(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電動作業機
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20221122BHJP
B25D 17/10 20060101ALN20221122BHJP
B25D 16/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25F5/00 G
B25F5/00 A
B25D17/10
B25D16/00
(21)【出願番号】P 2021501796
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003663
(87)【国際公開番号】W WO2020175007
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019033368
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】益子 弘識
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕太
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124061(JP,A)
【文献】特開昭60-207776(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087908(WO,A1)
【文献】特開2013-188850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F1/00-5/02
B25D1/00-17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、を備え、
前記制御部は、前記モータの
回転数を上昇させる起動制御において、前記モータの周囲温度が低温であることを示す低温判定条件が満たされない場合は第1起動制御を行い、前記低温判定条件が満たされた場合は第2起動制御を行い、
前記制御部は、
前記第1起動制御では、第1所定条件が満たされると、前記モータの回転数を低下させ、
前記第2起動制御では、前記第1所定条件が満たされても、前記モータの回転数を低下させず、
前記第1所定条件は、前記モータの駆動開始から所定時間が経過したときの前記モータの回転数が所定回転数未満であることを含む、電動作業機。
【請求項2】
前記低温判定条件は、前記モータの駆動開始から第1所定時間が経過したときの前記モータの回転数が第1回転数未満であることを含む、請求項1に記載の電動作業機。
【請求項3】
前記周囲温度を検出する温度検出手段を備え、
前記低温判定条件は、前記温度検出手段の検出値に関する条件を含む、請求項1に記載の電動作業機。
【請求項4】
前記モータ及び前記制御部を収容するハウジングと、
前記モータの駆動力により動作する先端工具と、を備え、
前記制御部は、前記第1所定条件が満たされた場合に、前記先端工具の動作により前記ハウジングが振り回されたと判断する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電動作業機。
【請求項5】
前記先端工具にかかる負荷が所定値以上の場合に、前記モータの駆動力を前記先端工具に伝達する伝達経路を切断するクラッチ部を有する、請求項4に記載の電動作業機。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2起動制御では、第2所定条件が満たされると、前記モータの回転数を低下させ
、
前記所定時間は、第2所定時間であり、
前記所定回転数は、第2回転数であり、
前記第1所定条件は、前記モータの駆動開始から第3所定時間が経過したときの前記モータの回転数が前記第2回転数未満であることを含み、
前記第2所定条件は、前記モータの駆動開始から前記第3所定時間が経過したときの前記モータの回転数が前記第2回転数よりも低い第3回転数未満であることを含む、請求項
