(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両の吸遮音構造、及び車両の吸遮音構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20221122BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B60R13/08
G10K11/16 110
G10K11/16 130
(21)【出願番号】P 2019056246
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-151256(JP,A)
【文献】実開昭63-095978(JP,U)
【文献】特開2008-194887(JP,A)
【文献】特開2013-049361(JP,A)
【文献】実開昭63-014452(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の孔が穿孔され、前記孔を通じて外部と連通する内部空間を備える吸遮音材を利用して車両の内外で発生する音を吸遮音する車両の吸遮音構造であって、
前記吸遮音材が前記車両のボデーパネルを覆った状態で熱硬化性の接着剤によって前記ボデーパネルに固定されて
おり、
前記吸遮音材において前記ボデーパネルに接着される面が前記ボデーパネルの形状に沿う形に形成されており、
前記吸遮音材がセルロース系繊維からなるパルプモウルドで形成されており、
前記吸遮音材が多数の凸部を備えており、前記多数の凸部は、前記ボデーパネルの凹部に対応する位置で高さ寸法が大きくなり、前記ボデーパネルの凸部に対応する位置で高さ寸法が小さくなるように前記ボデーパネルの凹凸に合わせて形成されている吸遮音構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の吸遮音構造であって、
前記熱硬化性の接着剤が塗布型制振材である吸遮音構造。
【請求項3】
請求項1
または2のいずれかに記載された車両の吸遮音構造であって、
前記吸遮音材は、底板部と、その底板部に突出形成された中空状の
前記多数の凸部とを備えており、
前記底板部が前記ボデーパネルに接着される構成で、前記多数の凸部の突出端面が同一面上にある吸遮音構造。
【請求項4】
少なくとも1個の孔が穿孔され、前記孔を通じて外部と連通する内部空間を備える吸遮音材を利用して車両の内外で発生する音を吸遮音する車両の吸遮音構造の製造方法であって、
熱硬化性の塗布型制振材をボデーパネルに塗布する工程と、
前記塗布型制振材を塗布した前記ボデーパネルに前記吸遮音材を押圧し、前記ボデーパネルを前記吸遮音材で覆う工程と、
前記塗布型制振材を熱硬化させる工程と、
を備え
、
前記吸遮音材が多数の凸部を備えており、前記多数の凸部は、前記ボデーパネルの凹部に対応する位置で高さ寸法が大きくなり、前記ボデーパネルの凸部に対応する位置で高さ寸法が小さくなるように前記ボデーパネルの凹凸に合わせて形成されている製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載された車両の吸遮音構造の製造方法であって、
前記塗布型制振材を熱硬化させる工程が、焼付塗装工程である製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のボデーパネルに固定される吸遮音材を利用する吸遮音構造、及び車両の吸遮音構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吸遮音構造に関する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1の吸遮音構造では、ヘルムホルツ共鳴の原理を利用した吸遮音材100を利用している。吸遮音材100は、
図6に示すように2枚の表面材131,132と中空構造部102とから構成され、中空構造部102と表面材131には、それぞれ小孔120、130が備えられている。このような吸遮音材を、例えば車両に使用する場合は、一般的にクリップ等で車両のボデーパネル等に固定して使用する(図示せず)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸遮音材をクリップ等の連結部材で車両のボデーパネル等に固定する吸遮音構造では、ボデーパネル等にクリップ穴を備えるブラケットを固定する必要があり、その分のコストが発生する。またそのような連結部材で吸遮音材を固定する吸遮音構造では、振動等によるノイズの発生を抑える対策が別途必要となる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、吸遮音材を固定するためのコストを低減するとともに、ノイズ対策が不要となる吸遮音構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって構成される。第1の発明は、少なくとも1個の孔が穿孔され、前記孔を通じて外部と連通する内部空間を備える吸遮音材を利用して車両の内外で発生する音を吸遮音する車両の吸遮音構造であって、前記吸遮音材が前記車両のボデーパネルを覆った状態で熱硬化性の接着剤によって前記ボデーパネルに固定されている。前記吸遮音材において前記ボデーパネルに接着される面が前記ボデーパネルの形状に沿う形に形成されている。また、前記吸遮音材がセルロース系繊維からなるパルプモウルドで形成されている。さらに、前記吸遮音材が多数の凸部を備えており、前記多数の凸部は、前記ボデーパネルの凹部に対応する位置で高さ寸法が大きくなり、前記ボデーパネルの凸部に対応する位置で高さ寸法が小さくなるように前記ボデーパネルの凹凸に合わせて形成されている。
