(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/28 20060101AFI20221122BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20221122BHJP
H01P 1/207 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
H01Q21/28
H01Q1/52
H01P1/207 Z
(21)【出願番号】P 2021540661
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2020026727
(87)【国際公開番号】W WO2021033448
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019149899
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】上田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖久
(72)【発明者】
【氏名】大室 雅司
(72)【発明者】
【氏名】川端 一也
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】水沼 隆賢
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/011412(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/054094(WO,A1)
【文献】中国実用新案第205900780(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/28
H01Q 1/52
H01P 1/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の筐体に収容された第1アンテナ、第2アンテナ、及び導波管構造物を有し、
前記第2アンテナの動作周波数は前記第1アンテナの動作周波数より高く、
前記第2アンテナは、複数の放射素子を含むアレイアンテナであり、
前記導波管構造物は、前記第1アンテナから見てメインビームの半値角の範囲の外側であって、前記第2アンテナで受信される電波の経路に配置された単位導波管を含み、
前記単位導波管は、前記第1アンテナの動作周波数の電波を前記第2アンテナの動作周波数の電波より大きく減衰させる
寸法を有する通信装置。
【請求項2】
前記導波管構造物は前記単位導波管を複数個含み、前記単位導波管は、前記第2アンテナの複数の放射素子のそれぞれに対応して配置されている請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
さらに、前記第1アンテナと前記第2アンテナとを共通の支持面に支持する支持部材を有し、
前記導波管構造物は、平面視において、前記第1アンテナとは重ならず、前記第2アンテナを包含している請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記導波管構造物は、平面視において格子状に配置された金属壁を含み、前記金属壁のうち、格子状の前記金属壁の複数の開口部の各々を取り囲む部分が前記単位導波管を構成する請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記筐体の一部分が前記支持面に対して間隔を隔てて対向しており、前記導波管構造物は前記筐体に固定されている請求項3または4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記導波管構造物は前記支持部材に固定されている請求項3または4に記載の通信装置。
【請求項7】
さらに、前記支持面上に配置されて前記第2アンテナを覆う誘電体膜を有し、
前記導波管構造物は、前記誘電体膜に埋め込まれた複数の導体柱を含み、前記複数の導体柱は、平面視において格子状の直線群に沿って配置されており、前記複数の導体柱によって構成される格子の複数の開口部の各々を取り囲む複数の導体柱が前記単位導波管を構成する請求項3に記載の通信装置。
【請求項8】
