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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】給湯機および給湯方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/30 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
B22D17/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019061013
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157356
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】進藤 浩二
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-181616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を汲み上げるラドルと、
前記ラドルを、汲み上げられた前記溶湯を給湯する前進限と、前記溶湯を汲み上げる後退限との間を搬送させる搬送機構と、
前記溶湯の汲み上げの際、および、前記溶湯の給湯の際に、前記ラドルを傾転させる傾転機構と、を備え、
前記搬送機構は、
前記溶湯の給湯の際に、前記ラドルが前記前進限に近づくと、前記ラドルを減速させ、
前記傾転機構は、
前記ラドルの減速の際に、前記溶湯の給湯の際の前記ラドルの傾転とは逆向きに、前記ラドルを傾転させ、かつ、
前記搬送機構は、
第1出力軸を有する第1回転電機と、
前記第1出力軸により揺動運動する第1アームと、
前記第1アームの前記第1出力軸から所定距離だけ離れた位置に設けられ、前記第1出力軸と平行な第2出力軸を有する第2回転電機と、
前記第2出力軸により揺動運動する第2アームと、
前記第2アームに支持される第3回転電機と、を備え、
前記傾転機構は、
前記第3回転電機の回転軸が発生させる軸力により、前記ラドルを傾転させる給湯機。
【請求項2】
前記搬送機構は、
前記ラドルを前記前進限に向けて増速した後に、前記ラドルを減速させ、
前記前進限に向けた増速は、
前記ラドルが水平方向に沿っているか、または、前記溶湯の給湯の際の前記ラドルの傾転と同じ向きに前記ラドルを傾転させて行われる、
請求項1に記載の給湯機。
【請求項3】
前記第3回転電機の回転軸に生ずるトルクに基づいて、前記ラドルに汲み上げられた前記溶湯の量を特定する、
請求項1または請求項2に記載の給湯機。
【請求項4】
特定された前記溶湯の量に基づいて、前記ラドルの減速の際の前記ラドルの傾転の程度、および、前記ラドルの増速の際の前記ラドルの傾転の程度、を制御する、
請求項に記載の給湯機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の給湯機により、保持炉からラドルにより溶湯を汲み上げ、給湯位置までラドルを移動して給湯する給湯方法であって、
前記溶湯を汲み上げた前記ラドルを水平に保持して前記給湯位置の手前の中間位置まで水平のまま移動する第1ステップと、
前記中間位置を過ぎた後に、前記給湯位置までの前記ラドルの移動中に移動速度を減速しつつ前記ラドルを給湯の際の傾転とは逆向きに傾転させる第2ステップと、
前記給湯位置に達すると、前記ラドルを給湯の際の向きに傾転させて給湯する第3ステップと、を備える給湯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドチャンバー式のダイカスト鋳造装置に好適に用いられる給湯機および給湯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コールドチャンバー式のダイカスト鋳造装置には、溶解炉から所定量の金属溶湯(以下、単に溶湯)をラドルにより汲み上げて、ラドルを射出スリーブの給湯口まで移動させ、ラドル内の溶湯を給湯口から射出スリーブ内に注ぎ込む給湯機が用いられている。
給湯機は、ラドルを射出スリーブの給湯口まで移動させる過程でラドルから溶湯を溢れさせないことが求められる。ラドルから溶湯が溢れると、射出スリーブへの給湯量が確保できなくなるからである。一方で、鋳造のサイクルタイムを短くするために、ラドルを射出スリーブの給湯口まで移動させる時間をできる限り短くすることが求められる。
