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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221122BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019514624
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2018017009
(87)【国際公開番号】W WO2018199242
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017090848
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 潔
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154131(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017702(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042917(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と硫酸バリウムとを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15を超え230未満であり、
前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であり、
前記負極電極材料の密度は、4.1g/cm以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と硫酸バリウムとを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が80以上220以下であり、
前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であり、
前記負極電極材料の密度は、3.8g/cm以上である、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極電極材料の密度は、4.1g/cm以上である、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記負極電極材料の密度は、4.7g/cm未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1が350以下である、請求項4に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料は、炭素材料、硫酸バリウムなどを含む。特許文献1では、グラファイトまたはカーボンファイバ、カーボンブラック、硫酸バリウムを含み、密度が3.6~4.0g/cmの負極電極材料が提案されている。特許文献2では、0.6mass%未満の硫酸バリウムを含み、密度が3.6g/cmより高い負極電極材料が提案されている。特許文献2には、負極電極材料のカーボン含有量が0.2mass%以下であること、およびカーボンとしてアセチレンブラックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-152131号公報
【文献】特開2016-189260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、負極電極材料の密度を高めると、サイクル寿命が向上する。しかし、負極電極材料の密度が高い負極板を形成する場合に、カーボンブラックを負極電極材料に添加すると、集電体への塗布性が低下する。また、負極電極材料の組成によっては、深い放電を行なった後に充電がされ難くなり、サイクル寿命が低下することがある。
【0005】
本発明の課題は、負極板の作製が容易であるとともに、深い放電を行なう場合の鉛蓄電池のサイクル寿命性能を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と硫酸バリウムとを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15を超え230未満であり、
前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であり、
前記負極電極材料の密度は、3.8g/cm3以上である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記側面によれば、負極板を容易に作製できるとともに、深い放電を行なう場合でも鉛蓄電池の高いサイクル寿命性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池のフタを外した状態を模式的に示す斜視図である。
図2A図1の鉛蓄電池の正面図である。
図2B図2Aの鉛蓄電池のIIB-IIB線による矢示断面図である。
図3】鉛蓄電池A1~A8、およびB1~B8について評価したサイクル寿命性能と負極電極材料の密度との関係を示すグラフである。
図4】鉛蓄電池A3、A11~A16、B3、およびB11~B16について評価したサイクル寿命性能と負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備える。負極板は、炭素材料と硫酸バリウムとを含有する負極電極材料を含む。炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1は、15を超え230未満である。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であり、負極電極材料の密度は、3.8g/cm3以上である。
【0010】
一般に、鉛蓄電池の負極板では、負極電極材料の密度を高くすると、負極電極材料の導電性が高まることに加え、負極電極材料に含まれる負極活物質間の距離が近くなることで、Pb2+イオンの拡散速度が大きくなり、充電反応速度が向上することが知られている。よって、負極電極材料の密度が高い場合、負極板における硫酸鉛の蓄積が抑制され、サイクル寿命性能が向上すると考えられている。
【0011】
一方、従来、負極電極材料には、導電性を高める観点から、カーボンブラックが添加されている。負極板は、負極電極材料を含むペーストを用いて作製されるが、このペーストに含まれる溶媒を、カーボンブラックが多量に吸着する。そのため、カーボンブラックを含む従来のペーストでは、ペーストの流動性および伸展性が大きく低下し、集電体へのペーストの塗布性が極めて低くなる。また、一般には、負極電極材料を集電体に均一に塗布する観点から、ペーストを塗布する用途専用の充填機(ペースター)などの機械を用いた塗布が採用されている。しかし、負極電極材料の密度を高める場合には、ペーストの固形分が多くなるため、特にペーストの塗布性が低下する。例えば、負極電極材料中のカーボンブラックの含有量が0.6質量%となるようにカーボンブラックを単独で負極電極材料に添加すると、機械による塗布ができる上限の密度は、概ね3.6g/cmである。よって、カーボンブラックを単独で用いる場合には、3.6g/cmを超えて負極電極材料の密度が高い場合には、従来より、機械塗布が困難である。ペーストの機械による塗布が難しい場合には、工業的に負極板を製造することが困難である。
