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  • 特許-誘電体膜および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】誘電体膜および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/33 20060101AFI20221122BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20221122BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20221122BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/30 544
C04B35/01
C04B35/495
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019059159
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020161625
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 眞生子
(72)【発明者】
【氏名】政岡 雷太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】大庭 悠輔
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084268(JP,A)
【文献】特開2017-172042(JP,A)
【文献】特開平05-148005(JP,A)
【文献】特開平06-338221(JP,A)
【文献】特開2012-051738(JP,A)
【文献】特開2017-014034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/33
H01G 4/30
C04B 35/01
C04B 35/495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式xAO-yBO-zCで表される複合酸化物を主成分として含む誘電体膜であって、
前記Aは、バリウム、カルシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記Bは、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記Cは、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記x、yおよびzは、x+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦(x/3)+1/9である関係を満足し、
前記誘電体膜のX線回折チャートにおいて、前記複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度、または、前記複合酸化物の(222)面の回折ピーク強度が、前記複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも大きい誘電体膜。
【請求項2】
前記複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度が、前記複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも大きく、
(211)面の回折ピーク強度をI(211)とし、(222)面の回折ピーク強度をI(222)としたときに、前記I(211)および前記I(222)が、1.2≦I(211)/I(222)である関係を満足する請求項1に記載の誘電体膜。
【請求項3】
前記I(211)および前記I(222)が、15≦I(211)/I(222)である関係を満足する請求項2に記載の誘電体膜。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の誘電体膜を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表される移動体通信機器において、高速で大容量の通信を可能とするために、使用する周波数領域の数が増加している。使用する周波数領域はGHz帯のような高周波領域である。このような高周波領域において作動するバラン、カプラ、フィルタ、あるいは、フィルタを組み合わせたデュプレクサ、ダイプレクサ等の高周波部品のなかには、誘電体材料を共振器として利用しているものがある。
【0003】
また、移動体通信機器の高性能化に伴い、1つの移動体通信機器に搭載される電子部品の数も増加する傾向にあり、移動体通信機器のサイズを維持するには、電子部品の小型化も同時に求められる。誘電体材料を用いる高周波部品を小型化するには、電極面積を小さくする必要があるため、これによる静電容量の低下を補うべく、高周波領域において、誘電体材料の比誘電率が高いことが求められる。
【0004】
特許文献1には、化学量論組成であるBa(Mg1/3Ta2/3)Oから外れた組成を有する誘電体磁器が開示され、この誘電体磁器の比誘電率が24程度であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-319162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された誘電体磁器は焼結体であるため、特許文献1に開示された誘電特性を示すには、十分な体積を有する焼結体とする必要がある。したがって、高周波領域において使用される高周波部品に適用される誘電体材料としてはサイズが大きすぎるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高周波領域において比誘電率が高い誘電体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の態様は、
