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特許7180699フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020572177
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003780
(87)【国際公開番号】W WO2020166392
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019025530
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】古橋 拓未
【審査官】西間木 祐紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/196922(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/142922(WO,A1)
【文献】特開2019-521203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体樹脂フィルムと、
前記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記誘電体樹脂フィルムは、下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有し、かつ、硬化性樹脂を主成分として含み、
前記硬化性樹脂は、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む、フィルムコンデンサ。
【化1】
【請求項2】
前記誘電体樹脂フィルムは、ガラス転移温度Tgfilmが188℃以上である、請求項1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記誘電体樹脂フィルムは、ガラス転移温度Tgfilmが400℃以下である、請求項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体樹脂フィルムは、175℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、3%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項5】
前記誘電体樹脂フィルムは、175℃、100Hzにおける損失係数が1%以下である、請求項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項6】
前記誘電体樹脂フィルムは、150℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、1%以下である、請求項又はに記載のフィルムコンデンサ。
【請求項7】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、1%以下である、請求項のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項8】
前記誘電体樹脂フィルムは、200℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、5%以下である、請求項のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項9】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が+100%以下である、請求項1又は4に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項10】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が+40%以下である、請求項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項11】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が0%以下である、請求項10に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項12】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が-100%以上である、請求項11のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項13】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から150℃への100Hzにおける損失係数の変動率が0%以下である、請求項1、4及びのいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項14】
前記誘電体樹脂フィルムは、125℃から150℃への100Hzにおける損失係数の変動率が-100%以上である、請求項13に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項15】
前記誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基及び水酸基の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項16】
誘電体樹脂フィルムと、
前記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記誘電体樹脂フィルムは、第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂を主成分として含み、
前記第1有機材料は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂である、フィルムコンデンサ。
【請求項17】
前記第1フェノキシ樹脂は、ガラス転移温度Tgが90℃以上である、請求項16に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項18】
前記第1フェノキシ樹脂は、ガラス転移温度Tgが200℃以下である、請求項16又は17に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項19】
前記第1フェノキシ樹脂は、下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有する、請求項1618のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【化2】
【請求項20】
前記第1フェノキシ樹脂は、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む、請求項1619のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項21】
前記第1フェノキシ樹脂は、ビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールS-ビスフェノールA共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールA-ビスフェノールTMC共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル-ビスフェノールTMC共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂、及び、エポキシ変性ビスフェノールA-ビスフェノールA共重合フェノキシ樹脂からなる群より選択されるいずれか1種のフェノキシ樹脂である、請求項20に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項22】
