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  • 特許-積層体、電子部品及び積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】積層体、電子部品及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20221122BHJP
   H05K 1/16 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 H
H05K1/16 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020561386
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019049015
(87)【国際公開番号】W WO2020129858
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018238709
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】坂本 禎章
(72)【発明者】
【氏名】千秋 裕
(72)【発明者】
【氏名】杉本 安隆
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-167810(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185921(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/126486(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/129945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツとを含むガラスセラミック層が複数層積層された積層体であって、
前記積層体全体における前記B の含有量は、10重量%以上、26重量%以下であり、
前記積層体がBaを含まず、
前記積層体の表層部のB濃度が前記積層体の内層部のB濃度より低いことを特徴とする積層体。
【請求項2】
B濃度が前記内層部から前記表層部に向かうに従って連続的に減少する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
B濃度が前記内層部から前記表層部に向かうに従って非連続的に減少する請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記表層部の表面からの深さが3μm以上、25μm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
Ag又はCuを含む内部電極を備える請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体を用いた多層セラミック基板と、
前記多層セラミック基板に搭載されたチップ部品とを備えることを特徴とする電子部品。
【請求項7】
SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツとを含むガラスセラミックグリーンシートを複数層積層して積層グリーンシートを形成する積層工程と、
積層グリーンシートを焼成してガラスセラミック層とする焼成工程とを含む積層体の製造方法であって、
前記積層体全体における前記B の含有量は、10重量%以上、26重量%以下であり、
前記積層体がBaを含まず、
前記焼成工程において水蒸気を含む環境で焼成を行うことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、電子部品及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品として、ガラスセラミック層を複数層積層した積層体を使用することが知られている。
特許文献1には、1000℃以下の温度で焼成でき、しかも高周波回路部品として使用可能な低比誘電率、低誘電損失を有する誘電体材料が開示されている。当該誘電体材料は質量百分率で、酸化物に換算してSiOを70~85%、Bを10~25%、KOを0.5~5%、Alを0.01~1%含んでなるホウ珪酸ガラス50~90%とα-石英、α-クリストバライト、β-トリジマイトの群から選ばれる1種以上のSiOフィラー10~50%からなることを特徴とする。
【0003】
特許文献2には、強度が高く、かつ、誘電率が低い積層体が開示されている。当該積層体は、表層部と内層部とからなる積層構造を有する積層体であって、上記表層部及び上記内層部は、いずれも、ガラス及びクォーツを含み、上記表層部及び上記内層部に含まれるガラスは、いずれも、SiO、B及びMO(Mはアルカリ金属)を含有し、上記表層部におけるクォーツの含有量は、上記内層部におけるクォーツの含有量よりも少ないことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-187768号公報