【0012】
本発明者は、負極電極材料の密度が3.6g/cm以下の場合には、第1炭素材料または第2炭素材料を単独で用いても、また、双方の炭素材料を併用しても、サイクル寿命性能はそれほど変わらないことに気づいた。一般に、負極電極材料の密度が高いほど、サイクル寿命性能および充電受入性能が高くなり、深い放電を含む充放電サイクルの際にも容量の低下が抑制される。ただし、本発明者の検討結果では、第1炭素材料を単独で用いる場合には、負極電極材料の密度を高めても、サイクル寿命の追加的な向上効果はそれほど見られないことが分かった。
【0013】
なお、炭素材料には、様々な粉体抵抗を有するものが一般に知られている。粉末材料の粉体抵抗は、粒子の形状、粒子径、粒子の内部構造、および/または粒子の結晶性などにより変化することが知られている。従来の技術常識では、炭素材料の粉体抵抗は、鉛蓄電池の負極板の抵抗には直接的な関係はなく、サイクル寿命性能に対して影響を及ぼすとは考えられていない。
【0014】
また、浸透短絡を抑制したり、負極板に蓄積する硫酸鉛が凝集するのを抑制したりする目的で、従来から、鉛蓄電池の負極電極材料に硫酸バリウムを添加することが検討されている。しかし、硫酸バリウムは不導体であるため、負極電極材料の組成によっては、負極電極材料の密度を高めても、深い放電を含む充放電サイクルを行った場合に充電できなくなることがある。この場合にも、サイクル寿命性能が低下する。
【0015】
本発明の上記側面によれば、負極電極材料の密度が3.8g/cm以上と高い場合に、粒子径が異なり、粉体抵抗比R2/R1が15を超え230未満である第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせる。これにより、負極電極材料を含むペースト(以下、負極ペーストとも言う)の伸展性が増し、その塗布性が向上するため、負極電極材料の密度が高いにも拘わらず、負極ペーストを調製する際に、負極ペーストを機械塗布することができ、負極板の製造が容易である。このように、本発明の上記側面によれば、負極電極材料の密度が高いにも拘わらず、負極板を容易に作製することができる。粉体抵抗比R2/R1が上記の範囲で負極ペーストの塗布性が向上するのは、粉体抵抗比R2/R1が上記の範囲である場合に、各炭素材料の表面状態が適正化され、溶媒の吸着が適度に抑制されることによるものと考えられる。
【0016】
なお、本明細書において、負極ペーストの塗布性が優れるとは、負極ペーストを負極集電体に機械(具体的には、ペースター)により塗布することができることを意味する。
【0017】
また、本発明の上記側面によれば、第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせることで、高密度の負極電極材料の層内に第1炭素材料および第2炭素材料をより均一に充填することができる。そのため、負極電極材料中に多くの導電ネットワークが形成され易くなる。負極電極材料の密度を高めることが、金属鉛粒子を含む緻密な導電ネットワークと充電反応の場を形成し、かつ負極電極材料中で充電反応速度が大きくなり、サイクル寿命性能が向上する。
【0018】
さらに、負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量を、0.2質量%以上0.7質量%以下とすることで、深い放電を伴う充放電サイクルを行う場合でも、充放電を繰り返し行なうことができる。よって、深い放電を伴う場合でも、鉛蓄電池のサイクル寿命性能の低下を抑制できる。サイクル寿命性能の向上効果をさらに高める観点からは、負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。
【0019】
負極電極材料の密度は、4.1g/cm3以上であることが好ましい。このような負極電極材料の密度が高い場合でも、負極板の塗布性が高いため、均一な負極電極材料の層が形成され易い。また、多くの導電ネットワークが形成されるため、サイクル寿命性能をさらに高めることができる。
【0020】
一般に、負極電極材料の密度を高くする場合には、ペーストの塗布性を維持するため、ペーストを調製する際に使用する希硫酸の量を減らすこと、および/または希硫酸中の硫酸濃度を低くすることが行われている。その結果、負極電極材料中の硫酸根量が減少することになる。硫酸根量が減少すると、一般に、ペーストの進展性が増す一方で、得られる負極板では負極電極材料中の硫酸鉛の量が減少する。このような負極板(未化成の負極板)を大気中に保管すると、負極電極材料中の炭酸鉛の含有量が増加する問題が発生することが知られている。負極電極材料中の炭酸鉛の含有量が多くなると、負極電極材料の脱落および/または負極板の初期容量の低下が起こることがあることが分かっている。例えば、負極電極材料中に概ね20質量%以上の炭酸鉛を含む未化成の負極板を化成すると、負極電極材料の脱落および/または負極板の初期容量の低下が起こることがある。すなわち、未化成の負極板の保存性能が低下することになる。未化成の負極板の保存性能の低下を抑制する観点から、従来採られている方法には、例えば、ペーストを塗布した後の負極板を希硫酸に接触させて負極板表面に硫酸根をしみこませる方法がある。しかし、このような方法を採用しても、保存性能の維持に充分な硫酸根を供給できるわけではない。
【0021】
本発明の上記側面においても、負極電極材料の密度が高くなりすぎると、高い保存性能が得られ難くなることがある。そのため、未化成の負極板について高い保存性能を確保する観点からは、負極電極材料の密度を4.7g/cm3未満とすることが好ましい。
【0022】
負極ペーストを調製する際に、硫酸根量を減少させないためには、負極ペーストの伸展性および保存性能を低下させない炭素材料を添加することが好ましい。このような炭素材料としては、第1炭素材料の比表面積S1に対する、第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、350以下である第1炭素材料と第2炭素材料とを用いることが好ましい。このようなS2/S1比を示す第1炭素材料および第2炭素材料の効果は、特に、負極電極材料の密度が4.7g/cm3未満である場合に顕著に現れる。また、比表面積比S2/S1が350以下である場合、負極ペーストの塗布性が向上する。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極電極材料を含む。負極板は、通常、負極集電体(負極格子など)と、負極電極材料とで構成できる。なお、負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。負極板がこのような部材(貼付部材)を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。セパレータにマットが貼りつけられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
