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特許7180786クロマトグラフィ検出器用フローセルおよびクロマトグラフィ検出器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】クロマトグラフィ検出器用フローセルおよびクロマトグラフィ検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20221122BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20221122BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01N21/05
G01N30/74 Z
G01N30/02 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021541391
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032490
(87)【国際公開番号】W WO2021033272
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】内方 崇人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 理悟
(72)【発明者】
【氏名】尾和 道晃
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-122397(JP,A)
【文献】特開2008-224342(JP,A)
【文献】国際公開第2019/038818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 30/00-G01N 30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のクロマトグラムの生成に用いられるクロマトグラフィ検出器用フローセルであって、
一方向に延びる内部空間を有する本体部と、
前記本体部の前記内部空間に前記一方向に延びるように収容されるとともに、試料を含む移動相が流れる流路を形成する環状のキャピラリとを備え、
前記キャピラリは、8MPaの圧力下において変形しない厚みを有する壁面を含み、
前記一方向に交差する断面において、前記壁面の外縁により取り囲まれる領域の面積である第1の値と、
前記断面において、前記壁面の前記外縁と内縁との間の領域の面積である第2の値とが定義され、
前記壁面の厚みの上限は、前記第1の値に対する前記第2の値の比が0.8以下となるように制限される、クロマトグラフィ検出器用フローセル。
【請求項2】
前記キャピラリの内径に対する外径の比は、1.5以下であり、
前記キャピラリの耐圧をP[MPa]とし、前記キャピラリの内径をr[m]とし、前記キャピラリを形成する材料の許容引っ張り応力をσ[MPa]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の下限は、下記式(1)により制限される、請求項1記載のクロマトグラフィ検出器用フローセル。
【数1】
【請求項3】
前記キャピラリの内径に対する外径の比は、1.5よりも大きく、
前記キャピラリの耐圧をP[MPa]とし、前記キャピラリの内径をr[m]とし、前記キャピラリを形成する材料の許容引っ張り応力をσ[MPa]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の下限は、下記式(2)により制限される、請求項1記載のクロマトグラフィ検出器用フローセル。
【数2】
【請求項4】
前記キャピラリは、石英により形成され、
前記キャピラリの内径をr[m]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の上限は、下記式(3)を満たすように制限される、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセル。
【数3】
【請求項5】
前記キャピラリは、任意の透光性材料により形成され、
前記任意の材料の屈折率をnとし、石英の屈折率をnとし、前記キャピラリの内径をr[m]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の上限は、下記式(4)を満たすように制限される、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセル。
【数4】
【請求項6】
前記移動相は、超臨界流体であり、
前記本体部の内部空間は、前記移動相が前記流路内で超臨界状態となるように加圧される、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセル。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルと、
前記クロマトグラフィ検出器用フローセルの前記流路を流れる試料を含む前記移動相に光を出射する投光部と、
