(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221122BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20221122BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20221122BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
F04B39/00 106Z
H01F37/00 N
H01F17/06 A
H01F17/06 F
(21)【出願番号】P 2019174303
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】深作 博史
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】甲斐田 純也
(72)【発明者】
【氏名】安保 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170817(WO,A1)
【文献】特開2018-018865(JP,A)
【文献】実開昭57-026827(JP,U)
【文献】特開昭62-290114(JP,A)
【文献】実開昭62-168622(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
F04B 39/00
H01F 37/00
H01F 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、
前記ノイズ低減部は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状のコアと、
前記コアに巻回された第1の巻線と、
前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを囲うように巻回された1本の被覆導線と、を備え、
前記被覆導線は、絶縁材で被覆された導電線であって、前記導電線は、少なくとも一部が前記第1の巻線及び前記第2の巻線と重なるように前記コアに複数回巻回されるとともに、一端と他端とが電気的に接続され、
前記コアは、前記被覆導線に覆われない露出部を有していることを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、
前記ノイズ低減部は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状のコアと、
前記コアに巻回された第1の巻線と、
前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを囲うように巻回された複数本の被覆導線と、を備え、
前記複数本の被覆導線における各1本の被覆導線は、それぞれ、前記コアに1回以上巻回されるとともに、絶縁材で被覆された導電線の一端と他端とが電気的に接続され、
前記コアは、前記複数本の被覆導線に覆われない露出部を有していることを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項3】
前記コアは内側に貫通孔を有し、前記貫通孔を正面視した一方の面において、巻回された状態で全ての隣り合う被覆導線同士の間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項4】
巻回された状態で隣り合う被覆導線同士の間に全周にわたって隙間が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイルの構成として、特許文献1には導電体で覆うことでノーマルモード電流が流れる際に導電体の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させダンピング効果を持たせたチョークコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、チョークコイルを全面導電体で覆う場合、熱がこもりやすくなることが懸念される。一方で、放熱性を高めるために導電体で覆わない箇所を設けると誘導電流が流れにくくダンピング効果が低減するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、放熱性及びダンピング効果に優れたフィルタ回路を有する車載用電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車載用電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、前記ノイズ低減部は、コモンモードチョークコイルと、前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状のコアと、前記コアに巻回された第1の巻線と、前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを囲うように巻回された1本の被覆導線と、を備え、前記被覆導線は、絶縁材で被覆された導電線であって、前記導電線は、少なくとも一部が前記第1の巻線及び前記第2の巻線と重なるように前記コアに複数回巻回されるとともに、一端と他端とが電気的に接続され、前記コアは、前記被覆導線に覆われない露出部を有していることを要旨とする。
【0007】
