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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20221122BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K9/10
A61K45/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019514650
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017158
(87)【国際公開番号】W WO2018199281
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017090299
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【弁理士】
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【弁理士】
【氏名又は名称】川濱 周弥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴恒
(72)【発明者】
【氏名】小島 宏行
(72)【発明者】
【氏名】梅本 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】並木 ▲祥▼恵
(72)【発明者】
【氏名】高木 彰
(72)【発明者】
【氏名】島田 譲
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-519283(JP,A)
【文献】BROUGH, Chris et al.,AAPS PharmSciTech,2016年02月,VOL. 17, NO. 1,PP. 167-179
【文献】OH, Jung-Min et al.,Journal of Applied Polymer Science,2004年,VOL. 94, ISSUE 1,PP. 327-331
【文献】IKEUCHI-TAKAHASHI, Yuri et al.,Formulation and Evaluation of Morin-Loaded Solid Lipid Nanoparticles,Biol. Pharm. Bull.,2016年,VOL. 39, NO. 9,PP. 1514-1522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対して10μg/mL以下の溶解度を有する難溶性薬物、及びけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む、固体分散体を含有する、医薬組成物。
【請求項2】
難溶性薬物が非晶質である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
水に対して10μg/mL以下の溶解度を有する難溶性薬物を含有し溶解性を改善した医薬組成物の製造のためのけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールの使用であって、前記医薬組成物が、前記難溶性薬物および前記ポリビニルアルコールを含む、固体分散体を含有する、前記使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物の溶解性を改善してなる医薬組成物に関する。
詳細には、本発明は、難溶性薬物、及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含有してなる医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の創薬研究において難水溶性薬物が開発候補となることが多くなってきている。一方で、治療用薬物の臨床現場への早期提供による医療機会向上も求められており、汎用的な可溶化技術は今尚重要な課題である。
【0003】
難溶性薬物を可溶化する方法として、難溶性薬物を非晶質化する方法や、担体と固体分散体を形成する方法が知られている。また、ポリビニルアルコールを固体分散体の担体として薬物の溶解性を改善した組成物が知られている(非特許文献1、2)が、薬物の溶解性を高めることに対して必ずしも十分な効果を示すものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】W.De Jaeghere et al, International Journal of Pharmaceutics,492(2015)1-9, “Hot-melt extrusion of polyvinyl alcohol for oral immediate release applications”
【文献】Chris Brough et al, AAPS PharmSciTech, Vol. 17, No. 1, February 2016, “Use of Polyvinyl Alcohol as a Solubility-Enhancing Polymer for Poorly Water Soluble Drug Delivery (Part 1)”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難溶性薬物の溶解性を改善する製剤設計は、これらの薬物の薬理効果発現のために、現在においても尚、重要な技術的課題であり、更なる改善の余地がある。
本発明の課題は、難溶性薬物の溶解性を改善した医薬組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
難溶性薬物、及びけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを用いて固体分散体を調製したところ、高い溶解性を示した。
【0007】
本発明は、
[1]難溶性薬物、及びけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む医薬組成物、
