(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】保持ポット
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/157 20060101AFI20221122BHJP
B23Q 7/10 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B23Q3/157 E
B23Q7/10
(21)【出願番号】P 2020150059
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神尾 竜矢
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020388(JP,A)
【文献】特開平11-285940(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第02401891(DE,A1)
【文献】特開2011-230237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155、157
B23Q 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿う挿入孔を有し、当該挿入孔に被保持部材が有する挿入部を挿入させることで前記被保持部材を保持する保持ポットであって、
前記被保持部材の前記挿入部は、基端側から先端側に向かうに従い次第に断面形状が小さくなり且つその断面形状が多角形状であり、
前記挿入孔は、当該挿入孔の軸方向において前記挿入部が挿抜される側の開口縁の形状が、前記被保持部材における前記挿入部の基端部の断面形状に一致し、前記挿入孔の内奥側の内周面には、内周縁形状が前記被保持部材における前記挿入部の先端側部分の外接円の形状に一致する円環状のエッジ部が設けられていることを特徴とする保持ポット。
【請求項2】
円環状の前記エッジ部は、前記挿入孔の前記内周面における内奥側の一箇所に、当該一箇所から前記挿入孔の前記開口縁側に連なる箇所よりも内径が小径となるように一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載の保持ポット。
【請求項3】
前記挿入孔は、軸方向で前記エッジ部よりも前記開口縁側に位置し且つ前記エッジ部側の端縁の形状が前記エッジ部よりも大径の円形である第1内周面部と、軸方向で前記第1内周面部よりも前記挿入孔の内奥側に位置し且つ前記第1内周面部側の端縁の形状が前記第1内周面部における前記エッジ部側の端縁の形状よりも小径の円形である第2内周面部と、を有し、前記エッジ部は、前記第2内周面部における前記第1内周面部側のエッジ状をなす端縁により構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の保持ポット。
【請求項4】
前記第1内周面部と前記第2内周面部とは、前記第1内周面部側から前記第2内周面部側に向かうほど内径が次第に小さくなる円錐台内面形状をなすテーパー内周面部により連結されていることを特徴とする請求項3に記載の保持ポット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具やワーク等の被保持部材を挿抜可能に保持する保持ポットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械の工具マガジンに設けられ、工具等の被保持部材を挿抜可能に保持する保持ポットの一例として、例えば、特許文献1に記載の工具ポットが知られている。この工具ポットは、中空円筒状のポット本体を有し、そのポット本体の軸方向の一端には、ポット本体よりも大径のフランジ部が形成されている。また、ポット本体の内周面によって構成される挿入孔の内奥には、内周面が内奥側ほど次第に小径となる円錐面形状に形成された環状の支持部材が接着等により取り付けられている。
【0003】
一方、被保持部材である工具ホルダは、その長さ方向の中途にフランジ部を有し、その長さ方向においてフランジ部を境にして工具が設けられた側とは反対側に、工具ポットの挿入孔に挿入されるシャンク部を有している。シャンク部は、基端側の断面形状よりも先端側の断面形状の方が小さくなるように先端側ほど小径となる円錐台形状に形成されている。そして、工具ホルダは、その不使用時には、シャンク部を工具ポットのポット本体の挿入孔に挿入させると共に、そのフランジ部をポット本体のフランジ部に当接させた状態となって工具ポットに保持される。
【0004】