【文献】国際公開第2017/122381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の誘電体材料を使用すると、電子部品を構成する絶縁部の誘電率を低くすることが可能である。しかし、当該材料はSiOフィラーを多く含む組成であるために積層体とした際の機械強度が低くなるという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の積層体では、表層部の熱膨張係数を内層部の熱膨張係数より低くすることにより機械強度を向上させることができる。しかし、表層部の熱膨張係数を低くするためにクォーツをガラス又はアモルファスSiOで置換した場合にはQ値が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、誘電率が低く、機械強度が高く、Q値が高く、信頼性の高い電子部品として使用することのできる積層体を提供することを目的とする。
また、このような特性を有する積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層体は、SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツとを含むガラスセラミック層が複数層積層された積層体であって、上記積層体の表層部のB濃度が上記積層体の内層部のB濃度より低いことを特徴とする。
【0009】
本発明の電子部品は、本発明の積層体を用いた多層セラミック基板と、上記多層セラミック基板に搭載されたチップ部品とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の積層体の製造方法は、SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツとを含むガラスセラミックグリーンシートを複数層積層して積層グリーンシートを形成する積層工程と、積層グリーンシートを焼成してガラスセラミック層とする焼成工程とを含む積層体の製造方法であって、上記焼成工程において水蒸気を含む環境で焼成を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電率が低く、機械強度が高く、Q値が高く、信頼性の高い電子部品として使用することのできる積層体を提供することができる。
また、上記の特性を有する積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、積層体の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の積層体、電子部品及び積層体の製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0014】
まず、本発明の積層体について説明する。
図1は、積層体の一例を模式的に示す断面図である。
積層体1は、ガラスセラミック層20が複数層積層された積層体である。
積層体1は、内部電極を備えている。内部電極は導体膜9、10及び11並びにビアホール導体12から構成されている。配線導体は、例えばコンデンサ又はインダクタのような受動素子を構成したり、あるいは素子間の電気的接続のような接続配線とするためのものである。
内部電極の材料はAg又はCuを含むことが好ましい。
内部電極がAg又はCuであると、ガラスセラミックの焼結温度における焼成が可能であるため好ましい。
【0015】
導体膜9は、積層体1の内部に形成される。導体膜10及び11は、それぞれ、積層体1の一方主面上及び他方主面上に形成される。ビアホール導体12は、導体膜9、10及び11のいずれかと電気的に接続され、かつガラスセラミック層20のいずれかを厚み方向に貫通するように設けられる。
【0016】
積層体1の一方主面上には、導体膜10に電気的に接続された状態で、チップ部品(図示しない)を搭載することができる。
また、積層体1の他方主面上に形成された導体膜11は、チップ部品を搭載した積層体を図示しないマザーボード上に実装する際の電気的接続手段として用いられる。
【0017】
本発明の積層体におけるガラスセラミック層は、SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツとを含む。
【0018】
ガラス中のSiOの含有量は、72重量%以上が好ましく、88重量%以下が好ましい。
【0019】
ガラス中のAlの含有量は、0.1重量%以上が好ましく、2重量%以下が好ましい。
【0020】
Oの種類としては、アルカリ金属酸化物である限り特に限定されないが、LiO、KO及びNaOであることが好ましく、KOであることがより好ましい。
Oとして、1種類のアルカリ金属酸化物を用いてもよいし、2種類以上のアルカリ金属酸化物を用いてもよい。
ガラス中のMOの含有量は、1重量%以上が好ましく、3重量%以下が好ましい。
Oとして2種類以上のアルカリ金属酸化物を用いる場合、その合計量をMOの含有量とする。
【0021】
積層体全体におけるBの含有量は、10重量%以上が好ましく、26重量%以下が好ましい。
【0022】