前記導波管構造物は、前記複数の導体柱を接続し、平面視において前記第2アンテナの前記複数の放射素子と重ならないように配置された導体パターンを、さらに含む請求項7に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの周波数で動作する通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に、2つの周波数で動作する平面アレイアンテナが開示されている。このアンテナは、層状の構成をなす第1及び第2の平面アレイアンテナユニットからなる。第1の平面アレイアンテナユニットは相対的に低周波数帯で動作し、第2の平面アレイアンテナユニットは相対的に高周波数帯で動作する。第1の平面アレイアンテナユニットは第2の平面アレイアンテナユニットの上に配置されている。第1の平面アレイアンテナユニットと第2の平面アレイアンテナユニットとの間に接地面が配置されている。第1の平面アレイアンテナユニットのパッチ及び接地面は、第2の平面アレイアンテナユニットの動作周波数帯に対しては透明である周波数選択性を持つ。また、接地面は、第1の平面アレイアンテナユニットの動作周波数の電波を反射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアンテナでは、第2のアンテナユニットの動作周波数において透明にするために、第2の平面アレイアンテナユニットの上に配置された第1の平面アレイアンテナユニットのパッチ、及び接地面に複数の孔を設けている。ところが、第1の平面アレイアンテナユニットのパッチ及び接地面を完全に電気的に透明にすることは困難である。ここで、「電気的に透明」とは、電波に対する影響が空気とほぼ等価になることを意味する。このため、第2の平面アレイアンテナユニットで送受信される電波が、第1の平面アレイアンテナユニットのパッチ及び接地面である程度減衰されてしまう。
【0005】
2つのアンテナを重ねることなく横に並べて配置すると、一方のアンテナで送受信される電波が他方のアンテナの影響を受けにくくなる。ところが、低周波数帯のアンテナから放射された電波が高周波数帯のアンテナで受信され、受信信号の処理時に高調波が発生すると、この高調波が高周波数帯の電波の受信信号に対してノイズとなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、異なる周波数で動作する2つのアンテナを持つ通信装置において、低周波数帯のアンテナから放射されて高周波数帯のアンテナで受信された受信信号の高調波が、高周波数帯のアンテナの通信に与える影響を軽減することが可能な通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
同一の筐体に収容された第1アンテナ、第2アンテナ、及び導波管構造物を有し、
前記第2アンテナの動作周波数は前記第1アンテナの動作周波数より高く、
前記第2アンテナは、複数の放射素子を含むアレイアンテナであり、
前記導波管構造物は、前記第1アンテナから見てメインビームの半値角の範囲の外側であって、前記第2アンテナで受信される電波の経路に配置された単位導波管を含み、前記単位導波管は、前記第1アンテナの動作周波数の電波を前記第2アンテナの動作周波数の電波より大きく減衰させる寸法を有する通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
第1アンテナの動作周波数の電波が電波反射物で反射されて第2アンテナで受信される前に、導波管構造物が第1アンテナの動作周波数の電波を減衰させる。このため、第2アンテナで受信された後に受信信号の高調波が発生したとしても、高調波の信号強度は低い。従って、この高調波が第2アンテナの信号受信処理に与える影響が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、第1実施例による通信装置に用いられるアンテナ装置の平面図であり、
図1Bは、
図1Aの一点鎖線1B-1Bにおける断面図であり、
図1Cは、第1実施例による通信装置に含まれる導波管構造物の斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施例による通信装置のレーダー機能部分のブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施例による通信装置の通信機能部分のブロック図である。
【
図4】
図4は、第1実施例による通信装置及び通信装置の電波放射空間に存在する電波反射物の概略図である。
【
図5】
図5は、第1アンテナ及び第2アンテナから放射されて、電波反射物で反射され、第2送受信回路で検出されるまでの信号強度の変化の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、第2実施例による通信装置の断面図であり、
図6Bは、第2実施例の変形例による通信装置の断面図である。
【
図7】
図7Aは、第3実施例による通信装置に用いられるアンテナ装置の平面図であり、
図7Bは、
図7Aの一点鎖線7B-7Bにおける通信装置の断面図である。
【
図8】
図8は、第4実施例による通信装置の断面図である。
【
図9】
図9Aは、第5実施例による通信装置の平面図であり、
図9Bは、
図9Aの一点鎖線9B-9Bにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施例]
図1A乃至
図4を参照して、第1実施例による通信装置について説明する。
