IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層コア、その製造方法及び回転電機 図1
  • 特許-積層コア、その製造方法及び回転電機 図2
  • 特許-積層コア、その製造方法及び回転電機 図3
  • 特許-積層コア、その製造方法及び回転電機 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】積層コア、その製造方法及び回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20221122BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K15/02 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020561445
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049312
(87)【国際公開番号】W WO2020129948
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2018235868
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩康
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-011863(JP,A)
【文献】特開2010-004716(JP,A)
【文献】特開2017-005906(JP,A)
【文献】特開2002-105283(JP,A)
【文献】特開2017-218596(JP,A)
【文献】特許第4143090(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層され、両面が絶縁被膜により被覆された複数の電磁鋼板と、
積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に設けられ、前記電磁鋼板同士をそれぞれ接着する接着部と、を備え、
前記接着部を形成する接着剤が、第一相と第二相とを含み、
前記接着部は、海構造部である前記第一相と、島構造部である前記第二相との海島構造を有し、
前記第一相は、エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含み、
前記第一相は、SP値が8.5~10.7(cal/cm1/2であり、
前記第二相は、エラストマーを含み、
前記第二相は、SP値が7.5~8.4(cal/cm1/2であり、
前記第一相の含有量が、前記接着部の総体積に対して、50体積%以上であり、
前記エポキシ樹脂の含有量が、前記第一相の総体積に対して、50体積%以上である、積層コア。
【請求項9】
請求項1、2および5~8のいずれか一項に記載の積層コアの製造方法であって、
エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含む第一相と、エラストマーを含む第二相とを含む接着剤を電磁鋼板の表面に塗布し、複数の前記電磁鋼板を重ねて前記接着剤を硬化させ、接着部を形成する、積層コアの製造方法。
【請求項10】
請求項1、2および5~8のいずれか一項に記載の積層コアを備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コア、その製造方法及び回転電機に関する。
本願は、2018年12月17日に、日本に出願された特願2018-235868号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に記載されているような積層コアが知られている。この積層コアでは、積層方向に隣り合う電磁鋼板が接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2011-023523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の積層コアには、磁気特性を向上させることについて改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、積層コアの磁気特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の第一の態様は、互いに積層され、両面が絶縁被膜により被覆された複数の電磁鋼板と、積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に設けられ、前記電磁鋼板同士をそれぞれ接着する接着部と、を備え、前記接着部を形成する接着剤が、第一相と第二相とを含み、前記接着部は、海構造部である前記第一相と、島構造部である前記第二相との海島構造を有し、前記第一相は、エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含み、前記第一相は、SP値が8.5~10.7(cal/cm1/2であり、前記第二相は、エラストマーを含み、前記第二相は、SP値が7.5~8.4(cal/cm1/2である積層コアである。
(2)前記(1)に記載の積層コアでは、前記第一相のSP値と、前記第二相のSP値との差が、0.1~3.0(cal/cm1/2であってもよい。
(3)前記(1)又は前記(2)に記載の積層コアでは、前記第一相の含有量が、前記接着部の総体積に対して、50体積%以上であってもよい。
(4)前記(1)から前記(3)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記エポキシ樹脂の含有量が、前記第一相の総体積に対して、50体積%以上であってもよい。
(5)前記(1)から前記(4)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記アクリル樹脂の含有量が、前記第一相の総体積に対して、5~45体積%であってもよい。
(6)前記(1)から前記(5)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記硬化剤の含有量が、前記第一相の総体積に対して、1~40体積%であってもよい。
(7)前記(1)から前記(6)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記硬化剤が、ノボラック型フェノール樹脂であってもよい。
(8)前記(1)から前記(7)のいずれか1つに記載の積層コアは、ステータ用であってもよい。
【0007】
(9)本発明の第二の態様は、エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含む第一相と、エラストマーを含む第二相とを含む接着剤を電磁鋼板の表面に塗布し、複数の前記電磁鋼板を重ねて前記接着剤を硬化させ、接着部を形成する、前記(1)から前記(8)のいずれか1つに記載の積層コアの製造方法である。
【0008】
