(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221122BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221122BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20221122BHJP
H01M 50/552 20210101ALI20221122BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M50/531
H01M50/552
(21)【出願番号】P 2020550009
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032426
(87)【国際公開番号】W WO2020070989
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018187668
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】近川 修
(72)【発明者】
【氏名】高野 良平
(72)【発明者】
【氏名】坂東 賢一
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123319(WO,A1)
【文献】特開2014-192041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 10/052
H01M 50/531
H01M 50/552
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池であって、
正極層、負極層、ならびに該正極層および/または該負極層の間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成り、
前記積層方向における前記正極層と前記負極層とが互いにオーバーラップする重なり部および該正極層と該負極層とが互いにオーバーラップしない非重なり部から成り、
前記積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、該凹みが前記重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、該凹みに起因した段差が前記非重なり部に位置付けられて
おり、
前記固体電池積層体の積層方向における最外部に存在するように固体電解質材が設けられており、該固体電解質材が前記段差を形成している、固体電池。
【請求項2】
固体電池であって、
正極層、負極層、ならびに該正極層および/または該負極層の間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成り、
前記積層方向における前記正極層と前記負極層とが互いにオーバーラップする重なり部および該正極層と該負極層とが互いにオーバーラップしない非重なり部から成り、
前記積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、該凹みが前記重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、該凹みに起因した段差が前記非重なり部に位置付けられて
おり、
前記積層方向において、前記段差の寸法が前記重なり部の寸法の1%以上10%以下である、固体電池。
【請求項3】
固体電池であって、
正極層、負極層、ならびに該正極層および/または該負極層の間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成り、
前記積層方向における前記正極層と前記負極層とが互いにオーバーラップする重なり部および該正極層と該負極層とが互いにオーバーラップしない非重なり部から成り、
前記積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、該凹みが前記重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、該凹みに起因した段差が前記非重なり部に位置付けられて
おり、
前記固体電池が、表面実装品である、固体電池。
【請求項4】
前記固体電池積層体の対向する側面に外部端子が設けられており、該外部端子が前記少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在しており、
前記少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在する前記外部端子の厚みが、前記固体電解質材と共に前記段差を形成している、請求項
1に記載の固体電池。
【請求項5】
前記固体電池積層体の対向する側面に外部端子が設けられており、該外部端子が前記少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在しており、
前記少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在している前記外部端子の厚みが、前記段差を形成している、請求項
2または3に記載の固体電池。
【請求項6】
前記積層方向において前記固体電解質材の前記段差の寸法は前記重なり部の寸法の1%以上10%以下である、請求項
1に記載の固体電池。
【請求項7】
前記主面が、実装面側に位置する面に相当する、請求項
3に記載の固体電池。
【請求項8】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~
7のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。より具体的には、本発明は、積層型固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、繰り返しの充放電が可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォンおよびノートパソコン等の電子機器の電源として用いられたりする。