ガラスセラミック層に含まれるガラスは、CaO等のアルカリ土類金属酸化物をさらに含有してもよい。また、その他の不純物が含有されていてもよい。
不純物が含まれる場合の好ましい含有量は5重量%未満である。
【0023】
ガラスセラミック層はガラスの他にクォーツを含む。クォーツはフィラーとして添加されている。クォーツの他にフィラーとしてAlフィラー、ZrOフィラーを添加してもよい。
本明細書において、フィラーとは、ガラスに含まれない無機添加剤を意味する。
ガラスセラミック層におけるフィラーの含有量は25重量%以上、39重量%以下であることが好ましい。
【0024】
ガラスセラミック層に含まれるガラスにつき、SiOの割合が大きいものを使用し、さらにクォーツを追加すると、積層体の誘電率を低くすることができる。例えば比誘電率を4.5以下にすることができる。
SiOもクォーツも比誘電率が4.5以下の材料であるためである。
【0025】
本発明の積層体では、積層体の表層部のB濃度(ボロン濃度)が積層体の内層部のB濃度より低い。積層体におけるB濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)により、積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布を測定することにより定めることができる。
【0026】
図2は、積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布の一例を示すグラフである。
図2からは、積層体の表面からの距離が大きくなるに従いB濃度が増加していくことが分かる。積層体の表面からの距離が約8μm以上となるとほぼB濃度は一定値となる。
図2はB濃度が一定値となったときのB濃度を100%として、相対濃度でB濃度を表したものである。
【0027】
図2のようにBの濃度分布を測定した際に、B濃度が一定値となる領域を内層部とし、B濃度が変化する領域を表層部とする。
具体的には、図2のようにBの濃度分布を測定した際に、B濃度が一定値となったときのB濃度を100%として、積層体の表面からB濃度が95%の濃度になるまでの領域を表層部とする。
すなわち、図2で測定対象とした積層体は、表層部のB濃度が内層部のB濃度より低い積層体である。
【0028】
本発明の積層体において表層部が形成される厚さは一定ではないが、積層体の表面からの距離に対してB濃度が変化する場合には表面からの距離が2μmまでの領域ではB濃度が低くなるので、積層体の表面からの距離が2μmの地点でのB濃度を積層体の表層部のB濃度の代表値として使用することができる。
また、積層体の表面からの距離に対してB濃度が変化する場合には積層体の厚さ方向の中心においてはB濃度が高くなるので、積層体の厚さ方向の中心地点でのB濃度を積層体の内層部のB濃度の代表値として使用することができる。
【0029】
なお、積層体の厚さが薄い場合などに、積層体の表面からの距離に対してB濃度が変化するもののB濃度が一定値となる領域を有さない場合であっても、積層体の厚さ方向の中心地点でのB濃度が一番高くなるので、積層体の厚さ方向の中心地点でのB濃度を積層体の内層部のB濃度の代表値として使用すればよい。
積層体の表面からの距離に対してB濃度が変化するもののB濃度が一定値となる領域がない場合には、積層体の厚さ方向の中心地点をその積層体の「内層部」とする。そして積層体の厚さ方向の中心地点でのB濃度を積層体の内層部のB濃度の代表値として使用することができる。
【0030】
上記規定における「表層」「内層」は本発明の積層体を構成するガラスセラミック層の各層の位置とは関係なく、表層部と内層部の境界はガラスセラミック層の境界と一致する必要はない。表層部と内層部の境界が本発明の積層体を構成するガラスセラミック層のうち最も表面に近い位置にある1層のガラスセラミック層の中に存在していてもよい。
【0031】
このようにして、積層体の表層部のB濃度が低くなるようにすると、積層体の表層部のガラスセラミック層の熱膨張係数が低下する。
積層体の表層部のB濃度に着目して表層部のガラスセラミック層の熱膨張係数を低下させることにより機械強度を改善することができる。
この手法により機械強度を改善すると、フィラー(クォーツ)を、クォーツより誘電損失の大きなガラス又はアモルファスSiOに置換する必要がないため、Q値の低下という問題は起こらない。
【0032】
本発明の積層体では、表層部の表面からの深さが3μm以上、25μm以下であることが好ましい。ここでいう表層部の表面は積層体の表面と同じ面を意味する。
表層部の表面からの深さが3μm以上、25μm以下であると、表層部の表面(積層体の表面)と表層部の最も深い部分との間のB濃度の差が適度に大きく、表層部の表面と表層部の最も深い部分との間の熱膨張係数差に依存した圧縮応力が大きくなる。そのため、機械強度がより高くなるために好ましい。
【0033】
本発明の積層体では、B濃度が内層部から表層部に向かうに従って連続的に減少することが好ましい。
後述する積層体の製造方法の一実施形態のように、水蒸気処理によってBを積層グリーンシートの表面から飛散させる場合、積層体の内層部でB濃度が最も高くなり、積層体の表層部でB濃度が最も低くなる。この場合B濃度の変化は連続的である。