1から5のいずれか一項に記載の電動作業機。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2起動制御では、前記第1起動制御と比較して、前記モータへの印加電圧の実効値を緩やかに高める、請求項1から3のいずれか一項に記載の電動作業機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンマドリル等の電動作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンマドリル等の電動作業機は、モータの駆動によって先端工具を回転させることで被加工材(例えば、コンクリート、鉄鋼、木材等)に穿孔穴を形成したり、先端工具に打撃力を加えることによって破砕したりすることができる。このような電動作業機において、作業時に先端工具が被加工材の固い箇所に引っ掛かり先端工具がロックしてしまう場合がある。先端工具がロックすると、ハウジングが先端工具の駆動によって大きく振り回されるキックバックが生じる。キックバックが発生する場合に備え、下記特許文献1に記載のように加速度センサを用いてハウジングに発生する回転方向の加速度を検知する方法や、ホールICを用いてモータの回転数の低下を検知する方法などが存在する。加速度を検知する方法を用いる場合、電動作業機に加速度センサを設ける必要があり、部品点数が増えることで製造コストが増大するほか、加速度センサの故障などによりキックバックが正常に検知できなくなる虞がある。これに対し、回転数を検知する方法を用いる場合、モータの回転制御に用いるホールICを流用できるため部品点数が増えることが無く、故障によりキックバックが正常に検知できなくなるリスクも抑制できる。このため、製造コスト及び製品の耐久性の観点では、キックバックの検出に加速度よりも回転数を用いるほうが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動作業機においては、作業環境が低温である場合に、駆動部品に塗布される潤滑材の粘度が高くなることで、常温時と比べてモータ起動時の挙動が異なることがあり、作業性が低下することがあった。例えば、電動作業機の一例であるハンマドリルにおいては、モータ始動時における本体の振り回され(キックバック)を抑制するため、本体の振り回されを検出するとモータを停止する振り回され検出が行われる。振り回されの検出は、ホールICを用い、モータの回転数が閾値を下回っていることを検出するか否かで判断する。しかし、低温時には潤滑剤の粘度が上昇し、常温時と比較してモータの回転数の上昇率が緩やかになるため、実際には振り回されが生じていない場合にも、電動作業機の制御部が振り回されを検出したと誤判断し、モータが停止してしまう虞があった。モータが所定の時間以上駆動して暖機運転を行えば、潤滑剤が暖められて前記の問題は解消するが、モータが充分な暖機を行う前に停止してしまうと、何度モータの始動を繰り返してもモータが暖機できないという課題が生じていた。また、潤滑剤の低温時にはモータにかかる負荷も大きくなるため、実際には問題のない作業負荷であっても、作業負荷に潤滑剤の負荷が組み合わさることで過負荷検出機能が働き、モータが停止してしまう虞があった。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、作業環境が低温の場合における作業性の低下を抑制することの可能な電動作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、電動作業機である。この電動作業機は、
モータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、を備え、
前記制御部は、前記モータの回転数を上昇させる起動制御において、前記モータの周囲温度が低温であることを示す低温判定条件が満たされない場合は第1起動制御を行い、前記低温判定条件が満たされた場合は第2起動制御を行い、
前記制御部は、
前記第1起動制御では、第1所定条件が満たされると、前記モータの回転数を低下させ、
前記第2起動制御では、前記第1所定条件が満たされても、前記モータの回転数を低下させず、
前記第1所定条件は、前記モータの駆動開始から所定時間が経過したときの前記モータの回転数が所定回転数未満であることを含む。
【0007】
前記低温判定条件は、前記モータの駆動開始から第1所定時間が経過したときの前記モータの回転数が第1回転数未満であることを含んでもよい。
【0008】
前記周囲温度を検出する温度検出手段を備え、前記低温判定条件は、前記温度検出手段の検出値に関する条件を含んでもよい。
【0011】
前記モータ及び前記制御部を収容するハウジングと、前記モータの駆動力により動作する先端工具と、を備え、前記制御部は、前記第1所定条件が満たされた場合に、前記先端工具の動作により前記ハウジングが振り回されたと判断してもよい。
【0012】
前記先端工具にかかる負荷が所定値以上の場合に、前記モータの駆動力を前記先端工具に伝達する伝達経路を切断するクラッチ部を有してもよい。
