(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】対象者の時間的情報の提供
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20221122BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20221122BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20221122BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61B5/11
A61B5/16 110
A61B5/029
A61B5/113
(21)【出願番号】P 2021528015
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 IB2019055952
(87)【国際公開番号】W WO2020021377
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-03-15
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】キンヌネン・イェレ
(72)【発明者】
【氏名】メリヘイナ・ウルフ
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064338(JP,A)
【文献】特表2017-525444(JP,A)
【文献】国際公開第2017/025861(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/032042(WO,A1)
【文献】INAN O T et al.,”Robust ballistocardiogram acquisition for home monitoring”,Physiological measurement,2009年01月16日,Vol. 30,pp. 169-185
【文献】NURMI Sami et al.,”Nocturnal Sleep Quality and Quantity Analysis with Ballistocardiography”,[online],2016年06月13日,pp. 1-57,インターネット<URL: https://aaltodoc.aalto.fi/bitstream/handle/123456789/20858/master_Nurmi_Sami_2016.pdf?sequence=1&isAllowed=y>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A61B 5/16
A61B 5/029
A61B 5/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-対象者の心弾動図信号を受信することと、
-前記心弾動図信号を処理して、少なくとも心拍間隔時間(TB2B)信号および一回拍出量(SV)信号を取得することと、
-心拍に起因しない誤った値を削除するためのTB2B信号のフィルタリングであって、-第1の期間の平均TB2B信号強度を算出することと、
-前記TB2B信号強度の許容変動範囲を定義することと、
-前記許容変動範囲内に収まらないピークを前記TB2B信号から削除して、フィルタリングされたTB2B信号を生成することと、
を含むTB2B信号のフィルタリングにより、前記フィルタリングされたTB2B信号を生成することと、
-前記SV信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったSV値を削除することにより、フィルタリングされたSV信号を生成することと、
-前記フィルタリングされたTB2B信号から、心拍に起因しない誤ったピークによってもたらされる誤差を実質的に含まない真のHR信号を算出することと、
-心拍に起因しない誤った値によってもたらされる誤差を実質的に含まない真のSV信号として前記フィルタリングされたSV信号を用い、前記フィルタリングされたSV信号から一回拍出量変動(SVV)信号を算出することと、
-前記真のHR信号をフィルタリングして異常心拍を検出することと、
-前記真のSV信号と、前記SVV信号とのうちの少なくとも1つをフィルタリングして前記一回拍出量変動の変化を検出し、前記一回拍出量変動の変化を、異常心拍の正常心拍からの分離を容易にする追加パラメータとして使用することと、
-異常心拍が検出された場合には、さらに、前記検出された異常心拍に関連する不整脈の種類を特定することと、
-前記特定された不整脈の発生に関する時間的情報および種類、ならびに前記検出された一回拍出量変動の変化に関する時間的情報を出力することと、
を含む方法であって、さらに、
-前記TB2B信号のフィルタリングおよび前記SV信号のフィルタリングに関連して、前記誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する情報を取得することと、
-
スライディングウィンドウにわたって前記受信した心弾動図信号の強度の平
均を算出することにより信号強度(SS)信号を取得することと、
-事前定義された信号強度間隔内のSS信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも弱いSS信号がノイズを表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも強いSS信号が前記対象者の動きを表すと見なされる、前記SS信号を使用して、前記受信した心弾動図信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すのか、バックグラウンドノイズを表すのか、または前記対象者の動きを表すのかを識別することと、
-前記誤ったTB2B信号ピークと、前記誤ったSV信号値と、前記SS信号とのうちの少なくとも1つの発生に関する前記情報に基づいて、前記対象者の動きの時間的表示を出力することと、
を含む、対象者に関する時間的情報を提供する方法。
【請求項2】
-呼吸数(RR)信号を算出することと、
-前記フィルタリングされたTB2B信号から、HFHRV(高周波心拍変動)信号、および、LFHRV(低周波心拍変動)信号とVLFHRV(超低周波心拍変動)信号とのうちの少なくとも1つを算出することと、
-前記フィルタリングされたSV信号、前記RR信号、および、前記LFHRV信号とVLFHRV信号とのうちの少なくとも1つを分析して睡眠障害の発生を判定することと、1つまたは複数の睡眠障害が発生したと判定された場合には、睡眠障害の種類を特定し、睡眠障害の前記発生に関する時間的情報および前記特定された種類を不整脈に関する前記時間的情報と組み合わせて出力することと、
-少なくとも前記RR信号と、前記HFHRV信号と、前記LFHRV信号とを分析して、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つの時間的情報を判定し、前記判定された、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つに関する前記それぞれの時間的情報を、不整脈に関する前記時間的情報と組み合わせて出力することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-第2の期間の平均SV信号強度を算出することと、
-前記SV信号値の許容変動範囲を定義することと、
-前記許容変動範囲内に収まらない値を前記SV信号から削除して、前記フィルタリングされたSV信号を生成することと、
を前記SV信号の前記フィルタリングに含む、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
-第3の期間中の正常心拍間隔時間を定義することと、
-前記第3の期間中の前記心拍間隔時間の正常変動に対応する時間枠を指定することと、-前記時間枠よりも短い、または長い心拍間隔時間を、異常心拍として特定することと、を前記真のHR信号の前記フィルタリングに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記時間枠が前記対象者の過去のHRVデータに基づいて動的に定義される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
-前記対象者の長手方向の加速度を測定する加速度計から前記対象者の前記心弾動図信号を取得すること
をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
-対象者の心弾動図信号を取得するように構成された加速度計と、
-前記心弾動図信号を処理して、少なくともTB2B(心拍間隔時間)信号と、RR(呼吸数)信号と、SV(一回拍出量)信号とを取得するように構成された処理手段であって、
前記TB2B信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったTB2B信号ピークを削除することにより、フィルタリングされたTB2B信号を生成するように構成され、
-第1の期間の平均TB2B信号強度を算出し、
-前記TB2B信号強度の許容変動範囲を定義し、
-前記許容変動範囲内に収まらないピークを前記TB2B信号から削除して、前記フィルタリングされたTB2B信号を生成するように構成された第1のフィルタと、
-前記SV信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったSV信号ピークを削除することにより、真のSV信号を生成するように構成された第2のフィルタと、
-前記フィルタリングされたTB2B信号から、心拍に起因しない誤ったピークによってもたらされる誤差を実質的に含まない真のHR信号を算出するように構成された算出手段と、
-前記真のSV信号から一回拍出量変動、すなわちSVV信号を算出するように構成された算出手段と、
-前記真のHR信号をフィルタリングして異常心拍を検出するように構成され第3のフィルタと、
を含む処理手段と、を含むシステムであって、