前記投光部により出射されかつ試料を透過した光を受光し、受光量を示す信号を出力する受光部とを備える、クロマトグラフィ検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィ検出器用フローセルおよびクロマトグラフィ検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる物質を異なる成分ごとに分離する装置として、液体クロマトグラフ(LC)または超臨界流体クロマトグラフ(SFC)等のクロマトグラフが知られている。特に、SFCは、低い粘度および高い拡散性を有する超臨界流体を移動相として使用するため、試料を高速で分析することが可能である。
【0003】
特許文献1に記載されたSFCにおいては、液化二酸化炭素が移動相として移動相流路に供給されるとともに、試料が移動相流路に注入される。移動相および試料は、移動相流路に配置された分離カラムを通過する。ここで、移動相が少なくとも分離カラム内では超臨界状態となるように、移動相流路内の圧力が背圧弁により維持され、分離カラムの温度がカラムオーブンにより維持される。分離カラムを通過した試料は、試料成分ごとに分離され、検出器により検出される。
【文献】特開2016-173343号公報
【文献】特開2014-41024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SFCにおいて移動相として用いられる超臨界流体の屈折率の温度係数または圧力係数は、LCにおいて移動相として用いられる水等の屈折率の温度係数または圧力係数よりも大きい。したがって、SFCにおいては、圧力または温度の変化に起因して移動相の屈折率が大きく変化する。そのため、検出器として吸光度検出器が用いられる場合には、フローセルを流れる移動相の屈折率が変化することにより、透過光量が変化する。この場合、クロマトグラムのベースラインの変動が大きくなるので、分析の精度が低下する。
【0005】
LCにおいては、内部にキャピラリが収容されたフローセル(ライトガイドセル)を用いることにより、移動相の屈折率の変化に起因するクロマトグラムのベースラインの変動を抑制することが可能である(例えば特許文献2参照)。しかしながら、SFCにおいては、検出器内が高圧に維持されるので、上記のライトガイドセルを設けることは容易ではない。また、ライトガイドセルを高耐圧化するためにキャピラリの壁面の厚みを大きくすると、壁面内を伝達する光の量が増加することにより、定量分析の精度が低下することがある。
【0006】
本発明の目的は、高精度の分析に使用することが可能なクロマトグラフィ検出器用フローセルおよびクロマトグラフィ検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う態様は、試料のクロマトグラムの生成に用いられるクロマトグラフィ検出器用フローセルであって、一方向に延びる内部空間を有する本体部と、前記本体部の前記内部空間に前記一方向に延びるように収容されるとともに、試料を含む移動相が流れる流路を形成する環状のキャピラリとを備え、前記キャピラリは、8MPaの圧力下において変形しない厚みを有する壁面を含み、前記一方向に交差する断面において、前記キャピラリの前記壁面の外縁により取り囲まれる領域の面積である第1の値と、前記断面において、前記キャピラリの前記壁面の前記外縁と内縁との間の領域の面積である第2の値とが定義され、前記壁面の厚みの上限は、前記第1の値に対する前記第2の値の比が0.8以下となるように制限される、クロマトグラフィ検出器用フローセルに関する。
【0008】
本発明の他の局面に従う態様は、上記のクロマトグラフィ検出器用フローセルと、前記クロマトグラフィ検出器用フローセルの前記流路を流れる試料を含む移動相に光を出射する投光部と、前記投光部により出射されかつ試料を透過した光を受光し、受光量を示す信号を出力する受光部とを備える、クロマトグラフィ検出器に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロマトグラフィ検出器用フローセルを高精度の分析に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施の形態に係るクロマトグラフィ検出器を含むクロマトグラフの構成を示す図である。
図2図2図1の検出器の構成を示す模式図である。
図3図3図2のフローセルの構造を示す模式的部分断面図である。
図4図4図3のキャピラリのA-A線断面図である。
図5図5は実施例1、実施例2および比較例1におけるキャピラリの寸法を示す図である。
図6図6はフローセルの面積比と実測された直線性の誤差との関係を示す図である。
図7図7は実施例4におけるクロマトグラムのベースラインを示す図である。
図8図8は比較例2におけるクロマトグラムのベースラインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)クロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係るクロマトグラフィ検出器用フローセルおよびクロマトグラフィ検出器について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るクロマトグラフィ検出器を含むクロマトグラフの構成を示す図である。本実施の形態においては、クロマトグラフ100は、超臨界流体クロマトグラフである。