[2]難溶性薬物が、水に対して10μg/mL以下の溶解度を有する、[1]の医薬組成物、
[3]難溶性薬物、及び前記ポリビニルアルコールを含む、固体分散体を含有する、[1]又は[2]の医薬組成物、
[4]難溶性薬物が非晶質である、[1]~[3]のいずれかの医薬組成物、
[5]難溶性薬物を含有し溶解性を改善した医薬組成物の製造のためのけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールの使用
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難溶性薬物の溶解性を改善する医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図2】比較例1で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図3】比較例2で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図4】比較例8で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図5】実施例2で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図6】比較例3で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図7】比較例4で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図8】比較例5で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図9】比較例6で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図10】実施例3で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図11】比較例10で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図12】比較例11で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
図13】比較例12で調製した医薬組成物をX線回折測定して得られたX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「溶解性を改善する」とは、溶媒への難溶性薬物の溶解度、溶解濃度、溶出率が増加することを意味する。具体的には、ある態様として、難溶性薬物を含有する医薬組成物を後述する試験例1、試験例2、又は試験例3の溶出試験で評価するとき、前記医薬組成物の所定時間における溶出した難水溶性薬物の溶解濃度が、結晶原薬の水への溶解度よりも高いことと規定する。溶媒への難溶性薬物の溶解度、溶解濃度、溶出率の測定方法については、薬物ごとに適切な試験法を採用することができる。
【0011】
本明細書において、「固体分散体」とは、難溶性薬物とけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールとを含む分散物であり、大部分の難溶性薬物は非晶質で存在する。本明細書において、「非晶質」とは、非晶質に加え、それらの遷移状態を意味する。非晶質の難溶性薬物は、けん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコール全体に均質に分散された固溶体として存在する。本明細書において、「大部分」とは、分散物を調製した時に、難溶性薬物の結晶が、40%以下、好ましくは20%以下を意味する。他の態様として、難溶性薬物の結晶量が粉末X線回折または示差走査熱量法(DSC)またはいずれかの他の標準的な定量手段によって測定して40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下であることを意味する。粉末X線回折で測定する場合、試料水平型強力X線回折装置を用いた測定が好ましい。
【0012】
本明細書において、ポリビニルアルコールの「けん化度」とは、第十七改正日本薬局方に記載されている測定法、或いは当該測定方法と相関関係にある測定方法によって求められるけん化価を意味し、以下の式(1)で算出できる。なお、前記相関関係にある測定方法は、第十七改正日本薬局方に記載されている測定方法との相関係数が0.5以上、他の態様として0.6以上を有する測定方法であることが望ましい。
【化1】
けん化度(mol%)=m/(m+n)×100 (1)
[m:水酸基の数,n:アセチル基の数]
【0013】
本明細書において、「重合度」とは、「平均重合度」を意味し、医薬品添加物規格に従って評価した際の粘度の値またはゲル濾過等によって測定される分子量を基に算出される値、或いは当該測定方法と相関関係にある測定方法に準拠して測定した値であると規定する。又は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」の(4)平均重合度の測定方法、或いは当該測定方法と相関関係にある測定方法に準拠して測定した値と規定する。なお、前記医薬品添加物規格に従って評価した際の粘度の値またはゲル濾過等の測定方法と相関関係にある測定方法は、医薬品添加物規格に従って評価した際の粘度の値またはゲル濾過等の測定方法との相関係数が0.5以上、他の態様として0.6以上を有する測定方法であることが望ましい。また、前記JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」の(4)平均重合度の測定方法と相関関係にある測定方法は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」の(4)平均重合度の測定方法との相関係数が0.5以上、他の態様として0.6以上を有することが望ましい。
【0014】