【0024】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含む。充電状態の負極活物質は、海綿状の金属鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。また、負極電極材料は、炭素材料と硫酸バリウムとを含む。負極電極材料は、更に、有機防縮剤などを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0025】
(炭素材料)
炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料と第2炭素材料とは、後述する手順で分離され、区別される。
【0026】
各炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0027】
なお、第1炭素材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I/Iが、0以上0.9以下である炭素材料を、黒鉛と呼ぶものとする。
【0028】
第1炭素材料および第2炭素材料は、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15を超え230未満となるように、負極電極材料の調製に使用する炭素材料の種類、比表面積、および/またはアスペクト比などを、選択または調節すればよい。また、これらの要素に加えて、さらに使用する炭素材料の粒子径を調節してもよい。これらの要素を選択または調節することで、第1炭素材料と第2炭素材料の各炭素材料の粉体抵抗を調節することができ、その結果、粉体抵抗比R2/R1を調節することができる。
【0029】
第1炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、およびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。特に、第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの炭素材料を用いると、粉体抵抗比R2/R1を調節しやすい。
【0030】
第2炭素材料の粉体抵抗R2の、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する比(粉体抵抗比R2/R1)は、15を超え230未満であればよい。粉体抵抗比がこのような範囲であることで、負極ペーストの高い塗布性が得られるとともに、サイクル寿命性能を向上できる。より高いサイクル寿命性能が得られる観点からは、粉体抵抗比R2/R1は、80以上であることが好ましい。また、同様の観点から、粉体抵抗比R2/R1は220以下であることが好ましい。未化成の負極板の高い保存性能を確保する観点からは、粉体抵抗比R2/R1は160未満であることが好ましく、150以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。粉体抵抗比R2/R1は、例えば、15を超え220以下(もしくは、160未満または150以下)、80以上230未満(もしくは、220以下、160未満、または150以下)である。
【0031】
第1炭素材料の比表面積S1に対する、第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、350以下であることが好ましい。比表面積比S2/S1がこのような範囲である場合、負極電極材料の密度を高くする場合でも、負極ペーストの塗布性をさらに高めることができる。また、S2/S1比が350以下である第1炭素材料と第2炭素材料とを用いる場合、未化成の負極板の高い保存性能を確保することができる。このようなS2/S1比による保存性能の効果は、特に、負極電極材料の密度が4.7g/cm3未満(好ましくは4.6g/cm3以下、さらに好ましくは4.5g/cm3以下)である場合に顕著に現れる。
【0032】
第1炭素材料の平均アスペクト比は、例えば、1以上200以下であり、1.5以上100以下、または1.5以上35以下であってもよい。
【0033】
負極電極材料中の第1炭素材料と第2炭素材料の含有量の合計は、例えば、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上であることが好ましく、サイクル寿命性能の向上効果がさらに高まる観点からは、0.3質量%以上であることが好ましい。第1炭素材料および第2炭素材料の含有量の合計の上限は、負極電極材料の密度、各炭素材料の種類などにもよるが、例えば、1.5質量%以下とすることができる。
【0034】
上記炭素材料のうち、負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、負極ペーストの塗布性が高く、サイクル寿命の向上効果が高い観点からは、0.1質量%以上または0.2質量%以上であることが好ましい。負極電極材料中の第1炭素材料の含有量の上限は、負極電極材料の密度、炭素材料の種類などにもよるが、例えば、1.5質量%以下であり、第1炭素材料と第2炭素材料との含有量の合計が上述の範囲となるように調節すればよい。
【0035】
負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上であり、負極電極材料中に導電ネットワークを形成し易い観点からは、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上としてもよい。負極電極材料中の第2炭素材料の含有量の上限は、負極電極材料の密度、炭素材料の種類などにもよるが、例えば、1質量%以下であり、0.6質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがさらに好ましい。第2炭素材料の含有量は、第1炭素材料と第2炭素材料との含有量の合計が上述の範囲となるように調節すればよい。第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上1質量%以下(もしくは、0.6質量%以下または0.4質量%以下)、0.1質量%以上1質量%以下(もしくは、0.6質量%以下または0.4質量%以下)、または0.2質量%以上1質量%以下(もしくは、0.6質量%以下または0.4質量%以下)であってもよい。
【0036】
炭素材料の物性の決定方法または分析方法について以下に説明する。
(A)炭素材料の分析
(A-1)炭素材料の分離
既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、乾燥した負極板から負極電極材料を採取し、粉砕する。5gの粉砕試料に、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃で加熱する。この混合物に、さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして前処理を行なった試料を、ろ過により回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、補強材などのサイズが大きな成分を除去して、ふるいを通過した成分を炭素材料として回収する。
【0037】