図1Aは、第1実施例による通信装置に用いられるアンテナ装置の平面図である。
図1Bは、
図1Aの一点鎖線1B-1Bにおける断面図である。
図1Cは、第1実施例による通信装置に含まれる導波管構造物の斜視図である。
【0011】
モジュール基板30(
図1B)の一方の面である支持面31に第1アンテナ11及び第2アンテナ12が設けられている。モジュール基板30は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12を支持する支持部材としての機能も有する。第1アンテナ11は、複数の第1放射素子11aを含み、第2アンテナ12は、複数の第2放射素子12aを含む。モジュール基板30は、内部に配置されたグランドプレーン32を含む。
【0012】
第1放射素子11a及び第2放射素子12aの各々とグランドプレーン32とによってパッチアンテナが構成される。第1アンテナ11は、複数の第1放射素子11aを含むアレイアンテナであり、第2アンテナ12は、複数の第2放射素子12aを含むアレイアンテナである。第2アンテナ12の動作周波数f2は、第1アンテナ11の動作周波数f1より高い。ここで、アンテナの動作周波数は、アンテナ利得が最大となる周波数と定義される。
【0013】
平面視において、複数の第1放射素子11aは、例えば2行2列の行列状に配置されており、第2放射素子12aは、例えば3行4列の行列状に配置されている。
【0014】
筐体50の一部分が、モジュール基板30の支持面31に対して間隔を隔てて対向している。モジュール基板30の支持面31と筐体50との間に導波管構造物20が配置されている。導波管構造物20は、モジュール基板30及び筐体50の両方に接触している。例えば、導波管構造物20は、第1アンテナ11から見てメインビームの半値角の範囲の外側であって、第2アンテナ12で受信される電波の経路に配置されている。導波管構造物20は、平面視において第1アンテナ11と重ならず、第2アンテナ12を包含するように配置することが好ましい。
【0015】
導波管構造物20(
図1C)は、平面視において格子状に配置された金属壁を含む。格子状の金属壁の複数の開口部21に対応して、第2アンテナ12の複数の第2放射素子12aが配置されている。具体的には、第2放射素子12aの各々は、平面視において対応する開口部21の内部に配置されている。第2放射素子12aと、それに対応する開口部21との相対的な位置関係は、すべての第2放射素子12aにおいて同一である。
【0016】
格子状の金属壁のうち、複数の開口部21の各々の側壁となる部分が1つの導波管(以下、単位導波管という。)として機能し、所望の波長の電波を通過させる。また、開口部21の寸法に対して十分長い波長の電波に対しては、導波管構造物20が反射器として機能する。具体的には、導波管構造物20は、第2アンテナ12の動作周波数の電波を通過させ、第1アンテナ11の動作周波数の電波を、第2アンテナ12の動作周波数の電波より大きく減衰させる。
【0017】
図2は、第1実施例による通信装置のレーダー機能部分のブロック図である。このレーダー機能部分は、時分割多元接続(TDMA)、周波数変調連続波(FMCW)、及びマルチ入力マルチ出力(MIMO)の機能を含んでいる。複数の第2放射素子12aの一部が送信用の第2アンテナ12Tを構成し、残りの複数の第2放射素子12aが受信用の第2アンテナ12Rを構成している。
【0018】
第2送受信回路42が、送信用の第2アンテナ12Tの複数の第2放射素子12aに高周波信号を供給する。受信用の第2アンテナ12Rの複数の第2放射素子12aで受信された高周波信号が第2送受信回路42に入力される。第2送受信回路42は、信号処理回路80、ローカル発振器81、送信処理部82、及び受信処理部85を含んでいる。
【0019】
ローカル発振器81が、信号処理回路80からのチャープ制御信号Scに基づいて、時間と共に周波数が線形に増加または減少するローカル信号SLを出力する。ローカル信号SLは、送信処理部82及び受信処理部85に与えられる。
【0020】
送信処理部82は、複数のスイッチ83とパワーアンプ84とを含む。スイッチ83及びパワーアンプ84は、送信用の第2アンテナ12Tを構成する第2放射素子12aごとに設けられている。スイッチ83は、信号処理回路80からのスイッチング制御信号Ssに基づいてオンオフされる。スイッチ83がオンになっている状態で、ローカル信号SLがパワーアンプ84に入力される。パワーアンプ84は、ローカル信号SLの電力を増幅して、対応する第2放射素子12aに供給する。
【0021】
送信用の第2アンテナ12Tから放射された電波がターゲットで反射され、反射波が受信用の第2アンテナ12Rで受信される。
【0022】