【0003】
二次電池においては、充放電に寄与するイオン移動のための媒体として液体の電解質が一般に使用されている。つまり、いわゆる電解液が二次電池に用いられている。しかしながら、そのような二次電池においては、電解液の漏出防止点で安全性が一般に求められる。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質ゆえ、その点でも安全性が求められる。
【0004】
そこで、電解液に代えて、固体電解質を用いた固体電池について研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-0220107号公報
【文献】特開2016-1601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器において、電子回路と同一の基板に表面実装する固体電池が提案されている。固体電池を表面実装する例として、プリント基板への表面実装に適した固体電池が提案されている(特許文献1参照)。また、基板や外装、隣接した固体電池や電子部品と接する面積が小さくなるように構成された固体電池も提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
本願発明者は、表面実装品用の固体電池において克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0008】
固体電池は、複数の電極材(例えば、正負極層、電解質層および集電層など)を積層させて形成される。それゆえ、例えば
図1に示すように、固体電池500において、正極層10および負極層30がオーバーラップする部分(重なり部40)の厚みは、それらの層がオーバーラップしない部分(非重なり部50Aおよび50B)に比べ厚くなる場合がある。また、正極層10および負極層30は充放電の際、固体電解質層20を介した正負極層間のイオンの移動に伴い、電極層が膨張/収縮し得る。このため、固体電池の使用に際して、重なり部40の厚みが、非重なり部50Aおよび50Bの厚みに比べさらに厚くなる場合がある。
【0009】
そのような固体電池が基板に表面実装された場合(
図2参照)、充放電時に正極層10および/または負極層30が膨張することで、重なり部40の膨張を引き起こす。それによって、膨張した重なり部の主面40’と基板90とが接触して、固体電池500および/または基板90が破壊される虞がある。このように固体電池は、表面実装品用途では、好適に使用できない場合があることを本願発明者は見出した。
【0010】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明の主たる目的は、特に表面実装品用途において、より好適な固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された固体電池の発明に至った。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、
固体電池であって、
正極層、負極層、ならびに正極層および/または負極層の間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成り、
積層方向における正極層と負極層とが互いにオーバーラップする重なり部および正極層と負極層とが互いにオーバーラップしない非重なり部から成り、
積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、凹みが重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、凹みに起因した段差が非重なり部に位置付けられている、固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固体電池では、特に表面実装品用途において、より好適な固体電池となっている。
【0014】
より具体的には、本発明の固体電池では、その少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、かかる凹みが重なり部にオーバーラップするように位置付けられている。本発明の固体電池が表面実装品となる場合、凹みを有する主面が実装面側の面となり得ることで、重なり部の主面と基板表面との離隔距離をより大きくすることができる。すなわち、充放電時に電極層が膨張した場合であっても、重なり部の主面と基板との接触を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、従来の固体電池積層体を模式的に示した断面図である。
【
図2】
図2は、基板に表面実装された
図1に示す固体電池積層体を用いた固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、本発明の一実施形態に係る固体電池(固体電解質材によって段差が設けられている固体電池)を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、本発明の一実施形態に係る固体電池(外部端子の厚みによって段差が設けられている固体電池)を模式的に示した断面図である。
【
図5】
図5は、基板に表面実装された
図3Aの実施形態に係る固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図6】
図6は、基板に表面実装された
図4Aの実施形態に係る固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図7】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の一実施形態に係る固体電池(主面のいずれかのエッジにまで凹みが設けられている固体電池)の模式図である(
図7A:平面図、