これによれば、コアは被覆導線に覆われない露出部を有するため放熱性に優れる一方で、被覆導線は第1の巻線及び第2の巻線を跨ぎつつコアを囲うように巻回されているためノーマルモード電流が流れる際に生じる漏れ磁束によって被覆導線の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。第1の巻線及び第2の巻線から発生する漏れ磁束は、コアの露出部を通りつつコアに巻回された被覆導線と鎖交するループを形成するため、被覆導線に誘導電流が流れやすい。また、漏れ磁束が生じる結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。さらに、被覆導線を用いることにより絶縁性を確保することができる。
【0008】
上記課題を解決するための車載用電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、前記ノイズ低減部は、コモンモードチョークコイルと、前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状のコアと、前記コアに巻回された第1の巻線と、前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを囲うように巻回された複数本の被覆導線と、を備え、前記複数本の被覆導線における各1本の被覆導線は、それぞれ、前記コアに1回以上巻回されるとともに、絶縁材で被覆された導電線の一端と他端とが電気的に接続され、前記コアは、前記複数本の被覆導線に覆われない露出部を有していることを要旨とする。
【0009】
これによれば、コアは複数本の被覆導線に覆われない露出部を有するため放熱性に優れる一方で、複数本の被覆導線は第1の巻線及び第2の巻線を跨ぎつつコアを囲うように巻回されるためノーマルモード電流が流れる際に生じる漏れ磁束によって複数本の被覆導線の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。第1の巻線及び第2の巻線から発生する漏れ磁束は、コアの露出部を通りつつ環状の複数本の被覆導線と鎖交するループを形成するため、複数本の被覆導線に誘導電流が流れやすい。また、漏れ磁束が生じる結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。さらに、被覆導線を用いることにより絶縁性を確保することができる。
【0010】
車載用電動圧縮機において、前記コアは内側に貫通孔を有し、前記貫通孔を正面視した一方の面において、巻回された状態で全ての隣り合う被覆導線同士の間に隙間が形成されているとよい。
【0011】
車載用電動圧縮機において、巻回された状態で隣り合う被覆導線同士の間に全周にわたって隙間が形成されているとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放熱性及びダンピング効果に優れたフィルタ回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】(a)は第1の実施形態のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図、(d)は(a)のA-A線での断面図。
【
図4】(a)はコア及び巻線の平面図、(b)はコア及び巻線の正面図、(c)はコア及び巻線の右側面図。
【
図5】作用を説明するためのコア及び巻線の斜視図。
【
図6】作用を説明するためのコモンモードチョークコイルの斜視図。
【
図7】ローパスフィルタ回路のゲインの周波数特性を示すグラフ。
【
図8】別例のコモンモードチョークコイルの平面図。
【
図9】別例のコモンモードチョークコイルの平面図。
【
図10】別例のコモンモードチョークコイルの平面図。
【
図11】(a)は別例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は別例のコモンモードチョークコイルの正面図、(c)は別例のコモンモードチョークコイルの右側面図。
【
図12】(a)は被覆導線を示す斜視図、(b)は被覆導線を示す斜視図。
【
図13】(a)は第2の実施形態のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は比較例のコモンモードチョークコイルの正面図、(c)は比較例のコモンモードチョークコイルの右側面図、(d)は(a)のA-A線での断面図。
【
図14】(a)は比較例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は比較例のコモンモードチョークコイルの正面図、(c)は比較例のコモンモードチョークコイルの右側面図、(d)は(a)のA-A線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0015】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0016】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0017】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。
【0018】
ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。
【0019】
吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。
【0020】
ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0021】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0022】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0023】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0024】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0025】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。
カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。
【0026】
収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0027】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0028】
図1に示すように、駆動装置24は、回路基板29と、回路基板29に設けられたインバータ装置30と、コネクタ27とインバータ装置30とを電気的に接続するのに用いられる2本の接続ラインEL1,EL2と、を備えている。
【0029】
回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31(
図2参照)と、ノイズ低減部32(
図2参照)を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるためのものである。
【0030】
次に電動モータ19及び駆動装置24の電気的構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ19のコイル23は、例えばu相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相構造となっている。各コイル23u~23wは例えばY結線されている。
【0031】
インバータ回路31は、u相コイル23uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル23vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル23wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。各スイッチング素子Qu1~Qw2は例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。なお、スイッチング素子Qu1~Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1~Dw2を有している。
【0032】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル23uに接続されている。そして、各u相スイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体は、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されており、上記直列接続体には、車載用蓄電装置28からの直流電力が入力されている。
【0033】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様である。
【0034】
駆動装置24は、各スイッチング素子Qu1~Qw2のスイッチング動作を制御する制御部33を備えている。制御部33は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0035】
制御部33は、コネクタ27を介して空調ECU13と電気的に接続されており、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1~Qw2を周期的にON/OFFさせる。詳細には、制御部33は、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1~Qw2をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、制御部33は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部33は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Qu1~Qw2のON/OFF制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換する。
【0036】
ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35を備えている。平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する。ローパスフィルタ回路36は、接続ラインEL1,EL2上に設けられている。ローパスフィルタ回路36は、回路的にはコネクタ27とインバータ回路31との間に設けられている。
【0037】
コモンモードチョークコイル34は、両接続ラインEL1,EL2上に設けられている。
Xコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34に対して後段(インバータ回路31側)に設けられており、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されている。コモンモードチョークコイル34からの漏れ磁束によって生じるノーマルモードインダクタンスとXコンデンサ35とによってLC共振回路が構成されている。即ち、本実施形態のローパスフィルタ回路36は、コモンモードチョークコイル34を含むLC共振回路である。
【0038】
