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特許7180815フェノール樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】フェノール樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/00 20060101AFI20221122BHJP
   C08G 8/10 20060101ALI20221122BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08G8/00 A
C08G8/10
C08K5/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022515709
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2021037861
(87)【国際公開番号】W WO2022113549
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020195729
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕司
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-545829(JP,A)
【文献】米国特許第06362275(US,B1)
【文献】特表2013-536311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00
C08G 8/10
C08K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性レゾール型フェノール樹脂と、グリシンと、を含む、フェノール樹脂組成物であって、
前記水溶性レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で得られた反応生成物であり、
前記フェノール類は、フェノールであり、
前記アルデヒド類は、ホルムアルデヒドであり、
前記グリシンの含有量は、前記フェノール類1モルに対して0.09モル以上0.29モル未満であり、
未反応の遊離フェノールの含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して1質量%以下である、フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
未反応のアルデヒド類の含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、請求項1に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項3】
pHが、5~10である、請求項1または2に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項4】
出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程であって、前記フェノール類は、フェノールであり、前記アルデヒド類は、ホルムアルデヒドである、工程と、
前記レゾール型フェノール樹脂に、前記出発物質であるフェノール類1モルに対して、0.09モル以上0.29モル未満の量のグリシンを添加して、未反応の遊離フェノールの含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して1質量%以下であるフェノール樹脂組成物を得る工程と、を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記フェノール樹脂組成物中の未反応のアルデヒド類の含有量が、前記フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、請求項4に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記フェノール樹脂組成物のpHが、5~10である、請求項4または5に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性レゾール型フェノール樹脂を含むフェノール樹脂組成物およびその製造方法に関する。より詳細には、ノルムアルデヒドとフェノールの含有量が低減された、フェノール樹脂組成物、およびこのようなフェノール樹脂組成物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂はその硬化物の耐熱性、機械的強度の高さなどにより、多くの分野で用いられている代表的な熱硬化性樹脂である。フェノール樹脂は、例えば、各種の基材に含浸または塗布されて使用されたり、各種有機、無機基材のバインダーとして使用されたりしている。フェノール樹脂には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して加熱硬化するノボラック型フェノール樹脂と、単独で加熱硬化するレゾール型フェノール樹脂とに大別され、性状、用途、目的等により使い分けが行われている。
【0003】
これらのフェノール樹脂の中でも、環境対応化や作業環境改善のため、アンモニアフリーが要求される用途や、溶剤フリーが必要な場合には、水溶液あるいは乳濁液の形態で使われる用途で親水性が高いレゾール型フェノール樹脂が多く用いられている。水溶性レゾール樹脂は、例えば、研磨布紙用のバインダーとして使用されている。レゾール樹脂は砥粒保持力や耐熱性に優れており、高い研削性が得られる。
【0004】
しかし、このレゾール型フェノール樹脂は、大気環境保護の観点、および人体環境の保護の観点から望ましくない物質である未反応フェノール類、およびアルデヒド類を含む。ホルムアルデヒドの含有量が低減されたレゾール型フェノール樹脂を得るためには、アルデヒド類に対して過剰量のフェノール類を反応させれば良いが、過剰量のフェノール類を用いて得られるレゾール型フェノール樹脂は、未反応のフェノール類を多く含むため硬化性が悪く、さらに得られる硬化物において、市場が要求する機械的強度を満足するものではなかった。また、アルデヒド類に対して過剰量のフェノール類を用いて得られるレゾール型フェノール樹脂は、未反応のフェノール類を多量に含むため、環境面や労働安全衛生面から使用することは好ましくない。
【0005】