前記第1有機材料中には、前記第1フェノキシ樹脂が前記誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれる、請求項1621のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項23】
前記第2有機材料は、イソシアネート化合物である、請求項1622のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項24】
前記イソシアネート化合物は、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)のいずれか一方である、請求項23に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項25】
前記第1有機材料に対する前記第2有機材料のモル比(第2有機材料/第1有機材料)は、0.5以上、1.5以下である、請求項16又は24に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項26】
下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有し、かつ、硬化性樹脂を主成分として含み、
前記硬化性樹脂は、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルム。
【化3】
【請求項27】
第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂を主成分として含み、
前記第1有機材料は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂である、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサの一種として、可撓性のある樹脂フィルムを誘電体として用いながら、樹脂フィルムを挟んで互いに対向する第1の対向電極及び第2の対向電極を配置した構造のフィルムコンデンサがある。フィルムコンデンサは、通常、誘電体としての樹脂フィルムを巻回してなる略円柱状の形態をなしており、当該円柱の互いに対向する第1端面及び第2端面上には、それぞれ、第1の外部端子電極及び第2の外部端子電極が形成されている。そして、第1の対向電極は第1の外部端子電極と電気的に接続され、第2の対向電極は第2の外部端子電極と電気的に接続されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムを挟んで互いに対向する第1および第2の対向電極とを備えるフィルムコンデンサが記載されている。特許文献1に記載のフィルムコンデンサでは、上記誘電体樹脂フィルムは、第1及び第2の有機材料を含む少なくとも2種類の有機材料が反応して得られた硬化物であって、メチレン基(CH基)、芳香環及びエーテル基(-O-基)から選ばれる、モル分極率の比較的小さい少なくとも1種の官能基を含む、第1の原子団と、水酸基(OH基)、アミノ基(NH基)及びカルボニル基(C=O基)から選ばれる、モル分極率の比較的大きい少なくとも1種の官能基を含む、第2の原子団とを備え、式:(第1の原子団の吸収帯強度の総和)/(第2の原子団の吸収帯強度の総和)で表される値が1.0以上である、誘電体樹脂組成物からなることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-181199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の高周波化により、電子部品の高周波での特性が良好であることが要求されるようになってきている。コンデンサにおける主な問題は、高周波での誘電正接(tanδ)である。誘電正接は、低い方が好ましく、零であることが理想である。この値が高いと、エネルギー損失やそれに伴う発熱が生じるため、高周波回路の動作が不安定となる、寿命が短くなる等の問題を招く。
【0006】
特許文献1に記載のフィルムコンデンサによれば、125℃での誘電正接(損失係数とも呼ばれる)を0.6%以下というように、誘電正接を低くすることができるとされている。特許文献1には、第1の有機材料としてフェノキシ樹脂が用いられ、第2の有機材料としてイソシアネート化合物が用いられることが好ましいと記載されており、実施例においては、末端にエポキシ基を持つ高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂に対し、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)といったイソシアネート化合物を組み合わせて、熱硬化性樹脂フィルムが形成されている。
【0007】
フィルムコンデンサが使用される環境温度は、変動が大きくなる場合がある。例えば、125℃の耐熱性で設計されたフィルムコンデンサを高温で使用して大電流が流れる場合、フィルムコンデンサの損失係数が高いと等価直列抵抗(ESR)が高くなるため、コンデンサにおける自己発熱により、コンデンサ自身の温度が上昇してしまう。つまり、フィルムコンデンサにかかる環境温度からの加熱にコンデンサの自己発熱が加わることにより、予期しない温度上昇がもたらされることになる。したがって、フィルムコンデンサには、125℃での損失係数が低いだけでなく、より高温での損失係数が低いことも求められている。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、125℃よりも高温での損失係数が低いフィルムコンデンサを提供することを目的とする。本発明はまた、上記フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルムコンデンサは、第1の態様において、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記誘電体樹脂フィルムは、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む。
【0010】
本発明のフィルムコンデンサは、第2の態様において、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記誘電体樹脂フィルムは、下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有する。
【化1】
【0011】
本発明のフィルムコンデンサは、第3の態様において、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記誘電体樹脂フィルムは、第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂を主成分として含み、上記第1有機材料は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂である。
【0012】
本発明のフィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムは、第1の態様において、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む。
【0013】
本発明のフィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムは、第2の態様において、下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有する。
【化2】
【0014】
