(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 19/10 20060101AFI20221122BHJP
B21B 37/16 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B21B19/10 B
B21B37/16 112
(21)【出願番号】P 2019231756
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-154825(JP,A)
【文献】特開平06-154814(JP,A)
【文献】特開2000-158015(JP,A)
【文献】特開平07-051707(JP,A)
【文献】特開昭64-022405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビレットを穿孔圧延して中空素管とし、
前記中空素管を延伸圧延し、
延伸圧延された前記中空素管を、直列に配列されたN個のスタンドを備える定径圧延機により定径圧延して継目無鋼管とする、継目無鋼管の製造方法であって、
前記定径圧延機の各スタンドは、複数の孔型ロールを備えており、
(a)前記定径圧延機の第N番目のスタンドにおける孔型周長L
Nが第N-1番目のスタンドにおける孔型周長L
N-1以上であり、
(b)前記定径圧延機の第N-1番目のスタンドにおいては、下記(1)式で定義されるΔLが-0.24%以上、0.24%以下となるよう該第N-1番目のスタンドの孔型ロールを制御し、
(c)前記定径圧延機の第N番目のスタンドにおいては、下記(2)式で定義されるΔDが-0.20以上、0.20以下となるよう該第N番目のスタンドの孔型ロールを制御する、継目無鋼管の製造方法。
ΔL=(L
N-1-C)/C×100(%)…(1)
ΔD=(D
N-D)/D×100(%)…(2)
[ここで、
L
N-1:前記定径圧延機の第N-1番目のスタンドの孔型ロールの孔型周長(mm)、
C:前記継目無鋼管の狙い外周長(mm)
D
N:前記定径圧延機の第N番目のスタンドの孔型ロールのボトム部外径(mm)、
D:前記継目無鋼管の狙い外径(mm)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造方法に関し、特に、外径寸法精度および真円度に優れた継目無鋼管を製造することができる継目無鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管は、一般的に、ビレットを加熱炉で所定温度まで加熱した後に、穿孔圧延して中空素管とし、前記中空素管を延伸圧延し、さらに延伸圧延された前記中空素管を定径圧延することによって製造される。前記穿孔圧延には、ピアサーなどの穿孔圧延機が、前記延伸圧延には、マンドレルミル、プラグミルなどの延伸圧延機が、それぞれ用いられる。また、前記定径圧延は、鋼管を最終的な仕上がり寸法とするための工程であり、レデューサー、サイザー(サイジングミルともいう)などの定径圧延機を用いて行われる。
【0003】
サイザーは、ライン方向に直列に配列された複数のスタンドを備えるタンデム式圧延機であり、スタンドの数は、一般的に5~28機程度である。そして、各スタンドは複数の孔型ロールを備えている。
【0004】
例えば、
図1は、一般的な2ロールスタンド式のサイザー900の構造を示す模式図であり、
図1(a)はラインを側面から見たところを、
図1(b)は1つのスタンドを正面(すなわち管軸方向)から見たところを、それぞれ示している。
【0005】
サイザー900は複数の圧延スタンド910を備えており、圧延スタンド910は、
図1(a)に矢印で示した、被圧延材である鋼管920の搬送方向(ライン方向)に直列に配列されている。なお、
図1(a)では便宜的に4スタンド分のみを抜粋して示しているが、実際のサイザーはさらに多数のスタンドを備えることができる。
【0006】