両Yコンデンサ37,38は、互いに直列に接続されている。詳細には、駆動装置24は、第1Yコンデンサ37の一端と第2Yコンデンサ38の一端とを接続するバイパスラインEL3を備えている。当該バイパスラインEL3は車両のボディに接地されている。
【0039】
また、両Yコンデンサ37,38の直列接続体が、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35との間に設けられており、コモンモードチョークコイル34に電気的に接続されている。第1Yコンデンサ37の上記一端とは反対側の他端は、第1接続ラインEL1、詳細には第1接続ラインEL1のうちコモンモードチョークコイル34の第1の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。第2Yコンデンサ38における上記一端とは反対側の他端は、第2接続ラインEL2、詳細には第2接続ラインEL2のうちコモンモードチョークコイル34の第2の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。
【0040】
車両には、車載用機器として例えばPCU(パワーコントロールユニット)39が、駆動装置24とは別に搭載されている。PCU39は、車載用蓄電装置28から供給される直流電力を用いて、車両に搭載されている走行用モータ等を駆動させる。即ち、本実施形態では、PCU39と駆動装置24とは、車載用蓄電装置28に対して並列に接続されており、車載用蓄電装置28は、PCU39と駆動装置24とで共用されている。
【0041】
PCU39は、例えば、昇圧スイッチング素子を有し且つ当該昇圧スイッチング素子を周期的にON/OFFさせることにより車載用蓄電装置28の直流電力を昇圧させる昇圧コンバータ40と、車載用蓄電装置28に並列に接続された電源用コンデンサ41とを備えている。また、図示は省略するが、PCU39は、昇圧コンバータ40によって昇圧された直流電力を、走行用モータが駆動可能な駆動電力に変換する走行用インバータを備えている。
【0042】
かかる構成においては、昇圧スイッチング素子のスイッチングに起因して発生するノイズが、ノーマルモードノイズとして、駆動装置24に流入する。換言すれば、ノーマルモードノイズには、昇圧スイッチング素子のスイッチング周波数に対応したノイズ成分が含まれている。
【0043】
次に、コモンモードチョークコイル34の構成について
図3(a),(b),(c),(d)、
図4(a),(b),(c)を用いて説明する。
コモンモードチョークコイル34は、車両側のPCU39で発生する高周波ノイズが圧縮機側のインバータ回路31に伝わるのを抑制するためのものであり、特に、漏れインダクタンスをノーマルインダクタンスとして利用することでノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)を除去するためのローパスフィルタ回路(LCフィルタ)36におけるL成分として用いられる。即ち、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)に対応可能であり、コモンモード用チョークコイルとノーマルモード(ディファレンシャルモード)用チョークコイルとを、それぞれ、用いるのではなく1つのチョークコイルで両モードノイズに対応可能である。
【0044】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、
図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、第1の巻線60と、第2の巻線61と、1本の被覆導線としてのエナメル線70を備える。
【0045】
コア50は、
図3(d)に示すように、断面四角形状をなし、
図4(a)に示すX-Y平面において全体として長方形状をなしている。
図3(d)、
図4(a)に示すように、コア50は、内側空間Sp1を有する。
【0046】
図4(a),(b),(c)に示すように、コア50に第1の巻線60が巻回されているとともに、コア50に第2の巻線61が巻回されている。より詳しくは、
図4(a)に示すように長方形状をなすコア50における一方の長辺部分が第1の直線部51をなし、他方の長辺部分が第2の直線部52をなしており、第1の直線部51と第2の直線部52とは平行である。つまり、コア50は、互いに平行なるよう直線に延びる第1の直線部51と第2の直線部52とを有する。コア50の第1の直線部51に第1の巻線60が巻回されるとともにコア50の第2の直線部52に第2の巻線61が巻回されていることにより、第1の直線部51に第1の巻線60の少なくとも一部が巻回されているとともに、第2の直線部52に第2の巻線61の少なくとも一部が巻回されている。両巻線60,61の巻き方向は、互いに反対方向となっている。また、第1の巻線60と第2の巻線61は互いに離れつつ対向している。
【0047】
なお、コア50と巻線60,61の間には、図示しない樹脂ケースが設けられており、樹脂ケースからは図示しない突起が延び、エナメル線70を当接規制している。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、エナメル線70は、導電線としての銅の丸線71が絶縁材としてのエナメル72で被覆されている。つまり、
図12(a)に示すように、断面真円形の銅の丸線71の表面がエナメル72で覆われている。
【0048】
図3(c),(d)に示すように、エナメル線70は、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回されており、詳細には、第1の巻線60と第2の巻線61とコア50の内側空間Sp1(
図3(d)、