前記処理手段が、前記真のSV信号と前記SVV信号とをフィルタリングして前記一回拍出量変動の変化を検出し、前記一回拍出量変動の変化を、異常心拍の正常心拍からの分離を容易にする追加パラメータとして使用するように構成され、異常心拍が検出された場合には、さらに、前記異常心拍に関連する不整脈の種類を特定し、前記特定された不整脈の発生に関する時間的情報および種類、ならびに前記検出された一回拍出量変動に関する時間的情報を出力するように構成されており、
前記処理手段が、さらに、
-前記TB2B信号のフィルタリングおよび前記SV信号のフィルタリングに関連して、前記誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する情報を取得し、
-
スライディングウィンドウにわたって前記
取得した心弾動図信号の強度の平
均を算出することにより信号強度(SS)信号を取得し、
-事前定義された信号強度間隔内のSS信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも弱いSS信号がノイズを表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも強いSS信号が前記対象者の動きを表すと見なされる、前記SS信号を使用して、前記
取得した心弾動図信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すのか、バックグラウンドノイズを表すのか、または前記対象者の動きを表すのかを識別するように構成され、
-前記出力ユニットが、さらに、前記誤ったTB2B信号ピークと、前記誤ったSV信号値と、前記SS信号とのうちの少なくとも1つの発生に関する前記情報に基づいて、前記対象者の動きの時間的表示を提供するように構成される、対象者に関する時間的情報を提供するシステム。
【請求項8】
-呼吸数(RR)信号を算出し、
-前記フィルタリングされたTB2B信号から、HFHRV(高周波心拍変動)信号、および、LFHRV(低周波心拍変動)信号とVLFHRV(超低周波心拍変動)信号とのうちの少なくとも1つを算出し、
-前記SV信号、前記RR信号、および、前記LFHRV信号とVLFHRV信号とのうちの少なくとも1つを分析して睡眠障害の発生を判定し、1つまたは複数の睡眠障害が発生したと判定された場合には、睡眠障害の種類を特定し、
-睡眠障害の前記発生に関する時間的情報および特定された種類を不整脈に関する前記時間的情報と組み合わせて出力し、
-少なくとも前記RR信号と、前記HFHRV信号と、前記LFHRV信号とを分析することにより、ストレスと、夜間回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つに関する時間的情報を判定し、
-前記判定された、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つ、および睡眠障害に関する時間的情報を、不整脈に関する前記時間的情報と組み合わせて出力するように
前記処理手段がさらに構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
-第2の期間の平均SV信号強度を算出することと、
-前記SV信号値の許容変動範囲を定義することと、
-前記許容変動範囲内に収まらない値を前記SV信号から削除して、前記真のSV信号を生成することと、
を前記SV信号の前記フィルタリングに含む、請求項7から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
-第3の期間中の正常心拍間隔時間を定義することと、
-前記第3の期間中の前記心拍間隔時間の正常変動に対応する時間枠を指定することと、
-前記時間枠よりも短い、または長い心拍間隔時間を、不整脈を示す異常心拍として特定することと、
を前記真のHR信号の前記フィルタリングに含む、請求項7から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記時間枠が前記対象者の過去のHRVデータに基づいて動的に定義される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記加速度計が、前記対象者の長手方向の加速度を測定することにより、前記対象者の前記心弾動図信号を取得するように構成される、請求項7から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
-対象者の心弾動図信号を受信するステップと、
-前記心弾動図信号を処理して、少なくとも心拍間隔時間(TB2B)信号および一回拍出量(SV)信号を取得するステップと、
-心拍に起因しない誤った値を削除するためのTB2B信号のフィルタリングであって、
-第1の期間の平均TB2B信号強度を算出するステップと、
-前記TB2B信号強度の許容変動範囲を定義するステップと、
-前記許容変動範囲内に収まらないピークを前記TB2B信号から削除して、フィルタリングされたTB2B信号を生成するステップと、を含むTB2B信号のフィルタリングにより、前記フィルタリングされたTB2B信号を生成するステップと、
-前記SV信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったSV値を削除することにより、真のSV信号を生成するステップと、
-前記フィルタリングされたTB2B信号から、心拍に起因しない誤ったピークによってもたらされる誤差を実質的に含まない真のHR信号を算出するステップと、
-前記真のSV信号から一回拍出量変動(SVV)信号を算出するステップと、
-前記真のHR信号をフィルタリングして異常心拍を検出するステップと、
-前記真のSV信号と、前記SVV信号とのうちの少なくとも1つをフィルタリングして前記一回拍出量変動の変化を検出し、前記一回拍出量変動の変化を、異常心拍の正常心拍からの分離を容易にする追加パラメータとして使用するステップと、
-異常心拍が検出された場合には、さらに、前記検出された異常心拍に関連する不整脈の種類を特定するステップと、
-前記特定された不整脈の発生に関する時間的情報および種類と、前記検出された一回拍出量変動の変化に関する時間的情報とを出力するステップと、
をコンピューティングシステムまたはデバイスに実行させ、前記ステップが、さらに、-前記TB2B信号のフィルタリングおよび前記SV信号のフィルタリングに関連して、前記誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する情報を取得するステップと、
-
スライディングウィンドウにわたって前記受信した心弾動図信号の強度の平
均を算出することにより信号強度(SS)信号を取得するステップと、
-事前定義された信号強度間隔内のSS信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも弱いSS信号がノイズを表すと見なされ、前記事前定義された信号強度間隔よりも強いSS信号が前記対象者の動きを表すと見なされる、前記SS信号を使用して、前記受信した心弾動図信号が前記対象者からの実際のBCG測定結果を表すのか、バックグラウンドノイズを表すのか、または前記対象者の動きを表すのかを識別するステップと、
-前記誤ったTB2B信号ピークと、前記誤ったSV信号値と、前記SS信号とのうちの少なくとも1つの発生に関する前記情報に基づいて、前記対象者の動きの時間的表示を出力するステップと、
を含む、コンピューティングデバイスまたはシステムで実行された場合に、対象者に関する時間的情報を提供する方法を実行するように構成されたコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人などの対象者をモニタリングし、対象者に関する時間的情報を提供することに関する方法、システム、およびコンピュータプログラム製品に関する。より具体的には、本発明は、単一の心弾動図信号に基づいて、夜間不整脈の診断に使用することができる、対象者に関する時間的情報を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈の診断は、不整脈が慢性または持続性であれば容易であるが、多くの場合、心不整脈は本質的に一時的であり、予兆なく発生し回復する。多くの症例で、さまざまな種類の心不整脈は、特に初期段階では、睡眠中、具体的には特定の睡眠段階および休息状態の間にしか発生しない場合があり、あるいは毎晩または毎週であっても発生しない場合がある。
【0003】
心疾患を持たない個別症例での複数の研究は、洞性徐脈、洞休止、および1型2度房室(AV)ブロックが睡眠中によくみられることを示す。これらは正常で、睡眠中に生じる自律神経の緊張の変化を反映しているのであって、症状を伴わない限り介入を必要としない。
【0004】
レム(急速眼球運動)睡眠エピソードは、約90分ごとに発生し、夢の活動の大部分に関連している。脳の興奮性の増加は、ノンレム睡眠の安定した自律神経状態を混乱させ、覚醒時の状態を超えることもある交感神経活動の短いバーストを引き起こして、不定期の劇的な高血圧と頻脈とをもたらし、多くの場合、ノンレム睡眠の規則的な呼吸パターンの混乱を伴う。致命的ではない心筋梗塞の発生、植込み型除細動器の放電、および心臓突然死は、夜間を通じて不均一に発生する。
【0005】
夜間不整脈の発生する確率を顕著に高める条件の一部には、閉塞性睡眠時無呼吸および中枢性睡眠時無呼吸があり、うっ血性心不全または心室細動などの致命的な状態になる可能性を伴う。乳幼児突然死症候群が夜間心室性不整脈に関連することも示唆されている。
【0006】
したがって、夜間測定は、多種多様な心不整脈の指標を提供することができ、測定結果を同時測定の自律神経系の状態、睡眠段階に関連付けることによって、および閉塞性睡眠時無呼吸または中枢性睡眠時無呼吸のような、関連する可能性のある睡眠現象の検出に関連付けることによって、心不整脈の検出可能性を高め、それにより診断の向上を容易にすることができる。
【0007】
心弾動図検査(BCG)は、心臓にかかる衝撃力を測定する。心電図信号(ECG)の機械的応答として特徴付けることができる。心臓が血液を拍出するとき、心臓の動きが胸部にもたらす反跳効果と、血液の動きが全身にもたらす反跳効果との、2つの機械的効果が測定される可能性がある。心弾動信号とも呼ばれる心弾動図(BCG)信号は、特徴的な形式を有し、体内を巡る血流に基づく。この信号により、例えばBCG信号の遅延および形状の詳細により、心機能障害を明らかにすることができる。BCG信号のいわゆるJピークは、心電図(ECG)でRピークが使用されるのと同様の方法で、心拍数(HR)および心拍変動(HRV)の測定に使用することができる。
