(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】給湯機
(51)【国際特許分類】
B22D 17/30 20060101AFI20221122BHJP
B22D 35/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B22D17/30 C
B22D35/00 Z
(21)【出願番号】P 2019054826
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】進藤 浩二
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-093675(JP,A)
【文献】特開2003-181616(JP,A)
【文献】特開平03-207566(JP,A)
【文献】実開昭61-092454(JP,U)
【文献】特開平09-108815(JP,A)
【文献】実開昭61-205653(JP,U)
【文献】特開平09-327765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/30
B22D 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1出力軸を有する第1回転電機と、
前記第1出力軸により揺動運動する第1アームと、
前記第1出力軸と平行な第2出力軸を有する第2回転電機と、
前記第2出力軸により揺動運動する第2アームと、
前記第2アームに設けられ、第3出力軸を有する第3回転電機と、
前記第2アームに設けられ、前記第2出力軸と平行な傾転軸を中心に、前記第3出力軸により傾転運動するラドルと、
前記第3回転電機の前記第3出力軸の正逆回転を前記ラドルの前記傾転軸の正逆回転に変換する変換機構と、を備え、
前記第2アームは、
前記ラドルが溶湯に着面する際に、前記溶湯の湯面に対して一定の角度に保たれ、
前記第3回転電機の前記第3出力軸は、前記第1出力軸と直交し、前記第2アームが延びる方向に沿う、
給湯機。
【請求項2】
前記第3回転電機と前記ラドルは、
前記第2出力軸を挟んで、前記第2アームが延びる一方の側と他方の側に設けられ、
請求項1に記載の給湯機。
【請求項3】
前記第2アームは、
前記ラドルおよび前記第3回転電機を含む前記第2アームの重量を測定する計量器を備える、
請求項1または請求項2に記載の給湯機。
【請求項4】
前記ラドルは、前記溶湯に着面すると、前記第2アームの動作により揺動運動する、
請求項
3に記載の給湯機。
【請求項5】
前記ラドルは、前記溶湯を給湯する位置において、前記第1アームと前記第2アームの動作により昇降運動する、
請求項
4に記載の給湯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドチャンバー式のダイカスト鋳造装置に好適に用いられる給湯機に関する。
【背景技術】
【0002】
コールドチャンバー式のダイカスト鋳造装置には、溶解炉から所定量の金属溶湯(以下、単に溶湯)をラドルにより汲み上げてから、ラドルを射出スリーブの給湯口まで移動させ、ラドル内の溶湯を給湯口から射出スリーブ内に注ぎ込む給湯機が用いられている。この給湯機においては、リンク機構によってラドルを移動させるとともに、回転伝達機構によってラドルを傾転させる構成が採用されている。
【0003】
給湯機には、ラドルにより汲み上げられる溶湯の量を正確に特定して給湯できることが求められる。ここで、ダイカスト成形においては、1ショットごとに給湯を射出スリーブに給湯する必要があり、給湯量のバラつきはビスケットの厚さに影響する。つまり、ビスケットが薄すぎると鋳造圧が金型キャビティに伝達されにくく鋳巣を発生しやすくなり、厚すぎるとビスケットの凝固が遅れて型開き時にビスケットが破裂するなどの問題が生じる。そのため、給湯量の精密な制御が求められている。
【0004】