(10)本発明の第三の態様は、前記(1)から前記(8)のいずれか1つに記載の積層コアを備える回転電機である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る積層コアを備えた回転電機の断面図である。
図2図1に示す積層コアの側面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】積層コアの製造装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る積層コアと、この積層コアを備えた回転電機とについて説明する。なお、本実施形態では、回転電機として電動機、具体的には交流電動機、より具体的には同期電動機、より一層具体的には永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明する。この種の電動機は、例えば、電気自動車等に好適に採用される。
【0012】
図1に示すように、回転電機10は、ステータ20と、ロータ30と、ケース50と、回転軸60と、を備える。ステータ20およびロータ30は、ケース50に収容される。ステータ20は、ケース50に固定される。
本実施形態では、回転電機10として、ロータ30がステータ20の内側に位置するインナーロータ型を採用している。しかしながら、回転電機10として、ロータ30がステータ20の外側に位置するアウターロータ型を採用してもよい。また、本実施形態では、回転電機10が、12極18スロットの三相交流モータである。しかしながら、極数やスロット数、相数等は適宜変更することができる。
回転電機10は、例えば、各相に実効値10A、周波数100Hzの励磁電流を印加することにより、回転数1000rpmで回転することができる。
【0013】
ステータ20は、ステータコア21と、図示しない巻線と、を備える。
ステータコア21は、環状のコアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。以下では、ステータコア21(又はコアバック部22)の中心軸線O方向を軸方向といい、ステータコア21(又はコアバック部22)の径方向(中心軸線Oに直交する方向)を径方向といい、ステータコア21(又はコアバック部22)の周方向(の中心軸線O周りに周回する方向)を周方向という。
【0014】
コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成されている。
複数のティース部23は、コアバック部22から径方向の内側に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)突出する。複数のティース部23は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角20度おきに18個のティース部23が設けられている。複数のティース部23は、互いに同等の形状で、かつ同等の大きさに形成されている。
前記巻線は、ティース部23に巻き回されている。前記巻線は、集中巻きされていてもよく、分布巻きされていてもよい。
【0015】
ロータ30は、ステータ20(ステータコア21)に対して径方向の内側に配置されている。ロータ30は、ロータコア31と、複数の永久磁石32と、を備える。
ロータコア31は、ステータ20と同軸に配置される環状(円環状)に形成されている。ロータコア31内には、前記回転軸60が配置されている。回転軸60は、ロータコア31に固定されている。
複数の永久磁石32は、ロータコア31に固定されている。本実施形態では、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成している。複数組の永久磁石32は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角30度おきに12組(全体では24個)の永久磁石32が設けられている。
【0016】
本実施形態では、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータが採用されている。
ロータコア31には、ロータコア31を軸方向に貫通する複数の貫通孔33が形成されている。複数の貫通孔33は、複数の永久磁石32に対応して設けられている。各永久磁石32は、対応する貫通孔33内に配置された状態でロータコア31に固定されている。各永久磁石32のロータコア31への固定は、例えば永久磁石32の外面と貫通孔33の内面とを接着剤により接着すること等により、実現することができる。なお、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータに代えて表面磁石型モータを採用してもよい。
【0017】
ステータコア21及びロータコア31は、いずれも積層コアである。図2に示すように、ステータ20は、複数の電磁鋼板40が積層されることで形成されている。
なおステータコア21及びロータコア31それぞれの積厚は、例えば、50.0mmとされる。ステータコア21の外径は、例えば、250.0mmとされる。ステータコア21の内径は、例えば、165.0mmとされる。ロータコア31の外径は、例えば、163.0mmとされる。ロータコア31の内径は、例えば、30.0mmとされる。ただし、これらの値は一例であり、ステータコア21の積厚、外径や内径、及びロータコア31の積厚、外径や内径はこれらの値に限られない。ここで、ステータコア21の内径は、ステータコア21におけるティース部23の先端部を基準としている。ステータコア21の内径は、全てのティース部23の先端部に内接する仮想円の直径である。
【0018】
ステータコア21及びロータコア31を形成する各電磁鋼板40は、例えば、母材となる電磁鋼板を打ち抜き加工すること等により形成される。電磁鋼板40としては、公知の電磁鋼板を用いることができる。電磁鋼板40の化学組成は特に限定されない。本実施形態では、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板を採用している。無方向性電磁鋼板としては、例えば、JIS C2552:2014の無方向性電鋼帯を採用することができる。
しかしながら、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板に代えて方向性電磁鋼板を採用することも可能である。方向性電磁鋼板としては、例えば、JIS C2553:2012の方向性電鋼帯を採用することができる。
【0019】
電磁鋼板の加工性や、積層コアの鉄損を改善するため、電磁鋼板40の両面は、絶縁被膜で被覆されている。絶縁被膜を構成する物質としては、例えば、(1)無機化合物、(2)有機樹脂、(3)無機化合物と有機樹脂との混合物、等が適用できる。無機化合物としては、例えば、(1)重クロム酸塩とホウ酸の複合物、(2)リン酸塩とシリカの複合物、等が挙げられる。有機樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
有機樹脂は、後述する接着剤に含まれる有機樹脂と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0020】