本発明における「難溶性薬物」とは、水への溶解度が低い薬物を意味する。治療学的に有効な活性成分、あるいは予防学的に有効な活性成分であれば制限的に解釈されるべきではないが、例えば、水への薬物溶解度が10μg/mL以下、好ましくは0.01μg/mL以上10μg/mL以下、更に好ましくは0.1μg/mL以上10μg/mL以下、より更に好ましくは1μg/mL以上10μg/mL以下である薬物を挙げることができる。
薬物の水への薬物溶解度の測定方法としては、例えば、第十七改正日本薬局方・通則規定の方法に準拠して求めることができる。具体的には、例えば薬物を粉末とした後、水に入れ、20±5℃の温度条件下で5分ごとに強く30秒間振り混ぜ、30分以内に溶ける量から算出することができる。
【0015】
難溶性薬物は、フリー体、水和物又は製薬的に許容され得る塩のいずれをも用いることができる。また、難溶性薬物は、1種又は2種以上組合せて用いることもできる。
【0016】
本発明に用いられるポリビニルアルコールとしては、けん化度が63mol%以上67mol%以下である。
また、本発明に用いられるポリビニルアルコールの重合度は、製薬学的に許容される範囲であれば特に制限されない。具体的には、重合度が、例えば、50以上1000未満、ある態様として50以上600未満、ある態様として100以上500未満、ある態様として100以上300未満、ある態様として200以上280未満である。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
ここで、ポリビニルアルコールは、難溶性薬物の溶解性を改善する機能を有するものである。本発明のポリビニルアルコールを用いることでpH非依存的に難溶性薬物の溶解性を改善することができる。
【0017】
けん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールとしては、例えば、ポバール(登録商標)JMR-10M(日本酢ビ・ポバール、重合度:200~280、けん化度:63.0~67.0mol%)などを挙げることができる。
【0018】
また、ポリビニルアルコールの配合割合は、難溶性薬物の溶解性を改善する割合であれば特に制限されない。ポリビニルアルコールの配合割合は、難溶性薬物の重量に対して、例えば、50重量%以上700重量%以下、ある態様として100重量%以上500重量%以下である。
本発明の医薬組成物は、難溶性薬物、及びけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む固体分散体であってもよい。
本発明の医薬組成物に含まれる難溶性薬物は、非晶質状態であってもよい。
【0019】
本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、又は散剤等の固形製剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤等の液剤を含む。
【0020】
本発明の医薬組成物には、本発明の所望の効果を達成できる範囲において所望により、各種医薬品添加物を適宜使用して、製剤化することができる。
【0021】
これらの医薬品添加物は、1種又は2種以上組合せて、適宜適量を添加することができる。医薬品添加物の配合割合については、いずれの医薬品添加物についても、本発明の所望の効果が達成される範囲内の量で使用することが可能である。
【0022】
本発明の医薬組成物は、例えば、難溶性薬物の非晶質化等の工程を含む方法により製造することが可能である。
本発明の医薬組成物の製造方法について、以下に説明する。
【0023】
非晶質化工程
難溶性薬物とけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールとの固体分散体を製造する方法は、一般的に固体分散体を製造する方法であれば特に制限されない。例えば、溶媒法、加熱溶融押出法、粉砕法などを挙げることができる。
【0024】
(I)溶媒法
溶媒法では、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを溶媒に溶解及び/又は懸濁させた後、溶媒を除去する方法などを挙げることができる。
用いられる溶媒としては、難溶性薬物、及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールが溶解及び/又は懸濁するものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、メタノール、ジクロロメタン、水、エタノール、アセトン、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができ、ある態様としては、メタノール、水である。これらの溶媒は1種又は2種以上組合せて適宜適量使用できる。
【0025】
溶媒を除去する方法としては、例えば、噴霧乾燥法、エバポレーション法、凍結乾燥法などを挙げることができ、ある態様としては噴霧乾燥法である。
噴霧乾燥法で用いられる噴霧液を調製する手順として、例えば、
(1)けん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを水に溶解及び/又は懸濁、
(2)(1)にメタノールを添加し混合溶液を調製、
(3)(2)の混合溶液に難溶性薬物を添加し噴霧液を調製
等が挙げられる。
噴霧乾燥の装置としては、難溶性薬物を非晶質にできるもの、あるいは、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む固体分散体を得られるものであれば特に制限はされない。例えば、スプレードライヤーを挙げることができる。噴霧乾燥の条件は、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールの固体分散体を得られれば特に制限されない。
【0026】
乾燥する方法としては、通常製薬学的に乾燥できる方法であれば、特に制限されない。装置としては、例えば、通風乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、流動層乾燥機などを挙げることができる。
【0027】
(II)加熱溶融押出法
加熱溶融押出法は、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを加熱溶融した後に冷却して行う。