[1]一般式xAO-yBO-zCで表される複合酸化物を主成分として含む誘電体膜であって、
Aは、バリウム、カルシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
Bは、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
Cは、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
x、yおよびzは、x+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦(x/3)+1/9である関係を満足し、
誘電体膜のX線回折チャートにおいて、複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度、または、複合酸化物の(222)面の回折ピーク強度が、複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも大きい誘電体膜である。
【0009】
[2]複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度が、複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも大きく、
(211)面の回折ピーク強度をI(211)とし、(222)面の回折ピーク強度をI(222)としたときに、I(211)およびI(222)が、1.2≦I(211)/I(222)である関係を満足する[1]に記載の誘電体膜である。
【0010】
[3]I(211)およびI(222)が、15≦I(211)/I(222)である関係を満足する[2]に記載の誘電体膜である。
【0011】
[4][1]から[3]のいずれかに記載の誘電体膜を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高周波領域において比誘電率が高い誘電体膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る電子部品の一例としての薄膜コンデンサの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.薄膜コンデンサ
1.1.薄膜コンデンサの全体構成
1.2.誘電体膜
1.2.1.複合酸化物
1.3.基板
1.4.下部電極
1.5.上部電極
2.薄膜コンデンサの製造方法
3.本実施形態のまとめ
4.変形例
【0015】
(1.薄膜コンデンサ)
まず、本実施形態に係る電子部品として、誘電体層が薄膜状の誘電体膜から構成される薄膜コンデンサについて説明する。
【0016】
(1.1.薄膜コンデンサの全体構成)
図1に示すように、本実施形態に係る電子部品の一例としての薄膜コンデンサ10は、基板1と、下部電極3と、誘電体膜5と、上部電極4とがこの順序で積層された構成を有している。下部電極3と誘電体膜5と上部電極4とはコンデンサ部を形成しており、下部電極3および上部電極4が外部回路に接続されて電圧が印加されると、誘電体膜5が所定の静電容量を示し、コンデンサとしての機能を発揮することができる。各構成要素についての詳細な説明は後述する。
【0017】
また、本実施形態では、基板1と下部電極3との間に、基板1と下部電極3との密着性を向上させるために下地層2が形成されている。下地層2を構成する材料は、基板1と下部電極3との密着性が十分に確保できる材料であれば特に制限されない。たとえば、下部電極3がCuで構成される場合には、下地層2はCrで構成され、下部電極3がPtで構成される場合には、下地層2はTiで構成することができる。
【0018】
また、図1に示す薄膜コンデンサ10において、誘電体膜5を外部雰囲気から遮断するための保護膜が形成されていてもよい。
【0019】
なお、薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みや長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0020】
(1.2.誘電体膜)
誘電体膜5は、後述する複合酸化物を主成分として含んでいる。本実施形態では、主成分とは、誘電体膜100mol%に対して、50mol%以上を占める成分である。
【0021】
また、本実施形態では、誘電体膜5は、公知の成膜法により形成された薄膜である。このような薄膜は、通常、基板上に原子が堆積して形成されるので、誘電体膜は、誘電体堆積膜であることが好ましい。したがって、誘電体膜は、誘電体の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる(固相反応により得られる)焼結体は含まない。
【0022】
誘電体膜5の厚みは、好ましくは10nm~4000nm、より好ましくは50nm~3000nmである。誘電体膜5の厚みが薄すぎると、誘電体膜5の絶縁破壊が生じやすい傾向にある。絶縁破壊が生じると、コンデンサとしての機能を発揮できない。一方、誘電体膜5の厚みが厚すぎると、コンデンサの静電容量を大きくするために電極面積を広くする必要があり、電子部品の設計によっては小型化および低背化が困難となる場合がある。
【0023】
なお、誘電体膜5の厚みは、誘電体膜5を含む薄膜コンデンサを、FIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して測定することができる。
【0024】
(1.2.1.複合酸化物)
複合酸化物は、A元素、B元素およびC元素を含む酸化物であり、一般式xAO-yBO-zCで表される。本実施形態では、A元素およびB元素は2価の元素から構成されており、C元素は5価の元素から構成されている。
【0025】
この一般式における「x」は、複合酸化物1.000モルにおける酸化物AOのモル数割合を示す。同様に、上記の一般式における「y」は、複合酸化物1.000モルにおける酸化物BOのモル数割合を示し、上記の一般式における「z」は、複合酸化物1.000モルにおける酸化物Cのモル数割合を示す。