特許文献1に記載されるように、ラドル回転用の回転伝達機構としてスプロケットとチェーンを組み合わせた給湯機では、スプロケットとチェーンのガタや伸びなどによって溶湯を汲み上げる際の姿勢を正確に制御できないために、給湯量の精度には一定の限界がある。特許文献1は、この課題を解消するために、ラドル回転用の回転伝達機構を、その両端を2つの回転体にそれぞれ取り付けられた1対の平行リンクを有する平行リンク機構を2つ組み合わせて構築する。特許文献1の給湯機は、スプロケットとチェーンの使用を避けることで、ガタや伸び変形がない、回転伝達精度に優れたラドル回転用の回転伝達機構を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、射出スリーブと溶解炉の間のラドルの移動を平行リンク機構が担う。平行リンク機構は、例えば鉛直方向に対して一定の角度をもってアームを移動することができない。したがって、特許文献1の給湯機によれば、溶湯の湯面が昇降すると、湯面に対するアームの湯面に対する角度が変わってしまう。溶湯を汲み上げるたびにアームの湯面に対する角度が変わってしまうと、溶湯を汲み上げる量にばらつきが生じてしまい、給湯量がばらついて鋳造品の品質を損ねてしまう。
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明は、アームの湯面に対する角度を一定にできる給湯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶解炉から所定量の溶湯をラドルにより汲み上げて、ラドルを射出スリーブの給湯口まで搬送し、ラドル内の溶湯を給湯口から射出スリーブ内に注ぎ込む給湯機に関する。
本発明の給湯機は、第1出力軸を有する第1回転電機と、第1出力軸により揺動運動する第1アームと、第1出力軸と平行な第2出力軸を有する第2回転電機と、第2出力軸により揺動運動する第2アームと、を備える。また、本発明の給湯機は、第2アームに設けられ、第3出力軸を有する第3回転電機と、第2アームに設けられ、第2出力軸と平行な傾転軸を中心に、第3出力軸により傾転運動するラドルと、第3回転電機の第3出力軸の正逆回転を前記ラドルの傾転軸の正逆回転に変換する変換機構と、を備える。
本発明において、第3回転電機の第3出力軸は、第1出力軸と直交し、第2アームが延びる方向に沿っている。
【0009】
本発明の給湯機において、第3回転電機とラドルは、好ましくは、第2出力軸を挟んで、第2アームが延びる一方の側と他方の側に設けられる。
【0010】
本発明において、第2アームは、好ましくは、ラドルおよび第3回転電機を含む第2アームの重量を測定する計量器を備える。
【0011】
本発明において、第2アームは、好ましくは、ラドルが溶湯に着面する際に、溶湯の湯面に対して一定の角度に保たれる。
本発明において、ラドルは、溶湯に着面すると、好ましくは、第2アームの動作により揺動運動する。
本発明において、ラドルは、溶湯を給湯する位置において、好ましくは、第1アームと第2アームの動作により昇降運動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の給湯機によれば、第1アーム、第2アームおよびラドルの揺動および傾転がそれぞれに対応する第1回転電機、第2回転電機および第3回転電機により行われる。したがって、第1アーム、第2アームおよびラドルのそれぞれの角度を任意に調整できる。したがって、本発明の給湯機によれば、湯面が昇降したとしても、第2アームに設けられるラドルの湯面への着面角度を一定にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る給湯機の概略構成を示す部分正面断面図である。
【
図2】本実施形態に係る給湯機の概略構成を示す側面図である。
【
図3】本実施形態に係る給湯機のラドルの動作を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る給湯機の効果を説明するための図であり、(a-1)、(a-2)は本実施形態によるラドルの動作を示し、(b-1)、(b-2)は従来の平行リンク機構によるラドルの動作を示している。
【
図5】本実施形態に係る給湯機の効果を説明するための他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る給湯機1について説明する。
給湯機1は、溶解炉から所定量の溶湯をラドル71により汲み上げて、ラドル71をコールドチャンバー方式のダイカスト鋳造装置の射出スリーブの給湯口まで搬送し、ラドル71に貯留される溶湯を給湯口から射出スリーブ内に注ぎ込む。