【0014】
前記制御部は、前記第2起動制御では、第2所定条件が満たされると、前記モータの回転数を低下させ、
前記所定時間は、第2所定時間であり、
前記所定回転数は、第2回転数であり、
前記第1所定条件は、前記モータの駆動開始から第3所定時間が経過したときの前記モータの回転数が前記第2回転数未満であることを含み、
前記第2所定条件は、前記モータの駆動開始から前記第3所定時間が経過したときの前記モータの回転数が前記第2回転数よりも低い第3回転数未満であることを含んでもよい。
【0016】
前記制御部は、前記第2起動制御では、前記第1起動制御と比較して、前記モータへの印加電圧の実効値を緩やかに高めてもよい。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業環境が低温の場合における作業性の低下を抑制することの可能な電動作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る電動作業機1の斜視図。
【
図5】電動作業機1におけるモータ6の、起動から120msec経過後までの回転数変化を、種々の場合について、低温判定用の第1回転数及び常温時のキックバック判定用の第2回転数と共に示すグラフ。
【
図6】本発明の実施の形態2に関し、
図5に対して、低温時かつキックバック発生時のモータ6の回転数変化を追加し、かつ低温時のキックバック判定用の第3回転数を追加したグラフ。
【
図7】実施の形態2における電動作業機の制御フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
(実施の形態1) 本実施の形態は、電動作業機1に関する。この電動作業機1は、モータ6の周囲温度が低温であるか否かによりモータ6の起動制御を異ならせ、低温時の誤ったキックバック検出を抑制することを特徴とする。起動制御とは、モータ6の駆動開始からモータ6の回転数を目標回転数まで上昇させていく過程の制御をいう。
【0022】
図1及び
図2を参照し、電動作業機1の機械構成を説明する。
図2により、電動作業機1における前後及び上下方向を定義する。電動作業機1は、外部の交流電源からの供給電力で動作するコード付きハンマドリルであり、先端工具19に回転力と打撃力を加えることで、コンクリートや石材等の被削材に対して、斫り作業、穴あけ作業、破砕作業を行うことができる。電動作業機1の外殻部は、ハウジング2及びギヤケース3によって構成される。ハウジング2は、例えば樹脂成形体である。ギヤケース3は、例えばアルミ等の金属製である。ギヤケース3には、サイドハンドル4が設けられる。
【0023】
ハウジング2は、モータ6等を収容するモータ収容部2aと、作業者が把持するハンドル部2bと、を有する。モータ収容部2aの上面には、作業者がモータ6の回転速度を切り替える操作パネル8が設けられる。操作パネル8は、速度切替ボタン8aと、速度表示部8bと、を含む。作業者は、速度切替ボタン8aにより、モータ6の回転速度を切り替えることができる。現在のモータ6の設定回転速度は、LED等の速度表示部8bに表示される。
【0024】
ハンドル部2bの上端部に、作業者がモータ6の駆動、停止を指示するためのトリガスイッチ7が設けられる。ハンドル部2bの下端部からは、外部の交流電源に接続するための電源コード27が延出する。ハンドル部2b内には、フィルタ基板21が設けられる。モータ6は、モータ収容部2a内に収容保持される。モータ6の上方かつ後方には、AC/DC変換回路基板29が設けられる。モータ6のステータ前方には、制御基板22及びインバータ基板25が設けられる。モータ6の出力軸6aは、制御基板22及びインバータ基板25を貫通する。出力軸6aの前部には、冷却用のファン23が設けられる。ファン23は、出力軸6aと一体に回転する。ファン23には、複数のマグネット24が設けられる。マグネット24は、ファン23の後方に臨み、制御基板22と対向する。
【0025】
ギヤケース3は、モータ6の回転を伝達して先端工具19を駆動(回転及び打撃)する動力伝達機構を収容する。この動力伝達機構の構成は周知なので、以下では簡単な説明に留める。モータ6の出力軸6aの前端部には、ギヤ9が設けられる。中間軸11の後端部には、ギヤ9と噛み合うギヤ10が設けられる。中間軸11には、第1クラッチ部材12、第2クラッチ部材13、及び往復動変換機構としてのレシプロベアリング26が設けられる。第1クラッチ部材12は、中間軸11の回転をレシプロベアリング26に伝達するか否かを切り替える。第2クラッチ部材13は、中間軸11の回転をシリンダ28の外周部に設けられたギヤ14に伝達するか否かを切り替える。第1クラッチ部材12及び第2クラッチ部材13による回転の伝達、遮断は、ギヤケース3の外部側方に臨む図示しないチェンジレバーによって作業者が切替え可能である。