【0007】
本発明によると、吸遮音材は熱硬化性の接着剤によってボデーパネルに固定されている。このため、吸遮音材を固定するための連結構造を設ける必要がなく、吸遮音材を固定するためのコストが低減されるとともに、連結構造のためのノイズ対策が不要となる。
【0008】
第2の発明によると、前記熱硬化性の接着剤が塗布型制振材である。このため、塗布型制振材の制振性能によって車両のノイズの発生をさらに抑えることができる。
【0009】
第3の発明によると、前記吸遮音材において前記ボデーパネルに接着される面が前記ボデーパネルの形状に沿う形に形成されている。このため、ボデーパネルに凹凸がある場合であっても、吸遮音材をボデーパネルに固定し易い。
【0010】
第4の発明によると、前記吸遮音材がセルロース系繊維からなるパルプモウルドで形成されている。このため、安価かつ軽量な吸遮音材を提供することができる。
【0011】
第5の発明によると、前記吸遮音材は、底板部と、その底板部に突出形成された中空状の多数の凸部とを備えており、前記底板部が前記ボデーパネルに接着される構成で、前記多数の凸部の突出端面が同一面上にある。このため、多数の凸部の突出端面を利用してフラットなフロア面等を形成できる。
【0012】
第6の発明は、少なくとも1個の孔が穿孔され、前記孔を通じて外部と連通する内部空間を備える吸遮音材を利用して車両の内外で発生する音を吸遮音する車両の吸遮音構造の製造方法であって、熱硬化性の塗布型制振材をボデーパネルに塗布する工程と、前記塗布型制振材を塗布した前記ボデーパネルに前記吸遮音材を押圧し、前記ボデーパネルを前記吸遮音材で覆う工程と、前記塗布型制振材を熱硬化させる工程とを備える。前記吸遮音材が多数の凸部を備えており、前記多数の凸部は、前記ボデーパネルの凹部に対応する位置で高さ寸法が大きくなり、前記ボデーパネルの凸部に対応する位置で高さ寸法が小さくなるように前記ボデーパネルの凹凸に合わせて形成されている。
【0013】
この製造方法によれば、ボデーパネルに塗布型制振材を塗布し、塗布型制振材を塗布したボデーパネルに吸遮音材を押圧し、塗布型制振材を熱硬化させるだけで吸遮音構造を形成できるため、作業時間の短縮化が図れる。
【0014】
第7の発明によると、前記塗布型制振材を熱硬化させる工程が、焼付塗装工程である。このため、塗布型制振材を熱硬化させるための工程を新たに加えることなく、吸遮音材をボデーパネルに固定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、吸遮音材を固定するためのコストを低減できるとともに、ノイズ対策が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態1に係る吸遮音構造を備える車両の模式側面図である。
【
図2】前記吸遮音材が車両ボデーのフロアパネルに固定された状態を示す縦断面図である。
【
図4】前記吸遮音材が車両ボデーのフロアパネルに固定された状態の変更例を示す縦断面図である。
【
図5】前記吸遮音材が車両ボデーのダッシュパネルに固定された状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔実施形態1〕
以下、
図1~
図5に基づいて本発明の実施形態1に係る車両の吸遮音構造について説明する。本実施形態に係る車両の吸遮音構造は、車両ボデーの床部において使用される構造である。ここで、図中に示す前後左右、及び上下は、前記吸遮音構造を備える車両の前後左右、及び上下に対応している。
【0018】
<吸遮音構造の概要>
本実施形態に係る車両の吸遮音構造は、
図1に示すように、車両ボデーのフロアパネル4上に設置される吸遮音材2と、その吸遮音材2をフロアパネル4に固着する塗布型制振材1と、吸遮音材2の上面を覆うフロアシート3とを備えている。
【0019】
<吸遮音材2について>
吸遮音材2は、
図2に示すように、フロアパネル4の凹凸を吸収できるように、フロアパネル4の凹凸に合わせて厚み寸法が変えられている。即ち、吸遮音材2が凹凸を有するフロアパネル4を覆った状態で、吸遮音材2の上面はフロアシート3を水平に支持できるようになる。吸遮音材2は、
図2、
図3に示すように、上方向に突出する四角錐台状の多数の凸部20を備えている。即ち、凸部20は、上端壁部21と前後左右の傾斜側壁部22とを備え、内側が内部空間Sとなっている。また、凸部20の高さ寸法は、フロアパネル4の凹部の位置で大きくなるように、またフロアパネル4の凸部の位置で小さくなるように設定されている。そして、凸部20の下端がフロアパネル4の凹凸に沿う底板部23によってつなげられた状態で車両前後方向、及び車幅方向に等間隔で並べられている。このため、各々の凸部20間が凹部となっている。また、各々の凸部20の上端壁部21は同一面上に保持されており、各々の凸部20の上端壁部21がフロアシート3によって覆われている。即ち、凸部20の上端壁部21が本発明の凸部の突出端面に相当する。
