(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20221122BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/20 F
(21)【出願番号】P 2022550756
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2022017820
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021071645
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-035311(JP,A)
【文献】特開2014-145465(JP,A)
【文献】特開2012-132557(JP,A)
【文献】特開2007-303515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有し、使用時に回転運動する、ねじ軸と、
内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、使用時に直線運動する、ナットと、
前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置された、複数のボールと、
前記ナットに嵌合固定され、前記ナットとともに直線運動する、嵌合筒と、
前記ナットを軸方向に挿通可能な挿通孔を有する、ハウジングと、
前記ハウジングに対する前記ナットの相対回転を阻止する、回り止め部材と、を備え、
前記ナットと前記嵌合筒とのうちのいずれか一方である第1部材は、外周面に、前記回り止め部材のうちの径方向に関する内側部分と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向を向いた閉塞面を含む、保持凹部を有し、
前記挿通孔は、内周面に、前記回り止め部材のうちの径方向に関する外側部分と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向に伸長した案内凹溝を有し、
前記回り止め部材は、径方向に関する内側部分が、前記閉塞面と、前記ナットと前記嵌合筒とのうちのいずれか他方である第2部材の軸方向端面との間に挟まれた状態で、前記保持凹部の内側に配置され、かつ、径方向に関する外側部分が、前記案内凹溝の内側に軸方向に摺動可能に配置されている、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記回り止め部材の軸方向寸法は、前記閉塞面と第2部材の軸方向端面との間の軸方向距離よりも小さい、請求項1に記載したボールねじ装置。
【請求項3】
第1部材は、外周面に、小径部と、前記小径部よりも外径の大きい大径部と、前記小径部と前記大径部との間に配置され、かつ、軸方向を向いた段差面と、を有し、
第2部材は、前記小径部に外嵌固定されており、
前記保持凹部は、前記大径部に形成され、前記段差面に開口している、
請求項1または2に記載したボールねじ装置。
【請求項4】
第2部材の軸方向端面は、前記段差面に対して軸方向に突き当てられている、請求項3に記載したボールねじ装置。
【請求項5】
第2部材は、軸方向端面よりも軸方向にオフセットした位置に、軸方向を向いた円環面を有し、
前記円環面は、第1部材の軸方向端面に対して軸方向に突き当てられている、
請求項3に記載したボールねじ装置。
【請求項6】
第1部材が、前記ナットにより構成されている、請求項1~5のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項7】
前記ナットは、内周面に循環溝をさらに有し、
前記保持凹部は、前記循環溝から円周方向に位置をずらして配置されている、
請求項6に記載したボールねじ装置。
【請求項8】
前記ナットは、円周方向に関して等間隔複数個所に、前記循環溝を有しており、
前記保持凹部は、円周方向位置の近い2つの前記循環溝に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ位置をずらして配置されている、
請求項7に記載したボールねじ装置。
【請求項9】
循環溝を有し、かつ、前記ナットに固定された循環部品を備え、
前記保持凹部は、前記循環部品から円周方向に位置をずらして配置されている、
請求項6に記載したボールねじ装置。
【請求項10】
前記循環部品を、円周方向に関して等間隔複数個所に備えており、
前記保持凹部は、円周方向位置の近い2つの前記循環部品に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ位置をずらして配置されている、
請求項9に記載したボールねじ装置。
【請求項11】
前記保持凹部は、前記嵌合筒の外周面に備えられている、請求項1~5のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項12】
前記嵌合筒は、前記ナットの外径と同じ外径を有する、請求項1~11のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項13】
前記回り止め部材は、円柱形状を有する、請求項1~12のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項14】
前記保持凹部は、前記ナットの中心軸に直交する仮想平面に関する断面形状が、中心角が180度よりも大きい円弧形である、
請求項13に記載したボールねじ装置。
【請求項15】
前記回り止め部材は、角柱形状を有する、請求項1~12のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項16】
前記挿通孔は、シリンダ孔により構成され、かつ、
前記嵌合筒は、ピストンにより構成されている、
請求項1~15のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項17】
前記第2部材は、外周面のうちで前記第1部材に対し近い側の端部に、小径段部を有する、請求項1~16のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させる滑りねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、たとえば電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置などの各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝との間に配置された複数のボールとを備える。ボールねじ装置は、用途に応じて、ねじ軸とナットとのうちの一方を回転運動要素とし、ねじ軸とナットとのうちの他方を直線運動要素として用いられる。
【0004】
ボールねじ装置においては、直線運動要素が回転運動要素と供回りすることを防止するために、直線運動要素の回転を阻止することが行われている。
図18および
図19は、特開2007-303515号公報に記載された、直線運動要素の回転を阻止する構造を備えた従来のボールねじ装置100を示している。
【0005】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、複数のボール103と、嵌合筒104と、ハウジング105とを備える。
【0006】
ねじ軸101は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝106を有しており、使用時に回転運動する。このため、ねじ軸101は、回転運動要素であり、ハウジング105に対して回転自在に支持されている。
【0007】
ナット102は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝107を有しており、使用時に直線運動する。このため、ナット102は、直線運動要素であり、後述するようにハウジング105に対する相対回転が阻止されている。
【0008】
ねじ軸101は、ナット102の内側に挿通され、ナット102と同軸に配置されている。軸側ボールねじ溝106とナット側ボールねじ溝107とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路108を構成している。
【0009】
負荷路108の始点と終点とは、図示しない循環手段により接続されている。負荷路108の終点にまで達したボール103は、循環手段を介して、負荷路108の始点にまで戻される。なお、負荷路108の始点と終点とは、ねじ軸101とナット102との軸方向に関する相対変位の方向に応じて入れ替わる。
【0010】
嵌合筒104は、有底円筒形状を有しており、ナット102に対し相対回転不能に外嵌固定されている。嵌合筒104は、ナット102の外径よりも大きな外径を有している。嵌合筒104は、外周面に、軸方向に伸長したキー溝109を有している。
【0011】