給湯機1は、3つの回転電機を適切に配置することにより、従来の平行リンク機構を用いた給湯機では得ることのできない効果を奏する。
【0015】
[給湯機1の全体構成]
給湯機1は、
図1および
図2に示すように、支持台3と、支持台3に支持される第1駆動機構10と、第1駆動機構10に支持される第2駆動機構30と、第2駆動機構30に支持される第3駆動機構50と、第3駆動機構50により揺動運動するラドル機構70と、を備える。第1駆動機構10、第2駆動機構30および第3駆動機構50のそれぞれは、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51を備える。
給湯機1は、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51の動作を制御するコントローラ80を備える。
以下、それぞれの要素についてその構成を順に説明する。
【0016】
[支持台3]
支持台3は、ダイカスト鋳造装置の射出部横に固定される。支持台3は、第1駆動機構10を介して第2駆動機構30およびラドル機構70を含む第3駆動機構50を支持できるように、所定の強度を有する金属材料を組み合わせて構成されている。
【0017】
[第1駆動機構10]
第1駆動機構10は、
図1および
図2に示すように、第1出力軸12を有し支持台3に支持される第1回転電機11と、第1出力軸12の正転または逆転(以下、正逆回転)に伴って揺動運動する第1アーム21と、を備える。第1駆動機構10は、第1アーム21を揺動運動させる。
【0018】
第1回転電機11は、コントローラ80により正逆回転および回転速度が制御されるサーボモータから構成される。第2回転電機31および第3回転電機51も同様にサーボモータから構成され、これら3つのサーボモータは、コントローラ80の指示により同期制御され得る。
【0019】
第1出力軸12の回転駆動力は、第1減速機14を介して第1アーム21に伝えられる。第1減速機14は回転軸15を備え、第1出力軸12の回転駆動力を減速して回転軸15から駆動力が伝達される。
回転軸15は、支持台3に固定される転がり軸受17に嵌合される。したがって、回転軸15は転がり軸受17に支持されながら、第1回転電機11の動作に従って正逆回転する。
【0020】
次に、第1アーム21は、
図1および
図2に示すように、その長手方向の一方の端部に回転軸15が固定され、他方の端部に第2駆動機構30の第2回転電機31が設けられる。
第1アーム21は、横断面が例えば矩形の中空構造をなしており、その空隙25を取り囲む側壁23の第1回転電機11に対向する側に、回転軸15の先端が嵌合される貫通孔27が形成されている。回転軸15がこの貫通孔27に嵌合される。これにより第1アーム21は、第1回転電機11の正逆回転に従って、回転軸15を中心にして揺動運動する。なお、揺動運動とは、所定の回転角度の範囲で正転および逆転することをいう。
第1アーム21は、第2回転電機31を支持するために、その長手方向の他方の端部における側壁23を厚さ方向に貫通する支持孔28が空けられている。
【0021】
[第2駆動機構30]
次に、
図1および
図2を参照して、第2駆動機構30について説明する。
第2駆動機構30は、第2出力軸32を有し第1アーム21に支持される第2回転電機31と、第2出力軸32の正逆回転に伴って揺動運動する第2アーム41と、を備える。第2出力軸32は第1出力軸12と平行をなしている。第2駆動機構30は、第2アーム41を揺動運動させる。第2アーム41は、その揺動運動の軌跡が形成する面と、第1アーム21における揺動運動の軌跡が形成する面と平行に配置され、かつ、長さが概ね等しい。
【0022】
第2出力軸32の回転駆動力は、第2減速機34を介して第2アーム41に伝えられる。第2減速機34は出力軸33を備え、第2出力軸32の回転駆動力を減速して回転軸33から駆動力が伝達される。
回転軸33は、転がり軸受37に支持されながら、第2回転電機31の動作に従って正逆回転する。
【0023】
第2回転電機31、回転軸33、第2減速機34などの要素は、ハウジング40に収容された状態で、第1アーム21に保持される。
【0024】
次に、第2アーム41は、
図1および
図2に示すように、その長手方向の一方の端部に回転軸33が固定され、他方の端部にラドル機構70が支持されている。