【0003】
溶湯を溢れさせないこと、および、鋳造のサイクルタイムを減少させることを目的として、特許文献1は、以下の手法を提案する。つまり、特許文献1は、給湯位置までの移動区間の中間位置までラドルを水平に保ったままで移動する工程と、その中間位置を過ぎた後は給湯位置までのラドルの移動速度を減速しつつラドルを給湯開始の傾転角よりも所定量手前まで順次傾転させる工程と、を備える。この順次傾転させる工程を備えることにより、特許文献1は、ラドルから溶湯を溢れさせずに、かつ、ラドルの移動時間を短くできるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3116147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
給湯機において、溶湯を溢れさせないためには、給湯位置に近づくにつれて、ラドルの移動速度を減速させる必要がある。このラドルの減速は、ラドルに収容される溶湯に慣性力を生じさせるので、溶湯の湯面が揺れるスロッシング(sloshing)が起き、溶湯を溢れさせる要因となる。特許文献1は、中間位置を過ぎると給湯時と同じ向きにラドルを傾転させるが、この向きの傾転は慣性力により溶湯が溢れるのを助長することになり、移動速度を相当に減速する必要があるので、その分だけ移動時間が長くなる。
そこで本発明は、給湯位置に近づいたときの減速時に、慣性力により溶湯がラドルから溢れにくくすることで、ラドルの移動時間をより短くできる給湯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の給湯機は、溶湯を汲み上げるラドルと、ラドルを、汲み上げられた溶湯を給湯する前進限と、溶湯を汲み上げる後退限との間を搬送させる搬送機構と、溶湯の汲み上げの際、および、溶湯の給湯の際に、ラドルを傾転させる傾転機構と、を備える。
本発明における搬送機構は、溶湯の給湯の際に、ラドルが前進限に近づくと、ラドルを減速させる。
本発明における傾転機構は、ラドルの減速の際に、溶湯の給湯の際のラドルの傾転とは逆向きに、ラドルを傾転させる。
【0007】
本発明における搬送機構は、好ましくは、ラドルを前進限に向けて増速した後に、ラドルを減速させる。
この前進限に向けた増速は、好ましくは、ラドルが水平方向に沿っているか、または、溶湯の給湯の際のラドルの傾転と同じ向きにラドルを傾転させて行われる。
【0008】
本発明における搬送機構は、好ましくは、第1出力軸を有する第1回転電機と、第1出力軸により揺動運動する第1アームと、第1アームの前記第1出力軸から所定距離だけ離れた位置に設けられ、第1出力軸と平行な第2出力軸を有する第2回転電機と、第2出力軸により揺動運動する第2アームと、第2アームに支持される第3回転電機と、を備える。
本発明における傾転機構は、好ましくは、第3回転電機の回転軸が発生させる軸力により、ラドルを傾転させる。
【0009】
本発明における給湯機は、好ましくは、第3回転電機の回転軸に生ずるトルクに基づいて、ラドルに汲み上げられた前記溶湯の量を特定する。
本発明における給湯機は、好ましくは、この特定された溶湯の量に基づいて、ラドルの減速の際のラドルの傾転の程度、および、ラドルの増速の際のラドルの傾転の程度、を制御する。
【0010】
本発明は、保持炉からラドルにより溶湯を汲み上げ、給湯位置までラドルを移動して給湯する給湯方法を提供する。
この給湯方法は、溶湯を汲み上げたラドルを水平に保持して給湯位置の手前の中間位置まで水平のまま移動する第1ステップと、中間位置を過ぎた後に、給湯位置までのラドルの移動中に移動速度を減速しつつラドルを給湯の際の傾転とは逆向きに傾転させる第2ステップと、給湯位置に達すると、ラドルを給湯の際の向きに傾転させて給湯する第3ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の給湯機によれば、前進限にラドルが近づくと、ラドルを逆傾転させる。これにより、慣性力により溶湯がラドルから溢れるのを抑えることができる。したがって、本発明の給湯機によれば、前進限の直前でラドルの減速を行うことができるので、減速に要する距離、つまり時間を短くできるので、溶湯が溢れるのを防ぎながら鋳造のサイクルタイムを短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る給湯機の概略構成を示す部分正面断面図である。
図2】本実施形態に係る給湯機の概略構成を示す側面図である。