各圧延スタンド910は、対向して配置された2つの孔型ロール930を備えており、孔型ロール930の回転軸は鋼管920の搬送方向と直交するように配置されている。さらに、各スタンドの孔型ロール930の回転軸は、図(a)に示したように90度ずつ交互にずらして配置されている。すなわち、孔型ロールの回転軸が垂直に配置されているスタンドと水平に配置されているスタンドが交互に配置されている。なお、
図1では2ロールスタンド式のサイザーを例として示したが、3ロールスタンド式のサイザーの場合には、1スタンドが3つの孔型ロールを備え、各スタンドはロール回転軸を60度ずつずらして配置される。
【0007】
定径圧延においては、このような定径圧延機を使用して、鋼管の寸法が最終的な仕上がり寸法となるように圧延が行われる。したがって、最終的に得られる継目無鋼管の寸法や形状は定径圧延条件によって決まるため、継目無鋼管の真円度を向上させるための様々な方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1では、スタンド数Nの3ロールスタンド式または4ロールスタンド式定径圧延機を用いた定径圧延において、製品の肉厚tと外径Dの比t/Dに応じて、第N-1スタンドにおける孔型ロールのギャップを制御する技術が提案されている。前記技術によれば、外面傷の発生を防止できるとともに、真円度に優れた継目無鋼管を製造できるとされている。
【0009】
また、特許文献2では、複数本の素管に対して定径圧延を行う際に、ある素管に対して圧延を行った際の荷重やトルクなどの情報に基づいて、後続の素管の圧延を行う際の孔型ロールの圧下位置を調整する技術が提案されている。前記技術によれば、噛み出し傷の発生を防止できるとともに、真円度に優れた継目無鋼管を製造できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-337719号公報
【文献】特開2002-102912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、本発明者らの検討により、特許文献1、2に記載されているような従来の定径圧延方法には、以下に述べるような問題があることが分かった。
【0012】
まず、従来の定径圧延においては、定径圧延機の各スタンドにおける圧下により、管の外径を段階的に目標とする外径に近づけてゆき、最終スタンドでの圧下によって所望の外径となるように圧延が行われている。そして、最終的に得られる継目無鋼管の真円度を確保するために、最終スタンドでは、孔型ロール内に鋼管を充満させることにより管の断面形状を整えていた。
【0013】
定径圧延で使用される孔型ロールは、孔型ロールの対向する面同士が接触した状態ではなく、
図1(b)に矢印gで示したように所定の距離(ギャップg)だけロール表面を離間させた状態で使用される。そして、孔型ロールは、ギャップを所定の距離としたときに孔型形状が真円となるように設計されるのが通例であり、この時のギャップを基準ギャップという。
【0014】
したがって、上述したように最終スタンドにおいて孔型ロール内に鋼管を充満させることにより管の断面形状を真円とする従来の手法では、最終スタンドにおける孔型ロールのギャップが基準ギャップとなるように制御する必要がある。その際、ギャップを決めれば必然的に孔型ロールのボトム部外径dも決まるため、最終的な継目無鋼管の外径は孔型ロールのボトム部外径dとなる。
【0015】
そのため、従来の定径圧延においては、真円度を確保しつつ所望の製品外径とするためには、ギャップが基準ギャップとなるよう配置した状態においてボトム部外径dが所望の製品外径となる孔型ロールを用いる必要があり、製造する継目無鋼管の外径が変わるたびに、最終スタンドの孔型ロールを交換する必要があった。そのため、生産性が低いことに加えて、製品外径ごとに多種の孔型ロールを用意しておく必要があるという問題があった。
【0016】
なお、上記従来の定径圧延方法においても、最終スタンドにおけるギャップを変更すれば孔型ロールを交換せずとも最終的に得られる継目無鋼管の外径を変えることは可能である。しかしその場合、基準ギャップから外れたギャップで操業することになるため、最終スタンドにおける孔型の形状が真円から外れることになるため、真円度が低下してしまう。
【0017】