図7B:斜視図)。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、本発明の一実施形態に係る固体電池(主面のエッジよりも内側に凹みが設けられている固体電池)の模式図である(
図8A:平面図、
図8B:斜視図)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0017】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。又、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0018】
本発明でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に好ましくは全ての構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指す。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様では「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」なども包含し得る。
【0019】
[固体電池の基本的構成]
固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成る。
【0020】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質層などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ電池構成単位が一体焼結体を成している。
【0021】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質および/または正極集電層を含んで成っていてよい。ある好適な態様では、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子と正極集電層とを少なくとも含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質および/または負極集電層を含んで成っていてよい。ある好適な態様では、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子と負極集電層とを少なくとも含む焼結体から構成されている。
【0022】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電解質を介してリチウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0023】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3Fe2(PO4)3、LiMnPO4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
【0024】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、およびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3Fe2(PO4)3等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li4Ti5O12等が挙げられる。
【0025】
なお、正極層および/または負極層は、電子伝導性材料を含んでいてもよい。正極層および/または負極層に含まれる電子伝導性材料としては、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。特に限定されるわけではないが、銅は、正極活物質、負極活物質および固体電解質材などと反応し難く、固体電池の内部抵抗の低減に効果を奏するのでその点で好ましい。
【0026】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
正極層および負極層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、2μm以上50μm以下、特に5μm以上30μm以下であってもよい。
【0028】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲においても存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0029】
固体電解質層は、焼結助剤を含んでいてもよい。固体電解質層に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてもよい。
【0030】
固体電解質層の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上15μm以下、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0031】
(正極集電層/負極集電層)
正極層を構成する正極集電層および負極層を構成する負極集電層としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケルから成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。特に、銅は正極活物質、負極活物質および固体電解質材と反応し難く、固体電池の内部抵抗の低減に効果があるため好ましい。正極集電層および負極集電層はそれぞれ、外部と電気的に接続するための電気的接続部を有し、端子と電気的に接続可能に構成されていてもよい。正極集電層および負極集電層はそれぞれ箔の形態を有していてもよいが、一体焼結による電子伝導性向上および製造コスト低減の観点から、一体焼結の形態を有することが好ましい。なお、正極集電層および負極集電層が焼結体の形態を有する場合、例えば、電子伝導性材料および焼結助剤を含む焼結体より構成されてもよい。正極集電層および負極集電層に含まれる電子伝導性材料は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る電子伝導性材料と同様の材料から選択されてもよい。正極集電層および負極集電層に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてもよい。