ハウジング105は、ナット102および嵌合筒104を軸方向に挿通可能な挿通孔110を有する。挿通孔110は、内周面に、径方向内側に向けて突出したキー111を有する。キー111は、軸方向に長い角柱形状を有しており、挿通孔110の内周面に形成した嵌合溝112に嵌め込まれている。
【0012】
キー111のうち、挿通孔110の内周面から径方向内側に突出した部分が、嵌合筒104の外周面に備えられたキー溝109に対して軸方向に摺動可能に係合されている。これにより、ナット102が、ハウジング105に対して相対回転することを阻止し、ナット102の直線運動を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特開2007-303515号公報に記載された従来構造のボールねじ装置100においては、キー111が嵌合溝112から軸方向に抜け出ることを防止するために、止め輪やねじ部材などの抜け止め部材を、挿通孔110の開口部に対し取り付ける必要がある。このため、部品点数が増加し、製造コストが嵩む原因になる。
【0015】
一方、特開2007-303515号公報には、キーをハウジングの内周面に一体成形する構造も開示されている。ただし、キーをハウジングの内周面に一体成形する場合には、キーの形状精度を確保することが困難になる。キーをハウジングの内周面に一体成形し、かつ、キーの形状精度を確保するためには、やはり製造コストが嵩みやすくなる。たとえば、キーを削り出しにより加工すれば、キーをハウジングの内周面に一体成形し、かつ、キーの形状精度を確保することができるが、歩留まりが悪くなり、製造コストが嵩みやすくなる。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、直線運動要素であるナットの回り止めを少ない部品点数で実現し、製造コストの低減を図れる、ボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1態様にかかるボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、嵌合筒と、ハウジングと、回り止め部材とを備える。
【0018】
前記ねじ軸は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有し、使用時に回転運動する。
【0019】
前記ナットは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、使用時に直線運動する。
【0020】
前記複数のボールは、前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置される。
【0021】
前記嵌合筒は、前記ナットに嵌合固定され、前記ナットとともに直線運動する。
【0022】
前記ハウジングは、前記ナットを軸方向に挿通可能な挿通孔を有する。
【0023】
前記回り止め部材は、前記ハウジングに対する前記ナットの相対回転を阻止する。
【0024】
本発明の第1態様にかかるボールねじ装置では、前記ナットと前記嵌合筒とのうちのいずれか一方である第1部材は、外周面に、前記回り止め部材のうちの径方向に関する内側部分と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向を向いた閉塞面を含む、保持凹部を有する。
【0025】
前記挿通孔は、内周面に、前記回り止め部材のうちの径方向に関する外側部分と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向に伸長した案内凹溝を有する。
【0026】
前記回り止め部材は、径方向に関する内側部分を、前記閉塞面と、前記ナットと前記嵌合筒とのうちのいずれか他方である第2部材の軸方向端面との間に挟まれた状態で、前記保持凹部の内側に配置し、かつ、径方向に関する外側部分を、前記案内凹溝の内側に軸方向に摺動可能に配置している。
【0027】
本発明の第2態様にかかるボールねじ装置では、第1態様にかかるボールねじ装置において、前記回り止め部材の軸方向寸法を、前記閉塞面と第2部材との間の軸方向距離よりも小さくすることができる。
【0028】
あるいは、第1態様にかかるボールねじ装置において、前記回り止め部材の軸方向寸法を、前記閉塞面と第2部材との間の軸方向距離と同じか、または、該軸方向距離よりも大きくすることもできる。
【0029】
本発明の第3態様にかかるボールねじ装置では、第1態様または第2態様にかかるボールねじ装置において、第1部材は、外周面に、小径部と、前記小径部よりも外径の大きい大径部と、前記小径部と前記大径部との間に配置され、かつ、軸方向を向いた段差面とを有することができ、および、第2部材は、前記小径部に外嵌固定されることができる。この場合、前記保持凹部は、前記大径部に形成され、前記段差面に開口させることができる。
【0030】
本発明の第4態様にかかるボールねじ装置では、第3態様にかかるボールねじ装置において、第2部材の軸方向端面を、前記段差面に対して軸方向に突き当てることができる。
【0031】
本発明の第5態様にかかるボールねじ装置では、第3態様にかかるボールねじ装置において、第2部材は、軸方向端面よりも軸方向にオフセットした位置に、軸方向を向いた円環面を有することができ、かつ、前記円環面を、第1部材の軸方向端面に対して軸方向に突き当てることができる。
【0032】
本発明の第6態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第5態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、第1部材を、前記ナットにより構成することができる。すなわち、前記保持凹部を、前記ナットの外周面に備えることができる。
【0033】
本発明の第7態様にかかるボールねじ装置では、第6態様にかかるボールねじ装置において、前記ナットは、内周面に循環溝を有することができ、前記保持凹部を、前記循環溝から円周方向に位置(位相)をずらして配置することができる。
【0034】
本発明の第8態様にかかるボールねじ装置では、第7態様にかかるボールねじ装置において、前記ナットは、円周方向に関して等間隔複数個所に、前記循環溝を有することができ、前記保持凹部を、円周方向位置の近い2つの前記循環溝に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ位置をずらして配置することができる。別の言い方をすれば、前記保持凹部を、円周方向に関して隣り合う2つの前記循環溝同士の円周方向中央位置に配置することができる。
【0035】
本発明の第9態様にかかるボールねじ装置は、第6態様にかかるボールねじ装置において、循環溝を有することができ、かつ、前記ナットに固定された循環部品を備えることができ、前記保持凹部を、前記循環部品から円周方向に位置をずらして配置することができる。
【0036】
本発明の第10態様にかかるボールねじ装置は、第9態様にかかるボールねじ装置において、前記循環部品を、円周方向に関して等間隔複数個所に備えることができ、前記保持凹部を、円周方向位置の近い2つの前記循環部品に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ位置をずらして配置することができる。別の言い方をすれば、前記保持凹部を、円周方向に関して隣り合う2つの前記循環部品同士の円周方向中央位置に配置することができる。
【0037】
本発明の第11態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第5態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、第1部材を、前記嵌合筒により構成することができる。すなわち、前記保持凹部を、前記嵌合筒の外周面に備えることができる。
【0038】
本発明の第12態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第11態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記嵌合筒を、前記ナットの外径と同じ外径を有するものとすることができる。
【0039】
本発明の第13態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第12態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記回り止め部材は、円柱形状を有することができる。
【0040】
本発明の第14態様にかかるボールねじ装置では、第13態様にかかるボールねじ装置において、前記保持凹部を、前記ナットの中心軸に直交する仮想平面に関する断面形状が、中心角が180度よりも大きい円弧形とすることができる。
【0041】
本発明の第15態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第12態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記回り止め部材は、角柱形状を有することができる。あるいは、第1態様~第12態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記回り止め部材は、球形状を有することができる。