したがって、従来の定径圧延においては、個々の製品に合わせた孔型ロールを用いることなく、優れた外径寸法精度と真円度を兼ね備えた継目無鋼管を製造することはできなかった。
【0018】
また、特許文献2で提案されている手法は、1回圧延を行って荷重やトルクなどの情報を取得し、それに基づいて移行の圧延の制御を行うというものであるため、最初の鋼管の製造では十分な真円度や外径寸法精度を得ることが難しいという問題もある。
【0019】
本発明は、上述した課題を解決することを目的としたものであり、個々の製品に合わせた孔型ロールを用いることなく、優れた外径寸法精度と真円度を兼ね備えた継目無鋼管を製造することができる継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、最終スタンドにおいて孔型ロール内に鋼管を充満させることにより管の断面形状を真円とするという従来の手法とはまったく異なるアプローチにより、上記課題を解決出来ることを見出した。
【0021】
上記知見を得るために行った実験の一例について、説明する。
【0022】
本実験では、比較のために、従来の定径圧延条件(比較例)と、本発明の条件(発明例)の2条件で定径圧延を行って、得られた継目無鋼管の外径を評価した。
【0023】
前記定径圧延には、直列に配列された8個のスタンドを備える定径圧延機を使用し、外径337mmの延伸圧延済み中空素管に定径圧延を施して継目無鋼管を製造した。最終的な継目無鋼管の狙い外径(目標外径)は320mmとした。
【0024】
図2は、使用した定径圧延機の各圧延スタンドにおける孔型周長を示すグラフである。図中、四角(□)が比較例、白丸(○)が発明例における外径を、それぞれ示す。比較例は、従来の定径圧延条件であり、具体的には、各スタンドにおける圧下により管のボトム部外径を段階的に目標とする外径に近づけてゆき、最終スタンドでの圧下によって所望の外径となるように圧延する条件である。なお、第5スタンドにおける孔型周長が第4スタンドよりも大きくなっているが、これは本実験では第5スタンドの孔型ロールを搬送ロールとして利用するために、意図的にロールギャップを大きくしたためである。また、比較例の最終スタンドにおける孔型ロールは、ボトム部外径が管の狙い外径となるように、基準ギャップから外れたギャップとなっている。
【0025】
一方、発明例では、従来と異なり、最終スタンドにおける孔型周長が第7スタンドにおける孔型周長よりも大きくなる条件とした。そして、第7スタンドでは、ボトム部外径を制御することに代えて、孔型ロールの孔型周長が継目無鋼管の狙い外周長となるよう制御した。本実験の場合、狙い外径が320mmであるから、狙い外周長は、320mm×π、すなわち約1005.3mmとなる。
【0026】
図3は、上記の2条件で得られた継目無鋼管の外径(定径圧延機の出側における外径)を示した図であり、ボトム部外径、フランジ部外径、および平均外径を示している。ここで、継目無鋼管のボトム部外径とは、最終スタンドのボトム部に対応する部分における外径を指すものとする。同様に、継目無鋼管のフランジ部外径とは、最終スタンドのフランジ部に対応する部分における外径を指すものとする。また、平均外径は、前記ボトム部外径とフランジ部外径の平均値を指すものとする。
【0027】
図3に示した結果から分かるように、比較例では、最終スタンドで制御しているボトム部外径は狙い外径に近い値となっているものの、フランジ部および平均外径は狙い外径から大きく外れている。これは、従来の方法では最終スタンドで孔型ロール内に鋼管を充満させることにより管の断面形状を整えているため、直接制御できないフランジ方向に管が広がってしまうためである。したがって、従来の定径圧延方法において、このような真円度の低下を避けるためには、先にも述べたように、ギャップが基準ギャップとなるよう配置した状態においてボトム部外径dが所望の製品外径となる孔型ロールを用いる必要があり、したがって、製造する継目無鋼管の外径ごとに最終スタンドの孔型ロールを用意する必要がある。これに対して発明例では、ボトム部外径、フランジ部外径ともに狙い外径に近い値となっており、真円度に優れる継目無鋼管が得られている。