また、その際には、ポット本体の挿入孔の内奥において、円錐台形状をなすシャンク部の先端側部分の外周面に対して、環状の支持部材の円錐面形状をなす内周面が面接触して密着した状態となる。そのため、被保持部材である工具ホルダは、保持ポットである工具ポットに保持された状態において、中心軸線と交差する方向のモーメントが作用した場合でも、挿入孔の内奥でシャンク部に密着する環状の支持部材により姿勢が傾かないように保持される。すなわち、工具ポットに保持された工具ホルダは、挿入孔の内奥でシャンク部の外周面に対して環状の支持部材の内周面が面接触して密着するため、工具ポットによる保持が不安定になり難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、工具ポットに保持された状態にある工具ホルダに対しては、例えば中心軸線を中心とする回転方向に外力が作用することもある。そして、その場合には、工具ポットに対して工具ホルダが回転方向に位置ずれする虞がある。そのため、近時は、工具ホルダのシャンク部の断面形状及び工具ポットの挿入孔の断面形状を、円形状ではなく、例えば三角形状等の多角形状にすることにより、工具ポットに保持された状態にある工具ホルダの回転を抑制することも行われている。
【0007】
ここで、工具ホルダのシャンク部の断面形状及び工具ポットの挿入孔の断面形状を三角形状等の多角形状にした場合は、挿入孔の内奥に取り付ける環状の支持部材の断面形状も同様に多角形状にする必要がある。さらに、この場合は、工具ホルダのシャンク部の形状も先端側ほど断面積が小さくなる角錐台形状となるため、多角形状をなす環状の支持部材の内周面もシャンク部の角錐台形状の外周面に面接触して密着することが可能な角錐面形状に形成する必要がある。
【0008】
しかし、工具ホルダのシャンク部を先端側ほど断面積が小さくなる角錐台形状に形成することはまだしも、工具ポットの挿入孔の内周面及び当該内周面の内奥に取り付けられる環状の支持部材の内周面を角錐面形状に形成することは容易なことではない。そのため、そうした工具ポットに関わる形成作業の困難さの故に、工具ポットに対する被保持部材である工具ホルダの保持の安定化を容易に実現できないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、工具やワーク等の被保持部材の保持の安定化を容易に実現できる保持ポットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する保持ポットは、一方向に沿う挿入孔を有し、当該挿入孔に被保持部材が有する挿入部を挿入させることで前記被保持部材を保持する保持ポットであって、前記挿入孔は、当該挿入孔の軸方向において前記挿入部が挿抜される側の開口縁の形状が、前記被保持部材における前記挿入部の基端部の断面形状に一致し、前記挿入孔の内奥側の内周面には、内周縁形状が前記被保持部材における前記挿入部の先端側部分の外接円の形状に一致する円環状のエッジ部が設けられている。
【0011】
この構成によれば、例えば被保持部材の挿入部の形状が基端側から先端側に向かうに従い次第に断面形状が小さくなり且つその断面形状が多角形状である所謂ポリゴンテーパー形状であっても、その被保持部材を姿勢の傾き及び回転を抑制して安定的に支持できる。すなわち、挿入部が所謂ポリゴンテーパー形状の被保持部材は、その挿入部を挿入孔に挿入すると、挿入孔の開口縁により挿入部の基端部が支持されると共に、挿入孔の内奥側で円環状のエッジ部により挿入部の先端側部分が支持される。そのため、被保持部材は、挿入部が基端部と先端側部分との二位置で支持されることになり、中心軸線と交差する方向にモーメントが作用しても姿勢が傾くのを抑制される。また、被保持部材は、その挿入部の基端部が同じ多角形状の断面形状である挿入孔の開口縁に嵌合するため、中心軸線を中心とする回転方向に回転して位置ずれするのを抑制される。しかも、挿入孔の内奥側で挿入部の先端側部分に径方向の外方から接触する円環状のエッジ部は、挿入部の先端側部分の外側面に対して面接触するのではなく複数箇所で点接触する。そのため、挿入部の形状が例えば三角錐台形状や四角錐台形状などの様々な所謂ポリゴンテーパー形状である複数種の被保持部材にも対応できる。
【0012】
上記保持ポットにおいて、円環状の前記エッジ部は、前記挿入孔の前記内周面における内奥側の一箇所に、当該一箇所から前記挿入孔の前記開口縁側に連なる箇所よりも内径が小径となるように一体形成されていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、例えば内周縁に円環状のエッジ部が予め形成された環状の別部材を挿入孔の内奥側の内周面に接着等により取り付ける必要もない。そのため、保持ポットの部材点数と製造工程を増加させることなく、被保持部材の保持の安定化を容易に実現できる。