そして、回収した炭素材料を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素材料とするものとする。つまり、各炭素材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とするものである。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。具体的には、炭素材料を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素材料は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素材料は、ニトロセルロース製のメンブランフィルター(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素材料および第2炭素材料は、それぞれ、110℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用するものとする。
【0038】
なお、負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、上記の手順で分離した各炭素材料の質量を測り、この質量の、5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求めるものとする。
【0039】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、0.2CAの電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、0.2CAで、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
なお、本明細書中、1CAとは電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0040】
(A-2)炭素材料の粉体抵抗
第1炭素材料の粉体抵抗R1および第2炭素材料の粉体抵抗R2は、上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれについて、粉体抵抗測定システム((株)三菱化学アナリテック製、MCP-PD51型)に、試料を0.5g投入し、圧力3.18MPa下で、JIS K 7194:1994に準拠した低抵抗抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて、四探針法により測定される値である。
【0041】
(A-3)炭素材料の比表面積
第1炭素材料の比表面積S1および第2炭素材料の比表面積S2は、第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれのBET比表面積である。BET比表面積は、上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれを用いて、ガス吸着法により、BET式を用いて求められる。各炭素材料は、窒素フロー中、150℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素材料を用いて、下記の装置にて、下記の条件により、各炭素材料のBET比表面積が求められる。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0042】
(A-4)第1炭素材料の平均アスペクト比
上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料を、光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、任意の粒子を10個以上選択して、その拡大写真を撮影する。次に、各粒子の写真を画像処理して、粒子の最大径d1、およびこの最大径d1と直交する方向における最大径d2を求め、d1をd2で除することにより、各粒子のアスペクト比を求める。得られたアスペクト比を、平均化することにより平均アスペクト比を算出する。
【0043】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中に含まれる硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であればよい。硫酸バリウムの含有量がこのような範囲である場合、金属鉛粒子間の電子伝導性を妨げないため、深い放電を行なっても、充電時に硫酸鉛が還元され易くなる。これにより、深い放電を伴う充放電サイクル時に、充電が進行し難くなることが抑制される。よって、深い放電を伴う充放電サイクルにおいても、充放電を繰り返し行なうことができ、サイクル寿命性能の低下が抑制される。サイクル寿命性能の向上効果がさらに高まる観点からは、0.2質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。
【0044】
負極電極材料中に含まれる硫酸バリウムの含有量の決定方法について以下に説明する。
(B)硫酸バリウムの分析
(B-1)上記(A-1)と同様にして鉛蓄電池から取り出した粉砕試料から、約5gの試料を取り出して、質量m1(g)を正確に秤量する。秤量した試料を、10質量%濃度の硝酸水溶液30cm中に投入し、加熱溶解する。得られた混合物を冷却した後、体積が100cmになるまで脱イオン水を加え、30分静置し、上澄液を別のビーカーに採取する。残りの沈殿物に、酢酸アンモニウム20gと水30cmとを加え、加熱溶解する。得られる溶液を、上記の上澄液に投入し、沸騰させて、この状態で、5分間加熱した後、1時間放置する。得られた混合物を、質量既知のメンブレンフィルターでろ過し、ろ液を回収する。メンブレンフィルター上に残存する成分を、充分に水で洗浄する。使用したメンブレンフィルターを110℃で2時間乾燥し、乾燥後の質量を測定する。測定値から、メンブレンフィルターの初期質量を減ずることにより、不溶残分質量m2を求める。乾燥したメンブレンフィルターを、質量既知の磁製ルツボに入れ、灼熱灰化する。次いで、ルツボをデシケーター中で室温まで冷却して質量を測定し、この質量からルツボの初期質量を減じることにより、灼熱残分の質量m3を求める。
【0045】
(B-2)上記(B-1)で回収したろ液をメスフラスコにとり、体積が250cmになるまで脱イオン水を加える。得られた溶液の原子吸光度を、原子吸光法により、Air-C炎を用いて、553.6nmのスペクトル線を選択して測定する。なお、原子吸光度は、原子吸光分光光度計((株)島津製作所製、AA7000F)を用いて測定する。別途標準濃度のBa塩溶液を用いて作成した検量線を基に、上記原子吸光度から、溶液中のバリウム元素の濃度を求め、ろ液中に含まれていたバリウム元素の質量m4(mg)を求める。そして、負極電極材料中に含まれていた可溶性硫酸バリウムの含有量c1(質量%)を下記式により算出する。
c1= 100×(M1/M2)×(m4/m1)
ここで、M1は、硫酸バリウム(BaSO4)の分子量であり、M2は、バリウム(Ba)の原子量である。M1/M2=1.699の値を用いる。
【0046】
(B-3)上記(B-1)の灼熱残分の質量m3より、負極電極材料中に含まれていた不溶性硫酸バリウム含有量c2(質量%)を下記式により算出する。
c2= 100×m3/m1
そして、c1とc2とを合計することにより、既化成で満充電状態の負極電極材料中に含まれる硫酸バリウム含有量(質量%)を求める。
【0047】
(有機防縮剤)
