縁膜53のパターン形状は、図27に示すとおりであり、コイルパターンCP3の内径領域に対応する位置に開口部53aが設けられ、コイルパターンCP3の外側領域に対応する位置に開口部53bが設けられる。また、絶縁膜53には、コイルパターンCP2の一端と重なる位置に開口部53cが形成され、電極パターン21,22と重なる位置に開口部53dが形成される。導体層30の平面形状は図28に示すとおりであり、スパイラル状に巻回されたコイルパターンCP3と、コイルパターンCP3の外側領域に位置する2つの電極パターン31,32と、コイルパターンCP3の内径領域及び外側領域に位置する犠牲パターンVP3からなる。
【0047】
同様の工程を繰り返すことにより、シード層43及び絶縁膜53のパターニング、層内絶縁パターン64の形成、導体層40の形成を行う(図17)。これにより、層内絶縁パターン64によって区画された領域にスパイラル状のコイルパターンCP4が形成され、コイルパターンCP4の内径領域及び外側領域には、犠牲パターンVP4が形成される。絶縁膜54のパターン形状は、図29に示すとおりであり、コイルパターンCP4の内径領域に対応する位置に開口部54aが設けられ、コイルパターンCP4の外側領域に対応する位置に開口部54bが設けられる。また、絶縁膜54には、コイルパターンCP3の一端と重なる位置に開口部54cが形成され、電極パターン31,32と重なる位置に開口部54dが形成される。導体層40の平面形状は図30に示すとおりであり、スパイラル状に巻回されたコイルパターンCP4と、コイルパターンCP4の外側領域に位置する2つの電極パターン41,42と、コイルパターンCP4の内径領域及び外側領域に位置する犠牲パターンVP4からなる。図30に示すように、コイルパターンCP4の一端は、電極パターン42に接続されている。
【0048】
次に、導体層40の表面に絶縁膜55を形成した後(図18)、絶縁膜55をパターニングすることによって、犠牲パターンVP4を露出させる(図19)。絶縁膜55のパターン形状は、図31に示すとおりであり、コイルパターンCP4の内径領域に対応する位置に開口部55aが設けられ、コイルパターンCP4の外側領域に対応する位置に開口部55bが設けられる。次に、ウェットエッチングを行うことにより、犠牲パターンVP1~VP4を除去する(図20)。コイルパターンCP1~CP4については、絶縁膜51~55及び層内絶縁パターン61~64で覆われているため、エッチングされることはない。これにより、コイルパターンCP1~CP4の内径領域及び外側領域には、空間Sが形成される。
【0049】
次に、この空間Sを埋める磁性素体M2を形成した後(図21)、支持体70を剥離する(図22)。これにより、凹凸を有する絶縁膜51の下面51Bが露出する。次に、絶縁膜51をパターニングすることによって、コイルパターンCP1の外側領域に位置する磁性素体M2を露出させる。絶縁膜51のパターン形状は、図32に示すとおりであり、コイルパターンCP1の外側領域に対応する位置に開口部51bが設けられる。コイルパターンCP1の内径領域と重なる位置には凹部が設けられており、この部分が厚みの薄い第2の領域51を構成する。
【0050】
そして、絶縁膜51を覆うように磁性素体M1を形成すれば、本実施形態によるコイル部品1が完成する。
【0051】
このように、本実施形態においては、突起部72aが設けられた金属箔72の表面に絶縁膜51をラミネートしていることから、突起部72aの形状が絶縁膜51に転写される。これにより、厚みの厚い第1の領域51と厚みの薄い第2の領域51を形成することが可能となる。したがって、ラミネートする絶縁膜51の厚みが厚い場合であっても、平面視でコイルパターンCP1~CP4の内径領域と重なる位置においては、絶縁膜51の厚さを局所的に薄くできる。これにより、インダクタンスと磁気飽和特性のバランスを確保することが可能となる。
【0052】
ここで、インダクタンスをより高める必要がある場合には、突起部72aの高さをより高くすることによって、絶縁膜51の第2の領域51の厚さをより薄くすれば良い。一方、より磁気飽和しにくくする必要がある場合には、突起部72aの高さをより低くすることによって、絶縁膜51の第2の領域51の厚さをより厚くすれば良い。このように、絶縁膜51の本来の厚さである第1の領域51の厚さにかかわらず、絶縁膜51の第2の領域51の厚さを調整することによって、インダクタンス及び磁気飽和特性を調整することができる。インダクタンスと磁気飽和特性の調整は、絶縁膜51の第2の領域51の厚さだけでなく、図5(c)に示したように、第2の領域51の数によって調整することも可能である。
【0053】
図33は、本発明の第2の実施形態によるコイル部品1Aの断面図である。
【0054】
図33に示すように、本発明の第2の実施形態によるコイル部品1Aは、絶縁膜51の表面のうち、磁性素体M2と接する上面51U側に凹部が設けられている点において、第1の実施形態によるコイル部品1と相違している。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるコイル部品1と同じであることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態が例示するように、絶縁膜51の凹部はいずれの表面に設けても構わない。
【0055】
図34は、本発明の第3の実施形態によるコイル部品1Bの断面図である。
【0056】
図34に示すように、本発明の第3の実施形態によるコイル部品1Bは、コイルパターンCP1~CP4がいずれもスパイラル状に3ターン巻回された構成を有している点において、第1の実施形態によるコイル部品1と相違している。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるコイル部品1と同じであることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態が例示するように、各コイルパターンのターン数については特に限定されない。
【0057】
図35は、本発明の第4の実施形態によるコイル部品1Cの断面図である。
【0058】
図35に示すように、本発明の第4の実施形態によるコイル部品1Cは、外部端子E1,E2が磁性素体M2の上面に配置されている点において、第1の実施形態によるコイル部品1と相違している。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるコイル部品1と同じであることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態においては、磁性素体M2を貫通するバンプ導体91,92が設けられ、バンプ導体91及び電極パターン41,31,21,11を介して外部端子E1とコイルパターンCP1が接続され、バンプ導体92を介して外部端子E2とコイルパターンCP4が接続される。本実施形態が例示するように、本発明において外部端子E1,E2が形成される位置は特に限定されない。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1,1A~1C コイル部品
2~4 コイル部品の表面
10,20,30,40 導体層
11,12,21,22,31,32,41,42 電極パターン
13,23,33,43 シード層
51~55 絶縁膜
51 第1の領域
51 第2の領域
51B 下面
51U 上面
52a~55a,51b~55b,52c~54c,52d~54d 開口部
61~64 層内絶縁パターン
70 支持体
71 基材
72 金属箔
72a 突起部
80 回路基板
81,82 ランドパターン
91,92 バンプ導体
C コイル部
CP1~CP4 コイルパターン
E1,E2 外部端子
M1,M2 磁性素体
S 空間
VP1~VP4 犠牲パターン
図1
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