【0008】
心弾動図データは、心臓の心筋活動に応答して生じる身体の機械的な運動の程度を示す。そのような心弾動図データを使用して、さらに対象者の心臓の動きを示すデータを処理することができる。単数または複数の加速度計、あるいは、単数または複数の角速度センサに基づく心弾動図検査は、心臓の相対的な一回拍出量と心拍間隔時間との両方を測定するための、非侵襲的で邪魔にならない、比較的軽量な方法を提供する。
【0009】
心拍変動(HRV)とは、心臓の拍動間隔の変動を指す。測定される生理学的現象はHRVと心拍間隔とで同一であるが、これらを説明する典型的なパラメータは異なる。心拍間隔時間は通常、時間スケールで表されるが、心拍数(HR)は通常、頻度スケール、例えば1分あたりの心拍数で表される。心拍変動(HRV)は、複数の連続した心拍間の相対速度の変化を示すことにより表すことができる。心拍変動(HRV)は、適切なデータ処理機能を使用した心拍間隔の検出から算出することできる。心拍間隔の変動は生理学的現象であって、心臓の洞房結節はいくつかの異なる入力を受け取り、瞬時心拍数および瞬時心拍数のばらつきはこれらの入力の結果である。最近の研究では、高い心拍変動(HRV)が健康と高レベルの体力とに関連づけられるようになり、一方で心拍変動(HRV)の低下はストレスおよび疲労に関連づけられている。
【0010】
周波数領域での心拍変動(HRV)の分析は、自律神経系の心臓血管制御の研究で広く使用されているツールである。通常、心拍変動は、スペクトルプロファイルで、高周波(HF)帯域(0.10~0.40Hz)と、低周波(LF)帯域(0.04~0.10Hz)と、超低周波(VLF)帯域(<0.04Hz)とに区分される。例えば、呼吸周期は、心拍数の自然で明確に検出可能な変動を引き起こし、ECGのR-R間隔と、BCGのJ-J間隔とは、吸気時に短縮され、呼気時に延長される。この変動は呼吸性洞性不整脈(RSA)と呼ばれ、高周波(HF)帯域で検出される。低周波(LF)帯域(0.04~0.10Hz)は、いわゆる0.1Hzの変動を含む、血圧および血管運動神経緊張度の調節に関連する周期的変動を表す。高周波(HF)帯域での心拍変動は、高周波心拍変動(HFHRV)と呼ぶことができる。低周波(LF)帯域での心拍変動は、低周波心拍変動(LFHRV)と呼ぶことができる。同様に、超低周波(VLF)帯域での心拍変動は、超低周波心拍変動(VLFHRV)と呼ぶことができる。
【0011】
一回拍出量(SV)とは、ここでは、心拍ごとに心臓の1つの心室から拍出される血液量を指す。一回拍出量は、拍動直前の血液量(拡張末期容積と呼ばれる)から拍動終了時の心室の血液量(収縮末期容積と呼ばれる)を差し引くことにより、心室容積の測定値から算出することができる。一回拍出量を検出する方法には、心エコー図と、心弾動図デバイスと、光電容積脈波計(PPG)または圧力センサを使用した脈波信号測定とを含む。
【0012】
一回拍出量変動(SVV)とは、人工呼吸器によって誘発される動脈血圧の変化を指し、対象者の一回拍出量における変動の生理学的現象である。一回拍出量変動(SVV)は、陰圧換気(自発呼吸)に続発する胸腔内圧の変化により、動脈圧が吸気時に低下し、呼気時に上昇する自然発生現象である。一回拍出量変動(SVV)は、一回拍出量(SV)の最大と最小との間の変化を、変動期間の最小一回拍出量と最大一回拍出量との平均で割ったパーセンテージと定義することができる。
【0013】
呼吸数(RR)とは、対象者の呼吸の回数を指す。心臓病学の指標ではないが、呼吸は、単数または複数の加速度計、および/あるいは、単数または複数の角速度センサで検出可能な対象者の体の動きを引き起こすため、心弾動図の検出に使用されるものと同一の単数または複数のセンサを使用して、呼吸数(RR)を検出することができる。例えば、呼吸数(RR)は、呼吸周期に起因するHFHRVの変化を検出することにより、心拍数信号または心拍変動信号から間接的に取得することができる。一回拍出量(SV)信号の振幅は呼吸によって変調されるため、呼吸数(RR)は、一回拍出量変動(SVV)信号から間接的に取得することもできる。
【0014】
先行技術の説明
フィンランド国特許発明第126631号明細書は、心弾動図検査(BCG)を使用して取得された心拍変動を使用する方法を開示し、ストレスと、夜間回復と、睡眠の質とを推定する優れたツールを提供している。
【0015】
フィンランド国特許発明第126600号明細書は、BCGが睡眠時無呼吸を検出するためにも使用され得ることを開示している。
アールト大学のSami Nurmiによる修士論文「Nocturnal sleep quality and quantity analysis with ballistography」は、睡眠の定性的および定量的な分析のための心弾動図検査に基づく方法の有用性とパフォーマンスとを評価する。
スタンフォード大学のO.T.Inan,M.Etemadi,R.M.Wiard,L.Giovangrandi and G.T.A.Kovacsによる「Robust ballistocardiogram acquisition for home monitoring」は、BCG信号を取得する方法を開示する。
【0016】
BCG測定は邪魔にならず、睡眠および休息にほとんど、またはまったく影響を与えないため、継続的な長期モニタリングに適している。したがって、BCGは、睡眠段階および睡眠時無呼吸の検出に関連する多くの問題を克服する。
【0017】
夜間不整脈を測定する最先端の方法は、患者の胸部に取り付けられた記録計と心電図(ECG)電極を使用した24時間ホルタ測定である。ECG測定はあまり簡便ではなく、患者にとって煩わしいため、通常の夜間にはみられる不整脈を示さないという潜在的な結果で睡眠段階を歪める可能性がある。人の動きに起因するアーチファクトは、不整脈の誤検出を引き起こす可能性があり、記録されたECG信号から除外することは困難である。さらに、ホルタ測定は睡眠段階に関するデータを完全に欠いている。
【0018】
夜間不整脈を特定の睡眠段階に関連付ける今日の標準的な方法は、睡眠ポリグラフ検査(PSG)を使用することである。PSGは、脳、眼球運動、筋活動または骨格筋の活性化および心調律を含む多くの身体機能の睡眠中のモニタリングで構成されるマルチパラメータ睡眠検査である。典型的な睡眠ポリグラフ検査は、脳波検査(EEG)、眼電図検査(EOG)、筋電図検査(EMG)、およびECGを含む広範囲の侵襲的検出方法を使用する。ただし、これは極めて煩わしいため、患者のストレスレベルおよび睡眠に影響を与える。睡眠ポリグラフ検査時の夜間は、自宅での通常の夜間とは大きく異なり、不整脈のみられる睡眠段階に患者がまったく入らない可能性がある。
【0019】
睡眠ポリグラフ検査の一部の測定は、人の下に敷くマットレスの下またはマットレス内部の、患者の下にかかる圧力の変化を感知することにより心拍数、呼吸、および動きを追跡することができる圧力センサを使用して行うこともできる。
【0020】
米国特許出願公開第2018/049701号明細書は、心拍数、心拍変動、呼吸障害、呼吸頻度および/または睡眠のカテゴリを判定するための、マットレスに連結して配置されるセンサを含む、人の休息用または睡眠用のマットレスを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、圧力ベースのセンサデバイスは、例えば、不整脈が発生するかどうかを判定する上で重要な因子となり得る、一回拍出量および/または一回拍出量変動を検出することができない。したがって、夜間不整脈を非侵襲的に検出するデバイスおよび方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、非侵襲的な方法で夜間不整脈を検出するという課題を解決するための方法および装置を提供することである。本発明の目的は、請求項1の特徴部分による方法で達成される。本発明の目的は、さらに、請求項12の特徴部分によるシステムで達成される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示される。
【0024】
本発明は、対象者から非侵襲的に取得される単一の心弾動図信号から取得することのできる、心拍間隔時間および心臓の相対的な一回拍出量に基づいて、さまざまな種類の夜間不整脈を検出するという着想に基づくものである。同一の心弾動図信号をさらに処理して、睡眠障害、ストレス、回復、および/または睡眠段階に関する情報を提供することができ、これにより、検出された不整脈と睡眠中に発生する上記の複数の生理学的現象との間の関連の可能性を検出することができる。単一の心弾動図信号から得られた複数の信号は、誤った検出結果をもたらす可能性のある、信号に含まれるアーチファクトを除外するために処理される。
【0025】
第1の態様によれば、夜間不整脈を検出する方法が提供される。この方法は、対象者の心弾動図信号を取得することと、心弾動図信号を処理して、少なくとも心拍間隔時間(TB2B)信号および一回拍出量(SV)信号を取得することと、TB2B信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤った値を削除することにより、フィルタリングされたTB2B信号を生成することと、SV信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったSV値を削除することにより、フィルタリングされたSV信号を生成することと、フィルタリングされたTB2B信号から真のHR信号を算出することと、フィルタリングされたSV信号から真のSV信号およびSVV(一回拍出量変動)信号を算出することと、真のHR信号をフィルタリングして異常心拍を検出し、正常心拍から分離することと、異常心拍の正常心拍からの分離を容易にする追加パラメータとして真のSV信号およびSVV信号を利用することと、を含む。異常心拍が検出された場合には、この方法は、さらに、検出された異常心拍に関連する不整脈の種類を特定することと、特定された不整脈の発生に関する時間的情報および種類を出力することと、を含む。
【0026】