受信処理部85は、複数のローノイズアンプ87とミキサ86とを含む。ローノイズアンプ87及びミキサ86は、受信用の第2アンテナ12Rを構成する第2放射素子12aごとに設けられている。受信用の第2アンテナ12Rを構成する複数の第2放射素子12aで受信されたエコー信号Seがローノイズアンプ87で増幅される。ミキサ86は、増幅されたエコー信号Seとローカル信号SLとを乗算し、ビート信号Sbを生成する。
【0023】
信号処理回路80は、例えばADコンバータ、マイクロコンピュータ等を備えており、ビート信号Sbに対する信号処理を行うことにより、ターゲットまでの距離及び方位を算出する。
【0024】
図3は、第1実施例による通信装置の通信機能部分のブロック図である。第1送受信回路41から第1アンテナ11の第1放射素子11aに高周波信号が供給され、第1放射素子11aで受信された高周波信号が第1送受信回路41に入力される。
【0025】
第1送受信回路41は、ベースバンド集積回路素子(BBIC)110及び高周波集積回路素子(RFIC)90を含む。高周波集積回路素子90は、中間周波増幅器91、アップダウンコンバート用ミキサ92、送受信切替スイッチ93、パワーディバイダ94、複数の移相器95、複数のアッテネータ96、複数の送受信切替スイッチ97、複数のパワーアンプ98、複数のローノイズアンプ99、及び複数の送受信切替スイッチ100を含む。
【0026】
まず、送信機能について説明する。ベースバンド集積回路素子110から、中間周波増幅器91を介してアップダウンコンバート用ミキサ92に、中間周波信号が入力される。アップダウンコンバート用ミキサ92で中間周波信号がアップコンバートされて生成された高周波信号が、送受信切替スイッチ93を介してパワーディバイダ94に入力される。パワーディバイダ94で分割された高周波信号の各々が、移相器95、アッテネータ96、送受信切替スイッチ97、パワーアンプ98、送受信切替スイッチ100を経由して第1放射素子11aに入力される。
【0027】
次に、受信機能について説明する。複数の第1放射素子11aの各々で受信された高周波信号が、送受信切替スイッチ100、ローノイズアンプ99、送受信切替スイッチ97、アッテネータ96、移相器95を経由してパワーディバイダ94に入力される。パワーディバイダ94で合成された高周波信号が、送受信切替スイッチ93を経由して、アップダウンコンバート用ミキサ92に入力される。アップダウンコンバート用ミキサ92で高周波信号がダウンコンバートされて生成された中間周波信号が、中間周波増幅器91を経由してベースバンド集積回路素子110に入力される。
【0028】
次に、
図4を参照して、第1実施例の優れた効果について説明する。
図4は、第1実施例による通信装置及び通信装置の電波放射空間に存在する電波反射物の概略図である。第1アンテナ11及び第2アンテナ12の電波が放射される空間に電波反射物60が存在している。第1アンテナ11は、例えば第5世代移動通信システム(5G通信システム)で用いられ、26GHz帯で動作する。第2アンテナ12は、例えばミリ波レーダーやジェスチャーセンサシステムに用いられ、動作周波数は79.5GHzである。
【0029】
導波管構造物20は、第2アンテナ12の動作周波数である79.5GHzの電波をほとんど通過させ、第1アンテナ11の動作周波数帯の電波を大きく減衰させる。第2アンテナ12から放射された電波が電波反射物60で反射し、反射波が第2アンテナ12で受信される。
【0030】
第1アンテナ11から放射された電波も電波反射物60で反射し、反射波が第2アンテナ12に入射する。第2アンテナ12のアンテナ利得は、その動作周波数79.5GHzにおいて最大であるが、第1アンテナ11の動作周波数帯においても、ある程度の利得を有している。このため、例えば26GHz帯の電波の反射波も第2アンテナ12で受信される。26GHz帯の信号が第2送受信回路42(
図2)のローノイズアンプで増幅される際に、ローノイズアンプの非線形によって高調波が発生する。26GHz帯の信号の第3高調波には、79.5GHzに一致するか、または79.5GHzに近接している周波数の信号が含まれる。このため、26GHz帯の受信信号の第3高調波は、第2アンテナ12で送受信される信号に対してノイズとなる。
【0031】
第1実施例では、導波管構造物20が、第1アンテナ11から放射されて電波反射物60で反射し、第2アンテナ12に入射する電波を減衰させるため、ローノイズアンプ87の非線形性によって発生する第3高調波の強度も低下する。従って、第1アンテナ11から放射される電波に起因するノイズが、第2アンテナ12で送受信される信号に与える影響を軽減することができる。
【0032】
さらに、第1実施例では、第2アンテナ12の複数の第2放射素子12aと、それに対応する導波管構造物20の開口部21との相対位置関係が、すべての第2放射素子12aにおいて同一である。このため、第2放射素子12a単体のアンテナ利得のばらつきを抑制することができる。
【0033】
次に、
図5を参照して導波管構造物20に求められる減衰量について説明する。