【0032】
正極集電層および負極集電層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、1μm以上5μm以下、特に1μm以上3μm以下であってもよい。
【0033】
(絶縁層)
絶縁層は、例えば積層方向に沿って相互に隣接する一方の電池構成単位と他方の電池構成単位との間に形成される。それによって、かかる隣接する電池構成単位間のイオンの移動を回避し、過度のイオンの吸蔵放出を防止することができる。絶縁層は、固体電池の平面視において、正極層および/もしくは負極層と隣接するように形成されてもよい。絶縁層は、広義には電気を通さない材質、すなわち非導電性材から構成される層を指し、狭義には絶縁性物質材料から構成されるものを指す。特に限定されるものではないが、当該絶縁層は、例えば、ガラス材、セラミック材等から構成され得る。当該絶縁層として、例えばガラス材が選択されてよい。特に限定されるものではないが、ガラス材は、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜塩系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラス、および、リン酸亜塩系ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0034】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、熱硬化性樹脂および/または光硬化性樹脂等を用いることが好ましい。
【0035】
(外部端子)
固体電池には、一般に外部端子が設けられている。特に、固体電池の側面に正負極の外部端子が対を成すように設けられている。より具体的には、正極層と接続された正極側の外部端子と、負極層と接続された負極側の外部端子とが対を成すように設けられている。そのような外部端子は、導電率が大きい材料を用いることが好ましい。外部端子の材質としては、特に制限するわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0036】
[本発明の固体電池の特徴]
本発明の固体電池は、正極層と負極層とが互いにオーバーラップする重なり部および正極層と負極層とが互いにオーバーラップしない非重なり部から成る固体電池であるところ、積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面の形状に特徴を有する。
【0037】
より具体的には、本発明の固体電池では、積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、かかる凹みが重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、かかる凹みに起因した段差が非重なり部に位置付けられている。本発明の固体電池が表面実装品となる場合、凹みを有する主面(特に、対向する2つの主面のうちの一方の主面)が実装面側の面(すなわち、基板と直接的に対向する面)となり得ることで、重なり部の主面と基板表面との離隔距離をより大きくすることができる。それによって、充放電時に電極層が膨張した場合でも、重なり部の主面と基板との接触を防止することが可能となる。
【0038】
本発明でいう「重なり部」とは、電極の積層方向において正極層および負極層の双方が存在する部分を指している。なお、「重なり部」において積層方向に正極層および負極層の双方が存在してさえすれば、正極層および負極層以外の要素、例えば固体電解質層(材)、外部端子、保護層等の部分を含んでいてもよい。また、「非重なり部」とは、積層方向において正極層および負極層のいずれかが存在するか、または正極層および負極層のいずれも存在しない部分を指している。なお、「非重なり部」において積層方向に正極層および負極層のいずれかが存在するか、または正極層および負極層のいずれも存在しなければ、例えば固体電解質層(材)、外部端子、保護層等の部分を含んでいてもよい。
【0039】
本発明でいう「主面」とは、固体電池における電極の積層方向に法線を有する面を指す。また「少なくとも1つの主面」とは、対向する2つの主面の双方またはいずれかを指す。なお、本発明の固体電池が表面実装品となる場合、「少なくとも1つの主面」のうちの1つが実装面側の面となり得る。「凹み」とは、主面における一部分が周囲に位置付けられた段差によって窪んでいる形状を指す。換言すれば、固体電池において厚みの異なる部分が存在し、「段差」部分の厚みが、「凹み」部分の厚みよりも厚くなっていることを指す。ここで主面における「段差」とは、それを成す面が積層方向に沿って突出しているような形態を有する部分を指している。なお、「段差」は、テーパー状に斜面を成すように(すなわち、積層方向に対して角度を成すように)突出しているような形態を有する部分であってもよい。
【0040】
本発明でいう「固体電池積層体」は、正極層、負極層、ならびに正極層および/または負極層の間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える。
図3Aに示す例示態様でいえば、固体電池積層体500’は、断面視において正極層10、固体電解質層20、負極層30がこの順に設けられる電池構成単位を複数備えている。ここで、固体電池積層体500’は、断面視において正極層10および/または負極層30が固体電解質層20を介して連続して積層される部分、すなわち電池構成単位から成る部分を備えている。
【0041】
「正極層および/または負極層の間に介在する固体電解質層」について、「正極層および負極層の間に介在する固体電解質層」とは、正極層と負極層との間に位置付けられた固体電解質層を指す。