第2の態様によれば、この方法は、さらに、呼吸数(RR)信号を算出することと、フィルタリングされたTB2B信号から、HFHRV(高周波心拍変動)信号、および、LFHRV(低周波心拍変動)信号とVLFHRV(超低周波心拍変動)信号とのうちの少なくとも1つを算出することと、フィルタリングされたSV信号、RR信号、および、LFHRV信号とVLFHRV信号とのうちの少なくとも1つを分析して睡眠障害の発生を判定することと、1つまたは複数の睡眠障害が発生したと判定された場合には、睡眠障害の種類を特定し、睡眠障害の発生に関する時間的情報および特定された種類を不整脈に関する時間的情報と組み合わせて出力することと、少なくともRR信号と、HFHRV信号と、LFHRV信号とを分析して、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つの時間的情報を判定し、判定された、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つに関するそれぞれの時間的情報を、不整脈に関する時間的情報と組み合わせて出力することと、を含む。
【0027】
第3の態様によれば、TB2B信号のフィルタリングは、第1の期間の平均TB2B信号強度を算出することと、TB2B信号強度の許容変動範囲を定義することと、許容変動範囲内に収まらないピークをTB2B信号から削除して、フィルタリングされたTB2B信号を生成することと、を含む。
【0028】
第4の態様によれば、SV信号のフィルタリングは、第2の期間の平均SV信号強度を算出することと、SV信号値の許容変動範囲を定義することと、許容変動範囲内に収まらない値をSV信号から削除して、フィルタリングされたSV信号を生成することと、を含む。
【0029】
第5の態様によれば、真のHR信号のフィルタリングは、第3の期間中の正常心拍間隔時間を定義することと、第3の期間中の心拍間隔時間の正常変動に対応する時間枠を指定することと、時間枠よりも短い、または長い心拍間隔時間を、不整脈を示す異常心拍として特定することと、を含む。
【0030】
第6の態様によれば、時間枠は、対象者の過去のHRVデータに基づいて動的に定義される。
【0031】
第7の態様によれば、この方法は、さらに、真のSV信号と、SVV信号とのうちの少なくとも1つをフィルタリングして一回拍出量の有意の変動を検出することと、検出された一回拍出量の有意の変動に関する時間的情報を、検出された不整脈に関する時間的情報とともに出力することと、を含む。
【0032】
第8の態様によれば、この方法は、対象者の長手方向の加速度を測定する加速度計から対象者の心弾動図信号を取得することを含む。
【0033】
第9の態様によれば、この方法は、さらに、TB2B信号のフィルタリングおよびSV信号のフィルタリングに関連して、誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する情報を取得することと、誤ったTB2B信号ピークのうちの少なくとも1つの発生に関する保存された情報に基づいて、対象者の動きの時間的指標を提供することと、を含む。
【0034】
第10の態様によれば、この方法は、さらに、受信した心弾動図信号の強度の平均二乗平均平方根を算出することにより信号強度(SS)信号を取得することと、SS信号を使用して、受信信号が実際に検出されたBCG信号を表すのか、バックグラウンドノイズを表すのか、または対象者の動きを表すのかを識別することと、を含む。
【0035】
第1のシステムの態様によれば、夜間不整脈検出システムが提供される。このシステムは、対象者の心弾動図信号を取得するように構成された加速度計と、心弾動図信号を処理して少なくとも心拍間隔時間(TB2B)信号およびSV(一回拍出量)信号を取得するように構成された処理手段と、を備える。処理手段は、TB2B信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったTB2B信号ピークを削除することにより、フィルタリングされたTB2B信号を生成するように構成された第1のフィルタと、SV信号をフィルタリングして心拍に起因しない誤ったSV信号ピークを削除することにより、フィルタリングされたSV信号を生成するように構成された第2のフィルタと、フィルタリングされたTB2B信号から真のHR信号を算出し、フィルタリングされたSV信号から真のSV信号およびSVV(一回拍出量変動)信号を算出するように構成された算出手段と、真のHR信号をフィルタリングして異常心拍を検出するように構成された第3のフィルタと、を備える。処理手段は、異常心拍の正常心拍からの分離を容易にする追加パラメータとして真のSV信号およびSVV信号を利用するように構成される。異常心拍が検出された場合には、処理手段は、さらに、異常心拍に関連する不整脈の種類を特定し、特定された不整脈の発生に関する時間的情報および種類を出力するように構成される。
【0036】
第2のシステムの態様によれば、処理手段は、さらに、呼吸数(RR)信号を算出し、フィルタリングされたTB2B信号から、HFHRV(高周波心拍変動)信号、および、LFHRV(低周波心拍変動)信号とVLFHRV(超低周波心拍変動)信号とのうちの少なくとも1つを算出し、睡眠障害の発生を判定するために、SV信号、RR信号、および、LFHRV信号とVLFHRV信号とのうちの少なくとも1つを分析し、1つまたは複数の睡眠障害が発生したと判定された場合には、睡眠障害の種類を特定し、睡眠障害の発生に関する時間的情報および特定された種類を不整脈に関する時間的情報と組み合わせて出力し、少なくともRR信号と、HFHRV信号と、LFHRV信号とを分析することにより、ストレスと、夜間回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つに関する時間的情報を判定し、判定された、ストレスと、回復と、睡眠段階とのうちの少なくとも1つ、および睡眠障害に関する時間的情報を、不整脈に関する時間的情報と組み合わせて出力するように構成される。
【0037】
第3のシステムの態様によれば、TB2B信号のフィルタリングは、第1の期間の平均TB2B信号強度を算出することと、TB2B信号強度の許容変動範囲を定義することと、許容変動範囲内に収まらないピークをTB2B信号から削除して、フィルタリングされたTB2B信号を生成することと、を含む。
【0038】
第4のシステムの態様によれば、SV信号のフィルタリングは、第2の期間の平均SV信号強度を算出することと、SV信号値の許容変動範囲を定義することと、許容変動範囲内に収まらない値をSV信号から削除して、フィルタリングされたSV信号を生成することと、を含む。
【0039】
第5のシステムの態様によれば、真のHR信号のフィルタリングは、第3の期間中の正常心拍間隔時間を定義することと、第3の期間中の心拍間隔時間の正常変動に対応する時間枠を指定することと、時間枠よりも短い、または長い心拍間隔時間を、不整脈を示す異常心拍として特定することと、を含む。
【0040】
第6のシステムの態様によれば、時間枠は、対象者の過去のHRVデータに基づいて動的に定義される。
【0041】
第7のシステムの態様によれば、システムは、さらに、真のSV信号と、SVV信号とのうちの少なくとも1つをフィルタリングして一回拍出量の有意の変動を検出するように構成された第4のフィルタと、検出された一回拍出量の有意の変動に関する時間的情報を、検出された不整脈に関する時間的情報とともに出力するように構成された出力ユニットと、を備える。
【0042】
第8のシステムの態様によれば、加速度計は、対象者の長手方向の加速度を測定することにより対象者の心弾動図信号を取得するように構成される。
【0043】
第9のシステムの態様によれば、処理手段は、さらに、TB2B信号のフィルタリングおよびSV信号のフィルタリングに関連して、誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する情報を取得するように構成され、出力ユニットは、さらに、誤ったTB2B信号ピークと、誤ったSV信号値とのうちの少なくとも1つの発生に関する保存された情報に基づいて、対象者の動きの時間的指標を提供するように構成される。
【0044】
第10のシステムの態様によれば、処理手段は、さらに、受信した心弾動図信号の強度の平均二乗平均平方根を算出することにより信号強度(SS)信号を取得し、SS信号を使用して受信信号が実際に検出されたBCG信号を表すのか、バックグラウンドノイズを表すのか、または対象者の動きを表すのかを識別するように構成される。
【0045】
別の態様によれば、構成されたコンピュータプログラム製品は、上記の態様のいずれかのうちの、いずれかの方法を実行する。
【0046】
別の態様によれば、コンピュータ可読媒体は命令を格納して提供され、コンピューティングデバイスまたはシステムによって格納された命令が実行されると、コンピューティングデバイスまたはシステムに上記のいずれかの態様の方法を実行させる。
【発明の効果】
【0047】
本発明が有する利点は、この方法により、簡単で、耐久性があり、設置が容易で、軽量な、費用効率の高いシステムを用いて、しかも測定が対象者の睡眠に影響を与えることなく、様々な種類の不整脈の信頼できる検出および特定が可能になることである。取得した不整脈情報を、同じ検出システムを用いて同時に受信した、人の動き、睡眠段階、回復段階、睡眠障害および/またはストレスに関する情報と組み合わせることにより、この方法およびシステムは、情報を受信する医師による、より詳細で正確な診断を容易にすることができる。
【0048】
以下では、添付図面を参照し、好ましい実施形態に関連して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】モニタリングシステムの典型的な構成を示す図である。
【
図2】心不整脈の発生を表示する典型的な方法を示す図である。
【
図3】対象者の動きを表示する方法を示す図である。
【
図4】TB2B信号のフィルタリングの実施形態を示す図である。
【
図5】SV信号のフィルタリングの実施形態を示す図である。
【
図6】単一のBCG信号を処理することにより取得された検出信号を示すプロット図である。
【
図7】単一のBCG信号を処理することにより取得された検出信号を示す別のプロット図である。
【
図8】検出された不整脈時の信号強度と心拍間隔時間とを示すグラフである。
【
