(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20221122BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20221122BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20221122BHJP
C04B 35/5831 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23C5/16
B23B51/00 M
C04B35/5831
(21)【出願番号】P 2022512362
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021030916
(87)【国際公開番号】W WO2022070677
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/037533
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 高志
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直樹
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2017/094628(JP,A1)
【文献】国際公開第2020/009117(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032966(WO,A1)
【文献】特開2006-281386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 27/24
B23C 5/16
B23B 51/00
C04B 35/5831
B23P 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具であって、
前記第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含み、
前記複数の立方晶窒化硼素粒子のうち少なくとも一部の前記立方晶窒化硼素粒子は、前記刃先の表面に位置し、
前記刃先の表面に位置した前記立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素の結晶構造からなる立方晶窒化硼素相と、六方晶窒化硼素の結晶構造からなる六方晶窒化硼素相とを含み、
前記刃先の表面に位置した前記立方晶窒化硼素粒子に対し、透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法で、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、前記六方晶窒化硼素相における前記六方晶窒化硼素のπ結合に由来するπ
*ピークの強度と、前記六方晶窒化硼素相における前記六方晶窒化硼素のσ結合、および前記立方晶窒化硼素相における前記立方晶窒化硼素のσ結合に由来するσ
*ピークの強度との比I
π*/I
σ*を求めた場合、前記刃先の表面における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比I
π*/I
σ*は、0.1~2であり、かつ前記刃先の表面から前記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比I
π*/I
σ*は、0.001~0.1である、立方晶窒化硼素焼結体工具。
【請求項2】
前記刃先の表面から前記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比I
π*/I
σ*は、0.001~0.1である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【請求項3】
前記刃先の表面から前記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比I
π*/I
σ*は、0.001~0.1である、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【請求項4】
前記立方晶窒化硼素焼結体工具は、すくい面と、逃げ面と、前記すくい面および前記逃げ面が交差する稜線とを含み、
前記すくい面は、前記稜線を介して前記逃げ面へと連なり、
前記立方晶窒化硼素焼結体工具は、前記すくい面の一部と、前記逃げ面の一部と、前記稜線とで刃先が構成され、
前記刃先の表面は、前記刃先の少なくとも一部の表面である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体工具に関する。本出願は、2020年10月2日に出願した国際特許出願であるPCT/JP2020/037533に基づく優先権を主張する。当該国際特許出願に記載されたすべての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下、「cBN」とも記す)は、ダイヤモンドに次ぐ硬さと、優れた熱伝導性とを併せ持つ。さらにcBNは、鉄との親和性が低いという特徴を有する。これらの物性に基づき、cBNと結合材とを混合することにより混合物を得た後、上記混合物を焼結することにより得られるcBN焼結体、および六方晶窒化硼素などから触媒を用いずにcBNに直接変換し、これを同時に焼結することにより得られるバインダレスcBN焼結体(以下、これらを纏めて「cBN基焼結体」とも記す)が、切削工具および耐摩工具などの基材として利用されている。このようなcBN基焼結体の一例として、たとえば特開2016-145131号公報(特許文献1)は、強靱であることが特徴の立方晶窒化ホウ素多結晶体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、第1焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具であって、上記第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含み、上記複数の立方晶窒化硼素粒子のうち少なくとも一部の上記立方晶窒化硼素粒子は、上記刃先の表面に位置し、上記刃先の表面に位置した上記立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素の結晶構造からなる立方晶窒化硼素相と、六方晶窒化硼素の結晶構造からなる六方晶窒化硼素相とを含み、上記刃先の表面に位置した上記立方晶窒化硼素粒子に対し、透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法で、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、上記六方晶窒化硼素相における上記六方晶窒化硼素のπ結合に由来するπ*ピークの強度と、上記六方晶窒化硼素相における上記六方晶窒化硼素のσ結合、および上記立方晶窒化硼素相における上記立方晶窒化硼素のσ結合に由来するσ*ピークの強度との比Iπ*/Iσ*を求めた場合、上記刃先の表面における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.1~2であり、かつ上記刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す斜視模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の刃先の表面に位置した立方晶窒化硼素粒子を、上記刃先の表面の法線方向と平行な面で切断することにより得た断面の一部を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