【0026】
本実施形態では、「x」、「y」および「z」は、x+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦(x/3)+1/9である関係を満足する。
【0027】
「x」が小さすぎると、比誘電率が低下する傾向にある。一方、「x」が大きすぎると、A元素が過剰となり、大気中の二酸化炭素、水分等と反応しやすく、誘電体膜が変質し、形状を維持できない傾向にある。
【0028】
「y」が小さすぎると、相対的に、A元素が過剰になりやすいので、上記の傾向を示す。「y」が大きすぎると、誘電体膜にクラックが生じる傾向にある。
【0029】
「z」が小さすぎると、相対的に、A元素が過剰になりやすいので、上記の傾向を示す。「z」が大きすぎると、C元素が過剰になり、誘電体膜中に酸素欠陥が生じやすく、半導体化する傾向にある。
【0030】
本実施形態では、A元素は、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)からなる群から選ばれる少なくとも1つである。A元素は、少なくともバリウムを含むことが好ましく、この場合、A元素は、バリウム、または、バリウムとカルシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つとである。A元素として、少なくともバリウムが含まれることにより、比誘電率が向上する傾向にある。
【0031】
本実施形態では、B元素は、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)からなる群から選ばれる少なくとも1つである。B元素は、少なくともマグネシウムを含むことが好ましく、この場合、B元素は、マグネシウム、または、マグネシウムおよび亜鉛である。B元素として、少なくともマグネシウムが含まれることにより、比誘電率が向上する傾向にある。
【0032】
本実施形態では、C元素は、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも1つである。B元素は、少なくともタンタルを含むことが好ましく、この場合、B元素は、タンタル、または、タンタルおよびニオブである。C元素として、少なくともタンタルが含まれることにより、比誘電率が向上する傾向にある。
【0033】
本実施形態に係る誘電体膜は結晶配向性を有している。このような結晶配向性は、公知の成膜法を用いて誘電体膜を形成することにより得られる。一方、誘電体の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる、すなわち、固相反応により得られる焼結体においては、通常、結晶粒子の結晶配向性はランダムなので、当該焼結体は結晶配向性を有していない。
【0034】
また、本実施形態に係る誘電体膜に含まれる結晶は、上記の複合酸化物の(211)面または(222)面に優先配向している。換言すれば、本実施形態に係る誘電体膜に含まれる結晶は、<211>方向または<222>方向に優先的に結晶成長している。
【0035】
本実施形態では、誘電体膜のX線回折測定により得られるX線回折チャートにおいて、複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度、または、複合酸化物の(222)面の回折ピーク強度は、複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも大きい。
【0036】
上記の複合酸化物においては、通常、(110)面の回折ピークの強度が、他の回折ピークの強度よりも大きい。しかしながら、本実施形態では、複合酸化物の(110)面の回折ピーク強度よりも、複合酸化物の(211)面の回折ピーク強度、または、複合酸化物の(222)面の回折ピーク強度が大きくなるよう誘電体膜の結晶配向性を制御している。
【0037】
このような結晶配向性の制御により、誘電体膜の比誘電率が向上する。本実施形態では、X線回折チャートにおいて、(211)面の回折ピーク強度が、(110)面の回折ピーク強度よりも大きいことが好ましい。
【0038】
特に、(222)面の回折ピーク強度に対する(211)面の回折ピーク強度の比が特定の範囲内であることが好ましい。
【0039】
具体的には、(211)面の回折ピーク強度をI(211)とし、(222)面の回折ピーク強度をI(222)としたときに、I(211)およびI(222)が、1.2≦I(211)/I(222)である関係を満足することが好ましい。また、I(211)およびI(222)が、15≦I(211)/I(222)である関係を満足することがより好ましい。(222)面に優先配向するよりも、(211)面に優先配向している方が、誘電体膜の比誘電率が向上する傾向にあるからである。
【0040】
なお、X線源として、Cu-Kα線を用いる場合、(211)面の回折ピークは回折角2θが54°近傍にあらわれ、(222)面の回折ピークは回折角2θが80°近傍にあらわれる。
【0041】
誘電体膜の結晶配向性の制御は公知の方法で行えばよい。たとえば、成膜法の種類、成膜時の基板温度、成膜時に与えるエネルギー、成膜時の雰囲気が例示される。
【0042】
また、本実施形態に係る誘電体膜は、本発明の効果を奏する範囲内において、微量な不純物、副成分等を含んでいてもよい。
【0043】
(1.3.基板)
図1に示す基板1は、その上に形成される下地層2、下部電極3、誘電体膜5および上部電極4を支持できる程度の機械的強度を有する材料で構成されていれば特に限定されない。たとえば、Si単結晶、SiGe単結晶、GaAs単結晶、InP単結晶、SrTiO単結晶、MgO単結晶、LaAlO単結晶、ZrO単結晶、MgAl単結晶、NdGaO単結晶等から構成される単結晶基板、Al多結晶、ZnO多結晶、SiO多結晶等から構成されるセラミック多結晶基板、Ni、Cu、Ti、W、Mo、Al、Pt等の金属、それらの合金等から構成される金属基板等が例示される。本実施形態では、低コスト、加工性等の観点から、Si単結晶を基板として用いる。