図4(a)参照)を覆う(囲う)ように形成されている。広義には、エナメル線70は、第1の巻線60と第2の巻線61とコア50の内側空間Sp1(
図3(d)、
図4(a)参照)のそれぞれ少なくとも一部を覆う(囲う)ように形成されている。内側空間Sp1は、第1の巻線60と第2の巻線61の間にあるとも言え、エナメル線70は第1の巻線60と第2の巻線61の間において、即ち、内側空間Sp1をはさんで対向する部位同士が離れている。即ち、エナメル線70は第1の巻線60と第2の巻線61の間において電気的に繋がっていない。
【0049】
図3(a)に示すように、四角形状(ロの字状)をなすコア50における一方の短辺部分及び他方の短辺部分は、エナメル線70に覆われない露出部53,54となっている。
エナメル線70は、広義には、少なくとも一部が第1の巻線60及び第2の巻線61と重なるように(上を通過するように)コア50に複数回巻回されている。本実施形態では、エナメル線70のターン数は、「5」である。エナメル線70のターン数は問わない。
【0050】
エナメル線70は、絶縁材としてのエナメル72で被覆された導電線としての丸線71であって、丸線71は、少なくとも一部が第1の巻線60及び第2の巻線61と重なるようにコア50に複数回巻回されるとともに、一端と他端とが捩じられることにより電気的に接続されている。ここで、丸線71の端部同士を捩じった後に、はんだ付けしてもよい。
【0051】
エナメル線70は、
図3(a)におけるコア50の延設方向(X方向)において並設されている。
図3(a)に示すように、コア50は、内側に貫通孔59を有し、貫通孔59を正面視した(コア50の軸方向(
図3(b)参照)から見て)一方の面において、巻回された状態で全ての隣り合うエナメル線70同士の間に隙間G1が形成されている。複数ターンのエナメル線70は、
図3(a)におけるコア50の延設方向(X方向)において均等に配置されている。
【0052】
エナメル線70は、
図3(a)におけるコア50の延設方向(X方向)に直交するY方向に延びており、エナメル線70における複数ターンの各線は平行である。
次に、作用について説明する。
【0053】
まず、
図5及び
図6を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
図5に示すように、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア50に磁束φ1,φ2が発生するとともに漏れ磁束φ3,φ4が発生する。磁束φ1,φ2は互いに逆向きの磁束であり、漏れ磁束φ3,φ4が発生する。ここで、
図6に示すように、発生する漏れ磁束φ3,φ4に抗う方向に磁束を発生させるべくエナメル線70の内部において誘導電流i10が周方向に流れる。
【0054】
このようにして、エナメル線70において、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電に伴い発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア50を周回するように流れることである。
【0055】
コモンモードにおいては、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア50に同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コア内部の磁束によってコモンインピーダンスは保持できる。
【0056】
次に、ローパスフィルタ回路36の周波数特性について
図7を用いて説明する。
図7は、流入するノーマルモードノイズに対するローパスフィルタ回路36のゲイン(減衰量)の周波数特性を示すグラフである。
図7の実線は、コモンモードチョークコイル34にエナメル線70がある場合を示し、
図7の一点鎖線は、コモンモードチョークコイル34にエナメル線70がない場合を示す。また、
図7において、横軸の周波数は対数で示す。ゲインは、ノーマルモードノイズを低減できる量を示すパラメータの一種である。
【0057】
図7の一点鎖線に示すように、コモンモードチョークコイル34にエナメル線70が存在しない場合には、ローパスフィルタ回路36(詳細にはコモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とを含むLC共振回路)のQ値が比較的高くなっている。このため、ローパスフィルタ回路36の共振周波数に近い周波数のノーマルモードノイズは低減されにくくなっている。
【0058】
一方、本実施形態では、コモンモードチョークコイル34にて発生する磁力線(漏れ磁束φ3,φ4)によって誘導電流が発生する位置にエナメル線70が設けられている。エナメル線70は、漏れ磁束φ3,φ4のループの中を通る位置に設けられており、漏れ磁束φ3,φ4によって当該漏れ磁束φ3,φ4を打ち消す方向の磁束が生じるような誘導電流(渦電流)を発生させるように構成されている。これにより、エナメル線70がローパスフィルタ回路36のQ値を下げるものとして機能する。従って、
図7の実線に示すように、ローパスフィルタ回路36のQ値が低くなっている。よって、ローパスフィルタ回路36の共振周波数付近の周波数を有するノーマルモードノイズも、ローパスフィルタ回路36によって低減される。
【0059】