cBN基焼結体を切削工具および耐摩工具などの基材として利用するため、レーザを用いることにより、バルク状のcBN基焼結体から工具形状を形成し、かつ刃先形状を仕上げ加工することが従来から行われている。しかしながらcBN基焼結体の表面は、レーザ加工によって非常に高温となるため、上記表面に存在するcBNが六方晶窒化硼素(以下、「hBN」とも記す)に大量に変態する場合がある。この場合、変態した大量のhBNを含むcBN基焼結体を刃先に有する切削工具は、hBNがcBNに比べて軟質であるため、刃先の強度が低下することによってチッピングおよび欠損が頻発し、工具寿命が短くなる傾向があった。一方、バルク状のcBN基焼結体に対して砥石を用いて研削加工すること等によって、刃先の表面にhBNを含まない工具を形成することもできる。しかしその場合、刃先の表面がcBNからなるため、切削時に反応摩耗が進行することによってクレーター摩耗が発生しやすく、チッピングおよび欠損が頻発し、もって工具寿命が短くなる傾向があった。したがってcBN基焼結体を基材として利用した立方晶窒化硼素焼結体工具において、十分な耐欠損性を備えさせるには至っておらず、その開発が切望されている。
【0007】
上記実情に鑑み、本開示は、耐欠損性が向上した立方晶窒化硼素焼結体工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐欠損性が向上した立方晶窒化硼素焼結体工具を提供することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本開示に到達した。具体的には、レーザを用いてバルク状のcBN基焼結体から工具形状を形成し、かつ刃先形状を仕上げ加工する工程において、刃先の強度に悪影響が及ばない適度な量のhBNを刃先の表面に生成させることに注目した。この場合において本発明者らは、刃先の表面のhBNがその軟質性に基づいて潤滑剤のような役割を果たすことにより、工具の摺動性を改善し、もって耐欠損性が向上することを知見し、本開示を完成させた。
【0010】
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、第1焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具であって、上記第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含み、上記複数の立方晶窒化硼素粒子のうち少なくとも一部の上記立方晶窒化硼素粒子は、上記刃先の表面に位置し、上記刃先の表面に位置した上記立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素の結晶構造からなる立方晶窒化硼素相と、六方晶窒化硼素の結晶構造からなる六方晶窒化硼素相とを含み、上記刃先の表面に位置した上記立方晶窒化硼素粒子に対し、透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法で、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、上記六方晶窒化硼素相における上記六方晶窒化硼素のπ結合に由来するπ*ピークの強度と、上記六方晶窒化硼素相における上記六方晶窒化硼素のσ結合、および上記立方晶窒化硼素相における上記立方晶窒化硼素のσ結合に由来するσ*ピークの強度との比Iπ*/Iσ*を求めた場合、上記刃先の表面における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.1~2であり、かつ上記刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1である。このような特徴を備える立方晶窒化硼素焼結体工具は、耐欠損性を向上させることができる。
【0011】
[2]上記刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1であることが好ましい。これにより、立方晶窒化硼素焼結体工具の耐欠損性をさらに向上させることができる。
【0012】
[3]上記刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置における上記立方晶窒化硼素粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1であることが好ましい。これにより、立方晶窒化硼素焼結体工具の耐欠損性をさらに向上させることができる。
【0013】
[4]上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面および上記逃げ面が交差する稜線とを含み、上記すくい面は、上記稜線を介して上記逃げ面へと連なり、上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記すくい面の一部と、上記逃げ面の一部と、上記稜線とで刃先が構成され、上記刃先の表面は、上記刃先の少なくとも一部の表面であることが好ましい。これにより、立方晶窒化硼素焼結体工具の刃先において耐欠損性を向上させることができる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)を詳細に説明する。以下の説明において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0015】
〔立方晶窒化硼素焼結体工具〕
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、第1焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具である。上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記刃先の表面に有する第1焼結体中の後述する一部の立方晶窒化硼素粒子の特徴に基づき、この種の従来公知の立方晶窒化硼素焼結体工具に比べ、少なくとも耐欠損性を向上させることができる。このため本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、たとえば切削工具としてドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの用途に好適である。さらに上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどの耐摩工具、ならびに研削砥石などの研削工具としての用途にも好適である。
【0016】
本明細書において「刃先」とは、立方晶窒化硼素焼結体工具が有する切れ刃のうち、被削材の加工に直接関与する部分を意味する。さらに上記「刃先」の表面を、「刃先の表面」と定義する。この「刃先の表面」の位置は、当該刃先の表面から刃先の表面の法線方向に沿って0μmの深さ位置である。本明細書において「すくい面」とは、切削時に上記被削材から削り取った切り屑をすくい出す面を意味し、「逃げ面」とは、切削時に上記被削材の被削面に対して対向する面を意味する。上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面および上記逃げ面が交差する稜線とを含むことが好ましい。この場合において上記すくい面は、上記稜線を介して上記逃げ面へと連なる。さらに上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記すくい面の一部と、上記逃げ面の一部と、上記稜線とで刃先が構成され、上記刃先の表面は、上記刃先の少なくとも一部の表面(すくい面の一部の表面、逃げ面の一部の表面および稜線上の少なくともいずれか)であることが好ましい。本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記稜線と該稜線からすくい面側および逃げ面側にそれぞれ0.5mm離れた領域とで刃先が構成される場合がある。
【0017】
ここで上記刃先の形状としては、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、ホーニングとネガランドとを組み合わせた形状などがある。このため刃先は、シャープエッジの形状となる場合、すくい面および逃げ面が交差する境界に稜線を有するが、ホーニングの形状を有する場合およびネガランドの形状を有する場合、上記稜線を有さないこととなる。しかしながら本明細書においては、これらの場合においても、ホーニングの形状部およびネガランドの形状部に、立方晶窒化硼素焼結体工具のすくい面を延長した仮想のすくい面と、逃げ面を延長した仮想の逃げ面と、これらの仮想のすくい面および逃げ面が交差する仮想の稜線とが存在するものみなして以後説明する。