【0020】
各々の凸部20には、上端壁部21に上向きに開口する孔21hが形成されており、後側の傾斜側壁部22に斜め上向きに開口する孔22hが形成されている。これにより、凸部20の内部空間Sと凸部20の外部とが孔21h,22hを通じて連通するようになる。
【0021】
この吸遮音材2の素材として、音の吸音や遮音に適した素材を用いることができ、凸部20及び凹部の外形を維持可能な剛性を備えた素材を用いることが好ましい。例えば吸遮音材2の好適な素材として、セルロース系繊維や動物繊維や鉱物繊維や無機繊維などの繊維積層体等があげられる。なかでもセルロース系繊維の繊維積層体は、吸音性能や遮音性能に優れているとともに金属や樹脂と比べて軽量であるため、吸遮音材2の素材として好ましい。このため、本実施形態では、吸遮音材2の素材としてセルロース系繊維を採用している。
【0022】
<塗布型制振材1について>
本実施形態で使用する塗布型制振材1は、熱硬化性の塗布型制振材であり、熱硬化させる前は一定の粘性及び粘着性を備える液体塗料である。このような塗布型制振材1として、例えば特開2010-111746号公報に開示された水系塗布型制振材を用いることができる。具体的には塗布型制振材1は、樹脂エマルジョン、添加剤(保水材)、無機質充填剤及びマイクロバルーン粒子等から製造することができる。より具体的には、例えば樹脂エマルジョンとしてスチレンエマルジョンを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウム及びマイカ(雲母)を用い、保水剤としてプロピレングリコールを用い、制振材の発泡剤としてマイクロバルーン粒子を配合して塗布型制振材1を製造することができる。この塗布型制振材1は、フロアパネル4に直接塗布する他、フロアパネル4の上側表面にシーラー(図示せず)を配置した後、シーラーの上から塗布することもできる。この塗布型制振材1は、焼付塗装工程において通常70℃~200℃の温度で5~30分間加熱することで硬化させることができ、焼付塗装工程において硬化させることができる。
【0023】
<吸遮音材2をフロアパネル4に固定する方法について>
まず、車両ボデーのフロアパネル4の所定位置にロボット等によって塗布型制振材1を塗布する。そして、塗布型制振材1が塗布されたフロアパネル4の所定位置に、吸遮音材2を被せて押圧する。具体的には、
図2等に示すように、フロアパネル4の所定位置に吸遮音材2の各々の凸部20をつなぐ底板部23が圧着される。このとき、底板部23はフロアパネル4の凹凸に沿ってフロアパネル4に保持された状態となっている。次に、焼付塗装工程において塗布型制振材1に熱が加えられることで、塗布型制振材1が熱硬化するのに伴い、吸遮音材2がフロアパネル4に固定される。これにより、吸遮音材2を構成する凸部20の内部空間Sの底が車両ボデーのフロアパネル4によって塞がれ、吸遮音材2はヘルムホルツ共鳴の原理を利用して車両の内外で発生する音を吸遮音できる。
【0024】
<本実施形態に係る吸遮音材2の長所について>
本実施形態に係る吸遮音材2は、熱硬化性の塗布型制振材1により車両ボデーのフロアパネル4に固定される。このため、吸遮音材2を固定するための連結構造を設ける必要がなく、吸遮音材2を固定するためのコストが低減されるとともに、連結構造のためのノイズ対策が不要となる。さらに、塗布型制振材1の制振性能によって車両のノイズの発生をさらに抑えることができる。
【0025】
[変更例]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、実施形態1では、吸遮音材2の凸部20の上端壁部21がフロアシート3と当接した状態で、吸遮音材2がフロアパネル4に固定される例を示した(
図2)。しかし
図4に示すように、上端壁部21とフロアシート3とが離間した状態で吸遮音材2が固定されてもよい。さらに、実施形態1においては略水平方向に設けられたフロアパネル4に吸遮音材2が固定される例を示した(
図2)。しかし、塗布型制振材1は水平方向の面のみならず、例えば垂直方向の面にも塗布できる。このため吸遮音材2は塗布型制振材1によって、
図5に示すように、略垂直方向に配置されるダッシュパネル5に固定することもできる。また実施形態1においては、四角錐台形の凸部20で吸遮音材2を構成し、凸部20に孔21h,22hを設ける例を示したが、吸遮音材2の形状や孔の位置・大きさ・数等は用途に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0026】
1・・・・塗布型制振材(接着剤)
2・・・・吸遮音材
4・・・・フロアパネル(ボデーパネル)
20・・・凸部
21・・・上端壁部(突出端面)
21h・・孔
22h・・孔
23・・・底板部
S・・・・内部空間