上記問題を解決するための技術として、特許文献1には、ホルムアルデヒドやフェノールといった未反応モノマー量を低減させることができるレゾール樹脂の製造方法が記載されている。特許文献1には、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物に、出発フェノール1モルあたり0.1~0.5モルのグリシンを配合することにより、0.5%以下の遊離フェノールレベルを示す液体樹脂を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6001536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、得られるフェノール樹脂の水溶性の向上と、遊離ホルムアルデヒドおよび遊離フェノールの低減との両立において、さらなる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、未反応モノマーである遊離フェノールと遊離アルデヒドとの両方の残存量が非常に低減されるとともに、高い水溶性を有し、よって取扱い性または作業性に優れたフェノール樹脂組成物、およびこのようなフェノール樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば、
水溶性レゾール型フェノール樹脂と、グリシンと、を含む、フェノール樹脂組成物であって、
前記水溶性レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で得られた反応生成物であり、
前記フェノール類は、フェノールであり、
前記アルデヒド類は、ホルムアルデヒドであり、
前記グリシンの含有量は、前記フェノール類1モルに対して0.09モル以上0.29モル未満であり、
未反応の遊離フェノールの含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して1質量%以下である、フェノール樹脂組成物が提供される。
【0010】
また本発明によれば、
出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程であって、前記フェノール類は、フェノールであり、前記アルデヒド類は、ホルムアルデヒドである、工程と、
前記レゾール型フェノール樹脂に、前記出発物質であるフェノール類1モルに対して、0.09モル以上0.29モル未満の量のグリシンを添加して、未反応の遊離フェノールの含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して1質量%以下であるフェノール樹脂組成物を得る工程と、を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遊離フェノールと遊離アルデヒドとの両方の残存量が非常に低減されるとともに、高い水溶性を有し、よって取扱い性または作業性に優れたフェノール樹脂組成物、およびこのようなフェノール樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(フェノール樹脂組成物)
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、水溶性レゾール型フェノール樹脂と、グリシンとを含む。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、
このレゾール型フェノール樹脂に、出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量のグリシンを添加する工程により得られる。
【0013】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、水溶性レゾール型フェノール樹脂とグリシンを含む。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、グリシンを含むことにより、水溶性レゾール型フェノール樹脂に不可避的に含まれる未反応残存モノマーである遊離アルデヒドおよび遊離フェノールの量が低減される。よって環境負荷および人体への負荷が低減される。グリシンにより遊離アルデヒドおよび遊離フェノールの量が低減される理由は必ずしも明らかではないが、グリシンと、フェノール樹脂組成物中の遊離アルデヒドおよび遊離フェノールとが反応または相互作用することにより、これらの遊離アルデヒドおよび遊離フェノールが不活性化合物として存在するためと考えられる。
【0014】
また本実施形態のフェノール樹脂組成物は、グリシンを含むことにより、このフェノール樹脂組成物の経時安定性が改善される。ここで、樹脂組成物の経時安定性とは、樹脂組成物の特性の経時的変化が小さいことを指す。樹脂組成物の特性の経時的変化としては、樹脂組成物に含まれるフェノール樹脂が高分子量化して、樹脂組成物が高粘度化することを含む。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、グリシンの緩衝作用により、そのpHが所定範囲に維持されるため、樹脂組成物に含まれるレゾール型フェノール樹脂の高分子量化や、未反応の遊離ホルムアルデヒド類と遊離フェノールとのさらなる重合反応が阻害されて、フェノール樹脂の高粘度化や、樹脂組成物の性状の変化がほとんどかまたは全く生じない。
【0015】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、水溶性レゾール型フェノール樹脂を含み、この水溶性レゾール型フェノール樹脂は、出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂である。上記条件で生成するレゾール型フェノール樹脂は、高い水溶性を有し、よってこれを含む樹脂組成物は優れた取扱い性を有する。
【0016】
本実施形態のフェノール樹脂組成物において、グリシンは、レゾール型フェノール樹脂の製造に用いられた出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量で使用される。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、少量のグリシンの使用であっても、遊離フェノールおよび遊離アルデヒドの含有量が低減される。よって、本実施形態のフェノール樹脂組成物は、製造コストが低減されるため、安価である。
【0017】
(フェノール樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の、水溶性レゾール型フェノール樹脂とグリシンとを含むフェノール樹脂組成物は、以下の(工程I)および(工程II)により得られる。
(工程I)出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程。
(工程II)(工程I)で得られたレゾール型フェノール樹脂を含む反応混合物に、工程Iで使用した出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量のグリシンを添加する工程。
【0018】
(工程I)における水溶性レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される出発物質としてのフェノール類としては、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体:及び、1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