【0042】
本発明の第16態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第15態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記挿通孔をシリンダ孔により構成し、かつ、前記嵌合筒をピストンにより構成することができる。
【0043】
本発明の第17態様にかかるボールねじ装置では、第1態様~第16態様のいずれかの態様にかかるボールねじ装置において、前記第2部材は、外周面のうちで前記第1部材に対し近い側の端部に、小径段部を有することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のボールねじ装置によれば、直線運動要素であるナットの回り止めを少ない部品点数で実現することができ、製造コストの低減を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のボールねじ装置を軸方向一方側から見た正面図である。
【
図3】
図3は、第1例にかかるボールねじ装置の部分断面斜視図である。
【
図6】
図6は、第1例に関して、回り止め部材を取り出して示す断面模式図である。
【
図7】
図7は、第1例のボールねじ装置からナットを取り出して示す断面斜視図である。
【
図8】
図8は、第1例に関して、循環溝と保持凹部との円周方向に関する位置関係を説明するために示す模式図である。
【
図9】
図9は、第1例のボールねじ装置を、駆動部材を省略して示す平面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態の第2例のボールねじ装置を、ハウジングを省略して示す、
図2に相当する図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態の第3例のボールねじ装置についての
図5に相当する図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態の第4例のボールねじ装置についての
図5に相当する図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態の第5例のボールねじ装置についての
図5に相当する図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態の第6例のボールねじ装置についての
図5に相当する図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態の第7例のボールねじ装置についての
図2に相当する図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施の形態の第8例のボールねじ装置についての
図11に相当する図である。
【
図18】
図18は、従来構造のボールねじ装置を示す断面図である。
【
図19】
図19は、従来構造のボールねじ装置からハウジングを取り出して示す斜視図である。
【0046】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図10を用いて説明する。
【0047】
〔ボールねじ装置の全体構成〕
本例のボールねじ装置1は、たとえば電動ブレーキブースター装置に組み込まれ、駆動源である図示しない電動モータの回転運動を、後述するピストン5の直線運動に変換する用途で使用される。
【0048】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、第1部材に相当するナット3と、複数のボール4と、嵌合筒に相当し、かつ、第2部材に相当するピストン5と、ハウジング6と、回り止め部材7とを備える。
【0049】
ねじ軸2は、図示しない駆動源により回転駆動され、使用時に回転運動する回転運動要素である。ねじ軸2は、ナット3の内側に挿通され、ナット3と同軸に配置されている。ナット3は、回り止め部材7により、ハウジング6に対する相対回転が阻止されている。ナット3は、ナット3に外嵌固定したピストン5とともに、ハウジング6に備えられたシリンダ孔8の内側を直線運動する、直線運動要素である。このため、本例のボールねじ装置1は、ねじ軸2を回転駆動し、ナット3を直線運動させる態様で使用する。また、本例では、シリンダ孔8が、挿通孔に相当する。
【0050】
ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、螺旋状の負荷路9が備えられている。負荷路9には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3とを相対回転させると、負荷路9の終点に達したボール4は、ナット3の内周面に形成された循環溝10(
図7参照)を通じて、負荷路9の始点へと戻される。以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
【0051】
以下の説明において、軸方向、径方向および円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸に関する軸方向、径方向および円周方向をいう。また、軸方向一方側とは、
図2~
図4、
図6、
図7、および
図9の右側を指し、軸方向他方側とは、
図2~
図4、
図6、
図7、および
図9の左側を指す。
【0052】
〈ねじ軸〉
ねじ軸2は、金属製で、ねじ部11と、ねじ部11の軸方向一方側に隣接配置された嵌合軸部12とを有する。ねじ部11と嵌合軸部12とは、同軸に配置されており、互いに一体に構成されている。嵌合軸部12は、ねじ部11よりも小さい外径を有する。
【0053】
ねじ部11は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝13を有する。軸側ボールねじ溝13は、ねじ部11の外周面に、研削加工、切削加工、または転造加工を施すことにより形成される。本例では、軸側ボールねじ溝13の条数を1条としている。軸側ボールねじ溝13は、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の溝形状を有する。
【0054】
嵌合軸部12は、外周面に、複数の雄スプライン歯14を有する。雄スプライン歯14は、嵌合軸部12の外周面の円周方向等間隔複数箇所に配置されている。すなわち、嵌合軸部12は、スプライン軸部である。図示の例では、雄スプライン歯14を、インボリュートスプライン歯により構成しているが、角スプライン歯により構成することもできる。
【0055】
ねじ軸2は、ねじ部11をナット3の内側に挿通した状態で、ナット3と同軸に配置されている。なお、本例では、ねじ軸2を、ねじ部11と嵌合軸部12とから構成しているが、本発明を実施する場合には、ねじ軸に、ハウジングなどに対して回転自在に支持するための転がり軸受などを固定するための第2嵌合軸部などを備えることもできる。
【0056】
〈ナット〉
ナット3は、鉄系合金やステンレス系合金などの金属製で、全体が円筒状に構成されている。ナット3は、内周面に、螺旋状のナット側ボールねじ溝15と循環溝10とを有する。
【0057】
ナット側ボールねじ溝15は、螺旋形状を有する。ナット側ボールねじ溝15は、ナット3の内周面に、たとえば研削加工、切削加工、転造タップ加工、または切削タップ加工を施すことにより形成される。ナット側ボールねじ溝15は、軸側ボールねじ溝13と同じリードを有する。このため、ねじ軸2のねじ部11をナット3の内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝13とナット側ボールねじ溝15とは、径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路9を構成する。ナット側ボールねじ溝15の条数は、軸側ボールねじ溝13と同様に1条である。ナット側ボールねじ溝15は、軸側ボールねじ溝13と同様に、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の溝形状を有する。
【0058】
循環溝10は、略S字形状を有する。循環溝10は、ナット3の内周面に、たとえば冷間鍛造加工によって形成される。循環溝10は、ナット側ボールねじ溝15のうち、軸方向に隣り合う部分同士をなめらかに接続し、負荷路9の始点と終点とをつないでいる。このため、負荷路9の終点にまで達したボール4は、循環溝10を通じて、負荷路9の始点にまで戻される。なお、負荷路9の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向、別の言い方をすればねじ軸2とナット3との相対回転方向に応じて入れ替わる。
【0059】