負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に1つ以上、好ましくは複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0048】
有機防縮剤としては、例えば、リグニン類を用いてもよく、合成有機防縮剤を用いてもよい。合成有機防縮剤としては、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、リグニン類と、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物とを併用してもよい。芳香族化合物としては、ビスフェノール類、ビフェニル類、ナフタレン類などを用いることが好ましい。
【0049】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上1.0質量%以下であり、0.02質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。
【0050】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤の定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。
【0051】
[有機防縮剤]
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。
【0052】
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
【0053】
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0054】
(負極電極材料の密度)
負極電極材料の密度は、3.8g/cm3以上であればよく、好ましくは4.1g/cm3以上である。密度がこのように大きな場合でも、本発明では、高い塗布性、および優れたサイクル寿命性能を得ることができる。また、未化成の負極板の高い保存性能を得ることもできる。負極電極材料の密度は、例えば、4.7g/cm3以下である。未化成の負極板の高い保存性能を確保し易い観点からは、4.7g/cm3未満であることが好ましく、4.6g/cm3以下または4.5g/cm3以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。負極電極材料の密度は、例えば、3.8g/cm3以上4.7g/cm3以下(もしくは、4.7g/cm3未満、4.6g/cm3以下、または4.5g/cm3以下)、4.1g/cm3以上4.7g/cm3以下(もしくは、4.7g/cm3未満、4.6g/cm3以下、または4.5g/cm3以下)である。
【0055】
負極電極材料の密度は化成後の満充電状態の負極電極材料のかさ密度の値を意味し、以下のようにして測定する。化成後の電池を満充電してから解体し、入手した負極板に水洗と乾燥とを施すことにより、負極板中の電解液を除く。次いで負極板から負極電極材料を分離して、未粉砕の測定試料を入手する。測定容器に試料を投入し、真空排気した後、0.5psia以上0.55psia以下(≒3.45kPa以上3.79kPa以下)の圧力で水銀を満たして、負極電極材料のかさ容積を測定し、測定試料の質量をかさ容積で除すことにより、負極電極材料のかさ密度を求める。なお、測定容器の容積から、水銀の注入容積を差し引いた容積をかさ容積とする。負極電極材料の密度は、島津製作所(株)製の自動ポロシメータ(オートポアIV9505)を用いて測定される。
【0056】
(その他)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。
【0057】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。これらのうち、Pb-Sb系合金が好ましく、この合金は、更に、添加元素として、Ag、Al、As、Seなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0058】
負極板は、負極集電体に負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と炭素材料と、必要に応じて有機防縮剤および/または各種添加剤に、水と希硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0059】
負極板の化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。また、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状の金属鉛が生成する。
【0060】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金スラブを圧延したシートの加工により形成することができる。
【0061】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。芯金と芯金を連結する集電部とを合わせて正極集電体と呼ぶ。
【0062】
正極集電体に用いる鉛合金としては、Pb-Ca系合金、Pb-Sb系合金、Pb-Ca-Sn系合金などが挙げられる。中でも、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0063】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0064】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
【0065】
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0066】
形成される未化成の正極板は、さらに化成される。化成により、二酸化鉛が生成する。正極板の化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0067】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、セパレータの60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0068】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0069】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0070】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、1.10g/cm3以上1.30g/cm3以下または1.20g/cm3以上1.30g/cm3以下であることが好ましい。
【0071】
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池のフタを外した一例を模式的に示す斜視図である。図2Aは、図1の鉛蓄電池の正面図であり、図2Bは、図2AのIIB-IIB線による矢示断面図である
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液12とを収容する電槽10を具備する。極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2が、袋状のセパレータ4で包まれている状態を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。