【0012】
図1に示すように、クロマトグラフ100は、クロマトグラフィ検出器10(以下、検出器10と略記する。)、ボトル20、移動相供給部30、試料供給部40、分離カラム50、背圧調整装置60および制御部70を備える。ボトル20には、例えば約5℃に冷却された液化二酸化炭素が移動相として貯留される。移動相供給部30は、例えば送液ポンプであり、ボトル20に貯留された移動相を圧送する。
【0013】
試料供給部40は、例えばインジェクタであり、分析対象の試料を移動相供給部30により供給された移動相とともに分離カラム50に導入する。分離カラム50は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、導入された移動相が超臨界状態となるように、所定の温度(本例では約40℃)に加熱される。分離カラム50は、導入された試料を化学的性質または組成の違いにより成分ごとに分離する。検出器10は、吸光度検出器であり、分離カラム50により分離された試料の成分を検出する。検出器10の詳細については後述する。
【0014】
背圧調整装置60は、移動相が少なくとも分離カラム50内で超臨界状態となるように、移動相の流路の圧力を移動相の臨界圧力以上(例えば8MPa)に維持する。制御部70は、CPU(中央演算処理装置)およびメモリ、またはマイクロコンピュータ等を含み、検出器10、移動相供給部30、試料供給部40、分離カラム50(カラム恒温槽)および背圧調整装置60の各々の動作を制御する。また、制御部70は、検出器10による検出結果に基づいて、例えば各成分の保持時間と検出強度との関係を示すクロマトグラムを生成する。
【0015】
図2は、図1の検出器10の構成を示す模式図である。図2に示すように、検出器10は、クロマトグラフィ検出器用フローセル1(以下、フローセル1と略記する。)、投光部11、集光レンズ12、分光部13および受光部14を含む。フローセル1は、本体部2およびキャピラリ3を含む。
【0016】
本体部2は、一方向に延びる内部空間2Cを有する。また、本体部2は、内部空間2Cの一端および他端にそれぞれ光導入部2Aおよび光導出部2Bを有する。光導入部2Aは内部空間2Cに光を導入可能であり、光導出部2Bは内部空間2Cから光を導出可能である。さらに、本体部2には、内部空間2Cにつながる導入口2aおよび導出口2bが形成される。キャピラリ3は、内部に流路3aを有し、一方向に延びるように本体部2の内部空間2Cに収容される。
【0017】
図1の分離カラム50を通過した試料を含む移動相は、矢印Aで示すように、導入口2aから本体部2の内部空間2Cに導入される。その後、移動相は、矢印Bで示すように、キャピラリ3の内部の流路3aを一方向に流れる。その後、移動相は、矢印Cで示すように、導出口2bから本体部2の外部に導出される。以下、上記の一方向を流路方向と呼ぶ。また、流路方向において移動相が流れる方向を下流と定義し、その反対方向を上流と定義する。フローセル1の詳細については後述する。
【0018】
投光部11は、広帯域の光を出射する光源であり、本例では紫外光を出射する重水素ランプを含む。投光部11は、タングステンランプまたはLED(発光ダイオード)等の他の光源を含んでもよいし、異なる波長の光を出射する複数の光源を含んでもよい。集光レンズ12は、投光部11により出射された光を集光し、光導入部2Aを通してフローセル1の流路3aを流れる移動相中の試料に照射する。
【0019】
試料に照射された光は、試料を透過することにより試料と相互作用した後、光導出部2Bを通して分光部13に入射される。分光部13は、例えば反射型の回折格子であり、入射された光を波長ごとに異なる角度で反射するように分光する。受光部14は、例えば複数のフォトダイオードが一次元状に配列されたフォトダイオードアレイである。受光部14は、分光部13により分光された各波長の光を受光し、受光量を示す信号を検出結果として図1の制御部70に出力する。
【0020】
(2)フローセルの構成
図3は、図2のフローセル1の構造を示す模式的部分断面図である。図3はフローセル1の上流端部の構造を示すが、フローセル1の下流端部の構造は上流端部の構造と同様である。図3に示すように、フローセル1は、本体部2、キャピラリ3、一対のシール部材4および一対の窓部材5を含む。図3には、フローセル1の上流における一方のシール部材4および一方の窓部材5が図示され、下流における他方のシール部材4および他方の窓部材5の図示が省略されている。
【0021】
本体部2は、例えばステンレスにより形成され、流路方向に延びる円筒状の外形を有する。したがって、本体部2の両端部は開口している。本体部2の上流端部の開口が光導入部2Aとなる。また、本体部2の下流端部の開口が光導出部2B(図2)となる。
【0022】
キャピラリ3は、波長160nmから1000nmのうちの任意の波長の光に対して70%以上の透過率を有しかつ任意の屈折率を有する材料により形成される。キャピラリ3は、高い耐薬品性をさらに有する材料により形成されてもよく、本例では石英により形成される。キャピラリ3は、流路方向に延びる円筒状の外形を有し、本体部2の内部空間2Cに収容される。キャピラリ3の内部が流路3aとなる。