循環溝10は、略半円形の断面形状を有する。循環溝10は、ボール4の直径よりもわずかに大きな溝幅を有し、かつ、循環溝10を移動するボール4が、軸側ボールねじ溝13のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有している。本例では、ナット3の内周面に、円周方向に関して等間隔に、すなわち90度等配で、4つの循環溝10を備えている。このため、本例のボールねじ装置1は、4つの回路を備えている。なお、本例のボールねじ装置1では、循環溝10をナット3の内周面に直接形成しているが、循環溝をナットとは別体の循環部品、たとえばコマに形成し、該循環部品をナットに対して固定することもできる。
【0060】
本例では、ナット3の外周面を、段付き円筒面により構成している。ナット3は、外周面の軸方向他方側の端部に、円筒面状の小径部16を有し、かつ、外周面の軸方向中間部から軸方向一方側部にわたる範囲に、円筒面状の大径部17を有する。大径部17は、ハウジング6に備えられたシリンダ孔8の内径よりも少しだけ小さい外径を有する。ナット3の外周面は、小径部16と大径部17との間に、軸方向他方側を向いた円環状の段差面18を有する。段差面18は、ナット3の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。
【0061】
本例のボールねじ装置1は、ナット3を直線運動要素として用いる。このため、ナット3の回り止めを図るために、ナット3の外周面に、回り止め部材7を保持するための保持凹部19を有している。保持凹部19は、ナット3の外周面の円周方向複数個所、本例では2個所に備えられている。保持凹部19は、ナット3の外周面のうち、大径部17の軸方向他方側部に備えられている。
【0062】
保持凹部19は、軸方向に伸長した凹溝である。保持凹部19は、軸方向一方側の端部に、軸方向他方側を向いた閉塞面20を有する。保持凹部19の軸方向他方側の端部は、段差面18に開口している。このため、保持凹部19は、ナット3の外周面および段差面18のそれぞれに開口している。保持凹部19の中心軸は、ナット3の中心軸と平行に配置されている。段差面18から閉塞面20までの軸方向寸法は、回り止め部材7の軸方向寸法よりも少しだけ大きい。閉塞面20は、ナット3の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、軸方向視で部分円形状(略半円形状)である。
【0063】
保持凹部19は、回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分と円周方向に係合可能な断面形状を有する。本例では、回り止め部材7を円柱形状に構成しているため、
図5に示すように、ナット3の中心軸に直交する仮想平面に関する保持凹部19の断面形状を、円弧形としている。具体的には、保持凹部19の断面形状を、中心角がおよそ180度の半円弧形としている。このため、保持凹部19の円周方向幅(
図5の左右方向幅)は、径方向外側に向かうほど大きくなる。
【0064】
保持凹部19は、回り止め部材7の直径Dの1/2と同じかまたは該直径Dの1/2よりもわずかに大きい曲率半径を有する。ナット3の外周面における保持凹部19の円周方向に関する開口幅は、回り止め部材7の直径Dとほぼ同じである。保持凹部19のうちで最も径方向の深さが大きくなった部分を通る内接円直径は、小径部16の外径以上である。
【0065】
保持凹部19は、ナット3の外周面に、円周方向に関して等間隔に配置されている。本例では、保持凹部19を2つ備えているため、2つの保持凹部19は、位相が180度異なる位置に配置されている。それぞれの保持凹部19は、ナット3の内周面に備えられたすべての循環溝10から円周方向に位置(位相)をずらして配置されている。
【0066】
具体的には、2つの保持凹部19のうち、一方の保持凹部19(
図7の下方の保持凹部19)を、ナット3の内周面に備えられた循環溝10のうち、保持凹部19と同じ軸方向位置に形成された1つの循環溝10の中央部から、円周方向一方側に45度だけ位置をずらして配置している。2つの保持凹部19のうち、他方の保持凹部19(
図7の上方の保持凹部19)を、前記1つの循環溝10の中央部から、円周方向他方側に135度だけ位置をずらして配置している。このため、
図8に示すように、ナット3を軸方向から見た場合に、丸印で表した2つの保持凹部19のそれぞれは、×印で表した、円周方向位置の近い2つの循環溝10に対して、円周方向に関して反対側に45度ずつ位置をずらして配置されている。別の言い方をすれば、一方の保持凹部19は、4つの循環溝10のうち、円周方向に隣り合う2つの循環溝10の円周方向中央位置に配置され、かつ、他方の保持凹部19は、残り2つの循環溝10の円周方向中央位置に配置されている。なお、循環溝を有するコマなどの循環部品を、ナットに対して固定する構成を採用した場合には、保持凹部を、循環部品から円周方向に位置をずらして配置することができる。循環部品を、円周方向に関して等間隔複数個所に備える場合には、保持凹部を、円周方向位置の近い2つの循環部品に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ位置をずらして配置することができる。別の言い方をすれば、保持凹部を、円周方向に関して隣り合う2つの循環部品同士の円周方向中央位置に配置することができる。
【0067】
ナット3は、軸方向一方側の端部に、第1係合部21を有する。第1係合部21は、ナット3の軸方向一方側の側面の円周方向一部に備えられており、軸方向一方側に向けて突出している。第1係合部21は、扇柱形状を有している。図示の例では、第1係合部21は、ナット3と一体に備えられているが、本発明を実施する場合には、ナットとは別体に構成した第1係合部を、ナットに対して固定することもできる。
【0068】
〈ボール〉
ボール4は、所定の直径を有する鋼球であり、負荷路9および循環溝10に転動可能に配置されている。負荷路9に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環溝10に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。
【0069】
〈ピストン〉
ピストン5は、鉄系合金やアルミニウム合金などの金属製で、有底円筒形状を有している。ピストン5は、ナット3に外嵌固定され、ナット3とともに直線運動する。ピストン5は、ナット3と同軸に配置されており、ハウジング6に備えられたシリンダ孔8に軸方向の移動可能に嵌装されている。ピストン5は、円筒部22と、円筒部22の軸方向他方側の端部開口を塞いだ底板部23とを有する。
【0070】
円筒部22は、ナット3の小径部16の外径よりも少しだけ小さい内径を有している。また、円筒部22は、ナット3の大径部17の外径と同じ外径を有している。ピストン5の円筒部22の外径とナット3の大径部17の外径とが同じとは、完全に同じ場合には限られず、実質的に同じ場合を含むものとする。ここで、実質的に同じとは、ピストン5の円筒部22の外径とナット3の大径部17の外径とが異なっていても、ピストン5の円筒部22の外径とナット3の大径部17の外径との差が十分に小さい場合をいう。具体的には、これに限定されるものではないが、シリンダ孔8の内周面を基準として、シリンダ孔8の内周面とピストン5の円筒部22の外周面との間の径方向隙間が100μm以下であり、シリンダ孔8の内周面とナット3の大径部17の外周面との間の径方向隙間が100μm以下である場合をいう。
【0071】
円筒部22は、軸方向一方側の端部を、ナット3の小径部16に圧入により外嵌固定している。円筒部22を小径部16に外嵌固定した状態で、円筒部22の軸方向一方側の端面5xを、ナット3の外周面に備えられた段差面18に対し軸方向に突き当てている。ピストン5の軸方向一方側の端面5xは、ピストン5の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。
【0072】
〈ハウジング〉
ハウジング6は、有底円筒形状を有しており、内部に、円形の断面形状を有するシリンダ孔8を備える。シリンダ孔8の中心軸は、ねじ軸2の中心軸と同軸に配置されている。シリンダ孔8は、ナット3およびピストン5を軸方向に挿通可能な内径を有している。具体的には、シリンダ孔8は、ピストン5の円筒部22およびナット3の大径部17よりもわずかに大きな内径を有する。シリンダ孔8の内径は、内周面に備えられた案内凹溝24から円周方向に外れた部分において、軸方向にわたり一定である。
【0073】
シリンダ孔8は、内周面に、回り止め部材7を軸方向に摺動可能に係合させるための案内凹溝24を有する。案内凹溝24は、軸方向に伸長しており、シリンダ孔8の内周面の円周方向複数個所、本例では2個所に備えられている。本例では、案内凹溝24は、シリンダ孔8の軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。
【0074】
案内凹溝24の軸方向一方側の端部は、ハウジング6の軸方向一方側の端面に開口している。案内凹溝24は、軸方向他方側の端部に、軸方向一方側を向いた段差部25を有する。このため、案内凹溝24は、シリンダ孔8の内周面およびハウジング6の軸方向一方側の端面のそれぞれに開口している。案内凹溝24の中心軸は、シリンダ孔8の中心軸と平行に配置されている。案内凹溝24の軸方向寸法は、回り止め部材7の軸方向寸法よりも十分に大きく、ナット3およびピストン5に求められるストロークに応じて決定される。