【0072】
複数の負極板2のそれぞれの上部には、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。複数の正極板3のそれぞれの上部にも、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。そして、負極板2の耳部同士は負極用ストラップ5aにより連結され一体化されている。同様に、正極板3の耳部同士も正極用ストラップ5bにより連結されて一体化されている。負極用ストラップ5aの上部には負極柱6aの下端部が固定され、正極用ストラップ5bの上部には正極柱6bの下端部が固定されている。
【0073】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と硫酸バリウムとを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15を超え230未満であり、
前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下であり、
前記負極電極材料の密度は、3.8g/cm3以上である、鉛蓄電池である。
【0074】
(2)上記(1)において、前記比:R2/R1は、80以上230未満であることが好ましい。
【0075】
(3)上記(1)または(2)において、前記比:R2/R1は、80以上220以下であることが好ましい。
【0076】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の密度は、4.1g/cm3以上であることが好ましい。
【0077】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の密度は、4.7g/cm3未満であることが好ましい。
【0078】
(6)上記(5)において、前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1が350以下であることが好ましい。
【0079】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.2質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。
【0080】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記比:R2/R1は、80以上160未満であることが好ましい。
【0081】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記比:R2/R1は、80以上150以下であることが好ましい。
【0082】
(10)上記(6)において、前記負極電極材料の密度は、4.6g/cm3以下または4.5g/cm3以下であることが好ましい。
【0083】
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。
【0084】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、例えば、1.5質量%以下である。
【0085】
(13)上記(1)~(12)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0086】
(14)上記(1)~(13)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.6質量%以下であることが好ましい。
【0087】
(15)上記(1)~(14)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0088】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
《鉛蓄電池A1》
以下の手順で、正極板にクラッド式極板3枚、負極板にペースト式極板4枚を備える公称容量200Ahのフォークリフト用の鉛蓄電池A1を準備する。
【0090】
(1)負極板の作製
負極板は、板状で格子状の負極集電体(長辺長さ271mm、短辺長さ142mm、厚み2.8mm以上3.7mm以下)に、負極ペーストを塗り込むことにより作製される。このとき、化成後の負極電極材料の質量が、負極板1枚当たり465±6gとなるとともに、負極電極材料の密度が表1の設計値となるように、負極集電体およびペースト塗布層の厚みを調整する。負極ペーストの塗り込みは、ペースター(Winkel製)を用いて、集電体の格子目に抜けがない状態となるように行なわれる。ただし、負極ペーストの塗り込みをペースターで行なうことが出来ない場合には、コテを用いて人力で塗布する。
【0091】
なお、負極ペーストは、鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、炭素材料、有機防縮剤を、ミキサー(ダルトン社製)を用いて混合することにより調製する。
炭素材料としては、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標))および黒鉛(鱗片状黒鉛、平均粒子径D50:110μm)を用いる。有機防縮剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウムを用い、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.1質量%となるように、添加量を調整して、負極ペーストに配合する。負極電極材料100質量%に含まれる硫酸バリウムの含有量(設計値)は、0.6質量%とする。負極ペーストを調製する際には、既化成で満充電後の負極電極材料の密度が表1に示す設計値となるように、負極ペーストに加える水と希硫酸の量を調節する。なお、既述の手順で、既化成で満充電状態の電池を解体し、回収した測定試料から求められる負極電極材料の密度(測定値)と設計値とにはほとんど差がない。
【0092】
(2)正極板の作製
正極板としては、外径10mmのチューブ14本に正極電極材料を充填したクラッド極板を用いる。正極電極材料の塗布量は、化成後の正極電極材料の質量が正極板1枚当たり792±8gとなるように調整する。
【0093】
(3)鉛蓄電池の組み立て
得られた負極板および正極板を、7質量%濃度の希硫酸中に浸漬し、この状態でタンク化成を施す。化成後の負極板と正極板とをセパレータを介して積層することにより、極板群を作製する。得られる極板群を電槽に入れ、20℃における比重が1.28である希硫酸を、2000cm注入することにより、鉛蓄電池A1を作製する。同様にして、合計4つの鉛蓄電池A1を作製する。
【0094】
本鉛蓄電池では、負極電極材料中に含まれる第1炭素材料の含有量は0.4質量%とし、第2炭素材料の含有量は0.2質量%とする。また、粉体抵抗比R2/R1は100とする。第2炭素材料の比表面積S2の、第1炭素材料の比表面積S1に対する比(=S2/S1)は、350とする。ただし、これらの値は、作製された鉛蓄電池の負極板を取り出し、既述の手順で、負極電極材料に含まれる炭素材料を第1炭素材料と第2炭素材料とに分離したときに、負極電極材料(100質量%)中に含まれる各炭素材料の含有量として求められる値である。各炭素材料の粉体抵抗R1およびR2、粉体抵抗比R2/R1、ならびに比表面積比S2/S1も既述の手順で作製後の鉛蓄電池から求められる。