図5は、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から放射されて、電波反射物60(
図4)で反射され、第2送受信回路42(
図2)で検出されるまでの信号強度の変化の一例を示すグラフである。縦軸は信号強度を単位「dBm」で表す。
【0034】
横軸は、アンテナの等価等方放射電力(EIRP)、及び信号強度が変動する要因、すなわち電波の伝搬ロス、電波反射物のレーダー散乱断面積(RCS)に起因するロス、導波管構造物20(
図1A、
図1B)による伝搬ロス、アンテナの受信利得、ローノイズアンプの非線形性による第3高調波の発生効率を表している。
【0035】
図5では、第2アンテナ12が周波数79.5GHzのミリ波レーダー用であり、第1アンテナ11が5G通信システムの26GHz帯の送受信用である場合について示している。26GHz帯に含まれる26.5GHzの電波が第1アンテナ11から放射され、79.5GHzの電波が第2アンテナ12から放射される。第1アンテナ11から放射される第3高調波の周波数が、第2アンテナ12から放射される基本波の周波数と等しい。
【0036】
図5のグラフ中の太い実線は、第2アンテナ12から放射された79.5GHzの電波に関連する信号の強度の変動を示す。相対的に高密度のハッチングを付した領域は、第2アンテナ12から放射された79.5GHzの電波に関連する信号の強度の範囲を示す。細い実線は、第1アンテナ11から放射された26.5GHzの電波に関連する信号の強度の変動を示す。相対的に低密度のハッチングを付した領域は、第1アンテナ11から放射された26.5GHzの電波に関連する信号の強度の範囲を示す。破線は、導波管構造物20が配置されていない場合に、第1アンテナ11から放射された26.5GHzの電波に関連する信号の強度を示す。
【0037】
第1アンテナ11の基本波のEIRPが30dBmであると仮定する。このとき、例えば、第3高調波のEIRPは-4dBm程度である。レーダーシステムで用いる第2アンテナ12から放射される79.5GHzの電波のEIRPを、第1アンテナ11から放射される第3高調波のEIRPより十分高く設定する必要がある。例えば、第2アンテナ12による周波数79.5GHzのEIRPを、-4dBmに対して十分大きな39dBmに設定する。
【0038】
まず、第2アンテナ12を含むレーダーシステムについて説明する。第2アンテナ12として進行波型のパッチアレーを8個並列に並べたパッチアレーアンテナを用いると仮定する。アンテナ利得が25dBiである場合、1ポートの入力電力を5dBmとすることによりEIRPを39dBmにすることができる。100m離れた電波反射物を検知する場合、電波の往復距離が200mになる。この伝搬ロスは約116dBである。従って、伝搬ロスが発生した後の信号強度は-77dBmになる。さらに、電波反射物のレーダー散乱断面積(RCS)を-10dB以上+10dB以下の範囲と仮定すると、電波反射物のRCSを考慮した後の信号強度は-87dBm以上-67dBm以下になる。
【0039】
導波管構造物20は79.5GHzの電波をほとん
ど通過させるため、導波管構造物20によるロスはほとんど生じない。従って、導波管構造物20通過後の信号強度は、-87dBm以上-67dBm以下である。第2アンテナ12の受信利得が25dBiであると仮定すると、第2アンテナ12による受信信号の信号強度は-62dBm以上-42dBm以下になる。従って、第2送受信回路42(
図2)の受信感度
RSは、少なくとも-62dBmより小さくすることが好ましい。10dB程度の余裕を見て、受信感度RSは-72dBm程度とすることが好ましい。
【0040】
次に、5G通信システム用の第1アンテナ11から放射された電波がレーダーシステムに与える影響について説明する。第1アンテナ11から放射された26.5GHzの基本波の第3高調波がレーダーシステムに影響を与えないようにするために、この高調波の信号強度を、レーダーシステムの受信感度RS、すなわち-72dBmより小さくする必要がある。
【0041】
第1アンテナ11による26.5GHzのEIRPは、上述のように例えば30dBmとする。一例として、第1アンテナ11から放射されて1m先の電波反射物で反射し、第2アンテナ12に入射する場合、往復2mの伝搬ロスは約67dBになる。このため、伝搬ロスが発生した後の信号強度は-37dBmになる。障害物のRCSが約-10dBである場合、障害物のRCSを考慮した後の信号強度は-47dBmになる。
【0042】
まず、導波管構造物20が配置されていない場合について説明する。第2アンテナ12の79.5GHzにおける受信利得が25dBiである場合、26.5GHzにおける受信利得はそれよりも低くなる。例えば、26.5GHzにおける受信利得は0dBiである。このとき、第2アンテナ12で受信された26.5GHzの受信信号の信号強度は-47dBmになる。ローノイズアンプの非線形性による第3高調波発生効率を-20dBとすると、ローノイズアンプを通過した後の周波数79.5GHzの第3高調波の信号強度は-67dBmになる。