本発明のフィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムは、第3の態様において、第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂を主成分として含み、上記第1有機材料は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、125℃よりも高温への温度上昇に対して、損失係数の上昇を抑制したフィルムコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1-2のクロマトグラムの測定結果である。
図3図3(a)は、図2中の(6)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果であり、図3(b)は、標準的なテトラメチルビフェニルのMSスペクトルである。
図4図4は、実施例2-2のクロマトグラムの測定結果である。
図5図5(a)は、図4中の(9)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果であり、図5(b)は、標準的なフルオレンのMSスペクトルである。
図6図6(a)は、図4中の(10)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果であり、図6(b)は、標準的なフェニルフルオレンのMSスペクトルである。
図7図7は、実施例3-1のクロマトグラムの測定結果である。
図8図8(a)は、図7中の(12)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果であり、図8(b)は、標準的な二酸化硫黄のMSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のフィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルムについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0018】
[フィルムコンデンサ]
本発明のフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた金属層と、を備えている。
【0019】
以下、本発明のフィルムコンデンサの一実施形態として、第1の金属層が設けられた第1の誘電体樹脂フィルムと、第2の金属層が設けられた第2の誘電体樹脂フィルムとが積層された状態で巻回されてなる巻回型のフィルムコンデンサを例にとって説明する。
なお、本発明のフィルムコンデンサは、第1の金属層が設けられた第1の誘電体樹脂フィルムと、第2の金属層が設けられた第2の誘電体樹脂フィルムとが積層されてなる積層型のフィルムコンデンサなどであってもよい。
【0020】
図1は、本発明のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すフィルムコンデンサ1は、巻回型のフィルムコンデンサであり、巻回状態の第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12と、第1の誘電体樹脂フィルム11又は第2の誘電体樹脂フィルム12を挟んで互いに対向する第1の金属層(第1の対向電極)21及び第2の金属層(第2の対向電極)22とを備えるとともに、第1の金属層21に電気的に接続される第1の外部端子電極31、及び、第2の金属層22に電気的に接続される第2の外部端子電極32を備えている。
【0021】
第1の金属層21は第1の誘電体樹脂フィルム11上に形成されており、第2の金属層22は第2の誘電体樹脂フィルム12上に形成されている。第1の金属層21が形成された第1の誘電体樹脂フィルム11と、第2の金属層22が形成された第2の誘電体樹脂フィルム12とが積層された状態で巻回されることによって、フィルムコンデンサ1が構成されている。第2の誘電体樹脂フィルム12は、第1の誘電体樹脂フィルム11と異なる構成を有していてもよいが、第1の誘電体樹脂フィルム11と同一の構成を有していることが好ましい。
【0022】
第1の金属層21は、第1の誘電体樹脂フィルム11の一方の面において一方側縁にまで届くが、他方側縁にまで届かないように形成される。他方、第2の金属層22は、第2の誘電体樹脂フィルム12の一方の面において一方側縁にまで届かないが、他方側縁にまで届くように形成される。第1の金属層21及び第2の金属層22は、例えばアルミニウム層などから構成される。
【0023】
図1に示すように、第1の金属層21における第1の誘電体樹脂フィルム11の側縁にまで届いている側の端部、及び、第2の金属層22における第2の誘電体樹脂フィルム12の側縁にまで届いている側の端部がともに積層されたフィルムから露出するように、第1の誘電体樹脂フィルム11と第2の誘電体樹脂フィルム12とが互いに幅方向にずらされて積層される。第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12は、積層された状態で巻回されることによって、第1の金属層21及び第2の金属層22が端部で露出した状態を保持して、積み重なった状態とされる。
【0024】
図1に示すフィルムコンデンサ1では、第2の誘電体樹脂フィルム12が第1の誘電体樹脂フィルム11の外側になるように、かつ、第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12の各々について、第1の金属層21及び第2の金属層22の各々が内方に向くように巻回されている。
【0025】
第1の外部端子電極31及び第2の外部端子電極32は、上述のようにして得られたコンデンサ本体の各端面上に、例えば亜鉛などを溶射することによって形成される。第1の外部端子電極31は、第1の金属層21の露出端部と接触し、それによって第1の金属層21と電気的に接続される。他方、第2の外部端子電極32は、第2の金属層22の露出端部と接触し、それによって第2の金属層22と電気的に接続される。
【0026】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、誘電体樹脂フィルムの巻回体は、断面形状が楕円又は長円のような扁平形状にプレスされ、断面形状が真円であるときよりコンパクトな形状とされることが好ましい。なお、本発明のフィルムコンデンサは、円柱状の巻回軸を備えていてもよい。巻回軸は、巻回状態の誘電体樹脂フィルムの中心軸線上に配置されるものであり、誘電体樹脂フィルムを巻回する際の巻軸となるものである。
【0027】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、金属層に含まれる金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0028】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、金属層の厚みは特に限定されないが、例えば、5nm以上、40nm以下である。
なお、金属層の厚みは、金属層が設けられた誘電体樹脂フィルムを厚み方向に切断した断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等の電子顕微鏡を用いて観察することにより特定することができる。
【0029】
本発明のフィルムコンデンサにおいては、本発明のフィルムコンデンサ用の誘電体樹脂フィルム(以下、単に「本発明の誘電体樹脂フィルム」ともいう)が用いられる。
【0030】
[誘電体樹脂フィルム]
本発明の誘電体樹脂フィルムは、第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂を主成分として含み、上記第1有機材料は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0031】
特許文献1の実施例において用いられているビスフェノールA型のフェノキシ樹脂のガラス転移温度Tgは87℃程度である。本発明においては、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂を第1有機材料として用いることにより、125℃よりも高温での損失係数を低くすることができる。