第2アーム41は、回転軸33が固定される基端アーム42と、基端アーム42の先端に接続される先端アーム43と、を備える。基端アーム42および先端アーム43ともに中空構造を有している。
【0025】
基端アーム42の中空部には中空軸44がブッシュ45,45を介して嵌合されている。中空軸44は、基端アーム42の先端(
図1の下方)から所定寸法だけ突出しており、この先端には先端アーム43との接合用のフランジ46が設けられている。また、中空軸44は、基端アーム42の後端から所定寸法だけ突出しており、その先端(
図1の上方)には第3駆動機構50の第3回転電機51が載せられている。
回転軸33は、基端アーム42の側面に固定される。
【0026】
中空軸44および先端アーム43の内側には、後述する第3回転電機51に接続される回転軸53が配置される。回転軸53は第3駆動機構50の要素である。
【0027】
先端アーム43は、基端アーム42と接続される側に基端アーム42との接合用のフランジ47が設けられており、フランジ46とフランジ47は例えばボルトとナットによる締結、溶接などの手段により接合される。
先端アーム43の先端(
図1の下端)にはラドル機構70の傾転に関与するギヤボックス75が設けられている。ギヤボックス75は、第3駆動機構50の要素である。
【0028】
以上の構成を備える第2アーム41は、第2回転電機31の正逆回転に従って、回転軸33を中心にして揺動運動する。この揺動運動は、第1アーム21の揺動運動と平行をなしている。
【0029】
[第3駆動機構50]
次に、
図1および
図2を参照して、第3駆動機構50について説明する。
第3駆動機構50は、ラドル機構70を傾転運動させる。
第3駆動機構50は、第3出力軸52を有し第2アーム41に支持される第3回転電機51と、第3出力軸52の正逆回転に伴って正逆回転する回転軸53と、を備える。第3出力軸52は第1出力軸12および第2出力軸32と向きが直交している。
【0030】
第3出力軸52の回転駆動力は、第3減速機54を介して回転軸53に伝えられる。第3減速機54は、第3出力軸52の回転駆動力を減速して回転軸53に伝達する。
回転軸53は、2本の部材を軸接手56により接続して構成される。第2アーム41の先端アーム43の内部において、回転軸53は転がり軸受57,57で回転可能に支持される。回転軸53の先端は先端アーム43から所定寸法だけ突出し、その突出した部分はギヤボックス75に入り込んでいる。回転軸53はギヤボックス75の内部においても、転がり軸受57により回転可能に支持される。ギヤボックス75の内部において、回転軸53の先端にはマイタギヤ72Aが固定されている。マイタギヤ72Aは、ラドル機構70の傾転軸73に取り付けられるマイタギヤ72Bと噛み合う。
回転軸53、マイタギヤ72A、マイタギヤ72Bは、第3出力軸53における正逆回転を傾転軸73の正逆回転に変換する変換機構を構成する。
【0031】
第3回転電機51は基端アーム42の後端側(
図1上方)に配置されており、第3回転電機51と基端アーム42の間には回り止め機構60が介在している。回り止め機構60は、第3回転電機51の回転駆動力によって第2アーム41が一点鎖線で示される軸線の回りに回転するのを阻止するために設けられている。回り止め機構60は、基端アーム42の後端面に固定される断面が略U字状のブラケット61と、ブラケット61に支持される軸受62と、軸受62に支持される回転防止軸63と、を備える。ブラケット61は、中空軸44の外周に嵌合により保持されている。また、回り止め機構60は、第3減速機54が載せられる支持台64と、支持台64に支持される回転防止管65と、回転防止管65の内側に嵌合されるブッシュ66と、を備え、回転防止軸63がブッシュ66の内側に嵌合される。この回転防止軸63とブッシュ66を介した回転防止管65との嵌合関係により、第3回転電機51の回転駆動力により第2アーム41に回転力が伝達されるのを防止する。
【0032】