【0095】
《鉛蓄電池A2~A8》
既化成の負極電極材料の密度の設計値が表1に示す値となるように負極ペーストに加える水と希硫酸の量を調節する。これ以外は、鉛蓄電池A1の場合と同様にして、負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A2~A8を組み立てる。
【0096】
《鉛蓄電池B1~B8》
炭素材料として、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標))のみを用いる。本鉛蓄電池では、第2炭素材料の含有量は0.6質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池B1を組み立てる。
【0097】
既化成の負極電極材料の密度の設計値が表1に示す値となるように負極ペーストに加える水と希硫酸の量を調節する。これ以外は、鉛蓄電池B1の場合と同様にして、負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池B1と同様にして、鉛蓄電池B2~B8を組み立てる。
【0098】
《鉛蓄電池D1およびD2》
負極板の作製において炭素材料を用いないことに加え、既化成の負極電極材料の密度の設計値が表1に示す値となるように負極ペーストに加える水と希硫酸の量を調節する。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池D1およびD2をそれぞれ組み立てる。
【0099】
《鉛蓄電池E1およびE2》
炭素材料として、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標))のみを用いる。本鉛蓄電池では、第2炭素材料の含有量は0.2質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池D1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池E1を組み立てる。
【0100】
第2炭素材料の含有量を0.4質量%とする以外は、鉛蓄電池E1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池E2を組み立てる。
【0101】
《鉛蓄電池E3》
炭素材料として、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標))のみを用いる。本鉛蓄電池では、第2炭素材料の含有量は0.4質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池D2と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池E3を組み立てる。
【0102】
[評価1:塗布性]
ミキサー(ダルトン社製)を用いて負極電極材料の構成成分を混合することにより、負極ペーストを調製する。そして、負極ペーストを、ペースター(Winkel製)を用いて集電体に塗布する。塗布する際の状況を下記の基準で評価する。
A:集電体の格子目からペーストの脱落がない状態で負極ペーストが塗布された集電体が、毎分15枚以上の生産速度で得られる。
B:集電体の格子目からペーストの脱落がない状態で負極ペーストが塗布された集電体が、毎分15枚以上の生産速度で得られない。
【0103】
[評価2:未化成の負極板の保存性能]
未化成の負極板を保存した際の、負極電極材料中に含まれる炭酸鉛の含有量を下記の手順で求める。
まず、未化成の負極板を、温度35℃および相対湿度90%の条件で2日間熟成し、60℃にて6時間乾燥させた後、大気中で3週間保存する。保存後の負極板から、約5gの負極電極材料を採取し、その質量Wを測定後、粉砕する。粉砕した試料を、ただちに常温(25℃)の20質量%濃度の過塩素酸水溶液50mLに投下し、10分放置する。投下する直前の試料と過塩素酸水溶液との合計質量m5、および10分放置後の試料と過塩素酸水溶液との合計質量m6を測定する。このときの、質量の減少量ΔW=m6-m5を求め、下記式により、負極電極材料中の炭酸鉛の含有量c3(質量%)を算出する。
c3 = ΔW×((M3/M4)/W)×100
ここで、M3は、炭酸鉛(PbCO3)の分子量であり、M4は、二酸化炭素(CO2)の分子量である。M3/M4=6.07の値を用いる。
【0104】
そして、炭酸塩の含有量c3の値に基づいて、下記の基準で、未化成の負極板の保存性能を評価する。なお、炭酸塩の含有量Mが少ない方が保存性能に優れていることを示す。
A:炭酸塩の含有量c3が20質量%未満である。
B:炭酸塩の含有量c3が20質量%以上である。
【0105】
[評価3:サイクル寿命性能]
作製した4つの鉛蓄電池のうち3つについて、サイクル寿命試験を行なう。サイクル寿命試験は、35℃の水槽中で、下記の放電および充電のサイクルを繰り返す。このとき、100サイクル毎に、30℃にて、40Aの電流で、終止電圧1.70Vまで放電し、こ
のときの放電容量を求める。
放電:電流50Aで3時間放電する。
充電:電流37.5Aで5時間充電する。
【0106】
100サイクル毎に測定される3つの鉛蓄電池の放電容量から平均放電容量を求める。この平均放電容量が、公称容量200Ahの75%(すなわち150Ah)を下まわる時点tにおいて下記のようにして求められるサイクル数Tにより、サイクル寿命性能を評価する。サイクル数Tが1450以上である場合を、高いサイクル寿命性能が得られると判断する。
【0107】
サイクル数Tは、下記式により、上記の平均放電容量が初めて150Ahを下まわった時点tにおける平均放電容量Q1およびその100サイクル前の放電試験時の平均放電容量Q2から求める。
T = t - (150-Q1)/(Q2-Q1)×100
【0108】
鉛蓄電池A1~A8、B1~B8、D1~D2、およびE1~E3の結果を表1に示す。図3には、表1のA1~A8、およびB1~B8の結果のうち、サイクル寿命性能についての結果を示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1および図3に示されるように、負極電極材料の密度が3.8g/cm未満では、第2炭素材料を単独で用いる場合と、粉体抵抗比が特定の範囲の双方の炭素材料を併用する場合とで、サイクル寿命はそれほど大きく変わらず、いずれも1450サイクル未満であり、不十分である(A1,A7,A8,B1,B7,B8)。それに対し、負極電極材料の密度が3.8g/cm以上において、粉体抵抗比が特定の範囲である第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせる場合には、第2炭素材料の含有量が少ないにも拘わらず、第2炭素材料を単独で用いる場合(B2~B6)に匹敵するサイクル寿命性能が得られる(A2~A6)。これは、第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせることで、負極電極材料中に多くの導電ネットワークが形成され易くなることによるものと考えられる。
【0111】
