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特許7180499電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法
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  • 特許-電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20221122BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221122BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221122BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20221122BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20221122BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221122BHJP
   H01G 11/44 20130101ALI20221122BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/60
H01G11/38
H01G11/86
H01G11/44
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019062778
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020161450
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 修
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-166060(JP,A)
【文献】特表2018-500741(JP,A)
【文献】特開2006-085925(JP,A)
【文献】特開2009-283418(JP,A)
【文献】特開2011-023146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/60
H01G 11/38
H01G 11/86
H01G 11/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの電極に用いられる電極用組成物であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える剥片状の層状構造体の電極活物質と、導電材と、結着材と、溶媒とを含有し、
前記結着材は、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロース及び前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のポリエチレンオキサイドを含む、電極用組成物。
【請求項2】
前記結着材は、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.5質量部未満の範囲で前記カルボキシメチルセルロースを含む、請求項1に記載の電極用組成物。
【請求項3】
前記結着材は、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して10.0質量部以下の範囲で前記ポリエチレンオキサイドを含む、請求項1に記載の電極用組成物。
【請求項4】
前記電極活物質は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有する前記層状構造体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極用組成物。
【化1】
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電極用組成物が集電体上に形成された、蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
下記(1)~(5)のうち1以上を満たす、請求項5に記載の蓄電デバイス用電極。
(1)蓄電デバイス用電極をX線回折測定したときの(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示す。
(2)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示す。
(3)前記X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示す。
(4)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示す。
(5)前記X線回折測定での(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の蓄電デバイス用電極を備えた、蓄電デバイス。
【請求項8】
蓄電デバイス用電極に用いられる電極用組成物の製造方法であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える剥片状の層状構造体の電極活物質と、導電材とを混合し、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロースを含む溶液を加えて分散させるか、
前記電極活物質とカルボキシメチルセルロースを含む溶液とを混合した溶液と前記導電材とカルボキシメチルセルロースを含む溶液とを混合した溶液とを混合して前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロースを含む溶液として分散させるかのいずれかを行う第1分散工程と、
前記分散した溶液に前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のポリエチレンオキサイドを含む溶液を加えて分散させる第2分散工程と、
を含む電極用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記第1分散工程では、分散後の溶液に含まれるカルボキシメチルセルロースを前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.5質量部未満の範囲とする、請求項8に記載の電極用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記第2分散工程では、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して7.0質量部以下の範囲でポリエチレンオキサイドを含む溶液を用いる、請求項8又は9に記載の電極用組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の電極用組成物の製造方法であって、