互いに積層される電磁鋼板40間での絶縁性能を確保するために、絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は0.1μm以上とすることが好ましい。
一方で、絶縁被膜が厚くなるに連れて絶縁効果が飽和する。また、絶縁被膜が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアとしての性能が低下する。したがって、絶縁被膜は、絶縁性能が確保できる範囲で薄い方がよい。絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は、0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.1μm以上2μm以下がより好ましい。
絶縁被膜の厚さは、例えば、電磁鋼板40を厚さ方向に切断した切断面を顕微鏡等により観察することで測定できる。
【0021】
電磁鋼板40が薄くなるに連れて次第に鉄損の改善効果が飽和する。また、電磁鋼板40が薄くなるに連れて電磁鋼板40の製造コストは増す。そのため、鉄損の改善効果及び製造コストを考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.10mm以上とすることが好ましい。
一方で、電磁鋼板40が厚すぎると、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業が困難になる。そのため、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業を考慮すると電磁鋼板40の厚さは0.65mm以下とすることが好ましい。
また、電磁鋼板40が厚くなると鉄損が増大する。そのため、電磁鋼板40の鉄損特性を考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.35mm以下が好ましく、0.25mm以下がより好ましく、0.20mm以下がさらに好ましい。
上記の点を考慮し、各電磁鋼板40の厚さは、例えば、0.10mm以上0.65mm以下が好ましく、0.10mm以上0.35mm以下がより好ましく、0.10mm以上0.25mm以下がさらに好ましく、0.10mm以上0.20mm以下が特に好ましい。なお電磁鋼板40の厚さには、絶縁被膜の厚さも含まれる。
電磁鋼板40の厚さは、例えば、マイクロメータ等により測定できる。
【0022】
図3に示すように、ステータコア21を形成する複数の電磁鋼板40は、接着部41を介して積層されている。接着部41は、ステータコア21のコアバック部22とティース部23とに形成されている。接着部41は、コアバック部22の内周から径方向内側に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)、41a、41b、41cのように形成されている。複数のティース部23には、それぞれ接着部41b、41cが形成されている。複数のティース部23に対応する位置のコアバック部22には、接着部41aが形成されている。
【0023】
接着部41は、第一相と第二相とを含む接着剤で形成される。
接着部41は、第一相と第二相との海島構造を有する。ここで、「海島構造」とは、一方の成分からなる相(島構造部)が、もう一方の成分からなる相(海構造部)中に分散した相分離構造を意味する。
本実施形態の電磁鋼板40は、接着部41が海島構造を有することで、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい。電磁鋼板40に生じる歪を緩和することで、ヒステリシス損が低減しやすく、その結果、積層コアの磁気特性を向上させることができる。硬い第一相の硬化物と柔らかい第二相との海島構造が、電磁鋼板40に生じる歪を吸収しやすいため、電磁鋼板40に生じる歪を緩和できるものと考えられる。
なお、ヒステリシス損とは、積層コアの磁界の方向が変化することによって生じるエネルギー損失のことをいう。ヒステリシス損は、鉄損の一種である。
本実施形態の接着部41では、第一相が連続相である海構造部を形成し、第二相が分散相である島構造部を形成している。第一相と第二相とのどちらが海構造部を形成するかは、その相の粘度や量によって決定される。本実施形態の接着部41では、第二相に比べて粘度が低く、かつ、量が多い第一相が、連続相である海構造部を形成している。
【0024】
接着部41を形成する接着剤は、第一相と第二相とを含む。
第一相は、エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含む。第一相の硬化物としては、接着部41の接着強度を高めやすい観点から、エポキシ樹脂にアクリル樹脂をグラフト重合させたアクリル変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0025】
接着剤は、例えば、常圧で80℃以上に加熱することにより硬化が促進され、硬化物となる。ここで、「常圧」とは、特別に減圧も加圧もしないときの圧力をいい、通常は約1気圧(0.1MPa)である。
第一相の含有量は、接着剤の総体積に対して、50体積%以上が好ましく、50~95体積%がより好ましく、60~90体積%がさらに好ましく、70~80体積%が特に好ましい。第一相の含有量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。第一相の含有量が上記上限値以下であると、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい。
第一相の含有量は、25℃における接着剤の総体積に対する第一相の体積の割合である。
【0026】
第一相のSP値(溶解度パラメータ)は、8.5~10.7(cal/cm1/2であり、8.7~10.5(cal/cm1/2が好ましく、9.0~10.0(cal/cm1/2がより好ましい。第一相のSP値が上記下限値以上であると、接着部41が第二相との海島構造を形成しやすい。第一相のSP値が上記上限値以下であると、接着剤を電磁鋼板40の表面に塗布しやすい。
本明細書において、「SP値」は、ヒルデブラント(Hildebrand)の溶解度パラメータを意味する。
第一相のSP値は、例えば、下記の方法により測定することができる。無方向性電磁鋼板の表面に第一相を構成する樹脂組成物を塗布し、120℃に加熱して硬化させる。得られた硬化物に対してSP値が既知の種々の溶剤を擦り付け、第一相の硬化物が溶剤に溶解することにより溶剤が変色したとき、その溶剤のSP値を第一相のSP値とする。
【0027】