図9】検出された不整脈時の心拍間隔時間の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、モニタリングシステム(100)がセンサユニット(102)と制御ユニット(104)とを備える典型的な構成を示す。センサユニット(102)は、モニタリング対象者に取り付けられる要素と見なすことができ、制御ユニット(104)は、センサユニット(102)には通信可能に結合されているがモニタリング対象者からは物理的に切り離されている要素と見なすことができる。センサユニット(102)は、モニタリング対象者に直接装着されるか、または押し当てられてもよいし、あるいは、対象者に装着されるか、または押し当てられる要素、例えばベッドまたは座席などから間接的に
心弾動図信号を取得するように配置されてもよい。制御ユニット(104)は、有利には、センサユニット(102)によって提供される信号を処理するように適合された回路と、信号から取得されたデータを処理するための回路とを備える。
【0051】
センサユニット(102)は、心弾動図信号を取得するための1つまたは複数のセンサ(106)を含む。心弾動は、一般に、心拍周期中の体の質量中心のシフトに応答して引き起こされる体の動きを測定する技術を指す。センサは、体の直線運動または角運動を感知することができ、したがって、例えば、加速度計、またはジャイロスコープであってもよい。
【0052】
センサユニット(102)はまた、さらなる処理のための次の段階の要件を満たすために、未処理の電気入力信号を操作する信号処理ユニット(108)を含んでいてもよい。信号処理には、例えば、センサ入力信号の分離、フィルタリング、増幅、および別の制御デバイスまたは制御システムに転送可能な比例出力信号への変換を含むことができる。信号処理ユニット(108)はまた、信号に対して積算、積分、パルス幅変調、線形化、および他の数学演算などのいくつかの計算機能を実行することができる。信号処理ユニット(108)は、あるいは、制御ユニット(104)に含まれていてもよい。
【0053】
制御ユニット(104)は、処理コンポーネント(Processing Component)(110)を含むデバイスである。処理コンポーネント(110)は、事前定義されたデータに対する操作の系統的な実行のための1つまたは複数のコンピューティングデバイスの組み合わせである。処理コンポーネントは、1つまたは複数の演算論理ユニットと、特別なレジスタと、制御回路と、を備えることができる。処理コンポーネントは、コンピュータ可読データまたはプログラム、あるいはユーザデータを格納可能なデータ媒体を提供するメモリユニット(112)を備えることができるか、またはメモリユニット(112)に接続することができる。メモリユニットは、揮発性または不揮発性メモリの1つまたは複数のユニット、例えば、EEPROM、ROM、PROM、RAM、DRAM、SRAM、ファームウェア、プログラマブルロジックなどを含むことができる。
【0054】
制御ユニット(104)はまた、制御ユニットの内部プロセスにデータを入力するための少なくとも1つの入力ユニットと、制御ユニットの内部プロセスからデータを出力するための少なくとも1つの出力ユニットと、を備えるインタフェースユニット(114)を備えることができるか、またはインタフェースユニット(114)に接続することができる。出力ユニットは、制御ユニットによって提供されるデータを表示するように構成された少なくとも1つのディスプレイユニットを備えることができるか、またはディスプレイユニットと結合することができる。
【0055】
有線インタフェースが適用される場合、インタフェースユニット(114)は、通常、外部接続ポイントに配信される情報および外部接続ポイントに接続された回線に入力される情報のためのゲートウェイとして機能するプラグインユニットを備える。無線インタフェースが適用される場合、インタフェースユニット(114)は、通常、送信機と受信機とを含む無線トランシーバユニットを備える。無線トランシーバユニットの送信機は、処理コンポーネント(110)からビットストリームを受信し、アンテナによる送信のための無線信号に変換することができる。これに対応して、アンテナによって受信した無線信号は、無線トランシーバユニットの受信機に誘導することができ、無線信号はビットストリームに変換されて、さらなる処理のために処理コンポーネント(110)に転送される。異なる有線または無線インタフェースを1つのインタフェースユニットに実装することができる。
【0056】
インタフェースユニット(114)はまた、心不整脈の検出によってトリガされた場合に、データを入力するためのキーパッド、タッチスクリーン、マイクロフォン、または同等物と、デバイスのユーザにデータを出力するためのスクリーン、ディスプレイ、タッチスクリーン、ラウドスピーカ、または同等物と、を備えたユーザインタフェースを含むことができる。ユーザへのデータは、インタフェースユニット(114)によってインジケータを表示または鳴動させるか、あるいはインタフェースユニット(114)でアラームを開始させるなどのモニタリング結果の提供に使用することができる。検出された変数の即時表示に加えて、インタフェースユニット(114)または付属のメモリデバイス(図示せず)は、データを後で表示するため、およびさらなる分析のためにも保存することができる。
【0057】
処理コンポーネント(110)とインタフェースユニット(114)とは電気的に相互接続され、事前定義された、基本的にプログラムされたプロセスに従って、受信および/または保存されたデータに対する操作の系統的な実行の手段を提供する。これらの操作には、
図1のモニタリングシステムの制御ユニットについて本明細書で説明する手順を含む。
【0058】
心弾動図信号を取得するためのセンサユニット(106)は、加速度計または角速度センサ(ジャイロスコープ)を含むことができる。同一の変数、すなわち一回拍出量と心拍間隔時間とは、血圧波を測定することによって代替的に取得することができる。
【0059】
ジャイロスコープなどの角速度センサが使用される場合、センサユニットは、有利には、心拍ごとの心臓の回転運動を検出および取得可能な対象者の胸部に取り付けられる。
【0060】
線形検出では、センサユニット(106)は、対象者に直接取り付けられてもよいが、好ましくは、センサユニットは、対象者に間接的に、例えば対象者が休息するベッド、ベッドのマットレスなどに取り付けられる。センサユニット(106)は、身体から中間物(例えば、ベッドまたはマットレス)に伝達される動きから、動脈内を移動する血液の反跳信号を検出する加速度計であってもよい。センサユニットをベッドに取り付けるまたは配置することは、センサまたは他の測定デバイスを対象者に取り付ける必要がなく、したがって非常に自然な睡眠環境が可能になるため、有益である。このように、測定状況自体が対象者に与えるストレスを軽減する可能性が高く、測定から取得される結果は、対象者の自然な睡眠状況に対応する。
【0061】
人から心弾動図信号を検出するセンサユニット(106)として加速度計を使用する場合、最も重要なアスペクトは、対象者の長手方向の加速度を測定することである。単一軸に沿った加速度の測定は、加速度計の検出軸が対象者の長さ(長手方向軸)と実質的に一致する位置および向きに加速度計が配置されている限り、単一軸加速度計を用いて実施することができる。例えば、ベッドの長手方向の加速度を測定できるように、ベッド構造に加速度計を設置してもよい。対象者がベッドに長手方向に横たわっているとき、加速度計は、移動する血液の反跳信号によって引き起こされる加速度を測定することができる。受信した心弾動図加速度信号は、ヒト対象者の長手方向で最も強いと見なすことができる。
【0062】
上記の心弾動図デバイスの代わりに、対象者の心臓の一回拍出量と心拍間隔時間の両方を示す信号を、脈波測定デバイスを使用して代替的に取得することもできる。そのようなデバイスは、圧力センサを対象者の体表面上の位置に着脱可能に取り付けるための固定要素を備える。したがって、センサユニット(106)は、その位置にある組織の下の血管を拡張または収縮させる動脈圧波に応答した組織の変形に従って変化する脈波信号を生成するように構成された圧力センサであってもよい。信号処理ユニット(108)は、脈波信号を受信し、その脈波信号から、対象者の心臓の一回拍出量および心拍間隔時間を表す脈波パラメータを算出するように構成することができる。
【0063】
【0064】
この方法は、BCG信号を取得することにより、フェーズ200から開始する。BCG信号は、単一のBCGデバイスを使用して対象者から取得することができる。次に、取得されたBCG信号を処理して、複数の変数を取得する。心拍間隔時間(TB2B)信号は、フェーズ201で、信号のJピークを検出することにより取得することができる。あるいは、またはさらに、心拍間隔時間の逆数を表す心拍数(HR)信号は、BCG信号のJピークに基づいて取得することができる。好ましい実施形態では、TB2B信号は、さらに処理され、例えば不整脈を検出するために使用されるが、心拍数信号(HR)もまた、診断を容易にするために使用され得るパラメータとして提供されてもよい。
【0065】
一回拍出量(SV)信号は、フェーズ202で、TB2B信号および/またはHR信号を取得するために処理されたものと同一の取得されたBCG信号を処理することにより、取得される。
【0066】
信頼性が高くロバストな結果を得るには、好ましくは、SV信号は瞬間的な測定結果ではなく、単一の心拍期間のさまざまなフェーズで算出された複数のBCG測定値の絶対値の和を表す。1つの特定の例では、SV信号は、心拍プロセスの特定の段階で単一の心拍中に測定された4つの連続した測定値の絶対値の和を表す。単一のピークだけでなく、さまざまな心拍位相の間の血流の変化に起因する心弾動力によって引き起こされる対象者の体の加速度のさまざまなフェーズの和を算出することにより、取得されたSV信号は、よりロバストで、ノイズおよびオフセット誤差の影響を受けにくいものとなる。あるいは、心弾動図信号の単一のピークを一回拍出量の代表値として使用することもできるが、そのような一回拍出量の測定値は、ノイズおよびオフセット誤差が発生しやすい。
【0067】
さらに、フェーズ203で、同一の取得されたBCG信号から呼吸数(RR)信号を取得することができる。RR信号は二次信号であり、例えば呼吸周期にわたってTB2Bの変化を検出することにより、取得することができる。RR信号は、不整脈の検出には必要ではないが、他の目的、例えば、睡眠障害の検出と、ストレス、夜間回復、および/または睡眠段階の判定と、に使用することができる。