以上のごとく、コモンモードチョークコイルにおいてエナメル線70による金属シールド構造を採用することにより、コモンモードチョークコイルとしてローパスフィルタ回路に利用し、コモンモードノイズを低減する。また、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)に対して発生する漏れ磁束を積極的に活用し、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)の低減を兼ね備えた適切なフィルタ特性を得ることができる。つまり、エナメル線70を用いることで、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)通電時に発生した漏れ磁束に抗う磁束が発生し、電磁誘導によってエナメル線70に電流が流れ熱として消費される。エナメル線70は抵抗として働くためダンピング効果を得ることができ、ローパスフィルタ回路によって発生した共振ピークを抑制できる(
図7参照)。また、コモンモード電流通電時は、コア内部の磁束によってコモンインピーダンスは保持できる。
【0060】
図14(a),(b),(c),(d)は、比較例である。
図14(a),(b),(c),(d)において、コモンモードチョークコイル100は、環状のコア101と、コア101に巻回された第1の巻線102と、コア101に巻回されるとともに第1の巻線102から離れつつ対向する第2の巻線103と、第1の巻線102及び第2の巻線103を跨ぎつつコア101を覆う環状の導電体104と、を備え、導電体104は、薄膜形状であって、薄膜の内周面と第1の巻線102及び第2の巻線103の外面との間に形成された樹脂層105を有する。
【0061】
このように、車載用電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイル100の構成として、薄膜形状の導電体104でコイル(巻線102,103)を覆うことでノーマルモード電流が流れる際に導電体104の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させダンピング効果を持たせる。ダンピング効果を持たせるためには導電体104にある程度の抵抗値が必要となり、厚み100μm以下の薄い銅箔を使用する。詳しくは、導電体104は、金属薄膜、例えば、銅箔よりなる。即ち、環状の導電体104としての金属薄膜は薄膜形状である。導電体104の厚さは、10μm~100μmである。例えば導電体104の厚さは35μmである。薄くするのは、電流(誘導電流)が流れたときに抵抗を大きくして熱に変えるためである。反面、薄くすると強度を保ちにくく形状を保持しにくい。
【0062】
ここで、導電体104を薄い金属箔帯で構成する際において、市販の金属箔では厚みのバリエーションが少なく、最適な抵抗値の調整ができない。また、コイル(巻線102,103)に接する面は絶縁処理が必要となりコストが上昇する。さらに、金属箔の端面同士は、所定の抵抗値を維持したままでの接合が必要となり、接合面形状の工夫と生産技術開発が必要となる。さらには、コモンモードチョークコイル100の放熱性を確保するため導電体104に穴を開けるなどの追加構造が必要となる。また、コモンモードチョークコイル100の形状が変更になると、都度、導電体104もカスタム対応(専用に対応)する必要がある。さらに、導電体104によりノーマルモードのインダクタンスが導電体なしの場合に比べて大幅に減少してしまう。
【0063】
本実施形態では、金属箔(104)の代わりに、同じ銅量のエナメル線70を巻き付けることにより、一般的な市販のエナメル線を使用して単に巻くだけでよいため、カスタム対応が不要で、部品費も低減できる。また、エナメル線70の導体径と巻き付けるターン数を調整することにより、抵抗値の微調整が可能である。さらに、エナメル線自体が絶縁層を持っているので、絶縁対策も容易である。さらには、エナメル線同士の間は隙間G1があるので、放熱性も確保しやすい。また、ダンピング特性が同等でも、本実施形態の方がノーマルモードのインダクタンスを高くできる。さらに、エナメル線の導電線の両端の接合では、端部同士を捩じった後にはんだ付け等により(他にも一般的な接合手法である圧着等の機械かしめ等により)金属箔の端部同士の接合のように接合面形状の工夫と生産技術開発は不要となる。
【0064】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)車載用電動圧縮機11の構成として、電動モータ19を駆動するインバータ装置30を備え、インバータ装置30は、インバータ回路31とノイズ低減部32とを備え、ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34と、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35と、を備える。コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回されるとともに第1の巻線60から離れつつ対向する第2の巻線61と、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回された1本の被覆導線としてのエナメル線70と、を備える。エナメル線70は、絶縁材としてのエナメル72で被覆された導電線としての銅の丸線71であって、丸線71は、少なくとも一部が第1の巻線60及び第2の巻線61と重なるようにコア50に複数回巻回されるとともに(特に、コア50の延設方向においてコア50に複数回巻回されるとともに)、一端と他端とが電気的に接続され、コア50は、エナメル線70に覆われない露出部53,54を有している。よって、コア50はエナメル線70に覆われない露出部53,54を有するため放熱性に優れる一方で、エナメル線70は第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回されているためノーマルモード電流が流れる際に生じる漏れ磁束によってエナメル線70の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。さらには、帯状の導電体で巻線を覆うよりも幅が狭いエナメル線で巻線を囲うほうが、エナメル線の幅が狭い分、放熱性に優れる。第1の巻線60及び第2の巻線61から発生する漏れ磁束は、コア50の露出部53,54を通りつつコア50に巻回されたエナメル線70と鎖交するループを形成するため、エナメル線70に誘導電流が流れやすい。また、漏れ磁束が生じる結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。さらに、エナメル線70を用いることにより絶縁性を確保することができる。