【0075】
案内凹溝24は、回り止め部材7のうちの径方向に関する外側部分と円周方向に係合可能な断面形状を有する。本例では、回り止め部材7を円柱形状に構成しているため、
図5に示すように、シリンダ孔8の中心軸に直交する仮想平面に関する案内凹溝24の断面形状を、円弧形としている。具体的には、案内凹溝24は、中心角がおよそ180度の半円弧形の断面形状を有する。このため、案内凹溝24の円周方向幅は、径方向内側に向かうほど大きくなる。案内凹溝24は、回り止め部材7の直径Dの1/2よりもわずかに大きい曲率半径を有する。シリンダ孔8の内周面における案内凹溝24の円周方向に関する開口幅は、回り止め部材7の直径Dよりもわずかに大きい。
【0076】
案内凹溝24は、シリンダ孔8の内周面に、円周方向に関して等間隔に配置されている。本例では、案内凹溝24を2つ備えているため、2つの案内凹溝24は、位相が180度異なる位置に配置されている。ボールねじ装置1の組立状態で、案内凹溝24は、保持凹部19と円周方向に関して同じ位置に配置される。このため、案内凹溝24と保持凹部19とは、径方向に対向して配置される。
【0077】
シリンダ孔8の内周面のうちで、案内凹溝24よりも軸方向他方側に位置する部分には、複数(図示の例では2つ)のシール凹溝26a、26bが備えられている。シール凹溝26a、26bは、円環形状を有している。シール凹溝26a、26bのそれぞれには、シリンダ孔8の内周面とピストン5の外周面との間を密封するためのOリング27a、27bが装着されている。
【0078】
なお、本例では、ハウジング6を有底円筒形状に構成しているが、本発明を実施する場合には、ハウジングの形状は適宜変更することができる。本例では、ハウジング6は、内部にシリンダ孔8のみを備えた構成としているが、本発明を実施する場合には、ハウジングの内部に、シリンダ孔の他に、モータを収容するモータ収容部やギヤを収容するギヤ収容部などを備えることもできる。
【0079】
〈回り止め部材〉
回り止め部材7は、ナット3がハウジング6に対して相対回転するのを阻止するための部材であり、鉄系合金などの金属製で、円柱形状を有している。回り止め部材7としては、たとえば、焼入れおよび焼戻し精度に優れており、かつ、表面粗さの小さい、ローラ軸受用のローラまたはニードル軸受用のニードルを用いることができる。
【0080】
回り止め部材7は、中心軸をシリンダ孔8の中心軸と平行に配置した状態で、ナット3の外周面に備えられた保持凹部19とシリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24との間に、径方向に挟まれるようにして配置されている。別な言い方をすれば、回り止め部材7は、保持凹部19と案内凹溝24とに掛け渡されるように配置されている。
【0081】
回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分(
図5の下側部分)は、保持凹部19の内側に配置されている。回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分は、
図4に示すように、保持凹部19の閉塞面20とピストン5の軸方向一方側の端面5xとの間で、軸方向に挟まれている。別な言い方をすれば、回り止め部材7の軸方向一方側の端面は、閉塞面20と軸方向に対向しており、かつ、回り止め部材7の軸方向他方側の端面は、ピストン5の軸方向一方側の端面5xと軸方向に対向している。このため、回り止め部材7は、閉塞面20とピストン5の軸方向一方側の端面5xとにより、軸方向に関する抜け止めが図られている。したがって、回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分は、保持凹部19の内側に、軸方向に関する移動不能に配置されている。
【0082】
本例では、回り止め部材7の軸方向寸法を、ナット3の段差面18から保持凹部19の閉塞面20までの軸方向寸法よりも少しだけ小さく設定している。このため、ピストン5をナット3に外嵌固定した状態で、段差面18に突き当てられたピストン5の軸方向一方側の端面5xから閉塞面20までの軸方向距離よりも、回り止め部材7の軸方向寸法が少しだけ小さくなる。したがって、回り止め部材7の軸方向一方側の端面と閉塞面20との間、および/または、回り止め部材7の軸方向他方側の端面とピストン5の軸方向一方側の端面5xとの間には、隙間が形成される。別な言い方をすれば、回り止め部材7の軸方向両側の端面は、軸方向に対向する閉塞面20およびピストン5の軸方向一方側の端面5xに同時に当接することはない。
【0083】
回り止め部材7のうちの径方向に関する外側部分(
図5の上側部分)は、案内凹溝24の内側に配置されている。
図2に示すように、案内凹溝24の軸方向寸法は、回り止め部材7の軸方向寸法よりも十分に大きく設定されているため、回り止め部材7のうちの径方向に関する外側部分は、案内凹溝24の内側に軸方向に摺動可能に配置される。
【0084】
本例では、回り止め部材7と案内凹溝24との摺動性を向上させるために、
図6に示すように、回り止め部材7の外周面の軸方向両側の端部に、テーパ状の面取り部47を形成している。なお、面取り部47は、
図6以外の図面では図示を省略している。また、面取り部47と回り止め部材7の軸方向中間部に備えられた円筒面状の外周面とを、円弧形の断面形状を有する連続部48により滑らかに接続している。さらに本例では、回り止め部材7の軸方向一方側の端面とナット3の閉塞面20との径方向の係り代を確保するために、面取り部47の径方向寸法bの大きさを、面取り部47の軸方向寸法a以下としている(b≦a)。
【0085】
ボールねじ装置1の組立作業時には、グリースを塗布した回り止め部材7を保持凹部19の内側に配置し、回り止め部材7を保持凹部19に貼付することで、回り止め部材7が保持凹部19から脱落することを防止することができる。代替的あるいは追加的に、保持凹部19の内側に配置した回り止め部材7の周囲を覆うようにガイド筒を配置することで、回り止め部材7の脱落を防止することもできる。
【0086】
さらに本例のボールねじ装置1は、ナット3のストロークエンドを規制するためのストッパ28と、ねじ軸2を回転駆動するための駆動部材33とを備える。
【0087】
〈ストッパ〉
ストッパ28は、円環形状を有するボス部29と、突起形状を有する第2係合部30とを有する。
【0088】
ボス部29は、ねじ軸2の嵌合軸部12に対して相対回転不能に外嵌されている。ボス部29は、径方向中央部に、嵌合軸部12を軸方向に挿通可能な係合孔31を有する。本例では、係合孔31は、内周面に、複数の雌スプライン歯32を有する。雌スプライン歯32は、係合孔31の内周面の円周方向等間隔複数個所に配置されている。すなわち、係合孔31は、スプライン孔により構成される。ボス部29は、係合孔31に、嵌合軸部12をスプライン係合させることで、嵌合軸部12に対して相対回転不能に外嵌されている。ボス部29の軸方向の厚さは、嵌合軸部12の軸方向寸法よりも十分に小さい。
【0089】
ボス部29は、円筒面状の外周面を有している。
【0090】
第2係合部30は、ボス部29の外周面の円周方向一部に備えられており、径方向外側に向けて突出している。
【0091】
〈駆動部材〉
駆動部材33は、歯車やプーリなどの部材であり、電動モータなどの駆動源から入力されたトルクをねじ軸2に伝達することで、ねじ軸2を回転駆動する。駆動部材33は、ストッパ28の軸方向一方側に隣接配置されている。
【0092】
駆動部材33は、基板部34と、円筒状の筒部35とを有する。
【0093】
基板部34は、径方向中央部に、軸方向に貫通した取付孔36を有する。取付孔36は、内周面に、複数の雌スプライン歯37を有する。雌スプライン歯37は、取付孔36の内周面の円周方向等間隔複数個所に配置されている。すなわち、取付孔36は、スプライン孔により構成される。基板部34は、取付孔36に、嵌合軸部12のうち、ストッパ28を外嵌した部分から軸方向一方側に外れた部分をスプライン係合させることで、嵌合軸部12に対して相対回転不能に外嵌されている。
【0094】
筒部35は、基板部34の軸方向他方側の側面の径方向外側部分から軸方向に伸長している。筒部35は、ナット3の外径よりもわずかに大きな内径を有する。筒部35は、ストッパ28およびねじ部11の軸方向一方側の端部の周囲を覆っている。
【0095】
基板部34または筒部35の外周面には、ギヤ部を形成することもできるし、ベルトを掛け渡すこともできる。なお、駆動部材33としては、歯車やプーリの他に、スプロケットやモータシャフトなどを採用することもできる。
【0096】
〈ボールねじ装置の動作説明〉
本例のボールねじ装置1は、図示しない駆動源により駆動部材33を介してねじ軸2を回転駆動すると、回り止め部材7によりハウジング6に対する相対回転が阻止されたナット3が、ピストン5とともに、シリンダ孔8の内側を直線運動する。これにより、シリンダ孔8内に充填した液体または気体を、ハウジング6に備えられた図示しない連通孔を通じて排出または吸入する。回り止め部材7は、ナット3およびピストン5が直線運動する際に、保持凹部19の閉塞面20またはピストン5の軸方向一方側の端面5xにより軸方向に押圧されて、ナット3およびピストン5とともに直線運動する。