【0014】
上記保持ポットにおいて、前記挿入孔は、軸方向で前記エッジ部よりも前記開口縁側に位置し且つ前記エッジ部側の端縁の形状が前記エッジ部よりも大径の円形である第1内周面部と、軸方向で前記第1内周面部よりも前記挿入孔の内奥側に位置し且つ前記第1内周面部側の端縁の形状が前記第1内周面部における前記エッジ部側の端縁の形状よりも小径の円形である第2内周面部と、を有し、前記エッジ部は、前記第2内周面部における前記第1内周面部側のエッジ状をなす端縁により構成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、挿入孔の内周面に第1内周面部と第2内周面部とを第2内周面部の方が挿入孔の内奥側に位置するように形成することで、円環状のエッジ部を容易に形成できる。
【0016】
上記保持ポットにおいて、前記第1内周面部と前記第2内周面部とは、前記第1内周面部側から前記第2内周面部側に向かうほど内径が次第に小さくなる円錐台内面形状をなすテーパー内周面部により連結されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、被保持部材の挿入部が挿入孔に挿入されたとき、挿入部の先端側部分を挿入孔の内奥でテーパー内周面部のガイド機能により円環状のエッジ部までスムーズに案内できる。
【0018】
上記保持ポットにおいて、前記被保持部材の前記挿入部は、基端側から先端側に向かうに従い次第に断面形状が小さくなり且つその断面形状が多角形状であることが好ましい。
この構成によれば、挿入孔に挿入部が挿入された被保持部材が保持ポットに対して無用に回転方向に位置ずれする虞を低減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、工具やワーク等の被保持部材の保持の安定化を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態の保持ポットが搬送チェーンに支持された状態を示す正面図。
【
図8】比較例の保持ポットに工具ホルダを保持した状態を示す正断面図。
【
図9】本実施形態の保持ポットに工具ホルダを保持した状態を示す正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、保持ポットの一実施形態について、図を参照して説明する。
図1に示すように、保持ポット11は、上下方向Zと直交する水平方向に移動する搬送チェーン12に支持されている。搬送チェーン12は、上下方向Zで各々対をなす複数対の内リンクプレート13と、上下方向Zで各対の内リンクプレート13を外側から挟む位置に配置される複数対の外リンクプレート14と、円筒状のホローピン15と、を備えている。内リンクプレート13及び外リンクプレート14は、互いの端部同士を重合させるように交互に配置された状態でホローピン15により回動可能に連結されている。ホローピン15の外周面における上下方向Zで外リンクプレート14の外側となる箇所には固定リング用溝16が周方向全体に亘って形成されている。そして、この固定リング用溝16に固定リング17が嵌着されることで、ホローピン15からの内リンクプレート13及び外リンクプレート14の抜け防止が図られている。
【0022】
図2及び
図3に示すように、保持ポット11に対して挿抜可能に保持される被保持部材の一例である工具ホルダ20は、
図2では上下方向Zとなる長さ方向の中途にフランジ部21を有している。また、工具ホルダ20は、その長さ方向においてフランジ部21を境にしてドリルや切削刃等の工具の取付部22が設けられた側とは反対側に、シャンク形状の挿入部23を有している。挿入部23は、基端側から先端側に向かうに従い次第に断面形状が小さくなり、且つ、その断面形状が多角形状である所謂ポリゴンテーパー形状に形成されている。本実施形態における挿入部23は、一例として、断面形状が3つの湾曲状の辺23aと3つの丸みのある頂点23bを有した略三角形状をなし、且つ、その断面形状が基端側から先端側に向かうに従い次第に小さくなる三角錐台形状に形成されている。
【0023】
フランジ部21は、工具ホルダ20の長さ方向において所定の厚みを有する円盤形状をなし、その外周面の複数箇所にはグリップ溝24が形成されている。工具ホルダ20は、保持ポット11に対して挿抜されるとき、グリップ溝24に図示しない自動工具交換機の把持爪が係止される。挿入部23の先端面には、円形の係合穴25が基端側に向けて穿設されている。そして、その係合穴25の深さ方向の中途には、工具ホルダ20がマシニングセンタ等の工作機械にセットされたときに、工作機械が有する図示しない抜け止め用の係合ボールを係合させるボール係合溝26が形成されている。また、挿入部23の外側面の一箇所には、挿入部23の先端面から基端側に延びる位置合わせ用溝27が形成されている。