前記第1分散工程の前に、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を析出させる析出工程、を含む、電極用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、負極は、2質量%以上8質量%以下の範囲で、カルボキシメチルセルロースを水溶性ポリマーとして含むことにより、充放電性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-198007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスの負極では、水溶性ポリマーを用いることによって結着性の面から充放電特性をより高めることができるものとしたが、塗工処理の容易さなどについては検討されていなかった。例えば、電極活物質の特性向上のために微粒子化や比表面積を増加させると、塗工時のせん断速度によってペースト粘度が変化しやすくなり、塗工安定性が低下するという問題があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、層状構造体を電極活物質に用いたものにおいて、より好適な塗工安定性を有する電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を用いる際に、特定の結着材を特定の範囲で用いると、粘度がより好適な範囲となり、より好適な塗工安定性を有するものとすることができることを見いだし、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の電極用組成物は、
蓄電デバイスの電極に用いられる電極用組成物であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える剥片状の層状構造体の電極活物質と、導電材と、結着材と、溶媒とを含有し、
前記結着材は、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロース及び前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のポリエチレンオキサイドを含むものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイス用電極は、上述の電極用組成物が集電体上に形成されたものである。また、本開示の蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス用電極を備えたものである。
【0009】
本開示の電極用組成物の製造方法は、
蓄電デバイス用電極に用いられる電極用組成物の製造方法であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える剥片状の層状構造体の電極活物質と、導電材とを混合し、前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロースを含む溶液を加えて分散させるか、
前記電極活物質とカルボキシメチルセルロースを含む溶液とを混合した溶液と前記導電材とカルボキシメチルセルロースを含む溶液とを混合した溶液とを混合して前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロースを含む溶液として分散させるかのいずれかを行う第1分散工程と、
前記分散した溶液に前記電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のポリエチレンオキサイドを含む溶液を加えて分散させる第2分散工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示する電極用組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極用組成物の製造方法では、層状構造体を電極活物質に用いたものにおいて、より好適な塗工安定性を有するものとすることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。カルボキシメチルセルロースは層状構造体の電極活物質や導電材を分散させる機能に優れ、ポリエチレンオキサイドは電極組成物に粘度安定性を付与する機能に優れている。そして、これらが所定の範囲で含まれるものとすると、電極活物質と導電材との分散性に優れ、これらの沈降などの性状変化をより抑制可能であり、より好適な塗工安定性を有するものとすることができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ビフェニル骨格を有する層状構造体の構造の一例を示す説明図。
図2】蓄電デバイス20の一例を示す説明図。
図3】参考例1~5の電極のXRD測定結果。
図4】電極組成物のCMC配合量と粘度との関係図。
図5】電極組成物のPEO配合量と粘度安定性との関係図。
図6】電極組成物のPEO配合量と目付変化量との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電極組成物)
本開示の電極組成物は、電極活物質と、導電材と、結着材と、溶媒とを含有する。この電極組成物は、溶媒を含有したペーストや坏土としてもよい。電極活物質は、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体である。この層状構造体は、剥片状の外形を有している。この層状構造体は、2以上の芳香環構造が接続した有機骨格層を有するものとしてもよい。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)~(3)において、aは2以上5以下の整数であり、bは0以上3以下の整数であり、これらの芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、この層状構造体は、式(4)~(5)に示す芳香族化合物としてもよい。なお、式(1)~(5)において、Aはアルカリ金属である。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(6)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(6)において、Rは2以上の芳香環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
この層状構造体において、有機骨格層は、2以上の芳香環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。この芳香環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香環は、2以上5以下とするのが好ましい。芳香環が2以上では層状構造を形成しやすく、芳香環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香環構造がビフェニルであれば、4,4’位が挙げられ、ナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0017】