B濃度が連続的に減少しているかは、積層体の厚さ方向に沿ってB濃度を多点測定して図2に示すようなグラフを作成して判断する。
図2に示すグラフはB濃度が内層部から表層部に向かうに従って連続的に減少している場合の例を示している。
B濃度の測定点は0.1μmおきに500点以上取るようにすることが好ましい。
【0034】
積層体の表面からの距離に対するB濃度につき、B濃度が内層部から表層部に向かうにしたがって連続的に減少するように設定すると、熱膨張係数差により表面ほど圧縮応力が作用するようになるため、機械強度がより高くなる。
【0035】
本発明の積層体では、B濃度が内層部から表層部に向かうに従って非連続的に減少することも好ましい。
後述する積層体の製造方法の一実施形態のように、積層グリーンシートの組成を変更して、積層体の最表面になるガラスセラミックグリーンシートにおいてB濃度が低いものを使用し、積層体の内層部になるガラスセラミックグリーンシートにおいてB濃度が高いものを使用する場合、積層体の表層部においてB濃度が低くなり、積層体の内層部においてB濃度が高くなる。
この場合、B濃度が内層部から表層部に向かうに従って非連続的に減少することとなる。
B濃度が非連続的に減少しているかは、積層体の厚さ方向に沿ってB濃度を多点測定して、積層体の表面からの距離とB濃度の関係を示すグラフを作成して判断する。
当該グラフにおいて内層部から表層部に向かってB濃度が階段状に減少している場合は、B濃度が内層部から表層部に向かうに従って非連続的に減少していると判断する。
B濃度の測定点は0.1μmおきに500点以上取るようにすることが好ましい。
【0036】
また、表層部及び内層部に含まれるガラスの組成のうちB濃度を除いた組成は同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい
【0037】
本発明の積層体は、下記の特性を有することが好ましい。
まず、積層体の比誘電率(3GHzで測定)については4.5以下であることが好ましい。
また、積層体のQ値(3GHzで測定)は450以上であることが好ましい。
積層体の比誘電率及びQ値は摂動法により測定することができる。Q値は摂動法により3GHzで測定された誘電正接の逆数から求められる。
【0038】
積層体の熱膨張係数については表層部で5ppm/K以上、10ppm/K以下であることが好ましく、内層部で6ppm/K以上、11ppm/K以下であることが好ましい。
熱膨張係数はTMA装置を使用して室温(20℃)~600℃の平均熱膨張係数として求めることができる。
【0039】
積層体の機械強度の指標である抗折強度は200MPa以上であることが好ましい。
抗折強度は、積層体を5×40mm□にカットして3点曲げ試験機で測定することができる。
【0040】
本発明の積層体は、多層セラミック基板として使用することができる。多層セラミック基板にはチップ部品を搭載することができ、チップ部品を搭載することにより多層セラミック基板を備える電子部品とすることができる。
本発明の電子部品は、本発明の積層体を用いた多層セラミック基板と、上記多層セラミック基板に搭載されたチップ部品とを備えることを特徴とする。
【0041】
本発明の積層体は、上述した多層セラミック基板だけでなく、多層セラミック基板に搭載するチップ部品に適用することが可能である。チップ部品としては、LCフィルタ等のLC複合部品の他、コンデンサ、インダクタ等が挙げられる。
また、本発明の積層体は、上述した多層セラミック基板、電子部品又はチップ部品以外に適用してもよい。
【0042】
続いて、本発明の積層体の製造方法について説明する。
(1)積層工程
SiO、B、Al及びMO(Mはアルカリ金属)を含むガラス粉末と、クォーツ粉末とバインダ、可塑剤等を混合してセラミックスラリーを調製し、シート状に成形して乾燥させてガラスセラミックグリーンシートを得る。
ガラスセラミックグリーンシートのうち、内部電極を設けるガラスセラミックグリーンシートには、導電性ペーストを用いてスクリーン印刷法やフォトリソグラフィ法により内部電極のパターンを形成する。
導電性ペーストとしてはAg又はCuを含む導電性ペーストを使用することが好ましい。
これらのガラスセラミックグリーンシートを複数層積層して、静水圧プレス等により圧着することにより積層グリーンシートを形成する。
積層する各ガラスセラミックグリーンシートにおけるガラス組成はすべて同一としてよい。後の焼成工程において水蒸気処理を行うことによりB濃度を変化させることができる。
【0043】
積層グリーンシートの上下に拘束層を載置してもよい。
拘束層は、ガラスセラミックグリーンシートが焼結する温度では実質的に焼結しない無機材料を主成分として含むシートである。
拘束層は、焼成時において実質的に焼結しないので収縮が生じず、積層体に対して主面方向での収縮を抑制するように作用する。その結果、積層体に設けられる内部電極の寸法精度を高めることができる。
【0044】
(2)焼成工程
積層グリーンシートを焼成してガラスセラミック層として積層体を製造する。
焼成温度は、ガラスセラミックグリーンシートが焼結する温度で行う。