【0024】
図4に示すように、保持ポット11は、中空円筒状のポット本体30を有している。ポット本体30は、
図1に示すように搬送チェーン12に支持されたときに上側に位置する大径筒部31と下側に位置する小径筒部32とを有する。大径筒部31における軸方向で小径筒部32側とは反対側の端部には、大径筒部31よりも外径が大径のフランジ部33が形成されている。
図1に示すように、ポット本体30の大径筒部31の外径はホローピン15の上端部の内径に一致し、フランジ部33の外径はホローピン15の上端部の外径よりも大きい。そのため、
図1に示すように、保持ポット11は、ポット本体30を小径筒部32側からホローピン15に対して上方から挿入すると共に、そのフランジ部33をホローピン15の上端面に当接させた状態で、搬送チェーン12に支持される。
【0025】
図4~
図6に示すように、ポット本体30は、一方向の一例である軸方向に沿う挿入孔34を有している。なお、本明細書中において「軸方向」という場合は、ポット本体30の中心軸線Aに沿う方向のことをいう。挿入孔34における大径筒部31側の開口縁35の形状は、上述した被保持部材である工具ホルダ20における所謂ポリゴンテーパー形状の挿入部23の基端部の断面形状に一致している。すなわち、
図5に示すように、挿入孔34の大径筒部31側の開口縁35は、その形状が3つの湾曲状の辺35aと3つの丸みのある頂点35bを有した略三角形状をなし、工具ホルダ20の挿入部23の基端部の断面形状と同一に形成されている。そのため、工具ホルダ20は、挿入部23が保持ポット11の挿入孔34に挿入されたとき、挿入部23の略三角形状の基端部が、挿入孔34の同じ略三角形状の開口縁35に対して、ポット本体30の中心軸線Aを中心とする回転を規制された状態で嵌合する。
【0026】
図5及び
図6に示すように、挿入孔34は、それぞれの内周面形状が互いに異なる複数の内周面部36,37,38,39,40を有している。すなわち、挿入孔34は、その軸方向において大径筒部31側から小径筒部32側へ順に、多角形内周面部36、第1内周面部37、テーパー内周面部38、第2内周面部39及び段差付き内周面部40が連続形成された構成をしている。挿入孔34において工具ホルダ20の挿入部23が挿入される側の開口縁35は、多角形内周面部36における軸方向で小径筒部32側とは反対側の端縁により構成される。その一方、挿入孔34における軸方向で開口縁35側とは反対側の開口縁は、段差付き内周面部40における軸方向で大径筒部31側とは反対側の端縁により構成される。
【0027】
多角形内周面部36は、その断面形状が軸方向の全体に亘って挿入孔34の開口縁35と同一の略三角形状である、略三角筒内面形状をなすように形成されている。そのため、挿入孔34に工具ホルダ20の所謂ポリゴンテーパー形状の挿入部23が挿入されたときには、挿入部23の基端部が多角形内周面部36の開口縁35に嵌合するものの、挿入部23の基端部よりも先端側部分は多角形内周面部36に接触することはない。
【0028】
第1内周面部37は、その軸方向で多角形内周面部36との境となる第1端縁41が、平面視では多角形内周面部36の断面形状と同一の略三角形状をなすと共に、側面視では振れ幅が軸方向のサインカーブを描くように形成されている。すなわち、第1端縁41は、開口縁35の3つの辺35aの各中央部と対応する箇所が軸方向で最も開口縁35側になると共に開口縁35の3つの頂点35bと対応する箇所が軸方向で最も小径筒部32側になるサインカーブを描く。その一方、第1内周面部37の軸方向でテーパー内周面部38との境となる第2端縁42の形状は、
図5に示すように、略三角形状をなす開口縁35の外接円の形状に一致した円形状をなすように形成されている。そのため、
図5及び
図6に示すように、第1内周面部37における第1端縁41と第2端縁42との間の領域の面形状は、軸方向に対して斜めに交差した曲面形状となる。
【0029】
テーパー内周面部38は、その軸方向で第2端縁42とは反対側において第2内周面部39との境となる第3端縁43が、第2端縁42よりも小径の円形状をなすように形成されている。すなわち、第3端縁43は、工具ホルダ20における断面形状が略三角形状で所謂ポリゴンテーパー形状をなす挿入部23の
図3に示す先端側部分の外接円Cの形状に一致した円形状をなしている。そのため、
図6に示すように、テーパー内周面部38の第2端縁42と第3端縁43との間の領域の面形状は、第1内周面部37側から第2内周面部39側に向かうほど内径が次第に小さくなる円錐台内面形状をなすように形成されている。
【0030】