SP値が既知の種々の溶剤としては、例えば、n-ペンタン(SP値:7.0(cal/cm1/2)、n-ヘキサン(SP値:7.3(cal/cm1/2)、ジエチルエーテル(SP値:7.4(cal/cm1/2)、n-オクタン(SP値:7.6(cal/cm1/2)、塩化ビニル(SP値:7.8(cal/cm1/2)、シクロヘキサン(SP値:8.2(cal/cm1/2)、酢酸イソブチル(SP値:8.3(cal/cm1/2)、酢酸イソプロピル(SP値:8.4(cal/cm1/2)、酢酸ブチル(SP値:8.5(cal/cm1/2)、四塩化炭素(SP値:8.6(cal/cm1/2)、メチルプロピルケトン(SP値:8.7(cal/cm1/2)、キシレン(SP値:8.8(cal/cm1/2)、トルエン(SP値:8.9(cal/cm1/2)、酢酸エチル(SP値:9.1(cal/cm1/2)、ベンゼン(SP値:9.2(cal/cm1/2)、メチルエチルケトン(SP値:9.3(cal/cm1/2)、塩化メチレン(SP値:9.7(cal/cm1/2)、アセトン(SP値:9.9(cal/cm1/2)、二硫化炭素(SP値:10.0(cal/cm1/2)、酢酸(10.1(cal/cm1/2)、n-ヘキサノール(SP値:10.7(cal/cm1/2)等が挙げられる。
【0028】
第一相のSP値は、第一相を構成するエポキシ樹脂の種類と含有量、アクリル樹脂の種類と含有量、硬化剤の種類と含有量等により調整できる。
【0029】
第一相におけるエポキシ樹脂の数平均分子量は、1200~20000が好ましく、2000~18000がより好ましく、2500~16000がさらに好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。エポキシ樹脂の数平均分子量が上記上限値以下であると、接着部41の安定性を高めやすい。
エポキシ樹脂の数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、JIS K7252-1:2008に記載のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size-Exclusion Chromatography)により測定できる。
【0030】
エポキシ樹脂としては、例えば、エピクロロヒドリンとビスフェノールとをアルカリ触媒の存在下で縮合させたもの、エピクロロヒドリンとビスフェノールとをアルカリ触媒の存在下で低分子量のエポキシ樹脂に縮合させ、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られたもの等が挙げられる。ここで、「低分子量のエポキシ樹脂」とは、数平均分子量が1200未満のエポキシ樹脂を意味する。
エポキシ樹脂としては、2価のカルボン酸を組み合わせたエポキシエステル樹脂であってもよい。2価のカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、ヒメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
ビスフェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等が挙げられ、ビスフェノールA、ビスフェノールFが好ましい。
アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
エポキシ樹脂の含有量は、第一相の総体積に対して、50体積%以上が好ましく、50~94体積%がより好ましく、55~90体積%がさらに好ましく、60~80体積%が特に好ましい。エポキシ樹脂の含有量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。エポキシ樹脂の含有量が上記上限値以下であると、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい。
エポキシ樹脂の含有量は、25℃における硬化前の第一相の総体積に対するエポキシ樹脂の体積の割合である。
【0032】
第一相におけるアクリル樹脂の数平均分子量は、5000~100000が好ましく、6000~80000がより好ましく、7000~60000がさらに好ましい。アクリル樹脂の数平均分子量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。
アクリル樹脂の数平均分子量が上記上限値以下であると、接着剤が高粘度になることを抑制しやすく、接着剤を電磁鋼板40の表面に塗布しやすい。
アクリル樹脂の数平均分子量は、エポキシ樹脂の数平均分子量と同様の方法により測定できる。
【0033】
アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸から選ばれる少なくとも1種を重合又は共重合させて得られるアクリル樹脂、上記不飽和カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の単量体と、下記ラジカル重合性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1種とを共重合させたアクリル樹脂等が挙げられる。
ラジカル重合性不飽和単量体としては、(1)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素原子数が1~8個のヒドロキシアルキルエステル、(2)アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸デシル等の、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素原子数が1~24個のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル、(3)アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド等の、官能性アクリルアミド又は官能性メタクリルアミド、(4)スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の、芳香族ビニル単量体、(5)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の、脂肪族ビニル単量体等が挙げられる。
【0034】
上記の不飽和単量体の好ましい組み合わせとしては、例えば、メタクリル酸メチルとアクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸との組み合わせ、スチレンとメタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとメタクリル酸との組み合わせ、スチレンとアクリル酸エチルとメタクリル酸との組み合わせ、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂にアクリル樹脂をグラフト重合させたアクリル変性エポキシ樹脂(以下、「グラフト化物」ともいう。)は、例えば、有機溶剤溶液中、ベンゾイルパーオキサイド等のラジカル発生剤の存在下に、高分子量エポキシ樹脂に上記のラジカル重合性不飽和単量体をグラフト重合反応させることにより得られる。ここで、「高分子量エポキシ樹脂」とは、数平均分子量が1200以上のエポキシ樹脂を意味する。
グラフト重合反応に用いられるラジカル発生剤は、ラジカル重合性不飽和単量体の固形分100質量部に対して、3~15質量部が好ましい。
【0036】