【0018】
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、上述のように第1焼結体を少なくとも刃先に有する。上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、第1焼結体と台金とが接着層で結合されることにより一体化された構造を有することが好ましい。台金は、この種の工具に用いられる基材として従来公知のものをいずれも使用することができる。このような台金の素材としては、たとえば超硬合金(たとえば、WC基超硬合金、WCのほか、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nbなどの炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCNなどを主成分とするもの)、高速度鋼およびセラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)のいずれかであることが好ましい。
【0019】
台金の素材としては、これらの中でも超硬合金(特にWC基超硬合金)またはサーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの素材は、高温における硬度と強度のバランスに優れるため、立方晶窒化硼素焼結体工具が用いられる用途に対して好ましい特性を有している。台金としてWC基超硬合金を用いる場合、その組織中に遊離炭素、ならびにη相またはε相と呼ばれる異常層などを含んでいてもよい。さらに台金は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合に表面硬化層が形成されていたりしてもよい。台金は、その表面が改質されていても所望の効果が示される。台金は、立方晶窒化硼素焼結体工具がドリルまたはエンドミルなどである場合、シャンクなどと呼ばれることがある。さらに立方晶窒化硼素焼結体工具が刃先交換型切削チップなどである場合、台金は、チップブレーカを有するものも、有さないものも含まれる。また本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、台金を含まない態様であることができ、たとえば第1焼結体のみからなる態様を有することができる。上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、すくい面、逃げ面、ならびに上記すくい面および上記逃げ面が交差する稜線を含む刃先の少なくとも一部を覆う被膜を含むこともできる。
【0020】
ここで上記立方晶窒化硼素焼結体工具の構成の一例を、図面を用いて説明する。
図1は本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す斜視模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具100は、たとえばエンドミルであって、刃部90と、接合部8と、シャンク部3とから構成されている。刃部90は、第1すくい面10と、第1逃げ面31と、第2すくい面15と、第2逃げ面33と、外周切刃20と、底切刃21と、前端とを有している。シャンク部3は、後端を有している。刃部90は、接合部8によってシャンク部3に固定されている。接合部8は、たとえばロウ材である。第1すくい面10と第2すくい面15とが本開示に係るすくい面に対応し、第1逃げ面31と第2逃げ面33とが本開示に係る逃げ面に対応する。
【0021】
第1逃げ面31は、第1すくい面10に連なる。第1すくい面10と第1逃げ面31との稜線は、外周切刃20を構成する。第2逃げ面33は、第2すくい面15に連なる。第2すくい面15と第2逃げ面33との稜線は、底切刃21を構成する。また第1すくい面10は、第2すくい面15に連なる。第1すくい面10は、第2すくい面15に対して、軸方向の後方に位置している。第1逃げ面31は、第2逃げ面33に連なる。第1逃げ面31は、第2逃げ面33に対して、軸方向の後方に位置している。なお、
図1のエンドミルは、あくまで本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の構成の一例である。本実施形態は、当該エンドミルにとどまらず、上述のように切削工具としてドリル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどが含まれ、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどの耐摩工具も含まれ、かつ研削砥石などの研削工具も含まれる。
【0022】
<第1焼結体>
第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含む。第1焼結体は、具体的には複数の立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」とも記す)を含み、かつ上述したcBN基焼結体(上記cBN焼結体または上記バインダレスcBN焼結体)と同様な組成を有することが好ましい。
【0023】
たとえば第1焼結体は、cBN粒子と結合材とを混合して得た混合物を焼結することにより作製されるcBN焼結体(cBN基焼結体)である場合がある。この場合、第1焼結体においてcBN粒子の含有量は、第1焼結体の全体量(100体積%)に対し40体積%以上95体積%以下であることが好ましく、結合材と不可避不純物との合計の含有量が5体積%以上60体積%以下であることが好ましい。
【0024】
cBN粒子の含有量は、第1焼結体の全体量に対し40体積%以上である場合、cBN粒子の物性に基づいて第1焼結体の強度が高く維持されるため、耐欠損性が向上する。一方、cBN粒子の含有量は、第1焼結体の全体量に対し95体積%以下である場合、cBN粒子同士の結合に必要な結合材の量を確保できるため、欠陥の増加を抑制することができる。これにより欠陥を起点にした欠損の発生を防ぐことができるので、耐欠損性が向上する。第1焼結体は、cBN粒子と結合材とを混合して得た混合物を焼結することにより作製されるcBN基焼結体である場合、cBN粒子の含有量は、第1焼結体の全体量に対し50体積%以上95体積%以下であることが好ましい。
【0025】
上記結合材は、周期表における第4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、第5族元素(V、Nb、Taなど)、第6族元素(Cr、Mo、Wなど)、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、上記元素を含む窒化物、炭窒化物、硼化物、酸化物およびこれらの相互固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物との少なくともいずれかを含むことが好ましい。結合材は、具体的にはTi、Co、Cr、Ni、Al、AlN、Al2O3、AlB2、TiN、TiC、TiCN、TiB2、Cr2N、WC、ZrO2、ZrO、ZrN、ZrB2およびSi3N4からなる群より選択される少なくとも1種以上の組成を有することがより好ましい。この場合、第1焼結体の強度を向上させることができる。
【0026】
さらに第1焼結体は、上記結合材を混合することなく、低圧相窒化硼素を高温高圧下で直接変換させると同時に焼結させることにより作製されるバインダレスcBN焼結体(cBN基焼結体)である場合がある。この場合、第1焼結体においてcBN粒子の含有量は、不可避不純物を除いて実質的に100体積%である。ここで低圧相窒化硼素(以下、「低圧相BN」とも記す)とは、熱力学的に低圧域で安定な窒化硼素をいい、具体的には六方晶系グラファイト型構造に類似した六方晶窒化硼素(hBN)、菱面体窒化硼素(rBN)、乱層構造の窒化硼素(tBN)および非晶質の窒化硼素(aBN)などを含む。このような低圧相BNは、硼素と酸素とを含む化合物を、炭素と窒素とを含む化合物で還元することによって準備することができる。第1焼結体は、たとえば上記低圧相BNを、1500~2100℃および6~10GPaの高温高圧下で直接変換させると同時に焼結させることにより作製することができる。なお不可避不純物の含有量は、少ないほど好ましく、0体積%であることが理想的であるが、不可避不純物は、第1焼結体の全体量に対して数パーセント含まれる場合がある。不可避不純物として含まれる元素の種類および含有量は、たとえば二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いることにより求めることができる。