【0032】
本明細書において、「主成分」とは、重量百分率が最も大きい成分を意味し、好ましくは、重量百分率が50重量%を超える成分を意味する。したがって、誘電体樹脂フィルムは、主成分以外の成分として、例えば、シリコーン樹脂等の添加剤や、後述する第1有機材料及び第2有機材料等の出発材料の未硬化部分を含んでもよい。
【0033】
硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、光硬化性樹脂であってもよい。
本明細書において、熱硬化性樹脂とは、熱で硬化し得る樹脂を意味しており、硬化方法を限定するものではない。したがって、熱で硬化し得る樹脂である限り、熱以外の方法(例えば、光、電子ビームなど)で硬化した樹脂も熱硬化性樹脂に含まれる。また、材料によっては材料自体が持つ反応性によって反応が開始する場合があり、必ずしも外部から熱又は光等を与えずに硬化が進むものについても熱硬化性樹脂とする。光硬化性樹脂についても同様であり、硬化方法を限定するものではない。
【0034】
第1有機材料の分子量は、フィルム強度を得る観点から5,000以上であることが好ましい。また、第1有機材料の分子量は、希釈溶液への溶解性の観点から100,000以下であることが好ましい。
なお、第1有機材料の分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン標準試料を基準として算出した重量平均分子量(Mw)を意味する。
【0035】
第1フェノキシ樹脂は、ガラス転移温度Tgが87℃より高い限り特に限定されないが、ガラス転移温度Tgが90℃以上であることが好ましい。また、第1フェノキシ樹脂は、ガラス転移温度Tgが200℃以下であることが好ましい。
【0036】
なお、第1フェノキシ樹脂などの樹脂のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。昇温速度5℃/minで測定を行い、吸発熱温度の時間微分のピークトップの温度をガラス転移温度Tgとして求める。
【0037】
第1フェノキシ樹脂は、下記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有することが好ましい。
【化3】
【0038】
特許文献1の実施例において用いられているビスフェノールA型のフェノキシ樹脂は、上記式(A)で示される骨格を主に有している。本発明においては、上記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有するフェノキシ樹脂を第1フェノキシ樹脂として用いることにより、125℃よりも高温での損失係数を低くすることができる。
【0039】
上記式(A)で示される骨格には、下記式(a)で示されるビスフェノールA骨格及び-CH-CH(OH)-CH-骨格が含まれている。本明細書において、上記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格とは、ビスフェノールA骨格及び-CH-CH(OH)-CH-骨格の少なくとも一方よりも剛直な構造を有する骨格を意味する。
【化4】
【0040】
第1フェノキシ樹脂は、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含むことが好ましい。
このうち、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、及び、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格はビスフェノールA骨格よりも剛直な構造とした骨格であり、エポキシ変性ビスフェノールA骨格は-CH-CH(OH)-CH-骨格よりも剛直な構造とした骨格である。
【0041】
ビフェニル骨格としては、例えば、下記式(1)で示される骨格等が挙げられる。
【化5】
【0042】
上記式(1)では、ビフェニル骨格は4個のメチル基を有しているが、ビフェニル骨格は少なくとも1個のアルキル基もしくはその他の置換基を有していてもよいし、アルキル基もしくはその他の置換基を有していなくてもよい。
【0043】
ビスフェノールアセトフェノン骨格としては、例えば、下記式(2)で示される骨格等が挙げられる。
【化6】
【0044】
ビスフェノールフルオレン骨格としては、例えば、下記式(3)で示される骨格等が挙げられる。
【化7】
【0045】
ビスフェノールS骨格としては、例えば、下記式(4)で示される骨格等が挙げられる。
【化8】
【0046】
ビスフェノールシクロヘキサノン骨格としては、例えば、下記式(5)で示される骨格等が挙げられる。
【化9】
【0047】
上記式(5)では、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格は3個のメチル基を有しているが、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格は少なくとも1個のメチル基を有していてもよいし、メチル基を有していなくてもよい。
【0048】
エポキシ変性ビスフェノールA骨格としては、例えば、下記式(6)で示される骨格等が挙げられる。
【化10】
【0049】
なお、エポキシ変性ビスフェノールA骨格は、上記式(A)で示される骨格の二級炭素の水素がエポキシ変性基に置換された骨格であれば、エポキシ変性基の構造は特に限定されない。
【0050】
具体的には、第1フェノキシ樹脂は、ビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールS-ビスフェノールA共重合フェノキシ樹脂、ビスフェノールA-ビスフェノールTMC共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル-ビスフェノールTMC共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂、及び、エポキシ変性ビスフェノールA-ビスフェノールA共重合フェノキシ樹脂からなる群より選択されるいずれか1種のフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0051】
第1有機材料中には、第1フェノキシ樹脂が誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれることが好ましい。特に、第1有機材料中には、上記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格が誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれることが好ましく、例えば、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択されるいずれか1種の骨格が誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれることが好ましい。
特許文献1の実施例において用いられているフェノキシ樹脂の骨格よりも剛直な骨格が誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれていれば、125℃よりも高温での損失係数を低くすることができる。
【0052】
なお、第1有機材料中に上記骨格が2種以上含まれている場合には、それぞれの骨格が誘電体樹脂フィルムに対して12.5mol%以上含まれることが好ましい。
【0053】
その他、第1フェノキシ樹脂は、ビスフェノールBP骨格、ビスフェノールB骨格、ビスフェノールC骨格、ビスフェノールG骨格、ビスフェノールPH骨格、ビスフェノールZ骨格、ジヒドロキシナフタレン骨格、ジヒドロキシアントラセン骨格、還元型ジヒドロキシアントラセン骨格等の剛直な骨格を含んでもよい。これらの骨格は、1種のみでもよいし、2種以上であってもよい。また、上述したビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格との組み合わせであってもよい。