【0097】
ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に相対移動してストロークエンドに達すると、ナット3に備えられた第1係合部21と、ストッパ28に備えられた第2係合部30とが円周方向に係合する。これにより、ねじ軸2の回転が阻止される。このように、本例のボールねじ装置1は、ストッパ28により、ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に相対移動することに関するストロークエンドを規制することができる。なお、ナット3がねじ軸2に対して軸方向他方側に相対移動することに関するストロークエンドは、回り止め部材7の軸方向他方側の端面を、案内凹溝24の閉塞端である段差部25に突き当てることで規制することもできるし、あるいは、従来から知られた各種のストローク制限機構を利用して規制することもできる。
【0098】
以上のような本例のボールねじ装置1によれば、直線運動要素であるナット3の回り止めを少ない部品点数で実現することができ、製造コストの低減を図れる。
【0099】
すなわち、本例では、ハウジング6に対してナット3が相対回転することを防止するための回り止め部材7のうち、保持凹部19の内側に配置した、径方向に関する内側部分を、保持凹部19の閉塞面20とピストン5の軸方向一方側の端面5xとの間で軸方向に挟むことで、回り止め部材7の軸方向に関する抜け止めを図っている。このため、本例のボールねじ装置1は、特開2007-303515号公報に記載された従来構造において必要であった、止め輪やねじ部材などの抜け止め部材を省略できる。本例では、ナット3およびハウジング6とは別体の回り止め部材7を使用しているため、ハウジングの内周面にキーを一体成形する場合に比べて、製造コストを十分に抑えることができる。回り止め部材7の形状精度は、低コストで良好にできる。したがって、本例のボールねじ装置1によれば、ナット3の回り止めを、少ない部品点数で実現することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0100】
本例では、ナット3の段差面18に突き当てられたピストン5の軸方向一方側の端面5xから、保持凹部19の閉塞面20までの軸方向距離よりも、回り止め部材7の軸方向寸法を少しだけ小さくし、回り止め部材7の軸方向一方側の端面と閉塞面20との間、および/または、回り止め部材7の軸方向他方側の端面とピストン5の軸方向一方側の端面5xとの間に、隙間を形成している。このため、ナット3とピストン5との間で伝達される軸力が、回り止め部材7を介して伝達されることを防止できる。本例では、ピストン5の軸方向一方側の端面5xとナット3の段差面18との突き当て部を通じて、軸力を伝達することができる。したがって、ナット3とピストン5との同軸度を確保しやすくなるとともに、回り止め部材7に変形が生じることを防止できる。
【0101】
保持凹部19のそれぞれを、ナット3の内周面に備えられたすべての循環溝10から円周方向に位置をずらして配置している。具体的には、ナット3を軸方向から見た場合に、2つの保持凹部19のそれぞれを、円周方向位置の近い2つの循環溝10に対して、円周方向に関して反対側に同じ角度だけ(本例では45度ずつ)位置をずらして配置している。このため、保持凹部19を形成することによる、ナット3の強度低下を抑制することができる。したがって、ナット3の外径をいたずらに大きくしなくて済み、ボールねじ装置1の大型化を防止できる。
【0102】
本例では、案内凹溝24の曲率半径を、回り止め部材7の直径Dの1/2よりもわずかに大きくしているため、案内凹溝24と回り止め部材7とを線接触させることができる。このため、回り止め部材7と案内凹溝24との摺動性を向上させることができる。さらに本例では、回り止め部材7の外周面の軸方向端部に面取り部47を形成していることからも、回り止め部材7と案内凹溝24との間の摺動抵抗を低減でき、回り止め部材7と案内凹溝24との摺動性の向上を図れる。
【0103】
本例では、ボールねじ装置1を小型化することもできる。特開2007-303515号公報に記載された従来構造のボールねじ装置100においては、
図18に示したように、ナット102に外嵌する嵌合筒(ピストン)104の外径が、ナット102の外径よりも大きい。このため、ハウジング105の挿通孔110が大径化し、ボールねじ装置100が大型化しやすくなるという問題を生じる。ボールねじ装置は、たとえば自動車用の電動ブレーキ装置(EMB)に組み込まれて使用されるが、電動ブレーキ装置は、タイヤハウス内という限られたスペースに設置する必要があるため、小型化への要求が高い。したがって、ボールねじ装置に対しても小型化することが求められている。
【0104】
本例のボールねじ装置1では、ナット3の大径部17の外径と、ピストン5の円筒部22の外径とを同じとすることで、上述したような小型化という課題の解決を図っている。なお、ボールねじ装置の小型化という課題を解決するにあたっては、ハウジングに対してナットまたは嵌合筒(ピストン)の相対回転が阻止されていれば足り、回り止め手段は特に限定されない。
【0105】
さらに本例では、ナット3の大径部17の外径とピストン5の円筒部22の外径とを同じとすることで、ボールねじ装置1の小型化だけでなく、次のような作用効果を得ることもできる。
【0106】
第1に、ナット3の大径部17の外径とピストン5の円筒部22の外径とを同じとすることで、ねじ軸2のねじ部11の周囲に配置されたピストン5とナット3との2つの部品が一体となって、1つのシリンダ孔8の内側を直線運動する構成としている。すなわち、ナット3をピストン5の一部と捉えることができるため、ピストン5の軸方向寸法を長くした場合と同じように、シリンダ孔8に対するピストン5のがたつきおよび傾きを抑制することができる。
【0107】
第2に、ナット3の大径部17の外径と、ピストン5の円筒部22の外径とを同じとすることで、ピストン5を挿入可能なシリンダ孔8の内径に対して、ナット3を最大化することが可能となる。このため、本例のボールねじ装置1によれば、負荷容量を大きくすることができ、高荷重に耐えることができ、かつ、長寿命化を図ることもできる。
【0108】
第3に、ナット3の大径部17の外径を、シリンダ孔8の内径に近づけることができるため、大径部17の外周面とシリンダ孔8の内周面との間の隙間を小さくすることができる。このため、シリンダ孔8の内周面によりナット3の傾きを抑制することができる。したがって、ねじ軸2とナット3とに相対傾きが生じることを抑制でき、負荷路9を転動するボール4に荷重が不均等に負荷されることを防止できる。これにより、ボールねじ装置1の長寿命化を図ることができる。
【0109】
第4に、大径部17の外周面とシリンダ孔8の内周面との間の隙間を小さくできるため、回り止め部材7と保持凹部19との径方向の係り代を確保することができる。したがって、回り止め部材7が保持凹部19から抜け出ることを有効に防止できる。
【0110】
第5に、ナット3の大径部17の外径とピストン5の円筒部22の外径とを同じとすることで、シリンダ孔8の内径を、案内凹溝24から円周方向に外れた部分において、軸方向にわたり一定(同径)とすることができる。このため、ハウジング6にシリンダ孔8を加工するための切削加工を1パスで行うことが可能になる。したがって、ハウジング6の加工工数の低減および加工コストの低減を図れる。
【0111】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図11を用いて説明する。
【0112】
本例では、ピストン5aを構成する円筒部22aの内周面を段付き形状としている。円筒部22aは、内周面の軸方向一方側の端部に円筒面状の大径面部38を有し、内周面のうちで大径面部38から軸方向他方側に外れた部分に、大径面部38よりも内径の小さい円筒面状の小径面部39を有する。さらに円筒部22aは、内周面のうち、大径面部38と小径面部39との間に、軸方向一方側を向いた円環状の円環面40を有する。円環面40は、ピストン5aの軸方向一方側の端面5xよりも軸方向他方側にオフセットしている。円環面40は、ピストン5aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成されている。
【0113】
本例では、円筒部22aのうち、軸方向一方側の端部に備えられた大径面部38を、ナット3の小径部16に圧入により外嵌固定している。円筒部22aを小径部16に外嵌した状態で、円筒部22aの内周面に備えられた円環面40を、ナット3の軸方向他方側の端面3xに対し軸方向に突き当てている。ピストン5の軸方向一方側の端面5xと段差面18(
図7参照)との間には、全周にわたり隙間を設けている。
【0114】