【0026】
レシプロベアリング26は、中間軸11の回転を前後方向の往復動に変換してピストン15に伝達する。ピストン15は、シリンダ28内に設けられる。ピストン15内には、後方から順に、空気室16及びストライカ(打撃子)17が設けられる。ストライカ17の前方には、セカンドハンマ(中間子)18が設けられる。ピストン15の前方への移動により空気室16内の空気が圧縮され、その圧縮された空気の圧力(正圧)でストライカ17が前方に移動する。前方に移動するストライカ17がセカンドハンマ18を打撃し、その打撃力で前方に移動するセカンドハンマ18が先端工具19を打撃する。ピストン15の後方への移動により空気室16内の空気が膨張し、その膨張した空気の圧力(負圧)でストライカ17が後方に移動する。このように、ピストン15の往復動による空気室16内の空気圧の変動(圧縮/膨張)によりストライカ17が前後に往復駆動され、ストライカ17がセカンドハンマ18を打撃し、セカンドハンマ18が先端工具19を打撃する。
【0027】
シリンダ28は、中間軸11の回転が伝達されるギヤ14の回転によって回転駆動される。シリンダ28の前方に設けられた工具保持部5、及び工具保持部5に保持された先端工具19は、シリンダ28と共に回転する。シリンダ28の外周部には、ギヤ14及びスリップクラッチ機構20が設けられる。スリップクラッチ機構20は、ギヤ14のトルクが一定以上に大きくなるとスリップしてギヤ14とシリンダ28との間の回転伝達を遮断する。
【0028】
電動作業機1は、打撃モード、回転打撃モード、回転モードの3つの動作モードを有する。打撃モードでは、第1クラッチ部材12による回転伝達が有効で、第2クラッチ部材13による回転伝達が無効である。回転打撃モードでは、第1クラッチ部材12及び第2クラッチ部材13の双方の回転伝達が有効である。回転モードでは、第1クラッチ部材12による回転伝達が無効で、第2クラッチ部材13による回転伝達が有効である。
【0029】
図3は、電動作業機1の回路ブロック図である。交流電源31は、電動作業機1に電力を供給する外部電源である。フィルタ回路32は、
図2のフィルタ基板21に設けられ、回路上は交流電源31との接続端子間に設けられる。フィルタ回路32は、コンデンサC1及びインダクタL1からなる。フィルタ回路32は、後述のインバータ回路35やAC/DC変換回路33などのスイッチング素子が発する高周波ノイズが交流電源31側へ影響を及ぼさないようにフィルタリングする。
【0030】
AC/DC変換回路33は、
図2のAC/DC変換回路基板29に設けられる。AC/DC変換回路33は、ダイオードブリッジDBにより、交流電源31から供給される交流電圧を直流電圧へ変換し、変換後は電解コンデンサC2によって直流電圧を平滑する。制御回路電圧供給回路34は、ダイオードブリッジDB及び電解コンデンサC2によって整流、平滑された電圧を、所定電圧の直流電圧に変換して制御回路部40に供給する。
【0031】
インバータ回路35は、スイッチング素子Q1~Q6を三相ブリッジ接続した回路であり、AC/DC変換回路33の出力電圧をスイッチングしてモータ6のステータコイルに供給する。インバータ回路35は、
図2のインバータ基板25に設けられる。抵抗Rは、モータ6の電流経路に設けられる。サーミスタ等の温度検出素子(温度検出手段)48は、インバータ回路35の近傍あるいはモータ6の近傍に設けられ、温度検出値をマイコン45に送信する。3つのホールIC47は、
図2の制御基板22に設けられ、ファン23に設けられたマグネット24と対向する。ホールIC47は、ファン23の回転、すなわちモータ6の回転に応じた信号を出力する。
【0032】
制御回路部40を構成する各回路部品は、
図2の制御基板22に設けられる。制御回路部40において、モータ電流検出回路41は、抵抗Rの両端の電圧によりモータ6の電流を検出し、制御部としてのマイコン(マイクロコントローラ)45に送信する。降圧回路42は、制御回路電圧供給回路34の出力電圧を降圧し、マイコン45に供給する。制御信号出力回路43は、マイコン45の制御に従い、インバータ回路35のスイッチング素子Q1~Q6の各ゲートに制御信号(駆動信号)、例えばPWM信号を印加する。ホールIC信号検出回路44は、ホールIC47の出力信号を受信し、モータ6の回転位置に応じた信号をマイコン45に送信する。マイコン45は、CPUやタイマ、ROM、RAM等を含み、モータ6の電流や回転位置、及び温度に応じて制御信号出力回路43を制御し、モータ6の駆動を制御する。