【0043】
この信号強度は、受信感度RSである-72dBmより大きいため、レーダーシステムで有効な信号として検知されてしまう。従って、第2アンテナ12で受信される26.5GHzの電波を、受信前に導波管構造物20で減衰させなければならない。
【0044】
第3高調波の信号強度を受信感度RSより低くするためには、
図5において細い実線で示すように、10dB程度の減衰量が好ましく、余裕を持たせて20dB程度の減衰量とすることがより好ましい。導波管構造物20で26.5GHzの電波を10dB減衰させることにより、第3高調波の信号強度をレーダーシステムの受信感度RSより低くすることができる。さらに、導波管構造物20で26.5GHzの電波を20dB減衰させることにより、第3高調波の信号強度をレーダーシステムの受信感度RSより十分低くすることができる。
【0045】
図5に示した例では種々の仮定を導入しているが、これらの仮定は実際のレーダーシステム、5G通信システムにおいて利用される状況を反映したものである。従って、一般的に、導波管構造物20による第1アンテナ11の動作周波数の電波の減衰量を10dB以上にすることが好ましく、20dB以上にすることがより好ましいといえる。導波管構造物20による電波の減衰量の調整は、導波管構造物20の高さ(導波管の長さに相当)を調整することにより行うことができる。
【0046】
[第2実施例]
次に、
図6Aを参照して第2実施例による通信装置について説明する。以下、第1実施例による通信装置(
図1A、
図1B、
図1C)と共通の構成については説明を省略する。
【0047】
図6Aは、第2実施例による通信装置の断面図である。第1実施例による通信装置においては、導波管構造物20(
図1B)がモジュール基板30と筐体50との両方に接触している。これに対して第2実施例では、導波管構造物20が筐体50に接着剤で固定されており、モジュール基板30には接触していない。なお、筐体50と導波管構造物20とを、インサート成形により製造してもよい。
【0048】
筐体50内にモジュール基板30を装着するときに、第2アンテナ12の複数の第2放射素子12aと導波管構造物20との位置合わせを行う。これにより、複数の第2放射素子12aと導波管構造物20との平面視における位置関係を、第1実施例の場合と同様の位置関係にすることができる。
【0049】
次に、
図6Bを参照して第2実施例の変形例による通信装置について説明する。
図6Bは、第2実施例の変形例による通信装置の断面図である。本変形例では、導波管構造物20がモジュール基板30に接着剤で固定されており、筐体50には接触していない。
【0050】
第2実施例、またはその変形例のように、導波管構造物20が、モジュール基板30及び筐体50の一方に接触しない構成としても、第1実施例の場合と同様の優れた効果が得られる。
【0051】
[第3実施例]
次に、
図7A及び
図7Bを参照して第3実施例による通信装置について説明する。以下、第1実施例による通信装置(
図1A、
図1B、
図1C)と共通の構成については説明を省略する。
【0052】
図7Aは、第3実施例による通信装置に用いられるアンテナ装置の平面図であり、
図7Bは、
図7Aの一点鎖線7B-7Bにおける断面図である。第1実施例においては、導波管構造物20(
図1A、
図1C)が格子状の金属壁で構成されている。これに対して第3実施例では、複数の導体柱22及び格子状の導体パターン23によって導波管構造物20が構成されている。
【0053】
モジュール基板30の支持面31の上に、第1アンテナ11及び第2アンテナ12を覆う誘電体膜33が配置されている。平面視において格子状の直線群に沿って配置された複数の導体柱22が誘電体膜33に埋め込まれている。複数の導体柱22によって構成される格子状の複数の直線の間の隙間部分に、それぞれ第2アンテナ12の第2放射素子12aが配置されている。
【0054】
複数の導体柱22の上端が誘電体膜33の上面に露出している。導体パターン23が、誘電体膜33の上面に露出した導体柱22の上端を通過するように、誘電体膜33の上に配置されており、複数の導体柱22の上端同士を電気的に接続している。複数の導体柱22の下端は、モジュール基板30内のグランドプレーン32まで達し、グランドプレーン32に電気的に接続されている。複数の導体柱22の間隔は、複数の導体柱22によって構成される格子の開口部に相当する空間が、第1アンテナ11の動作周波数の電波に対して導波管として機能する程度に設定されている。例えば、複数の導体柱22の間隔は、第2アンテナ12の動作周波数の電波の誘電体膜33内における波長の1/4以下に設定されている。平面視において1つの第2放射素子12aを取り囲むように配置された複数の導体柱22、及びこれらの上端同士を電気的に接続する導体パターン23が、1つの第2放射素子12aに対応する単位導波管として機能する。