【0065】
(2)コア50は内側に貫通孔59を有し、貫通孔59を正面視した一方の面において、巻回された状態で全ての隣り合うエナメル線70同士の間に隙間G1が形成されているので、放熱性に優れている。
【0066】
(3)コア50は、互いに平行なるよう直線に延びる第1の直線部51と第2の直線部52とを有し、第1の直線部51に第1の巻線60の少なくとも一部が巻回され、第2の直線部52に第2の巻線61の少なくとも一部が巻回されている。よって、エナメル線70を容易に配置することができ、実用的である。
【0067】
なお、次のようにしてもよい。
○ コアは真円でなければよく、例えば、
図3(a),(b),(c),(d)に代わり
図8に示すように、コア80は楕円形であってもよい。つまり、コア80における長軸(
図8のX軸)と短軸(
図8のY軸)のうちの長軸方向に延びる部位に巻線60,61を巻回する。
【0068】
他にも、
図3(a),(b),(c),(d)に代わり
図9に示すように、コア81は長穴形であってもよい。つまり、コア81は、平行なる直線部81a,81bと、直線部81a,81bの両端を結ぶ半円部81c,81dを有し、一対の直線部81a,81bに巻線60,61を巻回する。
【0069】
他にも、
図3(a),(b),(c),(d)に代わり
図10に示すように、コア82は長方形の角が円弧状に面取りされた形状でもよい。つまり、コア82は、平行なる長辺部82a,82bと、平行なる短辺部82c,82dと、四隅の円弧部82e,82f,82g,82hを有し、一対の長辺部82a,82bに巻線60,61を巻回する。
【0070】
このようにコアは、軸方向から見た際に真円ではなく引き伸ばされている形状をなすと、漏れ磁束が出やすく漏れ磁束の方向性が出てくるので有用である。
○
図3(a),(b),(c),(d)に代わり
図11(a),(b),(c)に示すように、エナメル線70の内周面と第1の巻線60及び第2の巻線61の外面との間に別途、絶縁性板材83を配置してもよい。絶縁性板材83は例えば塩化ビニールよりなるテープ等を用いることができる。エナメル線70の内周側に絶縁性板材83を有することで形状を保持できるとともに巻線60,61との絶縁をより確保することができる。
【0071】
○
図12(a)に示すように被覆導線(70)は断面真円形の丸線(71)を絶縁材(72)で被覆したもの以外にも、例えば、
図12(b)に示すように、被覆導線75は断面長方形の平角線76を絶縁材77で被覆したものを用いてもよい。この場合においては、端部同士を重ねた状態で溶接等により接合すればよい。
【0072】
○ 被覆導線のターン数は2以上であればよい。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
第2の実施形態においては、
図3(a),(b),(c),(d)に代わり、
図13(a),(b),(c),(d)に示す構成としている。
図13(a),(b),(c),(d)において、本実施形態のコモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回されるとともに第1の巻線60から離れつつ対向する第2の巻線61と、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回された複数本の被覆導線としてのエナメル線90,91,92,93,94と、を備える。本実施形態では、
図13(a),(b),(c),(d)に示すように、複数本の被覆導線としての5本のエナメル線90,91,92,93,94を備えるが、エナメル線の本数は、「5」以外でもよい。
【0074】
エナメル線90,91,92,93,94のうちの少なくとも1本は、少なくとも一部が第1の巻線60及び第2の巻線61上を通過する。
各1本のエナメル線90,91,92,93,94は、それぞれ、コア50に1回巻回されるとともに、絶縁材としてのエナメル72(
図12(a)参照)で被覆された導電線としての銅の丸線71(
図12(a)参照)の一端と他端とが捩じられることにより電気的に接続されている。広義には、各1本のエナメル線90,91,92,93,94は、それぞれ、コア50に1回以上巻回される。丸線71の端部同士を捩じった後に、はんだ付けしてもよい。
【0075】
コア50の第1の直線部51に第1の巻線60が巻回されるとともにコア50の第2の直線部52に第2の巻線61が巻回されていることにより、コア50は、エナメル線90,91,92,93,94に覆われない露出部55,56を有している。巻回された状態で隣り合うエナメル線90,91,92,93,94同士の間に全周にわたって隙間G2(
図13(a),(b)参照)が形成されている。
【0076】
各エナメル線90,91,92,93,94は
図13(a)におけるコア50の延設方向(X方向)において並設されている。複数本のエナメル線は
図13(a)におけるコア50の延設方向(X方向)において均等に配置されている。
【0077】
複数本のエナメル線90,91,92,93,94は、