【0033】
図4は、電動作業機1の制御フローチャートである。このフローチャートは、作業者がトリガスイッチ7をオン操作することによって開始される。マイコン45は、モータ6の駆動を開始する(S1)。マイコン45は、モータ6の駆動開始から第1所定時間としての30msが経過すると(S3)、モータ6の回転数が第1回転数としての1,800rpm以上か否かを確認する(S5)。マイコン45は、モータ6の回転数が1,800rpm以上である場合(S5のYes)、モータ6の周囲温度が常温であると判断し、モータ6の駆動開始から第2所定時間としての90msが経過すると(S7)、モータ6の回転数が第2回転数としての3,500rpm以下か否かを確認する(S9)。マイコン45は、モータ6の回転数が3,500rpm以下の場合(S9のYes)、先端工具19によって本体が振り回されるキックバックが発生したと判断し、モータ6を停止する(S11)。
【0034】
マイコン45は、モータ6の駆動開始から30msが経過したときのモータ6の回転数が1,800rpm以上でない場合(S5のNo)、モータ6の周囲温度が低温であると判断し、トリガスイッチ7がオフにならない限りモータ6の駆動を継続し(S13のNo)、トリガスイッチ7がオフになると(S13のYes)、モータ6を停止する(S15)。マイコン45は、モータ6の駆動開始から90msが経過したときのモータ6の回転数が3,500rpm以下でない場合(S9のNo)は、キックバックが発生していないと判断し、トリガスイッチ7がオフにならない限りモータ6の駆動を継続し(S13のNo)、トリガスイッチ7がオフになると(S13のYes)、モータ6を停止する(S15)。
【0035】
図5は、電動作業機1におけるモータ6の、起動から120msec経過後までの回転数変化を、種々の場合について、低温判定用の第1回転数及び常温時のキックバック判定用の第2回転数と共に示すグラフである。キックバックが発生する場合のモータ6の回転数の変化は様々なケースがあるため、
図5では三パターンを併記している。常温及び低温は、モータ6の周囲温度に関する記載である。モータ6を長時間駆動していないときはモータ6の周囲温度は外気温と一致するが、モータ6を駆動するとモータ6の周囲温度は外気温よりも高くなる。低温時の通常起動の場合に、常温時の通常起動の場合と比較してモータ6の回転数の上昇が遅いのは、動力伝達機構に塗布される潤滑材(グリス)の粘度が低温時は常温時と比較して高いことによる。
【0036】
図5に示すように、モータ6の駆動開始から第1所定時間としての30msが経過した時点において、低温時の通常起動以外では、モータ6の回転数が第1回転数としての1,800rpm以上となる。一方、同時点において、低温時の通常起動では、モータ6の回転数が1,800rpm未満である。このため、マイコン45は、モータ6の駆動開始から30msが経過した時点のモータ6の回転数が1,800rpm以上か否か(
図4のS4に対応)、すなわちモータ6の周囲温度が低温であることを示す低温判定条件が満たされるか否かにより、モータ6の周囲温度が常温であるか低温であるかを判断する。具体的には、マイコン45は、モータ6の駆動開始から30msが経過した時点のモータ6の回転数が1,800rpm以上の場合はモータ6の周囲温度が常温であると判断し、第1起動制御を行う。マイコン45は、同時点のモータ6の回転数が1,800rpm未満の場合はモータ6の周囲温度が低温であると判断し、第2起動制御を行う。
【0037】
図5に示すように、モータ6の駆動開始から第2所定時間としての90msが経過した時点において、常温時の通常起動では、モータ6の回転数が第2回転数としての3,500rpmを超える。一方、同時点において、常温時のキックバック発生時、及び低温時の通常起動以外では、モータ6の回転数が3,500rpm以下となる。このため、マイコン45は、モータ6の周囲温度が常温の場合、すなわち第1起動制御においては、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が3,500rpmを超えているか否か(
図4のS9に対応、第1所定条件を満たすか否か)により、キックバックが発生したか否かを判断する。具体的には、マイコン45は、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が3,500rpmを超えている場合はキックバック無しと判断してモータ6の駆動を継続する。マイコン45は、同時点のモータ6の回転数が3,500rpm以下の場合はキックバック発生と判断し、モータ6の回転数を低下させる。