例えば850℃以上、1050℃以下、10分以上、120分以下とすることが好ましい。
焼成雰囲気は空気雰囲気又は還元雰囲気とすることができる。
【0045】
焼成工程においては、水蒸気を含む環境中で焼成を行う。
これは、焼成温度で水蒸気を含む環境中に暴露する水蒸気処理であり、水蒸気処理とは意図的に水蒸気を焼成炉に導入する処理である。
水蒸気処理における「水蒸気を含む環境」とは空気に通常含まれる水蒸気よりも多くの水蒸気を意図的に導入した環境であることを意味している。
例えば、焼成炉内の水蒸気の含有量が20重量%以上となるようにすることが好ましい。
また、水蒸気処理の温度及び時間は700℃以上、1000℃以下、5分以上、60分以下とすることが好ましい。
水蒸気処理の温度を高くすること、又は、水蒸気処理の時間を長くすることにより表層部の表面からの深さが深くなる。
【0046】
水蒸気処理を行うことにより、積層グリーンシートの表面からBが飛散して、焼成工程後の積層体の内層部(厚さ方向の中心地点)でB濃度が最も高くなり、積層体の表層部でB濃度が最も低くなる。
この場合、B濃度は積層体の内層部から表層部に向かうに従って連続的に減少する。
【0047】
なお、拘束層を設けた場合はガラスセラミックグリーンシートが焼結し、拘束層が焼結しない温度で焼成を行い、焼成後の積層体からサンドブラスト等の処理により拘束層を除去する。
【0048】
また、本発明の積層体は、以下の方法でも製造することができる。
なお、以下に挙げていない諸条件は上述した本発明の積層体の製造方法における条件と同様にすることができる。
(1´)積層工程
ガラスセラミックグリーンシートとしてB濃度が異なる複数種類のガラスセラミックグリーンシートを準備し、積層体の最表面になるガラスセラミックグリーンシートにおいてB濃度が低いものを使用し、積層体の内層部になるガラスセラミックグリーンシートにおいてB濃度が高いものを使用するようにする。
【0049】
(2´)焼成工程
積層工程で作製した積層グリーンシートを焼成して積層体とする。
この場合は、水蒸気処理を行う必要はなく、ガラスセラミックグリーンシートが焼結する温度で焼成工程を行えばよい。
【0050】
このようにして製造された積層体では、積層体の表層部においてB濃度が低くなり、積層体の内層部においてB濃度が高くなる。
この場合、B濃度が内層部から表層部に向かうに従って非連続的に減少する。
【実施例
【0051】
以下、本発明の積層体をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
[ガラス粉末の作製]
表1に示す仕様でガラスNo.1~8の各ガラス原料粉末を混合し、Ptルツボに入れて空気中1500℃、30分以上溶融した後、急冷させてカレットを得た。ただし、アルカリ金属酸化物の原料としては酸化物の代わりに炭酸塩を使用した。表1にはアルカリ金属酸化物換算した割合を示している。
カレットを粗粉砕し、容器にエタノールと5mmΦのPSZボールと一緒に入れ、ボールミルを行い、粉砕時間を調節して中心粒径1ミクロンのガラス粉末を得た。
ここで、「中心粒径」は、レーザー回折・散乱法によって測定された中心粒径D50を意味する。
表1にはガラスNo.1~8の組成を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[ガラスセラミックグリーンシートの作製]
表2に示す仕様でガラス粉末とクォーツ粉末(中心粒径1ミクロン)をエタノール中に入れ、ボールミルで混合し、さらにエタノールに溶解したポリビニルブチラールのバインダ液と可塑剤としてDOP(ジオクチルフタレート)液を混合しスラリー化した。
スラリーをドクターブレードでPETフィルム上に成形し、40℃で乾燥して厚み50ミクロンのガラスセラミックグリーンシートを得た。
表2にはシートNo.1~9の組成を示す。
シートNo.9はシートNo.8につきフィラーをクォーツ粉末(中心粒径1ミクロン)からアモルファスSiO(中心粒径1ミクロン)に置き換えたものである。
【0055】
【表2】
【0056】
[焼結性と熱膨張係数の評価]
シートNo.1~9の各ガラスセラミックグリーンシートにつき、焼結性を評価する試料として、ガラスセラミックグリーンシートを50mm□にカットして20枚積層し、金型に入れ、プレス機で圧着を行った。この圧着体を15×5mm□にカットして、空気中900℃30分で焼成を行って積層体を作製した。
表面付近のB濃度を減少させるために、空気中900℃30分で焼成する際、900℃でさらに10分間水蒸気を35重量%含む空気中に曝す処理を行った。各積層体に対しSIMS(2次イオン質量分析法)により、積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布を測定した。
図2は、シートNo.2の積層体における積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布を測定した結果である。
【0057】
焼成後、積層体の破断面にインクが浸透して染色されるか確認した。
いずれの積層体においてもインクが浸透して染色されることはなく、焼結性は良好と判断した。