【0027】
cBNへの直接変換は、硼素と酸素とを含む化合物の沸点以上、かつ非酸化性雰囲気の条件において、加熱した低圧相BNを用いて実行されることが好ましい。この場合、硼素と酸素とを含む化合物および吸着ガスが加熱により揮発するため、低圧相BN中に硼素と酸素とを含む化合物および吸着ガスが残存しない。これによりcBN粒子間の結合強度が大きくなり、強度および硬度とともに、耐熱性および放熱性に優れたcBN基焼結体(第1焼結体)を得ることができる。
【0028】
第1焼結体がcBN粒子と結合材とを混合して得た混合物を焼結することにより作製されるcBN焼結体(cBN基焼結体)である場合、上記第1焼結体中のcBN粒子および結合材の含有量(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM、商品名:「JSM-7800F」、日本電子株式会社製)により撮影した上記第1焼結体の組織写真を、市販の画像解析ソフト(商品名:「WinROOF」、三谷商事株式会社製)を用いて解析することにより求めることができる。より具体的には、まず後述する製造方法に沿うことにより製造した立方晶窒化硼素焼結体工具の刃先の表面から第1焼結体のサンプルを採取し、上記第1焼結体のサンプルの表面を鏡面研磨する。次に、上記SEMを用いて5000~20000倍の倍率により上記サンプルの鏡面研磨面の反射電子像を観察する。さらにSEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS、商品名:「Octane Elect」、AMETEK社製)を用いることにより、反射電子像中の黒色領域を立方晶窒化硼素と特定し、灰色領域および白色領域を結合材と特定する。加えて、SEMを用いて上記鏡面研磨面の組織写真を撮影し、この組織写真に対して上記画像解析ソフトを用いることにより、上記組織写真から立方晶窒化硼素(黒色領域)ならびに結合材(灰色領域および白色領域)の占有面積をそれぞれ求め、上記占有面積から立方晶窒化硼素および結合材の各含有量(体積%)を求めることができる。
【0029】
さらにcBN粒子のD50(平均粒径)は特に限定されず、例えば、0.5~10.0μmとすることができる。通常、D50が小さい方がcBN焼結体の硬度が高くなる傾向があり、粒径のばらつきが小さい方が、cBN焼結体の性質が均質となる傾向がある。cBN粒子のD50は、例えば、1~5.0μmとすることが好ましい。
【0030】
cBN粒子のD50は次のようにして求められる。まず上述したcBN粒子の含有量の測定方法に準じてcBN焼結体の断面を含む試料を作製することにより、反射電子像を得る。次いで、上記画像解析ソフトを用いて上記反射電子像中の各黒色領域の円相当径を算出する。5視野以上を観察することによって100個以上のcBN粒子の円相当径を算出することが好ましい。
【0031】
次いで、各円相当径を最小値から最大値まで昇順に並べて累積分布を求める。累積分布において累積面積50%となる粒径がD50となる。なお円相当径とは、計測されたcBN粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0032】
(第1焼結体におけるhBNの存在比率(比Iπ*/Iσ*))
第1焼結体は、上述のように複数のcBN粒子を含む。上記複数のcBN粒子のうち少なくとも一部のcBN粒子は、上記刃先の表面に位置する。上記刃先の表面に位置したcBN粒子は、cBNの結晶構造からなる立方晶窒化硼素相(以下、「cBN相」とも記す)と、hBNの結晶構造からなる六方晶窒化硼素相(以下、「hBN相」とも記す)とを含む。上記刃先の表面に位置したcBN粒子に対し、透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法(以下、「TEM-EELS法」とも記す)で、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、hBN相におけるhBNのπ結合に由来するπ*ピークの強度と、hBN相におけるhBNのσ結合、およびcBN相におけるcBNのσ結合に由来するσ*ピークの強度との比Iπ*/Iσ*を求めた場合、上記刃先の表面における上記cBN粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.1~2であり、かつ上記刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置における上記cBN粒子の上記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1である。これにより立方晶窒化硼素焼結体工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0033】
上述のように本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面における上記cBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.1~2であり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1である。これにより上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先においてその強度に悪影響が及ばない適度な比率でhBNを有することができる。この場合、刃先の表面のhBNがその軟質性に基づいて潤滑剤のような役割を果たすことにより、工具の摺動性を改善し、もって耐欠損性を向上させることができる。特に、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1であることが好ましく、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1であることが好ましい。この場合、立方晶窒化硼素焼結体工具の耐欠損性をより向上させることができる。
【0034】
ここで
図2を用い、刃先の表面に位置したcBN粒子について説明する。
図2は、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の刃先の表面に位置した立方晶窒化硼素粒子を、上記刃先の表面の法線方向と平行な面で切断することにより得た断面の一部を説明する説明図である。
図2においては、上記刃先において第1焼結体を構成する複数のcBN粒子のうち、刃先の表面に位置した一部のcBN粒子Aの一つ(1粒)に注目し、これを表す。
図2のcBN粒子Aは、刃先の表面から刃先内部領域13へ向かって第1領域11および第2領域12をこの順に有する。第1領域11は、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11aまでの領域をいう。第2領域12は、上記深さ位置11aとの界面より、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12aまでの領域をいう。刃先内部領域13は、上記深さ位置12aとの界面より、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って法線方向に5μmの深さ位置13aまでの領域をいう。
【0035】
cBN粒子Aは、第1領域11、第2領域12および刃先内部領域13を一体不可分に有する。本明細書において「一体不可分」とは、第1領域11と第2領域12との界面、および第2領域12と刃先内部領域13との界面でcBN粒子Aを構成する結晶格子が連続し、かつ第1領域11と第2領域12との界面、および第2領域12と刃先内部領域13との界面でへき開することがないこと意味する。すなわち本明細書において第1領域11と第2領域12との界面、および第2領域12と刃先内部領域13との界面の両者は、cBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11a、cBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12a、およびcBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置13aにおいて、それぞれhBNの存在比率を表す比Iπ*/Iσ*を測定するために、cBN粒子Aの断面上に便宜上設けた界面を意味する。以下、hBNの存在比率を表す比Iπ*/Iσ*を、TEM-EELS法を用いて測定する方法について説明する。