図3】本実施形態に係る給湯機のラドルの動作を示す図である。
図4】本実施形態に係る給湯機におけるラドルの移動動作を示す図であり、(a)は前進移動の動作を、(b)は後退移動の動作を示している。
図5】本実施形態に係る給湯機において溶湯の溢れを防止できる理由を説明するための図であり、(a)は従来例を、(b)は本実施形態示している。
図6】本実施形態に係る給湯機の効果を説明するための他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る給湯機1について説明する。
給湯機1は、所定量の溶湯をラドル71により汲み上げて、ラドル71をコールドチャンバー方式のダイカスト鋳造装置の射出スリーブの給湯口まで搬送し、ラドル71に貯留される溶湯を給湯口から射出スリーブ内に注ぎ込む。
給湯機1は、ラドル71が給湯口に近づくと、溶湯を射出スリーブに注ぎ込むのとは逆向きにラドル71を傾転させる。この逆傾転という動作を行うことにより溶湯が溢れにくくすることで、前進限FTの直前までラドル71の減速を行うことができる。これにより、本実施形態によれば、減速に要する距離、つまり時間を短くできるので、溶湯が溢れるのを防ぎながら鋳造のサイクルタイムを短くできる。
【0014】
[給湯機1の全体構成]
給湯機1は、図1および図2に示すように、支持台3と、支持台3に支持される第1駆動機構10と、第1駆動機構10に支持される第2駆動機構30と、第2駆動機構30に支持される第3駆動機構50と、第3駆動機構50により揺動運動するラドル機構70と、を備える。第1駆動機構10、第2駆動機構30および第3駆動機構50のそれぞれは、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51を備える。
給湯機1は、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51の動作を制御するコントローラ80を備える。
以下、それぞれの要素についてその構成を順に説明する。
【0015】
[支持台3]
支持台3は、ダイカスト鋳造装置の射出部横に固定される。支持台3は、第1駆動機構10を介して第2駆動機構30およびラドル機構70を含む第3駆動機構50を支持できるように、所定の強度を有する金属材料を組み合わせて構成されている。
【0016】
[第1駆動機構10]
第1駆動機構10は、図1および図2に示すように、第1出力軸12を有し支持台3に支持される第1回転電機11と、第1出力軸12の正転または逆転(以下、正逆回転)に伴って揺動運動する第1アーム21と、を備える。第1駆動機構10は、第1アーム21を揺動運動させる。
【0017】
第1回転電機11は、コントローラ80により正逆回転および回転速度が制御されるサーボモータから構成される。第2回転電機31および第3回転電機51も同様にサーボモータから構成され、これら3つのサーボモータは、コントローラ80の指示により同期制御され得る。
【0018】
第1出力軸12の回転駆動力は、第1減速機14を介して第1アーム21に伝えられる。第1減速機14は回転軸15を備え、第1出力軸12の回転駆動力を減速して回転軸15から駆動力が伝達される。
回転軸15は、支持台3に固定される転がり軸受17に嵌合される。したがって、回転軸15は転がり軸受17に支持されながら、第1回転電機11の動作に従って正逆回転する。
【0019】
次に、第1アーム21は、図1および図2に示すように、その長手方向の一方の端部に回転軸15が固定され、他方の端部に第2駆動機構30の第2回転電機31が設けられる。
第1アーム21は、横断面が例えば矩形の中空構造をなしており、その空隙25を取り囲む側壁23の第1回転電機11に対向する側に、回転軸15の先端が嵌合される貫通孔27が形成されている。回転軸15がこの貫通孔27に嵌合される。これにより第1アーム21は、第1回転電機11の正逆回転に従って、回転軸15を中心にして揺動運動する。なお、揺動運動とは、所定の回転角度の範囲で正転および逆転することをいう。
第1アーム21は、第2回転電機31を支持するために、その長手方向の他方の端部における側壁23を厚さ方向に貫通する支持孔28が空けられている。
【0020】
[第2駆動機構30]
次に、図1および図2を参照して、第2駆動機構30について説明する。