【0044】
基板1の厚みは、たとえば、10μm~5000μmに設定される。厚みが小さすぎると、機械的強度が確保できない場合が生じることがあり、厚みが大きすぎると、電子部品の小型化に寄与できないといった問題が生じる場合がある。
【0045】
上記の基板1は、基板の材質によってその抵抗率が異なる。抵抗率が低い材料で基板を構成する場合、薄膜コンデンサの作動時に基板側への電流のリークが生じ、薄膜コンデンサの電気特性に影響を及ぼすことがある。そのため、基板1の抵抗率が低い場合には、その表面に絶縁処理を施し、コンデンサ作動時の電流が基板1へ流れないようにすることが好ましい。
【0046】
たとえば、Si単結晶を基板1として使用する場合においては、基板1の表面に絶縁層が形成されていることが好ましい。基板1とコンデンサ部との絶縁が十分に確保されていれば、絶縁層を構成する材料およびその厚みは特に限定されない。本実施形態では、絶縁層を構成する材料として、SiO、Al、Si等が例示される。また、絶縁層の厚みは、0.01μm以上であることが好ましい。
【0047】
(1.4.下部電極)
図1に示すように、基板1の上には、下地層2を介して、下部電極3が薄膜状に形成されている。下部電極3は、後述する上部電極4とともに誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。下部電極3を構成する材料は、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu等の金属、それらの合金、または、導電性酸化物等が例示される。
【0048】
下部電極3の厚みは、電極として機能する程度の厚みであれば特に制限されない。本実施形態では、厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0049】
(1.5.上部電極)
図1に示すように、誘電体膜5の表面には、上部電極4が薄膜状に形成されている。上部電極4は、上述した下部電極3とともに、誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。したがって、上部電極4は、下部電極3とは異なる極性を有している。
【0050】
上部電極4を構成する材料は、下部電極3と同様に、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu等の金属、それらの合金、又は、導電性酸化物等が例示される。
【0051】
(2.薄膜コンデンサの製造方法)
次に、図1に示す薄膜コンデンサ10の製造方法の一例について以下に説明する。
【0052】
まず、基板1を準備する。基板1として、たとえば、Si単結晶基板を用いる場合、当該基板の一方の主面に絶縁層を形成する。絶縁層を形成する方法としては、熱酸化法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の公知の成膜法を用いればよい。
【0053】
続いて、形成された絶縁層上に、公知の成膜法を用いて下地層を構成する材料の薄膜を形成して下地層2を形成する。
【0054】
下地層2を形成した後、当該下地層2上に、公知の成膜法を用いて下部電極を構成する材料の薄膜を形成して下部電極3を形成する。
【0055】
下部電極3の形成後に、下地層2と下部電極3との密着性向上、および、下部電極3の安定性向上を図る目的で、熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては、たとえば、昇温速度は好ましくは10℃/分~2000℃/分、より好ましくは100℃/分~1000℃/分である。熱処理時の保持温度は、好ましくは400℃~800℃、その保持時間は、好ましくは0.1時間~4.0時間である。熱処理条件が上記の範囲外である場合には、下地層2と下部電極3との密着不良、下部電極3の表面に凹凸が発生しやすくなる。その結果、誘電体膜5の誘電特性の低下が生じやすくなる。
【0056】
続いて、下部電極3上に誘電体膜5を形成する。本実施形態では、公知の成膜法により、誘電体膜5を構成する材料を下部電極3上に薄膜状に堆積させた堆積膜としての誘電体膜5を形成する。
【0057】
公知の成膜法としては、たとえば、真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO-CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)、ゾルゲル法、CSD(化学溶液堆積法)が例示される。本実施形態では、結晶配向性の制御、コスト等の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0058】
なお、成膜時に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料、有機金属材料等)には微量の不純物、副成分等が含まれている場合があるが、所望の誘電特性が得られれば、特に問題はない。
【0059】
スパッタリング法を用いる場合、所望の組成のターゲットを用いて、下部電極上に誘電体膜を形成する。本実施形態では、誘電体膜を結晶として成膜することが好ましい。誘電体膜を結晶として成膜することにより、成膜後のアニール処理が不要となる。したがって、結晶配向性の制御が容易となり、(211)面の回折ピーク強度および(222)面の回折ピーク強度を上述した関係とすることが容易となる。
【0060】
誘電体膜を結晶として成膜するには、たとえば、基板温度は高い方が好ましく、スパッタリング時に投入する電力は大きい方が好ましく、スパッタリング時の成膜圧力は低い方が好ましい。このような成膜条件を適宜組み合わせればよい。
【0061】
次に、形成した誘電体膜5上に、公知の成膜法を用いて上部電極を構成する材料の薄膜を形成して上部電極4を形成する。
【0062】