また、シートNo.1、8及び9の積層体に対しTMA装置にて室温(20℃)~600℃の平均の熱膨張係数を測定した。熱膨張係数の測定結果を表2に記載した。
【0058】
表3には、実施例1~8及び比較例1~4について示した。
シートNo.1~8を使用して水蒸気処理を行って作製した積層体が実施例1~8であり、シートNo.9を使用して水蒸気処理を行って作製した積層体が比較例1である。
また、対比のためにシートNo.1又は2を使用して焼成の際に水蒸気処理を行わずに作製した積層体が比較例2及び3である。
【0059】
比較例4では、シートNo.8のガラスセラミックグリーンシートを50mm□にカットして15枚積層し、この積層体の上下に50mm□にカットしたシートNo.9のガラスセラミックグリーンシートを1枚ずつ配置し、圧着を行い、空気中900℃30分で焼成して積層体を作製した。焼成での水蒸気処理は行わなかった。
【0060】
[誘電率とQ値の評価]
誘電率と誘電損失を評価する試料として、ガラスセラミックグリーンシートを50mm□にカットして15枚積層、圧着を行い、空気中900℃30分で焼成を行った。
【0061】
焼成後の試料は、厚みを測定し、摂動法で3GHzの誘電率とQ(誘電損失の逆数)を測定した。評価基準は誘電率:4.5以下、Q:450以上をそれぞれ良好とした。
実施例1~8及び比較例1~4で作製した積層体についての結果を表3に示した。
【0062】
[抗折強度の評価]
抗折強度を評価する試料として、圧着後に5×40mm□にカットし焼成した積層体を20個作製した。この積層体の厚みと幅を測定し、3点曲げ試験機で抗折強度を測定した。
評価基準は抗折強度の平均:200MPa以上を良好とした。
実施例1~8及び比較例1~4で作製した積層体についての結果を表3に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例1~8では焼成時水蒸気処理が行われており、積層体の表層部のB濃度が積層体の内層部のB濃度より低くなっていた。
また、B濃度は積層体の内層部から表層部に向かうに従って連続的に減少していた。
そして、各評価項目での評価結果が良好であった。
比較例1ではフィラーとしてクォーツに代えてアモルファスSiOを使用しているために積層体のQ値が低くなっていた。
比較例2及び3では水蒸気処理をしていないためB濃度は積層体全体にわたって同程度であり、この場合は抗折強度が充分ではなかった。
比較例4ではシートNo.9のガラスセラミックグリーンシートに由来する表層部の熱膨張係数が低くなっているため抗折強度は良好であるが、シートNo.9のガラスセラミックグリーンシートはフィラーとしてアモルファスSiOを使用しているため、積層体のQ値が低くなっていた。
【0065】
[水蒸気処理条件の影響評価]
積層体の表面付近のB濃度を減少させるために、シートNo.2のガラスセラミックグリーンシートを空気中900℃30分で焼成し、850℃でさらに10分間水蒸気を含む空気中に曝す場合(実施例9)と、950℃でさらに30分間水蒸気を含む空気中に曝す場合(実施例10)との2通りを行った。これらの積層体に対しSIMS(2次イオン質量分析法)により、積層体の表面からの距離に対するBの濃度分布を測定し、B濃度が一定値となったときのB濃度を100%として、積層体の表面の相対B濃度と、積層体の表面からB濃度が95%の濃度になるまでの領域の深さ(表層部深さ)を測定した。
また、これらの条件で作製した試料の誘電率とQ値、抗折強度を測定した。
これらの測定結果を表4にまとめて示した。
【0066】
【表4】
【0067】
焼成時の水蒸気処理温度及び時間を上記のように変更しても、各評価項目での評価結果が良好であった。
【0068】
[焼成条件の影響評価]
実施例11では圧着体の両主面に拘束層としてのアルミナシートを配置して焼成を行った。実施例12では焼成雰囲気を還元雰囲気として焼成を行った。
これらの条件で作製した試料の誘電率とQ値、抗折強度を測定した。
水蒸気処理温度と時間は表5に示したとおりである。
【0069】
【表5】
【0070】
焼成時に拘束層を用いた焼成の場合、還元焼成の場合であっても各評価項目での評価結果が良好であった。
拘束層を用いることにより積層体に設けられる内部電極の寸法精度を高めることができる。また、還元焼成を行うことによりCu電極を使用することができる。
【0071】
[複数種類のガラスセラミックグリーンシートを使用した場合の評価]
実施例13では、シートNo.1のガラスセラミックグリーンシートを50mm□にカットして15枚積層し、この積層体の上下に50mm□にカットしたシートNo.8のガラスセラミックグリーンシートを1枚ずつ配置し、圧着を行い、空気中900℃30分で焼成し作製した。焼成での水蒸気処理は行わなかった。
実施例13の試料の誘電率とQ値、抗折強度を測定して、結果を表6に示した。
【0072】
【表6】
【0073】
実施例13ではB濃度が内層部から表層部に向かうに従って非連続的に減少しており、各評価項目での評価結果が良好であった。
【符号の説明】
【0074】
1 積層体
9、10、11 導体膜
12 ビアホール導体
20 ガラスセラミック層
図1
図2