【0055】
次に、第3実施例の優れた効果について説明する。
第3実施例においても、導波管構造物20が第1アンテナ11の動作周波数帯の電波を減衰させるため、第1実施例の場合と同様の優れた効果が得られる。電波の減衰量は、支持面31から見て導波管構造物20の上端までの高さが高いほど大きくなる。第3実施例では、導波管構造物20の開口部21が、空気の誘電率より高い誘電率を持つ誘電体膜33で充填されている。このため、支持面31から導波管構造物20の上端までの、電波伝搬に関する実質的な長さが、開口部21が空洞にされている場合と比べて長くなる。その結果、導波管構造物20による電波の減衰量が大きくなるという優れた効果が得られる。
【0056】
次に、第3実施例の変形例について説明する。第3実施例では複数の導体柱22をグランドプレーン32に接続しているが、グランドプレーン32に接続しなくてもよい。また、第3実施例では、複数の導体柱22の上端同士が導体パターン23で接続されているが、上端と下端との間の中間部においても、内層の格子状の導体パターンで複数の導体柱22を相互に電気的に接続してもよい。複数の導体柱22を中間部で相互に接続することにより、単位導波管としての機能を高めることができる。
【0057】
[第4実施例]
次に、
図8を参照して第4実施例による通信装置について説明する。以下、第1実施例による通信装置(
図1A、
図1B、
図1C)と共通の構成については説明を省略する。
【0058】
図8は、第4実施例による通信装置の断面図である。第1実施例では、第1アンテナ11及び第2アンテナ12が共通のモジュール基板30(
図1B)に設けられており、モジュール基板30が第1アンテナ11及び第2アンテナ12を支持する支持部材として用いられている。これに対して第4実施例では、第1アンテナ11及び第2アンテナ12が、それぞれ異なる第1モジュール基板30A及び第2モジュール基板30Bに形成されている。第1モジュール基板30A及び第2モジュール基板30Bは、それぞれ内部にグランドプレーン32A及びグランドプレーン32Bを有している。導波管構造物20は第2モジュール基板30Bに固定されている。
【0059】
第1モジュール基板30A及び第2モジュール基板30Bが、共通の支持部材35の支持面36に固定されている。支持部材35は、筐体50内に収容されており、筐体に対して固定されている。
【0060】
次に、第4実施例の優れた効果について説明する。第4実施例においても、導波管構造物20を配置することにより、第1実施例の場合と同様の優れた効果が得られる。また、第4実施例では第1アンテナ11と第2アンテナ12とが異なるモジュール基板に形成されているため、両者の配置の自由度が高まる。
【0061】
[第5実施例]
次に、
図9A及び
図9Bを参照して第5実施例による通信装置について説明する。以下、第1実施例(
図1A)及び第2実施例(
図6A)による通信装置と共通の構成については説明を省略する。
【0062】
図9Aは、第5実施例による通信装置の平面図であり、
図9Bは、
図9Aの一点鎖線9B-9Bにおける断面図である。第1実施例(
図1A)では、導波管構造物20を構成する格子状の金属壁の複数の開口部
21と第2アンテナ12の複数の第2放射素子12aとが1対1に対応している。これに対して第5実施例では、導波管構造物20を構成する格子状の金属壁の2つの開口部が1つの第2放射素子12aに対応している。すなわち、1つの第2放射素子12aに対して、2つの単位導波管が配置されている。平面視において、金属壁の、列方向(
図9Aにおいて縦方向)に延びる直線状の部分が、第2放射素子12aの各々の中心を通過している。
【0063】
第5実施例においても、第1実施例及び第2実施例の場合と同様に、導波管構造物20が、第1アンテナ11から放射される基本周波数の電波を減衰させる。第2アンテナ12で送信または受信される周波数の電波は、導波管構造物20でほとんど減衰されない。
【0064】
次に、第5実施例の優れた効果について説明する。第5実施例においても、第1実施例、第2実施例等と同様に、第1アンテナ11から放射されて電波反射物60(
図4)で反射し、第2アンテナ12に入射する基本周波数の電波が、導波管構造物20によって減衰される。このため、ローノイズアンプ87(
図2)に入力される基本周波数の信号が弱められる。その結果、ローノイズアンプ87の非線形性によって発生する高調波成分の信号強度も低下する。従って、第1アンテナ11から放射される電波に起因するノイズが、第2アンテナ12で
送受信される信号に与える影響を軽減することができる。
【0065】
さらに、第5実施例においても、導波管構造物20に含まれる複数の単位導波管と、第2アンテナ12の複数の第2放射素子12aとの相対位置関係が、すべての第2放射素子12aにおいて同一である。このため、第2放射素子12a単体のアンテナ利得のばらつきを抑制することができる。