【0028】
本発明は上記知見に基づくものであり、その要旨は次の通りである。
【0029】
1.ビレットを穿孔圧延して中空素管とし、
前記中空素管を延伸圧延し、
延伸圧延された前記中空素管を、直列に配列されたN個のスタンドを備える定径圧延機により定径圧延して継目無鋼管とする、継目無鋼管の製造方法であって、
前記定径圧延機の各スタンドは、複数の孔型ロールを備えており、
(a)前記定径圧延機の第N番目のスタンドにおける孔型周長LNが第N-1番目のスタンドにおける孔型周長LN-1以上であり、
(b)前記定径圧延機の第N-1番目のスタンドにおいては、下記(1)式で定義されるΔLが-0.24%以上、0.24%以下となるよう該第N-1番目のスタンドの孔型ロールを制御し、
(c)前記定径圧延機の第N番目のスタンドにおいては、下記(2)式で定義されるΔDが-0.20以上、0.20以下となるよう該第N番目のスタンドの孔型ロールを制御する、継目無鋼管の製造方法。
ΔL=(LN-1-C)/C×100(%)…(1)
ΔD=(DN-D)/D×100(%)…(2)
[ここで、
LN-1:前記定径圧延機の第N-1番目のスタンドの孔型ロールの孔型周長(mm)、
C:前記継目無鋼管の狙い外周長(mm)
DN:前記定径圧延機の第N番目のスタンドの孔型ロールのボトム部外径(mm)、
D:前記継目無鋼管の狙い外径(mm)]
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、製品外径に合わせて孔型ロールを使い分けることなく、優れた外径寸法精度と真円度を兼ね備えた継目無鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一般的な2ロールスタンド式のサイザーの構造を示す模式図である。
【
図2】実験に使用した定径圧延機の各圧延スタンドにおける孔型周長を示すグラフである。
【
図3】
図2に示した条件での定径圧延で得た継目無鋼管の外径を示す図である。
【
図4】シングルRタイプの孔型ロールにおける孔型周長の計算方法を示す模式図である。
【
図5】ダブルRタイプの孔型ロールにおける孔型周長の計算方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施態様を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0033】
本発明においては、ビレットを穿孔圧延して中空素管とし、前記中空素管を延伸圧延し、 延伸圧延された前記中空素管を定径圧延して継目無鋼管とする。前記ビレットとしては、とくに限定されることなく、任意の鋼からなるビレットを用いることができる。また、前記穿孔圧延および延伸圧延は、特に限定されず任意の条件で行うことができる。前記延伸圧延の後、定形圧延の前には、さらに任意に前記中空素管を摩管することができる。前記摩管には、リーラーを用いることができる。
【0034】
前記定径圧延は、直列に配列されたN個のスタンドを備える定径圧延機を用いて行う。前記定径圧延機のスタンド数Nは、とくに限定されることなく任意の数とすることができるが、一般的には、5~28とすることが好ましく、6~12とすることがより好ましい。
【0035】
前記定径圧延機の各スタンドは、複数の孔型ロールを備えている。1スタンドあたりの孔型ロールの数は特に限定されないが、一般的には2または3とすることが好ましい。また、本発明は、孔型ロールのカリバーが単一の円弧で構成されている場合のみならず、孔型ロールのカリバーが複数の円弧を繋ぎ合せた形状である場合にも適用できる。
【0036】
(a)LN≧LN-1
本発明においては、定径圧延機の第N番目のスタンドにおける孔型周長LNが第N-1番目のスタンドにおける孔型周長LN-1以上であることが重要である。従来の定径圧延においては、上述したように最終スタンドにおいて孔型ロール内に鋼管を充満させることにより管の断面形状を真円としていた。そのため、第N番目のスタンドにおける孔型周長LNは、第N-1番目のスタンドにおける孔型周長LN-1未満に設定されている(LN<LN-1)。これに対して本発明では、鋼管外周長の制御は第N-1番目のスタンドで行うため、最終スタンドにおいて孔型ロール内に鋼管を充満させる必要が無い。そのため、LNをLN-1以上とする。