第3回転電機51と基端アーム42の間には、計量器としてのロードセル59が設けられている。ロードセル59は、支持台64の下面に固定されるリング状の荷重伝達体67から荷重を受ける。ここで、支持台64は、その下面に中空軸44が固定されているので、中空軸44の荷重を受ける。中空軸44には、基端アーム42が固定され、また、先端アーム43が固定されているので、ラドル機構70を含む第2アーム41の荷重が付加される。さらに、支持台64には、支持台64を含む回り止め機構60および第3回転電機51の荷重を受ける。このように、ロードセル59は、ラドル71が設けられる第2アーム41および第3駆動機構50の荷重を受ける。したがって、ラドル71に溶湯が収容されているときとラドル71に溶湯がないときのロードセル59における測定の差分を溶湯の量として特定できる。
【0033】
[ラドル機構70]
ラドル機構70は、溶湯を汲み上げるラドル71と、ラドル71に固定される傾転軸73と、傾転軸73に固定されるマイタギヤ72Bと、第2アーム41の先端に固定されるギヤボックス75と、を備える。傾転軸73は、ギヤボックス75の内部において、転がり軸受77,77に回転可能に支持される。また、傾転軸73に固定されるマイタギヤ72Bは、ギヤボックス75の内部においてマイタギヤ72Aと噛み合う。
【0034】
[第3回転電機51とラドル71の位置関係]
図2に示すように、第3回転電機51は第2アーム41の長手方向の一方の端部に設けられ、また、ラドル71は第2アーム41の他方の端部に設けられる。しかも、第2アーム41の回転軸33が第3回転電機51とラドル71の間に配置される。これは第2アーム41の駆動源である第2回転電機31のトルクが小さくて済むことを意味する。
いま、第2アーム41を時計回りCWに回転させようとするとき、ラドル機構70の重量に抗して回転モーメントM70に対応する回転トルクが必要である。ところが、第3回転電機51が設けられており、第3回転電機51の自重による回転モーメントM50が回転モーメントM70と同じ向きに生ずる。例えば、
図2において、回転モーメント70が時計回りCWに生ずるときに、回転モーメントM50も時計回りCWに生ずる。したがって、第3回転電機51に必要な回転トルクは、回転モーメントM70から回転モーメントM50を差し引いた分で足りる。
【0035】
例えば第2出力軸32を基準にしてラドル71が設けられる側と同じ側に第3回転電機51を設けることもできる。なお、この場合には第3出力軸52はラドル71の傾転軸73と平行をなす。ラドル71と第3回転電機51が第2出力軸32を基準として同じ側に設けられると、第3回転電機51には、回転モーメントM70に回転モーメントM50を加えた分の回転トルクが必要になる。
【0036】
[給湯機1の基本動作]
次に、
図2を参照して給湯機1の基本的な動作を説明する。この動作は、コントローラ80からの指示に従って行われる。なお、以下の説明の時計回りCWおよび反時計回りCCWは、
図2を正面から視たことを前提としている。
第1回転電機11が正転すると第1アーム21が時計回りCWに回転し、第1回転電機11が逆転すると第1アーム21が反時計回りCCWに回転する。
第2回転電機31が正転すると第2アーム41が時計回りCWに回転し、第2回転電機31が逆転すると第2アーム41が反時計回りCCWに回転する。
また、第3回転電機51が正転するとラドル71が時計回りCWに傾転し、第3回転電機51が逆転するとラドル71が反時計回りCCWに傾転する。
【0037】
[給湯機1における前進移動および後退移動]
以上の基本的な動作を行う給湯機1は、
図3に示すように、溶湯が汲み上げられたラドル71を給湯する位置(前進限FL)まで移動する前進移動FTと、給湯したのちに次の溶湯を汲み上げる位置(後退限RL)までラドル71が移動する後退移動RTが行われる。この前進移動FTおよび後退移動RTにおけるラドル71および第2アーム41の移動軌跡について説明する。
【0038】
ラドル71は、溶湯Mを汲み上げるときには移動軌跡の後退限RLまで移動して停止する。ラドル71が後退限RLにあるとき、第2アーム41は鉛直方向Vに沿うように制御される。ラドル71が実線で示すように傾転することにより、ラドル71が湯面MSよりも下方に潜ることで溶湯Mがラドル71の内部に入り、破線で示すようにラドル71の傾転を元に戻すと、溶湯が汲み上げられる。次に、第1アーム21を反時計回りに回転させるとラドル71は湯面MSから鉛直方向Vの上向きに引き上げられる。このとき、第1アーム21、つまり第1回転電機11の回転に同期して、第2アーム41、つまり第2回転電機31を正転させる。このときの第2回転電機31の回転角と第1回転電機11の回転角とを調整することで、第2アーム41が鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を引き上げることができる。