図3Aに示す例示態様でいえば、重なり部40における正極層10と負極層30との間の固体電解質層20を指す。一方で、「正極層または負極層の間に介在する固体電解質層」とは、正極層同士の間に位置付けられた固体電解質層、または負極層同士の間に位置付けられた固体電解質層を指す。
図3Aに示す例示態様でいえば、非重なり部50Aにおける互いに隣り合う2つの正極層10の間の固体電解質層20Aを指すか、あるいは非重なり部50Bにおける互いに隣り合う2つの負極層30の間の固体電解質層20Bを指す。
【0042】
固体電池積層体は、電池構成単位、または電池構成単位から成る部分の外側に存在する固体電解質材を含んで成る。ここで「外側に存在する固体電解質材」とは、
図3Aに示す例示態様でいえば、固体電池積層体500’の断面視において、電池構成単位から成る部分(すなわち、正極層10および負極層30が固体電解質層20を介して連続して積層される部分)の外側に設けられる固体電解質材20’を指す。また、
図7Aに示す例示態様でいえば、固体電池積層体500’の平面視において、電池構成単位が存在する部分(すなわち、正極層部10A、負極層部30Bおよび重なり部40の部分)の外側に設けられる固体電解質材20’を指す。
【0043】
ある好適な態様では、非重なり部における段差は、固体電池積層体の積層方向における最外部に存在するように固体電解質材を設け、かかる固体電解質材によって形成されている。ここで「積層方向における最外部」とは、固体電池積層体を断面視で捉えた場合に、積層方向において最も外側に位置する部分を指す。
【0044】
図3Aに示す例示態様でいえば、固体電池積層体500’の断面視において、正極層10、固体電解質層20、負極層30がこの順に設けられている。正極層10および負極層30は、正極側端面500’Aおよび負極側端面500’Bにてそれぞれ終端するように延在している。また、正極層10および負極層30は、正極側端面500’Aおよび負極側端面500’Bにおいてそれぞれ露出している。このような固体電池500は、正極層10および負極層30がオーバーラップする重なり部40、ならびに正極層10および負極層30がオーバーラップしない正極側非重なり部50Aおよび負極側非重なり部50Bから成っている。また、固体電池積層体500’には、その積層方向における最外部に存在するように固体電解質材20’が設けられている。ここで固体電池500の主面550に凹みが設けられるように、非重なり部50Aおよび50Bにおける固体電解質材20’によって段差100が形成されている。
【0045】
段差100は、重なり部40と非重なり部50Aおよび/または50Bとの境界に形成されてもよく(
図3A参照)、
図3Bまたは
図3Cに示すように、非重なり部50Aおよび50Bにおけるいずれの箇所に形成されてもよい。なお、このような段差を固体電解質材の形態と共に形成することで、段差設置をより簡易に成すことができる。
【0046】
ある好適な態様では、非重なり部における段差は、固体電池積層体の少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在する外部端子の厚みによって形成されている。
図4Aに示す例示態様でいえば、固体電池積層体の対向する側面、すなわち正極側非重なり部50Aおよび負極側非重なり部50Bの端部において、正極層10と電気的に接続された正極端子60Aと、負極層30と電気的に接続された負極端子60Bとが、それぞれ主面にまで及ぶように延在している。図示する形態から分かるように、固体電池500の主面に凹みが設けられるように、正極端子60Aおよび負極端子60Bの厚みによって段差100が形成されている。
【0047】
別の好適な態様では、
図4Bに示すように、主面にまで及ぶ外部端子の厚みによって形成される段差100’(第1サブ段差)と、固体電解質材20’によって形成される段差100’’(第2サブ段差)とによって段差100が形成されている。そのように2つの要素から段差を形成することで、所望のより大きな段差の寸法(すなわち、
図4B中の「D」)をより簡易に達成することができる。本明細書でいう「段差の寸法」は、固体電池が表面実装された場合を想定すると、固体電池における重なり部の主面と基板との離隔距離に相当する。
【0048】
上述したように、固体電池積層体の積層方向における最外部に設けられた固体電解質材20’が、段差100を形成していてもよく(
図3A~
図3C参照)、固体電池の少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在している外部端子(60Aおよび/または60B)の厚みが、段差100を形成していてもよい(
図4A参照)。また、固体電池積層体の積層方向における最外部に設けられた固体電解質材20’と、少なくとも1つの主面にまで及ぶように延在している外部端子(60Aおよび/または60B)の厚みとが、組み合わされて段差100を形成していてもよい(
図4B参照)。さらにいえば、固体電池積層体に設けられた、非重なり部における保護層の厚みが、段差の形成に寄与するものであってもよい。
【0049】
ある好適な態様では、積層方向において、凹みが設けられている一方の主面における段差の寸法(すなわち、
図3および
図4における「D」)が重なり部の寸法(すなわち、
図3および
図4における重なり部40の断面視寸法)の1%以上10%以下である。かかる段差の寸法を重なり部の寸法の1%以上とすることで、充放電時に膨張する重なり部40が基板と接触することをより効果的に防止でき、10%以下とすることで、固体電池が実装された基板が過度に嵩高くなることを防止できる。好ましくは、かかる段差の寸法は、重なり部の寸法の2%以上5%以下であってもよい。なお、このような段差の寸法を固体電解質材の形態と共に形成することで、より容易に所望の段差寸法を達成することができる。
【0050】