【0054】
また、第1フェノキシ樹脂が、これらの骨格を、上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格の代わりに含む場合、二級炭素の水素がエポキシ変性基に置換されていてもよい。
【0055】
ビスフェノールBP骨格としては、例えば、下記式(7)で示される骨格等が挙げられる。
【化11】
【0056】
ビスフェノールB骨格としては、例えば、下記式(8)で示される骨格等が挙げられる。
【化12】
【0057】
ビスフェノールC骨格としては、例えば、下記式(9)で示される骨格等が挙げられる。
【化13】
【0058】
ビスフェノールG骨格としては、例えば、下記式(10)で示される骨格等が挙げられる。
【化14】
【0059】
ビスフェノールPH骨格としては、例えば、下記式(11)で示される骨格等が挙げられる。
【化15】
【0060】
ビスフェノールZ骨格としては、例えば、下記式(12)で示される骨格等が挙げられる。
【化16】
【0061】
ジヒドロキシナフタレン骨格としては、例えば、下記式(13)で示される骨格等が挙げられる。
【化17】
【0062】
ジヒドロキシアントラセン骨格としては、例えば、下記式(14)で示される骨格等が挙げられる。
【化18】
【0063】
還元型ジヒドロキシアントラセン骨格としては、例えば、下記式(15)で示される骨格等が挙げられる。
【化19】
【0064】
第1有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。第1有機材料は、フェノキシ樹脂として、ガラス転移温度Tgが87℃より高い第1フェノキシ樹脂のみを含んでいてもよいが、ガラス転移温度Tgが87℃以下の第2フェノキシ樹脂を含んでいてもよい。
【0065】
第2有機材料は、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂であることが好ましい。第2有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。第2有機材料の中では、イソシアネート化合物が好ましい。
【0066】
イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートの変性体、例えば、カルボジイミド又はウレタン等を有する変性体であってもよい。中でも、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、MDI及びTDIのいずれか一方がより好ましい。
【0067】
エポキシ樹脂としては、エポキシ環を有する樹脂であれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格エポキシ樹脂、シクロペンタジエン骨格エポキシ樹脂、ナフタレン骨格エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0068】
メラミン樹脂としては、構造の中心にトリアジン環、その周辺にアミノ基3個を有する有機窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、アルキル化メラミン樹脂等が挙げられる。その他、メラミンの変性体であってもよい。
【0069】
第1有機材料に対する第2有機材料のモル比(第2有機材料/第1有機材料)は、0.5以上、1.5以下であることが好ましい。
【0070】
第1有機材料及び第2有機材料から得られる硬化性樹脂は、例えば、第1有機材料が有する水酸基(OH基)と第2有機材料が有するイソシアネート基(NCO基)とが反応して得られる。
【0071】
上記の反応によって硬化性樹脂を得る場合、出発材料の未硬化部分がフィルム中に残留してもよい。例えば、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基(NCO基)及び水酸基(OH基)の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基及び水酸基のいずれか一方を含んでもよいし、イソシアネート基及び水酸基の両方を含んでもよい。
なお、イソシアネート基及び/又は水酸基の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0072】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、好ましくは、第1有機材料及び第2有機材料を含む樹脂溶液をフィルム状に成形し、次いで、熱処理して硬化させることによって得られる。
【0073】
このようにして得られる、本発明の誘電体樹脂フィルムは、一態様において、上記式(A)で示される骨格よりも剛直な骨格を有する。
【0074】
上記誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含むことが好ましい。
硬化性樹脂は、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含むことが好ましい。
【0075】
その他、硬化性樹脂は、ビスフェノールBP骨格、ビスフェノールB骨格、ビスフェノールC骨格、ビスフェノールG骨格、ビスフェノールPH骨格、ビスフェノールZ骨格、ジヒドロキシナフタレン骨格、ジヒドロキシアントラセン骨格、還元型ジヒドロキシアントラセン骨格等の剛直な骨格を含んでもよい。これらの骨格は、1種のみでもよいし、2種以上であってもよい。また、上述したビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格との組み合わせであってもよい。
【0076】
また、硬化性樹脂が、これらの骨格を、上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格の代わりに含む場合、二級炭素の水素がエポキシ変性基に置換されていてもよい。
【0077】
これらの骨格については、第1有機材料の中で説明したとおりであるため、詳細な説明は省略する。
【0078】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、別の態様において、ビフェニル骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ビスフェノールフルオレン骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールシクロヘキサノン骨格、及び、エポキシ変性ビスフェノールA骨格からなる群より選択される少なくとも1種の骨格を含む。
【0079】
なお、誘電体樹脂フィルム又は硬化性樹脂に含まれるビフェニル骨格等の骨格は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により検出することができる。
【0080】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、ガラス転移温度Tgfilmが188℃以上であることが好ましく、400℃以下であることが好ましい。
【0081】
なお、誘電体樹脂フィルムのガラス転移温度Tgfilmは、DSC装置によって測定される。昇温速度5℃/minで測定を行い、吸発熱温度の時間微分のピークトップの温度をガラス転移温度Tgfilmとして求める。
【0082】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、1%以下であることが好ましい。
【0083】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、150℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、1%以下であることが好ましい。