第2駆動機構30は、第2出力軸32を有し第1アーム21に支持される第2回転電機31と、第2出力軸32の正逆回転に伴って揺動運動する第2アーム41と、を備える。第2出力軸32は第1出力軸12と平行をなしている。第2駆動機構30は、第2アーム41を揺動運動させる。第2アーム41は、その揺動運動の軌跡が形成する面と、第1アーム21における揺動運動の軌跡が形成する面と平行に配置され、かつ、長さが概ね等しい。
【0021】
第2出力軸32の回転駆動力は、第2減速機34を介して第2アーム41に伝えられる。第2減速機34は出力軸33を備え、第2出力軸32の回転駆動力を減速して回転軸33から駆動力が伝達される。
回転軸33は、転がり軸受37に支持されながら、第2回転電機31の動作に従って正逆回転する。
【0022】
第2回転電機31、回転軸33、第2減速機34などの要素は、ハウジング40に収容された状態で、第1アーム21に保持される。
【0023】
次に、第2アーム41は、図1および図2に示すように、その長手方向の一方の端部に回転軸33が固定され、他方の端部にラドル機構70が支持されている。
第2アーム41は、回転軸33が固定される基端アーム42と、基端アーム42の先端に接続される先端アーム43と、を備える。基端アーム42および先端アーム43ともに中空構造を有している。
【0024】
基端アーム42の中空部には中空軸44がブッシュ45,45を介して嵌合されている。中空軸44は、基端アーム42の先端(図1の下方)から所定寸法だけ突出しており、この先端には先端アーム43との接合用のフランジ46が設けられている。また、中空軸44は、基端アーム42の後端から所定寸法だけ突出しており、その先端(図1の上方)には第3駆動機構50の第3回転電機51が載せられている。
回転軸33は、基端アーム42の側面に固定される。
【0025】
中空軸44および先端アーム43の内側には、後述する第3回転電機51に接続される回転軸53が配置される。回転軸53は第3駆動機構50の要素である。
【0026】
先端アーム43は、基端アーム42と接続される側に基端アーム42との接合用のフランジ47が設けられており、フランジ46とフランジ47は例えばボルトとナットによる締結、溶接などの手段により接合される。
先端アーム43の先端(図1の下端)にはラドル機構70の傾転に関与するギヤボックス75が設けられている。ギヤボックス75は、第3駆動機構50の要素である。
【0027】
以上の構成を備える第2アーム41は、第2回転電機31の正逆回転に従って、回転軸33を中心にして揺動運動する。この揺動運動は、第1アームの揺動運動と平行をなしている。
【0028】
[第3駆動機構50]
次に、図1および図2を参照して、第3駆動機構50について説明する。
第3駆動機構50は、ラドル機構70を傾転運動させる。
第3駆動機構50は、第3出力軸52を有し第2アーム41に支持される第3回転電機51と、第3出力軸52の正逆回転に伴って正逆回転する回転軸53と、を備える。第3出力軸52は第1出力軸12および第2出力軸32と向きが直交している。
【0029】
第3出力軸52の回転駆動力は、第3減速機54を介して回転軸53に伝えられる。第3減速機54は、第3出力軸52の回転駆動力を減速して回転軸53に伝達する。
回転軸53は、2本の部材を軸接手56により接続して構成される。第2アーム41の先端アーム43の内部において、回転軸53は転がり軸受57,57で回転可能に支持される。回転軸53の先端は先端アーム43から所定寸法だけ突出し、その突出した部分はギヤボックス75に入り込んでいる。回転軸53はギヤボックス75の内部においても、転がり軸受57により回転可能に支持される。ギヤボックス75の内部において、回転軸53の先端にはマイタギヤ72Aが固定されている。マイタギヤ72Aは、ラドル機構70の傾転軸73に取り付けられるマイタギヤ72Bと噛み合う。
回転軸53、マイタギヤ72A、マイタギヤ72Bは、第3出力軸53における正逆回転を傾転軸73の正逆回転に変換する変換機構を構成する。
【0030】
第3回転電機51は基端アーム42の後端側(図1上方)に配置されており、第3回転電機51と基端アーム42の間には回り止め機構60が介在している。回り止め機構60は、第3回転電機51の回転駆動力によって第2アーム41が一点鎖線で示される軸線の回りに回転するのを阻止するために設けられている。回り止め機構60は、基端アーム42の後端面に固定される断面が略U字状のブラケット61と、ブラケット61に支持される軸受62と、軸受62に支持される回転防止軸63と、を備える。ブラケット61は、中空軸44の外周に嵌合により保持されている。また、回り止め機構60は、第3減速機54が載せられる支持台64と、支持台64に支持される回転防止管65と、回転防止管65の内側に嵌合されるブッシュ66と、を備え、回転防止軸63がブッシュ66の内側に嵌合される。この回転防止軸63とブッシュ66を介した回転防止管65との嵌合関係により、第3回転電機51の回転駆動力により第2アーム41に回転力が伝達されるのを防止する。