【0036】
(TEM-EELS法を用いたhBNの存在比率(比Iπ*/Iσ*)の測定方法)
まず後述する製造方法に沿うことにより立方晶窒化硼素焼結体工具を製造する。次いで上記立方晶窒化硼素焼結体工具の刃先の表面から第1焼結体のサンプルを採取し、アルゴンイオンスライサーを用いて上記サンプルを上記刃先の表面の法線方向と平行な面で切断することにより、厚み3~100nmの切片を作製する。さらに、上記切片を透過型電子顕微鏡(TEM、商品名:「JEM-2100F/Cs」、日本電子株式会社製)を用いて10万~100万倍で観察することにより上記サンプル中の刃先の表面に位置するcBN粒子Aの断面透過像を得る。
【0037】
次に上記断面透過像において、上記cBN粒子Aにおける刃先の表面位置、cBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11a、cBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12a、およびcBN粒子Aの刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置13aをそれぞれ特定する。さらに、電子エネルギー損失分光法(EELS法)を適用し、上述したcBN粒子Aにおける刃先の表面位置、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11a、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12a、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置13aにおいて、1nmの観測スポットを刃先表面と平行な方向にたとえば10nmスキャンすることにより、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失(Kエッジ)を観測する。以上により、上記cBN粒子Aにおける刃先の表面位置、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11a、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12a、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置13aにおけるホウ素のK殻電子の励起に伴う200eV付近のエネルギー損失(Kエッジ)曲線をそれぞれ描出することができる。
【0038】
最後に、上記cBN粒子Aの刃先の表面位置における観測より描出したエネルギー損失曲線から、hBN相におけるhBNのπ結合に由来するπ*ピークの強度(Iπ*)と、hBN相におけるhBNのσ結合、およびcBN相におけるcBNのσ結合に由来するσ*ピークの強度(Iσ*)とを求め、次いでIπ*をIσ*で除算することにより比Iπ*/Iσ*を求めることができる。刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置11aにおける観測より描出したエネルギー損失曲線、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置12aにおける観測より描出したエネルギー損失曲線、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置13aにおける観測より描出したエネルギー損失曲線からも、それぞれ同じ要領により比Iπ*/Iσ*を求めることができる。
【0039】
この場合、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*が0.1~2となり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1となる。また刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1となることが好ましく、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1となることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*が0.6~1となることがより好ましく、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*が0.005~0.01となることがより好ましい。また刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.2となることも好ましく、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.9となることも好ましい。刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.005~0.01となることがさらに好ましく、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子Aの比Iπ*/Iσ*は、0.005~0.01となることがさらに好ましい。
【0041】
ここで上述した測定方法においては、刃先のすくい面側および逃げ面側のそれぞれにおいて刃先の表面に位置するcBN粒子の断面透過写真を各1枚(合計2枚)準備することが好ましい。本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記2枚のcBN粒子の断面透過写真において、刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*を求めた場合、少なくともいずれかの断面透過写真において上述した比率を満たすことにより、測定対象とした立方晶窒化硼素焼結体工具が耐欠損性を向上させることができる。上記比Iπ*/Iσ*は、π*ピークのピーク値と、σ*ピークのピーク値との比を意味する。またπ*ピークおよびσ*ピークは、刃先の表面位置、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置などの測定箇所において、1nmの観測スポットを刃先の表面と平行な方向に、たとえば10nmスキャンして測定した結果を積算し、これをエネルギー損失曲線として描出することにより得ることができる。ここで、上記スキャンの長さである10nmは、1~100nmの間で任意に変更することができるものとする。
【0042】
なお、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置、あるいは刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置において、刃先の表面に位置するcBN粒子とは異なる別のcBN粒子が存在する場合がある。しかしこの場合であっても、hBNの存在比率を表す比Iπ*/Iσ*を測定する限りにおいては、上述した別のcBN粒子を刃先の表面に位置するcBN粒子であるとみなして上述したTEM-EELS法を適用し、それらの深さ位置の比Iπ*/Iσ*を求めるものとする。
【0043】
<作用効果>
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、上述したように刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.1~2であり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1である。これにより刃先の表面に位置するcBN粒子において、刃先の強度に悪影響が及ばない適度な比率でhBNを有することができる。この場合、刃先の表面のhBNがその軟質性に基づいて潤滑剤のような役割を果たすことにより、工具の摺動性を改善し、もって耐欠損性を向上させることができる。特に、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1であることが好ましく、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1であることが好ましい。この場合、耐欠損性をより向上させることができる。