(工程I)における水溶性レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される出発物質としてのアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらアルデヒド類の前駆体あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することも可能である。中でも、製造コストの観点から、ホルムアルデヒド水溶液を使用することが好ましい。
【0020】
(工程I)における水溶性レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0021】
(工程I)における水溶性レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される反応溶媒としては、水が用いられる。(工程I)の反応を水溶媒中で行うことにより、続く(工程II)において、水溶性のグリシンの添加が容易となる。
【0022】
(工程I)は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とが、配合モル比(F/P)が0.8以上、好ましくは、0.8以上4.5以下、より好ましくは、0.9以上3.0以下、さらに好ましくは、1.0以上2.8以下、さらにより好ましくは、1.2以上2.5以下となるような比率で、反応がまに仕込み、さらに重合化触媒としての上述の塩基性触媒を添加して、適当な時間(例えば、3~6時間)還流を行うことにより実施される。フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との配合モル比(F/P)が、0.8未満である場合には、生成する水溶性レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が小さく、所望の耐熱性等の特性を有さない場合がある。またフェノール類(P)とアルデヒド類(F)との配合モル比(F/P)が、4.5を超える場合は、反応中に樹脂のゲル化が進行し易くなるため、反応効率が低下し、また水不溶性の高分子量のレゾール型フェノール樹脂が生成するため好ましくない。反応温度は、例えば、40℃~120℃であり、好ましくは60℃~100℃である。これにより、ゲル化を抑制して、目的の分子量の水溶性レゾール型フェノール樹脂を得ることができる。水溶性レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは、250~3000であり、より好ましくは、300~2000である。上記範囲の分子量を有するレゾール型フェノール樹脂は、水溶解性を有するとともに、取扱い性に優れる。
【0023】
(工程1)において使用される塩基性触媒は、出発物質のフェノール類に対して、例えば、1~10重量%、好ましくは、1~8重量%、より好ましくは、2~5重量%の量で使用される。上記範囲の量で塩基性触媒を用いることにより、フェノール類とアルデヒド類との反応効率を向上することができ、よって未反応物として残存するフェノール類およびアルデヒド類の量を低減することができる。
【0024】
次いで、(工程I)に続いて(工程II)を実施する。(工程II)では(工程I)で得られたレゾール型フェノール樹脂を含む反応混合物に、(工程I)で使用した出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量のグリシンを添加される。グリシンの添加量は、(工程I)で使用された出発物質のフェノール類に対して、好ましくは、0.001モル%以上0.098%以下であり、より好ましくは、0.001モル%以上0.095モル%以下である。上記範囲の量でグリシンを添加することにより、(工程I)で反応せずに残存した遊離アルデヒド類および遊離フェノール類が低減され得る。またグリシンの使用量を抑制することができ、製造コストの節約につながる。
【0025】
(工程II)において、グリシンの添加は、(工程I)で得られた反応混合物に、所定の時間かけて、所定量ずつ徐々に添加することが好ましい。グリシンの添加は、60℃~75℃の温度下で、好ましくは、60℃~65℃の温度下で、1分間あたり、グリシン総量の0.5~20質量%、好ましくは、1~10質量%、より好ましくは2.8質量%~4質量%を添加する速度で実施することが好ましい。ここで、グリシンは、水溶液の形態として使用してもよい。あるいはグリシンは、ナトリウム塩等の金属塩の形態で使用してもよい。
【0026】
グリシンの添加後、温度を、さらに10~180分間、好ましくは、30~100分間一定に保ち、未反応の遊離アルデヒド類および遊離フェノール類をさらに低減することが好ましい。その後、反応混合物の温度を室温程度まで徐冷することにより、本実施形態のフェノール樹脂組成物が得られる。
【0027】
上記工程を経て得られたフェノール樹脂組成物は、未反応の遊離フェノール類の含有量が、フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下、好ましくは、2質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.8質量%以下、さらにより好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。
【0028】
また上記工程を用いて得られたフェノール樹脂組成物は、未反応の遊離アルデヒド類の含有量が、フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下、好ましくは、2質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.8質量%以下、さらにより好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。
【0029】
上記工程を用いて得られたフェノール樹脂組成物のpHは、中性に近く、例えば、5~10であり、好ましくは、6~8であり、より好ましくは、6.5~7.8であり、さらにより好ましくは、6.8~7.5である。このようなpHは、樹脂組成物中にグリシンが存在することにより達成される。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、上記範囲のpHを有することにより、経時安定性に優れる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. 水溶性レゾール型フェノール樹脂と、グリシンと、を含む、フェノール樹脂組成物であって、
出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、
前記レゾール型フェノール樹脂に、前記出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量のグリシンを添加して、フェノール樹脂組成物を得る工程と、により得られるフェノール樹脂組成物。
2. 未反応のフェノール類の含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、1.に記載のフェノール樹脂組成物。