第2内周面部39は、
図6に示すように、第1内周面部37よりも挿入孔34の内奥側に位置している。そして、第2内周面部39は、軸方向において第3端縁43とは反対側で段差付き内周面部40との境となる第4端縁44が、第3端縁43と同一の円形状をなすように形成されている。すなわち、第2内周面部39は、その断面形状が軸方向の全体に亘って工具ホルダ20における挿入部23の先端側部分の外接円Cの形状に一致した円形状である、円筒内面形状をなすように形成されている。
【0031】
なお、第2内周面部39における第1内周面部37側の端縁である第3端縁43は、その第3端縁43から挿入孔34の開口縁35側に連なる箇所であるテーパー内周面部38よりも内径が小径となるように、挿入孔34の内周面に一体形成されている。すなわち、第3端縁43は、円筒内面形状をなす第2内周面部39の第1内周面部37側の端部で、挿入孔34の開口縁35側から見た場合に内周縁が径方向の内方側にエッジ状をなすことで円環状のエッジ部を構成している。また、
図5及び
図6に示すように、第2内周面部39における第1内周面部37側の端縁であってエッジ部を構成する第3端縁43は、第1内周面部37における第3端縁43側の端縁である第2端縁42の形状よりも小径の円形状をなすように形成されている。換言すると、第1内周面部37における第3端縁43側の端縁である第2端縁42の形状は、エッジ部を構成する第3端縁43よりも大径の円形状をなすように形成されている。
【0032】
図6及び
図7に示すように、段差付き内周面部40は、ポット本体30の小径筒部32の内側に形成され、軸方向で第2内周面部39との境となる第4端縁44の位置に段差部45を有している。そして、この段差部45に係合するように、段差付き内周面部40には中央に貫通孔46を有する円板状のリング部材47が嵌合されている。リング部材47は、その外周面の複数箇所に径方向に沿うピン穴48が形成されている。その一方、ポット本体30の小径筒部32において、段差付き内周面部40にリング部材47が嵌合されたときにリング部材47の各ピン穴48と径方向で対向する箇所には径方向に沿うピン孔49が形成されている。
【0033】
そして、リング部材47は、ピン穴48が小径筒部32のピン孔49に位置合わせされた状態で、ピン孔49を介してピン穴48に図示しないピンが嵌入されることにより段差付き内周面部40に取り付けられる。なお、
図6及び
図7に示すように、リング部材47において段差付き内周面部40に嵌合されたとき挿入孔34の第2内周面部39側に向く内面の一箇所には、ピン状の位置合わせ用部材50が軸方向に沿って延びるように設けられている。
【0034】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図8に示すように、挿入孔34の内周面形状が前述した本実施形態における挿入孔34の内周面形状とは異なる比較例の保持ポット11の場合は、被保持部材である工具ホルダ20の保持の安定化を容易に実現できない虞がある。すなわち、比較例の保持ポット11の挿入孔34は、テーパー内周面部38を有さず、その軸方向で第1内周面部37と第2内周面部39とが第2端縁42を境として連続するように形成されている。そして、この比較例の保持ポット11における挿入孔34の第2内周面部39は、その断面形状が軸方向の全体に亘って第1内周面部37との境の第2端縁42と同一の円形状である、円筒内面形状をなすように形成されている。
【0035】
そのため、比較例の保持ポット11では、
図8に示すように、挿入孔34内に工具ホルダ20の挿入部23が挿入されたとき、その挿入部23の略三角形状をなす基端部を同じく略三角形状の開口縁35と対応する位置の支点51において支持する。しかし、挿入孔34の内奥側に位置する第2内周面部39は、その内径が挿入部23の先端側部分の外接円よりも大径であるため、挿入部23の先端側部分に対して径方向の外方から接触することはない。したがって、挿入部23に挿入孔34の中心軸線Aと交差する方向のモーメントが作用した場合には、工具ホルダ20の姿勢が傾く虞がある。
【0036】
これに対し、
図9に示すように、本実施形態の保持ポット11では、挿入孔34内に工具ホルダ20の挿入部23が挿入されると、まず、挿入孔34の開口縁35と対応する位置の支点51により挿入部23の基端部が支持される。そして、挿入孔34の内奥側では円環状のエッジ部を構成する第3端縁43が、所謂ポリゴンテーパー形状の挿入部23の先端側部分に対して径方向の外方から3点で点接触する。すなわち、工具ホルダ20は、