加熱溶融の際の温度は難溶性薬物の融点やポリビニルアルコールのガラス転移温度により適宜設定される。
装置としては、難溶性薬物を非晶質にできるもの、あるいは、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む固体分散体を得られるものであれば特に制限はされない。例えば、二軸エクストルーダーが挙げられる。
【0028】
解砕する方法としては、通常製薬学的に解砕できる方法であれば、特に制限されない。装置としては、例えば、衝撃式粉砕機(例えば、ホソカワミクロン社製、ファインインパクトミル)、湿式乾式整粒機(例えば、パウレック社製、コーミル)、破砕式造粒機(例えば、ダルトン社製、パワーミル)などを挙げることができる。
【0029】
(III)粉砕法
粉砕法は、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを混合粉砕して行う。
装置としては、難溶性薬物を非晶質にできるもの、あるいは、難溶性薬物及びけん化度63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールを含む固体分散体を得られるものであれば特に制限はされない。例えば、遊星式粉砕機(例えば、伊藤製作所社製、ボールミル)などを挙げることができる。
【0030】
本発明には、難溶性薬物を含有し溶出性を改善した医薬組成物の製造のためのけん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコールの使用が含まれる。
本発明の前記使用で用いられる「難溶性薬物」、「けん化度が63mol%以上67mol%以下のポリビニルアルコール」については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例、比較例、及び試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
【0032】
《実施例1》
ポリビニルアルコール(ポバール、JMR-10M、日本酢ビ・ポバール、けん化度:63.0~67.0mol%、以下「A1」と略すことがある)2gを水40mLに添加し、ポリビニルアルコールが溶解するまで撹拌した。更に、メタノール160mLを添加して混合溶液を調製した。前記混合溶液に、薬物としてニフェジピン(和光純薬工業、水への溶解度10μg/mL、以下記載無い場合同様)2gを添加し、ニフェジピンが溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤー(Niro SD-MicroTM Spray Dryer、GEA、以下記載無い場合同様)で噴霧乾燥し、実施例1の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0033】
《比較例1》
ポリビニルアルコール(ゴーセノール(登録商標)、OKS-5059、日本合成化学工業、けん化度:78.5~82.0mol%、以下「B1」と略すことがある)2gを水40mLに添加し、ポリビニルアルコールが溶解するまで撹拌した。更に、メタノール160mLを添加して調製した混合溶液に、薬物としてニフェジピン2gを添加し、ニフェジピンが溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例1の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0034】
《比較例2》
ヒプロメロース2910(TC-5R、信越化学工業、以下「B2」と略すことがある)2gを水40mLに添加し、B2が溶解するまで撹拌した。更に、メタノール160mLを添加して調製した混合溶液に、薬物としてニフェジピン2gを添加し、ニフェジピンが溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例2の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0035】
《試験例1》溶出試験
実施例1、比較例1、比較例2で調製した医薬組成物(固体分散体)(ニフェジピンを30mg相当量含有する)の溶出試験を行った。各医薬組成物の処方を表1に示す。各医薬組成物(固体分散体)と同重量のマンニトール(PEARLITOL 200SD、Roquette、以下記載無い場合同様)を乳鉢に秤量し、乳棒を用いて混合することにより調製した混合粉末を試験に用いた。溶出試験として、日本薬局方溶出試験法パドル法を用いた。試験液として、水(試験液量:500mL、液温:37℃)を使用し、パドル回転数50回転/分(試験開始0~3分は250回転/分、3~5分は200回転/分)の条件で溶出試験を行った。一定時間毎にファインフィルター(F-72、富山産業、以下記載無い場合同様)を通してサンプリング後、紫外線分光可視光度計(UV-1800、島津製作所)によりニフェジピンの紫外吸光度は354nm、450nmにて測定した。
【0036】
【表1】
【0037】
結晶原薬の溶解度(10μg/mL)に対する溶出試験開始後10分における溶解濃度との比を溶解濃度上昇倍率として算出した結果を表2に示す。実施例1の医薬組成物(固体分散体)では、結晶原薬と比較して6倍以上の溶解濃度上昇が認められたのに対し、比較例1、比較例2の医薬組成物(固体分散体)では、溶解濃度上昇倍率は約2.6、約3.4であった。
【0038】
【表2】
【0039】
《実施例2》
薬物としてアメナメビル(アステラス製薬、水への溶解度5μg/mL、以下記載無い場合同様)750mgと「A1」2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、実施例2の医薬組成物(固体分散体)を得た。また、実施例2の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0040】
《比較例3》