3. 未反応のアルデヒド類の含有量が、当該フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、1.または2.に記載のフェノール樹脂組成物。
4. pHが、5~10である、1.~3.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物。
5. 出発物質であるフェノール類とアルデヒド類とを、[アルデヒド類]/[フェノール類]のモル比が0.8以上4.5以下である条件で、塩基性触媒の存在下で反応させて水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、
前記レゾール型フェノール樹脂に、前記出発物質であるフェノール類に対して、0.001モル%以上0.1モル%未満の量のグリシンを添加して、フェノール樹脂組成物を得る工程と、を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
6. 前記フェノール樹脂組成物中の未反応のフェノール類の含有量が、前記フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、5.に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法。
7. 前記フェノール樹脂組成物中の未反応のアルデヒド類の含有量が、前記フェノール樹脂組成物全体に対して、5質量%以下である、5.または6.に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法。
8. 前記フェノール樹脂組成物のpHが、5~10である、5.~7.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物の製造方法。
【実施例
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール1000重量部、37%ホルマリン水溶液1638重量部(F/Pモル比=1.9)、水酸化ナトリウム30重量部を添加し、90℃で70分間反応させた。これに水500重量部を加えた後、60℃でグリシン72g(フェノール1モルに対して0.09モル)を添加し、溶解させて樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は透明であり、固形分含有量が48%であり、pHが7.4であり、25℃で260%の水希釈性であった。
この樹脂組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した未反応フェノール量が0.7質量%であり、未反応ホルムアルデヒド量が検出限界(0.1質量%)以下であった。この樹脂組成物の経時的な粘度変化を以下に記載の方法により測定し、経時変化を評価した。結果を表1に示す。
【0033】
(樹脂組成物の保存後の粘度の測定)
樹脂組成物の経時安定性を、1ヶ月保存後の粘度を測定することにより評価した。
まず、上述の樹脂組成物の調製直後の粘度を測定した。次いで、この樹脂組成物を、30℃の恒温槽に入れ、1か月間静置した。静置後の樹脂組成物の粘度を測定した。粘度の測定は、JIS-K-6910「フェノール樹脂試験方法」の5.3.2粘度B法に準じて行った。保存前の粘度と保存後の粘度とを表1に示す。また、保存前の粘度と保存後の粘度の値から、以下の式にしたがって、粘度上昇率(%)を算出した。
(式) 粘度上昇率(%)=[(保存後の粘度)/(保存前の粘度)]×100
粘度上昇率の値が小さいほど、経時安定性が良好であることを表す。
【0034】
(比較例1)
318.5gのフェノール(純度:99%;3.35mol)、261.9gのパラホルムアルデヒド(純度:96%;8.37mol)及び296.8gの水を、コンデンサ及び撹拌装置を備えた2リットル入り反応装置内に導入し、混合物を撹拌しながら45℃まで加熱した。ホルムアルデヒド/フェノールのモル比は2.5であった。
【0035】
50%水溶液としての47.4gの水酸化ナトリウムを30分かけて添加し、次に温度を30分間かけて70℃まで徐々に上昇させ、温度を120分間維持した。
【0036】
その後、温度を30分かけて60℃まで低下させ、同時に、75gのグリシン(純度:98%;0.98モル、フェノール1モルに対して0.29モル)を反応混合物中に滴下した。温度を90分間60℃に維持し、その後混合物を40分かけておよそ20℃まで冷却させた。
【0037】
得られた反応混合物(樹脂組成物)は透明で、固形分含有量が55%であり、pHが7.4であり、20℃で2000%超の水中希釈度を有していた。
この樹脂組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した、未反応フェノール量が0.25質量%であり、未反応ホルムアルデヒド量が検出限界(0.1質量%)以下であった。この樹脂組成物の経時的な粘度変化を実施例1に記載の方法と同様にして測定し、経時変化を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例2)
282.3gのフェノール(純度:99.7%;2.99mol)、244.9gのパラホルムアルデヒド(純度:96%;7.83mol)及び277.6gの水を、コンデンサ及び撹拌装置を備えた2リットル入り反応装置内に導入し、混合物を撹拌しながら45℃まで加熱する。ホルムアルデヒド/フェノールのモル比は2.61であった。
【0039】
50%水溶液としての39.5gの水酸化ナトリウムを30分かけて添加し、次に温度を30分間かけて70℃まで徐々に上昇させ、温度を120分間維持した。
【0040】
その後、温度を30分かけて60℃まで低下させ、同時に、66.52gのグリシン(純度:99%;0.88モル、フェノール1モルに対して0.29モル)を反応混合物中に滴下した。温度を180分間60℃に維持し、その後混合物を30分かけておよそ20℃まで冷却させた。
【0041】
得られた反応混合物(樹脂組成物)は透明で、固形分含有量が54.8質量%であり、pHが7.4であり、20℃で2000%超の水中希釈度を有していた。
【0042】
この樹脂組成物は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した未反応フェノール量が0.04質量%であり、未反応ホルムアルデヒド量が0.3質量%であった。この樹脂組成物の経時的な粘度変化を実施例1に記載の方法と同様にして測定し、経時変化を評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例のフェノール樹脂組成物は、未反応フェノールと未反応アルデヒドの残留量が低減されているとともに、保存前後の粘度変化が低減されており、取扱い性に優れるものであった。
【0045】
この出願は、2020年11月26日に出願された日本出願特願2020-195729号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。