本明細書でいう積層方向における寸法は、断面視でみた形状に基づいて測定したもの寸法を指している。特に、上述した「段差の寸法」および「重なり部の寸法」は、3D形状測定器(キーエンス社VK-X1000)を用いて非破壊で計測するものであってもよい。
【0051】
表面実装の観点から、正極側非重なり部および負極側非重なり部の双方に段差が位置付けられていてもよく、積層方向における正極側非重なり部および負極側非重なり部の段差の寸法が同じであってもよい。また、双方の面のいずれでも実装可能なように、固体電池の対向する主面の双方において、正極側非重なり部および負極側非重なり部に段差が位置付けられていてもよい。
図3Aに示す例示態様でいえば、固体電池500の対向する主面550の双方において、非重なり部50Aおよび50Bに段差が位置付けられている。
【0052】
上述したような構成とした固体電池を表面実装した場合(
図5および
図6参照)、重なり部40の主面と基板90との離隔距離をより大きくすることができ、膨張した重なり部の主面40’と基板90とが接触することを防止できる。なお、
図5および
図6に示す態様から分かるように、本発明の固体電池は、SMD(SMD:Surface Mount Device)タイプの電池であるといえる。
【0053】
本発明の固体電池は、プリント配線板などの基板上に好適に実装することができる。例えば、半田リフローなどを通じて、固体電池を表面実装できる。基板には、固体電池を過充放電または過電流等から保護する保護回路等が設けられていてもよい。また、基板には、固体電池を電気的に接続する基板端子が設けられていてもよい。
【0054】
ある好適な態様では、固体電池積層体の少なくとも1つの主面のいずれかのエッジにまで及ぶように、凹みが位置付けられている。
図7Aおよび
図7Bに例示するように、固体電池積層体500’の平面視において、正極層部10A、負極層部30Bおよび重なり部40から成る部分(つまり、電池構成単位が存在する部分)、ならびにかかる部分の外側に固体電解質材20’が設けられている。「正極層部10A」とは、固体電池積層体500’の平面視において、電極層のうち、正極層のみが存在している部分を指し、「負極層部30B」とは、負極層のみが存在している部分を指す。イオン伝導の観点から、負極層部30Bの幅寸法W
30Bは、正極層部10Aの幅寸法W
10Aよりも大きく形成されている。ここで、正極側非重なり部50Aと重なり部40との境界に段差100Aが位置付けられ、また負極側非重なり部50Bと重なり部40との境界に段差100Bが位置付けられている。これにより、電極層が外側に向かって終端していない対向する端面(エッジ)にまで及ぶように、主面の凹みが位置付けられている。
【0055】
上述のような構成とすることで、固体電池が表面実装された場合、実装面側における固体電池の主面と基板との間に外部へ開放された空間が設けられることにより、かかる空間を周辺雰囲気の流路とすることができる。特定の理論に拘束されるわけではないが、それによって、実装面側における固体電池の主面と基板との間におけるガスフロー性が向上し、固体電池の過熱を防止することができる。また、表面実装時の半田リフローにおいて、溶融して膨張した半田の広がる空間がより確保できるため、半田フラッシュを防止することができる。
【0056】
別のある好適な態様として、固体電池積層体の少なくとも1つの主面のエッジにまでは及ばないように、エッジよりも内側に凹みが位置付けられている。
図8Aおよび
図8Bに例示するように、固体電池500の平面視において、正極層部10Aおよび負極層部30Bにおける各々の電極層が外側に向かって終端していない端面(すなわち、
図8Aにおける500’Cおよび500’Dの端面上)と重なり部40との間に固体電解質材20’(中央側非重なり部50C)が設けられている。この場合、固体電池500における正極側非重なり部50Aと重なり部40との境界に段差100Aが位置付けられ、また負極側非重なり部50Bと重なり部40との境界に段差100Bが位置付けられている。さらに、中央側非重なり部50Cと重なり部40との境界に段差100Cが位置付けられている。これにより、凹みが主面のエッジ110にまで及ばないように、エッジ110よりも内側に凹みが位置付けられている。
【0057】
このような構成とすることで、固体電池の主面と基板表面との間のより小さなギャップ(すなわち、重なり部40以外の主面全域と基板との間の間隙)を、かかる主面の周縁全体にもたらすことができる。それによって、固体電池を表面実装した後で固体電池全体を樹脂でモールドする際に、固体電池の重なり部の主面と基板との間の空間に樹脂が入り込み難くすることができる。すなわち、流入した樹脂によって、固体電池の重なり部の主面と基板表面との間に設けられたクリアランスが減じられるような不都合な現象を防止することができる。
【0058】
[固体電池の製造方法]
本発明の固体電池は、上述したように、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。一態様では、グリーンシート法により所定の積層体を形成し、形成段階の積層体の側部領域にスクリーン印刷により固体電解質層シートなどを供することにより、最終的に本発明の一実施形態に係る固体電池を製造することができる。なお、以下では、当該態様を前提として説明するが、これに限定されることなく、スクリーン印刷法等により所定の積層体を形成してもよい。
【0059】
(未焼成積層体の形成工程)
まず、各基材(例えばPETフィルム)上に固体電解質層用ペースト、正極活物質層用ペースト、正極集電層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電層用ペースト、絶縁層用ペースト、および保護層用ペーストを塗工する。
【0060】