【0044】
〔立方晶窒化硼素焼結体工具の製造方法〕
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先に対して実行される後述の刃先を仕上げ加工する工程を除き、従来公知の立方晶窒化硼素焼結体工具の製造方法を行うことにより製造することができる。たとえば次の製造方法を用いることにより、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具を製造することが好ましい。以下では、cBN粒子と結合材とを混合することにより混合物を得た後、上記混合物を焼結することにより得られるcBN焼結体(cBN基焼結体)を材料として、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具を製造する方法を例示して説明するが、上記製造方法はこれに限定されるものではない。たとえば本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、バインダレスcBN焼結体(cBN基焼結体)を材料として製造される場合がある。この場合、バインダレスcBN焼結体を材料とした従来公知の製造方法に加え、後述の刃先を仕上げ加工する工程と同様な工程を、バインダレスcBN焼結体を含む刃先に対して行うことにより、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具を製造することができる。
【0045】
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の製造方法は、cBN基焼結体を準備する工程(第1工程)と、上記cBN基焼結体を所定の工具形状に切出す工程(第2工程)と、上記工具形状に切出された焼結体を、ろう付けにより台金と接合する工程(第3工程)と、台金と接合した焼結体の刃先に対しレーザ加工を実行することにより、刃先を仕上げ加工する工程(第4工程)とを少なくとも含むことが好ましい。なお、立方晶窒化硼素焼結体工具がcBN基焼結体のみからなる態様である場合、台金を用いないために上記第3工程を行う必要はなく、上記第2工程において所定の工具形状に切出した焼結体の刃先に対し、刃先を仕上げ加工する工程(第4工程)を行う場合もある。
【0046】
<第1工程>
第1工程は、cBN基焼結体を準備する工程である。第1工程については、従来公知の方法により行うことができる。たとえば、まず平均粒径1~5μmの立方晶窒化硼素粒子の粉末15~90体積%と、平均粒径0.05~8μmのTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または上記元素とC、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素との化合物を含む粉末10~85体積%とを配合する(ただし、これらの合計を100体積%とする)ことにより原料粉を得る。次いで上記原料粉を、超硬合金製ボールなどを用いて5~24時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を調製する。さらに上記混合物を所定の形状に成形することにより成形体を得る。最後に、上記成形体を公知の超高圧発生装置に収容し、4~7GPaの圧力の下、1300~1500℃の焼結温度で所定の時間保持する。これによりcBN基焼結体を準備することができる。
【0047】
<第2工程>
第2工程は、上記cBN基焼結体を所定の工具形状に切出す工程である。第2工程についても、従来公知の方法により行うことができる。たとえば従来公知の放電加工機を用いた放電加工、研削加工機を用いた研削加工およびレーザ加工機を用いたレーザ加工の少なくともいずれかにより、上記cBN基焼結体を所定の工具形状に切出すことができる。換言すれば第2工程は、cBN基焼結体を所定の手段を用いて粗加工および精密加工することにより、所定の工具形状に切出す工程であるということができる。
【0048】
<第3工程>
第3工程は、上記工具形状に切出された焼結体を、ろう付けにより台金と接合する工程である。第3工程についても、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、上記工具形状に切出された焼結体における刃先が形成された側とは逆側となる端面に、台金をろう付けすることにより接合することができる。ろう付けとしては、たとえば銀蝋を用いたろう付けが好適である。これにより次の工程(第4工程)において、焼結体の刃先に向けてレーザを照射することが便宜となり、上記焼結体の刃先を仕上げ加工に供することが容易となる。
【0049】
<第4工程>
第4工程は、台金と接合した焼結体の刃先に対しレーザ加工を実行することにより、刃先を仕上げ加工する工程である。第4工程により、刃先の表面に位置したcBN粒子に上述した特徴を有するhBN相を形成することができる。第4工程において、刃先の表面に位置したcBN粒子に上述した特徴を有するhBN相を形成することができる限り、レーザ加工の条件などは特に制限されるべきではないが、たとえば次に説明する条件の下でレーザ加工を行うことにより、刃先の表面に位置したcBN粒子において、歩留まり良く上述した特徴を有するhBN相を形成することができる。
【0050】
たとえば第4工程では、ピコ秒レーザを用い、レーザ波長が532nm以上1064nm以下であり、レーザスポット径が半値幅として5μm以上70μm以下であり、レーザ焦点深度が0.5mm以上20mm以下であり、レーザ出力が加工点において1W以上20W以下であり、レーザ走査速度が5mm/秒以上100mm/秒以下であるレーザ照射条件の下で、焼結体の刃先を仕上げ加工することが好ましい。この場合において、刃先の表面において過度な加熱が起こることを回避するため、圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却することが好ましい。たとえばボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用い、圧縮空気を加工部に吹きかけた場合、ボルテックス効果により室温よりも低い温度の冷風が得られ、より効果的に冷却を行うことができる。これによって刃先の表面近傍領域(例えば表面から1μm以内、好ましくは0.2μm以内)におけるcBNからhBNへの変態を、刃先の強度に悪影響が及ばない適度な量に制御することができる。上記レーザ加工と併用する冷却条件は、ボルテックスチューブの動作条件を適宜調整することにより設定することができる。
【0051】
さらに上記のレーザ照射条件としては、必要に応じて1f(フェムト)秒以上1μ秒以下のレーザパルス幅、10Hz以上1MHz以下のレーザ繰り返し周波数を規定することが好ましい。
【0052】
上記のレーザ照射条件において、レーザスポット径が半値幅として5μm未満である場合、レーザパワーが低いために刃先の仕上げ加工が困難となる傾向がある。レーザスポット径が半値幅として70μmを超える場合、レーザパワーが高いためにcBN基焼結体が割れる傾向がある。レーザ焦点深度が0.5mm未満である場合、デフォーカスにより刃先の仕上げ加工が困難となる傾向がある。レーザ出力が加工点において1W未満となる場合、レーザパワーが低いために刃先の仕上げ加工が困難となる傾向がある。レーザ出力が加工点において20Wを超える場合、レーザパワーが高いためにcBN基焼結体が割れる傾向がある。
【0053】
レーザ走査速度が5mm/秒未満である場合、レーザが刃先内部に深く入りすぎてcBN基焼結体が割れる傾向があり、100mm/秒を超える場合、レーザによる加工がほとんど行われない傾向がある。レーザパルス幅が1f秒未満となる場合、レーザによる加工に過大な時間がかかる傾向があり、かつレーザ装置が極めて高価となる傾向がある。レーザパルス幅が1μ秒を超える場合、熱的加工が支配的となりcBNからhBNへの変態が過多となる傾向がある。レーザ繰り返し周波数が10Hz未満となる場合、熱的加工が支配的となりcBNからhBNへの変態が過多となる傾向がある。レーザ繰り返し周波数が1MHzを超える場合、照射されたレーザパルスのエネルギーが加工点において消費される前に次のレーザパルスが到達するため、加工点での熱負荷が大きくなりcBNからhBNへの変態が過多となる傾向がある。