【0031】
第3回転電機51と基端アーム42の間には、計量器としてのロードセル59が設けられている。ロードセル59は、支持台64の下面に固定されるリング状の荷重伝達体67から荷重を受ける。ここで、支持台64は、その下面に中空軸44が固定されているので、中空軸44の荷重を受ける。中空軸44には、基端アーム42が固定され、また、先端アーム43が固定されているので、ラドル機構70を含む第2アーム41の荷重が付加される。さらに、支持台64には、支持台64を含む回り止め機構60および第3回転電機51の荷重を受ける。このように、ロードセル59は、ラドル71が設けられる第2アーム41および第3駆動機構50の荷重を受ける。したがって、ラドル71に溶湯が収容されているときとラドル71に溶湯がないときのロードセル59における測定の差分を溶湯の量として特定できる。
【0032】
[ラドル機構70]
ラドル機構70は、溶湯を汲み上げるラドル71と、ラドル71に固定される傾転軸73と、傾転軸73に固定されるマイタギヤ72Bと、第2アーム41の先端に固定されるギヤボックス75と、を備える。傾転軸73は、ギヤボックス75の内部において、転がり軸受77,77に回転可能に支持される。また、傾転軸73に固定されるマイタギヤ72Bは、ギヤボックス75の内部においてマイタギヤ72Aと噛み合う。
【0033】
[第3回転電機51とラドル71の位置関係]
図2に示すように、第3回転電機51は第2アーム41の長手方向の一方の端部に設けられ、また、ラドル71は第2アーム41の他方の端部に設けられる。しかも、第2アーム41の回転軸33が第3回転電機51とラドル71の間に配置される。これは第2アーム41の駆動源である第2回転電機31のトルクが小さくて済むことを意味する。
いま、第2アーム41を時計回りCWに回転させようとするとき、ラドル機構70の重量に抗して回転モーメントM70に対応する回転トルクが必要である。ところが、第3回転電機51が設けられており、第3回転電機51の自重による回転モーメントM50が回転モーメントM70と同じ向きに生ずる。例えば、図2において、回転モーメント70が時計回りCWに生ずるときに、回転モーメントM50も時計回りCWに生ずる。したがって、第3回転電機51に必要な回転トルクは、回転モーメントM70から回転モーメントM50を差し引いた分で足りる。
【0034】
例えば第2出力軸32を基準にしてラドル71が設けられる側と同じ側に第3回転電機51を設けることもできる。なお、この場合には第3出力軸52はラドル71の傾転軸73と平行をなす。ラドル71と第3回転電機51が第2出力軸32を基準として同じ側に設けられると、第3回転電機51には、回転モーメントM70に回転モーメントM50を加えた分の回転トルクが必要になる。
【0035】
[給湯機1の基本動作]
次に、図2を参照して給湯機1の基本的な動作を説明する。この動作は、コントローラ80からの指示に従って行われる。なお、以下の説明の時計回りCWおよび反時計回りCCWは、図2を正面から視たことを前提としている。
第1回転電機11が正転すると第1アーム21が時計回りCWに回転し、第1回転電機11が逆転すると第1アーム21が反時計回りCCWに回転する。
第2回転電機31が正転すると第2アーム41が時計回りCWに回転し、第2回転電機31が逆転すると第2アーム41が反時計回りCCWに回転する。
また、第3回転電機51が正転するとラドル71が時計回りCWに傾転し、第3回転電機51が逆転するとラドル71が反時計回りCCWに傾転する。
【0036】
[給湯機1における前進移動および後退移動]
以上の基本的な動作を行う給湯機1は、図3に示すように、溶湯が汲み上げられたラドル71を給湯する位置(前進限FL)まで移動する前進移動FTと、給湯したのちに次の溶湯を汲み上げる位置(後退限RL)までラドル71が移動する後退移動RTが行われる。この前進移動FTおよび後退移動RTにおけるラドル71および第2アーム41の移動軌跡について説明する。
【0037】