薬物としてアメナメビル750mgとポリビニルアルコール(ゴーセノール、NK-05R、日本合成化学工業、けん化度:71.0~75.0mol%、以下「B3」と略すことがある)2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、比較例3の医薬組成物(固体分散体)を得た。また、比較例3の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0041】
《比較例4》
薬物としてアメナメビル750mgとポリビニルアルコール(ゴーセノール、KL-05、日本合成化学工業、けん化度:78.5~82.0mol%、以下「B4」と略すことがある)2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、比較例4の医薬組成物(固体分散体)を得た。また、比較例4の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0042】
《比較例5》
薬物としてアメナメビル750mgとポリビニルアルコール(ゴーセノール、EG-05P、日本合成化学工業、けん化度:86.5~89.0mol%、以下「B5」と略すことがある)2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、比較例5の医薬組成物(固体分散体)を得た。また、比較例5の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0043】
《比較例6》
薬物としてアメナメビル750mgとポリビニルアルコール(ゴーセノール、NL-05、日本合成化学工業、けん化度:98.5mol%以上、以下「B6」と略すことがある)2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、比較例6の医薬組成物(固体分散体)を得た。また、比較例6の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0044】
《試験例2》溶出試験
実施例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6で調製した医薬組成物(固体分散体)(アメナメビルを100mg相当量含有する)の溶出試験を行った。各医薬組成物の処方は表3に示す。
各医薬組成物(固体分散体)と同重量のマンニトールを乳鉢に秤量し、乳棒を用いて混合することにより調製した混合粉末を試験に用いた。溶出試験として、日本薬局方溶出試験法パドル法を用いた。試験液として、水(試験液量:500mL、液温:37℃)を使用し、パドル回転数50回転/分(試験開始0~3分は250回転/分、3~5分は200回転/分)の条件で溶出試験を行った。
一定時間毎にファインフィルターを通してサンプリング後、紫外線分光可視光度計(UV-1800、島津製作所)によりアメナメビルの紫外吸光度は273nm、450nmにて測定した。
【0045】
【表3】
【0046】
結晶原薬の溶解度(5μg/mL)に対する溶出試験開始後10分における溶解濃度との比を溶解濃度上昇倍率として算出した結果を表4に示す。実施例2の医薬組成物(固体分散体)では、結晶原薬と比較して約33.1倍の溶解濃度上昇が認められたのに対し、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6の医薬組成物(固体分散体)では、溶解濃度上昇倍率は約8.7~33.1であった。
【0047】
【表4】
【0048】
《実施例3》
「A1」22.5gを水270mLに溶解するまで撹拌した。更に、メタノール1080mLを添加して調製した混合溶液に、タクロリムス(アステラス製薬、水への溶解度4μg/mL、以下記載無い場合同様)4.5gを添加して溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、実施例3の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0049】
《試験例3》溶出試験
実施例3で調製した医薬組成物(固体分散体)(タクロリムスを20mg相当量含有する)の溶出試験を行った。医薬組成物の処方は表5に示す。
医薬組成物(固体分散体)と同重量のマンニトールを乳鉢に秤量し、乳棒を用いて混合することにより調製した混合粉末を試験に用いた。溶出試験として、日本薬局方溶出試験法パドル法を用いた。試験液として、水(試験液量:100mL、液温:37℃)を使用し、パドル回転数50回転/分の条件で溶出試験を行った。一定時間毎にシリンジ1mL(テルモ)を用いてサンプリング後、各サンプルを遠心分離機を用いて12720×gで5分間遠心分離した。遠心分離後の上清中の薬物濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Waters)にて分析し、そのピーク面積から溶出率を算出した。HPLC分析にはカラムとしてChemcoPak NUCLEOSIL 5C8 (内径4.6mm、長さ15cm、ジーエルサイエンス)を使用し、カラム温度50℃、移動相としてアセトニトリル(HPLC用・関東化学)/メタノール(HPLC用・関東化学)/リン酸(関東化学)/水を460/180/1/360の割合で使用し、流速0.5mL/分、注入量100μLにて測定を行った。
【0050】
【表5】
【0051】
溶出試験開始後30分後の結晶原薬と比較した溶解濃度上昇倍率の結果を表6に示す。実施例3の医薬組成物(固体分散体)では、結晶原薬と比較して約29倍の溶解濃度上昇が認められた。
【0052】
【表6】
【0053】
《比較例7》
ポリビニルアルコール(ゴーセネックス(登録商標)、LL-810、日本合成化学工業、けん化度:45.0~51.0mol%、以下「B7」と略すことがある)2gを水40mLに添加し、1時間撹拌したが、ポリビニルアルコールは溶解しなかった。更に、メタノール160mLを添加した場合において1時間撹拌した場合においてもポリビニルアルコールは溶解しなかった。
以上の結果より、けん化度が45.0~51.0mol%のポリビニルアルコールと難溶性薬物は均一に混合することができないことから、難溶性薬物は非晶質にならず、或いは非晶質を維持できず、溶解性は改善できないと推察する。
【0054】
《比較例8》