図13(a)におけるコア50の延設方向(X方向)に直交するY方向に延びており、各エナメル線90,91,92,93,94は平行である。
【0078】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(4)コモンモードチョークコイルは、環状のコア50と、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回されるとともに第1の巻線60から離れつつ対向する第2の巻線61と、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回された複数本の被覆導線としてのエナメル線90,91,92,93,94と、を備える。エナメル線90,91,92,93,94における各1本のエナメル線は、それぞれ、コア50に1回以上巻回されるとともに、絶縁材としてのエナメル72で被覆された導電線としての丸線71の一端と他端とが電気的に接続され、コア50は、エナメル線90,91,92,93,94に覆われない露出部55,56を有している。
【0079】
よって、コア50は複数本のエナメル線90,91,92,93,94に覆われない露出部55,56を有するため放熱性に優れる一方で、複数本のエナメル線90,91,92,93,94は第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を囲うように巻回されるためノーマルモード電流が流れる際に生じる漏れ磁束によって複数本のエナメル線90,91,92,93,94の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。第1の巻線60及び第2の巻線61から発生する漏れ磁束は、コア50の露出部55,56を通りつつ環状の複数本のエナメル線90,91,92,93,94と鎖交するループを形成するため、複数本のエナメル線90,91,92,93,94に誘導電流が流れやすい。また、漏れ磁束が生じる結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。さらに、エナメル線90,91,92,93,94を用いることにより絶縁性を確保することができる。
【0080】
(5)巻回された状態で隣り合うエナメル線90,91,92,93,94同士の間に全周にわたって隙間G2が形成されている。よって、放熱性に優れている。
なお、
図13(a),(b),(c),(d)ではコア50は
図13(a)に示すように長方形状をなしていたが、これに限るものではなく、
図8で示したようにコア80は楕円形でも、
図9で示したようにコア81は長穴形状でも、
図10で示したようにコア82は四角形の隅を円弧状にした形状等でもよい。また、
図12(a)に代わり、例えば、
図12(b)に示したように断面長方形の平角線76を絶縁材77で被覆した被覆導線75を用いてもよく、この場合においては、端部同士を重ねた状態で溶接等により接合すればよい。
【0081】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 被覆導線における導電線の一端と他端とを電気接続するやり方は問わない。被覆を外して単に捩じっても、かしめても、溶接してもよい。
【0082】
○ 被覆導線としてのエナメル線70,90,91,92,93,94において、導電線(71,76)は銅の他にも、アルミ等で構成されていてもよい。
○ 被覆導線の絶縁材(72,77)は、エナメルの他にも、ポリイミド、ポリエステル、PET、PEN等で構成されていてもよい。
【0083】
○ 被覆導線はエナメル線以外でもよい。例えば、塩化ビニールケーブルでもよい。
○
図3(a)における複数ターンのエナメル線70はコア50の延設方向(X方向)において均等でなくてもよい。
図13(a)の場合も同様に複数本のエナメル線90,91,92,93,94はコア50の延設方向(X方向)において均等でなくてもよい。
【0084】
○ エナメル線70及びエナメル線90,91,92,93,94はコア50の延設方向(X方向)に直交する方向であるY方向に延びていたが、Y方向に対し斜めに延びていてもよい。
【0085】
○
図3(a)において複数ターンのエナメル線70は平行でなくてもよい。同様に、
図13(a)において被覆導線の各線であるエナメル線90,91,92,93,94は平行でなくてもよい。
【0086】
○
図3(a)において各ターンのエナメル線70におけるクリアランス(隙間G1)が有っても無くてもよい。同様に、
図13(a)において被覆導線の各線であるエナメル線90,91,92,93,94はクリアランス(隙間G2)が有っても無くてもよい。
【0087】
○ エナメル線70及びエナメル線90,91,92,93,94はコア50の延設方向(X方向)において並設したが、コア50の延設方向(X方向)での同一位置においてコア50の延設方向に直交する方向(Y方向)に重なるように巻回してもよい。即ち、横巻き以外にも縦巻きとしてもよい。
【0088】
○ エナメル線70のターン数や導電線の径等を変える、あるいは、エナメル線(90,91,92,93,94)の本数や導電線の径等を変えることで、ローパスフィルタ回路36のフィルタ特性は容易に調整変更可能である。
【符号の説明】
【0089】
11…車載用電動圧縮機、18…圧縮部、19…電動モータ、30…インバータ装置、31…インバータ回路、32…ノイズ低減部、34…コモンモードチョークコイル、35…Xコンデンサ、36…ローパスフィルタ回路、50…コア、53,54,55,56…露出部、60…第1の巻線、61…第2の巻線、70…エナメル線、71…丸線、72…エナメル、75…被覆導線、76…平角線、77…絶縁材、90,91,92,93,94…エナメル線。