【0066】
第5実施例では、
図9Aにおいて第2アンテナ12の第2放射素子12aの4つの縁のうち上下の縁が、金属壁と交差しており、左右の縁は金属壁と交差していない。この場合、金属壁と交差していない縁が波源となるように第2放射素子12aを励振させることが好ましい。すなわち、
図9Aにおいて第2放射素子12aの偏波方向が左右方向となる構成とすることが好ましい。
【0067】
次に、第5実施例の変形例について説明する。
第5実施例では、平面視において、金属壁の列方向に延びる直線状の部分が第2放射素子12aの中心を通過しているが、金属壁の行方向に延びる直線状の部分が第2放射素子12aの中心を通過するようにしてもよい。また、第5実施例では、1つの第2放射素子12aに2つの単位導波管を対応付けているが、1つの第2放射素子12aに3つ以上の複数の単位導波管を対応付けてもよい。
【0068】
[第6実施例]
次に、
図10A及び
図10Bを参照して第6実施例による通信装置について説明する。以下、第5実施例による通信装置(
図9A、
図9B)と共通の構成については説明を省略する。
【0069】
図10Aは、第6実施例による通信装置の平面図であり、
図10Bは、
図10Aの一点鎖線10B-10Bにおける断面図である。第5実施例では、1つの第2放射素子12aに2つの単位導波管を対応付けている。これに対して第6実施例では、2つの第2放射素子12aに1つの単位導波管を対応付けている。具体的には、行方向に並ぶ2つの第2放射素子12aに対して1つの単位導波管を配置している。単位導波管の各々の平面視における形状は、行方向に長い長方形であり、平面視において1つの単位導波管に2つの第2放射素子12aが包含される。
【0070】
第6実施例においても、第5実施例の場合と同様に、導波管構造物20が、第1アンテナ11から放射される基本周波数の電波を減衰させる。第2アンテナ12で送信または受信される周波数の電波は、導波管構造物20でほとんど減衰されない。
【0071】
次に、第6実施例の優れた効果について説明する。第6実施例においても、第5実施例と同様に、第1アンテナ11から放射される電波に起因するノイズが、第2アンテナ12で送受信される信号に与える影響を軽減することができる。
【0072】
次に、第6実施例の変形例について説明する。第6実施例では1つの単位導波管に2つの第2放射素子12aを対応付けているが、1つの単位導波管に3つ以上の複数の第2放射素子12aを対応付けてもよい。例えば、平面視において、1つの単位導波管に3つ以上の複数の第2放射素子12aが包含されるようにしてもよい。
【0073】
[第7実施例]
次に、
図11A及び
図11Bを参照して第7実施例による通信装置について説明する。以下、第1実施例による通信装置(
図1A乃至
図5)と共通の構成については説明を省略する。
【0074】
図11Aは、第7実施例による通信装置の平面図であり、
図11Bは、
図11Aの一点鎖線11B-11Bにおける断面図である。第7実施例により通信装置は、第1実施例の場合と同様に、第2アンテナ12で受信される電波の経路に配置された単位導波管を含む導波管構造物20を有する。また、導波管構造物20は、第1アンテナ11から見てメインビームの半値角の範囲の外側に配置されている。導波管構造物20として、第1アンテナ11の動作周波数の電波を第2アンテナ12の動作周波数の電波より大きく減衰させる導波機能を持つ構造物を用いることができる。
【0075】
次に第7実施例の優れた効果について説明する。第7実施例においても、第1実施例の場合と同様に、第1アンテナ11から放射される電波に起因するノイズが、第2アンテナ12で送受信される信号に与える影響を軽減することができる。
【0076】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0077】
11 第1アンテナ
11a 第1放射素子
12 第2アンテナ
12a 第2放射素子
12R 受信用の第2アンテナ
12T 送信用の第2アンテナ
20 導波管構造物
21 開口部
22 導体柱
23 導体パターン
30 モジュール基板
30A 第1モジュール基板
30B 第2モジュール基板
31 支持面
32、32A、32B グランドプレーン
33 誘電体膜
35 支持部材
36 支持面
41 第1送受信回路
42 第2送受信回路
50 筐体
60 電波反射物
80 信号処理回路
81 ローカル発振器
82 送信処理部
83 スイッチ
84 パワーアンプ
85 受信処理部
86 ミキサ
87 ローノイズアンプ
90 高周波集積回路素子
91 中間周波増幅器
92 アップダウンコンバート用ミキサ
93 送受信切替スイッチ
94 パワーディバイダ
95 移相器
96 アッテネータ
97 送受信切替スイッチ
98 パワーアンプ
99 ローノイズアンプ
100 送受信切替スイッチ
110 ベースバンド集積回路素子