【0084】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、175℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0085】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、200℃、100Hzにおける損失係数が0%以上、5%以下であることが好ましい。
【0086】
なお、誘電体樹脂フィルムの損失係数は、フィルムの両面に厚さ20nmのAl電極を形成した評価用試料に対して、LCRメーターを用いて、測定周波数:100Hz、測定電圧:1Vの条件下で測定した各温度における誘電正接(tanδ)である。
【0087】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から150℃への100Hzにおける損失係数の変動率が0%以下であることが好ましく、-8%以下であることがより好ましい。一方、本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から150℃への100Hzにおける損失係数の変動率が-100%以上であることが好ましく、-50%以上であることがより好ましい。
【0088】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が+100%以下であることが好ましく、+40%以下であることがより好ましく、0%以下であることがさらに好ましい。一方、本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から175℃への100Hzにおける損失係数の変動率が-100%以上であることが好ましく、-50%以上であることがより好ましい。
【0089】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から200℃への100Hzにおける損失係数の変動率が+1100%以下であることが好ましく、+500%以下であることがより好ましく、+350%以下であることがさらに好ましい。一方、本発明の誘電体樹脂フィルムは、125℃から200℃への100Hzにおける損失係数の変動率が0%以上であることが好ましい。
【0090】
本発明の誘電体樹脂フィルム中には、出発材料の未硬化部分が残留してもよい。例えば、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基(NCO基)及び水酸基(OH基)の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基及び水酸基のいずれか一方を含んでもよいし、イソシアネート基及び水酸基の両方を含んでもよい。
なお、イソシアネート基及び/又は水酸基の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0091】
また、本発明の誘電体樹脂フィルムは、蒸着重合膜を主成分として含んでもよい。蒸着重合膜は、基本的には、硬化性樹脂に含まれる。
【0092】
本発明の誘電体樹脂フィルムは、他の機能を付加するための添加剤を含むこともできる。例えば、レベリング剤を添加することで平滑性を付与することができる。添加剤は、水酸基及び/又はイソシアネート基と反応する官能基を有し、硬化物の架橋構造の一部を形成する材料であることがより好ましい。このような材料としては、例えば、エポキシ基、シラノール基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する樹脂等が挙げられる。
【0093】
本発明の誘電体樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、フィルムが薄すぎると脆くなりやすく、一方、フィルムが厚すぎると、成膜時にクラック等の欠陥が発生しやすくなる。そのため、誘電体樹脂フィルムの厚みは、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
なお、フィルムの厚みとは、金属層の厚みを含まないフィルム単独の厚みを意味する。また、フィルムの厚みは、光学式膜厚計を用いて測定することができる。
【実施例
【0094】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0095】
[試料の作製]
(比較例1)
第1有機材料(主剤)として、上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた。この材料のTgは87℃である。第2有機材料(硬化剤)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いた。メチルエチルケトン溶剤に溶解したフェノキシ樹脂とイソシアネート硬化剤を混合し、メチルエチルケトンを希釈溶剤に用いて樹脂塗料を調合した。調合した塗料を、フィルム成型機を用いてドクターブレード法によりPETフィルム上に厚みが3μmになるようにフィルム成膜した。フィルム成型機は乾燥温度60℃で加熱搬送した。そのフィルムを熱風式オーブンにて150℃、4時間の熱処理を経て熱硬化させた。組成は全て主剤と硬化剤が等量反応するような組成で作製した。
【0096】
(実施例1)
実施例1では、第1有機材料(主剤)として、ビフェニル型エポキシ樹脂とビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂を共重合して得られるフェノキシ樹脂を用いた。第2有機材料(硬化剤)としては、イソシアネート化合物を用いた。本組成では、主剤成分と硬化剤成分の配合比率を変えて熱硬化性フィルムを作製した。また、主剤のビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂にビスフェノールA型フェノキシ樹脂を添加し、ビフェニル骨格やアセトフェノン骨格の濃度を変えて熱硬化性フィルムを作製した。作製したフィルムの125℃、150℃、175℃、200℃の誘電正接(tanδ)の値を測定し、125℃から各温度へのtanδの変動率を算出した。
【0097】
(実施例1-1~1-6)
第1有機材料(主剤)として、上記式(1)で示されるビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂と上記式(2)で示されるビスフェノールアセトフェノン骨格を有するビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂が1:1で共重合したフェノキシ樹脂を用いた。この材料のTgは105℃である。第2有機材料(硬化剤)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はトルエンジイソシアネート(TDI)を用いた。メチルエチルケトン溶剤に溶解したフェノキシ樹脂とイソシアネート硬化剤を混合し、メチルエチルケトンを希釈溶剤に用いて樹脂塗料を調合した。調合した塗料を、フィルム成型機を用いてドクターブレード法によりPETフィルム上に厚みが3μmになるようにフィルム成膜した。フィルム成型機は乾燥温度60℃で加熱搬送した。そのフィルムを熱風式オーブンにて180℃、4時間の熱処理を経て熱硬化させた。
表1に示すように、硬化剤の比率を変更した組成として、主剤と硬化剤のモル比率が等量、硬化剤量が等量の半分、硬化剤量が等量の1.5倍の3水準を作製した。
【0098】
(実施例1-7~1-9)
表2に示すように、第1有機材料(主剤)にビスフェノールA型フェノキシ樹脂を添加し、硬化後のビフェニル骨格とビスフェノールアセトフェノン骨格の濃度を減らしたフィルムを作製した。ビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂とビスフェノールA型フェノキシ樹脂のモル比率が66/33、50/50、25/75の3水準でフィルムを作製した。それぞれの組成の実質的なビフェニル骨格/ビスフェノールアセトフェノン骨格/ビスフェノールA骨格のモル比率は33/33/33、25/25/50、12.5/12.5/75となる。主剤と硬化剤のモル比率は等量になるように作製した。