上記グラフト重合反応は、例えば、80~150℃に加熱された高分子量エポキシ樹脂の有機溶剤溶液に、ラジカル発生剤を均一に混合したラジカル重合性不飽和単量体を1~3時間を要して添加し、さらに同温度を1~3時間保持することによって行える。
【0037】
上記グラフト重合反応に用いられる有機溶剤は、高分子量エポキシ樹脂及びラジカル重合性不飽和単量体を溶解し、かつ、水と混合可能な有機溶剤であればよい。
このような有機溶剤としては、例えば、イソプロパノール、ブチルアルコール、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタン、2-エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、セロソルブ系溶剤及びカルビトール系溶剤を挙げることができる。また、水と混和しない不活性有機溶剤も使用可能であり、このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
【0038】
アクリル樹脂の含有量は、第一相の総体積に対して、5~45体積%が好ましく、10~40体積%がより好ましく、15~30体積%がさらに好ましい。アクリル樹脂の含有量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。アクリル樹脂の含有量が上記上限値以下であると、第一相のSP値を安定させやすい。
アクリル樹脂の含有量は、25℃における硬化前の第一相の総体積に対するアクリル樹脂の体積の割合である。
【0039】
第一相における硬化剤は、一般に使用されるエポキシ樹脂硬化剤を使用できる。第一相における硬化剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミドポリアミン、変性ポリアミン等のポリアミン系硬化剤;1官能性酸無水物(無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水クロレンディック酸等)、2官能性酸無水物(無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物等)、遊離酸酸無水物(無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等)等の酸無水物系硬化剤;ノボラック型又はレゾール型フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等のメチロール基含有初期縮合物;潜在性硬化剤等の中から選ばれる少なくとも1種を使用できる。
潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、メラミン、有機酸ジヒドラジド、アミンイミド、ケチミン、第3級アミン、イミダゾール塩、3フッ化ホウ素アミン塩、マイクロカプセル型硬化剤(硬化剤をカゼイン等で形成したマイクロカプセル中に封入し、加熱・加圧によりマイクロカプセルを破り、樹脂と硬化反応するもの)、モレキュラーシーブ型硬化剤(吸着性化合物の表面に硬化剤を吸着させたもので、加熱により吸着分子を放出し、樹脂と硬化反応するもの)等が挙げられる。
【0040】
硬化剤としては、接着部41の接着強度を高めやすい観点から、ノボラック型フェノール樹脂(フェノールノボラック樹脂)が好ましい。ここで、「ノボラック型フェノール樹脂」とは、酸触媒を用いてフェノール類とアルデヒド類とを縮合反応させて得られる樹脂を意味する。
フェノール類としては、フェノールが挙げられる。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドが挙げられる。
酸触媒としては、シュウ酸や2価の金属塩が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂は、常温(25℃)で固体であり、熱可塑性樹脂に分類される。ノボラック型フェノール樹脂では、フェノール樹脂を構成するフェノール核(芳香環)に、-CHOH基がほとんど結合していない。
【0041】
硬化剤の含有量は、第一相の総体積に対して、1~40体積%が好ましく、5~30体積%がより好ましく、10~20体積%がさらに好ましい。硬化剤の含有量が上記下限値以上であると、接着部41の接着強度を高めやすい。硬化剤の含有量が上記上限値以下であると、接着部41の安定性を高めやすい。
硬化剤の含有量は、25℃における硬化前の第一相の総体積に対する硬化剤の体積の割合である。
【0042】
第二相は、エラストマーを含む。エラストマーとしては、天然ゴム、合成ゴムが挙げられ、合成ゴムが好ましい。
合成ゴムとしては、ポリブタジエン系合成ゴム、ニトリル系合成ゴム、クロロプレン系合成ゴム等が挙げられる。
ポリブタジエン系合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR、SP値:7.9~8.4(cal/cm1/2)、ブタジエンゴム(BR、SP値:8.1~8.6(cal/cm1/2)、スチレンブタジエンゴム(SBR、SP値:8.1~8.7(cal/cm1/2)、ポリイソブチレン(ブチルゴム、IIR、SP値:7.7~8.1(cal/cm1/2)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM、SP値:7.9~8.0(cal/cm1/2)等が挙げられる。
ニトリル系合成ゴムとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR、SP値:8.7~10.5(cal/cm1/2)、アクリルゴム(ACM、SP値:9.4(cal/cm1/2)等が挙げられる。
クロロプレン系合成ゴムとしては、クロロプレンゴム(CR、SP値:8.2~9.4(cal/cm1/2)等が挙げられる。
合成ゴムとしては、上記のほか、ウレタンゴム(SP値:10.0(cal/cm1/2)、シリコーンゴム(SP値:7.3~7.6(cal/cm1/2)、フッ素ゴム(FKM、SP値:8.6(cal/cm1/2)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM、SP値:8.1~10.6(cal/cm1/2)、エピクロロヒドリンゴム(ECO、SP値:9.6~9.8(cal/cm1/2)等を用いてもよい。
エラストマーとしては、耐熱性に優れ、かつ、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい観点から、SBR、EPDM、NBRが好ましい。
エラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
第二相は、エラストマー以外の化合物を含有していてもよい。エラストマー以外の化合物としては、例えば、上述したアクリル樹脂等が挙げられる。
エラストマーの含有量は、第二相の総体積に対して、50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましく、100体積%が特に好ましい。エラストマーの含有量が上記下限値以上であると、接着部41が第一相と第二相との海島構造を形成しやすく、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい。