【0039】
また、給湯機1は第2アーム41を鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を溶湯Mへ降ろすことができる。
ここで、従来、ラドルの横に湯面検知棒48を備える。湯面検知棒48には微小電流が流れており、湯面MSに接地することで溶湯Mと導通(短絡)し、湯面MSの位置を検知する。湯面MSの位置は、第2アーム41を停止させるために検知される。鋳造サイクルの進行に伴って湯面MSは下がるが、湯面MSの位置を検知することで、第2アーム41を湯面MSの変動に追従して停止させることができる。
【0040】
従来の平行リンク機構を用いたとする。平行リンク機構の要素である第2アーム41は平行リンク機構の動作に従った姿勢をとるため、第2アーム41の湯面MSに対する角度を制御できない。したがって、鋳造サイクルが増えるのに伴って湯面MSが下がると、
図4(b-1),(b-2)に示すように、第2アーム41の湯面MSに対する角度が変化する。
【0041】
湯面検知棒48は第2アーム41と平行に設置されているので湯面検知棒48の湯面MSに対する角度も鋳造サイクルが増えるのに伴って変化する。したがって、鋳造サイクルが進行すると、
図4(b-1),(b-2)に示すように、湯面検知棒48が湯面MSを検知した時点において、ラドル71が溶湯Mに浸漬される深さd3,d4は、鋳造サイクルが増えると大きくなる(d3<d4)。これにより、鋳造サイクルが増えるとラドル71で汲み上げられる溶湯Mの量が変化し、給湯量にばらつきが生じる。
【0042】
溶湯Mを汲み上げたラドル71は計量位置PMまで上昇して所定時間だけ停止して、この過程で余分な溶湯Mがラドル71から排出される。ラドル71が溶湯Mを汲み上げた位置から計量位置PMまでの距離αは鋳造サイクルの進行に関わらず一定である。したがって、溶湯Mへの浸漬深さが深くなると(d3<d4)、湯面MSから計量位置PMまでの距離が短くなる(β3>β4)ので、計量位置PMまでの間で溶湯Mを排出する量が少なくなる。これも、給湯量がばらつく要因となる。
【0043】
以上に対して、本実施形態による給湯機1においては、(a-1),(a-2)に示すように、第2アーム41を鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を溶湯Mへ降ろすことができるので、湯面MSの高さが変わったとしても湯面検知棒48の湯面MSに対する角度を一定に保つことができる。これにより、鋳造サイクルが増えても、ラドル71が溶湯Mに浸漬される深さd1,d2は等しく、かつ、湯面MSから計量位置PMまでの距離β1,β2も等しくなる。したがって、給湯機1によれば、溶湯Mを汲み上げる量を等しくなるとともに、計量位置PMまでの間で溶湯Mを排出する量も等しく少なくなるので、給湯量のばらつきを抑えることができる。
【0044】
以後も同様に第2アーム41が鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を前進移動FTさせることができる。ただし、ラドル71が前進限FLに近づくと第2アーム41は時計回りCWに回転することで鉛直方向Vに傾きを持ち始める。ラドル71は前進限FLに達するまでは水平方向Hに沿って搬送されるが、前進限FLに達すると射出スリーブへの給湯のために破線で示すように反時計回りに傾転される。なお、ラドル71が水平方向Hに沿うとは、ラドル71の上縁が水平方向Hに沿うことをいう。ラドル71の傾転は、ラドル71が水平方向Hに沿っていることを基準としている。
【0045】
前進限FLにおいて給湯を終えると、後退限RLから前進限FLまでの搬送とは逆にラドル71を前進限FLから後退限RLまで移動させ、ラドル71を実線で示すように傾転させて溶湯を汲み上げる。
【0046】
[効 果]
次に、給湯機1が奏する効果を説明する。この効果は、給湯量の精密な制御と第2アーム41の円滑な動作に区分できる。
【0047】