各ペーストは、正極活物質、負極活物質、導電性材料、固体電解質材料、絶縁性物質材料、および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極活物質層用ペーストは、例えば、正極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。負極活物質層用ペーストは、例えば、負極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。正極集電層用ペースト/負極集電層用ペーストとしては、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、およびニッケルから成る群から少なくとも一種選択されてよい。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。絶縁層用ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。
【0061】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0062】
固体電解質層用ペーストに含まれる固体電解質材料としては、上述のようにナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、および/またはガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物からなる粉末を選択してよい。
【0063】
正極活物質層用ペーストに含まれる正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種を選択する。
【0064】
絶縁層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミック材等から構成され得る。保護層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミックス材、熱硬化性樹脂材、光硬化性樹脂材等から成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0065】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0066】
負極活物質層用ペーストに含まれる負極活物質材としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、および、Moからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種から選択される負極活物質材、上記の固体電解質層用ペーストに含まれる材料、および導電材等から構成してよい。
【0067】
焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマス、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。
【0068】
塗工したペーストを、30℃以上50℃以下に加熱したホットプレート上で乾燥させることで、基材(例えばPETフィルム)上に所定の形状、厚みを有する固体電解質層シート、正極/負極シート、および絶縁層シートをそれぞれ形成する。
【0069】
次に、各シートを基材から剥離する。剥離後、積層方向に沿って、一方の電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層し、次いで絶縁層シートを積層する。その後、積層方向に沿って、当該絶縁層シート上に他方の電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層する。積層後、後刻のプレス前に電極シートの側部領域にスクリーン印刷により固体電解質層シート又は絶縁層シートを供してよい。
【0070】
(プレス工程)
次いで、所定圧力(例えば、50MPa以上100MPa以下)による熱圧着と、これに続く所定圧力(例えば、150MPa以上300MPa以下)での等方圧プレスを実施することが好ましい。上記により、所定の積層体を形成することができる。
【0071】
(焼成工程)
得られた所定の積層体を焼成に付す。当該焼成は、窒素ガス雰囲気中または大気中で例えば600℃以上1000℃以下で加熱することで実施する。
【0072】
(固体電解質層による本発明における特徴部分の作製について)
本発明における、積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面に凹みが設けられ、凹みが少なくとも重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、凹みに起因した段差が非重なり部に位置付けられている固体電池を製造するための方法について、以下例示的に説明する。
【0073】
第1の例示的な製造方法は、塗工により凹型形状または中空の固体電解質グリーンシートと電極層等を含む他のグリーンシートとを積層する工程、積層工程で得られた未焼成積層体を金型でプレスする工程、およびプレス後の未焼成積層体を焼成する工程を含む。上述した積層工程において、凹型形状または中空の固体電解質グリーンシートの平面視における凹状部分または中空部分に相当する範囲を、他のグリーンシートの平面視における正極層および負極層の重なり部に相当する範囲にオーバーラップするように位置付けて積層する。凹型形状または中空の固体電解質グリーンシートは、未焼成積層体におけるいずれの位置に積層されていてもよいが、加工性や積層構造の均一性の観点から、未焼成積層体における最表層に積層されることが好ましい。このような製造方法を用いることで、本発明における所望の固体電池を得ることができる。
【0074】
図9Aに示す例示態様を用いて説明する。図示するように、平板状のグリーンシート120Aと凹型形状のグリーンシート120Bとを、凹型形状のグリーンシート120Bが最外表面に位置するように積層する。このとき、凹型形状のグリーンシート120Bにおける凹状部分125を、平板状のグリーンシート120Aにおける正極層および負極層の重なり部に相当する範囲にオーバーラップするように位置付けて積層する。得られた未焼結積層体を金型でプレスし、次いで焼成することで本発明における所望の固体電池を得ることができる。
【0075】