【0068】
BCG信号から取得することができるもう1つの有用な値は、信号強度である。これは、フェーズ204で示されている。典型的な実施形態で使用される信号強度(SS)は、期間中に受信したBCG信号の全平均二乗平均平方根強度を表す信号である。SS信号は、例えば、スライディングウィンドウにわたって算出することができる。信号強度は、0.1~10秒のスライディングウィンドウにわたって算出することができる。典型的な一実施形態では、SS信号は、1秒期間中の全信号強度の二乗平均平方根を表す。SS信号は、例えば、取得されたBCG信号が、対象者が動いていることを示しているのかどうかを決定する際に使用することができる。この目的のために、SS信号は、フェーズ204からの出力「A」で示されるように、
図3に示される動き検出プロセスへ入力される。
【0069】
SS信号は、受信信号が単なるバックグラウンドノイズを表すのか、実際に検出されたBCG信号を表すのか、または対象者の動きを表すのかを決定する際の識別信号として使用することができる。低いSS信号値によって示される非常に弱い信号強度は、受信した測定結果が環境に起因する振動などのノイズにもたらされたにすぎない場合があり、対象者が実際のBCG信号の生成に事実上介在していないことを示す可能性がある。一方、非常に強い信号強度、つまり高いSS信号値は、対象者が動いていることを示している可能性があり、実際のBGC信号によって引き起こされる信号よりもはるかに強い信号が受信されることになる。信号強度が事前定義された信号強度範囲内にとどまっている場合、取得された信号が実際のBCG測定結果を実際に表している可能性が高い。したがって、SS信号は、動きの検出と同様に、動きのアーチファクトと、非洞性拍動と、正常拍動とを互いに分離するために使用することができる。事前定義された信号強度範囲は、対象者の体格ならびに対象者の姿勢に基づいて調整することができる。
【0070】
好ましくは、フェーズ201、202、203、および204は、実質的に同時に実行される。フェーズ201、202、203、および204に開示されているようにTB2B信号および/またはHR信号、SV信号、ならびにRR信号を取得することに加えて、高周波心拍変動(HFHRV)信号およびステータス信号(ST)などのさらなる信号をBCG信号から取得することができる。大きいHFHRV、つまり大きいTB2B変動は、強いSS信号と組み合わせて、やはり動きを示す。HFHRV信号をSS信号と組み合わせて使用することにより、実際の心拍ではなく、動きに起因するBCG信号の誤った「拍動」を高い精度で検出することができる。一方、予想される信号強度範囲内のSS信号と組み合わされた高いHFHRVは、不整脈の指標として機能する。一実施形態では、ステータス信号(ST)は、較正パラメータに関連するSS信号の強度の単純化された段階的な指標として使用することができる。ステータス信号(ST)は、SS信号が正常を下回る場合、正常範囲内または正常な信号強度を上回る場合に、特定の値を有するように較正することができる。したがって、ステータス信号は、例えば、信号処理で使用される設定を調整するために使用することができる。ステータス信号(ST)の使用により、動きと実際の心拍との分離可能性が向上する。
【0071】
フェーズ211では、フィルタリングされたTB2B信号を取得するために、TB2B信号がさらにフィルタリングされる。このフィルタリングにより、心拍に起因する実際のJピークではないTB2B信号の誤ったピークが識別され、除外される。例えば、対象者の動きは、心拍に起因する任意の実際のJピークよりも強いTB2B信号のピークを引き起こす可能性がある。言い換えれば、フィルタリングされたTB2B信号には、動きのアーチファクトが含まれていない。一方、近くの道路交通または近くで動作するポンプデバイスなどの一部の外因は、TB2B信号のピークを引き起こす可能性があるが、通常、このようなノイズのピークは実際のJピークよりも弱い。一実施形態では、TB2Bフィルタリングフェーズ211中にフィルタリングされたTB2Bピークの少なくとも一部は、例えば、対象者が動いている時間を識別するために、さらに処理されてもよい。フィルタリングされたTB2B信号の誤ったピークに関する情報の、動き検出プロセスへの転送は、フェーズ211からの出力「A」で示されている。
【0072】
フェーズ212では、フィルタリングされたSV信号を取得するために、SV信号がさらにフィルタリングされる。このフィルタリングにより、心拍に起因する真のSV値ではないSV信号の誤った値が識別され、除外される。言い換えれば、フィルタリングされたSV信号には、動きのアーチファクトが含まれていない。例えば、対象者の動きは、任意の実際のSV信号よりも強いSV信号のピークを引き起こす可能性がある。ただし、非常に強いSV信号値の一部は、あるいは例外的に大きい一回拍出量を示している可能性もある。一方、近くの道路交通または近くで動作するポンプデバイスなどの一部の外因は、SV信号に表示される可能性があるが、通常、このようなノイズ由来の信号値は実際のSV信号よりも弱い。一実施形態では、SVフィルタリングフェーズ212中に除外されるSV読み取り値の少なくとも一部は、例えば、対象者が動いている時間を識別するために、さらに処理されてもよい。フィルタリングされたSV信号の誤ったピークに関する情報の、動き検出プロセスへの転送は、フェーズ212からの出力「A」で示されている。好ましくは、そのような例外的なSV読み取り値は、フェーズ211から取得された、除外された高いTB2Bピークとともに、動きを検出するために使用される。
【0073】
フェーズ222では、フィルタリングされたSV信号に基づいて、真の一回拍出量(SV)信号および一回拍出量変動(SVV)信号が算出される。真のSV信号は、心拍に起因しない誤った値によってもたらされる誤差を実質的に含まなくなっているため、対象者の実際の瞬時拍出量および一回拍出量変動をより確実に反映する。
【0074】
フェーズ221では、正常心拍と非洞性心拍との分離が行われる。対象者の正常心拍間隔時間は、特定の期間に対して定義することができる。この期間は、対象者に基づいて調整されるだけでなく、例えば呼吸による心拍間隔時間の正常な変動に応じて調整される場合もある。洞不整脈が心拍変動をもたらすことはよく知られており、呼吸性洞不整脈の程度は、例えば年齢、健康状態、体調などに応じて、人によって異なる。一方、洞不整脈がみられない、または呼吸数と相関しない洞不整脈は、健康問題の指標となり得る。
【0075】
真のHR信号および/またはTB2B信号とは別に、真のSV信号およびSVV信号は、不整脈が正常な呼吸性洞不整脈であるか異常な状態であるかを判定する際の追加パラメータとして使用することができる。例えば、継続的な不整脈は平均一回拍出量を減少させる可能性があり、一回拍出量の変動性を増大させることが多く、特に不整脈が遅い拍動を含む場合は、拍動時に心臓がより多くの血液で満たされて一回拍出量が増加する一方、次の拍動は、通常よりも短い期間の後に続く可能性があり、次の拍動の一回拍出量を減少させる。
【0076】
真のTB2B信号を分析することにより、非洞性拍動などの個々の異常心拍は、心拍間隔時間の許容変動内に収まらず、正常心拍から分離されたものとして識別される可能性がある。正常TB2Bは、各時点で対象者に対して定義される。正常TB2Bは、好ましくは、限定された長さの期間に対して定義され、したがって正常TB2Bは一晩にわたって変化する。そのような期間は、好ましくは、対象者の最長の呼吸周期よりもわずかに長くなければならない。期間が呼吸周期よりも長すぎると、呼吸リズムが変化した場合に、心拍を非洞性拍動と誤って特定する可能性がある。例えば、正常TB2Bの定義に使用される期間を約10秒とすることができる。この正常TB2Bに基づいて、次の正常拍動が前の拍動後に予想される時間枠、つまり期間が定義される。時間枠は、好ましくは、各対象者に個人的に適合され、時間枠は、例えば、最新の睡眠段階、呼吸数などに応じて測定期間中に適合されてもよい。一実施形態では、時間枠は、対象者の過去のHRVデータに基づいて動的に定義される。時間枠の適合は、実際の異常拍動のみが、そのように特定されることを確実にするために重要である。
【0077】
取得された真のTB2Bが定義された時間枠よりも短いか、または長い場合、拍動は異常拍動であると特定される。また、継続的および/または持続的な不整脈は、フェーズ221中に正常心拍から分離することができる。
【0078】
フェーズ231では、動きのアーチファクトを削除後の、フィルタリングされたTB2B信号に基づいて真の心拍数(HR)信号が算出される。真のHR信号は、心拍に起因しない誤ったピークによってもたらされる誤差を実質的に含まなくなっているため、対象者の実際の瞬時心拍数をより確実に反映する。さらに、フェーズ221で非洞性拍動を削除後の、フィルタリングされたTB2B信号に基づいて、フェーズ231で低周波心拍変動(LFHRV)信号および超低周波心拍変動(VLFHRV)信号を算出することができる。また、動きのアーチファクトを含まない真の呼吸数(RR)信号は、フェーズ231中に取得することができる。真のRR信号は、好ましくは、フェーズ221で動きのアーチファクトと非洞性拍動との両方が分離された1つの信号または複数の信号から取得される。
【0079】
分離フェーズ221の結果として、2セットの拍動が取得される。異常拍動は、フェーズ241で、不整脈の種類、および不整脈の発生した時刻または期間を特定するために利用することができる。不整脈の種類は、異常TB2B信号と異常SV信号とに基づいて特定することができる。SS信号は、好ましくは、実際の心拍に起因する信号のみが分析に含まれることを確実にするために使用される。異常一回拍出量は、心臓の拍動前に心臓が満たされるまでに利用可能な時間量を反映する。したがって、TB2Bが正常時より短い場合、異常一回拍出量は正常時よりも減少する可能性があり、TB2Bが正常時よりも長い場合、一回拍出量は増加する可能性がある。フェーズ221から受信した正常拍動は、フェーズ242で睡眠時無呼吸の発生の特定に、フェーズ243でストレスおよび夜間回復の算出、ならびに睡眠段階の判定に利用することができる。睡眠時無呼吸は、HFHRV信号、LFHRV信号、VLFHRV信号、およびRR信号と真のRR信号とのうちの少なくとも1つ、における変化に基づいて、フェーズ242で判定することができる。例えば、睡眠時無呼吸は、正常睡眠時の同一の信号と比較した場合、HFHRVの減少、LFHRVおよびVLFHRVの増大、およびRRの大きい変動をもたらす可能性がある。一部の症例では、例えば、むずむず脚、いびき、またはてんかんの例などでは、SS信号の増大も睡眠時無呼吸を示す可能性がある。睡眠段階、ストレスおよび回復は、フェーズ243で、HFHRV、LFHRVまたはSVVに基づいて判定することができる。HFHRV、LFHRV、および/またはSVVの縮小または減少は、ストレスを示す可能性がある。HFHRV、LFHRV、および/またはSVVの増大は、回復を示す。睡眠段階は、HFHRV、LFHRVおよび/またはSVVの変化とともに、RRまたはRR変動から検出することができる。また、SVVは、呼吸の深さと、その変化とを示す。