[給湯量の精密な制御]
給湯機1による、給湯量の精密な制御は、第1アーム21、第2アーム41およびラドル71を第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51を用いて動作させることにより実現される。
図4を用いて説明したように、給湯機1によれば、湯面MSの高さが変わったとしても湯面検知棒48の湯面MSに対する着面角度を一定に保つことができる。したがって、給湯機1によれば、鋳造の回数が増えても、給湯量のばらつきを抑えることができる。
【0048】
また、給湯機1は駆動機構に給湯機1の運転の継続により伸び、変形が容易であるチェーンおよびスプロケットといった部材の使用を排している。
ここで、伸び、変形が容易である部材を使用してラドルの位置を制御すると、給湯機の継続的な運転による、チェーンおよびスプロケットといった部材の伸び、変形により溶湯の汲み上げ時のラドルの姿勢の精度が劣り、溶湯の汲み上げ量の精度が劣り、ひいては射出スリーブへの給湯量の精度が劣る。
これに対して給湯機1は、第2アーム41および第3回転電機51を用いてラドル71の姿勢の制御を行うので、ラドル71の姿勢を高い精度で制御できる。これにより射出スリーブへの給湯量の精度を向上できる。
【0049】
しかも、給湯機1は、ロードセル59を給湯機1に設置して汲み上げた給湯量を計量することができるので、給湯量の精度を向上することができる。つまり、ロードセル59で計量された給湯量が求められる給湯量より多いことが判明すれば、ラドル71を傾転させて汲み上げられた溶湯Mを溶解炉に戻すことができる。また、逆に給湯量が求められる給湯量より少ないことが判明すれば、溶湯を追加して汲み上げることができる。
【0050】
[第3回転電機51とラドル71の位置関係による効果]
前述したように、給湯機1において、第3回転電機51とラドル71は、第2出力軸32を挟んで、第2アーム41が延びる一方の側と他方の側に設けられる。これにより、例えば第2出力軸32を基準にしてラドル71が設けられる側と同じ側に第3回転電機51を設けるのに比べて、ラドル71を備える第2アーム41を駆動するのに必要な第2回転電機31のトルクが小さくてすむ。
【0051】
[ラドル71の任意の傾転動作による効果]
給湯機1は、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51を用いてラドル71を任意の軌跡で動作させることができる。これにより以下の効果を奏することができる。
給湯機1によれば、
図5に示すように、溶湯を射出スリーブ内に注湯する際にラドル71を白抜きの両矢印で示すように昇降運動させることができる。これにより、溶湯Mへの空気の巻き込みを緩和し、または、溶湯Mが周囲に飛散するのを抑えることができる。
さらにまた、ラドル71を溶湯Mに進入させる際に、
図5に示すように、第2アーム41を黒塗りの両矢印で示すように揺動させ、前回の給湯でラドル71の側面に付着して凝固した例えばアルミニウム合金を溶湯Mにつけて溶解させることができる。また、この揺動動作により湯面MSに形成される酸化膜をラドル71が溶湯Mに進入する領域以外に追い出すことができる。
【0052】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、第2アーム41は基端アーム42と先端アーム43とを組み合わせているが、本発明はこれに限定されず、単一の部材から第2アーム41を構成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 給湯機
10 第1駆動機構
11 第1回転電機
12 第1出力軸
21 第1アーム
30 第2駆動機構
31 第2回転電機
32 第2出力軸
33 回転軸(第2減速機の出力軸)
41 第2アーム
42 基端アーム
43 先端アーム
44 中空軸
48 湯面検知棒
50 第3駆動機構
51 第3回転電機
52 第3出力軸
53 回転軸(第3減速機の出力軸)
59 ロードセル
60 回り止め機構
70 ラドル機構
71 ラドル
72A マイタギヤ
72B マイタギヤ
73 傾転軸
80 コントローラ
FL 前進限
RL 後退限
FT 前進移動
RT 後退移動
M 溶湯
MS 湯面
M50 回転モーメント
M70 回転モーメント