【0023】
キャピラリ3の上流端部よりもさらに上流において、本体部2には、外周面から内周面まで貫通する導入口2aが形成される。また、キャピラリ3の下流端部よりもさらに下流において、本体部2には、外周面から内周面まで貫通する導出口2b(図2)が形成される。
【0024】
各シール部材4は、耐薬品性を有する円環状の部材である。一方のシール部材4は、フローセル1の上流において、本体部2の内周面とキャピラリ3の外周面との間に配置される。他方のシール部材4(図2)は、フローセル1の下流において、本体部2の内周面とキャピラリ3の外周面との間に配置される。これにより、フローセル1の上流および下流において、本体部2の内周面とキャピラリ3の外周面との間がシールされる。そのため、キャピラリ3の周囲は空気に覆われる。
【0025】
各窓部材5は、例えば石英により形成される。一方の窓部材5は、本体部2の上流端部の光導入部2Aに取り付けられる。他方の窓部材5(図2)は、本体部2の下流端部の光導出部2B(図2)に取り付けられる。これにより、本体部2の上流端部および下流端部が、光を透過可能に閉塞される。
【0026】
分離カラム50(図1)を通過した試料を含む移動相は、本体部2の上流における導入口2aから本体部2の内部空間2Cに導入された後、キャピラリ3の上流端部から流路3a内に導入される。移動相は、流路3aを下流方向に流れ、キャピラリ3の下流端部から導出された後、本体部2の下流における導出口2bから本体部2の外部に導出される。
【0027】
また、投光部11(図2)から光が出射され、一方の窓部材5から本体部2の内部空間2Cに導かれる。内部空間2Cに導かれた光は、キャピラリ3の流路3aに入射する。ここで、キャピラリ3の周囲は、キャピラリ3を形成する材料(本例では石英)よりも小さい屈折率を有する空気により覆われている。そのため、流路3aに入射した光は、図3に点線の矢印で示すように、キャピラリ3の外壁面で全反射を繰り返しながら、流路方向に伝搬する。
【0028】
光は、キャピラリ3内を伝搬することにより、流路3a内で移動相中の試料と相互作用する。試料と相互作用した光は、他方の窓部材5を通過して本体部2外に導かれ、分光部13(図2)により分光された後、受光部14(図2)により受光される。受光部14による受光量から算出される吸光度に基づいて、制御部70(図1)によりクロマトグラムが生成される。
【0029】
(3)キャピラリの寸法的制限
図4は、図3のキャピラリ3のA-A線断面図である。図3に示すように、キャピラリ3の内径(流路3aの半径)はr[m]であり、キャピラリ3の壁面3bの厚みはt[m]である。したがって、キャピラリ3の外径R[m]は(r+t)となる。ここで、図3のフローセル1の内部空間2Cは8MPa以上の高圧に維持される。そのため、キャピラリ3の壁面3bの厚みtは、少なくとも8MPaの圧力が印加された場合でもキャピラリ3が変形しない値を有する。
【0030】
具体的には、内径rに対する外径Rの比が1.5以下である場合、キャピラリ3の壁面3bの厚みtの下限は下記式(1)により制限される。一方、内径rに対する外径Rの比が1.5を超える場合、キャピラリ3の壁面3bの厚みtの下限は下記式(2)により制限される。ここで、Pはキャピラリ3の耐圧[MPa]であり、σはキャピラリ3を形成する材料の許容引っ張り応力[MPa]である。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
しかしながら、キャピラリ3の壁面3bの厚みtを過度に大きくすると、壁面3b内を伝達する光の量、すなわち分析に寄与しない光の量が増加することにより、定量分析の精度が低下する。そこで、キャピラリ3が石英により形成される場合、キャピラリ3の壁面3bの厚みtの上限は、下記式(3)の面積比を満たすように制限される。ここで、Sは、キャピラリ3の垂直断面において、壁面3bの外縁により取り囲まれる円形の面積[m]である。sは、キャピラリ3の垂直断面において、壁面3bの内縁と外縁との間の円環の面積[m]である。
【0034】
【数3】
【0035】
キャピラリ3が任意の透光性材料により形成される場合、式(3)の面積比は下記式(4)の面積比に変形される。ここで、n(λ,T)は、石英の屈折率であり、波長λ[nm]および温度T[K]の関数である。n(λ,T)は、キャピラリ3を形成する任意の透光性材料の屈折率であり、波長λ[nm]および温度T[K]の関数である。
【0036】
【数4】
【0037】
(4)効果
本実施の形態に係るフローセル1においては、本体部2における流路方向に延びる内部空間2Cに、環状のキャピラリ3が流路方向に延びるように収容される。試料を含む移動相がキャピラリ3に形成された流路3aを流れる。キャピラリ3の壁面3bは、8MPaの圧力下において変形しない厚みを有する。
【0038】
ここで、第1の値および第2の値とが定義される。第1の値は、流路方向に交差する断面において、壁面3bの外縁により取り囲まれる領域の面積に依存する値である。第2の値は、上記の断面において、壁面3bの外縁と内縁との間の領域の面積に依存する値である。壁面3bの厚みの上限は、第1の値に対する第2の値の比が0.8以下となるように制限される。