本例のボールねじ装置1によれば、円環面40とナット3の軸方向他方側の端面3xとの突き当て部を通じて、軸力を伝達することができる。このため、ピストン5の軸方向一方側の端面5xと、回り止め部材7の軸方向他方側の端面との間の隙間を、実施の形態の第1例の構造に比べて大きくすることができる。さらに、前記突き当て部の径方向幅を確保しやすいため、ピストン5aがナット3に対して傾くことを有効に防止できる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0115】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図12を用いて説明する。
【0116】
本例では、ナット3の外周面に備えられた保持凹部19aおよびシリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24aのそれぞれの断面形状のみを、第1例の構造から異ならせている。
【0117】
具体的には、ナット3の中心軸に直交する仮想平面に関する保持凹部19aの断面形状を矩形状とし、かつ、シリンダ孔8の中心軸に直交する仮想平面に関する案内凹溝24aの断面形状を矩形状としている。つまり、保持凹部19aおよび案内凹溝24aのそれぞれを、角溝としている。このため、保持凹部19aおよび案内凹溝24aの円周方向幅は、径方向にわたり一定である。
【0118】
保持凹部19aおよび案内凹溝24aのそれぞれは、回り止め部材7の直径Dの1/2とほぼ同じ大きさの溝深さを有する。ナット3の外周面における保持凹部19aの円周方向に関する開口幅、および、シリンダ孔8の内周面における案内凹溝24aの円周方向に関する開口幅は、それぞれ回り止め部材7の直径Dとほぼ同じである。なお、本例では、保持凹部19aおよび案内凹溝24aの溝深さおよび開口幅を、互いに同じとしているが、本発明を実施する場合には、互いに異ならせることもできる。
【0119】
本例によれば、保持凹部19aおよび案内凹溝24aのそれぞれを、フライス盤を利用して容易に加工することができる。このため、ボールねじ装置1の製造コストの低減を図る上で有利になる。保持凹部19aおよび案内凹溝24aのそれぞれの隅角部に、断面略三角形状の隙間41を形成することができる。このため、隙間41に十分な量のグリースを保持することができる。したがって、案内凹溝24aに対する回り止め部材7の摺動抵抗を低くできる。案内凹溝24aの断面形状を矩形状としているため、案内凹溝24aと回り止め部材7とを線接触させることができる。このため、回り止め部材7と案内凹溝24aとの摺動性を向上させることができる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0120】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図13を用いて説明する。
【0121】
本例では、ナット3の外周面に備えられた保持凹部19の断面形状を、第1例の構造と同様に円弧形状とし、かつ、シリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24aの断面形状を、第3例の構造と同様に矩形状としている。
【0122】
本例によれば、保持凹部19の断面形状を円弧形状としているため、保持凹部19の内面と回り止め部材7の外周面との接触面積を、第3例の構造に比べて大きくすることができる。このため、回り止め部材7が、ピストン5の軸方向一方側の端面5xと保持凹部19の閉塞面20との間で、軸方向に相対移動することを抑制できる。したがって、回り止め部材7の軸方向端面と、ピストン5の軸方向一方側の端面5xおよび保持凹部19の閉塞面20との衝突に基づき、異音が発生することを抑制できる。その他の構成および作用効果については、第1例および第3例と同じである。
【0123】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図14を用いて説明する。
【0124】
本例では、回り止め部材7aの形状のみを、第3例の構造から異ならせている。
【0125】
具体的には、回り止め部材7aを四角柱形状に構成している。そして、回り止め部材7aのうちの径方向に関する内側部分を、矩形状の断面形状を有する保持凹部19aの内側にほぼ隙間なく配置し、回り止め部材7aのうちの径方向に関する外側部分を、矩形状の断面形状を有する案内凹溝24aの内側にほぼ隙間なく配置している。つまり、回り止め部材7aの周面のうち、径方向に関する内側面を、保持凹部19aの径方向底面に面接触させ、かつ、径方向に関する外側面を、案内凹溝24aのうちの径方向底面に面接触させている。回り止め部材7aの円周方向に関する両側面を、保持凹部19aおよび案内凹溝24aの周方向側面に面接触させている。
【0126】
本例によれば、回り止め部材7aを安価に製造することができる。このため、ボールねじ装置1の製造コストの低減を図る上で有利になる。また、保持凹部19aおよび案内凹溝17aの内側で、回り止め部材7aががたつくことを抑制できる。このため、ハウジング6に対してナット3が円周方向にがたつくことを防止できる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0127】
[第6例]
本発明の実施の形態の第6例について、
図15を用いて説明する。
【0128】
本例では、ナット3の外周面に備えられた保持凹部19bおよびシリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24bのそれぞれの断面形状のみを、第1例の構造から異ならせている。
【0129】
本例では、ナット3の中心軸に直交する仮想平面に関する保持凹部19bの断面形状を、中心角αが180度よりも大きい(図示の例では中心角がおよそ230度の)円弧形としている。このため、保持凹部19bの円周方向幅は、径方向内側部から径方向中間部に向かうほど大きくなった後、径方向中間部から径方向外側部に向かうほど小さくなる。そして、ナット3の外周面における保持凹部19bの円周方向に関する開口幅は、回り止め部材7の直径D(
図5参照)よりも十分に小さくなっている。
【0130】
これに対して、シリンダ孔8の中心軸に直交する仮想平面に関する案内凹溝24の断面形状を、中心角βが180度よりも小さい(図示の例では中心角がおよそ130度の)円弧形としている。
【0131】
本例によれば、回り止め部材7のうち、径方向に関する内側部分を保持凹部19bの内側に配置した状態、すなわち軸方向に挿入した状態で、回り止め部材7が、保持凹部19bから径方向外側に脱落することを防止できる。このため、ボールねじ装置1の組立作業の作業性を向上することができる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0132】
[第7例]
本発明の実施の形態の第7例について、
図16を用いて説明する。
【0133】
本例では、ピストン5cの円筒部22bの外周面の形状のみを、第1例の構造から異ならせている。
【0134】
本例では、ピストン5cの円筒部22bは、外周面のうちでナット3に対し近い側の端部、すなわち軸方向一方側の端部に、軸方向他方側に隣接する部分の外径よりもわずかに小さい外径を有する小径段部49を備える。したがって、ピストン5cの外径は、円筒部22bのうち、小径段部49から軸方向他方側に外れた部分の外径であり、当該部分の外径は、ナット3の外径とほぼ同じである。なお、小径段部49は、ナット3の小径部16の軸方向長さ以上の軸方向長さを有する。
【0135】
本例では、ピストン5cの円筒部22bの外周面の軸方向一方側の端部に、小径段部49を設けているため、円筒部22bの軸方向一方側の端部を、ナット3の小径部16に圧入により外嵌固定することに伴って、小径段部49が拡径した場合にも、拡径に伴い真円度が低下した小径段部49が、シリンダ孔8の内周面に接触することを有効に防止できる。なお、小径段部49の外径が軸方向他方側に隣接する部分の外径よりも小さい程度は、小径段部49がシリンダ孔8の内周面に接触することを防止でき、かつ、ピストン5cとナット3との嵌合強度を確保できる限り、特に限定されない。その他の構成および作用効果は、第1例と同じである。
【0136】
[第8例]
本発明の実施の形態の第8例について、
図17を用いて説明する。
【0137】
本例では、第1例~第6例とは異なり、ナット3aの外周面ではなく、ピストン5bの外周面に、保持凹部19を設けている。すなわち、本例では、ピストン5bが第1部材に相当し、かつ、ナット3aが第2部材に相当する。
【0138】
ナット3aは、軸方向にわたり外径の変化しない円筒面状の外周面を有している。本例では、ナット3aの内周面を、段付き円筒面により構成している。具体的には、ナット3aは、内周面にナット側ボールねじ溝15が形成された小径面部42と、小径面部42から軸方向他方側に外れた部分に備えられた、小径面部42よりも内径の大きい円筒面状の大径面部43とを有する。
【0139】
ピストン5bの外周面を、段付き円筒面により構成している。ピストン5bは、外周面の軸方向一方側の端部に、円筒面状の小径部44を有し、外周面の軸方向中間部から軸方向他方側部にわたる範囲に、円筒面状の大径部45を有する。ピストン5bは、外周面のうち、小径部44と大径部45との間に、軸方向一方側を向いた円環状の段差面46を有する。段差面46は、ピストン5bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。大径部45の外径は、ナット3aの外径と同じである。