ラドル71は、溶湯Mを汲み上げるときには移動軌跡の後退限RLまで移動して停止する。ラドル71が後退限RLにあるとき、第2アーム41は鉛直方向Vに沿うように制御される。ラドル71が実線で示すように傾転することにより、ラドル71が湯面MSよりも下方に潜ることで溶湯Mがラドル71の内部に入り、破線で示すようにラドル71の傾転を元に戻すと、溶湯が汲み上げられる。次に、第1アーム21を反時計回りに回転させるとラドル71は湯面MSから鉛直方向Vの上向きに引き上げられる。このとき、第1アーム21、つまり第1回転電機11の回転に同期して、第2アーム41、つまり第2回転電機31を正転させる。このときの第2回転電機31の回転角と第1回転電機11の回転角とを調整することで、第2アーム41が鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を引き上げることができる。
【0038】
また、給湯機1は第2アーム41を鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を溶湯Mへ降ろすことができる。
以後も同様に第2アーム41が鉛直方向Vに沿ったままでラドル71を前進移動FTさせることができる。ただし、ラドル71が前進限FLに近づくと第2アーム41は時計回りCWに回転することで鉛直方向Vに傾きを持ち始める。ラドル71は前進限FLに達するまでは水平方向Hに沿って搬送されるが、前進限FLに達すると射出スリーブへの給湯のために破線で示すように反時計回りに傾転される。なお、ラドル71が水平方向Hに沿うとは、ラドル71の上縁が水平方向Hに沿うことをいう。ラドル71の傾転は、ラドル71が水平方向Hに沿っていることを基準としている。
【0039】
前進限FLにおいて給湯を終えると、後退限RLから前進限FLまでの搬送とは逆にラドル71を前進限FLから後退限RLまで移動させ、ラドル71を実線で示すように傾転させて溶湯を汲み上げる。
【0040】
次に、図4を参照して、ラドル71のより具体的な移動動作を説明する。
図4(a)に示すように、前進移動FTにおいては、溶湯Mを汲み上げた後から、前進限FLの近くまでは、ラドル71は水平方向Hに沿ったままで搬送される。ラドル71が前進限FLに近づくと前進限FLにおいてラドル71を停止させる前提としてラドル71の移動速度を減速する必要がある。ここで、好ましくは、ラドル71が減速するのと同時または減速するのに先立ってラドル71を傾転させる。傾転されたラドル71にTiltを付している。このラドル71の傾転は、前進限FLにおいてラドル71から射出スリーブへ給湯するときの破線で示す傾転とは向きが逆である。これは、詳しくは後述するが、慣性力により溶湯Mがラドル71から溢れるのを防止するためである。この慣性力は、ラドル71を減速したことにより生ずる。ここで、減速前のラドル71の移動速度をV1、減速後のラドル71の移動速度をV3とすると、V3<V1である。
【0041】
給湯するときとは向きが逆に傾転させた後に湯面MSが揺れるスロッシングが続く恐れがあるので、好ましくは、スロッシングが収まってから逆向きの傾転を解除し、ラドル71を水平方向Hに戻す。
さらに、前進限FLに達したら、溶湯Mを給湯するためにラドル71を傾転させる。前進限FLに達する前から、この傾転を行えば、鋳造のサイクルタイムの短縮に寄与できる。
【0042】
ここで、好ましくは、ラドル71の減速に先立って、ラドル71を先行動作させる。ここでいう先行動作とは、ラドル71の減速時に溶湯Mに作用する慣性力とは向きが逆で理想的には大きさが同じ慣性力が溶湯Mに生じるようにラドル71を動作させることをいう。そのためには、第1アーム21および第2アーム41を用いて、ラドル71を前進限FLに向けて増速させればよい。このときのラドル71の移動速度をV2とすると、V1<V2であり、ラドル71はV1からV2(>V1)に一時的に増速され、V2からV3(<V1)に減速される。
【0043】
図4(b)に示すように、後退移動RTの過程においては、ラドル71は水平方向Hに保たれたままで前進限FLから後退限RLまで移動される。
【0044】
ラドル71を減速するのに伴って給湯するとき逆向きにラドル71を傾転させることにより、慣性力により溶湯Mがラドル71から溢れるのを防止できる理由を図5に基づいて説明する。
図5(a)に示すように、速度V1で移動していたラドル71が速度V3に減速すると、溶湯Mには移動していた向きの慣性力があるために、移動する向き、つまり前方の湯面MSがせり上がる。慣性力の大きさ、つまりV1とV3の差が大きいほど、このせり上がりは高くなり、ラドル71の上縁を超えると溶湯Mが溢れてしまう。