【0054】
<その他の工程>
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、すくい面、逃げ面、ならびに上記すくい面および上記逃げ面が交差する稜線の少なくとも一部を覆う被膜を含むことができる。この場合、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具の製造方法として、上記立方晶窒化硼素焼結体工具を被膜により被覆する工程を含むことが好ましい。この工程は、従来公知の方法を用いることができる。たとえばイオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法およびイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。さらに化学蒸着法によって上記立方晶窒化硼素焼結体工具を被膜により被覆することも可能である。
【0055】
<作用効果>
以上により、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体工具を製造することができる。上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の仕上げ加工時に刃先の表面におけるcBNからhBNへの変態が抑制されている。このため上記立方晶窒化硼素焼結体工具は、刃先の表面に位置したcBN粒子に対し、TEM-EELS法でホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、hBN相におけるhBNのπ結合に由来するπ*ピークの強度と、hBN相におけるhBNのσ結合、およびcBN相におけるcBNのσ結合に由来するσ*ピークの強度との比Iπ*/Iσ*を求めた場合、刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*は、0.1~2となり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1となる。もって上記の製造方法により、耐欠損性を向上させた立方晶窒化硼素焼結体工具を得ることができる。
【0056】
〔付記〕
以上の説明は、以下に付記する実施形態を含む。
【0057】
<付記1>
第1焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具であって、
前記第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含み、
前記複数の立方晶窒化硼素粒子のうち少なくとも一部の前記立方晶窒化硼素粒子は、前記刃先の表面に位置し、
前記刃先の表面に位置した前記立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素の結晶構造からなる立方晶窒化硼素相と、六方晶窒化硼素の結晶構造からなる六方晶窒化硼素相とを含み、
前記刃先の表面に位置した前記立方晶窒化硼素粒子に対し、透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法で、ホウ素のK殻電子の励起に伴うエネルギー損失を測定することにより、前記六方晶窒化硼素相における前記六方晶窒化硼素のπ結合に由来するπ*ピークの強度と、前記六方晶窒化硼素相における前記六方晶窒化硼素のσ結合、および前記立方晶窒化硼素相における前記立方晶窒化硼素のσ結合に由来するσ*ピークの強度との比Iπ*/Iσ*を求めた場合、前記刃先の表面における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比Iπ*/Iσ*は、0.1~2であり、かつ前記刃先の表面から前記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置における前記立方晶窒化硼素粒子の前記比Iπ*/Iσ*は、0.001~0.1である、立方晶窒化硼素焼結体工具。
【0058】
<付記2>
上記第1焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と結合材とを混合して得た混合物を焼結することにより作製されるcBN焼結体である場合、第1焼結体において立方晶窒化硼素粒子の含有量は、第1焼結体の全体量(100体積%)に対し40体積%以上95体積%以下である、付記1に記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【0059】
<付記3>
上記第1焼結体は、結合材を混合することなく、低圧相窒化硼素を高温高圧下で直接変換させると同時に焼結させることにより作製されるバインダレスcBN焼結体である、付記1に記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。以下の説明においては、試料1~試料9が実施例であり、試料10が比較例である。
【0061】
〔立方晶窒化硼素焼結体工具の製造〕
<試料1>
(第1工程)
平均粒径1μmのcBN粒子(商品名:「SBN」、昭和電工株式会社製)を準備した。次に、直径(φ)3mmの超硬製ボールメディアと、平均粒径1μmのTiN粒子(商品名:「チタンナイトライド粉」、日本新金属株式会社製)および平均粒径200nmのAl2O3粒子(商品名:「高純度アルミナ」、住友化学株式会社製)とをエタノールとともに超硬製容器に入れ、ボールミル混合法により20時間、混合および粉砕を実行することにより結合材の原料粉末を得た。さらに上記超硬製容器中の結合材の原料粉末に対し、上記cBN粒子を添加し、ボールミル混合法により10時間、混合および粉砕を実行することにより混合粉末を得た。続いて上記混合粉末をモリブデン(Mo)製カプセルに充填した後、超高圧発生装置を用いて圧力7.0GPa、温度1600度で30分間焼結することにより、cBN基焼結体を準備した。
【0062】
(第2工程)
カタログ番号「BNES1120」(住友電気工業株式会社)で規定されるエンドミルを製造するべく、上記cBN基焼結体に対し、市販のワイヤー放電加工機を用いることにより、長方形の焼結体を切出した。なお上記エンドミル形状は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面および上記逃げ面が交差する稜線とを含み、上記すくい面は、上記稜線を介して上記逃げ面へと連なる。さらに上記エンドミル形状は、上記すくい面の一部と、上記逃げ面の一部と、上記稜線とで刃先が構成される。具体的には、上記エンドミル形状は、上記稜線と該稜線からすくい面側および逃げ面側にそれぞれ0.5mm離れた領域とで刃先が構成される。
【0063】
(第3工程)
住友電気工業株式会社製の超硬合金であるイゲタロイ(登録商標、材種:G10E)を加工することにより台金としてのシャンクを準備した。このシャンクと、上記長方形に切出された焼結体とをろう付けにより接合した。
【0064】
(第4工程)
上記シャンクと接合した焼結体を研削加工することにより刃先を形成した後、刃先のうち逃げ面側の表面にのみ、以下の照射条件の下でレーザ加工を実行することにより、上記刃先を仕上げ加工した。
【0065】
〈照射条件〉
レーザ波長:1064nm
レーザスポット径:40μm(半値幅)
レーザ焦点深度:1.5mm
レーザ出力:5W(加工点)
レーザ走査速度:10mm/秒
レーザパルス幅:10ps(ピコ秒)
レーザ繰り返し周波数:200kHz。
【0066】
以上により、試料1のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。試料1のエンドミルは、少なくとも刃先にcBN基焼結体からなる第1焼結体を有する。第1焼結体は、複数の立方晶窒化硼素粒子を含み、上記複数の立方晶窒化硼素粒子のうち少なくとも一部の立方晶窒化硼素粒子は、上記刃先の表面に位置する。刃先の表面に位置した立方晶窒化硼素粒子は、上記第4工程によって立方晶窒化硼素の結晶構造からなる立方晶窒化硼素相と、六方晶窒化硼素の結晶構造からなる六方晶窒化硼素相とが形成さている。