【0037】
なお、本発明において孔型周長とは、実際に圧延を行う際のギャップにセットアップされた孔型ロールにおける孔型の周長を指すものとする。
【0038】
(b)ΔL:-0.24~0.24%
また、前記定径圧延機の第N-1番目のスタンドにおいては、下記(1)式で定義されるΔLが-0.24%以上、0.24%以下となるよう該第N-1番目のスタンドの孔型ロールを制御する。
ΔL=(LN-1-C)/C×100(%)…(1)
ここで、
LN-1:定径圧延機の第N-1番目のスタンドの孔型ロールの孔型周長(mm)、
C:継目無鋼管の狙い外周長(mm)
【0039】
本発明では、第N-1番目のスタンドにおいて、鋼管の外周長を狙い外周長とすることを意図して、該第N-1番目のスタンドの孔型ロールを制御する。そのためには、第N-1番目のスタンドの孔型ロールの孔型周長LN-1を、継目無鋼管の狙い外周長Cとすることが望ましいが、実際の制御においてはある程度の幅が許容される。そこで、具体的には、上記(1)式で定義されるΔLの値を-0.24~0.24%とする。ΔLが前記範囲から外れる場合、最終的に得られる継目無鋼管の外径寸法精度および真円度の少なくとも一方が不十分となる。
【0040】
なお、狙い外周長Cとは、最終的に製造する継目無鋼管の外周長を指す。例えば、狙い外径Dが決まっている場合には、Dπを狙い外周長とすることができる。
【0041】
また、孔型ロールの孔型周長Lは常法に従って求めることができる。例えば、単一のカリバー曲率を有する、シングルRタープの孔型ロールの場合、下記の式により孔型ロールの孔型周長Lを求めることができる。
【数1】
【0042】
ここで、数式中の各記号の定義は次の通りである(
図4参照)。
L:孔型周長
R:孔型の曲率半径
S:オフセット
【0043】
なお、オフセットとは、孔型の曲率中心Cに対する、実際の孔型中心であるパスセンターC
Pのオフセットを指すものとし、
図4に示すように孔型を基準ギャップよりも締め込んだ際に正の値をとると定義とする。また、θは下記の式で定義される角度である。
【数2】
【0044】
また、2つのカリバー曲率を有する、ダブルRタイプの孔型ロールの場合には、下記の式により孔型ロールの孔型周長Lを求めることができる。
【数3】
【0045】
ここで、数式中の各記号の定義は次の通りである(
図5参照)。
L:孔型周長
R1:孔型の第1の曲率半径
R2:孔型の第2の曲率半径
S1:パスセンターC
Pに対するR1のオフセット
S2:パスセンターC
Pに対するR2のオフセット
【0046】
また、θ1およびθ2は下記の式で定義される角度である。
【数4】
【数5】
【0047】
したがって、定径圧延機の第N-1番目のスタンドの孔型ロールの孔型周長LN-1は、第N-1番目のスタンドの孔型ロールの曲率半径およびオフセットの値から算出することができる。
【0048】
(c)ΔD:-0.20~0.20%
さらに、第N番目のスタンドにおいては、下記(2)式で定義されるΔDが-0.20以上、0.20以下となるよう該第N番目のスタンドの孔型ロールを制御する、
ΔD=(DN-D)/D×100(%)…(2)
ここで、
DN:前記定径圧延機の第N番目のスタンドの孔型ロールのボトム部外径(mm)、
D:前記継目無鋼管の狙い外径(mm)
【0049】
なお、「ボトム部」とは、
図4、5に点Bとして示すように、孔型ロールの外周面に設けられたカリバー(溝)の底部であり、言い換えると、孔型ロールの直径が最小となる点である。また、「ボトム部」とは、カリバーの深さが、孔型ロールの回転軸方向において最大、かつ管軸方向(パスライン方向)において最小となるポイントと定義することもできる。そして、「ボトム部外径」とは、実際に圧延を行う際のギャップに孔型ロールがセットアップされた状態での、前記ボトム部における孔型の径を指すものとする。
図4、5に示すように、通常、ボトム部Bは孔型ロールの幅方向中央に位置し、ボトム部外径は、
図1(b)に矢印dで示したように、対向する孔型ロールのボトム部間の距離となる。