【0140】
本例では、直線運動要素であるナット3aの回り止めを図るために、ピストン5bの外周面に、回り止め部材7を保持するための保持凹部19を設けている。保持凹部19は、ピストン5bの外周面の円周方向複数個所(たとえば2個所)に備えられている。保持凹部19は、ピストン5bの外周面のうち、大径部45の軸方向一方側部に備えられている。
【0141】
保持凹部19は、軸方向に伸長した凹溝である。保持凹部19は、軸方向他方側の端部に、軸方向一方側を向いた閉塞面20を有する。保持凹部19の軸方向一方側の端部は、段差面46に開口している。このため、保持凹部19は、ピストン5bの外周面および段差面46のそれぞれに開口している。保持凹部19の中心軸は、ピストン5bの中心軸と平行に配置されている。段差面46から閉塞面20までの軸方向寸法は、回り止め部材7の軸方向寸法よりも少しだけ大きい。閉塞面20は、ピストン5bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、軸方向視で部分円形状(略半円形状)である。
【0142】
保持凹部19は、回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分と円周方向に係合可能な断面形状を有する。本例では、回り止め部材7を円柱形状に構成しているため、ピストン5bの中心軸に直交する仮想平面に関する保持凹部19の断面形状を、円弧形としている。保持凹部19のうちで最も径方向の深さが大きくなった部分を通る内接円直径は、小径部44の外径以上である。
【0143】
本例では、ピストン5bの外周面の軸方向一方側の端部に備えられた小径部44を、ナット3aの内周面の軸方向他方側の端部に備えられた大径面部43に対して、相対回転を不能にたとえば圧入により嵌合している。
【0144】
本例では、ピストン5bの外周面に備えられた保持凹部19と、図示しないシリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24(
図2参照)との間に、回り止め部材7を径方向に挟むようにして配置している。
【0145】
回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分(
図17の下側部分)は、保持凹部19の内側に配置されている。また、回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分は、保持凹部19の閉塞面20とナット3aの軸方向他方側の端面3xとの間で、軸方向に挟まれている。別な言い方をすれば、回り止め部材7の軸方向他方側の端面は、閉塞面20と軸方向に対向しており、かつ、回り止め部材7の軸方向一方側の端面は、ナット3aの軸方向他方側の端面3xと軸方向に対向している。このため、回り止め部材7は、閉塞面20とナット3aの軸方向他方側の端面3xとにより、軸方向に関する抜け止めが図られている。したがって、回り止め部材7のうちの径方向に関する内側部分は、保持凹部19の内側に、軸方向に関する移動不能に配置されている。
【0146】
本例では、回り止め部材7の軸方向寸法を、ピストン5bの段差面46から保持凹部19の閉塞面20までの軸方向寸法よりも少しだけ小さく設定している。このため、ピストン5bをナット3aに外嵌固定した状態で、段差面46に突き当てられたナット3aの軸方向他方側の端面3xから閉塞面20までの軸方向距離よりも、回り止め部材7の軸方向寸法が少しだけ小さくなる。したがって、回り止め部材7の軸方向他方側の端面と閉塞面20との間、および/または、回り止め部材7の軸方向一方側の端面とナット3aの軸方向他方側の端面3xとの間には、隙間が形成される。別な言い方をすれば、回り止め部材7の軸方向両側の端面は、軸方向に対向する閉塞面20およびナット3aの軸方向他方側の端面3xに同時に当接することはない。
【0147】
回り止め部材7のうちの径方向に関する外側部分(
図17の上側部分)は、案内凹溝24の内側に、軸方向に関する摺動を可能に配置される。
【0148】
本例によれば、第1例のボールねじ装置1と同様に、特開2007-303515号公報に記載された従来構造に比べて、ナット3aの回り止めを、少ない部品点数で実現することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0149】
本例では、ピストン5bの外周面に保持凹部19を形成しており、ナット3aの外周面に保持凹部を形成しなくて済むため、ナット3aの強度確保のために、ナット3aの外径(肉厚)を大きくしなくて済む。このため、ボールねじ装置1の小型化を図れる。また、保持凹部19の形成位置を、ナット3aの内周面に備えられた循環溝10(
図7参照)との関係で考慮する必要がない。したがって、ボールねじ装置1の設計の自由度を向上できるため、ボールねじ装置1の製造コストの低減を図れる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0150】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、本発明の実施の形態の第1例~第8例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0151】
本発明の実施の形態の第1例~第8例では、回り止め部材を、円柱形状または角柱形状とした場合について説明したが、本発明を実施する場合には、回り止め部材を球形状とすることもできるし、その他の形状とすることもできる。
【0152】
本発明の実施の形態の第1例~第8例では、保持凹部および案内凹溝の断面形状を、円弧形および矩形とした場合について説明したが、本発明を実施する場合には、保持凹部および案内凹溝の断面形状は、適宜変更することができる。たとえば、保持凹部の断面形状を円弧形とし、案内凹溝の断面形状を矩形とすることもできるし、反対に、保持凹部の断面形状を矩形とし、案内凹溝の断面形状を円弧形とすることもできる。
【0153】
本発明の実施の形態の第1例~第8例では、保持凹部および案内凹溝を2つずつ備える場合について説明したが、本発明を実施する場合には、保持凹部および案内凹溝を1つずつ備える構成を採用することもできるし、保持凹部および案内凹溝を3つ以上ずつ備える構成を採用することもできる。保持凹部および案内凹溝を複数ずつ備える場合には、保持凹部および案内凹溝を、円周方向に関して等間隔に配置することもできるし、円周方向に関して不等間隔に配置することもできる。
【0154】
本発明の実施の形態の第1例~第8例では、嵌合筒として、ピストンを用いた場合について説明したが、本発明を実施する場合には、ピストンに限らず、その他の機能を有する部材を用いることもできる。ナットに対する嵌合筒の固定手段についても、圧入に限定されず、ねじ止め、かしめ、溶接など、その他の構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0155】
1 ボールねじ装置
2 ねじ軸
3、3a ナット
3x 端面
4 ボール
5、5a、5b、5c ピストン
5x 端面
6 ハウジング
7、7a 回り止め部材
8 シリンダ孔
9 負荷路
10 循環溝
11 ねじ部
12 嵌合軸部
13 軸側ボールねじ溝
14 雄スプライン歯
15 ナット側ボールねじ溝
16 小径部
17 大径部
18 段差面
19、19a、19b 保持凹部
20 閉塞面
21 第1係合部
22、22a、22b 円筒部
23 底板部
24、24a、24b 案内凹溝
25 段差部
26a、26b シール凹溝
27a、27b Oリング
28 ストッパ
29 ボス部
30 第2係合部
31 係合孔
32 雌スプライン歯
33 駆動部材
34 基板部
35 筒部
36 取付孔
37 雌スプライン歯
38 大径面部
39 小径面部
40 円環面
41 隙間
42 小径面部
43 大径面部
44 小径部
45 大径部
46 段差面
47 面取り部
48 連続部
49 小径段部
100 ボールねじ装置
101 ねじ軸
102 ナット
103 ボール
104 嵌合筒
105 ハウジング
106 軸側ボールねじ溝
107 ナット側ボールねじ溝
108 負荷路
109 キー溝
110 挿通孔
111 キー
112 嵌合溝
【要約】
【課題】直線運動要素であるナットの回り止めを少ない部品点数で実現し、製造コストの低減を図れる、ボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ハウジング6に対してナット3の相対回転を阻止する回り止め部材7のうち、径方向に関する内側部分を、ナット3の外周面に備えた保持凹部19の閉塞面20と、ナット3に外嵌固定したピストン5の軸方向一方側の端面5xとの間に挟んだ状態で、保持凹部19の内側に配置し、かつ、径方向に関する外側部分を、ハウジング6のシリンダ孔8の内周面に備えられた案内凹溝24の内側に、軸方向に摺動可能に配置する。
【選択図】
図2