アルカリ金属元素層は、例えば図1に示すように、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成している。図1は、4、4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを具体例とする、層状構造体の構造の一例を示す説明図である。アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、蓄電デバイスのキャリアであり、充放電により層状構造体に吸蔵、放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵、放出されないものと推察される。このように構成された層状構造体は、図1に示すように、構造においては、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するLi層(アルカリ金属元素層)とにより形成されている。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は、例えば、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上が好ましく、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩がより好ましい。
【0018】
この層状構造体は、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥法により作製されるものとしてもよい。噴霧乾燥法によれば、層状構造体の剥片の集合を内包した中空球状構造で得られ、この中空球状を解砕して剥片状の層状構造体が得られる。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。噴霧乾燥する調製溶液は、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上であることが好ましい。また、調製溶液は、芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2以上であることが好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、電極の抵抗をより低減することができ、好ましい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。乾燥温度は、例えば、100℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、120℃以上や150℃以上がより好ましく、220℃以下がより好ましい。また、供給液量は、作製する規模にもよるが、例えば、0.1L/h以上2L/h以下の範囲としてもよい。また、調製溶液を噴霧するノズルサイズは、作製する規模にもよるが、例えば、直径0.5mm以上5mm以下の範囲としてもよい。
【0019】
この電極組成物は、電極活物質をより多く含むことが好ましく、電極活物質と導電材との100質量部のうち、電極活物質が60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、75質量部以上や80質量部以上としてもよい。また、電極活物質は、95質量部以下や90質量部以下、85質量部以下としてもよい。電極活物質を60質量部以上含むものとすれば、電極容量を確保することができ、95質量部以下では、導電材の量が少なくなり過ぎないため、導電材の機能を十分に発揮できる。
【0020】
導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素材料、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。電極組成物は、電極活物質と導電材との100質量部のうち、導電材を5質量部以上40質量部以下の範囲で含むことが好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上としてもよい。また、電極組成物は、電極活物質と導電材との100質量部のうち、導電材を30質量部以下の範囲で含むことが好ましく、25質量部以下としてもよいし、20質量部以下としてもよい。5質量部以上であれば、電極に十分な導電性を持たせることができ、充放電特性の劣化を抑制できる。また、40質量部以下であれば、活物質が少なくなり過ぎないため、活物質の機能を十分に発揮できる。
【0021】
結着材は、電極活物質と導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。CMCが2.5質量部以上では、電極活物質と導電材との分散が良好であり、安定した電極作製を行うことができる。このCMCは3.0質量部以上がより好ましく、6質量部以下であることが好ましく、4.5質量部未満であることがより好ましい。CMCの配合量が6.0質量部以下では、IV抵抗の増加などをより抑制でき好ましい。CMCは、例えば、カルボキシメチル基の末端がナトリウムやカルシウムなどである無機塩としてもよいし、カルボキシメチル基の末端がアンモニウムであるアンモニウム塩としてもよい。
【0022】
また、結着材は、電極活物質と前記導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のポリエチレンオキサイド(PEO)を含む。PEOが4.0質量部以上では、電極ペーストに粘度安定性を付与することができ、安定した電極作製を行うことができる。このPEOは5.0質量部以上がより好ましく、10.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましい。PEOの配合量が10.0質量部以下では、相対的に電極活物質の配合量が相対的に少なくなるのを抑制可能であり、容量低下をより抑制することができる。PEOは、分子量が100万以上が好ましく、200万以上が更に好ましい。この分子量は、100万以上では、イオン伝導媒体の溶媒中への溶解をより抑制することができる。この分子量は、300万以下の範囲としてもよい。
【0023】
また、電極組成物は、上述した結着材に加えて他の結着材を含むものとしてもよい。結着材としては、例えば、水溶性であるスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いてもよいし、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエン-モノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等としてもよい。これらは、単独であるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0024】
電極組成物に含まれる溶媒は、水を用いてもよいし、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキサイド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いてもよい。ここではCMCやPEOなどの水溶性ポリマーを用いるため、水が好適である。