エラストマーの含有量は、25℃における第二相の総体積に対するエラストマーの体積の割合である。
【0044】
第二相の含有量は、接着剤の総体積に対して、5~50体積%が好ましく、10~40体積%がより好ましく、20~30体積%がさらに好ましい。第二相の含有量が上記下限値以上であると、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすい。第二相の含有量が上記上限値以下であると、接着部41の接着強度を高めやすい。
第二相の含有量は、25℃における接着剤の総体積に対する第二相の体積の割合である。第二相の体積は、第二相を25℃の水に浸漬し、増加した水の体積により求められる。
【0045】
第二相のSP値は、7.5~8.4(cal/cm1/2であり、7.7~8.2(cal/cm1/2が好ましく、7.9~8.0(cal/cm1/2がより好ましい。第二相のSP値が上記下限値以上であると、接着剤を電磁鋼板40の表面に塗布しやすい。第二相のSP値が上記上限値以下であると、接着部41が第一相と第二相との海島構造を形成しやすい。
第二相のSP値は、例えば、下記の方法により測定することができる。無方向性電磁鋼板の表面に第二相を構成する樹脂組成物を塗布し、120℃に加熱して硬化させる。得られた硬化物に対してSP値が既知の種々の溶剤を擦り付け、第二相の硬化物が溶剤に溶解することにより溶剤が変色したとき、その溶剤のSP値を第二相のSP値とする。
SP値が既知の種々の溶剤としては、第一相のSP値を測定する際のSP値が既知の種々の溶剤と同様の溶剤が挙げられる。
【0046】
第二相のSP値は、第二相を構成する樹脂組成物中のエラストマーの種類と含有量、第二相に含まれるエラストマー以外の化合物の種類と含有量、及びこれらの組合せにより調整できる。
【0047】
第一相のSP値と第二相のSP値との差は、0.1~3.0(cal/cm1/2が好ましく、1.0~3.0(cal/cm1/2がより好ましく、1.5~2.5(cal/cm1/2がさらに好ましい。第一相のSP値と第二相のSP値との差が上記下限値以上であると、接着部が第一相と第二相との海島構造を形成しやすい。第一相のSP値と第二相のSP値との差が上記上限値以下であると、第二相が均一に分散し、接着剤の安定性を高めやすい。加えて、第一相のSP値と第二相のSP値との差が上記数値範囲内であると、電磁鋼板40に生じる歪を緩和しやすく、積層コアの鉄損を良好にし、積層コアの磁気特性をより向上しやすい。
第一相のSP値と第二相のSP値との差は、第一相のSP値と第二相のSP値とをそれぞれ測定し、得られた第一相のSP値から、得られた第二相のSP値を減じることによって求められる。
【0048】
本実施形態の接着剤は、上述した第一相と第二相のほかに、任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;シリカやアルミナ等の酸化物微粒子;導電性物質;難溶性クロム酸塩等の防錆添加剤;着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料等);着色染料(例えば、アゾ系染料、アゾ系金属錯塩染料等);成膜助剤;分散性向上剤;消泡剤等が挙げられる。
これら任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
接着剤が任意成分を含む場合、任意成分の含有量は、25℃における接着剤の総体積に対して、1~40体積%が好ましい。
【0050】
本実施形態の接着剤としては、熱硬化型の接着剤の他、ラジカル重合型の接着剤等も使用可能であり、生産性の観点からは、常温硬化型の接着剤を使用することが望ましい。常温硬化型の接着剤は、20℃~30℃で硬化する。常温硬化型の接着剤としては、アクリル系接着剤が好ましい。代表的なアクリル系接着剤には、SGA(第二世代アクリル系接着剤。Second Generation Acrylic Adhesive)などがある。本発明の効果を損なわない範囲で、嫌気性接着剤、瞬間接着剤、エラストマー含有アクリル系接着剤がいずれも使用可能である。なお、ここで言う接着剤は硬化前の状態を言い、接着剤が硬化した後は接着部41となる。
【0051】
接着部41の常温(20℃~30℃)における平均引張弾性率Eは、1500MPa~4500MPaの範囲内とされる。接着部41の平均引張弾性率Eは、1500MPa未満であると、積層コアの剛性が低下する不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの下限値は、1500MPa、より好ましくは1800MPaとされる。逆に、接着部41の平均引張弾性率Eが4500MPaを超えると、電磁鋼板40の表面に形成された絶縁被膜が剥がれる不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの上限値は、4500MPa、より好ましくは3650MPaとされる。
なお、平均引張弾性率Eは、共振法により測定される。具体的には、JIS R 1602:1995に準拠して引張弾性率を測定する。
より具体的には、まず、測定用のサンプル(不図示)を製作する。このサンプルは、2枚の電磁鋼板40間を、測定対象の接着剤により接着し、硬化させて接着部41を形成することにより、得られる。この硬化は、接着剤が熱硬化型の場合には、実操業上の加熱加圧条件で加熱加圧することで行う。一方、接着剤が常温硬化型の場合には常温下で加圧することで行う。
そして、このサンプルについての引張弾性率を、共振法で測定する。共振法による引張弾性率の測定方法は、上述した通り、JIS R 1602:1995に準拠して行う。その後、サンプルの引張弾性率(測定値)から、電磁鋼板40自体の影響分を計算により除くことで、接着部41単体の引張弾性率が求められる。
このようにしてサンプルから求められた引張弾性率は、積層コア全体としての平均値に等しくなるので、この数値をもって平均引張弾性率Eとみなす。平均引張弾性率Eは、その積層方向に沿った積層位置や積層コアの中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらないよう、組成が設定されている。そのため、平均引張弾性率Eは、積層コアの上端位置にある、硬化後の接着部41を測定した数値をもってその値とすることもできる。
【0052】
接着方法としては、例えば、電磁鋼板40に接着剤を塗布した後、加熱および圧着のいずれかまたは両方により接着する方法が採用できる。なお加熱手段は、例えば高温槽や電気炉内での加熱、または直接通電する方法等、どのような手段でも良い。
【0053】
安定して十分な接着強度を得るために、接着部41の厚さは1μm以上が好ましい。
一方で、接着部41の厚さが100μmを超えると接着力が飽和する。また、接着部41が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアの鉄損等の磁気特性が低下する。したがって、接着部41の厚さは1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。