図5に示す第3端縁43の周方向における3箇所の支点52により、挿入部23の先端側部分が支持される。そのため、工具ホルダ20は、挿入部23が軸方向で基端部と先端側部分との二位置で支持されることになり、挿入孔34の中心軸線Aと交差する方向にモーメントが作用しても姿勢が傾くのを抑制される。
【0037】
また、工具ホルダ20は、その挿入部23の略三角形状をなす基端部が同じ略三角形状の断面形状である挿入孔34の開口縁35に嵌合するため、挿入孔34の中心軸線Aを中心とする回転方向に回転して位置ずれするのを抑制される。しかも、挿入孔34の内奥側で挿入部23の先端側部分に径方向の外方から接触する円環状のエッジ部である第3端縁43は、挿入部23の先端側部分の外側面に対して面接触するのではなく3箇所で点接触する。そのため、挿入部23の形状が本実施形態のような三角錐台形状である場合以外に例えば四角錐台形状などの様々な所謂ポリゴンテーパー形状である複数種の工具ホルダ20にも対応可能とされる。さらに、工具ホルダ20は、その挿入部23を挿入孔34内に挿入させたとき、挿入孔34の内奥でテーパー内周面部38によって円環状のエッジ部である第3端縁43までガイドされる。
【0038】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)工具ホルダ20の挿入部23の形状が基端側から先端側に向かうに従い次第に断面形状が小さくなり且つその断面形状が多角形状である所謂ポリゴンテーパー形状であっても、その工具ホルダ20を姿勢の傾き及び回転を抑制して安定的に支持できる。
【0039】
(2)例えば内周縁に円環状のエッジ部が予め形成された環状の別部材を挿入孔34の内奥側の内周面に接着等により取り付ける必要もない。そのため、保持ポット11の部材点数と製造工程を増加させることなく、工具ホルダ20の保持の安定化を容易に実現できる。
【0040】
(3)挿入孔34の内周面に第1内周面部37と第2内周面部39とを第2内周面部39の方が挿入孔34の内奥側に位置するように形成することで、工具ホルダ20の所謂ポリゴンテーパー形状の挿入部23を支持可能な円環状のエッジ部を容易に形成できる。
【0041】
(4)工具ホルダ20の挿入部23が挿入孔34に挿入されたとき、挿入部23の先端側部分を挿入孔34の内奥でテーパー内周面部38のガイド機能により円環状のエッジ部である第3端縁43までスムーズに案内できる。
【0042】
なお、上記の実施形態は以下に示す変更例のように変更してもよい。また、実施形態に含まれる構成と下記変更例に含まれる構成とを任意に組み合わせてもよいし、下記変更例に含まれる構成同士を任意に組み合わせてもよい。
【0043】
・保持ポット11は、搬送チェーン12に支持される以外に、マシニングセンタ等の工作機械内において工具ホルダ20を保持するために用いられてもよい。
・保持ポット11に挿抜可能に保持される被保持部材は、工具ホルダ20以外に例えば切削加工されるワークであってもよい。
【0044】
・所謂ポリゴンテーパー形状をなす挿入部23は、その断面形状が、略三角形状以外に例えば略四角形状や略六角形状などの他の多角形状であってもよい。
・挿入孔34は、テーパー内周面部38に置換して、断面形状が第2端縁42と同一の円形状をなす円筒内面形状の中間内周面部を第1内周面部37と第2内周面部39との間に設けてもよい。この場合、中間内周面部と第2内周面部39との境となる第3端縁43の位置には段差部が形成され、その段差部のエッジ状をなす角部により円環状のエッジ部が構成される。
【0045】
・挿入孔34は、テーパー内周面部38を設けずに、第1内周面部37と第2内周面部39とが連続するようにしてもよい。この場合、第1内周面部37と第2内周面部39との境となる端縁の位置には段差部が形成され、その段差部のエッジ状をなす角部によって円環状のエッジ部が構成される。
【0046】
・挿入孔34は、テーパー内周面部38と第2内周面部39を設けずに、断面形状が第2端縁42と同一の円形状をなす円筒内面形状の中間内周面部を第1内周面部37と段差付き内周面部40との間に設けてもよい。この場合、中間内周面部と段差付き内周面部40との境となる位置にできる段差部のエッジ状をなす角部により円環状のエッジ部が構成される。
【0047】
・挿入孔34の内奥で当該挿入孔34の内周面にエッジ部を一体形成する以外に、予め内周面に円環状のエッジ部を形成した筒状の別部材を、挿入孔34の内奥の内周面部位に接着等で取り付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
11…保持ポット
20…被保持部材の一例である工具ホルダ
23…挿入部
34…挿入孔
35…開口縁
36…多角形内周面部
37…第1内周面部
38…テーパー内周面部
39…第2内周面部
41…第1端縁
42…第2端縁
43…エッジ部を構成する第3端縁
C…外接円