【0025】
(電極組成物の製造方法)
本開示の電極組成物の製造方法は、例えば、第1分散工程と、第2分散工程とを含む。この製造方法では、上述した電極組成物を作製することができる。第1分散工程は、電極活物質と導電材とをCMCと共に分散させる工程である。第2分散工程は、CMCで分散させた溶液に更にPEOを含む溶液を加えて分散させる工程である。また、この製造方法は、層状構造体を噴霧乾燥法によって析出させる析出工程を更に含むものとしてもよい。
【0026】
(析出工程)
この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、上記剥片状の層状構造体を析出させる。この工程での噴霧乾燥条件は、例えば、上記電極組成物で説明した条件とすることができる。芳香族ジカルボン酸のアルカリ金属塩は、剥片状の層状構造体を含む中空球状構造として得られるが、これを解砕して剥片状の層状構造体を得ることができる。この中空球状構造は、直径が10μm以下であるものとしてもよい。この中空球状構造の直径は、0.1μm以上であるものとしてもよい。噴霧乾燥法による層状構造体の中空粒子は、0.1μm以上10μm以下の範囲で得られる。中空球状構造や剥片状構造における剥片の厚みは、例えば1nm以上100nm以下であり、好ましくは、1nm以上20nm以下である。また、剥片構造の平板部の最大長さは、5μm以下であり、2μm以下としてもよい。
【0027】
(第1分散工程)
この工程では、剥片状の層状構造体の電極活物質と導電材とを混合し、電極活物質と導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のCMCを含む溶液を加えて電極活物質と導電材とを分散させる処理を行う。あるいは、この工程では、剥片状の層状構造体の電極活物質とCMCを含む溶液とを混合した溶液と、導電材とCMCを含む溶液とを混合した溶液と、を混合して電極活物質と導電材との100質量部に対して2.5質量部以上のCMCを含む溶液とし、電極活物質と導電材とを分散させる処理を行う。工程の容易性から、前者の方が好ましい。CMCの配合量は、上述のように、3.0質量部以上がより好ましく、6質量部以下であることが好ましく、4.5質量部未満であることがより好ましい。噴霧乾燥法により得られた層状構造体は、微粒子状態で乾燥が行われるため、その表面は、通常の溶液混合法で乾燥した場合に比して、空気に接したまま乾燥され、疎水性を示しやすい。また、導電材である炭素材料も疎水性である。CMCは、このような層状構造体や導電材の粉体を分散させる機能が高い一方、PEOなどが共存するとCMCの粉体への吸着が阻害され、粉体の分散性が低下する。この工程では、予めCMCを加えることにより、これらの粉体を分散させるのである。また、CMCは、チキソトロピック性が大きく、せん断速度の大きさによって粘度が大きく変化するため、塗工時のペーストに加わるせん断速度の変化によってペースト粘度が変化し、配合量によっては、安定して塗工できない場合がある。この工程では、上記範囲内でCMCを配合することによって、粉体の分散性を良好にするのである。この工程では、溶媒として水を用いることが好ましく、その固形分濃度は、例えば、15質量%以上70質量%以下の範囲が好ましく、18質量%以上60質量%以下の範囲がより好ましい。また、この工程では、電極活物質と導電材とを十分に分散させることが好ましく、分散装置によって異なるが、例えば撹拌時間は、3分以上60分以下の範囲であることが好ましい。
【0028】
(第2分散工程)
この工程では、上記CMCで分散した溶液に、電極活物質と導電材との100質量部に対して4.0質量部以上のPEOを含む溶液を加えて電極活物質と導電材とを更に分散させる処理を行う。PEOの配合量は、上述のように、5.0質量部以上がより好ましく、10.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましい。PEOは、チキソトロピック性が小さく、粘度安定性に優れる。特に、分子量が100万以上では、粘度が高くなり、上記効果が大きくなるとともに、2つの粉体の分散安定性(沈降しにくくなる)が向上する。また、PEOの配合量をCMCの配合量より大きくすることにより、上記効果が十分に得られる。更に、CMCによって電極活物質と導電材とを十分に分散したのち、PEOを添加するから、PEOの機能をより発揮することができる。この工程では、溶媒として水を用いることが好ましく、その固形分濃度は、例えば、10質量%以上60質量%以下の範囲が好ましく、15質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましい。また、この工程では、電極活物質と導電材とを十分に分散させることが好ましく、分散装置によって異なるが、例えば撹拌時間は、3分以上60分以下の範囲であることが好ましい。
【0029】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、この蓄電デバイス用電極は、電極活物質としての上述した層状構造体と、結着材と、導電材とを含む上述した電極組成物を電極合材とし、集電体に形成されているものとしてもよい。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、集電体は、銅やアルミニウム金属とすることが好ましい。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0030】
この蓄電デバイス用電極において、ビフェニル骨格を有する有機骨格層を備える層状構造体は、噴霧乾燥法により作製されたものとしてもよい。この層状構造体では、剥片の集合を内包して形成される中空球状構造を有する状態で得られる。この電極は、この中空球状構造を解砕し剥片状の層状構造体を用いることにより、所定の結晶面で配向した状態で作製される。この電極は、電極をX線回折測定したときに、(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示すものとしてもよい。即ち、(300)のピーク強度が(111)のピーク強度の2倍以上を示すものとしてもよい。この強度比は、2.5以上を示すことがより好ましく、3.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。この範囲では、層状構造体の層間隔などが良好であり、電極抵抗をより低減することができる。また、この電極は、電極をX線回折測定したときに、X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示すものとしてもよい。即ち、(300)のピーク強度が(011)のピーク強度の2倍以上を示すものとしてもよい。この強度比は、2.5以上を示すことがより好ましく、3.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。この範囲では、層状構造体の層間隔などが良好であり、電極抵抗をより低減することができる。