以上の工程を経て、図1に示すように、基板1上に、コンデンサ部(下部電極3、誘電体膜5および上部電極4)が形成された薄膜コンデンサ10が得られる。なお、誘電体膜5を保護する保護膜は、少なくとも誘電体膜5が外部に露出している部分を覆うように公知の成膜法により形成すればよい。
【0063】
(3.本実施形態のまとめ)
本実施形態では、成膜法により得られる誘電体膜の主成分として、バリウム、カルシウムおよびストロンチウムから選ばれるA元素と、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれるB元素と、ニオブおよびタンタルから選ばれるC元素との複合酸化物に着目している。
【0064】
この複合酸化物において、A元素、B元素およびC元素の含有割合を上述した範囲内にする組成の最適化に加えて、誘電体膜の結晶配向性を制御することにより、複合酸化物の所定の回折ピーク強度を所定の関係としている。その結果、誘電体膜の比誘電率を向上させることができる。
【0065】
通常、上記の複合酸化物では、(110)面の回折ピーク強度が最も大きいが、本発明者らは、(211)面の回折ピーク強度、または、(222)面の回折ピーク強度を、(110)面の回折ピーク強度より大きくすることにより、誘電体膜の比誘電率が向上することを見出した。
【0066】
また、(211)面の回折ピーク強度を、(222)面の回折ピーク強度よりも大きくすることにより、誘電体膜の比誘電率がさらに向上することを見出した。
【0067】
さらに、本発明者らは、上記のピーク強度比の関係を得るには、成膜法、成膜条件等を変更することにより達成できることも見出した。
【0068】
(4.変形例)
上述した実施形態では、誘電体膜が本実施形態に係る誘電体膜のみで構成される場合を説明したが、本実施形態に係る誘電体膜と別の誘電体組成物から構成される膜とを組み合わせた積層構造を有する電子部品でもよい。たとえば、既存のSi、SiO、Al、ZrO、Ta等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜5のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態に係る誘電体膜を複数有する積層キャパシタであってもよい。
【0070】
上述した実施形態では、基板と下部電極との密着性を向上させるために、下地層を形成しているが、基板と下部電極との密着性が十分確保できる場合には、下地層は省略することができる。また、基板を構成する材料として、電極として使用可能なCu、Pt等の金属、それらの合金、酸化物導電性材料等を用いる場合には、下地層および下部電極は省略することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例
【0072】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1および比較例1)
まず、誘電体膜の形成に必要なターゲットを以下のようにして作製した。
【0074】
A元素の原料粉末として、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)および炭酸ストロンチウム(SrCO)の各粉末を準備し、B元素の原料粉末として、酸化マグネシウム(MgO)および酸化亜鉛(ZnO)の各粉末を準備し、C元素の原料粉末として、酸化ニオブ(Nb)および酸化タンタル(Ta)の各粉末を準備した。これらの粉末を、表1に示す実施例1および比較例1の各試料の組成となるように秤量した。
【0075】
秤量したB元素の原料粉末とC元素の原料粉末と水とφ2mmのZrOビーズとを、容積が1Lのポリプロピレン製広口ポットに入れて湿式混合を20時間行った。その後、混合粉末スラリーを100℃で20時間乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中1250℃で5時間保持する焼成条件で1次仮焼を行い、B元素とC元素との複合酸化物を含む1次仮焼粉末を得た。
【0076】
得られた1次仮焼粉末とA元素の原料粉末と水とφ2mmのZrOビーズとを、容積が1Lのポリプロピレン製広口ポットに入れて湿式混合を20時間行った。その後、混合粉末スラリーを100℃で20時間乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中1050℃で5時間保持する焼成条件で2次仮焼を行い、A元素とB元素とC元素との複合酸化物を含む2次仮焼粉末を得た。
【0077】
B元素を含まないAO-C系化合物は、目的とするAO-BO-Cの生成を阻害してしまうが、このように2段階の仮焼を行うことで、AO-C系化合物が生成することを抑制することができる。
【0078】
得られた2次仮焼粉末を乳鉢に入れ、バインダとして濃度6wt%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を、2次仮焼粉末に対して10wt%となるように添加し、乳棒を使用して造粒粉を作製した。作製した造粒粉を、厚みが5mm程度となるようにφ100mmの金型に投入し、一軸加圧プレス機を使用して加圧成形を行い成形体を得た。成形条件は、圧力を2.0×10Pa、温度を室温とした。
【0079】
その後、得られた成形体について、昇温速度を100℃/時間、保持温度を400℃、温度保持時間を4時間とし、常圧の大気中で脱バインダ処理を行った。続いて、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1600℃~1700℃、温度保持時間を12時間とし、常圧の大気中で焼成を行い、焼結体を得た。
【0080】
得られた焼結体の厚さが4mmとなるように、円筒研磨機で両面を研磨し、誘電体膜を形成するためのターゲットを得た。
【0081】
続いて、350μm厚のSi単結晶基板の表面に6μm厚の絶縁層としてのSiOを備えた10mm×10mm角の基板を準備した。この基板の表面に、下地層としてのTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0082】