なお、上記において接着部41の厚さは、接着部41の平均厚みを意味する。
【0054】
接着部41の平均厚みは、1.0μm以上3.0μm以下とすることがより好ましい。接着部41の平均厚みが1.0μm未満であると、前述したように十分な接着力を確保できない。そのため、接着部41の平均厚みの下限値は、1.0μm、より好ましくは1.2μmとされる。逆に、接着部41の平均厚みが3.0μmを超えて厚くなると、熱硬化時の収縮による電磁鋼板40の歪み量が大幅に増えるなどの不具合を生じる。そのため、接着部41の平均厚みの上限値は、3.0μm、より好ましくは2.6μmとされる。
接着部41の平均厚みは、積層コア全体としての平均値である。接着部41の平均厚みはその積層方向に沿った積層位置や積層コアの中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらない。そのため、接着部41の平均厚みは、積層コアの上端位置において、円周方向10箇所以上で測定した数値の平均値をもってその値とすることができる。
【0055】
なお、接着部41の平均厚みは、例えば、接着剤の塗布量を変えて調整することができる。また、接着部41の平均引張弾性率Eは、例えば、熱硬化型の接着剤の場合には、接着時に加える加熱加圧条件及び硬化剤種類の一方もしくは両方を変更すること等により調整することができる。
【0056】
本実施形態では、ロータコア31を形成する方の複数の電磁鋼板40は、かしめC(ダボ)によって互いに固定されている。しかしながら、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40が、接着部41によって互いに接着されていてもよい。
なお、ステータコア21やロータコア31などの積層コアは、いわゆる回し積みにより形成されていてもよい。
【0057】
本発明の一実施形態に係る積層コアの製造方法は、エポキシ樹脂とアクリル樹脂と硬化剤とを含む第一相と、エラストマーを含む第二相とを含む接着剤を電磁鋼板の表面に塗布する工程(塗布工程)と、接着剤を塗布した複数の電磁鋼板を積層する工程(積層工程)と、接着剤を硬化させ、接着部を形成する工程(硬化工程)とを有する。
次に、本実施形態のステータコア21の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0058】
図4に示すように、製造装置100では、コイルQ(フープ)から元鋼板Pを矢印F方向に向かって送り出しつつ、各ステージに配置された金型により複数回の打ち抜きを行って電磁鋼板40の形状に徐々に形成していく。電磁鋼板40の下面に接着剤を塗布し(塗布工程)、打ち抜いた電磁鋼板40を積層して(積層工程)、加圧しながら加熱接着することで接着剤が硬化し、接着部41で複数の電磁鋼板40同士が接着され、ステータコア21が形成される(硬化工程)。
【0059】
製造装置100は、コイルQに最も近い位置に一段目の打ち抜きステーション110と、この打ち抜きステーション110よりも元鋼板Pの搬送方向に沿った下流側に隣接配置された二段目の打ち抜きステーション120と、この打ち抜きステーション120よりもさらに下流側に隣接配置された接着剤塗布ステーション130と、を備える。
打ち抜きステーション110は、元鋼板Pの下方に配置された雌金型111と、元鋼板Pの上方に配置された雄金型112とを備える。
打ち抜きステーション120は、元鋼板Pの下方に配置された雌金型121と、元鋼板Pの上方に配置された雄金型122とを備える。
接着剤塗布ステーション130は、接着剤の塗布パターンに応じて配置された複数本のインジェクターを備える塗布器131を備える。
【0060】
製造装置100は、さらに、接着剤塗布ステーション130よりも下流位置に積層ステーション140を備える。この積層ステーション140は、加熱装置141と、外周打ち抜き雌金型142と、断熱部材143と、外周打ち抜き雄金型144と、スプリング145と、を備える。
加熱装置141、外周打ち抜き雌金型142、断熱部材143は、元鋼板Pの下方に配置されている。一方、外周打ち抜き雄金型144及びスプリング145は、元鋼板Pの上方に配置されている。
【0061】
製造装置100において、まずコイルQより元鋼板Pを図4の矢印F方向に順次送り出す。そして、この元鋼板Pに対し、まず打ち抜きステーション110による打ち抜き加工を行う。続いて、この元鋼板Pに対し、打ち抜きステーション120による打ち抜き加工を行う。これら打ち抜き加工により、元鋼板Pに、図3に示したコアバック部22と複数のティース部23を有する電磁鋼板40の形状を得る(打ち抜き工程)。ただし、この時点では完全には打ち抜かれていないので、矢印F方向に沿って次工程へと進む。次工程の接着剤塗布ステーション130では、塗布器131の前記各インジェクターから供給される接着剤が点状に塗布される(塗布工程)。
【0062】
次に、元鋼板Pは積層ステーション140へと送り出され、外周打ち抜き雄金型144により打ち抜かれて精度良く、積層される(積層工程)。この積層の際、電磁鋼板40はスプリング145により一定の加圧力を受ける。以上説明のような、打ち抜き工程、塗布工程、積層工程、を順次繰り返すことで、所定枚数の電磁鋼板40を積み重ねることができる。さらに、このようにして電磁鋼板40を積み重ねて形成された積層体は、加熱装置141によって、例えば、60~200℃まで加熱される。この加熱により接着剤が硬化して接着部41が形成される(硬化工程)。
以上の各工程により、ステータコア21が完成する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る回転電機及び積層コアは、両面が絶縁被膜により被覆された複数の電磁鋼板が積層され、積層方向に隣り合う電磁鋼板同士の間が第一相と第二相とを含む接着剤で形成された接着部で接着される。電磁鋼板同士の間が接着部で接着されることで、十分な接着強度が得られる。
加えて、それぞれの接着部は、第一相と第二相との海島構造を有する。このため、本実施形態に係る回転電機及び積層コアは、電磁鋼板に生じる歪を緩和しやすい。その結果、ヒステリシス損が低減しやすく、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
本実施形態に係る積層コアは、磁気特性が向上されている。このため、本実施形態に係る積層コアは、ステータ用の積層コア(ステータコア)として好適である。積層コアは、ロータコアとして用いてもよい。
【0064】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0065】
ステータコアの形状は、前記実施形態で示した形状に限定されるものではない。具体的には、ステータコアの外径および内径の寸法、積厚、スロット数、ティース部23の周方向と径方向の寸法比率、ティース部23とコアバック部22との径方向の寸法比率等は、所望の回転電機の特性に応じて任意に設計可能である。
【0066】
前記実施形態におけるロータでは、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成しているが、本発明はこれに限られない。例えば、1つの永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよい。