また、この電極は、電極をX線回折測定したときに、X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示すものとしてもよい。即ち、(100)のピーク強度が(111)のピーク強度の6倍以上を示すものとしてもよい。この強度比は、6.5以上を示すことがより好ましく、6.6以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、10.0以下であるものとしてもよい。この範囲では、層状構造体の層間隔などが良好であり、電極抵抗をより低減することができる。また、この電極は、電極をX線回折測定したときに、(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示すものとしてもよい。即ち、(100)のピーク強度が(011)のピーク強度の5倍以上を示すものとしてもよい。この強度比は、6.0以上を示すことがより好ましく、6.5以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、10.0以下であるものとしてもよい。この範囲では、層状構造体の層間隔などが良好であり、電極抵抗をより低減することができる。また、この電極は、電極をX線回折測定したときに、(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示すものとしてもよい。即ち、(100)のピーク強度が(300)のピーク強度の1倍以上を示すものとしてもよい。この強度比は、1.8以上を示すことがより好ましく、2.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。この範囲では、層状構造体の層間隔などが良好であり、電極抵抗をより低減することができる。また、電極は、電極をX線回折測定したときに、このように、電極は、電極内部に存在する活物質の小さな剥片が特異的な配向をしており、n00面に相当するピーク強度が大きくなる傾向を示す。また、この電極は、表面を走査型電子顕微鏡で観察したときに平滑な面を有するものとしてもよい。この電極活物質は、容易に解砕され、剥片を高分散した電極とすることができるため、電極表面がより平滑になる。このピーク強度比を満たす電極は、特に4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩を含むものとしてもよい。
【0031】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用電極を備えている。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えているものとしてもよい。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池などとしてもよい。この負極は、上述した蓄電デバイス用電極としてもよい。電極活物質としての層状構造体は、キャリアであるアルカリ金属イオンを吸蔵、放出するものである。キャリアのアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンなどが挙げられ、このうちリチウムイオンが好ましい。以下、キャリアをリチウムイオンとする蓄電デバイスについて主として説明する。
【0032】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0033】
あるいは、正極は、一般的なリチウムイオン電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)やLi(1-x)NiaCobMnc4(a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0034】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶媒を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶媒、集電体は、例えば、蓄電デバイス用電極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0035】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩は、公知のリチウム塩としてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0036】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0037】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は、上述した芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有し、結着材としてカルボキシメチルセルロース及びポリエチレンオキサイドを含む結着材を所定範囲内の配合量で含む。
【0038】
以上詳述した電極組成物、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極組成物の製造方法では、層状構造体を電極活物質に用いたものにおいて、より好適な塗工安定性を有するものとすることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。カルボキシメチルセルロースは層状構造体の電極活物質や導電材を分散させる機能に優れ、ポリエチレンオキサイドは電極組成物に粘度安定性を付与する機能に優れている。そして、これらが所定の範囲で含まれるものとすると、電極活物質と導電材との分散性に優れ、これらの沈降などの性状変化をより抑制可能であり、より好適な塗工安定性を有するものとすることができると推察される。噴霧乾燥したビフェニル構造を有する層状構造体は、剥片の微粒子であり、特に塗工安定性を高める技術を適用する意義が大きい。また、電極組成物の製造方法では、第1分散工程でカルボキシメチルセルロースにより電極活物質と導電材とを分散させ、第2分散工程でポリエチレンオキサイドにより粘度安定性が付与されるため、ポリエチレンオキサイドが粉体に先に吸着することにより生じうる分散性の低下をより抑制することができ、より好適な塗工安定性を有するものとすることができる。
【0039】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0040】
例えば、上述した実施形態では、電極組成物の製造方法としたが、特にこれに限定されず、例えば、作製した電極組成物を電極合材として集電体上に形成する形成工程、を更に含む蓄電デバイス用電極の製造方法としてもよい。この製造方法において、形成工程のあと電極合材が形成された集電体を乾燥する乾燥工程、を更に含むものとしてもよい。乾燥工程は、大気中や減圧下で、100℃以上200℃以下の温度で行うものとしてもよい。
【実施例
【0041】
以下には、本開示の蓄電デバイスを具体的に作製した例について説明する。まず、層状構造体をスプレードライ法及び溶液混合法により合成し、電極を作製して評価した例を参考例として説明する。
【0042】
[参考例1]