第2の例示的な製造方法として、上記第1の製造方法における凹型形状または中空の固体電解質グリーンシートに代えて、凹型または中空に相当する部分が焼成時に消失するような樹脂原料ペーストまたは樹脂フィラーを用いて形成したグリーンシートを用いる方法が挙げられる。その他の工程については、上記第1の製造方法と同様である。
【0076】
図9Bに示す例示態様を用いて説明する。図示するように、平板状のグリーンシート120Aと焼成時に消失する原料を用いたグリーンシート120Cとを、焼成時に消失する原料を用いたグリーンシート120Cが最外表面に位置するように積層する。このとき、焼成時に消失する原料を用いたグリーンシート120Cにおける焼成時に消失する原料部分130を、平板状のグリーンシート120Aにおける正極層および負極層の重なり部に相当する範囲にオーバーラップするように位置付けて積層する。得られた未焼結積層体を金型でプレスし、次いでオーブン140にて焼成時に消失する原料部分130を気化させつつ焼成することで本発明における所望の固体電池を得ることができる。
【0077】
第3の例示的な製造方法は、電極層および固体電解質層等を全て平板状のグリーンシートとして積層する工程、積層工程で得られた未焼成積層体を凸型形状の金型でプレスする工程、およびプレス後の未焼成積層体を焼成する工程を含む。上述したプレス工程において、グリーンシートの平面視における正極層および負極層の重なり部に相当する範囲をオーバーラップするように、凸型形状の金型における凸状部分の範囲を位置付けてプレスする。このような製造方法を用いることで、本発明における所望の固体電池を得ることができる。
【0078】
図9Cに示す例示態様を用いて説明する。図示するように、平板状のグリーンシート120Aを積層させ、得られた未焼結積層体を凸型形状の金型150でプレスする。このとき、平板状のグリーンシート120Aにおける正極層および負極層の重なり部に相当する範囲をオーバーラップするように、凸型形状の金型における凸状部分155を位置付けてプレスする。次いで、プレス後の未焼成積層体を焼成することで本発明における所望の固体電池を得ることができる。
【0079】
次いで、得られた固体電池に外部端子をつける。端子は正極層と負極層にそれぞれ電気的に接続可能に設ける。例えば、スパッタ等により外部端子を形成することが好ましい。特に限定されるものではないが、外部端子としては、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズ、およびニッケルから選択される少なくとも一種から構成されることが好ましい。本発明における積層方向に法線を有する主面に凹みを設けるために、固体電池の主面にまで及ぶように外部端子を設けることができる。また、所望の積層方向における段差の寸法が得られるように、かかる外部端子の厚みを調整することができる。
【0080】
更に、スパッタ、スプレーコート等により端子が覆われない程度で保護層を設けることが好ましい。本発明における積層方向に法線を有する凹みを設けるために、少なくとも固体電池の主面にまで及ぶように保護層を設け、かかる保護層の部分をその他の部分よりも厚く形成することができる。
【0081】
(基板への表面実装)
固体電池は、外部端子を設けることで、基板に表面実装して接続することができる。固体電池の基板への実装は、固体電池において凹みを有する主面が実装面側の面となるように、基板の基板端子の上に接合材を塗布した位置に、正極端子および負極端子の位置を合わせて配置する。接合材は、電気配線用の半田を使用してもよい。その後、半田リフローによって、接合材により正極端子および負極端子と基板が接合され、電池実装基板が得られる。具体的には、
図5に示すように、固体電池500を、基板90の基板端子80の上に接合材70を塗布した位置に、正極端子60Aおよび負極端子60Bの位置を合わせて配置し、半田リフローによって、接合材70により
正極端子60Aおよび負極端子60Bと基板90とを接合する。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0083】
例えば、上述した説明においては
図3等で示される固体電池を中心にして説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。本発明では正極層、負極層、固体電解質層を有し、積層方向に法線を有する少なくとも1つの主面において凹みが設けられ、かかる凹みが重なり部にオーバーラップするように位置付けられていると共に、凹みに起因した段差が非重なり部に位置付けられているものであれば、どのようなものであっても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 正極層
10A 正極層部
20 固体電解質層
20A 互いに対向する2つの正極層10の間の固体電解質層
20B 互いに対向する2つの負極層30の間の固体電解質層
20’ 固体電解質材
30 負極層
30B 負極層部
40 重なり部
40’ 膨張した重なり部の主面
50 非重なり部
50A 正極側非重なり部
50B 負極側非重なり部
50C 中央側非重なり部
60 外部端子
60A 正極端子
60B 負極端子
70 接合材
80 基板端子
90 基板
100 段差
100’ 第1サブ段差
100’’ 第2サブ段差
100A 正極側非重なり部と重なり部との段差
100B 負極側非重なり部と重なり部との段差
100C 中央側非重なり部と重なり部との段差
110 エッジ
120 グリーンシート
120A 平板状のグリーンシート
120B 凹型形状のグリーンシート
120C 焼成時に消失する原料を用いたグリーンシート
125 凹型形状のグリーンシートにおける凹状部分
130 焼成時に消失する原料ペースト
140 オーブン
150 凸型形状の金型
155 凸型形状の金型における凸状部分
500’ 固体電池積層体
500’A 正極側端面
500’B 負極側端面
500’C~D 電極層が終端していない端面
500 固体電池
550 固体電池の対向する主面