【0080】
継続的または持続的な不整脈の多くの種類は、外挿、相関、および他の統計的手法によって、真のHR信号から特定することができる。特定プロセスには、真のHRと、SVと、SVVと、未処理のHFHRVとの組み合わせを使用することができる。未処理のHFHRVとは、連続する拍動間の心拍間隔時間TB2Bの変動を指す。これらには、以下に限定されるものではないが、例えば、
-対象者の安静時の平均HRよりも上昇する、頻脈と、
-心拍の脱落を含む場合もある、平均HRよりも低下する、徐脈と、
-脱水または糖尿病を示す可能性のある、非常に軽度の洞不整脈または非常に小さいSVVと、
-心臓上部の心房が不規則に収縮する(震える)、心房細動と、
-心房が過度に速く収縮する心房粗動と、
-心室の電気的活動の乱れにより、心臓が拍出せずに震えを起こす、心室細動と、を含む。
【0081】
さらに、フィルタリングされたTB2B信号により、単回または少数回の心拍脱落を引き起こす心ブロック、余分な心拍として現れる心室期外収縮、または他の種類の異常心拍間隔などの、偶発的な不整脈を検出することが可能となる。
【0082】
フェーズ241で何らかの種類の不整脈が特定されると、不整脈の発生に関する時間的情報がフェーズ251に提供される。現象に関する時間的情報という用語は、現象の発生を、時点または期間(間隔)などの、時間に結び付ける情報を指す。不整脈に関する時間的情報は、好ましくは、特定フェーズ241から受信した不整脈の種類の特定およびその計時情報を含む。継続的または持続的な不整脈の場合、時間的情報は、不整脈の種類とともに、その種類の不整脈が現れていた1回の期間または複数回の期間に関する情報を含むことができ、例えば徐脈(心拍の脱落)または頻拍などの偶発的な不整脈の場合、時間的情報は、不整脈の種類とともに、その個別の不整脈の1回または複数回の発生の時刻に関する情報を含むことができる。
【0083】
フェーズ241での不整脈の特定と並行して、さまざまな種類の睡眠時無呼吸などの睡眠障害をフェーズ242で検出および特定することができ、検出された睡眠障害の時間的情報が出力として提供される。したがって、睡眠障害の時間的情報は、検出された睡眠障害の単数または複数の種類と、それらの発生した単数または複数の時刻、あるいは、単数または複数の期間と、を含む。睡眠障害を検出するための基準としてBCG信号を使用する例は、フィンランド特許第126600号明細書Bに開示されており、それによれば、睡眠時無呼吸などの睡眠障害は、LFHRV信号とVLFHRV信号とのうちの少なくとも1つ、RR信号、およびSVV信号に基づいて特定することができる。その後、検出および特定された睡眠障害に関する時間的情報を、フェーズ251での不整脈に関する時間的情報と組み合わせることができ、その結果、医師は、組み合わされた時間的情報に基づいて分析を行うことができる。睡眠障害に関する時間的情報と不整脈の時間的情報とを組み合わせることにより、不整脈および関連する身体症状に関する診断の向上が容易になる。
【0084】
さらに、フェーズ241およびフェーズ242と並行して、フェーズ243では、フェーズ221およびフェーズ231で取得された信号を使用して、対象者のストレス、夜間回復、および/または睡眠段階に関する時間的情報を判定することができる。例えば、フィンランド特許第126631号明細書Bは、少なくともRR信号と、HFHRV信号と、LFHRV信号とを含むパラメータに基づいて、ストレスと、夜間回復と、睡眠の質とのうちの少なくとも1つを推定するために、BCG測定を使用して取得された心拍変動を使用する方法を開示している。好ましくは、この判定に使用される真のRR信号と、HFHRV信号と、LFHRV信号とは、動きのアーチファクトを含まず、また非洞性拍動も含まない。代替的に、フェーズ203で取得されたRR信号と、フィルタリングされたTB2Bに基づいて取得されたHFHRV信号およびLFHRV信号とを使用してもよい。各時点でのストレス、回復および/または睡眠段階の時間的情報は、フェーズ251で、好ましくは、不整脈の時間的指標と組み合わせて提供されてもよい。ストレス、夜間回復、および/または睡眠の質に関する時間的情報と、不整脈に関する時間的情報とを組み合わせて提供することにより、不整脈および関連する身体症状に関する診断の向上がさらに容易になる。フェーズ251で情報を提供することには、例えば、時間的情報を表示デバイスに提示すること、および/または時間的情報をメモリデバイスに保存すること、および/または時間的情報を送信することを含むことができる。
【0085】
一実施形態によれば、フェーズ201で取得されたオリジナルの、フィルタリングされていないHR信号は、フェーズ231で、真のHR信号と比較することができ、または正規化されたHR信号、すなわち正常心拍のみを含む、言い換えれば不整脈によるHRの変化が削除された真のHR信号と比較することもできる。心拍数の異なる指標間のこの種の比較は、デバイスから受信したデータを使用して診断を向上させるために医師にさらなる情報を提供することができる。
【0086】
図3は、対象者の動きに関する時間的情報として提供するために、フェーズ211および212で、対象者の動きの検出および表示のために除外されたTB2Bピークおよび/またはSV値の使用を示す。TB2B信号の高いピークは対象者の動きに起因する可能性が高いため、除外された高いTB2Bピークの時間および強度は、対象者の動きの指標として使用することができる。したがって、フェーズ341での動きの検出は、除外される高いTB2Bピークの検出に基づくことができ、そのような除外されたTB2Bフィルタの時刻および/または期間は、対象者の動きに関する時間的情報と呼ぶことができる。対象者が動いているとき、SS信号は高くなり、言い換えれば加速度信号の平均の二乗平均平方根が増大して、事前定義された信号強度間隔を上回る可能性が高い。動き、つまり加速度計から受信した振幅が許容範囲内にとどまる場合、TB2Bの変動を示す一回拍出量とHRHRVとは増大する。BCG信号の振幅は、測定された加速度振幅が許容範囲内にとどまるかどうかを評価するための一連の較正パラメータと比較することができる。言い換えれば、加速度信号の振幅の許容範囲は、一連の較正パラメータで定義することができる。さらに、フィルタリングされたSV信号の値は、対象者の動きを判定するためにTB2Bピークとともに使用することができる。対象者が動くと、SSは増大する。動きが測定パラメータと比較して許容範囲内にある場合、SV信号およびHFHRV、つまりTB2Bの変動は増大する。範囲は、例えば、段階的なST信号を使用して定義することができる。取得された動きの時間的情報は、不整脈、睡眠障害、ストレス、回復、および/または睡眠段階の時間的情報とともに、フェーズ251で組み合わせることができる。
【0087】
指標として
図2および
図3に示した、または上述したすべての取得された信号、処理されたデータ、受信した算出結果、および/またはデータ出力は、モニタリングシステムのメモリユニットに保存することができ、インタフェースユニットに提供することもできる。例えば、インタフェースユニットのディスプレイ、あるいはインタフェースユニットに直接または間接的に結合されたディスプレイは、ストレス、回復、睡眠サイクルおよび睡眠時無呼吸の指標とともに、検出された不整脈の指標を含む夜間のタイムラインを示すことができる。未処理の信号と、処理された信号と、様々な現象に関する結果としての時間的情報とを含むが、これらに限定されない任意の種類の取得データは、データ転送、プリンタでの印刷、あるいはローカルまたはリモートのユーザインタフェースに、例えば画像出力またはテキスト出力などを提供するために、リムーバブルメモリデバイスに保存することもできる。
【0088】
図4は、TB2B信号のフィルタリングの実施形態を示す図である。TB2B信号の全体的な強度は、通常、例えば対象者の姿勢によって変化する。したがって、TB2B信号は、限られた期間にわたって分析し、分析を信号強度の好機に適合できるようにする必要がある。フェーズ411では、TB2Bの平均二乗平均平方根信号強度が適切な動きの時間枠にわたって算出され、この時間枠は、好ましくは、対象者の呼吸周期の期間よりも長い期間に対応する。呼吸周期の期間は、RR信号から取得することができる。フェーズ412では、TB2B信号強度の許容変動範囲が、平均TB2B信号強度付近のJピークに対して定義される。TB2B信号の各ピークは、この平均と比較することができる。さらに、Jピークのより信頼性の高い検出のために、SV信号は、TB2Bフィルタリングプロセスで、TB2B信号強度とともに使用することができる。フェーズ413では、許容信号範囲外の信号強度を有するTB2Bピークが、誤ったピーク、つまり真のJピークではないと見なされ、除外される。フィルタリングされたTB2B信号は、その後、フェーズ221に入力として提供される。許容信号範囲を上回る信号強度を有する、除外されたTB2B信号値は、出力「A」によって示されるように、動き検出のために使用することができる。このフィルタリングによって非常に強いピークを除外するだけでなく、許容変動範囲を下回る信号強度を有する弱いピークを除外することもできる。ただし、動きの検出には、好ましくは、予想よりも明らかに強いTB2B信号ピークのみが使用される。
【0089】