【0099】
[ガラス転移温度Tgfilmの測定]
作製した幾つかのフィルムについて、DSC装置によりTgfilmを測定した。昇温速度5℃/minで測定を行い、吸発熱温度の時間微分のピークトップの温度を求めた。
【0100】
[損失係数の測定]
作製したフィルムの両面に真空蒸着機を用いて20nmの厚さでAl電極を形成した。Al電極を形成した評価用試料に対して、LCRメーター(4284A:アジレント製)を用いて、測定周波数:100Hz、測定電圧:1Vの条件下で各温度における誘電正接(tanδ)の値を測定することにより損失係数を求めた。
【0101】
125℃、150℃、175℃、200℃におけるtanδの値、125℃から150℃へのtanδの変動率、125℃から175℃へのtanδの変動率、及び、125℃から200℃へのtanδの変動率を表1及び表2に示した。表1及び表2の「判定」欄では、125℃から175℃へのtanδの変動率が100%を超えるものを×(不良)、0%を超えて100%以下であるものを○(良)、0%以下であるものを◎(優)で示した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
表1に示すように、実施例1-1~1-3では、第1有機材料(主剤)にビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂を用いることで、従来のビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた比較例1の組成と比較して、全ての組成でtanδの変動率が抑制されている。特に、125℃から175へのtanδの変動率については、比較例では1435%であるのに対して、実施例では最大でも83%であるため、著しく抑制されている。
【0105】
実施例1-4~1-6では、第2有機材料をTDIに変更しても、125℃より高温でのtanδの変動率が抑制されている。
【0106】
また、表2に示すように、実施例1-7~1-9では、フィルム中のビフェニル骨格とビスフェノールアセトフェノン骨格の含有量が低い場合であっても、tanδの変動率が抑制されている。特に、実施例1-9では、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂にビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂を25mol%添加するだけでもtanδの変動率が抑制されている。
【0107】
[ビフェニル骨格の検出方法]
最終的な硬化物であるフィルムにビフェニル骨格が含まれていることは、GC-MSにより検出することができる。測定手順とその結果を下記に示す。
【0108】
作製した試料のうち、ビフェニル-ビスフェノールアセトフェノン共重合フェノキシ樹脂/MDIの等量の組成(実施例1-2)に対してGC-MS測定を実施した。まず、作製したフィルムを500℃で加熱した。加熱時に発生したガスをクロマトグラムで分取した。実施例1-2のクロマトグラムの測定結果を図2に示す。図2中の(6)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果を図3(a)に示し、標準的なテトラメチルビフェニルのMSスペクトルを図3(b)に示す。図3(a)及び図3(b)より、標準的なテトラメチルビフェニルに相当するMSスペクトルが検出できている。以上のように、構造中にビフェニル骨格が含まれていることをGC-MSにより確認することができる。
同様に、その他の組成に関しても、GC-MSによりビフェニル骨格が含まれていることを確認することができる。
【0109】
(実施例2)
実施例2では、第1有機材料(主剤)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂を共重合して得られるフェノキシ樹脂を用いた。第2有機材料(硬化剤)としては、実施例1と同様にイソシアネート化合物を用いた。本組成では、主剤成分と硬化剤成分の配合比率を変えて熱硬化性フィルムを作製した。また、主剤のビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂にビスフェノールA型フェノキシ樹脂を添加し、ビスフェノールフルオレン骨格の濃度を変えて熱硬化性フィルムを作製した。作製したフィルムの125℃、150℃、175℃、200℃のtanδの値を測定し、125℃から各温度へのtanδの変動率を算出した。
【0110】
(実施例2-1~2-6)
第1有機材料(主剤)として、上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂と上記式(3)で示されるビスフェノールフルオレン骨格を有するビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂が1:1で共重合したフェノキシ樹脂を用いた。この材料のTgは150℃である。第2有機材料(硬化剤)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はトルエンジイソシアネート(TDI)を用いた。メチルエチルケトン溶剤に溶解したフェノキシ樹脂とイソシアネート硬化剤を混合し、テトラヒドロフランを希釈溶剤に用いて樹脂塗料を調合した。調合した塗料を、フィルム成型機を用いてドクターブレード法によりPETフィルム上に厚みが3μmになるようにフィルム成膜した。フィルム成型機は乾燥温度60℃で加熱搬送した。そのフィルムを熱風式オーブンにて180℃、4時間の熱処理を経て熱硬化させた。
表3に示すように、硬化剤の比率を変更した組成として、主剤と硬化剤のモル比率が等量、硬化剤量が等量の半分、硬化剤量が等量の1.5倍の3水準を作製した。
【0111】
(実施例2-7~2-9)
表4に示すように、第1有機材料(主剤)にビスフェノールA型フェノキシ樹脂を添加し、硬化後のビスフェノールフルオレン骨格の濃度を減らしたフィルムを作製した。ビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂とビスフェノールA型フェノキシ樹脂のモル比率が66/33、50/50、25/75の3水準でフィルムを作製した。ビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂自体にビスフェノールA骨格が半分含まれているため、それぞれの組成の実質的なビスフェノールフルオレン骨格/ビスフェノールA骨格のモル比率は33/66、25/75、12.5/87.5となる。主剤と硬化剤のモル比率は等量になるように作製した。
【0112】
作製したフィルムについて、実施例1と同様、ガラス転移温度Tgfilm及び損失係数を測定した。
【0113】
125℃、150℃、175℃、200℃におけるtanδの値、125℃から150℃へのtanδの変動率、125℃から175℃へのtanδの変動率、及び、125℃から200℃へのtanδの変動率を表3及び表4に示した。表3及び表4の「判定」欄では、125℃から175℃へのtanδの変動率が100%を超えるものを×(不良)、0%を超えて100%以下であるものを○(良)、0%以下であるものを◎(優)で示した。
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
表3に示すように、実施例2-1~2-6では、第1有機材料(主剤)にビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂を用いることで、従来のビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた比較例1の組成と比較して、全ての組成でtanδの変動率が抑制されている。このように、第1有機材料(主剤)にビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂を用いることで、実施例1と同様の効果が得られることが確認できた。