【0067】
<試料2>
第4工程において、焼結体の刃先のうちすくい面側にのみ、レーザ加工を実行すること以外、試料1と同じ方法を用いることにより試料2のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0068】
<試料3>
第4工程において、焼結体の刃先のうち逃げ面側およびすくい面側の両者に、レーザ加工を実行すること以外、試料1と同じ方法を用いることにより試料3のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0069】
<試料4>
第4工程において、焼結体の刃先の逃げ面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先の逃げ面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を10Wとすること以外、試料1と同じ方法を用いることにより試料4のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0070】
<試料5>
第4工程において、焼結体の刃先のすくい面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先のすくい面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を10Wとすること以外、試料2と同じ方法を用いることにより試料5のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0071】
<試料6>
第4工程において、焼結体の刃先の逃げ面側およびすくい面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先の逃げ面側およびすくい面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を10Wとすること以外、試料3と同じ方法を用いることにより試料6のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0072】
<試料7>
第4工程において、焼結体の刃先の逃げ面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先の逃げ面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を3Wとすること以外、試料1と同じ方法を用いることにより試料7のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0073】
<試料8>
第4工程において、焼結体の刃先のすくい面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先のすくい面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を3Wとすること以外、試料2と同じ方法を用いることにより試料8のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0074】
<試料9>
第4工程において、焼結体の刃先の逃げ面側およびすくい面側に対してレーザ加工をする際に、上記刃先の逃げ面側およびすくい面側にボルテックスチューブ(虹技株式会社製)を用いて圧縮空気を加工部に吹きかけて冷却し、かつレーザ出力を3Wとすること以外、試料3と同じ方法を用いることにより試料9のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0075】
<試料10>
第4工程において焼結体の刃先の逃げ面側およびすくい面側の両者に対し、レーザ加工を行うことに代えて砥石を用いて研削加工を行うこと以外、試料3と同じ方法を用いることにより試料10のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)を得た。
【0076】
〔hBNの存在比率(比Iπ*/Iσ*)の測定〕
試料1~試料10のエンドミルの刃先(逃げ面側およびすくい面側の両者)の表面に位置したcBN粒子に対し、上述したTEM-EELS法を用いた測定方法をそれぞれ実行することにより、刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*、刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*、および刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*をそれぞれ求めた。結果を表1に示す。
【0077】
〔切削試験(耐欠損性試験)〕
試料1~試料10のエンドミルを用い、被削材として浸炭焼入れ鋼(SCM415(寸法:200mm×200mm×厚み5mm)、硬度:HRC60)を準備し、当該被削材を以下の切削条件により切削した。本切削試験では、上記被削材を切削することによって刃先に欠損およびチッピングのいずれかの大きさが0.1mmを超えた時点で切削を中止し、試験の開始から当該時点に至る時間(単位は、分)を評価した。上記時間が長いほど耐欠損性が向上していると評価することができる。結果を表1中の「耐欠損性(min)」の項目に示す。
【0078】
<切削条件>
加工機:マシニングセンター
切削速度Vc:100m/min
送り速度f:0.05mm/rev
切込み量ap:5mm/rev
切込み量ae:0.1mm/rev
切削油(クーラント):なし。
【0079】
【0080】
〔考察〕
試料1、試料2、試料4、試料5、試料7および試料8のエンドミルは、上述した第4工程によって、刃先のすくい面側および逃げ面側の表面に位置したcBN粒子のいずれかにおいて、刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.1~2となり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1となる立方晶窒化硼素焼結体工具が製造される例である。試料3、試料6および試料9のエンドミルは、上述した第4工程によって、刃先のすくい面側および逃げ面側の表面に位置したcBN粒子の両者において、刃先の表面におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.1~2となり、かつ刃先の表面から上記刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置におけるcBN粒子の比Iπ*/Iσ*が0.001~0.1となる立方晶窒化硼素焼結体工具が製造される例である。試料10のエンドミルは、従来の砥石を用いた研削加工を用いて立方晶窒化硼素焼結体工具が製造される例である。
【0081】
表1によれば、試料1~試料9のエンドミルは、いずれも試料10のエンドミルに比して耐欠損性が向上することが理解される。特に試料3のエンドミルは、試料1~試料2に比してより耐欠損性が向上し、試料6のエンドミルは、試料4~試料5に比してより耐欠損性が向上し、試料9のエンドミルは、試料7~試料8に比してより耐欠損性が向上することが理解される。以上から、試料1~試料9のエンドミル(立方晶窒化硼素焼結体工具)は、従来に比して耐欠損性が向上していると評価することができる。
【0082】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
【0083】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
A 立方晶窒化硼素粒子(cBN粒子)、3 シャンク部、8 接合部、10 第1すくい面、11 第1領域、11a 刃先の表面から刃先の表面の法線方向に沿って0.2μmの深さ位置、12 第2領域、12a 刃先の表面から刃先の表面の法線方向に沿って1μmの深さ位置、13 刃先内部領域、13a 刃先の表面から刃先の表面の法線方向に沿って5μmの深さ位置、15 第2すくい面、20 外周切刃、21 底切刃、31 第1逃げ面、33 第2逃げ面、90 刃部、100 立方晶窒化硼素焼結体工具。