図5は、SV信号のフィルタリングの実施形態を示す。SV信号の全体的な強度は、通常、例えば対象者の姿勢によって変化する。したがって、SV信号は、限られた期間にわたって分析し、分析を信号強度の好機に適合できるようにする必要がある。フェーズ511では、適切な動きの時間枠にわたってSVの平均二乗平均平方根信号強度が定義され、この時間枠は、好ましくは、対象者の呼吸周期の期間よりも長い期間に対応する。呼吸周期の期間は、RR信号から取得することができる。フェーズ512では、SV信号強度に対して許容SV信号強度変動範囲が、平均SV信号強度付近に定義される。取得されたSV信号は、その後、この平均と比較される。許容信号範囲外で検出されたSV信号強度は、誤った結果を示している、つまり真のSV読み取り値ではないと見なすことができ、フェーズ513で除外することができる。フィルタリングされたSV信号は、その後、フェーズ222に入力として提供される。このフィルタリングによってBCG信号の強いピークに起因する非常に高い値を除外するだけでなく、許容変動範囲を下回る信号強度を有する弱いピークを除外することもできる。許容変動範囲を上回る信号強度を有する、上記の除外されたSV信号値は、出力「A」によって示されるように、動き検出のために使用することができる。ただし、動きの検出には、好ましくは、予想よりも明らかに強いSV信号のピークのみが使用される。
【0090】
図6は、本発明による単一のBCG信号を処理することにより取得された、選択された信号を示すプロット図の例を示す。実際のモニタまたは紙のプロット図では、取得された信号値を表すさまざまな曲線を、例えばさまざまな色で表示することができ、出力はより視覚的になる。X軸は、1時間の期間を表す時間軸である。Y軸は任意のスケールを表し、異なる検出信号ごとに異なる定義をすることができる。例えば、一回拍出量曲線(605)および信号強度曲線(602)は、好ましくは、相互に異なるスケールを有し、信号の対象となる特性間の視覚的な区別を容易にする。
【0091】
階段状の睡眠段階曲線(601)は、検出された睡眠段階を表す。睡眠段階曲線(601)の値150は深い睡眠を示し、値100は浅い睡眠を示し、値50はレム睡眠を示し、値0は対象者が目覚めていることを示す。
【0092】
対象者の動きは、対象者の動きの指標として使用することができる信号強度曲線(602)で示される。この典型的な期間中、対象者は、主として動きなしに眠るが、対象者が動いて強いピークを引き起こしていることを示す、少数の明確なピーク(602a)を特定することができる。このようなピーク(602a)は、動き由来のアーチファクトを削除するために、取得されたSV信号およびTB2B信号をフィルタリングする必要があることを示す。
【0093】
実線の一回拍出量(SV)曲線(603)は、フィルタリングされた一回拍出量を示し、破線のフィルタリングされたHRV曲線(604)は、不整脈に起因するHRVをフィルタリング後のフィルタリングされた心拍変動を示す。このプロット図の一回拍出量曲線(603)は、SV信号を指数フィルタでフィルタリングすることにより形成され、指数フィルタは、例えば式y(t)=(1-k)*y(t-1)+k*(x(t))を使用することができる。真のHRVは、HRV曲線(605)によって示される。
【0094】
測定結果に基づいて、典型的な1時間の期間は、さまざまな期間に細分することができ、その一部は、時間軸の下に表示されている。最初の期間と最後の期間(610)中、HRV曲線は比較的小さい変動を示し、動きの量も小さいため、これらの期間は正常心拍を伴う平穏な睡眠の段階を表すと見なすことができる。一部の自然なHRVは、例えば呼吸性心拍変動により発生する。これらの正常心拍の期間中、一回拍出量曲線(603)は、例えば動きに起因するアーチファクトがフィルタリングされた真の一回拍出量信号を表して、滑らかな実線で表示され、かなり安定したレベルで推移しており、フィルタリングされたHRV曲線(604)は、点線で表示され、異常拍動が除去されたHRVを表して、非常に安定して推移している。ただし、単一の高いピーク(605a)が真のHRV曲線で検出されており、1回または2回の偶発的な異常心拍を示している可能性がある。
【0095】
期間611は、対象者の動きによる信号レベルの変化を示し、真のHRV信号の強度および変動の両方の増大も引き起こしている。ただし、全体的な信号強度が高いこと(高SS)は、この変化の大きい真のHRV信号が不整脈に起因するのではなく、対象者の動きが誤った検出をもたらしている可能性が高いことを示唆する。言い換えれば、異常に短いTB2B信号または異常SV信号として現れる信号は、単に対象者の動きに起因している可能性がある。異常HRVに加えて、または異常HRVと組み合わせて、全体的な信号強度(SS信号)を追跡することにより、対象者の動きを検出することができる。
【0096】
期間612は、真のHRVが高い期間を示すが、信号強度(602)が、信号強度信号(602)に使用されるスケールで常に実質的にゼロで推移しているため、対象者の動きは非常に小さい。この期間中の真のHRV信号(605)のレベルの高さと変動の大きさとは、持続的または継続的な不整脈を明確に示す。また、SV信号(603)の値は、正常心拍(610)の期間中よりも低く、この期間中の心拍が正常な一回拍出量を生成しないことを示す。この情報は、さらに、HRV信号の変化が不整脈に起因することを裏付ける。
【0097】
図7は、本発明による単一のBCG信号を処理することにより取得された信号を示すプロット図の別の例を示し、約6時間の睡眠を伴う一晩にわたる記録を表している。このプロット図は、階段状の睡眠段階信号(601)と、実線の一回拍出量信号(603)と、点線の心拍変動信号(605)と、信号強度信号(602)と、による出力を示す。Y軸は、説明のためにさまざまな信号間の明確な区別を容易にする任意のスケールを表す。対象者は当初目覚めているが、睡眠曲線(601)が睡眠前に目覚めていることを示す値-50から、浅い睡眠を示す値100に上昇することで示されるように、約0.15~0.20時間で眠りに落ちる。記録2時間直後の期間611aは、SS信号がいくつかの高いピークを有する期間の例を提供し、対象者が動いており、睡眠が浅いことを示す。動きの多い別の期間611bは、記録の6時間前後に認めることができる。この期間は主にレム睡眠を表し、睡眠段階信号601の値は50である。このような動きの期間中、一回拍出量信号には多くの変動があるが、SS信号値は、これらの変動が異常心拍ではなく、対象者の動きに起因するものである可能性が高いことを示す。
【0098】
期間610は、
図6の期間610と同様に、不整脈が検出されない、正常で平穏な深い睡眠の典型的な期間である。一回拍出量信号(603)は、正常な睡眠および正常な心拍の期間610中、良好で健康な一回拍出量を示す。心拍変動信号(605)は、例えば、0から1時間の間の第1の浅い睡眠期間中よりも高値を有する。これは、睡眠中に回復がすでに起こったことによる可能性が高い。
【0099】
図6は、持続的または継続的な不整脈の期間(612、613)も示している。不整脈は、信号強度信号(602)によって示される動きがほとんどないか、またはまったくないが、HRV信号(605)が増大している、つまり、正常睡眠期間(610)中よりも高い心拍変動のHRV信号(605)値、および/または異常心拍間隔時間の組み合わせから特定することができる。この不整脈の期間中に取得された心拍のTB2B信号および/またはHRV信号は、不整脈の種類を識別するために、より詳細に分析することができる。
【0100】
期間613もまた、信号強度信号(602)のピークが数回のみの、静かな深い睡眠を示す正常な信号強度(SS)レベルを主として含むが、HRV信号(605)の変動は顕著である。全体的な一回拍出量信号(603)レベルの、例えば直前の睡眠期間と比較した低下は、異常な心拍状況の発生も示し、この期間中に心臓の房室が正常な能力を十分に利用できないことを示している。一回拍出量(603)は、正常心拍期間(610)中よりも幾分低く、HRV信号(604)は、正常心拍期間(610)中よりも明らかに高い。これらは不整脈の明確な指標である。
【0101】
単一の加速度計から受信して取得されたBCG信号は非常に弱い一方、例えば近くの交通、またはポンプなどの機械的デバイスといった環境からのノイズによって加速度信号が検出され、誤って対象者のBCG信号として解釈される可能性がある。しかし、そのようなノイズ由来の信号を実際の対象者から取得された信号から区別することは通常、可能である。概して、環境に起因する信号は、対象者から取得される信号よりも低い信号強度を有する。したがって、信号強度が非常に弱い場合には、異常な心拍間隔時間、一回拍出量、または高すぎるHRVは、ノイズに起因する可能性が高いとして無視することができる。
【0102】
図8は、典型的な、検出された数分間の不整脈時の信号強度と心拍間隔時間とのプロット図を示す。実線で示されている信号強度(602)は、動きがないことを示すレベルでもなく、単なるノイズと解釈することができる弱い信号レベルでもなく、比較的安定して推移している。したがって、プロットは対象者の実際に取得された心拍間隔時間を表すと期待することができる。ただし、ドットで表示された心拍間隔時間(801)は顕著に変化し、明確なグループを形成している。心拍間隔時間(801)の大部分は、500~1200msの範囲に値を有するが、約1500~2000msの範囲に、別の明確に視認できる心拍間隔時間のグループを確認することができる。このような正常な心拍間隔時間と延長された心拍間隔時間とのパターン(801)は、徐脈の発生を示し、心拍の脱落または遅延を意味する。
【0103】
図9は、ポアンカレプロットまたはローレンツプロットとして知られる、
図8のプロットに示されているものと同一の期間にわたる、典型的なリカレンスプロットを示し、連続する心拍間隔時間の間の相違に対する別の見方を示す。プロットは、各心拍間隔時間B2BT(n)を先行する心拍間隔時間B2BT(n-1)と比較する。このプロットでは、正常心拍間隔時間が第1のグループ(901)を形成し、一方、比較的対称的に配置された2つのサイドグループ(902)は、延長された、ほぼ2倍の心拍間隔時間を示すことが表示される。示された心拍間隔時間の変動に基づいて、不整脈の種類は徐脈と識別することができる。
【0104】
技術が進歩するにつれて、本発明の基本的な着想を様々な方法で実現可能であることは、当業者には明らかである。したがって、本発明およびその実施形態は上記の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内での変形は可能である。