【0045】
そこで、図5(b)に示すように、湯面MSのせり上がりに対応するように、ラドル71を傾転させる。そうすれば、図5(a)に示すようにラドル71が水平方向Hに沿っているままでは溶湯Mが溢れ出る移動速度V1,V3であっても、図5(b)に示すようにラドル71を傾転させることにより溶湯Mが溢れ出るのを防止できる。なお、このように任意の位置でラドル71を傾転できるのは、ラドル71の傾転を第3回転電機51が担っているからである。
以上の通りであり、この傾転を伴う給湯機1によれば、移動速度V1と移動速度V3の差を大きくとれるので、ラドル71を前進限FLまで移動する時間を短縮できる。
【0046】
[効 果]
次に、給湯機1が奏する効果を説明する。
[減速に伴うラドル71の傾転]
給湯機1は、前進限FLにラドル71が近づくと、ラドル71を注湯時とは逆向きに傾転させる。これにより、慣性力により溶湯Mがラドル71から溢れるのを抑えることができる。よって、給湯機1によれば、前進限FLの直前でラドル71を傾転させることができるので、減速に要する距離、つまり時間を短くできるので、溶湯が溢れるのを防ぎながら鋳造のサイクルタイムを短くできる。
【0047】
ここで、ラドル71の傾転中心C71とラドル71の重心Gはずれているので、傾転中心C71には回転モーメントMによる軸トルクTが作用する。この軸トルクTはラドル71のサイズ、汲み上げられた溶湯Mの量に比例する。そこで、予めラドル71のサイズ毎に軸トルクTを把握しておき、給湯機1の運転時に軸トルクTを計測すれば、その計測値から汲み上げられた溶湯Mの量、つまり給湯量を特定することができる。給湯装置1は、ラドル71を第3回転電機51の軸回転力により傾転させ、ラドル71の傾転にチェーン、スプロケットを介在させないので、軸トルクTを介して溶湯Mの給湯量を正確に特定できる。
【0048】
ラドル71に汲み上げられた溶湯の量にばらつきが生じることもあり、ラドル71が前進移動するときの慣性力に差が生じる。そこで、特定された溶湯の量に基づいて、ラドル71の減速の際のラドル71の傾転の程度を制御することで、溶湯の量に応じかつ溶湯の漏れが生じない適正な速度で給湯作業できる。この傾転の程度の制御は、ラドル71の増速の際にも適用できる。
【0049】
[ラドル71の任意の傾転動作による効果]
給湯機1は、第1回転電機11、第2回転電機31および第3回転電機51を用いてラドル71を任意の軌跡で動作させることができる。これにより以下の効果を奏することができる。
給湯機1によれば、図6に示すように、溶湯を射出スリーブ内に注湯する際にラドル71を白抜きの両矢印で示すように昇降させることができる。これにより、溶湯Mへの空気の巻き込みを緩和し、または、溶湯Mが周囲に飛散するのを抑えることができる。
さらにまた、ラドル71を溶湯Mに進入させる際に、第2アーム41を黒色の両矢印で示すように揺動させ、前回の給湯でラドル71の側面に付着して凝固した例えばアルミニウム合金を溶湯Mにつけて溶解させることができる。また、この揺動動作により湯面MSに形成される酸化膜をラドル71が溶湯Mに進入する領域以外に追い出すことができる。
【0050】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、第2アーム41は基端アーム42と先端アーム43とを組み合わせているが、本発明はこれに限定されず、単一の部材から第2アーム41を構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 給湯機
10 第1駆動機構
11 第1回転電機
12 第1出力軸
21 第1アーム
30 第2駆動機構
31 第2回転電機
32 第2出力軸
33 回転軸(第2減速機の出力軸)
41 第2アーム
42 基端アーム
43 先端アーム
44 中空軸
48 湯面検知棒
50 第3駆動機構
51 第3回転電機
52 第3出力軸
53 回転軸(第3減速機の出力軸)
59 ロードセル
60 回り止め機構
70 ラドル機構
71 ラドル
72A マイタギヤ
72B マイタギヤ
73 傾転軸
80 コントローラ
FL 前進限
RL 後退限
FT 前進移動
RT 後退移動
M 溶湯
MS 湯面
M50 回転モーメント
M70 回転モーメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6