(噴霧乾燥法での4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
スプレードライ法により層状構造体を作製した。4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、水溶液を調製した。そして、4,4’-ビフェニルジカルボン酸のモル数A(mol)に対する水酸化リチウムのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2となるように、すなわち、4,4’-ビフェニルジカルボン酸が0.20mol/Lとなるように水溶液を調製した。調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は150℃で行い、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した。得られた4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムは、層状構造体の剥片の集合を内包した中空球状構造を有していた。この球状構造を解砕し、剥片状の層状構造体を得た。
【0043】
(4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
上記手法で作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを79質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を14質量%、水溶性ポリマーであるポリビニルアルコール(ゴウセネックス,T-330,日本合成化学)を2.8質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR:日本ゼオン、BM-400B)を4.2質量%を混合し、分散媒として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム活物質が3mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。
【0044】
(蓄電デバイス:二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質の六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にて作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0045】
[参考例2~4]
スプレードライヤーにて4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した後に、120℃で真空乾燥を行った以外は,参考例1と同様の処理を行ったものを参考例2とした。4,4’-ビフェニルジカルボン酸に対する水酸化リチウムのモル比を2.5として水溶液を調製し,スプレードライヤーにて合成した以外は,参考例1と同様の処理を行ったものを参考例3とした。また、スプレードライヤーにて4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムを合成した後に、120℃で真空乾燥を行った以外は参考例3と同様の処理を行ったものを参考例4とした。
【0046】
[参考例5]
溶液混合法により層状構造体を作製した。出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いて、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した後に4,4’-ビフェニルジカルボン酸1.0gを加え、1時間撹拌した。その後、撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、白色の粉末試料の4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムを得た。これを用いた以外は、参考例1と同様の処理を行ったものを参考例5とした。
【0047】
(X線回折測定)
参考例1~5の電極のX線回折測定を行った。測定は、放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用し、X線回折装置(リガク製UltimaIV)を用いて行った。また、測定は、X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定し、5°/分の走査速度で、電極活物質については2θ=5°~60°の角度範囲で行い、電極については2θ=5°~35°の角度範囲で行った。
【0048】
(充放電特性評価)
上記作製した二極式評価セルを20℃の温度環境下、0.1mAで0.5Vまで還元した容量を放電容量とした。また、その後0.1mAで1.5Vまで酸化した容量を充電容量とした。また、得られた充放電カーブを用い、電位差に対して充放電カーブの微分値を算出し微分曲線を得た。また、この微分曲線にある2つの異なる内部抵抗性微分カーブのピーク差から充放電分極を算出し、印加電流を考慮してIV抵抗を算出した。なお、IV抵抗は、2サイクル目の充放電カーブを用いた。
【0049】
(考察)
表1に参考例1~5の製造方法、電極のピーク強度比とIV抵抗値とをまとめて示した。また、図3は、参考例1~5の電極のXRD測定結果である。図3に示すように、スプレードライ法により作製した電極活物質を含む参考例1~4の電極においては、従来の溶液混合法と同じ2θ位置にピークが出現した。ピーク強度においてはスプレードライ法により作製した電極において、n00面に相当するピーク強度が大きくなる傾向を示した。これは電極内部に存在する活物質の小さな剥片が特異的な配向をしていることを示す。特に、参考例1~4の電極では、X線回折測定において(300)のピーク強度が(111)や(011)のピーク強度の2倍以上を示し、また、(100)のピーク強度が(111)や(011)のピーク強度の5倍以上を示すことがわかった。具体的には、ピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上、P(300)/P(011)が2.0以上、P(100)/P(111)が6.0以上、P(100)/P(011)が5.0以上、及びP(100)/P(300)が1.5以上を示した。このピーク強度比は、いずれか1以上を満たせば、剥片状の配向した活物質であると推定できるものと推察された。また、表1に示すように、スプレードライ法で合成した層状構造体により作製した電極では、溶液混合法に比してIV抵抗がより低減することがわかった。また、上記ピーク強度比を満たせば、層状構造体がスプレードライ法で作製されたものであると特定できることがわかった。
【0050】
【表1】
【0051】
次に、結着材の種類及び配合量を変更して電極組成物及び電極を作製し、粘度や塗工性を評価した結果を実験例として説明する。なお、実験例1~3が実施例に相当し、実験例4~7が比較例に相当し、実験例8~13が参考例に相当する。
【0052】
[実験例1]