図4のステップS11では、モータ6の回転数を低下させることの一例として、モータ6を停止させている(モータ6の回転数を0に低下させている)。一方、マイコン45は、モータ6の周囲温度が低温の場合、すなわち第2起動制御においては、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数によるキックバック発生有無の判断を行わない。これにより、低温時の通常起動においてモータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が3,500rpm以下であっても、マイコン45は、キックバックが発生しているという誤った判断をしないことになる。尚、低温時の通常起動であっても、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が3,500rpm以下である場合に、わずかに回転数を低下させても良い。
【0038】
本実施の形態によれば、マイコン45は、モータ6の周囲温度が低温の場合に、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数によるキックバック発生有無の判断を行わないため、キックバックが発生していないにも関わらずキックバックが発生したと誤検出してモータ6を停止させることを抑制することができる。これにより、作業環境が低温の場合における作業性の低下を抑制することができる。
【0039】
本実施の形態において、モータ6の駆動開始から30msが経過した時点のモータ6の回転数が1,800rpm以上か否かによりモータ6の周囲温度が低温であるか否かを判断することに替えて、温度検出素子48の出力信号によりモータ6の周囲温度が低温であるか否かを判断してもよい。温度検出素子48がインバータ回路35の近傍にある場合でも、インバータ回路35の温度とモータ6の周囲温度は相関関係があるため、マイコン45は、温度検出素子48の出力信号によりモータ6の周囲温度が低温であるか否かを判断できる。
【0040】
(実施の形態2) 本実施の形態の電動作業機の機械構成及び回路構成は、
図1~
図3に示す実施の形態1の電動作業機1と共通である。本実施の形態の電動作業機では、実施の形態1の電動作業機1と異なり、モータ6の周囲温度が低温の場合に、常温の場合と異なる条件によりキックバックの有無を判定する。以下、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
図6は、本発明の実施の形態2に関し、
図5に対して、低温時かつキックバック発生時のモータ6の回転数変化を追加し、かつ低温時のキックバック判定用の第3回転数を追加したグラフである。
【0041】
モータ6の駆動開始から第3所定時間としての90msが経過した時点において、低温時の通常起動では、モータ6の回転数が第3回転数としての2,000rpmを超える。一方、同時点において、低温時のキックバック発生時は、モータ6の回転数が2,000rpm以下となる。このため、マイコン45は、モータ6の周囲温度が低温の場合、すなわち第2起動制御においては、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が2,000rpmを超えているか否か(第2所定条件を満たすか否か)により、キックバックが発生したか否かを判断する。具体的には、マイコン45は、モータ6の駆動開始から90msが経過した時点のモータ6の回転数が2,000rpmを超えている場合はキックバック無しと判断してモータ6の駆動を継続する。マイコン45は、同時点のモータ6の回転数が2,000rpm以下の場合はキックバック発生と判断し、モータ6の回転数を低下させる(例えばモータ6を停止する)。
【0042】
図7は、実施の形態2における電動作業機の制御フローチャートである。以下、
図4に示す実施の形態1のフローチャートとの相違点を中心に説明する。マイコン45は、モータ6の駆動開始から30msが経過したときのモータ6の回転数が1,800rpm以上でない場合(S5のNo)、モータ6の周囲温度が低温であると判断し、モータ6の駆動開始から第3所定時間としての90msが経過すると(S21)、モータ6の回転数が第3回転数としての2,000rpm以下か否かを確認する(S23)。マイコン45は、モータ6の回転数が2,000rpm以下の場合(S23のYes)、先端工具19によって本体が振り回されるキックバックが発生したと判断し、モータ6を停止する(S25)。マイコン45は、モータ6の駆動開始から90msが経過したときのモータ6の回転数が2,000rpm以下でない場合(S23のNo)は、キックバックが発生していないと判断し、トリガスイッチ7がオフにならない限りモータ6の駆動を継続し(S13のNo)、トリガスイッチ7がオフになると(S13のYes)、モータ6を停止する(S15)。