「B3」2gを水40mLに添加し、ポリビニルアルコールが溶解するまで撹拌した。更に、メタノール160mLを添加して調製した混合溶液に、薬物としてニフェジピン2gを添加し、ニフェジピンが溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例8の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0055】
《比較例9》
薬物としてアメナメビル750mgと「B7」2250mgの粉末を遊星ボールミル(LA-PO、伊藤製作所)にて混合粉砕し、比較例9の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0056】
《比較例10》
「B1」22.5gを水270mLに添加し、溶解するまで撹拌した。更に、メタノール1080mLを添加して調製した混合溶液に、タクロリムス4.5gを添加して溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例10の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0057】
《比較例11》
「B2」22.5gを水270mLに添加し、溶解するまで撹拌した。更に、メタノール1080mLを添加して調製した混合溶液に、タクロリムス4.5gを添加して溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例11の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0058】
《比較例12》
「B3」10.0gを水120mLに添加し、溶解するまで撹拌した。更に、メタノール480mLを添加して調製した混合溶液に、タクロリムス2.0gを添加して溶解するまで撹拌し、噴霧溶液を調製した。噴霧溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、比較例12の医薬組成物(固体分散体)を得た。
【0059】
《試験例4》溶出試験
比較例8で調製した医薬組成物(固体分散体)(ニフェジピンを30mg相当量含有する)の溶出試験を試験例1と同様に行った。医薬組成物の処方を表7に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
結晶原薬の溶解度に対する溶出試験開始後10分における溶解濃度との比を溶解濃度上昇倍率として算出した結果を表8に示す。比較例8の医薬組成物(固体分散体)では、溶解濃度上昇倍率は約3.8であった。
【0062】
【表8】
【0063】
《試験例5》X線回折測定による結晶形確認試験
実施例1、比較例1、比較例2、比較例8で調製した医薬組成物(固体分散体)の結晶形確認試験を行った。各医薬組成物をガラスプレート上に均一に固定した測定試料を調製し、試料水平型強力X線装置(Rigaku、RINT-TTRII)にて測定を行った。
【0064】
結晶形確認試験の結果を図1図4に示す。実施例1、比較例1、比較例2、比較例8の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0065】
《試験例6》溶出試験
比較例9で調製した医薬組成物(固体分散体)(アメナメビルを100mg相当量含有する)の溶出試験を試験例2と同様に行った。医薬組成物の処方は表9に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
結晶原薬の溶解度に対する溶出試験開始後10分における溶解濃度との比を溶解濃度上昇倍率として算出した結果を表10に示す。比較例9の医薬組成物(固体分散体)では、溶解濃度上昇倍率は約5.0であった。
【0068】
【表10】
【0069】
《試験例7》X線回折測定による結晶形確認試験
実施例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6で調製した医薬組成物(固体分散体)の結晶形確認試験を行った。各医薬組成物をガラスプレート上に均一に固定した測定試料を調製し、試料水平型強力X線装置(Rigaku、RINT-TTRIII)にて測定を行った。
【0070】
結晶形確認試験の結果を図5~9に示す。実施例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6の医薬組成物(固体分散体)についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【0071】
《試験例8》溶出試験
比較例10、比較例11、比較例12で調製した医薬組成物(固体分散体)(タクロリムスを20mg相当量含有する)の溶出試験を試験例3と同様に行った。医薬組成物の処方は表11に示す。
【0072】
【表11】
【0073】
結晶原薬の溶解度に対する溶出試験開始後30分における溶解濃度との比を溶解濃度上昇倍率として算出した結果を表12に示す。比較例10の医薬組成物(固体分散体)では、溶解濃度上昇倍率は約19.4であり、比較例11、比較例12では溶解濃度上昇倍率は約18.9、約22.5であった。
【0074】
【表12】
【0075】
《試験例9》X線回折測定による結晶形確認試験
実施例3、比較例10、比較例11、比較例12で調製した医薬組成物(固体分散体)の結晶形確認試験を行った。各医薬組成物をガラスプレート上に均一に固定した測定試料を調製し、試料水平型強力X線装置(Rigaku、RINT-TTRII)にて測定を行った。
【0076】
結晶形確認試験の結果を図10~13に示す。実施例3、比較例10、比較例11、比較例12の医薬組成物(固体分散体)では、についてX線回折測定を行い、結晶薬物由来となるピークがないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、難溶性薬物の溶解性を改善した医薬組成物を提供することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
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