【0050】
本発明では、第N番目のスタンドにおいて、鋼管の外径を狙い外径とすることを意図して、該第N番目のスタンドの孔型ロールを制御する。そのためには、第N番目のスタンドの孔型ロールのボトム部外径DNを、継目無鋼管の狙い外径Dとすることが望ましいが、実際の制御においてはある程度の幅が許容される。そこで、具体的には、上記(2)式で定義されるΔDの値を-0.20~0.20%とする。ΔDが前記範囲から外れる場合、最終的に得られる継目無鋼管の外径寸法精度および真円度の少なくとも一方が不十分となる。
【0051】
本発明の継目無鋼管の製造方法は、とくに限定されることなく任意の寸法の継目無鋼管の製造に利用することができる。しかし、管の剛性は管の外径Dに対する肉厚tの比(t/D)と相関があり、t/Dが大きいほど剛性が高く、低いほど剛性が低くなる。t/Dが1.9%以上であれば、剛性が向上し、その結果、定径圧延中の座屈による管内外面の傷の発生を防止できる。そのため、傷の防止の観点からは、t/Dが1.9%以上であることが好ましく、2.1%以上であることがより好ましく、2.5%以上であることがさらに好ましい。一方、t/Dが25%以下であれば、過剰な剛性に起因する定径圧延不良が防止でき、その結果、より確実に外周長を制御することができる。そのため、t/Dが25%以下であることが好ましく、24%以下であることがより好ましく、21%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明においては、t/Dを求めるためのDとして、狙い外径を用いればよい。
【実施例】
【0052】
次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
ビレットをピアサーにより穿孔圧延して中空素管とし、次いで、前記中空素管に対してエロンゲーターとプラグミルによる延伸圧延、およびリーラーによる摩管を施した。その後、前記中空素管をサイザーにより定径圧延して継目無鋼管を製造した。
【0054】
前記定径圧延には、各スタンドが2つの孔型ロールを備える2ロールスタンド式の定径圧延機を使用した。また、定径圧延に供した中空素管(すなわち延伸圧延および摩管後の中空素管)の外径および肉厚、ならびに定径圧延条件を表1に示す。定径圧延条件としては、狙い外径D、肉厚、ΔL、およびΔDを記載した。なお、サイザーによる定形圧延では管の肉厚が変化しないため、定径圧延後の継目無鋼管の肉厚は、使用した中空素管の肉厚に等しい。また、製造する継目無鋼管の寸法は、比較的加工が容易なt/D:2.4%から、比較的加工が難しいt/D:22%までの範囲とした。圧延温度(定径圧延に供する中空素管の外表面における温度)については圧延機のモーターがトリップするのを防ぐために900℃で統一した。
【0055】
次いで、得られた継目無鋼管の外径寸法精度および真円度を以下の手順で評価した。まず、最終的に得られた継目無鋼管の最大外径Dmax(mm)と最小外径Dmin(mm)を定径圧延機の出側において測定し、下記(3)式で定義される平均外径Daveを求めた。得られた平均外径Dave(mm)と狙い外径D(mm)を用いて、次の(4)式により外径寸法精度を求めた。また、次の(5)式により真円度を求めた。
Dave=(Dmax+Dmin)/2…(3)
外径寸法精度(%)=(Dave-D)/D×100…(4)
真円度(%)=(Dmax-Dmin)/Dave×100…(5)
【0056】
外径寸法精度および真円度の評価結果を表1に併記する。表1に示した結果から分かるように、本願発明の条件を満たす実施例では、製品外径に合わせて孔型ロールを使い分けずとも、優れた外径寸法精度と真円度を兼ね備えた継目無鋼管が得られた。具体的には、
本発明の製造方法によれば、外径寸法精度が0.2%以下、かつ真円度が0.5%以下の継目無鋼管を製造することができた。これに対して、本願発明の条件を満たさない比較例では、外径寸法精度および真円度の一方または両方が劣っていた。
【0057】
【符号の説明】
【0058】
900 定径圧延機
910 スタンド
920 鋼管
930 孔型ロール