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極としてのPt薄膜を100nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0083】
形成したTi/Pt薄膜に対し、昇温速度を400℃/分、保持温度を700℃、温度保持時間を30分、雰囲気を酸素雰囲気とし常圧下で熱処理を行った。
【0084】
熱処理後のTi/Pt薄膜上に誘電体膜を形成した。本実施例では、試料番号23を除き、上記で作製したターゲットを用いて、下部電極上に2000nmの厚さとなるようにスパッタリング法で誘電体膜を形成した。スパッタリング法による成膜では、基板温度、スパッタリング時の投入電力および成膜圧力を表1に示す条件とした。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が成膜されない領域を形成した。
【0085】
また、試料番号23では、上記で作製したターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。成膜条件は、成膜圧力を1×10-1 (Pa)とし、基板温度を200℃とした。また、試料番号1~22と同様に、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が一部成膜されない領域を形成した。
【0086】
また、試料番号22では、成膜された誘電体膜を600℃で30分保持するアニール処理を行い、誘電体膜の結晶化を行った。
【0087】
次いで、得られた誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、図1に示す構成を有する薄膜コンデンサの試料(試料番号1~23)を得た。
【0088】
なお、誘電体膜の組成は、すべての試料について、XRF(蛍光X線元素分析)を用いて分析を行い、表1に記載の組成と一致していることを確認した。また、誘電体膜の厚みは、薄膜コンデンサをFIBで掘削し、得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して測長した値とした。
【0089】
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率を下記に示す方法により測定した。また、誘電体膜のXRD測定を下記に示す方法により行い、(211)面の回折ピーク強度、(222)面の回折ピーク強度および(110)面の回折ピーク強度を算出した。
【0090】
(比誘電率)
比誘電率は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz、入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と、上記で得られた誘電体膜の厚みと、から算出した。本実施例では、比誘電率は高い方が好ましく、比誘電率が30以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0091】
(XRD測定)
誘電体膜に対してXRD測定を行い、得られるX線回折チャートにおいて、(211)面の回折ピーク強度、(222)面の回折ピーク強度および(110)面の回折ピーク強度を算出して、表1に示す関係を算出した。
【0092】
XRD測定では、X線源としてCu-Kα線を用い、その測定条件は、電圧が45kV、電流が200mAで、2θ=20°~90°の範囲とした。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲内であり、かつ所定の回折ピーク強度が上述した関係を満足する試料は、高周波領域(2GHz)において高い比誘電率を示すことが確認できた。
【0095】
一方、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲外である試料は、所定の回折ピーク強度が上述した関係を満足しておらず、高周波領域における比誘電率が低いことが確認できた。また、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲内であっても、所定の回折ピーク強度が上述した関係を満足しない場合には、高周波領域における比誘電率が低いことが確認できた。
【0096】
(実施例2および3)
試料番号1、3、5および7について、成膜条件を表2に示す条件に変更した以外は、実施例1と同じ条件により誘電体膜を形成し、実施例1と同じ条件により誘電体膜を評価した。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2より、基板温度が高くなると、比誘電率が向上することが確認できた。すなわち、成膜条件により誘電体膜の結晶配向性を制御できることが確認できた。
【0099】
(実施例4~6)
試料番号9について、成膜条件を表3に示す条件に変更した以外は、実施例1と同じ条件により誘電体膜を形成し、実施例1と同じ条件により誘電体膜を評価した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3より、投入電力が高くなると、比誘電率が向上することが確認できた。また、成膜圧力が高くなると、比誘電率が低下することが確認できた。すなわち、成膜条件により誘電体膜の結晶配向性を制御できることが確認できた。
【0102】
さらに、(222)面の回折ピークが観察されず、(211)面の回折ピークのみが観察される場合には、比誘電率が向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、高周波領域において比誘電率が高い誘電体膜が得られる。このような薄膜状の誘電体膜は、高周波用の電子部品、たとえば、バラン、カプラ、フィルタ、あるいは、フィルタを組み合わせたデュプレクサ、ダイプレクサ等に好適である。
【符号の説明】
【0104】
10… 薄膜コンデンサ
1… 基板
2… 下地層
3… 下部電極
4… 上部電極
5… 誘電体膜
図1