また、表1に示すように、第2炭素材料を単独で用いる場合には、負極電極材料の密度が高くなると(具体的には、3.7g/cm以上や3.8g/cm以上である場合)、負極ペーストの機械による塗布ができない(B1~B6)。また、電池B1~B6では、未化成の負極板の保存性能が低い。それに対し、粉体抵抗比が特定の範囲である第1炭素材料と第2炭素材料とを併用することで、負極電極材料の密度が3.7g/cm以上や3.8g/cm3以上の場合でも、機械による塗布が可能である(A1~A6)。これは、電池A1~A5では、特定の粉体抵抗比R2/R1を満たすことで、各炭素材料の表面状態が適正化され、溶媒の吸着が適度に抑制されることによるものと考えられる。なお、電池A6では、未化成の負極板の保存性能が低下している。保存性能の低下を抑制する観点からは、負極電極材料の密度は、4.7g/cm3未満であることが好ましい。
【0112】
《鉛蓄電池A11~A16》
既化成の負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量が表2に示す設計値となるように、硫酸バリウムの添加量を調節する。これ以外は、鉛蓄電池A3の場合と同様にして、負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A11~A16を組み立てる。なお、これらの鉛蓄電池および鉛蓄電池A3における、負極電極材料の密度の設計値は4.1g/cmである。
【0113】
《鉛蓄電池B11~B16》
既化成の負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量が表2に示す設計値となるように、硫酸バリウムの添加量を調節する。これ以外は、鉛蓄電池B3の場合と同様にして、負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池B11~B16を組み立てる。なお、これらの鉛蓄電池および鉛蓄電池B3における、負極電極材料の密度の設計値は4.1g/cmである。
【0114】
鉛蓄電池A11~A16、およびB11~B16について、鉛蓄電池A1と同様に評価する。また、既述の手順で、負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量を測定する。これらの評価結果を表2に示す。表2には、鉛蓄電池A3、およびB3の結果も合わせて示す。表2のサイクル寿命性能の結果を、図4に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2および図4に示されるように、負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量が0.2質量%以上0.7質量%以下で、かつ粉体抵抗比が特定の範囲である第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせる場合には、第2炭素材料の含有量が少ないにも拘わらず、第2炭素材料を単独で用いる場合(B12~B15、B3)に匹敵し、かつ1450サイクル以上の高いサイクル寿命性能が得られる(A12~A15、A3)。これらの電池で高いサイクル寿命性能が得られるのは、第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせ、かつ負極電極材料の硫酸バリウム含有量を適正な範囲にすることで、負極板の金属鉛粒子間の電子伝導性が妨げられず、深い放電を行なっても、充電時に硫酸鉛が還元され易くなり、充電が妨げられなくなるためと考えられる。より高いサイクル寿命性能が得られる観点からは、硫酸バリウムの含有量は、0.2~0.6質量%であることが好ましい。
【0117】
また、鉛蓄電池B11~B16およびB3では、塗布性の評価がBであり、負極電極材料の構成成分を混合する際に、機械による塗布ができない。これらの電池に比べて、鉛蓄電池A11~A16およびA3では、塗布性が格段に向上している。
【0118】
《鉛蓄電池A21~A34》
使用する各炭素材料の量、比表面積、および/または平均アスペクト比、必要に応じてさらに各炭素材料の平均粒子径D50を調節する。ケッチェンブラックに代えて、鉛蓄電池A27ではアセチレンブラックを用い、鉛蓄電池A33およびA34では活性炭を用いる。このようにして、粉体抵抗比R2/R1を表3に示すように変更する。これら以外は、鉛蓄電池A3と同様にして負極板を作製する。得られる負極板を用いる以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A21~A34を組み立てる。なお、これらの鉛蓄電池における、負極電極材料の密度の設計値は、鉛蓄電池A3と同様に、4.1g/cmである。
【0119】
《鉛蓄電池A41~A43》
使用する各炭素材料の量、比表面積、および/または平均アスペクト比、必要に応じてさらに各炭素材料の平均粒子径D50を調節する。鉛蓄電池A43では、ケッチェンブラックに代えて、アセチレンブラックを用いる。このようにして、粉体抵抗比R2/R1を表3に示すように変更する。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A41~A43を組み立てる。ただし、これらの鉛蓄電池における、負極電極材料の密度の設計値は、鉛蓄電池A6と同様に、4.7g/cmである。
【0120】
鉛蓄電池A21~A34、およびA41~A43について、鉛蓄電池A1と同様に評価1および評価2について評価する。この評価結果を表3に示す。表3には、鉛蓄電池A3およびA6の結果も合わせて示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3に示されるように、粉体抵抗比R2/R1が15を超え230未満の場合には、高いサイクル寿命性能が得られる。また、230未満の場合には、負極ペーストの塗布性が高い。粉体抵抗比がこのような範囲で高いサイクル寿命性能が得られるのは、負極電極材料中に多くの導電ネットワークが形成されることによるものと考えられる。また負極ペーストの塗布性が向上するのは、粉体抵抗比R2/R1が上記の範囲である場合に、各炭素材料の表面状態が適正化され、溶媒の吸着が適度に抑制されることによるものと考えられる。より高いサイクル寿命性能が得られる観点からは、R2/R1比は、80以上230未満、または80以上220以下であることが好ましい。未化成の負極板の保存性能を向上する観点からは、負極電極材料の密度は4.7g/cm未満であることが好ましく、また、比表面積比S2/S1は、350以下であることが好ましい。これは、比表面積比S2/S1が350を超える場合、ペーストに混合する炭素材料の表面状態により、炭素材料の表面に吸着される溶媒量がより多くなり、塗布性を確保するためには硫酸根量を減らさねばならないためである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、自然エネルギーの貯蔵、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0124】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5a:負極用ストラップ
5b:正極用ストラップ
6a:負極柱
6b:正極柱
10:電槽
11:極板群
12:電解液
図1
図2A
図2B
図3
図4