【0117】
また、表4に示すように、実施例2-7~2-9では、フィルム中のビスフェノールフルオレン骨格の含有量が少ない場合であっても、tanδの変動率が抑制されている。特に、実施例2-9では、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂にビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂を25mol%添加するだけでもtanδの変動率が抑制されている。
【0118】
[フルオレン骨格の検出方法]
最終的な硬化物であるフィルムにフルオレン骨格が含まれていることは、GC-MSにより検出することができる。測定手順とその結果を下記に示す。
【0119】
作製した試料のうち、ビスフェノールA-ビスフェノールフルオレン共重合フェノキシ樹脂/MDIの等量の組成(実施例2-2)に対してGC-MS測定を実施した。実施例1と同様に、まず、作製したフィルムを500℃で加熱した。加熱時に発生したガスをクロマトグラムで分取した。実施例2-2のクロマトグラムの測定結果を図4に示す。図4中の(9)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果を図5(a)に示し、標準的なフルオレンのMSスペクトルを図5(b)に示す。また、図4中の(10)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果を図6(a)に示し、標準的なフェニルフルオレンのMSスペクトルを図6(b)に示す。図5(a)、図5(b)、図6(a)及び図6(b)より、それぞれ標準的なフルオレン、フェニルフルオレンに相当するMSスペクトルが検出できている。以上のように、構造中にフルオレン骨格が含まれていることをGC-MSにより確認することができる。
【0120】
(実施例3)
実施例3では、実施例1及び実施例2で用いたフェノキシ樹脂以外のフェノキシ樹脂を用いた。作製したフィルムの125℃、150℃、175℃、200℃のtanδの値を測定し、125℃から各温度へのtanδの変動率を算出した。
【0121】
(実施例3-1~3-5)
第1有機材料(主剤)として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(Tg=87℃)よりTgが高いフェノキシ樹脂を用いた。用いたフェノキシ樹脂の名称とTgを表5に示す。第2有機材料(硬化剤)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いた。メチルエチルケトン溶剤に溶解したフェノキシ樹脂とイソシアネート硬化剤を混合し、メチルエチルケトンもしくはテトラヒドロフランを希釈溶剤に用いて樹脂塗料を調合した。調合した塗料を、フィルム成型機を用いてドクターブレード法によりPETフィルム上に厚みが3μmになるようにフィルム成膜した。フィルム成型機は乾燥温度60℃で加熱搬送した。そのフィルムを熱風式オーブンにて180℃、4時間の熱処理を経て熱硬化させた。組成は全て、主剤と硬化剤が等量反応するように作製した。
【0122】
表5に示す第1有機材料は、上記式(4)で示されるビスフェノールS骨格を有するビスフェノールS型エポキシ樹脂と上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂を共重合して得られたフェノキシ樹脂、上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂と上記式(5)で示されるビスフェノールシクロヘキサノン骨格を有するビスフェノールテトラメチルシクロヘキサノン(TMC)型エポキシ樹脂を共重合して得られたフェノキシ樹脂、上記式(1)で示されるビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂と上記式(5)で示されるビスフェノールシクロヘキサノン骨格を有するビスフェノールTMC型エポキシ樹脂を共重合して得られたフェノキシ樹脂、上記式(1)で示されるビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂と上記式(3)で示されるビスフェノールフルオレン骨格を有するビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂を共重合して得られたフェノキシ樹脂、上記式(6)で示されるエポキシ変性ビスフェノールA骨格を有するエポキシ変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂と上記式(a)で示されるビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂を共重合して得られたフェノキシ樹脂の計5種類である。ビスフェノールS型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を共重合して得られるフェノキシ樹脂に関しては、ビスフェノールSとビスフェノールAの共重合比がモノマー比率で35/65であり、その他のフェノキシ樹脂に関しては、共重合比は全て50/50である。
【0123】
作製したフィルムについて、実施例1と同様、ガラス転移温度Tgfilm及び損失係数を測定した。
【0124】
125℃、150℃、175℃、200℃におけるtanδの値、125℃から150℃へのtanδの変動率、125℃から175℃へのtanδの変動率、及び、125℃から200℃へのtanδの変動率を表5に示した。表5の「判定」欄では、125℃から175℃へのtanδの変動率が100%を超えるものを×(不良)、0%を超えて100%以下であるものを○(良)、0%以下であるものを◎(優)で示した。
【0125】
【表5】
【0126】
実施例1及び2と同様に、実施例3-1~3-5では、従来のビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた比較例1の組成と比較して、tanδの変動率が抑制されている。
【0127】
実施例1~3の結果から、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂よりTgの高い第1有機材料(主剤)を用い、比較例1のフィルムよりTgfilmの高いフィルムを用いることで、tanδの変動率を抑制することができると考えられる。
【0128】
[ビスフェノールS骨格の検出方法]
実施例3においても、硬化後のフィルムに剛直な骨格が含まれていることをGC-MSにより検出することができる。代表的な例として、ビスフェノールS骨格を分取する方法とその結果を下記に示す。
【0129】
作製した試料のうち、ビスフェノールS-ビスフェノールA共重合フェノキシ樹脂/MDIの等量の組成(実施例3-1)に対してGC-MS測定を実施した。実施例1及び2と同様に、まず、作製したフィルムを500℃で加熱した。加熱時に発生したガスをクロマトグラムで分取した。実施例3-1のクロマトグラムの測定結果を図7に示す。図7中の(12)に示されている分取材料をMSスペクトルで測定した結果を図8(a)に示し、標準的な二酸化硫黄のMSスペクトルを図8(b)に示す。図8(a)及び図8(b)より、標準的な二酸化硫黄に相当するMSスペクトルが検出できている。以上のように、構造中にビスフェノールS骨格が含まれていることをGC-MSにより確認することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 フィルムコンデンサ
11 第1の誘電体樹脂フィルム
12 第2の誘電体樹脂フィルム
21 第1の対向電極(第1の金属層)
22 第2の対向電極(第2の金属層)
31 第1の外部端子電極
32 第2の外部端子電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8