【0039】
この制限によれば、キャピラリ3が8MPaの圧力下において変形しないように壁面3bの厚みが大きくされた場合でも、壁面3b内を伝達する光の量が増加することが抑制される。これにより、フローセル1を高精度の分析に使用することができる。
【0040】
また、移動相が流路3a内で超臨界状態となるように本体部2の内部空間2Cが加圧された場合でも、キャピラリ3は変形しない。したがって、移動相として超臨界流体を用いることにより試料を高速で分析することができる。
【0041】
(5)他の実施の形態
上記実施の形態において、フローセル1は超臨界流体クロマトグラフの検出器10に設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。フローセル1は、液体クロマトグラフの検出器10に設けられてもよい。
【0042】
また、上記実施の形態において、フローセル1は、主としてキャピラリ3の外壁面で光を反射する外面反射型のライトガイドセルであるが、実施の形態はこれに限定されない。フローセル1は、主としてキャピラリ3の内壁面で光を反射する内面反射型のライトガイドセルであってもよい。
【0043】
(6)実施例および比較例
以下の実施例1、実施例2および比較例1では、石英により形成されかつキャピラリの寸法が互いに異なる3種類のフローセルを準備した。図5は、実施例1、実施例2および比較例1におけるキャピラリの寸法を示す図である。
【0044】
図5に示すように、実施例1のキャピラリにおいては、内径rが180μmであり、壁面の厚みtが70μmであり、面積比s/Sが0.4816であった。実施例2のキャピラリにおいては、内径rが180μmであり、壁面の厚みtが155μmであり、面積比s/Sが0.7113であった。比較例1のキャピラリにおいては、内径rが180μmであり、壁面の厚みtが320μmであり、面積比s/Sが0.8704であった。
【0045】
実施例1、実施例2および比較例1のフローセルの各々を用いて、既知の試料の濃度と吸光度との直線性を3回ずつ実測した。また、各フローセルの面積比と実測された直線性の誤差との関係を評価した。図6は、フローセルの面積比と実測された直線性の誤差との関係を示す図である。
【0046】
図6に示すように、実施例1,2のフローセルにおいては、エラーバーを考慮しても、直線性の誤差が20%以下となった。一方、比較例1のフローセルにおいては、エラーバーを考慮すると、直線性の誤差が20%よりも大きくなった。実施例1,2と比較例1との比較結果から、キャピラリが石英により形成される場合、面積比s/Sを0.8以下にすることにより、直線性の誤差が20%以下に抑制され、十分な精度で定量分析を行うことが可能であることが確認された。
【0047】
次に、実施例4では、実施例2のフローセルを用いて、クロマトグラムのベースラインを測定した。測定においては、移動相を液化二酸化炭素とし、移動相の流量を2mL/minとした。また、背圧調整装置のヘッドの温度を50℃に調整し、背圧調整装置の圧力を10MPa、11MPa、12MPa、13MPa、14MPaおよび15MPaに順次変化させた。
【0048】
また、比較例2では、キャピラリを含まない一般的な液体クロマトグラフ用のフローセルを用いて、実施例4と同様の測定を行った。図7は、実施例4におけるクロマトグラムのベースラインを示す図である。図8は、比較例2におけるクロマトグラムのベースラインを示す図である。
【0049】
図7に示すように、実施例4においては、ベースラインに大きいノイズが発生しなかった。また、背圧調整装置の圧力を10MPa~15MPaまで変化させた際のベースラインの変動は比較的小さかった。これに対し、図8に示すように、比較例2においては、ベースラインに大きいノイズが発生した。また、背圧調整装置の圧力を10MPa~15MPaまで変化させた際のベースラインの変動は、実施例4におけるベースラインの変動よりも大きかった。
【0050】
このように、実施例2のフローセルを用いることにより、超臨界クロマトグラフにおいても、ベースラインのノイズを低減可能であることが確認された。また、屈折率効果によるベースラインの変動を低減可能であることが確認された。
【0051】
(7)態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項)一態様に係るクロマトグラフィ検出器用フローセルは、
試料のクロマトグラムの生成に用いられるクロマトグラフィ検出器用フローセルであって、
一方向に延びる内部空間を有する本体部と、
前記本体部の前記内部空間に前記一方向に延びるように収容されるとともに、試料を含む移動相が流れる流路を形成する環状のキャピラリとを備え、
前記キャピラリは、8MPaの圧力下において変形しない厚みを有する壁面を含み、
前記一方向に交差する断面において、前記壁面の外縁により取り囲まれる領域の面積に依存する第1の値と、
前記断面において、前記壁面の前記外縁と内縁との間の領域の面積に依存する第2の値とが定義され、
前記壁面の厚みの上限は、前記第1の値に対する前記第2の値の比が0.8以下となるように制限されてもよい。
【0053】
このクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいては、本体部における一方向に延びる内部空間に、環状のキャピラリが一方向に延びるように収容される。試料を含む移動相がキャピラリに形成された流路を流れる。キャピラリの壁面は、8MPaの圧力下において変形しない厚みを有する。
【0054】
ここで、第1の値および第2の値とが定義される。第1の値は、一方向に交差する断面において、壁面の外縁により取り囲まれる領域の面積に依存する値である。第2の値は、上記の断面において、壁面の外縁と内縁との間の領域の面積に依存する値である。壁面の厚みの上限は、第1の値に対する第2の値の比が0.8以下となるように制限される。
【0055】
この制限によれば、キャピラリが8MPaの圧力下において変形しないように壁面の厚みが大きくされた場合でも、壁面内を伝達する光の量が増加することが抑制される。これにより、クロマトグラフィ検出器用フローセルを高精度の分析に使用することができる。
【0056】
(第2項)第1項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいて、
前記キャピラリの内径に対する外径の比は、1.5以下であり、
前記キャピラリの耐圧をP[MPa]とし、前記キャピラリを形成する材料の許容引っ張り応力をσ[MPa]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の下限は、下記式(1)により制限されてもよい。
【0057】
【数5】
【0058】
この構成によれば、内径に対する外径の比が1.5以下のキャピラリに高い圧力が印加された場合でも、キャピラリが変形することが防止される。
【0059】
(第3項)第1項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいて、
前記キャピラリの内径に対する外径の比は、1.5よりも大きく、
前記キャピラリの耐圧をP[MPa]とし、前記キャピラリを形成する材料の許容引っ張り応力をσ[MPa]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の下限は、下記式(2)により制限されてもよい。
【0060】
【数6】
【0061】
この構成によれば、内径に対する外径の比が1.5よりも大きいキャピラリに高い圧力が印加された場合でも、キャピラリが変形することが防止される。
【0062】
(第4項)第1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいて、
前記キャピラリは、石英により形成され、
前記キャピラリの内径をr[m]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の上限は、下記式(3)を満たすように制限されてもよい。
【0063】
【数7】
【0064】
この場合、高精度の分析に使用することが可能なキャピラリを石英により容易に形成することができる。
【0065】
(第5項)第1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいて、
前記キャピラリは、任意の透光性材料により形成され、
前記任意の材料の屈折率をnとし、石英の屈折率をnとし、前記キャピラリの内径をr[m]とした場合、前記壁面の厚みt[m]の上限は、下記式(4)を満たすように制限されてもよい。
【0066】
【数8】
【0067】
この場合、高精度の分析に使用することが可能なキャピラリを任意の透光性材料により形成することができる。
【0068】
(第6項)第1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルにおいて、
前記移動相は、超臨界流体であり、
前記本体部の内部空間は、前記移動相が前記流路内で超臨界状態となるように加圧されてもよい。
【0069】
この構成によれば、移動相が流路内で超臨界状態となるように本体部の内部空間が加圧された場合でも、キャピラリは変形しない。したがって、移動相として超臨界流体を用いることにより試料を高速で分析することができる。
【0070】
(第7項)他の態様に係るクロマトグラフィ検出器は、
第1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィ検出器用フローセルと、
前記クロマトグラフィ検出器用フローセルの前記流路を流れる試料を含む前記移動相に光を出射する投光部と、
前記投光部により出射されかつ試料を透過した光を受光し、受光量を示す信号を出力する受光部とを備えてもよい。
【0071】
このクロマトグラフィ検出器においては、投光部により上記のクロマトグラフィ検出器用フローセルの流路を流れる試料を含む移動相に光が出射される。投光部により出射されかつ試料を透過した光が受光部により受光され、受光量を示す信号が出力される。
【0072】
クロマトグラフィ検出器用フローセルにおいては、キャピラリが8MPaの圧力下において変形しないように壁面の厚みが大きくされた場合でも、壁面内を伝達する光の量が増加することが抑制される。これにより、クロマトグラフィ検出器を高精度の分析に使用することができる。
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