【0067】
前記実施形態では、回転電機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機の構造は、以下に例示するようにこれに限られず、さらには以下に例示しない種々の公知の構造も採用可能である。
前記実施形態では、同期電動機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機がリラクタンス型電動機や電磁石界磁型電動機(巻線界磁型電動機)であってもよい。
前記実施形態では、交流電動機として、同期電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が誘導電動機であってもよい。
前記実施形態では、電動機として、交流電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が直流電動機であってもよい。
前記実施形態では、回転電機として、電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が発電機であってもよい。
【0068】
前記実施形態では、本発明に係る積層コアをステータコアに適用した場合を例示したが、ロータコアに適用することも可能である。
【0069】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例
【0070】
[実施例1~7、比較例1~8]
厚さ0.25mmのフープを用意し、このフープの両面にリン酸金属塩及びアクリル樹脂エマルジョンを含有する絶縁被膜処理液を塗布し、300℃で焼き付けを行い、片面で0.8μmの絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成したフープを巻き取り、コイルQとした。コイルQを上述した製造装置100にセットし、コイルQから元鋼板Pを矢印F方向に向かって送り出した。製造装置100を用いて、外径300mm及び内径240mmのリング状を有してかつ、内径側に長さ30mmで幅15mmの長方形のティース部を18箇所設けた単板コア(電磁鋼板40)を打ち抜きにより形成した(打ち抜き工程)。
続いて、打ち抜いた単板コアを順次送りながら、図3に示した各位置に、表1に示す組成の接着剤を1箇所当たり5mg、点状に塗布し(塗布工程)、そして積層した(積層工程)。同様の作業を繰り返し行うことにより、130枚の単板コアが積層された積層体を得た。得られた積層体を圧力10MPaで加圧しながら、120℃で加熱し、接着剤を硬化させて(硬化工程)、各例の積層コア(ステータコア)を製造した。接着部の平均厚さは、1.5μmであった。
【0071】
表1中、第一相の各成分の種類は下記の通りである。
<エポキシ樹脂>
A1:ビスフェノールF型。
A2:ビスフェノールA型。
A3:ビスフェノールAD型。
【0072】
<アクリル樹脂>
B1:アクリル酸。
B2:メタクリル酸。
B3:マレイン酸。
【0073】
<硬化剤>
C1:ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)。
C2:ノボラック型フェノール樹脂。
C3:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸。
【0074】
表1中、第二相の種類は下記の通りである。
<エラストマー>
D1:EPDM(SP値:7.9~8.0(cal/cm1/2)。
D2:SBR(SP値:8.1~8.7(cal/cm1/2)。
D3:NBR(SP値:8.7~10.5(cal/cm1/2)。
【0075】
表1中、第一相の各成分の比率は、第一相の総体積に対する各成分の含有量(体積%(vol%))を表す。
表1中、第二相の比率は、接着剤の総体積に対する含有量(体積%(vol%))を表す。第二相は、エラストマー100体積%とした。
表1中、SP値の単位は、(cal/cm1/2である。第一相のSP値は、下記の方法により測定した。電磁鋼板の表面に第一相を構成する樹脂組成物を塗布し、120℃に加熱して硬化させた。得られた硬化物に対して、表2に示すSP値が既知の種々の溶剤を擦り付け、第一相の硬化物が溶剤に溶解することにより溶剤が変色したとき、その溶剤のSP値を第一相のSP値とした。
第二相のSP値は、下記の方法により測定した。第一相を構成する樹脂組成物と混合する前のエラストマーを120℃に加熱して硬化させた。得られた硬化物に対して、表2に示すSP値が既知の種々の溶剤を擦り付け、第二相の硬化物が溶剤に溶解することにより溶剤が変色したとき、その溶剤のSP値を第二相のSP値とした。
なお、第一相のSP値及び第二相のSP値の測定においては、表2に示す各溶剤と、これらの溶剤のうち2種以上を適宜混合してSP値を調整した混合溶剤を用意し、7.0~11.4の範囲の0.1刻みでSP値を測定できるようにした。
表1中、「海島構造有無」は、接着部を含むように、積層コアを径方向に切断した切断面を顕微鏡等により観察し、相分離構造が認められれば「有り」とし、相分離構造が認められなければ「無し」とした。
【0076】
次に、上記した作用効果を検証する検証試験を実施した。なお本検証試験は、ソフトウェアを用いたシミュレーションにより実施した。ソフトウェアとしては、JSOL株式会社製の有限要素法電磁場解析ソフトJMAGを利用した。
【0077】
各例の積層コアの鉄損を、前記シミュレーションにより求めた。
また、比較対象として、複数の電磁鋼板が全層かしめられている積層コアの鉄損も求めた。各例の積層コアの鉄損を、上記比較対象となる積層コアの鉄損で割った値(鉄損比)を求めた。各例の積層コアの鉄損が、上記比較対象となる積層コアの鉄損と同等であると、鉄損比が100%になる。鉄損比が小さいほど、各例の積層コアの鉄損が小さく、積層コアとしての磁気特性に優れる。
各例の積層コアの鉄損比を算出し、下記評価基準に基づいて各例の積層コアの磁気特性を評価した。結果を表1に示す。
《評価基準》
A:鉄損比が100%未満。
B:鉄損比が100%以上。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1~7では、鉄損比が100%未満であり、磁気特性を向上できていた。
一方、第一相のSP値が本発明の範囲外である比較例1~4、8は、鉄損比が100%以上だった。
第二相の含有量が多く、接着部が海島構造を有しない比較例5~7は、鉄損比が100%以上だった。
【0081】
以上の結果から、本発明の積層コアによれば、鉄損を抑制できており、積層コアの磁気特性を向上できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、積層コアの磁気特性を向上させることができる。よって、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0083】
10 回転電機
20 ステータ
21 ステータコア(積層コア)
40 電磁鋼板
41 接着部
図1
図2
図3
図4