(4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
スプレードライ法で作製した層状構造体である4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(SD-Bph)を80質量部、導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を20質量部を粉末で混合したのち、結着材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC:ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)が3.0質量部となる量を含む水溶液を加え、この水溶液を撹拌することにより、層状構造体と導電材とを十分に分散させた。続いて、この混合物を分散した水溶液中に、結着材としてのポリエチレンオキサイド(PEO:分子量200万)が4.0質量部となる量を含む水溶液を加え、この水溶液を撹拌することにより、層状構造体と導電材とを更に分散させ、得られたスラリー状の合材を実験例1の電極組成物とした。この電極組成物の固形分濃度は、18.7質量%であった。この電極組成物を10μm厚の銅箔の集電体に単位面積当たりの4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム活物質が2.5mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて得られたものを実験例1の電極とした。
【0053】
[実験例2~7]
CMC及びPEOの配合比を表2に示したものとした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを、それぞれ実験例2~7の電極組成物及び電極とした。
【0054】
[実験例8~13]
電極活物質を溶液混合法で作製した参考例5の層状構造体(Bph)とし、CMC及びPEOの配合比を表2に示したものとした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを、それぞれ実験例8~13の電極組成物及び電極とした。
【0055】
(粘度評価試験)
作製した電極組成物(ペースト)の粘度を評価した。粘度測定は、TAインスツルメント社製ARES-G2を用い、25℃でせん断速度を0.01(s-1)~1000(s-1)の範囲で、連続的にせん断速度を変化させて行った。ペーストの粘度評価には、せん断速度を0.01(s-1)から測定開始し、せん断速度が10(s-1)と100(s-1)のときの粘度を用いた。また、ペーストの粘度安定性の評価には、せん断速度を0.01(s-1)から測定を開始してせん断速度が100(s-1)のときの粘度ηa(Pa・s)と、せん断速度を1000(s-1)から測定を開始してせん断速度が100(s-1)のときの粘度ηb(Pa・s)との粘度比ηb/ηaで評価し、この比が0.5~1.5の範囲にある場合に、粘度安定性が良好であるとした。
【0056】
(目付変化量評価)
作製した電極組成物(ペースト)を集電体へ塗布した際の目付量の変化によって、塗工安定性を評価した。塗工安定性の評価は、上記作製したペーストを銅箔(厚さ10μm)の表面にコンマコーターを用いて5mの長さで連続塗布し、塗工のはじめと終わりでの乾燥塗布量(mg/cm2)を測定し、この差を目付変化量として評価した。この目付変化量は、より小さい方が塗工安定性に優れるものであり、ここでの評価基準は、0.5mg/cm2以下の範囲を良好であるとした。
【0057】
(結果と考察)
作製した電極組成物の配合比、粘度、粘度安定性及び目付変化量を表2にまとめて示した。図4は、実験例1、2、4、5、8~10の電極組成物のCMC配合量と粘度との関係図である。図5は、実験例1、3、6、7、11~13の電極組成物のPEO配合量と粘度安定性との関係図である。図6は、実験例1、3、6、7、11~13の電極組成物のPEO配合量と目付変化量との関係図である。図4に示すように、溶液混合法で得られた層状構造体を電極活物質に用いたペーストでは、電極活物質と導電材との合計を100質量部としたときに、CMCを0,5質量部加えただけでも、十分に粘度が低下しており、良好な分散状態が得られていると推定された。一方、スプレードライ法で作製した層状構造体を電極活物質に用いたペーストでは、 図1から、電極活物質と導電材との合計を100質量部としたときに、スプレードライ法で作製した電極活物質の場合、CMCが2.0質量部を超えると、ペーストの粘度が下がり始め、2.5質量部以上の配合で電極活物質と導電材とが十分に分散されることがわかった。スプレードライ法で作製した電極活物質は、溶液混合法で作製したものに比して疎水性が大きく、水に分散しにくいことが明らかであり、結着材の種別や配合量などによって大きく特性が変化することがわかった。なお、CMCの配合量を増加させると活物質量の低下やIV抵抗値の増大などが起きることから、CMCは、6.0質量部以下が好ましく、4.5質量部未満がより好ましいと推察された。
【0058】
また、図5に示すように、溶液混合法で得られた層状構造体を電極活物質に用いたペーストでは、電極活物質と導電材との合計を100質量部としたときに、PEOの配合量が2.0質量部以上で良好な粘度安定性の領域内になることがわかった。一方、スプレードライ法で作製した電極活物質を用いたペーストでは、PEOの配合量が4.0質量部未満では良好な領域外であるが、4.0質量部以上とすると、粘度比ηb/ηaが1.5以下となり、ペーストの粘度安定性が良好となることが認められた。このことから、スプレードライ法で作製した電極活物質を用いたペーストでは、PEOを4.0質量部以上配合することにより、粘度安定性に優れるペーストが得られることがわかった。なお、PEOの配合量を増加させると活物質量の低下などが起きることから、PEOは、7.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましいと推察された。
【0059】
また、図6に示すように、溶液混合法で得られた層状構造体を電極活物質に用いたペーストでは、電極活物質と導電材との合計を100質量部としたときに、PEOの配合量が2.0質量部以上で良好な塗工安定性が良好な領域内になることがわかった。一方、スプレードライ法で作製した電極活物質を用いたペーストでは、PEOの配合量が3.5質量部未満では良好な領域外であるが、4.0質量部以上とすると、目付変化量が0.5mg/cm2以下となり、ペーストの塗工安定性が良好となることが認められた。このことから、スプレードライ法で作製した電極活物質を用いたペーストでは、PEOを4.0質量部以上配合することにより、塗工安定性に優れるペーストが得られることがわかった。なお、PEOの配合量を増加させると活物質量の低下などが起きることから、PEOは、7.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましいと推察された。
【0060】
【表2】
【0061】
本開示は、上記の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6