【0043】
本実施の形態のその他の点は、実施の形態1と同様である。本実施の形態によれば、実施の形態1の効果に加え、モータ6の周囲温度が低温の場合もキックバック制御(キックバック発生時にモータ6の回転数を低下させる制御)を行える。ここで、モータ6の周囲温度が低温の場合にキックバックの有無を判定する閾値となる第3回転数を、モータ6の周囲温度が低温の場合の通常起動における90msでのモータ6の回転数よりも低い2,000rpmとすることで、キックバックの誤検出を抑制できる。尚、本実施の形態においては第2の所定時間と第3の所定時間とを同一の90msと設定したが、これを異なる時間としても良い。
【0044】
(実施の形態3) 本実施の形態の電動作業機の機械構成及び回路構成は、
図1~
図3に示す実施の形態1の電動作業機1と共通である。本実施の形態の電動作業機では、実施の形態1の電動作業機1と異なり、モータ6の周囲温度が低温の場合に、常温の場合と比較して、モータ6に印加する電圧の実効値を目標値に向けて緩やかに高める。具体的には、マイコン45は、モータ6の駆動開始から30msが経過した時点のモータ6の回転数あるいは温度検出素子48の出力信号によりモータ6の周囲温度が低温である判断した場合に、インバータ回路35のスイッチング素子Q1~Q6に印加するPWM信号のデューティ(以下、単に「デューティ」とも表記)を、モータ6の周囲温度が常温である場合と比較して目標値に向けて緩やかに高める。これにより、モータ6の周囲温度が低温の場合に、モータ6の回転数が、モータ6の周囲温度が常温の場合と比較して、目標回転数に向けて緩やかに高くなる。
【0045】
モータ6の周囲温度が低温の場合、潤滑剤の粘度が高いため、常温の場合と同じようにデューティを高めると、モータ6にかかる負荷が大きくなる。このため、過負荷保護機能が作動してモータ6が停止したり、モータ6の起動時のピーク電流が大きくなって電気部品が故障したりする恐れがある。この点、本実施の形態では、モータ6の周囲温度が低温の場合に、常温の場合よりも緩やかにデューティを高めるため、そのような不具合の発生を抑制でき、作業環境が低温の場合における作業性の低下を抑制することができる。また、作業環境が低温であることに起因する打撃不良の発生も抑制できる。
【0046】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0047】
実施の形態1、2で説明したキックバック制御は、ハンマドリル以外にも、ハウジングが先端工具の駆動によって振り回されるキックバックが発生し得る他の種類の電動作業機に適用可能である。また、実施の形態3で説明した、モータ6の周囲温度が低温の場合に常温の場合よりも緩やかにデューティを高める制御は、キックバックが発生しない電動作業機にも適用可能である。その他、実施の形態で例示したモータ6の回転数やモータ6の駆動開始からの経過時間等の具体的な値は、設計により適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…電動作業機(ハンマドリル)、2…ハウジング、2a…モータ収容部、2b…ハンドル部、3…ギヤケース、4…サイドハンドル、5…先端工具保持部、6…モータ、7…トリガスイッチ、8…操作パネル、9…ギヤ、10…ギヤ、11…中間軸、12…第1クラッチ部材、13…第2クラッチ部材、14…ギヤ、15…ピストン、16…空気室、17…ストライカ(打撃子)、18…セカンドハンマ(中間子)、19…先端工具、20…スリップクラッチ機構(クラッチ部)、21…フィルタ基板、22…制御基板、23…ファン、24…マグネット、25…インバータ基板、26…レシプロベアリング(往復動変換機構)、27…電源コード、28…シリンダ、29…AC/DC変換回路基板、31…交流電源、32…フィルタ回路、33…AC/DC変換回路、34…制御回路電圧供給回路、35…インバータ回路、40…制御回路部、41…モータ電流検出回路、42…降圧回路、43…制御信号出力回路、44…ホールIC信号検出回路、45…マイコン(制御部)、47…ホールIC、48…温度検出素子